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特許7568394推定装置、推定方法及びコンピュータプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】推定装置、推定方法及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/382 20190101AFI20241008BHJP
   G01R 31/367 20190101ALI20241008BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20241008BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
G01R31/382
G01R31/367
H01M10/48 P
H02J7/00 Y
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019183334
(22)【出願日】2019-10-03
(65)【公開番号】P2021060229
(43)【公開日】2021-04-15
【審査請求日】2022-08-02
【審判番号】
【審判請求日】2023-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】岡本 直久
(72)【発明者】
【氏名】関家 一樹
(72)【発明者】
【氏名】▲浜▼野 泰如
(72)【発明者】
【氏名】和田 秀俊
【合議体】
【審判長】里村 利光
【審判官】井口 猶二
【審判官】関根 洋之
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-170600(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0146611(US,A1)
【文献】特開2017-84693(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0261473(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/382
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛蓄電池の電流及び電圧の少なくとも一方の計測データを取得する取得部と、
取得した計測データに含まれるノイズの量を示すノイズ量を抽出する抽出部と、
前記抽出部によって抽出したノイズ量を設定期間毎に積算する積算部と、
前記設定期間毎に積算したノイズ量の履歴データに基づき、前記鉛蓄電池の破断リスクを推定する推定部と、
前記推定部の推定結果を出力する出力部と
を備える推定装置。
【請求項2】
前記推定部は、前記履歴データの入力に応じて、前記鉛蓄電池の破断リスクに関する情報を出力するよう構成された学習モデルを用いて、破断リスクを推定する
請求項1に記載の推定装置。
【請求項3】
前記学習モデルは、
前記履歴データが入力される入力層、
前記鉛蓄電池の破断リスクに関する情報を出力する出力層、及び
前記鉛蓄電池の履歴データと、前記鉛蓄電池が破断したか否かを示すラベルデータとを教師データに用いて、前記履歴データと前記破断リスクとの関係を学習してある中間層
を備え、
前記設定期間毎に積算したノイズ量の履歴データの入力に応じて、前記中間層にて演算し、前記出力層から破断リスクに関する情報を出力するよう構成してある
請求項2に記載の推定装置。
【請求項4】
コンピュータを用いて、
鉛蓄電池の電流及び電圧の少なくとも一方の計測データを取得し、
取得した計測データに含まれるノイズの量を示すノイズ量を抽出し、
抽出したノイズ量を設定期間毎に積算し、
前記設定期間毎に積算したノイズ量の履歴データに基づき、前記鉛蓄電池の破断リスクを推定する
推定方法。
【請求項5】
コンピュータに、
鉛蓄電池の電流及び電圧の少なくとも一方の計測データを取得し、
取得した計測データに含まれるノイズの量を示すノイズ量を抽出し、
抽出したノイズ量を設定期間毎に積算し、
前記設定期間毎に積算したノイズ量の履歴データに基づき、前記鉛蓄電池の破断リスクを推定する
処理を実行させるためのコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、推定装置、推定方法及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池は、正極板、負極板、電解液、及び、これらを収容するケースを備える。正極板及び負極板は、ケースの電解液に浸漬されている。鉛蓄電池は、車載用、産業用など様々な用途において使用されている。例えば、車載用の鉛蓄電池は、車両に搭載され、照明、及びカーステレオ等の車載機器(電気負荷)へ電力を供給する。鉛蓄電池は、車両が備える発電機(オルタネータ)により発電された電力により充電される。例えば、産業用の鉛蓄電池は、非常用電源への電力供給減として用いられている。
【0003】
特許文献1には、車両の電気負荷に電力を供給する鉛蓄電池と、鉛蓄電池の温度を取得する取得装置と、取得した温度に基づいて、鉛蓄電池の劣化を判定する判定装置とを備える電源システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-78571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の電源システムでは、鉛蓄電池の温度に基づき劣化を判定しているが、鉛蓄電池の破断リスクを推定することはできない。
【0006】
本発明は、鉛蓄電池における破断リスクを推定できる推定装置、推定方法及びコンピュータプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
