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特許7568523ポリスチレン系樹脂押出発泡板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】ポリスチレン系樹脂押出発泡板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/12 20060101AFI20241008BHJP
   B29C 48/00 20190101ALI20241008BHJP
   B29C 48/07 20190101ALI20241008BHJP
   B29C 48/90 20190101ALI20241008BHJP
   B29C 44/00 20060101ALI20241008BHJP
   B29K 25/00 20060101ALN20241008BHJP
【FI】
C08J9/12 CET
B29C48/00
B29C48/07
B29C48/90
B29C44/00 E
B29K25:00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021007226
(22)【出願日】2021-01-20
(65)【公開番号】P2022111660
(43)【公開日】2022-08-01
【審査請求日】2023-09-06
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 発行者:一般社団法人 発明推進協会 刊行物:発明推進協会公開技報 公技番号:2020-500051 発行日:令和2年1月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000131810
【氏名又は名称】株式会社ジェイエスピー
(74)【代理人】
【識別番号】100218062
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 悠樹
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 利夫
(72)【発明者】
【氏名】橋爪 祥輝
(72)【発明者】
【氏名】笠原 裕佑
(72)【発明者】
【氏名】小暮 直親
【審査官】脇田 寛泰
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2020/0231774(US,A1)
【文献】国際公開第2020/072725(WO,A1)
【文献】特表2020-537007(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第113461893(CN,A)
【文献】国際公開第2015/050139(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/043430(WO,A1)
【文献】特開2010-101530(JP,A)
【文献】特開2010-002105(JP,A)
【文献】国際公開第2018/165623(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0165658(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0367697(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0016379(US,A1)
【文献】国際公開第2017/086176(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C44/00-44/60
48/00-48/96
67/20
C08J9/00-9/42
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリスチレン系樹脂を主成分とする基材樹脂と物理発泡剤とを混練してなる発泡性樹脂組成物を押出、発泡させて成形具により板状に成形する工程を含む、ポリスチレン系樹脂押出発泡板の製造方法であって、
前記物理発泡剤が、1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンからなる発泡剤(a)と、炭素数3~5の飽和炭化水素からなる発泡剤(b)とを含み、
前記物理発泡剤の総添加量が前記基材樹脂1kgに対して0.8~1.5molであり、
前記発泡剤(a)の添加量が前記基材樹脂1kgに対して0.7~1.3molであり、
前記発泡剤(b)の添加量が前記基材樹脂1kgに対して0.1mol以上であり、
前記基材樹脂1kgに対する前記発泡剤(a)の添加量に対する、前記基材樹脂1kgに対する前記発泡剤(b)の添加量の比が0.6以下であることを特徴とするポリスチレン系樹脂押出発泡板の製造方法。
【請求項2】
前記発泡剤(b)の添加量が前記基材樹脂1kgに対して0.4mol未満であることを特徴とする請求項1に記載のポリスチレン系樹脂押出発泡板の製造方法。
【請求項3】
前記発泡剤(a)の添加量が前記基材樹脂1kgに対して0.8molを超え、1.3mol以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリスチレン系樹脂押出発泡板の製造方法。
【請求項4】
前記基材樹脂1kgに対する前記発泡剤(a)の添加量に対する、前記基材樹脂1kgに対する前記発泡剤(b)の添加量の比が0.4以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のポリスチレン系樹脂押出発泡板の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリスチレン系樹脂押出発泡板の製造方法に関し、詳しくは、建築物の壁、床、屋根等の断熱材として好適に使用可能なポリスチレン系樹脂押出発泡板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリスチレン系樹脂押出発泡板(以下、単に「押出発泡板」ともいう)は、優れた断熱性及び機械的強度を有することから断熱材として広く使用されている。このような板状の押出発泡板は、一般に押出機中でポリスチレン系樹脂を加熱溶融した後、得られた溶融物に物理発泡剤を圧入、混練して得られる発泡性溶融樹脂混練物を、押出機先端に付設されたフラットダイ等から低圧域に押出して発泡させ、成形具により板状に成形することにより製造されている。
【0003】
上記押出発泡板の製造に用いられる発泡剤としては、発泡性に優れ、オゾン破壊係数が0で、地球温暖化係数も小さく、断熱性に優れることから、ノルマルブタン、イソブタン等のブタンが用いられている。しかし、これらブタンは極めて燃えやすく、長期間に亘って押出発泡板内に残存して易燃性となるため、ブタンの添加量には上限がある。
