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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】連結軸及び一軸偏心ねじポンプ
(51)【国際特許分類】
   F04C 2/107 20060101AFI20241008BHJP
【FI】
F04C2/107
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2024095345
(22)【出願日】2024-06-12
(62)【分割の表示】P 2021526001の分割
【原出願日】2020-05-30
(65)【公開番号】P2024107386
(43)【公開日】2024-08-08
【審査請求日】2024-06-12
(31)【優先権主張番号】P 2019109129
(32)【優先日】2019-06-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000239758
【氏名又は名称】兵神装備株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100180644
【弁理士】
【氏名又は名称】▲崎▼山 博教
(72)【発明者】
【氏名】榊原 教晃
(72)【発明者】
【氏名】森田 剛志
【審査官】中村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2002/0192093(US,A1)
【文献】国際公開第96/19668(WO,A1)
【文献】実開昭60-50607(JP,U)
【文献】特開昭60-53221(JP,A)
【文献】特開2006-220007(JP,A)
【文献】特開2002-61628(JP,A)
【文献】実開平6-43357(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 2/107
F16C 1/00
F16D 3/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動機の動力により回転する駆動側回転部と、
雄ねじ型の軸体によって構成されたロータと、
前記ロータを挿通可能であって内周面が雌ねじ型に形成されたステータと、
前記ロータが前記ステータの内側において自転しつつ、前記ステータの内周面に沿って公転するように偏心回転可能なように前記駆動側回転部と前記ロータとを接続する連結軸とを有し、
前記連結軸が、
可撓性を有し第一部材と第二部材とを連結するものであって、
前記連結軸の軸線方向に直交する断面の形状が軸線方向に向かうに連れて連続的にねじれた形状、あるいは断続的な段差状に旋回するようにねじれた形状であるねじれ形状部を少なくとも一部に備え、
前記断面上における断面二次モーメントが、前記軸線方向に直交し当該断面での断面二次モーメントが最小である第一方向と、同一断面上で前記第一方向に直交する第二方向とで異なるものであり、
前記連結軸のねじり軸心が前記軸線方向のいずれの位置において断面視しても前記断面の形状内にあり、
前記断面の形状は、前記ねじり軸心位置を通るとともに前記第一方向に沿う第一軸に対し線対称な形状、前記ねじり軸心位置を通るとともに前記第二方向に沿う第二軸に対し線対称な形状、及び前記ねじり軸心に対し点対称な形状の少なくともいずれかの形状であり、
前記ねじれ形状部の全体に亘って、前記第一方向及び前記第二方向を有する断面形状とされており、
前記連結軸が前記軸線方向に延びる状態において、前記連結軸を介して前記ロータ及び前記駆動側回転部とが前記軸線方向に並ぶように接続されていることを特徴とする一軸偏心ねじポンプ。
【請求項2】
ねじれ形状部における総ねじれ角が180度の倍数±20度であることを特徴とする請求項1に記載の一軸偏心ねじポンプ。
【請求項3】
前記ロータのねじれ方向と、前記連結軸のねじれ方向とが一致していることを特徴とする請求項1又は2に記載の一軸偏心ねじポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連結軸及び一軸偏心ねじポンプに関する。さらに詳しくは、第一部材と第二部材とを連結し、その間の動力を伝達する連結軸とそれを用いた一軸偏心ねじポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一軸偏心ねじポンプのロータを偏心回転可能とすべく、駆動側回転部とロータとの間は、丸棒形状の可撓性連結軸(可撓性駆動軸に相当)が用いられている(例えば、特許文献1)。
【0003】
