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特許7568294ポリアミド系積層フィルム及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】ポリアミド系積層フィルム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/34 20060101AFI20241008BHJP
   B29C 55/12 20060101ALI20241008BHJP
   B29C 55/14 20060101ALI20241008BHJP
   B29C 55/16 20060101ALI20241008BHJP
   B32B 27/40 20060101ALI20241008BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
B32B27/34
B29C55/12
B29C55/14
B29C55/16
B32B27/40
B65D65/40 D
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021512041
(86)(22)【出願日】2020-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2020014185
(87)【国際公開番号】W WO2020203836
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2023-03-20
(31)【優先権主張番号】P 2019067375
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105821
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 淳
(72)【発明者】
【氏名】松本 真実
【審査官】川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/217435(WO,A1)
【文献】特開2015-168125(JP,A)
【文献】特開2015-026438(JP,A)
【文献】特開平09-248886(JP,A)
【文献】特開平09-248887(JP,A)
【文献】特開2006-123465(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B29C 55/00-55/30
B29K 77/00
B29L 9/00
B65D 65/40
C08J 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミドフィルムと、前記フィルムの少なくとも一方の表面上に積層された、ポリウレタン樹脂100質量部に対して有機滑剤5~30質量部を含有するポリウレタン樹脂層とを含む積層フィルムであって、
(1)前記ポリウレタン樹脂のガラス転移温度が90℃以上であり、
(2)前記ポリウレタン樹脂層表面の算術平均高さ(Ra)が0.010~0.022μmであり、かつ、前記ポリウレタン樹脂層表面の20℃×90%RH環境下での動摩擦係数が0.27以下である、
ことを特徴とするポリアミド系積層フィルム。
【請求項2】
前記ポリウレタン樹脂層表面の23℃×50%RH環境下での動摩擦係数が0.30以下である、請求項1に記載のポリアミド系積層フィルム。
【請求項3】
前記ポリウレタン樹脂層の厚みが0.005~0.150μmである、請求項1に記載のポリアミド系積層フィルム。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載のポリアミド系積層フィルムを含む食品包装用積層体。
【請求項5】
請求項1~3のいずれかに記載のポリアミド系積層フィルムを含む冷間成形用積層体。
【請求項6】
ポリアミドフィルムと、前記フィルムの少なくとも一方の表面上にガラス転移温度が90℃以上のポリウレタン樹脂100質量部に対して有機滑剤5~30質量部を含有するポリウレタン樹脂層とを含み、ポリウレタン樹脂層表面の算術平均高さ(Ra)が0.010~0.022μmであり、かつ、前記ポリウレタン樹脂層表面の20℃×90%RH環境下での動摩擦係数が0.27以下であるポリアミド系積層フィルムを製造する方法であって、
(1)ポリアミド樹脂を含む溶融混練物をシート状に成形することにより未延伸シートを得るシート成形工程、
(2)前記未延伸シートをMD延伸及びTD延伸することによって二軸延伸フィルムを得る延伸工程、及び
(3)前記の未延伸シート、MD延伸フィルム、TD延伸フィルムのいずれか一方の表面上に、ポリウレタン樹脂及び有機滑剤を含む水系塗工液を塗布するコーティング工程
を含むことを特徴とするポリアミド系積層フィルムの製造方法。
【請求項7】
水系塗工液が、ポリウレタン樹脂の分散液と、粒径0.010μm~0.500μmの有機滑剤の分散液との混合液である、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
延伸工程が同時二軸延伸によって実施され、かつ、下記式(a)及び(b);
(a)0.80≦X/Y≦0.95
(b)9.8≦X×Y≦11.6
(但し、Xは前記MD方向の延伸倍率を示し、Yは前記TD方向の延伸倍率を示す。)
の両方を満たす、請求項6に記載の製造方法。
【請求項9】
延伸工程が逐次二軸延伸によって実施され、かつ、下記式(a)及び(b);
(a)0.85≦X/Y≦0.95
(b)8.5≦X×Y≦9.5
(但し、Xは前記MD方向の延伸倍率を示し、Yは前記TD方向の延伸倍率を示す。)
の両方を満たす、請求項6に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品、電子部品等を包装又は被覆するために用いられるポリアミド系積層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミドフィルムは、優れた強靭性を有するため、食品包装から工業用途まで幅広く用いられている。ポリアミドフィルムをはじめとする樹脂フィルムは、使用用途に応じて印刷機、ラミネ―タ―等で加工される。これら加工機内において、樹脂フィルムは、表面が金属又はゴムから構成されるロール間を走行することで搬送される。ロールと樹脂フィルムとは直接接触しているため、樹脂フィルムの接触面の摩擦係数が大きい場合、樹脂フィルムの搬送速度とロール回転速度との間に差が生じる。その結果、樹脂フィルム表面に擦り傷が入ったり、樹脂フィルムの走行が不安定となることがある。このため、樹脂フィルムに無機フィラーを含有させ、樹脂フィルム表面を粗面化することによりロールとの接触面を減らし、摩擦低減を図る方法が提案されている。
【0003】
しかしながら、近年では、生産性向上の観点から樹脂フィルムの走行速度の高速化が求められており、従来のように物理的な手法によるフィルム表面の粗面化だけでは摩擦低減効果が十分ではないうえ、過剰な粗面化により印刷適性を損なうおそれがある。さらに、フィルム表面の粗面化だけでは、高湿度下における摩擦係数が上昇するという問題が生じる。
【0004】
これに対し、ポリアミドフィルム中に無機粒子と長鎖脂肪酸系ビスアミドを含有させる方法が提案されている(特許文献1)。しかし、脂肪族アミドを含有させることにより高湿度下での動摩擦係数の上昇を抑制することができるものの、ブリードアウト量のコントロールが難しいため、ロール汚染、印刷適性低下等の懸念がある。
【0005】
他方、ポリアミドフィルム上に長鎖アルキル基を有するワックス及び球状微粒子を含有するコート層を積層した二軸延伸ポリアミドフィルムが提案されている(特許文献2)。このフィルムによれば、スリップ剤及び粒子を含有したコート層を設けることにより、それらを樹脂フィルム中に含有する場合よりも少量で所定の効果は得られる。しかし、球状微粒子は、コーティング層の厚みに対して粒子径が小さい場合は添加効果が小さい。一方、球状微粒子の粒子径のほうが大きい場合には、この微粒子が滑落又は脱落するリスクが大きくなる。また、高精細な印刷が求められる場合において、表面粗さが大きい場合、印刷抜け等が発生し、印刷精度が低下する場合がある。
【0006】
このように、従来技術においては、フィルムを滑りやすくすると印刷適性が犠牲となってしまう一方、印刷適性を向上させるとフィルムが滑りにくくなるという問題が生じるため、両者を一挙に改善することは困難とされている。
【0007】
ところで、近年、工業分野におけるポリアミドフィルムの用途として、リチウムイオン電池の外装材がある。このような用途においても、フィルムの滑り性が問題となる。
【0008】
リチウムイオン電池の外装材としては、従来では金属缶タイプが主流である。ところが、金属缶タイプにおいては、形状の自由度の低さ、軽量化の困難さ等の欠点が指摘されている。このため、基材層(ポリアミドフィルム)/金属箔層(アルミニウム箔層)/シーラント層からなる積層体を外装体として用いることが提案されている。このような積層体は、金属缶と比較して柔軟で形状の自由度が高く、さらに薄膜化による軽量化が可能であり、かつ、小型化が容易であることから、広く用いられるようになっている。
【0009】