【0004】
上記易燃性の問題を解決するために、これまでに、水、二酸化炭素、エーテル、アルコール等の早期散逸性発泡剤をブタンと組み合わせて使用することにより、低見掛け密度であってもブタンの残存量を低く抑えた押出発泡板の製造が行われてきた。さらに、近年、1,3,3,3-テトラフルオロプロペンや1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン等のハイドロフルオロオレフィンが、ブタンや早期散逸性発泡剤と組合わせて用いられている。これらのハイドロフルオロオレフィンは、ポリスチレン系樹脂に対して溶解性を有するとともに発泡性を有するため、低見掛け密度の押出発泡板の製造が可能である。また、ハイドロフルオロオレフィンは、不燃性で、気体状態の熱伝導率が低く断熱性に優れ、長期に亘って押出発泡板内に残存することから、長期断熱性を付与することが可能となる。
【0005】
さらに、ハイドロフルオロオレフィンは、オゾン層破壊係数や地球温暖化係数が非常に小さいため、環境に優しい発泡剤である。そして、これまでに上記ハイドロフルオロオレフィンを用いて製造された押出発泡板として、例えば、特許文献1~3の発泡板が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-82805号公報
【文献】特開2015-229771号公報
【文献】特開2017-95618号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記ハイドロフルオロオレフィンとして、入手容易なものとしては、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(以下、HFO-1234zeともいう)、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(以下、HFO-1233zdともいう)等が挙げられる。
【0008】
これらハイドロフルオロオレフィンの中で、HFO-1234zeは、HFO-1233zdに比べて熱伝導率を低く維持する効果(低熱伝導率化)が優れるものの、ポリスチレン系樹脂に対する溶解度が低いため、HFO-1234zeの添加量が多いと発泡直後にポリスチレン系樹脂から散逸してしまい、低見掛け密度の押出発泡板が得られなくなることがある。
【0009】
一方、HFO-1233zdは、HFO-1234zeに比べて発泡性は優れるものの、HFO-1234zeよりも長期間にわたって押出発泡板の熱伝導率を低く維持させる効果が若干低いため、その配合量や配合割合によっては熱伝導率を低下させる効果への寄与が不十分となることもある。
【0010】
本発明は、ハイドロフルオロオレフィンを含む発泡剤を用いて、発泡性に優れ、良好な外観を有し、発泡板の熱伝導率を低く維持することができるポリスチレン系樹脂押出発泡板の製造方法を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、以下に示すポリスチレン系樹脂押出発泡板の製造方法が提供される。
[1]ポリスチレン系樹脂を主成分とする基材樹脂と物理発泡剤とを混練してなる発泡性樹脂組成物を押出、発泡させて成形具により板状に成形する工程を含む、ポリスチレン系樹脂押出発泡板の製造方法であって、前記物理発泡剤が、1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンからなる発泡剤(a)と、炭素数3~5の飽和炭化水素からなる発泡剤(b)とを含み、前記物理発泡剤の総添加量が前記基材樹脂1kgに対して0.8~1.5molであり、前記発泡剤(a)の添加量が前記基材樹脂1kgに対して0.7~1.3molであり、前記発泡剤(b)の添加量が前記基材樹脂1kgに対して0.1mol以上であり、前記基材樹脂1kgに対する前記発泡剤(a)の添加量に対する、前記基材樹脂1kgに対する前記発泡剤(b)の添加量の比が0.6以下であることを特徴とするポリスチレン系樹脂押出発泡板の製造方法。
[2]前記1の発明のポリスチレン系樹脂押出発泡板の製造方法において、前記発泡剤(b)の添加量が前記基材樹脂1kgに対して0.4mol未満であることを特徴とする。
[3]前記1又は2の発明のポリスチレン系樹脂押出発泡板の製造方法において、前記発泡剤(a)の添加量が前記基材樹脂1kgに対して0.8molを超え、1.3mol以下であることを特徴とする。
[4]前記1から3の発明のポリスチレン系樹脂押出発泡板の製造方法において、前記基材樹脂1kgに対する前記発泡剤(a)の添加量に対する、前記基材樹脂1kgに対する前記発泡剤(b)の添加量の比が0.4以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の製造方法によれば、1-クロロ-2, 3,3,3-テトラフルオロプロペンを主成分とするハイドロフルオロオレフィンとブタン等の飽和炭化水素を特定の割合で添加した発泡剤を用いることにより、発泡性に優れ、良好な外観を有し、長期間経過後の発泡板の熱伝導率を低く維持することができるポリスチレン系樹脂押出発泡板の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のポリスチレン系樹脂押出発泡板の製造方法について詳細に説明する。
本発明の製造方法は、ポリスチレン系樹脂を主成分とする基材樹脂及び物理発泡剤を混練してなる発泡性樹脂組成物を押出し発泡させて、成形具により板状に成形する工程を含む方法により、ポリスチレン系樹脂押出発泡板(以下、単に押出発泡板ともいう)を製造する方法である。
【0014】
具体的には、ポリスチレン系樹脂と必要に応じて添加される他の樹脂からなる基材樹脂と、難燃剤、必要に応じて配合されるその他の添加剤を押出機内で加熱下に溶融、混練し、得られた溶融混練物に特定の発泡剤を圧入し、さらに混練して発泡性樹脂溶融物とし、該発泡性樹脂溶融物を発泡適正温度に調整し、フラットダイを通して高圧の押出機内から低圧域に押出して発泡させ、フラットダイの出口に配置された成形型(例えば、平行あるいは入り口から出口方向に向かって緩やかに拡大するように設置された上下二枚のポリテトラフルオロエチレン樹脂等の板で構成される成形型(ガイダー))や、成形ロール等の賦形装置を通過させることによって板状の押出発泡板が製造される。
【0015】
<基材樹脂>
(ポリスチレン系樹脂)
