(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】全固体二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0562 20100101AFI20241008BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20241008BHJP
H01M 10/0585 20100101ALI20241008BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01M10/052
H01M10/0585
H01M4/62 Z
(21)【出願番号】P 2020557782
(86)(22)【出願日】2019-11-27
(86)【国際出願番号】 JP2019046379
(87)【国際公開番号】W WO2020111127
(87)【国際公開日】2020-06-04
【審査請求日】2022-11-16
(31)【優先権主張番号】P 2018225662
(32)【優先日】2018-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100169694
【氏名又は名称】荻野 彰広
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【氏名又は名称】松本 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】田中 一正
(72)【発明者】
【氏名】矢野 知宏
【審査官】井原 純
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-110098(JP,A)
【文献】国際公開第2018/163514(WO,A1)
【文献】特開2012-190588(JP,A)
【文献】特開2006-351326(JP,A)
【文献】国際公開第2019/146413(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
H01M 10/36-10/39
H01M 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極集電体層と正極活物質層とを含む正極層と、
負極集電体層と負極活物質層とを含む負極層と、
固体電解質を含む固体電解質層と、
前記正極層および前記負極層のそれぞれに並んで配置する、固体電解質を含むマージン層と、を有すると共に、前記正極層と前記負極層とが固体電解質を含む固体電解質層を介して交互に積層された積層体を備え、
前記積層体は、前記正極活物質層、前記負極活物質層、前記固体電解質層、及び、前記マージン層の少なくともいずれかの層に、酸化被膜を有する金属粒子を含み、
前記酸化被膜を有する金属粒子は、前記固体電解質層及び前記マージン層に含まれ、
前記酸化被膜の平均厚みが、前記金属粒子の平均粒径に対して0.1%以上10%以下である、全固体二次電池。
【請求項2】
前記積層体の積層方向の両端の表面にも、前記酸化被膜を有する金属粒子を備える、請求項1に記載の全固体二次電池。
【請求項3】
前記酸化被膜を有する金属粒子の平均粒子径が0.1μm~20μmである、請求項1または2のいずれかに記載の全固体二次電池。
【請求項4】
前記酸化被膜の平均厚みが、0.001μm~2μmの範囲内である、請求項1~3のいずれか一項に記載の全固体二次電池。
【請求項5】
前記金属粒子は、銅、ニッケル、銀、白金、鉄、アルミニウム、ビスマス、及びパラジウムから選択される少なくとも1種を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の全固体二次電池。
【請求項6】
前記金属粒子が、全固体二次電池の重量に対して0.1~10重量%含まれる、請求項1~5のいずれか一項に記載の全固体二次電池。
【請求項7】
前記酸化被膜を有する金属粒子は、前記正極活物質層、前記負極活物質層、前記固体電解質層、及び前記マージン層のすべてに含まれる、請求項1~6のいずれか一項に記載の全固体二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体二次電池に関する。
本願は、2018年11月30日に、日本に出願された特願2018-225662号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
近年、エレクトロニクス技術の発達はめざましく、携帯電子機器の小型軽量化、薄型化、多機能化が図られている。それに伴い、電子機器の電源となる電池に対し、小型軽量化、薄型化、信頼性の向上が強く望まれており、固体電解質から成る全固体型のリチウムイオン二次電池が注目されている。
【0003】
一般に、全固体型のリチウムイオン二次電池は、薄膜型とバルク型の2種類に分類される。薄膜型は、PVD法やゾルゲル法などの薄膜技術により、またバルク型は活物質や粒界抵抗の低い硫化物系固体電解質の粉末成型により作製される。しかしながら、薄膜型は活物質層を厚くすることや高積層化することが困難であるため容量が小さく、また製造コストが高いという問題がある。
【0004】
一方、バルク型には硫化物系固体電解質が用いられており、これが水と反応した際に硫化水素が発生するため、大気中での取り扱いが困難であるため、露点の管理されたグローブボックス内で電池を作製する必要があった。また、シート化が困難なため固体電解質層の薄層化や電池の高積層化が課題となっている。
【0005】
大気中で化学的に安定である酸化物系の固体電解質では、積層コンデンサの製造方法を応用することができ、例えば、正極活物質層と正極集電体層からなる正極層、固体電解質層、負極活物質層と負極集電体層からなる負極層を積層した積層型全固体二次電池を製造することができる。たとえば、各部材の構成材料をバインダーと溶媒で混練したスラリーをスクリーン印刷やドクターブレード法により塗布し、シート状に加工して積層し、これを焼成することで積層型の全固体二次電池を製造している(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-192041号公報
