(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】宇宙船を安定させるためのモーメンタムホイール装置を制御する制御システム及び制御方法
(51)【国際特許分類】
H02P 29/00 20160101AFI20241008BHJP
G01C 19/02 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
H02P29/00
G01C19/02 B
(21)【出願番号】P 2021503136
(86)(22)【出願日】2019-07-04
(86)【国際出願番号】 EP2019067958
(87)【国際公開番号】W WO2020025249
(87)【国際公開日】2020-02-06
【審査請求日】2021-02-05
【審判番号】
【審判請求日】2023-01-26
(31)【優先権主張番号】102018118480.8
(32)【優先日】2018-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】518065223
【氏名又は名称】ロックウェル コリンズ ドイチェラント ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【氏名又は名称】齊藤 真大
(72)【発明者】
【氏名】エーインガー マルクス
【合議体】
【審判長】窪田 治彦
【審判官】柿崎 拓
【審判官】米倉 秀明
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-183394(JP,A)
【文献】特開平3-78804(JP,A)
【文献】特開平8-308286(JP,A)
【文献】特開平6-131048(JP,A)
【文献】特開2009-220768(JP,A)
【文献】特開平4-337811(JP,A)
【文献】特開2005-94964(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P29/00
G01C19/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
宇宙船を安定させるためのモーメンタムホイール装置のための制御システムであって、
前記モーメンタムホイール装置が、実モーメンタムホイール装置(1)であり、モータにより駆動されて、実ホイール軸を中心に回転するモーメンタムホイールを有し、
理想物理的モデル(12)に基づいて、模擬ホイール軸を中心に回転する理想的なモーメンタムホイールの挙動を模擬する模擬モーメンタムホイール装置(2)と、
前記実モーメンタムホイール装置(1)のモータを制御する制御装置(3)と、
トルク指令(6)を指定し、前記実モーメンタムホイール装置(1)と前記模擬モーメンタムホイール装置(2)の両方の速度を
同時に変化させる指令装置(5)と、
前記実モーメンタムホイール装置(1)の、前記実ホイール軸を中心とする当該実ホイール軸周りの実回転角度(9)を検出する回転角度検出装置(8)と、
与えられた前記トルク指令(6)による前記模擬モーメンタムホイール装置(2)の、前記模擬ホイール軸を中心とする当該模擬ホイール軸周りの模擬回転角度(14)を計算する積分装置(12a、12b)と、
前記実モーメンタムホイール装置(1)と前記模擬モーメンタムホイール装置(2)の両方の運動挙動が変化している間、前記実回転角度(9)と前記模擬回転角度(14)とを比較し、前記実回転角度(9)と前記模擬回転角度(14)との偏差に応じたエラー信号(15)を生成する比較装置(11)とを備え、
前記実モーメンタムホイール装置(1)と前記模擬モーメンタムホイール装置(2)の両方の運動挙動が変化している間、前記エラー信号(15)が前記制御装置(3)に入力され、前記エラー信号(15)により前記モータの制御を行い前記偏差を低減するように構成された制御システム。
【請求項2】
前記指令装置(5)が、前記実モーメンタムホイール装置(1)用の前記制御装置(3)と前記模擬モーメンタムホイール装置(2)とに前記トルク指令(6)を送信するように構成されている請求項1に記載の制御システム。
【請求項3】
前記理想的なモーメンタムホイールの挙動の模擬が、摩擦を考慮することなく、前記理想物理的モデル(12)に基づいて行われる、請求項1又は2に記載の制御システム。