本発明の製造方法で用いられるポリスチレン系樹脂としては、例えばポリスチレンや、スチレン単位成分を50mol%以上含むスチレン-アクリル酸メチル共重合体、スチレン-アクリル酸エチル共重合体、スチレン-メタクリル酸メチル共重合体、スチレン-メタクリル酸エチル共重合体、スチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸共重合体、スチレン-無水マレイン酸共重合体、スチレン-ポリフェニレンエーテル共重合体、スチレン-アクリロニトリル共重合体、スチレン-メチルスチレン共重合体、スチレン-ジメチルスチレン共重合体、スチレン-エチルスチレン共重合体、スチレン-ジエチルスチレン共重合体等から選択される1種又は2種以上を例示することができる。これらの中では、ポリスチレンを好適に用いることができる。なお、ポリスチレンには、スチレン単位成分以外に、多官能性単量体や多官能性マクロモノマー等の分岐化剤による単位成分が含まれていてもよい。上記共重合体中のスチレン成分単位の含有量は、好ましくは60mol%以上、より好ましくは80mol%以上、さらに好ましくは90mol%以上である。
【0016】
なお、基材樹脂は、押出発泡板の断熱性を高めるために非晶性ポリエチレンテレフタレート系共重合体を含むことが好ましい。この場合、非晶性ポリエチレンテレフタレート系樹脂は、基材樹脂中に5質量%以上50質量%未満となるように配合することが好ましく、より好ましくは10質量%以上40質量%以下、更に好ましくは15質量%以上30質量%以下である。なお、該非晶性ポリエチレンテレフタレート系共重合体においては、JIS K7122に基づく樹脂の融解に伴う融解熱量が5J/g未満である。該融解熱量は、JIS K7122(1987)に記載の「一定の熱処理を行った後、融解熱を測定する場合」(試験片の状態調節における加熱速度と冷却速度は、いずれも10℃/分とする。)を採用し、熱流束示差走査熱量測定装置を使用して得られるDSC曲線に基づいて測定されるものである。
【0017】
また、本発明の製造方法で用いられるポリスチレン系樹脂の溶融粘度は、発泡性や成形性に優れることから、200℃、剪断速度100sec-1の条件下で、500~3000Pa・sであることが好ましく、より好ましくは1000~2500Pa・s、さらに好ましくは1500~2300Pa・sである。
【0018】
(その他の重合体)
前記基材樹脂は、本発明の目的、効果が達成される範囲内において、前記ポリスチレン系樹脂及び前記非晶性ポリエチレンテレフタレート系共重合体以外の重合体を含むことができる。その他の重合体としては、ポリエチレン系樹脂(エチレン単独重合体及びエチレン単位成分含有量が50mol%以上のエチレン系共重合体の群から選択される1種又は2種以上の混合物)、ポリプロピレン系樹脂(プロピレン単独重合体及びプロピレン単位成分含有量が50mol%以上のプロピレン系共重合体の群から選択される1種又は2種以上の混合物)、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリメタクリル酸メチル等の熱可塑性樹脂や、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体水添物、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体水添物、スチレン-エチレン共重合体等の熱可塑性エラストマー等が挙げられる。これらの他の重合体は、基材樹脂中で50質量%未満となるように、好ましくは30質量%以下となるように、より好ましくは10質量%以下となるように、さらに好ましくは5質量%以下となるように、目的に応じて配合することができる。
【0019】
なお、本発明の製造方法において、ポリスチレン系樹脂を主成分とする基材樹脂とは、基材樹脂の50質量%以上がポリスチレン系樹脂であることをいい、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上である。
【0020】
<物理発泡剤>
本発明で用いる物理発泡剤は、少なくとも、1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1224yd)からなる発泡剤(a)と、炭素数3~5の飽和炭化水素からなる発泡剤(b)とを必須の成分として含むものである。
【0021】
発泡剤(a)のHFO-1224yd(1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン)は、ハイドロフルオロオレフィンの中では、ポリスチレン系樹脂に対して適度な溶解性と優れた発泡性を有しており、低見掛け密度の押出発泡板を製造しやすくなる。また、HFO-1224ydは不燃性であるため、押出発泡板製造時の静電気による着火等の危険性を低減させることができる。さらにHFO-1224ydは、オゾン破壊係数が低く、地球温暖化係数も非常に小さく、環境に与える負担が小さい発泡剤である。しかし、HFO-1224ydは、HFO-1234zeと比べ、押出発泡板から逸散しやすく、長期間にわたって押出発泡板の熱伝導率を低く維持することができない。特に、HFO-1224ydの添加量が多くなるとより押出発泡板から逸散しやすくなる傾向がある。本発明においては、HFO-1224ydと炭素数3~5の飽和炭化水素を特定の割合で添加することにより、押出発泡板からのHFO-1224ydの散逸を抑制し、炭素数3~5の飽和炭化水素を添加しない場合と比べ、長期間経過後の押出発泡板の熱伝導率を低く維持することができる。
【0022】
発泡剤(b)の炭素数3~5の飽和炭化水素としては、例えば、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン(2-メチルプロパン)、ノルマルペンタン、イソペンタン(2-メチルブタン)、シクロブタン、ネオペンタン(2,2-ジメチルプロパン)、シクロペンタン等が挙げられる。また、これらを2種以上併用することもできる。これらの中でもイソブタンを好適に用いることができる。
【0023】
(その他の発泡剤)
本発明で用いられる物理発泡剤としては、上記必須の発泡剤(a)及び発泡剤(b)の他、水、二酸化炭素、塩化アルキル、炭素数1~5の脂肪族アルコール、アルキル鎖の炭素数が1~3のジアルキルエーテル及び上記HFO-1224yd以外の炭素数3又は4のハイドロフルオロオレフィンから選択される1種以上のその他の発泡剤を用いることができる。
【0024】
上記その他の発泡剤を発泡剤(a)及び発泡剤(b)と共に用いることにより、得られる押出発泡板の発泡倍率を高くさせて、見掛け密度が小さく、外観の良好な押出発泡板を得ることがより容易に可能となる。
【0025】
水や二酸化炭素は環境負荷の低減を可能とし、押出発泡板から早期に散逸していくため、得られた押出発泡板の寸法を早期に安定させることができる。
【0026】
