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特許7568421蛍光セラミックの製造方法および蛍光セラミック
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】蛍光セラミックの製造方法および蛍光セラミック
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/486 20060101AFI20241008BHJP
   A61C 13/083 20060101ALI20241008BHJP
   C09K 11/77 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
C04B35/486
A61C13/083
C09K11/77
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020081588
(22)【出願日】2020-05-01
(65)【公開番号】P2020203823
(43)【公開日】2020-12-24
【審査請求日】2022-10-19
(31)【優先権主張番号】P 2019109630
(32)【優先日】2019-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和1年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業研究成果最適展開支援プログラム、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301069384
【氏名又は名称】クラレノリタケデンタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004314
【氏名又は名称】弁理士法人青藍国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100174779
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 康晃
(72)【発明者】
【氏名】工藤 恭敬
(72)【発明者】
【氏名】山本 剛久
(72)【発明者】
【氏名】徳永 智春
(72)【発明者】
【氏名】山下 雄大
(72)【発明者】
【氏名】倉地 剛志
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0085055(US,A1)
【文献】特開2016-117618(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105503178(CN,A)
【文献】DI Yang, et.al.,Enhanced Sintering Rate of Zirconia (3Y-TZP) Through the Effect of a Weak dc Electric Field on Grain,J. Am. Ceram. Soc.,米国,American Ceramic Society,2010年10月,Vol. 93, No. 10,P. 2935-2937
【文献】山本 剛久 ら,酸化物系セラミックのフラッシュ焼結と今後の進展,まてりあ,2018年08月01日,Vol.57, No.8,pp.373-380,Online ISSN:1884-5843
【文献】MUCCILLO, R. et al.,Light emission during electric field-assisted sintering of electroceramics,Journal of the European Ceramic Society,2014年12月05日,Vol.35, No.5,pp.1653-1656,ISSN:0955-2219
【文献】JHA, Shikhar K. et al.,Beyond flash sintering in 3 mol% yttria stabilized zirconia,Journal of the Ceramic Society of Japan,2016年,Vol.124, No.4,pp.283-288,ISSN:1348-6535
【文献】YUDAI Y et al.,Blue photoluminescence at room temperature from Y2O3-doped ZrO2 polycrystals sintered by flash sintering,Applied Physics express,2020年02月27日,13,535506-1~0535506-5,https://doi.org/10.35848/1882-0786/ab7710
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00-35/84
A61C 13/083
C09K 11/77
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化ジルコニウムを主成分とし、さらにイットリアを含み、イットリアの含有率が2mol%以上8mol%未満であり、
ジルコニア、イットリア、ハフニア以外の蛍光性物質を含まず、Pr、Sm、Eu、Ga、Gd、Tm、Nd、Dy、Tb、Er、およびBiの化合物を0.0001wt%以上含まず、
励起波長366nmの蛍光スペクトルの蛍光波長が430~500nmの範囲であり、当該範囲内の最大強度が45以上であり、
一端から他端に向かう第1方向に延在する直線上において、前記一端から全長の25%までの区間にある第1点Aの励起波長366nmの蛍光スペクトルの蛍光波長が430~500nmの範囲であり、当該430~500nmの範囲内の最大強度を100%と定義した場合において、
前記他端から全長の25%までの区間にある第2点Dの励起波長366nmの蛍光スペクトルの蛍光波長が430~500nmの範囲であり、当該範囲内の第2点Dの最大強度が前記第1点Aの最大強度の70%以上130%以下の範囲であり、
励起波長が245nmの蛍光スペクトルのピーク波長が430~460nmの範囲であり、
周波数域1Hz以上10000Hz以下の交流電界で印加してなる、
蛍光セラミック。
【請求項2】
励起波長366nmの蛍光スペクトルの蛍光波長が430~500nmの範囲であり、当該範囲内の最大強度が60以上である、請求項1に記載の蛍光セラミック。
【請求項3】
厚さ1.2mmにおいて、ΔL(W-B)が5以上である、請求項1または2に記載の蛍光セラミック。
【請求項4】
イットリアの含有率が3mol%以上8mol%未満である、請求項1~3のいずれかに記載の蛍光セラミック。
【請求項5】
酸化ジルコニウムを主成分として含み、さらにイットリアを含む試料を所定の温度範囲で加熱する過程において、前記試料に所定の電界を印加する工程を有し、前記試料は、圧粉体、仮焼結体または焼結体であり、
前記イットリアの含有率が2mol%以上8mol%未満であり、
前記所定の電界は、周波数域1Hz以上10000Hz以下の交流電界であり、
前記交流電界は、3V/cm以上40V/cm以下の範囲であり、
(i)前記加熱する過程が、970℃より高い所定温度まで前記試料を昇温する昇温過程であり、前記所定温度は、前記試料に電界を印加しながら昇温した場合にフラッシュ現象が生じる温度であり、前記所定の電界は、前記試料に電界を印加しながら昇温した場合にフラッシュ現象が生じる範囲の電界である、又は
