(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】癌を処置する方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4184 20060101AFI20241008BHJP
A61K 31/4706 20060101ALI20241008BHJP
A61K 31/473 20060101ALI20241008BHJP
A61K 31/192 20060101ALI20241008BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241008BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20241008BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241008BHJP
A61K 31/4188 20060101ALI20241008BHJP
A61K 31/44 20060101ALI20241008BHJP
A61K 31/704 20060101ALI20241008BHJP
A61K 31/7068 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
A61K31/4184
A61K31/4706
A61K31/473
A61K31/192
A61P35/00
A61P35/02
A61P43/00 121
A61K31/4188
A61K31/44
A61K31/704
A61K31/7068
(21)【出願番号】P 2022523392
(86)(22)【出願日】2020-10-20
(86)【国際出願番号】 CN2020122269
(87)【国際公開番号】W WO2021078126
(87)【国際公開日】2021-04-29
【審査請求日】2022-06-03
(32)【優先日】2019-10-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-10-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】522158018
【氏名又は名称】アキュラ ナノメディスン コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】Acura Nanomedicine Corporation
【住所又は居所原語表記】3F.-1, Building A, No.179, Sec.1, Datong Rd., Xizhi Dist., New Taipei City 221, Taiwan
(74)【代理人】
【識別番号】100167689
【氏名又は名称】松本 征二
(72)【発明者】
【氏名】シュー, ハング・カン
【審査官】大島 彰公
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第104164471(CN,A)
【文献】So Jung SUNG et al.,“Autophagy Is a Potential Target for Enhancing the Anti-Angiogenic Effect of Mebendazole in Endothelial Cells”,Biomolecules & Therapeutics,2019年01月01日,Vol. 27, No. 1,p.117-125,DOI: 10.4062/biomolther.2018.222
【文献】PANTZIARKA P et al.,“Repurposing Drugs in Oncology (ReDO)-mebendazole as an anti-cancer agent.”,Ecancermedicalscience,2014年07月10日,8:443, Appendix
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K、A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗癌剤に耐性である癌を処置するための医薬組成物であって、該医薬組成物は抗寄生虫剤及びオートファジー阻害剤を含み、
前記抗寄生虫剤が、アルベンダゾール、ベンズイミダゾール、フェバンテル、フェンベンダゾール、フルベンダゾール、メベンダゾール(MBZ)、オクスフェンダゾール、オキシベンダゾール、チアベンダゾール及びトリクラベンダゾールからなる群から選択され、
前記オートファジー阻害剤が
、クロロキン(CQ)、ヒドロキシクロロキン(HCQ)
又はキナクリン
であり、
前記癌が、膵臓癌、肝臓癌及び脳腫瘍からなる群から選択され、
前記抗癌剤が、ゲムシタビン、ドキソルビシン、ソラフェニブ及びテモゾロミド(TMZ)からなる群から選択される、
医薬組成物。
【請求項2】
ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤をさらに含み、
前記HDAC阻害剤が、ベリノスタット、4-フェニル酪酸(4-PB)、ロミデプシン及びボリノスタットからなる群から選択される、
請求項
1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記癌がゲムシタビン耐性膵臓癌であり、前記抗寄生虫剤がMBZであり、前記オートファジー阻害剤がCQ又はHCQである、請求項
1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記癌が
ドキソルビシン又はソラフェニブ耐性肝臓癌であり、前記抗寄生虫剤がMBZであり、前記オートファジー阻害剤がCQ又はHCQである、請求項
1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記癌が
テモゾロミド(TMZ)耐性脳腫瘍であり、前記抗寄生虫剤がMBZであり、前記オートファジー阻害剤がCQ又はHCQである、請求項
1に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記癌がゲムシタビンに耐性である膵臓癌であり、前記抗癌剤がゲムシタビンであり、前記抗寄生虫剤がMBZ、前記オートファジー阻害剤がCQ及び前記HDAC阻害剤が4-PBである、請求項
2に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、癌の処置に関する。より具体的には、抗癌剤(例えば、化学療法剤)に非応答性又は耐性の癌の処置に関する。
【0002】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年10月21日に出願された米国仮出願第62/923,629号及び第62/923,631号に対して優先権を主張する。これらの出願は、参照によりそれらの全体がここに取り込まれる。