また、スリットを刻んだ平板状の部材を直交させた形状の可撓性連結軸が知られている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-154215
【文献】特開2014-105827
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1の連結軸は、ロータを偏心回転させるために、その両端を変位させる必要がある。従って、連結軸は、可撓性を有し、曲げ剛性が低いものが求められている。この曲げ剛性が高い場合、連結軸の反力(復元力とも称す)により、ステータ内でロータの姿勢が傾く問題がある。このように、ロータが傾くとステータの挿入口付近にロータが強く押し付けられることにより、ステータ内部の移送空間が変形し、ステータ内部が摩耗していないにも関わらず、吐出性能が低下する問題がある。
【0006】
また、前記連結軸は、ロータの回転起動時または停止時に駆動源の回転角を適確にロータに伝達するために、ねじり剛性が高いものが求められている。このねじり剛性が低い場合、ロータの回転起動時または停止時に駆動源の回転角をロータに適確に伝達することができず、ポンプの吐出開始及び停止の応答性が悪くなったり、スティックスリップ現象が発生し、異音や吐出の脈動が生じたりする問題がある。
【0007】
一般的に曲げ剛性が高い素材や形状は、ねじり剛性が高く、逆に曲げ剛性が低い素材や形状は、ねじり剛性が低いという互いに相関する関係にあるため、理想的な連結軸に求められる高いねじり剛性と低い曲げ剛性を備えるという双方の要請を満たす素材や形状の連結軸がなかった。
【0008】
そこで、従来の連結軸は、ある程度のねじり剛性を確保しつつ、わずかに曲げることができる程度の曲げ剛性を有し、なおかつ強度上も問題のないチタン合金やエンジニアプラスチック等の材質で形成された丸棒が用いられている。この丸棒を長尺化することにより、曲げる角度が小さくても偏心回転の変位分の長さだけ曲げることができるため、その反力が低減する。このため、従来の連結軸を採用した一軸偏心ねじポンプにおいては、ポンプ全体の長さが長尺となって大型化する問題があった。また、連結軸が長くなることで、トルクに対する軸全体のねじれ角も大きくなり、あまり吐出の応答性がよくならないという問題も残っていた。さらに、これに伴って、上述の連結軸を収容するケーシングも大型化し、一軸偏心ねじポンプを停止させた際に、ケーシング内における流動物の残存量が多くなってしまうという問題や設置スペースが確保し難くなるという問題もあった。
【0009】
また、特許文献2における連結軸は、一方向にのみ曲げ剛性が低い平板状の部材を直交させて全方向への変位に対応させている。しかしながら、平板形状はねじり剛性も低い形状であり、回転トルクを与えた際に前記平板状の部材にねじれ方向の力が作用し、当該平板状の部材がねじれるという問題がある。
【0010】
また、回転位置毎に360°のあらゆる方向から変位による力が作用するため、前記平板状の部材に対し最も曲がりやすい方向である垂直方向以外からの力がかかると、一軸偏心ねじポンプのロータ及びステータへの反力が角度毎に大きく変動する。これにより、前記ステータ内で前記ロータの姿勢がぐらつき、キャビティの形状及び容積を変動させ、吐出精度の悪化と脈動を生じさせる問題がある。
【0011】
そこで、上述した課題を解決すべく、本発明は、曲げ方向への変位を許容する曲げ剛性及び可撓性を有しながら、ねじり方向へのねじり剛性の高いコンパクトな連結軸を提供するとともに前記連結軸に起因した異音や吐出の脈動が生じない一軸偏心ねじポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した課題を解決すべく提供される本発明の連結軸は、可撓性を有し第一部材と第二部材とを連結するものであって、前記連結軸の軸線方向に直交する断面の形状が軸線方向に向かうに連れて連続的にねじれた形状、あるいは断続的な段差状に旋回するようにねじれた形状であるねじれ形状部を少なくとも一部に備え、前記断面上における断面二次モーメントが、前記軸線方向に直交し当該断面での断面二次モーメントが最小である第一方向と、同一断面上で前記第一方向に直交する第二方向とで異なることを特徴とするものである。
【0013】
本発明の連結軸は、前記連結軸の軸線方向に直交する断面の形状が軸線方向に向かうに連れて連続的にねじれた形状、あるいは断続的な段差状に旋回するようにねじれた形状であるねじれ形状部を少なくとも一部に備えている。すなわち、連結軸が回転する際、ねじれ方向へのモーメントの一部が初期状態でねじれている形状により軸方向の力などへ変換されるため、実質的に連結軸のねじり剛性が向上する。従って、本発明の連結軸をモータ等の駆動源と連結することで、当該駆動源の回転角を応答性良く適確に伝達することが可能になる。
【0014】
