(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】プレス加工に用いる金型、プレス加工装置、および金型の製造方法、ならびに金属板の製造方法
(51)【国際特許分類】
B21D 37/20 20060101AFI20241008BHJP
B21D 28/14 20060101ALI20241008BHJP
B21D 28/16 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
B21D37/20 Z
B21D28/14 A
B21D28/14 B
B21D28/16
(21)【出願番号】P 2024007312
(22)【出願日】2024-01-22
【審査請求日】2024-01-22
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】507334392
【氏名又は名称】伊藤 國男
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【氏名又は名称】高橋 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100224775
【氏名又は名称】南 毅
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 國男
【審査官】豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】特開昭51-110791(JP,A)
【文献】特開平03-165935(JP,A)
【文献】特開2001-025831(JP,A)
【文献】特開2009-078304(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 37/20
B21D 28/00 - 28/36
B21D 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ファインブランキング方式を基にしたプレス加工による厚さが50μm以下の極薄の金属板の剪断に用いる金型の製造方法であって、
後にパンチとノックアウトとなる第1の金型用部材の
極めて微細な入りくんだ蛇行形状を有する輪郭を、ワイヤーカット放電加工によって、パンチとノックアウトの形状に加工する工程と、
後にダイとストリッパとなる
、前記第1の金型用部材と3μm~5μmのクリアランスで噛み合う、極めて微細な入りくんだ蛇行形状を有する第2の金型用部材の輪郭を、ワイヤーカット放電加工によって、ダイとストリッパの形状に加工する工程と
を有し、
次いで、前記第1の金型用部材と前記第2の金型用部材を、噛み合わせた状態で、噛み合わせ方向と直交する平面でそれぞれ2つに同時に切断することにより、切断面が面対称の形状であり、該切断面が金属板の剪断時に該金属板への接触面となるパンチとノックアウト、および、切断面が面対称の形状であり、該切断面が前記金属板の剪断時に該金属板への接触面となるダイとストリッパを製造する工程を有する、金型の製造方法。
【請求項2】
ファインブランキング方式を基にしたプレス加工による厚さが50μm以下の極薄の金属板の剪断に用いる金型であって、
ワイヤーカット放電加工によって、極めて微細な入りくんだ蛇行形状を有するパンチとノックアウトの形状に加工された第1の金型用部材と、ワイヤーカット放電加工によって、極めて微細な入りくんだ蛇行形状を有するダイとストリッパの形状であって、前記第1の金型用部材と3μm~5μmのクリアランスで噛み合う形状に加工された第2の金型用部材とを噛み合わせ、噛み合わせ方向と直交する平面でそれぞれ2つに同時に切断することで形成された切断面が面対称の形状であり、該切断面が金属板の剪断時に該金属板への接触面となるパンチとノックアウト、および、切断面が面対称の形状であり、該切断面が前記金属板の剪断時に該金属板への接触面となるダイとストリッパとからなる金型。
【請求項3】
ファインブランキング方式を基にしたプレス加工装置であって、
前記金属板の剪断時に、前記パンチと前記ダイ、および前記ノックアウトと前記ストリッパが、該パンチと該ダイのクリアランスが3μm~5μmの状態で前記金属板に接触し剪断方向に加圧するように、前記パンチと前記ダイ、および前記ノックアウトと前記ストリッパをプレス加工装置に取り付けるホルダを備える、請求項2に記載の金型を用いたプレス加工装置。