塩化アルキルとしては、例えば塩化メチル、塩化エチル等が挙げられる。塩化アルキルは、ポリスチレン系樹脂を発泡させやすく、上記発泡剤(a)及び発泡剤(b)と共に用いることにより、所望される見掛け密度の押出発泡板を得ることができる。さらに、塩化アルキルはポリスチレン系樹脂に対する透過速度が速く、押出発泡板の製造後早期に逸散することから、得られた押出発泡板の寸法を早期に安定させることができる。
【0027】
炭素数1~5の脂肪族アルコールは、オゾン層を破壊することがなく、地球を温暖化させることもない上に、押出発泡板から早期に逸散することから、押出発泡板の形状を早期に安定化させることができる。脂肪族アルコールは、発泡剤(a)及び発泡剤(b)と共に用いることにより、低見掛け密度(高発泡倍率)の押出発泡板を得ることに寄与できるものである。
【0028】
炭素数1~5の脂肪族アルコールとしては、例えば、メチルアルコール(メタノール)、エチルアルコール(エタノール)、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、アリールアルコール、クロチルアルコール、プロパギルアルコール、n-アミルアルコール,sec-アミルアルコール,イソアミルアルコール、tert-アミルアルコール、ネオペンチルアルコール、3-ペンタノール、2-メチル-1-ブタノール、3-メチル-2-ブタノール等が挙げられる。これらの中でも、環境、人体への安全性の観点からエタノールを好適に用いることができる。
【0029】
また、本発明においては、上記必須の発泡剤(a)のHFO-1224ydの他、炭素数3又は4のハイドロフルオロオレフィンとして、トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(トランスHFO-1234ze)、シス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(シスHFO-1234ze)、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)、1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテン(HFO-1336mzz)等を用いることができる。なお、これらのハイドロフルオロオレフィンには一部塩素が導入されたハイドロクロロフルオロオレフィンも含まれる。これらの発泡剤は単独でまたは2種以上を用いることもできる。
【0030】
<発泡剤の添加量>
本発明において、物理発泡剤の総添加量は、上記基材樹脂1kgに対して0.8~1.5molである。物理発泡剤の添加量が少なすぎると、得られる押出発泡板の見掛け密度が大きくなり、所望の低見掛け密度の押出発泡板を得ることができない場合がある。また、添加量が多すぎると、見掛け密度が小さくなりすぎて、得られる押出発泡板の強度が低下して、建材用の断熱材として使用できなくなったり、ガススポットが多数発生し、得られる押出発泡板の外観が低下する場合がある。かかる理由により、物理発泡剤の総添加量は0.9molを超えることが好ましく、より好ましくは1mol以上である。また、その上限は、1.4molであることが好ましく、より好ましくは1.35molである。
【0031】
また、発泡剤(a)の添加量は、基材樹脂1kgに対して0.7~1.3molである。発泡剤(a)の添加量が少なすぎると、得られる押出発泡板の見掛け密度が大きすぎて、所望される低見掛け密度の押出発泡板を得ることができないおそれがある。かかる観点から、発泡剤(a)の添加量は基材樹脂1kgに対して0.8molを超えることが好ましく、基材樹脂1kgに対して0.9mol以上であることがより好ましい。なお、発泡剤(a)の添加量が多い条件にて製造が困難な場合には、スクリューの直径に対するスクリューの軸方向長さの比が大きいスクリュー、二軸スクリューなどの高混練タイプのスクリューを必要に応じて使用することにより押出発泡板を製造しやすくなる。また、発泡剤(a)の添加量が多すぎると、ガススポットが多数発生し、得られる押出発泡板の外観が低下するおそれがある。かかる観点から、発泡剤(a)の添加量は基材樹脂1kgに対して1.2mol以下であることが好ましく、基材樹脂1kgに対して1.1mol以下であることがより好ましい。
【0032】
また、発泡剤(b)の添加量は、基材樹脂1kgに対して0.1mol以上である。発泡剤(b)の添加量が少なすぎる場合には、長期経過後の発泡板の熱伝導率が低く維持できないおそれがある。かかる観点から発泡剤(b)の添加量は、基材樹脂1kgに対して0.15mol以上であることが好ましく、基材樹脂1kgに対して0.2mol以上であることがより好ましい。一方、発泡板の外観及び高い難燃性を維持する観点から、発泡剤(b)の添加量は、基材樹脂1kgに対して0.4mol未満であることが好ましく、より好ましくは基材樹脂1kgに対して0.35mol以下、更に好ましくは基材樹脂1kgに対して0.3mol以下である。
【0033】
また、本発明において、基材樹脂1kgに対する発泡剤(a)の添加量に対する、基材樹脂1kgに対する発泡剤(b)の添加量の比が0.6以下である。発泡剤(a)の添加量に対する発泡剤(b)の添加量の比が上記範囲であると、低見掛け密度の発泡板が得らえるとともに、長期経過後の熱伝導率を低く維持することができる。かかる観点から、基材樹脂1kgに対する発泡剤(a)の添加量に対する、前記基材樹脂1kgに対する発泡剤(b)の添加量の比は0.5以下であることが好ましく、0.4以下であることがより好ましく、0.3以下であることがさらに好ましい。一方、該比の下限は概ね0.1である。
【0034】
本発明の製造方法によれば、1-クロロ-2, 3,3,3-テトラフルオロプロペンを主成分とするハイドロフルオロオレフィンとブタン等の飽和炭化水素を特定の割合で添加した発泡剤を用いることにより、長期間経過後の発泡板の熱伝導率を低くすることができる。上記理由は定かではないが、長期間経過後の発泡板の気泡内に存在する発泡剤のmol分率から割り出される気相の熱伝導率が飽和炭化水素を特定の割合で添加したものの方が低く算出されるためと考えられる。
【0035】
発泡剤(a)及び発泡剤(b)以外のその他の発泡剤として、水、二酸化炭素、塩化アルキル、炭素数1~5の脂肪族アルコール、アルキル鎖の炭素数が1~3のジアルキルエーテル及びHFO-1224yd以外の炭素数3又は4のハイドロフルオロオレフィンから選択される1種以上の発泡剤を添加する場合には、基材樹脂1kgに対して、それぞれ0.3mol以下が好ましく、0.2mol以下がより好ましく、0.1mol以下がさらに好ましい。
【0036】
<その他の成分>
(難燃剤)
本発明の製造方法により得られる押出発泡板は、主として建材用の断熱材として使用されるものであり、難燃剤を上記基材樹脂に配合することにより難燃性が付与される。
