(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】ジカルボン酸類ならびにその製造方法および用途
(51)【国際特許分類】
C07C 69/616 20060101AFI20241008BHJP
C07C 67/317 20060101ALI20241008BHJP
C07C 57/40 20060101ALI20241008BHJP
C08G 63/199 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
C07C69/616 CSP
C07C67/317
C07C57/40
C08G63/199
(21)【出願番号】P 2021514892
(86)(22)【出願日】2020-04-07
(86)【国際出願番号】 JP2020015634
(87)【国際公開番号】W WO2020213470
(87)【国際公開日】2020-10-22
【審査請求日】2023-04-07
(31)【優先権主張番号】P 2019078774
(32)【優先日】2019-04-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591147694
【氏名又は名称】大阪ガスケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【氏名又は名称】阪中 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【氏名又は名称】鍬田 充生
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 久芳
(72)【発明者】
【氏名】金田 将平
(72)【発明者】
【氏名】小西 孝治
(72)【発明者】
【氏名】宮内 信輔
(72)【発明者】
【氏名】安田 理恵
(72)【発明者】
【氏名】光實 真哉人
(72)【発明者】
【氏名】元廣 伊吹
(72)【発明者】
【氏名】山畑 勇太
【審査官】前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-139214(JP,A)
【文献】国際公開第2008/069274(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/054709(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第104945858(CN,A)
【文献】国際公開第2015/191505(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/163440(WO,A1)
【文献】Macromolecular Rapid Communications,2018年,39(16),P.1800284(1-6)
【文献】Journal of the American Chemical Society,2018年,140(26),P.8078-8081
【文献】Polymer,2017年,132,P.98-105
【文献】Physical Chemistry Chemical Physics,2015年,17(22),P.14489-14494
【文献】Journal of Physical Chemistry C,2014年,118(8),P.4553-4566
【文献】Journal of Physical Chemistry A,2008年,112(46),P.11960-11964
【文献】Chemistry - A European Journal,2003年,9(24),P.6167-6176
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 69/
C07C 67/
C07C 57/
C08G 63/
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)
【化1】
(式中、Z
1aおよびZ
1bはそれぞれ独立して
C
6-12
アレーン環を示し、R
1aおよびR
1bはそれぞれ独立して
炭化水素基を示し、k1およびk2はそれぞれ独立して0
~2の整数を示し、m1およびm2はそれぞれ独立して0~4の整数を示し、R
2aおよびR
2bはそれぞれ独立して
炭化水素基(ただし、アリール基は除く)を示し、n1およびn2はそれぞれ独立して0~
2の整数を示し、A
1aおよびA
1bはそれぞれ独立して直鎖状または分岐鎖状
C
1-6
アルキレン基を示し、m1+n1およびm2+n2はそれぞれ4以下であり、m1およびm2のうち少なくとも一方は1以上である)
で表されるジカルボン酸またはその誘導体
であって、
前記誘導体が、ジカルボン酸エステル、ジカルボン酸ハライド、ジカルボン酸無水物、ジカルボン酸アミドおよびジカルボン酸塩から選択される少なくとも一種である、ジカルボン酸またはその誘導体。
【請求項2】
前記式(I)において、Z
1aおよびZ
1bが縮合多環式アレーン環であり、m1およびm2が1~2の整数であり、A
1aおよびA
1bが直鎖状または分岐鎖状C
2-6アルキレン基である請求項1記載のジカルボン酸またはその誘導体。
【請求項3】
下記式(II)で表されるジカルボン酸またはその誘導体と、下記式(IIIa)および(IIIb)で表される化合物とをカップリング反応させる工程
【化2】
(式中、X
1a
およびX
1b
はそれぞれ独立してカップリング反応により炭素-炭素結合を形成可能な反応性基を示し;X
2a
は前記反応性基X
1a
と、X
2b
は前記反応性基X
1b
とともに、それぞれカップリング反応により炭素-炭素結合を形成可能な反応性基を示し;Z
1a
、Z
1b
、R
1a
、R
1b
、k1、k2、m1、m2、R
2a
、R
2b
、n1、n2、A
1a
、A
1b
、m1+n1およびm2+n2は、それぞれ前記式(I)と同じである);または
下記式(V)で表される化合物と、アクリル酸エステルまたはハロ酢酸エステルとを反応させる工程
【化3】
(式中、Z
1a
、Z
1b
、R
1a
、R
1b
、k1、k2、m1、m2、R
2a
、R
2b
、n1、n2、m1+n1およびm2+n2は、それぞれ前記式(I)と同じである)
を含む、請求項1または2記載のジカルボン酸またはその誘導体を製造する方法。
【請求項4】
少なくともジカルボン酸単位(A)を有する樹脂であって、前記ジカルボン酸単位(A)が、下記式(1)
【化4】
(式中、Z
1a、Z
1b、R
1a、R
1b、k1、k2、m1、m2、R
2a、R
2b、n1、n2、A
1a、A
1b、m1+n1、m2+n2はそれぞれ請求項1記載の式(I)と同じである)
で表される第1のジカルボン酸単位(A1)を含む樹脂。
【請求項5】
前記ジカルボン酸単位(A)とジオール単位(B)とを有するポリエステル系樹脂であって、前記ジオール単位(B)が、下記式(3)
【化5】
(式中、A
2は直鎖状または分岐鎖状アルキレン基を示し、qは1以上の整数を示す)
で表される第1のジオール単位(B1)、下記式(4)
【化6】
(式中、Z
3aおよびZ
3bはそれぞれ独立してアレーン環を示し、R
4は置換基を示し、rは0~8の整数を示し、R
5aおよびR
5bはそれぞれ独立して置換基を示し、s1およびs2はそれぞれ独立して0以上の整数を示し、A
3aおよびA
3bはそれぞれ独立して直鎖状または分岐鎖状アルキレン基を示し、t1およびt2はそれぞれ独立して0以上の整数を示す)
で表される第2のジオール単位(B2)、および下記式(5)
【化7】
(式中、A
4は直接結合(単結合)あるいは直鎖状または分岐鎖状アルキレン基を示し、A
5aおよびA
5bはそれぞれ独立して直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基を示し、R
6aおよびR
6bはそれぞれ独立して置換基を示し、u1およびu2はそれぞれ独立して0以上の整数を示し、v1およびv2はそれぞれ独立して0~6の整数を示す)