【請求項4】
ファインブランキング方式を基にしたプレス加工による超微細形状を有する厚さが50μm以下の極薄の金属板の製造方法であって、互いに直角をなすX、Y、Z軸により規定される3次元空間において、
接触面が同一のX-Y平面座標となるようにZ方向上下から該金属板に接触するパンチとノックアウト、および、接触面が同一のX-Y平面座標となるようにZ方向上下から該金属板に接触するダイとストリッパが、X-Y平面内に存在する金属板を、該パンチとノックアウトと該ダイとストリッパとのクリアランスが3μm~5μmの状態で該金属板に接触し加圧することで剪断する工程を有し、剪断時に生じるスクラップはZ方向に移動せず前記金属板の剪断位置に保持され、後の工程で抜き落とされる、
請求項3に記載のプレス加工装置を用いた金属板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス加工に用いる金型、プレス加工装置、および金型の製造方法、ならびに金属板の製造方法に関する。さらに詳しくは、VCMスプリングに例示される、非常に複雑な超微細形状を有する極薄の金属板を製造する際の、プレス加工に用いる金型、プレス加工装置、および金型の製造方法、ならびに金属板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォン用カメラ等の手振れ補正機能等のために電子機器に組み込まれる板ばねであるVCM(Voice Coil Motor、ボイスコイルモーター)スプリングは、その特性上、非常に複雑な超微細形状を有する極薄の金属板であることが求められる。
【0003】
このような精密な金属板の製造方法として、(1)プレス加工、(2)フォトエッチング加工、(3)ワイヤーカット放電加工、等が考えられる。(1)プレス加工とは、金属材料等を金型でプレスし、物理的に剪断や打ち抜きにより所望の形状とする加工技術であり、(2)フォトエッチング加工とは、金属材料等を化学薬品でフォトマスクを施した以外の部分を化学的に腐食させることにより所望の形状とする加工技術であり、(3)ワイヤーカット放電加工とは、液体中で非常に細いワイヤーを放電させ、その発生する熱で物理的に液体中の金属材料等を溶融させることで所望の形状とする加工技術であり、いずれも文献を挙げるまでもない周知技術である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、年々高まる高精度化への要請の下では、(1)プレス加工では、金属の剪断や打ち抜きの際に生じる金属の変形やバリの発生の影響が無視できず、(2)フォトエッチング加工では、断面が丸みを帯びることが否めないため、高精度化が進むにつれ精度に懸念が生じる虞があり、またプレス加工に比べ、製造にスペースや時間を要するため大量生産に不向きであり、(3)ワイヤーカット放電加工では、ワイヤーの太さや動作が無視できないことから、高精度化が進むにつれ精度に懸念が生じる虞があり、また非常に複雑で微細な形状に沿って逐一ワイヤーを動作させるため、プレス加工に比べ、はるかに製造効率が悪く大量生産には不向きであり、特に非常に複雑な超微細形状(極めて微細な入りくんだ蛇行形状)を有する極薄の金属板を製造するには、ワイヤーの太さのため超微細な形状に沿ってワイヤーを動作させることができず、加工が不可能な場合もある。
【0005】
本発明者は、以上のような課題について鋭意研究を重ねた結果、従来のファインブランキング方式のプレス加工の金型に改良を施すことで解決策を見出した。本発明は、非常に複雑な超微細形状を有する厚さが50μm以下の極薄の金属板を製造するものであって、またそのような金属板を製造するための、金属板の変形やバリの発生を最小限に抑えることのできるプレス加工に用いる金型、プレス加工装置、およびその金型の製造方法をも提供することを目的とする。なお、近年のワイヤーカットの精度の格段の向上が、本発明の具現化をもたらしたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の、ファインブランキング方式を基にしたプレス加工による厚さが50μm以下の極薄の金属板の剪断に用いる金型の製造方法は、後にパンチとノックアウトとなる第1の金型用部材の輪郭をパンチの形状に加工する工程と、後にダイとストリッパとなる第2の金型用部材の輪郭を前記パンチとのクリアランスが3μm~5μmであるダイの形状に加工する工程とを有し、次いで、第1の金型用部材と第2の金型用部材を、噛み合わせた状態で、噛み合わせ方向と直交する平面でそれぞれ2つに同時に切断することにより、切断面が面対称の形状であり、切断面が金属板の剪断時に金属板への接触面となるパンチとノックアウト、および、切断面が面対称の形状であり、切断面が金属板の剪断時に金属板への接触面となるダイとストリッパを製造する工程を有することを特徴とするものである。
