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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】加水分解卵殻膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/98 20060101AFI20241008BHJP
   A61Q 7/00 20060101ALI20241008BHJP
   A61K 35/57 20150101ALI20241008BHJP
   A61P 3/02 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
A61K8/98
A61Q7/00
A61K35/57
A61P3/02
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020118134
(22)【出願日】2020-07-09
(65)【公開番号】P2022015360
(43)【公開日】2022-01-21
【審査請求日】2023-05-31
(73)【特許権者】
【識別番号】517450703
【氏名又は名称】株式会社バイオアパタイト
(73)【特許権者】
【識別番号】595118582
【氏名又は名称】イフジ産業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】521435802
【氏名又は名称】バイオサイエンステクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100195752
【弁理士】
【氏名又は名称】奥村 一正
(72)【発明者】
【氏名】望月 千尋
(72)【発明者】
【氏名】酒井 有紀
(72)【発明者】
【氏名】柴田 夏代
(72)【発明者】
【氏名】中村 弘一
【審査官】佐々木 典子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-098206(JP,A)
【文献】特開2004-159567(JP,A)
【文献】特開2005-120336(JP,A)
【文献】特開2017-119649(JP,A)
【文献】特開2019-137619(JP,A)
【文献】特開2014-040402(JP,A)
【文献】特開2009-132661(JP,A)
【文献】特開2019-137634(JP,A)
【文献】特開2018-039765(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99、
35/00-36/068
A61Q 1/00-90/00
A61P 3/02
C07B 31/00-63/04
C07C 1/00-409/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽イオン交換樹脂を用いた脱塩処理を行わない加水分解卵殻膜の製造方法であって、
破砕された卵殻膜を電解アルカリ水中で加水分解する加水分解工程と、
前記加水分解工程で加水分解された破砕された卵殻膜を含む電解アルカリ水に酸を添加する酸添加工程と、
前記酸添加工程で得られた水溶液から加水分解卵殻膜の粉末を回収する加水分解卵殻膜回収工程と、を備え、
前記加水分解工程における前記電解アルカリ水は、pH12.5以上、かつ、Naイオンが0.2%以下であることを特徴とする加水分解卵殻膜の製造方法。
【請求項2】
前記酸添加工程で得られた水溶液は、pH5~7.1であることを特徴とする請求項1に記載の加水分解卵殻膜の製造方法。
【請求項3】
前記加水分解工程では、破砕された卵殻膜を含む電解アルカリ水を加熱することを特徴とする請求項1又は2に記載の加水分解卵殻膜の製造方法。
【請求項4】
前記加水分解卵殻膜回収工程は、ポリプロピレンのナノファイバーフィルタで夾雑物を濾過して、加水分解卵殻膜の粉末を回収することを特徴とする請求項1-3のいずれかに記載の加水分解卵殻膜の製造方法。
【請求項5】
前記酸添加工程で破砕された卵殻膜を含む電解アルカリ水に添加する酸は、電解酸性水であることを特徴とする請求項1-4のいずれかに記載の加水分解卵殻膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加水分解卵殻膜の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鶏卵などの卵の卵殻の内側にある卵殻膜を加水分解して得られる加水分解卵殻膜は育毛や健康増進などに有効であるとされている。
【0003】
特許文献1には、鳥類の卵殻膜を蛋白分解酵素で処理して、水溶性卵殻膜を製造する方法が記載されている。
また、特許文献2には、卵殻膜粉末をアルカリ水溶液中で加水分解して、加水分解卵殻膜を製造する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
特許文献1:特公平7-110210号公報
特許文献2:特許第6410229号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のものは、蛋白分解酵素が非常に高価で製造コストが高くなるという問題がある。
また、特許文献2に記載のものに用いるアルカリ水溶液は、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属またはアルカリ土類金属の水溶液であるため、pH12.5以上のアルカリ水溶液を作るのは困難であり、また、Naイオンが多く卵殻膜以外のミネラル分が含まれ、遊離したアミノ酸はNa+と塩を作りやすく、塩分が含まれることで使用できる用途が限定される。また、この塩分を除去するために陽イオン交換樹脂を用いた複雑な工程が必要になるという問題がある。
【0006】
本発明は、上記問題点を解決して、低コスト、かつ、塩分濃度の低い加水分解卵殻膜を製造することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明は、陽イオン交換樹脂を用いた脱塩処理を行わない加水分解卵殻膜の製造方法であって、
破砕された卵殻膜を電解アルカリ水中で加水分解する加水分解工程と、
前記加水分解工程で加水分解された破砕された卵殻膜を含む電解アルカリ水に酸を添加する酸添加工程と、
前記酸添加工程で得られた水溶液から加水分解卵殻膜の粉末を回収する加水分解卵殻膜回収工程と、を備え、
