(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】増幅装置、レーダ装置、および、増幅方法
(51)【国際特許分類】
H03F 1/52 20060101AFI20241008BHJP
H03F 3/24 20060101ALI20241008BHJP
H03F 3/68 20060101ALI20241008BHJP
H03G 3/30 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
H03F1/52
H03F3/24
H03F3/68 220
H03G3/30 E
(21)【出願番号】P 2020001134
(22)【出願日】2020-01-08
【審査請求日】2022-12-16
【審判番号】
【審判請求日】2024-02-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000166247
【氏名又は名称】古野電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】弁理士法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岸田 武紘
(72)【発明者】
【氏名】田中 恵祐
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 大輔
(72)【発明者】
【氏名】城本 昌幸
【合議体】
【審判長】高野 洋
【審判官】丸山 高政
【審判官】衣鳩 文彦
(56)【参考文献】
【文献】特開平2-52512(JP,A)
【文献】特公昭44-15246(JP,B1)
【文献】特開平5-145357(JP,A)
【文献】米国特許第5973569(US,A)
【文献】米国特許第6043712(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03F
H03G
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分配器および合成器を用いて並列に接続された高周波信号を増幅する複数の増幅部と、
前記複数の増幅部に共通の電源メインラインと、
前記電源メインラインから分岐した複数の電源分岐ラインと、
前記増幅部に接続した前記電源分岐ラインに対して配置され、前記電源分岐ラインから前記増幅部に流れる駆動電流が前記増幅部の故障時の大電流になると切断され、前記電源分岐ラインを遮断する保護部と、
前記電源分岐ラインに接続し、前記電源分岐ラインに流れる前記駆動電流に対応する駆動電圧の変化に基づいて、監視信号を生成する監視部と、
を備える、増幅装置。
【請求項2】
請求項1に記載の増幅装置であって、
前記監視信号の信号強度に基づいて、前記保護部で遮断した前記電源分岐ラインの数である故障数を示す故障数検出信号を出力する故障数検出部を備える、
増幅装置。
【請求項3】
請求項2に記載の増幅装置であって、
前記故障数に基づいて、前記複数の増幅部への前記高周波信号の入力強度を調整する調整部を備える、
増幅装置。
【請求項4】
請求項3に記載の増幅装置であって、
前記故障数に基づいて、前記調整部の前記調整に係るパラメータの変更または前記パラメータの設定停止を行うパラメータ制御部を備える、
増幅装置。
【請求項5】
請求項4に記載の増幅装置であって、
前記調整部は、
前記パラメータ制御部における前記パラメータの設定停止に伴い、前記パラメータを固定値に設定する、
増幅装置。
【請求項6】
請求項4または
請求項5に記載の増幅装置であって、
前記パラメータ制御部は、前記複数の増幅部から出力された前記高周波信号の信号強度に基づいて、前記パラメータを設定する、
増幅装置。
【請求項7】
請求項6に記載の増幅装置であって、
前記パラメータ制御部は、前記故障数に応じた前記信号強度の目標値に基づいて、前記パラメータを設定する、
増幅装置。
【請求項8】
請求項3乃至
請求項7のいずれかに記載の増幅装置であって、
前記調整部は、前記複数の増幅部の入力側に接続された可変減衰器を備える、
増幅装置。
【請求項9】
請求項1乃至
請求項8のいずれかに記載の増幅装置であって、
前記増幅部への前記監視信号に基づいて、電源供給の有無を切り替える切替部と、を備える、
増幅装置。
【請求項10】
請求項1乃至
請求項9のいずれかに記載の増幅装置と、
前記合成器に接続し、合成された前記高周波信号を送信するアンテナと、
を備える、レーダ装置。
【請求項11】