【文献】特開2009-181905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、全固体二次電池を構成する材料の熱伝導率が低いため、電池反応による発熱を均一に放熱することができない。そのため積層数の多い積層型全固体二次電池の内部温度は、電池表面温度と不均一になりやすい。したがって、高温部と低温部での電池内部におけるリチウムイオンの移動速度が異なり、特に高温部ではリチウムイオンの移動が促進されるため、高温部での電池の劣化が促進されてしまう問題がある。ひいては優れたサイクル特性が得られにくい。
【0008】
このような全固体二次電池の放熱性の問題に対して、特許文献2では、正極および負極の両極上に形成された集電体に、50vol%以上の空隙を有する層を形成させることで上記問題を解決できることが報告されている。しかし、前記空隙を有する層を形成させた全固体二次電池では、電子伝導性が低下し、所望の充放電容量が得られにくいという課題があった。
【0009】
本発明は、電池反応によって発生する熱について放熱の均一性が高い全固体二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0011】
(1)本発明の態様に係る全固体二次電池は、正極集電体層と正極活物質層とを含む正極層と、負極集電体層と負極活物質層とを含む負極層と、固体電解質を含む固体電解質層と、前記正極層および前記負極層のそれぞれに並んで配置する、固体電解質を含むマージン層と、を有すると共に、前記正極層と前記負極層とが前記固体電解質層を介して交互に積層された積層体を備え、前記積層体は、前記正極活物質層、前記負極活物質層、前記固体電解質層、及び、前記マージン層の少なくともいずれかの層に、酸化被膜を有する金属粒子を含む。
【0012】
(2)上記(1)に記載の全固体二次電池において、前記積層体の積層方向の両端の表面にも、前記酸化被膜を有する金属粒子を備えてもよい。
【0013】
(3)上記(1)又は(2)のいずれかに記載の全固体二次電池において、前記酸化被膜を有する金属粒子の平均粒子径が0.1μm~20μmであってもよい。
【0014】
(4)上記(1)~(3)のいずれかに記載の全固体二次電池において、前記酸化被膜の平均厚みが、前記金属粒子の平均粒径に対して10%以下であって、かつ、0.001μm~2μmの範囲内であってもよい。
【0015】
(5)上記(1)~(4)のいずれかに記載の全固体二次電池において、前記金属粒子は、銅、ニッケル、銀、白金、鉄、アルミニウム、ビスマス、及びパラジウムから選択される少なくとも1種を含んでもよい。
【0016】
(6)上記(1)~(5)のいずれかに記載の全固体二次電池において、前記金属粒子が、全固体二次電池の重量に対して0.1~10重量%含まれてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、電池反応によって発生する熱について放熱の均一性が高い全固体二次電池を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本実施形態に係る全固体二次電池の要部を概略的に示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本実施形態について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、本実施形態の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。
以下の説明において例示される物質、寸法等は一例であって、本実施形態はそれらに限定されるものではなく、本発明の効果を奏する範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0020】
全固体二次電池としては、全固体リチウムイオン二次電池、全固体ナトリウムイオン二次電池、全固体マグネシウムイオン二次電池等が挙げられる。以下、全固体リチウムイオン二次電池を例として説明するが、本発明は全固体二次電池一般に適用可能である。
【0021】
図1は、本実施形態に係る全固体リチウムイオン二次電池の要部を概略的に示す拡大断面図である。
図1に示す全固体リチウムイオン二次電池は、第1電極層と第2電極層と固体電解質とを有する積層体を備える。以下、第1電極層と、第2電極層は、いずれか一方が正極として機能し、他方が負極として機能する。電極層の正負は、外部端子にいずれの極性を繋ぐかによって変化する。以下、理解を容易にするために、第1電極層を正極層とし、第2電極層を負極層として説明する。
【0022】
全固体リチウムイオン二次電池100は、正極集電体層1Aと正極活物質層1Bとを含む正極層1と、負極集電体層2Aと負極活物質層2Bとを含む負極層2と、固体電解質を含む固体電解質層3と、正極層1および負極層2のそれぞれに並んで配置する、固体電解質を含むマージン層4と、を有すると共に、正極層1と負極層2とが固体電解質を含む固体電解質層3を介して交互に積層された積層体5を備え、積層体5は、正極活物質層1B、負極活物質層2B、固体電解質層3、及び、マージン層4に、酸化被膜を有する金属粒子10を含む。
【0023】
正極層1はそれぞれ第1外部端子6に接続され、負極層2はそれぞれ第2外部端子7に接続されている。第1外部端子6と第2外部端子7は、外部との電気的な接点である。
【0024】
(積層体)
積層体5は、正極層1と、負極層2と、固体電解質層3と、マージン層4と、酸化被膜を有する金属粒子10とを有する。
【0025】
積層体5において正極層1と負極層2は、固体電解質層3(より詳細には層間固体電解質層3A)を介して交互に積層されている。正極層1と負極層2の間で固体電解質層3を介したリチウムイオンの授受により、全固体リチウムイオン二次電池100の充放電が行われる。
【0026】
(正極層及び負極層)
正極層1は、正極集電体層1Aと、正極活物質を含む正極活物質層1Bとを有する。負極層2は、負極集電体層2Aと、負極活物質を含む負極活物質層2Bとを有する。