(ii)前記加熱する過程が、970℃より高い温度まで前記試料を昇温する昇温過程であり、前記所定の電界は、前記試料に電界を印加しながら昇温した場合にフラッシュ現象が生じない範囲の電界であり、
前記試料に所定の電界を印加する工程において、該試料に印加する電界の大きさを制御することで、蛍光セラミックの励起波長366nmの蛍光スペクトルの蛍光波長が430~500nmの範囲であり、当該範囲内の最大ピーク強度を45以上に制御する、
蛍光セラミックの製造方法。
【請求項6】
前記交流電界は、3V/cm以上30V/cm以下の範囲である、請求項5に記載の蛍光セラミックの製造方法。
【請求項7】
酸化ジルコニウムを主成分として含み、さらにイットリアを含む試料を所定温度まで昇温した後、当該所定温度において加熱し、前記試料に所定の電界を印加する工程を有し、
前記イットリアの含有率が2mol%以上8mol%未満であり、
前記所定温度は、前記試料に電界を印加しながら昇温した場合にフラッシュ現象を生じるフラッシュ焼結温度よりも高い温度であり、
前記所定の電界は、前記試料に電界を印加しながら昇温した場合にフラッシュ現象が生じる範囲の電界であり、
前記試料は、圧粉体、仮焼結体または焼結体であり、
前記試料に所定の電界を印加する工程において、該試料に印加する電界の大きさを制御することで、蛍光セラミックの励起波長366nmの蛍光スペクトルの蛍光波長が430~500nmの範囲であり、当該範囲内の最大ピーク強度を45以上に制御する、
蛍光セラミックの製造方法。
【請求項8】
前記所定温度は、前記フラッシュ焼結温度よりも200℃以上高い温度である、請求項7に記載の蛍光セラミックの製造方法。
【請求項9】
前記所定温度は、1000℃~1200℃の範囲である、請求項7に記載の蛍光セラミックの製造方法。
【請求項10】
前記所定の電界は、30V/cm以上である、請求項7~9のいずれか1項に記載の蛍光セラミックの製造方法。
【請求項11】
前記所定の電界は、周波数域1Hz以上10000Hz以下の交流電界である、請求項7~10のいずれか1項に記載の蛍光セラミックの製造方法。
【請求項12】
前記所定の電界を1分以上印加する、請求項5~11のいずれか1項に記載の蛍光セラミックの製造方法。
【請求項13】
前記試料が圧粉体であり、前記圧粉体の原料粉末は、ZrO2にY23を分散固溶させたものである、請求項5~12のいずれか1項に記載の蛍光セラミックの製造方法。
【請求項14】
前記試料に所定の電界を印加する工程において、該試料を流れる電流が電流の設定最高値に達してから該試料への電界の印加を所定の時間保持する、請求項5~13のいずれか1項に記載の蛍光セラミックの製造方法。
【請求項15】
前記試料に所定の電界を印加する工程において、該試料を流れる電流が電流の設定最高値に達してから該試料への電界の印加を保持する時間を制御することで、蛍光セラミックの励起波長366nmの蛍光スペクトルの蛍光波長が430~500nmの範囲であり、当該範囲内の最大ピーク強度を45以上に制御する、請求項5~14のいずれか1項に記載の蛍光セラミックの製造方法。
【請求項16】
前記加熱する過程が、前記試料を所定温度まで昇温した後の当該所定温度において加熱する過程であり、
前記所定温度の高さを制御することで、蛍光セラミックの励起波長366nmの蛍光スペクトルの蛍光波長が430~500nmの範囲であり、当該範囲内の最大ピーク強度を45以上に制御し、
前記所定温度は、前記試料に電界を印加しながら昇温した場合にフラッシュ焼結温度よりも高い温度である、請求項7~14のいずれか1項に記載の蛍光セラミックの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光セラミックに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、セラミックの焼結体は、原料粉末を圧粉および成型し、その成型体を高温下で熱処理することで作製される。熱処理温度(これを焼結温度と呼ぶ)は、セラミックの種類にも依存するが、1200℃~1500℃であり、焼結時間は、数時間程度である。焼結体の密度を向上させるためには、上記のような一般的な焼結法以外にも、外部から圧力をかける方法(ホットプレス法やHIP法など)など多様な方法が考案されている。
【0003】
また、近年では、セラミック圧粉体に電界を印加することで、従来よりも低温、かつ、短時間で焼結を終了できるフラッシュ焼結法が開発されている(非特許文献1参照)。この焼結法の特徴は、電界を印加しながらセラミック圧粉体を昇温していくと、ある温度で急峻に試料電流が上昇し(以下、この現象を「フラッシュ現象」と呼称することがある。)、焼結工程が瞬時に終了することである。また、電界強度を増加させると、焼結体の収縮が始まる温度が低下するとともに、収縮挙動がより急峻に変化することが明らかになっている。
【0004】
一方、セラミックスの一種であるジルコニアは、その透光性と強度の高さから歯科用補綴物等の歯科材料の用途に使用されている。また、ヒトの天然歯は蛍光性を有する。そのため、歯科用補綴物が蛍光性を有していないと、例えばブラックライトで演出されたアミューズメント施設内などの紫外線照射環境下において、歯科用補綴物の部分のみが蛍光せず、歯が抜けたように見えてしまう問題がある。このような問題を解決するために、歯科用補綴物に蛍光剤を含ませることが考えられる。蛍光剤を含むジルコニア焼結体としては、例えば、特許文献1に記載されたものなどが知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Marco Cologna et al、「Flash Sintering of Nanograin Zirconia in <5 s at 850℃」、 Rapid Communications of the American Ceramic Society、2010、Vol. 93、No. 11、p. 3556-3559
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2016-540772号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述のような状況において、本発明者らが鋭意検討したところ、高温下で熱処理する従来の方法とは異なる方法でセラミックを製造することで、新たな特性を有するセラミックが得られることを見出した。また、本発明者らは、ジルコニア焼結体に対して蛍光剤を含ませることを検討する過程で、ジルコニア焼結体に対して単純に蛍光剤を含ませると、透光性が低下するなどの問題のあることを見出した。そこで本発明は、実質的にジルコニア、イットリア、ハフニア以外の蛍光性物質を含まないにもかかわらず蛍光性を有する蛍光性ジルコニア焼結体および該蛍光性ジルコニア焼結体を製造する方法を提供することを目的とする。
【0008】
本発明はこうした状況に鑑みてなされており、その例示的な目的の一つは、新たな特性を有するセラミックを得るための技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、本発明のある実施形態の蛍光セラミックの製造方法において、酸化ジルコニウムを主成分とする圧粉体、仮焼結体または焼結体である試料を所定の温度範囲で加熱する過程において、前記試料に所定の電界を印加することによって、上記課題を解決できることを見出し、この知見に基づいてさらに研究を進め、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は以下の発明を包含する。