推定装置は、鉛蓄電池の電流及び電圧を取得する取得部と、取得した電流及び電圧からノイズ量を抽出する抽出部と、前記抽出部によって抽出したノイズ量に関するデータを蓄積するデータ蓄積部と、前記データ蓄積部に蓄積した履歴データに基づき、前記鉛蓄電池の破断リスクを推定する推定部と、前記推定部の推定結果を出力する出力部とを備える。
【0008】
推定装置は、鉛蓄電池の振動ストレス値を取得する取得部と、取得した振動ストレス値の積算値に関するデータを蓄積するデータ蓄積部と、前記データ蓄積部に蓄積した履歴データに基づき、前記鉛蓄電池の破断リスクを推定する推定部と、前記推定部の推定結果を出力する出力部とを備える。
【0009】
推定方法は、コンピュータを用いて、鉛蓄電池の電流及び電圧を取得し、取得した電流及び電圧からノイズ量を抽出し、抽出したノイズ量に関するデータを蓄積し、蓄積した履歴データに基づき、前記鉛蓄電池の破断リスクを推定する。
【0010】
推定方法は、コンピュータを用いて、鉛蓄電池の振動ストレス値を取得し、取得した振動ストレス値の積算値に関するデータを蓄積し、前記データ蓄積部に蓄積した履歴データに基づき、前記鉛蓄電池の破断リスクを推定する。
【0011】
コンピュータプログラムは、コンピュータに、鉛蓄電池の電流及び電圧を取得し、取得した電流及び電圧からノイズ量を抽出し、抽出したノイズ量に関するデータを蓄積し、蓄積した履歴データに基づき、前記鉛蓄電池の破断リスクを推定する処理を実行させるためのコンピュータプログラムである。
【0012】
コンピュータプログラムは、コンピュータに、鉛蓄電池の振動ストレス値を取得し、取得した振動ストレス値の積算値に関するデータを蓄積し、前記データ蓄積部に蓄積した履歴データに基づき、前記鉛蓄電池の破断リスクを推定する処理を実行させるためのコンピュータプログラムである。
【発明の効果】
【0013】
上記構成により、鉛蓄電池における破断リスクを推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】推定システムの概略構成を説明するブロック図である。
図2】鉛蓄電池の外観構成を示す斜視図である。
図3図2のIII-III線における断面図である。
図4】推定装置の内部構成を説明するブロック図である。
図5】ノイズ量の経時変化を示すグラフである。
図6】第1実施形態における推定装置が実行する処理の手順を説明するフローチャートである。
図7】振動ストレスの経時変化を示すグラフである。
図8】第2実施形態における推定装置が実行する処理の手順を説明するフローチャートである。
図9】第3実施形態における学習モデルの構成を示す模式図である。
図10】サーバ装置の構成を示すブロック図である。
図11】学習モデルの生成手順を説明するフローチャートである。
図12】学習モデルを用いた推定処理の手順を説明するフローチャートである。
図13】第4実施形態における学習モデルの構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
推定装置は、鉛蓄電池の電流及び電圧を取得する取得部と、取得した電流及び電圧からノイズ量を抽出する抽出部と、前記抽出部によって抽出したノイズ量に関するデータを蓄積するデータ蓄積部と、前記データ蓄積部に蓄積した履歴データに基づき、前記鉛蓄電池の破断リスクを推定する推定部と、前記推定部の推定結果を出力する出力部とを備える。
この構成によれば、鉛蓄電池の電流及び電圧から抽出したノイズ量に基づき、破断リスクを推定できる。
【0016】
推定装置は、鉛蓄電池の振動ストレス値を取得する取得部と、取得した振動ストレス値の積算値に関するデータを蓄積するデータ蓄積部と、前記データ蓄積部に蓄積した履歴データに基づき、前記鉛蓄電池の破断リスクを推定する推定部と、前記推定部の推定結果を出力する出力部とを備える。
この構成によれば、鉛蓄電池の振動ストレスの積算値に基づき、破断リスクを推定できる。
【0017】
推定装置において、前記推定部は、前記履歴データの入力に応じて、前記鉛蓄電池の破断リスクに関する情報を出力するよう構成された学習モデルを用いて、破断リスクを推定してもよい。この構成によれば、学習モデルを用いて破断リスクを推定するので、精度良く破断リスクを推定できる。
【0018】
推定装置において、前記学習モデルは、前記履歴データが入力される入力層、前記鉛蓄電池の破断リスクに関する情報を出力する出力層、及び前記鉛蓄電池の履歴データと、前記鉛蓄電池が破断したか否かを示すラベルデータとを教師データに用いて、前記履歴データと前記破断リスクとの関係を学習してある中間層を備え、前記データ蓄積部に蓄積した履歴データの入力に応じて、前記中間層にて演算し、前記出力層から破断リスクに関する情報を出力するよう構成してもよい。この構成によれば、学習モデルを用いて破断リスクを推定するので、精度良く破断リスクを推定できる。
【0019】
推定方法は、コンピュータを用いて、鉛蓄電池の電流及び電圧を取得し、取得した電流及び電圧からノイズ量を抽出し、抽出したノイズ量に関するデータを蓄積し、蓄積した履歴データに基づき、前記鉛蓄電池の破断リスクを推定する。
【0020】
推定方法は、コンピュータを用いて、鉛蓄電池の振動ストレス値を取得し、取得した振動ストレス値の積算値に関するデータを蓄積し、前記データ蓄積部に蓄積した履歴データに基づき、前記鉛蓄電池の破断リスクを推定する。
【0021】
コンピュータプログラムは、コンピュータに、鉛蓄電池の電流及び電圧を取得し、取得した電流及び電圧からノイズ量を抽出し、抽出したノイズ量に関するデータを蓄積し、蓄積した履歴データに基づき、前記鉛蓄電池の破断リスクを推定する処理を実行させるためのコンピュータプログラムである。
【0022】
コンピュータプログラムは、コンピュータに、鉛蓄電池の振動ストレス値を取得し、取得した振動ストレス値の積算値に関するデータを蓄積し、前記データ蓄積部に蓄積した履歴データに基づき、前記鉛蓄電池の破断リスクを推定する処理を実行させるためのコンピュータプログラムである。
【0023】
