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特許7568290精神疾患推定システム、精神疾患推定装置、精神疾患推定プログラム及び精神疾患推定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】精神疾患推定システム、精神疾患推定装置、精神疾患推定プログラム及び精神疾患推定方法
(51)【国際特許分類】
   G16H 50/20 20180101AFI20241008BHJP
   A61B 10/00 20060101ALI20241008BHJP
   A61B 5/11 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
G16H50/20
A61B10/00 H
A61B5/11 230
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021192730
(22)【出願日】2021-11-29
(65)【公開番号】P2023079318
(43)【公開日】2023-06-08
【審査請求日】2023-02-10
(73)【特許権者】
【識別番号】512028116
【氏名又は名称】株式会社アドダイス
(74)【代理人】
【識別番号】100141427
【弁理士】
【氏名又は名称】飯村 重樹
(72)【発明者】
【氏名】伊東 大輔
【審査官】齊藤 貴孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-147006(JP,A)
【文献】国際公開第2020/122227(WO,A1)
【文献】特開2021-168901(JP,A)
【文献】特開2018-007792(JP,A)
【文献】特開2021-030050(JP,A)
【文献】国際公開第2021/053780(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2021-0097426(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G16H 50/20
A61B 10/00
A61B 5/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
精神疾患に関する特徴が現れる被験者の身体に関するデータを被験者データとして前記被験者から取得する被験者データ取得装置と、
該被験者データ取得装置で取得した前記被験者データから抽出した前記被験者の身体の特徴に基づいて前記被験者が精神疾患を発症しているか否かを推定する推定手段を有する精神疾患推定装置と、を備え、
前記推定手段は、
精神疾患の症例に関する症例データに基づいて生成された学習済みモデルと前記被験者データとに基づいて前記被験者が精神疾患を発症しているか否かを自律的に推定し、
前記学習済みモデルは、
前記症例データと予め準備された教師データとが関連づけられて生成され、
前記教師データは、
前記症例データにおいて精神疾患に特有の身体の特徴を検知する前に検知した精神疾患の予兆が発生した時間と該時間に対応する前記症例データにおける精神疾患に特有の身体の特徴とが関連づけられて生成される、
精神疾患推定システム。
【請求項2】
前記被験者データ取得装置は、
前記被験者を三次元で撮像して撮像した前記被験者の画像または映像を前記被験者データとして取得する三次元撮像装置であって、
前記推定手段は、
前記三次元撮像装置が取得した前記被験者データに基づいて精神疾患に特有の表情を前記被験者の前記画像または前記映像から検知した場合に前記被験者が精神疾患を発症していると推定する、
請求項1に記載の精神疾患推定システム。
【請求項3】
前記推定手段は、
前記三次元撮像装置が取得した前記被験者データに基づいて精神疾患に特有の動作を前記被験者の前記画像または前記映像から検知した場合に前記被験者が精神疾患を発症していると推定する、
請求項2に記載の精神疾患推定システム。
【請求項4】
前記被験者データ取得装置は、
制御系に対して入力される前記制御系の操作に関する被験者の動作を被験者データとして取得する被験者動作取得装置であって、
前記推定手段は、
前記被験者動作取得装置が取得した前記被験者データに基づいて精神疾患に特有の動作を前記被験者の前記動作から検知した場合に前記被験者が精神疾患を発症していると推定する、