で表される第3のジオール単位(B3)から選択された少なくとも1種のジオール単位を含む請求項4記載の樹脂。
【請求項6】
前記ジオール単位(B)が、前記第1のジオール単位(B1)および前記第2のジオール単位(B2)の双方を含み、その割合が、B1/B2(モル比)=10/90~90/10である請求項5記載の樹脂。
【請求項7】
前記ジカルボン酸単位(A)が、さらに、下記式(2)
【化8】
(式中、Z
2はアレーン環を示し、R
3は置換基を示し、pは0以上の整数を示す)
で表される第2のジカルボン酸単位(A2)、および脂肪族ジカルボン酸単位である第3のジカルボン酸単位(A3)から選択される少なくとも1種のジカルボン酸単位を含む請求項4~6のいずれか1項に記載の樹脂。
【請求項8】
前記第1のジカルボン酸単位(A1)と、前記第2のジカルボン酸単位(A2)との割合が、A1/A2(モル比)=95/5~30/70である請求項7記載の樹脂。
【請求項9】
前記第1のジカルボン酸単位(A1)と、前記第3のジカルボン酸単位(A3)との割合が、A1/A3(モル比)=90/10~20/80であり、
前記第2のジカルボン酸単位(A2)と、前記第3のジカルボン酸単位(A3)との割合が、A2/A3(モル比)=25/75~1/99である請求項7または8記載の樹脂。
【請求項10】
下記(i)または(ii)である請求項7~9のいずれか1項に記載の樹脂。
(i)前記第1のジカルボン酸単位(A1)としての9,9-ビス(カルボキシC
2-4アルキル)-2,7-ジ(2-ナフチル)フルオレンに由来する構成単位と;前記第2のジカルボン酸単位(A2)としてのナフタレンジカルボン酸単位と;前記第1のジオール単位(B1)としての直鎖状または分岐鎖状C
2-4アルキレングリコールに由来する構成単位と;前記第2のジオール単位(B2)としての9,9-ビス[ヒドロキシC
2-3アルコキシナフチル]フルオレンに由来する構成単位とで形成され、
前記第1のジカルボン酸単位(A1)と前記第2のジカルボン酸単位(A2)との割合が、A1/A2(モル比)=85/15~50/50であり;前記第1のジオール単位(B1)と前記第2のジオール単位(B2)との割合(B1/B2)が、B1/B2(モル比)=50/50~95/5である樹脂
(ii)前記第1のジカルボン酸単位(A1)としての9,9-ビス(カルボキシC
2-4アルキル)-2,7-ジ(2-ナフチル)フルオレンに由来する構成単位と;前記第2のジカルボン酸単位(A2)としてのナフタレンジカルボン酸単位と;前記第3のジカルボン酸単位(A3)としてのC
2-6アルカン-ジカルボン酸単位と;前記第1のジオール単位(B1)としての直鎖状または分岐鎖状C
2-4アルキレングリコールに由来する構成単位と;前記第2のジオール単位(B2)としての9,9-ビス[ヒドロキシC
2-3アルコキシナフチル]フルオレンに由来する構成単位とで形成され、
前記第1のジカルボン酸単位(A1)と前記第2のジカルボン酸単位(A2)との割合が、A1/A2(モル比)=99/1~80/20であり;前記第1のジカルボン酸単位(A1)と前記第3のジカルボン酸単位(A3)との割合が、A1/A3(モル比)=65/35~45/55であり;前記第2のジカルボン酸単位(A2)と前記第3のジカルボン酸単位(A3)との割合が、A2/A3(モル比)=25/75~1/99であり;前記第1のジオール単位(B1)と前記第2のジオール単位(B2)との割合(B1/B2)が、B1/B2(モル比)=85/15~65/35である樹脂
【請求項11】
請求項4~10のいずれか1項に記載の樹脂を含む成形体。
【請求項12】
光学部材である請求項11記載の成形体。
【請求項13】
光学フィルムまたは光学レンズである請求項11または12記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルオレン骨格を有する新規なジカルボン酸またはその誘導体、ならびにその製造方法および用途に関する。
【背景技術】
【0002】
光学用プラスチック(または光学用樹脂材料)は、光学ガラスに比べて軽量性、耐衝撃性(または柔軟性)、安全性、成形性(または生産性)などの点で優れ、様々な光学部材に利用されている。しかし、屈折率や複屈折などの光学的特性や、耐熱性(熱安定性)は未だ光学ガラスには及ばず、用途や使用環境などによっては利用が制限される場合があるため、改善が進められている。
【0003】
特許文献1には、フルオレン骨格の9,9-位にそれぞれヒドロキシ(ポリ)アルコキシ縮合多環式芳香族基を有するジオール成分(A1)を含むジオール成分(A)と、フルオレン骨格を有するジカルボン酸成分(B1)を含むジカルボン酸成分(B)とを重合成分とするポリエステル樹脂が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、下記式(1)で表される繰り返し単位を含む熱可塑性樹脂が開示されている。
【0005】
【0006】
(式中、環Zは芳香族炭化水素環を示し、R1およびR2は水素原子、ハロゲン原子、芳香族基を含んでいてもよい炭素原子数1~12の炭化水素基を示し、Ar1およびAr2は、置換基を含んでいてもよい炭素原子数6~10の芳香族基を示し、L1およびL2は2価の連結基を示し、jおよびkは0以上の整数を示し、mおよびnは0または1を示し、Wは下記式(2)または(3)で表される群より選ばれる少なくとも1つである。)
【0007】
【0008】
(式中、Xは2価の連結基を示す。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2016-69643号公報
【文献】国際公開第2019/044214号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1の実施例では、9,9-ジ(2-メトキシカルボニル)フルオレン(FDPM)を含むジカルボン酸成分と、9,9-ビス[6-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-ナフチル]フルオレン(BNEF)を含むジオール成分とを反応させてポリエステル樹脂が調製されており、得られたポリエステル樹脂は、高屈折率および低複屈折を両立し、高いガラス転移温度を示している。
【0011】
しかし、近年、カメラや画像表示装置などの光学機器の高性能化に伴って、光学部材にもより高度な特性が求められており、特許文献1で得られたポリエステル樹脂でも、このような要求特性を十分に満足できない場合がある。
【0012】
また、特許文献2の実施例では、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2,7-ジ(2-ナフチル)フルオレン(BPDN2)などをジオール成分(重合成分)として含むポリカーボネート樹脂、ポリエステルカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂などが調製されている。
【0013】
これらの樹脂も高い屈折率、低い複屈折、高いガラス転移温度を比較的バランスよく充足しているものの、未だ十分ではなく、特に高屈折率と低複屈折とをより一層バランスよく改善するのは困難である。
【0014】
そのため、光学特性や耐熱性に優れた樹脂または樹脂原料の開発が求められている。
【0015】
従って、本発明の目的は、高い屈折率および高い耐熱性を示す新規なジカルボン酸またはその誘導体ならびにその製造方法および用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、フルオレン骨格の1~8位にアリール基が結合した特定の化学構造を有するジカルボン酸が光学的特性や耐熱性に優れており、重合成分として用いると、特許文献2記載の構成単位のように9,9-位に屈折率やガラス転移温度を向上し易いアリール基を有していないにもかかわらず、意外にも前記特性が著しく優れた樹脂を形成できることを見いだし、本発明を完成した。
