(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】診断支援装置
(51)【国際特許分類】
A61B 5/00 20060101AFI20241008BHJP
G16H 50/00 20180101ALI20241008BHJP
【FI】
A61B5/00 G
A61B5/00 D
G16H50/00
(21)【出願番号】P 2020082160
(22)【出願日】2020-05-07
【審査請求日】2023-03-25
(31)【優先権主張番号】P 2019089492
(32)【優先日】2019-05-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】弁理士法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤本 克彦
(72)【発明者】
【氏名】池田 智
(72)【発明者】
【氏名】橋本 敬介
(72)【発明者】
【氏名】柴田 真理子
(72)【発明者】
【氏名】笹山 愛未
【審査官】外山 未琴
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-031190(JP,A)
【文献】国際公開第2015/050174(WO,A1)
【文献】特開2018-029612(JP,A)
【文献】特開2017-131495(JP,A)
【文献】特開2008-293055(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0076976(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00-5/01
G06Q 50/22
G16H 10/00-80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体の遺伝子発現・変異情報、エピジェネティック環境影響情報、タンパク質発現情報、シグナル伝達情報、免疫機能情報、内分泌機能情報、病理情報、画像診断情報、生理学的情報、身体所見及び病状情報を含む複数種類の生体情報を記憶する記憶部と、
前記複数種類の生体情報に対する解析により得られた複数の解析結果に基づいて、前記被検体の生体状態を判定する判定部と、
を備え、
前記判定部は、
前記複数の解析結果、及び、疾患と前記複数種類の生体情報のそれぞれとの相関を示す相関係数に基づいて、前記生体状態を判定
し、
前記生体状態として、少なくとも、前記被検体が前記疾患に罹患していない第1の状態、前記被検体が前記疾患に罹患している第2の状態、及び、前記第1の状態と前記第2の状態との間の第3の状態のいずれの状態であるのかを判定する、
診断支援装置。
【請求項2】
前記複数種類の生体情報に対して前記解析を行って、前記複数の解析結果を得る解析部を更に備え、
前記判定部は、前記複数の解析結果に基づいて、前記生体状態を判定する、
請求項1に記載の診断支援装置。
【請求項3】
前記判定部は、前記解析結果、及び、前記相関係数に基づいて、前記被検体と前記疾患との関係度を算出し、算出した関係度に基づいて、前記生体状態を判定する、
請求項1に記載の診断支援装置。
【請求項4】
前記判定部は、複数の前記疾患のそれぞれについて、前記生体状態を判定する、
請求項1~
3のいずれか1つに記載の診断支援装置。
【請求項5】
被検体の遺伝子発現・変異情報、エピジェネティック環境影響情報、タンパク質発現情報、シグナル伝達情報、免疫機能情報、内分泌機能情報、病理情報、画像診断情報、生理学的情報、身体所見及び病状情報を含む複数種類の生体情報を記憶する記憶部と、
前記複数種類の生体情報に対する解析により得られた複数の解析結果に基づいて、前記被検体の生体状態を判定する判定部と、
を備え、
前記判定部は、
前記複数の解析結果、及び、疾患と前記複数種類の生体情報のそれぞれとの相関を示す相関係数に基づいて、前記生体状態を判定し、
複数の前記相関係数のそれぞれの信頼度、及び、前記複数の相関係数に基づいて、前記生体状態の確からしさを示す総合信頼度を算出する、
診断支援装置。
【請求項6】
被検体の遺伝子発現・変異情報、エピジェネティック環境影響情報、タンパク質発現情報、シグナル伝達情報、免疫機能情報、内分泌機能情報、病理情報、画像診断情報、生理学的情報、身体所見及び病状情報を含む複数種類の生体情報を記憶する記憶部と、
前記複数種類の生体情報に対する解析により得られた複数の解析結果に基づいて、前記被検体の生体状態を判定する判定部と、
を備え、
前記判定部は、
前記複数の解析結果、及び、疾患と前記複数種類の生体情報のそれぞれとの相関を示す相関係数に基づいて、複数の前記疾患のそれぞれについて前記生体状態を判定し、
前記複数の疾患のそれぞれについて、複数の前記相関係数のそれぞれの信頼度、及び、前記複数の相関係数に基づいて、前記生体状態の確からしさを示す総合信頼度を算出する、
診断支援装置。
【請求項7】
前記判定部は、前記複数の相関係数のうち、特定の信頼度より高い信頼度に対応する相関係数を用いて、前記生体状態を判定する、
請求項
5又は
6に記載の診断支援装置。
【請求項8】
被検体の遺伝子発現・変異情報、エピジェネティック環境影響情報、タンパク質発現情報、シグナル伝達情報、免疫機能情報、内分泌機能情報、病理情報、画像診断情報、生理学的情報、身体所見及び病状情報を含む複数種類の生体情報を記憶する記憶部と、
前記複数種類の生体情報に対する解析により得られた複数の解析結果に基づいて、前記被検体の生体状態を判定する判定部と、
を備え、
前記判定部は、
前記複数の解析結果、及び、疾患と前記複数種類の生体情報のそれぞれとの相関を示す相関係数に基づいて、前記被検体と前記疾患との関係度を算出し、
複数の閾値と前記関係度を比較することにより前記生体状態を判定し、
前記複数の閾値のうちいずれか1つの閾値と前記関係度との差の絶対値が特定の値以下である場合には、判定された前記生体状態とは異なる生体状態に移行しやすい状態であることを示す情報を算出する、
診断支援装置。
【請求項9】
前記判定部は、前記関係度に基づいて、前記疾患以外の疾患について前記被検体の生体状態を判定する、
請求項3に記載の診断支援装置。
【請求項10】
前記生体状態を表示部に表示させる表示制御部を更に備える、
請求項1~
9のいずれか1つに記載の診断支援装置。
【請求項11】
前記関係度を表示部に表示させる表示制御部を更に備える、
請求項3に記載の診断支援装置。
【請求項12】
前記生体状態及び前記総合信頼度を表示部に表示させる表示制御部を更に備える、
請求項
5~
7のいずれか1つに記載の診断支援装置。
【請求項13】
前記情報を表示部に表示させる表示制御部を更に備える、
請求項
8に記載の診断支援装置。
【請求項14】
前記記憶部は、前記被検体の遺伝子に関する生体情報、タンパク質に関する生体情報、シグナル伝達に関する生体情報、内分泌機能に関する生体情報、免疫機能に関する生体情報、環境影響に関する生体情報、及び、人体に関する生体情報を含む前記複数種類の生体情報を記憶する、
請求項1~
13のいずれか1つに記載の診断支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、診断支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、次世代シーケンサー(Next Generation Sequencer(NGS))又は遺伝子パネルによる遺伝子診断、IVD(In-Vitro Diagnostics)検査、タンパク質分析、抗体検査、病理組織診断、放射線画像診断、放射線画像診断以外の画像診断、及び、非画像検査等の多くの診断及び検査の技術がある。
【0003】
近年、がんの分野では、NGS又は遺伝子パネルを用いた検査により、新規の抗がん剤、分子標的治療薬、免疫チェックポイント阻害薬等の治療薬の選択を適切に行うためのコンパニオン診断等が行われるようになってきている。
【0004】
がん遺伝子パネル検査においては、数千万に及ぶ論文をベースにしたIBM Watson等のAI(Cognitive Computing System)を用いたプロファイリング等の取り組みの仕組み作りが、日本国内で進められている。また、Roche-Foundation MedicineによるTMB(tumor mutational burden)やMSI(microsatellite instability)も含めたComprehensive Genomic Profilingの取り組みが進んでいる。
【0005】
従来の診断及び検査では、例えば、遺伝子プロファイルによる診断等、個別の診断又は個別の検査結果による診断又は臨床判断が行われている。又は、複数の診断結果に基づいて、ガイドライン及び医師の経験に沿って、複合的に判断されている。
【0006】
