(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】回転電機のステータ
(51)【国際特許分類】
H02K 9/19 20060101AFI20241008BHJP
H02K 5/20 20060101ALI20241008BHJP
H02K 9/22 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
H02K9/19 A
H02K5/20
H02K9/22 Z
(21)【出願番号】P 2021055783
(22)【出願日】2021-03-29
【審査請求日】2023-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】新美 彰仁
【審査官】北川 大地
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-322170(JP,A)
【文献】特開2020-120543(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0111043(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 9/19
H02K 5/20
H02K 15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のスロットが形成されたステータコアと、前記複数のスロットに挿入される複数のコイルと、前記ステータコアを固定するとともに、冷媒を流通させる流路が内部に形成されたハウジングと、前記複数のスロットの外部の前記複数のコイルを封止する熱伝導性の封止材と、を備える回転電機のステータであって、
前記ステータコアの軸方向の両端部に配置され、前記封止材に接して前記封止材を覆う
金属製のカバー部材と、を有し、
前記
カバー部材は、前記ハウジングに熱的に接続される
とともに、
前記ハウジングの前記流路と連通する冷媒流路を内部に有する、回転電機のステータ。
【請求項2】
前記封止材は、熱伝導性を有する樹脂材料によって成形された樹脂成形品であり、
前記
カバー部材に、前記樹脂材料を注入するための注入口を有する、請求項1に記載の回転電機のステータ。
【請求項3】
前記
カバー部材は、中心に貫通孔を有し、
前記貫通孔に、前記回転電機のロータの回転軸を支持する軸受を有する、請求項1又は2に記載の回転電機のステータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機のステータ及び回転電機のステータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ステータコアのスロットの外部に配置されるコイルを樹脂材からなるコイル封止体によって封止した回転電機のステータが知られている(例えば、特許文献1、2参照)。コイル封止体は、熱伝導性を有する充填材を含み、内部に冷媒の流路を有するハウジングと熱的に接続している。したがって、ステータは、コイルに発生する熱を、コイル封止体を介してハウジングに伝達し、ハウジングの内部の冷媒によって冷却するように構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第2823412号公報
【文献】特開2019-154191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、コイル封止体は樹脂材からなるため、コイルに発生する熱を必ずしもハウジングに良好に伝達できるものではなかった。そのため、従来技術では、コイルの熱をハウジングの内部の冷媒によって効率的に冷却することができない、という課題がある。
【0005】
本発明は、コイルに発生する熱を、ハウジングに効率良く伝達することができ、ハウジングの内部の冷媒によって効率的に冷却することができる回転電機のステータ及び回転電機のステータの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1) 本発明に係る回転電機のステータは、複数のスロット(例えば、後述のスロット512)が形成されたステータコア(例えば、後述のステータコア51)と、前記複数のスロットに挿入される複数のコイル(例えは、後述のコイル52)と、前記ステータコアを固定するとともに、冷媒を流通させる流路(例えば、後述の冷媒流路21)が内部に形成されたハウジング(例えば、後述のハウジング2,2A)と、前記複数のスロットの外部の前記複数のコイルを封止する熱伝導性の封止材(例えば、後述の封止材54)と、を備える回転電機(例えば、後述の回転電機1,1A,1B)のステータ(例えば、後述のステータ5,5A,5B)であって、前記封止材に接して前記封止材を覆う成形金属(例えば、後述の成形金属55,55A)を有し、前記成形金属は、前記ハウジングに熱的に接続される。
