(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】転頭ブレーキシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
F16D 65/10 20060101AFI20241008BHJP
F16D 65/12 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
F16D65/10
F16D65/12 R
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020035710
(22)【出願日】2020-03-03
【審査請求日】2023-03-01
(32)【優先日】2019-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500520743
【氏名又は名称】ザ・ボーイング・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】The Boeing Company
(74)【代理人】
【識別番号】100135389
【氏名又は名称】臼井 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100086380
【氏名又は名称】吉田 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100103078
【氏名又は名称】田中 達也
(74)【代理人】
【識別番号】100130650
【氏名又は名称】鈴木 泰光
(74)【代理人】
【識別番号】100168099
【氏名又は名称】鈴木 伸太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100168044
【氏名又は名称】小淵 景太
(74)【代理人】
【識別番号】100200609
【氏名又は名称】齊藤 智和
(72)【発明者】
【氏名】ロバート ジェイ.アトムール
(72)【発明者】
【氏名】トリン アーサー ロジャース
【審査官】杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-185038(JP,A)
【文献】特開2014-187867(JP,A)
【文献】特開2015-039286(JP,A)
【文献】国際公開第2010/134218(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 65/10
F16D 65/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸の周りを回転するように構成されたシャフトに回転接続されるとともに、第2のサイドとは反対側の第1のサイドを有するロータと、
前記ロータの前記第1のサイドに設けられた第1ステータ構造体、及び、前記ロータの前記第2のサイドに設けられた第2ステータ構造体と、
前記ロータの前記第1のサイドと前記第1ステータ構造体との間の第1転頭プレート、及び、前記ロータの前記第2のサイドと前記第2ステータ構造体との間の第2転頭プレートと、を含むブレーキシステムであって、前記第1転頭プレート及び前記第2転頭プレートの各々は、前記第1ステータ構造体及び前記第2ステータ構造体が前記ロータの回転速度に比べて回転速度を下げた際に、転頭するように構成されている、ブレーキシステム。
【請求項2】
前記第1ステータ構造体は、中空の円筒形スリーブによって、前記第2ステータ構造体と堅固に接続されている、請求項1に記載のブレーキシステム。
【請求項3】
前記中空の円筒形スリーブの内面に摩擦係合して、前記第1ステータ構造体及び前記第2ステータ構造体を減速させ、前記第1転頭プレート及び前記第2転頭プレートの転頭を誘起するように構成されたブレーキシューをさらに含む、請求項2に記載のブレーキシステム。
【請求項4】
前記第1ステータ構造体と前記第2ステータ構造体とに同時に摩擦係合して、前記第1転頭プレート及び前記第2転頭プレートの転頭を誘起するように構成されたブレーキパッドをさらに含む、請求項1~3のいずれかに記載のブレーキシステム。
【請求項5】
前記シャフトは、ビークルのホイールに接続された車軸であり、前記ホイールは、航空機の着陸及び離陸用に構成されている、請求項1~4のいずれかに記載のブレーキシステム。
【請求項6】
各ステータ構造体は、ショルダー部を有しており、
前記第1転頭プレート及び前記第2転頭プレートのうちの隣接する転頭プレートは、前記ショルダー部との接触により、軸方向にアライメントされている、請求項1~5のいずれかに記載のブレーキシステム。
【請求項7】
前記第1転頭プレートの転頭によって生じる、前記中心軸に平行な力は、前記第2転頭プレートの転頭によって生じる力と釣り合う、請求項1~6のいずれかに記載のブレーキシステム。
【請求項8】
前記ロータ、前記第1及び第2転頭プレート、及び、前記第1及び第2ステータ構造体は、ベアリングによる支持無しで動く、請求項1~7のいずれかに記載のブレーキシステム。
【請求項9】
各転頭プレートは、内面サイド及び外面サイドを有しており、各転頭プレートは、前記内面サイドに設けられた歯と、前記外面サイドに設けられた歯とを有しており、前記内面サイドの前記歯は、前記外面サイドの前記歯より大きい、請求項1~8のいずれかに記載のブレーキシステム。
【請求項10】
ブレーキシステムにおいて回転エネルギーを消散させるための方法であって、
ロータに接続されたドライブシャフト、及び、前記ロータの両側に係合する一対の転頭プレートを用意し、各転頭プレートは、ステータ構造体に係合する外面サイドを有しており、
前記ドライブシャフト、ロータ、一対の転頭プレート、及び、ステータ構造体を、同じ回転速度で回転させ、
前記ステータ構造体の前記回転速度を下げることによって、前記一対の転頭プレートの転頭を誘起する、方法。
【請求項11】
前記ドライブシャフトは、航空機のホイールに接続される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
各ステータ構造体は、外面サイドを有し、前記
一対の転頭プレートの転頭を誘起することは、各ステータ構造体の前記外面サイドにブレーキパッドを摩擦係合させることを含む、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
前記ステータ構造体どうしは、中空のシリンダによって接続されており、前記
一対の転頭プレートの転頭を誘起することは、前記中空のシリンダの内面にブレーキシューを摩擦係合させることを含む、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項14】
前記
一対の転頭プレートの転頭を誘起することは、前記一対の転頭プレートのうちの一方による軸方向の力を、前記一対の転頭プレートのうちの他方による軸方向の力と釣り合わせることを含む、請求項10~13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記一対の転頭する転頭プレートによって前記ロータを減速させることにより、前記ドライブシャフトを減速させることをさらに含む、請求項10~14のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、制動のためのシステム及び方法に関する。より具体的には、開示の実施例は、回転エネルギーを消散させるための転頭ギア機構を用いて回転体を減速させることに関する。
【背景技術】
【0002】
ブレーキシステムは、多くの機械に不可欠である。ディスクブレーキやドラムブレーキなどの摩擦ブレーキが、一般的に用いられている。その名が示すとおり、摩擦ブレーキは、摩擦を利用して回転運動を減速させるものである。キャリパー、レバーアーム、又はその他の機構が、回転しているロータ又はドラムに、パッド又はシューを摩擦接触させ、回転の運動エネルギーを熱エネルギーに変換する。パッド及びシューは、熱損傷や摩耗損傷により、寿命が短いことが多く、定期的な交換を必要としうる。
【0003】
航空機では、ブレーキシステムに高性能が求められ、このようなブレーキシステムは、かなりのレベルの熱を発生させる。熱出力を抑制することは、安全性の向上、及び、部品の長寿命化を意味する。複数の冗長ブレーキシステムを用いて、航空機の安全性の向上を図ることもできる。しかしながら、航空機の設計においては、スペースと重量が重要視される。従って、より軽量且つコンパクトなブレーキシステムが非常に望ましい。
【0004】
本開示は、さらに、転頭プレート(wobble plate)機構として一般に知られているタイプの転頭ギア機構に関する。従来、転頭プレート機構は、高トルク密度化の有望な手段と考えられている。転頭プレート機構では、例えばロータギアなどのギアが、例えばステータギアなどの別のギアに対して転頭する。意外なことに、以下の記載によってより理解されるように、転頭プレート機構も、コンパクトなブレーキを実現する手段を提供することができる。