[1]酸化ジルコニウムを主成分とし、Pr、Sm、Eu、Ga、Gd、Tm、Nd、Dy、Tb、Er、およびBiの化合物を0.0001wt%以上含まない、蛍光セラミック;
[2]励起波長366nmの蛍光スペクトルの蛍光波長が430~500nmの範囲であり、当該範囲内の最大強度が45以上である、請求項1に記載の蛍光セラミック;
[3]厚さ1.2mmにおいて、ΔL*(W-B)が5以上である、[1]または[2]に記載の蛍光セラミック;
[4]一端から他端に向かう第1方向に延在する直線上において、前記一端から全長の25%までの区間にある第1点Aの励起波長366nmの蛍光スペクトルの蛍光波長が430~500nmの範囲であり、当該範囲内の最大強度を100%と定義した場合において、前記他端から全長の25%までの区間にある第2点Dの励起波長366nmの蛍光スペクトルの蛍光波長が430~500nmの範囲であり、当該範囲内の第2点Dの最大強度が前記第1点Aの最大強度の70%以上130%以下の範囲である、請求項1~3のいずれかに記載の蛍光セラミック;
[5]さらにイットリアを含み、イットリアの含有率が2~8mol%である、[1]~[4]のいずれかに記載の蛍光セラミック;
[6]酸化ジルコニウムを主成分とし、励起波長が245nmの蛍光スペクトルのピーク波長が430~460nmの範囲である蛍光セラミック;
[7]酸化ジルコニウムを主成分とする試料を所定の温度範囲で加熱する過程において、前記試料に所定の電界を印加する工程を有し、前記試料は、圧粉体、仮焼結体または焼結体である、蛍光セラミックの製造方法;
[8]前記所定の電界は、3V/cm~100V/cmの範囲である、[7]に記載の蛍光セラミックの製造方法;
[9]前記加熱する過程が、所定温度まで前記試料を昇温する昇温過程であり、
前記所定温度は、前記試料に電界を印加しながら昇温した場合に該試料に流れる電流が急激に増加するフラッシュ現象が生じる温度であり、
前記所定の電界は、前記試料に電界を印加しながら昇温した場合に該試料に流れる電流が急激に増加する現象が生じる範囲の電界である、[7]または[8]に記載の蛍光セラミックの製造方法;
[10]前記所定の電界は、周波数域1Hz以上10000Hz以下の交流電界である、[7]~[9]のいずれかに記載の蛍光セラミックの製造方法;
[11]前記交流電界は、3V/cm以上50V/cm以下の範囲である、[10]に記載の蛍光セラミックの製造方法;
[12]前記交流電界は、3V/cm以上40V/cm以下の範囲である、[10]に記載の蛍光セラミックの製造方法;
[13]前記加熱する過程が、前記試料を所定温度まで昇温した後の当該所定温度において加熱する過程であり、
前記所定温度は、前記試料に電界を印加しながら昇温した場合に該試料に流れる電流が急激に増加するフラッシュ焼結温度よりも高い温度であり、
前記所定の電界は、前記試料に電界を印加しながら昇温した場合に該試料に流れる電流が急激に増加する現象が生じる範囲の電界である、[7]または[8]に記載の蛍光セラミックの製造方法;
[14]前記所定温度は、前記フラッシュ焼結温度よりも200℃以上高い温度である、[13]に記載の蛍光セラミックの製造方法;
[15]前記所定温度は、1000℃~1200℃の範囲である、[13]に記載の蛍光セラミックの製造方法;
[16]前記所定の電界は、30V/cm以上である、[13]~[15]のいずれかに記載の蛍光セラミックの製造方法;
[17]前記所定の電界を1分以上印加する、[7]~[16]のいずれかに記載の蛍光セラミックの製造方法;
[18]前記試料が圧粉体であり、前記圧粉体の原料粉末は、ZrO2にY2O3を分散固溶させたものである、[7]~[17]のいずれかに記載の蛍光セラミックの製造方法;
[19]前記試料に所定の電界を印加する工程において、該試料を流れる電流が所定の制限電流値に達してから該試料への電界の印加を所定の時間保持する、[7]~[18]のいずれかに記載の蛍光セラミックの製造方法;
[20]前記試料に所定の電界を印加する工程において、該試料を流れる電流が所定の制限電流値に達してから該試料への電界の印加を保持する時間を制御することで、蛍光セラミックの蛍光強度を制御する、請求項7~19のいずれか1項に記載の蛍光セラミックの製造方法;
[21]前記試料に所定の電界を印加する工程において、該試料に印加する電界の大きさを制御することで、蛍光セラミックの蛍光強度を制御する、請求項7~20のいずれか1項に記載の蛍光セラミックの製造方法;
[22]前記加熱する過程が、前記試料を所定温度まで昇温した後の当該所定温度において加熱する過程であり、
前記所定温度の高さを制御することで、蛍光セラミックの蛍光強度を制御し、
前記所定温度は、前記試料に電界を印加しながら昇温した場合に該試料に流れる電流が急激に増加するフラッシュ焼結温度よりも高い温度である、請求項7または8に記載の蛍光セラミックの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、新たな特性を有するセラミックを実現できる。また、本発明によれば、実質的にジルコニア、イットリア、ハフニア以外の蛍光性物質を含まないにもかかわらず、透光性の低下もなく、蛍光性を有する蛍光性ジルコニア焼結体および該蛍光性ジルコニア焼結体を製造する方法を提供することができる。さらに、本発明によれば、実質的にジルコニア、イットリア、ハフニア以外の蛍光性物質を含まないにもかかわらず、均一な蛍光性を有する蛍光性ジルコニア焼結体および該蛍光性ジルコニア焼結体を製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】酸化ジルコニウムの圧粉体を出発試料として、一定電界を印加しながら昇温させたときの、圧粉体を流れる試料電流と印加電界(V/cm)との関係を示した図である。
図2図1に示した各印加電界の条件で作製した試料の蛍光状態を撮影した写真を示す図である。
図3】試料温度が所定の温度(1000℃、1100℃、1200℃)に到達した時点で、交流電界100V/cm、100Hzを印加した場合の炉の温度と試料電流との関係を示した図である。
図4図3に示した各温度の条件で作製した試料の蛍光状態を撮影した写真を示す図である。
図5】各保持時間で作製した試料の蛍光状態を撮影した写真を示す図である。
図6】交流電界を印加して作製した試料(左側)と直流電界を印加して作製した試料(右側)の蛍光状態を撮影した写真を示す図である。
図7】焼成温度1400℃(焼成時間2~3時間)で焼結体として製造した後に更に種々の処理を行った試料の蛍光状態を撮影した写真を示す図である。
図8】本実施形態に係る蛍光セラミックの蛍光スペクトルの一例を示す図である。
図9】イットリアを含まない酸化ジルコニウムを主成分とする蛍光セラミックの蛍光状態を撮影した写真を示す図である。
図10】本実施形態に係る蛍光セラミックの蛍光強度の評価位置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のある実施形態は、酸化ジルコニウムを主成分とする試料を所定の温度範囲で加熱する過程において、前記試料に所定の電界を印加し、前記試料は、圧粉体、仮焼結体または焼結体である、蛍光セラミックの製造方法に関する。本発明において、「圧粉体」は、「成形体」または「プレス成形体」ともいう。また、本発明において、「主成分」とは、一番含有量が多い成分を意味する。圧粉体、仮焼結体または焼結体における酸化ジルコニウムの含有率は、80質量%以上が好ましく、85質量%がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、92質量%以上であってもよく、95質量%以上であってもよい。
【0014】