【0007】
(2) 上記(1)に記載の回転電機のステータにおいて、前記封止材は、熱伝導性を有する樹脂材料(例えば、後述の樹脂材料540)によって成形された樹脂成形品であり、前記成形金属に、前記樹脂材料を注入するための注入口(例えば、後述の注入口553)を有してもよい。
【0008】
(3) 上記(1)又は(2)に記載の回転電機のステータにおいて、前記成形金属は、中心に貫通孔(例えば、後述の貫通孔551)を有し、前記貫通孔に、前記回転電機のロータ(例えば、後述のロータ4)の回転軸(例えば、後述の回転軸3)を支持する軸受(例えば、後述の軸受6)を有してもよい。
【0009】
(4) 本発明に係る回転電機のステータの製造方法は、複数のスロット(例えば、後述のスロット512)が形成されたステータコア(例えば、後述のステータコア51)と、前記複数のスロットに挿入される複数のコイル(例えは、後述のコイル52)と、前記ステータコアを固定するとともに、冷媒を流通させる流路(例えば、後述の冷媒流路21)が内部に形成されたハウジング(例えば、後述のハウジング2,2A)と、前記複数のスロットの外部の前記複数のコイルを封止する熱伝導性の封止材(例えば、後述の封止材54)と、を備える回転電機(例えば、後述の回転電機1,1A,1B)のステータ(例えば、後述のステータ5,5A,5B)の製造方法であって、前記複数のコイルとの間に空間(例えば、後述の空間S)を設けて前記複数のコイルを覆うとともに、前記ハウジングに熱的に接続するように成形金属(例えば、後述の成形金属55,55A)を配置する工程と、前記空間に熱伝導性を有する樹脂材料(例えば、後述の樹脂材料540)を注入することによって、前記封止材を成形する工程と、を有する。
【発明の効果】
【0010】
上記(1)によれば、封止材に接する成形金属がハウジンクに熱的に接続されるため、コイルに発生する熱を、成形金属を介してハウジングに効率良く伝達することができ、ハウジングの内部の冷媒によって効率的に冷却することができる。そのため、熱伝導効率が向上した高性能な回転電機のステータを提供することができる。しかも、ステータには、封止材と成形金属とが設けられていることによって、回転電機の絶縁及びコイルの絶縁が確保される。そのため、従来のコイル封止体を廃止することができる。また、従来のコイル封止体を設ける工程の設備の廃止が可能となるため、設備コストを削減することができる。
【0011】
上記(2)によれば、成形金属の注入口から熱伝導性を有する樹脂材料を注入可能であるため、成形金属を、封止材を成形するための金型として利用することができる。そのため、封止材を成形するための専用の金型を廃止することができ、ステータを製造するための設備コストをさらに削減することができる。
【0012】
上記(3)によれば、成形金属にロータの回転軸を支持する軸受が設けられるため、ロータの回転軸を支持するためのモータハウジングを別途用意する必要がない。そのため、部品点数を削減でき、コンパクトな回転電機を構成することが可能である。
【0013】
上記(4)によれば、封止材を覆う成形金属を、封止材を成形するための金型として利用することができる。封止材を成形するための専用の金型を廃止することができるため、ステータを製造するための設備コストを削減することができる。したがって、熱伝導効率が向上した高性能な回転電機のステータを容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る回転電機の構成を模式的に示す断面図である。
【
図2】ステータの成形金属を
図1中のA方向から見た正面図である。
【
図3】ステータの成形金属を
図1中のA方向と反対方向から見た背面図である。
【
図4】本発明の第1実施形態に係る回転電機のステータの製造方法の一工程を説明する図である。
【
図5】本発明の第1実施形態に係る回転電機のステータの製造方法の一工程を説明する図である。
【
図6】本発明の第1実施形態に係る回転電機のステータの製造方法の一工程を説明する図である。
【
図7】本発明の第2実施形態に係る回転電機のステータの構成を模式的に示す断面図である。
【
図8】本発明の第2実施形態に係る回転電機のステータの製造方法の一工程を説明する図である。
【
図9】本発明の第2実施形態に係る回転電機のステータの製造方法の一工程を説明する図である。
