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特許7568611液体密封で完全な緻密性のある皮膜を作成するための一段階法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】液体密封で完全な緻密性のある皮膜を作成するための一段階法
(51)【国際特許分類】
   C23C 4/129 20160101AFI20241008BHJP
   C23C 4/04 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
C23C4/129
C23C4/04
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021503015
(86)(22)【出願日】2019-08-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-11-11
(86)【国際出願番号】 US2019045189
(87)【国際公開番号】W WO2020033338
(87)【国際公開日】2020-02-13
【審査請求日】2021-01-19
【審判番号】
【審判請求日】2023-02-03
(31)【優先権主張番号】62/717,355
(32)【優先日】2018-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】16/531,533
(32)【優先日】2019-08-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500092413
【氏名又は名称】プラクスエア エス.ティ.テクノロジー、インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ワン、タミン
(72)【発明者】
【氏名】クレイマン、アーディ、エス.
(72)【発明者】
【氏名】ヒューズ、ケイシー、ディ.
【合議体】
【審判長】井上 猛
【審判官】佐藤 陽一
【審判官】土屋 知久
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-112012号公報
【文献】特開2005-68457号公報
【文献】特表2002-506926号公報
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 4/00- 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜直後の状態の皮膜を封止することなく、薄く、液体密封で成膜直後の状態の皮膜を作製するための一段階法であり、
基材を提供する工程と、
1~15マイクロメートルの範囲の粒径を有する粉末原料を提供する工程と、
熱溶射トーチを提供し、前記熱溶射トーチが、燃焼室の下流にノズルを含む燃焼室を備える工程と、
前記燃焼室に燃料を導入する工程と、
酸素ガスを不活性ガスと予備混合して希釈酸素ガスを生成し、前記予備混合は、前記酸素ガスが前記燃焼室に入る前に行われ、前記不活性ガスと前記酸素ガスとの流量比は、12:88~18:82の範囲である、工程と、
前記希釈酸素ガスを前記燃焼室に導入する工程と、
前記燃料を前記希釈酸素ガスで燃焼させて火炎を発生させる工程と、
前記粉末原料を前記ノズルに導入する工程と、
前記粉末原料を前記火炎と接触させて、実質的に溶融又は半溶融した液滴を生成する工程と、
前記実質的に溶融又は半溶融した液滴を前記基材に向ける工程とを含む、一段階法。
【請求項2】
前記燃料が、炭化水素及び水素からなる群から選択される、請求項1に記載の一段階法。
【請求項3】
前記酸素ガスが、前記燃料を燃焼させるのに十分な流量で導入される、請求項1に記載の一段階法。
【請求項4】
前記不活性ガスが、前記不活性ガスを用いずに発生した火炎温度と比較して低い火炎温度を燃焼室で生成するのに十分な流量で導入される、請求項1に記載の一段階法。
【請求項5】
前記酸素ガス及び前記不活性ガスの全流量が500~3000scfhである、請求項1に記載の一段階法。
【請求項6】
前記粉末原料が、炭化タングステンベースの材料である、請求項1に記載の一段階法。
【請求項7】
前記粉末原料が、4~12マイクロメートルの粒径を有する、請求項1に記載の一段階法。
【請求項8】
前記粉末原料が、6~10マイクロメートルの中央粒径を有する、請求項1に記載の一段階法。
【請求項9】
成膜直後の状態の皮膜を封止することなく、薄く、液体密封で成膜直後の状態の皮膜を作製するための一段階法であり、
基材を提供する工程と、
1~15マイクロメートルの範囲の粒径を有する粉末原料を提供する工程と、
熱溶射トーチを提供し、前記熱溶射トーチが、燃焼室を含み、前記熱溶射トーチが前記燃焼室の下流のノズルを更に含む工程と、
前記燃焼室に燃料を導入する工程と、
12:88~18:82の範囲の不活性ガスと酸素ガスとの流量比で前記酸素ガスを前記不活性ガスと予備混合して、希釈酸素ガスを生成する工程と、
前記希釈酸素ガスを前記燃焼室に向ける工程と、
前記燃料を前記希釈酸素ガスで燃焼させて、前記燃焼室内に火炎を発生させる工程と

前記燃焼室内の火炎温度を制御する工程と、