【背景技術】
【0003】
癌療法は、特に従来の化学療法カテゴリーでの薬物に関して、薬物耐性の急速な出現によって妨害されることが多い。例えば、膵臓癌の治療に関して、膵臓癌の20%未満が外科手術に適しており、浸潤性及び転移性の膵臓癌については、それらは化学療法及び放射線療法での既存の処置に対して応答が不十分である。したがって、全体の生存率は4%未満であり、診断後の生存期間中央値は1年未満である。この全生存利益の欠如は、薬物耐性変異体、すなわち、ゲムシタビン耐性の癌性細胞の急速な出現がもたらす結果である。
【0004】
上記を鑑み、癌療法における薬物耐性問題に対処する改善された態様のニーズが、関連技術において存在する。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、所定の薬剤が癌性細胞の生存能力を低下させ、又は癌細胞、特に薬物耐性癌細胞の抗癌剤に対する感受性を増強し得るという予想外の発見に基づく。
【0006】
したがって、本開示の第1の態様は、被検体において癌を処置する方法に向けられる。方法は、癌の生存能力を低下させるために、抗寄生虫剤及びオートファジー阻害剤の有効量を被検体に投与するステップを含む。
【0007】
本方法における使用に適した抗寄生虫剤の例は、アルベンダゾール、アンフォテリシンB、ベンズイミダゾール、ジエチルカルバマジン、エフロルニチン、フェバンテル、フェンベンダゾール、フルベンダゾール、フマギリン、イベルメクチン、メベンダゾール(MBZ)、メラルソプロール、メトロニダゾール、ミルテホシン、ネトビミン、ニクロサミド、ニタゾキサニド、オクスフェンダゾール、オキシフェンダゾール、オキシベンダゾール、プラジカンテル、ピランテルパモ酸塩、リファンピン、チアベンダゾール、チオファネート、チニダゾール及びトリクラベンダゾールを含むが、これに限定されない。
【0008】
本方法における使用に適したオートファジー阻害剤の例は、バフィロマイシンA1、ボルテゾミブ、クロロキン(CQ)、ヒドロキシクロロキン(HCQ)、3-メチルアデニン(3-MA)及びキナクリンを含むが、これに限定されない。
【0009】
本開示の実施形態によると、本方法によって処置可能な癌は、膀胱癌、乳癌、脳腫瘍、結腸癌、頭頸部癌、白血病、肺癌、肝臓癌、リンパ腫、腎臓癌、メラノーマ、神経上皮腫、卵巣癌、膵臓癌、前立腺癌、直腸癌、胃癌又は子宮癌であり得る。いくつかの実施形態では、本方法によって処置可能な癌は、膵臓癌である。他の実施形態では、本方法によって処置可能な癌は、肝臓癌である。更なる実施形態では、本方法によって処置可能な癌は、脳腫瘍である。
【0010】
本開示の実施形態によると、本開示の実施形態によると、本方法によって処置可能な癌は、ゲムシタビン、ドキソルビシン、ソラフェニブ及びテモゾロミド(TMZ)のような抗癌剤に耐性であり得る。いくつかの実施形態では、本方法によって処置可能な癌は、ゲムシタビンに耐性である。他の実施形態では、本方法によって処置可能な癌は、ソラフェニブに耐性である。
【0011】
本開示のいくつかの実施形態によると、被検体は膵臓癌を有し、癌の生存能力はMBZ及びCQの併用処置又はMBZ及びHCQの併用処置によって抑制される。
【0012】
本開示の他の実施形態によると、被検体はゲムシタビン耐性の膵臓癌を有し、癌の生存能力はMBZ及びCQの併用処置又はMBZ及びHCQの併用処置によって抑制される。
【0013】
本開示の更なる実施形態によると、被検体は肝臓癌を有し、癌の生存能力はMBZ及びCQの併用処置又はMBZ及びHCQの併用処置によって抑制される。
【0014】
本開示の更なる実施形態によると、被検体は脳癌を有し、癌の生存能力はMBZ及びCQの併用処置又はMBZ及びHCQの併用処置によって抑制される。
【0015】
本開示の第2の態様は、被検体における癌の抗癌剤に対する感受性を増強する方法に向けられる。方法は、抗癌剤の投与前、投与中又は投与後に、有効量の増感物質を被検体に投与するステップを備え、増感物質は、抗寄生虫剤、オートファジー阻害剤及びヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤からなる群から選択される少なくとも2剤を含む。
【0016】
本開示の実施形態によると、抗癌剤は、ゲムシタビン、ドキソルビシン、ソラフェニブ及びTMZからなる群から選択される。
【0017】
本開示の実施形態によると、本方法における使用に適した抗寄生虫剤は、アルベンダゾール、アンフォテリシンB、ベンズイミダゾール、ジエチルカルバマジン、エフロルニチン、フェバンテル、フルベンダゾール、フェンベンダゾール、フマギリン、イベルメクチン、メベンダゾール(MBZ)、メラルソプロール、メトロニダゾール、ミルテホシン、ネトビミン、ニクロサミド、ニタゾキサニド、オクスフェンダゾール、オキシフェンダゾール、オキシベンダゾール、プラジカンテル、ピランテルパモ酸塩、リファンピン、チアベンダゾール、チオファネート、チニダゾール及びトリクラベンダゾールのいずれかであり得る。
【0018】
本開示の実施形態によると、本方法における使用に適したオートファジー阻害剤は、バフィロマイシンA1、ボルテゾミブ、CQ、HCQ、3-MA又はキナクリンであり得る。
【0019】
本開示の実施形態によると、本方法における使用に適したHDAC阻害剤は、ベリノスタット、4-フェニル酪酸(4-PB)、ロミデプシン又はボリノスタットであり得る。
【0020】
本開示の実施形態によると、本方法によって処置可能な癌は、膀胱癌、乳癌、脳腫瘍、結腸癌、頭頸部癌、白血病、肺癌、肝臓癌、リンパ腫、腎臓癌、メラノーマ、神経上皮腫、卵巣癌、膵臓癌、前立腺癌、直腸癌、胃癌又は子宮癌であり得る。いくつかの実施形態では、本方法によって処置可能な癌は、膵臓癌である。他の実施形態では、本方法によって処置可能な癌は、肝臓癌である。更なる実施形態では、本方法によって処置可能な癌は、脳腫瘍である。
【0021】
本開示の好適な実施形態によると、癌は、抗癌剤に耐性である。
【0022】
本開示のいくつかの実施形態によると、被検体は、ゲムシタビンに耐性である膵臓癌を有し、被検体がMBZ及びCQを含む増感物質で処置されている間、処置される前又は処置された後に、癌はゲムシタビンに対して感受性がより高くなる。
【0023】
本開示の任意選択的な実施形態によると、被検体は、被検体がMBZ、CQ及び4-PBを含む増感物質で処置されている間、処置される前又は処置された後に、ゲムシタビンに対する感受性がより高くなるゲムシタビン耐性膵臓癌を有する。
【0024】
本開示のいくつかの実施形態によると、被検体は、被検体がMBZ及びCQを含む増感物質で処置されている間、処置される前又は処置された後に、ドキソルビシンに対する感受性がより高くなる肝臓癌を有する。
【0025】
本開示のいくつかの実施形態によると、被検体は、被検体がMBZ及びHCQを含む増感物質で処置されている間、処置される前又は処置された後に、ソラフェニブに対する感受性がより高くなる肝臓癌を有する。