【0017】
すなわち、本発明のジカルボン酸またはその誘導体は、下記式(I)で表される。
【0018】
【0019】
(式中、Z1aおよびZ1bはそれぞれ独立してアレーン環を示し、R1aおよびR1bはそれぞれ独立して置換基を示し、k1およびk2はそれぞれ独立して0以上の整数を示し、m1およびm2はそれぞれ独立して0~4の整数を示し、R2aおよびR2bはそれぞれ独立して置換基を示し、n1およびn2はそれぞれ独立して0~4の整数を示し、A1aおよびA1bはそれぞれ独立して直鎖状または分岐鎖状アルキレン基を示し、m1+n1およびm2+n2はそれぞれ4以下であり、m1およびm2のうち少なくとも一方は1以上である)。
【0020】
前記式(I)において、Z1aおよびZ1bは縮合多環式アレーン環であってもよく、m1およびm2は1~2の整数であってもよく、A1aおよびA1bは直鎖状または分岐鎖状C2-6アルキレン基であってもよい。
【0021】
本発明は、フルオレン骨格を有する化合物と、前記式(I)において、環Z1aおよびZ1bに対応するアレーン環骨格を有する化合物とをカップリング反応させる工程を含む前記ジカルボン酸またはその誘導体を製造する方法を包含する。
【0022】
また、本発明は、ジカルボン酸単位(A)として、下記式(1)で表される第1のジカルボン酸単位(A1)を少なくとも含む樹脂も包含する。
【0023】
【0024】
(式中、Z1a、Z1b、R1a、R1b、k1、k2、m1、m2、R2a、R2b、n1、n2、A1a、A1b、m1+n1、m2+n2は、それぞれ前記式(I)と同じである)。
【0025】
前記樹脂は、前記ジカルボン酸単位(A)とジオール単位(B)とを有するポリエステル系樹脂であってもよい。前記ジオール単位(B)は、下記式(3)で表される第1のジオール単位(B1)、下記式(4)で表される第2のジオール単位(B2)および下記式(5)で表される第3のジオール単位(B3)から選択された少なくとも1種のジオール単位を含んでいてもよく、好ましくは前記第1のジオール単位(B1)および前記第2のジオール単位(B2)から選択された少なくとも1種のジオール単位を含んでいてもよい。
【0026】
【0027】
(式中、A2は直鎖状または分岐鎖状アルキレン基を示し、qは1以上の整数を示す)。
【0028】
【0029】
(式中、Z3aおよびZ3bはそれぞれ独立してアレーン環を示し、R4は置換基を示し、rは0~8の整数を示し、R5aおよびR5bはそれぞれ独立して置換基を示し、s1およびs2はそれぞれ独立して0以上の整数を示し、A3aおよびA3bはそれぞれ独立して直鎖状または分岐鎖状アルキレン基を示し、t1およびt2はそれぞれ独立して0以上の整数を示す)。
【0030】
【0031】
(式中、A4は直接結合(単結合)あるいは直鎖状または分岐鎖状アルキレン基を示し、A5aおよびA5bはそれぞれ独立して直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基を示し、R6aおよびR6bはそれぞれ独立して置換基を示し、u1およびu2はそれぞれ独立して0以上の整数を示し、v1およびv2はそれぞれ独立して0~6の整数を示す)。
【0032】
前記ジオール単位(B)は、前記第1のジオール単位(B1)および前記第2のジオール単位(B2)の双方を含んでいてもよく、前記第1のジオール単位(B1)と前記第2のジオール単位(B2)との割合(B1/B2)は、B1/B2(モル比)=10/90~90/10程度であってもよい。
【0033】
前記ジカルボン酸単位(A)は、さらに、下記式(2)で表される第2のジカルボン酸単位(A2)、および脂肪族ジカルボン酸単位である第3のジカルボン酸単位(A3)から選択される少なくとも1種のジカルボン酸単位を含んでいてもよい。
【0034】
【0035】
(式中、Z2はアレーン環を示し、R3は置換基を示し、pは0以上の整数を示す)。
【0036】
前記第1のジカルボン酸単位(A1)と、前記第2のジカルボン酸単位(A2)との割合(A1/A2)は、A1/A2(モル比)=95/5~30/70程度であってもよい。また、前記第1のジカルボン酸単位(A1)と、前記第3のジカルボン酸単位(A3)との割合が、A1/A3(モル比)=90/10~20/80であり、前記第2のジカルボン酸単位(A2)と、前記第3のジカルボン酸単位(A3)との割合が、A2/A3(モル比)=25/75~1/99であってもよい。
【0037】
また、前記樹脂は、下記(i)または(ii)に記載の樹脂であってもよい。
(i)前記第1のジカルボン酸単位(A1)としての9,9-ビス(カルボキシC2-4アルキル)-2,7-ジ(2-ナフチル)フルオレンに由来する構成単位と;前記第2のジカルボン酸単位(A2)としてのナフタレンジカルボン酸単位と;前記第1のジオール単位(B1)としての直鎖状または分岐鎖状C2-4アルキレングリコールに由来する構成単位と;前記第2のジオール単位(B2)としての9,9-ビス[ヒドロキシC2-3アルコキシナフチル]フルオレンに由来する構成単位とで形成され、
前記第1のジカルボン酸単位(A1)と前記第2のジカルボン酸単位(A2)との割合が、A1/A2(モル比)=85/15~50/50であり;前記第1のジオール単位(B1)と前記第2のジオール単位(B2)との割合(B1/B2)が、B1/B2(モル比)=50/50~95/5である樹脂
(ii)前記第1のジカルボン酸単位(A1)としての9,9-ビス(カルボキシC2-4アルキル)-2,7-ジ(2-ナフチル)フルオレンに由来する構成単位と;前記第2のジカルボン酸単位(A2)としてのナフタレンジカルボン酸単位と;前記第3のジカルボン酸単位(A3)としてのC2-6アルカン-ジカルボン酸単位と;前記第1のジオール単位(B1)としての直鎖状または分岐鎖状C2-4アルキレングリコールに由来する構成単位と;前記第2のジオール単位(B2)としての9,9-ビス[ヒドロキシC2-3アルコキシナフチル]フルオレンに由来する構成単位とで形成され、
前記第1のジカルボン酸単位(A1)と前記第2のジカルボン酸単位(A2)との割合が、A1/A2(モル比)=99/1~80/20であり;前記第1のジカルボン酸単位(A1)と前記第3のジカルボン酸単位(A3)との割合が、A1/A3(モル比)=65/35~45/55であり;前記第2のジカルボン酸単位(A2)と前記第3のジカルボン酸単位(A3)との割合が、A2/A3(モル比)=25/75~1/99であり;前記第1のジオール単位(B1)と前記第2のジオール単位(B2)との割合(B1/B2)が、B1/B2(モル比)=85/15~65/35である樹脂
【0038】
本発明は、前記樹脂を含む成形体も包含する。前記成形体は、光学フィルムまたは光学レンズなどの光学部材であってもよい。
【0039】
なお、本発明では、従たる目的として、以下の課題を解決してもよい。
【0040】
すなわち、本発明の他の目的は、重合成分としての含有割合が少なくても、高い屈折率および高い耐熱性を示す樹脂を形成可能なジカルボン酸またはその誘導体ならびにその製造方法および用途を提供することにある。
【0041】
本発明のさらに他の目的は、大きな負の複屈折(マイナス(-)側に大きな複屈折)を発現可能なジカルボン酸またはその誘導体ならびにその製造方法および用途を提供することにある。
【0042】
本発明の別の目的は、高い屈折率、低いアッベ数、低い複屈折(低い複屈折の絶対値)および高い耐熱性をバランスよく充足できるとともに、高い成形性も有する樹脂およびその樹脂を含む成形体を提供することにある。
【0043】
なお、本明細書および請求の範囲において、ジカルボン酸の「誘導体」は、ジカルボン酸エステル、ジカルボン酸ハライド、ジカルボン酸無水物などのエステル(またはアミド)形成性誘導体に加えて、ジカルボン酸アミドやジカルボン酸塩などのジカルボン酸から慣用の方法で変換可能な化合物を含む意味に用いる。
【0044】