分配器および合成器を用いて並列に接続された高周波信号を増幅する複数の増幅部に、共通の電源メインラインから分岐した複数の電源分岐ラインを介してそれぞれに電源供給し、
前記電源分岐ラインから前記増幅部に流れる駆動電流が前記増幅部の故障時の大電流になると切断され、前記電源分岐ラインを遮断
し、
前記電源分岐ラインに流れる前記駆動電流に対応する駆動電圧の変化に基づいて、監視信号を生成する、
増幅方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波信号を増幅する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、高周波信号を増幅する電力増幅器が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、最終段の増幅器が1個であるが、最終段の増幅器を複数備えることがある。そして、複数の増幅器に対して共通の供給ラインで電源を供給する場合、故障した増幅器によって、故障していない他の増幅器等、増幅装置を構成する他の回路素子に対して悪影響を及ぼすことがある。
【0005】
したがって、本発明は、複数の増幅器における故障した増幅器による他の回路素子への悪影響を抑制する増幅装置および増幅方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の増幅装置は、複数の増幅部、電源メインライン、複数の電源分岐ライン、および、保護部を備える。複数の増幅部は、それぞれに高周波信号を増幅する。電源メインラインは、複数の増幅部に共通の電源ラインである。複数の電源分岐ラインは、電源メインラインから分岐し、それぞれに増幅部に接続する。保護部は、増幅部に接続した電源分岐ラインに対して配置され、電源分岐ラインから増幅部に流れる駆動電流に基づいて、電源分岐ラインを遮断する。
【0007】
この構成では、故障によって駆動電流が変化した増幅器は、共通の電源メインラインから切り離される。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、故障した増幅器による他の回路素子への悪影響を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る最終段増幅部を構成する1個の増幅回路の構成を示す回路図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態に係る最終段増幅部の構成を示す回路図である。
【
図3】
図3(A)は、正常時の増幅回路の動作状態を示す回路図であり、
図3(B)は、異常時の増幅回路の動作状態を示す回路図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施形態に係るフェールセーフ処理を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、本発明の実施形態に係る送信装置の構成を示す機能ブロック図である。
【
図6】
図6は、本発明の実施形態に係る増幅回路の別の一例を示す回路図である。
【
図7】
図7は、故障数検出部の構成を示す回路図である。
【
図8】
図8は、本発明の実施形態に係るフェールセーフ処理および第1の送信制御を示すフローチャートである。
【
図9】
図9は、本発明の実施形態に係るフェールセーフ処理および第2の送信制御を示すフローチャートである。
【
図10】
図10は、本発明の第2の送信制御の制御テーブル例を示す図である。
【
図11】
図11は、判定用の監視信号の生成処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態に係る増幅装置、送信装置、および、増幅方法について、図を参照して説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る最終段増幅部を構成する1個の増幅回路の構成を示す回路図である。
図2は、本発明の実施形態に係る最終段増幅部の構成を示す回路図である。
図3(A)は、正常時の増幅回路の動作状態を示す回路図であり、
図3(B)は、異常時の増幅回路の動作状態を示す回路図である。
【0011】
(最終段増幅部の構成)
まず、
図2を用いて、最終段増幅部の構成について説明する。
図2に示すように、最終段増幅部20は、4個の増幅回路21-24、3個の分配器201-203、3個の合成器204-206、および、電源ライン90を備える。増幅回路21-24は、具体的には、半導体を用いた増幅回路である。分配器201-203は、具体的には、例えば、マイクロストリップ線路を用いて構成される。合成器204-206は、具体的には、例えば、マイクロストリップ線路を用いて構成される。
