(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】{100}集合組織電磁鋼板の製造方法
(51)【国際特許分類】
C21D 8/12 20060101AFI20241008BHJP
H01F 1/147 20060101ALI20241008BHJP
C22C 38/00 20060101ALN20241008BHJP
C22C 38/08 20060101ALN20241008BHJP
C22C 38/60 20060101ALN20241008BHJP
【FI】
C21D8/12 A
H01F1/147 175
C22C38/00 303U
C22C38/08
C22C38/60
(21)【出願番号】P 2020057812
(22)【出願日】2020-03-27
【審査請求日】2023-03-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】弁理士法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】早川 康之
(72)【発明者】
【氏名】大森 俊洋
(72)【発明者】
【氏名】原田 智樹
(72)【発明者】
【氏名】貝沼 亮介
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-222911(JP,A)
【文献】特表2010-513716(JP,A)
【文献】特開2004-084034(JP,A)
【文献】特開平11-001723(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0084895(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 8/12, 9/46
H01F 1/12- 1/38, 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si:2.0~5.0mass%、Ni:
1.0~5.0mass%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼素材を、熱間圧延し、1回の冷間圧延または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延して最終板厚の冷延板とした後、該冷延板に、室温からbcc単相になるA
4変態点以上の高温域まで加熱して所定時間保持した後、bcc単相から(bcc+fcc)相になるA
3変態点とA
4変態点間の低温域に冷却して該温度域で所定時間保持した後、再びbcc単相になるA
4変態点以上の高温域まで加熱して所定時間保持する冷却および再加熱を1回以上繰り返し、その後、bcc単相になるA
4変態点以上の高温域から室温まで冷却する一連の熱処理を施して{100}集合組織電磁鋼板を製造する方法であって、
上記熱処理における高温域および低温域の保持時間を1
.0min以上と
し、
上記低温域におけるfcc相の体積分率を30%以上80%以下の範囲に制御する
とともに、
上記鋼素材がCを0.0050mass%超え含有している場合には、上記熱処理で脱炭焼鈍してCを0.0050mass%以下に低減することを特徴とする{100}集合組織電磁鋼板の製造方法。
【請求項2】
上記熱処理における昇温速度および冷却速度(ただし、高温域から室温まで冷却するときの冷却速度を除く)をそれぞれ0.1~2000℃/minの範囲とすることを特徴とする請求項1に記載の{100}集合組織電磁鋼板の製造方法。
【請求項3】
上記熱処理における高温域から室温まで冷却するときの冷却速度を300℃/min以上または1℃/min以下とすることを特徴とする請求項1または2に記載の{100}集合組織電磁鋼板の製造方法
【請求項4】