【0026】
本開示の更なる実施形態によると、被検体は、被検体がMBZ及びCQを含む増感物質で処置されている間、処置される前又は処置された後に、TMZに対する感受性がより高くなる脳腫瘍を有する。
【0027】
本発明の1以上の実施形態の詳細を、以下の付随する説明において説明する。本発明の他の特徴及び効果が、詳細な説明から、及び特許請求の範囲から明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態による、膵臓癌BxPC-3細胞の生存能力に対するMBZ及びHCQの効果を示す棒グラフである。
【
図2A】
図2Aは、本開示の一実施形態による、膠芽腫GBM8401細胞の生存能力に対するMBZ及びCQの効果を示す棒グラフである。
【
図2B】
図2Bは、本開示の一実施形態による、膠芽腫GBM8401細胞の生存能力に対するMBZ及びCQの効果を示す棒グラフである。
【
図3】
図3は、本開示の他の実施形態による、薬物耐性膵臓癌Mia-Paca-2/R細胞の生存能力に対するMBZ及びCQの効果を示す棒グラフである。
【
図4】
図4は、本開示の一実施形態による、MBZ(5μM)及びCQ(100μM)を含む本増感物質の処置後の、ゲムシタビン(0.05μM)に対するBxPC-3細胞の細胞生存能力を示す棒グラフである。
【
図5】
図5は、本開示の一実施形態による、MBZ(5μM)及びHCQ(100μM)を含む本増感物質の処置後の、ゲムシタビン(20μM)に対する薬物耐性Mia-Paca-2/R細胞の細胞生存能力を示す棒グラフである。
【
図6】
図6は、本開示の一実施形態による、MBZ(10μM)及びCQ(50μM)を含む本増感物質の処置後の、ドキソルビシン(0.5μg/mL)に対する肝細胞癌SK-Hep-1細胞の細胞生存能力を示す棒グラフである。
【
図7】
図7は、本開示の一実施形態による、MBZ(5μM)及びHCQ(100μM)を含む本増感物質の処置後の、ソラフェニブ(5μM)に対する肝細胞癌Hep-3B細胞の細胞生存能力を示す棒グラフである。
【
図8A】
図8Aは、本開示の一実施形態による、MBZ(5μM)及びCQ(100μM)を含む本増感物質の処置後の、TMZ(200μM)に対する膠芽腫GBM8401細胞の細胞生存能力を示す棒グラフである。
【
図8B】
図8Bは、本開示の一実施形態による、MBZ(5μM)及びCQ(100μM)を含む本増感物質の処置後の、TMZ(400μM)に対する膠芽腫GBM8401細胞の細胞生存能力を示す棒グラフである。
【
図9】
図9は、本開示の一実施形態による、ゲムシタビンに対する薬物耐性Panc-1/R細胞の感受性に対するMBZ、CQ及び4-PBの効果を示す棒グラフである。
【
図10】
図10は、本開示の一実施形態による、ゲムシタビン、MBZ及びCQの組合せ並びにゲムシタビン、MBZ及びCQの組合せで独立して処置された薬物耐性膵臓癌異種移植マウスにおける腫瘍体積の変化を示す線グラフである。
【
図11】
図11は、
図10の薬物耐性膵臓癌異種移植マウスにおける腫瘍重量の変化を示す線グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
添付図面との関連で以下に与えられる詳細な説明は、本発明の説明としてのものであり、本発明が構成又は利用され得る形態のみを示すものではない。
【0030】
1.定義
便宜上、明細書、実施例及び付随する特許請求の範囲において採用される所定の用語をここにまとめる。ここで特に断りがない限り、本開示で採用される科学的及び技術的用語は、当業者に一般的に理解及び使用される意味を有するものとする。
【0031】
癌細胞に関してここで使用される用語「感受性」は、癌が抗癌剤によって影響を受ける程度をいう。癌細胞は、全く影響を受けないこともあり、死滅することなくその成長若しくは増殖を減速若しくは停止されることもあり、又は死滅することもある。感受性は、腫瘍のような癌細胞の集団が抗癌剤によって影響を受ける程度のこともいう。本増感物質、すなわち、抗寄生虫剤及びオートファジー阻害剤並びに任意選択的にヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤の組合せを用いた接触又は処置に続く抗癌剤に対する癌の「感受性の増強」は、癌細胞が、薬剤に曝露されていない対応する癌細胞よりも抗癌剤の影響をより強く受けることを示す。
【0032】
ここで使用される用語「有効量」は、被検体において抗癌剤に対して、生存能力が低下した癌又は感受性が増強した癌、特に、薬物耐性癌に関して所望の結果を達成する、投与量において及び必要な期間にわたる有効な量をいう。具体的な有効量は、処置される特定の状態、患者の体調(例えば、患者の体重、年齢又は性別)、処置される哺乳類又は動物のタイプ、処置期間、(もしあれば)同時療法の性質、及び化合物又はその誘導体の採用される具体的な製剤及び構造のような要因によって変化する。有効量は、例えば、グラム、ミリグラム若しくはマイクログラムで又は体重あたりのミリグラム(例えば、mg/kg)として、あるいは、グラム、ミリグラム若しくはマイクログラムで又は1日あたりのミリグラム(例えば、mg/day)として表現され得る。あるいは、有効量は、モル濃度、質量濃度、体積濃度、重量モル濃度、モル分率、質量分率及び混合比のような活性成分(例えば、本増感物質又は化学療法剤)の濃度で表現され得る。具体的には、ここに記載される薬物又は化合物に関連して使用される用語「有効量」は、癌の成長を抑制又は阻害するために、癌の生存能力を低下させ、又は癌の抗癌剤に対する感受性を高めるのに十分な薬物又は化合物の量をいう。当業者であれば、本開示の効果的な実施例において説明される動物モデルから決定される用量に基づいて(本開示の増感物質のような)医薬品についてのヒト等価用量(HED)を計算できるはずである。例えば、ヒト被検体での使用に対する最大安全投与量を推定する際に、米国食品医薬品局(FDA)によって発行された「Estimating the Maximum Safe Starting Dose in Initial Clinical Trials for Therapeutics in Adult Healthy Volunteers」と題された工業用ガイダンスに従うことができる。
【0033】