しかしながら、これらの限られた診断及び検査を個々に実施し、提示するだけでは、医師は、被検体の生体に関する状態(生体状態)を精度良く判定することが困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2011-152194号公報
【文献】特開2009-181564号公報
【文献】特開2000-67139号公報
【文献】特開2016-154042号公報
【文献】特開2005-192954号公報
【文献】特開2005-122231号公報
【文献】特開2013-12025号公報
【文献】国際公開第2015/050174号
【文献】特開2019-8812号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】"複雑な代謝反応ネットワークを実測データだけから推定する手法を開発-未知の代謝経路を理論的に探索することが可能に-"、[online]、平成25年1月11日、独立行政法人理化学研究所、[平成31年4月1日検索]、インターネット〈URL:http://www.riken.jp/pr/press/2013/20130111_1/〉
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、被検体の生体状態を精度良く判定することができる診断支援装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
実施形態に係る診断支援装置は、記憶部と、判定部とを備える。記憶部は、検体の遺伝子発現・変異情報、エピジェネティック環境影響情報、タンパク質発現情報、シグナル伝達情報、免疫機能情報、内分泌機能情報、病理情報、画像診断情報、生理学的情報、身体所見及び病状情報を含む複数種類の生体情報を記憶する。判定部は、複数種類の生体情報に対する解析により得られた複数の解析結果に基づいて、被検体の生体状態を判定する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、第1の実施形態に係る診断支援装置の構成例を示す図である。
【
図2】
図2は、生体状態判定用データベースのデータ構造の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、第1の実施形態において、定量スコアから関係度を算出する方法の一例について説明するための図である。
【
図4】
図4は、第1の実施形態に係る関係度及び総合信頼度の表示の一例を示す図である。
【
図5】
図5は、第1の実施形態に係る診断支援装置による処理の一例の手順を示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、第1の実施形態の変形例3に係る警告情報の一例を示す図である。
【
図7】
図7は、第2の実施形態における生体状態の推定方法の一例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、診断支援装置の実施形態について詳細に説明する。なお、本願に係る診断支援装置は、以下に示す実施形態によって限定されるものではない。
【0013】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る診断支援装置10の構成例を示す図である。診断支援装置10は、操作者(例えば、医師)による被検体の疾患(疾病)の診断を支援する装置である。例えば、診断支援装置10は、サーバ、ワークステーション、パーソナルコンピュータ又はタブレット端末等のコンピュータ機器によって実現される。
【0014】
図1に示すように、診断支援装置10は、入力インターフェース11と、ディスプレイ12と、記憶回路13と、処理回路14とを有する。
【0015】
入力インターフェース11は、処理回路14に接続されており、操作者から各種の指示及び情報の入力操作を受け付ける。具体的には、入力インターフェース11は、操作者から受け付けた入力操作を電気信号へ変換して処理回路14に出力する。例えば、入力インターフェース11は、トラックボール、スイッチボタン、マウス、キーボード、操作面へ触れることで入力操作を行うタッチパッド、表示画面とタッチパッドとが一体化されたタッチスクリーン、光学センサを用いた非接触入力回路及び音声入力回路等の少なくとも1つによって実現される。なお、本明細書において、入力インターフェース11は、マウス、キーボード等の物理的な操作部品を備えるものだけに限られない。例えば、装置とは別体に設けられた外部の入力機器から入力操作に対応する電気信号を受け取り、この電気信号を処理回路14へ出力する電気信号の処理回路も入力インターフェース11の例に含まれる。
【0016】
ディスプレイ12は、処理回路14に接続されており、各種の情報及び画像を表示する。具体的には、ディスプレイ12は、処理回路14から送られる情報及び画像のデータを表示用の電気信号に変換して出力する。例えば、ディスプレイ12は、液晶モニタやCRT(Cathode Ray Tube)モニタ又はタッチパネル等によって実現される。ディスプレイ12は、表示部の一例である。
【0017】
記憶回路13は、処理回路14に接続されており、各種のデータや情報を記憶する。例えば、記憶回路13は、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子や、ハードディスク、光ディスク等によって実現される。すなわち、記憶回路13は、メモリ等により実現される。なお、記憶回路13は、記憶部の一例である。
【0018】
記憶回路13は、遺伝子発現・変異情報13a、エピジェネティック環境影響情報13b、タンパク質発現情報13c、シグナル伝達情報13d、免疫機能情報13e、内分泌機能情報13f、病理情報13g、画像診断情報13h、生理学的情報13i、身体所見・病状情報13j、及び、生体状態判定用データベース13kを記憶する。
【0019】
遺伝子発現・変異情報13aは、例えば、診断対象の被検体の特定の遺伝子の発現量及び変異量を示す生体情報である。例えば、遺伝子発現・変異情報13aは、シーケンサー又は遺伝子パネル等が用いられる遺伝子検査等により取得される。そして、取得された遺伝子発現・変異情報13aが、記憶回路13に記憶される。
【0020】
エピジェネティック環境影響情報13bは、例えば、ヒストン修飾やメチル化等の被検体のエピゲノムに影響を与える後天的な環境要因による遺伝子発現の制御を示す生体情報である。例えば、操作者が、被検体に対して、被検体が1日あたりに吸っている煙草の本数、又は、1日あたりに浴びている紫外線の量等を問診する。または、その結果としてのヒストン修飾やメチル化等の現象を検出し、それらの得られた環境要因情報や検査結果を示す情報がエピジェネティック環境影響情報13bとして、記憶回路13に記憶される。
【0021】
タンパク質発現情報13cは、被検体のタンパク質発現に関する生体情報である。例えば、タンパク質発現情報13cは、被検体の血中等の特定のタンパク質の量と、特定のタンパク質の基準となる量との比を示す情報である。被検体の特定のタンパク質の量は、バイオマーカの体外検査又は分光分析、及び、質量分析器(例えば、マススペクトロスコピー等)により取得される。また、特定のタンパク質の基準となる量は、例えば、被検体が健康な状態である場合の特定のタンパク質の量である。そして、得られた特定のタンパク質の量と、特定のタンパク質の基準となる量との比を示す情報が、タンパク質発現情報13cとして記憶回路13に記憶される。
【0022】
シグナル伝達情報13dは、被検体の細胞間及び細胞内のシグナル伝達に関する生体情報である。シグナル伝達情報13dは、抗体アレイ等により取得される。そして、取得されたシグナル伝達情報13dが、記憶回路13に記憶される。
【0023】
免疫機能情報13eは、被検体の免疫機能に関する生体情報である。例えば、免疫機能情報13eは、被検体の血液の単位量あたりの白血球の数を示す情報である。このような白血球の数は、血液検査等により取得される。なお、免疫機能情報13eは、免疫に関係する特定の遺伝子の発現量及び変異量や、発現した抗体量そのものを示す情報であってもよい。このような情報は、検体検査装置や抗体検査、遺伝子チップ等により取得される。そして、取得された免疫機能情報13eが、記憶回路13に記憶される。
【0024】
内分泌機能情報13fは、被検体の内分泌機能に関する生体情報である。例えば、内分泌機能情報13fは、被検体の血液の単位量あたりの特定のホルモンの量を示す情報である。このような特定のホルモンの量を示す情報は、血液検査等により取得される。
【0025】
病理情報13gは、病理検査又は細胞診検査によって得られた被検体の各種の生体情報である。例えば、病理検査では、腫瘤の組織や細胞が採取され、採取された組織や細胞が、悪性であるか否かが判定される。このような判定の結果を示す情報が、病理情報13gとして記憶回路13に記憶される。
