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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】温度測定装置及び温度測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01J 5/00 20220101AFI20241008BHJP
【FI】
G01J5/00 B
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020034663
(22)【出願日】2020-03-02
(65)【公開番号】P2021139628
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2023-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000133526
【氏名又は名称】株式会社チノー
(74)【代理人】
【識別番号】100109553
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 一郎
(72)【発明者】
【氏名】寺田 大亮
(72)【発明者】
【氏名】井内 徹
【審査官】田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特公昭59-040250(JP,B2)
【文献】特開昭62-030923(JP,A)
【文献】特開平05-209792(JP,A)
【文献】特開平09-138163(JP,A)
【文献】特開平11-223554(JP,A)
【文献】特開2004-109023(JP,A)
【文献】特公昭60-049852(JP,B2)
【文献】特公昭60-049853(JP,B2)
【文献】特開平07-063613(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 5/00-5/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測温対象の観測点からの観測点の法線方向に対して角度70度から80度の範囲の赤外光の放射輝度を測定する赤外線受光部と、
前記測温対象の観測点からの赤外光を反射させて前記赤外線受光部に導く対向側反射部と、
前記測温対象の観測点に赤外線受光部が観測点から受光する赤外光の光路と同じ光路にて前記赤外光と異なる波長の光である異波長光を入射する異波長光入射部と、
前記対向側反射部にて異波長光の測温対象の観測点からの反射分布を測定するための対向側反射部に設けられる反射分布測定手段と、
対向側反射部による反射を停止させる反射停止部と、
を有する温度測定装置。
【請求項2】
測温対象の観測点からの赤外光の放射輝度を測定する赤外線受光部と、
前記測温対象の観測点からの赤外光を反射させて前記赤外線受光部に導く対向側反射部と、
前記測温対象の観測点に赤外線受光部が観測点から受光する赤外光の光路と同じ光路にて前記赤外光と異なる波長の光である異波長光を入射する異波長光入射部と、
前記対向側反射部にて異波長光の測温対象の観測点からの反射分布を測定するための対向側反射部に設けられる反射分布測定手段と、
対向側反射部による反射を停止させる反射停止部と、
を有する温度測定装置であって、
反射停止部は、対向側反射部と観測点との間で開閉可能に動作するシャッター手段である温度測定装置
【請求項3】
対向側反射部は、前記赤外光の大部分を反射し、異波長光を透過するフィルターである赤外光反射フィルターを有し、
反射分布測定手段は、赤外光反射フィルターを透過する異波長光の分布を観測するように構成されている請求項1又は請求項2に記載の温度測定装置。
【請求項4】
赤外線受光部の測温対象側に、赤外線の受光を妨げない受光側反射部をさらに有する請求項1から請求項3のいずれか一に記載の温度測定装置。
【請求項5】
前記赤外線受光部は、偏光された赤外光を受光する偏光受光手段を有する請求項1から請求項4のいずれか一に記載の温度測定装置。
【請求項6】
測温対象の観測点からの観測点の法線方向に対して角度70度から80度の範囲の赤外光を多重反射させる多重反射ステップと、
多重反射させた赤外光の放射輝度を測定する反射赤外光放射輝度測定ステップと、
測温対象の観測点からの赤外光を多重反射させないで測定する非反射赤外光放射輝度測定ステップと、
観測点に前記放射輝度を測定される赤外光と同じ光路にて入射された前記赤外光と異なる波長の光である異波長光の反射分布を測定する反射分布測定ステップと、
を有する温度測定方法。


【請求項7】