前記加水分解工程における前記電解アルカリ水は、pH12.5以上、かつ、Naイオンが0.2%以下であることを特徴とする加水分解卵殻膜の製造方法を提供するものである。
【0008】
この構成により、電解アルカリ水中で破砕された卵殻膜を加水分解することで、塩分を除去する複雑な工程を経ることなく、低コスト、かつ、塩分濃度の低い加水分解卵殻膜を製造することができる。
【0011】
加水分解卵殻膜の製造方法であって、前記酸添加工程で得られた水溶液は、pH5~7.1である構成としてもよい。
【0012】
この構成により、様々な用途に加水分解卵殻膜を利用できる。
【0013】
加水分解卵殻膜の製造方法であって、前記加水分解工程では、破砕された卵殻膜を含む電解アルカリ水を加熱する構成としてもよい。
【0014】
この構成により、卵殻膜を効率よく加水分解することができる。
【0015】
加水分解卵殻膜の製造方法であって、前記加水分解卵殻膜回収工程は、ポリプロピレンのナノファイバーフィルタで夾雑物を濾過して、加水分解卵殻膜の粉末を回収する構成としてもよい。
【0016】
この構成により、確実に加水分解卵殻膜の粉末を回収することができる。
【0017】
加水分解卵殻膜の製造方法であって、前記酸添加工程で破砕された卵殻膜を含む電解アルカリ水に添加する酸は、酸性電解水である構成してもよい。
【0018】
この構成により、不純物の少ない酸性電解水を用いることで、クリアな加水分解卵殻膜を得ることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の加水分解卵殻膜の製造方法により、低コスト、かつ、塩分濃度の低い加水分解卵殻膜を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の加水分解卵殻膜の製造方法は、次の工程を経ることで、低コスト、かつ、塩分濃度の低い加水分解卵殻膜を製造することができる。
(1)加水分解工程
(2)酸添加工程
(3)加水分解卵殻膜回収工程
【0021】
まず、(1)加水分解工程を説明する。
電解アルカリ水を用意し、この電解アルカリ水の中に細かく破砕された卵殻膜を投入する。電解アルカリ水は、水酸化ナトリウム0.18%アルカリ性を換算した値でpH12.5~13であり、また、含有塩(Naイオン)が0.2%以下である。pH値が低いと卵殻膜を加水分解する時間が長くなったり、加水分解することが困難になったりする場合がある。また、含有塩(Naイオン)が多いと、卵殻膜以外のミネラル分が含まれ、遊離したアミノ酸はNa+と塩を作りやすく、塩分が含まれることで使用できる用途が限定される。また、この塩分を除去するために陽イオン交換樹脂を用いた複雑な工程が必要になるという問題がある。
【0022】
本発明の加水分解卵殻膜の製造方法では、電解アルカリ水を用いて卵殻膜の加水分解を行うため、アルカリ性がpH12.5~13であり、また、含有塩(Naイオン)が0.2%以下であるため上記の問題点を解決して、効率的に卵殻膜の加水分解を行うことができる。
【0023】
卵殻膜を細かく破砕するには、卵殻膜が卵殻に密着している状態で、公知の破砕機により、5~7μmに破砕してから卵殻と卵殻膜とを分離すればよい。細かく粉砕した卵殻膜を電解アルカリ水に投入して数時間撹拌すると卵殻膜が加水分解される。このとき、70~90℃に加熱してもよい。これにより加水分解が加速される。
【0024】
次に、(2)酸添加工程を説明する。
酸添加工程では、(1)加水分解工程で加水分解された卵殻膜粉末を含む電解アルカリ水に酸を添加してpH7.1程度に下げる。酸はクエン酸でもよいし、酸性電解液であってもよい。酸を添加した後のpHは、7.1が最も好ましいが、5~7.1程度であってもよい。
【0025】
次に、(3)加水分解卵殻膜回収工程を説明する。
加水分解卵殻膜回収工程では、水分と水分に含まれる夾雑物を除去することで加水分解卵殻膜を回収することができる。具体的には、酸を添加した水溶液を静置して、沈殿物を除いた上澄み液をとった後、加熱して回収してもよいし、酸を添加した水溶液をフィルタで濾過して夾雑物を除去して回収してもよい。
【実施例1】
【0026】
乾燥した卵殻膜粉末(平均粒径 7μm)1.02gにケミコート社製電解アルカリ水(クリーンシュシュ:pH12.5~13)を12.55g加え、70~75℃の湯煎で時々振り混ぜながら4時間加熱することで加水分解工程を実施した。
【0027】
その後、酸添加工程では、クエン酸を加えてpH7.1とした。そして1晩静置後の上澄み液を取り(6.8g)、湯煎で加熱し溶媒を除去することで加水分解卵殻膜回収工程を実施した。残渣0.07gであった。この淡黄色粉末を卵殻膜加水分解物とした。この粉末は水に溶解した。
【実施例2】
【0028】
乾燥した卵殻膜粉末(平均粒径 7μm)1.02gにケミコート社製電解アルカリ水(クリーンシュシュ:pH12.5~13)を12.55g加え、70~75℃の湯煎で時々振り混ぜながら加水分解工程を実施した。
【0029】
その後、酸添加工程では、酸性電解水を加えてpH7.1とした。そして1晩静置後の上澄み液を取り(6.8g)、湯煎で加熱し溶媒を除去することで加水分解卵殻膜回収工程を実施して、卵殻膜加水分解物を回収した。
【実施例3】
【0030】
乾燥した卵殻膜粉末(平均粒径 7μm)1.02gにケミコート社製電解アルカリ水(クリーンシュシュ:pH12.5~13)を12.55g加え、70~75℃の湯煎で時々振り混ぜながら加水分解工程を実施した。
【0031】
その後、酸添加工程では、クエン酸を加えてpH7.1とした。その後、ポリプロピレンのナノファイバーフィルタで夾雑物を濾過して、加水分解卵殻膜の粉末を回収することで加水分解卵殻膜回収工程を実施した。
【0032】
このように、本発明においては、電解アルカリ水中で卵殻膜粉末を加水分解する加水分解工程と、
前記加水分解工程で加水分解された卵殻膜粉末を含む電解アルカリ水に酸を添加する酸添加工程と、
前記酸添加工程で得られた水溶液から加水分解卵殻膜の粉末を回収する加水分解卵殻膜回収工程と、を備えたことを特徴とする加水分解卵殻膜の製造方法により、高価な蛋白分解酵素を用いることなく、低コスト、かつ、塩分濃度の低い加水分解卵殻膜を製造することができる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明における加水分解卵殻膜の製造方法は、加水分解卵殻膜の製造分野に広く用いることができる。