そして、上記のような積層体を冷間成形により、所定の形状に加工することにより、容器等の各種の製品を得ることが行われる。冷間成形時の成形性に影響を与えるフィルムの物性として、フィルムの滑り性がある。例えば、ポリアミドフィルムを最外層とする積層体を冷間成形する場合、ポリアミドフィルムと成形金型とが接触するため、ポリアミドフィルムが滑りにくい(すなわち、摩擦係数が大きい)場合は、成形金型が押し込まれる際に積層体表面にシワが生じたり、積層体がデラミネーションを引き起こすおそれが高くなる。しかも、積層体全体を均一に成形することが難しく、厚みムラが生じるため、ピンホールの発生が懸念される。特に、高湿度下で冷間成形を行う際には、これらの問題がよりいっそう顕著となる。この点において、フィルムの滑りやすさは、湿度に依存しないことも必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2002-348465号公報
【文献】特開2015-168125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
以上のようなことから、湿度に関係なく、滑り性に優れ、ひいては冷間成形性又は各種の加工性にも優れ、かつ、高精細な印刷を施すことも可能なポリアミドフィルムが要望されているが、そのようなフィルムは未だ開発されるに至っていない。
【0012】
従って、本発明は、高い滑り性と良好な印刷適性とを兼ね備えたポリアミド系積層フィルムを提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記の問題点を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ポリアミドフィルムと特定の樹脂層とを含む特定の層構成を採用することによって上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、下記のポリアミド系積層フィルム及びその製造方法に係る。
1. ポリアミドフィルムと、前記フィルムの少なくとも一方の表面上に積層されたポリウレタン樹脂及び有機滑剤を含有するポリウレタン樹脂層とを含む積層フィルムであって、
(1)前記ポリウレタン樹脂のガラス転移温度が50℃以上であり、
(2)前記ポリウレタン樹脂層表面の算術平均高さ(Ra)が0.010~0.060μmであり、かつ、前記ポリウレタン樹脂層表面の20℃×90%RH環境下での動摩擦係数が0.40以下である、
ことを特徴とするポリアミド系積層フィルム。
2. 前記ポリウレタン樹脂層表面の23℃×50%RH環境下での動摩擦係数が0.30以下である、前記項1に記載のポリアミド系積層フィルム。
3. 前記ポリウレタン樹脂層の厚みが0.005~0.150μmである、前記項1に記載のポリアミド系積層フィルム。
4. 前記項1~3のいずれかに記載のポリアミド系積層フィルムを含む食品包装用積層体。
5. 前記項1~3のいずれかに記載のポリアミド系積層フィルムを含む冷間成形用積層体。
6. ポリアミドフィルムと、前記フィルムの少なくとも一方の表面上にポリウレタン樹脂及び有機滑剤を含有するポリウレタン樹脂層とを含むポリアミド系積層フィルムを製造する方法であって、
(1)ポリアミド樹脂を含む溶融混練物をシート状に成形することにより未延伸シートを得るシート成形工程、
(2)前記未延伸シートをMD延伸及びTD延伸することによって二軸延伸フィルムを得る延伸工程、及び
(3)前記の未延伸シート、MD延伸フィルム、TD延伸フィルム又は二軸延伸フィルムのいずれか一方の表面上に、ポリウレタン樹脂及び有機滑剤を含む水系塗工液を塗布するコーティング工程
を含むことを特徴とするポリアミド系積層フィルムの製造方法。
7. 水系塗工液が、ポリウレタン樹脂の分散液と、粒径0.010μm~0.500μmの有機滑剤の分散液との混合液である、前記項6に記載の製造方法。
8. 延伸工程が同時二軸延伸によって実施され、かつ、下記式(a)及び(b);
(a)0.80≦X/Y≦0.95
(b)9.8≦X×Y≦11.6
(但し、Xは前記MD方向の延伸倍率を示し、Yは前記TD方向の延伸倍率を示す。)
の両方を満たす、前記項6に記載の製造方法。
9. 延伸工程が逐次二軸延伸によって実施され、かつ、下記式(a)及び(b);
(a)0.85≦X/Y≦0.95
(b)8.5≦X×Y≦9.5
(但し、Xは前記MD方向の延伸倍率を示し、Yは前記TD方向の延伸倍率を示す。)
の両方を満たす、前記項6に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高い滑り性と良好な印刷適性とを兼ね備えたポリアミド系積層フィルムを提供することができる。すなわち、本発明では、従来技術において互いに相反する特性とされていた滑り性と印刷適性(特に版からのインキ転移性)とを同時に向上させることが可能となる。
【0016】
本発明のポリアミド系積層フィルムは、ポリウレタン樹脂層の算術平均高さ(Ra)が低いので、高精細な印刷を施すことができる。また同時に、前記Raが小さいにもかかわらず、高湿度下での動摩擦係数が小さいため、湿度に依存することなく安定した滑り性を発揮することができる。その結果、本発明のポリアミド系積層フィルムは、ロールによる搬送に適することに加え、各種加工において好適に使用することができる。
【0017】
特に、有機物であるポリウレタン樹脂を主成分とするポリウレタン樹脂層であることから、インキ密着性に優れるため、優れた印刷適性を発揮することができる。これに加え、ポリウレタン樹脂層の柔軟性が比較的良好であるため、例えばボイル又はレトルト処理工程におけるポリアミドフィルムの寸法変化にも追従可能である。そのため、本発明のポリアミド系積層フィルムを用いて成形(特に冷間成形)等の加工を行う際において、デラミネーションの発生等を効果的に抑制ないしは防止することができる。
【0018】
さらに、本発明のポリアミド系積層フィルムは、アルミニウム箔と積層し、冷間成形を行う際にも、アルミニウム箔との追従性が良好であるとともに、成形金型との摩擦が小さいことから、成形性に優れるがゆえに、デラミネーション又はピンホールを有しない成形体を得ることができる。
【0019】
本発明のポリアミド系積層フィルムの製造方法によれば、本発明のポリアミド系積層フィルムをより確実にかつ生産性良く得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明のポリアミド系積層フィルムの層構成例を示す図である。
図2】本発明のポリアミド系積層フィルムの実施形態を示す図である。
【発明の実施の形態】
【0021】
1.ポリアミド系積層フィルム
本発明のポリアミド系積層フィルム(本発明フィルム)は、ポリアミドフィルムと、前記フィルムの少なくとも一方の表面上に積層されたポリウレタン樹脂及び有機滑剤を含有するポリウレタン樹脂層とを含む積層フィルムであって、
(1)前記ポリウレタン樹脂のガラス転移温度が50℃以上であり、
(2)前記ポリウレタン樹脂層表面の算術平均高さ(Ra)が0.010~0.060μmであり、かつ、前記ポリウレタン樹脂層表面の20℃×90%RH環境下での動摩擦係数が0.40以下である、
ことを特徴とする。
【0022】
A.本発明フィルムの層構成
本発明フィルムは、上記のように、ポリアミドフィルムと、前記フィルムの少なくとも一方の表面上に積層されたポリウレタン樹脂及び有機滑剤を含有するポリウレタン樹脂層(以下、単に「ポリウレタン樹脂層」ともいう。)とを含む積層フィルムを基本構成とする。すなわち、接着剤層を介することなく、ポリアミドフィルムの片面又は両面に隣接するようにポリウレタン樹脂層が形成されている積層構造を基本構成とするものである。
【0023】
図1には、本発明フィルムの層構成例を示す。図1Aには、ポリアミドフィルム11の片面にポリウレタン樹脂層12が積層されている積層体(本発明フィルム)10を示す。図1Bには、ポリアミドフィルム11の両面にポリウレタン樹脂層12,12が積層されている積層体(本発明フィルム)10’を示す。これらの場合、いずれもポリウレタン樹脂層が最表面層(最外層)(外部に露出する層)として配置されている。このように、ポリウレタン樹脂層が最表面層として露出することで、例えばポリウレタン樹脂層を外側に向けた状態で本発明フィルムによる包装体(袋体等)を作製した場合、その包装体の内容物を外部から保護することができる。従って、本発明フィルムにおいては、おもて面及び裏面の少なくとも一方にポリウレタン樹脂層が最表面層(最外層)(外部に露出する層)として配置されていることが望ましい。
【0024】
本発明フィルムでは、上記のようにポリアミドフィルム表面上に前記ポリウレタン樹脂層が直接に形成され、なおかつ、少なくとも1つのポリウレタン樹脂層が最表面層として配置されている限り、必要に応じて、他の層がさらに積層されていても良い。例えば、バリア層(ガスバリア層、水蒸気バリア層等)、印刷層、接着剤層、熱融着層(シーラント層、ヒートシール層)、プライマー層(アンカーコート層)、帯電防止層、蒸着層、紫外線吸収層、紫外線遮断層等が挙げられる。
【0025】
図2には、ポリアミドフィルム及びポリウレタン樹脂層のほかに、他の任意的な層がさらに積層されたポリアミド系積層フィルムの層構成例を示す。
【0026】
図2Aには、図1Aの積層体10の片面にさらにバリア層13、熱融着層14が順に積層されてなる積層体20を示す。この積層体20は、ポリアミドフィルム11においてポリウレタン樹脂層12が形成されていない面にバリア層13、熱融着層14が積層されているため、ポリウレタン樹脂層12が最表面層として露出した状態が維持されている。