この実施形態によると、高温下で焼成した酸化ジルコニウムを主成分とする従来のセラミック焼結体では発現しない蛍光特性を有する蛍光セラミックが得られる。
【0015】
所定の電界は、3V/cm~100V/cmの範囲であることが好ましい。3V/cm以上とすることで焼結温度を低くすることができ、100V/cm以下とすることで高い蛍光強度が得られる。ある好適な実施形態では、所定の電界は、3V/cm以上40V/cm以下の範囲であることが好ましく、3.5V/cm以上35V/cm以下の範囲であることがより好ましく、フラッシュ現象を経ず、フラッシュ現象により生じる制限源流を制御する必要がなくなり、制御装置が不要となり、工業的に有利な点から、4V/cm以上30V/cm以下の範囲であることがさらに好ましい。
【0016】
ある実施形態では、電界の印加工程は、所定温度まで試料を昇温しながら前記試料に所定の電界の印加を行ってもよい。昇温速度は、特に限定されないが、80℃/h以上が好ましく、短時間で焼成できる点から、150℃/h以上がより好ましく、200℃/h以上が好ましく、250℃/h以上であってもよい。また、昇温速度は、特に限定されず、20000℃/h以下であってもよく、10000℃/h以下であってもよく、4000℃/h以下であってもよい。所定温度まで試料を昇温しながら前記試料に所定の電界を印加する実施形態(X-1)としては、昇温の目的温度である所定温度は、試料に電界を印加しながら昇温した場合に該試料に流れる電流が急激に増加するフラッシュ焼結温度(フラッシュ現象が生じる温度)であることが好ましい。実施形態(X-1)としては、装置保護の観点から、フラッシュ現象が生じた時点、すなわちフラッシュ現象が生じた温度で昇温を停止することが好ましい。前記実施形態(X-1)において、前記所定の電界は、前記試料に電界を印加しながら昇温した場合に該試料に流れる電流が急激に増加する現象が生じる範囲の電界であることが好ましい。また、所定温度まで試料を昇温しながら前記試料に所定の電界を印加する他の実施形態(X-2)としては、昇温の目的温度である所定温度は、前記試料に電界を印加しながら昇温した場合に該試料に流れる電流が急激に増加するフラッシュ焼結温度よりも低い温度であることが好ましい。前記所定の電界は、前記試料に電界を印加しながら昇温した場合に該試料に流れる電流が急激に増加する現象が生じない範囲の電界であることが好ましい。また、他のある実施形態では、電界の印加工程としては、試料を所定温度まで昇温した後に、所定の電界を印加してもよい。前記所定温度は、試料に電界を印加しながら昇温した場合に該試料に流れる電流が急激に増加するフラッシュ焼結温度よりも高い温度であってもよい。所定の電界は、試料に電界を印加しながら昇温した場合に該試料に流れる電流が急激に増加する現象が生じる範囲の電界であってもよい。これにより、電界を印加しながら昇温した場合に一義的に決まるフラッシュ焼結温度よりも高い温度で焼結できる。また、所定温度をフラッシュ焼結温度よりも高くすることで、蛍光強度を高くできる。
【0017】
本発明のいずれかのある実施形態(例えば、試料を所定温度まで昇温した後に電界を印加する実施形態)では、所定温度は、フラッシュ焼結温度よりも200℃以上高くてもよい。また、所定温度は、1000℃~1200℃の範囲であってもよく、1100~1200℃の範囲であってもよい。これにより、蛍光セラミックの蛍光強度が高くなりやすい温度域で焼結できる。
【0018】
本発明のいずれかのある実施形態(例えば、試料を所定温度まで昇温した後に電界を印加する実施形態)では、所定の電界は、30V/cm以上であってもよく、35V/cm以上であってもよく、40V/cm超であってもよい。例えば、他のある実施形態では、所定の電界は、40V/cm超100V/cm以下の範囲であることが好ましい。これにより、一般的な酸化ジルコニウムの焼成温度よりも低温でフラッシュ焼結できる。
【0019】
本発明のいずれかのある実施形態(例えば、実施形態(Y))では、電界の印加時間は1分以上印加してもよい。これにより、蛍光セラミックの蛍光強度を高めることができる。
【0020】
電界を印加し焼結させた後に、電界を印加しない通常雰囲気での加熱焼成工程を追加してもよい。前記通常雰囲気での加熱焼成工程を追加しても蛍光性が失われることはない。加熱焼成工程における加熱温度は、1300~1700℃であってもよい。本焼成工程によって、得られる蛍光セラミックの密度が向上し、透光性、曲げ強度、蛍光強度を向上させることができる。
【0021】
圧粉体の原料粉末は、ZrO2にY23を分散固溶させたものであってもよい。Y23は原料粉末に対して2~10mol%含まれていてもよく、2~8mol%含まれていてもよい。原料粉末に対するY23の含有率とは、原料粉末に含まれるジルコニアとイットリアの合計モル数に対するイットリアのモル数の割合を意味する。ある好適な実施形態では、Y23の含有率は原料粉末に対して2~4.5mol%である。他の好適な実施形態では、5.5~8mol%である。ZrO2にY23を分散固溶させる方法は、特に限定されないが、ZrO2の前駆体(例えば、オキシ塩化ジルコニウム(ZrOCl2)及びその八水和物等)と、Y23の前駆体(例えば、塩化イットリウム(YCl3)及びその六水和物等)とを必要に応じて溶媒の存在下に混合し、得られる混合物又は混合液を酸化物への反応工程に供する方法等が挙げられる。酸化物への反応工程としては、例えば、ゾルゲル法、共沈法などが挙げられる。これにより、高硬度材料、高温下での使用、伝導性セラミック、固体電解質、透光性材料、等の様々な用途での耐久性を向上できる。
【0022】
本発明の別の実施形態もまた、蛍光セラミックの製造方法である。この方法は、酸化ジルコニウムを主成分とする圧粉体、仮焼結体または焼結体である試料を所定の温度範囲で加熱する過程で所定の電界を印加し、該試料を流れる電流が所定の制限電流値に達してから所定の時間保持することで蛍光特性を有するセラミックを製造する。
【0023】
この実施形態によると、試料を流れる電流が所定の制限電流値に達してから該試料への電界の印加を所定の時間保持することで、高温下で焼成した酸化ジルコニウムを主成分とする従来のセラミック焼結体では発現しない蛍光特性を有する蛍光セラミックが得られる。
【0024】
本発明の更に別の実施形態は、蛍光セラミックの製造方法である。この方法は、酸化ジルコニウムを主成分とする圧粉体、仮焼結体または焼結体である試料を所定の温度範囲で加熱する過程で所定の電界を印加し、蛍光特性を有するセラミックを製造する方法であって、試料を流れる電流が所定の制限電流値に達してから該試料への電界の印加を保持する時間を制御することで、得られる蛍光セラミックの蛍光強度を制御する。
【0025】
この実施形態によると、通電の保持時間を制御するという比較的簡便な方法で得られる蛍光セラミックの蛍光強度を調整できる。
【0026】
本発明の更に別の実施形態もまた、蛍光セラミックの製造方法である。この方法は、酸化ジルコニウムを主成分とする圧粉体、仮焼結体または焼結体である試料を所定の温度範囲で加熱する過程で所定の電界を印加し、蛍光特性を有するセラミックを製造する方法であって、試料に印加する電界の大きさを制御することで、得られる蛍光セラミックの蛍光強度を制御する。
【0027】
この実施形態によると、試料に印加する電界の大きさを制御するという比較的簡便な方法で得られる蛍光セラミックの蛍光強度を調整できる。
【0028】