【発明の概要】
【0005】
本開示は、ブレーキシステムに関するシステム、装置、及び方法を提供する。いくつかの実施例において、ブレーキシステムは、中心軸の周りを回転するように構成されたシャフトに回転接続されるロータを含みうる。ロータは、第2のサイドとは反対側の第1のサイドを有しており、ブレーキシステムは、ロータの第1のサイドに設けられた第1ステータ構造体、及び、ロータの第2のサイドに設けられた第2ステータ構造体を含みうる。ブレーキシステムは、ロータの第1のサイドと第1ステータ構造体との間の第1転頭プレート、及び、ロータの第2のサイドと第2ステータ構造体との間の第2転頭プレートをさらに含みうる。第1転頭プレート及び第2転頭プレートの各々は、第1ステータ構造体及び第2ステータ構造体がロータの回転速度に比べて回転速度を下げた際に、転頭するように構成することができる。
【0006】
いくつかの実施例において、ブレーキシステムは、第1ステータギア、及び、第1ステータギアに堅固に接続された第2ステータギアを含みうる。第1ステータギアと第2ステータギアとの間には、ロータギアが配置されうる。第1転頭ギアが、第1ステータギア及びロータギアと係合し、第2転頭ギアが、第2ステータギア及びロータギアと係合しうる。ロータギアの回転により、第1転頭ギア、第2転頭ギア、第1ステータギア、及び、第2ステータギアが回転する。ロータギアに対して第1ステータギア及び第2ステータギアを減速させることにより、第1転頭ギア及び第2転頭ギアの転頭が誘起され、第1転頭ギア及び第2転頭ギアの転頭により、ロータギアが減速する。
【0007】
いくつかの実施例において、ブレーキシステムにおいて回転エネルギーを消散させるための方法は、ロータに接続されたドライブシャフト、及び、ロータの両側に係合する一対の転頭プレートを用意することを含み、各転頭プレートは、ステータ構造体に係合する外面サイドを有する。当該方法は、ドライブシャフト、ロータ、一対の転頭プレート、及び、ステータ構造体を、同じ回転速度で回転させること、及び、ステータ構造体の回転速度を下げることによって、一対の転頭プレートの転頭を誘起することをさらに含みうる。
【0008】
特徴、機能、及び、利点は、本開示の様々な実施形態において個別に実現可能であるが、他の実施形態において互いに組み合わせてもよく、さらなる詳細については、以下の記載及び図面を参照することによって明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の態様による例示的なブレーキモジュールの分解等角図である。
【
図2】
図1のブレーキモジュールの等角側面図である。
【
図3】
図2のブレーキモジュールの線3-3に沿う断面図である。
【
図4】非ブレーキモードにおける、本明細書に記載の例示的なディスクブレーキシステムを含むホイールの概略図である。
【
図5】ブレーキモードにおける、
図4のホイールの概略図である。
【
図6】非ブレーキモードにおける、本明細書に記載の例示的なハイブリッドディスクドラムブレーキシステムを含むホイールの概略図である。
【
図7】ブレーキモードにおける、
図6のホイールの概略図である。
【
図8】本開示による、回転エネルギーを消失させるための例示的な方法のステップを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
デュアル転頭ギアを含むブレーキシステム、ならびに、これに関連する装置及び方法の様々な態様及び例を、以下に説明するとともに、関連図面に示す。別段の明記が無い限り、本開示によるブレーキシステム、及び/又は、その様々な部品は、本明細書に記載、図示、及び/又は、援用された構造、部品、機能、及び/又は変形例の少なくとも1つを含みうるが、必須ではない。また、具体的な除外の記載が無い限り、本開示に関連させて記載、図示、及び/又は援用されたプロセスのステップ、構造、部品、機能、及び/又は変形例は、他の同様の装置及び方法にも含めることができ、開示の実施例間で入れ替えることも可能である。以下の様々な実施例の説明は、単に例示的な性質のものであり、本開示やその適用例又は用途を、なんら限定することを意図するものではない。また、以下に説明する実施例によってもたらされる利点は、例示的な性質のものであり、すべての実施例が同じ効果や同程度の効果をもたらすとは限らない。
【0011】
この詳細な説明は、すぐ下に続く以下のセクション、すなわち(1)概要、(2)実施例、部品、及び、代替例、(3)例示的な組み合わせ及び追加の実施例、(4)効果、特徴、及び利点、(5)結び、のセクションを含んでいる。「実施例、部品、及び、代替例」のセクションは、さらに、A~Dのサブセクションに分かれており、其々にラベルが付されている。
<概要>
【0012】
概して、本開示によるブレーキシステムは、ロータ、一対の転頭ギア、及び、ステータ構造体を含んでいる。このようなブレーキシステムは、デュアルステータ及び/又はデュアル転頭ギアを有する転頭ブレーキシステム、及び/又は、エネルギー吸収部材と称することができる。ロータ、転頭ギア、及び、ステータ構造体は、転頭ブレーキモジュールと称することができる。
【0013】
ロータは、第1のサイド及び第2のサイドに、歯を有しうる。ステータ構造体は、第1ステータギア及び第2ステータギアを含みうる。一対の転頭ギアのうちの第1ギアは、例えば、ロータの第1サイドと第1ステータギアとの間に挟まれて、これらと係合する。一対の転頭ギアのうちの第2ギアは、例えば、ロータの第2サイドと第2ステータギアとの間に挟まれて、これらと係合する。
【0014】
ロータは、ホイール、車軸、又はドライブシャフトなどの回転体に、回転連結することができる。ロータは、堅固且つ移動可能に、且つ/若しくは、フレキシブルに、回転体に連結することができる。例えば、ロータの周縁が、フローティングディスクブレーキと同様に、ホイールに係止される。別の例として、ドライブシャフトを、ロータの中央開口部に挿通して、溶接することもできる。ロータは、回転体にトルク負荷がかかっている際に駆動され、トルクがかかっていない時は駆動されない。当該ブレーキシステムは、ロータの回転を減速させること、及び/又は、ロータの加速に抵抗することによって、回転体の減速させる、及び/又は、回転体の加速に抵抗することができる。
【0015】
ステータ構造体は、中空のシリンダによって、互いに堅固に固定された、第1ステータギア及び第2ステータギアを含みうる。例えば、円筒形のスリーブが、各ステータギアの中央開口部に挿通され、固定される。別の例として、円筒形のスリーブは、各ステータギアの周囲を囲んで、周囲に固定される。ブレーキシステムは、ステータ構造体の回転を減速させるように構成されたブレーキ機構をさらに含みうる。例えば、ブレーキシステムは、ディスクブレーキパッド又はドラムブレーキシューのような摩擦ブレーキ機構を含みうる。
【0016】
ブレーキシステムは、ブレーキモードと、非ブレーキモード又はブレーキ無しモードとを有する。ロータのブレーキ無しモードでは、転頭プレート及びステータ構造体は、回転体と共に回転することができる。ブレーキモードでは、ブレーキ機構が、ステータ構造体と係合することにより、ロータに対してステータ構造体を減速させることができる。ステータ構造体がロータに対して減速又は停止させられると、各ステータギア、これに対応する転頭ギア、及び、ロータの歯の相互作用により、一対の転頭プレートの転頭が誘起される。この転頭が、回転エネルギーを吸収し、転頭プレートの回転を減速させ、これが、ひいてはロータの回転を減速させる。
<実施例、部品、及び、代替例>
【0017】
以下のセクションでは、例示的なブレーキシステムの選択された態様、ならびに、これに関連する装置及び/又は方法を説明する。これらのセクションにおける実施例は、例示を意図したものであり、本開示の範囲全体を限定するものと解釈されるべきではない。各セクションは、1つ又は複数の別個の実施例、及び/又は、背景的又は関連する情報、機能、及び/又は構造を含みうる。
A.例示的なブレーキモジュール
【0018】
図1~
図3に示すように、本セクションは、例示的なブレーキモジュール20について説明する。ブレーキモジュール20は、上述したデュアルステータ転頭ブレーキモジュールの一例である。
図1は、ブレーキモジュール20の分解図である。
図2では、動作用に組み立てられた状態のブレーキモジュールが示されている。ブレーキモジュール20は、ロータ22、ステータ構造体24、第1転頭プレート26、及び、第2転頭プレート28を含む。ステータ構造体は、中空の円筒形スリーブ34によって堅固に接続された第1ステータ30及び第2ステータ32を含む。
【0019】