本発明で用いる難燃剤は特に限定されるものではないが、臭素系難燃剤が好ましい。該臭素系難燃剤としては、臭素化ブタジエン-スチレン系共重合体等の臭素化ブタジエン系重合体、テトラブロモビスフェノール-A-ビス(2,3-ジブロモ-2-メチルプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノール-S-ビス(2,3-ジブロモ-2-メチルプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノール-F-ビス(2,3-ジブロモ-2-メチルプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノール-A-ビス(2,3-ジブロモプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノール-S-ビス(2,3-ジブロモプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノール-F-ビス(2,3-ジブロモプロピルエーテル)に代表される臭素化ビスフェノール化合物、トリス(2,3-ジブロモプロピル)イソシアヌレート、モノ(2,3,4-トリブロモブチル)イソシアヌレート、ジ(2,3,4-トリブロモブチル)イソシアヌレート、トリス(2,3,4-トリブロモブチル)イソシアヌレートに代表される臭素化イソシアヌレート等が挙げられる。これら臭素系難燃剤の1種又は2種以上を混合して使用することができる。
【0037】
また、これら臭素系難燃剤のほかに、クレジルジ2,6-キシレニルホスフェート、三酸化アンチモン、五酸化二アンチモン、硫酸アンモニウム、スズ酸亜鉛、シアヌル酸、ペンタブロモトルエン、イソシアヌル酸、トリアリルイソシアヌレート、メラミンシアヌレート、メラミン、メラム、メレム等の窒素含有環状化合物、シリコーン系化合物、酸化ホウ素、ホウ酸亜鉛、硫化亜鉛等の無機化合物、トリフェニルホスフェートに代表されるリン酸エステル系、赤リン系、ポリリン酸アンモニウム、フォスファゼン、次亜リン酸塩等のリン系化合物等を併用することができる。
【0038】
これら難燃剤の中でも、押出発泡板に高い難燃性を付与できることから、臭素化ブタジエン-スチレン系共重合体、テトラブロモビスフェノールA-ビス(2,3-ジブロモプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノールA-ビス(2,3-ジブロモ-2-メチルプロピルエーテル)、トリス(2,3-ジブロモプロピル)イソシアヌレートの1種又は2種以上を含む難燃剤を使用することが好ましい。また、これらの中でも、高い難燃性が付与でき、かつ押出時にポリスチレン系樹脂を分解させにくく、また、低見掛け密度(高発泡倍率)で、さらに大断面積の場合であっても、安定して押出発泡板を得ることが容易となることから、臭素化ブタジエン-スチレン系共重合体を含む難燃剤、または、テトラブロモビスフェノールA-ビス(2,3-ジブロモプロピルエーテル)とテトラブロモビスフェノールA-ビス(2,3-ジブロモ-2-メチルプロピルエーテル)とを併用した難燃剤を使用することがより好ましい。
【0039】
難燃剤の配合量は、押出発泡板に高度な難燃性を付与できるとともに、押出発泡性の低下及び機械的物性の低下を抑制することもできることから、ポリスチレン系樹脂100質量部に対して概ね0.1~10質量部であり、より好ましくは1~8質量部であり、さらに好ましくは3~7質量部である。この範囲内であれば、難燃剤が発泡性を阻害することなく、JIS A9521:2017の燃焼性試験方法に規定される「試験方法A」記載の押出法ポリスチレンフォーム断熱板を対象とする燃焼性規格のような高度な難燃性が得られる押出発泡板を得ることができる。
【0040】
(難燃助剤)
また、本発明の方法においては、押出発泡板の難燃性をさらに向上させることを目的として、難燃助剤を上記難燃剤と併用することができる。難燃助剤としては、例えば2,3-ジメチル-2,3-ジフェニルブタン、2,3-ジエチル-2,3-ジフェニルブタン、3,4-ジメチル-3,4-ジフェニルヘキサン、3,4-ジエチル-3,4-ジフェニルヘキサン、2,4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン、2,4-ジフェニル-4-エチル-1-ペンテン等のジフェニルアルカンやジフェニルアルケン、ポリ-1,4-ジイソプロピルベンゼン等のポリアルキル化芳香族化合物等から選択される1種又は2種以上を例示することができる。難燃助剤の配合量は、ポリスチレン系樹脂100質量部に対して概ね0.01~1質量部であり、より好ましくは0.05~0.5質量部である。
【0041】
(輻射抑制剤)
本発明の製造方法においては、断熱性を向上させるために、発泡性樹脂組成物に輻射抑制剤としてグラファイトを配合することができる。グラファイトは赤外線を反射することにより、押出発泡板の断熱性を向上させることができる。
【0042】
グラファイトとしては、鱗片状黒鉛、鱗状黒鉛、人造黒鉛、土状黒鉛等が挙げられ、主成分が鱗片状黒鉛であるものを用いることが好ましい。後述するように、グラファイトは、ポリスチレン系樹脂に高濃度で配合されたマスターバッチとして用いることが好ましい。マスターバッチを製造する際の作業性が良好であるとともに、得られる押出発泡板の断熱性向上効果が優れていることから、固定炭素分が90%以上のグラファイトが好ましい。押出発泡板の断熱性を更に高めるために、グラファイトとしては固定炭素分93%以上のものがより好ましく、95%以上のものが更に好ましい。尚、該グラファイトの固定炭素分は、JIS M8511(1976年)記載の方法で測定した値をいう。
【0043】
グラファイトの配合量は、基材樹脂100質量部に対して0.2~10質量部であることが好ましい。該配合量がこの範囲内であると、断熱性が向上し、所望の低熱伝導率の押出発泡板を得ることができる。この観点から、該グラファイトの配合量は押出発泡板の基材樹脂100質量部に対して0.3~5質量部であることがより好ましく、0.4~3質量部であることがさらに好ましい。
【0044】
また、本発明の製造方法においては、断熱性をさらに向上させるために、押出発泡板に上記グラファイト以外の輻射抑制剤を含有させることができる。
グラファイト以外の輻射抑制剤としては、例えば、酸化チタン等の金属酸化物、アルミニウム等の金属、セラミック、カーボンブラック、黒鉛、赤外線遮蔽顔料、ハイドロタルサイト等から選択される1種又は2種以上を例示することができる。グラファイト以外の輻射抑制剤の配合量は、基材樹脂100質量部に対して概ね0.5~5質量部であり、より好ましくは1~4質量部である。
【0045】
また、本発明の方法においては、必要に応じて、基材樹脂に公知のその他の添加剤を適宜配合することができる。その他の添加剤としては、例えば、気泡調整剤、顔料、染料等の着色剤、熱安定剤、充填剤等の各種の添加剤を挙げることができる。
