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特許7568342めっき欠陥推定方法および半導体装置の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】めっき欠陥推定方法および半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/288 20060101AFI20241008BHJP
   G01N 21/27 20060101ALI20241008BHJP
   G01N 23/2055 20180101ALI20241008BHJP
   H01L 21/66 20060101ALI20241008BHJP
   H01L 21/3205 20060101ALI20241008BHJP
   H01L 21/768 20060101ALI20241008BHJP
   H01L 23/522 20060101ALI20241008BHJP
   H01L 21/329 20060101ALI20241008BHJP
   H01L 29/868 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
H01L21/288 E
G01N21/27 A
G01N23/2055 320
H01L21/66 J
H01L21/88 T
H01L29/91 A
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021159508
(22)【出願日】2021-09-29
(65)【公開番号】P2023049645
(43)【公開日】2023-04-10
【審査請求日】2024-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000233273
【氏名又は名称】ミネベアパワーデバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 玲緒
(72)【発明者】
【氏名】田畑 利仁
(72)【発明者】
【氏名】濱田 寛哉
【審査官】早川 朋一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-145667(JP,A)
【文献】特開2005-015885(JP,A)
【文献】特開2020-035812(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/288
H01L 21/3205
H01L 21/329
H01L 21/66
H01L 21/768
H01L 23/522-23/532
H01L 29/861-29/885
G01N 23/2055
G01N 21/27
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下地層にめっきの前処理を施すめっき前処理工程よりも前に、前記下地層の表面の物性を測定する測定工程と、
測定された前記物性に基づいて、めっきにより前記下地層上に生じるスパイクの発生度合を推定する推定工程と、を含むめっき欠陥推定方法。
【請求項2】
請求項1に記載のめっき欠陥推定方法であって、
前記測定工程は、前記下地層の表面を光学測定する工程であるめっき欠陥推定方法。
【請求項3】
請求項2に記載のめっき欠陥推定方法であって、
前記下地層の表面の反射率が閾値以上であるとき、前記スパイクの発生度合が低いと推定するめっき欠陥推定方法。
【請求項4】
請求項2に記載のめっき欠陥推定方法であって、
前記下地層の表面の明度が閾値以上であるとき、前記スパイクの発生度合が低いと推定するめっき欠陥推定方法。
【請求項5】
請求項1に記載のめっき欠陥推定方法であって、
前記測定工程は、前記下地層の表面をX線回折測定する工程であるめっき欠陥推定方法。
【請求項6】
請求項5に記載のめっき欠陥推定方法であって、
前記下地層の表面の結晶子径が閾値以上であるとき、前記スパイクの発生度合が低いと推定するめっき欠陥推定方法。
【請求項7】
請求項1に記載のめっき欠陥推定方法であって、
前記下地層は、アルミニウムまたはアルミニウム合金で形成されているめっき欠陥推定方法。
【請求項8】
請求項1に記載のめっき欠陥推定方法であって、
前記めっきは、ニッケルめっきまたはニッケル合金めっきであるめっき欠陥推定方法。
【請求項9】
半導体ウェハ上に下地層を形成する下地層形成工程と、
前記下地層にめっきの前処理を施すめっき前処理工程と、
前処理が施された前記下地層にめっきを施すめっき工程と、
前記めっき前処理工程よりも前に、前記下地層の表面の物性を測定する測定工程と、
測定された前記物性に基づいて、めっきにより前記下地層上に生じるスパイクの発生度合を推定する推定工程と、を含む半導体装置の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の半導体装置の製造方法であって、
前記測定工程は、前記半導体ウェハの中央部の前記下地層の表面の物性を測定する工程である半導体装置の製造方法。
【請求項11】
請求項9に記載の半導体装置の製造方法であって、
前記測定工程は、前記半導体ウェハの周縁部の前記下地層の表面の物性を測定する工程である半導体装置の製造方法。
【請求項12】
請求項9に記載の半導体装置の製造方法であって、
前記推定工程で推定された前記スパイクの発生度合が所定の閾値よりも多い場合は、前記めっき前処理工程と前記めっき工程を中止する半導体装置の製造方法。
【請求項13】
請求項9に記載の半導体装置の製造方法であって、
前記推定工程で推定された前記スパイクの発生度合が所定の閾値よりも多い場合と少ない場合とで、前記めっき前処理工程の内容を異ならせる半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっきにより下地層上に生じるスパイクの発生度合を推定するめっき欠陥推定方法、および、これを用いた半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、均質で欠陥が少ないめっき膜を形成するために、種々のめっきプロセスが開発されている。電解めっきや無電解めっきは、製品の外観の向上や、耐摩耗性、耐食性等の向上や、半導体装置の微細構造の構築等、種々の目的で用いられている。ニッケルめっきは、機械的性質や耐食性に優れ、密着性も良好であるため、各種の分野で利用されている。
【0003】
特許文献1には、無電解ニッケルメッキ方法または無電解ニッケル合金メッキ方法を用いた黒色光輝材や、その製造方法が記載されている。基材としては、アルミニウム片等が挙げられている。黒色光輝材の可視光における反射率を調整すると、所望の光輝感が得られるとされている。
【0004】
特許文献2には、粗化ニッケルめっき板が記載されている。基材としては、アルミニウム板等が挙げられている。粗化ニッケル相の表面の明度を調整すると、優れた密着性が得られるとされている。
【0005】
特許文献3には、硬質めっき皮膜を有する耐摩耗性部材や、この部材を用いた動力伝達部品が記載されている。硬質めっき皮膜は、Ni-Pめっきで形成されている。基材としては、アルミニウム合金等が挙げられている。Ni-Pめっき皮膜の結晶子平均サイズを調整すると、耐摩耗性、疲労寿命、めっき密着性等が保障されるとされている。
【0006】
