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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】磁気コア及びコイル部品
(51)【国際特許分類】
   H01F 27/255 20060101AFI20241008BHJP
   H01F 1/26 20060101ALI20241008BHJP
   H01F 17/04 20060101ALI20241008BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20241008BHJP
【FI】
H01F27/255
H01F1/26
H01F17/04 F
B22F3/00 B
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020065929
(22)【出願日】2020-04-01
(65)【公開番号】P2021163901
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000134257
【氏名又は名称】株式会社トーキン
(74)【代理人】
【識別番号】100117341
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 拓哉
(74)【代理人】
【識別番号】100148840
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 健志
(74)【代理人】
【識別番号】100191673
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 久典
(72)【発明者】
【氏名】山家 孝志
(72)【発明者】
【氏名】阿部 有希
(72)【発明者】
【氏名】近藤 将寛
(72)【発明者】
【氏名】赤木 啓祐
【審査官】井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-075403(JP,A)
【文献】特開2009-009985(JP,A)
【文献】特開2018-098278(JP,A)
【文献】特開2013-045859(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 27/255
H01F 1/26
H01F 17/04
B22F 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の板状磁性片と、前記板状磁性片を結合するバインダとを備える磁気コアであって、
前記複数の板状磁性片は、主として所定平面に沿うように配向されており、
前記板状磁性片の夫々は、一体化された複数の磁性粉末粒からなる集合体であり、前記磁性粉末粒の夫々は、絶縁コートされている
磁気コア。
【請求項2】
請求項1記載の磁気コアであって、
前記板状磁性片の夫々は、複数の磁性粉末粒からなる圧縮体である
磁気コア。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の磁気コアであって、
前記板状磁性片の夫々は、最大長Dと厚みtの比D/tが3以上100以下である
磁気コア。
【請求項4】
請求項3記載の磁気コアであって、
比D/tが5以上50以下である
磁気コア。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれかに記載の磁気コアであって、
前記板状磁性片の夫々は、直径1mmの円より大きい面積を有していると共に、20mm以下の最大長Dを有している
磁気コア。
【請求項6】
請求項5記載の磁気コアであって、
最大長Dは10mm以下である
磁気コア。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれかに記載の磁気コアであって、
前記板状磁性片よりも小さいサイズの磁性小片を更に備えており、
前記磁性小片は、前記板状磁性片の間に配置されている
磁気コア。
【請求項8】
請求項1から請求項7までのいずれかに記載の磁気コアを少なくとも一部に含むコア部材と、前記コア部材に巻回されたコイルとを備えるコイル部品。
【請求項9】
請求項8記載のコイル部品であって、
前記コイルの巻軸は、所定方向に延びており、
前記コア部材は、前記コイルの周囲の少なくとも一部を囲っており、
前記磁気コアは、前記所定平面が前記所定方向と直交するように配置されている
コイル部品。
【請求項10】
請求項9記載のコイル部品であって、
前記コイルは、内周面と、外周面と、前記内周面及び前記外周面と夫々連続する第1端面及び第2端面とを有しており、