【0007】
また、本発明の、ファインブランキング方式を基にしたプレス加工による厚さが50μm以下の極薄の金属板の剪断に用いる金型は、互いに直角をなすX、Y、Z軸により規定される3次元空間において、X-Y平面内に存在する金属板の剪断時に、接触面が同一のX-Y平面座標となるようにZ方向上下から金属板に接触するパンチとノックアウト、および、接触面が同一のX-Y平面座標となるようにZ方向上下から金属板に接触するダイとストリッパとを有し、パンチとダイのクリアランスが3μm~5μmであることを特徴とするものである。
【0008】
また、本発明の、ファインブランキング方式を基にしたプレス加工装置は、金属板の剪断時に、上述のパンチとダイ、およびノックアウトとストリッパが、パンチとダイのクリアランスが3μm~5μmの状態で上述の金属板に接触し剪断方向に加圧するように、パンチとダイ、およびノックアウトとストリッパをプレス加工装置に取り付けるホルダを備えることを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明の、ファインブランキング方式を基にしたプレス加工による超微細形状を有する厚さが50μm以下の極薄の金属板の製造方法は、互いに直角をなすX、Y、Z軸により規定される3次元空間において、接触面が同一のX-Y平面座標となるようにZ方向上下から該金属板に接触するパンチとノックアウト、および、接触面が同一のX-Y平面座標となるようにZ方向上下から金属板に接触するダイとストリッパが、X-Y平面内に存在する金属板を、パンチとダイのクリアランスが3μm~5μmの状態で金属板に接触し加圧することで剪断する工程を有し、剪断時に生じるスクラップはZ方向に移動せず前記金属板の剪断位置に保持され、後の工程で抜き落とされることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の金型、プレス加工装置、および金型の製造方法、ならびに金属板の製造方法によれば、従来のプレス加工では技術的に不可能であった非常に複雑な超微細形状(極めて微細な入りくんだ蛇行形状)を有する極薄の金属板を製造することができる。また、プッシュバックが極最小限に抑えられることから、パンチとダイの上刃と下刃の刃付研磨の頻度を大きく抑えることができ、コスト減を実現できる。さらに、従来の代替手段であったフォトエッチング加工やワイヤーカット放電加工よりも製造時間を短縮し、装置を省スペース化することができ、大量生産をはるかに有利に行うことができる。これらの本発明の効果については、「発明を実施するための形態」において詳述する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の金型の製造方法を示すY-Z平面断面図。(1)金型となる部材の分断方法を示す図、(2)部材の分断により製造された金型を示す図。
【
図2】本発明の金型を備えるプレス加工装置で極薄の金属板を剪断する仕組みを示すY-Z平面断面図。(1)~(3)剪断前の図。(4)剪断時の図。
【
図3】本発明で例示されるVCMスプリングの製造に用いる(1)パンチとノックアウト、および(2)ダイとストリッパの、X-Y平面断面図。
【
図4】本発明で例示されるVCMスプリングの製造方法を示す図。(1)本発明のプレス装置を含むプレス装置全体の断面図。(2)(1)のプレス装置により加工されるVCMスプリングの平面図。(3)(2)のVCMスプリングの正面図と回収されたコイル材形状の形態の参考図。
【
図5】
図3(2)のB-B断面で例示するVCMスプリングのプレス加工金型の断面図。
【
図6】
図3(2)のB-B断面箇所で例示するVCMスプリングのプレス加工金型の斜視図。
【
図7】本発明のVCMスプリングのプレス加工金型の全体の斜視図
【
図8】従来のフォトエッチング加工による金属シート