【0027】
図2Bには、図1Bの積層体10’の片面にさらにバリア層13、熱融着層14が順に積層されてなる積層体20’を示す。この積層体20’は、ポリアミドフィルム11のいずれか一方のポリウレタン樹脂層12上にバリア層13、熱融着層14が積層されており、他方のポリウレタン樹脂層12が最表面層として露出した状態が維持されている。
【0028】
また、図2A又は図2Bに示すように、本発明フィルムが熱融着層14を有する場合は、熱融着層14は最表面層として配置される。すなわち、本発明フィルムが熱融着層14を有する場合、一方の最表面層がポリウレタン樹脂層12であり、他方の最表面層が熱融着層14となる層構成を採用することが好ましい。
【0029】
以下においては、本発明フィルムを構成するポリアミドフィルム及びポリウレタン樹脂層に加え、任意的な層についてそれぞれ説明する。
【0030】
A-1.ポリアミドフィルム
ポリアミドフィルムは、本発明フィルムの基材(芯材)となるものであり、通常は予め成形されたフィルムの形態で提供される。ポリアミドフィルム自体は、公知又は市販のものを使用することができる。また、公知の製造方法によって製造されたフィルムを使用することもできる。
【0031】
ポリアミドフィルムは、単層構造であっても良いし、2つ又はそれ以上のポリアミドフィルムが積層された多層構造であっても良い。また、多層構造である場合は、各層は互いに同じ組成であっても良いし、異なる組成であっても良い。
【0032】
ポリアミドフィルムは、ポリアミド系樹脂が主成分となるものであるが、本発明の効果を妨げない範囲内において、他の成分が含まれていても良い。この場合、ポリアミドフィルム中におけるポリアミド系樹脂の含有割合は、限定的ではないが、通常は70~100質量%程度とし、特に90~99.5質量%とすることが好ましく、その中でも95~99質量%とすることがより好ましい。
【0033】
ポリアミド系樹脂としては、その分子内にアミド結合(-CONH-)を有する溶融成形可能な熱可塑性樹脂であれば良く、公知又は市販のものを使用することができる。従って、例えばラクタム類、ω-アミノ酸類又は二塩基酸類とジアミンとの重縮合によって得られるポリアミドを挙げることができる。
【0034】
ラクタム類としては、例えばε-カプロラクタム、エナントラクタム、カプリルラクタム、ラウリルラクタム等を挙げることができる。
【0035】
ω-アミノ酸類としては、例えば6-アミノカプロン酸、7-アミノヘプタン酸、9-アミノノナン酸、11-アミノウンデカン酸等を挙げることができる。
【0036】
二塩基酸類としては、例えばアジピン酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカンジオン酸、ドデカジオン酸、ヘキサデカジオン酸、エイコサンジオン酸、エイコサジエンジオン酸、2,2,4-トリメチルアジピン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、キシリレンジカルボン酸等が挙げられる。
【0037】
ジアミン類としては、例えばエチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、2,2,4(又は2,4,4)-トリメチルヘキサメチレンジアミン、シクロヘキサンジアミン、ビス-(4,4′-アミノシクロヘキシル)メタン、メタキシリレンジアミン等を挙げることができる。
【0038】
本発明では、これらの化合物(出発材料)は、環境保護等の見地より、バイオマス由来の化合物を使用することもできる。
【0039】
これらのモノマー成分を重縮合して得られる重合体又はこれらの共重合体として、例えばナイロン6、7、11、12、6.6、6.9、6.11、6.12、6T、9T、10T、6I、MXD6(ポリメタキシリレンアジパミド)、6/6.6、6/12、6/6T、6/6I、6/MXD6等を用いることができる。これらは1種又は2種以上で用いることができる。これらの中でも、ナイロン6、ナイロン6,6等の脂肪族ポリアミド樹脂が好ましく、その中でも耐熱性と機械特性とのバランスに優れるという点でナイロン6を含むことがより好ましい。
【0040】
また、ポリアミドフィルムに採用されるポリアミド系樹脂の相対粘度は、限定的ではないが、通常は1.5~5.0程度であることが好ましく、特に2.0~4.0であることがより好ましい。相対粘度が1.5未満であると、得られるフィルムの力学的特性が著しく低下しやすくなる。一方、相対粘度が5.0を超えると、フィルムの製膜性に支障をきたしやすくなる。なお、上記相対粘度は、ポリアミドを96%硫酸に濃度1.0g/dlとなるよう溶解させた試料溶液(液温25℃)をウベローデ型粘度計を用いて測定される値である。本発明では、最終的に得られる本発明フィルム中のポリアミドフィルムの相対粘度も、上記範囲内にあることが好ましい。
【0041】
ポリアミドフィルムは、前記のように、ポリアミド系樹脂のほか、本発明の効果を妨げない範囲内で他の成分を含んでいても良い。他の成分としては、公知又は市販の添加剤を挙げることができる。より具体的には、金属(金属イオン)、顔料、熱安定剤、酸化防止剤、耐候剤、難燃剤、可塑剤、離形剤、強化剤(フィラー)等が例示される。特に、熱安定剤又は酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール類、リン化合物、ヒンダードアミン類、硫黄化合物、銅化合物、アルカリ金属ハロゲン化物等を好適に用いることができる。
【0042】
また、ポリアミドフィルム中には、必要に応じて滑剤が含まれていても良い。滑剤の具体例としては、クレー、タルク、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、ワラストナイト、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、珪酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カルシウム、アルミノ珪酸マグネシウム、ガラスバルーン、カーボンブラック、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、ゼオライト、ハイドロタルサイド、層状ケイ酸塩等の無機滑剤、エルカ酸アミド、オレイン酸アミド、ステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビススエチレンビスオレイン酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミドメチレンビスステアリン酸アミド等の有機滑剤が挙げられる。これらは1種又は2種以上で用いることができる。
【0043】
ポリアミドフィルムの厚みは、特に制限されないが、一般的には4~35μmであることが好ましく、特に5~25μmであることがより好ましい。厚みが4μm未満では機械的強度が不足しやすく、成形性が低下する。一方、厚みが35μmを超えると原料使用量の増加あるいは生産性の低下を招くおそれがある。
【0044】
また、ポリアミドフィルムは、機械的強度の観点から、延伸されたものであることが好ましい。すなわち、配向性を有する構造をとることが好ましい。この場合、一軸延伸又は二軸延伸のいずれであっても良いが、特に二軸延伸による配向性を有することが好ましい。延伸倍率は、後記で示すような範囲内で適宜設定することができる。
【0045】
ポリアミドフィルムは、積層体とした際の積層体を構成する各層間の密着力を向上させるため、少なくとも片面にコロナ処理、プラズマ処理、オゾン処理等の公知の表面処理が施されている表面を有することが好ましい。
【0046】
A-2.ポリウレタン樹脂層
本発明フィルムを構成するポリウレタン樹脂層は、主として、滑り性と印刷適性とを発揮させるための層であって、ポリウレタン樹脂及び有機滑剤を含む。
【0047】
ポリウレタン樹脂は、例えば多官能イソシアネートと水酸基含有化合物との反応により得られるポリマーである。より詳細には、トリレンジイソイアネート、ジフェニルメタンイソシアネート、ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート、又はヘキサメチレンジイソシアネート、キシレンイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネート等の多官能イソシアネートと、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリアクリレートポリオール、ポリカーボネートポリオール等の水酸基含有化合物との反応により得られるウレタン樹脂を例示することができる。これらのポリウレタン樹脂自体は、公知又は市販のものを使用することもできる。
【0048】
また、ポリウレタン樹脂は、本発明の効果を妨げない範囲内において、アニオン性官能基、カチオン性官能基、ノニオン性官能基等の各種の官能基が導入されていても良い。特に、塗工液の状態における分散性等の見地でアニオン性官能基が含まれることが好ましい。アニオン性官能基としては、例えばカルボキシル基、スルホン基等が挙げられる。
【0049】