(第1実施形態)
図1は推定システムの概略構成を説明するブロック図である。第1実施形態に係る推定システムは、推定装置1及び鉛蓄電池2を備える。推定装置1は、例えばBMU(Battery Management Unit)であり、後述する手法にて鉛蓄電池2における破断リスクを推定し、推定結果を出力する。図1の例では、便宜的に推定装置1と鉛蓄電池2とを別体として記載したが、推定装置1と鉛蓄電池2とが一体となった構成であってもよい。更に、推定装置1は、鉛蓄電池2を含むバッテリシステムと通信可能に接続されるコンピュータ、サーバ装置などの情報処理装置であってもよい。
【0024】
鉛蓄電池2には負荷3が接続される。鉛蓄電池2は、接続された負荷3に対して直流電力を供給する。代替的に、鉛蓄電池2には充電装置(不図示)が接続される。鉛蓄電池2は、接続された充電装置から直流電力が供給されることによって蓄電する。
【0025】
電流センサ4は、鉛蓄電池2に流れる電流を時系列的に計測し、計測結果を示すデータを推定装置1へ出力する。電圧センサ5は、鉛蓄電池2の電圧を時系列的に計測し、計測結果を示すデータを推定装置1へ出力する。本実施形態では、電圧センサ5は鉛蓄電池2の開回路電圧(OCV : Open Circuit Voltage)を計測する。例えば、電圧センサ5は、無負荷に近い状態になったときの電圧値をOCVとして計測すればよい。代替的に、推定装置1は、電流センサ4から得られる電流値、電圧センサ5から得られる電圧値、及び予め計測される鉛蓄電池2の抵抗値に基づき、鉛蓄電池2のOCVを演算によって求めてもよい。
【0026】
推定システムは加速度センサ6を備えていてもよい。加速度センサ6は、鉛蓄電池2に加わる加速度を時系列的に計測し、計測結果を示すデータを推定装置1へ出力する。加速度センサ6を備える構成に代えて、鉛蓄電池2に加わる振動を計測する振動センサを用いてもよい。
【0027】
第1実施形態における推定装置1は、鉛蓄電池2の電流及び電圧の時系列データに基づき、鉛蓄電池2における破断リスクを推定する。
【0028】
図2は鉛蓄電池2の外観構成を示す斜視図であり、図3図2のIII-III線における断面図である。図2及び図3に示すように、鉛蓄電池2は、電槽20、正極端子28、負極端子29、及び複数の極板群23を備える。
【0029】
電槽20は、電槽本体201及び蓋202を有する。電槽本体201は、上部が開口した直方体状の容器であり、例えば合成樹脂等により形成されている。例えば合成樹脂製の蓋202は、電槽本体201の開口部を閉塞する。蓋202の下面の周縁部分と電槽本体201の開口部の周縁部分とは例えば熱溶着によって接合される。電槽20内の空間は、隔壁27によって、電槽20の長手方向に並ぶ複数のセル室21に区画されている。
【0030】
電槽20内の各セル室21には、極板群23が1つずつ収容されている。電槽20内の各セル室21には、希硫酸を含む電解液22が収容されており、極板群23の全体が電解液22中に浸漬している。電解液22は、蓋202に設けられた注液口(図示せず)からセル室21内に注入される。
【0031】
極板群23は、複数の正極板231、複数の負極板235、及びセパレータ239を備える。複数の正極板231及び複数の負極板235は、交互に並ぶように配置されている。
【0032】
正極板231は、正極格子232、及び正極格子232に支持された正極電極材料234を有する。正極格子232は、略格子状又は網目状に配置された骨部を有する導電性部材であり、例えば鉛又は鉛合金により形成されている。正極格子232は、上端付近に、上方に突出する耳233を有する。正極電極材料234は二酸化鉛を含む。正極電極材料234は、さらに公知の添加剤を含んでもよい。
【0033】
負極板235は、負極格子236、及び負極格子236に支持された負極電極材料238を有する。負極格子236は、略格子状又は網目状に配置された骨部を有する導電性部材であり、例えば鉛又は鉛合金により形成されている。負極格子236は、上端付近に、上方に突出する耳237を有する。負極電極材料238は鉛を含む。負極電極材料238は、さらに公知の添加剤を含んでもよい。
【0034】
セパレータ239は、例えばガラス又は合成樹脂等の絶縁性材料により形成されている。セパレータ239は、互いに隣り合う正極板231と負極板235との間に介在する。セパレータ239は、一体の部材として構成されてもよく、正極板231と負極板235との間に各別に設けてもよい。代替的に、セパレータ239は正極板231及び負極板235のいずれかを包装するように配置してもよい。
【0035】
複数の正極板231の耳233は、例えば鉛又は鉛合金により形成されたストラップ24に接続されている。複数の正極板231は、ストラップ24を介して電気的に並列に接続されている。同様に、複数の負極板235の耳237は、例えば鉛又は鉛合金により形成されたストラップ25に接続されている。複数の負極板235は、ストラップ25を介して電気的に接続されている。
【0036】
鉛蓄電池2において、一のセル室21内のストラップ25は、例えば鉛又は鉛合金により形成された中間ポール26を介して、前記一のセル室21に隣接する一方のセル室21内のストラップ24に接続されている。また、前記一のセル室21内のストラップ24は、中間ポール26を介して、前記一のセル室21に隣接する他方のセル室21内のストラップ25に接続されている。すなわち、鉛蓄電池2の複数の極板群23は、ストラップ24,25及び中間ポール26を介して電気的に直列に接続されている。図3に示すように、電槽20の長手方向の一端に位置するセル室21に収容されたストラップ24は、中間ポール26ではなく、後述する正極柱282に接続されている。電槽20の長手方向の他端に位置するセル室21に収容されたストラップ25は、中間ポール26ではなく、負極柱(図示せず)に接続されている。
【0037】
正極端子28は、電槽20の長手方向の一端部に配置されており、負極端子29は、電槽20の長手方向の他端部付近に配置されている。