ロータ22、ステータ30、32、及び、転頭プレート26、28の各々は、環状であり、中央開口部を有している。組み立て状態では、スリーブ34が、これらの中央開口部を通って延び、ブレーキモジュール20の中心軸36を規定する。第1転頭プレート26は、ロータ22の第1のサイド38と第1ステータ30との間に配置されている。第2転頭プレート28は、ロータの第2のサイド39と第2ステータ32との間に配置されている。ロータ22は、これら2つの転頭プレートの間に挟まれている。ひいては、ロータ及び転頭プレートは、2つの堅固に接続されたステータの間に挟まれている。
【0020】
ロータ22は、中心軸36の周りを回転するように構成されており、この中心軸は、ブレーキモジュール20の回転軸と称することもできる。ロータは、スリーブ34と同心であるといえるし、スリーブと同軸であるということもできる。ロータは、ベアリング無しで、スリーブ34の周りを回転する。ロータ22は、スリーブに沿って、摺動又は浮上自在であり、以下に詳述するように、転頭プレート26、28によって、スリーブに対して中心合わせすることができる。いくつかの例において、ロータ22は、図示しない外部の回転構造体への接続によって、懸架及び/又は支持することができる。そのような例では、ロータは、スリーブ34に接触しないことがある。すなわち、ロータ22の内面とスリーブ34の外面との間に、隙間が維持されうる。
【0021】
ロータ22は、堅固に、移動可能に、及び/又は、任意の適当な態様で、外部の構造体に回転連結することができる。例えば、ロータの周縁部40を、ホイールのリムにキー結合させたり、ドライブシャフトに堅固に固定したりすることができる。ロータ22の回転によって、回転、回転エネルギー、及び/又はトルクが、ブレーキモジュール20に入力される。ブレーキモジュール20は、ロータを減速させることによって、このような回転を制動し、回転エネルギーを消散させる。
【0022】
ステータ構造体24も、中心軸36の周りを回転するように構成されている。第1ステータ30、第2ステータ32、及び、スリーブ34は、共に回転し、同軸であるといえる。スリーブ34は、各ステータの中央開口部に挿入され、その内面に固定されている。スリーブは、例えば、各ステータの遠位面42と面一である。ステータ構造体24も、ロータ22と同軸であるといえる。
【0023】
ステータ構造体24は、図示しないブレーキパッドと相互作用するように構成することができる。本実施例において、第1ステータ30及び第2ステータ32の各々の遠位面42は、平面である。ブレーキパッドを遠位面42に押し付けて、ディスクブレーキと同様に、ステータ構造体24の回転を減速及び停止させることができる。別の例として、ブレーキシューが、ドラムブレーキと同様に、スリーブ34の内面44と係合したり、クラスプブレーキ(clasp brake)と同様に、各ステータ30、32の周縁部と係合したりすることができる。
【0024】
ステータ構造体24の各ステータ30、32は、
図1及び
図3に示すように、ショルダー部35を含む。ショルダー部は、ステータから中心軸36に平行に延びており、中心軸36に沿う方向においてステータ30の遠位面42に対向する近位面54の、径方向内方に設けられている。ショルダー部は、ロータ22に向かって延びているということもできる。各ショルダー部35は、ステータ30、32の中央開口部の一部を規定しており、スリーブ34に固定されている。各ショルダー部35の内面は、例えば、円筒形、及び/又は、スリーブ34と相補的な形状である。各ショルダー部35の外面37は、例えば、近位面54に近接する最も厚い箇所から、ショルダー部のエッジに位置する最も薄い箇所まで、径方向内方に傾斜及び/又は湾曲している。
【0025】
第1転頭プレート26及び第2転頭プレート28はの各々は、中心転頭軸46を有する。各転頭プレートは、ロータ22及びステータ構造体24に対して、傾斜している。各転頭軸46は、ゼロ以外の転頭角度48を成しているということができる。各転頭プレートの転頭角度48は、同じでありうるが、これらの転頭角度は、異なる平面内にあってよい。すなわち、各転頭軸46は、中心軸36に対して同じ角度を形成しうるが、第1転頭プレート26の転頭軸46は、中心軸と共に第1平面を形成する一方、第2転頭プレート28の転頭軸46は、中心軸と共に第2平面を形成しうる。第1平面と第2平面とは、同じであってもよいし、直交してもよい。
【0026】
第1転頭プレート26及び第2転頭プレート28の各々は、中心軸36の周りを回転するとともに、転頭軸46が中心軸の周りを章動するように、転頭する構成とされている。転頭プレート26、28は、其々、ロータ22と共に回転するとともに、対応するステータ30、32に対して転頭することができる。ステータ構造体24が回転自在である時、転頭プレートは転頭せず、転頭プレート、ロータ、及びステータ構造体が、すべて一緒に回転することができる。ステータ構造体24が、ロータ22に対して減速又は停止させられる際は、転頭プレートの転頭が誘起される。この転頭により、エネルギーが消散され、転頭プレートの回転が減速され、ひいては、ロータが減速される。
【0027】
転頭プレート26及び28は、ロータ22への最接近点を有するということができる。すなわち、いかなる時点においても、各転頭プレートの外周上の一点が、ロータに最接近している。転頭プレートが転頭するにつれて、この点が移動する。いかなる時点においても、第1転頭プレート26の最接近点が、第2転頭プレート28の最接近点と同期していてもよいし、90度、180度、又は270度、位相がずれていてもよい。転頭プレートが転頭する際、第1転頭プレート26の最接近点は、第2転頭プレート28の最接近点に対して、同じ位相ずれを維持しうる。
【0028】
図3のブレーキモジュール20の断面図に示すように、各転頭プレート26、28は、スリーブ34から離間している。各転頭プレートは、対応するステータ30、32のショルダー部35の周りを、ベアリング無しで回転する。すなわち、第1ステータ30のショルダー部35が、第1転頭プレート26を支持するとともに軸方向にアライメントし、第2ステータ32のショルダー部35が、第2転頭プレート28を支持するとともに軸方向にアライメントする。
【0029】
各ステータ30、32のショルダー部35の外面37は、各転頭プレート26、28の内面59と相補的な形状とされている。これらの外面37及び内面59は、いずれも湾曲しており、真の円筒形からは外れている。面37、59の湾曲は、各転頭プレート26、28を選択された転頭角度にアライメントするととともに、当該角度でのスムーズな回転を実現するように、選択することができる。
【0030】
図3に示すように組み立てた状態では、ブレーキモジュール20は、スリーブ34の内面44によって規定される内径D1と、ステータ30、32、転頭プレート26、28、及びロータ22によって規定される外径D2とを有し、全体として円筒形を有する。この形状を形成するため、ステータ、転頭プレート、及び、ロータは、ほぼ等しい外径を有している。
【0031】
ステータ30、32及びロータ22の各々は、スリーブ34の外径とほぼ等しい内径D3を有している。転頭プレート26、28は、径D2よりも小さく、且つ、ステータ30、32のショルダー部35の外径とほぼ等しい内径D4を有している。本実施例では、径D4は、軸方向に変化する。すなわち、ショルダー部35の各々は、転頭プレート26、28の転頭角を見込んで、遠位端から近位端に向かって傾斜している。
【0032】
ブレーキモジュール20は、偏移力を排除し、転頭プレート26、28のバランスをとるように設計されている。ブレーキモジュールが作動した場合、相補的な円錐台形状により、転頭プレートがアライメント状態に戻る。より具体的には、ロータ22の第1サイド38及び第2サイド39は、其々、円錐台形である。すなわち、各サイドは、中心軸36に垂直な平面に対して傾斜しており、各サイドの面上のあらゆる点が、円錐台線上にあり、当該円錐台線は、延長すると、中心軸上において、ロータから離れた位置にある頂点に到達するものである。ロータ22がブレーキモジュール20内で第1転頭プレート26及び第2転頭プレート28と組付けられた状態では、例えば、第1サイド38の円錐台頂点は、第1転頭プレート26の重心に近接した位置にあり、第2サイド39の円錐台頂点は、第2転頭プレート28の重心に近接した位置にある。
【0033】
ステータ30及び32の各々の近位面54も、円錐台形である。すなわち、当該面は、中心軸36に垂直な平面に対して傾斜しており、その面上のあらゆる点が、円錐台線上にあり、当該円錐台線は、延長すると、中心軸上において、ステータに近い位置にある頂点に到達するものである。第1ステータ30がブレーキモジュール20内で第1転頭プレート26と組付けられた状態では、例えば、近位面54の円錐台頂点は、第1転頭プレートの重心に近接した位置にある。同様に、第2ステータ32がブレーキモジュール20内で第2転頭プレート28と組付けられた状態では、例えば、近位面54の円錐台頂点は、第2転頭プレートの重心に近接した位置にある。
【0034】