【0026】
画像診断情報13hは、被検体の臓器が描出された放射線診断画像と放射線診断画像の画像解析により得られる生体情報である。例えば、検査において、医師が、被検体の心臓が描出されたCT画像の画像診断を行う。かかる画像診断において、医師は、心臓に異常があるか否かを診断する。例えば、医師は、大動脈弁に注目し、心臓弁膜症であるか否かについての診断や、大動脈弁狭窄症であるか否かについての診断を行う。そして、診断結果を示す情報が、画像診断情報13hとして記憶回路13に記憶される。なお、画像診断には、CT画像以外の画像の画像診断が含まれてよい。例えば、画像診断には、MRI(Magnetic Resonance Imaging)装置により得られたMR画像、X線診断装置により得られたX線診断画像、超音波診断装置により得られた超音波診断画像、及び、核医学診断装置により得られた核医学診断画像の少なくとも1つの画像の画像診断が含まれてもよい。
【0027】
生理学的情報13iは、例えば心電図により得られた被検体の心電波形に基づく心臓に関する生体情報等を指す。心電図検査において、被検体の心電波形は、心電計により得られる。また、心電波形から、R-R間隔等の心臓に関する情報が得られる。そして、このような心臓に関する情報が、生理学的情報13iとして記憶回路13に記憶される。これ以外にも、生理学的情報13iには、脳波情報や、呼吸モニタの情報、体温、血圧等の様々な生理学的現象を示す情報が含まれる。
【0028】
身体所見・病状情報13jは、被検体に対する問診によって得られた身体所見及び病状を示す生体情報である。例えば、医師は、被検体に対して問診を行うことにより身体所見及び病状を得る。例えば、身体所見には、被検体の身長及び体重等の人体レベルの情報が含まれる。このようにして得られた身体所見及び病状を示す情報が、身体所見・病状情報13jとして記憶回路13に記憶される。
【0029】
上述したように、記憶回路13は、遺伝子発現・変異情報13a、エピジェネティック環境影響情報13b、タンパク質発現情報13c、シグナル伝達情報13d、免疫機能情報13e、内分泌機能情報13f、病理情報13g、画像診断情報13h、生理学的情報13i及び身体所見・病状情報13jを記憶する。このように、記憶回路13は、被検体の遺伝子レベルの生体情報、分子・細胞レベルの生体情報、臓器レベルの生体情報、及び、人体レベルの生体情報を記憶する。すなわち、記憶回路13は、被検体の遺伝子レベルから人体レベルまでの包括的な複数種類の生体情報を記憶する。具体例を挙げて説明すると、記憶回路13は、被検体の遺伝子に関する生体情報、タンパク質に関する生体情報、シグナル伝達に関する生体情報、内分泌機能に関する生体情報、免疫機能に関する生体情報、環境影響に関する生体情報、及び、人体に関する生体情報を含む複数種類の生体情報を記憶する。
【0030】
生体状態判定用データベース13kは、生体状態を判定する際に用いられるデータベースである。
【0031】
図2は、生体状態判定用データベース13kのデータ構造の一例を示す図である。
図2において、「遺伝子発現・変異」の項目には、遺伝子発現・変異情報13aから算出された後述する定量スコアが登録される。「エピジェネティック環境影響」の項目には、エピジェネティック環境影響情報13bから算出された後述する定量スコアが登録される。「タンパク発現(バイオマーカ)」の項目には、タンパク質発現情報13cから算出された後述する定量スコアが登録される。「シグナル伝達」の項目には、シグナル伝達情報13dから算出された後述する定量スコアが登録される。
【0032】
また、「免疫機能」の項目には、免疫機能情報13eから算出された後述する定量スコアが登録される。「内分泌機能」の項目には、内分泌機能情報13fから算出された後述する定量スコアが登録される。「病理的な変化」の項目には、病理情報13gから算出された後述する定量スコアが登録される。「画像診断」の項目には、画像診断情報13hから算出された後述する定量スコアが登録される。「心電図」の項目には、生理学的情報13iから算出された後述する定量スコアが登録される。「身体所見・病状」の項目には、身体所見・病状情報13jから算出された後述する定量スコアが登録される。
【0033】
生体状態判定用データベース13kには、複数の疾患A~疾患Nのそれぞれと、複数種類の生体情報のそれぞれとの相関(相関関係)を示す相関係数が登録されている。また、生体状態判定用データベース13kには、相関係数の確からしさを示す信頼度が登録されている。例えば、
図2の例では、仮に、相関係数を「R」とし、信頼度を「S」とした場合に、疾患と生体情報との組合せ毎に、「R/S」という表記で、相関係数及び信頼度が生体状態判定用データベース13kに登録されている。
【0034】
例えば、生体状態判定用データベース13kは、「遺伝子発現・変異」の項目に登録される定量スコアの元となる遺伝子発現・変異情報13aと「疾患A」との組合せにおいて、遺伝子発現・変異情報13aと「疾患A」との相関を示す相関係数が、「0.8」であることを示す。疾患と生体情報との他の組合せにおいても、同様である。
【0035】
本実施形態では、例えば、相関係数の範囲は、「-1」以上「1」以下の範囲である。例えば、ある疾患とある種類の生体情報との相関を示す相関係数が正の値である場合について説明する。この場合、相関係数が「1」に近づくほど、その種類の生体情報を要因として、その疾患に罹患する可能性が高くなるとともに、その疾患の症状が重くなると考えられる。
【0036】
また、ある疾患とある種類の生体情報との相関を示す相関係数が負の値である場合について説明する。この場合、相関係数が「-1」に近づくほど、その種類の生体情報を要因として、その疾患に罹患しにくくなる可能性が高くなると考えられる。
【0037】
また、ある疾患とある種類の生体情報との相関を示す相関係数が「0」又は「0」に近い数値である場合、この相関係数は、その種類の生体情報と、その疾患との相関がないことを示す。
【0038】
また、例えば、生体状態判定用データベース13kは、遺伝子発現・変異情報13aと「疾患A」との相関を示す相関係数「0.8」の確からしさを示す信頼度が「A」であることを示す。他の信頼度についても、同様である。ここで、本実施形態では、信頼度は、「A」、「B」及び「C」のいずれかで示される。例えば、信頼度「A」は、信頼度「B」よりも信頼度が高く、信頼度「B」は、信頼度「C」よりも信頼度が高い。なお、信頼度「A」、「B」、「C」は、数値を示す。例えば、信頼度「A」は、「1.0」であり、信頼度「B」は、「0.7」であり、信頼度「C」は、「0.3」である。例えば、信頼度は、相関係数について、科学的な根拠がどの程度あるのかによっても定められる。また、信頼度は、例えば、ガイドライン、データベースに登録された臨床研究の内容、及び、論文内容等から定められてもよい。
【0039】
処理回路14は、入力インターフェース11を介して操作者から受け付けた入力操作に応じて、診断支援装置10の動作を制御する。例えば、処理回路14は、プロセッサによって実現される。
【0040】
処理回路14は、スコア算出機能14aと、生体状態判定機能14bと、表示制御機能14cとを備える。スコア算出機能14aは、解析部の一例である。生体状態判定機能14bは、判定部の一例である。表示制御機能14cは、表示制御部の一例である。スコア算出機能14a、生体状態判定機能14b及び表示制御機能14cについては後述する。
【0041】
ここで、例えば、
図1に示す処理回路14の構成要素であるスコア算出機能14a、生体状態判定機能14b及び表示制御機能14cの各処理機能は、コンピュータによって実行可能なプログラムの形態で記憶回路13に記憶されている。処理回路14は、各プログラムを記憶回路13から読み出し、読み出した各プログラムを実行することで各プログラムに対応する機能を実現する。換言すると、各プログラムを読み出した状態の処理回路14は、
図1の処理回路14内に示された各機能を有することとなる。
【0042】
なお、スコア算出機能14a、生体状態判定機能14b及び表示制御機能14cの全ての処理機能がコンピュータによって実行可能な1つのプログラムの形態で、記憶回路13に記憶されていてもよい。例えば、このようなプログラムは、診断支援プログラムとも称される。この場合、処理回路14は、診断支援プログラムを記憶回路13から読み出し、読み出した診断支援プログラムを実行することで診断支援プログラムに対応するスコア算出機能14a、生体状態判定機能14b及び表示制御機能14cを実現する。
【0043】