【0027】
正極集電体層1A及び負極集電体層2Aは、導電率が高い少なくとも1つの物質で構成される。導電性が高い物質としては、例えば、銀(Ag)、パラジウム(Pd)、金(Au)、プラチナ(Pt)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、及びニッケル(Ni)の少なくともいずれか一つの金属元素を含む金属又は合金、カーボン(C)の非金属が挙げられる。これらの金属元素のうち、導電性の高さに加えて、製造コストも考慮すると、銅、ニッケルが好ましい。更に、銅は正極活物質、負極活物質及び固体電解質と反応し難い。そのため、正極集電体層1A及び負極集電体層2Aに銅を用いると、全固体リチウムイオン二次電池100の内部抵抗を低減することができる。正極集電体層1Aと負極集電体層2Aを構成する物質は、同一でもよいし、異なってもよい。正極集電体層1A及び負極集電体層2Aの厚さは限定するものではないが、目安を例示すれば、0.5μm以上30μm以下の範囲にある。
【0028】
正極活物質層1Bは、正極集電体層1Aの片面又は両面に形成される。例えば、全固体リチウムイオン二次電池100の積層方向の最上層に位置する正極層1には、積層方向上側において対向する負極層2が無い。そのため、全固体リチウムイオン二次電池100の最上層に位置する正極層1において正極活物質層1Bは、積層方向下側の片面のみにあればよいが、両面にあっても特に問題はない。負極活物質層2Bも正極活物質層1Bと同様に、負極集電体層2Aの片面又は両面に形成される。正極活物質層1B及び負極活物質層2Bの厚さは、0.5μm以上5.0μm以下の範囲にあることが好ましい。正極活物質層1B及び負極活物質層2Bの厚さを0.5μm以上とすることによって、全固体リチウムイオン二次電池の電気容量を高くすることででき、一方、厚さを5.0μm以下とすることによって、リチウムイオンの拡散距離が短くなるため、さらに全固体リチウムイオン二次電池の内部抵抗を低減させることができる。
【0029】
正極活物質層1B及び負極活物質層2Bは、それぞれリチウムイオンと電子を授受する正極活物質または負極活物質を含む。この他、導電助剤、導イオン助剤等を含んでもよい。正極活物質及び負極活物質は、リチウムイオンを効率的に挿入、脱離できることが好ましい。
【0030】
正極活物質層1B又は負極活物質層2Bを構成する活物質には明確な区別がなく、2種類の化合物の電位を比較して、より貴な電位を示す化合物を正極活物質として用い、より卑な電位を示す化合物を負極活物質として用いることができる。そのため、以下、まとめて活物質について説明する。
【0031】
活物質には、遷移金属酸化物、遷移金属複合酸化物等を用いることができる。例えば、遷移金属酸化物、遷移金属複合酸化物としては、リチウムマンガン複合酸化物Li2MnaMa1-aO3(0.8≦a≦1、Ma=Co、Ni)、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、リチウムマンガンスピネル(LiMn2O4)、一般式:LiNixCoyMnzO2(x+y+z=1、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1)で表される複合金属酸化物、リチウムバナジウム化合物(LiV2O5)、オリビン型LiMbPO4(ただし、Mbは、Co、Ni、Mn、Fe、Mg、Nb、Ti、Al、Zrより選ばれる1種類以上の元素)、リン酸バナジウムリチウム(Li3V2(PO4)3又はLiVOPO4)、Li2MnO3-LiMcO2(Mc=Mn、Co、Ni)で表されるLi過剰系固溶体正極、チタン酸リチウム(Li4Ti5O12)、LisNitCouAlvO2(0.9<s<1.3、0.9<t+u+v<1.1)で表される複合金属酸化物等が挙げられる。また、上記複合金属酸化物の他、Li金属、Li-Al合金、Li-In合金、炭素、ケイ素(Si)、酸化ケイ素(SiOx)、チタン酸化物(TiO2)、等の金属、合金、金属酸化物が挙げられる。
【0032】
本実施形態の活物質としては、リン酸化合物を主成分として含むことが好ましく、例えば、リン酸バナジウムリチウム(LiVOPO4、Li3V2(PO4)3、Li4(VO)(PO4)2)、ピロリン酸バナジウムリチウム(Li2VOP2O7、Li2VP2O7)、及びLi9V3(P2O7)3(PO4)2のいずれか一つまたは複数であることが好ましく、特に、LiVOPO4及びLi3V2(PO4)3の一方または両方であることが好ましい。
【0033】
本実施形態における主成分とは、活物質層における活物質全体に対する、リン酸化合物の占める割合が50質量部より大きいことを指し、リン酸化合物の占める割合が80重量部以上であることが好ましい。
【0034】
また、これらの活物質は、各元素の一部を異種元素に置換していたり、化学両論組成から変化していてもよい。LiVOPO4及びLi3V2(PO4)3は、リチウムの欠損がある方が好ましく、LixVOPO4(0.94≦x≦0.98)やLixV2(PO4)3(2.8≦x≦2.95)であればより好ましい。
【0035】
導電助剤としては、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、グラファイト、グラフェン、活性炭等の炭素材料、金、銀、パラジウム、白金、銅、スズ等の金属材料が挙げられる。
【0036】
導イオン助剤としては、例えば、固体電解質である。この固体電解質は、具体的に例えば、固体電解質層3に用いられる材料と同様の材料を用いることができる。
【0037】
導イオン助剤として固体電解質を用いる場合、導イオン助剤と、固体電解質層3に用いる固体電解質とが同じ材料を用いることが好ましい。
【0038】
正極集電体層1A及び負極集電体層2Aは、それぞれ正極活物質及び負極活物質を含んでもよい。それぞれの集電体に含まれる活物質の含有比は、集電体として機能する限り特に限定はされない。例えば、正極集電体/正極活物質、又は負極集電体/負極活物質が体積比率で90/10から70/30の範囲であることが好ましい。
【0039】