療法が「併用で」(又は「併用療法」を)施される場合は、2つ(又はそれ以上の)異なる処置又は薬剤が、障害(例えば、癌)による被検体の苦痛の過程で被検体に送達されることを意味し、2つ以上の処置又は薬剤は、被検体が障害と診断された後、及び障害が治癒若しくは解消され、又は他の理由で処置が中止される前に送達される。いくつかの実施形態では、ある処置の送達は、投与という観点から重複があるように、第2の送達が始まる時に依然として発生している。これをここでは、「送達中に」、「送達と共に」又は「同時に送達」ということもある。他の実施形態では、一方の処置の送達は、他方の処置の送達が始まる前に終了する。いずれの場合もいくつかの実施形態では、併用投与により、処置がより効果的となる。例えば、第2の処置は、より効果的であって、例えば、同等の効果がより少ない第2の処置で見られ、若しくは第2の処置は、第1の処置がない状態で第2の処置が投与された場合に見られるよりも症状を大幅に低下させ、又は類似の状況が第1の処置で見られる。いくつかの実施形態では、送達は、症状の低下又は障害に関連する他のパラメータが、他方の処置無しで送達された一方の処置で観察されるものよりも大きくなるものである。2つの処置又は薬剤の効果は、部分的に相加的であることもあれば、完全に相加的であることもあれば、又は相加的なものよりも大きくなることもある。送達は、送達された第1の処置又は薬剤の効果が、第2が送達されても依然として検出可能であるというものであり得る。処置の順序の決定は、処置される疾患及び被検体の状態を評価した後の、熟練した医師の知識の十分な範囲内となる。
【0034】
用語「被検体」又は「患者」は、本発明の製剤及び/又は方法で処置可能なヒト種を含む動物をいう。用語「被検体」又は「患者」は、ある性別が具体的に示されない限り、雄及び雌の両性別をいうものである。したがって、用語「被検体」又は「患者」は、本開示の製剤及び/又は方法から利益を得ることができる任意の哺乳類、好ましくはヒトを含む。
【0035】
また、文脈によってそれ以外が要求されない限り、単数形の用語はその複数形を含むものとし、複数形の語は単数形を含むものとすることが理解される。具体的には、ここで及び特許請求の範囲で使用されるように、単数形「a」及び「an」は、それ以外を文脈が明示しない限り、複数の参照を含む。また、ここで及び特許請求の範囲で使用されるように、用語「少なくとも1つ」及び「1以上」は、同じ意味を有し、1、2、3又はそれ以上を含む。
【0036】
発明の広い範囲を説明する数値範囲及びパラメータは概数であるものの、具体的な実施例で説明される数値は可能な限り厳密に報告される。ただし、いずれの数値も、それぞれの試験測定値に見られる標準偏差から必然的にもたらされる所定の誤差を本来的に含む。また、ここで使用されるように、用語「約」は、所与の値又は範囲の10%、5%、1%又は0.5%内を一般に意味する。あるいは、用語「約」は、当業者によって考慮される場合の平均の許容標準誤差内を意味する。有効な/効果的な実施例以外においても、明示の断りがない限り、ここに開示されるその材料の量、継続時間、温度、動作条件、量の比率などに対するものなどの数値範囲、量、値及び割合の全ては、いずれの場合においても用語「約」によって修飾されるものとして理解されるべきである。したがって、逆のことが示されない限り、本開示及び添付の特許請求の範囲で説明される数値パラメータは、所望のように変化し得る概数である。少なくとも、各数値パラメータは、報告される有効数字の数を考慮してかつ通常の四捨五入手段を適用して少なくとも解釈されるべきである。
【0037】
2.癌を処置する方法
本発明は、化合物の所定の組合せが癌性細胞の生存能力を低下させることがあり、したがって癌の処置に有用であるという発見に、少なくともある程度基づく。本開示の一態様は、被検体における癌を処置する方法を提供することにある。本方法は、癌の生存能力を低下させるために、抗寄生虫剤及びオートファジー阻害剤の有効量を被検体に投与するステップを含む。
【0038】
本方法における使用に適した抗寄生虫剤の例は、アルベンダゾール、アンフォテリシンB、ベンズイミダゾール、ジエチルカルバマジン、エフロルニチン、フェバンテル、フェンベンダゾール、フルベンダゾール、フマギリン、イベルメクチン、メベンダゾール(MBZ)、メラルソプロール、メトロニダゾール、ミルテホシン、ネトビミン、ニクロサミド、ニタゾキサニド、オクスフェンダゾール、オキシフェンダゾール、オキシベンダゾール、プラジカンテル、ピランテルパモ酸塩、リファンピン、チアベンダゾール、チオファネート、チニダゾール及びトリクラベンダゾールを含むが、これに限定されない。
【0039】
本方法における使用に適したオートファジー阻害剤の例は、バフィロマイシンA1、ボルテゾミブ、クロロキン(CQ)、ヒドロキシクロロキン(HCQ)、3-メチルアデニン(3-MA)及びキナクリンを含むが、これに限定されない。
【0040】
本開示の実施形態によると、本方法によって処置可能な癌は、膀胱癌、乳癌、脳腫瘍、結腸癌、頭頸部癌、白血病、肺癌、肝臓癌、リンパ腫、腎臓癌、メラノーマ、神経上皮腫、卵巣癌、膵臓癌、前立腺癌、直腸癌、胃癌又は子宮癌であり得る。いくつかの実施形態では、本方法によって処置可能な癌は、膵臓癌である。他の実施形態では、本方法によって処置可能な癌は、肝臓癌である。更なる実施形態では、本方法によって処置可能な癌は、脳腫瘍である。
【0041】
本開示の実施形態によると、本方法によって処置可能な癌は、抗癌剤に耐性であり得る。抗癌剤の非限定的な例は、ゲムシタビン、ドキソルビシン、ソラフェニブ及びテモゾロミド(TMZ)を含む。いくつかの実施形態では、癌は、ゲムシタビンに耐性である。他の実施形態では、癌は、ソラフェニブに耐性である。
【0042】
本開示のいくつかの実施形態によると、被検体は膵臓癌を有し、膵臓癌の生存能力はMBZ及びCQの併用処置又はMBZ及びHCQの併用処置によって低下する。
【0043】
本開示の他の実施形態によると、被検体はゲムシタビン耐性の膵臓癌を有し、ゲムシタビン耐性の膵臓癌の生存能力はMBZ及びCQの併用処置又はMBZ及びHCQの併用処置によって低下する。
【0044】
本開示の更なる実施形態によると、被検体は肝臓癌を有し、肝臓癌の生存能力はMBZ及びCQの併用処置又はMBZ及びHCQの併用処置によって低下する。
【0045】
本開示の更なる実施形態によると、被検体は脳癌を有し、脳癌の生存能力はMBZ及びCQの併用処置又はMBZ及びHCQの併用処置によって低下する。
【0046】
3.抗がん剤に対する癌の感受性を増強する方法
本発明は、化合物の所定の組合せが、癌、特に薬物耐性癌の抗癌剤(例えば、化学療法)に対する感受性を増強し得るという発見に少なくともある程度基づく。したがって、本発明は、薬物耐性癌が処置されることを可能とするだけでなく、抗癌剤によって処置され得る癌に対してより低用量の抗癌剤が使用されることを可能とする。
【0047】
したがって、本開示の第2の態様は、被検体における癌の抗癌剤に対する感受性を増強する方法を提供することにある。
【0048】
抗癌剤(例えば、化学療法剤)に対して応答できない(又は耐性である)癌の処置において、増感物質は、抗癌剤が被検体に投与される前に、投与されるのと同時に又は投与された後に投与される。
【0049】
本開示の実施形態によると、増感物質は、抗寄生虫剤、オートファジー阻害剤及びヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤からなる群から選択される少なくとも2剤からなる。