本発明の連結軸は、前記断面上における断面二次モーメントが最小になる方向を第一方向とし、第一方向への長さ、及び当該第一方向に対して同一断面上で交差する第二方向への長さが相違する断面形状を有している。すなわち、本発明の連結軸は、第一方向への断面二次モーメントが最小となるので、当該連結軸の各断面位置において第二方向よりも第一方向に変位しやすい。そして、断面の形状が軸線方向に向かうに連れて連続的にねじれた形状、あるいは断続的な段差状に旋回するようにねじれた形状であるので、偏心回転に伴う360°のいずれの方向の変位にも対応できる。このような特性を有するため、偏心回転が必要な各種装置(例えば、ポンプ、コンプレッサ、ディスペンサー、往復機構等)の偏心回転軸として好適に用いることができる。
【0015】
本発明の連結軸は、断面二次モーメントが最小になる第一方向に変位しやすくなるとともに、断面二次モーメントの大きい第二方向への変位が制限される。すなわち、本発明の連結軸は、連結軸の旋回に伴い、第一方向と第二方向が円周方向に順次変化していくので、適度な可撓性を有し、しかもねじり剛性も高い双方の要請を満足する連結軸を提供することができる。
【0016】
また、本発明の連結軸は、偏心による変位を許容可能である。そのため、本発明の連結軸は、ユニバーサルジョイントを用いずに接続しても、偏心による変位を許容できる。従って、本発明の連結軸を用いれば、連結軸に摺動する部分を設けずに接続できるので、摩耗等による異物の混入を防止できる。従って、本発明の連結軸は、食品加工用、製薬用等、異物の混入が問題となる装置の連結軸として好適に用いることができる。
【0017】
上述のように本発明の連結軸は、曲げ剛性が低い物性と、ねじり剛性が高い物性の双方を有するので、回転トルクに対する耐ねじり性能を下げることなく短尺化した設計が可能になる。従って、本発明の連結軸を採用した装置を小型化することができ、設置スペースに依存しない汎用性が高い装置を提供することができる。
【0018】
本発明の連結軸は、前記連結軸のねじり軸心が前記軸線方向のいずれの位置において断面視しても前記断面形状内にあり、前記断面形状は、前記ねじり軸心位置を通るとともに前記第一方向に沿う第一軸に対し線対称な形状、前記ねじり軸心位置を通るとともに前記第二方向に沿う第二軸に対し線対称な形状、及び前記ねじり軸心に対し点対称な形状の少なくともいずれかの形状であることが好ましい。
【0019】
本発明の連結軸は、断面形状として、例えば長方形、楕円、角丸、平行四辺形、菱形等の形状を好ましく採用できる。かかる構成によれば、連結軸の製作加工が容易に行える。
【0020】
本発明の連結軸は、ねじれ形状部における総ねじれ角が180度の倍数±20度であることが好ましい。
【0021】
本発明の連結軸は、かかる構成とされているため、最も曲がりやすい第一方向が回転軸を中心として半回転(180°)で均等に一回転分(360°)の曲げ方向に対応しており、誤差分を除き余分な角度がないため反力の変動が安定する。従って、連結軸の両端に連結される第一部材または第二部材の回転時の姿勢が安定し、第一部材または第二部材の不安定な回転姿勢に起因する異音や振動が低減できる。
【0022】
上述した課題を解決すべく提供される本発明の一軸偏心ねじポンプは、駆動機の動力により回転する駆動側回転部と、雄ねじ型の軸体によって構成されたロータと、前記ロータを挿通可能であって内周面が雌ねじ型に形成されたステータと、前記ロータが前記ステータの内側において自転しつつ、前記ステータの内周面に沿って公転するように偏心回転可能なように前記駆動側回転部と前記ロータとを接続する連結軸とを有し、前記連結軸として、上述の連結軸が用いられることを特徴とするものである。
【0023】
本発明の一軸偏心ねじポンプは、上述の本発明の連結軸を、一軸偏心ねじポンプのロータおよび駆動側回転部と接続して使用しているので、駆動側の回転角を応答の遅れなくロータに伝えることができる。また、本発明の一軸偏心ねじポンプは、駆動側の回転角に対する応答性能を下げることなく短尺化が可能な本発明の連結軸を採用しているので、小型化できる。これにより、連結軸を用いる方式の一軸偏心ねじポンプであっても設置スペースを低減することができる。また、これにより、一軸偏心ねじポンプのケーシングの容積が小さくなり、ケーシング内の流動物の残存量を低減できる。従って、特に高価な流動物の吐出が必要な分野(例えば、電池製造、半導体製造等)で好適に利用できる。
【0024】
本発明の一軸偏心ねじポンプは、前記ロータのねじれ方向と、前記連結軸のねじれ方向とが一致していることが好ましい。
【0025】