【0046】
(気泡調整剤)
本発明の製造方法においては、基材樹脂に気泡調整剤を配合して、発泡性樹脂組成物を形成することが好ましい。
気泡調整剤としてはタルク、カオリン、マイカ、シリカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、クレー、酸化アルミニウム、ベントナイト、ケイソウ土等の無機物粉末を用いることができる。なかでも気泡径の調整が容易であるとともに、難燃性を阻害することなく気泡径を小さくし易いタルクが好適であり、特に50%粒径(光透過遠心沈降法)が0.1~20μmの細かいタルクが好ましく、0.5~15μmの細かいタルクが好ましい。気泡調整剤の添加量は、調整剤の種類、目的とする気泡径等によっても異なるが、気泡調整剤としてタルクを使用する場合、ポリスチレン系樹脂100重量部当たり0.1~7重量部が好ましく、0.2~5重量部がより好ましく、0.3~3重量部が更に好ましい。
【0047】
(熱安定剤)
熱安定剤は、押出発泡板を製造する際や押出発泡板の端材等をリサイクルしてリペレット化する際などに、原料や端材等に配合することにより上記臭素系難燃剤の熱安定性を向上させることができる。該熱安定剤としては、例えば、DIC製EPICLONシリーズ等のビスフェノール型エポキシ系化合物やノボラック型エポキシ系化合物、(ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート])等のヒンダードフェノール系化合物、(ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトール-ジホスファイト)等のホスファイト系化合物から選択される1又は2以上の熱安定剤が挙げられる。なお、熱安定剤の配合量は、難燃剤の総量100質量部に対して、0.1~40質量部であることが好ましい。
【0048】
本発明の製造方法において、難燃剤やその他の添加剤の基材樹脂への配合方法としては、所定割合の難燃剤やその他の添加剤を基材樹脂と共に押出機上流に設けられている供給部に供給し、押出機中にて混練する方法を採用することができる。その他、押出機途中に設けられた供給部より溶融ポリスチレン樹脂中に難燃剤やその他の添加剤を供給する方法も採用することができる。具体的には、難燃剤、その他の添加剤及び基材樹脂をドライブレンドしたものを押出機に供給して溶融混練する方法、難燃剤、その他の添加剤及び基材樹脂をニーダー等により混練した溶融混練物を押出機に供給する方法、あらかじめ高濃度の難燃剤やその他の添加剤をポリスチレン系樹脂に配合したマスターバッチを作製し、これを押出機に供給して基材樹脂と溶融混練する方法等を採用することができ、特に分散性の観点から難燃剤マスターバッチを作製し、押出機に供給する方法を採用することが好ましい。難燃剤マスターバッチの調整は、基材樹脂としてMFR0.5~30g/10分程度のポリスチレン系樹脂を使用して、マスターバッチ中に難燃剤が10~95質量%含有されるように調整することが好ましく、30~90質量%含有されるように調整することがより好ましく、50~85質量%含有されるように調整することが更に好ましい。
【0049】
本発明の方法においては、以上説明した、基材樹脂、難燃剤等の添加剤及び物理発泡剤を含む溶融した発泡性樹脂組成物を、大気圧下に押出し発泡させて成形具により板状に賦型することにより、ポリスチレン系樹脂押出発泡板を得ることができる。
【0050】
<発泡板の物性>
次に、本発明の製造方法により得られるポリスチレン系樹脂押出発泡板について説明する。
(断面積、寸法等)
また、本発明の押出発泡板は板状である。該押出発泡板は、その押出方向垂直断面積が100cm以上であることが好ましく、200cm以上であることがより好ましい。その断面積の上限は概ね1500cmである。
本明細書において、押出方向垂直断面積とは、押出発泡板の押出方向と直交する断面の面積をいう。
【0051】
本発明の押出発泡板は通常、所望のサイズよりも一回り以上大きなサイズの原板を作製し、原板を切削加工して、幅と長さ、場合によっては厚みを調整することにより製造される。
【0052】
しかし、製造中に原板の幅が大きく変動し、幅が規定よりも狭くなってしまうと、規定のサイズの押出発泡板を得ることができなくなり、歩留まりが悪くなる。また、押出発泡板の製造においては、前述したように、見掛け密度が小さく、断面積が大きいほど発泡が難しくなる傾向がある。本発明の製造方法によれば、厚みが厚く、断面積が大きい押出発泡板を製造する場合であっても、外観が良好な押出発泡板を安定して製造することができる。
【0053】
該押出発泡板は、断熱材として使用される場合、その厚みは10~150mmが好ましく、15mm~120mmがより好ましい。
【0054】
該押出発泡板の幅は、800mm以上であることが好ましく、より好ましくは900mm以上である。その上限は、概ね1200mmである。
【0055】
(見掛け密度)
該押出発泡板の見掛け密度は、20~45kg/mであり、好ましくは30~45kg/mである。見掛け密度が上記範囲であると、十分な機械的強度を有するとともに、軽量性に優れ、例えば断熱材として好適に使用することができる。
【0056】
(独立気泡率)
該押出発泡板の独立気泡率は85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、93%以上であることがさらに好ましい。独立気泡率がこの範囲内であれば、発泡剤(a)及び発泡剤(b)が気泡中に留まりやすくなり、押出発泡板の高い断熱性能を長期に亘って維持することができる。また、圧縮強度等の機械的強度にも優れた押出発泡板とすることができる。
【0057】
(熱伝導率)
(7日後)
本発明の押出発泡板においては、製造7日後における熱伝導率は0.025W/m・K以下が好ましく、より好ましくは0.023W/m・K以下であり、さらに好ましくは0.021W/m・K以下である。
(100日後)
また、製造100日後における熱伝導率は0.027W/m・K以下が好ましく、より好ましくは0.026W/m・K以下であり、さらに好ましくは0.025W/m・K以下である。
(300日後)
また、製造300日後における熱伝導率は0.030W/m・K以下が好ましく、より好ましくは0.028W/m・K以下であり、さらに好ましくは0.026W/m・K以下である。
【0058】
上記熱伝導率は、JIS A1412-2:1999記載の熱流計法(試験体1枚・対称構成方式、高温側38℃、低温側8℃、平均温度23℃)に基づいて測定することができる。具体的な測定方法については実施例で説明する。
【0059】