【請求項4】
前記理想物理的モデルが回転運動の状態方程式に対応する請求項1~3のいずれか一項に記載の制御システム。
【請求項5】
前記状態方程式が、以下の形:
φ=φ
t0+ω
t0×Δt
1+0.5×α
to×Δt
1
2
(ここで、φは回転角度、ωは回転速度(角速度)、Δtは時間増分、αは慣性モーメントを含むトルクである。)
を取るものである請求項
4に記載の制御システム。
【請求項6】
前記積分装置(12a、12b)が、前記トルク指令を二重積分することによって前記模擬回転角度(14)を算出するように構成されている、請求項1~5のいずれか一項に記載の制御システム。
【請求項7】
前記制御装置(3)によって制御されて前記モータを動作させるモータ制御装置(4)を更に備える、請求項1~6のいずれか1項に記載の制御システム。
【請求項8】
前記実モーメンタムホイール装置(1)の実回転速度(10)を検出する回転速度検出装置を更に備える請求項1~7のいずれか一項に記載の制御システム。
【請求項9】
前記実モーメンタムホイール装置(1)の実回転速度(10)及び/又は実回転角度(9)を決定する、前記回転角度検出装置と前記回転速度検出装置とを組み合わせたオブザーバ(8)を更に備え、
前記オブザーバ(8)が、前記実モーメンタムホイール装置(1)の回転速度(10)及び/又は回転角度(9)の誤差補正を行うように構成されている請求項
8に記載の制御システム。
【請求項10】
前記積分装置(12a)が、与えられた前記トルク指令(6)を単純に積分することにより、前記模擬モーメンタムホイール装置(2)の模擬回転速度(13)を算出するように構成され、
前記実回転速度(10)と前記模擬回転速度(13)とを比較して、前記実回転速度と前記模擬回転速度との偏差に応じた回転速度偏差信号(17)を生成する回転速度比較装置(16)を更に備える請求項
8又は9に記載の制御システム。
【請求項11】
宇宙船を安定させるためのモーメンタムホイール装置を制御する制御方法であって、
モータにより駆動されて、実ホイール軸を中心に回転するモーメンタムホイールを備える実モーメンタムホイール装置(1)としての前記モーメンタムホイール装置を供給するステップと、
理想物理的モデル(12)に基づき模擬ホイール軸を中心に回転する模擬モーメンタムホイール装置(2)を供給するステップと、
前記実モーメンタムホイール装置(1)と前記模擬モーメンタムホイール装置(2)とにトルク指令(6)を同時に入力し、それらの特定の回転速度を変化させるステップと、
入力された前記トルク指令(6)に応じて回転速度を変更するように前記モータを制御するステップと、
前記実モーメンタムホイール装置(1)の、前記実ホイール軸を中心とする当該実ホイール軸周りの実回転角度(9)を検出するステップと、
前記入力されたトルク指令(6)を二重積分することにより、前記模擬モーメンタムホイール装置(2)の、前記模擬ホイール軸を中心とする当該模擬ホイール軸周りの模擬回転角度(
14)を算出するステップと、
前記実モーメンタムホイール装置(1)と前記模擬モーメンタムホイール装置(2)の両方の運動挙動が変化している間、前記実回転角度(9)と前記模擬回転角度(
14)とを比較し、前記実回転角度と前記模擬回転角度との偏差に応じたエラー信号(15)を生成するステップと、
前記実モーメンタムホイール装置(1)と前記模擬モーメンタムホイール装置(2)の両方の運動挙動が変化している間、前記偏差を小さくするように前記エラー信号(15)により前記モータの制御を行うステップと、を含む制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、宇宙船の位置を安定させるための、特に衛星の位置を制御するための、モーメンタムホイール装置の制御システム及び制御方法に関する。
【技術背景】
【0002】
このようなモーメンタムホイール装置又はフライホイール又はリアクションホイールは、衛星のアラインメントを制御することが知られている。モーメンタムホイールは駆動によって回転するように設定されているので、ジャイロ効果によって安定化効果を達成することができる。効率的なジャイロ効果を達成するためにはフライホイールの質量の可能な最大部分をできるだけ外側に位置させるのがよく、その結果、この質量はフライホイール(モーメンタムホイール)の回転軸の周りを可能な限り最大の直径で回転することができる。