【0012】
分配器201は、分配器202と分配器203とに接続する。分配器202は、増幅回路21と増幅回路22とに接続する。分配器203は、増幅回路23と増幅回路24とに接続する。
【0013】
合成器204は、増幅回路21と増幅回路22とに接続する。合成器205は、増幅回路23と増幅回路24とに接続する。合成器206は、合成器204と合成器205とに接続する。
【0014】
分配器201は、入力された高周波信号を分配して、分配器202および分配器203に出力する。分配器202は、分配器201から入力された高周波信号を分配して、増幅回路21および増幅回路22に出力する。分配器203は、分配器201から入力された高周波信号を分配して、増幅回路23および増幅回路24に出力する。
【0015】
合成器204は、増幅回路21で増幅された高周波信号と、増幅回路22で増幅された高周波信号とを合成して、合成器206に出力する。合成器205は、増幅回路23で増幅された高周波信号と、増幅回路24で増幅された高周波信号とを合成して、合成器206に出力する。合成器206は、合成器204から出力される合成高周波信号と、合成器205から出力される合成高周波信号とを合成して、出力する。
【0016】
このような構成によって、最終段増幅部20は、実質的に高い利得で、高周波信号を増幅する。
【0017】
電源ライン90は、増幅回路21、増幅回路22、増幅回路23、および、増幅回路24に接続する。電源ライン90は、増幅回路21、増幅回路22、増幅回路23、および、増幅回路24に共通の電源ラインである。電源ライン90は、例えば、電源メインライン91と複数の電源分岐ライン92とを備える。複数の電源分岐ライン92は、電源メインライン91から分岐しており、増幅回路21、増幅回路22、増幅回路23、および、増幅回路24にそれぞれ接続する。この構成によって、電源ライン90は、増幅回路21、増幅回路22、増幅回路23、および、増幅回路24に、駆動電圧VDDを供給する。
【0018】
増幅回路21、増幅回路22、増幅回路23、および、増幅回路24は、同様の構成を備える。増幅回路21、増幅回路22、増幅回路23、および、増幅回路24には、供給制御信号が入力される。増幅回路21、増幅回路22、増幅回路23、および、増幅回路24は、供給制御信号に応じて、それぞれの増幅素子に対する駆動電圧VDDの印加を制御する。
【0019】
この構成によって、増幅回路21、増幅回路22、増幅回路23、および、増幅回路24は、高周波信号の出力期間に駆動電圧VDDが印加され、それ以外の期間には駆動電圧VDDは印加されない。そして、上述のように、増幅回路21の出力信号、増幅回路22の出力信号、増幅回路23の出力信号、および、増幅回路24の出力信号が合成されることによって、最終段増幅部20は、出力強度の高いパルス状の高周波信号を出力する。
【0020】
(増幅回路21の構成)
増幅回路21、増幅回路22、増幅回路23、および、増幅回路24は、上述のように同様の構成を備える。したがって、以下では、代表して、増幅回路21を例に説明する。
【0021】
図1に示すように、増幅回路21は、最終段増幅器31、フューズ32、ドレイン電圧制御回路33、スイッチ34、および、電源ライン監視IC351を備える。最終段増幅器31が、本発明の「増幅部」に対応し、フューズ32が、本発明の「保護部」に対応する。ドレイン電圧制御回路33が、本発明の「電源供給制御部」に対応し、スイッチ34が、本発明の「切替部」に対応する。
【0022】
最終段増幅器31は、例えば、FETからなる。FETのゲートは、増幅回路21における高周波信号の入力部211に接続する。FETのソースは、接地されている。FETのドレインは、増幅回路21における高周波信号の出力部212に接続する。また、FETのドレインは、ドレイン電圧制御回路33に接続する。
【0023】
ドレイン電圧制御回路33は、例えば、FETを備え、第1接続部331、第2接続部332、第3接続部333を備える。FETのゲートは、第1接続部331に接続し、FETのドレインは、第2接続部332に接続し、FETのソースは、第3接続部333に接続する。第2接続部332は、フューズ32に接続し、第3接続部333は、最終段増幅器31を構成するFETのドレインに接続する。なお、ドレイン電圧制御回路33を構成するFETの段数は、1段に限るものではなく、多段にしてもよい。
【0024】
フューズ32は、ドレイン電圧制御回路33の第2接続部332と、共通の電源ライン90との間に接続する。言い換えれば、フューズ32の一方端子は、ドレイン電圧制御回路33の第2接続部332に接続し、フューズ32の他方端子は、電源分岐ライン92に接続する。言い換えれば、フューズ32は、電源分岐ライン92の途中に挿入されている。