多重反射させて測定した赤外光の放射輝度と、多重反射させないで測定した赤外光の放射輝度と、測定した反射分布とを用いて測温対象の放射率を取得する放射率取得ステップをさらに有する請求項6に記載の温度測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測温対象の観測点からの赤外光の放射輝度と、測温対象の観測点での反射分布とを併せて測定することで、精度よく温度測定を行うことができる温度測定装置及び温度測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非接触にて温度測定ができる放射温度計は、鋼板製造プロセスなどにおいてよく使われている。放射温度計は対象からの熱放射の強度(分光放射輝度)を測定し、熱放射の強度から温度への換算を、黒体の熱放射の強度と温度との関係に基づいて行う。ここで、測温対象の放射率が黒体の放射率(ε=1.0)と近い値である場合には問題はないが、アルミニウムのように非酸化面で約0.2、酸化面で約0.4といったように、放射率が黒体の放射率に対して著しく小さい値である物質の温度測定においては補正の必要が生じる。
【0003】
適切に補正をするためには、測温対象の実際の分光放射率を知る必要がある。主な物質の分光放射率は概ね知られているが、例えば、アルミニウム板の製造プロセスの温度管理のための測温において、プロセス中のアルミニウム板表面の酸化の進み具合により放射率は変化し、補正のために予め設定した放射率と実際の測温対象の放射率とが異なり、正確な補正をすることができないという問題が生じる。
【0004】
かかる問題を解決するために、特許文献1は以下の測温方法を開示している。内面が高反射率鏡面のキャビティを測温対象に非接触で被せキャビティ内面で多重反射した測温対象からの熱放射の放射輝度を測定し、これとは別に測温対象からの熱放射の放射輝度を当該キャビティを介さずそのまま測定する。一方、測定対象の表面の粗さ(平均傾斜角や二乗平均粗さRMS)を何らかの別の装置により測定する。そして、多重反射した場合の放射輝度が測定対象の表面性状に依存することに基づき、それらの各測定値から測定対象の放射率を算出し、算出した放射率で補正する測温方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭59-40250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
文献1の発明において、測定対象の表面性状の指標として平均傾斜角や二乗平均粗さなどを測定することが開示されているが、それらの測定を行うためには放射輝度を測定する装置と別の装置が必要である。すなわち、文献1の発明では、放射輝度を測定する装置と表面性状を測定する装置とを、測定対象に対して互いに置き換えて使用しなければならず、手間がかかり、使い勝手が悪いという問題がある。そこで、本発明は、放射輝度の測定を行う測定系と測定対象の反射分布を測定する測定系とを一体的に構成した温度測定装置の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、上記課題を解決するために本発明において、測温対象の観測点からの赤外光の放射輝度を測定する赤外線受光部と、前記測温対象の観測点からの赤外光を反射させて前記赤外線受光部に導く対向側反射部と、前記測温対象の観測点に赤外線受光部が観測点から受光する赤外光の光路と同じ光路にて前記赤外光と異なる波長の光である異波長光を入射する異波長光入射部と、前記対向側反射部にて異波長光の測温対象の観測点からの反射分布を測定するための対向側反射部に設けられる反射分布測定手段と、対向側反射部による反射を停止させる反射停止部と、を有する温度測定装置を提供する。
【0008】
また、上記の温度測定装置において、反射停止部は、対向側反射部と観測点との間で開閉可能に動作するシャッター手段である温度測定装置を提供する。
【0009】
また、上記のいずれかの温度測定装置において、対向側反射部は、前記赤外光の大部分を反射し、異波長光を透過するフィルターである赤外光反射フィルターを有し、反射分布測定手段は、赤外光反射フィルターを透過する異波長光の分布を観測するように構成されている温度測定装置を提供する。
【0010】
また、上記のいずれかの温度測定装置において、赤外線受光部の測温対象側に、赤外線の受光を妨げない受光側反射部をさらに有する温度測定装置を提供する。
【0011】
また、上記のいずれかの温度測定装置において、前記赤外線光受光部は、偏光された赤外光を受光する偏光受光手段を有する温度測定装置を提供する。
【0012】
また、測温対象の観測点からの赤外光を多重反射させる多重反射ステップと、多重反射させた赤外光の放射輝度を測定する反射赤外光放射輝度測定ステップと、測温対象の観測点からの赤外光を多重反射させないで測定する非反射赤外光放射輝度測定ステップと、観測点に前記放射輝度を測定される赤外光と同じ光路にて入射された光の反射分布を測定する反射分布測定ステップと、を有する温度測定方法を提供する。
【0013】
また、上記の温度測定方法において、多重反射させて測定した赤外光の放射輝度と、多重反射させないで測定した赤外光の放射輝度と、測定した反射分布とを用いて測温対象の放射率を取得する放射率取得ステップをさらに有する温度測定方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、放射輝度の測定を行っている観測点の反射分布の測定をほぼ同時(例えば1MIPSのMPUによって温度測定処理を行っている場合には、反射分布と輝度測定のそれぞれに3から5程度の命令で処理可能なのでいずれかの処理がなされない一方処理なし時間長は、百万分の3から5秒程度となり、連続移動する温度制御体の移動速度が2メートル/秒としても、0.1mm程度しか移動しないので精度としては十分な精度を保証できる。)に併せて行うことができる温度測定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態1の温度測定装置の構成の一例を示す概念図