かかる構成によれば、上述の連結軸の旋回に伴って、ケーシング内の流動物をステータ側に押し込むことが可能になる。従って、粘性の高い流動物であっても、ケーシング内の流動物を好適にステータ側に押し込むことが可能になる。これにより、ステータの内部空間の容積を流動物で満たしやすくなるので、移送効率が向上する。また、ポンプが逆転吸込で使用される場合には、ステータから吐出された流動物のケーシング外への吐出をさらに補助することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、長尺化することなく、曲げ剛性が低く(可撓性を有し)、かつねじり剛性が高い連結軸を提供できるので、当該連結軸を採用することにより各種の装置や機構を小型化できる。また、一軸偏心ねじポンプに本発明の連結軸を採用することにより、汎用性の高い小型のポンプを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の一実施形態に係る連結軸の斜視図である。
図2】(a)から(g)は、本発明の連結軸の断面形状の変形例である。
図3】連結軸の総ねじれ角と反力との関係を表すグラフである。
図4】連結軸の総ねじれ角と反力との関係を表すグラフである。
図5】連結軸の評価方法の説明図である。
図6】連結軸の評価結果である。
図7】従来の可撓性連結軸と本発明の連結軸の変形例とを比較した説明図である。
図8】本発明の一実施形態に係る一軸偏心ねじポンプの断面図である。
図9】本発明の一軸偏心ねじポンプの一部の概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の一実施形態に係る連結軸10について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0029】
本発明の連結軸10は、各種のポンプやコンプレッサ等の各種装置や機構において、第一部材と第二部材とを連結し、動力源の動力を第一部材から第二部材へと伝達することに用いられる。なかでも、本発明の連結軸10は、偏心運動を第一部材から第二部材に伝達することに好適に用いられる。
【0030】
図1のように本発明の連結軸10は、断面13の断面形状が矩形状に形成された板状部材11が、軸線方向に向かうに連れて、連続的に旋回するようにねじれたねじれ形状部12を備えている。
【0031】
断面13における断面形状は、短辺方向の長さがaであり、長辺方向の長さがbの矩形状に形成され、連結軸10の軸方向の長さはLである。ここで、断面形状は、軸線方向のいずれの位置において断面視しても、軸線位置を通るように形成されている。すなわち、ねじれ形状部12は、断面13の軸心が軸線上に位置するように板状部材を軸線方向にねじることにより形成されている。
【0032】
また、前記断面形状は、断面13における断面二次モーメントが最小となる方向を第一方向とし、第一方向への長さ、及び当該第一方向に対して同一断面上で直交する第二方向への長さが相違している。本実施形態においては、断面における断面二次モーメントが最小となる第一方向は、短辺方向であり、第一方向への長さはaである。本実施形態においては、厚みが薄い短辺方向が、断面二次モーメントの最小となる方向である第一方向に相当する。また、この第一方向に対して同一断面上で直交する第二方向は、長辺方向であり、第二方向への長さはbである。すなわち、第一方向(短辺方向)への長さaと第二方向(長辺方向)への長さbは、相違するように構成されている。
【0033】
ここで、第一方向(短辺方向)の断面二次モーメントは、以下の公式で表される。
(第一方向の断面二次モーメント)=ba3/12
【0034】
また、第二方向(長辺方向)の断面二次モーメントは、以下の公式で表される。
(第二方向の断面二次モーメント)=ab3/12
【0035】
上述のように、断面形状における第一方向への長さと第二方向への長さとが相違するように形成されることで、断面二次モーメントが最小となる方向の曲げ剛性が低くなる。すなわち、本実施形態においては、断面13における短辺方向への曲げ剛性が低くなる。従って、断面13における短辺方向に可撓性が高くなる。また、他方の長辺方向は、厚みが厚く、曲げ剛性が高くなる。従って、長辺方向へは、可撓性が低くなる。このように、断面二次モーメントは、短辺aと長辺bの比率(β=b/a)によって特性が変わる。
【0036】
また、連結軸10は、上述のようにねじれ形状部12を有しており、断面形状が軸線方向に向かうに連れて、連続的にねじれている。従って、前記第一方向と前記第二方向とは、連続的に円弧を描きながら、それぞれの方向が変位していく。これにより、曲げ剛性が低い可撓性の高い方向も円周方向に連続的に変位する。すなわち、詳細は後述するが、例えば、連結軸10の一端を一軸偏心ねじポンプ30の第一部材としての動力源に接続し、他端を第二部材としてのロータ60に接続して、連結軸10を回転駆動した場合、連結軸10の可撓性の高い方向と低い方向とが軸線方向に連続的に旋回しながら変位していく。従って、連結軸全体として適度な可撓性を有する部材として機能する。なお、連結軸10に使用する材質に応じて、連結軸10の可撓性の度合いは適宜調整できる。