上記鋼素材は、上記SiおよびNi以外に、C:0.01~0.10mass%、Mn:0.01~0.50mass%、Sb:0.01~0.10mass%、Sn:0.01~0.20mass%、Cr:0.01~0.50mass%、Mo:0.01~0.20mass%、Cu:0.01~0.50mass%、Nb:0.01~0.10mass%およびP:0.01~0.10mass%のうちから選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の{100}集合組織電磁鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機や発電機、変圧器等に用いて好適な圧延面内の磁気特性に優れる{100}集合組織電磁鋼板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電動機や発電機、変圧器などの磁心材料には、従来、電磁鋼板が用いられている。この電磁鋼板に要求される磁気特性は、交流磁界中で磁気的なエネルギー損失が少ないこと、および、実用的な磁界中での磁束密度が高いことの二つである。これらを実現するには、鋼の固有抵抗を高め、かつ、磁化容易方向であるbcc格子の<100>軸を使用磁界方向に集積させることが有効とされている。
【0003】
{100}面が板面に平行であれば、二つの<100>軸が板面と平行となるため、回転機に用いて好適である。この集合組織を有する電磁鋼板は、{100}集合組織電磁鋼板と呼ばれている。{100}集合組織電磁鋼板の板面内の<100>軸の向きは任意であるが、板面内の圧延方向と板幅方向に<100>軸が集積した{100}<001>集合組織を有するものは、二方向で極めて優れた磁気特性を示すため、二方向性電磁鋼板と呼ばれている。この集合組織を有する電磁鋼板は、回転機のみならず、積み鉄心を用いたトランスの鉄心のように圧延方向と板幅方向に磁束が流れる用途にも最適である。
【0004】
このような{100}集合組織珪素鋼板を製造する技術として、例えば、特許文献1には、クロス冷間圧延を活用する方法が提案されている。また、特許文献2には、脱炭もしくは脱炭と脱Mnとを生じさせる高温焼鈍を利用した製造方法、具体的には、重量%で、C:1%以下、Si:0.2~6.5%、Mn:0.05~5%を含有する冷間圧延珪素鋼板に、焼鈍分離剤として脱炭を促進する物質または脱炭と脱Mnを促進する物質を用いて、タイトコイル焼鈍もしくは積層焼鈍して、{100}面を板面と平行とする集合組織を有する珪素鋼板を製造する方法が開示されている。また、非特許文献1には、真空中において1050℃以上の高温で1時間程度焼鈍する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平01-139722号公報
【文献】特開平07-173542号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】日本金属学会誌 第48巻(1984)、p482-488
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に開示のクロス冷間圧延を用いる技術は、2回目の圧延方向が1回目の圧延方向と直角となるため、一方向性電磁鋼板のようにコイル状にして製品を連続的に製造することは不可能である。また、連続的に製造するには、1回目の圧延板を剪断し、何らかの方法で接合する工程が必要となるため、実用化には困難を伴う。また、上記特許文献2に開示の高温焼鈍を行う方法は、磁気特性に優れた{100}集合組織珪素鋼板を製造することができるものの、脱Cと脱Mnのために真空中で長時間焼鈍する必要がある。また、上記非特許文献1に開示の方法は、表面エネルギー差を活用する技術であるため、真空雰囲気が必要である他、板厚を0.10mm程度以下とする必要がある。上記したように、従来の{100}集合組織珪素鋼板を製造する技術は、優れた技術であるものの、いずれも工業的な生産性および製造コストの観点から、実用化にはさらなる改善の余地がある。
【0008】
本発明は、従来技術が抱える上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、真空雰囲気を必要とせず、かつ、工業的な鋼板の積層焼鈍やコイル焼鈍が可能であり、さらには、短時間の連続焼鈍でも製造が可能であり、優れた磁気特性を安定して得られる{100}集合組織電磁鋼板の製造方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは、上記課題を解決するため、{100}集合組織電磁鋼板の繰り返し熱処理による異常粒成長挙動に着目して鋭意研究を重ねた。その結果、磁気特性に優れた{100}集合組織電磁鋼板を低コストで安定して製造するためには、bcc単相となるA4変態点以上の高温域へ加熱し、その後、(bcc+fcc)2相となるA4変態点とA3変態点との間の低温領域へ冷却した後、bcc単相となるA4変態点以上の高温域へ再加熱する冷却および再加熱を繰り返すことで異常粒成長を起こさせることが有効であることを見出した。ここで、上記異常粒成長は、銅系の形状記憶合金において見出された現象であり、繰り返し変態によって生成するサブグレインを駆動力として異常粒成長を生起せしめるものである(Science.2013;341(6153):1500-1502.参照)