前記コア部材は、第1コア部材と、第2コア部材と、第3コア部材と、第4コア部材とを有しており、
前記第1コア部材は、前記コイル部品を前記コイルの巻軸と前記コア部材内を周回する磁路とを含む平面で切断した所定断面において、前記コイルの前記第1端面に沿って前記所定方向と直交する直交方向に延びる第1直線よりも前記所定方向において外側に位置しており、
前記第2コア部材は、前記所定断面において、前記コイルの前記第2端面に沿って前記直交方向に延びる第2直線よりも前記所定方向において外側に位置しており、
前記第3コア部材は、前記所定断面において、前記コイルの前記内周面よりも前記直交方向において内側に位置していると共に、前記所定方向において前記第1コア部材と前記第2コア部材とに挟まれており、
前記第4コア部材は、前記所定断面において、前記コイルの前記外周面よりも前記直交方向において外側に位置していると共に、前記所定方向において前記第1コア部材と前記第2コア部材とに挟まれており、
前記第1コア部材、前記第2コア部材、前記第3コア部材及び前記第4コア部材の少なくともいずれか一つは、前記磁気コアからなる
コイル部品。
【請求項11】
請求項10記載のコイル部品であって、
前記第3コア部材及び前記第4コア部材は、前記磁気コアからなる
コイル部品。
【請求項12】
請求項11記載のコイル部品であって、
前記第1コア部材及び前記第2コア部材は、前記磁気コアからなる
コイル部品。
【請求項13】
請求項11記載のコイル部品であって、
前記第1コア部材及び前記第2コア部材は、圧粉コアからなる
コイル部品。
【請求項14】
請求項10記載のコイル部品であって、
前記第1コア部材及び前記第2コア部材は、前記磁気コアからなり、
前記第3コア部材及び前記第4コア部材は、硬化した樹脂内に磁性体粉末が分散配置された注型コアからなる
コイル部品。
【請求項15】
請求項8記載のコイル部品であって、
前記コイルの巻軸は、前記所定平面と平行に延びており、
前記コア部材は、前記コイルの周囲の一部を囲っており、
前記コア部材内を周回する磁路は、前記所定平面に沿っている
コイル部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気コア及びその磁気コアを含むコイル部品に関する。
【背景技術】
【0002】
相対的に高い透磁率を有するコア(以下、「高μコア」)と相対的に低い透磁率を有するコア(以下、「低μコア」)とで磁路を形成する技術が特許文献1に開示されている。具体的には、特許文献1のコイル部品は、コア部材と、コア部材に巻回されたコイルとを備えている。コイルの巻軸は、上下方向に延びている。コイルは、内周面と、外周面と、内周面及び外周面と夫々連続する第1端面及び第2端面とを有している。コア部材は、高μコアとして圧粉コアを有しており、低μコアとして注型コアを有している。ここで、注型コアは、硬化した樹脂内に磁性体粉末が分散配置されてなるものである。圧粉コアは、コイル部品をコイルの巻軸とコア部材内を周回する磁路とを含む平面で切断した所定断面において、コイルの第1端面に沿って水平方向に延びる第1直線よりも上方と、コイルの第2端面に沿って水平方向に延びる第2直線よりも下方とに位置している。ここで、水平方向は、上下方向と直交する方向である。注型コアは、前述の所定断面において、コイルの内周面よりも水平方向において内側又はコイルの外周面よりも水平方向において外側に位置していると共に、上下方向において圧粉コアに挟まれている。このように、コイルの上下に高μコアを配置すると共に水平方向におけるコイルの内側及び外側に低μコアを配置すると、磁束の軌道を矩形に近づけることができ、それによってコイルの角周辺における交流銅損を大幅に低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6552332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、特許文献1のコイル部品における磁路を考慮すると、高μコアにおいて相対的に高い透磁率が必要とされるのは水平方向であり、低μコアにおいて相対的に低い透磁率が必要とされるのは上下方向である。換言すると、高μコアにおいて上下方向における透磁率は相対的に高くなくてもよいし、低μコアにおいて水平方向における透磁率は相対的に低くなくてもよい。しかし、圧粉コアや注型コアにおける透磁率は等方的であるので、圧粉コアを高μコアとして用いる場合には上下方向における透磁率が無駄に高く、注型コアを低μコアとして用いる場合には水平方向における透磁率が無駄に低いという問題があった。かかる問題を考慮すると、透磁率に異方性のある適切な磁気コアを開発できれば、上述した透磁率の無駄をなくすことができ、代わりにコストダウンなどの他の効果を得られる可能性がある。