図2】波長フィルターの特性を示す図
図3】ローパスフィルターの特性を示す図
図4】異波長光が可視光である場合のハイパスフィルターの特性を示す図
図5】表面粗さと拡散反射の関係を示す図
図6】2つの受光素子で構成した反射分布測定手段を示す図
図7】多くの受光素子又は2次元アレイセンサにより構成した反射分布測定手段を示す図
図8】反射分布測定手段を主に描いた概念図
図9】実験により得られたαとγの値をプロットして一次式で近似して作成したαとγの関係式を示す概念図
図10】実施形態1の温度測定装置による温度測定方法の一例を示すフロー図
図11】温度測定装置及び温度測定方法を実現する計算機の一例を示す概念図
図12】実施形態2の温度測定装置の構成の一例を示す概念図
図13】各種試料((a)Siウェハ、(b)アルミニウム、(c)冷延鋼板、(d)ステンレス鋼板)の偏光方向の偏光方向放射率の実験ないしシミュレーション結果
図14】実施形態2の別の態様の赤外線受光部を主に示す概念図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、添付図面を用いて説明する。なお、本発明は、これら実施形態に何ら限定されるべきものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得る。
【0017】
なお、以下に記載する各実施形態の機能的構成は、ハードウェアとソフトウェアの組み合わせとして実現することができ、これらについては後述する。また、本明細書に記載の各実施形態は装置として実現できるのみでなく、その一部または全部を動作方法としても実現可能である。また、このような装置の一部をソフトウェアとして構成することができる。さらに、そのようなソフトウェアをコンピュータに実行させるために用いるソフトウェア製品、及び同製品を固定した記録媒体も、当然に本明細書に記載の各実施形態の技術的な範囲に含まれる(本明細書の全体を通じて同様である)。
<実施形態1>
<実施形態1 概要>
【0018】
本実施形態の温度測定装置は、観測点からの放射輝度を直接測定した値と反射させてから測定した値とから温度測定をする測定系と、観測点の反射分布を測定する測定系とを、一体的に構成したことを特徴とする。
<実施形態1 構成>
【0019】
図1は、本実施形態の温度測定装置の一例を示す概念図である。図1(a)に示すように、温度測定装置は、「赤外線受光部」0101と、「対向側反射部」0102と、「異波長光源」0103と「赤外光透過フィルター」0104とからなる「異波長光入射部」と、対向側反射部に設けられる「反射分布測定手段」0105と、「反射停止部」0106とを基本的な構成とする。本図においては、さらに「受光側反射部」0110と、赤外線受光部の前方に配置される「レンズ」0107とを示している。
【0020】
また、図1(b)は、対向側反射部を図中の「矢印方向」0112にて視た図である。図示するように、反射分布測定手段を構成する「受光素子」0113が、測温対象の観測点Pから法線方向に対して角度θの方向との交点位置に配置され、その受光素子を中心として上下左右にそれぞれ一つずつ受光素子が配置されている。以上のような構成により、「測温対象」0108の観測点Pの温度を測定する。
【0021】
「測温対象」0108は、例えば、圧延工程で連続的に搬送されるアルミ板や鋼板などである。本図に示されているのは板状の測温対象の断面であり、この測温対象は紙面の法線方向に搬送されるよう構成されている。
【0022】
「赤外線受光部」0102は、測温対象の観測点からの赤外光の放射輝度を測定する。赤外線受光部は、サーモパイルなどの赤外線受光素子を用いることができ、図示するように集光などのためのレンズと組み合わせて構成することもできる。なお、受光する赤外線の波長は、例えば、0.9μm~15μm程度の領域内で測温対象や測温環境などに応じて適宜選択すればよい。
【0023】
また、レンズと赤外線受光素子との間に受光しようとする波長領域の赤外光を透過する波長フィルターを配置してもよい。図2は、このような波長フィルターの特性を示す図である。例えば、赤外線受光素子の感度波長が1350nmである場合には、図示するように、感度波長を中心として急峻に透過率が高まる特性の波長フィルターを用いることが好ましい。
【0024】
また、赤外線受光部は、観測点から法線方向に対して角度θの光路(図中、点線)にて観測点から放射される赤外光を受光するように配置されている。なお、本明細書において放射輝度とは、とくに断りのない場合には、ある波長における放射輝度である分光放射輝度を意味するものとする。また、分光放射輝度と記す場合もある。
【0025】
「対向側反射部」0102は、前記測温対象の観測点からの赤外光を反射させて前記赤外線受光部に導く。対向側反射部の測温対象側の表面は球面形状であって、観測点Pから法線に対して角度θで観測点Pから放射される赤外光を観測点Pに反射するように球面の半径が設計されている。