【0010】
上記の知見に基づき開発された本発明は、Si:2.0~5.0mass%、Ni:0.5~10.0mass%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼素材を、熱間圧延し、1回の冷間圧延または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延して最終板厚の冷延板とした後、該冷延板に、室温からbcc単相になるA4変態点以上の高温域まで加熱して所定時間保持した後、bcc単相から(bcc+fcc)相になるA3変態点とA4変態点間の低温域に冷却して該温度域で所定時間保持した後、再びbcc単相になるA4変態点以上の高温域まで加熱して所定時間保持する冷却および再加熱を1回以上繰り返し、その後、bcc単相になるA4変態点以上の高温域から室温まで冷却する一連の熱処理を施して{100}集合組織電磁鋼板を製造する方法であって、上記熱処理における高温域および低温域の保持時間を1min以上とするとともに、上記低温域におけるfcc相の体積分率を30%以上80%以下の範囲に制御することを特徴とする{100}集合組織電磁鋼板の製造方法を提案する。
【0011】
本発明の{100}集合組織電磁鋼板の製造方法は、上記熱処理における昇温速度および冷却速度(ただし、高温域から室温まで冷却するときの冷却速度を除く)をそれぞれ0.1~2000℃/minの範囲とすることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の{100}集合組織電磁鋼板の製造方法は、上記熱処理における高温域から室温まで冷却するときの冷却速度を300℃/min以上または1℃/min以下とすることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の{100}集合組織電磁鋼板の製造方法に用いる上記鋼素材は、上記SiおよびNi以外に、C:0.01~0.10mass%、Mn:0.01~0.50mass%、Sb:0.01~0.10mass%、Sn:0.01~0.20mass%、Cr:0.01~0.50mass%、Mo:0.01~0.20mass%、Cu:0.01~0.50mass%、Nb:0.01~0.10mass%およびP:0.01~0.10mass%のうちから選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、優れた磁気特性を有する<001>軸を板面内に二つ有する{100}集合組織電磁鋼板を安定して、かつ、低コストで製造することができる。したがって、本発明によれば、回転機器や変圧器の鉄心材料として好適な素材を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例1における熱処理のヒートパターンを説明する図である。
【
図2】実施例2における熱処理のヒートパターンを説明する図である。
【
図3】実施例3における熱処理のヒートパターンを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
まず、本発明の{100}集合組織電磁鋼板の製造に用いる鋼素材の成分組成について説明する。
Si:2.0~5.0mass%
Siは、鋼の電気抵抗を高め、鉄損を低減するのに有効な元素であり、十分な鉄損低減効果を得るためには、2.0mass%以上含有させるのが好ましい。一方、5.0mass%を超える添加は、磁束密度の低下を招くだけでなく、圧延性を著しく阻害するため、製造することが難しくなる。よって、Siは2.0~5.0mass%の範囲とする。好ましくは2.5~3.5mass%の範囲である。
【0017】
Ni:0.5~10.0mass%
Niは、後述する高温域から低温域への冷却および低温域から高温域への再加熱を繰り返す際、鋼にγ変態を起こさせて異常粒成長を生じさせるために必要な元素であり、充分なγ変態量を確保するため、0.5mass%以上含有させる。一方、10.0mass%以上含有すると、γ変態量が多くなり過ぎ、異常粒成長が起き難くなる。よって、Niは0.5~10.0mass%の範囲とする。好ましくは1.0~5.0mass%の範囲である。