請求項1に記載の精神疾患推定システム。
【請求項5】
前記被験者データ取得装置は、
前記被験者の生体データを前記被験者データとして取得する生体データ取得装置であって、
前記生体データ取得装置が取得した前記被験者データに基づいて精神疾患に特有の生体データを前記被験者の前記生体データから検知した場合に前記被験者が精神疾患を発症していると推定する、
請求項1に記載の精神疾患推定システム。
【請求項6】
精神疾患に関する特徴が現れる被験者の身体に関するデータを被験者データとして前記被験者から取得する被験者データ取得装置で取得した前記被験者データを受信する被験者データ受信手段と、
該被験者データ取得装置で受信した前記被験者データから抽出した前記被験者の身体の特徴に基づいて前記被験者が精神疾患を発症しているか否かを推定する推定手段を有する精神疾患推定装置と、を備え、
前記推定手段は、
精神疾患の症例に関する症例データに基づいて生成された学習済みモデルと前記被験者データとに基づいて前記被験者が精神疾患を発症しているか否かを自律的に推定し、
前記学習済みモデルは、
前記症例データと予め準備された教師データとが関連づけられて生成され、
前記教師データは、
前記症例データにおいて精神疾患に特有の身体の特徴を検知する前に検知した精神疾患の予兆が発生した時間と該時間に対応する前記症例データにおける精神疾患に特有の身体の特徴とが関連づけられて生成される、
精神疾患推定装置。
【請求項7】
コンピュータによって実装される精神疾患推定装置に、
精神疾患に関する特徴が現れる被験者の身体に関するデータを被験者データとして前記被験者から取得する被験者データ取得装置で取得した前記被験者データを受信する被験者データ受信処理と、
該被験者データ受信処理で受信した前記被験者データから抽出した前記被験者の身体の特徴に基づいて前記被験者が精神疾患を発症しているか否かを推定する推定処理と、を実行させ、
前記推定処理は、
精神疾患の症例に関する症例データに基づいて生成された学習済みモデルと前記被験者データとに基づいて前記被験者が精神疾患を発症しているか否かを自律的に推定し、
前記学習済みモデルは、
前記症例データと予め準備された教師データとが関連づけられて生成され、
前記教師データは、
前記症例データにおいて精神疾患に特有の身体の特徴を検知する前に検知した精神疾患の予兆が発生した時間と該時間に対応する前記症例データにおける精神疾患に特有の身体の特徴とが関連づけられて生成される、
精神疾患推定プログラム。
【請求項8】
コンピュータによって実装される精神疾患推定装置を用いて、
精神疾患に関する特徴が現れる被験者の身体に関するデータを被験者データとして前記被験者から取得する被験者データ取得装置で取得した前記被験者データを受信する被験者データ受信処理と、
該被験者データ受信処理で受信した前記被験者データから抽出した前記被験者の身体の特徴に基づいて前記被験者が精神疾患を発症しているか否かを推定する推定処理と、を実行し、
前記推定処理は、
精神疾患の症例に関する症例データに基づいて生成された学習済みモデルと前記被験者データとに基づいて前記被験者が精神疾患を発症しているか否かを自律的に推定し、
前記学習済みモデルは、
前記症例データと予め準備された教師データとが関連づけられて生成され、
前記教師データは、
前記症例データにおいて精神疾患に特有の身体の特徴を検知する前に検知した精神疾患の予兆が発生した時間と該時間に対応する前記症例データにおける精神疾患に特有の身体の特徴とが関連づけられて生成される、
精神疾患推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精神疾患推定システム、精神疾患推定装置、精神疾患推定プログラム及び精神疾患推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢化社会の到来に伴って、認知機能の低下によって発症する認知障害や鬱状態が表れる気分障害といったいわゆる精神疾患を患う者が増加しており、精神疾患の早期の発見は、我が国の今後の大きな課題である。
【0003】
このような精神疾患を発見するための検査としては、例えば陽電子放出断層撮影法(Positron Emission Tomography:PET)による検査や、脳脊髄液の採取による検査等が挙げられる。
【0004】