【0005】
そこで、本発明は、透磁率に異方性のある適切な磁気コア及びその磁気コアを含むコイル部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、第1の磁気コアとして、
複数の板状磁性片と、前記板状磁性片を結合するバインダとを備える磁気コアであって、
前記複数の板状磁性片は、主として所定平面に沿うように配向されており、
前記板状磁性片の夫々は、一体化された複数の磁性粉末粒からなるものであり、前記磁性粉末粒の夫々は、絶縁コートされている
磁気コアを提供する。
【0007】
また、本発明は、第2の磁気コアとして、第1の磁気コアであって、
前記板状磁性片の夫々は、複数の磁性粉末粒からなる圧縮体である
磁気コアを提供する。
【0008】
また、本発明は、第3の磁気コアとして、第1又は第2の磁気コアであって、
前記板状磁性片の夫々は、最大長Dと厚みtの比D/tが3以上100以下である
磁気コアを提供する。
【0009】
また、本発明は、第4の磁気コアとして、第3の磁気コアであって、
比D/tが5以上50以下である
磁気コアを提供する。
【0010】
また、本発明は、第5の磁気コアとして、第1から第4までのいずれかの磁気コアであって、
前記板状磁性片の夫々は、直径1mmの円より大きい面積を有していると共に、20mm以下の最大長Dを有している
磁気コアを提供する。
【0011】
また、本発明は、第6の磁気コアとして、第5の磁気コアであって、
最大長Dは10mm以下である
磁気コアを提供する。
【0012】
また、本発明は、第7の磁気コアとして、第1から第6までのいずれかの磁気コアであって、
前記板状磁性片よりも小さいサイズの磁性小片を更に備えており、
前記磁性小片は、前記板状磁性片の間に配置されている
磁気コアを提供する。
【0013】
更に、本発明は、第1のコイル部品として、第1から第7までのいずれかの磁気コアを少なくとも一部に含むコア部材と、前記コア部材に巻回されたコイルとを備えるコイル部品を提供する。
【0014】
また、本発明は、第2のコイル部品として、第1のコイル部品であって、
前記コイルの巻軸は、所定方向に延びており、
前記コア部材は、前記コイルの周囲の少なくとも一部を囲っており、
前記磁気コアは、前記所定平面が前記所定方向と直交するように配置されている
コイル部品を提供する。
【0015】
また、本発明は、第3のコイル部品として、第2のコイル部品であって、
前記コイルは、内周面と、外周面と、前記内周面及び前記外周面と夫々連続する第1端面及び第2端面とを有しており、
前記コア部材は、第1コア部材と、第2コア部材と、第3コア部材と、第4コア部材とを有しており、
前記第1コア部材は、前記コイル部品を前記コイルの巻軸と前記コア部材内を周回する磁路とを含む平面で切断した所定断面において、前記コイルの前記第1端面に沿って前記所定方向と直交する直交方向に延びる第1直線よりも前記所定方向において外側に位置しており、
前記第2コア部材は、前記所定断面において、前記コイルの前記第2端面に沿って前記直交方向に延びる第2直線よりも前記所定方向において外側に位置しており、
前記第3コア部材は、前記所定断面において、前記コイルの前記内周面よりも前記直交方向において内側に位置していると共に、前記所定方向において前記第1コア部材と前記第2コア部材とに挟まれており、
前記第4コア部材は、前記所定断面において、前記コイルの前記外周面よりも前記直交方向において外側に位置していると共に、前記所定方向において前記第1コア部材と前記第2コア部材とに挟まれており、
前記第1コア部材、前記第2コア部材、前記第3コア部材及び前記第4コア部材の少なくともいずれか一つは、前記磁気コアからなる
コイル部品を提供する。
【0016】
また、本発明は、第4のコイル部品として、第3のコイル部品であって、
前記第3コア部材及び前記第4コア部材は、前記磁気コアからなる
コイル部品を提供する。
【0017】
また、本発明は、第5のコイル部品として、第4のコイル部品であって、
前記第1コア部材及び前記第2コア部材は、前記磁気コアからなる
コイル部品を提供する。
【0018】
また、本発明は、第6のコイル部品として、第4のコイル部品であって、
前記第1コア部材及び前記第2コア部材は、圧粉コアからなる
コイル部品を提供する。
【0019】
また、本発明は、第7のコイル部品として、第3のコイル部品であって、
前記第1コア部材及び前記第2コア部材は、前記磁気コアからなり、
前記第3コア部材及び前記第4コア部材は、硬化した樹脂内に磁性体粉末が分散配置された注型コアからなる
コイル部品を提供する。
【0020】
また、本発明は、第8のコイル部品として、第1のコイル部品であって、