【0025】
スイッチ34は、端子341、端子342、および、端子343を備える。端子341は、端子342と端子343とに選択的に接続する。端子341は、ドレイン電圧制御回路33の第1接続部331に接続する。端子342は、最終段増幅部20における供給制御信号の入力部214に接続する。端子343は、接地されている。
【0026】
電源ライン監視IC351は、フューズ32の一方端、ドレイン電圧制御回路33の第2接続部332に接続する。また、電源ライン監視IC351は、スイッチ34に接続する。電源ライン監視IC351は、フューズ32の一方端の電圧に応じた監視信号を生成し、スイッチ34に出力する。例えば、監視信号は、フューズ32の一方端の電圧値に比例する信号強度を有する。
【0027】
高周波信号は、入力部211を介して、最終段増幅器31に入力される。最終段増幅器31には、フューズ32およびドレイン電圧制御回路33を介して駆動電圧VDDが印加される。
【0028】
より具体的には、スイッチ34において端子341と端子342とが接続する状態において、入力部214から入力される供給制御信号がHi状態(オン状態)であれば、ドレイン電圧制御回路33における第3FETのドレインソース間が導通する。これにより、最終段増幅器31には、フューズ32およびドレイン電圧制御回路33を介して駆動電圧VDDが印加される。一方、スイッチ34において端子341と端子342とが接続する状態において、入力部214から入力される供給制御信号がLow状態(オフ状態)であれば、ドレイン電圧制御回路33における第3FETのドレインソース間が開放する。これにより、最終段増幅器31には、駆動電圧VDDが印加されない。
【0029】
このような供給制御信号のオン状態とオフ状態とを切り替えることによって、最終段増幅器31が動作して、高周波信号を増幅して出力する期間と、最終段増幅器31がどうさせず、高周波信号が出力されない期間とが生じる。これにより、増幅回路21は、信号強度が増幅されたパルス状の高周波信号を出力する。
【0030】
(増幅回路21-24の構成によるフェールセーフ動作)
このような構成において、増幅回路21は、例えば、最終段増幅器31が故障して短絡すると、次のように動作する。
【0031】
最終段増幅器31が故障し、ドレインソース間が短絡すると、電源メインライン91から、電源分岐ライン92、フューズ32、ドレイン電圧制御回路33を介して、最終段増幅器31の大電流の駆動電流が流れる。この電流によって、フューズ32は、切断される。したがって、電源分岐ライン92は、遮断される。すなわち、ドレイン電圧制御回路33および最終段増幅器31と、電源メインライン91との接続は、遮断される。
【0032】
これにより、電源メインライン91の電圧低下を抑制でき、電源メインライン91から分岐した他の電源分岐ライン92にそれぞれ接続する他の増幅回路22、増幅回路23、および、増幅回路24の駆動電圧の低下を抑制できる。したがって、増幅回路22、増幅回路23、および、増幅回路24の動作状態は、維持される。増幅回路22、増幅回路23、増幅回路24のいずれかが故障した場合も、同様に、他の増幅回路の動作状態は、維持される。
【0033】
このように、増幅回路21-24を上述の構成とすることによって、最終段増幅器の故障による他の増幅回路への悪影響を抑制できる。
【0034】
また、電源ライン監視IC351は、フューズ32におけるドレイン電圧制御回路33側の電圧(最終段増幅器31に対する駆動電圧)を検出して、この電圧に応じた信号強度の監視信号を生成する。電源ライン監視IC351は、監視信号をスイッチ34に出力する。
【0035】
スイッチ34は、
図3(A)に示すように、正常状態、供給制御信号を受けて、最終段増幅器31を動作させる状態では、端子341と端子342とを導通する。正常状態とは、最終段増幅器31が故障しておらず、フューズ32が切断されておらず、電源ライン90から、ドレイン電圧制御回路33および最終段増幅器31に駆動電圧VDDが供給されている状態である。この際、端子341と端子343とは開放している。
【0036】
フューズ32の分断によって、フューズ32におけるドレイン電圧制御回路33側の電圧が低下すると、監視信号の信号強度も変化(低下)する。したがって、スイッチ34に印加される監視信号の信号強度は、変化(低下)する。
【0037】
この変化(低下)によって、