しかし、PET検査は非常に高額であって、誰もが簡易に検査を受けられるものではなく、脳脊髄液の採取は侵襲的であって、被験者の身体に大きな損傷を及ぼすことが懸念される。したがって、低廉で簡易かつ低侵襲な検査が要望されるところである。
【0005】
特許文献1には、被験者に情動変化を誘起する刺激を付与したときの被験者の身体の任意の部位の温度の変動量を算出し、算出した温度の変動量と、健常者に情動変化を誘起する刺激を付与したときの健常者の身体の任意の部位の温度の変動量に基づいて予め求められた閾値とを比較して、被験者が精神疾患を発症しているか否かを判定する判定装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-34839公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1の判定装置は、被験者の身体の任意の部位の温度の変動量という生理指標に基づいて精神疾患を発症しているか否かを判定するものであって、所与の条件によっては被験者の温度が適正に取得できない場合があることも懸念される。
【0008】
そうすると、精神疾患の判定の精度が低くなることも想定されることから、精神疾患の早期の発見の観点からは、更なる精度の向上が要望される。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、精神疾患を発症しているか否かを精密に推定することができる精神疾患推定システム、精神疾患推定装置、精神疾患推定プログラム及び精神疾患推定方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明に係る精神疾患推定システムは、精神疾患に関する特徴が現れる被験者の身体に関するデータを被験者データとして被験者から取得する被験者データ取得装置と、被験者データ取得装置で取得した被験者データから抽出した被験者の身体の特徴に基づいて被験者が精神疾患を発症しているか否かを推定する推定手段を有する精神疾患推定装置とを備えるものである。
【0011】
ここで、「精神疾患を発症しているか否かを推定する」には、「精神疾患の発症には至らないものの健康な状態から離れつつある未病の状態であるか否かを推定する」ことも含まれる。
【0012】
これによれば、被験者データ取得装置で取得される被験者データが、精神疾患に関する特徴を被験者の身体から多面的に把握することができるデータであることから、被験者が精神疾患を発症している状態を見逃すことなく、多面的に把握される被験者の身体の特徴に基づいて、被験者が精神疾患を発症していると推定することができる。
【0013】
したがって、精神疾患を発症しているか否かを精密に推定することができることから、精神疾患を早期に検知して対策を講じることができる。すなわち、精神疾患が軽度の段階で対策を講じることができることから、精神疾患の進行の速度を緩めることができる。
【0014】
この精神疾患推定システムの推定手段は、精神疾患の症例に関する症例データに基づいて生成された学習済みモデルと被験者データとに基づいて被験者が精神疾患を発症しているか否かを自律的に推定するものである。
【0015】
さらに、学習済みモデルは、症例データと予め準備された教師データとが関連づけられて生成され、教師データは、症例データにおいて精神疾患に特有の身体の特徴を検知する前に検知した精神疾患の予兆が発生した時間とこの時間に対応する症例データにおける精神疾患に特有の身体の特徴とが関連づけられて生成されるものである。
【0016】
この精神疾患推定システムの被験者データ取得装置は、被験者を三次元で撮像して撮像した被験者の画像または映像を被験者データとして取得する三次元撮像装置であって、推定手段は、三次元撮像装置が取得した被験者データに基づいて精神疾患に特有の表情を被験者の画像または映像から検知した場合に被験者が精神疾患を発症していると推定するものである。
【0017】
この場合において、推定手段は、三次元撮像装置が取得した被験者データに基づいて精神疾患に特有の動作を被験者の画像または映像から検知した場合に被験者が精神疾患を発症していると推定するものであってもよい。
【0018】
この精神疾患推定システムの被験者データ取得装置は、制御系に対して入力される制御系の操作に関する被験者の動作を被験者データとして取得する被験者動作取得装置であって、推定手段は、被験者動作取得装置が取得した被験者データに基づいて精神疾患に特有の動作を被験者の動作から検知した場合に被験者が精神疾患を発症していると推定するものである。