【0050】
本発明における使用に適した例示的な抗寄生虫剤は、アルベンダゾール、アンフォテリシンB、ベンズイミダゾール、ジエチルカルバマジン、エフロルニチン、フェバンテル、フェンベンダゾール、フルベンダゾール、フマギリン、イベルメクチン、メベンダゾール(MBZ)、メラルソプロール、メトロニダゾール、ミルテホシン、ネトビミン、ニクロサミド、ニタゾキサニド、オクスフェンダゾール、オキシフェンダゾール、オキシベンダゾール、プラジカンテル、ピランテルパモ酸塩、リファンピン、チアベンダゾール、チオファネート、チニダゾール及びトリクラベンダゾールを含むが、これに限定されない。
【0051】
本発明における使用に適した例示的なオートファジー阻害剤は、バフィロマイシンA1、ボルテゾミブ、CQ、HCQ、3-MA及びキナクリンを含むが、これに限定されない。
【0052】
本発明における使用に適した例示的なHDAC阻害剤は、ベリノスタット、4-フェニル酪酸(4-PB)、ロミデプシン及びボリノスタットを含むが、これに限定されない。
【0053】
いくつかの実施形態では、増感物質は、抗寄生虫剤(例えば、MBZ)及びオートファジー阻害剤からなる。
【0054】
他の実施形態では、増感物質は、抗寄生虫剤(例えば、MBZ)、オートファジー阻害剤(例えば、CQ)及びHDAC阻害剤(例えば、4-PB)からなる。
【0055】
本開示の実施形態によると、癌は、ゲムシタビン、ドキソルビシン、ソラフェニブ及びテモゾロミド(TMZ)のいずれかであり得る抗癌剤(例えば、化学療法剤)に非応答性又は耐性である。本開示の好適な実施形態によると、癌は、ゲムシタビンに非応答性又は耐性である。
【0056】
本方法によって処置され得る例示的な癌は、膀胱癌、乳癌、脳腫瘍、結腸癌、頭頸部癌、白血病、肺癌、肝臓癌、リンパ腫、腎臓癌、メラノーマ、神経上皮腫、卵巣癌、膵臓癌、前立腺癌、直腸癌、胃癌又は子宮癌を含むが、これに限定されない。いくつかの実施形態では、癌は、膵臓癌である。更なる実施形態では、膵臓癌は、ゲムシタビンに耐性である。
【0057】
所定の実施形態では、被検体は、膵臓癌を有し、ゲムシタビンの処置に対して非応答性又は耐性であり、したがって、MBZ及びCQを含む増感物質をゲムシタビンと共に被検体に投与してゲムシタビンに対する癌の感受性を増強する。任意選択的又は代替的に、MBZ、CQ及び4-PBを含む増感物質をゲムシタビンと共に被検体に投与してゲムシタビンに対する癌の感受性を増強する。
【0058】
当業者は、ここに記載された増感物質が任意の適切な態様において投与され得ることを認識するはずである。例えば、投与は、静脈内若しくは皮下のような非経口、経口、経皮、鼻腔内、吸入によって又は直腸的であり得る。いくつかの好適な実施形態では、増感物質は経口投与される。他の好適な実施形態では、増感物質は注入によって投与される。
【0059】
本発明の文脈において、被検体、特にヒトに投与される増感物質の用量は、妥当な時間枠にわたって被検体において療法応答(例えば、癌の成長の抑制若しくは阻害及び/又は癌のサイズの縮小)をもたらすのに十分となるべきである。当業者は、適切な投与量が、患者の年齢、性別、状態及び体重並びに疾患のステージ/重症度を含む様々な要因に依存することを認識するはずである。用量は、投与の経路、タイミング及び頻度によっても決定される。経口投与の場合、増感物質の投与量は、1日あたり、化合物(例えば、抗寄生虫剤、HDAC阻害剤、オートファジー阻害剤及び/又はそれらの組合せ)の約0.01mgから約10gまで、好ましくは約1mgから約8gまで、好ましくは約10mgから約5gまで、より好ましくは約10mgから約2gまで、より好ましくは約100mgから約1gまで変化し得る。担当臨床医は、投与された投与量で処置が有効であるか否かの判断において、被検体の全体的な健康及び疾患関連症状の緩和、腫瘍成長の阻害、腫瘍の実際の縮小又は転移の抑制のような、より明確な兆候を考慮するはずである。腫瘍のサイズを、放射線検査のような標準的な方法、例えば、CAT又はMRIスキャンによって測定してもよく、腫瘍の成長が停滞し、又は逆転したか否かを、連続測定を使用して判断してもよい。疼痛のような疾患関連症状の緩和及び全体的な状態の改善も、処置の有効性の判断を支援するように使用され得る。
【0060】
代替的に又は任意選択的に、ここに記載される方法は、外科手術、放射線、凍結外科手術及び/又は温熱療法を含む他の既知の治療とさらに併用して使用されてもよい。2つの処置の効果は、部分的に相加的、完全に相加的又は相加的よりも大きくなり得る。そのような併用療法は、投与される薬剤及び/又は他の化学療法剤のより低い投与量を有利に使用してもよく、したがって、併用療法に関連する潜在的な毒性又は合併症を回避し得る。用語「放射線」は、放射線場が治療される組織の体積に適合するように設計される3次元原体放射線療法を含む体外ビーム療法、超音波ガイダンスを使用して放射性化合物のシードを移植する間質性放射線療法並びに体外ビーム療法及び間質性放射線療法の組合せを含むが、これに限定されない。追加処置の特定の選択は、主治医の診断並びに被検体の状態及び適切な処置プロトコルの主治医の判断による。投与の順序の決定及び処置プロトコル中の各療法剤の投与の反復回数は、処置される疾患及び被検体の状態を評価した後の熟練した医師の知識の十分な範囲内となる。
【0061】
4.癌の生存能力を低下及び/又は抗癌剤に対する癌の感受性を増強するための製剤
本開示の更なる態様は、本方法における使用のための製剤を提供することである。いくつかの実施形態では、抗癌剤に対する癌の感受性を増強するのに適した前述の増感物質(例えば、抗寄生虫剤、オートファジー阻害剤及びHDAC阻害剤のいずれかである少なくとも2剤)が、被検体に投与するための投与量形態に製剤される。
【0062】
本製剤は、抗寄生虫剤、オートファジー阻害剤及びHDAC阻害剤からなる群から選択される少なくとも2剤の有効量並びに薬学的に許容可能な賦形剤を含む。例えば、抗寄生虫剤(例えば、MBZ)及びオートファジー阻害剤(例えば、CQ/HCQ)を薬学的に許容可能な賦形剤と混合して被検体に投与するための製剤を形成し得る。
【0063】
いくつかの実施形態では、製剤は、抗寄生虫剤(例えば、MBZ)、オートファジー阻害剤(例えば、CQ)及びHDAC阻害剤(例えば、4-PB)並びに薬学的に許容可能な賦形剤を含む。また更なる実施形態では、製剤は、HDAC阻害剤(例えば、4-PB)、抗寄生虫剤(例えば、MBZ)及びオートファジー阻害剤(例えば、HCQ)並びに薬学的に許容可能な賦形剤を含む。
【0064】
増感物質は、製剤の総重量に基づいて、約0.1重量%から99重量%のレベルで存在する。いくつかの実施形態では、増感物質は、製剤の総重量に基づいて、少なくとも1重量%のレベルで存在する。所定の実施形態では、薬剤は、製剤の総重量に基づいて、少なくとも5重量%のレベルで存在する。さらに他の実施形態では、薬剤は、製剤の総重量に基づいて、少なくとも10重量%のレベルで存在する。またさらに他の実施形態では、薬剤は、製剤の総重量に基づいて、少なくとも25重量%のレベルで存在する。