前記粉末原料を前記ノズルに導入する工程と、
前記粉末原料を加熱して、実質的に溶融又は半溶融した液滴を生成する工程とを含む、一段階法。
【請求項10】
前記不活性ガスが窒素ガスであり、
前記酸素ガス及び前記窒素ガスの全流量が、500~3000scfhである、請求項9に記載の一段階法。
【請求項11】
前記粉末原料が、炭化タングステンベースの材料又は炭化クロムベースの材料を含む、請求項9に記載の一段階法。
【請求項12】
前記粉末原料が、放射状方向に前記ノズルに注入される、請求項9に記載の一段階法。
【請求項13】
前記粉末原料が、6~10マイクロメートルの中央粒径を有する、請求項9に記載の一段階法。
【請求項14】
前記酸素ガスと前記不活性ガスとの予備混合が、14:86~15:85の範囲の前記不活性ガスと前記酸素ガスとの流量比をもたらす、請求項9に記載の一段階法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本出願は、2018年8月10日に出願された米国特許出願第62/717,355号に対する優先権の利益を主張するものであり、その全体があらゆる目的で参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、一般に、様々な用途のための液体密封で完全な緻密性のある皮膜を作成するための、一段階高速酸素燃料(「HVOF」)法に関する。特に、HVOF法は、酸素を不活性ガスで制御して希釈して、火炎温度を低下させ、それによって、比較的小さい粒径の粉末原料を使用して、密封材を使用せずに、液体密封で完全な緻密性のある皮膜を作成することができる。
【背景技術】
【0003】
摩耗及び腐食は、それらの構造的完全性を低下させる可能性のある過酷な腐食条件に曝される基材表面(例えば、ニッケル、コバルト、鉄及び銅合金から形成された金属基材表面)にとって問題である。例えば、オイル及びガス用途で利用される航空用シール部品及びバルブは、典型的には、それらの耐用年数にわたって高い接触圧力及び高温条件に遭遇する。これらの表面の腐食は、摩耗及び摩擦の問題を悪化させる。したがって、これらの部品は、腐食に対する耐性を示す必要があり、気体及び液体に対して不透過性でなければならない。
【0004】
WCCrCoなどの熱溶射皮膜は、摩耗及び腐食保護のために日常的に利用される。ほぼ完全な緻密性を達成するために、ポリマーシーラーを用いた皮膜含浸などの第2の皮膜工程が必要とされる。ポリマーシーラーによる耐摩耗性皮膜は、15,000psi以下のより低い動作圧力レジーム、及び350F以下の温度で成功していることが証明されているが、典型的には、オイル供給ライン及びポンプラインがより高い圧力及び温度に近づくほど不十分なものとなる。高温下では、皮膜は、ポリマーシーラーの熱劣化に起因して、皮膜自体からガス漏れが発生する可能性がある。十分な流体不透過性を有する皮膜を利用しないと、皮膜を介して、最終的にはバルブ及びシールを介して流体が漏れる可能性がある。
【0005】
完全な緻密性のある皮膜を作成するための別の二段階プロセスは、燃焼熱溶射による自溶合金又はWCベースの材料と自溶合金とのブレンドの堆積に続いて、1800°Fを超える温度での火炎溶融又はオーブンでの溶融が含まれる。時間とコストのかかる溶融プロセスを採用することに加えて、スプレー溶融皮膜の主な欠点は、皮膜形成された部品の歪みや、皮膜が基材と適合しない場合の皮膜の亀裂などの潜在的なリスクがある。
【0006】
従来の皮膜の欠点を考慮すると、液体密封で完全な緻密性のある皮膜を作成するための改善された皮膜プロセスに対する満たされていない必要性が存在する。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、種々の組み合わせで以下の態様のいずれかを含んでよく、また、書面による説明において以下に記載される本発明のいずれかの他の態様を含んでよい。
【0008】
本開示の他の態様、特徴及び実施形態は、以下の説明及び添付の特許請求の範囲から、より完全に明らかとなるであろう。
【0009】
第1の態様では、成膜直後の状態の皮膜を封止することなく、薄く、液体密封で成膜直後の状態の皮膜を作成するための一段階法であり、基材を提供する工程と、1~15マイクロメートルの範囲の粒径を有する粉末原料を提供する工程と、熱溶射トーチを提供し、当該熱溶射トーチが、燃焼室の下流にノズルを含む燃焼室を備える工程と、燃焼室に燃料を導入する工程と、酸素ガスを不活性ガスと予備混合して希釈酸素ガスを生成し、予備混合は、酸素ガスが燃焼室に入る前に行われ、不活性ガスと酸素ガスとの流量比は、8:92~50:50の範囲である工程と、希釈酸素ガスを燃焼室に導入する工程と、燃料を希釈酸素ガスで燃焼させて火炎を発生させる工程と、粉末原料をノズルに導入する工程と、粉末原料を火炎と接触させて、実質的に溶融及び半溶融した液滴を生成する工程と、実質的に溶融及び半溶融した液滴を基材に向ける工程とを含む。
【0010】