【0019】
この精神疾患推定システムの被験者データ取得装置は、被験者の生体データを被験者データとして取得する生体データ取得装置であって、生体データ取得装置が取得した被験者データに基づいて精神疾患に特有の生体データを被験者の生体データから検知した場合に被験者が精神疾患を発症していると推定するものである。
【0020】
上記目的を達成するための本発明に係る精神疾患推定装置は、精神疾患に関する特徴が現れる被験者の身体に関するデータを被験者データとして被験者から取得する被験者データ取得装置で取得した被験者データを受信する被験者データ受信手段と、被験者データ取得装置で受信した被験者データから抽出した被験者の身体の特徴に基づいて被験者が精神疾患を発症しているか否かを推定する推定手段を有する精神疾患推定装置とを備えるものである。
【0021】
上記目的を達成するための本発明に係る精神疾患推定プログラムは、コンピュータによって実装される精神疾患推定装置に、精神疾患に関する特徴が現れる被験者の身体に関するデータを被験者データとして被験者から取得する被験者データ取得装置で取得した被験者データを受信する被験者データ受信処理と、被験者データ受信処理で受信した被験者データから抽出した被験者の身体の特徴に基づいて被験者が精神疾患を発症しているか否かを推定する推定処理とを実行させるものである。
【0022】
上記目的を達成するための本発明に係る精神疾患推定方法は、コンピュータによって実装される精神疾患推定装置を用いて、精神疾患に関する特徴が現れる被験者の身体に関するデータを被験者データとして被験者から取得する被験者データ取得装置で取得した被験者データを受信する被験者データ受信処理と、被験者データ受信処理で受信した被験者データから抽出した被験者の身体の特徴に基づいて被験者が精神疾患を発症しているか否かを推定する推定処理とを実行するものである。
【発明の効果】
【0023】
この発明によれば、精神疾患を発症しているか否かを精密に推定することができることから、精神疾患を早期に検知して対策を講じることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の第1実施の形態に係る精神疾患推定システムの構成の概略を説明するブロック図である。
図2】同じく、本実施の形態に係る精神疾患推定システムの被験者端末の構成の概略を説明するブロック図である。
図3】同じく、本実施の形態に係る精神疾患推定システムの精神疾患推定装置の構成の概略を説明するブロック図である。
図4】同じく、本実施の形態に係る精神疾患推定システムの精神疾患推定装置のストレージの構成の概略を説明するブロック図である。
図5】同じく、本実施の形態に係る精神疾患推定システムで処理される被験者データの概略を説明する図である。
図6】同じく、本実施の形態に係る精神疾患推定システムの精神疾患推定装置の推定プログラムによる処理の概略を説明するブロック図である。
図7】同じく、本実施の形態に係る精神疾患推定システムの精神疾患推定装置の推定プログラムによる処理の概略を説明するブロック図である。
図8】同じく、本実施の形態に係る精神疾患推定システムの運用方法の概略を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
次に、図に基づいて、本発明の実施の形態に係る精神疾患推定システムについて説明する。
【0026】
(第1実施の形態)
まず、図1図8に基づいて、本発明の第1実施の形態に係る精神疾患推定システムについて説明する。
【0027】
図1は、本実施の形態に係る精神疾患推定システムの構成の概略を説明するブロック図である。図示のように、精神疾患推定システム10は、被験者端末20及び精神疾患推定装置30を備え、インターネット網等のネットワークを介して互いにアクセス可能に接続される。
【0028】
本実施の形態では、被験者端末20は被験者1に保有され、精神疾患推定装置30は、精神疾患推定システム10を用いたサービスを提供する事業者2に配備される。
【0029】
図2は、被験者端末20の構成の概略を説明するブロック図である。被験者端末20は、本実施の形態では、携帯型情報端末であるスマートフォンやタブレット状のコンピュータであって、図示のように、制御部21、被験者データ取得装置として機能する三次元撮像装置であるインカメラ22、及びディスプレイ23を主要構成として備える。