特許文献4には、ニッケルめっき時に生じるスパイク現象について記載されている。めっきの前処理段階で、アルミ素地が凹状にエッチングされると、その凹みにめっきによるニッケルが入り込み、スパイク状に観察される旨が記載されている。水酸化第4級アンモニウムを含む金属置換処理液によると、アルミニウム素地へのアタックを抑え、クラックの発生が抑えられるとされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】特開2002-363771号公報
【文献】国際公開第2020/017655号
【文献】特開2007-023316号公報
【文献】特開2009-127101号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
半導体装置の製造プロセスでは、半導体素子を接続する電極の表面に、めっきが施されていることがある。現在、半導体装置の製造をはじめとする種々の分野では、めっき欠陥の発生度合を早期に把握することが望まれている。めっき欠陥が、めっき後の製品検査時に検出されると、めっき工程自体が無駄になり、歩留まりに大きく影響する。そのため、めっき欠陥の発生度合を、めっき膜自体の検査ではなく、めっきの下地の物性から推定したいという要望が生じている。
【0009】
特許文献1~3では、適切なめっき膜を形成するために、反射率、明度、結晶子サイズ等を調整している。しかし、これらの物性は、めっき膜の表面の物性であり、めっき後にはじめて判明する物性である。特許文献1~3のように、めっき膜の表面の物性を測定する方法では、めっき工程を含めた歩留まりを改善することはできない。めっき欠陥の発生度合を、めっき工程よりも前に推定して、めっき欠陥が発生するリスクに応じて、めっき工程を実施するか否かを判断可能にする技術が望まれている。
【0010】
めっき欠陥としては、特に、スパイク現象が問題となる。スパイク現象は、めっき膜が下地の表面にスパイク状に入り込む現象である。スパイク現象は、めっきの前処理時に、下地の金属が孔食を生じた場合に、めっき時にその孔内にめっき金属が析出して生じる。下地とめっき膜との界面には、無数の突状、針状等のスパイクが形成される。スパイクが形成されると、めっき膜の密着性が低下したり、電気的な短絡を生じたりする虞があるため、製品寿命が短くなる虞がある。
【0011】
そこで、本発明は、めっきにより生じるスパイクの発生度合をめっき膜の形成前に推定できるめっき欠陥推定方法、および、これを用いた半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するために本発明に係るめっき欠陥推定方法は、下地層にめっきの前処理を施すめっき前処理工程よりも前に、前記下地層の表面の物性を測定する測定工程と、測定された前記物性に基づいて、めっきにより前記下地層上に生じるスパイクの発生度合を推定する推定工程と、を含む。
【0013】
また、本発明に係る半導体装置の製造方法は、半導体ウェハの表面に下地層を形成する下地層形成工程と、前記下地層にめっきの前処理を施すめっき前処理工程と、前処理が施された前記下地層にめっきを施すめっき工程と、前記めっき前処理工程よりも前に、前記下地層の表面の物性を測定する測定工程と、測定された前記物性に基づいて、めっきにより前記下地層上に生じるスパイクの発生度合を推定する推定工程と、を含む。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、めっきにより生じるスパイクの発生度合をめっき膜の形成前に推定できるめっき欠陥推定方法、および、これを用いた半導体装置の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に係るめっき欠陥推定方法を示すフローチャートである。
図2】半導体装置の構成の一例を模式的に示す断面図である。
図3A】半導体装置の製造方法(酸化膜を形成した状態)を示す図である。
図3B】半導体装置の製造方法(p型半導体層を形成した状態)を示す図である。
図3C】半導体装置の製造方法(金属下地層を形成した状態)を示す図である。
図4A】半導体装置の製造方法(樹脂層を形成した状態)を示す図である。
図4B】半導体装置の製造方法(金属下地層を形成した状態)を示す図である。
図4C】半導体装置の製造方法(めっき層を形成した状態)を示す図である。
図5】無電解めっきのプロセスを示すフローチャートである。
図6】下地層の表面の明度の測定結果とスパイクの発生度合の評価結果との関係を示す図である。
図7】下地層の表面の反射率の測定結果とスパイクの発生度合の評価結果との関係を示す図である。
図8】下地層の表面の結晶子径の測定結果とスパイクの発生度合の評価結果との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態に係るめっき欠陥推定方法、および、これを用いた半導体装置の製造方法について、図を参照しながら説明する。なお、以下の各図において共通する構成については同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0017】
図1は、本発明の実施形態に係るめっき欠陥推定方法を示すフローチャートである。
図1に示すように、本実施形態に係るめっき欠陥推定方法は、下地層形成工程S110や、めっき前処理工程S130や、めっき工程S140に付随して、めっき欠陥推定工程S120として実施される。めっき欠陥推定工程S120は、測定工程S10と、推定工程S20と、判定工程S30と、を含む。判定工程S30の結果に応じて、既定のめっき前処理工程S130と、めっき工程S140が実施されるか、または、既定のめっき前処理工程S130と、めっき工程S140が中止される。
【0018】
本実施形態に係るめっき欠陥推定方法は、めっきにより生じるスパイクの発生度合を推定する方法である。本実施形態に係るめっき欠陥推定方法では、スパイクの発生度合が、めっきを施される下地層の表面の物性から推定される。スパイクの発生度合は、めっき膜を実際に形成しなくとも、めっき膜の形成前に推定できる。そのため、めっきの実施および不実施を、めっき膜の形成前に判断することが可能になる。
【0019】
スパイクは、めっき膜が下地層の表面にスパイク状の形態で入り込むスパイク現象によって生じる。スパイクは、めっきの前処理時に、金属で形成された下地層が孔食を生じた場合に、めっき時にその孔内にめっき金属が析出して形成される。スパイクは、めっき金属で形成されており、下地層とめっき膜との界面に、下地層側に突出する突状、針状等の形態で無数に生じる。
【0020】
スパイクが形成されると、めっき膜の密着性の低下や、下地層を経由した電気的な短絡を生じる虞がある。そのため、めっきを施された製品の製品寿命が短くなる虞がある。しかし、本実施形態に係るめっき欠陥推定方法によると、めっき膜の形成前にスパイクの発生度合を推定できるため、スパイクの発生度合の推定結果に基づいて、めっき前処理工程S130と、めっき工程S140を実施するか否かを、予め判断することができる。よって、製品の歩留まりを改善することができる。
【0021】
スパイクの発生度合は、例えば、スパイクの本数として評価できる。スパイクの本数は、下地層とめっき膜との界面において、界面に沿った仮想直線の単位長さ当たりに交差するスパイクの本数として定義できる。例えば、界面の長さ1μm当たりの本数が1本程度であれば、スパイクの発生度合は低いといえる。一方、数本を超えると、スパイクの発生度合は高いといえる。或いは、スパイクの発生度合は、下地層とめっき膜との界面の単位面積当たりに交差するスパイクの本数等として評価することもできる。
【0022】
本実施形態に係るめっき欠陥推定方法では、下地層の表面の物性とスパイクの発生度合との相関関係を、推定を行う前に予め求めておく。相関関係は、スパイクの発生度合が既知であるめっき材、すなわち、既にスパイクが発生しているめっき材を用いて求めておく。既にスパイクが発生しているめっき材の下地層の表面の物性と、スパイクの発生度合とを、それぞれ測定すると、これらの相関関係が求まる。