【
図10】本発明の第2実施形態に係る回転電機のステータの製造方法の一工程を説明する図である。
【
図11】本発明の第3実施形態に係る回転電機のステータの構成を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態に係る回転電機のステータ及び回転電機のステータの製造方法について図面を参照して詳細に説明する。
【0016】
図1は、本発明の第1実施形態に係る回転電機の構成を模式的に示す断面図である。回転電機1は、ハウジング2と、回転軸3と、ロータ4と、ステータ5と、を備える。例えば、回転電機1は、インナーロータ型であり、3相交流のブラシレスDCモータである。3相は、U相、V相、及びW相である。
【0017】
ハウジング2は、例えば、銅、アルミニウム等の熱伝導性の良い金属材によって、中心軸Cを中心とする円筒状に形成される。ハウジング2は、その内周面2aにステータ5を固定している。ハウジング2の内部には、冷媒を流通させる冷媒流路21が形成されている。冷媒流路21は、例えば、ハウジング2の周方向に沿って形成され、冷媒を周方向に流通させる。冷媒は、例えば、冷却水、冷却ガス等である。なお、回転電機1において、周方向は、中心軸Cの回転方向に沿う方向である。軸方向は、中心軸Cの長さ方向に沿う方向である。径方向は、中心軸Cを中心とする放射方向に沿う方向である。
【0018】
ハウジング2の内周面2a上には、後述する3相線取り出し口53を位置決めする凹溝22が形成されている。凹溝22は、ハウジング2とコイル52との間を避けて3相線取り出し口53を位置決めし得る位置に設けられる。詳しくは、この位置は、径方向から見て、3相線取り出し口53とコイル52とが重なり合わない位置である。
【0019】
回転軸3は、ロータ4に取り付けられ、図示しないモータハウジング等に、中心軸Cの周りに回転可能に支持される。回転軸3は、回転電機1の外部において、図示しない他の機器に接続される。
【0020】
ロータ4は、回転軸3の外周に設けられる円筒状のロータコア41と、ロータコア41に取り付けられる図示しない界磁用の複数の永久磁石と、を有する。
【0021】
ステータ5は、ステータコア51と、複数のコイル52と、3相線取り出し口53と、封止材54と、成形金属55と、を有する。
【0022】
ステータコア51は、例えば、中心軸Cに平行な軸方向に積層される複数枚の電磁鋼板によって円環状に形成される。ステータコア51の外径は、ハウジング2の内径に略等しい。ステータコア51は、中心軸Cを中心とする貫通孔511を有するとともに、内周側に放射状に配列される複数のスロット512を有する。スロット512は、いわゆるオープンスロットであり、それぞれステータコア51の軸方向に貫通するとともに、貫通孔511に向けて開口している。ロータ4は、ステータコア51の貫通孔511に挿入され、中心軸Cの周りに回転可能に配置される。
【0023】
複数のコイル52は、3相のコイルからなる。コイル52は、スロット512に挿入されるとともに、スロット512からステータコア51の軸方向の両外側にそれぞれ突出する。各相のコイル52の両端のうち第1端は、例えば、Y結線における中性点用の接続端であり、相互に接続されている。各相のコイル52の両端のうち第2端は、入出力用の接続端であり、後述する3相線取り出し口53の各相の端子部材531に接続される。なお、本実施形態のハウジング2の軸方向の長さは、ステータコア51に装着されるコイル52の軸方向の長さよりも長い。
【0024】
3相線取り出し口53は、例えば、電気絶縁性の樹脂等の絶縁材料により成形され、ハウジング2の内周面2aに位置決めされて固定される。3相線取り出し口53は、3相のコイル52の入出力用の接続端と接続される端子部材531を有する。3相の端子部材531は、3相線取り出し口53の内部に固定され、少なくとも各相のコイル52の接続端に接続される端子が3相線取り出し口53の外部に突出している。
【0025】
3相線取り出し口53は、ハウジング2に対する位置決め用の突出部532を有する。突出部532は、3相線取り出し口53の表面から突出して設けられ、ハウジング2の凹溝22に挿入されることによって、3相線取り出し口53をハウジング2に対して位置決めする。これによって、3相線取り出し口53は、径方向から見て、複数のコイル52と重なり合わないように、ハウジング2の内周面2aに位置決めされる。
【0026】
封止材54は、スロット512の外部において複数のコイル52とハウジング2との間に設けられるモールド部材である。詳しくは、封止材54は、所望の電気絶縁性及び熱伝導性を有する樹脂材料540(