【0018】
本発明で用いる鋼素材における上記SiおよびNi以外の残部成分は、Feおよび不可避的不純物であるが、C,Mn,Sb,Sn,Cr,Mo,Cu,NbおよびPは、以下の範囲で含有していてもよい。
【0019】
C:0.01~0.10mass%
Cは、熱延板組織を改善するのに有効な元素であり、0.01~0.10mass%の範囲で含有していることが好ましい。より好ましくは0.02~0.08mass%の範囲である。なお、Cを含有する場合は、製造過程で脱炭焼鈍し、磁気時効の起こらない0.0050mass%以下まで低減する必要がある。
【0020】
Mn:0.01~0.50mass%
Mnは、熱間加工性を改善するのに有効な元素であり、上記効果を得るためには0.01mass%以上添加するのが好ましい。一方、0.5mass%を超える添加は、磁束密度の低下を招く。よって、Mnは0.01~0.50mass%の範囲とするのが好ましい。より好ましくは0.05~0.30mass%の範囲である。
【0021】
Sb:0.01~0.10mass%、Sn:0.01~0.20mass%、Cr:0.01~0.50mass%、Mo:0.01~0.20mass%、Cu:0.01~0.50mass%、Nb:0.01~0.10mass%およびP:0.01~0.10mass%のうちから選ばれる1種または2種以上
Sb,Sn,Cr,Mo,Cu,NbおよびPは、表面偏析元素であり、{100}面の表面エネルギーを低下させて、{100}集合組織の発達を促進する効果がある元素である。しかし、上記各成分の含有量が上記下限値未満では、集合組織改善効果が十分ではなく、一方、上記上限値を超えて添加すると、異常粒成長粒の発現が阻害され、却って集合組織が劣化するようになる。よって、Sb,Sn,Cr,Mo,Cu,NbおよびPは、上記の範囲内において1種または2種以上を含有させるのが好ましい。より好ましい範囲は、それぞれ、Sb:0.02~0.06mass%、Sn:0.05~0.15mass%、Cr:0.05~0.30mass%、Mo:0.02~0.10mass%、Cu:0.05~0.30mass%、Nb:0.02~0.05mass%およびP:0.02~0.06mass%の範囲である。
【0022】
次に、本発明の電磁鋼板の製造方法について説明する。
本発明の電磁鋼板の製造方法に用いる鋼素材(スラブ)は、上記に説明した本発明に適合する成分組成を満たすこと以外に制限はなく、製造方法についても、通常の精錬プロセスで所定の成分組成の鋼を溶製した後、連続鋳造法や造塊-分塊圧延法等でスラブとする常法に準じて製造すればよい。
【0023】
上記鋼素材(スラブ)は、所定の温度に加熱した後、熱間圧延し、所定の板厚の熱延板とする。なお、上記スラブ加熱温度は、インヒビタを活用して二次再結晶を起こさせる一方向性電磁鋼板では、インヒビタ成分を固溶させるため1400℃近い高温とする必要があるが、本発明ではインヒビタを活用する二次再結晶を必要としないため、スラブ加熱温度は、熱間圧延が可能な温度であればよい。したがって、鋳造後、再加熱することなく直ちに熱間圧延する直接圧延を行ってもよい。また、薄鋳片の場合には、熱間圧延を省略して、そのまま以降の工程に進めてもよい。
【0024】
次いで、上記熱間圧延して得た熱延板は、必要に応じて常法に準じて熱延板焼鈍を施してもよい。熱間圧延後あるいは熱延板焼鈍後の鋼板は、その後、酸洗し、1回の冷間圧延または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延により、所望の最終板厚の冷延板とする。
【0025】
次いで、最終板厚とした冷延板は、本発明において最も重要な熱処理を施す。この熱処理は、室温からbcc単相になるA4変態点以上の高温域まで加熱して所定時間保持するステップ1と、その後、上記高温域からbcc単相から(bcc+fcc)相になるA3変態点とA4変態点間の低温域に冷却して該温度域で所定時間保持した後、再びbcc単相になるA4変態点以上の高温域まで加熱して所定時間保持する冷却および再加熱を1回以上繰り返すステップ2と、上記ステップ2が終了後、bcc単相になるA4変態点以上の高温域から室温まで冷却するステップ3からなる。
【0026】