図3(B)に示すように、スイッチ34は、端子341と端子342とを開放し、端子341と端子343とを導通するように、接続を切り替える。これにより、ドレイン電圧制御回路33の第1FETのゲートは、接地され、供給制御信号の出力元である制御部40(後述の
図5参照)とドレイン電圧制御回路33との接続は、遮断される。したがって、制御部40への供給電源の電圧低下、誤動作等の動作不良の発生を抑制できる。
【0038】
このように、増幅回路21-24を上述の構成とすることによって、最終段増幅器の故障による他の回路(増幅回路に接続する他の回路)への悪影響を抑制できる。
【0039】
(フェールセーフ処理方法)
上述の増幅回路21-24は、フェールセーフ処理として、例えば、
図4に示すフローに沿って処理を行う。
図4は、本発明の実施形態に係るフェールセーフ処理を示すフローチャートである。
【0040】
図4に示すように、電源ライン監視IC351は、フューズ32におけるドレイン電圧制御回路33側の電圧を検出して、監視信号を生成する(S11)。
【0041】
スイッチ34は、監視信号の信号強度が監視閾値未満になると(S12:YES)、ドレイン電圧制御回路33と制御部40との接続を遮断する(S13)。すなわち、最終段増幅器31が故障して短絡し、フューズ32が切断され、フューズ32のドレイン電圧制御回路33側の電圧が低下すると、これに応じて、監視信号の信号強度が低下する。そして、監視信号の信号強度が監視閾値未満になると、ドレイン電圧制御回路33と制御部40との接続は、遮断される。
【0042】
スイッチ34は、監視信号の信号強度が監視閾値未満でなければ(S12:NO)、ドレイン電圧制御回路33と制御部40との接続を継続する(S14)。すなわち、最終段増幅器31が故障していなければ、フューズ32は切断されない。したがって、フューズ32のドレイン電圧制御回路33側の電圧は、駆動電圧VDDで維持され、これに応じて、監視信号の信号強度も高い状態で維持される。この場合、ドレイン電圧制御回路33と制御部40との接続は、維持される。
【0043】
このようなフェールセーフ処理を行うことによって、最終段増幅器31の故障時における他の増幅回路や他の回路へ悪影響を抑制できる。
【0044】
(送信装置の構成)
上述の最終段増幅部20は、例えば、
図5に示すような送信装置に用いられる。
図5は、本発明の実施形態に係る送信装置の構成を示す機能ブロック図である。
【0045】
図5に示すように、送信装置10は、最終段増幅部20、送信信号生成部41、可変ATT(アッテネータ)42、メイン増幅部43、カプラ44、制御部40、電源50、故障数検出部60、および、アンテナ100を備える。
【0046】
電源50は、送信装置10における電源供給が必要な箇所に、電力を供給する。一例として、電源50は、最終段増幅部20に電力を供給し、この電力によって、駆動電圧VDDが供給される。
【0047】
送信信号生成部41は、所定周波数の高周波信号を生成し、可変ATT42に出力する。送信信号生成部41の具体的な構成の一例は、既知のものであり、説明を省略する。
【0048】
可変ATT42は、例えば、可変抵抗器からなる。可変ATT42は、制御部40から与えられた減衰量が得られるように設定されている。可変ATT42は、入力された高周波信号を、設定された減衰量で減衰させて、メイン増幅部43に出力する。
【0049】
メイン増幅部43は、例えば、複数段に接続された、半導体の増幅回路と、これらの増幅回路間に接続されたフィルタ等によって構成される。メイン増幅部43は、可変ATT42からの高周波信号を増幅して、最終段増幅部20に出力する。メイン増幅部43での増幅率は、例えば、高周波信号の波形が増幅によって歪まないよう、且つ、所定の信号強度が得られるように、設定されている。
【0050】
最終段増幅部20は、上述の構成を備えており、送信時において目標強度となるように、メイン増幅部43からの高周波信号を増幅する。また、最終段増幅部20は、制御部40から供給制御信号を受け、供給制御信号に応じた増幅処理を行う。これにより、上述のように、パルス状の高周波信号を生成できる。最終段増幅部20は、増幅および波形制御した高周波信号(送信信号)を、カプラ44を介して、アンテナ100に出力する。
【0051】
アンテナ100は、入力された送信信号を、送信する。カプラ44は、送信信号の一部を、参照信号として分配し、制御部40に出力する。
【0052】
制御部40は、APC目標値を設定する。APC目標値とは、アンテナ100に入力される送信信号を信号強度の目標信号強度である。制御部40は、参照信号の信号強度を監視しながら、送信信号の信号強度がAPC目標値となるように、可変ATT42の減衰量を設定する。設定された減衰量は、上述のように、可変ATT42に与えられ、可変ATT42は、この減衰量を実現するように、抵抗値を設定する。