【0038】
図3に示すように、正極端子28は、ブッシング281及び正極柱282を含む。ブッシング281は、略円筒状の導電性部材であり、例えば鉛合金により形成されている。ブッシング281の下側部分は、インサート成形により蓋202に一体化されており、ブッシング281の上部は、蓋202の上面から上方に突出している。正極柱282は、略円柱状の導電性部材であり、例えば鉛合金により形成されている。正極柱282は、ブッシング281の孔に挿入されている。正極柱282の上端部は、ブッシング281の上端部と略同じ位置に位置しており、例えば溶接によりブッシング281に接合されている。正極柱282の下端部は、ブッシング281の下端部よりも下方に突出し、さらに、蓋202の下面よりも下方に突出しており、電槽20の長手方向の一端部に位置するセル室21に収容されたストラップ24に接続されている。負極端子29は、正極端子28と同様に、ブッシング291と、負極柱292とを含み(図2参照)、正極端子28と同様の構成を有する。
【0039】
正極端子28のブッシング281及び負極端子29のブッシング291に負荷が接続される。鉛蓄電池2から負荷へ電力が供給される。すなわち鉛蓄電池2は放電する。負荷に代えて、正極端子28のブッシング281及び負極端子29のブッシング291に充電装置が接続されてもよい。この場合、充電装置から鉛蓄電池2へ供給される電力により鉛蓄電池2が充電される。
【0040】
図4は推定装置1の内部構成を説明するブロック図である。推定装置1は、制御部11、記憶部12、入力部13、通信部14、操作部15及び表示部16を備える。
【0041】
制御部11は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)などにより構成される。制御部11が備えるCPUは、ROM又は記憶部12に記憶されている各種コンピュータプログラムをRAM上に展開して実行することにより、装置全体の動作を制御する。
【0042】
制御部11は、上記の構成に限定されるものではなく、複数のCPU、マルチコアCPU、GPU(Graphics Processing Unit)、マイコン、揮発性又は不揮発性のメモリ等を備える任意の処理回路又は演算回路であってもよい。また、制御部11は、計測開始指示を与えてから計測終了指示を与えるまでの経過時間を計測するタイマ、数をカウントするカウンタ、日時情報を出力するクロック等の機能を備えていてもよい。
【0043】
記憶部12は、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)等を用いた記憶装置を備える。記憶部12には、制御部11によって実行される各種コンピュータプログラム、及びコンピュータプログラムの実行に必要なデータ等が記憶される。記憶部12に記憶されるコンピュータプログラムには、鉛蓄電池2の破断リスクを推定する処理を推定装置1に実行させるための推定プログラムEPが含まれる。推定プログラムEPは単一のコンピュータプログラムであってもよく、複数のコンピュータから構成されるプログラム群であってもよい。
【0044】
記憶部12に記憶されるプログラムは、当該プログラムを読み取り可能に記録した非一時的な記録媒体Mにより提供されてもよい。記録媒体Mは、例えば、CD-ROM、USB(Universal Serial Bus)メモリ、SD(Secure Digital)カード、マイクロSDカード、コンパクトフラッシュ(登録商標)などの可搬型メモリである。この場合、制御部11は、不図示の読取装置を用いて記録媒体Mからプログラムを読み取り、読み取ったプログラムを記憶部12にインストールする。また、記憶部12に記憶されるプログラムは、通信部14を介した通信により提供されてもよい。この場合、制御部11は、通信部14を通じてプログラムを取得し、取得したプログラムを記憶部12にインストールする。
【0045】
更に、記憶部12は、鉛蓄電池2の情報を記憶する電池テーブルBTを有していてもよい。電池テーブルBTは、例えば、鉛蓄電池2を識別する電池ID、ユーザを識別するユーザID、及び電池情報を関連付けて記憶する。電池テーブルBTに登録される電池情報は、例えば、正極及び負極の情報、電解液の情報などを含む。正極及び負極の情報とは、正極及び負極の活物質名、厚み、幅、奥行き、開回路電位などの情報である。電解液の情報とは、イオン種、輸率、拡散係数、導電率などの情報である。電池テーブルBTに記憶されている情報は、鉛蓄電池の破断リスクを推定する際に、パラメータの一部として利用されてもよい。
【0046】
入力部13は、電流センサ4、電圧センサ5、及び加速度センサ6を接続するインタフェースを備え、電流センサ4によって計測された電流、電圧センサ5によって計測された電圧、加速度センサ6に計測された加速度のデータを取得する。本実施の形態では、電流センサ4、電圧センサ5、及び加速度センサ6が直接的に入力部13に接続される構成とした。代替的に、推定装置1は、電流センサ4によって計測された電流、電圧センサ5によって計測された電圧、及び加速度センサ6によって計測された加速度のデータを有線又は無線の通信により取得してもよい。
【0047】
操作部15は、各種スイッチ、ボタンなどの入力インタフェースを備えており、ユーザによる操作を受付ける。表示部16は、液晶ディスプレイ装置などを備えており、ユーザに対して報知すべき情報を表示する。本実施の形態では、推定装置1が操作部15及び表示部16を備える構成とした。代替的に、推定装置1の外部にコンピュータを接続し、外部コンピュータを通じて操作を受付け、通知すべき情報を外部コンピュータへ出力する構成であってもよい。この場合、推定装置1は、操作部15及び表示部16を備えていなくてもよい。
【0048】
以下、第1実施形態における破断リスクの推定手法について説明する。