【0037】
連結軸10は、上述のように連続的にねじれて構成されており、曲げ剛性が高い第二方向(長辺方向)が、軸線方向にねじれながら連続的に変位する。これにより、連結軸10は、周方向の360°のいずれの方向に対しても、断面二次モーメントが小さく曲げ剛性が低い方向が存在することになるため、連結軸10が変位した状態から元に戻ろうとする反力(復元力)も低減する。さらに、連結軸10が回転する際、初期状態でねじれている形状であるねじれ形状部12にかかるねじり方向のモーメントの一部がねじりの効果により軸方向の力へ変換されるため、実質的に連結軸10のねじり剛性が高くなるものと推測される。これにより、連結軸10は、回転トルクが加えられた際に生じるねじれが抑制される。
【0038】
上述のことから、断面形状は、矩形状に限定されるものではなく、第一方向の断面二次モーメントと、第二方向の断面二次モーメントが異なるものであれば、各種のものが採用できる。例えば、断面形状は、図2(a)から(g)の変形例のように、楕円形状、平行四辺形状、角部が丸く面取りされた角丸形状、矩形で一部が面取りされた形状、菱形等を採用できる。なお、この場合において、図示のように第一方向(短辺)の長さはa、第二方向(長辺)の長さはbで表される。
【0039】
また、断面形状を軸線方向に向かうに連れて連続的、あるいは断続的な段差状に旋回するようにねじった形状にするに当たり、高精度な製造のしやすさの観点から、前記断面形状は、前記ねじり軸心位置を通るとともに前記第一方向に沿う第一軸を対称軸14として、当該対称軸14に対し線対称な形状、前記ねじり軸心位置を通るとともに第二方向に沿う第二軸を対称軸16として線対称な形状、及び前記ねじり軸心を対称点15として、当該対称点15に対し点対称な形状の少なくともいずれかの形状であることが好ましい。すなわち、連結軸10の断面形状は、図2(a),(c),(f)の例のように対称軸14,16の双方に対して対称かつ対称点15に対して点対称な形状のもの、図2(g)の例のように対称軸14に対して線対称な形状であるが、対称軸16や対称点15に対して非対称な形状のもの、図2(h)のように対称軸16に対して線対称であるが、対称軸14や対称点15に対して非対称な形状のもの、図2(b),(d)のように対称点15に対して点対称であるが、対称軸14,16に対して非対称なもの等とすると良い。
【0040】
次に連結軸10のねじれ形状部12の構成について、以下に詳細を説明する。
【0041】
図1における実施形態では、連結軸10に、総ねじれ角720°(ねじれ回数が2巻き、以降単に2巻きともいう)のねじれ形状部12が形成されている。ここで、本発明者等の鋭意研究の結果、前記総ねじれ角が180°(0.5巻き)の倍数±20°であると曲げ方向へ適度な変位が許容されるとともに上述の反力の変動を低減できることが判明した。これは、前記総ねじれ角が180°の倍数であると、回転軸を中心として半回転(180°)で均等に1回転分(360°)の曲げ方向及びねじり方向への変位をカバーできるからであると推測される。従って、本実施形態の連結軸10は、曲げ方向への変位とねじり方向への変位が、360°均等に分散されながら作用するので、連結軸10は、適度な可撓性とねじり方向への高い剛性の双方を有する。なお、±20°とすることについては後述する。
【0042】
前記総ねじれ角と変位方向の変化に対する反力の変化の評価結果を表したグラフを図3及び図4に示す。
【0043】
当該評価は、総ねじれ角以外の条件が同じもの(すなわち、材質、断面形状、全長が同じもの)を用い、連結軸10の一端を固定した状態で、他端をX方向へのみ変位させた際の反力を100%とし、変位方向を変えた場合の反力の増減を記録したものである。前記グラフは、横軸に変位方向を、縦軸に反力を記録している。
【0044】
図3のように、総ねじれ角が180°の倍数ではない405°(1.125巻き)、450°(1.25巻き)、495°(1.375巻き)の場合、総ねじれ角ψが180°の倍数である360°(1巻き)及び540°(1.5巻き)に比べ反力が、増大することが分かる。
【0045】
同様に、図4においても総ねじれ角が180°の倍数である720°(2巻き)と900°(2.5巻き)では反力が低減し、総ねじれ角が180°の倍数ではない領域では反力が増大することが分かる。
【0046】