ポリウレタン樹脂中にアニオン性官能基を導入する方法は、特に制限されず、例えばa)ポリオール成分としてアニオン性官能基を有するジオール等を用いる方法、b)鎖伸張剤としてアニオン性官能基を有するジオール等を用いる方法等が挙げられる。ここに、アニオン性官能基を有するジオールとしては、例えばグリセリン酸、ジオキシマレイン酸、ジオキシフマル酸、酒石酸、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸、2,2-ジメチロール吉草酸、2,2-ジメチロールペンタン酸、4,4-ジ(ヒドロキシフェニル)吉草酸、4,4-ジ(ヒドロキシフェニル)酪酸等の脂肪族カルボン酸のほか、2,6-ジオキシ安息香酸等の芳香族カルボン酸等が挙げられる。
【0050】
ポリウレタン樹脂層は、架橋構造を形成していることが好ましい。架橋構造は、a)ポリウレタン樹脂と反応し、架橋構造形成可能な架橋剤を添加することにより形成する方法、b)反応基を骨格中に含むポリウレタン樹脂を使用する方法等によって形成することができる。
【0051】
上記の架橋剤としては、ポリウレタン樹脂末端基と反応できる架橋剤が好ましい。これにより、ポリウレタン樹脂の分子内の極性基を減らすことができることから、さらに滑り性を向上させることができる。架橋剤の具体例としては、例えばイソシアネート、オキサゾリン、カルボジイミド、メラミン樹脂等が挙げられる。この中でも、反応性、経済性等の観点からメラミン樹脂を用いることが好ましい。メラミン樹脂の代表的なものとして、トリ(アルコキシメチル)メラミンが挙げられる。前記アルコキシ基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等が挙げられる。これらメラミン樹脂は、1種又は2種以上を使用することができる。
【0052】
架橋剤を用いる場合の添加量は、用いる架橋剤の種類等によって適宜設定すれば良いが、通常はポリウレタン樹脂100質量部に対して1~10質量部の範囲内で設定することができる。
【0053】
ポリウレタン樹脂のガラス転移温度は、特に滑り性向上の観点から50℃以上であることが必要であり、特に70℃以上であることが好ましく、その中でも90℃以上であることがより好ましい。ガラス転移温度が50℃未満である場合、本発明で規定する動摩擦係数の範囲を超えることがあり、特に高湿度下での滑り性も低下する傾向にある。なお、ガラス転移温度の上限は、限定的ではないが、例えば150℃程度とすることができる。
【0054】
ポリウレタン樹脂層中におけるポリウレタン樹脂の含有量は、特に限定されないが、通常は50~98重量%程度(特に70~95重量%)とすることができるが、これに限定されない。
【0055】
有機滑剤は、本発明において、ガラス転移温度が50℃以上のポリウレタン樹脂と共存することにより、滑り性及び印刷適性という互いに相反する両特性を同時に高める機能を果たす。
【0056】
有機滑剤としては、特に限定されず、例えば炭化水素系、脂肪酸系、脂肪族ビスアミド系、金属石鹸系等の各種の有機化合物のほか、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂等の樹脂系の有機滑剤が挙げられる。
【0057】
これらの有機滑剤の中でも、本発明では、特に融点が50~200℃の有機滑剤であることが好ましい。このような有機滑剤としては、特に限定されないが、ポリエチレンワックス、シリコン-アクリル共重合体、シリコン-ウレタン共重合体及び脂肪族アマイドの少なくとも1種を用いることが好ましい。これらの有機滑剤は、液状になり得るため、ポリウレタン樹脂層表面の平滑性を損なうことがない。また、ポリウレタン樹脂層へ添加するため、より少ない添加量で滑剤としての効果を得ることができることが可能であり、ブリードアウト量の制御もより容易となる。これらの有機滑剤は、市販品を用いることもできる。
【0058】
ポリエチレンワックスは、滑り性の観点から高結晶性ポリエチレンを主成分とするものが好ましく、融点が90℃以上であるものが好ましく、特に100℃以上であることがより好ましく、その中でも120℃以上であることが最も好ましい。融点が90℃以上である限り、ポリエチレン単体でも良いし、ポリエチレン共重合体であっても良く、ポリエチレンとポリエチレン共重合体の混合物でも良い。なお、融点の上限は、例えば150℃程度とすることができる。
【0059】
シリコン-アクリル共重合体及びシリコン-ウレタン共重合体は、主鎖に対してグラフト重合により側鎖を重合させていることが、ポリウレタン樹脂との相溶性の観点から好ましい。主鎖がシリコン成分であれば側鎖はアクリル又はウレタン成分であり、主鎖がアクリル又はウレタン成分であれば側鎖はシリコン成分であることが好ましい。
【0060】
脂肪族アマイドは、炭素数がC8以上20以下であることが好ましく、特にC12以上C18以下であることが好ましく、その中でもC16以上C18以下であることがより好ましい。C20を超える場合は、印刷適性が低下するおそれがある。また、C8未満である場合は、滑り性の改良効果が十分ではないことがある。このような脂肪酸アマイドの具体例としては、ステアリン酸(C18)等の飽和脂肪酸のほか、オレイン酸(C18)等の不飽和脂肪酸のモノアミドが挙げられる。これらの中でも、ステアリン酸アミド及びエチレンビスステアリン酸アミドの少なくとも1種が水系塗工液との相性が良いために好ましい。
【0061】
有機滑剤は、ポリウレタン樹脂層中に含有されていれば良いが、特にポリウレタン樹脂層表面に偏在していても良い。有機滑剤がポリウレタン樹脂層表面に偏在する場合は、より少ない有機滑剤で滑りやすさを確実に付与することができる。
【0062】
有機滑剤の含有量(固形分比)は、滑り性向上及び印刷適性向上の観点から、ポリウレタン樹脂100質量部に対して有機滑剤が5~30質量部であることが好ましく、特に10~30質量部であることがより好ましく、その中でも15~30質量部であることが最も好ましい。有機滑剤が0質量部を超えると、印刷適性が悪化することに加え、動摩擦係数の低下効果も小さくなる。有機滑剤が5質量部を下回ると、印刷適性は良好であるものの、動摩擦係数を低下させることが困難となる。
【0063】
ポリウレタン樹脂層中には、その特性を大きく損なわない限りにおいて、必要に応じて、有機滑剤以外の添加剤が含まれていても良い。例えば、界面活性剤、消泡剤、熱安定剤、酸化防止剤、強化材、顔料、劣化防止剤、耐候剤、難燃剤、可塑剤、離型剤等の添加剤を含有しても良い。
【0064】
ポリウレタン樹脂層の厚みは、特に限定されるものではないが、通常0.005~0.150μmであることが好ましく、特に0.010~0.150μmであることがより好ましく、その中でも0.020~0.100μmであることが最も好ましい。ポリウレタン樹脂層の厚みが0.005μm未満であると、ポリアミドフィルム上に均一な膜厚のポリウレタン樹脂層を形成することが困難となるため、十分な滑り性を得ることが困難となる。一方、ポリウレタン樹脂層の厚みが0.150μmを超えると、ポリウレタン樹脂層の滑り性向上効果は飽和し、経済的に不利となる。
【0065】
A-3.その他の層
前記のように、本発明フィルムは、ポリアミドフィルム及びポリウレタン樹脂層のほかにも、必要に応じて各種の層を積層することができる。すなわち、本発明のポリアミド系積層フィルムは、ポリアミドフィルム及びポリウレタン樹脂層という基本構成を含み、かつ、他の層が積層されている積層体も包含する。従って、本明細書においては、前記基本構成(前記の積層フィルム)に加えて他の層が積層されている積層体を「積層体」ともいう。
【0066】
このような積層体は、例えば食品包装用、電池包装用(外装材)等の包装用積層体として好適に用いることができる。また、本発明フィルムは、冷間成形用積層体として冷間成形(例えば成形温度50℃以下)にも適しているので、本発明フィルムを冷間成形する工程を含む成形体の製造方法にも適用可能である。このように、本発明においては、特に食品包装用又は冷間成形用として用いられるポリアミド系積層フィルムを包含する。
【0067】
上記の基本構成以外の層としては、公知の包装材料等で採用されているものと同様のものを使用することもできる。例えば、バリア層、プライマー層、熱融着層、接着剤層、クリア層、印刷層等を挙げることができる。これらは、公知の積層体と同様のものを採用できるが、このうちバリア層及び熱融着層は、以下のように設定することが望ましい。
【0068】
バリア層としては、バリア性(ガスバリア性、特に酸素バリア性等)に優れた性能を有するものであり、例えば公知の金属箔、金属蒸着フィルム、透明蒸着フィルム等の無機系バリア層、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体等の有機系コート層の各種バリアフィルム等が挙げられる。この中でも、汎用性という点でアルミニウム箔、銅箔等の金属箔が好ましく、特にアルミニウム箔がより好ましい。
【0069】
バリア層として金属箔を用いる場合、金属箔の厚みは、特に限定されないが、通常は5~200μm程度とし、特に5~150μmであることがより好ましく、その中でも7~50μmであることが最も好ましい。
【0070】
また、金属箔の片方又は両方の面に接着性、腐食耐性等を高めるための表面処理を施しても良い。表面処理としては、例えば化成処理、クロメート処理等が挙げられる。特にこれら表面処理は、熱融着層に接する側の面に施されていることが好ましい。
【0071】