【0026】
また、対向側反射部は、観測点からの赤外光の大部分を反射し、後述する異波長光を透過するフィルターである「赤外光反射フィルター」0109を有している。異波長光が可視光である場合には、赤外光の大部分を反射し、可視光を透過するローパスフィルターやダイクロイックフィルター又はホットミラーを赤外光反射フィルターとして用いることができる。この種のフィルターは、屈折率の異なる複数の薄膜材料を交互に積層し、光の干渉効果を利用することで特定波長領域の光を反射し他の波長領域の光を透過させるという機能を実現する。図3は、上述したローパスフィルターの特性を示す図である。例えば、赤外線受光素子の感度波長が1350nmであり、可視光レーザーの波長が532nmである場合には、図示するような反射率と透過率の特性を有するローパスフィルターを用いることができる。
【0027】
このように構成することで、赤外線受光部は、観測点Pから放射される赤外線を直接受光するだけでなく、観測点Pから放射される赤外線であって対向側反射部により反射して観測点Pに入射し、観測点Pにて法線に対して角度θで反射する赤外線も受光することができる。
【0028】
また、赤外線受光部の測温対象側に、観測点Pから法線方向に対して角度θで放射される赤外光の受光を妨げないための「孔」0111を有しつつ観測点Pから放射される赤外光を反射させて観測点Pに導く「受光側反射部」0110を備えることもできる。係る構成により、観測点Pから放射され、対向側反射部と受光側反射部とにより多重反射した赤外光が赤外線受光部にて受光される。
【0029】
そして、対向側反射部と観測点との間には、対向側反射部による反射を停止させる「反射停止部」0106が設けられる。反射停止部は、例えば、対向側反射部と観測点との間で開閉可能に動作するシャッター手段であってもよいし、同様の機能を有するチョッパーを用いてもよい。
【0030】
そして、対向側反射部による反射を停止させないことで、赤外線受光部は、対向側反射部により反射した赤外光又は対向側反射部と受光側反射部とにより多重反射した赤外光の放射輝度(後述するL)の測定が可能となり、対向側反射部による反射を停止させることで、上記の反射をさせずに観測点Pから放射される赤外光を直接受光してその放射輝度(後述するL)の測定が可能となる。
【0031】
なお、赤外線受光部が観測点Pからの赤外光を受光する角度θは70°~80°が好ましい。角度θは対向側反射部により反射した赤外光が観測点Pに入射する際の入射角度となるが、入射角度が大きいほど鏡面的な反射特性を示し、多重反射による見かけの放射率をより大きくすることができるからである。なお、角度θを80°より大きくすると、後述する反射分布測定手段における受光素子の配置がしにくくなる場合がある。
【0032】
「異波長光入射部」は、前記測温対象の観測点に赤外線受光部が観測点から受光する赤外光の光路と同じ光路にて前記赤外光と異なる波長の光である異波長光を入射する。具体例として、図示するように、「異波長光源」0103と「赤外光透過フィルター」0104とで構成することができる。
【0033】
「異波長光源」0103としては、例えば可視光レーザーなどを用いることができ、赤外線受光部が測定する赤外光と波長の異なる赤外光であれば、その波長の赤外光レーザーを用いてもよい。なお、異波長光源は、後述するように観測点で拡散反射した光を測定する観点から、指向性に優れるレーザー光源やLED光源が好ましい。
【0034】
「赤外光透過フィルター」0104は、赤外線受光部が観測点Pから受光する赤外光の光路と同じ光路上に設けられ、その赤外光を透過し、異波長光を反射してこの光路にて観測点Pに入射させるフィルターである。異波長光が可視光である場合には、赤外光を透過し可視光を反射する光学薄膜を付したハイパスフィルターを用いることができる。可視光でない光を異波長光に用いる場合は、用いる光を反射し赤外光を透過する光学薄膜を付したダイクロイックフィルターなどを設ければよい。図4は、異波長光が可視光である場合のハイパスフィルターの特性を示す図である。例えば、赤外線受光素子の感度波長が1350nmであり、可視光レーザーの波長が532nmである場合には、図示するような反射率と透過率の特性を有するハイパスフィルターを用いることができる。
【0035】
「反射分布測定手段」0105は、対向側反射部に設けられ、対向側反射部にて異波長光の測温対象の観測点からの反射分布を測定する。図1に示すように「赤外光反射フィルター」0109を透過する異波長光を、その異波長光の強度を測定できる受光素子を複数配置することで可能となる。図1においては、観測点Pにおいて角度θで異波長光が入射して、法線方向に対して角度θの正反射をした光路を基準とし、基準光路に対して所定の角度をずらした位置に一又は複数の受光素子を配置することで反射分布の測定ができる。図1では基準光路に対してプラス側とマイナス側の双方に一つずつ受光素子を配置しているが、いずれか一方側にだけ受光素子を配置してもよい。
【0036】
図5は、表面粗さと拡散反射の関係を示す図である。図5(a)に示すように、表面が粗い場合には、正反射光からプラス側とマイナス側に反射光が拡散する。そして、図5(b)に示すように、表面が粗いほど等方的な反射分布となる。このような表面粗さと拡散反射の関係に基づき測温対象の観測点での反射分布を測定する。