本発明の更に別の実施形態もまた、蛍光セラミックの製造方法である。この方法は、酸化ジルコニウムを主成分とする圧粉体、仮焼結体または焼結体である試料を所定温度まで昇温した後に所定の電界を印加し、蛍光特性を有するセラミックを製造する方法であって、所定温度の高さを制御することで、得られる蛍光セラミックの蛍光強度を制御する。所定温度は、試料に電界を印加しながら昇温した場合に該試料に流れる電流が急激に増加するフラッシュ焼結温度よりも高い温度である。
【0029】
この実施形態によると、フラッシュ焼結温度よりも高い所定温度の高さを制御することで、得られる蛍光セラミックの蛍光強度を調整できる。
【0030】
本発明の別の実施形態は、蛍光セラミックである。この蛍光セラミックは、酸化ジルコニウムを主成分とし、励起波長が245nmの蛍光スペクトルのピーク波長が430~460nmの範囲である。
【0031】
本発明の蛍光性ジルコニア焼結体(蛍光セラミック)は、実質的にジルコニア、イットリア、ハフニア以外の蛍光性物質を含まない。具体的には、Pr、Sm、Eu、Ga、Gd、Tm、Nd、Dy、Tb、Er、およびBiの化合物の含有率がいずれも0.0001wt%未満である。これらの含有率は0wt%であってもよい。0.0001wt%以上のジルコニア、イットリア、ハフニア以外の蛍光性物質を含む場合、焼結体の透光性が低下する。
【0032】
本発明の蛍光性ジルコニア焼結体は励起波長366nmの蛍光スペクトルが430~500nmである。430~500nmの範囲における蛍光スペクトルの最大ピーク強度の下限は、株式会社日立ハイテクサイエンス製分光蛍光光度計F-7100で測定した際に45以上であり、好ましくは50以上であり、さらに好ましくは55以上であり、特に好ましくは60以上である。430~500nmの範囲での蛍光スペクトルの最大ピーク強度が45未満だと、人間の歯としての蛍光性が不十分である。機種間スペクトルの補正にローダミンBを用いることができる。430~500nmの範囲での蛍光スペクトルの最大ピーク強度の上限は、株式会社日立ハイテクサイエンス製分光蛍光光度計F-7100で測定した際に2000以下であり、1900以下が好ましく、1800以下がさらに好ましく、1700以下が特に好ましい。430~500nmの範囲での蛍光スペクトルの最大ピーク強度が2000以下であると、蛍光性が強すぎないため人間の歯として自然に見える。
【0033】
この実施形態によると、蛍光セラミックの地の色に加えて、青みがかった色も加わったセラミック材料を実現できる。
【0034】
本発明のある実施形態としては、厚さ1.2mmにおいて、ΔL*(W-B)が5以上である蛍光セラミックが挙げられる。ΔL*(W-B)は、白色背景での明度(L*)と、黒色背景での明度(L*)との差を意味する。具体的には、白色背景でのL*値(JIS Z 8781-4:2013 測色-第4部:CIE 1976 L*a*b*色空間)と、黒色背景でのL*値の差を意味する。白色背景とは、JIS K 5600-4-1:1999第4部第1節に記載の隠ぺい率試験紙の白部を意味し、黒色背景とは、前記隠ぺい率試験紙の黒部を意味する。厚さ1.2mmにおけるΔL*(W-B)は分光測色計を用いて測定でき、例えば、分光測色計(コニカミノルタジャパン株式会社製、「CM-3610A」、幾何条件c(di:8°、de:8°)、拡散照明:8°受光、測定モードSCI、測定径/照明径=φ8mm/φ11mm)を用い、測定し、コニカミノルタ株式会社製色彩管理ソフトウェア「SpectraMagic NX ver.2.5」を使用して算出することができる。当該測定においては、光源はF11を用いることで求めることができる。
【0035】
本発明の他のある実施形態としては、酸化ジルコニウムを主成分とする仮焼結体または焼結体は、酸化ジルコニウムを主成分とする圧粉体と同様に、ZrO2にY23を分散固溶させたものであってもよい。ZrO2にY23を分散固溶させた仮焼結体または焼結体の製造方法としては、特に限定されず、ZrO2にY23を分散固溶させた圧粉体を、目的とする仮焼結体または焼結体のいずれにするかに応じた温度範囲で焼成する方法が挙げられる。例えば、仮焼結体の場合、ZrO2にY23を分散固溶させた圧粉体を800℃以上1200℃以下の範囲で焼成することで得られる。焼結体の場合、ZrO2にY23を分散固溶させた圧粉体を1200℃超1700℃以下の範囲で焼成してもよい。また、仮焼結体または焼結体におけるY23の含有率は2~10mol%であってもよく、2~8mol%であってもよい。ある好適な実施形態では、仮焼結体または焼結体におけるY23の含有率は2~4.5mol%である。他の好適な実施形態では、仮焼結体または焼結体におけるY23の含有率は5.5~8mol%である。仮焼結体または焼結体におけるY23の含有率はジルコニアとイットリアの合計モル数に対するイットリアのモル数の割合を意味する。これにより、高硬度材料、高温下での使用、伝導性セラミック、固体電解質、透光性材料、等の様々な用途での耐久性を向上できる。
【0036】
また、本発明の別の他のある実施形態の蛍光セラミックとしては、図10に示されるように、一端Pから他端Qに向かう第1方向Yに延在する直線上において、前記一端Pから全長の25%までの区間にある第1点Aの励起波長366nmの蛍光スペクトルの蛍光波長が430~500nmの範囲であり、当該範囲内の最大強度を100%と定義した場合において、前記他端Qから全長の25%までの区間にある第2点Dの励起波長366nmの蛍光スペクトルの蛍光波長が430~500nmの範囲であり、当該範囲内の第2点Dの最大強度が前記第1点Aの最大強度の70%以上130%以下の範囲であることが好ましく、第2点Dの最大強度は、第1点Aの最大強度の75%以上125%以下の範囲であることがより好ましく、80%以上120%以下の範囲であることがさらに好ましく、90%以上110%以下の範囲であることが特に好ましい。第2点Dの最大強度が前記範囲にあることで、ブラックライト等の紫外線照射環境下における目視において、歯の部位による見え方の違いを他者が感じることを抑制できる。蛍光強度の測定は市販品(株式会社日立ハイテクサイエンス製分光蛍光光度計F-7100等)を用いることができる。機種間スペクトルの補正にローダミンBを用いることができる。蛍光強度の測定は、試料をマスクして測定することで部位特異的に別々に測定できる。また、例えば、目視確認で、蛍光発光が強い部分と蛍光発光が弱い部分をそれぞれ測定すると、差が30%を超え(例えば、前記第2点Dの最大強度が第1点Aの最大強度の70%未満又は130%超の場合)、不均一な蛍光発光となる。
【0037】
図10の蛍光セラミック10において、一端Pから他端Qを結ぶ直線上の点として第1点Aと第2点Dの間の点を第3点Bとする。第3点Bの励起波長366nmの蛍光スペクトルの蛍光波長が430~500nmの範囲であり、第1点Aの当該範囲内の最大強度を100%と定義した場合において、第3点Bの最大強度は、第1点Aの最大強度の70%以上130%以下の範囲であることが好ましく、75%以上125%以下の範囲であることがより好ましく、80%以上120%以下の範囲であることがさらに好ましく、90%以上110%以下の範囲であることが特に好ましい。また、第2点Dとの関係において、第2点Dの最大強度を100%と定義した場合において、第3点Bの最大強度は、第2点Dの最大強度の70%以上130%以下の範囲であることが好ましく、75%以上125%以下の範囲であることがより好ましく、80%以上120%以下の範囲であることがさらに好ましく、90%以上110%以下の範囲であることが特に好ましい。第3点Bの最大強度が前記範囲にあることで、ブラックライト等の紫外線照射環境下における目視において、歯の部位による見え方の違いを他者が感じることを抑制できる。
【0038】