第2の態様では、成膜直後の状態の皮膜を封止することなく、薄く、液体密封で成膜直後の状態の皮膜を作成するための一段階法であり、基材を提供する工程と、1~15マイクロメートルの範囲の粒径を有する粉末原料を提供する工程と、熱溶射トーチを提供し、当該熱溶射トーチが、燃焼室を含み、当該トーチが、その中に囲まれた燃焼室の下流のノズルを更に含む工程と、燃焼室に燃料を導入する工程と、酸素ガスを不活性ガスと予備混合して、希釈酸素ガスを生成する工程と、希釈酸素ガスを燃焼室に向ける工程と、燃料を希釈酸素ガスで燃焼させて、燃焼室内に火炎を発生させる工程と、燃焼室内の火炎温度を制御する工程と、粉末原料をノズルに導入する工程と、粉末原料を加熱して、1~15マイクロメートルの範囲の粒径を有する粉末原料を使用した従来の高速酸素燃料プロセスと比較して、酸化が低減された、実質的に溶融又は半溶融した液滴を生成する工程とを含む。
【0011】
第3の態様では、酸素希釈高速酸素燃料(「HVOF」)プロセスによって作成された、シーラーを使用しない、薄く、液体密封で成膜直後の状態の一段階熱溶射皮膜であり、当該皮膜は、1~15マイクロメートルの範囲の粒径及び100マイクロメートル以下の皮膜の厚さを有する炭化タングステンベースの粉末組成物に由来し、液体密封性は、10,000psi以上の圧力で視覚的に検出可能な漏れがないこと、及び相互接続された細孔がないことによって定義された完全に緻密性のある構造を特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0012】
本発明の目的及び利点は、全体を通して同じ番号が同じ特徴を示す添付図面と関連して、その好ましい実施形態の以下の詳細な説明からより良く理解される。
【0013】
図1】本発明の原理による、本発明の代表的なプロセス概略図を示し、
【0014】
図2】本発明の原理による、本発明の代替的なプロセス概略図を示し、
【0015】
図3】高圧漏れを再現するために用いられる試験セットアップを示し、
【0016】
図4】比較例1に記載のように、従来のHVOFにより作成された炭化タングステンベースの熱溶射皮膜の高圧漏れ試験の結果を示し、
【0017】
図5】比較例2に記載のように、酸素希釈なしで1~15マイクロメートルの粉末サイズを使用した炭化タングステンベースの熱溶射皮膜の高圧漏れ試験の結果を示し、
【0018】
図6】実施例1に記載のように、本発明により作成された炭化タングステンベースの熱溶射皮膜の高圧漏れ試験の結果を示し、
【0019】
図7】500倍の倍率の光学顕微鏡下で、本発明により作成された皮膜の微細構造を示し、
【0020】
図8】500倍の倍率の光学顕微鏡下で、酸素希釈なしで1~15マイクロメートルの粉末サイズを使用したHVOFにより作成された皮膜の微細構造を示し、
【0021】
図9】従来のHVOFにより作成された炭化タングステン皮膜の基材腐食試験の結果を示し、
【0022】
図10】酸素希釈なしで1~15マイクロメートルの粉末サイズを使用したHVOFにより作成された炭化タングステン皮膜の基材腐食試験の結果を示し、
【0023】
図11】実施例2に記載のように、本発明により作成された炭化タングステン皮膜の基材腐食試験の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本開示は、様々な実施形態において、かつ本発明の様々な特徴及び態様を参照して、本明細書に記載される。本開示は、本開示の範囲内のものとして様々な置換及び組み合わせの特徴、態様、及び実施形態を想到している。したがって、本開示は、これらの特定の特徴、態様、及び実施形態のそのような組み合わせ及び置換のうちのいずれか、又はそれらのうちの選択された1つ以上を備えるように、それらからなるように、又はそれらから本質的になるように指定され得る。
【0025】
記載されるように、本発明は、シーラー又は溶融工程を使用することなく、液体密封で完全な緻密性のある皮膜を作成するための新規な一段階法を提供する。
【0026】
別途記載のない限り、本明細書の全ての組成物は重量パーセントであり、不可避の微量汚染物質を含むことが意図される。
【0027】
本明細書で使用される用語「流体」は、液体、スラリー、ガス又は蒸気、或いはこれらの任意の組み合わせを指すことが意図される。
【0028】
本明細書で使用するとき、用語「完全な緻密性のある」は、高圧漏れ試験で目に見える流体の漏れがなく、基材の腐食が観察されないような液体密封性を示すことを特徴とする。
【0029】
用語「高圧漏れ試験」は、実施例で実施され、図4、5及び6に示される漏れ試験を指す。
【0030】
本明細書及び全体を通して使用するとき、「一段階」は、成膜直後の状態であることを意味する。
【0031】
本明細書及び全体を通して使用するとき、「流量比」は、不活性ガスと酸素ガスとの流量比を意味する。
【0032】
用語「従来のHVOF」及び「標準HVOF」は、互換的に使用され、酸素希釈なしで1~15マイクロメートルの比較的微細な粒径を使用しない高速酸素燃料プロセスを意味することが意図される。
【0033】
用語「微粒子径」及び「比較的微細な粒径」は、互換的に使用され、1~15マイクロメートルの粒径を意味することが意図される。
【0034】