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態である金型、プレス加工装置、および金型の製造方法、ならびに金属板の製造方法について、主に
図1および
図2を用いて詳細に説明するが、本発明はこの実施形態に限定されるものではない。
【0013】
以下では、説明の便宜上、互いに直角をなすX,Y,Z軸により規定される3次元空間において、X-Y平面上の金属板の延びる方向をY方向、パンチ等の刃先が金属板の剪断において動作する方向をZ方向とする。また、図の寸法は、説明の便宜上、縮尺が大きく変更されている箇所がある。
【0014】
[金型の製造方法および金型]
以下の加工工程を同時進行で行う(
図1(1)参照)。
(ア)Z方向の厚みが30mmである第1の金型用部材1の輪郭を、ワイヤーカット放電加
工により、所望の形状のパンチに加工する。この加工後の第1の金型用部材1は、後の工程でX-Y平面(A-A線)で2つに切断することにより面対称の形状の切断面を有するパンチ11とノックアウト12となるものである。
(イ)Z方向の厚みが30mmである第2の金型用部材2の輪郭を、ワイヤーカット放電加
工により、上述のパンチに対応する所望の形状であって、上述のパンチとのクリアランス3が3μm~5μmであるダイに加工する。この加工後の第2の金型用部材2は、後の工程でX-Y平面(A-A線)で2つに切断することにより面対称の形状の切断面を有するダイ14とストリッパ13となるものである。
(ウ)パンチに加工された第1の金型部材1とダイに加工された第2の金型部材2をクリアランス3が3μm~5μmで噛み合うことを確認する。
なお、本発明は、非常に複雑な超微細形状(極めて微細な入りくんだ蛇行形状)を有する極薄の金属板を製造するための金型であるため、(ア)および(イ)の加工工程はプロファイル研磨加工に依ることはできない。
【0015】
次に、第1の金型部材1と第2の金型部材2を噛み合わせた状態で、両部材のZ方向に端から15mmの位置で、噛み合わせ方向であるZ方向と直交するX-Y平面(A-A線)でそれぞれ同時に2つに切断する(
図1(1)参照)。このようにして、クリアランス3が3μm~5μmであり、X-Y平面において対向する面対称の切断面を有するパンチ11とノックアウト12、および、X-Y平面において対向する面対称の切断面を有するストリッパ13とダイ14から成る金型10が製造される(
図1(2)参照)。
【0016】
本発明によるパンチ、ダイ等は、
図1では本発明の概念の説明のため簡略化した断面図を用いているが、実際には
図6等に例示されるように非常に複雑で繊細な構造をしている。よって、本発明のパンチ、ノックアウト、ストリッパ、およびダイはそれぞれ非常に華奢で強度的に非常に弱いものであるが、それらを組み合わせた時にクリアランスを3μm~5μmとすることで、後述する金属板の剪断時にZ方向へ加わるプレスによる圧力や剪断力によっても、金型のズレ・歪みといった変形(ひいては金属板の変形につながる)につながる余分なスペース(力の逃げ場)が無く、超精密な剪断動作が妨げられることがない。さらに、本発明によれば、このような非常に複雑な構造の金型を、金型部材同士の噛み合わせを確認しながら製造することができる。
【0017】
[プレス加工装置]
上述のパンチ11とノックアウト12、およびストリッパ13とダイ14から成る金型10をそれぞれ対向させたときに、パンチ11とダイ14のクリアランス3が3μm~5μmの状態で金属板Mに接触し剪断方向に加圧するよう、プレス加工装置(図示せず)に、パンチ11とダイ14、およびノックアウト12とストリッパ13を取り付けるホルダ(図示せず)を設ける。
【0018】
詳しくは、ホルダは、ファインブランキング方式に依り、パンチ11とストリッパ13を保持しプレス機械のスライドと連動させる機構と、ダイ14とノックアウト12を保持しプレス機械に剛性を保ちつつ取り付ける機構を含み、さらには、プレス加工装置に、パンチ11、ダイ14等のプレス動作上必要となる調整や金属板Mの位置決めのための種々の部品を設けるが、いずれも技術常識であるため図示及び説明はしない。
【0019】
[超微細形状を有する極薄の金属板の製造方法]
上述の金型10を備えるプレス加工装置を用い、以下の工程により行う。
(1)銅合金のコイル材(フープ材)である厚さ50μm以下の金属板Mが、アンコイラ、レベラ等を介して平坦化され、材料送り装置(送り方向:Y)により、プレス加工装置のX-Y平面上プレス位置15(プレス方向:Z)に到達する(