【0023】
スパイクの発生度合の推定は、めっきの前処理が施される前である被めっき材を対象として行う。スパイクの発生度合が未知である被めっき材(下地層)について、下地層の表面の物性を測定し、その測定結果を、スパイクの発生度合が既知であるめっき材を用いて求めた相関関係に当てはめると、スパイクの発生度合の推定結果として、下地層とめっき層との界面の単位長さ当たりのスパイクの概算本数等が求まる。
【0024】
下地層形成工程S110は、めっきを施される被めっき材上に金属で形成された下地層を形成する工程である。
【0025】
下地層を形成する金属としては、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム、マグネシウム合金等が挙げられる。これらの金属は、標準電極電位が亜鉛よりも低く、電気化学的に腐食し易い卑金属である。これらの金属は、スパイクの要因となる孔食を生じ易いため、これらの金属で形成された下地層のスパイクの発生度合を推定すると、製品の歩留まりを大きく改善することができる。
【0026】
測定工程S10は、めっきの前処理よりも前に、下地層の表面の物性を測定する工程である。前処理工程S130では、下地層を形成する金属の種類や、処理に使用する酸溶液、アルカリ溶液、薬液等の種類に応じて、スパイク現象の要因となる孔食が生じる可能性がある。測定工程S10では、下地層の表面の物性を測定して、このような孔食の発生度合やスパイクの発生度合を孔食の発生前に推定するための判断材料とする。
【0027】
測定工程S10としては、下地層の表面を光学測定する工程、および、下地層の表面をX線回折測定する工程のうち、いずれかを行うことができる。光学測定では、下地層の表面の反射率、または、下地層の表面の明度を測定する。X線回折測定では、X線回折スペクトルを測定し、下地層の金属による適宜のピークの半値全幅を求め、半値全幅を用いた計算によって下地層の表面の結晶子径を求める。
【0028】
下地層の表面の反射率、下地層の表面の明度、および、下地層の表面の結晶子径は、孔食の発生の可能性を間接的に示しており、スパイクの発生度合と相関関係があることが、本発明者らによって確認されている。スパイクの発生度合が既知である被めっき材について、これらの物性を測定すると、これらの物性とスパイクの発生度合との相関関係が求まる。スパイクの発生度合が未知である被めっき材について、これらの物性を測定して相関関係への当てはめを行うと、未知であるスパイクの発生度合を推定できる。
【0029】
推定工程S20は、測定された下地層の表面の物性に基づいて、めっきにより下地層上に生じるスパイクの発生度合を推定する工程である。推定工程S20では、スパイクの発生度合が未知である被めっき材についての測定結果を、スパイクの発生度合が既知であるめっき材を用いて求められた相関関係に当てはめ、被めっき材についてのスパイクの発生度合の推定結果を求める。
【0030】
下地層の表面の物性とスパイクの発生度合との相関関係は、二軸グラフ等としてプロットすることができる。この相関関係は、最小二乗法等で回帰分析して、線形的な相関関係として推定に適用できる。また、機械学習の手法を用いることでも推定に適用できる。被めっき材についてのスパイクの発生度合の推定結果は、下地層とめっき膜との界面の単位長さ当たりのスパイクの概算本数の推定値や、概算本数の推定範囲等として求めることができる。
【0031】
推定工程S20では、スパイクの発生度合の推定を行うために、スパイクの発生度合が既知であるめっき材を用いて求められた相関関係から、線形的な相関関係等を表す回帰モデル式を作成できる。回帰モデル式に、スパイクの発生度合が未知である被めっき材についての下地層の表面の物性の測定結果を代入すると、下地層とめっき膜との界面の単位長さ当たりのスパイクの概算本数の推定値や、概算本数の推定範囲等を求めることができる。
【0032】
判定工程S30は、推定されたスパイクの発生度合を所定の基準と比較して、発生する見込みがあるスパイクの多少を判定する工程である。被めっき材についてのスパイクの発生度合の推定結果を、製品に応じた所定の基準等と比較すると、被めっき材の処分を、スパイクの発生リスクに応じて仕分けすることができる。
【0033】
比較の基準としては、下地層とめっき膜との界面の単位長さ当たりのスパイクの本数や、本数の範囲等であって、任意の数値や数値範囲を設定することができる。例えば、半導体素子が接続される電極に形成されるめっき層の場合、界面の長さ1μm当たりのスパイクの本数が数本を超えると、下地層を通じた電気的な短絡を生じる可能性が高くなる。そのため、比較の基準としては、界面の長さ1μm当たりのスパイクの本数で、1本、0.5本等が好ましい。
【0034】
図1に示すように、スパイクの発生度合の推定結果が閾値よりも多い場合(判定工程S30;YES)、既定のめっき前処理工程S130とめっき工程S140を中止することができる。なお、単純に中止して廃棄してしまうのではなく、スパイクの発生度合の推定結果が閾値よりも多い場合と少ない場合とで、めっき前処理工程S130の内容を異ならせるようにしてもよい。めっき前処理工程S130の内容を異ならせる一例として、例えば、既定のめっき前処理工程S130とは異なる条件でめっき前処理工程S130を行うことができる。めっき前処理工程S130の内容を異ならせる他の例として、例えば、めっき前処理工程S130として、既定のめっき前処理工程S130の前に、追加のめっき前処理工程として、下地層の表面に熱処理、機械研磨、化学研磨、電解研磨等のうち適切な再表面処理を施す再表面処理工程を行い、その後、再表面処理を施された被めっき材に通常の場合と同様な既定のめっき前処理工程S130を行うようにしてもよい。その後、めっき工程S140に供することができる。一方、スパイクの発生度合の推定結果が閾値よりも少ない場合(判定工程S30;NO)、既定のめっき前処理工程S130とめっき工程S140を実施することができる。
【0035】
めっき前処理工程S130は、金属で形成された下地層にめっきの前処理を施す工程である。めっき前処理工程S130では、酸溶液、アルカリ溶液、その他の薬液等を用いて、めっきを施す前の下地層の表面に洗浄処理や表面処理を施す。めっき前処理工程S130は、下地層の金属を電気化学的に腐食させてスパイクの要因となる孔食を生じさせる。めっき前処理工程S130は、一段の工程で構成されてもよいし、複数段の工程で構成されてもよい。
【0036】
めっき前処理工程S130を構成する処理としては、下地層の表面の油脂等を除去する脱脂洗浄処理、アルカリ溶液を用いて下地層の表面の酸化皮膜等を除去するアルカリ洗浄処理、酸溶液を用いてスマット等を除去する酸洗浄処理、下地層の表面を亜鉛皮膜で置換するジンケート処理等が挙げられる。
【0037】
ジンケート処理は、下地層がアルミニウムやアルミニウム合金等で形成されている場合に行われる。ジンケート処理によると、下地層の表面の酸化皮膜が除去されると共に、下地層の表面に亜鉛皮膜が一旦形成される。亜鉛皮膜が形成されると、めっき時に亜鉛とめっき金属との置換が起こるため、めっき膜の析出が促進される。ジンケート処理工程では、金属を腐食させるジンケート液が用いられる。
【0038】
めっき工程S140は、下地層の表面にめっきを施す工程である。めっきの方法は、電解めっき、および、無電解めっきのいずれであってもよい。但し、厚さや組成の均一性が高いめっき層を形成する観点や、めっき工程のコストを低減する観点からは、無電解めっきが好ましい。
【0039】