前記コイルの巻軸は、前記所定平面と平行に延びており、
前記コア部材は、前記コイルの周囲の一部を囲っており、
前記コア部材内を周回する磁路は、前記所定平面に沿っている
コイル部品を提供する。
【発明の効果】
【0021】
板状の磁性体(板状磁性片)には形状磁気異方性があることから、板面に沿った方向に磁化することは容易である一方で、厚み方向に沿って磁化することは困難である。このような板状磁性片を所定面に沿って配向して磁気コアを構成すれば、所定面内での透磁率が高く且つ所定面と直交する方向における透磁率が低い磁気コアを得ることができる。ここで、現実的な磁気コアが所定面と直交する方向においてある程度のサイズを有していることと板状磁性片の配向処理とを考慮すると、板状磁性片自体はある程度大きくなければならない。さもないと、適切な配向処理ができない。一方で、板状磁性片自体のサイズが大きくなると、板状磁性片の厚み方向に沿った磁束が板状磁性片に作用した際に、渦電流損失が発生してしまう可能性がある。
【0022】
本発明の磁気コアは、板状磁性片を配向して形成されているので、上述したように、透磁率に異方性がある。加えて、個々の板状磁性片は、夫々絶縁コートされた複数の磁性粉末粒をプレス加工などにより一体化したものである。従って、板状磁性片のサイズをある程度大きくしても渦電流の発生を抑制することができる。即ち、本発明の板状磁性片は配向処理し易く且つ渦電流損失の発生を抑制できる。
【0023】
加えて、ある程度のサイズを有する板状磁性片を配向処理して磁性コアを構成すると、特に所定面内方向において板状磁性片同士が離れて位置する部位が多数形成される。このため、磁性コアを構成する磁性体の総体積は磁性コアの体積よりもかなり小さくなる。即ち、磁性コアを構成する磁性体を少なくすることができ、材料面において磁性コアのコストダウンを図ることができる。
【0024】
更に、本発明の磁気コアにおいて、所定面と直交する方向における透磁率は、低くなる。そのため、低μコアが必要とされる箇所において本発明の磁気コアを用いると、磁気ギャップなどを形成しなくてもよい。即ち、構造的にシンプルな磁気コアとすることができ、製造面においてコストダウンを図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の実施の形態による磁気コアを示す図である。
図2図1の磁気コアに含まれる板状磁性片を示す図である。
図3図1の磁気コアの製造方法を説明するための図である。
図4図1の磁気コアの製造方法を説明するための他の図である。
図5】変形例による磁気コアを示す図である。
図6】本発明の第1の実施の形態によるコイル部品の所定断面の一部を示す図である。図において、板状磁性片は省略されている。
図7】第1実施例によるコイル部品を示す断面図である。
図8】第1実施例によるコイル部品の特にコアの構成を示す図である。図において、板状磁性片は省略されている。
図9】第2実施例によるコイル部品を示す図である。図において、板状磁性片は省略されている。
図10】第3実施例によるコイル部品を示す図である。図において、板状磁性片は省略されている。
図11】第4実施例によるコイル部品を示す図である。図において、板状磁性片は省略されている。
図12】本発明の第2の実施の形態によるコイル部品を構成するコア部材を示す図である。
図13】第2の実施の形態によるコイル部品を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1を参照すると、本発明の実施の形態による磁気コア1は、複数の板状磁性片2と、板状磁性片2を結合するバインダ4とを備えている。複数の板状磁性片2は、主として所定平面に沿うように配向されている。本実施の形態において、所定平面は、XY平面である。板状磁性片2の夫々は、一体化された複数の磁性粉末粒3からなるものである。磁性粉末粒3の夫々は、絶縁コートされている。絶縁コートの材料としては、例えば、Si樹脂やリン酸系の被膜などが用いられる。
【0027】
図2を参照すると、本実施の形態による板状磁性片2は、複数の磁性粉末粒3からなる圧縮体である。即ち、板状磁性片2は、複数の磁性粉末粒3を圧縮成形してなるものである。本実施の形態による磁性粉末粒3は、水アトマイズ粉である。但し、本発明はこれに限定されない。例えば、磁性粉末粒3はガスアトマイズ粉であってもよい。粉末粒の材料には、特に限定はなく、例えば、純鉄、ナノ結晶、センダスト、Fe-Si合金、アモルファス合金などを用いることができる。本実施の形態による圧縮成形は、ローラーコンパクターを用いて行われる。但し、本発明はこれに限定されない。例えば、板状磁性片2をプレス成形により形成してもよい。
【0028】