上記説明において用いた「プロセッサ」という文言は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC)、若しくは、プログラマブル論理デバイス(例えば、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)、複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)、又は、フィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA))等の回路を意味する。プロセッサは、記憶回路13に保存されたプログラムを読み出し実行することで機能を実現する。なお、記憶回路13にプログラムを保存する代わりに、プロセッサの回路内にプログラムを直接組み込むよう構成しても構わない。この場合、プロセッサは回路内に組み込まれたプログラムを読み出し実行することで機能を実現する。なお、本実施形態のプロセッサは、単一の回路として構成される場合に限らず、複数の独立した回路を組み合わせて1つのプロセッサとして構成し、その機能を実現するようにしてもよい。
【0044】
以上、第1の実施形態に係る診断支援装置10の構成の一例について説明した。本願の発明者らは、鋭意検討の結果、全ての疾患は、遺伝性の要因及び非遺伝性の要因を含む複雑な要因が関係することを見出した。そして、本願の発明者らは、被検体の遺伝子レベルから人体レベルまでの包括的な複数種類の生体情報を用いて、被検体の生体状態を判定することで、精度が良好な判定結果を得られることを見出した。そこで、第1の実施形態に係る診断支援装置10は、生体状態を精度良く判定するために、被検体の遺伝子レベルから人体レベルまでの包括的な複数種類の生体情報を用いて、以下で説明する各種の処理を実行する。
【0045】
スコア算出機能14aは、記憶回路13に記憶された複数種類の生体情報のそれぞれに対して、生体情報の異常の度合いを判定する解析を行う。具体例を挙げて説明すると、スコア算出機能14aは、複数種類の生体情報のそれぞれに対して、生体情報の異常の度合いを示すスコア(定量スコア)を得るための解析を行い、解析結果として定量スコアを得る。例えば、スコア算出機能14aは、「0」以上「1」以下の範囲内の定量スコアを算出する。例えば、定量スコアは、「1」に近づくにつれて、生体情報が示す異常の状態の度合いが大きくなることを示す。スコア算出機能14aは、このような定量スコアを、遺伝子発現・変異情報13a、エピジェネティック環境影響情報13b、タンパク質発現情報13c、シグナル伝達情報13d、免疫機能情報13e、内分泌機能情報13f、病理情報13g、画像診断情報13h、生理学的情報13i、及び、身体所見・病状情報13jのそれぞれについて算出する。定量スコアは、後述する生体状態判定機能14bにより生体状態が判定される際に用いられる。
【0046】
一例を挙げて説明すると、スコア算出機能14aは、遺伝子発現・変異情報13aに対する解析として、遺伝子発現・変異情報13aが示す特定の遺伝子の発現量及び変異量が多くなるほど、値が大きくなるような定量スコアを解析結果として算出する。そして、スコア算出機能14aは、算出した定量スコアを生体状態判定用データベース13kの「遺伝子発現・変異」の項目に登録する。
【0047】
また、スコア算出機能14aは、エピジェネティック環境影響情報13bに対する解析として、エピジェネティック環境影響情報13bが示す煙草の本数又は紫外線の量が多くなるほど、若しくは、メチル化のスコア等が大きくなるほど、値が大きくなるような定量スコアを解析結果として算出する。そして、スコア算出機能14aは、算出した定量スコアを生体状態判定用データベース13kの「エピジェネティック環境影響」の項目に登録する。
【0048】
また、スコア算出機能14aは、タンパク質発現情報13cに対する解析として、タンパク質発現情報13cが示す比が「1」から遠ざかるほど、値が大きくなるような定量スコアを解析結果として算出する。そして、スコア算出機能14aは、算出した定量スコアを生体状態判定用データベース13kの「タンパク発現(バイオマーカ)」の項目に登録する。
【0049】
また、スコア算出機能14aは、シグナル伝達情報13dに対する解析として、シグナル伝達情報13dが示すシグナル伝達に関する情報が示す異常の度合いが大きくなるほど、値が大きくなるような定量スコアを解析結果として算出する。そして、スコア算出機能14aは、算出した定量スコアを生体状態判定用データベース13kの「シグナル伝達」の項目に登録する。
【0050】
また、スコア算出機能14aは、免疫機能情報13eに対する解析として、免疫機能情報13eが示す白血球の数が示す異常の度合いが大きくなるほど、値が大きくなるような定量スコアを解析結果として算出する。なお、免疫機能情報13eが、免疫に関係する特定の遺伝子の発現量及び変異量を示す場合には、スコア算出機能14aは、免疫に関係する特定の遺伝子の発現量及び変異量が多くなるほど、値が大きくなるような定量スコアを解析結果として算出する。そして、スコア算出機能14aは、算出した定量スコアを生体状態判定用データベース13kの「免疫機能」の項目に登録する。
【0051】
また、スコア算出機能14aは、内分泌機能情報13fに対する解析として、内分泌機能情報13fが示す特定のホルモンの量が示す異常の度合いが大きくなるほど、値が大きくなるような定量スコアを解析結果として算出する。そして、スコア算出機能14aは、算出した定量スコアを生体状態判定用データベース13kの「内分泌機能」の項目に登録する。
【0052】
また、スコア算出機能14aは、病理情報13gに対する解析として、病理情報13gが示す判定結果が示す異常の度合いが大きくなるほど、値が大きくなるような定量スコアを解析結果として算出する。そして、スコア算出機能14aは、算出した定量スコアを生体状態判定用データベース13kの「病理的な変化」の項目に登録する。
【0053】
また、スコア算出機能14aは、画像診断情報13hに対する解析として、画像診断情報13hが示す診断結果が示す異常の度合いが大きくなるほど、値が大きくなるような定量スコアを解析結果として算出する。そして、スコア算出機能14aは、算出した定量スコアを生体状態判定用データベース13kの「画像診断」の項目に登録する。
【0054】
また、スコア算出機能14aは、生理学的情報13iに対する解析として、生理学的情報13iが示す心臓に関する情報が示す異常の度合いが大きくなるほど、値が大きくなるような定量スコアを解析結果として算出する。そして、スコア算出機能14aは、算出した定量スコアを生体状態判定用データベース13kの「心電図」の項目に登録する。
【0055】
なお、生理学的情報13iが脳波情報を示す場合には、スコア算出機能14aは、脳波情報が示す異常の度合いが大きくなるほど、値が大きくなるような定量スコアを解析結果として算出する。そして、スコア算出機能14aは、算出した定量スコアを生体状態判定用データベース13kの「心電図」の項目と同様に設けられた「脳波計」の項目(図示せず)に登録する。
【0056】
また、スコア算出機能14aは、身体所見・病状情報13jに対する解析として、身体所見・病状情報13jが示す身体所見及び病状が示す異常の度合いが大きくなるほど、値が大きくなるような定量スコアを解析結果として算出する。そして、スコア算出機能14aは、算出した定量スコアを生体状態判定用データベース13kの「身体所見・病状」の項目に登録する。
【0057】
上述したような方法で、スコア算出機能14aは、複数種類の生体情報に対応する複数の定量スコアを算出し、複数の定量スコアを生体状態判定用データベース13kに登録する。
【0058】
なお、スコア算出機能14aは、上述したように定量スコアを自動的に算出しなくてもよい。例えば、スコア算出機能14aは、操作者から、入力インターフェース11を介して、生体情報に対応する定量スコアを受け付けてもよい。そして、スコア算出機能14aは、受け付けた定量スコアを、生体状態判定用データベース13kに登録してもよい。
【0059】
生体状態判定機能14bは、生体状態判定用データベース13kを用いて、複数の疾患(疾患A~疾患N)のそれぞれについて、被検体の生体状態を判定する。
【0060】
具体例を挙げて説明すると、生体状態判定機能14bは、
図2に示す生体状態判定用データベース13kから、遺伝子発現・変異情報13aと疾患Aとの相関を示す相関係数「0.8」を取得する。そして、生体状態判定機能14bは、「遺伝子発現・変異」の項目から、遺伝子発現・変異情報13aから算出された定量スコアを取得する。そして、生体状態判定機能14bは、取得した定量スコアと、取得した相関係数「0.8」との乗算値r1を算出する。
【0061】
生体状態判定機能14bは、遺伝子発現・変異情報13a以外の他の生体情報についても、同様の方法で、他の生体情報と疾患Aとの相関を示す相関係数、及び、他の生体情報から算出された定量スコアを取得する。そして、生体状態判定機能14bは、同様に、取得した相関係数と取得した定量スコアとの乗算値を算出する。
【0062】