めっき層を形成するめっき金属としては、ニッケル、銅、クロム、鉄、錫、銀、パラジウム、白金、金や、これらの合金等を用いることができる。これらのめっき金属を用いる場合は、スパイクの発生度合と、金属の表面の反射率、金属の表面の明度、金属の表面の結晶子径との相関関係を、めっき金属の種類毎に予め求めておく。
【0040】
このような本実施形態に係るめっき欠陥推定方法によると、スパイクの発生度合が下地層の表面の物性から推定されるため、スパイクの発生度合をめっき膜の形成前に推定することができる。スパイクの発生が少ないと推定された被めっき材のみにめっきを施すことが可能になるため、めっき膜の密着性の低下や、下地層を通じた電気的な短絡を生じ難く、製品寿命が長い製品を得ることができる。また、スパイクの発生度合の推定結果が多い場合、めっき工程を中止したり、めっき前処理工程の条件を変更したりできるため、製品の歩留まりを改善することができる。
【0041】
次に、前記のめっき欠陥推定方法を用いた半導体装置の製造方法について、図を参照しながら説明する。
【0042】
前記のめっき欠陥推定方法は、半導体装置の製造プロセスに組み込むことができる。前記のめっき欠陥推定方法は、半導体装置の製造プロセス中に形成されるめっき層について、スパイクの発生度合を推定するために用いることができる。
【0043】
半導体装置の製造方法は、図1に示すように、下地層形成工程S110と、めっき欠陥推定工程S120と、めっき前処理工程S130と、めっき工程S140と、を含む。めっき欠陥推定工程S120は、前記のめっき欠陥推定プロセスで構成されており、測定工程S10と、推定工程S20と、判定工程S30と、を含む。
【0044】
半導体装置の製造方法は、図示しない半導体素子形成工程を有している。半導体素子形成工程は、半導体ウェハ上にスイッチング素子やダイオード素子などの半導体素子を形成する工程である。
【0045】
下地層形成工程S110では、半導体ウェハ上に金属で形成された下地層を形成する。下地層は、スパッタ法、蒸着法、化学気相成長(Chemical Vapor Deposition:CVD)法等を用いて形成できる。下地層は、例えば半導体素子の電極の一部を構成する。下地層は、半導体ウェハの表面に形成されてもよいし、半導体ウェハの表面に形成された半導体素子や絶縁膜などの機能層の表面に形成されてもよい。
【0046】
また、半導体装置としては、半導体チップでもよいし、半導体モジュールでもよい。半導体モジュールの場合は、半導体チップを絶縁基板上に電気的に接続する工程を含んでもよい。半導体装置が半導体モジュールの場合は、半導体チップを絶縁基板上に実装し、半導体チップに形成された電極を絶縁基板上に形成された配線と電気的に接続して回路を形成すると共に、これらを筐体に収容して絶縁性の封止樹脂で封止することによって完成される。
【0047】
図2は、半導体装置の構成の一例を模式的に示す断面図である。
図2には、半導体素子であるフリーホイールダイオードを備えた半導体装置100を示している。半導体装置100は、半導体チップの表面と裏面に、電気的な接続のためにめっき層104,112が形成された電極を備えている。半導体装置100が備えるめっき層104,112のうちの一方または両方は、スパイクの発生度合を推定する対象となる。
【0048】
図2には、半導体素子の基板として、n型半導体であるシリコン基板を用いた例を示している。但し、半導体素子の基板としては、p型半導体のシリコン基板を用いてもよい。半導体としては、シリコンの他に、炭化シリコン(SiC)、窒化ガリウム(GaN)、酸化ガリウム(GaO)等のワイドギャップ半導体を用いることもできる。
【0049】
また、図2には、フリーホイールダイオードが示されているが、MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等の半導体素子を備えてもよい。
【0050】
図2に示すように、半導体装置100は、絶縁基板101、導電部材102、半導体基板108、カソード電極113、アノード電極114、樹脂層111等を備えている。カソード電極113は、例えば、めっき層104、金属下地層105、銅拡散防止層106および金属層107によって形成されている。アノード電極114は、例えば、金属下地層109およびめっき層112によって形成されている。
【0051】
半導体基板108は、上面側から下面側に向けて、p型半導体層108a、n-型ドリフト層108b、n+型ドリフト層108cが、この順に積層された構造に設けられている。半導体基板108は、これらの半導体層同士の接合によって半導体素子150を形成している。p型半導体層108aは、p型不純物がドープされている。n-型ドリフト層108bは、低濃度のn型不純物がドープされている。n+型ドリフト層108cは、高濃度のn型不純物がドープされている。
【0052】
半導体基板108の下面には、下方に向けて、金属層107、銅拡散防止層106、金属下地層105、めっき層104が、この順に積層されている。金属層107、銅拡散防止層106、金属下地層105およびめっき層104は、カソード側の電極構造体であるカソード電極113を形成している。これらの層と、半導体基板108とは、互いに電気的に接続されている。
【0053】
金属層107は、電極の本体部を形成しており、アルミニウム、または、アルミニウム-ケイ素合金等のアルミニウム合金で形成される。銅拡散防止層106は、熱拡散した銅が半導体基板108に侵入するのを防止する層であり、チタン、窒化チタン、タングステン、チタンタングステン、ニッケル等で形成される。銅拡散防止層106を設けると、拡散係数が高い銅が接合層103等から半導体基板108に拡散するのを防止できる。そのため、半導体素子150の長期信頼性を向上させることができる。
【0054】
金属下地層105は、めっきを施される下地層であり、アルミニウム、または、アルミニウム-ケイ素合金等のアルミニウム合金で形成される。めっき層104は、めっきによって形成されるめっき膜であり、ニッケル-リン合金(Ni-P合金)、ニッケル-ボロン合金(Ni-B合金)等で形成される。めっき層104は、均一性や耐食性等の観点から、ニッケル-リン合金で形成されることが好ましい。
【0055】
半導体基板108の上面には、酸化膜110が形成されている。酸化膜110は、半導体基板108の上面の一部に形成されている。半導体基板108の上面には、半導体基板108が酸化膜110で覆われていないコンタクト領域が形成されており、半導体基板108が部分的に露出している。半導体基板108の露出した上面には、上方に向けて、金属下地層109、めっき層112が、この順に積層されている。金属下地層109およびめっき層112と、半導体基板108とは、互いに電気的に接続されている。
【0056】
金属下地層109の周囲には、酸化膜110が形成されており、半導体基板108が酸化膜110で覆われたターミネーション領域が形成されている。金属下地層109の周囲の酸化膜110の表面には、樹脂層111が形成されている。酸化膜110は、電気絶縁性の層であり、二酸化シリコンで形成される。樹脂層111は、電気絶縁性の層であり、ポリイミド等の絶縁樹脂で形成される。
【0057】
金属下地層109は、めっきを施される下地層であり、アルミニウム、または、アルミニウム-ケイ素合金、アルミニウム-銅合金等のアルミニウム合金で形成される。
【0058】
めっき層112は、めっきによって形成されるめっき膜であり、ニッケル-リン合金(Ni-P合金)、ニッケル-ボロン合金(Ni-B合金)等で形成される。めっき層112は、均一性や耐食性等の観点から、ニッケル-リン合金で形成されることが好ましい。