本実施の形態による板状磁性片2は、圧縮成形された板状磁性片を所定の目開きのふるいにかけて選別したものである。
【0029】
具体的には、図2を参照して、本実施の形態による板状磁性片2の夫々は、最大長Dと厚みtの比D/tが3以上100以下である。比が3より小さいと板状磁性片2を配向し難く、比が100より大きいと板状磁性片2の強度が下がり変形してしまうためである。好ましくは、各板状磁性片2において、比D/tは、5以上50以下である。下限の比D/tが5以上の場合については、比D/tが5未満の場合と比較して、板状磁性片2をより配向し易いためである。また、上限の比D/tが50以下の場合については、比D/tが50より大きい場合と比較して、板状磁性片2の強度がより高くなると共に、後述する振動などの配向操作の際に板状磁性片2が破損し難いためである。
【0030】
また、各板状磁性片2は、直径1mmの円より大きい面積を有していると共に、20mm以下の最大長Dを有している。面積が直径1mmの円より小さいと板状磁性片2を配向し難く、最大長Dが20mmより大きいと当該板状磁性片2が他の板状磁性片2同士の隙間に入り込みにくいからである。好ましくは、各板状磁性片2の最大長Dは、10mm以下である。最大長Dが10mm以下の場合、最大長Dが10mmより大きい場合と比較して、板状磁性片2の配向がし易いと共に、各板状磁性片2が配向時に他の板状磁性片2同士の隙間に入り込みやすいためである。
【0031】
ここで、圧縮成形により生じた歪をとるため、アニールを行っても良い。アニールを行うタイミングは、ふるいを用いた選別の前であってもよいし、選別の後であってもよい。
【0032】
このようにして選別された板状磁性片2は、図3及び図4に示されるように、ケース60内に敷き詰められ、配向される。その後、バインダ4となるエポキシ樹脂を真空含浸して板状磁性片2同士の隙間にエポキシ樹脂を充填し、エポキシ樹脂を硬化して図1に示される板状磁性片2とバインダ4からなる磁気コア1を得る。ここで、バインダ4は、エポキシ樹脂以外の樹脂その他の材料であってもよい。また、板状磁性片2の配向処理にあたっては、ケース60を用いずともよい。また、板状磁性片2の配向処理のため、樹脂の充填前又は充填後にケース60に対して振動を加えてもよいし、樹脂の充填後にケース60内の板状磁性片2に対して磁界を加えてもよい。更に、バインダ4の材料を板状磁性片2同士の隙間に充填する方法は、例えば注型法などの真空含浸以外の方法であってもよい。
【0033】
このようにして形成された磁気コア1は、板状磁性片2の形状異方性に起因して、所定平面に沿った方向においては高い透磁率を有する一方で、所定平面と直交する方向においては、低い透磁率を有している。図1においては、XY平面と平行な方向における透磁率は高く、Z方向における透磁率は低い。このように、本実施の形態によれば、使用される磁性体の総量を押さえつつ、必要な方向における透磁率を高くすることができる。更に、板状磁性片2の夫々は、絶縁コートされた磁性粉末粒3の集合体である。そのため、板状磁性片2においては、渦電流の発生は抑制される。
【0034】
なお、上述した磁気コア1は、板状磁性片2とバインダ4とからなるものであったが、本発明はこれに限定されない。例えば、図5に示される変形例による磁気コア1Aは、複数の板状磁性片2とバインダ4とに加えて、板状磁性片2よりも小さいサイズの磁性小片5を更に備えている。図5から理解されるように、各磁性小片5は、板状磁性片2の間に配置されている。その他の点は、上述した図1に示される実施の形態による磁気コア1Aと同じである。なお、各磁性小片5は、板状磁性片2同士の隙間に入るサイズの磁性体である限り、一つの磁性粉末粒からなるものであってもよいし、複数の磁性粉末粒からなるものであってもよい。前者の場合、例えば、磁性小片5は、夫々、アトマイズ粉末粒を扁平化したものであってもよい。また、後者の場合、各磁性小片5は、複数の磁性粉末粒を圧縮成形してなるものであってもよい。
【0035】
図6に示されるように、本発明の第1の実施の形態によるコイル部品10は、上述したような磁気コア1を少なくとも一部に含むコア部材20と、コア部材20に巻回されたコイル40とを備えている。具体的には、本実施の形態によるコイル部品10において、コイル40の巻軸42は、所定方向に延びている。本実施の形態において、所定方向は、上下方向又はZ方向である。コア部材20は、コイル40の周囲の少なくとも一部を囲っている。図6は、コイル40の巻軸42とコア部材20内を周回する磁路22とを含む平面でコイル部品10を切断した所定断面の一部である。図示されたコイル40は所定断面においてコア部材20内に位置しているが、所定断面以外の箇所ではコイル40がコア部材20内に位置していなくてもよい。
【0036】