図1は、酸素希釈HVOFプロセス100と呼ばれる、本発明の一態様の代表的なプロセス概略図を示す。粉末原料6は、熱溶射トーチのスプレーノズル2に導入される。粉末原料6は、約1~15マイクロメートルの範囲の粒径を有する。粉末原料6は、熱溶射粉末の任意の適切な化学組成物であってもよい。好ましい実施形態では、粉末原料6は、炭化タングステンベースの材料である。炭化タングステンベースの材料は、86%WC-10%Co-4%Crの配合を有することができる。例えば、限定することを意図するものではないが、88%WC-12%Co、83%WC-17%Co、90%WC-10%Ni、及び炭化クロムベースの粉末原料などの他の組成物も使用することができる。粉末原料6は、燃焼室1の下流に位置するスプレーノズル2放射状に注入される。窒素又はアルゴンなどの適切なキャリアガスを使用して、粉末原料6をスプレーノズル2に運ぶことができる。キャリアガスは、20~50scfhの流量を有し得るが、一般に35scfh以下である。より高いキャリアガス流量は、粉末原料6がスプレーノズル2を早期に侵食する原因となり、それにより、スプレーノズル2の動作寿命が短くなることがある。或いは、又はそれに加えて、過剰なキャリアガス流量は、皮膜特性に悪影響を及ぼす可能性がある。スプレーノズル2内に導入される粉末原料6の正確な量は、酸素4の流量と燃料3の流量との比率、酸素4及び燃料3の全流量、及び粉末化学を含むがこれらに限定されないいくつかの要因に依存する。
【0035】
更に図1を参照すると、酸素ガス4は、酸素ガス4が燃焼室1内の燃料3と接触する前に、不活性ガス5と予備混合される。不活性ガス5は、図1及び図2に示すように、窒素である。本発明者らは、燃料3の燃焼前に酸素ガス4と予備混合するための窒素ガス5の制御された添加は、比較的微細な粉末粒子の酸化が低減、排除、又は最小化されるように、標準HVOFプロセスで生成された火炎温度と比較して、火炎温度を有利に低下させることができることを発見した。本明細書及び全体を通して使用するとき、「火炎温度」は、不活性ガス5と予備混合されているか又は不活性ガス5を含まない酸素ガス4を用いた燃料3の燃焼から生成される様々な副生成物の温度を指すことが意図されており、本明細書及び全体を通して使用するとき、「火炎」は、不活性ガス5と予備混合されているか又は不活性ガス5を含まない酸素ガス4を用いた燃料3の燃焼から生成される様々な副生成物を指すことが意図されている。
【0036】
燃料3は、燃焼室1の入口に導入される。灯油などの炭化水素ベースの燃料を含む任意の適切な燃料3を使用することができる。或いは、燃料3は、水素であってもよい。酸素ガス4は、燃料3の実質的に全てを燃焼させるのに十分な流量で導入されることが好ましい。具体的には、酸素は、燃料3と酸素4との化学量論比に基づく量で導入されることが好ましい。HVOF希釈プロセス100の最適化は、窒素ガス5と酸素4との流量比が下限以上及び上限以下に維持される場合に生じ得る。このようにして、予備混合の結果としての火炎温度の低下は、比較的微細な粉末原料6が受ける酸化の量を排除、最小化又は減少させ、それにより、約1~15マイクロメートルの比較的微細な粒径を利用することを可能にする。比較的微細な粒径は、約6~10マイクロメートルの範囲の中央粒径を有することが好ましい。別の実施形態では、粉末原料6は、4~12マイクロメートルの範囲の粒径を有することができる。火炎温度を制御し、そのような比較的微細な粒径を利用する本発明の能力により、完全に緻密性のある液体密封な皮膜を作成することを可能にする。
【0037】
窒素ガス5と酸素ガス4との流量比は、下限8:92以上、上限50:50以下に維持される。本発明者らは、窒素ガス5と酸素ガス4との流量比が下限比8:92を下回る場合、窒素希釈の利点が達成されないことを観察した。特に、火炎の十分な冷却は起こらず、粉末原料6は、比較的微細な粉末粒子に相当量の熱を与える、より高い火炎温度から、相当な酸化を受ける傾向がある。より大きい粒径を利用する従来のHVOFプロセスと比較して、プロセス100で使用される粉末原料6の比較的微細な粒子は、単位体積当たりの表面積の割合が高いため、粉末原料6粒子が基材10の表面に衝突して皮膜を形成する前に、粉末原料6が激しい酸化や脱炭を受けて劣化してしまう可能性がある。激しい酸化を伴う得られた皮膜は、本発明によって調製される皮膜の液体密封性及び完全に緻密性のある構造を有さない。代わりに、激しい酸化を伴う得られた皮膜は、ガス漏れが発生するための望ましくない流路として本質的に機能する酸化物含有物を有する。皮膜を通じたガス漏れは、潜在的に皮膜の損傷をもたらす可能性がある。
【0038】
一方、窒素ガス5と酸素ガス4との流量比が50:50の上限を超える量で窒素ガス5を導入すると、燃焼反応が持続しないために火炎が消えてしまう傾向がある。酸素ガス4が50:50の流量比を超えて過度に希釈される結果として、火炎温度が低くなりすぎて、粉末粒子を処理することができなくなる。
【0039】
本発明の別の態様では、流量比を下限以上及び上限以下に維持することに加えて、燃焼室1に導入される窒素ガス5及び酸素ガス4の全流量を500scfh~3000scfhの範囲内に維持することにより、希釈酸素と燃料3とを燃焼させるための最適な条件が作成され維持されるようにしている。
【0040】
別の実施形態では、窒素ガス5と酸素ガス4との流量比は、8:92~50:50、好ましくは10:90~30:70、より好ましくは12:88~18:82に維持される。
【0041】