【0037】
反射分布測定手段の一例を図1(b)に示したが、より多くの受光素子を用いたり2次元アレイセンサを用いることも反射分布を適切に測定するうえで好ましい。測定対象の面粗さが等方的ではなく異方性を持っている場合には、拡散反射も異方性を有するからである。図6は、2つの受光素子0602で反射分布測定手段0601を構成する場合を示している。図6(a)は、2つの受光素子で拡散反射光を十分に受光できた場合を示しているが、拡散反射が異方性を持っている場合には、図6(b)に示すように、拡散の度合いが同じであっても拡散の方向が異なるため拡散反射光を的確に受光することができず、図6(a)の場合と図6(b)の場合とで反射分布係数が異なるものとなってしまう。
【0038】
図7は、より多くの受光素子0702を用いたり2次元アレイセンサ0703を用いて反射分布測定手段0701を構成する例を示す図である。図7(a)に示すように、多くの受光素子をまんべんなく配置することで拡散の方向が様々に変わったとしても的確に受光することができる。また、図7(b)に示すように、2次元アレイセンサを用いることで拡散の方向が様々に変わったとしても的確に受光することができる。
【0039】
金属類の圧延工程や、圧延工程後のロール巻取の直前の工程では温度管理が非常に重要となる。それは温度管理によって鋼ロールやアルミロールの引張強度、変形抵抗、靭性が影響を受けるからである。しかしながら、この圧延や巻取は、連続的に原材料を流しながら行うために従来の技術のように測温点の反射分布測定(表面状態の測定)と放射輝度測定との間に無測定期間が設けられると測温点が次々に移動してしまい、反射分布を測定した測温点と、放射輝度を測定した測温点とが全く異なるものとなってしまい、正確な放射率や温度を測定することが困難となってしまう。ところが本願の発明の場合には赤外光による放射輝度の測定と測温点の反射分布の測定とはほぼ同時に行うことができるので従来の問題点を解決できた。従って、本願の温度測定装置は、制御対象物が常時移動しながら温度制御しなければならないような処理工程に特に適しているといえる。つまり本願発明の応用としては、連続処理される圧延工程の処理対象物の測温のために連続圧延装置(加熱工程が含まれているもの)に設けられたシステムや、金属ロールの連続巻取工程の直前に設けられる連続巻取システムなどに応用することができる。また、単に所定温度に保つために用いられるのみならず、冷却や加熱用に連続移動対象物の二以上の地点に本願発明の温度測定装置を設けて温度プロファイル制御に用いられる温度プロファイル制御システムとしても利用することができる。
(測定原理)
【0040】
本実施形態の温度測定装置は、以下の測定原理に基づき温度測定を行うことができる。概説すると、観測点から放射され多重反射を経て赤外線受光部により測定された放射輝度Lと多重反射を経ることなく赤外線受光部により測定された放射輝度Lとの比(以下、放射輝度比という)R=L/Lと、観測点の反射分布とに基づき測温対象の分光放射率を推定し、推定した分光放射率から観測点の温度を求める。なお、放射輝度Lは、反射停止部を機能させることで測定でき、放射輝度Lは、反射停止部を機能させないことで測定できる。
【0041】
まず、上記LとLは、下記の数式1で表すことができる。εθは測温対象の角度θ方向の分光放射率であり、εeffは多重反射により見かけ上大きくなった分光放射率である。また、L,λ(T)は、温度Tにおける理想黒体(放射率ε=1)の分光放射輝度である。
【数1】
【0042】
ここで、測温対象の表面が完全鏡面的な反射面だとすると、理論上は対向側反射部と受光側反射部との間で永久的に多重反射を繰り返す。しかし実際には放射束は測温対象で反射する毎にいずれかの反射部の外側に拡散していく。そのため、受光側反射部での反射時に孔を通過する放射束は、対向側反射部と受光側反射部との間を有限のn回往復の積算とみなすことができ、対向側反射部及び受光側反射部の反射率をρ、測温対象の反射分布を表す係数である反射分布係数をγとすると、Lは下記の数式(2)のように表すことができ、ρ及びγの値が大きいほど見かけ上の反射率を大きくすることができる。なお、受光側反射部を設けない場合は、n=1すなわち1回往復の積算となる。
【数2】
【0043】
したがって、放射輝度比はR、数式(3)のように表すことができる。
【数3】
【0044】
そして、α=1/ργ-1と設定すると、数式(4)の関係が得られる。
【数4】
【0045】
このように、パラメータαを求めることで、測温対象の角度θ方向の分光放射率εθが求まることが分かる。εθが求まれば測温対象の温度をより正しく算出することができる。
(反射分布係数γの取得)
【0046】
上述した測温対象の観測点における反射分布係数γの取得について説明する。図8は反射分布測定手段を主に描いた概念図である。図8を用いてγの取得について説明する。図示するように、反射分布測定手段は、異波長光0801が測温対象0802の観測点に入射し、反射角θで正反射する光路上に異波長光の強度を測定する受光素子0803が配置されている。これに加えて、反射角θの光路上と反射角θの光路上のそれぞれに前述の受光素子0804が配置されている。