【0065】
製剤は、Remington’s Pharmaceutical Sciences、第17版、Alfonoso R.Gennaro,ed.Mack Publishing Company、ペンシルベニア州イーストン(1985)に記載されているように許容可能な薬学的手順によって調製される。薬学的に許容可能な賦形剤は、製剤中の他の原料と適合性があり、生物学的に許容可能なものである。
【0066】
製剤は、その投与のために意図された経路によって製造される。例えば、製剤が経口摂取によって投与されることが意図される場合、酸性環境で又はそれが被検体の腸に到達するまでに本発明の化合物が分解されるのを防止するために、腸溶コーティングを製剤に適用し得る。製剤は、本発明の化合物をその意図された標的部位に送達するのを支援する追加成分をさらに含み得る。いくつかの実施例では、増感物質を構成する薬剤は、リポソームに封入されてそれを酵素分解から防止し、被検体の循環系を通して及び/又はその意図された細胞標的部位へ細胞膜を横切って薬剤を輸送するのを支援する。
【0067】
さらに、最も溶解度の低い増感物質の薬剤は、溶媒和剤、乳化剤及び/又は界面活性剤のような追加剤と共に液体製剤に製剤され得る。追加剤の例は、シクロデキストリン(例えば、α-シクロデキストリン及びβ-シクロデキストリン)並びにエタノール、イソプロパノール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピルグリコール、1,3-ブチルグリコール、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、生体適合性を有する油(例えば、綿実油、ピーナッツ油、トウモロコシ油、小麦胚芽油、ヒマシ油、オリーブ油、ゴマ油、グリセロール、テトラヒドロフラン、ポリエチレングリコール(PEG)、ソルビタンの脂肪酸エステル類及びそれらの組合せ)を含むがこれに限定されない非水性溶媒を含むが、これに限定されない。
【0068】
製剤中の増感物質の量は、投与の経路によって変化する。例えば、急性処置のための製剤は、慢性処置用の製剤と比較して、より多量の増感物質を含有する。同様に、非経口製剤は、経口摂取のための製剤と比較して、より少量の本増感物質を含む。他の投与経路に適した製剤も、本開示の範囲内である。
【0069】
製剤は、液体、溶液、懸濁体、乳濁体、エリキシル、シロップ、タブレット、トローチ剤、顆粒、粉末、カプセル、カシェ剤、ピル、アンプル、坐薬、ペッサリー、軟膏、ゲル、ペースト、クリーム、スプレー、ミスト、フォーム、ローション、オイル、ボーラス、舐剤又はエアロゾルの形態となり得る。
【0070】
4.1 経口摂取のための製剤
本増感物質(すなわち、抗寄生虫剤、オートファジー阻害剤及びHDAC阻害剤からなる群から選択される少なくとも2剤)は、経口摂取に適した組成物に製剤され得る。(例えば、摂取による)経口投与に適した製剤は、カプセル、カシェ剤又はタブレットのような別個のユニットとして提示されてもよく、各々が粉末若しくは顆粒として、水性若しくは非水性液体中の溶液若しくは懸濁液として、水中油型乳濁液若しくは油中水型乳濁液として、ボーラスとして、舐剤として又はペーストとして所定量の活性化合物を含有する。
【0071】
タブレットは、任意選択的に1以上の付属原料を用いて、従来の手段、例えば圧縮又は成形によって作製されてもよい。圧縮タブレットは、粉末又は顆粒のような自由流動形態の活性化合物を、1以上の結合剤(例えば、ポビドン、ゼラチン、アカシア、ソルビトール、トラガカント、ヒドロキシプロピルメチルセルロース)、充填剤又は希釈剤(例えば、乳糖、微結晶性セルロース、リン酸水素カルシウム)、潤滑剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク、シリカ)、崩壊剤(例えば、デンプングリコール酸ナトリウム、架橋ポビドン、架橋カルボキシメチルセルロースナトリウム)、界面活性剤又は分散若しくは湿潤剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム)及び防腐剤(例えば、p-ヒドロキシ安息香酸メチル、p-ヒドロキシ安息香酸プロピル、ソルビン酸)と任意選択的に混合して適切な機械で圧縮することによって調製されてもよい。すりこみタブレットは、不活性液体希釈剤によって湿らせた粉末化合物の混合物を適切な機械で成形することによって作製され得る。タブレットは、任意選択的にコーティングされ、又は割線が入れられてもよく、その中の活性化合物の低速又は制御された放出を提供するために、例えば、所望の放出プロファイルを提供するようにヒドロキシプロピルメチルセルロースを様々な比率で使用して製剤されてもよい。
【0072】
4.2 非経口投与のための製剤
(例えば、皮膚、皮下、筋肉内、静脈内及び皮内を含む注入による)非経口投与に適した製剤は、抗酸化剤、緩衝液、防腐剤、安定剤、静菌剤、及び目的のレシピエントの血液と製剤を等張にする溶質を含有し得る水性及び非水性の等張性のパイロジェンフリーの滅菌注射溶液と、懸濁剤及び増粘剤、並びに化合物を血液成分又は1以上の器官を標的とするように設計されたリポソーム又は他のマイクロ粒子系を含み得る水性及び非水性の滅菌懸濁体とを含む。そのような製剤で使用されるのに適した等張性ビヒクルの例は、塩化ナトリウム注射液、リンゲル液又は乳酸加リンゲル液を含む。製剤は、単位用量又は複数用量の密封容器、例えば、アンプル及びバイアルで提示されてもよく、使用直前に滅菌液体担体、例えば、注射用の水の添加だけを必要とするフリーズドライ(凍結乾燥)状態で保存されてもよい。即時注入溶液及び懸濁体は、滅菌粉末、顆粒及びタブレットから調製され得る。製剤は、活性化合物を血液成分又は1以上の器官を標的とするように設計されたリポソーム又は他のナノ粒子若しくはマイクロ粒子系の形態となり得る。
【0073】
4.3 膜透過製剤
膜透過製剤は、局所及び経粘膜使用に適したものであり、点眼液、スプレー、エアロゾル、クリーム、ローション、軟膏、ジェル、溶液、懸濁体、皮膚パッチなどを含むが、これに限定されない。パッチは、リザーバー型及びマトリックス型の皮膚パッチを含み、活性成分が被検体の体内に吸着されることを可能とするように、所定期間にわたって皮膚に付着し得る。
【0074】
局所投与について、当技術分野で周知の多種多様な皮膚科学的に許容可能な不活性賦形剤が採用され得る。典型的な不活性賦形剤は、例えば、水、エチルアルコール、ポリビニルピロリドン、プロピレングリコール、鉱油、ステアリルアルコール及びゲル生成物質であり得る。上記の投与量形態及び賦形剤の全ては、製薬技術において周知のものである。投与量形態の選択は、ここに記載の組成物の有効性に対して不可欠ではない。
【0075】