【0030】
制御部21は、本実施の形態では、インカメラ22及びディスプレイ23の被験者端末20の各部を制御するものであって、例えばプロセッサ、メモリ、ストレージ、送受信部等によって構成される。
【0031】
この制御部21には、被験者端末20上で起動する各種のアプリケーションが格納され、本実施の形態では、例えば、精神疾患推定装置30から提供される情報を処理するアプリケーション等が格納される。
【0032】
インカメラ22は、被験者1と対面するディスプレイ23側に配置されるカメラであって、本実施の形態ではデプスセンサが搭載され、撮像する対象物までの距離を検知することによって対象物を三次元で撮像する。
【0033】
このインカメラ22は、本実施の形態では、図1で示すように、被験者1を三次元で撮像し、撮像した被験者1の画像または映像を後述する被験者データとして取得するものであって、例えば、被験者1が自身の顔を撮像するいわゆる「自撮り」等の用途で主に使用される。
【0034】
本実施の形態では、インカメラ22は、インカメラ22が被験者1の顔を取得すると、制御部21に格納されたアプリケーションと協働して被験者端末20の操作のロック状態を解除する、いわゆる「顔認証機能」のインターフェースとして作動する。
【0035】
ディスプレイ23には、本実施の形態では、精神疾患推定装置30から提供される情報を処理するアプリケーション等といった被験者端末20で実行されるアプリケーションの画面インターフェースが表示される。
【0036】
このディスプレイ23は、表示面への接触によって情報の入力を受け付けるいわゆるタッチパネルであって、抵抗膜方式や静電容量方式といった各種の技術によって実装される。
【0037】
図3は、精神疾患推定装置30の構成の概略を説明するブロック図である。
【0038】
図示のように、精神疾患推定装置30は、プロセッサ31、メモリ32、ストレージ33、送受信部34及び入出力部35を主要構成として備え、これらが互いにバス36を介して電気的に接続される。
【0039】
プロセッサ31は、精神疾患推定装置30の動作を制御し、各要素間におけるデータの送受信の制御や、アプリケーションプログラムの実行に必要な処理等を行う演算装置である。
【0040】
このプロセッサ31は、本実施の形態では例えばCPU(Central Processing Unit)であり、後述するストレージ33に格納されてメモリ32に展開されたアプリケーションプログラムを実行して各処理を行う。
【0041】
メモリ32は、DRAM(Dynamic Random Access Memory)等の揮発性記憶装置で構成される主記憶装置によって実装される。
【0042】
このメモリ32は、プロセッサ31の作業領域として使用される一方、精神疾患推定装置30の起動時に実行されるBIOS(Basic Input/Output System)、及び各種の設定情報等が格納される。
【0043】
ストレージ33は、アプリケーションプログラムや各種の処理に用いられるデータ等が格納されている。
【0044】
送受信部34は、精神疾患推定装置30をネットワークに接続するものであって、本実施の形態では、送受信部34を介したネットワークを経由して、被験者端末20と相互に通信可能に接続される。
【0045】
この送受信部34は、Bluetooth(登録商標)やBLE(Bluetooth Low Energy)といった近距離通信インターフェースを具備するものであってもよい。
【0046】
入出力部35には、必要に応じて、キーボードやマウスといった情報入力機器やディスプレイ等の出力機器が接続される。本実施の形態では、キーボード、マウス及びディスプレイがそれぞれ接続される。
【0047】
バス36は、接続したプロセッサ31、メモリ32、ストレージ33、送受信部34及び入出力部35の間において、例えばアドレス信号、データ信号及び各種の制御信号を伝達する。
【0048】
図4は、精神疾患推定装置30のストレージ33の構成の概略を説明するブロック図である。図示のように、ストレージ33は、第1記憶領域41、第2記憶領域42及び精神疾患推定プログラム43を備える。
【0049】
第1記憶領域41及び第2記憶領域42は、本実施の形態では、ストレージ33が区画されることによって実現され、第1記憶領域41には被験者データD1が格納され、第2記憶領域42には学習済みモデルD2が格納される。