なお、前記ジカルボン酸エステルとしては、ジカルボン酸成分アルキルエステル、なかでも低級アルキルエステル、例えば、メチルエステル、エチルエステル、t-ブチルエステルなどのC1-4アルキルエステルなどが挙げられる。前記ジカルボン酸ハライドとしては、例えば、ジカルボン酸クロリド、ジカルボン酸ブロミドなどが挙げられる。前記ジカルボン酸塩としては、例えば、金属塩、具体的には、ナトリウム塩などのアルカリ金属塩など;アンモニウム塩などが挙げられる。
【0045】
また、「ジカルボン酸単位」は、ジカルボン酸成分由来の構成単位、すなわち、対応するジカルボン酸の2つのカルボキシル基からOH(ヒドロキシル基)を除いた単位(または2価の基)を意味する。なお、「ジカルボン酸成分」とは、ジカルボン酸に加えて、重合成分として利用可能な誘導体、例えば、前記エステル(またはアミド)形成性誘導体を含む意味に用いる。前記エステル形成性誘導体は、モノエステル(ハーフエステル)またはジエステルであってもよい。また、「ジカルボン酸成分」(ジカルボン酸成分として例示される化合物を含む)は、対応する「ジカルボン酸単位」と同義に用いる場合がある。
【0046】
同様に「ジオール単位」は、ジオール成分由来の構成単位、すなわち、対応するジオールの2つのヒドロキシル基から、水素原子を除いた単位(または2価の基)を意味し、「ジオール成分」(ジオール成分として例示される化合物を含む)は、対応する「ジオール単位」と同義に用いる場合がある。
【0047】
なお、本明細書および請求の範囲において、置換基の炭素原子の数をC1、C6、C10などで示すことがある。例えば、炭素数が1のアルキル基は「C1アルキル」で示し、炭素数が6~10のアリール基は「C6-10アリール」で示す。
【0048】
また、本明細書および請求の範囲において、「低い複屈折」または「低複屈折」などの記載は、特に断りのない限り、複屈折の絶対値が低い(すなわち0に近い)ことを意味する。
【発明の効果】
【0049】
本発明の新規なジカルボン酸またはその誘導体は高い屈折率および高い耐熱性を有している。そのため、重合成分として用いると、樹脂全体に対する含有割合が少なくても、高い屈折率および高い耐熱性を示す樹脂を形成できる。また、前記ジカルボン酸またはその誘導体は、大きな負の複屈折(マイナス(-)側または負側に大きな複屈折)を発現させることもできる。さらに、前記樹脂は、高い屈折率、低いアッベ数、低い複屈折(低い複屈折の絶対値)および高い耐熱性をバランスよく充足できるとともに、高い成形性を有しているため、成形体における劣化や着色(または変色)、歪みの発生、さらには、表面平滑性の低下も抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0050】
[ジカルボン酸成分またはその誘導体]
本発明の新規なジカルボン酸は下記式(I)で表される。
【0051】
【0052】
(式中、Z1aおよびZ1bはそれぞれ独立してアレーン環を示し、R1aおよびR1bはそれぞれ独立して置換基を示し、k1およびk2はそれぞれ独立して0以上の整数を示し、m1およびm2はそれぞれ独立して0~4の整数を示し、R2aおよびR2bはそれぞれ独立して置換基を示し、n1およびn2はそれぞれ独立して0~4の整数を示し、A1aおよびA1bはそれぞれ独立して直鎖状または分岐鎖状アルキレン基を示し、m1+n1およびm2+n2はそれぞれ4以下であり、m1およびm2のうち少なくとも一方は1以上である)。
【0053】
前記式(I)において、Z1aおよびZ1bで表されるアレーン環(芳香族炭化水素環)としては、例えば、ベンゼン環などの単環式アレーン環、多環式アレーン環などが挙げられる。多環式アレーン環としては、縮合多環式アレーン環(縮合多環式芳香族炭化水素環)、環集合アレーン環(環集合多環式芳香族炭化水素環)などが挙げられる。
【0054】
縮合多環式アレーン環としては、例えば、縮合二環式アレーン環、縮合三環式アレーン環などの縮合二乃至四環式アレーン環などが挙げられる。縮合二環式アレーン環としては、例えば、ナフタレン環、インデン環などの縮合二環式C10-16アレーン環などが挙げられる。縮合三環式アレーン環としては、例えば、アントラセン環、フェナントレン環などの縮合三環式C14-20アレーン環などが挙げられる。好ましい縮合多環式アレーン環は、ナフタレン環などの縮合多環式C10-14アレーン環である。
【0055】
環集合アレーン環としては、例えば、ビフェニル環、フェニルナフタレン環、ビナフチル環などのビアレーン環;テルフェニル環などのテルアレーン環などが挙げられる。好ましい環集合アレーン環は、ビフェニル環などのC12-18ビアレーン環である。
【0056】
なお、本明細書および請求の範囲において、「環集合アレーン環」とは、2つ以上の環系(アレーン環系)が一重結合(単結合)か二重結合で直結し、環を直結する結合の数が環系の数より1つだけ少ないものを意味し、例えば、上述のように、フェニルナフタレン環、ビナフチル環などは縮合多環式アレーン環骨格を有していても環集合アレーン環に分類され、ナフタレン環(非環集合アレーン環)などの「縮合多環式アレーン環」と明確に区別される。
【0057】
好ましい環Z1aおよびZ1bとしては、C6-14アレーン環が挙げられ、より好ましくはベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環などのC6-12アレーン環、さらに好ましくはベンゼン環、ナフタレン環などのC6-10アレーン環、特にナフタレン環である。
【0058】
環Z1aおよびZ1bの種類は、互いに異なっていてもよいが、通常、同一であることが多い。また、m1またはm2が2以上である場合、2以上の環Z1aまたはZ1bの種類は、互いに同一または異なっていてもよい。
【0059】
また、環Z1aおよびZ1bは、それぞれフルオレン骨格の1~4位、5~8位のいずれの位置に置換していてもよいが、通常、2位、3位および/または7位であることが多い。m1およびm2が1である場合、好ましい置換位置(または結合位置)としては、1,8-位、2,7-位、3,6-位、4,5-位などの前記式(I)において紙面上で左右対称な位置であり、特に、2,7-位が好ましい。
【0060】
なお、フルオレン骨格に対する環Z1a、Z1bの結合位置は、環Z1a、Z1bがナフタレン環である場合、ナフタレン環の1位または2位のいずれであってもよく、5%質量減少温度や樹脂におけるガラス転移温度などを上昇させて耐熱性を向上できる観点からはナフタレン環の1位であるのが好ましいが、高屈折率、低アッベ数および低複屈折(または負側に大きな複屈折)をバランスよく充足した樹脂を調製できる観点から、ナフタレン環の2位であるのが特に好ましい。
【0061】
R1aおよびR1bで表される置換基(非反応性置換基または非重合性置換基)としては、例えば、ハロゲン原子、炭化水素基(または基[-RA])、基[-ORA](式中、RAは前記炭化水素基を示す)、基[-SRA](式中、RAは前記炭化水素基を示す)、アシル基、ニトロ基、シアノ基、モノまたはジ置換アミノ基などが挙げられる。
【0062】
ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられる。
【0063】
前記RAで表される炭化水素基としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基などが挙げられる。
【0064】
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基などの直鎖状または分岐鎖状C1-10アルキル基が挙げられ、好ましくは直鎖状または分岐鎖状C1-6アルキル基、さらに好ましくは直鎖状または分岐鎖状C1-4アルキル基である。
【0065】
シクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などのC5-10シクロアルキル基が挙げられる。
【0066】