さらに、第3点Bと第2点Dの間の点を第4点Cとする。第4点Cの励起波長366nmの蛍光スペクトルの蛍光波長が430~500nmの範囲であり、第1点Aの当該範囲内の最大強度を100%と定義した場合において、第4点Cの最大強度は、第1点Aの最大強度の70%以上130%以下の範囲であることが好ましく、75%以上125%以下の範囲であることがより好ましく、80%以上120%以下の範囲であることがさらに好ましく、90%以上110%以下の範囲であることが特に好ましい。また、第2点Dとの関係において、第2点Dの最大強度を100%と定義した場合において、第4点Cの最大強度は、第2点Dの最大強度の70%以上130%以下の範囲であることが好ましく、75%以上125%以下の範囲であることがより好ましく、80%以上120%以下の範囲であることがさらに好ましく、90%以上110%以下の範囲であることが特に好ましい。第3点Bとの関係において、第3点Bの最大強度を100%と定義した場合において、第4点Cの最大強度は、第3点Bの最大強度の70%以上130%以下の範囲であることが好ましく、75%以上125%以下の範囲であることがより好ましく、80%以上120%以下の範囲であることがさらに好ましく、90%以上110%以下の範囲であることが特に好ましい。第4点Cの最大強度が前記範囲にあることで、ブラックライト等の紫外線照射環境下における目視において、歯の部位による見え方の違いを他者が感じることを抑制できる。
【0039】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システム、などの間で変換したものもまた、本発明の実施形態として有効である。
【0040】
以下、図面等を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、以下に述べる構成は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0041】
(蛍光セラミックの製造方法)
本実施形態に係る蛍光セラミックは、酸化ジルコニウムを主成分とする圧粉体、仮焼結体または焼結体である試料を、所定の温度範囲で加熱する過程で通電(所定の電界を印加)することで、励起光下において蛍光を発する特性が付与されたものである。ここで、焼結体は、予め所定の焼結温度で焼結を行ったものである。また、仮焼結体(半焼結体)は、原料を焼結させるために、焼結温度よりも低い温度で予め原料に含まれている不純物等を離脱させ、原料を酸化させたものである。
【0042】
本願発明者らは、セラミックを製造する際に所定の電界をどのような条件で印加すれば、蛍光特性を有する蛍光セラミックが得られるか鋭意検討した。はじめに、試料の製造方法について説明する。
【0043】
圧粉体の原料粉末は、例えば、ZrO2にY23(2~8mol%)を分散固溶させたものである。これにより、高硬度材料、高温下での使用、伝導性セラミック、固体電解質、透光性材料、等の様々な用途での耐久性を向上できる。
【0044】
例えば、本実施形態に係る蛍光セラミックの製造方法では、セラミックの原料粉末として3mol%のイットリア(Y23)を均一に分散固溶させたジルコニア(ZrO2)粉末(TZ-3Y:東ソー株式会社製、以下「3YSZ」と称する場合がある。)を使用した。この原料粉末を圧粉し、一軸および静水圧成型により、長さ15mm、断面形状が3.5mm×3.5mmの直方体の試料(セラミック圧粉体)を作製した。試料成型後、試料の長手方向両端面に、電極として白金(Pt)箔をPtペーストにより固定した。なお、セラミックの原料粉末は、ZrO2に(2~8mol%、好ましくは2~4.5mol%)のY2O3分散固溶させたものが好ましい。本発明の製造方法によれば、実質的にジルコニア、イットリア、ハフニア以外の蛍光性物質を含まないにもかかわらず蛍光性を有する蛍光性ジルコニア焼結体を提供できる。そのため、セラミックの原料粉末は、透光性の低下の原因となる、Pr、Sm、Eu、Ga、Gd、Tm、Nd、Dy、Tb、Er、およびBiの化合物等の蛍光性物質を含まないものが好ましい。
【0045】
次に、電極が固定された試料を、DCおよびAC電源を接続できるように改造を施した示差熱膨張計(Thermo plus EVO2 TMA8301:株式会社リガク製)に設置した。そして、この試料を所定温度まで昇温しながら、あるいは昇温した後に、試料に所定の電界を印加した。その後、制限電流値に達した段階で電気炉の昇温を停止し、以降その温度において試料を所定時間保持した後、電圧印加を停止して自然冷却を行った。
【0046】
次に、印加する電界と蛍光強度との関係について説明する。図1は、酸化ジルコニウムの圧粉体を出発試料として、一定電界を印加しながら昇温させたときの、圧粉体を流れる試料電流と印加電界(V/cm)との関係を示した図である。印加する電界は、30,40,50,60,80,100V/cm、交流100Hz、制限電流値1000mAである。また、試料を加熱するための炉の昇温速度は300℃/h、試料への電界の印加を保持する保持時間は試料電流が最高値に到達後5分である。保持温度は、試料電流が制限電流値に到達した温度となる。
【0047】
図2は、図1に示した各印加電界の条件で作製した試料の蛍光状態を撮影した写真を示す図である。図2に示す写真における各試料は、左から右に向かって100V/cm、80V/cm、60V/cm、50V/cm、40V/cm、30V/cmの電界を印加して製造した蛍光セラミックである。なお、蛍光状態はブラックライトを照射して写真で撮影して観察した。また、写真の試料では、白いほど蛍光強度が高いことを示している。したがって、図2に示す各試料のうち、印加電界が30V/cmであった試料(写真右端)の蛍光強度が高いことがわかる。
【0048】
所定の温度範囲で試料を加熱する過程で、試料に電界を印加して通電処理を行うことで、図2に示すように、蛍光特性が発現することが確認できる。また、蛍光強度は印加電界に依存し、一見すると、印加電界が小さいほど蛍光強度が高くなること、また、試料内部まで均一に蛍光発光させることが確認できる。つまり、試料に印加する電界の大きさを制御するという比較的簡便な方法で得られる蛍光セラミックの蛍光強度を調整できる。本発明の蛍光セラミックを歯科用補綴物等の歯科用途に用いる場合、ヒトの天然歯(例えばエナメル質)は、ブラックライト等の紫外線照射環境下において、均一に蛍光を発現するため、紫外線照射環境下においても歯科用補綴物を用いた人工歯の部分が、歯が抜けたあるいは歯が一部欠損(穴あき、先端欠損等)したように見えない点から、高い蛍光強度を有し、均一に蛍光発光することが好ましい。
【0049】
このように、本実施形態に係る製造方法によって、高温下で焼成した従来のセラミック焼結体では発現しない蛍光特性を有する、酸化ジルコニウムを主成分とする蛍光セラミックが得られる。なお、印加する電界が30V/cm~100V/cmの範囲であれば、ある程度の蛍光強度を有する蛍光セラミックを、一般的な酸化ジルコニウムの焼成温度よりも低温で製造できることがわかる。
【0050】
ところで、図1に示した試料電流の印加電界依存性を見ると、この傾向は見かけ上のものであることがわかる。つまり、電界を印加しながら昇温すると、試料電流は僅かに増加する。これは、多くの酸化物セラミックが有する、電気抵抗の負の温度依存性に起因する。ところが、印加電界が大きくなると、試料電流の増加傾向が徐々に顕著となり、最終的には急峻な増加を示すようになる。徐々に増加する特性はFAST(Field Assisted Sintering Technique)、急峻に増加する特性はFLASHと慣用的に呼称される。