【0059】
半導体基板108によって形成された半導体素子150は、カソード電極113、アノード電極114、樹脂層111等とともに半導体チップを構成し、絶縁基板101上に実装されている。絶縁基板101の上面には、導電部材102が接合されている。カソード電極113のめっき層104は、接合層103を介して、導電部材102の上面に接合されている。めっき層104と、導電部材102や半導体基板108とは、互いに電気的に接続されている。
【0060】
絶縁基板101は、半導体素子150を支持すると共に、半導体素子150を周囲から電気的に絶縁する基板であり、例えば、セラミックスで形成される。導電部材102は、カソード側の配線を形成するパターンが形成されており、銅で形成される。接合層103は、半導体素子150と絶縁基板101とを熱的に接続しており、例えば、銅や酸化第二銅や銀などの金属焼結体で形成される。また、接合層103は、はんだで形成されてもよい。
【0061】
アノード電極114のめっき層112は、樹脂層111で覆われず、半導体装置100の上方に露出している。めっき層112の上面には、アノード側の配線を形成する不図示のワイヤが電気的に接続される。半導体素子150は、ワイヤボンディングによって他の素子等と接続されて、所定の回路を形成する。
【0062】
図3A図3Cは、半導体装置の製造方法を示す図である。図3Aは、半導体ウェハに酸化膜を形成した状態を示す断面図である。図3Bは、p型半導体層を形成した状態を示す断面図である。図3Cは、アノード側の金属下地層を形成した状態を示す図である。
【0063】
図3Aに示すように、半導体装置100の製造に際しては、はじめに、シリコンウェハ90を用意する。シリコンウェハ90の表面には、図3Aに示す状態の前に、熱酸化法によって不図示の酸化膜が形成される。表面に酸化膜が形成されたシリコンウェハ90は、フォトリソグラフィ工程に供される。フォトリソグラフィ工程では、酸化膜が形成されたシリコンウェハ90の表面に、レジスト材料を塗布する。そして、レジスト材料を露光させて、所定のパターンのレジストを現像させる。レジストで保護されていない露出した領域をエッチングすると、半導体素子150を形成する領域の酸化膜が除去される。
【0064】
続いて、酸化膜が除去された領域に、ボロン、アルミニウム等のp型不純物をドープする。そして、レジストの除去と、アニールを行うと、図3Aに示すように、シリコンウェハ90の上面側の所定の領域に、p型半導体層108aが形成される。シリコンウェハ90は、比抵抗が高いため、シリコンウェハ90の一面側にp型半導体層108aを形成すると、他面側がn型半導体層(n-型ドリフト層108b)となる。
【0065】
続いて、図3Bに示すように、シリコンウェハ90の一面側に、酸化膜110を形成する。酸化膜110は、例えば、熱酸化法、CVD法等によって形成できる。酸化膜110を、シリコンウェハ90と同様のフォトリソグラフィ工程とエッチング工程に供すると、酸化膜110の一部が除去されて、p型半導体層108aと金属下地層109とを接続するためのコンタクト領域が形成される。
【0066】
続いて、図3Cに示すように、p型半導体層108aの表面に、金属下地層109を形成する。金属下地層109は、例えば、スパッタ法、蒸着法、CVD法等によって形成できる。成膜された金属を、シリコンウェハ90と同様のフォトリソグラフィ工程とエッチング工程に供すると、パターニングされた金属下地層109が得られる。
【0067】
続いて、金属下地層109の周囲の酸化膜110の表面に、樹脂層111を形成する。樹脂層111は、例えば、ポリイミドの前駆体と感光材料を含有する溶液を、酸化膜110や金属下地層109の表面に塗布し、溶液を露光させてポリイミド化させる方法で形成できる。ターミネーション領域を露光させると、図4Aに示すように、金属下地層109の周囲が樹脂層111で封止される。
【0068】
図4A図4Cは、半導体装置の製造方法を示す図である。図4Aは、樹脂層を形成した状態を示す図である。図4Bは、カソード側の金属下地層を形成した状態を示す図である。図4Cは、アノード側のめっき層とカソード側のめっき層を形成した状態を示す図である。
【0069】
図4Aに示すように、n-型ドリフト層108bの下面側に、リン、ヒ素等のn型不純物をドープする。そして、レーザ等でアニールを行うと、シリコンウェハ90の下面側に、n-型ドリフト層108bよりも高濃度のn型不純物を含むn+型ドリフト層108cが形成される。n-型ドリフト層108bおよびn+型ドリフト層108cによって空乏層が確保される。n-型ドリフト層108bの表面側は、n型不純物をドープする前に、研削してウェハ厚を薄くしておく。
【0070】
続いて、図4Bに示すように、n+型ドリフト層108cの表面に、金属層107を形成する。また、金属層107の表面に、銅拡散防止層106を形成する。また、銅拡散防止層106の表面に、金属下地層105を形成する。金属層107、銅拡散防止層106および金属下地層105は、例えば、スパッタ法、蒸着法、CVD法等によって形成できる。例えば、金属下地層105の厚さは、Al-Si合金を用いる場合、2.0μm程度とすることができる。
【0071】
図4Cに示すように、カソード側の金属下地層105の表面に、めっき層104を形成する。また、アノード側の金属下地層109の表面に、めっき層112を形成する。めっき層104,112を形成する際には、前記のめっき欠陥推定方法によって、めっきにより生じるスパイクの発生度合を推定し、スパイクの発生リスクに応じて、適切な金属下地層105,109が形成された被めっき材を用いる。
【0072】
図1に示すように、めっき欠陥を推定する際には、はじめに、金属下地層105,109の表面の物性を測定する。そして、測定された金属下地層105,109の表面の物性に基づいて、めっきにより金属下地層105,109上に生じるスパイクの発生度合を推定する。その後、推定されたスパイクの発生度合を基準と比較してスパイクの多少を判定する。
【0073】
判定工程S30において、スパイクの発生度合が少ないと推定される場合は、既定の条件によるめっき層104,112の形成を行う。一方、判定工程S30において、スパイクの発生度合が多いと推定される場合は、既定の条件によるめっき層104,112の形成を中止する。あるいは、既定の条件によるめっき前処理工程S130の前に、例えば追加の前処理工程として、金属下地層105,109の表面の熱処理等の再表面処理を行うなど、めっき前処理工程S130の内容を異ならせてめっき前処理工程S130を実施し、めっき工程S140を経てめっき層104,112を形成してもよい。
【0074】
カソード側のめっき層104と、アノード側のめっき層112は、電解めっきおよび無電解めっきのいずれで形成してもよいが、無電解めっきで形成することが好ましい。無電解めっきを用いると、カソード側とアノード側に厚さの対称性が良好なめっき層を形成できる。厚さの対称性が良いと、めっき層に生じた応力による半導体素子150の反りや、配線を接続するはんだ時の熱反りを低減できる。そのため、半導体装置100の製造性を向上させることができる。
【0075】
めっき層104,112の厚さは、ワイヤボンディング等のはんだ付け時に、金属下地層105,109の溶融を防止する観点等からは、1μm以上10μm以下とすることが好ましい。但し、めっき層104,112の厚さは、10μmを超える厚さに厚肉化されてもよい。
【0076】
めっき層104,112を厚肉化する場合は、銅で形成された層を積層して多層構造としてもよい。銅で形成された層を積層する場合は、銅拡散防止層106と同様に、銅で形成された層と半導体基板108との間に、熱拡散した銅が半導体基板108に侵入するのを防止する銅拡散防止層を形成することが好ましい。