転頭プレート26及び28の各々は、近位面58、及び、これとは反対の遠位面60を有する。各面は、円錐台形である。すなわち、近位面58及び遠位面60の各々は、転頭軸46に垂直な平面に対して傾斜しており、その面上のあらゆる点は円錐台線上にあり、当該円錐台線は、延長すると、転頭軸上において、転頭プレートの重心に近接する位置にある円錐台頂点に到達するものである。
【0035】
転頭プレート26、28、ステータ30、32及びロータ22の各々は、歯を有しており、ギアと呼ぶこともできる。ロータ22は、第1サイド38及び第2サイド39の各々に設けられた複数のロータ歯、すなわち一組のロータ歯50を含む。第1サイド38のロータ歯50の数は、例えば、第2サイド39のロータ歯50の数と等しい。この数は、任意の適当な数であってよい。図示の例では、各サイドに16個のロータ歯がある。ロータ歯の数は、各歯が所望の幅を有するように選択することができる。すなわち、歯の数は、ロータ22の半径に応じて、歯の角度幅が所望の歯のサイズに一致するように、選択することができる。幅の広い歯は、ブレーキ状態でかかる高トルク負荷に対して十分な強度をもたらす。
【0036】
各ロータ歯は、例えば2つの係合面を含んでおり、各係合面は、平面状であってもよいし、2つ以上の平面で構成されていてもよいし、曲率を有する1つ又は複数の面で構成されていてもよい。ロータ歯50の係合面の一方又は両方は、例えば、円と楕円との複合インボリュート曲線(compound involute of a circle and an ellipse)によって規定されている。あるいは、当該曲線は、0ラジアンと2πラジアンの間のすべての角度における、歯の位置への仮想楕円の射影であってもよい。各ロータ歯は、ロータ22から中心軸36に沿う方向に突出している。
【0037】
第1ステータ30と第2ステータ32とは、同じものであるが、配向が逆である。第1ステータ30を説明することにより、第2ステータ32も同じく説明したことになると理解されよう。ステータ30は、近位面54に設けられた複数のステータ歯、すなわち一組のステータ歯52を含む。ステータ歯52は、ロータ22に向かって、中心軸36に平行に突出している。ステータ歯52の数は、任意の適当な数であってよい。図示の例では、90個のステータ歯が設けられている。ステータ歯の数は、ステータ歯の形状と併せて、ステータと転頭プレートとの間で有効な係合が実現されるように、選択することができる。
【0038】
各ステータ歯は、2つの係合面を含む。各係合面は、平面状であってもよいし、2つ以上の平面で構成されていてもよいし、曲率を有する1つ又は複数の面で構成されていてもよい。図示の例では、ステータ歯52は、楔形であるということができる。各ステータ歯は、近位面54及びショルダー部35の両方に対して定着されているか、且つ/若しくは、これらの両方から延出している。
【0039】
第1転頭プレート26と第2転頭プレート28も、同じものであるが、ブレーキモジュール20に組付けられた際に、配向が逆になる。第1転頭プレート26を説明することにより、第2転頭プレート28も同じく説明したことになると理解されよう。第1ステータ30との相互作用に対する説明は、第2転頭プレート28に対する第2ステータ32にも当てはまることが理解されよう。
【0040】
転頭プレート26の遠位面60には、複数の面歯、すなわち一組の面歯64が設けられている。これらの面歯は、ステータ30のステータ歯52と係合するように構成されている。面歯64は、遠位面60から、転頭軸46に沿う軸方向に突出している。面歯64の数は、任意の適当な数であってよい。図示の例では、90個の面歯が設けられている。面歯の数は、例えば、1:1のギア比を実現できるように、ステータ歯52の数と一致するよう選択される。いくつかの例において、面歯の数は、他の所望のギア比を実現できるように選択してもよい。例えば、ブレーキ機構を係合しやすくするためにステータの回転速度を下げるには、別のギア比が望ましい場合がある。そのような場合は、面歯64の数を、ステータ歯52の数よりも、多くしたり少なくしたりすればよい。
【0041】
各面歯は、例えば2つの係合面を含んでおり、係合面は、平面状であってもよいし、2つ以上の平面で構成されていてもよいし、曲率を有する1つ又は複数の面で構成されていてもよい。本実施例では、面歯64は、ステータ歯52と相補的な形状とされており、楔形であるということができる。
【0042】
転頭プレート26は、近位面58に設けられた複数の転頭歯、すなわち一組の転頭歯62をさらに含む。これらの転頭歯は、ロータ22のロータ歯50と係合するように構成されている。転頭歯62は、近位面58から、転頭軸46に沿う軸方向に突出している。転頭歯62の数は、任意の適当な数であってよい。図示の例では、15個の転頭歯が設けられている。転頭歯の数は、例えば、1つ又はこれと近い小さい数だけ、ロータ歯50の数と異なるように選択される。歯の数の違いが小さいことにより、高いトルク密度が得られ、以下にさらに説明するように、転頭プレートの転頭回数に対する回転数の比率を増すことができる。
【0043】
各転頭歯62は、第1係合面と、当該歯の反対側の第2係合面とを含む。各面は、平面状であってもよいし、2つ以上の平面で構成されていてもよいし、曲率を有する1つ又は複数の面で構成されていてもよい。転頭歯62の係合面の一方又は両方は、例えば、以下に概要を説明するように、円と楕円との複合インボリュート曲線によって規定されている。あるいは、当該曲線は、0ラジアンと2πラジアンの間のすべての角度における、歯の位置への仮想楕円の射影であってもよい。
【0044】
転頭プレート26及びロータ22は、其々、実質的に円形であり、転頭プレートのロータへの射影は、楕円形である。複数の転頭歯62及びロータ歯50は、この仮想楕円を歯の位置に投影することによって、輪郭付けすることができる。ロータ22に対する転頭プレート26の楕円射影は、これにより、非偏心回転に制限される。偏心運動が起こると、大きな不均衡力が発生し、システムのパフォーマンスが容認できないレベルになるおそれがある。
【0045】
複数の転頭歯62及びロータ歯50の双方の各々において、第1係合面及び第2係合面の一方又は両方は、例えば、円と楕円との複合インボリュート曲線によって規定されている。すなわち、第1係合面及び第2係合面の各々の湾曲は、次の式によって定義することができる。
【数1】
ここで、Cは、転頭プレートの半径に比例する定数であり、φは0~π/2ラジアンの値をとり、Dは、1未満の正の定数である。Dの値は、例えば約0.65である。ただし、他の値も可能である。同式は、1又はロータの半径に正規化してもよい。
【0046】
第1係合面の曲線は、例えば、歯の頂点を通るとともに回転軸を含む平面を中心に反転させた、第2係合面の曲線の鏡像である。また、第1係合面と第2係合面とは、各歯の頂点で滑らかに繋がっていてよい。従って、歯の断面は、円と楕円との複合インボリュート曲線によって規定されうる。
【0047】
第1転頭プレート26は、ロータ22及び第1ステータ30の両方と係合し、これらの各々と部分的に噛み合う。同様に、第2転頭プレート28は、ロータ22及び第2ステータ32の両方と係合し、これらの各々と部分的に噛み合う。これにより、ロータ22が回転すると、転頭プレート26、28が回転し、ひいてはステータ30、32が回転する。ステータ30、32がブレーキ作用により減速されると、転頭プレートが転頭させられ、これによってロータ22が減速される。
【0048】
各転頭プレートとロータ22との係合は、例えば、転頭歯62の一部とロータ歯50の一部との間で起こる。ロータが所与の方向に回転する際には、1つのロータ歯の一方の係合面が、1つの転頭歯の一方の係合面と接触しうる。すなわち、複数のロータ歯の係合面と複数の転頭歯の係合面との相互作用により、ロータによって、転頭プレートに接触力が付与される。これらの接触力が、転頭プレートを、同じ所与の回転方向に回転させる。
【0049】
各転頭プレートと、対応するステータとの係合は、例えば、面歯64の一部とステータ歯52の一部との間で起こる。転頭ギアが所与の回転方向に回転する際には、1つの面歯の一方の係合面が、1つのステータ歯の一方の係合面と接触しうる。すなわち、複数の面歯の係合面と複数のステータ歯の係合面との相互作用により、転頭プレートによって、ステータに接触力が付与される。
【0050】
ステータ構造体24にブレーキ作用がかかっていない場合、ステータ30、32は回転自在である。転頭プレート26、28の面歯64とステータ歯52との接触力により、ステータ30、32が、上記所与の回転方向に回転する。本実施例では、各転頭プレートが90個の面歯を有しており、各ステータも、90個のステータ歯を有する。すなわち、各ステータと、対応する転頭プレートとは、1:1のギア比で、相互作用及び回転する。転頭プレートが完全に一回転するたびに、ステータも、正確に、完全に一回転する。ステータ歯及び面歯の数については、他の選択肢も可能であり、その場合は、異なるギア比となるであろう。