具体的には、生体状態判定機能14bは、エピジェネティック環境影響情報13bから算出された定量スコアと、相関係数「0.5」との乗算値r2を算出する。また、生体状態判定機能14bは、タンパク質発現情報13cから算出された定量スコアと、相関係数「0.65」との乗算値r3を算出する。また、生体状態判定機能14bは、シグナル伝達情報13dから算出された定量スコアと、相関係数「0.2」との乗算値r4を算出する。
【0063】
また、生体状態判定機能14bは、免疫機能情報13eから算出された定量スコアと、相関係数「0.4」との乗算値r5を算出する。また、生体状態判定機能14bは、内分泌機能情報13fから算出された定量スコアと、相関係数「0.01」との乗算値r6を算出する。また、生体状態判定機能14bは、病理情報13gから算出された定量スコアと、相関係数「0.9」との乗算値r7を算出する。
【0064】
また、生体状態判定機能14bは、画像診断情報13hから算出された定量スコアと、相関係数「0.3」との乗算値r8を算出する。また、生体状態判定機能14bは、生理学的情報13iから算出された定量スコアと、相関係数「0.0」との乗算値r9を算出する。また、生体状態判定機能14bは、身体所見・病状情報13jから算出された定量スコアと、相関係数「0.1」との乗算値r10を算出する。
【0065】
そして、生体状態判定機能14bは、10次元の座標空間に、点r(r1,r2,r3,r4,r5,r6,r7,r8,r9,r10)を配置した場合の、10次元の座標空間の原点Oと点rとの間の距離を算出する。なお、かかる距離は、(r1,r2,r3,r4,r5,r6,r7,r8,r9,r10)を成分とするベクトルの大きさでもある。
【0066】
そして、生体状態判定機能14bは、算出した距離が「0」以上「1」以内の範囲の値となるように、算出した距離を正規化し、正規化された距離を関係度として算出する。この関係度は、被検体が疾患Aに関係している度合いを示す指標であり、疾患Aに対する被検体の生体状態を示す指標である。より具体的には、この関係度は、被検体が疾患Aに罹患している度合い(可能性)を示す指標であるとともに、疾患Aの症状の重さを示す指標である。関係度が「1」に近づくほど、被検体が疾患Aに罹患している度合いは高くなり、また、疾患Aの症状が重くなる。一方、関係度が「0」に近づくほど、被検体が疾患Aに罹患している度合いは低くなり、また、疾患Aの症状が軽くなる。
【0067】
ここで、
図3を参照して、定量スコアから関係度を算出する方法の一例について説明する。なお、先の
図2を用いて、10種類の生体情報から生成された10個の定量スコアが生体状態判定用データベース13kに登録され、生体状態判定機能14bが、10個の定量スコアを用いて関係度を算出する場合について説明した。一方、
図3を用いた説明では、説明の便宜のため、3種類の生体情報から生成された3個の定量スコアSC1_1,SC2_1,SC3_1が生体状態判定用データベース13kに登録されているものとする。そして、
図3を用いた説明では、生体状態判定機能14bが、3個の定量スコアSC1_1,SC2_1,SC3_1を用いて、単一の疾患についての関係度を算出するものとして説明を行う。
【0068】
図3は、第1の実施形態において、定量スコアから関係度を算出する方法の一例について説明するための図である。
図3には、軸SC1、軸SC2及び軸SC3により形成される3次元空間が示されている。軸SC1は、定量スコアSC1_1の大きさを示す軸である。軸SC2は、定量スコアSC2_1の大きさを示す軸である。軸SC3は、定量スコアSC3_1の大きさを示す軸である。3つの軸SC1、軸SC2及び軸SC3は、互いに直交している。
【0069】
図3の例において、生体状態判定機能14bは、定量スコアSC1_1と、定量スコアSC1_1に対応する相関係数との乗算値R1´(不図示)を算出する。また、生体状態判定機能14bは、定量スコアSC2_1と、定量スコアSC2_1に対応する相関係数との乗算値R2´(不図示)を算出する。また、生体状態判定機能14bは、定量スコアSC3_1と、定量スコアSC3_1に対応する相関係数との乗算値R3´(不図示)を算出する。
【0070】
そして、生体状態判定機能14bは、3次元の座標空間に、点R´(R1´,R2´,R3´)(不図示)を配置した場合の、3次元の座標空間の原点Oと点R´との間の距離を算出する。なお、かかる距離は、(R1´,R2´,R3´)を成分とするベクトルの大きさでもある。
【0071】
そして、生体状態判定機能14bは、算出した距離が「0」以上「1」以内の範囲の値となるように、算出した距離を正規化し、正規化された距離D1を関係度として算出する。なお、
図3には、正規化後の距離D1に対応する点R(R1,R2,R3)が示されている。点Rは、正規化に伴って点R´の位置が変更されたものである。すなわち、点Rは、点R´に対応する点である。
【0072】
ここで、
図3において、球SPは、半径1の球である。本実施形態では、点Rは、球SPの内部及び表面に位置する。
【0073】
そして、
図3に示すように、原点Oと点Rとを結ぶ線分を更に点R側から伸ばした線分と球SPの表面との交点を点Pとする。このとき、点Rと点Pとの距離D2が短いほど、被検体が疾患に罹患している度合いが高くなり、また、疾患の症状が重くなる。
【0074】
図3を参照して、生体状態判定機能14bが、単一の疾患を表す球SPにおいて、被検体の現在の生体状態を示す点R(R1,R2,R3)がどの位置にあるのかを判定することで、単一の疾患に対する生体状態を判定する場合について説明した。そして、生体状態判定機能14bは、同様に、他の複数の疾患に対する生体状態についても判定する。すなわち、生体状態判定機能14bは、全ての疾患A~疾患Nのそれぞれに対応する複数の球SPのそれぞれにおいて、被検体の現在の生体状態を示す点がどの位置にあるのかを判定することで、複数の疾患のそれぞれに対する生体状態を判定する。
【0075】
なお、1つの球SPが、全ての疾患A~疾患Nを表していてもよい。例えば、生体状態判定機能14bは、1つの球SPにおいて、全ての疾患A~疾患Nのそれぞれについての関係度に対応する点が、どの位置にあるかを判定することで、全ての疾患A~疾患Nのそれぞれに対する生体状態を判定してもよい。
【0076】
図1の説明に戻り、生体状態判定機能14bは、算出した関係度に基づいて、疾患Aに対する被検体の生体状態を判定する。例えば、生体状態判定機能14bは、複数の閾値と関係度とを比較することにより、生体状態を判定する。
【0077】
例えば、関係度が閾値「0」以上閾値「0.4」未満の範囲内である場合には、被検体が疾患Aに罹患していないと考えられる。このため、生体状態判定機能14bは、関係度が閾値「0」以上閾値「0.4」未満の範囲内である場合には、被検体の生体状態が、疾患Aに罹患していない状態(健康状態)であると判定する。健康状態は、第1の状態の一例である。
【0078】
また、例えば、関係度が閾値「0.6」以上閾値「0.9」未満の範囲内である場合には、被検体が疾患Aに罹患しており、また、被検体の疾患Aの症状が軽症であると考えられる。このため、生体状態判定機能14bは、関係度が閾値「0.6」以上閾値「0.9」未満の範囲内である場合には、被検体の生体状態が、疾患Aに罹患しており、疾患Aの症状が軽症である状態(疾患状態)であると判定する。疾患状態は、第2の状態の一例である。
【0079】
また、例えば、関係度が閾値「0.4」以上閾値「0.6」未満の範囲内である場合には、被検体の生体状態が、健康状態と疾患状態との間の状態(中間状態)であると考えられる。なお、中間状態とは、例えば、被検体が疾患Aに罹患していない状態であるものの、上記の「健康状態」よりも疾患状態に移行しやすい状態を指す。このため、生体状態判定機能14bは、関係度が閾値「0.4」以上閾値「0.6」未満の範囲内である場合には、被検体の生体状態が、中間状態であると判定する。中間状態は、第3の状態の一例である。
【0080】
また、例えば、関係度が閾値「0.9」以上閾値「1.0」以下の範囲内である場合には、被検体が疾患Aに罹患しており、また、被検体の疾患Aの症状が重症であるか、若しくは、被検体が死亡していると考えられる。このため、生体状態判定機能14bは、関係度が閾値「0.9」以上閾値「1.0」以下の範囲内である場合には、被検体の生体状態が、疾患Aに罹患しており、また、疾患Aの症状が重症であるか、若しくは、死亡している状態(重症・死亡)であると判定する。重症・死亡は、第4の状態の一例である。
【0081】
上述した方法により、生体状態判定機能14bは、複数の定量スコア及び複数の相関係数に基づいて、疾患Aに対する被検体の生体状態を判定する。より具体的には、生体状態判定機能14bは、複数の定量スコア及び複数の相関係数に基づいて、被検体と疾患Aとの関係度を算出し、算出した関係度に基づいて、疾患Aに対する被検体の生体状態を判定する。そして、生体状態判定機能14bは、同様の方法により、被検体と疾患B~疾患Nのそれぞれとの関係度を算出し、算出した関係度に基づいて、疾患B~Nのそれぞれに対する被検体の生体状態を判定する。このように、生体状態判定機能14bは、被検体の遺伝子レベルから人体レベルまでの包括的な複数種類の生体情報に対する解析により得られた複数の定量スコアに基づいて、疾患A~Nのそれぞれに対する被検体の生体状態を判定する。したがって、本実施形態に係る診断支援装置10は、被検体の生体状態を精度良く判定することができる。