【0077】
なお、図4Cにおいて、めっき層は、カソード側とアノード側の両方に形成されているが、カソード側のみに形成されてもよいし、アノード側のみに形成されてもよい。めっき層を片側のみに形成する場合は、形成しない側に表面保護テープを貼付した状態でめっきを施すことができる。めっき層104,112の表面には、金めっき等を更に施すことができる。
【0078】
半導体装置100は、インバータ等の電力変換器の主要部品であるパワーモジュール等に実装できる。パワーモジュールは、ハイブリッド自動車、電気自動車、鉄道、船舶等の駆動電源や、太陽光発電、風力発電、地熱発電等の自然エネルギ発電用蓄電システム、定置用蓄電システム、無停電電源装置等のパワーコンディショナ等、各種の用途に用いることができる。
【0079】
図5は、無電解めっきのプロセスを示すフローチャートである。
図5に示すように、無電解めっきのプロセスは、脱脂洗浄工程S131と、エッチング工程S132と、第1酸洗工程S133と、1stジンケート工程S134と、第2酸洗工程S135と、2ndジンケート工程S136と、無電解めっき工程S141と、を含む。無電解めっき工程S141としては、Ni-P無電解めっきを行う工程が挙げられる。
【0080】
脱脂洗浄工程S131、エッチング工程S132、第1酸洗工程S133、1stジンケート工程S134、第2酸洗工程S135、および、2ndジンケート工程S136は、めっき前処理工程S130を構成している。なお、これらの工程のうちの、一以上は省略されてもよい。
【0081】
脱脂洗浄工程S131では、下地層の表面をアルカリ脱脂剤で洗浄して、下地層の表面に付着している油分を脱脂する。アルカリ脱脂剤としては、例えば、水酸化ナトリウム等のアルカリや、界面活性剤等を含む溶液が用いられる。
【0082】
エッチング工程S132では、下地層の表面を例えば強アルカリ溶液でエッチングして、下地層の表面の酸化皮膜を除去する。強アルカリ溶液としては、例えば、水酸化ナトリウム等のアルカリや、界面活性剤や、錯化剤等を含む溶液が用いられる。
【0083】
第1酸洗工程S133では、下地層の表面を酸溶液で洗浄して、酸化皮膜の除去によって生じた水酸化アルミニウム(Al(OH))等の不純物を除去する。酸溶液としては、硫酸、硝酸、フッ酸等を含む溶液が用いられる。
【0084】
1stジンケート工程S134では、下地層の表面をジンケート液に浸漬させて、下地層の表面に亜鉛を析出させる。亜鉛を析出させると、めっき時に亜鉛がニッケルに置換されるため、均一性が高いめっき膜を形成できる。ジンケート液としては、例えば、酸化亜鉛、水酸化ナトリウム、塩化鉄等を含む溶液が用いられる。
【0085】
第2酸洗工程S135では、下地層の表面を酸溶液で洗浄して、下地層の表面に析出した亜鉛の一部を除去する。析出した亜鉛の一部を除去すると、2ndジンケートの際に、より均一で緻密な亜鉛の皮膜を形成できる。酸溶液としては、硝酸等を含む溶液が用いられる。
【0086】
2ndジンケート工程S136では、析出した亜鉛の一部が除去された下地層の表面をジンケート液に浸漬させて、下地層の表面に亜鉛を析出させる。析出した亜鉛の一部を除去した後に、再び亜鉛を析出させると、亜鉛の皮膜が均一化および緻密化するため、亜鉛に置換されるめっき金属の均一性や緻密性も高くなる。2ndジンケートは、1stジンケートと同様のジンケート液や、処理時間や、処理温度で行うことができるが、1stジンケートよりも短時間の処理等であってもよい。
【0087】
図5に示す無電解めっきのプロセスでは、ダブルジンケート処理を行っている。カソード側の金属下地層105や、アノード側の金属下地層109は、アルミニウムやアルミニウム合金であるため、表面に酸化皮膜が形成され易い。しかし、ダブルジンケート処理を行うと、表面の酸化皮膜が除去されて、均一性や緻密性が高いめっき膜が形成される。そのため、金属下地層105,109とめっき層104,112との密着性を高めることができる。
【0088】
無電解めっき工程S141では、下地層の表面にめっき層を形成する。めっき液としては、例えば、硫酸ニッケル等のニッケル塩や、次亜リン酸ナトリウム等の次亜リン酸塩や、界面活性剤、錯化剤等を含む溶液が用いられる。カソード側のめっき層104の厚さや、アノード側のめっき層112の厚さは、例えば、3μm程度とすることができる。
【0089】
無電解ニッケル-リンめっきでは、次の式(1)および(2)で表される酸化還元反応が生じる。還元剤である次亜リン酸塩は、酸化されて亜リン酸塩となり、電子を放出する。ニッケルイオンは、還元されて金属ニッケルとなり、リンを含むニッケルがめっき膜として析出する。
PO +HO → HPO + 2H + 2e ・・・(1)
Ni2+ + 2e → Ni ・・・(2)
【0090】
無電解ニッケル-リンめっきに用いるめっき液としては、リンの含有量が1~4%程度である低リン濃度型、リンの含有量が5~11%程度である中リン濃度型、および、リンの含有量が12%程度を超える高リン濃度型がある。リンの含有量に応じて、半田の濡れ性、耐食性等が異なる種々のめっき膜が得られる。
【0091】
カソード側のめっき層104の形成や、アノード側のめっき層112の形成には、めっき液として、例えば、低リン濃度型である無電解ニッケルめっき液「トップUBPニコロンMLP」(奥野製薬工業社製)を用いることができる。但し、これらのめっき層104,112の形成には、必要とされるめっき膜の特性等に応じて、低リン濃度型、中リン濃度型および高リン濃度型のいずれを用いてもよい。
【0092】
次に、下地層の表面の物性とスパイクの発生度合との関係を調べた結果について、図を参照しながら説明する。
【0093】
めっき前処理工程S130では、金属で形成された下地層の表面が、アルカリ溶液、酸溶液、ジンケート液等によって腐食される。特に、1stジンケート工程S14や2ndジンケート工程S136では、強アルカリ性のジンケート液を用いるため、下地層の表面に孔食を生じ易い。ピット状の孔内にめっき金属が析出すると、スパイクが形成される。スパイクが発生すると、めっき膜の密着性が低下したり、電気的な短絡を生じたりする虞がある。
【0094】
本発明者らは、金属で形成された下地層の表面の物性とスパイクの発生度合との関係を明らかにするために、下地層の表面の状態を変えた半導体ウェハを作成した。そして、これらの半導体ウェハについて、低リン濃度型の無電解ニッケル-リンめっきを施した後、ニッケル-リン合金で形成されたスパイクの発生度合を評価した。
【0095】
下地層は、スパッタ法によって、アルミニウム-ケイ素合金で形成した。キャリアガスとしては、アルゴンガスを用いた。供試材としては、スパッタリング条件のうち、チャンバ内のキャリアガスの流量と成膜レートを変えることによって、下地層の表面の状態が互いに異なる複数の種類を作成した。成膜レートは、電磁界を発生させるマグネトロンのエネルギを調節して調整した。
【0096】
スパッタされた金属は、キャリアガスの流量が小さいほど平均自由行程が長くなり、成膜される金属の粒子径が大きくなる。また、スパッタされた金属は、成膜レートが高いほど運動エネルギーが高くなり、成膜される金属の粒子径が大きくなる。下地層を形成する金属の粒子径が大きいと、局部腐食が進展し難くなり、孔食に対する耐性が高くなる。そのため、キャリアガスの流量が小さいほど、また、成膜レートが高いほど、スパイクが生じ難くなると考えられる。
【0097】