図1のHVOF酸素希釈プロセスを実施するための例示的なパラメータは、窒素ガス5と酸素ガス4との重量比が8:92~50:50に維持され、酸素ガス4と窒素ガス5との全流量が約500~3000scfhに維持されるような、50~600scfhの流量で酸素ガス4と予備混合された窒素ガス5を、400~2500標準立方フィート毎時(scfh)の流量で酸素ガス4に供給することを含んでいる。燃料3としては、灯油を用いることができ、一般に、毎時2.5~6.5ガロン(gph)の流量で燃焼室1に導入される。
【0042】
或いは、本発明の別の態様では、プロセス100は、燃料3として水素を用いて実施することができる。水素は、1000~1800scfhの流量でトーチの燃焼室1に注入することができる。約1~15マイクロメートルの範囲のサイズを有する炭化タングステンベースの粉末原料6を、毎分20~100グラムの供給速度でスプレーノズル2に軸方向に供給する。酸素4を窒素5と予備混合して、酸素希釈ガスを生成することは、前述した通りである。窒素ガス5と酸素ガス4との重量比は、下限8:92以上、上限50:50以下に維持され、酸素4及び窒素5の全流量は、500scfh~3000scfhの範囲内に維持される。
【0043】
更に図1を参照すると、粉末原料6がスプレーノズル2に放射状に注入されると、粉末原料6は火炎に接触し、溶融又は半溶融する。粒子は、流出液15としてスプレーノズルから流出し、基材表面20に向けられ、そこで衝突時に固化して皮膜を形成する。図1のHVOFプロセス100による実際のスプレーは、静止又は移動HVOFトーチによって生じ得る。基材表面20が静止している場合、HVOFトーチデバイスは、毎分600~3200インチの速度及び0.2インデックスで、基材20の表面を横切って移動している。HVOFトーチは、基材20の表面から所定のスタンドオフ距離(例えば、2~10インチ)離れた位置に維持される。
【0044】
酸素ガス4と窒素ガス5との予備混合は、本発明にとって重要であり、図1及び2に示されるように、酸素ガス4が燃焼室1に入る前に行われなければならない。酸素ガス4及び窒素ガス5が予備混合されておらず、代わりに、燃焼室1に別々に導入される場合、不均一な混合物が通常生成され、燃焼室1内に乱流レジームを生じさせる傾向があり、その結果、不均一な火炎温度が生じる。不均一な火炎温度は、チャンバ1内のホットスポット及びコールドスポットで構成される。最終的に、スプレーノズル2を出る流出物15全体に均一な速度分布は存在しない。結果として、流出物15のいくつかの微粉末粒子は、過剰処理又は過小処理される可能性があり、その結果、基材20上に堆積される得られた皮膜において、過剰な酸化、脱炭、より高い多孔性及び未溶融の粒子が発生する可能性がある。
【0045】
酸素ガスを希釈することにより、比較的微細な粒子を利用して、完全に緻密性のある液体密封な皮膜を作成する本発明の能力により、シーラーで皮膜を含浸させる必要性を排除することができる。したがって、いわゆる「一段階」プロセス100は、シーラーを適用する後続の工程を必要としない。対照的に、従来のHVOF溶射皮膜プロセスは、ガスがそれに沿って移動するための流路を作り出す相互接続多孔性を本質的に示し、それによって、後続のシーラーが適用されることを必要とする。
【0046】
小さい粒径の使用は、本発明が出現するまで困難であった。特に、小さい粒子の使用は、(i)比較的微細な粒子がスプレーノズル2を詰まらせる傾向があるために、スプレーノズル2の寿命が短くなり、及び(ii)従来のHVOFプロセスの火炎からのそのような小さい粒径の酸化及び脱炭が過剰であり、得られる皮膜を損なう可能性があるという観察の結果、従来のHVOFプロセスのための実行可能なプロセス実施形態とは考えられていなかった。
【0047】
本発明のみが、シーラーを使用せずに液体密封で完全な緻密性のある皮膜を成膜直後の状態で作成するための酸素希釈HVOF熱溶射プロセス100を提供している。プロセス100は、火炎温度を低下させることによって、酸化物含有物を低減又は除去するために設計される。本発明の液体密封性は、実施例1に示されるように、比較的高い圧力条件に耐えることができる。したがって、本発明は、許容可能な液体密封性を提供するだけでなく、驚くべきことに、シーラーの適用又は皮膜の溶融などの皮膜後処理を行わなくても提供される。液体密封性は、部品(例えば、オイル及びガス用途で利用されるようなゲート及びシート部品並びにボールバルブ)により遭遇する可能性がある少なくとも10000psiの圧力で発揮される。
【0048】
図7は、500倍の倍率の光学顕微鏡下で、プロセス100により作成された皮膜の顕微鏡写真を示す。酸素ガスと不活性ガスとの予備混合をせずに、従来のHVOFプロセスを使用して1~15マイクロメートルの粒径を有する粉末で作成した皮膜を表す図8と比較すると、図7は、本発明により作成したHVOF皮膜が、より低い多孔性(多孔性は空隙で示される)及びより低い酸化物レベル(酸化物レベルはグレーストリンガーで示される)を有することを示す。
【0049】
更に、他のプロセスの修正が、本発明によって想到される。例えば、図2は、粉末原料6が燃焼室1に軸方向に注入されるプロセス100の代替的な実施形態を示す。更に、窒素以外に他の適切な不活性ガスを使用して、酸素を適切なレベルに希釈することができる。例えば、限定することを意図するものではないが、アルゴンを不活性ガスとして使用して、酸素と予備混合して希釈酸素ガスを生成することができ、予備混合は、酸素ガスが燃焼室に入る前に行われる。