経粘膜投与について、本増感物質(例えば、HDAC阻害剤並びに抗寄生虫剤及びオートファジー阻害剤からなる群から選択される少なくとも1剤)も、口腔粘膜を通じた薬物送達のための口腔内及び/又は舌下薬投与量単位のような、粘膜適用のための様々な投与量形態で製剤され得る。薬学的に許容可能であり、適切な程度の付着と所望の薬物放出プロファイルの双方を提供し、投与される活性剤並びに口腔内及び/又は舌下薬投与量単位中に存在し得る任意の他の成分と適合性がある多種多様な生分解性高分子賦形剤が、使用され得る。一般に、高分子賦形剤は、口腔粘膜の湿潤表面に付着する親水性ポリマーを含む。高分子賦形剤の例は、アクリル酸ポリマー及びコポリマー、加水分解されたポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、ポリアクリレート、ビニルポリマー及びコポリマー、ポリビニルピロリドン、デキストラン、グアーガム、ペクチン、デンプン並びにセルロース系ポリマーを含むが、これに限定されない。
【0076】
5.癌の生存能力を低下及び/又は癌の抗癌剤に対する感受性を増強するためのキット
癌、特に、化学療法に非応答性である癌の処置に有用な材料を含む製品又は「キット」も、本開示内に包含する。
【0077】
一実施形態では、キットは、それを必要とする被検体に投与するための適切な形態に製剤された本開示の増感物質を含む容器を備える。キットは、癌の生存能力を低下させ又は癌の抗癌剤に対する感受性を増強するのに適しており、したがって抗癌剤の投与前、投与中又は投与後に投与される。容器は、ガラス又はプラスチックのような様々な材料から形成され得る。容器は、本増感物質の薬学的製剤を化学療法に非応答性である癌の処置に対する有効量で保持し得る。任意選択的に、容器は、滅菌アクセスポートを有してもよく、例えば、容器は、皮下注射針によって貫通可能なストッパーを有する静脈内溶液バッグ又はバイアルであってもよい。キットは、容器上に又は容器に関連付けられてラベル又は添付文書をさらに備えていてもよい。ラベル又は添付文書は、組成物が選択された状態を処置するために使用されることを示す。代替的に又は追加的に、キットは、リン酸緩衝生理食塩水、リンゲル液又はデキストロース溶液のような薬学的に許容可能な緩衝液を含む第2の容器をさらに備えていてもよい。それは、他の緩衝液、希釈剤、フィルター、針及びシリンジなど、商業的及びユーザの観点から望ましい他の材料を、さらに含んでいてもよい。
【0078】
キットは、本発明の増感物質の投与についての指示、及び、存在する場合は、癌を処置するための第2の製剤をさらに含み得る。例えば、キットが本開示の増感物質を含む第1の組成物及び療法剤を含む第2の薬学的製剤を備える場合、キットは、それを必要とする患者に対して、第1及び第2の薬学的組成物の同時投与、連続投与又は個別投与についての指示をさらに含み得る。
【0079】
他の実施形態では、キットは、本増感物質の固形経口形態の送達に適しており、そのようなキットは、例えば、多数の単位投与量を含む。そのようなキットは、その使用目的の順に向けられた投与量を有するカードを含む。そのようなキットの例は、「ブリスターパック」である。ブリスターパックは、包装業界において周知であり、薬学的単位投与量形態を包装するのに広く使用される。所望であれば、例えば、数字、文字若しくは他のマーキングの形態で又はカレンダー挿入物で、投与量が投与され得る処置スケジュール中の日数を指定する補助具が提供されてもよい。
【0080】
一実施形態によると、キットは、(a)被検体に投与するのに適切な形態に製剤された本増感物質を含む第1の容器、及び任意選択的に(b)化学療法剤である第2の製剤を含む第2の容器、並びに(c)キットの使用方法をユーザに指示するためのキットに関連する説明文を少なくとも含んでいてもよい。説明文は、パンフレット、テープ、CD、VCD又はDVDの形態であり得る。
【0081】
ここで、限定ではなく例証を目的として提供される以下の実施形態を参照して、本発明をより具体的に説明する。
【実施例】
【0082】
材料及び方法
細胞培養及び動物
本開示で使用される細胞株は、ヒト膵臓癌細胞株BxPC-3、Mia-Paca-2/R(ゲムシタビン耐性細胞株)及びPanc-1/R(ゲムシタビン耐性細胞株)、ヒト肝癌細胞株SK-Hep-1及びHep3B並びにTMZ耐性細胞株であるヒト脳膠芽腫細胞株GBM8401を含む。細胞を10%の熱不活化ウシ胎児血清(FBS)、50単位/mLのペニシリンG、50μg/mLのストレプトマイシン(pH7.4)を添加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)中で培養し、細胞を37℃で5%のCO2/95%の空気からなる加湿環境で維持した。
【0083】
薬物耐性Panc-1細胞の誘導
薬物耐性Panc-1/Gem細胞を、連続的な低用量のゲムシタビン(20μM)の存在下でPanc-1細胞を培養することによって誘導してゲムシタビンに対するそれらの耐性を発生させた。操作中、ゲムシタビン耐性Panc-1細胞(Panc-1/Gem)を、10%のウシ胎児血清(FCS)、100IU/mlのペニシリン、100μg/mlのストレプトマイシン、2mMのグルタミン及び20μMのゲムシタビンを添加したDMEM中で、5%のCO2中で37℃で維持した。
【0084】
MTTアッセイ
MTTアッセイは、(3-(4,5-ジメチルチアゾール-2イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド(MTT)の黄色テトラゾールを紫色ホルマザンに生細胞内で還元する酵素(すなわち、レダクターゼ)の活性を測定する比色アッセイである。この還元は細胞が生存している場合にのみ起こり、よって、MTTアッセイは一般に細胞の生存能力及び増殖を査定するのに使用される。簡潔には、細胞を種々の用量の試験化合物(例えば、MB、4-PB、CQ、HCQなど)で48時間又は72時間検証した。そして、MTT色素(500μg/ml)を添加し、反応を500μlのイソプロパノールの添加によって終了させる前に4時間進行させた。溶液の570nmでの吸光度を分光光度計によって測定した。
【0085】
異種移植膵臓癌マウスモデル
原発性膵臓癌モデルについて、xx週齢の合計30匹のマウスを、各グループに5匹のマウスでランダムに6つのグループに分割した。実験を開始するために、各マウスに7×106個のMia-Paca-2/R細胞を皮下注射して0日目の薬物耐性膵臓癌を発生させ、そしてさらに14日間、培養に戻して腫瘍を約200mm3のサイズまで進行させた。試験化合物の有効性を評価するために、2日目に開始された処置後28日間にわたって、試験グループのマウスにゲムシタビン(50mg/Kg/用量、腹腔内投与、週1回)、MBZ(100mg/Kg/用量、経口投与、週3回)、CQ(100mg/Kg/用量、経口投与、週3回)、MBZ+CQ(経口投与、週3回)又はMBZ+CQ+ゲムシタビン(MBZ及びCQを週3回の頻度で経口投与し、注入を介してゲムシタビンを週1回投与した)を与えた。腫瘍サイズを、キャリパーを使用して測定した。各マウスの体重及び白血球数を、実験全体を通じて毎日それぞれ記録した。腫瘍体積を、体積=幅2×長さ×0.52の式を使用して計算した。