上述のように、総ねじれ角が360°(1巻き)から900°(2.5巻き)まで、段階的に変化すると、反力の変動率が増減する。また、総ねじれ角が180°の倍数毎に、反力の変動率が低減される。すなわち、総ねじれ角が360°(1巻き)を超えると、反力の変動率が増加し、総ねじれ角が540°(1.5巻き)に近づくに連れ反力の変動率が減少する。以後、同様に総ねじれ角が180°の倍数毎に反力の変動率が低減し、180°の倍数から離れるに連れて反力の変動率が増大する。なお、前記グラフは反力の相対値を示したものであり、総ねじれ角が大きくなるほど、反力の絶対値は低下する傾向がある。
【0047】
また、総ねじれ角が360°(1巻き)、540°(1.5巻き)、720°(2巻き)、900°(2.5巻き)と180°の倍数毎に増大するに連れて、反力の変動率が低減することが分かる。
【0048】
上述のように本発明の連結軸10は、ねじれ形状部12における総ねじれ角が180度の倍数であることが好ましい。なお、連結軸10を製造する際の誤差や使用する際の第一部材と第二部材とを連結する際の連結部の形状による誤差を考慮すると、その誤差分は総ねじれ角において±20°であることが好ましい。なお、総ねじれ角180°(0.5巻き)は、最も曲がりやすい変位方向への反力の低減効果はあるが、変位方向が変わった場合の反力の変動が大きいので、総ねじれ角が360°(1巻き)以上が好ましい。
【0049】
次に、本発明の連結軸10について、従来の可撓性連結軸90と比較した一実施形態を例に挙げて、以下に説明する。
【0050】
図6は、一般的な一軸偏心ねじポンプの使用条件相当の前提条件下において、従来の可撓性連結軸90と同等の曲げ剛性を有する本発明の連結軸10を6種類設計して、長さ及びねじり剛性を従来の可撓性連結軸90と比較した評価結果を表したものである。図7は、図6の表に基づき、比較例を含め本発明の変形例に係る連結軸10aから10fを図示したものである。
【0051】
上述の評価の評価方法について、図5を参照して以下に説明する。
【0052】
比較例の可撓性連結軸90と本発明の連結軸10の前提条件は以下の通りとする。可撓性連結軸90の一端を固定して固定端90aとし、他端に軸心方向と垂直の変位を1mm付与するとともに1Nmのトルクを付与する。このときの可撓性連結軸90が中心に戻ろうとする反力が1N、曲げとねじりによる応力(比較応力)が205MPaになるように、丸棒の可撓性連結軸90(比較例)及び本発明の連結軸10の寸法を定めて、比較評価を行う。また、比較例の可撓性連結軸90と本発明の連結軸10は、全て縦弾性係数が200GPa、横弾性係数が76.9GPaの材質を用いるものとする。
【0053】
比較例として、上述の前提条件下で丸棒の可撓性連結軸90を設計すると、断面がφ3.52mmで、長さが262mmとなった。この場合の可撓性連結軸90は、トルクによるねじれ角が12.9°であった。
【0054】
また、実施例1として、上述の前提条件下で、断面13が矩形状の板(断面寸法:1.6mm×16.0mm、β=10)を総ねじれ角が360°(1巻き)となるように設計すると長さが275mmの連結軸10aが得られた。連結軸10aは、トルクによるねじれ角が6.55°であった。従って、連結軸10aは、比較例に対し長さが+5%と僅かに比較例よりも長くなったが、トルクによるねじれ角が比較例に対し-50%と大幅にねじり剛性が向上している。
【0055】
なお、上述の連結軸10は、例えば、板状部材を必要回数ねじって製造したり、円柱状の部材を切削して削り出し等で製造したりすることができる。連結軸10の製造は、これらに限定されず、各種の方法を採用できる。
【0056】
実施例2から6の連結軸は、実施例1と同様に図5の各実施例の条件で、それぞれ連結軸10bから10fとして設計したものである。それぞれの実施例の評価結果は図5の通りである。評価結果の通り、比較例に対し、各実施例において、寸法が大幅に短縮化した上で、曲げ剛性が大幅に向上していることが分かる。
【0057】
なお、上述の実施例は、理解が容易なように所定の条件で長さと曲げ剛性を比較するために便宜上設計したものであり、本発明はこれらに限定されず、発明の範囲内で適宜変更できる。また、使用する材質も、例えば、チタン、ステンレス等の金属やその他エンジニアプラスチック等の樹脂部材等が好ましく使用できるが、本発明は、これらに限定されず、用途に応じて各種の素材を用いることができる。
【0058】
次に本発明の一実施形態に係る一軸偏心ねじポンプ30について、図8及び図9を参照しつつ詳細に説明する。本実施形態においては、上述した連結軸10を一軸偏心ねじポンプ30のロータ60(第一部材)と動力伝達機構70(第二部材)との連結部材として用いている。
【0059】