詳しくは、コイル40は、所定断面において、内周面44と、外周面45と、内周面44及び外周面45と夫々連続する第1端面46及び第2端面47とを有している。本実施の形態において、第1端面46は、上側の端面であり、第2端面47は、下側の端面である。コア部材20は、第1コア部材24と、第2コア部材25と、第3コア部材26と、第4コア部材27とを有している。
【0037】
第1コア部材24は、所定断面において、コイル40の第1端面46に沿って直交方向に延びる第1直線50よりも所定方向において外側に位置している。ここで、直交方向は、所定方向と直交する方向であり、本実施の形態においては、水平方向又はY方向である。即ち、第1コア部材24は、所定断面において、コイル40の第1端面46に沿ってY方向に延びる第1直線50よりもZ方向において外側に位置している。第2コア部材25は、所定断面において、コイル40の第2端面47に沿って直交方向に延びる第2直線52よりも所定方向において外側に位置している。第2コア部材25は、所定断面において、コイル40の第2端面47に沿ってY方向に延びる第2直線52よりもZ方向において外側に位置している。第3コア部材26は、所定断面において、コイル40の内周面44よりも直交方向において内側に位置していると共に、所定方向において第1コア部材24と第2コア部材25とに挟まれている。即ち、第3コア部材26は、所定断面において、コイル40の内周面44よりもY方向において内側に位置していると共に、Z方向において第1コア部材24と第2コア部材25とに挟まれている。第4コア部材27は、所定断面において、コイル40の外周面45よりも直交方向において外側に位置していると共に、所定方向において第1コア部材24と第2コア部材25とに挟まれている。即ち、第4コア部材27は、所定断面において、コイル40の外周面45よりもY方向において外側に位置していると共に、Z方向において第1コア部材24と第2コア部材25とに挟まれている。
【0038】
第1コア部材24、第2コア部材25、第3コア部材26及び第4コア部材27の少なくともいずれか一つは、図1に示される磁気コア1からなり、そこにおいて、磁気コア1は、所定平面(即ち配向面)が所定方向と直交するように配置されている。
【0039】
特許文献1の記載を参照すると、第1コア部材24及び第2コア部材25がY方向に高い透磁率を有するものであり、第3コア部材26及び第4コア部材27がZ方向に低い透磁率を有するものであると、磁束の軌道を矩形に近づけることができ、それによって交流銅損を低減することができる。上述したように、磁気コア1は、板状磁性片2の形状異方性により、所定平面に沿って高い透磁率を有する一方で所定平面と直交する方向には低い透磁率を有している。そのため、本実施の形態による磁気コア1を備えるコイル部品10においては、交流銅損の低減を図ることができる。加えて、板状磁性片2を構成する磁性粉末粒3は絶縁コートされたものであるので、渦電流の発生も抑制されている。更には、第3コア部材26及び第4コア部材27において所定平面(即ち配向面)が所定方向と直交するように磁気コア1を配置すると、磁気ギャップを設けなくてもよくなる。即ち、構造が簡素になり、製造面においてコストダウンを図ることができる。
【0040】
以下においては、第1の実施の形態によるコイル部品10について、より具体的な構成を備える実施例のいくつかについて説明する。以下に掲げる実施例によるコイル部品は、所謂ポットコア構成のものである。
【0041】
図7及び図8を参照すると、第1実施例によるコイル部品10Aは、コア部材20Aと、コイル40とを備えている。コイル40は、上述した実施の形態によるコイル40と同じであるので説明を省略する。
【0042】
第1実施例によるコア部材20Aは、一体に形成された第1コア部材24Aと、第2コア部材25Aと、第3コア部材26Aと、第4コア部材27Aとを有している。第1コア部材24A、第2コア部材25A、第3コア部材26A及び第4コア部材27Aの夫々は、図1に示される磁気コア1からなる。即ち、第1実施例によるコア部材20Aは、すべて図1の磁気コア1で構成されている。磁気コア1の板状磁性片2の配向面(即ち、所定平面)は、主として巻軸42の延びる方向(所定方向)と直交している。
【0043】
このようなコイル部品10Aを構成するためには、例えば、ケース(図示せず)内にコイル40を配置した後、板状磁性片2とバインダ4の樹脂とを混ぜた混合物をケース内に流し込む方法がある。但し、板状磁性片2の大きさが大きいと、混合物が流れにくい可能性がある。その場合は、ケース内にコイル40を配置した後、ケース内に板状磁性片2を更に敷き詰めつつ配向してバインダ4の材料である樹脂を含浸させる方法を採用してもよい。
【0044】