熱融着層は、ヒートシール可能な層であれば特に限定されず、公知のものを用いることができ、例えば、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリオレフィンフィルム等が挙げられる。ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンのほか、ポリプロピレンを主成分とした共重合体、これらの酸変性物が挙げられる。熱融着層は、延伸フィルム又は無延伸フィルムのいずれも使用でき、溶融させた樹脂を直接積層しても良い。
【0072】
熱融着層の厚みは、特に限定されないが、通常20~200μmであることが好ましく、特に30~100μmであることがより好ましい。
【0073】
また、これらのを積層する場合、例えば公知の接着剤等を使用して積層することも可能であるが、これに限定されない。
【0074】
本発明において、ポリアミドフィルムと金属箔とを接着する方法としては、例えば2液タイプのウレタン系接着剤を用いてドライラミネート、熱ラミネート等を好適に採用することができる。
【0075】
また、金属箔と熱融着層とを接着する方法としては、例えばドライラミネート、熱ラミネート、押出しラミネート、サンドイッチラミネート法等を好適に用いることができる。
【0076】
上記接着剤層が形成されるフィルム、金属箔、熱融着層の表面には、本発明の効果を損なわない限りにおいて、必要に応じてアンカーコート層、プライマー層等が予め設けられていても良い。
【0077】
本発明において、他の層を積層した場合、特にポリウレタン樹脂層を最表層に配置することによって、滑り性及び印刷適性に優れることから、食品、電子・電気部品等の包装用途をはじめとして、各種の工業用途にも好適に用いることが可能である。
【0078】
本発明フィルムとして、図2A又は図2Bに示すように、例えばポリウレタン樹脂層12/ポリアミドフィルム11/金属箔13/熱融着層14を含む積層体、ポリウレタン樹脂層12/ポリアミドフィルム11/ポリウレタン樹脂層12/金属箔13/熱融着層14を含む積層体等は、例えば電池の外装材等をはじめとする包装材料として有効である。
【0079】
B.本発明フィルムの特性
本発明フィルムの厚みは、特に限定されず、例えば用途、使用方法等によって適宜設定することができる。例えば、本発明フィルムを電池の外装材として用いる場合は、図1の積層体10又は10’における厚みとして、例えば10~25μm程度の範囲とすることができ、また例えば15~25μmの範囲とすることもできるが、これに限定されない。
【0080】
本発明フィルムは、ポリウレタン樹脂層表面の20℃×90%RH環境下での動摩擦係数が通常0.40以下であり、好ましくは0.35以下であり、より好ましくは0.30以下である。なお、本発明フィルムにおいて、20℃×90%RH環境下での動摩擦係数の下限値は、特に限定されないが、通常は0.20程度である。20℃×90%RH環境下での動摩擦係数が0.40以下であれば、高湿度下においても優れた加工性及び印刷適性をより確実に得ることができる。
【0081】
さらに、本発明フィルムは、成形性、印刷適性向上等の観点から、ポリウレタン樹脂層表面の23℃×50%RH環境下での動摩擦係数が通常0.30以下であり、好ましくは0.25以下であり、より好ましくは0.20以下である。なお、23℃×50%RH環境下での動摩擦係数の下限値は、特に限定されないが、通常は0.10程度である。
【0082】
また、本発明フィルムは、ポリウレタン樹脂層表面の二次元表面粗さ測定から算出される算術平均高さ(Ra)は、通常0.010~0.060μmである必要があり、特に0.010~0.055μmであることが好ましく、さらに0.020~0.050μmであることがより好ましく、その中でも0.010~0.040μmであることが最も好ましい。前記Raが0.060μmを超えると、樹脂層表面の凹凸が大きくなるため、印刷抜けが発生する可能性があり、高精細な印刷を施すことが難しくなる。
【0083】
さらに、本発明フィルムのポリウレタン樹脂層表面における水の接触角は、滑り性又は印刷適性向上の観点から82°~98°であることが好ましく、特に86°~98°であることがより好ましく、その中でも90°~98°であることが最も好ましい。接触角が82°未満では摩擦抵抗が大きくなるため、滑り性が低下することがある。また、接触角が98°を超えるとインキ密着性の低下により印刷適性が低下するおそれがある。さらに本発明フィルムのポリウレタン樹脂層表面は凹凸が少ないため、接触角測定値のバラツキを抑制することができる。
【0084】
2.ポリアミド系積層フィルムの製造
本発明フィルムは、例えばポリアミドフィルムと、前記フィルムの少なくとも一方の表面上に積層されたポリウレタン樹脂及び有機滑剤を含有するポリウレタン樹脂層とを含むポリアミド系積層フィルムを製造する方法であって、
(1)ポリアミド樹脂を含む溶融混練物をシート状に成形することにより未延伸シートを得るシート成形工程、
(2)前記未延伸シートをMD延伸及びTD延伸することによって二軸延伸フィルムを得る延伸工程、及び
(3)前記の未延伸シート、MD延伸フィルム、TD延伸フィルム又は二軸延伸フィルムのいずれか一方の表面上に、ポリウレタン樹脂及び有機滑剤を含む水系塗工液を塗布するコーティング工程
を含む、ことを特徴とするポリアミド系積層フィルムの製造方法によって好適に製造することができる。
【0085】
シート成形工程
シート成形工程では、ポリアミド樹脂を含む溶融混練物をシート状に成形することにより未延伸シートを得る。
【0086】
未延伸シートは、ポリアミド系樹脂を含む溶融混練物をフィルム状に成形することにより得ることができる。溶融混練物の調製自体は、公知の方法に従って実施すれば良い。例えば、ポリアミド系樹脂を含む樹脂組成物を溶融することにより得られる溶融混練物をフィルム状(シート状)に成形することによって製造することができる。これは、公知又は市販の装置を使用することにより実施することが可能である。例えば、Tダイを有する溶融押出機を使用することができる。すなわち、まずホッパーに出発材料(例えばペレット状原料)を供給し、溶融押出機で可塑化溶融し、溶融混練物を押出機の先端に取り付けられたTダイよりシート状に押し出し、キャストロールで冷却固化する。このとき、空気により溶融混練物をキャストロールに押し付けて未延伸シートを得ることができる。
【0087】
上記の樹脂組成物には、ポリアミド系樹脂のほか、必要に応じて各種の添加剤を配合することができる。添加剤としては、ポリアミドフィルムに添加される添加剤を挙げることができる。
【0088】
この場合の未延伸シートの平均厚みは、特に限定されないが、一般的には15~250μm程度とし、特に50~235μmとすることが好ましい。このような範囲内に設定することによって、より効率的に延伸工程を実施することができる。
【0089】
延伸工程
延伸工程では、前記未延伸シートをMD延伸及びTD延伸することによって二軸延伸フィルムを得る。
【0090】
延伸工程に先立って、未延伸シート又は一軸延伸フィルムを予熱することが好ましい。予熱温度は、限定的ではないが、延伸温度の±50℃以内に設定することが好ましい。予熱することによって、物理的特性が良好な二軸延伸フィルムをより確実に得ることができる。予熱時間は、予熱温度等にもよるが、通常は0.5~5秒間程度とすることが好ましい。
【0091】
予熱する方法は、特に限定されない。例えば、延伸機の予熱ゾーンを走行するフィルムに吹き付ける熱風の温度を上記の温度範囲に設定することによって実施する方法を好適に採用することができる。
【0092】
また、延伸温度を上記の温度にする方法は、限定的ではないが、延伸機の延伸ゾーンを走行するフィルムに吹き付ける熱風の温度を上記の温度範囲に設定することによって行うことが好ましい。この場合、ポリアミドフィルムが延伸ゾーンを走行する時間は、通常0.5~5秒間程度とすることが好ましい。
【0093】
延伸方法としては、最終的に二軸延伸された本発明フィルムを得る場合、同時二軸延伸法又は逐次二軸延伸法を採用することができる。また、延伸装置による分類としては、例えばチューブラー法、テンター法等があり、いずれも適用可能である。本発明では、特に品質安定性及び寸法安定性の面でテンター法による延伸法が好ましい。従って、テンター式同時二軸延伸法又はテンター式逐次二軸延伸法を好適に採用することができる。テンター式二軸延伸法は、例えばパンタグラフ方式テンター、スクリュー方式テンター、リニアモーター方式テンター等が挙げられる。
【0094】
なお、延伸方法として同時二軸延伸法を採用する場合には、未延伸シートにウレタン樹脂及び有機滑剤を含む水系塗工液を塗布した後、同時にMD方向とTD方向に二軸延伸することによって、所定の二軸延伸ポリアミドフィルム上にウレタン樹脂層が形成された本発明フィルムを得ることができる。
【0095】
また、逐次二軸延伸法を採用する場合は、予めMD方向又はTD方向に一軸延伸されたフィルムにウレタン樹脂及び有機滑剤を含む水系塗工液を塗布した後、その一軸延伸方向と略直交する方向(TD方向又はMD方向)に延伸することによって、所定の二軸延伸ポリアミドフィルム上にウレタン樹脂層が形成された本発明フィルムを得ることができる。
【0096】
延伸倍率は、特に限定されないが、通常はMD方向とTD方向にそれぞれ2.0~4.5倍程度に延伸すれば良い。この場合、MD方向とTD方向の延伸倍率は、互いに同じでも良いし、互いに異なっていても良い。このような延伸によって引張強度、引張伸度等の物理的特性が良好な延伸フィルムを得ることができる。