図5はノイズ量の経時変化を示すグラフである。図5に示すグラフの横軸は計測開始からの日数を表し、縦軸は一定期間毎の電流のノイズ量を表している。電流のノイズ量は、電流センサ4から得られる電流のデータに公知のフィルタを適用することよって計測される。推定装置1の制御部11は、フィルタによって計測されるノイズの量を一定期間毎(例えば1日毎)に積算し、記憶部12に記憶させる。制御部11は、ノイズ量の積算値が予め設定した閾値(ノイズ閾値)を超えた場合、破断リスクがあると推定する。
【0049】
図5の例では電流のノイズ量を用いて破断リスクを推定する手法を説明したが、代替的に、電圧のノイズ量を用いて破断リスクを推定してもよい。
【0050】
以下、推定装置1が実行する処理の手順について説明する。推定装置1は、以下の手順を例えば定期的なタイミング等の適宜のタイミングにおいて実行すればよい。
【0051】
図6は第1実施形態における推定装置1が実行する処理の手順を説明するフローチャートである。推定装置1の制御部11は、入力部13を通じて、電流センサ4によって計測される電流、電圧センサ5によって計測される電圧のデータを取得し(ステップS101)、取得したデータに含まれるノイズ量を抽出する(ステップS102)。制御部11は、抽出したノイズからノイズ量を算出し、算出したノイズ量を積算して記憶部12に記憶させる(ステップS103)。ステップS103において、制御部11は、所定期間毎(例えば1日毎)にノイズ量を積算すればよい。
【0052】
制御部11は、ノイズ量の積算値とノイズ閾値とを比較することによって、破断リスクを推定し(ステップS104)、破断リスクがあるか否かを判断する(ステップS105)。このとき、制御部11は、ノイズ量の積算値がノイズ閾値より大きい場合に破断リスクがあると判断し、ノイズ量の積算値がノイズ閾値より小さい場合に破断リスクがないと判断すればよい。
【0053】
破断リスクがあると判断した場合(S105:YES)、制御部11は、破断リスクがある旨を報知する(ステップS106)。例えば、制御部11は、破断リスクがある旨の文字情報を含む画面データを生成し、生成した画面データに基づき破断リスクがある旨の文字情報を表示部16に表示させる。代替的に、制御部11は、通信部14を通じて、破断リスクがある旨の文字情報をユーザ等が所持する端末装置に通知してもよい。破断リスクがないと判断した場合(S105:NO)、制御部11は、本フローチャートによる処理を終了する。
【0054】
以上のように、第1実施形態では、鉛蓄電池2について計測される電流、電圧等のデータに基づき、鉛蓄電池2の破断リスクを推定できる。
【0055】
なお、制御部11は、ユーザ等により鉛蓄電池2が交換されことを検知する機能を有していてもよい。例えば、ユーザにより鉛蓄電池2が交換された場合に、ユーザは、操作部15に対して、電池2を交換したことを入力する。操作部15は、制御部11に対して、電池2が交換されたことを示す信号を送信する。制御部11は、操作部15から電池2が交換されたことを示す信号を受信した場合に、記憶部12に記憶されているノイズ量の積算値をリセットする。
【0056】
また、例えば、制御部11は、所定期間毎のノイズの積算値とノイズ閾値とを比較し、所定の連続した回数、ノイズの積算値がノイズ閾値を下回った場合に、電池2が交換されたと判断し、記憶部12に記憶されているノイズ量の積算値をリセットしてもよい。
【0057】
(第2実施形態)
第2実施形態では、振動ストレス値に基づき破断リスクを推定する構成について説明する。
【0058】
第2実施形態における推定装置1は、加速度センサ6より得られる加速度のデータに基づき、一定期間毎の振動ストレス値(積算値)を算出し、算出した振動ストレス蓄積量と振動ストレス閾値とを比較することによって、破断リスクを推定する。
【0059】
以下、第2実施形態における破断リスクの推定手法について説明する。
図7は振動ストレスの経時変化を示すグラフである。図7に示すグラフの横軸は計測開始からの日数を表し、縦軸は一定期間毎の振動ストレスの蓄積量(積算値)を表している。振動ストレスは、加速度センサ6から得られる加速度のデータを用いて、公知の演算手法を用いて算出される。推定装置1の制御部11は、算出した振動ストレスの値を一定期間毎(例えば1日毎)に積算し、記憶部12に記憶させる。制御部11は、振動ストレスの蓄積量が予め設定した閾値(振動ストレス閾値)を超えた場合、破断リスクがあると推定する。
【0060】
以下、推定装置1が実行する処理の手順について説明する。推定装置1は、以下の手順を例えば定期的なタイミング等の適宜のタイミングにおいて実行すればよい。
【0061】
図8は第2実施形態における推定装置1が実行する処理の手順を説明するフローチャートである。推定装置1の制御部11は、入力部13を通じて、加速度センサ6によって計測される鉛蓄電池2の加速度のデータを取得し(ステップS201)、取得したデータを用いて振動ストレスの値を算出する(ステップS202)。制御部11は、算出した振動ストレスの値を積算して記憶部12に記憶させる(ステップS203)。ステップS203において、制御部11は、所定期間毎(例えば1日毎)に振動ストレスの値を積算すればよい。
【0062】
制御部11は、振動ストレスの蓄積量と振動ストレス閾値とを比較することによって、破断リスクを推定し(ステップS204)、破断リスクがあるか否かを判断する(ステップS205)。このとき、制御部11は、振動ストレスの蓄積量が振動ストレス閾値より大きい場合に破断リスクがあると判断し、振動ストレスの蓄積量が振動ストレス閾値より小さい場合に破断リスクがないと判断すればよい。
【0063】
破断リスクがあると判断した場合(S205:YES)、制御部11は、破断リスクがある旨を報知する(ステップS206)。例えば、制御部11は、破断リスクがある旨の文字情報を含む画面データを生成し、生成した画面データに基づき破断リスクがある旨の文字情報を表示部16に表示させる。代替的に、制御部11は、通信部14を通じて、破断リスクがある旨の文字情報をユーザ等が所持する端末装置に通知してもよい。破断リスクがないと判断した場合(S205:NO)、制御部11は、本フローチャートによる処理を終了する。