【0051】
ステータ構造体24にブレーキ作用がかかった場合、ステータ30、32の回転は、ロータ22に対して減速されるか、停止される。すると、面歯64とステータ歯52との接触力により、転頭プレート226、28が、転頭する。
【0052】
ブレーキモジュール20の例では、ロータ22は、16個のロータ歯を有しており、各転頭プレート26、28は、15個の転頭歯を有している。各転頭プレートが転頭する際には、各転頭歯62が、例えば、1回の転頭中に、複数のロータ歯50のうちの1つの歯と係合する。ロータ歯が転頭歯よりも1つ多いため、転頭プレートは、1回の転頭中に、わずかに回転する。本実施例では、転頭プレートは、1回の転頭中に、完全な一回転の1/16だけ回転する。換言すれば、転頭プレートが、おそらくはロータとの相互作用により、完全な一回転の1/16回転する際には、当該転頭プレートは、完全に1回転頭している。従って、転頭プレートとロータとは、16:1のギア比で相互作用する。転頭プレートは、16回転頭するたびに、正確に1回転する。ロータ歯及び転頭歯の数については、他の選択肢も可能であり、その場合は、異なるギア比となるであろう。ブレーキモジュール20のバランスをとるためには、両方の転頭プレートについて、同じギア比を選択すればよい。
【0053】
当該ブレーキモジュールは、転頭プレートについて回転慣性系を形成するオイラー方程式によって支配される機械拘束システムとして理解することができる。オイラーのz軸の方程式を考える。
【数2】
ここで、Tはトルクであり、Iは慣性モーメントであり、ωは角速度である。この式は、トルクの方向に応じて、軸が反対に回転することを示している。トルク、又は、運動エネルギーがシステムに入力され、反対の回転として受容されうる。正味の運動量は保存されず、すべての入力エネルギーは、転頭プレートの運動量ベクトルを変更することに使用されうる。
【0054】
前述したように、転頭歯62及びロータ歯50は、転頭プレート26、28の運動に機械的拘束を与えるように構成することができる。このような機械的拘束下における、入力回転トルク、転頭プレートのうちの1つの運動エネルギー、及び、ロータ22の回転ひずみトルクは、次のように表される。
【数3】
ここで、θは、転頭軸46と中心軸36との間の角度であり、T
Zは、ロータ22の回転によるトルク入力である。
【0055】
さらに2つの要素が影響しうる。トルク比と摩擦である。トルク比は、各転頭プレートが、4θの転頭ごとに、1つの転頭歯62の分だけ、回転もしなければならないというオイラー要件により得られる。ギア比で表される回転増分、すなわち1つの転頭歯の角度幅で、転頭を除することによって、ギア比をトルク比に変換することができる。当該システムのトルク比は、次のように書くことができる。
【数4】
ここで、GRは、ロータ22と転頭プレート26、28とのギア比である。
【0056】
摩擦は、速度との線形関係により、転頭プレートの角速度に比例する。当該システムの支配方程式は、次のように書くことができる。
【数5】
ここで、μは、転頭歯62とロータ歯50との適当な摩擦係数である。
【0057】
ブレーキモジュールシステムは、転頭プレートをロータに射影することによって形成される仮装楕円の観点から考慮することができる。各転頭プレートとロータとは、概して、1つの接触点を有しうる。仮想楕円のエッジは、3次元において、楕円状に相互作用する転頭プレートとロータとの、連続する接触線を形成する。仮想楕円の形状は、転頭軸46と中心軸36との間の角度の4倍を包含する転頭プレートの転頭下で、不変でありうる。オイラーによって定義される、接触線の回転フレームのみが、転頭が起こるにつれて進む。接触線上の各点は、幾何学的に歪んだ複合的インボリュート関数に当てはまり、当該関数は、回転と転頭の両方において対称であり、仮想楕円との連続的なエネルギー移動を実現する。
【0058】
慣性系が回転する際、仮想楕円は静的であり、接触線上のすべての点が、一定の角速度で、それら自体の平面内で回転する。転頭プレートの径方向のエッジ上の一点は、転頭中に見た場合、絶えず速度が変化する垂直運動を示す。この速度変化は、転頭プレートの慣性の一定の加速を必要とし、システムに対する運動エネルギー入力を吸収する。
【0059】
このような運動エネルギーの吸収により、ブレーキモジュール20のブレーキ力は、ロータの角速度の二乗に比例しうる。実際には、第1転頭プレート26及び第2転頭プレート28の各々が同様にエネルギーを吸収しうるので、ブレーキ力は、角速度の二乗の二倍に比例しうる。従って、ブレーキモジュール20は、高速であるほど、より大きいブレーキ力を有し、ロータ22の角速度がゼロに近づくにつれて、ブレーキ力が小さくなる。
【0060】
ロータ22が静止している時、ブレーキモジュール20は、ブレーキ力を有しない。すなわち、ブレーキモジュールは、静止状態のロータを保持しない。しかしながら、ステータ構造体24が静止状態に保持されると、ブレーキモジュール20は、ロータの角速度の増加に対抗または抵抗し、角速度が増加するにつれて出力を増加させる。従って、ブレーキモジュール20は、ブレーキがかかったホイールの滑りを起こさせない。ホイールの角速度がゼロに達するか、あるいは回転を停止すると、ブレーキモジュールは、ブレーキ力を付与しない。ただし、ブレーキシステムを静止状態に保つために、ブレーキモジュール20を、パーキングブレーキなどの別のブレーキ機構と組み合わせて用いることは、有益であろう。
【0061】
上述したような転頭プレート26、28の転頭は、軸方向の力を及ぼす。すなわち、ロータ22とステータ30、32とを分離させようとするような、中心軸36に平行な力が生じる。しかしながら、2つの転頭プレートを含むため、ブレーキモジュール20におけるこのような軸方向の力は、均衡が保たれる。第1転頭プレート26によってロータ22に付与される力は、第2転頭プレート28によってロータに付与される力によって、バランスがとられる。従って、ロータ22を、2つの転頭プレートの間で、スリーブ34に沿う方向における中央に位置させることができる。
【0062】
同様に、第1転頭プレート26によってステータ構造体24の第1ステータ30に付与される軸方向の力は、第2転頭プレート28によってステータ構造体24の第2ステータ32に付与される力によって、バランスがとられる。従って、ステータ構造体24は、中心軸36に沿ういずれの方向にも、正味の軸方向の力を受けない。このようにバランスのとれた力によって、ブレーキモジュール20をスラストベアリング無しで取り付けることができる。
B.例示的なディスクブレーキシステム
【0063】
図4~
図5に示すように、本セクションは、例示的なブレーキシステム100について説明する。ブレーキシステム100は、上述した転頭ブレーキシステムの一例である。ブレーキシステムは、ホイール102に取り付けられたブレーキモジュール120を含む。ブレーキモジュール120の多くの部品は、ブレーキモジュール20と同じか、あるいは類似しているため、類似する数字を付している。
【0064】
ブレーキモジュール120は、ロータ122及びステータ構造体124を含む。第1転頭プレート126が、ロータ122の第1のサイドと、ステータ構造体124の第1ステータ130との間に配置されている。第2転頭プレート128が、ロータ122の第2のサイドと、ステータ構造体124の第2ステータ132との間に配置されている。各ステータ130、132は、ロータ122から遠位側に、平面142を含んでいる。ロータ、転頭プレート、及び、ステータの各々は、ブレーキモジュール20について上述したように、歯付きである。ステータ構造体124は、中空の円筒形スリーブ134をさらに含む。円筒形スリーブは、ブレーキモジュール120の中央開口133を規定している。ブレーキモジュールは、車軸104が中央開口133に挿通された状態で、ホイール102に取り付けられている。
【0065】
ロータ122は、ホイール102にキー結合されている。すなわち、ロータ122は、ロータの周縁部から延びる突起123を含んでいる。突起は、ホイールのリムに設けられた対応するスロット105に延入している。ホイール102が回転すると、スロット105が突起123と係合し、ロータ122をホイールと共に回転させる。ただし、ロータ122及びブレーキモジュール120は、車軸104に平行に、及び/又は、スロット105の長軸に沿って、軸方向に移動自在である。ロータ122及び/又はブレーキモジュール120は、浮動状態にあるといえるし、摺動可能にホイール102に連結されているということもできる。本実施例では、ロータ122は、フローティングディスクブレーキのロータと同様に取り付けられている。いくつかの例では、ロータ122は、ブレーキ設計分野において既知である他の機構及び/又は技術によって、取り付けることもできる。
【0066】