【0097】
本発明のポリアミド系積層フィルムは、ポリウレタン樹脂層の算術平均高さ(Ra)を本発明で規定する範囲とするために、下記(a)及び(b)の条件を同時に満たすことが必要である。下記(a)及び(b)の数式において、XはMD方向の延伸倍率を示し、YはTD方向の延伸倍率を示す。また、X/Yは、MD延伸倍率(X)と、TD延伸倍率(Y)との延伸倍率比を示す。X×Yは、面倍率を示す。
【0098】
同時二軸延伸を実施する場合は、特に
(a)0.80≦X/Y≦0.94
(b)9.8≦X×Y≦11.6
を満たすことが好ましい。
【0099】
逐次二軸延伸を実施する場合は、特に
(a)0.85≦X/Y≦0.95
(b)8.5≦X×Y≦9.5
を満たすことが好ましい。
【0100】
延伸温度は、限定的ではなく、例えば延伸方法、本発明フィルムの用途、使用形態等に応じて225℃以下(好ましくは40~220℃)の範囲内で適宜設定することができる。
【0101】
延伸工程で延伸されたフィルムは、さらに熱処理することが好ましい。熱処理温度は、特に制限されないが、通常は190~220℃程度とすることが好ましく、特に195~215℃とすることがより好ましい。熱処理温度が190℃未満では、収縮率が大きいフィルムとなるため包装用ポリアミドフィルムとして好ましくない。また、有機滑剤、架橋剤等を添加した場合には、前者は十分にブリードアウトしないため、後者は架橋反応が十分に進行しないため、添加による効果が十分に得られないことがある。一方、熱処理温度が220℃を超えると、ポリアミドフィルムの強度が低下する。なお、上記熱処理で有機滑剤のブリードアウトあるいは架橋剤の架橋反応の進行が不十分な場合は、延伸完了後にエージング処理を施しても良い。また、熱処理の時間は、熱処理温度等に応じて適宜設定できるが、通常は1~15秒間程度とすることが好ましい。
【0102】
熱処理方法としては、特に限定されず、例えば熱風を吹き付ける方法、赤外線を照射する方法、マイクロ波を照射する方法等を採用することができる。これらの中でも、均一に精度良く加熱することができるという見地より、熱風を吹き付ける方法が好ましい。例えば、延伸機の熱固定ゾーンを走行するフィルムに上記温度範囲に設定された熱風を吹き付けることによって熱固定処理を行うことができる。
【0103】
コーティング工程
コーティング工程では、前記の未延伸シート、MD延伸フィルム、TD延伸フィルム又は二軸延伸フィルムのいずれか一方の表面上に、ポリウレタン樹脂及び有機滑剤を含む水系塗工液を塗布する。
【0104】
水系塗工液の調製方法としては、ポリウレタン樹脂及び有機滑剤を水系媒体に溶解又は分散させることによって実施することができる。水系塗工液を用いることによって、所望の本発明フィルムが効率的に得られるほか、作業性、環境面等の点においても有利となる。
【0105】
本発明において、水系媒体とは、水又は水を主成分とする混合溶媒(通常は水が50質量%以上の液体)である。前記混合溶媒としては、水と水溶性有機溶剤との混合溶媒を用いることができる。水溶性有機溶剤としては、限定的ではなく、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)等のケトン類等が例示される。水溶性有機溶剤は、1種又は2種以上で用いることができる。水溶性有機溶剤を混合させることによって、ポリアミドフィルムへの塗れ性を高めたり、乾燥工程を短縮させる等の効果を得ることができる。この点において、ポリウレタン樹脂等のほか、架橋剤等の添加剤を使用する場合も、これら添加剤は水系(水溶液又は水分散体(エマルション))であることが好ましい。
【0106】
水系塗工液の調製に際し、ポリウレタン樹脂、有機滑剤、水系媒体等の各成分の混合順序も限定されず、例えば予め調製されたポリウレタン樹脂の水分散液又は水溶液に有機滑剤を添加する方法によって好適に水系塗工液を調製することができる。以下、この方法を代表例として説明する。
【0107】
水系塗工液に用いるポリウレタン樹脂としては、特に限定されないが、前記で示したように、アニオン性官能基が導入されたポリウレタン樹脂(アニオン型ポリウレタン樹脂)を用いることが好ましい。アニオン型ポリウレタン樹脂を用いることによって、より均一かつ安定的に水に分散させることができる。このように、本発明では、ポリウレタン樹脂は、水分散液の形態で用いて塗工液を調製することが好ましい。
【0108】
さらに、アニオン型ポリウレタン樹脂を水系媒体に分散させる際には、一般的に揮発性塩基を用いることが好ましい。揮発性塩基は、特に限定的でなく、公知のものを使用することができる。より具体的には、アンモニア、メチルアミン、エチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モルホリン、エタノールアミン等が例示される。この中でも、トリエチルアミンは、水分散性ポリウレタン樹脂の液安定性が良好であり、さらに沸点が比較的低温であることからプライマー層への残留量が少ないという点でより好ましい。
【0109】
このようなポリウレタン樹脂の水分散液そのものは、公知又は市販のものを使用することができる。市販品としては、例えばアニオン型水分散性ポリウレタン樹脂として、三井化学ポリウレタン社製の「タケラックW-5030」、「タケラックWS-4000」、「タケラックWS-4022」、DIC社製の「ハイドランAP40F」等を用いることができる。
【0110】
次に、ポリウレタン樹脂の水分散液に有機滑剤を添加・混合する。有機滑剤の種類、添加量等は、前記で示したものと同様にすれば良い。この場合、有機滑剤の形態は、溶媒(水又は溶剤)に分散させたものを用いても良いし、単体(粉末)で用いても構わない。特に、本発明では、有機滑剤を溶媒に分散させてなる分散液(例えば水分散液)の形態で用いることが好ましい。従って、水系塗工液が、ポリウレタン樹脂の分散液と、有機滑剤の分散液との混合液であることが望ましい。
【0111】
この場合の分散液中における有機滑剤の粒子径は、特に限定されないが、通常は0.010μm~0.500μm程度であることが好ましく、特に0.010μm~0.400μmであることがより好ましく、さらに0.010μm~0.200μmであることが特に好ましく、その中でも0.010μm~0.100μmであることが最も好ましい。粒子径0.010μmよりも小さい場合はポリウレタン樹脂層に非常に細かく分散するため、印刷適性は向上するものの、動摩擦係数を低下させる効果が小さくなる。それに対して、粒子径0.500μmを超える場合は動摩擦係数を低下させる効果を得ることはできるものの、有機滑剤が凝集しやすくなるため、印刷適性が低下する。
【0112】
前記分散液中の有機滑剤の粒子径は、レーザー回折式粒子径分布測定装置(製品名「マスターサイザー3000」MalVern Instruments LTD製)を用い、Mie理論に基づくレーザー回折/散乱法(分散媒:水)により得られるメディアン径を示す。この場合、分散媒(水)の屈折率は1.330とした。また、有機滑剤の屈折率にはポリエチレンワックスは1.500、シリコンーアクリル共重合体は1.59、シリコンーウレタン共重合体は1.49、脂肪酸アマイドは1.46とした。
【0113】
ポリウレタン樹脂と有機滑剤との混合は、有機滑剤が均一に分散させることができる限り、特に限定されず、公知又は市販のミキサー、ニーダー等の混合装置を用いて実施することができる。特に、本発明では、加熱を適宜行えることができ、撹拌機を備えた溶解釜等を用いて好適に実施することができる。混合温度は、特に限定されず、例えば5~40℃程度とすることができる。
【0114】
水系塗工液中には、ポリウレタン樹脂及び有機滑剤のほか、本発明の効果を損なわない範囲内で他の成分が含まれていても良い。例えば、前記で例示した各種の添加剤を配合することができる。
【0115】
上記添加剤として、本発明では、ポリアミドフィルムへの塗工性向上の目的で界面活性剤を加えることができる。界面活性剤としては、特に限定されないが、例えばポリエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン-脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、脂肪酸金属石鹸、アルキル硫酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩等のアニオン型界面活性剤のほか、アセチレングリコール等のノニオン型界面活性剤を挙げることができる。
【0116】
界面活性剤の含有量は、特に限定されないが、一般的には水系塗工液中0.01~1質量%含まれていることが好ましい。また、ポリアミド系積層フィルムの製造工程における熱処理で揮発するものであることが好ましい。
【0117】
水系塗工液の固形分濃度は、例えば用いる塗工装置、乾燥・熱処理装置の仕様等によって適宜調整することができる。ただし、あまりに希薄なコート液は、乾燥工程において、長時間を要するという問題、乾燥後のコート厚みが薄くなりすぎるため、均一なコーティングを形成することができず、欠点発生のリスクが上昇するという問題が生じやすい。一方、濃度が高すぎる水系塗工液は、塗布面が均一になりにくく、塗工性に問題を生じやすい。従って、このような観点から水系塗工液の固形分濃度は、一般的には5~70質量%程度とすることが好ましい。