【0003】
このようなモーメンタムホイール装置はDE3921765A1から知られており、これは自転車のホイールと同様に、内部ステータと、外側ロータと、スポークによってステータ上のロータを回転可能に支持するハブとを含んでいる。ハブは、固定軸受又は浮動軸受として設計できる2つの転がり軸受によりステータ上に回転可能に支持されている。
【0004】
実際のモーメンタムホイール(例えば、ロータ、スポーク及びハブを含む)の回転運動は、対応して制御される駆動モータの助けを借りて行われる。本明細書では、「モーメンタムホイール」と「ホイール」という用語は同義語として使用される。したがって、たとえば、ホイール速度とモーメンタムホイール速度も同義語として使用されている。
【0005】
モーメンタムホイール又はリアクションホイールは、通常、トルク又は速度指令を介して制御される。その後、内部制御ループは、できるだけ高速かつ正確に指令を実施しようとする。このプロセスでは、好ましくは速度の正確な制御がその目的である。
【0006】
このプロセスでは、精度に対する要求は極めて高くなり得る。例えば、6000rpmにおいて、その精度が0.005rpmを下回ってはいけない用途が知られている。そして、その精度は約10-8rpmになる。
【0007】
しかしながら、制御を実施する際には、エンドレスな制御レート、デッドタイム及び遅れのために、実際のモーメンタムホイールの所望の回転挙動からの逸脱は避けられない。速度又は回転位置(回転角度)に関するこれらのずれは、衛星のアライメントが指令通りに正確に変化しない原因となる。
【0008】
さらに、モーメンタムホイール装置の実際の玉軸受では、玉の転がり運動、軸受保持器の移動、軸受温度、軸受の潤滑状態によって摩擦が発生する。この摩擦は時系列的に一定ではなく、統計的及び系統的に変化し得る。軸受摩擦の統計的変化は、特に摩擦のピークの場合は、速度制御に乱れが生じ、速度の短期的な逸脱を引き起こす恐れがある。速度が逸脱すると、モーメンタムホイールの所望の回転位置又は回転角度を達成しない直接的な原因となる。
【0009】
衛星用のモーメンタムホイール装置が知られており、これは対応するモータ電流制御を備えたモータ制御を含み、これは次に、モーメンタムホイールのための速度制御を介して制御される。このような速度制御は、例えば、トルク指令を介して制御することができる。
【0010】
従って、このようなモーメンタムホイール及びリアクションホイールの場合には、モータ電流制御(モータ動力段階)に加えて制御アルゴリズムが設けられ、これは速度を制御する。このような制御装置は、速度の良好な制御及び安定化を特徴とする。しかしながら、この制御においては、衛星のアライメントのずれにつながる遅延や偏差が必然的に発生する。
衛星のモーメンタムホイールの制御のための装置はDE3214378A1から知られており、ここでは計算によって決定され、モデルを用いて実装される理想的なモーメンタムホイールが、実際のモーメンタムホイールと常に比較され、実際のモーメンタムホイールは理想的なモーメンタムホイールに従属(又は隷属)している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、モーメンタムホイール装置のためのさらなる改良された制御を提供することを目的としており、好ましくは所望の速度を正確に維持することができるだけでなく、モーメンタムホイールのミスアライメント(回転角のずれ)も防止することができる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的は、本発明の請求項1の特徴を有する制御システムによって達成され、また独立請求項の特徴を有する制御方法によって達成される。有利な実施態様は、従属請求項に記載されている。
【0014】