図9を参照すると、第2実施例によるコイル部品10Bは、コア部材20Bと、コイル40とを備えている。コイル40は、上述した第1実施例によるコイル40と同じである。一方、コア部材20Bは、夫々、別々に形成された第1コア部材24Bと、第2コア部材25Bと、第3コア部材26Bと、第4コア部材27Bとを有している。但し、材料は、図7の第1実施例のコア部材20Aと同じである。一般に、板状磁性片2の大きさが大きい方が配向し易いが、例えば、コイル40とケースとの間のように狭いスペースには配向し難い。そこで、別途、配向処理して硬化した磁気コア1の形状を整えて、第1コア部材24B、第2コア部材25B、第3コア部材26B及び第4コア部材27Bを構成することとしてもよい。第1コア部材24B、第2コア部材25B、第3コア部材26B及び第4コア部材27Bのいずれにおいても、磁気コア1の板状磁性片2の配向面は、主として所定方向と直交している。
【0045】
図10を参照すると、第3実施例によるコイル部品10Cは、コア部材20Cと、コイル40とを備えている。コイル40は、上述した第1実施例によるコイルと同じである。一方、コア部材20Cは、夫々、別々に形成された第1コア部材24Cと、第2コア部材25Cと、第3コア部材26Cと、第4コア部材27Cとを有している。ここで、第1コア部材24Cと第2コア部材25Cは、いわゆる圧粉コアである。一方、第3コア部材26C及び第4コア部材27Cは、図1の磁気コア1からなる。第3コア部材26C及び第4コア部材27Cにおいて、磁気コア1の板状磁性片2の配向面は、主として所定方向と直交している。本実施例において、第1コア部材24C及び第2コア部材25Cは圧粉コアであったが、例えば、積層鋼板で構成することとしてもよい。
【0046】
図11を参照すると、第4実施例によるコイル部品10Dは、コア部材20Dと、コイル40とを備えている。コイル40は、上述した第1実施例によるコイルと同じである。一方、コア部材20Dは、夫々、別々に形成された第1コア部材24Dと、第2コア部材25Dと、第3コア部材26Dと、第4コア部材27Dとを有している。ここで、第1コア部材24Dと第2コア部材25Dは、図1の磁気コア1からなる。一方、第3コア部材26D及び第4コア部材27Dは、硬化した樹脂内に磁性体粉末が分散配置された注型コアからなる。
【0047】
図12及び図13を参照すると、本発明の第2の実施の形態によるコイル部品10Eは、いわゆるEEコアを備えている。詳しくは、コイル部品10Eは、コア部材20Eと、コイル40とを備えている。コイル40は、上述した第1の実施の形態によるコイルと同じである。コア部材20Eは、一体化された第1コア部材24Eと、第2コア部材25Eと、第3コア部材26Eと、第4コア部材27Eとを備えている。上述した第1実施例から第4実施例とは異なり、コア部材20Eはコイル40の周囲の一部のみを囲っている。
【0048】
本実施の形態の第1コア部材24E、第2コア部材25E、第3コア部材26E及び第4コア部材27Eは、いずれも、図1の磁気コア1からなる。即ち、本実施の形態によるコア部材20Eは、図1の磁気コア1からなる。但し、磁気コア1の板状磁性片2の配向方向と磁路との関係は、上述した第1の実施の形態とは異なっている。本実施の形態において、コイル40の巻軸は、X方向である。また、磁気コア1内の板状磁性片2は、XY平面(所定平面)に沿って配向されている。即ち、本実施の形態において、コイル40の巻軸は、所定平面と平行に延びている。また、コア部材20E内を周回する磁路は、所定平面に沿っている。即ち、磁気コア1からなるコア部材20Eは、磁路に沿って、比較的高い透磁率を有している。
【0049】
以上、本発明について、様々な例を掲げて説明してきたが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、上述したコイル部品の夫々において、図1の磁気コア1に代えて図5の磁気コア1Aを用いることとしてもよい。
【符号の説明】
【0050】
1,1A 磁気コア
2 板状磁性片
3 磁性粉末粒
4 バインダ
5 磁性小片
10,10A,10B,10C,10D,10E コイル部品
20,20A,20b,20C,20D,20E コア部材
22 磁路
24,24A,24B,24C,24D,24E 第1コア部材
25,25A,25B,25C,25D,25E 第2コア部材
26,26A,26B,26C,26D,26E 第3コア部材
27,27A,27B,27C,27D,27E 第4コア部材
40 コイル
42 巻軸
44 内周面
45 外周面
46 第1端面
47 第2端面
50 第1直線
52 第2直線
60 ケース
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13