【0051】
図1に示す各試料では、30V/cmの電界が印加された試料はFASTに分類され、40V/cm以上の電界が印加されたその他の試料はほぼ直線的に立ち上がるFLASHに分類される。ただし、FASTとFLASHを厳密に分類する必要はない。ここで重要な点は、印加電界が大きくなると、試料電流が増加し始める、もしくは、試料電流が直線的に増加する温度が低下することである。
【0052】
図2に示す蛍光特性では、印加電界が小さいほど蛍光がより強くなる結果を示しているが、これは、印加電界そのものの大きさが直接関係しているのではなく、むしろ、印加電界が小さくなると、より高温になってから試料電流が増加することと関係していると考えられる。つまり、印加電界の大きさと加熱温度とを分離して考える必要がある。
【0053】
そこで、通電時の温度と電界強度とを明確に分けて蛍光特性を検討するために、試料が目的とする温度に到達した時点で、試料に通電を実施した。図3は、試料温度が所定の温度(1000℃、1100℃、1200℃)に到達した時点で、交流電界100V/cm、100Hzを印加した場合の炉の温度と試料電流との関係を示した図である。
【0054】
図3は、試料の温度と試料電流との関係を説明するための模式図である。図3に示すラインL1は、昇温前に予め電圧を印加する従来のフラッシュ焼結法での温度と試料に流れる電流との関係を示している。図3に示すラインL1のように、従来のフラッシュ焼結法では、試料に所定の強度の電界(100V/cm、100Hz、制限電流1000mA)が印加されている状態で昇温していくと、試料に流れる電流はフラッシュ焼結温度T0(≒770℃)に近づくと急激に大きくなり、焼結が完了する。
【0055】
これに対して、本実施形態に係る蛍光セラミックの製造方法では、図3に示すラインL2~L4のように、試料に電界を印加しない状態(あるいはフラッシュ現象が生じない程度の低い電界を印加した状態)で、フラッシュ焼結温度T0よりも高い所定の温度T1(図3では1000℃、1100℃、1200℃)まで昇温した後に、フラッシュ現象が生じる範囲の所定の電界(100V/cm、100Hz、制限電流1000mA)を印加する。なお、試料への通電を保持する時間は5分である。これにより、本実施形態に係る蛍光セラミックの製造方法では、フラッシュ焼結温度T0よりもΔTだけ温度が高い温度T1において焼結が行われる。以下、このような方法をHAFS(Heat assisted flash sintering)と称する。
【0056】
このように、本実施形態に係る蛍光セラミックの製造方法は、電界を印加しながら昇温した場合に一義的に決まる従来のフラッシュ焼結温度T0よりも高い温度T1で焼結できる。また、所定温度をフラッシュ焼結温度よりも高くすることで、焼結体の密度を向上できる。原料粉末が3YSZの場合、所定の温度T1 は950~1300℃程度の範囲が好ましく、1000℃~1200℃の範囲がより好ましい。また、所定の温度T1は、3YSZを焼結する場合の一般的な温度1500℃よりも十分低く、生産性の向上や装置構成の簡略化が図られる。
【0057】
また、原料粉末が3YSZの場合、所定の電界は30V/cmよりも大きく、好ましくは、30~120V/cmの範囲であり、より好ましくは30~100V/cmの範囲である。これにより、一般的な酸化ジルコニウムの焼成温度よりも低温で、フラッシュ現象を生じさせることができ、比較的短時間で焼結を完了させることができる。また、セラミックに蛍光特性を付与できる。
【0058】
また、所定の温度T1は、フラッシュ焼結温度T0よりも50℃以上、好ましくは、100℃以上、より好ましくは、200℃以上高いとよい。これにより、焼結体の密度を向上しやすい温度域で焼結できる。また、蛍光セラミックの蛍光強度を高めやすい温度域で焼結できる。
【0059】
図4は、図3に示した各温度の条件で作製した試料の蛍光状態を撮影した写真を示す図である。図4に示す写真における各試料は、左から右に向かって通常のFLASH、1000℃によるHAFS、1100℃によるHAFS、1200℃によるHAFSで製造したセラミックである。
【0060】
図4に示すように、通常のFLASHで製造したセラミックと比較して、加熱温度がフラッシュ焼結温度よりも高いHAFSで製造したセラミックは、蛍光強度が非常に高くなっている。また、HAFSにおける加熱温度が高いほど、蛍光強度が高くなっている。このように、フラッシュ焼結温度T0 よりも高い所定温度の大きさを制御することで、得られる蛍光セラミックの蛍光強度を調整できる。
【0061】
次に、セラミックを製造する際に試料に印加した電界を保持する時間が蛍光特性に与える影響について説明する。電界を印加する条件は、図1と同様に一定電界を印加しながら昇温させるFLASH条件である。印加する電界は、100V/cm、100Hzの交流電界であり、制限電流値は1000mAである。各試料とも、制限電流値に達した時点から、その温度で0分、5分、3時間の保持を行った。
【0062】
図5は、各保持時間で作製した試料の蛍光状態を撮影した写真を示す図である。図5に示す写真における各試料は、左から右に向かって保持時間0分、5分、3時間の条件で製造したセラミックである。図5に示すように、保持時間が長いほど蛍光強度が高くなっていることがわかる。なお、所定の電界を印加する保持時間は、好ましくは1分以上、より好ましくは3分以上である。このように、試料を流れる電流が所定の制限電流値に達してから所定の時間保持することで、従来の酸化ジルコニウムのセラミック焼結体では発現しない蛍光特性を有するセラミックを製造できる。また、通電の保持時間を制御するという比較的簡便な方法で得られる蛍光セラミックの蛍光強度を調整できる。
【0063】
次に、セラミックを製造する際に試料に印加する電界が交流か直流かによって、蛍光特性に与える影響について説明する。印加する交流電界の条件は、100V/cm、100Hz、制限電流値1000mA、保持時間5分、保持温度1200℃のHAFS処理である。印加する直流電界の条件は、100V/cm、制限電流値1000mA、保持時間5分、保持温度1200℃である。図6は、交流電界を印加して作製した試料(左側)と直流電界を印加して作製した試料(右側)の蛍光状態を撮影した写真を示す図である。図5からわかるように、交流電界を印加した試料の方が高い蛍光強度を示し、かつ、試料全体が均一に蛍光特性を発現している。本発明の蛍光セラミックの製造方法において、所定の電界は、周波数域1Hz以上10000Hz以下の交流電界であってもよく、10Hz以上8000Hz以下であることが好ましく、50Hz以上5000Hz以下であることがより好ましく、100Hz以上3000Hz以下であることがさらに好ましい。ある好適な実施形態では、交流電界は、前記周波数域において、3V/cm以上50V/cm以下の範囲であることが好ましく、3V/cm以上40V/cm以下の範囲であることがより好ましい。また、ある好適な実施形態では、例えば、所定の電界は、100Hzにおいて、3V/cm以上50V/cm以下の範囲であることが好ましく、3V/cm以上40V/cm以下の範囲であることがより好ましい。
【0064】
次に、予め焼結を行った試料に電界を印加した場合に、蛍光特性に与える影響について説明する。図7は、焼成温度1400℃(焼成時間2~3時間)で焼結体として製造した後に更に種々の処理を行った試料の蛍光状態を撮影した写真を示す図である。図7に示す写真における各試料は、左から右に向かって、通常の焼結体試料、通常の焼結体を再度FLASH処理(印加電界100V/cm、100Hz、制限電流値1000mA、保持時間5分)した試料、通常の焼結体を再度HAFS処理(加熱温度1200℃、印加電界100V/cm、100Hz、制限電流値1000mA、保持時間5分)した試料、通常の焼結体を再度HAFS処理(加熱温度1200℃、印加電界100V/cm、100Hz、制限電流値1000mA、保持時間1時間)した試料である。