金属の粒子径と、金属の表面の反射率、金属の表面の明度、金属の表面の結晶子径とには、相関関係があるため、下地層の表面の物性を測定すると、スパイクの発生度合を推定できると予測された。そこで、下地層の表面の物性が異なる種々の半導体ウェハを作製し、これらの供試材について、下地層の表面の物性を測定すると共に、スパイクの発生度合を評価して、スパイクの発生度合の推定の妥当性を検定した。
【0098】
スパイクの発生度合は、めっきされた下地層の断面を観察して評価した。断面試料は、下地層が形成された半導体ウェハを、中心を通る直径線で切断し、樹脂に埋め込み、切断面に研磨およびイオンミリングを施して作製した。供試材の断面は、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)(日立ハイテク社製、S-4300またはSU8030)で観察した。
【0099】
スパイクの発生度合は、SEM画像上で下地層とめっき層との界面を観察し、界面に沿った仮想直線の長さ1μm当たりに交差するスパイクの本数として求めた。下地層の表面の物性は、光学測定またはX線回折測定によって測定した。光学測定では、下地層の表面の明度、または、下地層の表面の反射率を求めた。X線回折では、下地層の表面の結晶子径を求めた。
【0100】
<下地層の表面の明度の測定>
下地層の表面の明度は、分光測色計(コニカミノルタ社製、CM-2600d)を用いて測定した。光源としては、キセノンランプを用いた。観察光源は、標準光源D65とした。測定位置は、半導体ウェハのオリフラの中央を通る直径線上であって、オリフラを下端として上端から下端まで等間隔に並ぶ9点とした。これらの9点のうち、中央の5点目の表面の結果を採用した。
【0101】
一般に、反射光の測定方式としては、正反射光を含むSCI(Specular Component Include)方式と、正反射光を除去したSCE(Specular Component Exclude)方式がある。下地層の表面の明度の測定では、一般に素材自体の色の管理に用いられるSCI方式を用いた。SCI方式を用いて、CIE L表色系における明度(SCI-L)を求めた。
【0102】
図6は、下地層の表面の明度の測定結果とスパイクの発生度合の評価結果との関係を示す図である。
図6において、縦軸は、下地層とめっき層との界面の長さ1μm当たりのスパイクの本数N[個/μm]、横軸は、下地層の表面の明度L(SCI-L)を示す。
【0103】
図6に示すように、下地層の表面の明度が高いほど、下地層とめっき層との界面の長さ1μm当たりのスパイクの本数が少なくなる結果が得られた。めっきの前処理工程よりも前に、下地層の表面の明度を測定すると、下地層の表面の明度とスパイクの発生度合との相関関係から、めっき欠陥であるスパイクの発生度合を推定できるといえる。
【0104】
下地層とめっき層との界面の長さ1μm当たりのスパイクの本数は、めっき層の密着性を確保する観点からは、1本以下であることが好ましい。よって、この測定条件では、下地層の表面の明度は、94以上であることが好ましい。
【0105】
光源としては、キセノンランプの他に、タングステンランプ、重水素放電管、蛍光ランプ、キセノンフラッシュランプ、ハロゲンランプ、低圧水銀ランプ、レーザ励起プラズマ光源、レーザ光源、発光ダイオード(Light Emitting Diode:LED)等を用いることができる。
【0106】
観察光源としては、標準光源D65の他に、標準光源A、標準光源C、標準光源D50、標準光源F2、標準光源F6、標準光源F7、標準光源F8、標準光源F10、標準光源F11、標準光源F12等を用いることができる。測定方式としては、十分に高い明度が確保できる限り、SCE方式を用いてもよい。表色系としては、CIE Lの他に、CIE Lhや、ハンター Labや、CIE L等を用いることができる。
【0107】
測定位置は、下地層の表面のうち、任意の位置であってよい。但し、スパイクの発生をより確実に推定する観点からは、表面の明度が低く、スパイクが発生し易い位置が好ましい。下地層が両面に形成された半導体ウェハにおけるスパイクを推定する場合、測定位置は、半導体ウェハの表面であってもよいし、半導体ウェハの裏面であってもよい。
【0108】
また、半導体ウェハにおけるスパイクを推定する場合、測定位置は、半導体ウェハの中央部の下地層の表面であってもよいし、半導体ウェハの周縁部の下地層の表面であってもよい。半導体ウェハの中央部と周縁部は、下地層の成膜条件に関して、互いにずれを生じる場合がある。スパイクが発生し易い側を測定すると、スパイクの発生度合の推定の精度が高くなる。
【0109】
対象試料のスパイクの発生度合を推定する際には、金属下地層の表面の明度と、スパイクの発生度合、すなわち、下地層とめっき層との界面の単位長さや単位面積当たりのスパイクの本数との相関関係を、参照用の供試材を用いて予め求めておく。参照用の供試材としては、同等の化学組成である下地層が形成された半導体ウェハを用いる。相関関係は、光源、観察光源、測定方式、表色系、測定位置等に応じて、個別に求めるものとする。
【0110】
<下地層の表面の反射率の測定>
下地層の表面の反射率は、分光測色計(コニカミノルタ社製、CM-2600d)を用いて測定した。光源としては、キセノンランプを用いた。観察光源は、標準光源D65とした。測定位置は、半導体ウェハのオリフラの中央を通る直径線上であって、オリフラを下端として上端から下端まで等間隔に並ぶ9点とした。これらの9点のうち、中央の5点目の表面の結果を採用した。
【0111】
下地層の表面の反射率の測定では、一般に素材自体の色の管理に用いられるSCI方式を用いた。SCI方式を用いて、波長600nmである反射光の反射率を求めた。アルミニウムによる光の反射率は、波長に対して概ね正相関を示す。波長600nmは、通常の光源の場合に、比較的高い反射率が得られる条件である。
【0112】
図7は、下地層の表面の反射率の測定結果とスパイクの発生度合の評価結果との関係を示す図である。
図7において、縦軸は、下地層とめっき層との界面の長さ1μm当たりのスパイクの本数N[個/μm]、横軸は、下地層の表面の波長600nmである反射光の反射率R[%]を示す。
【0113】
図7に示すように、下地層の表面の反射率が高いほど、下地層とめっき層との界面の長さ1μm当たりのスパイクの本数が少なくなる結果が得られた。めっきの前処理工程よりも前に、金属下地層の表面の反射率を測定すると、下地層の表面の反射率とスパイクの発生度合との相関関係から、めっき欠陥であるスパイクの発生度合を推定できるといえる。
【0114】
下地層とめっき層との界面の長さ1μm当たりのスパイクの本数は、めっき層の密着性を確保する観点からは、1本以下であることが好ましい。よって、この測定条件では、下地層の表面の反射率は、86%以上であることが好ましい。
【0115】
光源としては、キセノンランプの他に、タングステンランプ、重水素放電管、蛍光ランプ、キセノンフラッシュランプ、ハロゲンランプ、低圧水銀ランプ、レーザ励起プラズマ光源、レーザ光源、発光ダイオード(Light Emitting Diode:LED)等を用いることができる。
【0116】
観察光源としては、標準光源D65の他に、標準光源A、標準光源C、標準光源D50、標準光源F2、標準光源F6、標準光源F7、標準光源F8、標準光源F10、標準光源F11、標準光源F12等を用いることができる。
【0117】
反射光としては、波長600nmの他に、下地層を形成する金属に吸収され難い限り、適宜の波長の光を測定できる。反射光は、紫外領域、可視光領域、赤外領域等のいずれの波長域であってもよい。反射光の測定は、分光測色計の他に、全反射率計、分光反射率計等を用いて行うこともできる。
【0118】