【0050】
図5は、被験者データD1の概略を説明する図である。被験者データD1は、被験者端末20のインカメラ22で取得した被験者1の三次元の画像または映像であって、本実施の形態では、図5(a)で示すような被験者1の顔の表情の画像または映像、あるいは図5(b)で示すような被験者1の任意の種々の動作の画像または映像である。
【0051】
この被験者データD1は、本実施の形態では、被験者1の三次元の画像または映像によって構成されることから、被験者1の顔の表情や任意の動作に現れる被験者1の身体の特徴が多面的に把握される。
【0052】
図4で示す学習済みモデルD2は、精神疾患を発症した者の三次元の画像または映像によって構成される症例データ及び症例データをトレーニングする教師データに基づいて生成されるものである。
【0053】
症例データは、本実施の形態では、精神疾患の症例に関するデータであって、例えば、被験者1あるいはコホートを対象として、精神疾患を発症していない健康な状態、精神疾患の発症には至らないものの健康な状態から離れつつある未病の状態、更には未病を超えて精神疾患を発症した状態への推移が症例として収集されたデータである。
【0054】
本実施の形態では、症例データは、例えば、認知障害を発症した者に顕著に現れる口元のたるみがみられない健康な状態の三次元の画像または映像、口元にしわがみられるようになった未病の状態の三次元の画像または映像、更には口元のたるみがみられる発症した状態への推移が収集された三次元の画像または映像等である。
【0055】
教師データは、本実施の形態では、例えば、症例データに収められた者について、精神疾患を発症した者であると評価(ラベルづけ)するデータである。
【0056】
この教師データは、本実施の形態では、症例データにおいて精神疾患に特有の身体の特徴を検知する前に検知した精神疾患の予兆が発生した時間と、この時間に対応する症例データにおける予兆である精神疾患に特有の身体の特徴とが関連づけられることによって生成される。
【0057】
本実施の形態では、三次元の画像または映像において認知障害を発症した者に顕著に現れる口元のたるみを検知する前の予兆が発生した時間と、この時間に対応する予兆である三次元の画像または映像における口元の特徴(例えばしわがみられるようになった状態)とが関連づけられて、教師データが生成される。
【0058】
図4で示す精神疾患推定プログラム43は、被験者端末20のインカメラ22で取得した被験者データD1に基づいて処理をするプログラムであって、精神疾患推定装置30で情報の入出力が可能な画面インターフェースによって実装される。
【0059】
この精神疾患推定プログラム43は、本実施の形態では、精神疾患推定装置30を、被験者データ受信手段である被験者データ受信部43a、推定手段である推定部43b及び情報処理部43cとして機能させるプログラムである。
【0060】
被験者データ受信部43aは、本実施の形態では、被験者端末20のインカメラ22で取得した被験者データD1を受信する被験者データ受信処理を実行するものである。
【0061】
図6は、推定部43bの処理の概略を説明するブロック図である。図示のように、推定部43bは、生成処理S1及び推定処理S2を実行するものであって、本実施の形態では、人工知能技術によって各処理を実行するものである。
【0062】
本実施の形態では、生成処理S1では、学習済みモデルD2を生成する処理を実行し、推定処理S2では、生成処理S1で生成した学習済みモデルD2と被験者データD1とに基づいて被験者1に精神疾患が発症しているか否かを自律的に推定する処理を実行する。
【0063】
図7は、生成処理S1及び推定処理S2の概略を説明するブロック図である。図示のように、まず、症例データd1と予め準備された教師データd2とを関連づけることによって、学習データd3を生成する。
【0064】
生成する学習データd3は、例えば、精神疾患の予兆と認められるような精神疾患に特有の身体の特徴が収められた三次元の画像または映像について、認知障害の発症には至らないものの健康な状態から離れつつある未病の状態であるとのラベルづけがなされたデータである。
【0065】
本実施の形態では、例えば、口元にしわがみられるようになった未病の状態の三次元の画像または映像、あるいは未病の状態と認められる特有の動作が収められた三次元の画像または映像である。