【0050】
記載される利点に加えて、本発明は、空気及び燃料の混合物を利用する高速空気燃料プロセス(HVAF)の多くの欠点を克服する。具体的には、HVAFでの燃焼を維持するために、空気中の酸素含有量が相対的に低いため、燃料の燃焼を維持するためには、本発明の熱溶射トーチの燃焼室に、本発明に比べて著しく多量の空気を導入しなければならない。一例として、特定の例では、HVAFプロセスにおける空気の流量は、本発明で必要とされる酸素及び窒素ガスの全流量の最大10倍であり得る。HVAF用の空気の流量が高いほど、より多くの圧縮空気量が必要となり、それによりHVAFプロセスを実行するコストが増加する。これに対して、本発明は、十分な燃焼を達成するために、より低い流量の酸素及び不活性ガスを利用することができるため、HVAFに比べてはるかに低コストである。窒素ガス5の添加は、全酸素及び窒素流量の20vol%未満が好ましく、これは、78vol%の窒素からなる空気でのHVAFプロセスと比較して劇的に異なる。
【0051】
更に、及び別の態様では、本発明は、従来のHVOF皮膜よりも実質的に薄い厚さで、必要な特性を有する液体密封で完全な緻密性のある皮膜を作成することができる。例えば、本発明の一実施形態では、皮膜の厚さは、100マイクロメートル以下、より好ましくは50マイクロメートル以下、最も好ましくは25マイクロメートル以下であり、一方で、100マイクロメートル以上の厚さである密封された従来のHVOF皮膜の同じ特性を依然として示す。本発明によって生成されるHVOF皮膜の液体密封性は、10,0000psi以上の圧力で視覚的に検出可能な流体漏れがないことを特徴とする。完全な緻密性のある構造は、相互接続された細孔が存在しないことにより定義され、それにより、相互に接続された細孔が存在しないことで、従来の密封されたHVOF皮膜と同じ又は数分の1の厚さで、皮膜を介した流体の漏れを防ぐのに十分である。
【0052】
本発明により調製された皮膜は、高温(例えば、華氏350度以上)で劣化する傾向があるシーラーを組み込んだ従来の皮膜で以前に可能であったよりも高い温度に耐えることができる。これに関して、本発明により調製された完全に緻密性のある液体密封な皮膜は、含浸が必要でないため、特定の種類のポリマーシーラーで配合されていない。以下に説明する実施例は、従来のHVOFにより作成された皮膜と比較して、本発明により作成された完全に緻密性のある皮膜システムの改善された性能を定量化する。
【0053】
本発明により調製された液体密封で完全な緻密性のある皮膜は、1つ又は複数のシール表面を有する任意の基材表面に適している。一例として、限定することを意図するものではないが、酸素希釈HVOFプロセスを使用して、シリンダ又はそれらの合せ面(ブッシング又はベアリング)が少なくとも部分的に皮膜されている航空及び工業用油圧部品に皮膜を作成することができる。更に、本発明により調製される皮膜は、流体流量制御システム内のゲートバルブ及びボールバルブ部品を含むがこれらに限定されない金属耐荷重表面に特に適している。
【0054】
実施例に示され、以下に論じられるように、本発明により調製される完全な緻密性のある皮膜と、従来のプロセスにより調製される他のHVOF皮膜とを比較するために、いくつかの実験が実施された。試験が成功したかどうかの基準は、流体不透過性シールを達成及び作成する皮膜の能力に依存した。
【0055】
実験は、オイル及びガス用途で利用されるゲートバルブによって一般的に遭遇する高圧条件をシミュレートした。図3に示される試験試料を使用して、高圧漏れを再現した。高圧漏れ試験を使用して、皮膜を通してガス漏れを調査した。試験は、図3の矢印で示すように、皮膜された試料の一部を、10,000psiの圧力で窒素に最低10分間曝露し、皮膜された試料の別の部分を大気圧に曝露し、漏れ検出液の薄い層で被覆することからなる。皮膜が窒素ガスに対して透過性である場合、試験中に皮膜表面上に気泡が観察された。
比較例1
【0056】
86%WC-10%Co-4%Cr粉末の配合を有する炭化タングステンベースの粉末を用いて、従来の高速酸素燃料(「HVOF」)皮膜プロセスを使用して皮膜を作成した。市販の熱溶射トーチ(Praxair TAFA製のJP-5000)の燃焼室の入口に酸素及び灯油燃料を軸方向に別々に導入し、炭化タングステンベースの粉末をスプレーノズルに放射状に注入した。炭化タングステン粉末は、15~45マイクロメートルの範囲の粒径を有し、中央粒径は30マイクロメートルであった。酸素ガスを2000scfhで導入した。酸素ガスは希釈しなかった。灯油は、毎時6.5ガロンの流量で導入した。炭化タングステンベース粉末を、毎分80グラムの供給速度でスプレーノズルに放射状に注入した。22scfhの流量の窒素キャリアガスを使用して、炭化タングステンベースの粉末をスプレーノズルに運んだ。
【0057】
皮膜される基材は静止したままであり、一方、トーチは、部品にわたって横断され、割送りされた。トーチと部品との間のスタンドオフ距離は15インチであり、表面速度(すなわち、トーチ速度)は、毎分1800インチで部品の平坦な表面に沿って前進させた。