ホイール102には、一対のブレーキパッド108、109を含む油圧キャリパーアセンブリ106も、取り付けられている。キャリパーアセンブリ106は、車軸104に取り付けられるとともに、ブレーキモジュール120の中央開口133に挿通されている。ブレーキパッド109は、ホイール102に相対して固定されている一方、ブレーキパッド108は、キャリパーアセンブリ106の油圧作用によって、車軸104に沿って移動可能である。ブレーキパッドは、ステータ構造体124の両側に配置されており、固定ブレーキパッド109が第2ステータ132に隣接し、可動ブレーキパッド108が第1ステータ130に隣接して、配置されている。
【0067】
ブレーキシステム100は、ディスク式ブレーキと称することができ、ブレーキモジュール120は、ディスクブレーキのディスクと同様に、キャリパーアセンブリ106と係合することができる。いくつかの例では、ブレーキモジュール120を、ディスクブレーキに代えて用いることができる。ディスクブレーキで使用するように構成されたキャリパーアセンブリ及び/又はホイールを、ブレーキシステム100で使用できるように適合化及び/又は改造することができる。
【0068】
ブレーキシステム100は、ブレーキモードと、非ブレーキモード又はフリーモードとを有する。
図4は、非ブレーキモードにおけるブレーキシステムを示している。ロータ122は、スロット105内で概ね中央に配置されており、ブレーキモジュール120は、キャリパーアセンブリ106から離間している。すなわち、第1ステータ130の遠位面142は、ブレーキパッド108から離間しており、第2ステータ132の遠位面142は、ブレーキパッド109から離間している。このモードでは、ロータ122は、ホイール102と共に回転する。転頭プレート126、128及びステータ構造体124も、ロータ及びホイールと共に回転自在である。
【0069】
図5は、ブレーキモードにおけるブレーキシステム100を示している。非ブレーキモードからブレーキモードに変更するためには、キャリパーアセンブリ106の油圧作用によって、ブレーキパッド108が、車軸104に沿って移動して、第1ステータ130の遠位面142と接触する。ブレーキモジュール120は、突起123をスロット105内で移動させつつ、第2ステータ132の遠位面142がブレーキパッド109に接触するまで、車軸104に沿って移動させられる。
【0070】
ブレーキモードでは、ブレーキパッド108、109と第1ステータ及び第2ステータ130、132との摩擦接触によって、ステータ構造体124が減速及び/又は停止させられる。ロータ122は、ホイール102と共に回転する。ロータとステータとの回転速度の違いによって、転頭プレート126、128の転頭が誘起される。この転頭が、回転エネルギーを吸収し、これが、転頭プレート126、128を減速させ、ひいては、ロータ122及びホイール102を減速させる。
【0071】
ある種の条件下では、ブレーキパッド108、109とステータ130、132との間で、トラクションが失われる場合がある。例えば、車軸104に付与されるトルクが、ブレーキパッドによってステータに付与される力、ブレーキパッド及びステータ構造体の材料に固有の摩擦係数、及び、ホイールの回転軸からブレーキパッドとステータとの接触点までの距離の積を超える場合、すべりが発生しうる。このような状況では、ブレーキモジュール120は、トルク負荷を解放する。すなわち、ステータ130、132の回転は、抑制することができるが、阻止されない。車軸104の回転エネルギーの一部が、転頭プレートの転頭によって消散される一方、残りの回転エネルギーは、ステータに伝達されうる。
C.例示的なハイブリッドブレーキシステム
【0072】
図6~
図7に示すように、本セクションは、例示的なブレーキシステム200について説明する。ブレーキシステム200は、上述した転頭ブレーキシステムの一例である。ブレーキシステムは、ホイール202に取り付けられたブレーキモジュール220を含む。ブレーキシステム200の多くの部品は、ブレーキシステム100と同じか、あるいは類似しているため、類似の数字を付している。
【0073】
ブレーキモジュール220は、ロータ222及びステータ構造体224を含む。第1転頭プレート226が、ロータ222の第1のサイドと、ステータ構造体224の第1ステータ230との間に配置されている。第2転頭プレート228が、ロータ222の第2のサイドと、ステータ構造体224の第2ステータ232との間に配置されている。ロータ、転頭プレート、及び、ステータの各々は、ブレーキモジュール20について上述したように、歯付きである。ステータ構造体224は、中空の円筒形スリーブ234をさらに含む。円筒形スリーブは、ブレーキモジュール220の中央開口233を規定している。ブレーキモジュールは、車軸204が中央開口233に挿通された状態で、ホイール202に取り付けられている。
【0074】
ロータ222は、ロータの周縁部がホイールに堅固に固定された状態で、ホイール202内に懸架されている。これにより、ホイール202とロータ222とは、共に回転する。ブレーキシュー206が、ブレーキモジュール220の中央開口233内で、車軸204に取り付けられている。ブレーキシューは、油圧作動のもの、カム作動のもの、あるいは、任意の適当な作動機構を含むものであってよい。シューのブレーキライニング208は、円筒形スリーブ234の内面244と係合するように構成されている。
【0075】
ブレーキシステム200は、ディスクブレーキ270をさらに含む。ディスクブレーキは、補助ブレーキ及び/又はパーキングブレーキとして機能し、ホイール202の静止時に保持力を与えるためのものである。本実施例では、ディスクブレーキ270は、ホイール202にキー結合された単一のフローティングディスク272と、ブレーキパッド276を有する油圧キャリパーアセンブリ274とを含む。ブレーキシステム200は、任意の有効な補助ブレーキを含んでもよく、その例としては、限定するものではないが、固定ディスクブレーキ、ドラムブレーキ、マルチディスクブレーキ、及び/又は、エキスパンダーチューブブレーキ(expander tube brake)がある。
【0076】
ブレーキシステム200は、ドラム式ブレーキ、または、ハイブリッドディスクドラムブレーキと称することができ、ブレーキモジュール220は、ドラムブレーキのドラムと同様に、ブレーキシュー206と係合しうる。いくつかの例では、ブレーキモジュール220を、ドラムブレーキに代えて用いることができる。ドラムブレーキで使用するように構成されたブレーキシュー及び/又はホイールを、ブレーキシステム200で使用できるように適合化及び/又は改造することができる。
【0077】
本実施例では、ディスクブレーキ270とブレーキモジュール220とは、独立して動作するように構成されている。すなわち、ディスクブレーキ及びブレーキモジュールの各々が、ブレーキモードと非ブレーキモードとを有しており、独立してこれらのモードを変更することができる。キャリパーアセンブリ274とブレーキシュー206とは、非回転構造体に対して固定しやすいように、構造的に連結されているが、独立した油圧によって作動する。いくつかの例では、ディスクブレーキ270とブレーキモジュール220とを、機能的に連結してもよい。例えば、キャリパーアセンブリ274とブレーキシュー206とを、単一の油圧システムによって作動させてもよい。
【0078】
図6は、非ブレーキモードにおけるブレーキモジュール220及びディスクブレーキ270の両方を示している。ブレーキモジュール220において、ブレーキシュー206のライニング208は、円筒形スリーブ234の内面244から離間している。ブレーキモジュールの非ブレーキモードでは、転頭プレート226、228及びステータ構造体224が、ロータ222及びホイール202と共に回転自在である。
【0079】
図7は、ブレーキモードにおけるブレーキモジュール220及びディスクブレーキ270の両方を示している。
図6に示したフリーモードから変更するためには、まず、ブレーキモジュール220をブレーキモードにする。ホイール202が十分に減速したら、ディスクブレーキ270をブレーキモードにして、ホイールを完全に停止させ、ホイールを静止状態に保持する。ブレーキモジュール220がブレーキモードに変更された際は、ブレーキシュー206は、広がって、円筒形スリーブ234の内面244にライニング208を接触させる。
【0080】
ブレーキモジュールのブレーキモードでは、ライニング208と内面244との摩擦接触によって、ステータ構造体224が減速及び/又は停止させられる。ロータ222は、ホイール202と共に回転する。ロータとステータとの回転速度の違いによって、転頭プレート226、228の転頭が誘起される。この転頭が、回転エネルギーを吸収し、これが、転頭プレート226、228を減速させ、ひいては、ロータ222及びホイール202を減速させる。
D.例示的なホイールのブレーキ方法
【0081】
本セクションは、ブレーキシステムによって回転エネルギーを消散させるための例示的な方法300の各ステップについて説明する。