図2(1)参照)。このとき、プレス位置15には、上述の面対称の形状の切断面を有するパンチ11とノックアウト12がZ方向に対向し、さらに、上述の面対称の形状の切断面を有するストリッパ13とダイ14がZ方向に対向し、パンチ11とダイ14のクリアランスが3μm~5μmであるように存在している(同図参照)。これら切断面は、金属板Mの剪断時において、それぞれ同時に金属板Mへ接触する接触面である。
(2)ストリッパ13とダイ14が、Z方向上下方向から金属板Mに接触し、金属板MをX-Y平面上のプレス位置15に固定し、同時にZ方向にも固定する。すなわち、ストリッパ13はパッドの役割を担う(
図2(2)参照)。さらに、ノックアウト12が、Z方向下方向から金属板Mに接触し、金属板MをさらにZ方向下方向に対し固定する。すなわち、ノックアウト12は金属板Mの剪断時にパッドの役割を担う(同図参照)。
(3)パンチ11が、プレス加工装置のスライド動作により、プレス位置15にあるX-Y平面上の金属板Mに対しZ方向上方向から降下する(
図2(3)参照)。
(4)降下するパンチ11が金属板Mに接触すると、X-Y平面上の金属板MがZ方向上方向からのパンチ11とストリッパ13(パッド)とZ方向下方向からノックアウト12(パッド)とダイ14で挟まれ固定されたまま、金属板Mにパンチ11の上刃とダイ14の下刃による剪断の力が働き、金属板Mを剪断する(打ち抜く)(
図2(4)参照)。
(5)剪断と同時に生ずる不要の金属部分(スクラップS)は、プッシュバックにより金属板の剪断位置に嵌め込まれ、Z方向に移動せず金属板Mの剪断位置に保持される(同図参照)。
(6)スクラップSは、金属板Mが材料送り装置でさらにY方向へ送られたところで、金属板Mから抜き落とされる。
(7)以上の工程により超微細形状を加工された金属板Mは、さらに材料送り装置でY方向へ送られ、リールに巻き取られ、コイル材の形状として回収される(
図4(3)参照)。リール巻き取りにおいては、金属板同士の接触による非常に複雑な超微細形状の絡み合いによる破損を防止するために層間紙が挟まれる。
【0020】
以上の(1)~(7)は、本発明の理解のために説明が不可欠である工程について説明したものであり、この他にも、例えば金属板の洗浄工程・乾燥工程等が任意で存在することは言うまでもない。
【0021】
上述の(4)、(5)が本発明による金属板の製造方法の核心の部分である。詳述すると、従来のファインブランキング方式のプレス加工では、剪断の際のパンチから加えられる圧力により、金属板材料はZ方向に1mm程度動いて剪断されるため、金属板のX-Y平面内に打ち抜かれたスクラップ部分に相当する空間が生じ、そのため金属板にはX-Y平面方向に圧力・剪断力の伝播に起因する歪みが生じ、また、切断面にはバリが発生した。これらのことが極薄金属板における非常に複雑な超微細形状加工の超高精度化を困難なものとしていた。本発明では、パンチとノックアウトの等しい対向力で極薄の金属板を挟む形で剪断し、かつ、プッシュバックによりスクラップを金属板内に保持する。
【0022】
ここで、本発明に言うプッシュバックとは、従来のファインブランキング方式に言うプッシュバック(押し戻し)とは実態が異なっている。本発明では、パンチ11の下死点時においてもパンチ11とダイ14の交差がほとんど全く無く、Z方向に対し実質的な静止状態のまま金属板を剪断し、スクラップSは剪断位置に保持されたままとなる。極ミクロの視点では、剪断時においてわずかにZ方向に金属(スクラップS)が移動し、ノックアウト12により押し戻される作用(プッシュバック)が認められるであろうが、それは極々微々たるものであり、スクラップSはZ方向に対し実質的な静止状態のまま剪断されると言ってよい。このような方法で金属板が剪断されるのは、理論に束縛されるものではないが、金属板が50μm以下という極薄であり、パンチとダイのクリアランスが3μm~5μmという極小であることに因るもので、金型の刃先が金属板の厚さの2/3程度切り込むことで金属板が剪断されていると考察される。
【0023】
このような本願発明に言うプッシュバックを経ることで、極薄の金属板の歪み動作がZ方向、およびX-Y平面方向についてほぼ完全に封じられ、剪断時の圧力・剪断力の伝播の逃げ場が無くなる。これにより、剪断時の金属板の変形・破損やバリの発生を最大限効果的に防ぐことができ、非常に複雑な超微細形状を有する超高精度の極薄金属板の製造を実現している。