正極集電体層1A及び負極集電体層2Aがそれぞれ正極活物質及び負極活物質を含むことにより、正極集電体層1Aと正極活物質層1B及び負極集電体層2Aと負極活物質層2Bとの密着性が向上する。
【0040】
(固体電解質層)
図1に示されるように、固体電解質層3は、正極活物質層1Bと負極活物質層2Bとの間に位置する層間固体電解質層3Aを有する。
また、固体電解質層3は、正極層1(正極集電体層1A)及び負極層2(負極集電体層2A)の少なくとも一方(
図1においては両方)の外側に位置する最外固体電解質層3Bを更に有してもよい。ここで、「外側」とは、積層体5の表面5A、5Bに最も近い正極層1あるいは負極層2の外側を意味する。
なお、固体電解質層3は、最外固体電解質層3Bを有さなくてもよく、この場合、積層体5の表面5A、5Bは、正極層1、負極層2となる。
【0041】
固体電解質層3には、電子の伝導性が小さく、リチウムイオンの伝導性が高い固体電解質材料を用いるのが好ましく、例えばナシコン型、ガーネット型、ペロブスカイト型の結晶構造を有する酸化物系リチウムイオン伝導体等の一般的な固体電解質材料を用いることができる。ナシコン型の結晶構造を有するリチウムイオン伝導体としては、LiとM(Mは、Ti、Zr、Ge、Hf、Snの内の少なくとも1つ)とPとOとを少なくとも含有するナシコン型の結晶構造を有するイオン伝導体、および、LiとZrとLaとOとを少なくとも含有するガーネット型の結晶構造を有するイオン伝導体、もしくはガーネット型類似構造を有するイオン伝導体、および、LiとTiとLaとOとを少なくとも含有するペロブスカイト型構造を有するイオン伝導体の少なくとも1種が挙げられる。つまりは、これらのイオン伝導体を1種類で用いてもよく、2種以上を混ぜて用いてもよい。
【0042】
本実施形態の固体電解質材料として、ナシコン型の結晶構造を有するリチウムイオン伝導体を用いることが好ましく、例えば、LiTi2(PO4)3(LTP)、LiZr2(PO4)3(LZP)、Li1+xAlxTi2-x(PO4)3(LATP、0<x≦0.6))、Li1+xAlxGe2-x(PO4)3(LAGP、0<x≦0.6)、Li1+xYxZr2-x(PO4)3(LYZP、0<x≦0.6)で表される固体電解質材料を含むことが好ましい。
【0043】
また、固体電解質層3を、正極層1及び負極層2に用いられる活物質に合わせて選択することが好ましい。例えば、固体電解質層3は、活物質を構成する元素と同一の元素を含むことがより好ましい。固体電解質層3が、活物質を構成する元素と同一の元素を含むことで、正極活物質層1B及び負極活物質層2Bと固体電解質層3との界面における接合が、強固なものになる。また正極活物質層1B及び負極活物質層2Bと固体電解質層3との界面における接触面積を広くできる。
【0044】
層間固体電解質層3Aの厚さは、0.5μm以上20.0μm以下の範囲にあることが好ましい。層間固体電解質層3Aの厚さを0.5μm以上とすることによって、正極層1と負極層2との短絡を確実に防止することができ、また厚さを20.0μm以下とすることによって、リチウムイオンの移動距離が短くなるため、さらに全固体リチウムイオン二次電池の内部抵抗を低減させることができる。
【0045】
最外固体電解質層3Bの厚さは、特に制限されないが、例えば、層間固体電解質層3Aと同等の厚さ、つまり、0.5μm以上20.0μm以下の範囲にあってもよい。
【0046】
(マージン層)
マージン層4は、固体電解質を含み、正極層1および負極層2のそれぞれに並んで配置する。マージン層4が含む固体電解質は、固体電解質層3が含む固体電解質と同じでも異なっていてもよい。
マージン層4は、層間固体電解質層3Aと正極層1との段差、ならびに層間固体電解質層3Aと負極層2との段差を解消するために設けることが好ましい。したがってマージン層4は、固体電解質層3の主面において、正極層1ならびに負極層2以外の領域に、正極層1または負極層2と略同等の高さで(すなわち、正極層1および負極層2のそれぞれに並んで配置するように)形成される。マージン層4の存在により、固体電解質層3と正極層1ならびに固体電解質層3と負極層2との段差が解消されるため、固体電解質層3と各電極層との緻密性が高くなり、全固体電池の焼成による層間剥離(デラミネーション)や反りが生じにくくなる。
【0047】
マージン層4を構成する材料は、例えば固体電解質層3と同じ材料リン酸チタンアルミニウムリチウムを含むことが好ましい。したがって、リン酸チタンアルミニウムリチウムは、Li1+xAlxTi2-x(PO4)3(0≦x≦0.6)であることが好ましい。また、固体電解質層3は、リン酸チタンアルミニウムリチウム以外の固体電解質材料を含んでいても良い。例えば、Li3+x1Six1P1-x1O4(0.4≦x1≦0.6)、Li3.4V0.4Ge0.6O4、リン酸ゲルマニウムリチウム(LiGe2(PO4)3)、Li2OV2O5-SiO2、Li2O-P2O5-B2O3、Li3PO4、Li0.5La0.5TiO3、Li14Zn(GeO4)4、Li7La3Zr2O12よりなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0048】
(酸化被膜を有する金属粒子)
酸化被膜を有する金属粒子10は、電池反応によって発生した熱を放熱しやすくするものであり、その結果、全固体二次電池の熱分布が均一となり、充放放電反応によるリチウムイオン移動の均一性も向上し、優れたサイクル特性が得られることになる。
【0049】
また、酸化被膜を有する金属粒子10は、絶縁性を有するため短絡することがない。酸化被膜を有さない金属粒子の場合には絶縁性を担保できず、短絡する場合がある。
【0050】
図1に示す全固体リチウムイオン二次電池100では、酸化被膜を有する金属粒子10は、正極活物質層1B、負極活物質層2B、固体電解質層3、及びマージン層4に有するが、正極活物質層1B、負極活物質層2B、固体電解質層3、及びマージン層4のいずれかに有すればよい。
なお、酸化被膜を有する金属粒子10が、正極活物質層1Bと固体電解質層3との界面、あるいは、負極活物質層2Bと固体電解質層3との界面に位置して両層に跨っている場合はその両層に存在するものとする。