【0058】
完成した皮膜(200マイクロメートル)を、約2.8インチの直径及び約1.5インチの厚さを有する試料に塗布して試験した。
【0059】
皮膜された基材に対する高圧漏れ試験を実施した。10,000psiの印加圧力で、図4に示すように、試験試料の周囲に沿って相当量の気泡が観察された。大量の気泡は、皮膜が漏れを防ぐ能力がないことを示していた。
比較例2
【0060】
1~15マイクロメートルの範囲の粒径であり86%WC-10%Co-4%Cr粉末の配合を有する炭化タングステンベースの粉末を用いて、従来のHVOF皮膜プロセスを使用して皮膜を作成した。中央粒径は、8マイクロメートルであった。市販の熱溶射トーチ(Praxair TAFA製のJP-5000)の燃焼室の入口に酸素及び灯油燃料を軸方向に別々に導入し、炭化タングステンベースの粉末をスプレーノズルに放射状に注入した。酸素ガスを1200scfhで導入した。酸素ガスは希釈しなかった。灯油は、毎時4ガロンの流量で導入した。炭化タングステンベース粉末を、毎分30グラムの供給速度でスプレーノズルに放射状に注入した。35scfhの流量の窒素キャリアガスを使用して、炭化タングステンベースの粉末をスプレーノズルに供給した。
【0061】
皮膜される基材は静止したままであり、一方、トーチは、部品にわたって横断され、割送りされた。トーチと部品との間のスタンドオフ距離は8インチであり、表面速度(すなわち、トーチ速度)は、毎分1800インチで部品の平坦な表面に沿って前進させた。
【0062】
薄い完成した皮膜(40マイクロメートル)を、約2.8インチの直径及び約1.5インチの厚さを有する試料に塗布して試験した。
【0063】
高圧漏れ試験を実施した。10,000psiの印加圧力で、図5に示すように、試験試料の周囲に沿って相当量の気泡が観察された。大量の気泡は、皮膜が漏れを防ぐ能力がないことを示していた。
比較例3
【0064】
86%WC-10%Co-4%Cr粉末の配合を有する炭化タングステンベースの粉末を用いて、従来の高速酸素燃料(「HVOF」)皮膜プロセスを使用して皮膜を作成した。市販の熱溶射トーチ(Praxair TAFA製のJP-5000)の燃焼室の入口に酸素及び灯油燃料を軸方向に別々に導入し、炭化タングステンベースの粉末をスプレーノズルに放射状に注入した。炭化タングステン粉末は、10~38マイクロメートルの範囲の粒径を有した。中央粒径は、18マイクロメートルであった。酸素ガスを1925scfhで導入した。酸素ガスは希釈しなかった。灯油は、毎時6.0ガロンの流量で導入した。炭化タングステンベース粉末を、毎分80グラムの供給速度でスプレーノズルに放射状に注入した。32scfhの流量の窒素キャリアガスを使用して、炭化タングステンベースの粉末をスプレーノズルに運んだ。
【0065】
皮膜形成される平坦な基材は静止したままであり、一方、トーチは、部品にわたって横断され、割送りされた。トーチと部品との間のスタンドオフ距離は15インチであり、表面速度(すなわち、トーチ速度)は、毎分1800インチで部品の平坦な表面に沿って前進させた。
【0066】
完成したシールされていない皮膜(50マイクロメートル)を塗布し、(4インチ×3インチ×3/4インチ)寸法を有する平らな試料上で試験した。
【0067】
塩水噴霧腐食試験を、ASTM B117要件に従って実施した。塩水噴霧への曝露の72時間以内に、基材上の錆、皮膜の膨れ及び破砕などの腐食の兆候が観察された(図9)。
比較例4
【0068】
1~15マイクロメートルの範囲の粒径であり86%WC-10%Co-4%Cr粉末の配合を有する炭化タングステンベースの粉末を用いて、HVOF皮膜プロセスを使用して皮膜を作成した。中央粒径は、8マイクロメートルであった。市販の熱溶射トーチ(Praxair TAFA製のJP-5000)の燃焼室の入口に酸素及び灯油燃料を軸方向に別々に導入し、炭化タングステンベースの粉末をスプレーノズルに放射状に注入した。酸素ガスを1200scfhで導入した。酸素ガスは希釈しなかった。灯油は、毎時4ガロンの流量で導入した。炭化タングステンベース粉末を、毎分30グラムの供給速度でスプレーノズルに放射状に注入した。35scfhの流量の窒素キャリアガスを使用して、炭化タングステンベースの粉末をスプレーノズルに供給した。
【0069】
皮膜形成される平坦な基材は静止したままであり、一方、トーチは、部品にわたって横断され、割送りされた。トーチと部品との間のスタンドオフ距離は8インチであり、表面速度(すなわち、トーチ速度)は、毎分1800インチで部品の平坦な表面に沿って前進させた。
【0070】
完成したシールされていない皮膜(25マイクロメートル)を塗布し、(4インチ×3インチ×3/4インチ)寸法を有する平らな試料上で試験した。
【0071】
塩水噴霧腐食試験を、ASTM B117要件に従って実施した。塩水噴霧への曝露の96時間以内に、基材上の錆及び皮膜の膨れなどの腐食の兆候が観察された(図10)。
【実施例1】
【0072】