【0024】
さらには、パンチおよびダイの剪断時の交差がほとんど全く無く、実質的な静止状態のまま剪断がなされることから、上刃および下刃の消耗が最小限に抑えられ、刃付研磨や部材の交換頻度を大幅に抑えることができ、コスト減をも実現できる。
【0025】
プレス加工装置としては、SPM(毎分ストローク)300で運用可能であり、SPM600でも可能であると考えられる。
【実施例】
【0026】
本発明の実施例として、VCMスプリングの製造について、主に
図3から
図7を用いて説明する。
【0027】
図3は、例示であるVCMスプリングの製造に用いる本発明の金型のX-Y平面断面図である。なお、本発明の金型の形状上、そのまま金型の平面図と見做すこともできる。(1)は、本発明のプレス加工装置に備え付けるパンチ11A~11Cおよびノックアウト12A~12C、さらに従来技術による外側のパンチである。なお、見やすいように各金型を離間させて描いているが、後述する
図7と見比べることで十分な理解が得られるであろう。(2)は、パンチ11A~11Cおよびノックアウト12A~12Cに対応するストリッパ13およびダイ14である。これは、クリアランス3μm~5μmの形状誤差を無視すれば、本発明により製造されるVCMスプリングの形状をそのまま表すものであることを理解されるであろう。なお、本発明に係る主要部分のみを図示し、4辺の端部は図示を省略している。
【0028】
VCMスプリングの製造では、内側には非常に複雑な超微細形状が求められるが、外側はそこまでの複雑な形状を要しない(
図3参照)。従って、プレス位置を2つ以上設けて、材料送り装置(図示せず)により、前段では周知技術により外側のプレス加工を行い、後段で本発明による内側の超高精度のプレス加工を行う実施例が考えられる(抜き順送り加工)。例えば、材料送り装置により、金属板Mを順次Yの正方向へ送り、本発明によるプレス位置15を位置Yとして、その前段を位置(Y-2)、(Y-1)、後段を位置(Y+1)と表すと、次のような流れとなる。
(1)位置(Y-2):通常のプレス加工により金属板MにパイロットPを組み込む。
(2)位置(Y-1):通常のプレス加工により金属板Mを剪断し、VCMスプリングの外側部分を製造する。スクラップはダイを通過しZ方向下方に落としてよい。
(3)位置Y:プレス位置15における本発明のプレス加工により金属板Mをさらに剪断し、VCMスプリングの超微細形状を要する内側の金属形状部分を製造する。スクラップSはプッシュバックにより、金属板内に保持する。
(4)位置(Y+1):スクラップSを金属板MからZ方向下方に抜き落とす。
【0029】
このことを、
図4を用いてさらに詳述する。
図4に示す送りピッチpiは0.25である。すなわち、プレス装置上をYの正方向へ送られる金属板Mは、位置(Y-2)においてパイロットPが組み込まれると、そこからY方向に4ピッチ進んだ位置(Y-1)においてVCMスプリングの外側部分が製造され、そこからさらに4ピッチ進んだ位置Y(プレス位置15)でVCMスプリングの超微細形状を要する内側の金属形状部分がスクラップSが嵌め込まれた状態で製造され、そこからさらに4ピッチ進んだ位置(Y+1)においてスクラップSが抜き落とされる。さらに、金属板MはYの正方向に送られ、リールに巻き取られコイル材の形状とて回収される。この流れを表したのが
図4である。特に
図4(2)を参照すれば、金属板Mに対し4ピッチ毎に加工が施されていくことが理解できよう。なお、1つのリールあたり20~30万個のVCMスプリングが含まれる。
【0030】
図5は、例示であるVCMスプリングの製造において、
図3(2)のB-B断面に基づき、本発明のプレス装置に備えた金型10がどのように適用されるかを示している。
図5を
図2および
図3と併せて参照することで、本発明がより理解されるであろう。
【0031】
上述の
図3、
図5から、例示であるVCMスプリングの製造における本発明の金型は非常に複雑な形状となることが理解される。
図6はさらに、本発明の金型の理解のために、
図5と同じくB-B断面箇所に基づき、金型の一部を抜き出して噛み合わせの様子を描いたものである。
図7は、同じく、金型全体の噛み合わせの様子を描いたものである。
【0032】
[まとめ]