放熱の均一性を高めるためには、正極活物質層1B、負極活物質層2B、固体電解質層3、及びマージン層4のすべてに酸化被膜を有する金属粒子10を有することが好ましい。
【0051】
図1に示す全固体リチウムイオン二次電池100ではさらに、積層体の積層方向の両端である表面5A、5Bにも酸化被膜を有する金属粒子10を有する。
図1に示す全固体リチウムイオン二次電池100では、積層体の表面5A及び表面5Bの両方に酸化被膜を有する金属粒子10を有するが、一方にだけ有するものでもよい。
【0052】
積層体の表面5A、5Bに存在する酸化被膜を有する金属粒子10は、好適に電池反応による発熱を外へ放出することができる。
【0053】
酸化被膜を有する金属粒子が積層体の表面に有する態様には特に制限はなく、酸化被膜を有する金属粒子のほぼ全体が表面上に載置する態様でもよいし、酸化被膜を有する金属粒子の一部が表面から露出している態様でもよい。
【0054】
酸化被膜を有する金属粒子の平均粒子径は0.1μm~20μmであることが好ましい。
平均粒子径が0.1μm以上であると、所望の放熱性が得られ、その結果、優れたサイクル特性が得られるからである。また、平均粒子径が20μm以下であると、酸化被膜を有する金属粒子が全固体二次電池に均一に分散させやすく、所望の放熱性が得られやすいからである。
【0055】
酸化被膜を有する金属粒子の平均粒子径の測定方法について説明する。
(全固体二次電池の積層体の内部に酸化被膜を有する金属粒子を含む場合)
全固体二次電池の積層体の内部における、酸化被膜を有する金属粒子を観察するため、例えば、イオンミリング加工、またはクロスセクションポリッシャー(CP)加工によって任意の断面を出し、例えば、反射電子像(COMPO)、X線光電子分光(XPS)、あるいは、電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)の解析によって、酸化被膜を有する金属粒子を特定することができる。次いで、例えば、電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)観察によって、酸化被膜を有する金属粒子の直径を任意の2点間距離によって測長し、所定の測定点数、例えば、n=20の測定点数から酸化被膜を有する金属粒子の平均粒子径を算出することができる。
【0056】
(全固体二次電池の積層体の積層方向の両端の表面に酸化被膜を有する金属粒子を含む場合)
全固体二次電池の積層体の積層方向の両端の表面における酸化被膜を有する金属粒子を観察するため、例えば、COMPO、XPS、EPMAの解析によって、酸化被膜を有する金属粒子を特定し、次いで、例えば、FE-SEM観察によって、酸化被膜を有する金属粒子の直径を任意の2点間距離によって計測し、所定の測定点数、例えば、n=20の測定点数から金属粒子の平均粒子径を算出することができる。
また、全固体二次電池の表面に存在する金属粒子は、光沢をもつため、マイクロスコープ(実体顕微鏡)によっても簡便に判別ができ、同様の方法にて平均粒子径を算出してもよい。
【0057】
酸化被膜の平均厚みは、酸化被膜を有する金属粒子の平均粒子径に対して10%以下であって、かつ、0.001μm~2μmの範囲内であることが好ましい。
酸化被膜の平均厚みが酸化被膜を有する金属粒子の平均粒径に対して10%以下である場合、絶縁性を維持しつつ、優れた放熱性を有するからである。酸化被膜の厚みが0.001μm以上であると、絶縁性を担保でき、短絡することが防止される。また、酸化被膜の平均厚みが2μm以下であると、絶縁性を担保しつつ、金属粒子の放熱性が低下することを回避できる。
「平均厚み」とは、所定の数、例えば、20個の金属粒子のそれぞれについて測定した酸化被膜の厚みの平均を意味する。
【0058】
金属粒子の酸化被膜の厚みは、例えば、XPSのデプスプロファイルにて計測することができる。なお、本発明における「酸化被膜」とは金属酸化物の総称であり、例えば金属粒子がCu粒子である場合、Cu2O、CuO、CuCO3、Cu(OH)2などが含まれる。
【0059】
金属粒子の材料は、銅、ニッケル、銀、白金、鉄、アルミニウム、ビスマス、及びパラジウムから選択される少なくとも1種を含むものであることが好ましい。
銅、ニッケル、銀、白金、鉄、アルミニウム、ビスマス、及びパラジウムは、放熱性に優れるため、サイクル特性に優れた全固体二次電池が得られるからである。
【0060】
金属粒子は全固体二次電池の重量に対して0.1~20重量%含まれることが好ましい。
金属粒子を全固体二次電池の重量に対して0.1重量%以上であると、優れた放熱性を有するため、サイクル特性に優れる。20重量%以下であると、電池の内部抵抗を小さくできるため、サイクル特性に優れると共に、活物質の構成比率の低下が抑制できるので、容量を高く設計することができる。
【0061】
全固体二次電池に含まれる金属粒子の含有量の算出方法について、金属粒子がCu粒子である場合を例に説明する。
全固体二次電池のチップを粉砕し、酸溶液で加熱溶解させる。これを所定量に定容し、更に所定の倍率まで希釈したものを測定用サンプルとする(n=4)。前記測定用サンプルを誘導結合プラズマ発光分光分析装置(島津製作所製、ICPS-8100CL)にて、測定用サンプル(n=4)のCu含有量を測定し、その平均値をCu含有量とする。
ここで、集電体層に含まれるCu含有量を除外するため、酸化被膜を含むCu粒子を添加しなかった全固体二次電池のCu含有量を差し引くことで、集電体層以外の領域に含まれるCu含有量を算出する。
【0062】
(端子)
全固体リチウムイオン二次電池100の第1外部端子6及び第2外部端子7には、導電率が高い材料を用いることが好ましい。例えば、銀(Ag)、金(Au)、プラチナ(Pt)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、スズ(Sn)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)を用いることができる。端子は、単層でも複数層でもよい。
【0063】
(保護層)