【0047】
ここで、反射角θにて測定した受光強度をIθ、反射角θ1にて測定した受光強度をIθ1とし、数式5によりγを取得する。
【数5】
【0048】
また、反射角θ2にて測定した受光強度Iθ2を、Iθ1に代えて、数式6によりγを取得するようにしてもよい。
【数6】
(パラメータαとγとの関係式)
【0049】
上述したように、パラメータαが分かれば、数式4により分光放射率εθを求めることができる。また、パラメータαは、α=1/ργ-1により与えられるが、ρは対向側反射部と受光側反射部の反射率であるから一定と考えることができる。したがって反射分布係数γを求めることで、αが算出可能となる。しかし、γは測温対象の反射分布の度合いを表すパラメータとしているが、一般的に定義されたものではないため、γを一意に決定することは出来ない。ただ、γ(及びα)は、測温対象の表面状態にのみ依存するため、αとγの関係式は対象の材質に関わらず、1つの式で記述可能と考えられる(測温対象の物性値により変化しない)。このことから、事前に材質は同じで表面状態(反射分布)が異なる多数のサンプルにてαとγの測定を行い、αとγの関係を実験的に決定しておくことで、分光放射率が未知の測温対象に対しても、γのみを測定することで、αを求めることが可能となる。
【0050】
γとαの関係式の構築のためには、γとは別にαを測定する必要がある。パラメータαは、計測により直接的に求めることは出来ないが、サンプルの分光放射率εθと放射輝度比Rとを実験により求め、それらの値を式4に代入することで求めることができる。
【0051】
分光放射率εθと放射輝度比Rの関係を得るための実験は以下の通りである。サンプルの温度を直接的に計測するために熱電対をサンプルの中心表面に溶接して測温する。その一方で、放射温度計により当該サンプルの温度指示値を取得する。当該サンプルの分光放射率が理想黒体の放射率(1.0)より下回れば、放射率補正を行っていない放射温度計による計測値(指示値)と熱電対により直接計測したサンプルの実際の温度とに差異が生じる。この差異に基づいて当該サンプルの分光放射率εθを求めることができる。
【0052】
併せて、当該サンプルに対して本装置の赤外線受光部、対向側反射部(受光側反射部を併せて用いてもよい)及び反射停止部により放射輝度Lと放射輝度Lを測定し、放射輝度比Rを求め、上述のとおり熱電対と放射温度計とを用いて求められた当該サンプルの分光放射率εθと放射輝度比Rを式4に代入することで、当該サンプルにおけるパラメータαを求めることができる。
【0053】
さらに、本装置の異波長光入射部と反射分布測定手段とにより、当該サンプルの反射分布係数γを求める。これにより、上述の実験で得た当該サンプルのパラメータαと反射分布係数γとの関係を得ることができる。
【0054】
このようなパラメータαと反射分布係数γとを得るための実験を多数のサンプルに対して行うことで、表面状態(反射分布)の異なる様々なサンプルごとのαとγの値が得られる。そして、縦軸をα、横軸をγとし、得られたそれらの値をプロットし、近似式を作成することでαとγの関係式が求められる。例えば、図9は、実験により得られたαとγの値をプロットして一次式で近似して作成したαとγの関係式を示す概念図である。
【0055】
上記のような実験を行って得たαとγとの関係式を本実施形態の温度測定装置が保持しておき、本実施形態の各構成による測定結果に基づき、以下のように測温対象の温度を測定することができる。
(温度測定方法)
【0056】
図10は、本実施形態の温度測定装置による温度測定方法の一例を示すフロー図である。まず、測温対象の観測点からの赤外光を多重反射させる(1001:多重反射ステップ)。そして、多重反射させた赤外光の放射輝度を測定する(1002:反射赤外光放射輝度測定ステップ)。そして、測温対象の観測点からの赤外光を多重反射させないで測定する(1003:非反射赤外光放射輝度測定ステップ)。そして、観測点に前記放射輝度を測定される赤外光と同じ光路にて入射された光の反射分布を測定する(1004:反射分布測定ステップ)。さらに、多重反射させて測定した赤外光の放射輝度と、多重反射させないで測定した赤外光の放射輝度と、測定した反射分布とを用いて測温対象の放射率を取得する(1005:放射率取得ステップ)を有するものとしてもよい。
【0057】
反射赤外光放射輝度測定ステップにより上述した分光放射輝度Lを測定し、非反射赤外光放射輝度測定ステップにより上述した分光放射輝度Lを測定する。また、反射分布測定ステップにより反射分布係数γを取得する。
【0058】
さらに放射率取得ステップにて、取得したγと保持しているαとγとの関係式からαを求める。そして、測定したL及びLから求めたRとαを数式(4)に代入にすることで測温対象の分光放射率εθを求める。ここで、εeff=εθ×Rであるので、さらにεeffを求めてもよい。
【0059】
そして、これらの求められた放射率により補正することで測温対象の温度を精度よく測定することができる。なお、補正にはεeffを用いることが好ましい。多重反射により見かけの放射率が大きくなっているため、εθを用いる場合よりも誤差を低減できるからである。
【0060】