図6参照)を用いて成形された樹脂成形品である。樹脂材料540は、例えば、ポリフェニレンサルファイド(PPS)又はポリカーボネート(PC)等の樹脂に、アルミナ粉末又は窒化ケイ素粉末等の熱伝導性を有するフィラーが分散配置された樹脂材料によって構成される。
【0027】
封止材54の外形は、例えば、円環状に形成されている。封止材54は、例えば、スロット512から軸方向の外部に突出したコイル52(コイルエンド部)の表面に接してコイル52を覆うとともに、ステータコア51の少なくとも軸方向の端面51aを覆うように設けられる。封止材54は、ハウジング2に位置決める3相線取り出し口53の少なくとも一部を覆うことによって、3相線取り出し口53をハウジング2に固定している。また、封止材54の成形時にスロット512内に流入する樹脂材料540は、スロット512内に配置されるコイル52を封止する。
【0028】
成形金属55は、例えば、ハウジング2と同様の銅、アルミニウム等の熱伝導性の良い金属板によって形成されるカバー部材であり、ステータコア51においてコイル52を覆う封止材54の外側をさらに覆っている。成形金属55は、ステータ5の軸方向の両端に1つずつ設けられる。
【0029】
成形金属55は、
図2及び
図3に示すように、ステータコア51を軸方向から見た外形形状に近似して、中央にステータコア51の貫通孔511と同芯状の貫通孔551を有する円筒状に形成されるとともに、ステータコア51の端面51aに対向する面に、コイル52を収容する環状の凹部552を有する。凹部552は、貫通孔551の外側に貫通孔551と同芯状に設けられる。凹部552は、コイル52との間に所定の空間、具体的には、後述するように樹脂材料540を充填する空間Sを形成し得る外径、内径及び深さを有する。
【0030】
成形金属55は、封止材54と接している。すなわち、封止材54は、スロット512から突出するコイル52の外表面、ステータコア51の軸方向の端面51a、及び成形金属55の内面にそれぞれ密接している。しかし、成形金属55は、コイル52とは直に接触しておらず、封止材54を介して所定の距離で離隔している。そのため、成形金属55とコイル52との間に地絡が発生するおそれはない。
【0031】
成形金属55には、凹部552内と成形金属55の外部とを連通させ、外部から封止材54を凹部552内に注入するための複数の注入口553が設けられる。なお、3相線取り出し口53が配置される側(
図1における左側)の成形金属55には、3相線取り出し口53との干渉を避けて、3相線取り出し口53を成形金属55から軸方向に突出させるための切り欠き部554が設けられる。
【0032】
成形金属55の外周面55aは、
図1に示すように、ハウジング2の内周面2aに直に接している。成形金属55とハウジング2とは、いずれも熱伝導性の良い金属材によって形成されるため、成形金属55がハウジング2に直に接していることによって、成形金属55はハウジング2に熱的に接続される。成形金属55とハウジング2との間の熱伝導効率は、樹脂材料からなる封止材54とハウジング2とが熱的に接続される場合に比べて遥かに高いため、
図1中の矢印で示すように、コイル52の熱は、封止材54を介して熱伝導性の高い成形金属55に速やかに伝達された後、ステータコア51からハウジング2に伝達される熱と同様に、成形金属55からハウジング2に効率良く伝達され、ハウジング2の冷媒流路21内の冷媒の冷熱と熱交換される。これによって、コイル52は効率的に冷却される。
【0033】
しかも、ステータ5には、封止材54と成形金属55とが設けられていることによって、回転電機1の絶縁及びコイル52の絶縁が確保される。そのため、従来のコイル封止体を廃止することができる。また、従来のコイル封止体を設ける工程の設備の廃止が可能となるため、設備コストも削減される。
【0034】
また、スロット512から突出するコイル52を冷却するために別途の冷却機構を設ける必要がないため、回転電機1の構造の煩雑化、回転電機1の大型化、及びコストの増加が避けられる。
【0035】
本実施形態の成形金属55は、注入口553を有するため、注入口553から樹脂材料540を注入可能である。そのため、後述するように、成形金属55を、封止材54を成形するための金型として利用することができる。これによって、封止材54を成形するための専用の金型を廃止することができ、ステータ5を製造するための設備コストをさらに削減することができる。
【0036】