【実施例1】
【0086】
実施例1 抗寄生虫剤及びオートファジー阻害剤の併用処置は、癌性細胞の成長を抑制する
膵臓癌BxPC-3細胞、薬物耐性膵臓癌Mia-Paca-2/R細胞及び膠芽腫GBM8401細胞の細胞生存能力に対するMBZ及びHCQ/CQの併用処置の効果をMTTアッセイによって調べた。結果を
図1~3に示す。
【0087】
1.1 癌細胞に対するMBZ及びCQ/HCQの併用処置
MBZ(5μM)及びHCQ(50又は100μM)の併用処置後の膵臓癌BxPC-3細胞の細胞生存能力を示す
図1をまず参照する。BxPC-3細胞の細胞生存能力は、HCQ(20又は50μM)単独の処置によってわずかにしか及び/又は全く影響を受けないことが見出された。BxPC-3細胞をMBZ(5μM)の組合せで処置した場合、細胞生存能力は約60%まで低下した。驚くことに、BxPC-3細胞をMBZ(5μM)及びHCQ(50又は100μM)で同時に処置した場合、細胞生存能力は、コントロールのものと比較して、約55~38%の低いレベルまでさらに低下した。
【0088】
同様の結果が、膠芽腫GBM8401細胞においても見出され、GBM8401細胞の細胞生存能力は、MBZ(5μM)及びCQ(50又は100μM)の併用処置後にさらに低下した(
図2A及び2B)。
【0089】
1.2 薬物耐性癌細胞に対するMBZ及びHCQの併用処置
薬物耐性膵臓癌Mia-Paca-2/R細胞の細胞生存能力に対するMBZ及びCQの併用処置の効果を調べ、結果を
図3に示す。
【0090】
図3に示すように、薬物耐性膵臓癌Mia-Paca-2/R細胞の細胞生存能力は、MBZ(1又は5μM)及びCQ(100μM)の併用処置後、コントロール又はゲムシタビン(20μM)、MBZ若しくはCQで単独処置したものと比較して、約10%の有意に低いレベルに到達した。
【実施例2】
【0091】
実施例2 本増感物質は、抗癌剤に対する癌細胞の感受性を高める
抗癌剤(例えば、ゲムシタビン、ドキソルビシン、ソラフェニブ又はTMZ)に対する、膵臓癌BxPC-3細胞、薬物耐性膵臓癌Mia-Paca-2/R細胞、Pan-1/Gem細胞、肝細胞癌Sk-Hep-1細胞又は膠芽腫GBM8401細胞の細胞生存能力に対する本増感物質の効果をMTTアッセイによって調べた。結果を
図4~9に示す。
【0092】
2.1 癌細胞に対するMBZ及びCQの併用
MBZ(5μM)及びCQ(100μM)を含む本増感物質の処置後の、化学療法剤-ゲムシタビン(0.05μM)に対するBxPC-3細胞の細胞生存能力を示す
図4をまず参照する。BxPC-3細胞をMBZ(5μM)及びCQ(100μM)の組合せで処置した場合、細胞生存能力は約38%まで低下することが見出された。驚くべきことに、BxPC-3細胞をMBZ(5μM)、CQ(100μM)及びゲムシタビン(0.05μM)で同時に処置した場合、MBZ及びCQの併用処置又はゲムシタビン単独の処置のものと比較して、細胞生存能力はさらに低下した(
図4)。換言すると、本増感物質(すなわち、MBZ及びCQ)は、化学療法剤-ゲムシタビンに対する膵臓癌細胞の感受性を増強した。同様の結果は、薬物耐性膵臓癌Mia-Paca-2/R細胞(
図5)、肝細胞癌Sk-Hep-1細胞(
図6及び7)及び膠芽腫GBM8401細胞(
図8A及び8B)でも見出され、各癌細胞株は、抗癌剤(例えば、ドキソルビシン、ソラフェニブ又はTMZ)の処置に対して感受性がより高くなった。
【0093】
2.2 薬物耐性癌細胞に対するMBZ、CQ及び4-PBの併用処置
実施例2.1に記載された手順と同様に、本実施例では、ゲムシタビン耐性膵臓癌細胞(Panc-1/Gem細胞)に対するMBZ、CQ及び4-PBの処置を調べた。結果を
図9に示す。
【0094】
4-PB(1又は2mM)、MBZ(1μM)及びCQ(100μM)の組合せは、Panc-1/Gem細胞の生存能力を約35%のレベルまで低下できることが見出された。しかし、本コンボ(すなわち、MBZ、4-PB及びCQの組合せ)において4-PBの濃度を5mMに増加した場合、Panc-1/Gem細胞の生存能力は20%未満の低いレベルまで低下するはずである。
【0095】
本実施例の発見は、本増感物質(すなわち、抗寄生虫剤、オートファジー阻害剤及びHDAC阻害剤からなる群から選択される少なくとも2剤)のコンボ処置が、癌細胞がそれに耐性となっている化学療法剤(例えば、ゲムシタビン)に対する薬物耐性癌細胞の感受性を高め得るという明確な指摘である。
【実施例3】
【0096】
実施例3 本増感物質は、異種移植膵臓癌マウスモデルにおいて、抗癌剤に対する薬物耐性癌細胞の感受性を高める
薬物耐性膵臓癌Mia-Paca-2/R細胞を移植されたマウスに対する本開示の増感物質の効果を、「材料及び方法」の章に記載されたステップに従って、移植された腫瘍体積及び腫瘍重量を測定することによって調べた。結果を
図10及び11に示す。
【0097】
図示のように、100mg/Kg/用量の濃度での少なくとも12回の用量(3回の用量/週、4週間)に対するMBZ及びCQの処置は、コントロールマウス(すなわち、ビヒクル又はゲムシタビンのみを注入されたマウス)のものと比較して、異種移植された膵臓腫瘍の体積及び重量の双方を有意に減少させるのに有効であった。最重要なこととして、マウスをMBZ、CQ及びゲムシタビンに曝露した場合、異種移植された腫瘍の体積及び重量の双方がさらに減少した。換言すると、異種移植された薬物耐性膵臓腫瘍は、本増感物質-MBZ及びCQに曝露された後、ゲムシタビンに感受性を有するようになった。
【0098】
したがって、本開示の結果は、薬物耐性癌を含む癌を処置するのに本コンボ処置(すなわち、抗寄生虫剤及びオートファジー阻害剤並びに任意選択的にHDAC阻害剤)が使用され得ることを確認した。したがって、本コンボ処置は、化学療法剤の処置に非応答性である癌患者に、癌細胞の成長が抑制又は阻害され得るように、化学療法剤に対する癌細胞の不感受性を逆転させる態様を提示する。
【0099】
本開示の種々の実施形態の前述の説明は、例示及び説明の目的で提示される。それは網羅的でも、開示された正確な実施形態に対して本開示を限定することを意図するものでもない。上記の教示を考慮して、多数の変形例又は変形物が可能である。検討された実施形態は、本開示の原則及びその実際の適用の最良の例示を提供し、それにより当業者は、考えられる特定の使用に適するように種々の実施形態において種々の変形例により本開示を利用することを可能とするように、選択及び説明されている。そのような全ての変形例及び変形物は、それらが公正に、合法的に及び公平に権利を与えられる範囲に従って解釈される場合に、添付の特許請求の範囲によって決定されるように、本開示の範囲内である。