モーメンタムホイール装置のための制御システムが提供され、このモーメンタムホイール装置は、実モーメンタムホイール装置であり、モータによって駆動されるモーメンタムホイールを含む。さらに、理想物理的モデルに基づいて理想的なモーメンタムホイールの挙動を模擬(シミュレート)する模擬モーメンタムホイール装置が提供される。また実モーメンタムホイール装置のモータを制御するための制御装置が提供され、ここで、実モーメンタムホイール装置と模擬モーメンタムホイール装置の両方の速度を変化させるトルク指令を指定(設定)する指令装置が設けられる。また、実モーメンタムホイール装置の実回転角度を検出するための回転角度検出装置が提供される。さらに、指定されたトルク指令による模擬モーメンタムホイール装置の模擬回転角度を計算する積分装置が提供される。
そして、実回転角度と模擬回転角度とを比較し、実回転角度と模擬回転角度との偏差(deviation)に対応するエラー信号を生成する比較装置が提供される。ここで、エラー信号を制御装置に入力し、このエラー信号によりモータを制御して偏差を小さくすることができる。
【0015】
各構成要素を「実(リアル、real)~」と記載するのは、「模擬(シミュレート)した」構成要素と概念的に分離することのみを意図している。したがって、「実」という用語は「実際の(actual)」又は「正確な(exact)」という意味では使用されない。
【0016】
従って、本発明の制御システムには、2つのモーメンタムホイール装置が設けられている。すなわち、現実に実在する(actual real)、物理的に存在するモーメンタムホイール装置と、(仮想的な)模擬した(シミュレートした)モーメンタムホイール装置である。実モーメンタムホイール装置は通常の方法で構成することができ、特に、モータと、このモータにより駆動される対応して支持されたモーメンタムホイールとを含むが、模擬モーメンタムホイール装置は、単なる物理的(計算)モデルである。したがって、この模擬モーメンタムホイール装置は、摩擦のない回転運動の数学的又は物理的な状態方程式によって表される「完全な」モーメンタムホイールとして理解することができる。それ故、この模擬モーメンタムホイール装置は理想的なニュートン条件に基づいており、摩擦損失、測定誤差、測定遅れ等が無視されている。
【0017】
そしてこのプロセスでは以下の式が適用される。
ωt1=ωt0+αt0×Δt1 (1)
ここで、ωは回転速度(角速度又は速度)であり、Δtは時間増分であり、αは慣性モーメントを含むトルクを含む角加速度である。
【0018】
慣性モーメントは、ホイールのすべての回転部品(軸受ユニット+モータロータ+フライホイール部)のJである。内面的には、それに応じて調整することができるモジュール式アプローチであるので、異なる慣性モーメントが可能である。ここで議論される制御のために、トルクは常にM=α/Jで変換される。これにより、式は、具体的に使用されるホイールから独立したものとなる。
【0019】
積分装置を使えば、この運動方程式を回転角φまで2回積分することが可能である。
φ=φt0+ωt0×Δt1+0.5×αto×Δt1
2 (2)
ここで、φは回転角度、ωは回転速度(角速度)、Δtは時間増分、αは慣性モーメントを含むトルクである。
【0020】
模擬モーメンタムホイール装置に対する計算を正確に行うことができる。したがって、基礎となるソフトウェア又は電子機器は、任意の時点における所望の速度及び回転角度を計算することができる。
【0021】
回転角度は、実際のモーメンタムホイールの回転位置、又は実モーメンタムホイール装置内のモータロータ若しくはモータシャフトの回転位置に対応する。モータシャフトはモーメンタムホイールにしっかりと接続されているので、このユニットは総称して(実)モーメンタムホイール装置とも呼ばれる。
【0022】
模擬モーメンタムホイール装置では、(1)式を二重(又は2倍、2回、two-fold)積分することにより、上記(2)式によるφとしての回転角が明らかになる。
【0023】
二重積分により、模擬モーメンタムホイール装置における回転角は、回転速度又は速度を介してトルク(トルク指令)から決定することができる。このプロセスにおいて、積分を行う積分装置は模擬モーメンタムホイール装置の一部である。
【0024】
その情報が非常に正確なタイミングで利用可能であることが重要である。好ましい実施形態では、1μsより高い時間精度が要求され、そして達成される。これは、毎分数千回転を達成できる重畳速度の場合にも角度偏差を正確に評価するために必要である。
【0025】