また、成形金属55は、封止材54を介してコイル52を完全に固定することができるため、ワニスによるコイル52の固定及び粉体塗装等によるコイル52の処理も不要にすることができる。さらに、成形金属55とハウジング2とに同じ金属材料を使用することによって、成形金属55とハウジング2との線膨張差に起因する封止材54の破損リスクを低減することができる。
【0037】
次に、第1実施形態に係る回転電機1のステータ5の製造方法について
図4~
図6を用いて説明する。
図4~
図6は、それぞれ第1実施形態に係る回転電機1のステータ5の製造方法の一工程を説明する図である。
【0038】
先ず、
図4に示すように、ハウジング2の内側に、ステータコア51と3相線取り出し口53とを挿入する。ハウジング2の内部には、予め冷媒流路21が形成され、ステータコア51のスロット512には、予め複数のコイル52が挿入される。ステータコア51の中心とハウジング2の中心とは、いずれも中心軸Cに沿って配置される。
【0039】
なお、ハウジング2の内周面2aには、ステータコア51を突き当てて位置決めする位置決め突部23が設けられている。位置決め突部23は、ハウジング2の内周面2aにおいて、例えば、ハウジング2の周方向に沿って環状に設けられる。
【0040】
ステータコア51がハウジング2の内側に
図4中の左から右に向けて挿入されると、挿入方向の前方側のステータコア51の端面51aが位置決め突部23に当接して停止する。これによって、ステータコア51は、ハウジング2の内周面2aに接した状態で、ハウジング2の内側の所定の位置に位置決めされる。位置決めされたステータコア51は、例えば焼き嵌めによってハウジング2の内側に固定される。
【0041】
ハウジング2の内周面2aの凹溝22は、位置決め突部23によって位置決めされたステータコア51の挿入方向の後方側(
図4における左側)に配置されている。ステータコア51がハウジング2の内側に位置決めされた後、3相線取り出し口53の突出部532が凹溝22に挿入される。これによって、3相線取り出し口53は、ハウジング2とコイル32との間を避けて、ハウジング2に位置決めされる。位置決めされた3相線取り出し口53の各相の端子部材531は、例えば溶接等によって各相のコイル52と電気的に接続される。
【0042】
次に、
図5に示すように、ハウジング2の内側に成形金属55を圧入する。成形金属55は、凹部552をステータコア51の側に向けて、ステータコア51の軸方向の両端側からそれぞれ圧入される。これによって、ステータコア51のスロット512の外部に突出するコイル52は、成形金属55の凹部552内に収容されて覆い隠される。詳しくは、ステータコア51のスロット512の外部に突出するコイル52の内周面、外周面、及び軸方向の端面が、成形金属55の凹部552内に収容されて覆われる。成形金属55は圧入されることによってハウジング2の内側に挿入されるため、成形金属55の外周面55aは、ハウジング2の内周面2aに密接する。これによって、成形金属55は、ハウジング2の内側に、ハウジング2に対して熱的に接続されて配置される。
【0043】
ハウジング2の内周面2aには、ステータコア51を位置決めする位置決め突部23が設けられているため、ハウジング2の内側へのステータコア51の挿入方向の前方側(
図4及び
図5における右側)に挿入される成形金属55(以下、「右側の成形金属55」という。)は、ハウジング2の内側に挿入された後、位置決め突部23に当接して停止する。これによって、右側の成形金属55は、位置決め突部23を挟んでステータコア51の前方側の端面51aに対向するように配置されて位置決めされる。したがって、右側の成形金属55は、ステータコア51とは直に接触せず、位置決め突部23の軸方向の幅以上の間隙を有して、ステータコア51及びコイル52から離隔して配置される。
【0044】
一方、ハウジング2の内周面2aには、ハウジング2の内側へのステータコア51の挿入方向の後方側(
図4及び
図5における左側)に挿入される成形金属55(以下、「左側の成形金属55」という。)を位置決めするための位置決め段部24が設けられている。位置決め段部24は、位置決め突部23によって位置決めされたステータコア51よりも挿入方向の後方側のハウジング2の内周面2aの内径を僅かに大径に形成することによって設けられる。位置決め段部24は、ステータコア51の挿入方向の後方側に、ステータコア51の後方側の端面51aから、位置決め突部23の軸方向の幅と同じ距離だけ離れた位置に配置される。したがって、左側の成形金属55は、ハウジング2の内側に挿入された後、位置決め段部24に当接して停止する。これによって、左側の成形金属55は、位置決め段部24を挟んでステータコア51の後方側の端面51aに対向するように配置されて位置決めされる。したがって、左側の成形金属55も、ステータコア51とは直に接触せず、位置決め段部24に当接することによって、ステータコア51及びコイル52から離隔して配置される。