一軸偏心ねじポンプ30は、ポンプ機構31を主要部として構成される、いわゆる回転容積型のポンプである。一軸偏心ねじポンプ30は、ケーシング40の内部にステータ50、ロータ60、及び動力伝達機構70等を収容した構成とされている。ケーシング40は、金属製で筒状の部材であり、長手方向一端側に第一開口部42が設けられている。また、ケーシング40の外周部分には、第二開口部44が設けられている。第二開口部44は、ケーシング40の長手方向中間部分に位置する中間部46においてケーシング40の内部空間に連通している。
【0060】
第一開口部42及び第二開口部44は、それぞれポンプ機構31の吸込口および吐出口として機能する部分である。一軸偏心ねじポンプ30は、ロータ60を正方向に回転させることにより、第一開口部42を吐出口、第二開口部44を吸込口として機能させることができる。また、ロータ60を逆方向に回転させることにより、第一開口部42を吸込口、第二開口部44を吐出口として機能させることができる。
【0061】
ステータ50は、ゴム等の弾性体、又は樹脂等を主成分とする材料によって形成された略円筒形の外観形状を有する部材である。ステータ50の内周面52は、n+1条(本実施形態ではn=1)で雌ねじ形状とされた部材である。また、ステータ50の貫通孔54は、ステータ50の長手方向のいずれの位置において断面視しても、その断面形状(開口形状)が略長円形となるように形成されている。
【0062】
ロータ60は、n条(本実施形態ではn=1)の雄ねじ形状とされた金属製の軸体である。ロータ60は、長手方向のいずれの位置で断面視しても、その断面形状が略真円形となるように形成されている。ロータ60は、上述したステータ50に形成された貫通孔54に挿通され、貫通孔54の内部において自由に偏心回転可能とされている。
【0063】
ロータ60をステータ50に対して挿通すると、ロータ60の外周面62とステータ50の内周面52とが両者の接線で密接した状態になり、ステータ50の内周面52とロータ60の外周面との間に流体搬送路56(キャビティ)が形成される。流体搬送路56は、ステータ50やロータ60の長手方向に向けて螺旋状に伸びている。
【0064】
流体搬送路56は、ロータ60をステータ50の貫通孔54内において回転させると、ステータ50内を回転しながらステータ50の長手方向に進む。そのため、ロータ60を回転させると、ステータ50の一端側から流体搬送路56内に流体を吸い込むとともに、この流体を流体搬送路56内に閉じこめた状態でステータ50の他端側に向けて移送し、ステータ50の他端側において吐出させることが可能である。本実施形態のポンプ機構31は、ロータ60を正方向に回転させることにより使用され、第二開口部44から吸い込んだ粘性液を圧送し、第一開口部42から吐出することが可能とされている。
【0065】
動力伝達機構70は、駆動機80から上述したロータ60に対して動力を伝達するためのものである。動力伝達機構70は、動力伝達部72と偏心回転部74とを有する。動力伝達部72は、ケーシング40の長手方向の一端側に設けられている。動力伝達部72は、駆動機80の動力を受けて回転する回転軸73を有する。回転軸73は、軸受75に軸支され、駆動機80の動力を偏心回転部74に伝達する。
【0066】
偏心回転部74は、ケーシング40の中間部46に設けられている。偏心回転部74は、動力伝達部72とロータ60とを動力伝達可能なように接続する部分である。偏心回転部74には、上述の連結軸10が採用されている。これにより、偏心回転部74は、駆動機80を作動させることにより発生した回転動力をロータ60に伝達させ、ロータ60を偏心回転させることが可能である。
【0067】
連結軸10は、ロータ60がステータ50の内側において自転しつつ、ステータ50の内周面52に沿って公転しながら偏心回転可能なように動力伝達部72とロータ60とを接続する。連結軸10は、軸線方向に対して交差する方向への撓みを許容しつつ、軸線周り方向へのねじれを抑制可能な特性を有する。
【0068】
また、連結軸10は、駆動側及びロータ側のそれぞれに接続部76を有し、両者の間にねじれ形状部12が形成されている。これにより、連結軸10は、駆動機80を作動させることにより発生した回転駆動力をロータ60に伝達させ、ロータ60を偏心回転させることが可能である。
【0069】
図9に示すように、連結軸10は、接続部76を介してロータ60及び動力伝達部72としての回転軸73に接続されている。接続部76は、ロータ60及び回転軸73と接続するための短い円柱形状の土台を有する。接続部76は、前記土台とねじれ形状部12とを接続するつなぎ目の部分にアールが設けられている。このようにアールを設けることで、接続部76に応力が集中することを防止でき、接続部76での連結軸10の折損を防止することができる。
【0070】