アリール基としては、例えば、フェニル基、アルキルフェニル基、ビフェニリル基、ナフチル基などのC6-12アリール基が挙げられる。アルキルフェニル基としては、例えば、メチルフェニル基(またはトリル基)、ジメチルフェニル基(またはキシリル基)などのモノないしトリC1-4アルキル-フェニル基が挙げられる。
【0067】
アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基などのC6-10アリール-C1-4アルキル基が挙げられる。
【0068】
前記基[-ORA]としては、例えば、アルコキシ基、シクロアルキルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基などが挙げられ、具体的には、前記炭化水素基RAの例示に対応する基が挙げられる。アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、t-ブトキシ基などの直鎖状または分岐鎖状C1-10アルコキシ基が挙げられる。シクロアルキルオキシ基としては、例えば、シクロヘキシルオキシ基などのC5-10シクロアルキルオキシ基が挙げられる。アリールオキシ基としては、例えば、フェノキシ基などのC6-10アリールオキシ基が挙げられる。アラルキルオキシ基としては、例えば、ベンジルオキシ基などのC6-10アリール-C1-4アルキルオキシ基が挙げられる。
【0069】
前記基[-SRA]としては、例えば、アルキルチオ基、シクロアルキルチオ基、アリールチオ基、アラルキルチオ基などが挙げられ、具体的には、前記炭化水素基RAの例示に対応する基が挙げられる。アルキルチオ基としては、例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、n-ブチルチオ基、t-ブチルチオ基などのC1-10アルキルチオ基が挙げられる。シクロアルキルチオ基としては、例えば、シクロヘキシルチオ基などのC5-10シクロアルキルチオ基が挙げられる。アリールチオ基としては、例えば、チオフェノキシ基などのC6-10アリールチオ基が挙げられる。アラルキルチオ基としては、例えば、ベンジルチオ基などのC6-10アリール-C1-4アルキルチオ基が挙げられる。
【0070】
アシル基としては、アセチル基などのC1-6アルキル-カルボニル基などが挙げられる。
【0071】
モノまたはジ置換アミノ基としては、例えば、ジアルキルアミノ基、ビス(アルキルカルボニル)アミノ基などが挙げられる。ジアルキルアミノ基としては、例えば、ジメチルアミノ基などのジC1-4アルキルアミノ基が挙げられる。ビス(アルキルカルボニル)アミノ基としては、例えば、ジアセチルアミノ基などのビス(C1-4アルキル-カルボニル)アミノ基が挙げられる。
【0072】
これらの基R1aおよびR1bのうち、代表的には、炭化水素基、アルコキシ基、アシル基、ニトロ基、シアノ基、置換アミノ基などが挙げられる。k1またはk2が1以上である場合、好ましい基R1aおよびR1bとしては、アルキル基、アルコキシ基であり、具体的には、メチル基などの直鎖状または分岐鎖状C1-6アルキル基、メトキシ基などの直鎖状または分岐鎖状C1-4アルコキシ基が挙げられ、なかでも、アルキル基、特に、メチル基などの直鎖状または分岐鎖状C1-4アルキル基が好ましい。なお、基R1aまたはR1bがアリール基であるとき、基R1aまたはR1bは、それぞれ環Z1aまたはZ1bとともに前記環集合アレーン環を形成してもよい。
【0073】
置換数k1およびk2は、環Z1aおよびZ1bの種類に応じて選択してもよく、例えば0~7程度の整数から選択でき、好ましい範囲としては、以下段階的に、0~6の整数、0~5の整数、0~4の整数、0~3の整数、0~2の整数であり、さらに好ましくは0または1であり、特に0である。
【0074】
基R1aおよびR1bの置換数k1およびk2は、互いに異なっていてもよいが、通常、同一であることが多い。なお、置換数k1またはk2が2以上である場合、同一の環Z1aまたはZ1bに置換する2以上の基R1aまたはR1bの種類は、互いに同一または異なっていてもよい。また、異なる環Z1aおよびZ1bに置換する基R1aおよびR1bの種類は、互いに異なっていてもよいが、通常、同一であることが多い。基R1aおよびR1bの置換位置は特に制限されず、環Z1aおよびZ1bの種類に応じて選択してもよい。
【0075】
基[-Z1a-(R1a)k1]および基[-Z1b-(R1b)k2](以下、これらをZ1含有基ともいう)の置換数m1およびm2は、例えば、1~3程度の整数であり、好ましくは1または2であり、さらに好ましくは1である。m1およびm2は互いに異なっていてもよいが、通常、同一であることが多い。m1およびm2のうち、少なくとも一方は1以上の整数であり、好ましくは双方が1以上の整数であり、さらに好ましくは双方が1である。
【0076】
なお、m1またはm2が2以上である場合、フルオレン骨格を形成する2つのベンゼン環のうち、同一のベンゼン環に置換する2以上のZ1含有基の種類は、互いに同一または異なっていてもよい。また、フルオレン骨格を形成する2つのベンゼン環のうち、異なるベンゼン環に置換するZ1含有基の種類、すなわち、基[-Z1a-(R1a)k1]と基[-Z1b-(R1b)k2]とは、互いに同一または異なっていてもよく、通常、同一であることが多い。
【0077】
R2aおよびR2bで表される置換基(非反応性置換基または非重合性置換基)は、前記Z1含有基以外の置換基であればよく、代表的には、アルキル基などの炭化水素基(ただし、アリール基は除く)、フッ素原子、塩素原子、臭素原子などのハロゲン原子、シアノ基などが挙げられる。アルキル基としては、メチル基、エチル基、t-ブチル基などの直鎖状または分岐鎖状C1-6アルキル基などが挙げられる。置換数n1またはn2が1以上である場合、好ましいR2aおよびR2bとしては、メチル基などの直鎖状または分岐鎖状C1-4アルキル基である。
【0078】
R2aおよびR2bの置換数n1およびn2としては、例えば、0~3程度の整数であり、好ましくは0~2の整数、さらに好ましくは0または1であり、特に0である。n1およびn2は互いに異なっていてもよいが、通常、同一であることが多い。なお、n1またはn2が2以上である場合、フルオレン骨格を形成する2つのベンゼン環のうち、同一のベンゼン環に置換する複数のR2aまたはR2bの種類は、互いに同一または異なっていてもよい。また、フルオレン骨格を形成する2つのベンゼン環のうち、異なるベンゼン環に置換するR2aおよびR2bの種類は、互いに同一または異なっていてもよく、通常、同一であることが多い。また、R2aおよびR2bの置換位置は特に制限されず、Z1含有基の置換位置以外の位置に置換していればよい。
【0079】
m1+n1およびm2+n2は、それぞれ、例えば0~4の整数であり、好ましくは1~3の整数、より好ましくは1または2、さらに好ましくは1である。m1+n1およびm2+n2は互いに異なっていてもよいが、通常、同一であることが多い。
【0080】
基A1aおよびA1bで表される直鎖状または分岐鎖状アルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、1,2-ブタンジイル基、2-メチルプロパン-1,3-ジイル基などの直鎖状または分岐鎖状C1-8アルキレン基が挙げられる。好ましいアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、2-メチルプロパン-1,3-ジイル基などの直鎖状または分岐鎖状C1-6アルキレン基が挙げられ、より好ましくは直鎖状または分岐鎖状C1-4アルキレン基であり、さらに好ましくは直鎖状または分岐鎖状C2-4アルキレン基であり、なかでも、エチレン基、プロピレン基などの直鎖状または分岐鎖状C2-3アルキレン基が好ましく、特にエチレン基が好ましい。
【0081】
前記式(I)で表されるジカルボン酸として代表的には、m1およびm2が1であるジカルボン酸、すなわち、9,9-ビス(カルボキシアルキル)-ジアリールフルオレン類が挙げられ、より具体的には、9,9-ビス(カルボキシアルキル)-ジフェニルフルオレン、9,9-ビス(カルボキシアルキル)-ジナフチルフルオレンなどが挙げられる。