【0053】
このような構成によって、送信装置10は、送信信号が目標信号強度となるように制御し、この信号強度が制御された送信信号を、アンテナ100から外部に送信する。これにより、送信装置10は、送信信号を、略安定した信号強度で送信することができる。
【0054】
さらに、上述の構成からなる最終段増幅部20を備えることで、送信装置10は、最終段増幅部20の最終段増幅器31が故障した際のフェールセーフを実行でき、この故障による送信装置10の他の回路への悪影響を抑制できる。
【0055】
(送信電力の制御)
送信装置10は、さらに次の構成を備えることで、更なる有効な送信制御を行うことができる。
図6は、本発明の実施形態に係る増幅回路の別の一例を示す回路図である。
図7は、故障数検出部の構成を示す回路図である。
【0056】
図6に示す増幅回路21’は、上述の
図1に示した増幅回路21に対して、監視信号の出力部をさらに備える点で異なる。
図6に示す増幅回路21’の他の構成は、
図1に示す増幅回路21と同様であり、同様の箇所の説明は省略する。
【0057】
増幅回路21’は、監視信号の出力部215を備える。監視信号の出力部215は、電源ライン監視IC351に接続する。電源ライン監視IC351は、監視信号を、スイッチ34へ出力するとともに、監視信号の出力部215に出力する。なお、最終段増幅部20を構成する他の増幅回路も、同様に、監視信号の出力端子を備える。各増幅回路から出力された監視信号は、故障数検出部60に入力される。
【0058】
故障数検出部60は、概略的には、増幅回路21’の電源ライン監視IC351の監視信号の信号強度、増幅回路22’(図示を省略)の電源ライン監視IC352の監視信号の信号強度、増幅回路23’(図示を省略)の電源ライン監視IC353の監視信号の信号強度、および、増幅回路24’(図示を省略)の電源ライン監視IC354の監視信号の信号強度を加算して、故障数検出信号として出力する。
【0059】
具体的には、例えば、
図7に示すように、故障数検出部60は、オペアンプ61、および、抵抗器621-626を備える。抵抗器621は、出力部215を介して、電源ライン監視IC351に接続する。抵抗器622は、出力部225(図示を省略)を介して、電源ライン監視IC352に接続する。抵抗器623は、出力部235(図示を省略)を介して、電源ライン監視IC353に接続する。抵抗器624は、出力部245(図示を省略)を介して、電源ライン監視IC354に接続する。抵抗器621、抵抗器622、抵抗器623、および、抵抗器624は、オペアンプ61の非反転入力端子に接続する。オペアンプ61の出力端子は、抵抗器626を介して、オペアンプ61の反転入力端子に接続する。反転入力端子と抵抗器626との接続部は、抵抗器625を介して、接地される。
【0060】
このような構成により、故障数検出信号の信号強度は、故障数に依存する。例えば、異常(故障)検出時の監視信号の信号強度をLowレベルとし、正常時の監視信号の信号強度をHiレベルとする。これにより、故障数が多くなるほど、故障数検出信号の信号強度は低くなる。すなわち、4個の増幅回路が正常な場合よりも、1個の増幅回路が故障し3個の増幅回路が正常の場合の方が、故障数検出信号の信号強度は低くなる。1個の増幅回路が故障し3個の増幅回路が正常の場合よりも、2個の増幅回路が故障し2個の増幅回路が正常の場合の方が、故障数検出信号の信号強度は低くなる。2個の増幅回路が故障し2個の増幅回路が正常の場合よりも、3個の増幅回路が故障し1個の増幅回路が正常の場合の方が、故障数検出信号の信号強度は低くなる。3個の増幅回路が故障し1個の増幅回路が正常の場合よりも、4個の増幅回路が故障し1個の増幅回路が正常の場合(全数故障)の方が、故障数検出信号の信号強度は低くなる。
【0061】
このような信号強度を有する故障数検出信号は、制御部40に入力される。制御部40は、故障数検出信号から、故障数を算出する。
【0062】
制御部40は、故障数に応じて、APC目標値を変更する。より具体的には、故障数が増加するほど、APC目標値を低く設定する。そして、制御部40は、設定したAPC目標値に応じた減衰量(本発明の「調整に係るパラメータ」に対応)を設定し、可変ATT42に与える。可変ATT42が、本発明の「調整部」に対応し、制御部40が、本発明の「パラメータ制御部」に対応する。
【0063】
このような構成によって、送信装置10は、故障していない増幅回路へ入力される高周波信号の信号強度が高くなり、例えば、最終段増幅器31が飽和することを抑制できる。