【0118】
水系塗工液をポリアミドフィルムに塗布する方法は、特に限定されず、公知の方法を適宜採用することができる。例えば、グラビアロールコート法、リバースロールコート法、ワイヤーバーコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ドクターナイフ法、ダイコート法、ディップコート法、バーコーティング法等のほか、これらを組み合わせた方法も採用することができる。
【0119】
塗布後の乾燥工程は、特に限定されず、例えばオーブン等の乾燥雰囲気下での乾燥処理、熱ロールと接触させることによる乾燥処理、延伸機内での乾燥処理等のように、公知の方法を用いて乾燥させることができる。乾燥温度は、限定的ではないが、通常は30~200℃程度の範囲内で設定することができる。乾燥時間は、乾燥温度等により適宜設定できるが、一般的には0.5~60秒の範囲内とすれば良い。
【0120】
水系塗工液を塗布するタイミングは、前記の未延伸シート、MD延伸フィルム、TD延伸フィルム又は二軸延伸フィルムのいずれか一方の表面上に水系塗工液を塗布できれば良い。すなわち、インラインコート法、ポストコート法(オフラインコート法)等のいずれの方法も採用することができる。
【0121】
特に、本発明では、インラインコート法を採用することにより、オフラインコート法よりも膜厚を薄く、かつ、均一することができ、生産性も向上するため、低コストで高品質な製品を製造することが可能となる。特に、インラインコート法を採用する場合は、滑り性及び印刷適性をともに高めることができる。その理由は定かではないが、インラインコート法で延伸と同時に熱処理を行うことによってポリウレタン樹脂の分子鎖が配向したり、架橋反応あるいは有機滑剤のブリードアウトが促進されることにより滑り性と印刷適性がより優れたものとなると考えられる。特に、有機滑剤が延伸フィルム表面にブリードアウトすることで延伸フィルム表面に有機滑剤を偏在させることが可能となり、比較的少量の有機滑剤でも延伸フィルムを滑りやすい性質に改質できると推察される。
【0122】
インラインコート法としては、水系塗工液による塗膜形成とフィルムの延伸とを実質的に同時に実施できる限り、特に限定されず、例えばa)未延伸シートに水系塗工液を塗布した後、逐次又は同時二軸延伸する方法、b)MD延伸された一軸延伸フィルムに水系塗工液を塗布した後、TD延伸する方法、c)TD延伸された一軸延伸フィルムに水系塗工液を塗布した後、MD延伸する方法等が挙げられる。これに対し、ポストコート法は、二軸延伸された後のフィルムに水系塗工液による塗膜を形成する方法である。
【0123】
同時二軸延伸する場合の好ましいインラインコート法の実施形態としては、ポリアミド樹脂をシート状に成形して、未延伸ポリアミドシートを得るシート成形工程の後に水系塗工液を塗布する工程を含む方法である。水系塗工液が塗布された未延伸ポリアミドシートは、乾燥工程にて50~220℃、好ましく80℃~180℃、より好ましくは120℃~160℃で乾燥された後、延伸温度215℃以下(好ましくは190~215℃)、MD及びTD方向ともに2.5~3.8倍の延伸倍率の条件で同時二軸延伸することが好ましい。未延伸ポリアミドシートを同時二軸延伸する方法は、公知の延伸方法で行うことが可能である。その中でも生産性等の経済性の観点からテンター式同時二軸延伸又はLisim同時二軸延伸法で行うことが好ましい。
【0124】
逐次二軸延伸する場合の好ましいインラインコート法の実施形態としては、以下の工程を含む方法が挙げられる。ポリアミド樹脂をシート状に成形して、未延伸シートを得るシート成形工程の後に、未延伸シートを延伸温度40~80℃(好ましくは50~65℃)の条件でシートの流れ方向に2.5~3.5倍に延伸(MD延伸)し、次いで一軸延伸ポリアミドフィルムに水系塗工液を塗布する。水系塗工液が塗布された一軸延伸フィルムは、乾燥工程を兼ねて、予熱・延伸温度を50~220℃(好ましくは60~130℃)の条件で幅方向に2.5~3.5倍に延伸(TD延伸)する延伸工程によって、本発明フィルムを製造することができる。逐次二軸延伸する際には、ロール延伸法とテンター式延伸法とを併用して行うことが好ましい。より具体的にはロール延伸法でMD延伸を実施し、テンター式延伸法でTD延伸を行うことにより好適に逐次二軸延伸を実施することができる。
【0125】
その他の工程
各層を積層する方法としては、特に限定されず、例えばa)塗工液による塗膜を形成する方法、b)予め成形されたフィルムを積層する方法、c)PVD法、CVD法等により蒸着膜を形成する方法等のいずれも採用することができる。また、前記b)の場合は、接着剤を介して積層する方法、同時押出成形により積層する方法等のいずれも採用することができる。特に、本発明フィルムをリチウムイオン二次電池等の電池の外装材に用いる場合は、公知の外装材の製造方法を採用することもできる。この場合は、公知の接着剤を使用して積層することも可能である。
【0126】
例えば、バリア層と積層する場合は、ウレタン樹脂層/ポリアミドフィルムを含む積層体あるいはウレタン樹脂層/ポリアミドフィルム/ウレタン樹脂層を含む積層体と、バリア層形成用の金属箔等とを2液タイプのウレタン系接着剤等を介してドライラミネート、熱ラミネート等の方法を採用することが可能である。
【0127】
また、バリア層と熱融着層とを接合する方法としては、公知の方法(ドライラミネート、熱ラミネート、押出しラミネート、サンドイッチラミネート法等)を用いることができる。
【0128】
上記接着剤の層が形成されるポリアミドフィルム、バリア層、熱融着層の表面には、本発明の効果を損なわない限りにおいて、必要に応じてアンカーコート層、プライマー層、印刷層、クリア層等を設けても良い。
【0129】
3.ポリアミド系積層フィルムの使用
本発明フィルム(又は積層体)は、各種の用途に用いることができるが、特に包装材として好適に用いることができる。すなわち、内容物を包装するための包装材として利用することができる。内容物は限定的でなく、例えば飲食品、電子部品、化成品、化粧品、医療品(医療機器)等の内容物を包装することができる。
【0130】
包装材として用いる場合の形態も特に限定されず、例えば包装用袋又包装用容器として使用できる。包装用袋としては、例えばピロー袋、ガゼット袋、スタンド袋等の各種の袋体として用いることができる。袋体の成形方法も、公知の方法に従って実施すれば良い。
【0131】
さらに、本発明は、上記のような包装材又は包装用袋によって内容物が包装されてなる製品(包装製品)も包含する。この場合の包装状態としては、例えば包装材又は包装用袋によって内容物が外部から密封された状態等を挙げることができる。
【実施例
【0132】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。なお、以下に記載の重量又は濃度に関する「%」は「質量%」を示す。
【0133】
1.使用材料について
(1)ポリウレタン樹脂
ポリウレタン樹脂としては、以下のポリウレタン水分散体(a)~(d)を用いた。
(a)製品名「ハイドランAP40F」(DIC社製、ガラス転移温度55℃、固形分濃度25%)
(b)製品名「タケラックW-5030」(三井化学社製、ガラス転移温度85℃、固形分濃度30%)
(c)製品名「タケラックWS-4022」(三井化学社製、ガラス転移温度115℃、固形分濃度30%)
(d)製品名「ハイドランAP-201」(DIC社製、ガラス転移温度7℃、固形分濃度25%)
【0134】
(2)有機滑剤
有機滑剤としては、下記の(a)~(g)を用いた。いずれも分散液の形態である。
(a)製品名「AQUACER517」(BYK社製、ポリエチレンワックス、固形分濃度35%、粒子径0.150μm、融点120℃)
(b)製品名「ハイテックE6400」(東邦化学工業社製、ポリエチレンワックス、固形分濃度35%、粒子径0.050μm、融点120℃)
(c)製品名「シャリーヌE E-370」(日信化学工業社製、シリコン-アクリル共重合体、固形分濃度50%、粒子径0.450μm)
(d)製品名「サイマックUS-450」(東亜合成社製、シリコン-アクリル共重合体、固形分濃度30%、粒子径0.350μm)
(e)製品名「シャリーヌE RU-911」(日信化学工業社製、シリコン-ウレタン共重合体、固形分濃度40%、粒子径0.330μm)
(f)製品名「アルフローH-50ES」(日油社製、脂肪酸アマイド、固形分濃度42%、粒子径0.450μm、融点113℃、147℃)
(g)製品名「スリパックスE SA-20」(三菱ケミカル社製、脂肪酸アマイド、固形分濃度22%、粒子径0.460μm、融点113℃、147℃)
【0135】
(3)その他の添加剤
その他の添加剤としては、下記の(a)~(b)を用いた。
(a)製品名「アエロジル200」(日本アエロジル社製、シリカ粒子、一次粒子径12nm)
(b)製品名「MX100W」(日本触媒社製、アクリル粒子、平均粒子径150nm)
【0136】
2.実施例及び比較例について
実施例1
(1)塗工液の調製
固形分濃度が9質量%となるように、水にポリウレタン水分散体「ハイドランAP40F」と有機滑剤「AQUACER515」をこの順番で混合し、攪拌することにより水系塗工液Aを得た。なお、前記「ハイドランAP40F」と「AQUACER515」は、固形分質量比がハイドランAP40F/AQUACER515=100/20となるように計量した。