1~15マイクロメートルの範囲の粒径であり86%WC-10%Co-4%Cr粉末の配合を有する炭化タングステンベースの粉末を用いて、HVOF希釈プロセスを使用して皮膜を作成した。中央粒径は、8マイクロメートルであった。HVOF希釈プロセスは、図1で上述したように実施され、ここで、炭化タングステンベースの粉末は、市販の熱溶射トーチ(Praxair TAFA製のJP-5000)のスプレーノズルに放射状に注入した。1200scfhの流量で酸素ガスを、200scfhの流量で窒素ガスと予備混合して、希釈酸素ガスを生成した。続いて、希釈酸素ガスを、1400scfhの全流量で燃焼室に注入した。灯油燃料は、毎時4ガロンの流量で、燃焼室に軸方向に別々に注入した。炭化タングステンベース粉末を、毎分30グラムの供給速度でスプレーノズルに放射状に注入した。35scfhの流量の窒素キャリアガスを使用して、炭化タングステンベースの粉末をスプレーノズルに供給した。
【0073】
皮膜される基材は静止したままであり、一方、トーチは、部品にわたって横断され、割送りされた。トーチと部品との間のスタンドオフ距離は8インチであり、表面速度(すなわち、トーチ速度)は、毎分1800インチで部品の平坦な表面に沿って前進させた。
【0074】
完成した皮膜を、約2.8インチの直径及び約1.5インチの厚さを有する試料に塗布して試験した。得られた皮膜の厚さは、40マイクロメートルであった。
【0075】
高圧漏れ試験を実施した。試験の15分後に、10,000psiの印加圧力で、図6に示すように、試験試料に気泡は観察されなかった。高圧での気泡がないことは、薄い皮膜が漏れを防ぐ能力があることを示していた。
【0076】
本試験は、本発明の原理による実施例1における酸素と窒素ガスとの予備混合により、比較例1と比較して、比較的薄い厚さで液体密封で完全な緻密性のある皮膜を作成することができることを実証している。
【0077】
本試験は、本発明の原理による実施例1における酸素と窒素ガスとの予備混合が、比較例2の皮膜と同じ厚さで液体密封で完全な緻密性のある皮膜を作成することができることを実証している。
【実施例2】
【0078】
1~15マイクロメートルの範囲の粒径であり86%WC-10%Co-4%Cr粉末の配合を有する炭化タングステンベースの粉末を用いて、HVOF希釈プロセスを使用して皮膜を作成した。中央粒径は、8マイクロメートルであった。HVOF希釈プロセスは、図1で上述したように実施され、ここで、炭化タングステンベースの粉末は、市販の熱溶射トーチ(Praxair TAFA製のJP-5000)のスプレーノズルに放射状に注入した。1200scfhの流量で酸素ガスを、200scfhの流量で窒素ガスと予備混合して、希釈酸素ガスを生成した。続いて、混合物を、1400scfhの全流量で燃焼室に注入した。灯油燃料は、毎時4ガロンの流量で、燃焼室に軸方向に別々に注入した。炭化タングステンベース粉末を、毎分30グラムの供給速度でスプレーノズルに放射状に注入した。35scfhの流量の窒素キャリアガスを使用して、炭化タングステンベースの粉末をスプレーノズルに供給した。
【0079】
皮膜形成される平坦な基材は静止したままであり、一方、トーチは、部品にわたって横断され、割送りされた。トーチと部品との間のスタンドオフ距離は8インチであり、表面速度(すなわち、トーチ速度)は、毎分1800インチで部品の平坦な表面に沿って前進させた。
【0080】
完成したシールされていない皮膜(25マイクロメートル)を塗布し、(4インチ×3インチ×3/4インチ)寸法を有する平らな試料上で試験した。
【0081】
塩水噴霧腐食試験を、ASTM B117要件に従って実施した。塩水噴霧への曝露の1000時間後、腐食の兆候は観察されなかった(図11)。
【0082】
本試験は、本発明の原理による実施例2における酸素と窒素ガスとの予備混合により、比較例3及び4と比較して、比較的薄い厚さで、液体密封で緻密性のある耐食性皮膜を作成することができることを実証している。
【0083】
既に述べた利点に加えて、酸素希釈HVOFプロセス100が、従来のプロセスによって調製された他の皮膜の何分の1かの厚さで、所望の特性(基材に対する耐食性を含む)を示す液体密封で緻密性のある皮膜を作成する能力は、HVOF皮膜のコストを実質的に低減し、それにより、本発明により調製されたHVOF皮膜が、従来、クロムベースの皮膜を必要としていた用途を含む多くの用途のための実行可能な代替品として現れることに留意すべきである。この点に関して、本発明に先立って、従来のHVOFプロセスにより調製されたHVOF皮膜は、硬質クロムを皮膜形成するために利用される皮膜プロセスの平均3倍コストがかかる。しかし、本発明の出現に伴い、HVOF皮膜は、必要な特性を生成するために必要とされる皮膜が少なくなる結果、コストが大幅に低下する。
【0084】
本発明の特定の実施形態と見なされるものを示し、説明してきたが、当然ながら、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態又は詳細の様々な修正及び変更を容易に行うことができることが理解されるであろう。したがって、本発明は、本明細書において示され、説明される正確な形態及び詳細に限定されず、本明細書において開示され、以下に特許請求される本発明の全範囲に満たないいかなるものにも限定されないことを意図する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11