図8を参照のこと。以下に記載する方法のステップにおいて、上述したブレーキシステムの態様を用いることができる。適切な場合は、各ステップを実行するために用いられうる部品及びシステムについて、言及する。ただし、そのような言及は例示のためであり、当該方法の特定のステップの可能な実行方法を限定することを意図するものではない。
【0082】
図8は、例示的な方法において行われるステップを示すフローチャートであり、必ずしも当該方法の完全なプロセス又はすべてのステップを記載したものではない。方法300の様々なステップを以下に説明するとともに
図8に示すが、これらのステップは、必ずしもすべてを行う必要はなく、また、場合によっては、同時に行ってもよいし、ここに示した順序とは異なる順序で行ってもよい。
【0083】
ステップ310において、当該方法は、ドライブシャフトをブレーキモジュールに接続することを含む。ブレーキモジュールは、直接的及び/又は間接的に、ドライブシャフトに回転接続することができる。例えば、ブレーキモジュールのロータを、1つ又は複数のスポークによって、ドライブシャフトに堅固に固定してもよい。別の例として、ブレーキモジュールを、ドライブシャフトによって駆動されるホイールの車軸に接続してもよいし、ホイールにキー結合させてもよいし、これに加えて又は代えて、スプライン結合にてホイールに接続してもよい。ドライブシャフトは、航空機、車、列車などのビークルに含まれるものであってもよいし、発電機や製造設備などの他の機械のエンジンに含まれるものであってもよい。いくつかの例において、ステップ310は、制動が所望される他の回転体にブレーキモジュールを接続することを含みうる。
【0084】
当該方法のステップ312は、ドライブシャフトを回転させることを含む。ドライブシャフトは、任意の効果的な手段によって回転させることができ、その例には、限定するものではないが、燃焼エンジン、電気モータ、空気圧モータ、及び/又は、別の回転体との接続がある。ステップ314は、ブレーキモジュールを回転させることを含み、これは、ステップ310で行われたドライブシャフトとブレーキモジュールとの接続によって実現することができる。
【0085】
ステップ314のサブステップ316は、ブレーキモジュールのロータを回転させることを含む。ロータは、任意の有効な方法で、ドライブシャフトに回転連結することができる。すなわち、ロータは、ドライブシャフトと共に回転することができ、ドライブシャフトが加速すると、ロータが、これに対応して加速しうる。同様に、ロータが減速すると、ドライブシャフトがこれに対応して減速しうる。
【0086】
ステップ314のサブステップ318は、ブレーキモジュールの一対の転頭プレートを回転させることを含む。各転頭プレートは、例えば、一組の歯を含んでおり、これらが、ロータの対応するサイドの一組の歯と係合する。ロータの歯と転頭プレートの歯との接触により、転頭プレートがロータと共に回転する。
【0087】
ステップ314のサブステップ320は、一対のステータ構造体を回転させることを含む。各ステータ構造体は、例えば、一組の歯を含んでおり、これらが、一対の転頭プレートのうちの対応する1つの転頭プレートにおける一組の歯と係合する。転頭プレートの歯とステータの歯との接触により、ステータが、転頭プレート及びロータと共に回転する。
【0088】
ステップ322において、当該方法は、転頭プレートの転頭を誘起することを含む。転頭プレートは、ロータ及びステータに対して角度を成して配置することができる。各転頭プレートは、さらに、ロータの対応する組の歯、及び/又は、対応するステータの歯とは異なる数の歯を有しうる。この歯の数の違いは、1つ又はこれと近い小さい数である。転頭プレート、ロータ、及び/又はステータの歯は、偏移運動を抑制するとともに、引っ掛かり(binding)のない転頭が実現されるような形状とされている。
【0089】
サブステップ324は、ステータ構造体を減速させることを含む。ステータ構造体は、ロータに対して減速させられ、各ステータの歯と対応する転頭プレートの歯との接触力によって、転頭プレートが転頭させられる。一対のステータ構造体は、例えば、同時に等しく減速させられ、これにより、転頭プレートは、同時に転頭を開始するとともに、同じ速度で転頭を継続する。
【0090】
サブステップ324における任意のサブステップ326は、各ステータ構造体の外面サイドにブレーキパッドを係合させることを含む。各ステータは、平面を有しており、これにより、回転中にブレーキパッドをステータと摩擦接触させて、ステータを減速させることができる。例えば、各ステータにおける、対応する転頭プレートと軸方向に対向する面に、接触させることができる。いくつかの例において、ブレーキモジュールは、油圧ディスクブレーキキャリパーを係合させるように、構成することができる。
【0091】
サブステップ324における任意のサブステップ328は、ブレーキモジュールの中空シリンダに、ブレーキシューを係合させることを含む。一対のステータ構造体は、中空シリンダに堅固に接続することができる。例えば、円筒形のスリーブを、ステータ構造体、転頭プレート、及び、ロータの中央開口に挿通することができる。スリーブの内部に配置されたブレーキシューを、スリーブと摩擦接触させることができ、これにより、スリーブ及びこれに接続されたステータ構造体を減速させることができる。
【0092】
ステップ322のサブステップ330は、転頭プレート間で軸方向の力のバランスをとることを含む。一対の転頭プレートは、例えば、配向は反対であるが、同じものである。従って、転頭中は、これらの転頭プレートは、等しく且つ反対の軸方向の力を生成する。ロータは、軸方向に移動及び/又は浮動が可能な状態であり、互いにバランスがとれた転頭プレートの軸方向の力が、ロータを中央に位置させるように働く。ステータ構造体は、1つの構造体として堅固に連結されており、従って、転頭プレートのこれらの軸方向の力によって、当該構造体の正味の移動が生じることはない。
【0093】
当該方法300のステップ332は、ドライブシャフトを減速させることを含む。上述したように、ロータは、ドライブシャフトに回転連結されており、これにより、ロータが減速すると、ドライブシャフトがこれに対応して減速しうる。ステップ332のサブステップ334は、転頭プレートによってロータを減速させることを含む。ロータは、これによって、ドライブシャフトを減速させる。
【0094】
サブステップ324においてステータ構造体を減速させることによって生じる転頭プレートの転頭は、回転エネルギーを吸収することができる。従って、転頭プレートは、エネルギーが吸収されるにつれて、回転速度を下げる。すると、転頭プレートの歯とロータにおける対応する歯との相互作用により、ロータが減速される。
【0095】
方法300、特に、ステップ312~332は、ブレーキモジュールを含む機械又はビークルの動作の間、繰り返すことができる。通常、当該方法のステップ322~332は、ドライブシャフトが駆動されていない、あるいはトルク負荷がかかっていない時に、行われうる。すなわち、ブレーキは、シャフトの駆動と同時にはかからない。いくつかの例において、ブレーキモジュールは、スピードリミッター、緊急ブレーキ、又はその他の機構として機能しうる。そのような例では、シャフトの駆動中に、例えば、シャフトの速度を制限するため、及び/又は、過剰な回転エネルギーを吸収するために、ステップ322~332を行ってもよい。
<例示的な組み合わせ及び追加の実施例>
【0096】
本セクションでは、ブレーキシステムの追加の態様及び特徴を、限定を意図することなく、一連の付記として提示して説明する。これらの付記のいくつか又はすべてには、明確化及び効率化のために、英数字を付している。これらの付記の各々は、1つ又は複数の他の付記、及び/又は、本願の任意の他の箇所における開示と、任意の適切な態様で組み合わせることができる。以下の付記のいくつかは、他の付記に明示的に言及してさらなる限定を加えているが、これは適切な組み合わせのいくつかの例を提示しているにすぎず、限定するものではない。
【0097】
付記A. 中心軸の周りを回転するように構成されたシャフトに回転接続されるとともに、第2のサイドとは反対側の第1のサイドを有するロータと、
前記ロータの前記第1のサイドに設けられた第1ステータ構造体、及び、前記ロータの前記第2のサイドに設けられた第2ステータ構造体と、
前記ロータの前記第1のサイドと前記第1ステータ構造体との間の第1転頭プレート、及び、前記ロータの前記第2のサイドと前記第2ステータ構造体との間の第2転頭プレートと、を含むブレーキシステムであって、前記第1転頭プレート及び前記第2転頭プレートの各々は、前記第1ステータ構造体及び前記第2ステータ構造体が前記ロータの回転速度に比べて回転速度を下げた際に、転頭するように構成されている、ブレーキシステム。
【0098】
付記A1. 前記第1ステータ構造体は、中空の円筒形スリーブによって、前記第2ステータ構造体と堅固に接続されている、付記Aに記載のブレーキシステム。