また全固体リチウムイオン二次電池100は、積層体5や端子を電気的、物理的、化学的に保護する保護層(図示せず)を積層体5の外周に有してもよい。保護層を構成する材料としては絶縁性、耐久性、耐湿性に優れ、環境的に安全であることが好ましい。例えば、ガラスやセラミックス、熱硬化性樹脂や光硬化性樹脂を用いるのが好ましい。保護層の材料は1種類だけでも良いし、複数を併用してもよい。また、保護層は単層でもよいが、複数層備える方が好ましい。その中でも熱硬化性樹脂とセラミックスの粉末を混合させた有機無機ハイブリットが特に好ましい。
【0064】
(全固体リチウムイオン二次電池の製造方法)
全固体リチウムイオン二次電池100の製造方法は、同時焼成法を用いてもよいし、逐次焼成法を用いてもよい。同時焼成法は、各層を形成する材料を積層し、一括焼成により積層体を作製する方法である。逐次焼成法は、各層を順に作製する方法であり、各層を作製する毎に焼成工程が入る。同時焼成法を用いた方が、全固体リチウムイオン二次電池100の作業工程を少なくすることができる。また同時焼成法を用いた方が、得られる積層体5が緻密になる。以下、同時焼成法を用いる場合を例に説明する。
【0065】
同時焼成法は、積層体5を構成する各材料のペーストを作成する工程と、ペーストを塗布乾燥してグリーンシートを作製する工程と、グリーンシートを積層し、作製した積層シートを同時焼成する工程とを有する。
【0066】
まず積層体5を構成する正極集電体層1A、正極活物質層1B、固体電解質層3、負極活物質層2B、及び負極集電体層2A、マージン層4の各材料をペースト化する。
【0067】
ペースト化の方法は、特に限定されない。例えば、ビヒクルに各材料の粉末を混合してペーストが得られる。ここで、ビヒクルとは、液相における媒質の総称である。ビヒクルには、溶媒、バインダーが含まれる。かかる方法により、正極集電体層1A用のペースト、正極活物質層1B用のペースト、固体電解質層3用のペースト、負極活物質層2B用のペースト、及び、負極集電体層2A用のペースト、マージン層4用のペーストを作製する。
【0068】
酸化被膜を有する金属粒子の作製方法は、特に限定されない。例えば、金属粒子を熱処理温度200~400℃にて、大気、H2O+N2、またはO2雰囲気で酸化処理することにより、作製することができる。金属粒子表面に形成された酸化被膜は例えば、XPSにて確認することができる。1度の酸化処理で所望の膜厚となる酸化被膜が得られない場合は、熱処理温度、熱処理時間、熱処理回数を種々調整することで所望の酸化被膜を有する金属粒子を得ることができる。
得られた酸化被膜を有する金属粒子を、正極集電体層1A用のペースト、正極活物質層1B用のペースト、固体電解質層3用のペースト、負極活物質層2B用のペースト、負極集電体層2A用のペースト、及びマージン層4用のペーストのうちの一又は複数に混ぜることにより、酸化被膜を有する金属粒子を含有する一又は複数のペーストを得ることができる。なお、酸化被膜を有する金属粒子は、焼成後の全固体二次電池の重量に対して、所望の含有量になるようにあらかじめ調整して添加する。
【0069】
次いで、グリーンシートを作製する。グリーンシートは、作製したペーストをPET(ポリエチレンテレフタラート)などの基材上に所望の順序で塗布し、必要に応じ乾燥させた後、基材を剥離し、得られる。ペーストの塗布方法は、特に限定されない。例えば、スクリーン印刷、塗布、転写、ドクターブレード等の公知の方法を採用することができる。
【0070】
積層体5を作製するに際し、以下に説明する正極ユニット及び負極ユニットを準備し、積層体を作製することができる。
【0071】
まずPETフィルム上に固体電解質層3用ペーストをドクターブレード法でシート状に形成し、乾燥して固体電解質層シートを形成する。得られた固体電解質層シート上に、スクリーン印刷により正極活物質層1B用ペーストを印刷、乾燥し、正極活物質層1Bを形成する。
【0072】
次いで、作製された正極活物質層1B上に、スクリーン印刷により正極集電体層1A用ペーストを印刷、乾燥し、正極集電体層1Aを形成する。更にその上に、スクリーン印刷により正極活物質層1B用ペーストを再度印刷し、乾燥する。そして、正極層以外の固体電解質層シートの領域に、マージン層用ペーストをスクリーン印刷し、乾燥することで正極層と略同等の高さのマージン層を形成する。そして、PETフィルムを剥離することで、固体電解質層3の主面に、正極活物質層1B/正極集電体層1A/正極活物質層1Bがこの順で積層された正極層1とマージン層4とが形成された正極ユニットが得られる。
【0073】
同様の手順にて、固体電解質層3の主面に、負極活物質層2B/負極集電体層2A/負極活物質層2Bがこの順に積層された負極層2とマージン層4とが形成された負極ユニットが得られる。
【0074】
そして正極ユニットと負極ユニットを交互にそれぞれの一端が一致しないようにオフセットを行い積層し、全固体電池の積層体が作製される。なお、積層体の積層方向の両端に配置する正極ユニットあるいは負極ユニットについては、固体電解質層3はそれぞれ、最外固体電解質層3Bを用い、その間に配置する正極ユニットあるいは負極ユニットについては、固体電解質層3はそれぞれ、層間固体電解質層3Aを用いる。
【0075】
前記製造方法は、並列型の全固体電池を作製するものであるが、直列型の全固体電池の製造方法は、正極層1の一端と負極層2の一端とが一致するように、つまりオフセットを行わないで積層すれば良い。
【0076】
積層体の積層方向の両端の表面に酸化被膜を有する金属粒子を備えない構成の全固体二次電池を作製したい場合には、最外固体電解質層ペーストに酸化被膜を有する金属粒子を含ませなければよい。
【0077】
さらに、作製した積層体を一括して金型プレス、温水等方圧プレス(WIP)、冷水等方圧プレス(CIP)、静水圧プレスなどで加圧し、密着性を高めることができる。加圧は加熱しながら行う方が好ましく、例えば40~95℃で実施することができる。
【0078】
作製した積層体は、ダイシング装置を用いてチップに切断し、次いで脱バイおよび焼成することにより全固体電池の積層体が製造される。
【0079】