【0082】
9,9-ビス(カルボキシアルキル)-ジフェニルフルオレンとしては、例えば、9,9-ビス(2-カルボキシエチル)-1,8-ジフェニルフルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシエチル)-2,7-ジフェニルフルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシエチル)-3,6-ジフェニルフルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシエチル)-4,5-ジフェニルフルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシプロピル)-2,7-ジフェニルフルオレンなどの9,9-ビス(カルボキシC2-6アルキル)-ジフェニルフルオレンなどが挙げられる。
【0083】
9,9-ビス(カルボキシアルキル)-ジナフチルフルオレンとしては、例えば、9,9-ビス(2-カルボキシエチル)-1,8-ジ(2-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシエチル)-2,7-ジ(2-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシエチル)-3,6-ジ(2-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシエチル)-4,5-ジ(2-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシプロピル)-2,7-ジ(2-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシエチル)-2,7-ジ(1-ナフチル)フルオレンなどの9,9-ビス(カルボキシC2-6アルキル)-ジナフチルフルオレンなどが挙げられる。
【0084】
これらの前記式(I)で表されるジカルボン酸のうち、9,9-ビス(2-カルボキシエチル)-2,7-ジフェニルフルオレンなどの9,9-ビス(カルボキシC2-4アルキル)-2,7-ジフェニルフルオレン;9,9-ビス(カルボキシC2-4アルキル)-2,7-ジナフチルフルオレンが好ましく、9,9-ビス(2-カルボキシエチル)-2,7-ジ(2-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシエチル)-2,7-ジ(1-ナフチル)フルオレンなどの9,9-ビス(カルボキシC2-4アルキル)-2,7-ジナフチルフルオレンがさらに好ましく、なかでも、高屈折率、低アッベ数および低複屈折(または負側に大きな複屈折)をバランスよく備えた樹脂を調製できる観点から、9,9-ビス(2-カルボキシエチル)-2,7-ジ(2-ナフチル)フルオレンなどの9,9-ビス(カルボキシC2-3アルキル)-2,7-ジ(2-ナフチル)フルオレンが特に好ましい。
【0085】
前記式(I)で表されるジカルボン酸またはその誘導体は、高い屈折率および高い耐熱性を有している。
【0086】
前記式(I)で表されるジカルボン酸またはその誘導体の屈折率は、温度25℃、波長589nmにおいて、例えば1.7~2程度であってもよく、好ましい範囲としては、以下段階的に、1.75~1.95、1.8~1.9、1.81~1.88、1.82~1.87、1.83~1.86、1.84~1.85である。
【0087】
前記式(I)で表されるジカルボン酸またはその誘導体の融点は、例えば100~250℃程度であってもよく、好ましい範囲としては、以下段階的に、130~240℃、150~230℃、160~220℃、170~210℃、175~205℃、180~200℃、185~195℃である。
【0088】
前記式(I)で表されるジカルボン酸またはその誘導体の5質量%減少温度は、例えば300~450℃程度であってもよく、好ましい範囲としては、以下段階的に、350~430℃、360~420℃、370~410℃、375~405℃、380~400℃、385~395℃であってもよいが、より好ましくは380~420℃、さらに好ましくは385~410℃、特に好ましくは390~405℃である。
【0089】
なお、本明細書および請求の範囲において、前記式(I)で表されるジカルボン酸またはその誘導体の屈折率、融点および5質量%減少温度は、後述する実施例に記載の方法により測定できる。
【0090】
(ジカルボン酸またはその誘導体の製造方法)
本発明のジカルボン酸またはその誘導体の製造方法は、特に制限されず、慣用の方法、例えば、フルオレン骨格を有する化合物と、前記式(I)において、環Z1aおよびZ1bに対応するアレーン環骨格を有する化合物とをカップリング反応させて、前記フルオレン骨格の2~8位から選択される少なくとも1つの置換位置に、前記アレーン環骨格を有する化合物に対応するアリール基を導入する工程を少なくとも含む方法などで製造してもよい。より具体的には、下記反応式に従って、下記式(II)で表されるジカルボン酸またはその誘導体と、下記式(IIIa)および(IIIb)で表される化合物とをカップリング反応(またはクロスカップリング反応)させることで製造してもよい(以下、第1の製造方法ともいう)。
【0091】
【0092】
(式中、X1aおよびX1bはそれぞれ独立してカップリング反応により炭素-炭素結合(または直接結合)を形成可能な反応性基を示し;X2aは前記反応性基X1aと、X2bは前記反応性基X1bとともに、それぞれカップリング反応により炭素-炭素結合を形成可能な反応性基を示し;Z1a、Z1b、R1a、R1b、k1、k2、m1、m2、R2a、R2b、n1、n2、A1a、A1b、m1+n1およびm2+n2は、それぞれ前記式(I)と好ましい態様を含めて同じである)。
【0093】
カップリング反応としては、特に制限されず、慣用のカップリング反応、例えば、鈴木-宮浦カップリング反応、右田-小杉-スティレ(Stille)カップリング反応、根岸カップリング反応、檜山カップリング反応などのパラジウム触媒(またはパラジウム(0)触媒)によるカップリング反応、熊田-玉尾-コリュー(Corriu)カップリング反応などのニッケル触媒(またはニッケル(0)触媒)によるカップリング反応などが挙げられる。これらのカップリング反応のうち、鈴木-宮浦カップリング反応がよく利用される。
【0094】
反応性基X1aおよびX1bならびにX2aおよびX2bは、前記カップリング反応の種類に応じて適宜選択できる。鈴木-宮浦カップリング反応により合成する場合、一方の反応性基、例えば、基X1aおよびX1bとしては、ハロゲン原子またはフッ化アルカンスルホニルオキシ基などが挙げられる。ハロゲン原子としては、例えば、ヨウ素原子、臭素原子、塩素原子などが挙げられる。フッ化アルカンスルホニルオキシ基としては、例えば、トリフルオロメタンスルホニルオキシ基(または基[-OTf])などのフッ化C1-4アルカンスルホニルオキシ基などが挙げられる。
【0095】
これらの一方の反応性基は、単独でまたは2種以上組み合わせてもよい。これらの一方の反応性基のうち、ハロゲン原子が好ましく、ヨウ素原子、臭素原子がさらに好ましく、通常、臭素原子がよく利用される。
【0096】
鈴木-宮浦カップリング反応において、前記一方の反応性基とカップリング可能な他方の反応性基、例えば、基X2aおよびX2bとしては、例えば、ボロン酸基(ジヒドロキシボリル基または基[-B(OH)2])、ボロン酸エステル基などが挙げられる。ボロン酸エステル基としては、例えば、ジメトキシボリル基、ジイソプロポキシボリル基、ジブトキシボリル基などのジアルコキシボリル基;ピナコラートボリル基(または基[-Bpin])、1,3,2-ジオキサボリナン-2-イル基、5,5-ジメチル-1,3,2-ジオキサボリナン-2-イル基などの環状ボロン酸エステル基などが挙げられる。
【0097】