2つの結果、すなわち実モーメンタムホイール装置の検出された実回転角度と、模擬モーメンタムホイール装置の計算された模擬回転角度とは、比較装置において非常に高い時系列精度で併合される。理想的な場合には、両方の値が同一であるので、補正手段は必要とされない。しかし、実際には常に偏差が生じてしまう。これは、これらは、上記した影響因子(軸受摩擦等)によるものであるが、回転角度検出装置における測定誤差によるものでもある。
【0026】
したがって、比較装置は、例えば、2つの回転角の間の時間的に関連した偏差のみに起因して、対応するエラー信号を生成し、これを制御装置にフィードバックすることができる。それから制御装置は、2つの回転角度(実回転角度、模擬回転角度)の間の偏差を補償するために、対応する補正を通してモータを適切に制御する立場にある。このようにして、速度(回転速度)だけでなく、回転角度(回転位置)に関しても、実モーメンタムホイール装置と理想的な模擬モーメンタムホイール装置との間の優れた同期を達成することができる。
【0027】
また指令装置は、トルク指令を、実モーメンタムホイール用の制御装置に送信し、かつ模擬モーメンタムホイール装置に送信するようにも構成できる。このようにして、実モーメンタムホイール装置と模擬モーメンタムホイール装置の両方がトルク指令を同時に受け取り、運動挙動の変化を開始できることが確実にされる。
【0028】
モータ制御装置は、制御装置によって制御することができ、次にモータを作動させるよう機能することができる。このプロセスにおいて、モータ制御は、特にモータ電流制御も含むことができる。
【0029】
実モーメンタムホイール装置の実回転速度を検出するために、回転速度検出装置を設けることができる。また、回転速度検出装置及び回転角度検出装置が、共通の測定装置によって形成することもできる。例えば、モータロータ、モータシャフト又はモーメンタムホイールがある位置に到達したことを検出する1つ又は複数のセンサを、モータ又は実モーメンタムホイールに設けることができる。このようにして、一方ではその瞬間の回転角位置を求めることができ、一方で時間を考慮してそこから回転速度を導出することができる。
【0030】
また、回転角度検出装置と回転速度検出装置とを組み合わせたオブザーバを設けて、実モーメンタムホイール装置の実回転速度及び/又は実回転角度を決定することができる。ここでオブザーバは、実モーメンタムホイール装置の回転速度及び/又は回転角度の誤差補正を実行するように設計される。このようにして、オブザーバは、付加的な情報を考慮して、測定された速度又は測定された回転角度に基づいて、モーメンタムホイールの実際の位置又は実際の速度を推定する。
【0031】
したがって、オブザーバは、フィルタ又は補正アルゴリズムによって測定値を再処理することによって、単純な回転速度又は回転角度検出を超えて、改善された測定品質を達成する立場にある。このプロセスでは、例えば、測定値が実際の状態、すなわち実際のリアルな(actual real)回転速度又は実際のリアルな回転角度を可能な限り正確に再現するように、測定遅延は使用されるセンサによって補正(オフセット)される。またオブザーバは、軸受摩擦や温度等の更なる物理的特性を推定し、それらをより良い事前制御のために提供することができる。
【0032】
積分装置は、回転運動の状態方程式の二重積分を行うように設計されていることを上で説明した。さらに積分装置は、所定のトルク指令を単純に積分することで、模擬モーメンタムホイール装置の模擬速度又は模擬回転速度を計算するように設計することもできる。ここで、回転速度比較装置を設けて、実回転速度と模擬回転速度とを比較し、実回転速度と模擬回転速度との間の偏差に対応する回転速度偏差信号を生成することもできる。
【0033】
これは単に、第1の積分に続く積分装置の(中間)結果、すなわち、それによって決定された模擬速度又は模擬回転速度が、例えば制御装置に情報を提供するように使用されていることを意味する。この模擬回転速度に関する情報や、模擬回転速度と実回転速度との比較及びそれから生じる回転速度偏差信号に関する情報が、制御を改善するのに使用することができる。
【0034】
そして、宇宙船を安定化させるためのモーメンタムホイール装置を制御する制御方法が提供される。
この方法は、
-モータ駆動されるモーメンタムホイールを含む実モーメンタムホイール装置としてのモーメンタムホイール装置の提供するステップと、