【0066】
この学習データd3で機械学習を行うことによって、学習済みモデルD2を生成する(生成処理)。機械学習を行う手法としては、ニューラルネットワーク、ランダムフォレスト、SVM(Support Vector Machine)等、各種のアルゴリズムが適宜用いられる。
【0067】
一方、学習済みモデルD2と被験者端末20のインカメラ22で取得した被験者データD1から抽出した被験者1の身体の特徴とに基づいて、被験者データD1に収められた被験者1が認知障害を発症しているか否かを自律的に推定する(推定処理)。
【0068】
本実施の形態では、被験者データD1から、被験者データD1に収められた被験者1の口元がたるんでいるといった認知障害を発症した者に特有の身体の特徴を検知した場合に、被験者1が認知障害を発症していると自律的に推定する。
【0069】
さらに、本実施の形態では、被験者データD1と学習済みモデルD2とに基づいて、認知障害の発症には至らないものの健康な状態から離れつつある未病の状態を検知した場合に、被験者1が認知障害を発症していると自律的に推定する。
【0070】
一方、本実施の形態では、被験者データD1に収められた被験者1の動作が、認知障害を発症した者に特有の動作であることを被験者データD1から検知した場合にも、被験者1が認知障害を発症していると自律的に推定する。
【0071】
この定処理で推定した結果に基づいて、本実施の形態では、推定データD3を生成する。推定データD3には、例えば、認知障害の発症についての判定、認知障害を発症している可能性の確率表示等といった種々の手法に基づいて、推定処理の結果が出力される。
【0072】
図4で示す情報処理部43cは、本実施の形態では、精神疾患推定プログラム43で実行する各種の処理を実行するものである。
【0073】
次に、精神疾患推定システム10の運用方法について説明する。
【0074】
図8は、精神疾患推定システム10の運用方法の概略を説明するフローチャートである。例えば、被験者端末20の操作がロックされている状態において、被験者1が被験者端末20のディスプレイ23と対面すると、図示のように、ステップS10において、インカメラ22が被験者1の顔を被験者データD1として取得する。
【0075】
インカメラ22が被験者1の顔を被験者データD1として取得すると、ステップS11において、いわゆる「顔認証機能」が作動して、被験者端末20の操作のロック状態が解除される。
【0076】
被験者端末20の操作のロック状態が解除されると、ステップS12において、精神疾患推定装置30が被験者データD1を受信する(被験者データ受信処理)。受信した被験者データD1は、ストレージ33の第1記憶領域41に格納される。
【0077】
続いて、ステップS13において、学習済みモデルD2と、被験者データD1から抽出した被験者1の身体の特徴とに基づいて、被験者データD1に収められた被験者1が認知障害を発症しているか否かを自律的に推定する(推定処理)。
【0078】
本実施の形態では、「顔認証機能」が作動する際に被験者データD1として取得した被験者1の顔の表情に、認知障害に特有の身体の特徴が現れているか否かを基準として、被験者1が認知障害を発症しているか否かを推定する。
【0079】
その後、ステップS14において、推定処理の結果に基づいて、推定データD3を生成する。生成した推定データD3は、本実施の形態では、例えば被験者端末20に格納される、精神疾患推定装置30から提供される情報を処理するアプリケーションを介して、被験者端末20のディスプレイ23に表示される。
【0080】
このように、被験者端末20のインカメラ22で取得される被験者データD1が、三次元の画像または映像によって構成された、被験者1の身体の特徴が多面的に把握されるデータであることから、被験者1が精神疾患を発症している状態を見逃すことなく、多面的に把握される被験者1の身体の特徴に基づいて、被験者1が精神疾患を発症していると推定することができる。
【0081】
したがって、精神疾患を発症しているか否かを精密に推定することができることから、精神疾患を早期に検知して対策を講じることができる。すなわち、精神疾患が軽度の段階で対策を講じることができることから、精神疾患の進行の速度を緩めることができる。
【0082】