ここで、本発明の効果をより高めるためには、上記ステップ2において、bcc単相から(bcc+fcc)相になるA3変態点とA4変態点間の低温域における、fcc相の体積分率は30%以上80%以下の範囲に制御することが好ましい。fcc相の体積分率を上記範囲に制御することによって、{100}集合組織を安定して発達させることができる。一方、fcc相の体積分率が上記範囲を外れる場合には、異常粒成長の発生量が不足し、{100}集合組織の発達が不十分となる。より好ましいfcc相の体積分率は50~70%の範囲である。
【0027】
なお、上記冷却と加熱を繰り返して行うステップ2の高温域の温度は、A4変態点よりも30℃以上高くするのが好ましい。これにより、異常粒成長を起こす時間を短縮することができる。より好ましくはA4変態点+40℃以上である。
【0028】
また、上記bcc単相になるA4変態点以上の高温域に加熱保持するステップ1の保持時間は、1min以上とするのが好ましい。該保持時間が1min未満では、異常粒成長の発生量が不足し、{100}集合組織の発達が不十分となる。保持時間の上限は特に規定しないが、生産性や製造コストの観点から、120min程度とするのが好ましい。より好ましくは2~60minの範囲である。
【0029】
また、上記ステップ1に続く、bcc単相から(bcc+fcc)相になるA3変態点とA4変態点間の低温域に冷却して該温度域で所定時間保持した後、再びbcc単相になるA4変態点以上の高温域まで加熱して所定時間保持する冷却と加熱を1回以上繰り返すステップ2の低温域および高温域での保持時間は、それぞれ1min以上とするのが好ましい。該保持時間が1min未満では、異常粒成長の発生量が不足し、{100}集合組織の発達が不十分となる。保持時間の上限は特に規定しないが、生産性や製造コストの観点から、120min程度とするのが好ましい。より好ましくは2~60minの範囲である。
【0030】
また、上記ステップ2における冷却速度および昇温速度は、それぞれ0.1~2000℃/minの範囲とするのが好ましい。上記冷却速度および昇温速度が0.1℃/min未満では、焼鈍時間が長くなり、生産性や製造コストに悪影響を及ぼす。一方、2000℃/minを超えると、異常粒成長の発生量が不足し、{100}集合組織の発達が不十分となる。より好ましくは0.5~1000℃/minの範囲である。
【0031】
また、上記ステップ2に続く、bcc単相になるA4変態点以上の高温域から室温まで冷却するステップ3おける冷却速度は、非磁性であるfcc相を室温まで残存させないため、300℃/min以上で急冷する、または、1℃/min以下で徐冷するのが好ましい。より好ましくは、600℃/min以上、または、0.5℃/min以下である。
【0032】
また、冷却と加熱を繰り返すステップ2の雰囲気は、Ar,H2,N2などの非酸化性雰囲気あるいは真空雰囲気とするのが好ましいが、素材のC含有量が0.0050mass%より高い場合には、初めは、脱炭するため、湿水素雰囲気とし、その後、上記非酸化性雰囲気あるいは真空雰囲気に変更してもよい。
【0033】
また、冷却と加熱を繰り返すステップ2の繰り返し数は、少なくとも1回は必要であり、異常粒成長をより促進するためには3回以上とするのが好ましい。しかし、繰り返しの回数をいたずらに多くしても、上記効果が飽和する他、生産性や製造コストに悪影響を及ぼすので、上限は5回程度とするのが好ましい。
【0034】
なお、上記条件を満たす冷却と加熱を繰り返すことによって、異常粒成長を起こして{100}集合組織を有する鋼板が得られる理由については、現時点では必ずしも明らかになっていないが、発明者らは、鋼板の長手方向、幅方向の寸法に比べて板厚が薄い状態では、板厚方向のヤング率が最小である{100}結晶粒が、変態に伴って発生する歪を最も有効に緩和するためであると考えている。
【0035】
次に、本発明の{100}集合組織電磁鋼板について説明する。
上記説明した本発明の製造方法により得られる{100}集合組織電磁鋼板は、基本的に{100}集合組織を有するものであり、{100}<001>型の{100}集合組織または{100}<0vw>型の{100}集合組織を有するものである。{100}<100>集合組織を有する鋼板は、圧延方向と板幅方向の二方向で優れた磁気特性を示し、また、{100}<0vw>集合組織を有する鋼板は、圧延面内であらゆる方向にほぼ等しい磁気特性を示す。
【0036】
なお、本発明に係る{100}集合組織を有する鋼板は、板面に対して15°以内にある{100}面を有する結晶粒の面積率が、観察面(板面に平行な断面)の70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。ここで、上記{100}面からのずれ角は、X線ラウエ法により測定することができる。