(1)超微細形状を有する厚さが50μm以下の極薄の金属板の製造において、従来のプレス加工では、プレスの圧力、剪断時に加わる力が金属板に伝播することにより金属板に変形・破損が生じ、発生を防ぐことのできないバリも精度に影響を与えるため、不可能であった。本発明は、これらの問題をクリアランスが3μm~5μmである上下対称の金型を用い、剪断時において、上金型と下金型がほとんど全く交差せず、剪断されたスクラップを金属板の剪断位置に嵌め込んだ状態を維持したまま上下方向にも固定することで金属板変形等の逃げ場を無くす、という画期的方法で解決している。
(2)上金型と下金型がほとんど全く交差しないことから、上刃および下刃の消耗が最小限に抑えられ、刃付研磨や部材の交換頻度を大幅に抑えることができ、コスト減を実現する。
(3)本発明の金型自体も、パンチとノックアウト、およびストリッパとダイをそれぞれ同一部材で噛み合わせを確認しながら加工し、最後に部材を噛み合わせた状態で一刀両断することにより、パンチとノックアウト、およびストリッパとダイを同時に生成するという画期的な方法で製造されている。
(4)本発明のプレス加工による超微細形状を有する厚さが50μm以下の極薄の金属板の製造方法は、フォトエッチング加工やワイヤーカット放電加工に比べ、非常に複雑な超微細形状を有する超高精度の極薄金属板をはるかに簡素な装置ではるかに効率良く大量生産をすることができる、という本発明に特有な有利な効果を有する。詳述すると、フォトエッチング加工では、一般に、X-Y平面方向に広がる金属シートに多量の同形の型を設ける製造工程を採るため(
図8参照)、金属シートをX-Y方向(2次元)へ動作制御するための機構が求められ、装置の複雑化かつ大型化が避けられないが、本発明によればY方向(1次元)のみに動作すればよく、コンパクトな装置とすることができる。また、ワイヤーカット放電加工では、非常に複雑で微細な形状に沿って逐一ワイヤーを動作させるため、製造装置にはX-Y平面方向への精密な動作制御が求められ、かつワイヤーが複雑な形状に沿って全走するため製造にも時間を要するが、本発明によれば、パンチの上下動だけの単純な動作によるプレス加工により、簡便かつ一瞬の動作で製造することができるため、上述の1次元方向の単純な送り装置により、1分間に数百個もの大量生産による製造が可能である。
(5)さらに、フォトエッチング加工では、加工後の金属シート(
図8参照)を用いた後続の組み立て工程において、組み立て装置に供給される2次元の金属シートは交換時においてもスペースと時間と複雑な装置を要する。一方、本発明による金属板の製造方法によれば、製造後はリールに巻き取ったコイル材の形状となるため、後続の組み立て工程において、金属板のリールを解くだけで速やかに金属板を組み立て装置に流し込むことができ、またリールを交換は2次元金属シートのようなスペースを必要とせず迅速に金属板の補充ができ、装置の省スペース化・簡素化に資する。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、非常に複雑な超微細形状を有する超高精度の極薄金属板の製造の分野で有用である。特に、例示したようにVCMスプリングの製造の分野、さらには、デザイン的に洗練された非常に複雑な超微細形状をあしらった極薄金属板を用いる工芸品(例示として栞)等で好適に使用される。
【符号の説明】
【0034】
1 第1の金型用部材
2 第2の金型用部材
3 クリアランス
10 金型
11 パンチ
12 ノックアウト
13 ストリッパ
14 ダイ
15 プレス位置
M 金属板
P パイロット
pi 送りピッチ
S スクラップ
【要約】
【課題】
非常に複雑な超微細形状の極薄の金属板を、変形やバリの発生も無く高精度に製造する。
【解決手段】
パンチ11とノックアウト12となる第1の金型用部材1の輪郭をパンチ11の形状に加工する工程と、ダイ14とストリッパ13となる第2の金型用部材2の輪郭をパンチ11とのクリアランス3が3μm~5μmであるダイ14の形状に加工する工程と、次いで、第1の金型用部材1と第2の金型用部材2を、噛み合わせた状態で、噛み合わせ方向と直交する平面でそれぞれ2つに同時に切断することにより、切断面が面対称の形状で、切断面が金属板の剪断時に金属板への接触面となるパンチ11とノックアウト12、および、切断面が面対称の形状で、切断面が金属板の剪断時に金属板への接触面となるダイ14とストリッパ13を同時に製造する工程とを有する。
【選択図】
図1