【0045】
なお、左側の成形金属55は切り欠き部554を有するため、3相線取り出し口53は、左側の成形金属55の挿入時に干渉することなく、切り欠き部554を挿通して成形金属55の外部に露出する。
【0046】
次に、
図6に示すように、図示しない注入装置のノズルを成形金属55の注入口553に接続し、注入口553を通して成形金属55の凹部552内に封止材54の材料である熱伝導性を有する樹脂材料540を注入する。成形金属55は、位置決め突部23及び位置決め段部24に突き当たることによって、ステータコア51の端面51a及びコイル52から所定の距離で離隔しているため、成形金属55とステータコア51及びコイル52との間に、凹部552を介して注入口553と連通する所定の空間Sが形成されている。注入口553から樹脂材料540を注入すると、空間Sは樹脂材料540によって満たされる。
【0047】
その後、空間Sに満たされた樹脂材料540は、成形金属55を金型として利用することによって、所定の条件下で成形されて、成形金属55の内側に、コイル52を覆うとともに成形金属55と密接する封止材54が形成される。注入口553は、必要に応じて、図示しない栓部材によって塞がれる。これによって、
図1に示すステータ5が製造される。
【0048】
この製造方法によれば、封止材54を覆う成形金属55を、封止材54を成形するための金型として利用することができる。封止材54を成形するための専用の金型を廃止することができるため、ステータ5を製造するための設備コストを削減することができる。
【0049】
図7は、第2実施形態に係る回転電機1Aのステータ5Aの構成を模式的に示す断面図である。第1実施形態に係る回転電機1のステータ5と同一符号の部位は同一構成の部位を示すため、それらの詳細な説明は上記説明を援用し、以下の説明では省略する。なお、
図7に示す回転電機1Aにおいて、ロータは図示を省略している。
【0050】
図7に示すように、ハウジング2Aの軸方向の長さは、ステータコア51の軸方向の長さよりも長いが、ステータコア51に装着されるコイル52の軸方向の長さよりも短い。第2実施形態のハウジング2Aは、第1実施形態のハウジング2と同様に、内部に冷媒流路21を有する。しかし、第2実施形態のハウジング2Aの冷媒流路21は、ハウジング2Aの軸方向の両端面2b,2cに開口している点で、第1実施形態のハウジング2の冷媒流路21と相違する。
【0051】
第2実施形態の成形金属55Aは、第1実施形態の成形金属55と同様に、コイル52を覆う封止材54の外側をさらに覆っている。しかし、この成形金属55Aは、ステータコア51よりも大径であり、ハウジング2Aの外径と同径に形成されている点で、第1実施形態の成形金属55と相違する。成形金属55Aは、封止材54の外側を覆うとともに、ハウジング2Aの端面2b,2cを覆っている。成形金属55Aの内端面55bは、ハウジング2Aの端面2b,2bに当接している。
【0052】
成形金属55Aの内部には、冷媒流路555が形成されている。冷媒流路555は、成形金属55Aの内端面55bに開口し、ハウジング2Aの冷媒流路21に、Oリング等のシール材557を介して連通している。成形金属55Aは、ハウジング2Aの端面2b,2bに、それぞれ複数のボルト500によって固定される。
【0053】
なお、
図7における左側の成形金属55Aに設けられる切り欠き部554の内面には、凹溝556が設けられている。3相線取り出し口53の突出部532は、この凹溝556に挿入されることによって、成形金属55Aを介して位置決めされる。また、成形金属55Aの注入口553は、冷媒流路555と連通しないように、冷媒流路555を貫通して設けられている。
【0054】
この第2実施形態に係る回転電機1Aのステータ5Aも、第1実施形態の回転電機1のステータ5と同様の効果が得られる。これに加えて、第2実施形態に係る回転電機1Aのステータ5Aによれば、成形金属55Aの内部にも冷媒流路555が設けられるため、コイル52の冷却効率が格段に向上する。
【0055】
次に、第2実施形態に係る回転電機1Aのステータ5Aの製造方法について
図8~
図10を用いて説明する。
図8~
図10は、それぞれ第2実施形態に係る回転電機1Aのステータ5Aの製造方法の一工程を説明する図である。
【0056】
先ず、