これらの他方の反応性基は、単独でまたは2種以上組み合わせてもよい。他方の反応性基のうち、通常、基[-B(OH)2]などがよく利用される。
【0098】
なお、基X1aおよびX1bと、基X2aおよびX2bとは、それぞれ互いにカップリング反応可能な一対の反応性基であればいずれの反応性基であってもよく、基X1aおよびX1bがボロン酸基などの前記他方の反応性基であり、基X2aおよびX2bがハロゲン原子などの前記一方の反応性基であってもよいが、通常、基X1aおよびX1bがハロゲン原子などの前記一方の反応性基であり、基X2がボロン酸基などの前記他方の反応性基であることが多い。
【0099】
前記式(II)で表されるジカルボン酸またはその誘導体としては、通常、前記エステル形成性誘導体として例示したジカルボン酸エステルなどであることが多い。前記式(II)で表される具体的なジカルボン酸またはその誘導体としては、前記式(I)で表されるジカルボン酸の好ましい態様に対応する化合物、例えば、9,9-ビス(2-メトキシカルボニルエチル)-2,7-ジブロモフルオレン、9,9-ビス(2-エトキシカルボニルエチル)-2,7-ジブロモフルオレン、9,9-ビス(2-メトキシカルボニルプロピル)-2,7-ジブロモフルオレンなどの9,9-ビス(C1-4アルコキシ-カルボニル-C2-6アルキル)-ジハロフルオレンなどが挙げられる。
【0100】
前記式(II)で表されるジカルボン酸またはその誘導体は、例えば、特開2005-89422号公報に記載の方法に準じて調製してもよく、具体的には、2,7-ジブロモフルオレンなどの9位が無置換の9H-フルオレン類と、アクリル酸メチルなどのアクリル酸エステルまたはブロモ酢酸メチルなどのハロ酢酸エステルとを、水酸化トリメチルベンジルアンモニウムなどの塩基触媒の存在下で反応させる方法などにより調製してもよい。
【0101】
前記式(IIIa)および(IIIb)で表される化合物としては、前記式(I)で表されるジカルボン酸の好ましい態様に対応する化合物、例えば、フェニルボロン酸、1-ナフチルボロン酸、2-ナフチルボロン酸などが挙げられ、2-ナフチルボロン酸が好ましい。前記式(IIIa)および(IIIb)で表される化合物は、通常、同一の化合物であることが多い。前記式(IIIa)および(IIIb)で表される化合物は、市販品などを利用できる。
【0102】
前記式(II)で表されるジカルボン酸またはその誘導体と、前記式(IIIa)および(IIIb)で表される化合物の合計量との割合は、例えば、前者/後者(モル比)=1/2~1/10程度であってもよく、好ましい範囲としては、以下段階的に、1/2.2~1/8、1/2.5~1/5、1/2.7~1/3.3であってもよいが、より好ましい範囲としては、以下段階的に、1/2~1/3、1/2~1/2.5、1/2.03~1/2.1である。
【0103】
鈴木-宮浦カップリング反応により合成する場合、通常、パラジウム触媒の存在下で反応させる。パラジウム触媒としては、慣用のカップリング触媒、例えば、パラジウム(0)触媒、パラジウム(II)触媒などが挙げられる。
【0104】
パラジウム(0)触媒としては、例えば、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)[またはPd(PPh3)4]、ビス(トリ-t-ブチルホスフィン)パラジウム(0)[またはPd(P(t-Bu)3)2]などのパラジウム(0)-ホスフィン錯体などが挙げられる。
【0105】
パラジウム(II)触媒としては、例えば、[1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]パラジウム(II)ジクロリド[またはPdCl2(dppe)]、[1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン]パラジウム(II)ジクロリド[またはPdCl2(dppp)]、[1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]パラジウム(II)ジクロリド[またはPdCl2(dppf)]、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)ジクロリド[またはPdCl2(PPh3)2]、ビス(トリ-o-トリルホスフィン)パラジウム(II)ジクロリド[またはPdCl2(P(o-tolyl)3)2]などのパラジウム(II)-ホスフィン錯体などが挙げられる。なお、パラジウム(II)触媒を用いる場合、例えば、ホスフィン、アミン、有機金属試薬などの反応系内の還元性化合物により、0価の錯体に還元されて反応が開始する。
【0106】
なお、前記パラジウム触媒は、例えば、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)クロロホルム錯体[またはPd2(dba)3・CHCl3]などの触媒前駆体と、ホスフィン類、カルベン類などの配位子とを添加して反応系内で調製してもよい。
【0107】
これらの触媒は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用することもできる。これらの触媒のうち、通常、Pd(PPh3)4などのパラジウム(0)-ホスフィン錯体がよく利用される。触媒の割合は、前記式(II)で表されるジカルボン酸またはその誘導体1モルに対して、金属換算で、例えば、0.01~0.1モル程度であってもよく、好ましくは0.03~0.07モルであってもよいが、通常、0.0001~0.001モル程度の少量であるのが好ましく、さらに好ましくは0.0003~0.0007モル、特に好ましくは0.0004~0.0006モルである。
【0108】
鈴木-宮浦カップリング反応は、塩基の存在下で行ってもよい。塩基としては、例えば、金属炭酸塩または炭酸水素塩、金属水酸化物、金属フッ化物、金属リン酸塩、金属有機酸塩、金属アルコキシドなどが挙げられる。
【0109】
金属炭酸塩または炭酸水素塩としては、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸水素ナトリウムなどのアルカリ金属炭酸塩または炭酸水素塩、炭酸タリウム(I)などが挙げられる。
【0110】
金属水酸化物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウムなどのアルカリ金属水酸化物、水酸化バリウムなどのアルカリ土類金属水酸化物、水酸化タリウム(I)などが挙げられる。
【0111】
金属フッ化物としては、例えば、フッ化カリウム、フッ化セシウムなどのアルカリ金属フッ化物などが挙げられる。
【0112】
金属リン酸塩としては、例えば、リン酸三カリウムなどのアルカリ金属リン酸塩などが挙げられる。
【0113】
金属有機酸塩としては、例えば、酢酸カリウムなどのアルカリ金属酢酸塩などが挙げられる。
【0114】
金属アルコキシドとしては、例えば、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムt-ブトキシドなどのアルカリ金属アルコキシドなどが挙げられる。
【0115】
これらの塩基は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用することもできる。通常、炭酸カリウムなどの金属炭酸塩などがよく利用される。塩基の割合は、前記式(II)で表されるジカルボン酸またはその誘導体1モルに対して、例えば、0.1~50モル程度であってもよく、好ましくは1~25モル、さらに好ましくは1.5~6モル、特に2~3モルである。
【0116】
カップリング反応は、相間移動触媒の存在下または非存在下で行ってもよい。相間移動触媒としては、例えば、テトラブチルアンモニウムブロミド(TBAB)、トリオクチルメチルアンモニウムクロリドなどのテトラアルキルアンモニウムハライドなどが挙げられる。これらの相間移動触媒は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用することもできる。これらの相間移動触媒のうち、通常、TBABなどがよく利用される。