【0064】
以上のように、第2実施形態では、鉛蓄電池2について計測される加速度等のデータに基づき、鉛蓄電池2の破断リスクを推定できる。
【0065】
なお、制御部11は、ユーザ等により鉛蓄電池2が交換されことを検知する機能を有していてもよい。例えば、ユーザにより鉛蓄電池2が交換された場合に、ユーザは、操作部15に対して、電池2を交換したことを入力する。操作部15は、制御部11に対して、電池2が交換されたことを示す信号を送信する。制御部11は、操作部15から電池2が交換されたことを示す信号を受信した場合に、記憶部12に記憶されている、振動ストレスの蓄積量をリセットする。
【0066】
(第3実施形態)
第3実施形態では、ニューラルネットワークにより構成される学習モデルを用いて破断リスクを推定する構成について説明する。
【0067】
推定装置1は、鉛蓄電池2の電流、電圧、加速度に関するデータの入力に応じて、破断リスクに関するデータを出力するよう構成された学習モデルを用いて、破断リスクを推定する。
【0068】
図9は第3実施形態における学習モデル110の構成を示す模式図である。第3実施形態における学習モデル110は、CNN(Convolutional Neural Networks)、R-CNN(Region-based CNN)などによる学習モデルであり、入力層111、中間層112、および、出力層113を備える。学習モデル110は、鉛蓄電池2のノイズ量、振動ストレスの蓄積量等の時系列変化を示すグラフ(画像)の入力に対して、破断リスクに関するデータを出力するように学習される。学習モデル110は、例えば推定装置1と通信可能に接続される外部のサーバ装置100(図10を参照)によって生成され、推定装置1の記憶部12に記憶される。
【0069】
サーバ装置100は、鉛蓄電池2の電流、電圧、加速度等のデータを取得した場合、それらのデータに基づき、ノイズ量、振動ストレスの積算量の時系列変化を示すグラフを生成する。
【0070】
学習モデル110の入力層111には、ノイズ量、振動ストレスの積算量の時系列変化を示すグラフ(画像)が入力される。
【0071】
中間層112は、例えば、畳み込み層112a、プーリング層112b、及び全結合層112cにより構成される。畳み込み層112a及びプーリング層112bは交互に複数設けられてもよい。畳み込み層112a及びプーリング層112bは、各層のノードを用いた演算によって、入力層111を通じて入力されるグラフの特徴を抽出する。全結合層112cは、畳み込み層112a及びプーリング層112bによって特徴部分が抽出されたデータを1つのノードに結合し、活性化関数によって変換された特徴変数を出力する。特徴変数は、全結合層112cを通じて出力層113へ出力される。
【0072】
出力層113は、1つ又は複数のノードを備える。出力層113は、中間層112の全結合層112cから入力される特徴変数を基に、ソフトマックス関数を用いて確率に変換し、破断リスクを示す確率を各ノードから出力する。
【0073】
例えば、出力層113を第1ノードから第11ノードの11個のノードにより構成し、第1ノードから破断リスクが100%である確率、第2ノードから破断リスクが90%である確率、…、第11ノードから破断リスクが0%である確率といったように、各ノードから破断リスクを示す確率を出力すればよい。出力層113を構成するノードの数や各ノードに割り当てる演算結果は、上述の例に限定されるものではなく、適宜設計することが可能である。
【0074】
推定装置1の制御部11は、学習モデル110から得られる演算結果を参照し、例えば確率が最も高いノードを選択することにより、破断リスクを推定できる。
【0075】
学習モデル110の構成を定める内部パラメータ(ノード間の重み及びバイアス)は、例えば、サーバ装置100において、適宜の学習アルゴリズムを用いることによって学習される。
【0076】
図10はサーバ装置100の構成を示すブロック図である。サーバ装置100は、制御部101、記憶部102、通信部103、操作部104、及び表示部105を備える。
【0077】
制御部101は、例えば、CPU、ROM、RAMなどを備える。制御部101が備えるROMには、サーバ装置100が備えるハードウェア各部の動作を制御するための制御プログラム等が記憶される。制御部101内のCPUは、ROMに記憶された制御プログラム、及び記憶部102に記憶された各種プログラムを実行し、ハードウェア各部の動作を制御する。
【0078】
制御部101は上述の構成に限定されない。制御部101は、CPU、ROM及びRAMを備えた構成に限定されない。制御部101は、例えば、GPU、FPGA、DSP、揮発性または不揮発性のメモリ等を含む1又は複数の制御回路または演算回路であってもよい。また、制御部101は、日時情報を出力するクロック、計測開始指示を与えてから計測終了指示を与えるまでの経過時間を計測するタイマ、数をカウントするカウンタ等の機能を備えていてもよい。
【0079】
記憶部102は、ハードディスクドライブなどの記憶装置を備える。記憶部102には、制御部101によって実行される各種コンピュータプログラム、当該コンピュータプログラムによって利用される各種データ、外部から取得したデータ等が記憶される。記憶部102に記憶されるコンピュータプログラムの一例は、学習モデル110を生成するためのモデル生成プログラムである。また、記憶部102には、鉛蓄電池2から電流、電圧、加速度のデータを収集し、積算値又は演算値を含む履歴データと、鉛蓄電池2が破断したか否かを示すラベルデータとを含む教師データが記憶されてもよい。これらのデータは、通信部103を通じて、推定装置1から取得してもよい。
【0080】