なお、各ステップの順序は図示した態様に限定されるのではなく、例えば反射分布測定ステップを先んじて行ってもよいし、反射及び非反射放射輝度を測定するステップと合わせて行ってもよい。
(ハードウェア構成)
【0061】
図11は、上記の温度測定装置及び温度測定方法を実現する計算機の一例を示す概念図である。図示するように、マザーボード上などに備えられる、CPU1101、不揮発性メモリ1102、メインメモリ1103、グラフィックカード1104、さらにI/Oコントローラ1105、USBやIEEE、LANなどのインターフェース1106や、BIOS1107、PCIスロット1108、リアルタイムクロック1109など及び、これらを相互に接続するバス並びにバスを接続するチップセット(ノースブリッジ、サウスブリッジ)1110から構成される。
【0062】
「チップセット」1110は、計算機のマザーボードに実装され、CPUの外部バスと、メモリや周辺機器を接続する標準バスとの連絡機能、つまりブリッジ機能を集積した大規模集積回路(LSI)のセットである。2チップセット構成を採用する場合と、1チップセット構成を採用する場合とがある。CPUやメインメモリに近い側をノースブリッジ、遠い側で比較的低速な外部I/Oとのインターフェースの側にサウスブリッジが設けられる。
【0063】
ノースブリッジには、CPUインターフェース、メモリコントローラ、グラフィックインターフェースが含まれる。集積化が進み、従来のノースブリッジの機能のほとんどをCPUに担わせてもよい。ノースブリッジは、メインメモリのメモリスロットとはメモリバスを介して接続し、グラフィックカードのグラフィックカードスロットとは、ハイスピードグラフィックバス(AGP、PCI Express)で接続される。
【0064】
サウスブリッジには、PCIインターフェース(PCIスロット)とはPCIバスを介して接続し、ATA(SATA)インターフェース、USBインターフェース、EthernetインターフェースなどとのI/O機能やサウンド機能を担う。高速な動作が必要でない、あるいは不可能であるようなPS/2ポート、フロッピーディスクドライブ、シリアルポート、パラレルポート、ISAバスをサポートする回路を組み込むことは、チップセット自体の高速化の足かせとなるためサウスブリッジのチップから分離させ、スーパーI/Oチップと呼ばれる別のLSIに担当させることとしてもよい。
【0065】
「バス」は、CPU(MPU)と、周辺機器や各種制御部を繋ぐために備えられる。又、バスは前述のチップセットによって連結される。メインメモリとの接続に利用されるメモリバスは、高速化を図るために、これに代えてチャネル構造を採用してもよい。バスとしてはシリアルバスかパラレルバスを採用できる。パラレルバスは、シリアルバスが1ビットずつデータを転送するのに対して、元データそのものや元データから切り出した複数ビットをひとかたまりにして、同時に複数本の通信路で伝送する。クロック信号の専用線がデータ線と平行して設け、受信側でのデータ復調の同期を行う。CPUのフロントサイドバス(チップセット)と外部デバイスをつなぐバスとしても用いられる。バスの種類としてはGPIB、IDE/(パラレル)ATA、SCSI、PCIなどがある。高速化に限界があるため、PCIの改良版PCI ExpressやパラレルATAの改良版シリアルATAでは、データラインはシリアルバスでもよい。
【0066】
「CPU」(MPU)はメインメモリ上にあるプログラムと呼ばれる命令列を順に読み込んで解釈・実行することで信号からなる情報を同じくメインメモリ上に出力する。CPUは計算機内での演算を行なう中心として機能する。なお、CPUは演算の中心となるCPUコア部分と、その周辺部分とから構成され、CPU内部にレジスタ、キャッシュメモリや、キャッシュメモリとCPUコアとを接続する内部バス、DMAコントローラ、タイマー、ノースブリッジとの接続バスとのインターフェースなどが含まれる。なお、CPUコアは一つのCPU(チップ)に複数備えられていてもよい。
【0067】
「不揮発性メモリ」(HDD)の一例はハードディスクドライブである。基本構造は、磁気ディスク、磁気ヘッド、および磁気ヘッドを搭載するアームから構成される。外部インターフェースは、SATA(過去ではATA)を採用することができる。高機能なコントローラ、例えばSCSIを用いて、ハードディスクドライブ間の通信をサポートする。例えば、ファイルを別のハードディスクドライブにコピーする時、コントローラがセクタを読み取って別のハードディスクドライブに転送して書き込むといったことができる。この時ホストCPUのメモリにはアクセスしない。したがってCPUの負荷を増やさないで済む。
【0068】
なお、不揮発性メモリとしては「(NANDフラッシュ)から構成されるSSDをHDDとともに採用してもよいし、HDDに置き換えて採用してもよい。
【0069】
メインメモリは、揮発性のメモリで構成される。最も代表的なものはDRAMダイナミックラムである。
【0070】
BIOSは、計算機の立ち上げ時にメインメモリにオペレーティングシステムを読み込み、アプリケーションなどを実行可能な状態とするために用いられる。前述のようにサウスブリッジに接続されるがノースブリッジに接続されてもよい。
【0071】