作製した積層体5を、例えば、窒素雰囲気下で600℃~1000℃に加熱し焼成を行うことにより焼結体を得る。焼成時間は、例えば、0.1~3時間とする。還元雰囲気であれば、窒素雰囲気の代わりに、例えば、アルゴン雰囲気、窒素水素混合雰囲気で焼成を行ってもよい。
【0080】
焼成工程の前に、焼成工程とは別の工程として脱バインダー処理を行うことができる。焼成前に積層体5に含まれるバインダー成分を加熱分解することで、焼成工程におけるバインダー成分の急激な分解を抑制することができる。脱バインダー処理は、例えば、窒素雰囲気下で300℃~800℃の範囲の温度で、0.1~10時間にわたって行われる。還元雰囲気であれば、窒素雰囲気の代わりに、例えば、アルゴン雰囲気、窒素水素混合雰囲気で焼成を行ってもよい。
【0081】
焼結体をアルミナなどの研磨材とともに円筒型の容器に入れ、バレル研磨してもよい。
これにより積層体の角の面取りをすることができる。そのほかの方法としてサンドブラストにて研磨しても良い。この方法では特定の部分のみを削ることができるため好ましい。
【0082】
(端子形成)
焼結した積層体5(焼結体)に第1外部端子6と第2外部端子7をつける。第1外部端子6及び第2外部端子7は、正極集電体層1Aと負極集電体層2Aにそれぞれ電気的に接触するよう形成する。例えば、焼結体の側面から露出した正極集電体層1Aと負極集電体層2Aに対しスパッタ法、ディッピング法、スプレーコート法等の公知の手段により形成できる。
所定の部分にのみ形成する場合は、例えばテープにてマスキング等を施してから形成する。
【0083】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。
【実施例】
【0084】
(実施例1~6)
(酸化被膜を有するCu粒子の作製)
実施例1~6に係る酸化被膜を有するCu粒子は、直径1μmのCu粒子を、熱処理温度200℃にて、N2雰囲気で酸化処理した。上述の通り、処理後の粒子をXPS装置(アルバック・ファイ社製、PHI QuanteraII)にて粒子表面に酸化被膜があることを確認し、所望の膜厚が得られるまで条件を調整して、0.01μm厚の酸化被膜を有する金属粒子を作製した。
【0085】
(最外固体電解質層用ペーストの作製)
最外固体電解質層ペーストの作製は、Li1+xAlxTi2-x(PO4)3(0≦x≦0.6)と、酸化被膜を有するCu粒子とを所定の重量比率で混合した後、この粉末100部に対して、溶媒としてエタノール100部、トルエン200部をボールミルで加えて湿式混合した。その後、バインダーとしてポリビニールブチラール系バインダー16部と、可塑剤としてフタル酸ベンジルブチル4.8部をさらに投入し、混合して最外固体電解質層ペーストとして調製した。なお、酸化被膜を有するCu粒子は、焼成後の全固体二次電池の重量に対して、表1に示した含有量になるようにあらかじめ調整して添加した。
この最外固体電解質層用ペーストをドクターブレード法でPETフィルムを基材としてシート成形し、最外固体電解質層シートを得た。最外固体電解質層シートの厚さは15μmとした。
【0086】
(層間固体電解質層用ペーストの作製)
酸化被膜を有するCu粒子を混合しないこと以外は、最外固体電解質層ペーストの作製と同様の方法にて、層間固体電解質層ペーストを作製した。
この層間固体電解質層用ペーストをドクターブレード法でPETフィルムを基材としてシート成形し、層間固体電解質層シートを得た。層間固体電解質層シートの厚さは15μmとした。
【0087】
(正極活物質層用ペーストおよび負極活物質層用ペーストの作製)
正極活物質層用ペースト及び負極活物質層用ペーストは、Li3V2(PO4)3を、所定の重量比率で混合した後、この粉末100部に対して、バインダーとしてエチルセルロース15部と、溶媒としてジヒドロターピネオール65部とを加えて、混合・分散して正極活物質層用ペースト及び負極活物質層用ペーストを作製した。
【0088】
(正極集電体用ペーストおよび負極集電体用ペーストの作製)
正極集電体用ペーストおよび負極集電体用ペーストは、ともに酸化被膜を含まないCuとLi3V2(PO4)3とを体積比率で80/20となるように混合した後、この粉末100部に対し、バインダーとしてエチルセルロース10部と、溶媒としてジヒドロターピネオール50部を加えて混合・分散して正極集電体層用ペースト及び負極集電体層用ペーストを作製した。
【0089】
(電極ユニットの作製)
正極ユニット及び負極ユニットを以下の通り作製した。
上記の固体電解質層シート上に、スクリーン印刷により厚さ5μmで活物質用ペーストを印刷した。次に、印刷した活物質用ペーストを80℃で5分間乾燥し、その上に、スクリーン印刷により厚さ5μmで集電体用ペーストを印刷した。次に、印刷した集電体用ペーストを80℃で5分間乾燥し、更にその上に、スクリーン印刷により厚さ5μmで活物質用ペーストを再度印刷した。印刷した活物質ペーストを80℃で5分間乾燥し、次いでPETフィルムを剥離した。このようにして、固体電解質層シート上に、活物質用ペースト、集電体用ペースト、活物質用ペーストがこの順に印刷・乾燥された電極ユニットのシートを得た。
【0090】
(積層体の作製)
最外固体電解質層3B用の固体電解質層シート5枚を重ね、その上に活物質ユニット50枚(正極ユニット10枚、負極ユニット10枚)を、層間固体電解質層3Aを介するようにして交互に積み重ねた。このとき、奇数枚目の活物質ユニットの集電体ペースト層が一方の端面にのみ延出し、偶数枚目の活物質ユニットの集電体ペースト層が反対側の端面にのみ延出するように、各ユニットをずらして積み重ねた。この積み重ねられたユニットの上に、最外固体電解質層3B用の固体電解質層シート6枚を積み重ねた。その後、これを熱圧着により成形した後、切断して積層チップを作製した。その後、積層チップを同時焼成して積層体5を得た。同時焼成は、窒素雰囲気中で昇温速度200℃/時間で焼成温度840℃まで昇温して、その温度に2時間保持し、焼成後は自然冷却した。
【0091】
(全固体二次電池の作製、及び、評価)
公知の方法により、焼結した積層体(焼結体)に第1外部端子及び第2外部端子をつけて、全固体二次電池を作製した。