【実施例1】
【0037】
Si:3.0mass%およびNi:2.0mass%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成の鋼を高周波溶解炉で溶解し、鋳造して鋼塊とした後、1200℃の温度に加熱し、熱間圧延して板厚2.4mmの熱延板とし、次いで、上記熱延板を酸洗して脱スケールし、冷間圧延して最終板厚:0.30mmの冷延板とした後、Ar雰囲気中で、
図1および表1に示したヒートパターンの熱処理を施した。
なお、上記鋼の変態温度は、示差走査熱量(DSC)測定装置により、鋼板を低温から高温に加熱する際の熱量変化を測定することで求めたところ、A
3変態点(bcc→bcc+fcc)は960℃、A
4変態点(bcc+fcc→bcc)は1260℃であった。
また、A
4変態点とA
3変態点間の低温域保持時のfcc相の体積分率は、低温域の保持温度で2分保持した後、急冷して組織観察することにより求めた。
また、熱処理後の鋼板について、X線ラウエ法で30×280mmの領域を解析し、板面に対して15°以内にある{100}面を有する結晶粒の面積率を測定した。
【0038】
上記測定の結果を表1中に併記した。この表から、本発明に適合する条件で熱処理を施すことにより、板面に対して15°以内にある{100}面を有する結晶粒の面積率が板面の70%以上の{100}集合組織を有する電磁鋼板を得ることができることがわかる。
【0039】
【実施例2】
【0040】
Si:3.0mass%およびNi:2.0mass%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成の鋼を高周波溶解炉で溶解し、鋳造して鋼塊とした後、1200℃の温度に加熱し、熱間圧延して板厚2.4mmの熱延板とし、次いで、上記熱延板を酸洗して脱スケールし、冷間圧延して最終板厚:0.30mmの冷延板とした後、H:25vol%+N
2:75vol%の混合雰囲気中で、
図2および表2に示したヒートパターンの熱処理を施した。
なお、上記鋼の変態温度は、示差走査熱量(DSC)測定装置により材料を低温から高温に加熱する際の熱量変化を測定することで求めたところ、A
3変態点(bcc→bcc+fcc)は960℃、A
4変態点(bcc+fcc→bcc)は1260℃であった。
また、A
4変態点とA
3変態点間の低温域保持時のfcc相の体積分率は、低温域の保持温度で2分保持した後、急冷して組織観察することにより求めた。
また、熱処理後の鋼板について、X線ラウエ法で30×280mmの領域を解析し、板面に対して15°以内にある{100}面を有する結晶粒の面積率を測定した。
【0041】
上記測定の結果を表2中に併記した。この表から、本発明に適合する条件で熱処理を施すことにより、板面に対して15°以内にある{100}面を有する結晶粒の面積率が板面の70%以上の{100}集合組織を有する電磁鋼板を得ることができることがわかる。
【0042】
【実施例3】
【0043】
表3に示した成分組成を有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼を高周波溶解炉で溶解し、鋳造して鋼塊とした後、1200℃の温度に加熱し、熱間圧延して板厚2.2mmの熱延板とし、次いで、上記熱延板を酸洗して脱スケールした後、冷間圧延して最終板厚:0.22mmの冷延板とした後、Ar雰囲気中で、
図3および表3に示したヒートパターンの熱処理を施した。
なお、上記鋼の変態温度は、表3中に示した。
また、A
4変態点とA
3変態点間の低温域保持時のfcc相の体積分率は、低温域の保持温度で2分保持した後、急冷して組織観察することにより求めた。
また、熱処理後の鋼板について、X線ラウエ法で30×280mmの領域を解析し、板面に対して15°以内にある{100}面を有する結晶粒の面積率を測定した。
【0044】
上記測定の結果を表3中に併記した。この表から、本発明に適合する条件で熱処理を施すことにより、板面に対して15°以内にある{100}面を有する結晶粒の面積率が板面の70%以上の{100}集合組織を有する電磁鋼板を得ることができることがわかる。
【0045】
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の技術は、<100>方向の特性が優れる、Fe系の形状記憶合金あるいは超弾性材料の分野にも適用することができる。