I/Oコントローラは外部機器との接続に利用される。USBコネクタもその一例である。赤外光受光素子、可視光受光素子などが接続され、それらの検出信号の入力を受け付ける。また、シャッターやチョッパーも接続され、それらを駆動するための信号が出力される。
【0072】
IEEE1394コネクタは最も代表的な通信規格のインターフェースである。
【0073】
PCIスロットは、機能回路を計算機に接続するためのインターフェースである。
【0074】
OS(オペレーティングシステム)は、コンピュータを稼働するための基本ソフトウェアである。ユーザやアプリケーションプログラムに対してインターフェースを提供し、ハードウェアなどの機能部や、各リソースに対して効率的な管理を行う役割を果たす。
【0075】
デバイスドライバはオペレーティングシステムを介して計算機に付属する各種のデバイスをユーザやアプリケーションに利用可能等するためのデバイスのハードウェアを制御するためのプログラムである。
【0076】
そして、不揮発性メモリ1102には、多重反射プログラム、反射赤外光放射輝度測定プログラム、非反射赤外光放射輝度測定プログラム、反射分布測定プログラム、放射率取得プログラムなどの各種プログラムが格納されている。また、データとして、放射輝度L、放射輝度L、放射輝度比R、反射光強度(Iθ、Iθ1、Iθ2、・・・)、反射分布係数γ、パラメータα、γとαの関係式などの各種情報が格納される。そして、これらのプログラムやデータは、メインメモリの保持領域に読み込まれて作業領域で実行される。
<実施形態1 効果>
【0077】
本実施形態の温度測定装置により、放射輝度の測定を行っている観測点の反射分布の測定を併せて行うことができる温度測定装置を提供することができる。
<実施形態2>
<実施形態2 概要>
【0078】
本実施形態の温度測定装置は、実施形態1を基本とし、赤外線受光部が偏光された赤外光を受光する偏光受光手段を有することを特徴とする。
【0079】
図12は、本実施形態の温度測定装置の一例を示す概念図である。図示するように、温度測定装置は、「赤外線受光部」1201と、「対向側反射部」1202と、「異波長光源」1203と「赤外光透過フィルター」1204からなる「異波長光入射部」と、対向側反射部に設けられる「反射分布測定手段」1205と、「反射停止部」1206と、を有し、赤外線受光部は、「偏光受光手段」1212を有する。本図においては、さらに「レンズ」1207も有している。本実施形態の温度測定装置は、赤外線受光部が偏光受光手段を有することのほかは実施形態1の温度測定装置と同じであるので、偏光受光手段を有する赤外線受光部について説明し、その他の構成についての説明は省略する。
【0080】
「偏光受光手段」1212は、偏光された赤外光を受光する機能を有する。本図の例では、p偏光フィルターを赤外線受光素子の前方に配置している。これにより赤外線受光素子はp偏光を受光することができる。
【0081】
図13は、各種試料((a)Siウェハ、(b)アルミニウム、(c)冷延鋼板、(d)ステンレス鋼板)の偏光方向の偏光方向放射率の実験ないしシミュレーション結果である(下記の文献を参考にした)。Siウェハや各種金属放射率および反射率は偏光によって大きく変化する。いずれもθ=70度~80度の方向でp偏光放射率は増大する(p偏光反射率は減少する)。逆にs偏光放射率は減少する(s偏光反射率は増大する)。したがって、本手法はθ=70度~80度の方向でp偏光を利用すれば放射率が増大するので、多重反射により見かけの放射率を大きくして温度測定を行う本発明の効果をより高めることができる(参考文献 井内徹,石井,偏光輝度を利用した常温付近における光沢金属の放射測温法,計測自動制御学会論文集,36, 395/401 (2000))。また、測定値のばらつきを低減することができるため、温度測定の精度をより向上させることに寄与し得る。
【0082】
図14は、別の態様の赤外線受光部を主に示す概念図である。図示するように、p偏光とs偏光とをともに受光できるように構成してもよい。図示するように、観測点からの赤外光は、「分光プリズム」1401で分光され、一方の赤外光は「p偏光フィルター」1402を介して「赤外線受光素子」1403にて受光される。分光された他方の赤外光は「s偏光フィルター」1404を介して「赤外線受光素子」1405にて受光される。
(ハードウェア構成)
【0083】
本実施形態の温度測定装置は、実施形態1のハードウェア構成に準じて実現することができる。
(温度測定方法)
【0084】
本実施形態の温度測定装置による温度測定方法は、実施形態1の温度測定方法と同様である。
<実施形態2 効果>
【0085】
本実施形態の温度測定装置により、多重反射による見かけの放射率をより大きくし得ることなどにより温度測定の精度をより向上させることができる。
【符号の説明】
【0086】
0101 赤外線受光部
0102 対向側反射部
0103 異波長光源
0104 赤外光透過フィルター
0105 反射分布測定手段
0106 反射停止部
0107 レンズ
0108 測温対象
0109 赤外光反射フィルター
0110 受光側反射部
0111 孔
0112 矢印方向
0113 受光素子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14