【0099】
付記A2. 前記中空の円筒形スリーブの内面に摩擦係合して、前記第1ステータ構造体及び前記第2ステータ構造体を減速させ、前記第1転頭プレート及び前記第2転頭プレートの転頭を誘起するように構成されたブレーキシューをさらに含む、付記A1に記載のブレーキシステム。
【0100】
付記A3. 前記第1ステータ構造体と前記第2ステータ構造体とに同時に摩擦係合して、前記第1転頭プレート及び前記第2転頭プレートの転頭を誘起するように構成されたブレーキパッドをさらに含む、付記A~A2のいずれかに記載のブレーキシステム。
【0101】
付記A4. 前記シャフトは、ビークルのホイールに接続された車軸である、付記A~A3のいずれかに記載のブレーキシステム。
【0102】
付記A5. 前記ホイールは、航空機の着陸及び離陸用に構成されている、付記A4に記載のブレーキシステム。
【0103】
付記A6. 各ステータ構造体は、ショルダー部を有しており、隣接する前記転頭プレートは、前記ショルダー部との接触により、軸方向にアライメントされている、付記A~A5のいずれかに記載のブレーキシステム。
【0104】
付記A7. 前記第1転頭プレートの転頭によって生じる、前記中心軸に平行な力は、前記第2転頭プレートの転頭によって生じる力と釣り合う、付記A~A6のいずれかに記載のブレーキシステム。
【0105】
付記A8. 前記ロータ、前記第1及び第2転頭プレート、及び、前記第1及び第2ステータ構造体は、ベアリングによる支持無しで動く、付記A~A7のいずれかに記載のブレーキシステム。
【0106】
付記A9. 各転頭プレートは、内面サイド及び外面サイドを有しており、各転頭プレートは、前記内面サイドに設けられた歯と、前記外面サイドに設けられた歯とを有しており、前記内面サイドの前記歯は、前記外面サイドの前記歯より大きい、付記A~A8のいずれかに記載のブレーキシステム。
【0107】
付記A10. 各ステータは、内面サイドを有するとともに、前記内面サイドに設けられた歯を有しており、各ステータの前記内面サイドの歯の数は、各転頭プレートの前記外面サイドの歯の数と等しい、付記A9に記載のブレーキシステム。
【0108】
付記A11. 前記ロータは、前記第1のサイドと前記第2のサイドとに同じ数の歯を有しており、前記ロータの各サイドの歯の数は、各転頭プレートの前記内面サイドの歯の数と1つ異なる、付記A9又はA10に記載のブレーキシステム。
【0109】
付記A12. 各転頭プレートは、前記中心軸に対して斜めの角度で配置されている、付記A~A11のいずれかに記載のブレーキシステム。
【0110】
付記A13. 前記ロータは、前記シャフトに堅固に接続されている、付記A~A12のいずれかに記載のブレーキシステム。
【0111】
付記B. 第1ステータギアと、
前記第1ステータギアに堅固に接続された第2ステータギアと、
前記第1ステータギアと前記第2ステータギアとの間に配置されたロータギアと、
前記第1ステータギア及び前記ロータギアと係合する第1転頭ギアと、
前記第2ステータギア及び前記ロータギアと係合する第2転頭ギアと、を含み、
前記ロータギアの回転により、前記第1転頭ギア、前記第2転頭ギア、前記第1ステータギア、及び、前記第2ステータギアが回転し、
前記ロータギアに対して前記第1ステータギア及び前記第2ステータギアを減速させることにより、前記第1転頭ギア及び前記第2転頭ギアの転頭が誘起され、前記第1転頭ギア及び前記第2転頭ギアの転頭により、前記ロータギアが減速する、ブレーキシステム。
【0112】
付記B1. 前記ロータギアの周縁部は、車軸に堅固に接続される、付記Bに記載のブレーキシステム。
【0113】
付記B2. 前記第1ステータギア及び前記第2ステータギアの各々の外側平面に、選択的に接触するように構成されたブレーキパッドをさらに含む、付記B又はB1に記載のブレーキシステム。
【0114】
付記B3. 前記第1ステータギアと前記第2ステータギアとを接続する中空の円筒形スリーブ、及び、前記中空の円筒形スリーブの内面に選択的に接触するように構成されたブレーキシューをさらに含む、付記B~B2のいずれかに記載のブレーキシステム。
【0115】
付記B4. 前記第1ステータギア、前記第2ステータギア、前記ロータギア、前記第1転頭ギア、及び、前記第2転頭ギアは、環状である、付記B~B3のいずれかに記載のブレーキシステム。
【0116】
付記B5. 前記ロータギアは、回転軸を有し、前記第1転頭ギアは、第1転頭軸を有し、前記第2転頭ギアは、第2転頭軸を有し、前記第1転頭軸及び前記第2転頭軸は、其々が、前記回転軸に対して斜めの角度で配置されている、付記B~B4のいずれかに記載のブレーキシステム。
【0117】
付記B6. 各ステータギアは、ショルダー部を有しており、係合する各転頭ギアは、前記ショルダー部との接触により、軸方向にアライメントされている、付記B~B5のいずれかに記載のブレーキシステム。
【0118】
C. ブレーキシステムにおいて回転エネルギーを消散させるための方法であって、
ロータに接続されたドライブシャフト、及び、前記ロータの両側に係合する一対の転頭プレートを用意し、各転頭プレートは、ステータ構造体に係合する外面サイドを有しており、
前記ドライブシャフト、ロータ、一対の転頭プレート、及び、ステータ構造体を、同じ回転速度で回転させ、
前記ステータ構造体の前記回転速度を下げることによって、前記一対の転頭プレートの転頭を誘起する、方法。
【0119】
付記C1. 前記ドライブシャフトは、航空機のホイールに接続される、付記Cに記載の方法。
【0120】
付記C2. 各ステータ構造体は、外面サイドを有し、前記誘起ステップは、各ステータ構造体の前記外面サイドにブレーキパッドを摩擦係合させることを含む、付記C又はC1に記載の方法。
【0121】
付記C3. 前記ステータ構造体どうしは、中空のシリンダによって接続されており、前記誘起ステップは、前記中空のシリンダの内面にブレーキシューを摩擦係合させることを含む、付記C~C2のいずれかに記載の方法。
【0122】
付記C4. 前記誘起ステップは、前記一対の転頭プレートのうちの一方による軸方向の力を、前記一対の転頭プレートのうちの他方による軸方向の力と釣り合わせることを含む、付記C~C3のいずれかに記載の方法。
【0123】
付記C5. 前記回転ステップ及び前記誘起ステップは、ベアリングによる支持無しで行われる、付記C~C4のいずれかに記載の方法。
【0124】
付記C6. 前記一対の転頭する転頭プレートによって前記ロータを減速させることにより、前記ドライブシャフトを減速させることをさらに含む、付記C~C5のいずれかに記載の方法。
<効果、特徴、及び利点>
【0125】
本明細書に記載のブレーキシステムの様々な実施例は、回転運動を制動するための既知の方策に対して、いくつかの利点をもたらす。例えば、本明細書に記載の例示的な実施例は、熱出力を生じさせることなく、回転エネルギーの大部分を消散させることができる。
【0126】
また、特に、本明細書に記載の例示的な実施例では、トラクションが失われた際にトルク負荷を自動的に解放することにより、受動的なスキッド防止機能を実現する。
【0127】
また、特に、本明細書に記載の例示的な実施例は、既存のビークル設計への追加や、既存のブレーキシステムに代えての後付けが容易である。
【0128】
また、特に、本明細書に記載の例示的な実施例は、ベアリングを使用せずにバランスのとれたシステムを実現できる。
【0129】
既知のシステム又は装置の中で、これらの機能を、特にこのように小さなサイズで実現できるものはない。従って、本明細書に記載の例示的な実施例は、軽量且つコンパクトであるとともに高性能なブレーキシステムを必要とする航空機やその他のビークルに、特に有用である。ただし、本明細書に記載したすべての実施例が、同じ利点又は同程度の利点をもたらすとは限らない。
<結び>
【0130】
上述の開示は、独自の有用性を有する複数の実施例を包含しうる。これらの各々を、その好ましい形態で開示しているが、本明細書に開示及び図示されたそれらの具体的な実施例は、限定的な意味でとらえられるべきではなく、多くの変形例が可能である。本開示においてセクションごとの見出しが用いられている場合、そのような見出しは、単に体系化のみを目的としたものである。本開示の要旨は、本明細書に開示された様々な要素、特徴、機能、及び/又は特性の、すべての新規且つ非自明の組み合わせ及びサブコンビネーションを含む。以下の特許請求の範囲は、新規且つ非自明とみなされる、いくつかの組み合わせ及びサブコンビネーションを特に示している。特徴、機能、要素、及び/又は特性の、その他の組み合わせ及びサブコンビネーションは、本願又は関連出願に基づく優先権を主張する出願の特許請求の範囲に記載されうる。そのような特許請求の範囲は、元の特許請求の範囲よりも広いもの、狭いもの、均等のもの、又は異なるもの、のいずれであろうとも、本開示の要旨に含まれるものとみなされる。