【0082】
ここで、先の
図3において、生体状態判定機能14bが、上述した単一の疾患についての関係度として、虚血性心疾患についての関係度を算出する場合について説明する。この場合、
図3に示すように、球SPの表面上の点Pが、虚血性心疾患についての関係度「1.0」に対応する点となる。また、点P1が、虚血性心疾患についての関係度「0.4」に対応する点となる。また、点P2が、虚血性心疾患についての関係度「0.5」に対応する点となる。
【0083】
例えば、被検体が、ある疾患に罹患する前の段階で、他の疾患に罹患する場合がある。例えば、被検体が、虚血性心疾患に罹患するまでに、高脂血症及び動脈硬化性疾患に罹患する。具体的には、まず、被検体が高脂血症に罹患し、被検体が高脂血症である状態がしばらく続くと、血管が硬化し、被検体が動脈硬化性疾患に罹患する。そして、被検体が動脈硬化性疾患である状態がしばらく続くと、冠動脈が閉塞し、被検体が虚血性心疾患に罹患する。
【0084】
このように、被検体は、健康な状態から、突然、虚血性心疾患に罹患するのではなく、虚血性心疾患に罹患する前の段階で、高脂血症及び動脈硬化性疾患等の疾患に罹患する。そのため、例えば、
図3に示すように、被検体が高脂血症に罹患している場合には、点P1に対応する関係度「0.4」が算出される。また、被検体が動脈硬化性疾患に罹患している場合には、点P2に対応する関係度「0.5」が算出される。
【0085】
したがって、生体状態判定機能14bは、更に、虚血性心疾患についての関係度から、虚血性心疾患以外の疾患に罹患しているか否かを判定してもよい。すなわち、生体状態判定機能14bは、虚血性心疾患についての関係度に基づいて、虚血性心疾患以外の疾患について被検体の生体状態を判定してもよい。例えば、生体状態判定機能14bは、虚血性心疾患についての関係度が「0.4」である場合には、虚血性心疾患については中間状態であると判定するとともに、高脂血症については疾患状態であると判定してもよい。また、生体状態判定機能14bは、虚血性心疾患についての関係度が「0.5」である場合には、虚血性心疾患については中間状態であると判定するとともに、動脈硬化性疾患については疾患状態であると判定してもよい。
【0086】
また、生体状態判定機能14bは、生体状態判定用データベース13kを用いて、複数の疾患(疾患A~疾患N)のそれぞれについて判定された生体状態の確からしさを示す総合信頼度を算出する。
【0087】
まず、疾患Aについて判定された生体状態の確からしさを示す総合信頼度の算出方法の一例について説明する。例えば、生体状態判定機能14bは、生体状態判定用データベース13kから、疾患Aについて、遺伝子発現・変異情報13aに対応する相関係数「0.8」を取得する。また、生体状態判定機能14bは、生体状態判定用データベース13kから、取得済みの相関係数「0.8」の確からしさを示す信頼度「A」を取得する。
【0088】
そして、生体状態判定機能14bは、取得した相関係数「0.8」の絶対値と、取得した信頼度「A」との乗算値r11を算出する。
【0089】
生体状態判定機能14bは、遺伝子発現・変異情報13a以外の他の生体情報についても、同様の方法で、他の生体情報と疾患Aとの相関を示す相関係数、及び、この相関係数の確からしさを示す信頼度を取得する。そして、生体状態判定機能14bは、同様に、取得した相関係数の絶対値と取得した信頼度との乗算値を算出する。
【0090】
具体的には、生体状態判定機能14bは、エピジェネティック環境影響情報13bに対応する相関係数「0.5」の絶対値と、信頼度「B」との乗算値r12を算出する。また、生体状態判定機能14bは、タンパク質発現情報13cに対応する相関係数「0.65」の絶対値と、信頼度「A」との乗算値r13を算出する。また、生体状態判定機能14bは、シグナル伝達情報13dに対応する相関係数「0.2」の絶対値と、信頼度「B」との乗算値r14を算出する。
【0091】
また、生体状態判定機能14bは、免疫機能情報13eに対応する相関係数「0.4」の絶対値と、信頼度「B」との乗算値r15を算出する。また、生体状態判定機能14bは、内分泌機能情報13fに対応する相関係数「0.01」の絶対値と、信頼度「C」とのの乗算値r16を算出する。また、生体状態判定機能14bは、病理情報13gに対応する相関係数「0.9」の絶対値と、信頼度「A」との乗算値r17を算出する。
【0092】
また、生体状態判定機能14bは、画像診断情報13hに対応する相関係数「0.3」の絶対値と、信頼度「B」との乗算値r18を算出する。また、生体状態判定機能14bは、生理学的情報13iに対応する相関係数「0.0」の絶対値と、信頼度「C」との乗算値r19を算出する。また、生体状態判定機能14bは、身体所見・病状情報13jに対応する相関係数「0.1」の絶対値と、信頼度「B」との乗算値r20を算出する。
【0093】
そして、生体状態判定機能14bは、下記の式(1)にしたがって、10個の乗算値r11~r20の和Qを総合信頼度として算出する。
【0094】
Q=r11+r12+r13+r14+r15+r16+r17+r18+r19+
r20 (1)
【0095】
なお、生体状態判定機能14bは、和Qをそのまま総合信頼度として用いてもよいし、和QをA~Eの複数段階のうちのいずれかの段階に正規化した値を、総合信頼度として用いてもよい。例えば、ここでいう総合信頼度「A」は、総合信頼度「B」よりも信頼度が高く、総合信頼度「B」は、総合信頼度「C」よりも信頼度が高い。また、総合信頼度「C」は、総合信頼度「D」よりも信頼度が高く、総合信頼度「D」は、総合信頼度「E」よりも信頼度が高い。なお、総合信頼度「A」、「B」、「C」、「D」、「E」は、数値を示す。例えば、総合信頼度「A」は、「1.0」であり、総合信頼度「B」は、「0.8」であり、総合信頼度「C」は、「0.6」である。また、例えば、総合信頼度「D」は、「0.4」であり、総合信頼度「E」は、「0.2」である。
【0096】
上述した方法により、生体状態判定機能14bは、複数の信頼度及び複数の相関係数に基づいて、疾患Aについて判定された生体状態の確からしさを示す総合信頼度を算出する。そして、生体状態判定機能14bは、同様の方法により、疾患B~疾患Nのそれぞれについて判定された生体状態の確からしさを示す総合信頼度を算出する。
【0097】
表示制御機能14cは、複数の疾患A~疾患Nのそれぞれについて算出された関係度及び総合信頼度、及び、複数の疾患A~疾患Nのそれぞれについて判定された生体状態をディスプレイ12に表示させる。
図4は、第1の実施形態に係る関係度及び総合信頼度の表示の一例を示す図である。
【0098】
例えば、
図4に示すように、表示制御機能14cは、疾患Aについて関係度「0.75」と疾患状態とを対応付けて、ディスプレイ12の表示領域12aに表示させる。これにより、操作者は、疾患Aについての被検体の生体状態が、疾患状態であることを容易に判断することができる。
【0099】
また、表示制御機能14cは、疾患Nについて関係度「0.86」と疾患状態とを対応付けて、ディスプレイ12の表示領域12aに表示させる。これにより、操作者は、疾患Nについての被検体の生体状態が、疾患状態であることを容易に判断することができる。
【0100】
なお、
図4の例では、疾患B~疾患Mについて、関係度及び生体状態の図示が省略されているが、疾患A及び疾患Nと同様に、判定された生体状態と算出された関係度とが対応付けられて表示領域12aに表示される。
【0101】
このように、被検体の現在の生体状態が、疾患A~疾患Nのそれぞれにどの程度近いかを可視化される。これにより、操作者は、関係度を低減させるように健康アドバイスや支援を被検体に対して行うことができる。
【0102】
本実施形態では、上述したように、診断支援装置10は、被検体の生体状態を精度良く判定することができる。そして、診断支援装置10は、精度良く判定された生体状態をディスプレイ12に表示させる。したがって、診断支援装置10は、疾患についての診断を操作者に精度良く行わせることができる。
【0103】
また、例えば、
図4に示すように、表示制御機能14cは、疾患Aについての総合信頼度「C」を、ディスプレイ12の表示領域12aに表示させる。これにより、操作者は、疾患Aについて判定された「疾患状態」の確からしさが、「C」であることを把握することができる。
【0104】