図8に示すように、ハウジング2Aの内側に、ステータコア51と3相線取り出し口53とを挿入する。ハウジング2Aの内周面2aには、ステータコア51を突き当てて位置決めする位置決め突部25が設けられている。位置決め突部25は、ハウジング2Aの内周面2aにおいて、例えば、ハウジング2Aの周方向に沿って環状に設けられる。
【0057】
ステータコア51がハウジング2Aの内側に
図8中の左から右に向けて挿入されると、挿入方向の前方側のステータコア51の端面51aが位置決め突部25に当接して停止する。これによって、ステータコア51は、ハウジング2Aの内周面2aに接した状態で、ハウジング2Aの内側の所定の位置に位置決めされる。位置決めされたステータコア51は、例えば焼き嵌めによってハウジング2Aの内側に固定される。
【0058】
3相線取り出し口53の各相の端子部材531は、例えば溶接等によって各相のコイル52と電気的に接続される。
【0059】
次に、
図9に示すように、ハウジング2Aの両端面2b,2bに、ハウジング2Aの冷媒流路21と成形金属55Aの冷媒流路555とが連通するように、シール材557を介して成形金属55Aを当接させ、ボルト500によって一体に締結して固定する。これによって、成形金属55Aは、ハウジング2に対して熱的に接続されて配置される。ステータコア51のスロット512の外部に突出するコイル52は、成形金属55Aの凹部552内に収容されて覆い隠される。なお、成形金属55Aは、コイル52及びステータコア51とは直に接触せず、所定の間隙で離隔している。
【0060】
3相線取り出し口53の突出部532は、左側の成形金属55Aの凹溝556に挿入される。これによって、3相線取り出し口53は、ハウジング2Aとコイル32との間を避けて、成形金属55Aに位置決めされる。
【0061】
次に、
図10に示すように、図示しない注入装置のノズルを成形金属55Aの注入口553に接続し、注入口553を通して成形金属55Aの凹部552内に封止材54の材料である熱伝導性を有する樹脂材料540を注入する。これによって、成形金属55Aとステータコア51及びコイル52との間の空間Sが樹脂材料540によって満される。その後、空間Sに満たされた樹脂材料540は、成形金属55Aを金型として利用することによって、所定の条件下で成形されて、成形金属55Aの内側に、コイル52を覆うとともに成形金属55Aと密接する封止材54が形成される。これによって、
図7に示すステータ5Aが製造される。
【0062】
この製造方法によれば、第1実施形態と同様に、封止材54を覆う成形金属55Aを、封止材体54を成形するための金型として利用することができるため、封止材54を成形するための専用の金型を廃止することができ、ステータ5Aを製造するための設備コストを削減することができることに加えて、コイル52の冷却効率がさらに向上したステータ5Aを効率良く製造することができる。
【0063】
図11は、第3実施形態に係る回転電機1Bのステータ5Bを模式的に示す断面図である。第1実施形態に係る回転電機1のステータ5と同一符号の部位は同一構成の部位を示すため、それらの詳細な説明は上記説明を援用し、以下の説明では省略する。
【0064】
第3実施形態のステータ5Bは、第2実施形態のステータ5Aと同様の構成を有するが、成形金属55Aの貫通孔551に、ロータ4の回転軸3を支持する軸受6がそれぞれ設けられる点で、第2実施形態のステータ5Aと相違する。
【0065】
軸受6は、金属材からなる剛体である成形金属55Aによって支持されるため、ロータ4の回転軸3を安定して回転可能に支持することができる。ロータ4の回転軸3を支持するためのモータハウジングを別途用意する必要がないため、部品点数を削減でき、コンパクトな回転電機1Bを構成することが可能である。なお、軸受6は、第1実施形態のステータ5の貫通孔551に設けられてもよい。
【0066】
なお、上述した実施形態において、ハウジング2及び成形金属55Aに凹溝22,556が設けられ、3相線取り出し口53に凹溝22,556に挿入される突出部532が設けられているが、これに限定されない。例えば、ハウジング2及び成形金属55Aに突出部が設けられ、3相線取り出し口53に凹溝が設けられてもよい。
【0067】
上述した実施形態において、スロット512は、径方向内方の端部が閉塞された、いわゆるクローズドスロットであってもよい。
【符号の説明】
【0068】
1,1A,1B 回転電機
2,2A ハウジング
21 冷媒流路
3 回転軸
4 ロータ
5,5A,5B ステータ
51 ステータコア
512 スロット
52 複数のコイル
54 封止材
540 樹脂材料
55,55A 成形金属
551 貫通孔
553 注入口
6 軸受
S 空間