測定位置は、下地層の表面のうち、任意の位置であってよい。但し、スパイクの発生をより確実に推定する観点からは、表面の反射率が低く、スパイクが発生し易い位置が好ましい。下地層が両面に形成された半導体ウェハにおけるスパイクを推定する場合、測定位置は、半導体ウェハの表面であってもよいし、半導体ウェハの裏面であってもよい。
【0119】
また、半導体ウェハにおけるスパイクを推定する場合、測定位置は、半導体ウェハの中央部の下地層の表面であってもよいし、半導体ウェハの周縁部の下地層の表面であってもよい。半導体ウェハの中央部と周縁部は、下地層の成膜条件に関して、互いにずれを生じる場合がある。スパイクが発生し易い側を測定すると、スパイクの発生度合の推定の精度が高くなる。
【0120】
対象試料のスパイクの発生度合を推定する際には、金属下地層の表面の反射率と、スパイクの発生度合、すなわち、下地層とめっき層との界面の単位長さや単位面積当たりのスパイクの本数との相関関係を、参照用の供試材を用いて予め求めておく。参照用の供試材としては、同等の化学組成である下地層が形成された半導体ウェハを用いる。相関関係は、光源、観察光源、測定方式、測定位置等に応じて、個別に求めるものとする。
【0121】
<下地層の表面の結晶子径の測定>
下地層の表面の結晶子径は、X線回折(X-ray Diffraction:XRD)測定装置(リガク社製、RINT2500HL)を用いて測定した。測定されたX線回折スペクトルにおいて、最も回折強度が高いピークは、アルミニウムの(200)面に帰属される回折ピークであった。この回折ピークの半値全幅を用いて、下地層の表面の結晶子径を求めた。
【0122】
下地層の表面の結晶子径は、Scherrer法を用いて求めた。下地層の表面に存在する金属の結晶子径D[nm]は、次の数式(I)で表されるScherrerの式を満たす。
D=K・λ/β・cosθ・・・(I)
但し、数式(I)において、Kは定数、λはX線の波長[nm]、βは半値全幅[rad]、θはブラッグ角[rad]を示す。
【0123】
図8は、下地層の表面の結晶子径の測定結果とスパイクの発生度合の評価結果との関係を示す図である。
図8において、縦軸は、下地層とめっき層との界面の長さ1μm当たりのスパイクの本数N[個/μm]、横軸は、下地層の表面のアルミニウムの結晶子径D[nm]を示す。
【0124】
図8に示すように、下地層の表面の結晶子径が大きいほど、下地層とめっき層との界面の長さ1μm当たりのスパイクの本数が少なくなる結果が得られた。めっきの前処理工程よりも前に、下地層の表面の結晶子径を測定すると、下地層の表面の結晶子径とスパイクの発生度合との相関関係から、めっき欠陥であるスパイクの発生度合を推定できるといえる。
【0125】
下地層とめっき層との界面の長さ1μm当たりのスパイクの本数は、めっき層の密着性を確保する観点からは、1本以下であることが好ましい。よって、この測定条件では、下地層の表面の結晶子径は、400nm以上であることが好ましい。
【0126】
下地層の表面の結晶子径は、Hall法を用いて求めてもよい。下地層の表面に存在する金属の結晶子径D[nm]は、次の数式(II)で表されるWilliamson-Hallの式を満たす。
β・cosθ/λ=2ε・sinθ/λ+K・D・・・(II)
但し、数式(II)において、Kは定数、λはX線の波長[nm]、βは半値全幅[rad]、θはブラッグ角[rad]、εは格子歪みを示す。
【0127】
アルミニウムの回折線としては、適切な回折ピークが得られる限り、(200)面の他に、(220)面等の適宜のミラー指数の回折面による回折線を用いることができる。また、下地層がアルミニウム以外で形成されている場合は、下地層を形成する金属に応じた回折線を用いることができる。但し、スパイクの発生をより確実に推定する観点からは、回折強度が高い回折線を用いることが好ましい。
【0128】
測定位置は、下地層の表面のうち、任意の位置であってよい。但し、スパイクの発生をより確実に推定する観点からは、表面の結晶子径が小さく、スパイクが発生し易い位置が好ましい。下地層が両面に形成された半導体ウェハにおけるスパイクを推定する場合、測定位置は、半導体ウェハの表面であってもよいし、半導体ウェハの裏面であってもよい。
【0129】
また、半導体ウェハにおけるスパイクを推定する場合、測定位置は、半導体ウェハの中央部の下地層の表面であってもよいし、半導体ウェハの周縁部の下地層の表面であってもよい。半導体ウェハの中央部と周縁部は、下地層の成膜条件に関して、互いにずれを生じる場合がある。スパイクが発生し易い側を測定すると、スパイクの発生度合の推定の精度が高くなる。
【0130】
対象試料のスパイクの発生度合を推定する際には、下地層の表面の結晶子径と、スパイクの発生度合、すなわち、下地層とめっき層との界面の単位長さや単位面積当たりのスパイクの本数との相関関係を、参照用の供試材を用いて予め求めておく。参照用の供試材としては、同等の化学組成である下地層が形成された半導体ウェハを用いる。相関関係は、回折線の種類、算出方法、測定位置等に応じて、個別に求めるものとする。
【0131】
図6図7および図8に示すように、下地層の表面の物性を測定した結果、スパイクの発生度合は、金属の表面の反射率、金属の表面の明度、金属の表面の結晶子径と相関を示すことが確認された。スパイクの発生度合が未知である被めっき材について、金属の表面の反射率、金属の表面の明度、または、金属の表面の結晶子径を測定すると、スパイクの発生度合が既知であるめっき材を用いて求められた相関関係への当てはめによって、スパイクの発生度合を推定できることが確認された。
【0132】
なお、本実施形態に係るめっき欠陥推定方法は、種々のめっき欠陥に対して広範に適用できる。下地層の表面の物性とめっき欠陥の発生度合との相関関係が利用できる限り、めっき膜が下地の表面に突状、針状等の形態で入り込むスパイク現象の他に、潰食、すきま腐食等に起因するめっき欠陥を推定することもできる。
【0133】
以上の本実施形態に係るめっき欠陥推定方法および半導体装置の製造方法によると、めっきにより生じるスパイクの発生度合を、めっき膜の形成前に、下地の表面の物性から推定することができる。スパイクの発生度合の推定は、非破壊による測定に基づいて行うことができる。スパイクの発生が少ないと推定された被めっき材のみにめっきを施すことが可能になるため、信頼性の高い半導体装置や、その製造方法を提供することができる。製品の歩留まりを改善することができるため、半導体装置等を低コストで提供できる。また、めっき膜の密着性の低下や、下地層を通じた電気的な短絡を生じ難くなるため、半導体装置を搭載する電力変換装置の小型化・高信頼化が可能となる。
【0134】
以上、本発明について説明したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。例えば、本発明は、必ずしも前記の実施形態が備える全ての構成を備えるものに限定されない。或る実施形態の構成の一部を他の構成に置き換えたり、或る実施形態の構成の一部を他の形態に追加したり、或る実施形態の構成の一部を省略したりすることができる。
【符号の説明】
【0135】
90 シリコンウェハ
100 半導体装置
101 絶縁基板
102 導電部材
103 接合層
104 めっき層
105 金属下地層
106 銅拡散防止層
107 金属層
108 半導体基板
108a p型半導体層
108b n-型ドリフト層
108c n+型ドリフト層
109 金属下地層
110 酸化膜
111 樹脂層
112 めっき層
113 カソード電極
114 アノード電極
150 半導体素子
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図4C
図5
図6
図7
図8