接続部76のロータ60側及び回転軸73側は、逆ねじが形成されたねじ部(図示しない)を備えている。また、ロータ60の基端部、及び回転軸73の先端部には、逆ねじ状のねじ穴(図示しない)が設けられている。ロータ60及び連結軸10は、接続部76のねじ部をねじ穴に螺合させることにより接続されている。また、回転軸73及び連結軸10は、接続部76のねじ部をねじ穴に螺合させることにより接続されている。なお、連結軸10をロータ60や回転軸73と接続するためにアールを設ける場合、上述の総ねじれ角に誤差が発生することがある。従って、上述のように総ねじれ角は、180°の倍数に上述の誤差や製造上の誤差を含めた180°の倍数±20°とすることが好ましい。
【0071】
本発明の一軸偏心ねじポンプ30においては、回転軸73とロータ60との接続に連結軸10が採用されている。すなわち、連結軸10として、軸線方向に対して交差する方向への撓みを許容しつつ、軸線周り方向へのねじれを抑制可能なものが採用されている。そのため、一軸偏心ねじポンプ30においては、低粘性の流動物を低速で圧送するような過酷な使用条件下で使用したとしても、スティックスリップや脈動が生じることなく、ステータ50の内側においてロータ60をスムーズに回転させることができる。従って、本発明の一軸偏心ねじポンプ30は、動作安定性の面で優れている。
【0072】
また、本発明の一軸偏心ねじポンプ30においては、適度な可撓性と高いねじり剛性を有する連結軸10が採用されているため、従来の丸棒の可撓性連結軸90を採用した場合のように回転軸73とロータ60との間隔が長くならない。これにより、一軸偏心ねじポンプ30を長手方向にコンパクト化することができる。また、連結軸10は、上記のような接続部76のねじ部によりロータ60及び回転軸73と接続されるので、ユニバーサルジョイントに比べて摩耗による異物が発生しない。そのため、一軸偏心ねじポンプ30においては、連結軸10の摩耗に伴う流動物への異物の混入の問題を最小限に抑制できる。
【0073】
また、本発明の一軸偏心ねじポンプ30においては、ロータ60のねじれ方向と、連結軸10のねじれ方向とを一致させることが好ましい。これにより、上述の連結軸10の旋回に伴って、ケーシング40内の流動物をステータ50側に押し込むことが可能になる。従って、粘性の高い流動物であっても、ケーシング40内の流動物を好適にステータ50側に押し込むことが可能になる。これにより、ステータ50の内部空間の容積を流動物で満たしやすくなるので、移送効率が向上する。また、ポンプが逆転吸込で使用される場合には、ステータ50から吐出された流動物のケーシング40外への吐出をさらに補助することができる。
【0074】
上述した一軸偏心ねじポンプ30においては、接続部76を介して連結軸10に対してロータ60及び動力伝達部72の回転軸73を接続した例を示したが、これ以外の方法により接続したものであっても良い。例えば、ロータ60の端部や回転軸73の端部にねじ軸を設けるとともに連結軸10側にねじ穴を設け、前記ねじ穴にねじ軸を螺合させることにより接続しても良い。また、本実施形態においては、ねじにより、連結軸10をロータ60及び回転軸73と連結したが、ピンや溶接等による連結を排除するものではなく、用途に応じて、各種の連結手段を用いることができる。
【0075】
本実施形態の連結軸10は、上述の一軸偏心ねじポンプ30だけでなく、各種の装置の偏心軸として用いることができる。例えば、ポンプ、コンプレッサ、往復機構等の偏心回転を利用する分野において好ましく使用することができる。
【0076】
また、本実施形態の連結軸10は、連結軸10の軸線方向に直交する断面の形状が軸線方向に向かうに連れて連続的にねじれた形状にねじれ形状部12を形成したが、これに代えて、断続的な段差状に旋回するようにねじれた形状であるねじれ形状部を少なくとも一部に形成するようにしても良い。
【0077】
以上が本発明の実施形態であるが、上述の実施形態は、一実施形態を示したものに過ぎず、本発明が上述したものに限られないことはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、曲げ剛性が低く、かつ高いねじり剛性を必要とする分野で利用が可能であり、可撓性を必要とし、かつ高いねじり剛性を必要とする偏心軸に好適に利用が可能である。また、一軸偏心ねじポンプとして、粘性液の吐出が必要な分野で好適に利用が可能である。
【符号の説明】
【0079】
10 連結軸
11 板状部材
12 ねじれ形状部
13 断面
14 対称軸
15 対称点
30 一軸偏心ねじポンプ
31 ポンプ機構
46 中間部
56 流体搬送路
60 ロータ
73 回転軸(駆動側回転部)
80 駆動機
90 可撓性連結軸(丸棒)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9