(2)ポリアミド系積層フィルムの製造(逐次二軸延伸)
Tダイを備えた押出機を使用し、Tダイよりナイロン6(ユニチカ社製、A1030BRF、相対粘度3.1)をシート状に押出し、表面温度18℃に調節されたキャスティングロール上に密着させて急冷し、未延伸シートを得た。
次いで、この未延伸シートを予熱温度58℃、延伸温度61℃に加熱した延伸用ロールに通過させることにより、MD方向へ延伸倍率2.85倍となるように延伸してMD延伸フィルムを得た。続いて、固形分濃度9質量%の水系塗工液Aを乾燥延伸後の厚みが0.10μmになるようにMD延伸フィルムに塗布した後、予熱温度80℃、延伸温度120℃の条件でTD方向へ3.20倍の延伸倍率で延伸した。さらに、熱処理温度210℃、熱処理時間3秒の条件で熱処理を施した後、TD方向に3%の弛緩処理を施した。
得られた積層フィルムのポリアミドフィルム面にコロナ処理を施し、0.10μm厚みのポリウレタン樹脂層が積層されたポリアミド系積層フィルム(厚み15μm)を得た。
(3)積層体の作製
得られたポリアミド系積層フィルムの前記コロナ処理面に、二液型ポリウレタン系接着剤(東洋モートン社製、TM-K55/CAT-10L)を塗布量5g/mとなるように塗布し、80℃で10秒間乾燥した。その接着剤塗布面に、アルミニウム箔(厚み50μm)を貼り合せた。
次に、アルミニウム箔面に上記接着剤を同じ条件で塗布・乾燥し、熱融着層として未延伸ポリプロピレンフィルム(三井化学東セロ社製、GHC、厚み50μm)を貼り合わせ、60℃の雰囲気下で7日間エージング処理を実施し、「ポリウレタン樹脂層/ポリアミドフィルム/接着剤層/アルミニウム箔/熱融着層」の順に積層された積層体を得た。
【0137】
実施例2,5~17及び比較例1~2,4,7
表1に示す条件としたほかは、実施例1と同様にしてポリアミド系積層フィルムを作製した。塗工液は、ポリウレタン水分散体及び有機滑剤の種類及び配合比を表1記載の通りに変更した以外は実施例1と同様にして調製した。なお、有機滑剤を2種類添加する塗工液における当該有機滑剤の添加順序は、限定されず、任意に選択することができる。さらに、得られたポリアミド系積層フィルムを用いて実施例1と同様にして積層体を作製した。
【0138】
実施例3
延伸方法を下記のように変更した以外は実施例1と同様にしてポリアミド系積層フィルムを作製した。
Tダイを備えた押出機を使用し、Tダイよりナイロン6(ユニチカ社製、A1030BRF、相対粘度3.1)をシート状に押出し、表面温度18℃に調節されたキャスティングロール上に密着させて急冷し、未延伸シートを得た。
次いで、この未延伸シートにグラビアコーターを用いて固形分濃度9質量%の水系塗工液Bを乾燥延伸後の厚みが0.10μmになるように塗布し熱風乾燥機にて乾燥した後、パンタグラフ方式テンター同時二軸延伸機に導き、予熱延伸温度200℃の条件でMD方向へ3.0倍、TD方向へ3.3倍の延伸倍率で同時二軸延伸した。さらに熱処理温度215℃、熱処理時間3秒の条件で熱処理を施した後、TD方向に3%の弛緩処理を施した。
得られた積層フィルムのポリアミドフィルム面にコロナ処理を施し、0.10μm厚みのポリウレタン樹脂層が積層した厚み15μmのポリアミド系積層フィルムを得た。さらに、得られたポリアミド系積層フィルムを用いて実施例1と同様にして積層体を作製した。
【0139】
実施例4
同時二軸延伸機をパンタグラフ方式テンターからリニアモーター方式テンターに変更し、MD方向にも1%の弛緩処理を施した以外は実施例3と同様にしてポリアミド系積層フィルムを得た。さらに、得られたポリアミド系積層フィルムを用いて実施例1と同様にして積層体を作製した。
【0140】
比較例3
水系塗工液にシリカをポリウレタン水分散体の固形分100質量%に対して2.0質量%含有させた以外は実施例1と同様にしてポリアミド系積層フィルムを作製した。さらに、得られたポリアミド系積層フィルムを用いて実施例1と同様にして積層体を作製した。
【0141】
比較例5
水系塗工液の塗布工程を延伸工程中から延伸後に変更した以外は実施例1と同様にしてポリアミド系積層フィルムを得た。塗布工程は延伸後のポリアミドフィルムをグラビアコーターに導きコート厚みが0.5μmとなるように水系塗工液Rを塗布し、5つゾーンからなる乾燥炉<ゾーン1(80℃)→ゾーン2(100℃)→ゾーン3(120℃)→ゾーン4(110℃)→ゾーン5(80℃)>を通過させて乾燥することでポリアミド系積層フィルムを得た。さらに、得られたポリアミド系積層フィルムを用いて実施例1と同様にして積層体を作製した。
【0142】
比較例6
水系塗工液にアクリル粒子をポリウレタン水分散体の固形分100質量%に対して2.0質量%含有させた以外は実施例1と同様にしてポリアミド系積層フィルムを作製した。さらに、得られたポリアミド系積層フィルムを用いて実施例1と同様にして積層体を作製した。
【0143】
【表1】
【0144】
試験例1
各実施例及び比較例で得られたポリアミド系積層フィルム又は積層体について下記の特性をそれぞれ測定した。その結果を表2に示す。
【0145】
(1)動摩擦係数
本発明におけるポリウレタン樹脂層表面の動摩擦係数は、日本産業規格「JIS K7125」に従って測定した。測定装置は、エー・アンド・デイ社製卓上型材料試験機「STB-1225S」、データ処理システム「TACT」を用い、測定環境は23℃×50%RH及び20℃×90%RHとした。具体的には、ポリアミド系積層フィルムのサンプルを23℃×50%RH又は20℃×90%RHで2時間調湿した後、上記と同じ温度及び湿度下でポリアミド系積層フィルムのポリウレタン樹脂層同士を重ね合わせて測定を実施した。本発明フィルムを最外層として含む積層体の場合においても、その最外層となるポリウレタン樹脂層表面を測定面とし、上記同様に測定を行った。実用的には、動摩擦係数は23℃×50%RHでは0.30以下、20℃×90%RHでは0.40以下が求められる。なお、測定はn=5で実施し、その平均値を測定値とした。
【0146】
(2)算術平均高さ(Ra)
本発明における算術平均高さ測定(Ra)は、(株)小坂研究所,接触式表面粗さ測定機 「Surfcorder SE500A」を用いて日本産業規格「JIS B 0601」に準拠した。具体的には、ポリアミド系積層フィルムのサンプルを23℃×50%RHで2時間調湿した後、上記と同じ温度及び湿度下でポリウレタン樹脂層表面の測定を実施した。本発明フィルムを最外層として含む積層体の場合は、その最外層となるポリウレタン樹脂層表面を測定面とした。なお、測定はn=5で実施し、その平均値を測定値とした。
【0147】
(3)接触角
接触角は、KRUSS社製自動接触角計,型式DSA30Sにて水を用いて測定した。具体的には、ポリアミド系積層フィルムのサンプルを23℃×50%RHで2時間調湿した後、上記と同じ温度及び湿度下で測定を実施した。なお、測定はn=5で実施し、その平均値を測定値とした。
【0148】
(4)印刷適性(版からのインキ転移性)
本発明における印刷適性は、ポリアミド系積層フィルムのサンプルを23℃×50%RHで2時間調湿した後、同温湿度条件下で測定を実施した。ポリアミド系積層フィルムのポリウレタン樹脂層にグラビア印刷法を用いて1cm×1cm内のドット模様が100点となるように印刷し、1cm×1cm内のドット模様の欠点数を数え、3ヶ所の平均値を算出して印刷適性を評価した。なお、インキとして、市販インキ(リオアルファR39藍,東洋インキ社製)を使用した。印刷適性については、実用的には、ドット模様の欠点数が7.0以下であることが好ましく、特に3.5以下であることがより好ましく、その中でも1.0以下であることが最も好ましい。
【0149】
(5)積層体の成形性(エリクセン試験)
日本産業規格「JIS Z 2247」に基づいて、エリクセン試験機(安田精機製作所社製No.5755)を用い、23℃×50%RHで2時間調湿した積層体のサンプルを上記と同じ温度及び湿度下で測定を実施した。積層体のサンプルのポリウレタン樹脂層面に鋼球ポンチを所定の押し込み深さで押し付け、エリクセン値を求め、下記評価基準で成形性を評価した。エリクセン値は0.5mmごとに測定した。実用的には、エリクセン値が5.0mm以上であることが好ましく、特に8.0mm以上がより好ましく、その中でも9.0mm以上が最も好ましい。なお、測定はn=5で実施し、その平均値を測定値とした。
【0150】
【表2】
【0151】
表2の結果からも明らかなように、各実施例のポリアミド系積層フィルムは、20℃×90%RH環境下でのポリウレタン樹脂層表面の動摩擦係数が小さく、良好な印刷適性及び成形性を兼ね備えていることがわかる。
比較例1~3に記載のポリアミド系積層フィルムはポリウレタン水分散体のガラス転移温度が50℃未満であったため、ポリウレタン樹脂層表面の動摩擦係数が大きくなっていた。また、比較例4に記載のポリアミド系積層フィルムは有機滑剤を含有していなかったため、比較例5はポストコート方式を採用したため、十分な滑り性が得られなかった。比較例6はアクリル粒子を添加することでポリウレタン樹脂層表面の動摩擦係数は小さかったが、算術平均高さRaが本発明で規定する範囲を超え、印刷適性及び成形性が劣っていた。比較例7はガラス転移温度が50℃以上であるものの、有機滑剤が添加されていないためポリウレタン樹脂層表面の動摩擦係数が高くなっていた。
図1
図2