【0064】
より具体的には、故障により動作する増幅回路が少なくなると、送信信号の信号強度は低下する。この場合、本発明の構成を備えていなければ、APC目標値を実現しようと、可変ATT42の減衰量は小さくなるように設定されてしまう。これにより、増幅回路に入力する高周波信号の信号強度は、高くなり、増幅回路の最終段増幅器31が飽和してしまう。
【0065】
しかしながら、故障数に応じて、APC目標値を低下させることで、可変ATT42の減衰量を大きく変化させる必要はない。これにより、増幅回路に入力する高周波信号の信号強度が高くなる度合いを抑制でき、増幅回路の最終段増幅器31が飽和することを抑制できる。
【0066】
そして、これにより、送信装置10は、送信信号のサイドローブの発生を抑制できる。すなわち、送信装置10は、最終段増幅部20の全ての最終段増幅器が故障していなければ、サイドローブの発生を抑えて、送信信号を送信できる。
【0067】
(送信制御方法1)
送信装置10は、フェールセーフ処理とともに送信制御として、例えば、
図8に示すフローに沿って処理を行う。
図8は、本発明の実施形態に係るフェールセーフ処理および第1の送信制御を示すフローチャートである。なお、フェールセーフ処理について、
図4と同様であり、同様の箇所は、適宜説明を省略する。
【0068】
図8に示すように、最終段増幅部20における各増幅回路の電源ライン監視IC351-354は、それぞれのフューズ32におけるドレイン電圧制御回路33側の電圧を検出して、監視信号を生成する(S11)。
【0069】
最終段増幅部20における各増幅回路のスイッチ34は、監視信号の信号強度が監視閾値未満になると(S12:YES)、ドレイン電圧制御回路33と制御部40との接続を遮断する(S13)。
【0070】
故障数検出部60は、監視信号を用いて、故障数検出信号を生成し、制御部40は、故障数検出信号の信号強度から、故障数を算出する(S21)。制御部40は、故障数に応じて、APC目標値を設定する(S22)。
【0071】
制御部40は、APC目標値に応じて可変ATT42の減衰量を設定する(S23)。より具体的には、制御部40は、送信信号の参照信号の信号強度とAPC目標値との差から可変ATT42の減衰量を設定する。
【0072】
最終段増幅部20における各増幅回路のスイッチ34は、監視信号の信号強度が監視閾値未満でなければ(S12:NO)、ドレイン電圧制御回路33と制御部40との接続を継続する(S14)。
【0073】
制御部40は、故障している増幅回路が無いことから、APC目標値を維持する(S31)。制御部40は、APC目標値に応じて可変ATT42の減衰量を設定する(S23)。より具体的には、制御部40は、送信信号の参照信号の信号強度とAPC目標値との差から可変ATT42の減衰量を設定する。
【0074】
このような処理を行うことによって、上述のフェールセーフ処理とともに、サイドローブの発生を抑圧する送信制御を実現できる。
【0075】
(送信制御方法2)
送信装置10は、フェールセーフ処理とともに送信制御として、例えば、
図9に示すフローに沿って処理を行う。
図9は、本発明の実施形態に係るフェールセーフ処理および第2の送信制御を示すフローチャートである。なお、フェールセーフ処理および一部の送信制御について、
図8と同様であり、同様の箇所は、適宜説明を省略する。
【0076】
故障がある場合、ステップS21までは、
図8と同様であり、説明は省略する。制御部40は、故障数と故障数閾値とを比較する。制御部40は、故障数が故障数閾値未満であれば(S41:NO)、故障数に応じて、APC目標値を設定する(S22)。制御部40は、APC目標値に応じて可変ATT42の減衰量を設定する(S23)。より具体的には、制御部40は、送信信号の参照信号の信号強度とAPC目標値との差から可変ATT42の減衰量を設定する。
【0077】
制御部40は、故障数が故障数閾値以上であれば(S41:YES)、全数故障であるか否かを検出する。制御部40は、全数故障であれば(S42:YES)、送信を停止する(S45)。制御部40は、全数故障でなければ(S42:NO)、APC制御を停止する(S43)。言い換えれば、制御部40は、ステップS43として、APC目標値の設定を停止し、参照信号の信号強度をAPC目標値に合わせる制御を停止する。可変ATT42は、制御部40からの減衰量の設定が停止すると、減衰量を固定値に設定する(S44)。
【0078】