また、表示制御機能14cは、疾患Nについての総合信頼度「E」を、ディスプレイ12の表示領域12aに表示させる。これにより、操作者は、疾患Nについて判定された「疾患状態」の確からしさが、「E」であることを把握することができる。
【0105】
なお、
図4の例では、疾患B~疾患Mについて、総合信頼度の図示が省略されているが、疾患A及び疾患Nと同様に、総合信頼度が表示領域12aに表示される。
【0106】
このように、本実施形態に係る診断支援装置10は、判定された生体状態の確からしさを示す総合信頼度を疾患毎に表示する。したがって、本実施形態に係る診断支援装置10によれば、判定された生体状態の確からしさを操作者に把握させることができる。この結果、例えば、操作者は、総合信頼度に応じて、追加の検査の実施等が必要かどうかを判断することができる。
【0107】
図5は、第1の実施形態に係る診断支援装置による処理の一例の手順を示すフローチャートである。例えば、
図5に示す処理は、入力インターフェース11を介して、操作者が生体状態を判定するための指示を処理回路14に入力した場合に実行される。
【0108】
図5に例示するように、スコア算出機能14aは、記憶回路13に記憶された複数種類の生体情報のそれぞれに対して、定量スコアを算出する(ステップS101)。そして、生体状態判定機能14bは、疾患A~疾患Nのそれぞれについて、複数の定量スコア及び複数の相関係数を用いて関係度を算出し、関係度に基づいて生体状態を判定する(ステップS102)。
【0109】
そして、生体状態判定機能14bは、疾患A~疾患Nのそれぞれについて、複数の相関係数及び複数の信頼度を用いて総合信頼度を算出する(ステップS103)。そして、表示制御機能14cは、疾患A~疾患Nのそれぞれについて、生体状態、関係度及び総合信頼度をディスプレイ12に表示させ(ステップS104)、処理を終了する。例えば、ステップS104では、表示制御機能14cは、上述したように、判定された生体状態と、関係度とを対応付けてディスプレイ12に表示させる。
【0110】
以上、第1の実施形態に係る診断支援装置10について説明した。第1の実施形態に係る診断支援装置10は、上述したように、被検体の生体状態を精度良く判定することができる。
【0111】
(第1の実施形態の変形例1)
次に、第1の実施形態の変形例1について説明する。上述した実施形態では、生体状態判定機能14bが、疾患A~疾患Nのそれぞれについて、健康状態、中間状態、疾患状態及び重症・死亡の4つの生体状態のうち、いずれの生体状態であるのかを判定する場合について説明した。しかしながら、生体状態判定機能14bによる生体状態の判定方法は、これに限られない。そこで、変形例1では、生体状態判定機能14bによる生体状態の他の判定方法の一例について説明する。
【0112】
例えば、変形例1に係る生体状態判定機能14bは、少なくとも、健康状態、中間状態及び疾患状態のうち、いずれの生体状態であるのかを判定すればよい。すなわち、生体状態判定機能14bは、明らかに重体でない被検体に対しては、重症・死亡の判定を行わないようにしてもよい。
【0113】
変形例1によれば、重症・死亡の判定を行わない分、生体状態の判定による処理負荷を軽減することができる。また、変形例1によれば、第1の実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0114】
(第1の実施形態の変形例2)
また、上述した第1の実施形態では、生体状態判定機能14bが、疾患毎に、10個の相関係数を用いて、生体状態を判定する場合について説明した。しかしながら、生体状態判定機能14bは、疾患毎に、10個の相関係数のうち、特定の信頼度以上の信頼度に対応する相関係数を用いて生体状態を判定してもよい。そこで、このような変形例を第1の実施形態の変形例2として説明する。なお、変形例2の説明では、第1の実施形態と異なる点を主に説明する。
【0115】
以下、信頼度「A」が「1.0」であり、信頼度「B」が「0.7」であり、信頼度「C」が「0.3」であり、特定の信頼度が「0.8」である場合について説明する。この場合、複数の信頼度「A」、「B」、「C」のうち、特定の信頼度「0.8」以上の信頼度は、信頼度「A」である。変形例2では、生体状態判定機能14bは、信頼度「A」に対応する相関係数を用いて、疾患A~疾患Nのそれぞれについての生体状態を判定する。
【0116】
例えば、生体状態判定機能14bは、疾患Aについての生体状態を判定する場合、
図2に示す生体状態判定用データベース13kの中から、信頼度「A」に対応する相関係数を用いる。例えば、生体状態判定機能14bは、上から順に、信頼度「A」に対応する相関係数「0.8」、信頼度「A」に対応する相関係数「0.65」、信頼度「A」に対応する相関係数「0.9」を用いる。すなわち、生体状態判定機能14bは、3次元の座標空間に、点r´(r1,r3,r7)を配置した場合の、3次元の座標空間の原点Oと点r´との間の距離を算出する。なお、かかる距離は、(r1,r3,r7)を成分とするベクトルの大きさでもある。
【0117】
そして、生体状態判定機能14bは、第1の実施形態と同様に、算出した距離が「0」以上「1」以内の範囲の値となるように、算出した距離を正規化し、正規化された距離を関係度として算出する。そして、生体状態判定機能14bは、第1の実施形態と同様に、算出された関係度に基づいて、疾患Aについての生体状態を判定する。そして、生体状態判定機能14bは、同様の方法で、疾患B~疾患Nのそれぞれについての生体状態を判定する。
【0118】
変形例2によれば、診断支援装置10は、特定の信頼度以上の信頼度に対応する相関係数を用いて、生体状態を判定する。したがって、変形例2に係る診断支援装置10によれば、被検体の生体状態を更に精度良く判定することができる。
【0119】
(第1の実施形態の変形例3)
上述した第1の実施形態では、生体状態判定機能14bが、
図4に示す複数の閾値「0.4」、「0.6」及び「0.9」と、関係度とを比較することにより、疾患Aに対する生体状態を判定する場合について説明した。ここで、例えば、
図4において、疾患Aについての関係度が「0.39」である場合、被検体の生体状態が健康状態であると判定されるものの、中間状態に移行しやすい状態でもある。他の生体状態においても同様である。また、他の疾患においても同様である。すなわち、閾値と関係度との差の絶対値が特定の値(例えば、0.2)以下である場合には、被検体は、生体状態判定機能14bにより判定された生体状態とは異なる生体状態に移行しやすい状態である。
【0120】
そこで、変形例3では、生体状態判定機能14bは、第1の実施形態と同様の処理を行うとともに、判定された生体状態とは異なる生体状態に移行しやすい状態であることを操作者に把握させるために、以下に説明する処理を実行する。なお、変形例3の説明では、第1の実施形態と異なる点を主に説明する。
【0121】
例えば、生体状態判定機能14bは、複数の閾値のそれぞれと、関係度との差の絶対値を算出する。これにより、複数の差の絶対値が算出される。そして、生体状態判定機能14bは、複数の差の絶対値のそれぞれが、特定の値以下であるか否かを判定する。そして、生体状態判定機能14bは、複数の差の絶対値のうち、少なくとも1つの絶対値が特定の値以下であると判定された場合には、判定された生体状態とは異なる生体状態に移行しやすい状態であることを示す情報(警告情報)をディスプレイ12に表示させる。すなわち、生体状態判定機能14bは、複数の閾値のうち少なくとも1つの閾値と関係度との差の絶対値が特定の値以下である場合には、警告情報をディスプレイ12に表示させる。これにより、操作者は、判定された生体状態とは異なる生体状態に移行しやすい状態であることを把握することができる。
【0122】
図6は、第1の実施形態の変形例3に係る警告情報の一例を示す図である。
図6に例示するように、閾値「0.6」と関係度「0.58」との差の絶対値が、特定の値以下である場合に、生体状態判定機能14bは、警告情報として、テキストデータ「疾患状態に近い中間状態です」を生成し、生成したテキストデータをディスプレイ12の表示領域12aに表示させる。これにより、操作者は、判定された中間状態とは異なる疾患状態に移行しやすい状態であることを把握することができる。
【0123】
ここで、特に、慢性疾患及びがんでは、正常な状態を維持しようとする恒常性(Homeostasis)の維持が重要である。一般的に、生体システムは、生命活動を維持するために、冗長性と安定性を有する維持機構を有している。例えば、医師が被検体に対して一見して同じ状態と判断できる状態でも、実際には、真に問題無く健康な状態で維持されている状態と、維持機構が最大限働いて何とか機能を維持している状態とがある。
【0124】
生体の状態及び機能の実現には、複数の冗長経路を有した複雑なシステム(冗長機構)が用いられている。この冗長機構は、恒常性の維持に寄与している一方で、破綻寸前まで状態及び機能を維持しようとすることが多く、疾患の悪化を進める方向に働く。このため、詳細な状態を精度良く判定することが重要となる。