-理想物理的モデルに基づく模擬モーメンタムホイール装置を提供するステップと、
-実モーメンタムホイール装置と模擬モーメンタムホイール装置とにトルク指令を同時に入力して、それらの特定の回転速度を変更するステップと、
-入力されたトルク指令に応じてモータを制御して回転速度を変化させるステップと、
-実モーメンタムホイール装置の実回転角度を検出するステップと、
-入力されたトルク指令の二重に積分することにより、模擬モーメンタムホイール装置の模擬回転角度を計算するステップと、
-実回転角度と模擬回転角度とを比較し、実回転角度と模擬回転角度との偏差に応じたエラー信号を生成するステップと、
-エラー信号によるモータの制御を行い、偏差を小さくするステップと、を含む。
【0035】
上述したように、本発明によれば、(実)モーメンタムホイール又はリアクションホイールはトルク指令を介して制御される。同時に、トルク指令は、完全なモーメンタムホイールのシミュレーションと、実モーメンタムホイールのコントローラ(制御装置)の制御も行う。実モーメンタムホイールの制御は、速度を維持するように調整されるだけでなく、ホイール回転角度の平行走行、すなわち、実モーメンタムホイールの回転角度と完全な模擬モーメンタムホイールの回転角度との間の差が好ましくは小さくなるように調整される。
【0036】
制御誤差は、模擬した完全なホイールと、オブザーバで推定した実ホイールの動きとの間の回転角度の差によって決まる。模擬ホイールと観測された実ホイールとの間のホイール回転角の差を最小するように、模擬ホイールと実ホイールとの間の速度の偏差が認められる。したがって、両ホイールのホイール回転角度を調和させることが最上位の制御対象となる。
【0037】
速度偏差とホイール角度偏差には限界があるため、衛星レベルでの最大アライメント偏差をあらかじめ記述し、計算することができる。モーメンタムホイール又はリアクションホイールの制御精度は、模擬した完全なホイールと観測された実ホイールとの間の角度の最大偏差によって記述される。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】本実施形態モーメンタムホイール装置の制御システムの構造を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
これら及び追加の利点及び特徴は、添付の図面の助けを借りて実施例に基づいて、以下の本文においてより詳細に説明される。図は、宇宙船を安定させるためのモーメンタムホイール装置の制御システムの構造を模式的に示している。
【0040】
この制御システムは本質的に、実(又は、本物の、実際の、リアル、real)モーメンタムホイール装置1と模擬(又はシミュレート、simulated)モーメンタムホイール装置2とからなる。実モーメンタムホイール装置1は、実際の意味の範囲内で制御システムによって制御されるモーメンタムホイール装置であり、衛星の安定化又はアライメントのために使用される。原則として、それは公知の方法で構成され、図示されていない実際のモーメンタムホイール又はリアクションホイールを含み、図示されていないモータによって回転運動に設定されている。モーメンタムホイールの回転とこの過程で生じるジャイロ効果により、所望の安定化効果が達成される。実モーメンタムホイール装置1の機械的構造に関する同様のフライホイール装置は、DE3921765A1から知られている。
【0041】
実モーメンタムホイール装置1は、実際のモータ制御装置4を制御する制御装置3を含み、この制御装置4、モータ等のためのパワーエレクトロニクスや電流制御器を含んでいる。
【0042】
制御装置3は、精巧に設計され、例えばモーメンタムホイールの加速又は減速、及びそれに対応する始動機能及び停止機能のような、公知の方法で適切な制御手段をとることができる。さらに、制御装置3には、どの条件(回転速度、温度等)で、どの軸受条件(例えば軸受摩擦など)がモーメンタムホイールに存在するかの情報(例えばテーブル)を記憶しておくことができる。たとえば、衛星が非常に寒い場所(影)を移動すると、モーメンタムホイールのベアリングが冷却され、それによってベアリングの摩擦が増大する可能性がある。この影響を補償するために、制御装置3は、対応する制御手段をとることができる。