通信部103は、通信ネットワークに接続する通信インタフェースを備える。通信ネットワークは、インターネット網、特定用途向けのLAN又はWAN(Wide Area Network)などである。通信部103は、推定装置1へ送信すべきデータを、通信ネットワークを介して推定装置1へ送信する。また、通信部103は、サーバ装置100を宛先として推定装置1から送信されるデータを、通信ネットワークNを介して受信する。
【0081】
操作部104は、キーボードやマウスなどの入力インタフェースを備えており、各種の操作情報や設定情報を受付ける。制御部101は、操作部104から入力される操作情報に基づき適宜の制御を行い、必要に応じて設定情報を記憶部102に記憶させる。
【0082】
表示部105は、液晶表示パネル、有機EL表示パネル等の表示デバイスを備えており、制御部101から出力される制御信号に基づいて、サーバ装置100の管理者等に通知すべき情報を表示する。
【0083】
なお、本実施の形態では、サーバ装置100が操作部104及び表示部105を備える構成としたが、操作部104及び表示部105は必須ではなく、外部に接続されたコンピュータを通じて操作を受付け、通知すべき情報を外部のコンピュータへ出力する構成であってもよい。
【0084】
図11は学習モデル110の生成手順を説明するフローチャートである。サーバ装置100は、学習モデル110を生成する準備段階として、鉛蓄電池2の電流、電圧、及び加速度の時系列データと、その鉛蓄電池2が破断したか否かを示すラベルデータとを収集し、収集したデータを教師データとして記憶部102に記憶させる。この準備段階で、十分な数の時系列データと、ラベルデータとを収集しておくことで、破断リスクの推定精度を高めることができる。
【0085】
制御部101は、記憶部102にアクセスし、学習モデル110の生成に用いる教師データを取得する(ステップS301)。教師データは、鉛蓄電池2の電流、電圧、及び加速度の時系列データと、その鉛蓄電池2が破断したか否かを示すラベルデータとを含む。ステップS301では、教師データとして含まれる多数の時系列データ及びラベルデータのうち、1組の時系列データ及びラベルデータを取得すればよい。学習モデル110を生成する初期段階では、教師データは、サーバ装置100の管理者等によって用意されたものが設定される。また、学習が進めば、学習モデル110による推定結果と、推定処理に用いた時系列データとを取得し、取得したデータを教師データとして設定してもよい。
【0086】
次いで、制御部101は、鉛蓄電池2の電流、電圧、及び加速度の時系列データから、ノイズ量の時系列変化、振動ストレス蓄積量の時系列変化を示すグラフ(画像)を生成して学習モデル110へ入力し(ステップS302)、学習モデル110から演算結果を取得する(ステップS303)。学習が開始される前の段階では、学習モデル110を記述する定義情報には、初期設定値が与えられているものとする。学習モデル110では、前述のように、各層を構成するノード間において所定の演算が行われる。
【0087】
次いで、制御部101は、ステップS303で得られた演算結果を評価し(ステップS304)、学習が完了したか否かを判断する(ステップS305)。具体的には、制御部101は、ステップS303で得られる演算結果と教師データとに基づく誤差関数(目的関数、損失関数、コスト関数ともいう)を用いて、演算結果を評価することができる。制御部101は、最急降下法などの勾配降下法により誤差関数を最適化(最小化又は最大化)する過程で、誤差関数が閾値以下(又は閾値以上)となった場合、学習が完了したと判断する。なお、過学習の問題を避けるために、交差検定、早期打ち切りなどの手法を取り入れ、適切なタイミングにて学習を終了させてもよい。
【0088】
学習が完了していないと判断した場合(S305:NO)、制御部101は、学習モデル110のノード間の重み及びバイアスを更新し(ステップS306)、処理をステップS301へ戻す。制御部101は、学習モデル110の出力層113から入力層111に向かって、ノード間の重み及びバイアスを順次更新する誤差逆伝搬法を用いて、各ノード間の重み及びバイアスを更新することができる。
【0089】
学習が完了したと判断した場合(S305:YES)、制御部101は、学習済みの学習モデル110として記憶部102に記憶させ(ステップS307)、本フローチャートによる処理を終了する。
【0090】
このように、サーバ装置100は、鉛蓄電池2の電流、電圧、及び加速度の時系列データと、破断したか否かを示すラベルデータとを収集し、収集したデータを教師データに用いることによって、学習モデル110を生成することができる。
【0091】
推定装置1は、サーバ装置100において生成された学習モデル110をダウンロードする。推定装置1は、運用フェーズにおいて計測された鉛蓄電池2の電流、電圧、及び加速度のデータから生成されるノイズの時系列変化、振動ストレス蓄積量の時系列変化を示すグラフを学習モデル110へ入力することによって、鉛蓄電池2における破断リスクを推定できる。
【0092】
図12は学習モデル110を用いた推定処理の手順を説明するフローチャートである。推定装置1の制御部11は、運用フェーズにおいて収集した鉛蓄電池2の電流、電圧、加速度の履歴データを記憶部12から取得し(ステップS321)、取得した履歴データに基づき生成したノイズ量の時系列変化、振動ストレス蓄積量の時系列変化を示すグラフの画像データを学習モデル110に与えることによって、学習モデル110による演算を実行する(ステップS322)。学習モデル110の入力層111に与えられたグラフの画像データは中間層112へ送出される。中間層112では、ノード間の重み及びバイアスを含む活性化関数を用いた演算が実行される。中間層112の畳み込み層112a及びプーリング層112bでは画像の特徴が抽出される。畳み込み層112a及びプーリング層112bによって抽出された特徴部分のデータは、全結合層112cの構成する各ノードに結合され、活性化関数によって特徴変数に変換される。変換された特徴変数は、全結合層112cを通じて出力層113へ出力される。出力層113は、中間層112の全結合層112cから入力される特徴変数を基に、ソフトマックス関数を用いて確率に変換し、各カテゴリに属する確率を各ノードから出力する。