このような処理を行うことによって、第1の送信制御と異なり、第1の送信制御と同様にサイドローブの発生を抑制する送信制御を実現できる。また、故障数が多くなると、APC目標値へ合わせるための可変ATTの設定を安定的に制御できない場合が生じることも考えられる。このような場合に、可変ATTの減衰量を固定値にすることで、安定した送信制御を行うことが可能になる。
【0079】
このような第2の送信制御を行う場合、制御部40は、例えば、
図10に示す制御テーブルに従って、制御を行うこともできる。
図10は、本発明の第2の送信制御の制御テーブル例を示す図である。なお、
図10では、増幅回路数が4個の場合を示すが、個数はこれに限らず、それぞれに個数に応じて、同様の概念からテーブルを設定すればよい。
【0080】
制御部40は、故障数を検出する。制御部40は、故障数が0-3個、すなわち、全数故障でなければ、動作する増幅回路を用いて、送信を行う。一方、制御部40は、故障数が4個、すなわち、全数故障であれば、送信を停止する。
【0081】
制御部40は、故障数が0個であれば、APC目標値をPn0に設定し、可変ATT42の減衰量をATT0に設定する。減衰量ATT0は、APC目標値Pn0と参照信号との差分によって、逐次的に更新して設定される。
【0082】
制御部40は、故障数が1個であれば、APC目標値をPn1に設定し、可変ATT42の減衰量をATT1に設定する。APC目標値Pn1は、APC目標値Pn0よりも小さい値である。減衰量ATT1は、APC目標値Pn1と参照信号との差分によって、逐次的に更新して設定される。
【0083】
制御部40は、故障数が2個または3個であれば、APC制御を停止し、可変ATT42の減衰量をATTcに設定する。減衰量ATTcは、固定値である。
【0084】
(別の監視信号の生成方法)
なお、上述の説明では、監視信号を所定のサンプリングタイミング毎に生成して用いる場合を示したが、複数のサンプリングタイミングの監視信号から、判定用の監視信号を生成して、上述のフェールセーフ処理や送信制御に用いることもできる。
図11は、判定用の監視信号の生成処理の一例を示すフローチャートである。
【0085】
電源ライン監視IC351-354は、所定のサンプリングタイミングになると、駆動電圧VDD、より正確には、フューズ32におけるドレイン電圧制御回路33側の電圧に応じた監視信号を生成する(S111)。電源ライン監視IC351-354は、監視信号の信号強度を検出し、一時記憶する(S112)。電源ライン監視IC351-354は、この処理を、所定回数になるまで(S113:NO)、継続する。
【0086】
電源ライン監視IC351-354は、監視信号の生成および信号強度の検出処理が、所定回数になると(S113:YES)、判定用の監視信号の信号強度を算出する(S114)。電源ライン監視IC351-354は、判定用の監視信号を、スイッチ34または故障数検出部60に出力する。スイッチ34または故障数検出部60は、判定用の監視信号の信号強度を用いて、上述の各処理、制御を行う。
【0087】
判定用の監視信号の信号強度は、例えば、複数のサンプリングタイミングの監視信号の信号強度の平均値によって算出される。さらには、判定用の監視信号の信号強度は、複数のサンプリングタイミングの監視信号の信号強度の最大値と最小値を除き、除いた後の信号強度の平均値によって算出される。
【0088】
このような処理を行うことによって、駆動電圧VDDに含まれるノイズの影響を抑制できる。したがって、より安定した信号強度の監視信号(判定用の監視信号)が得られる。
【0089】
なお、上述の構成の送信装置は、例えば、レーダ装置に適用されるが、高出力を要する高周波信号を半導体の増幅回路を用いて生成する装置であれば、上述の構成を適用できる。
【0090】
また、上述の説明では、電源ライン監視IC351-354は、電圧によって故障検出を行ったが、電流によって故障検出を行うことも可能である。
【符号の説明】
【0091】
10:送信装置
20:最終段増幅部
21、22、23、24:増幅回路
31:最終段増幅器
32:フューズ
33:ドレイン電圧制御回路
34:スイッチ
40:制御部
41:送信信号生成部
42:可変ATT
43:メイン増幅部
44:カプラ
50:電源
60:故障数検出部
61:オペアンプ
90:電源ライン
100:アンテナ
201、202、203:分配器
204、205、206:合成器
211、214:入力部
212、215、225、235、245:出力部
331:第1接続部
332:第2接続部
333:第3接続部
341、342、343:端子
351、352、353、354:電源ライン監視IC
621、622、623、624、625、626:抵抗器