また、長期熱伝導率は、JIS A1486(2014)に準拠し、熱抵抗の長期変化促進試験の試験方法Aに記載の促進試験を行ったサンプルに対して測定される。この方法によれば、例えば、厚さ25mmの押出発泡板を厚さ10mmにスライスしたサンプルにより、製造後16日後に測定された熱伝導率は、押出発泡板の製造後約100日経過後の熱伝導率に相当し、製造後80日後に測定された熱伝導率は、押出発泡板の製造後約300日経過後の熱伝導率に相当する。
【0060】
(発泡剤の残存量)
本発明の押出発泡板は、上記したように、発泡剤(a)及び発泡剤(b)を用いて押出発泡することにより、押出発泡板中に1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンが特定量残存するものである。本発明における押出発泡板中の発泡剤(a)の残存量は、ガスクロマトグラフを用いて内部標準法により測定される値である。具体的には、押出発泡板のサンプルを適量のトルエンと内部標準物質の入った蓋付き試料ビン中に入れ蓋を閉めた後、充分に撹拌し押出発泡板中の発泡剤(a)をトルエン中に溶解させた溶液を測定用試料としてガスクロマトグラフ分析を行うことにより押出発泡板中の発泡剤(a)の残存量を求めることができる。
【0061】
本発明に係る押出発泡板においては、発泡剤(a)の残存量が、製造後7日経過後において、押出発泡板1kgあたり0.6mol以上、100日経過後において0.5mol以上であることが好ましい。残存量がこの範囲内であれば、発泡剤(a)及び発泡剤(b)が断熱性向上効果を発揮して、断熱性に優れる押出発泡板となる。
本発明に係る押出発泡板においては、製造後7日経過後の発泡剤(a)の残存量に対する製造後100日経過後の発泡剤(a)の残存量の割合(%)が70%以上であることが好ましい。
【0062】
(圧縮強度)
本発明に係る押出発泡板は、製造後7日経過後の圧縮強度が優れる。特に、ポリスチレン系樹脂とともに非晶性ポリエチレンテレフタレート系共重合体を基材樹脂として含む場合において、本発明の発泡剤組成を満足すると圧縮強度が向上する効果が得られる。押出発泡板の圧縮強度の測定は以下のようにして測定される。
JIS K7181(2011)に準拠して、例えば株式会社エー・アンド・デイ製のテンシロン万能材料試験機を用いて、次の方法より測定することができる。押出発泡体の中央部から切り出して得られたスキン層を除く試験片を速度10mm/分で10%圧縮し、応力-歪曲線を得る。得られた応力-歪曲線より10%圧縮時の応力を読み取り、試験片の圧縮面積で割ることにより10%圧縮強度を求める。但し、目標の歪量に達する前に応力―歪曲線が降伏点を示し、降伏点応力が目的の歪量に対応する応力よりも大きい場合は、目的の歪量の圧縮強度は該降伏点応力に基づき算出することとする。本発明における圧縮強度は、押出発泡板の押出方向、幅方向、厚み方向の3方向についてそれぞれ上記測定を行い、その算術平均した値を採用する。
【実施例
【0063】
以下に、実施例により本発明を更に詳細に説明する。但し、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。
【0064】
実施例及び比較例において、以下に示す装置及び原料を用いた。
【0065】
内径115mmの第1押出機と内径180mmの高混練タイプのスクリューを備えた第2押出機を直列に連結し、第1押出機の終端付近に物理発泡剤注入口を設け、間隙1mm×幅440mmの横断面が長方形の樹脂排出口(ダイリップ)を備えたフラットダイを第2押出機の出口に連結した押出装置を用いた。また、第2押出機の樹脂出口には上下一対のポリテトラフルオロエチレン樹脂からなる板が、略一定の間隔を隔てて水平に設置された成形装置(ガイダー)を付設した。
【0066】
(1)基材樹脂
ポリスチレン系樹脂:DIC(株)製ポリスチレン「HP780AN」、溶融粘度(200℃、100sec-1)1900Pa・s
ポリエステル樹脂:三菱ガス化学(株)製スピログリコール変性ポリエチレンテレフタレート「ALTESTER3012」、テレフタル酸100質量%、スピログリコール/エチレングリコール=30質量%/70質量%、溶融粘度(200℃、100sec-1)2000Pa・s
【0067】
(2)物理発泡剤
(a-1)1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1224yd):AGC社製
(a-2)1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HFO-1233zd):ハネウェルジャパン社製
(b)イソブタン:大洋液化ガス社製
(c-1)水
(c-2)エタノール:山一化学工業社製
【0068】
(3)難燃剤
テトラブロモビスフェノールA-ビス(2,3-ジブロモ-2-メチルプロピルエーテル):第一工業製薬「SR-130」/テトラブロモビスフェノールA-ビス(2,3-ジブロモプロピルエーテル):第一工業製薬「SR-720」=60質量%/40質量%の混合難燃剤を82質量%含有する難燃剤マスターバッチ(第一工業製薬(株)製GR-134BG)を用い、該マスターバッチを表中の難燃剤量となるように添加した。
【0069】
(4)気泡調整剤
タルク(松村産業(株)製、製品名「ハイフィラー#12」)
(5)輻射抑制剤
グラファイト(日本黒鉛工業(株)製「CP-N」(鱗片状黒鉛)、一次粒径(d50)=10μm)
酸化チタン(テイカ(株)製「JR-405」、一次粒径(d50)=0.2μm)
【0070】
実施例1~6、比較例1~4
下記表1(実施例1~5、比較例1~3)、表2(実施例6、比較例4)に示す種類、量の基材樹脂、難燃剤マスターバッチ、タルク(気泡調整剤)及び輻射抑制剤を第1押出機に供給し、200℃まで加熱して混練し、第1押出機に設けられた物理発泡剤注入口から、表1、表2に示す種類、量の物理発泡剤を供給し、更に混錬して発泡性樹脂溶融物を形成した。次に、得られた発泡性樹脂溶融物を第2押出機に移送して樹脂温度を調整した後、吐出量400kg/hrでガイダー内に押出し、発泡させながらガイダー内を通過させて板状に成形(賦形)して押出発泡板の厚み30mmの原板を作製し、さらに、切削加工により原板の幅及び長さを調整すると共に、両面の成形スキンを均等に切削して、成形スキンを有しない直方体状のポリスチレン系樹脂発泡板(幅:910mm、長さ:1820mm、厚み:25mm、押出方向に直交する断面の面積:227.5cm)を製造した。
【0071】
【表1】
【表2】
【0072】
実施例、比較例で得られた押出発泡板について、見掛け密度、独立気泡率、熱伝導率(7日後、100日後、300日後)、HFO残存量(7日後、100日後)、HFO残存率、圧縮強度を以下の方法で測定し、燃焼性、外観を以下の基準で評価した。
【0073】
(見掛け密度)