【0065】
図7に示すように、通常の焼結体試料では蛍光が見られない。また、通常の焼結体を再度FLASH処理した試料もほとんど蛍光が見られない。一方、通常の焼結体を再度HAFS処理した試料は蛍光特性が発現している。
【0066】
図8は、本実施形態に係る蛍光セラミックの蛍光スペクトルの一例を示す図である。図8の蛍光スペクトルは、励起波長のピークが245nmの紫外線に対して励起された光のものである。本実施形態に係る酸化ジルコニウムを主成分とする蛍光セラミックは、図8に示すように、ピーク波長が430~460nmの範囲である蛍光スペクトルを発する。そのため、本実施形態に係る蛍光セラミックは、地の色(白やグレー)に青みがかった色も加わったセラミック材料を実現できる。
【0067】
なお、上述の試料では、試料形状を維持するための原料としてイットリア(Y23)が含まれているが、蛍光特性を示すためにはイットリアは必須ではない。図9は、イットリアを含まない酸化ジルコニウムを主成分とする蛍光セラミックの蛍光状態を撮影した写真を示す図である。図9に示す蛍光セラミックは、試料として脆く、全体として形状が維持できていないが、蛍光特性は前述の蛍光セラミックと同様に発現している。
【0068】
以上、本発明について実施形態をもとに説明した。この実施形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【実施例
【0069】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例等によって限定されるものではない。なお、各物性の測定方法は以下のとおりである。
【0070】
(実施例1~4)
セラミックの原料粉末として市販の部分安定化ジルコニア粉末である東ソー株式会社製TZ-3Y(正方晶系、イットリア含有率:3mol%、平均一次粒子径:30nm)を使用した。この原料粉末を5×5×15mmの直方体が得られるように3MPaでプレス成形し、プレス成形体を得た。次に、得られたプレス成形体に対して100MPaでさらにCIP処理を施してジルコニア成形体を作製した。ジルコニア成形体の試料成型後、該試料の長手方向両端面に、電極として白金(Pt)箔をPtペーストにより固定した。次に、電極が固定された試料を、DCおよびAC電源を接続できるように改造を施した示差熱膨張計(Thermo plus EVO2 TMA8301:株式会社リガク製)に設置した。そして、この試料を所定温度まで昇温しながら、試料に後述する所定の電界を印加した。その後、各実施例において、制限電流値に達した場合は制限電流値に達した段階で、または制限電流値に達しない場合は1300℃に到達した時点で電気炉の昇温を停止し、以降その温度において試料を後述する所定時間保持した後、電圧印加を停止して自然冷却を行った。制限電流値に到達しなかった試料については常圧下1500℃において2時間追加焼成した。
【0071】
(実施例1)
実施例1では、印加する電界を30V/cm、交流1000Hz、制限電流値1200mAで試験した。また、試料を加熱するための炉の昇温速度は300℃/h、試料への電界の印加を保持する保持時間は試料電流が最高値に到達後15分である。保持温度は、試料電流が制限電流値に到達した温度となり、1250℃であった。得られた焼結体を366nmUV光下で観察したところ青白い蛍光を示した。
【0072】
(実施例2)
実施例2では、印加する電界を20V/cmとした以外は実施例1と同様の方法で作製した。保持温度は1300℃に到達しても制限電流値に到達しなかった。得られた焼結体を366nmUV光下で観察したところ青白い蛍光を示した。
【0073】
(実施例3)
実施例3では、印加する電界を10V/cmとした以外は実施例1と同様の方法で作製した。保持温度は1300℃に到達しても制限電流値に到達しなかった。得られた焼結体を366nmUV光下で観察したところ青白い蛍光を示した。
【0074】
(実施例4)
実施例4では、印加する電界を5V/cmとした以外は実施例1と同様の方法で作製した。保持温度は1300℃に到達しても制限電流値に到達しなかった。得られた焼結体を366nmUV光下で観察したところ青白い蛍光を示した。
【0075】
(比較例1)
実施例1と同様の方法でジルコニア成形体を作製した。得られたジルコニア成形体を常圧下1500℃において2時間焼成した。得られた焼結体を366nmUV光下で観察したところ青白い蛍光を示さなかった。
【0076】
(比較例2)
東ソー株式会社製TZ-3Yに、酸化ビスマス(Bi23)の含有量が0.02質量%となるように添加して、十分に混合しジルコニア粉末を得た。得られたジルコニア粉末から実施例1と同様の方法でジルコニア成形体およびジルコニア焼結体を得た。得られた焼結体を366nmUV光下で観察したところ青白い蛍光を示した。
【0077】
(蛍光強度測定)
実施例1~4および比較例1、2で得られた焼結体を用いて、約4×4×12mmの直方体の試料を得た。該試料の蛍光強度を測定した。蛍光強度は株式会社日立ハイテクサイエンス製分光蛍光光度計F-7100を使用し、蛍光モードで励起波長を366nmとして蛍光スペクトルを測定した(n=3)。機種間スペクトルの補正にローダミンBを用いた。得られたスペクトルの蛍光波長が430~500nmの範囲で最も高い強度を示した蛍光波長を最大波長、最大波長の強度を最大強度とした。結果を表1に示す。
【0078】
(透光性測定)
実施例1~4および比較例1、2で得られた焼結体を厚み1.2mmとなるように#600耐水性研磨紙にて研磨した。研磨したジルコニア焼結体を用いて透光性を測定した(n=3)。透光性は、色差計CE100(オリンパス株式会社製)、解析ソフトクリスタルアイ(オリンパス株式会社製)を用いて測定した、L*a*b*表色系(JIS Z 8781-4:2013)における色度(色空間)のL*値を用いて算出した(n=1)。焼結体の試料の背景を白色にして測定したL*値を第1のL*値(L*(W))とし、第1のL*値を測定した同一の試料について、試料の背景を黒色にして測定したL*値(L*(B))を第2のL*値とし、第1のL*値から第2のL*値を控除した値(△L*(W-B))を、透光性を示す数値とした。試料の測定面には、屈折率nDが1.60の接触液を塗布した。白色背景とは、JIS K 5600-4-1:1999第4部第1節に記載の隠ぺい率試験紙の白部を意味し、黒色背景とは、前記隠ぺい率試験紙の黒部を意味する。結果を表1に示す。
【0079】
【表1】
【0080】
実施例1~4では最大強度も高く、透光性も高い結果であった。比較例1では透光性は高かったが青白い蛍光を示さず、最大強度も低かった。比較例2では最大強度は45以上であったものの、透光性が低かった。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の蛍光セラミックの製造方法は、工業用の研磨材および研削材、歯科用のセラミック材料、電気導電性を利用した固体電解質膜材料、センサ用セラミック材料の製造に利用が可能である。
【符号の説明】
【0082】
10 蛍光セラミック
A 第1点
B 第3点
C 第4点
D 第2点
P 一端
Q 他端
L 全長
Y 第1方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10