特に、本実施の形態では、被験者データD1と学習済みモデルD2とに基づいて、認知障害の発症には至らないものの健康な状態から離れつつある未病の状態を検知した場合に、被験者1が認知障害を発症していると自律的に推定することができることから、より早期の段階で精神疾患の発症の蓋然性を把握することができる。
【0083】
(第2実施の形態)
次に、本発明の第2実施の形態について説明する。
【0084】
本実施の形態では、被験者データ取得装置が、制御系である車両に対して入力される、車両の操作に関する被験者1の動作を被験者データD1として取得する被験者動作取得装置であって、例えば、車両のハンドル、アクセルペダル、ブレーキペダル、方向指示器等あるいはこれらの装置で取得した被験者データD1を格納する記憶媒体(データレコーダ)で実装される。
【0085】
このような被験者動作取得装置で検知する被験者データD1から抽出した被験者1の動作が、例えば、ハンドルを操作するタイミングやブレーキペダルを踏むタイミングが遅延する等といった精神疾患に特有の動作を検知した場合に、被験者1が精神疾患を発症している、あるいは発症には至らないものの未病の状態であると推定する。
【0086】
(第3実施の形態)
次に、本発明の第3実施の形態について説明する。
【0087】
本実施の形態では、被験者データ取得装置が、例えば心拍数や脳波等といった被験者1の生体データを被験者データD1として取得する生体データ取得装置であって、具体的には、心拍数測定装置(例えばいわゆるスマートウォッチ)、あるいは脳波計が内蔵されたヘルメット等で実装される。
【0088】
このような生体データ取得装置で検知する被験者データD1から抽出した被験者1の生体データが、例えば、脳波がなだらかになる等といった精神疾患に特有の生体データを検知した場合に、被験者1が精神疾患を発症している、あるいは発症には至らないものの未病の状態であると推定する。
【0089】
なお、本発明は上記各実施の形態に限定されることはなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0090】
上記各実施の形態では、精神疾患推定プログラム43の推定部43bにおける処理が人工知能技術によって実行される場合を説明したが、人工知能技術を用いないで、例えば被験者データD1の特徴点と症例データd1の特徴点とを対比して、精神疾患を発症しているか否かを推定してもよい。
【0091】
上記第1実施の形態では、三次元撮像装置が被験者端末20のインカメラ22として実装される場合を説明したが、デプスセンサを搭載したカメラとして例えば車両のバックミラーやドアミラーに配備されるものであってもよいし、入退室管理用のカメラとして室のドアに配備されるものであってもよい。
【0092】
例えば車両のバックミラー等に配備される場合において、被験者1がバックミラーを見た際に取得された被験者データD1に基づいて精神疾患の発症が推定された場合には、被験者1による車両の運転を抑制させることによって、車両の事故が発生するリスクを低減させることができる。
【0093】
上記各実施の形態では、被験者データD1がそれぞれ三次元の画像または映像、車両の操作に関する被験者1の動作及び被験者1の生体データである場合を説明したが、例えば、医療機関のカルテ等の診療データであってもよい。
【0094】
上記第1実施の形態では、症例データd1が認知障害に関する三次元の画像または映像である場合を説明したが、例えば、鬱状態が表れる気分障害に関する三次元の画像または映像であってもよいし、その他の精神疾患に関する三次元の画像または映像であってもよい。
【0095】
この場合において、症例データd1は、気分障害に関する車両の操作に関する被験者1の動作、あるいは気分障害に関する被験者1の生体データであってもよい。
【0096】
上記実施の形態では、精神疾患推定装置30が事業者2に配備される場合を説明したが、精神疾患推定装置30はクラウド環境で実装されるものであってもよい。
【符号の説明】
【0097】
1 被験者
10 精神疾患推定システム
20 精神疾患推定装置
22 インカメラ(被験者データ取得装置、三次元撮像装置)
30 精神疾患推定装置
43 精神疾患推定プログラム
43a 被験者データ受信部(被験者データ受信手段)
43b 推定部(推定手段)
D1 被験者データ
D2 学習済みモデル
d1 症例データ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8