【0043】
例えば実際の衛星制御装置の一部となり得る指令装置5は、制御装置3の上流に設けられている。この場合、例えば、衛星の所望の移動又はアライメントがプリセットされ、これはモーメンタムホイール装置1の対応する指令につながる。これに対応して、指令装置5は制御装置3にトルク指令6を与える。この過程において、トルクは速度の物理的な基本指令であり、モーメンタムホイールの回転速度の変化の基礎となる。
【0044】
制御装置3は、適切な状態情報7を上位衛星制御装置に入力することができ、そこから、例えば、ホイール状態、ホイール速度又はホイール角度に関する情報が得られる。
【0045】
モータ制御装置4によって制御されるモータは、実モーメンタムホイールの回転運動に影響を及ぼす。回転運動は、適切な方法で測定することができる。例えば、回転ホイールの回転位置をロックするために、モータの回転子にホールセンサ(例えば3つのホールセンサ)を設けることが知られている。時間を考慮すると、回転位置(ホイール回転角)からホイールの回転速度を直接導出することもできる。この目的のために、オブザーバ8が設けられており、これは回転角度検出装置と、速度又は回転速度検出装置とを含む。さらに、オブザーバ8は、ホイールの実際の位置(ホイール回転角度)又はホイール速度を可能な限り正確に検出するように、補正手段又は推定手段をさらに提供してもよい。一方ではモーメンタムホイールの高い回転速度(例えば6000rpm)、他方では測定精度に対する極めて高い要求(例えばこの高い回転速度(例えば6000min-1)に対して、0.005rpmの精度が達成されなければならない)のために、オブザーバ8の結果は、通常、決して厳密な情報ではなく、常に可能な限りの裁量の推定値である。
【0046】
オブザーバ8の結果、一方では実回転角9、他方では実回転速度10(ホイール速度)が出力される。
【0047】
実回転角度は、後述する比較装置(a comparator device)11に送られる。
【0048】
このように説明した実モーメンタムホイール装置1と並行して、模擬モーメンタムホイール装置2が設けられている。
【0049】
これは、もっぱら理想物理的モデル(ideal physical model)12、すなわち回転運動のための状態方程式に基づいており、例えば、次のような式を取ることができる。
【0050】
φ=φt0+ωt0×Δt1+0.5×αto×Δt1
2 (2)
ここで、φは回転角、ωは回転速度(角速度)、Δtは時間増分、αは慣性モーメントを含むトルクである。
【0051】
このように模擬モーメンタムホイール装置2は、「実世界」の機械的なモーメンタムホイールの構成要素を必要とせずに、もっぱらソフトウェアによって実現される。制御装置3にも供給される指令装置5からの同じトルク指令6は、物理的モデルの入力変数量として機能する。トルク指令6は、当然ながら、実モーメンタムホイール装置1と模擬モーメンタムホイール装置2とに同時に送られなければならない。物理的モデル12では、最初に第1の積分12aが発生し、その結果、模擬速度又は模擬回転数13が得られる。
【0052】
模擬回転数13は第2の積分12bを受け、これにより模擬回転角14が得られる。この模擬回転角14は、理想物理的モデルによる理想的な値である。したがって、それは、実モーメンタムホイール装置1が同時に達成するべき目標値である。
【0053】
このために、模擬回転角度14も比較装置11に供給され、そこで模擬回転角度14と実回転角度9との比較がなされる。この処理で特定された差は、エラー信号15として制御装置3にフィードバックされる。次に、制御装置3は実モーメンタムホイールの回転速度を変化させ、模擬回転角14と実回転角9との間の誤差を減少させるために、モータ制御4、ひいては実モーメンタムホイールを制御する立場にある。
【0054】
模擬回転速度13は、実回転速度10と共に、回転速度比較装置16に供給されてもよい。
回転数比較装置16は、その値間の差を決定し、これに応じて、回転速度差信号17を制御装置3に供給することができる。この信号は、制御装置3によって情報としてさらに処理されもよい。しかしながら、実モーメンタムホイール制御に対しては、決定された回転角度9、14又はそれらの互いの偏差によってのみ実行されるので、それは従属的である。