【0093】
制御部11は、学習モデル110から演算結果を取得し、取得した演算結果を基に破断リスクを推定する(ステップS323)。上述したように、学習モデル110の出力層113を構成する各ノードからは、破断リスクに関する確率が出力される。制御部11は、出力層113の各ノードから出力される確率に基づき、破断リスクを推定できる。
【0094】
制御部11は、ステップS323の推定結果を出力する(ステップS324)。例えば、制御部11は、推定結果を示す情報を表示部16に表示してもよい。代替的に、制御部11は、推定結果を示す情報を通信部14よりユーザの端末装置に通知してもよい。
【0095】
以上のように、第3実施形態では、学習モデル110を用いるので、精度良く破断リスクを推定できる。
【0096】
(第4実施形態)
第4実施形態では、ニューラルネットワークにより構成される他の学習モデルを用いて破断リスクを推定する構成について説明する。
【0097】
図13は第4実施形態における学習モデル120の構成を示す模式図である。第4実施形態における学習モデル120は、リカレントニューラルネットワークの一種であるseq2seq(sequence to sequence)モデルである。学習モデル120は、例えばサーバ装置100によって生成され、推定装置1の記憶部12に記憶される。
【0098】
学習モデル120は、時系列データが入力されるm個のエンコーダE1~Emと、時系列データを出力するn個のデコーダD1~Dnとを備える。インデックスのmおよびnは2以上の整数である。図13において、エンコーダE1~EmおよびデコーダD1~Dnは、単一のブロックとして記載しているが、入力層および隠れ層を含む2~8層程度の複数の層を有する。エンコーダE1~EmおよびデコーダD1~Dnの内部構造、ならびに、エンコーダE1~EmおよびデコーダD1~Dnにおける内部パラメータの学習方法については公知であるため、その詳細な説明を省略する。本実施形態では、鉛蓄電池2の電流、電圧、加速度の時系列データを学習モデル120への入力とし、ノイズ量若しくは振動ストレス蓄積量の時系列データを出力するように、学習モデル120の内部パラメータが学習される。
【0099】
図13において横方向は時間ステップを表し、図中左方向から右方向へ手順が進行していることを表している。エンコーダE1~Emのそれぞれには、鉛蓄電池2の電流、電圧、加速度の時系列データが入力される。
【0100】
エンコーダE1~Emの隠れ層には、内部状態として、入力された時系列データが内部ベクトルctとして記録される。ここで、tはタイムステップを表し、エンコーダE1~Em内では1~mの値をとる。内部ベクトルctは、入力ごとに値のステップへ受け渡されていき、全ての入力が終わった時点でデコーダD1に受け渡す内部ベクトルcmが得られる。
【0101】
最終のエンコーダEmにおける内部ベクトルcmはデコーダD1へ受け渡される。デコーダD1には出力の開始を指示する予約語が入力される。図13の例では、予約語として<go>を記載しているが、予め設定された固定値であればよい。エンコーダEmから内部ベクトルcmが受け渡され、出力の開始を指示する予約語が入力された場合、デコーダD1は出力h1を出力し、内部ベクトルはcm+1へ変化する。デコーダD1の出力h1は、次のステップにおけるデコーダD2への入力に用いられる。デコーダD1の内部ベクトルcm+1は、次のステップにおけるデコーダD2の内部状態として使用される。このようにして、D1,D2,…Dn-1の出力htおよび内部ベクトルctは、順次次のデコーダD2,D3,…,Dnに入力され、最終のデコーダDnが出力終了を表す予約語<eos>を出力するまで順次演算が実行される。
【0102】
以上の結果、デコーダD1~Dn-1のそれぞれ得られるn-1個の出力h1~hn-1が、学習モデル120の最終的な出力となる。これらの出力h1~hn-1は、ノイズ量若しくは振動ストレス蓄積量の時系列データを表す。
【0103】
制御部11は、学習モデル120のデコーダD1~Dn-1からノイズ量若しくは振動ストレス蓄積量の時系列データを取得する。制御部11は、エンコーダE1~Emへの時系列データの入力と、デコーダD1~Dn-1から出力される時系列データの取得とを順次繰り返すことによって、ノイズ量若しくは振動ストレス蓄積量の経時変化を推定することができる。
【0104】
制御部11は、推定したノイズ量若しくは振動ストレス蓄積量に基づき、破断リスクを推定することができる。すなわち、制御部11は、学習モデル120を用いてノイズ量を推定した場合、推定したノイズ量とノイズ閾値とを比較することによって、破断リスクを推定できる。同様に、制御部11は、学習モデル120を用いて振動ストレス蓄積量を推定した場合、推定した振動ストレス蓄積量と振動ストレス閾値とを比較することによって、破断リスクを推定できる。
【0105】
以上のように、第4実施形態では、鉛蓄電池2について計測される電流、電圧、加速度等のデータに基づき、鉛蓄電池2における破断リスクを推定できる。
【0106】
今回開示された実施形態は、全ての点において例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上述した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0107】
1 推定装置
11 制御部
12 記憶部
13 入力部
14 通信部
15 操作部
16 表示部
2 鉛蓄電池
3 負荷
4 電流センサ
5 電圧センサ
6 加速度センサ
EP 推定プログラム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13