押出発泡板の見掛け密度は、次のようにして求めた。得られた押出発泡板の幅方向の中央部及び両端部付近から縦50mm×横50mm×厚み25mmの直方体の試料を各々切り出して質量を測定し、該質量を体積で割算することにより夫々の試料の見掛け密度を求め、それらの算術平均値を見掛け密度とした。
【0074】
(独立気泡率)
発泡板の独立気泡率は、ASTM-D2856-70の手順Cに従って、空気比較式比重計(東芝ベックマン(株)製、空気比較式比重計、型式:930型)を使用して測定される押出発泡板の真の体積Vxを用いて、下記式(1)から求めた。
【0075】
具体的には、押出発泡板の幅方向の中央部及び幅方向両端部付近の計3箇所からカットサンプルを切り出して、各々のカットサンプルを測定試料とし、各々の測定試料について独立気泡率を測定し、3箇所の独立気泡率の算術平均値を求めた。なお、カットサンプルとして、押出発泡板から縦25mm×横25mm×厚み25mmの大きさに切断されたものを用いた。
【0076】
S(%)=(Vx-W/ρ)×100/(Va-W/ρ) (1)
ただし、式中のVx、Va、W、ρは以下の通りである。
Vx:前記空気比較式比重計による測定により求められるカットサンプルの真の体積(cm)(押出発泡板のカットサンプルを構成する樹脂の容積と、カットサンプル内の独立気泡部分の気泡全容積との和に相当する。)
Va:測定に使用されたカットサンプルの外寸法から算出されたカットサンプルの見掛け上の体積(cm
W:測定に使用されたカットサンプル全質量(g)
ρ:押出発泡板を構成する樹脂組成物の密度(g/cm
【0077】
(製造7日後の熱伝導率)
製造直後の押出発泡板の幅方向の中央部から縦200mm×横200mm×厚み25mmの試験片を切り出し、該試験片を温度23℃、相対湿度50%の恒温恒湿室内に保管し、製造7日後に、JIS A1412-2(1999年)記載の平板熱流計法(熱流計2枚方式、高温側38℃、低温側8℃、平均温度23℃)に基づいて熱伝導率を測定した。
【0078】
(製造100日後、300日後の熱伝導率)
また、製造100日後及び300日後の熱伝導率は、JIS A1486(2014)に準拠し、熱抵抗の長期変化促進試験の試験方法Aを行った押出発泡板に対して熱伝導率の測定を行って得られた値である。具体的には、製造直後の押出発泡板の幅方向の中央部から、縦200mm×横200mm×厚み25mmの直方体を切り出し、さらに両面側から均等に削ることにより縦200mm×横200mm×厚み10mmの試験片を切り出し、温度23℃、相対湿度50%の恒温恒湿室内に保管し、製造16日後(25mm厚みの押出発泡板の製造100日後に相当)及び製造48日後(25mm厚みの押出発泡板の製造300日後に相当)の試験片を用いてJIS A1412-2(1999年)記載の平板熱流計法(熱流計2枚方式、高温側38℃、低温側8℃、平均温度23℃)に基づいて熱伝導率を測定した。
【0079】
(製造7日後のHFO残存量)
製造直後の押出発泡板の幅方向の中央部から200mm×200mm×25mmの試験片を切り出し、該試験片を温度23℃、相対湿度50%の恒温恒湿室内に保管し、製造7日後の試験片から適量のサンプルを切り出し、このサンプルを適量のトルエンと内部標準物質の入った蓋付き試料ビン中に入れ蓋を閉めた後、充分に撹拌し押出発泡板中のHFOをトルエン中に溶解させた溶液を測定用試料としてガスクロマトグラフ分析を行って押出発泡板中のHFO残存量を求めた。
(製造100日後のHFO残存量)
製造直後の押出発泡板の幅方向の中央部から縦200mm×横200mm×厚み25mmの直方体を切り出し、さらに両面側から均等に削ることにより縦200mm×横200mm×厚み10mmの試験片を切り出し、該試験片を温度23℃、相対湿度50%の恒温恒湿室内に保管し、製造16日後(25mm厚みの押出発泡板の製造100日後に相当)の試験片から適量のサンプルを切り出し、このサンプルを適量のトルエンと内部標準物質の入った蓋付き試料ビン中に入れ蓋を閉めた後、充分に撹拌し押出発泡板中のHFOをトルエン中に溶解させた溶液を測定用試料としてガスクロマトグラフ分析を行って押出発泡板中のHFO残存量を求めた。
【0080】
(HFO残存率)
製造7日後のHFO残存量を100日後のHFO残存量で除してHFO残存率とした。
【0081】
(燃焼性)
製造直後の押出発泡板を気温23℃、相対湿度50%の恒温恒湿室内に保管し、製造4週間後に、押出発泡板から試験片を無作為に5個切り出して(N=5)、JIS A9521:2017の燃焼性試験方法に規定される「試験方法A」に基づいて燃焼性を測定し、下記基準により、押出発泡板の難燃性を評価した。
評価基準
○:5個全ての試験片において3秒以内で消える。
×:5個の試験片の平均燃焼時間が3秒を超える。(該当なし)
【0082】
(圧縮強度)
押出発泡板の圧縮強度の測定は以下のようにして行った。JIS K7181(2011)に準拠して、株式会社エー・アンド・デイ製のテンシロン万能材料試験機を用いて、次の方法より行った。押出発泡板の中央部から切り出して得られた試験片(押出方向50mm×幅方向50mm×厚み25mm[スキン層を除く])を速度10mm/分で10%圧縮し、応力-歪曲線を得た。得られた応力-歪曲線より10%圧縮時の応力を読み取り、試験片の圧縮面積(25cm)で割ることにより10%圧縮強度を求めた。押出発泡板の押出方向、幅方向、厚み方向の3方向について、それぞれ上記測定を行い、その算術平均した値を圧縮強度とした。
【0083】
(外観)
外観を、下記の基準により評価した。
◎:発泡状態が良好であり、原板の表面にざらつきやスポット孔などがなく、原板から成形スキンを削ることにより、外観が極めて良好な押出発泡板が安定して得られた。
○:原板の表面の一部にざらつきが見られたが、発泡状態が良好であり、表面にスポット孔がなく、原板の成形スキンを削ることにより、外観が良好な押出発泡板が得られた。×:原板の表面にざらつきやスポット孔などが複数見られ、良好な板状の押出発泡板が得られなかった。
【0084】
上記の結果から、イソブタンを添加しなかった比較例1、4は、実施例1~6に比べて100日後のHFO残存量及びHFO残存率が低く、比較例1は圧縮強度も低いものであった。また、HFO-1224ydの添加量を多くし、イソブタンを添加しなかった比較例2、HFO-1224ydとイソブタンの添加量バランスを本発明の規定外とした比較例3では、押出発泡板の成形性が悪く、外観も表面にざらつきやスポット孔などが複数見られ、良好な押出発泡板が得られなかった。また、比較例2及び比較例3は、良好な押出発泡板が得られなかったため、燃焼性評価、圧縮強度の測定を行わなかった。
これに対して、ポリスチレン系樹脂を主成分とする基材樹脂を用い、物理発泡剤をHFO-1224ydとイソブタンを本発明で規定する範囲内で添加して製造した実施例1~6の押出発泡板は、見掛け密度、熱伝導率、圧縮強度の値、燃焼性、外観の評価全てにおいて良好でバランスのとれたものであった。