【0125】
変形例3では、例えば、被検体の生体状態が疾患状態と判定されても、疾患状態と重症・死亡との境界を示す閾値と、関係度との差の絶対値が、特定の値以下である場合には、重症・死亡に移行しやすい状態であることを操作者が把握することができる。すなわち、維持機構が最大限働いて何とか機能を維持している情報を操作者は把握することができる。
【0126】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態について説明する。第2の実施形態では、定量スコアを用いずに、生体状態を判定する。そのため、第2の実施形態では、処理回路14は、スコア算出機能14aを備えずに、生体状態判定機能14b及び表示制御機能14cを備える。
【0127】
第2の実施形態では、生体状態判定機能14bは、状態方程式及び観測方程式を用いて、生体状態を推定する。
【0128】
第2の実施形態では、例えば、被検体の現在の生体状態の推定には、離散的な誤差のある観測から、時々刻々と時間変化する量を推定するのに適するカルマンフィルターを、生体という非線形動的システムに応用した状態空間モデルを応用した例を説明する。例えば、過去のデータから未来を予測する時系列分析では、過去のデータが時系列に存在しない又は欠損値がある場合は、予測ができない又は予測精度が大きく劣化する。しかしながら、離散的なデータしか存在しない場合もあるし、観測した結果と実際の状態とが整合しない場合もある。第2の実施形態では、状態方程式と観測方程式とに分けてモデル化し、観測値を推定するとともに、実測値がある部分に関しては、予測水準に反映するという柔軟なモデルを構築する。なお、状態方程式については、マルコフ性を仮定する。
【0129】
図7は、第2の実施形態における生体状態の推定方法の一例を説明するための図である。
図7は、状態空間モデルを概念的に示したものである。第2の実施形態では、生体状態判定機能14bは、以下の状態方程式(2)及び以下の観測方程式(3)を用いて、
図7に示すように、被検体の現在の時刻の生体状態S
tを推定する。
【0130】
St=G(St-1,at,ut) (2)
Dt=F(Gt-1,bt,wt) (3)
【0131】
上述の状態方程式(2)において、「St-1」は、現在の時刻から1ステップ前の時刻の被検体の生体状態を示す変数である。「at」は、現在の時刻の説明変数である。「ut」は、現在の時刻のシステムノイズ及び生体のゆらぎを示す変数である。
【0132】
例えば、本実施形態では、4つの生体状態(健康状態、中間状態、疾患状態、重症・死亡)のそれぞれが数値化されて用いられる。したがって、「St-1」及び「St」は、数値として扱われる。関数Gは、「St-1」、「at」及び「ut」を用いて、現在の時刻の被検体の生体状態Stを出力する関数である。また、初期値S0は、操作者により入力インターフェース11を介して処理回路14に入力されて、生体状態判定機能14bにより記憶回路13に記憶される。
【0133】
上述の観測方程式(3)において、観測値Dtは、現在の時刻の被検体の生体情報を示す変数である。例えば、観測値Dtは、血液検査により得られたHbA1cを示す生体情報である。「Gt-1」は、「St」である。「bt」は、現在の時刻の説明変数である。「wt」は、現在の時刻の観測ノイズを示す変数である。関数Fは、「Gt-1」、「bt」及び「wt」を用いて、観測値Dtを出力する関数である。
【0134】
図7に示すように、観測できない状態をモデルに組み込むことで、より複雑な生体状態の時系列モデルを構築することができる。また、生体状態判定機能14bは、過去の生体状態に基づく現在の生体状態を、現在の観測値を基に補正し、より精度の高い現在の生体状態を判定することが可能となる。
【0135】
例えば、生体状態判定機能14bは、以下の式(4)を用いて、より精度の高い、補正された現在の時刻の生体状態SAを推定する。
【0136】
SA=SR+K(DR-DP) (4)
【0137】
式(4)において、「SA」は、補正された現在の時刻の生体状態を示す変数である。「SR」は、補正前の現在の時刻の生体状態を示す変数である。「K」は、カルマンゲインである。「DR」は、実際の観測値である。すなわち、「DR」は、実際の血液検査により得られた現在の時刻のHbA1cを示す生体情報である。「DP」は、予測された観測値である。すなわち、「DP」は、観測方程式(3)により予測された現在の時刻のHbA1cを示す生体情報である。
【0138】
生体状態判定機能14bは、式(4)を用いて、現在の生体状態を補正することにより、より精度の高い現在の生体状態を判定することができる。
【0139】
そして、生体状態判定機能14bは、現在の生体状態を、複数の定量スコアに対して整合をとるように更に補正し、その状態から他の観測していない欠損値に対しても統計的に推定することで、観測・非観測を問わず、現在の時刻の生体状態が確定する。
【0140】
現在の時刻の生体状態が、病気の状態(疾患状態及び重症・死亡)であれば、操作者は、確定診断を行ったり、総合信頼度が低ければ、追加の検査等を行うか否かの判断を行ったりする。
【0141】
以上、第2の実施形態に係る診断支援装置10について説明した。第2の実施形態に係る診断支援装置10は、状態方程式及び観測方程式を用いて、被検体の生体状態を精度良く判定することができる。
【0142】
(第3の実施形態)
第1の実施形態では、生体状態判定機能14bが、疾患毎に、10個の定量スコア、及び、10個の相関係数を用いて関係度を算出する場合について説明した。しかしながら、生体状態判定機能14bは、10個の相関係数の代わりに、学習済みモデルを用いて、10個の定量スコアから、関係度を導出してもよい。そこで、このような実施形態を第3の実施形態として説明する。
【0143】
第3の実施形態では、記憶回路13に、疾患A~疾患Nのそれぞれに対応する学習済みモデルが記憶されている。すなわち、記憶回路13には、14個の学習済みモデルが記憶されている。学習済みモデルは、10個の定量スコアの入力を受けて、生体状態を出力する。
【0144】
例えば、疾患Aに対応する学習済みモデルは、診断支援装置10で生成されてもよいし、診断支援装置10以外の装置で生成されてもよい。以下、診断支援装置10以外の装置が、疾患Aに対応する学習済みモデルを生成する場合について説明する。以下の説明では、このような装置を、学習済みモデル生成装置と表記する。
【0145】
学習済みモデル生成装置は、被検体の複数の生体情報の組合せと、疾患Aに対する生体状態との関係を学習することによって、疾患Aに対応する学習済みモデルを生成する。ここでいう複数の生体情報とは、遺伝子発現・変異情報13a、エピジェネティック環境影響情報13b、タンパク質発現情報13c、シグナル伝達情報13d、免疫機能情報13e、内分泌機能情報13f、病理情報13g、画像診断情報13h、生理学的情報13i及び身体所見・病状情報13jである。
【0146】
例えば、学習済みモデル生成装置は、上記組合せと生体状態の組を学習用データ(教師データ)として機械学習エンジンに入力することによって、機械学習を行う。
【0147】
このような機械学習の結果として、学習済みモデル生成装置は、上記組合せの入力に対して、生体状態を出力する学習済みモデルを生成する。このように、学習済みモデル生成装置は、被検体の遺伝子レベルから人体レベルまでの包括的な複数種類の生体情報を用いて学習済みモデルを生成する。このため、学習済みモデル生成装置は、精度の良い生体状態を出力する学習済みモデルを生成することができる。そして、学習済みモデル生成装置は、生成した学習済みモデルを、図示しないネットワークを介して、診断支援装置10に送信する。診断支援装置10は、受信した学習済みモデルを記憶回路13に記憶させる。
【0148】
そして、診断支援装置10の生体状態判定機能14bは、疾患Aに対応する学習済みモデルに10個の定量スコアを入力することで、生体情報を導出する。生体状態判定機能14bは、同様の方法で、疾患B~疾患Nのそれぞれに対応する学習済みモデルに10個の定量スコアを入力することで、疾患B~疾患Nのそれぞれについての生体情報を導出する。
【0149】
以上、第3の実施形態に係る診断支援装置10について説明した。第3の実施形態に係る診断支援装置10は、学習済みモデルを用いて、被検体の生体状態を精度良く判定することができる。
【0150】
以上説明した少なくとも1つの実施形態及び変形例によれば、被検体の生体状態を精度良く判定することができる。
【0151】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0152】
10 診断支援装置
13 記憶回路
14 処理回路
14a スコア算出機能
14b 生体状態判定機能
14c 表示制御機能