第1外部端子及び第2外部端子のそれぞれにリード線を取り付け、充放電試験を行うことで全固体二次電池の初回放電容量及び500サイクル後の容量維持率を測定した。測定条件は、充電及び放電時の電流はいずれも2.0μA、充電時及び放電時の終止電圧をそれぞれ1.6V、0Vとした。その結果を表1に示す。なお、1回目の放電時の容量を初回放電容量とした。また容量維持率は、500サイクル目の放電容量を初回放電容量で割って求めた。
また、評価した全固体二次電池のうち、短絡したものの割合(短絡率)も表1に示す。
【0092】
(比較例1)
比較例1は、最外固体電解質層用ペーストに酸化被膜を有するCu粒子を含めなかった点が実施例1と異なる。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0093】
【0094】
表1中の「酸化被膜の平均厚み」は、20個の金属粒子についてXPS装置のデプス(深さ)プロファイルから測定された酸化被膜の平均厚みである。
表1中の「平均粒子径」は、20個の金属粒子についてFE-SEM装置(日立ハイテクノロジーズ社製、SU8220)から測定された金属粒子の平均粒子径である。
表1中の「酸化被膜の平均厚み比率」は、金属粒子の「平均粒子径」に対する「酸化被膜の平均厚み」の割合である。
表1中の「含有量」は、全固体二次電池の重量に対する金属粒子の重量の割合である。
表1の「短絡率」は、同じ条件で作製した複数の全固体二次電池のうち、作製後、あるいは、充放電サイクル中に短絡した全固体二次電池の割合である。
【0095】
表1の結果から明らかなように、実施例1~6と比較例1とを比較すると、酸化被膜を有するCu粒子を含む実施例1~6のいずれでも、酸化被膜を有するCu粒子を含まない比較例1よりも、初回放電容量及び500サイクル後の容量維持率の双方が向上していた。
【0096】
実施例7~33についても、表2~表5で示した条件が異なる点以外は、実施例1~6と同様にして全固体二次電池を作製した。
【0097】
先ず、酸化被膜を有するCu粒子を含む層が異なる場合について、同様の評価を行った結果を表2に示す。
実施例7~11はそれぞれ、酸化被膜を有するCu粒子を含む層が、最外固体電解質層の場合、正極活物質層の場合、負極活物質層の場合、層間固体電解質層の場合、マージン層の場合、並びに、最外固体電解質層、正極活物質層、負極活物質層、層間固体電解質層、及びマージン層の場合である。
【0098】
【0099】
表2の結果から明らかなように、実施例3及び実施例7~11のうち、実施例3では、酸化被膜を有するCu粒子が最外固体電解質層のみに含まれており、初回放電容量及び500サイクル後の容量維持率のいずれも最も高かった。
【0100】
次に、酸化被膜を有するCu粒子の平均粒子径が異なる場合について、同様の評価を行った結果を表3に示す。なお、酸化被膜を有するCu粒子は、最外固体電解質層のみに含まれるようにした。
【0101】
【0102】
表3の結果から明らかなように、実施例3及び実施例13~15では、酸化被膜を有するCu粒子の平均粒子径が0.1μm~20μmであり、初回放電容量及び500サイクル後の容量維持率が高かった。実施例12では、平均粒子径が0.05μmであり、実施例3,13~15と比較して、初回放電容量が低かった。また、実施例16では、平均粒子径が30μmであり、実施例3,13~15と比較して、初回放電容量が低かった。
【0103】
次いで、酸化被膜を有するCu粒子の酸化被膜の平均厚み比率が異なる場合について、同様の評価を行った結果を表4に示す。また、酸化被膜を有するCu粒子の平均粒子径が0.1μm、1μm、20μmのそれぞれについて、同様の評価を行った結果を同表に示す。なお、酸化被膜を有するCu粒子は、最外固体電解質層のみに含まれるようにした。
【0104】
(比較例2)
また、比較例2として、酸化被膜を有さないCu粒子を最外固体電解質層に有する場合について、同様の評価を行った結果を表4に示す。
【0105】
比較例2では、最外固体電解質層用ペーストにCu粒子を混合する前の段階で、熱処理温度200℃にて、N2+H2混合雰囲気で還元処理し、XPSにて粒子表面に酸化被膜がないことを確認した。1回の還元処理で酸化被膜が還元されない場合は、熱処理温度、熱処理時間、熱処理回数を種々調整することで、酸化被膜を有さないCu粒子を作製した。
【0106】
【0107】
表4の結果から明らかように、実施例13,17,18では、酸化被膜を有するCu粒子の平均粒子径が0.1μmであって、且つ、酸化被膜の平均厚み比率が1%、5%又は10%であると、酸化被膜の平均厚み比率が15%である実施例19と比較して、初回放電容量及び500サイクル後の容量維持率が高かった。同様に、実施例3,20,21では、酸化被膜を有するCu粒子の平均粒子径が1μmであって、且つ、酸化被膜の平均厚み比率が1%、5%又は10%であると、酸化被膜の平均厚み比率が15%である実施例22と比較して、初回放電容量及び500サイクル後の容量維持率が高かった。また、実施例23~25では、酸化被膜を有するCu粒子の平均粒子径が20μmであって、且つ、酸化被膜の平均厚み比率が1%、5%又は10%であると、酸化被膜の平均厚み比率が15%である実施例26と比較して、初回放電容量及び500サイクル後の容量維持率が高かった。
一方、比較例2では、初回放電容量及び500サイクル後の容量維持率は実施例20と同等の結果が得られたものの、5%の割合で短絡が発生していた。
【0108】
酸化被膜を有するCu粒子を、酸化被膜を有する他の金属粒子に変えた場合について、同様の評価を行った結果を表5に示す。
【0109】
【0110】
表5の結果から明らかなように、実施例27~33では、酸化被膜を有する金属粒子を構成する金属種がNi、Fe、Ag、Pt、Al、Bi、又はPdであると、金属種がCuである場合と同程度の初回放電容量及び500サイクル後の容量維持率が得られた。
【符号の説明】
【0111】
1 正極層
1A 正極集電体層
1B 正極活物質層
2 負極層
2A 負極集電体層
2B 負極活物質層
3 固体電解質層
3A 層間固体電解質層
3B 最外固体電解質層
4 マージン層
5 積層体
10 金属粒子