【0117】
カップリング反応は、反応に不活性な溶媒の非存在下または存在下で行ってもよい。溶媒としては、例えば、水;メタノール、エタノールなどのアルコール類;環状エーテル、鎖状エーテルなどのエーテル類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;酢酸エチルなどのエステル類;アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類;N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドンなどのアミド類;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類;脂肪族炭化水素類、脂環族炭化水素類、芳香族炭化水素類など炭化水素類などが挙げられる。
【0118】
環状エーテルとしては、例えば、ジオキサン、テトラヒドロフランなどが挙げられる。鎖状エーテルとしては、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテルなどのジアルキルエーテル、グリコールエーテル類などが挙げられる。前記グリコールエーテル類としては、例えば、メチルセロソルブ、メチルカルビトールなどの(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテル、ジメトキシエタンなどの(ポリ)アルキレングリコールジアルキルエーテルなどが挙げられる。
【0119】
脂肪族炭化水素類としては、例えば、ヘキサン、ドデカンなどが挙げられる。脂環族炭化水素類としては、シクロヘキサンなどが挙げられる。芳香族炭化水素類としては、例えば、トルエン、キシレンなどが挙げられる。
【0120】
これらの溶媒は単独でまたは2種以上組み合わせて使用することもできる。これらの溶媒のうち、通常、水およびジメトキシエタンなどの鎖状エーテル類の混合溶媒、水および芳香族炭化水素類の混合溶媒などがよく利用され、水とトルエンとの混合溶媒が好ましい。
【0121】
カップリング反応は、不活性ガス雰囲気下、例えば、窒素;ヘリウム、アルゴンなどの希ガスなどの雰囲気下で行ってもよい。反応温度は、例えば、50~200℃、好ましくは60~100℃であり、さらに好ましくは75~95℃、特に80~90℃である。反応時間は特に制限されず、例えば、1~10時間程度であってもよい。
【0122】
反応終了後、必要により、反応混合物を、慣用の分離精製方法、例えば、洗浄、抽出、ろ過、脱水、濃縮、デカンテーション、再結晶、再沈殿、クロマトグラフィー、吸着、これらを組み合わせた方法などにより分離精製してもよい。
【0123】
また、前記式(I)で表されるジカルボン酸またはその誘導体は、下記反応式で示す第2の製造方法により前記式(I)で表される化合物を製造してもよい。
【0124】
【0125】
(式中、X1a、X1b、X2aおよびX2bは、前記式(II)、(IIIa)および(IIIb)と好ましい態様を含めて同じであり、Z1a、Z1b、R1a、R1b、k1、k2、m1、m2、R2a、R2b、n1、n2、A1a、A1b、m1+n1およびm2+n2は、それぞれ前記式(I)と好ましい態様を含めて同じである)。
【0126】
第2の製造方法では、前記第1の製造方法において、前記式(II)で表されるジカルボン酸またはその誘導体に代えて、下記式(IV)で表される9H-フルオレン類を用いて、前記式(IIIa)および(IIIb)で表される化合物とをカップリング反応させ、得られた式(V)で表される化合物を、前述の特開2005-89422号公報に記載の方法における9位が無置換の9Hフルオレン類として用いて、前記式(I)で表される化合物を製造する。すなわち、第2の製造方法では、フルオレン骨格の9位に置換するA1aまたはA1b含有基と、前記Z1含有基との導入順序が第1の製造方法と異なる。
【0127】
前記式(IV)で表される9H-フルオレン類としては、カップリング可能な反応性基を有し、かつ9位が無置換の9H-フルオレン類、例えば、2,7-ジブロモフルオレンなどのジハロフルオレンなどが挙げられる。前記式(IV)で表される化合物は、市販品を利用してもよい。
【0128】
[ジカルボン酸単位(A)を有する樹脂]
本発明の樹脂は、少なくとも前記式(I)で表されるジカルボン酸またはその誘導体を含むジカルボン酸成分(A)を重合成分として用いて形成すればよい。そのため、前記樹脂は、下記式(1)で表される第1のジカルボン酸単位(A1)を少なくとも含んでいる。このようなジカルボン酸単位(A)を有する樹脂は、通常、熱可塑性樹脂であることが多く、代表的には、重合成分としてジオール成分を少なくとも含むポリエステル樹脂、ポリエステルカーボネート樹脂などのポリエステル系樹脂、重合成分としてジアミン成分を含むポリアミド樹脂などが挙げられる。
【0129】
光学用樹脂材料は、吸湿により屈折率や寸法が変化してしまうと、光学特性が安定せず精密な光学部材には利用できないため、優れた耐吸水性(または低吸湿性)が要求されることが多い。そのため、これらの樹脂のうち、耐吸水性(または低吸湿性)の点から、ポリエステル樹脂、ポリエステルカーボネート樹脂などのポリエステル系樹脂が好ましく、なかでも、屈折率およびガラス転移温度(または耐熱性)を向上し易い点でポリエステル樹脂がさらに好ましい。
【0130】
(ジカルボン酸単位(A))
(A1)第1のジカルボン酸単位
【0131】
【0132】
(式中、Z1a、Z1b、R1a、R1b、k1、k2、m1、m2、R2a、R2b、n1、n2、A1a、A1b、m1+n1、m2+n2はそれぞれ前記式(I)と好ましい態様を含めて同じである)。
【0133】
本発明の樹脂は、少なくとも前記式(1)で表される第1のジカルボン酸単位(A1)を含むため、屈折率および耐熱性を大きく向上できる。また、ガラス転移温度の過度な上昇を抑制して、高い耐熱性と高い成形性とを両立し易いようである。なお、屈折率の向上に伴って、アッベ数も大きく低減できるようである。
【0134】
また、第1のジカルボン酸単位(A1)は、樹脂の複屈折(または配向複屈折)をマイナス(-)側(または負の側)に大きく偏らせる性質を有している(または大きな負の複屈折を発現できる)。大半の樹脂またはその構成単位は、通常、延伸または配向により正の複屈折を示すことが多いため、第1のジカルボン酸単位(A1)の導入により、複屈折(または配向複屈折)の絶対値を低く調整し易い。そのため、通常、トレードオフの関係にあることが多い高い屈折率、低いアッベ数、および高い耐熱性と低い複屈折とを、より一層高いレベルでバランスよく充足できる。
【0135】
なお、本明細書および請求の範囲において、複屈折の「正」および「負」は、樹脂フィルムを一軸延伸して配向した際に、延伸方向の屈折率nx、フィルム面内で延伸方向に垂直な方向の屈折率nyとしたとき、nx-ny>0となる場合が「正」、nx-ny<0となる場合が「負」であることを意味する。
【0136】
第1のジカルボン酸単位(A1)として代表的には、前記式(I)で表されるジカルボン酸の項に例示したジカルボン酸に対応するジカルボン酸単位が挙げられ、好ましい態様を含めて同様である。なお、第1のジカルボン酸単位(A1)は、単独でまたは2種以上組み合わせて含んでいてもよい。
【0137】
(A2)第2のジカルボン酸単位
ジカルボン酸単位(A)は、下記式(2)で表される第2のジカルボン酸単位(A2)を必ずしも含んでいなくてもよいが、必要に応じて含んでいてもよい。第2のジカルボン酸単位(A2)を含んでいると、比較的高い屈折率およびガラス転移温度を保持しつつ、複屈折をプラス(+)側(または正の側)に調整できる。
【0138】
【0139】
(式中、Z2はアレーン環を示し、R3は置換基を示し、pは0以上の整数を示す)。
【0140】
前記式(2)において、環Z2で表されるアレーン環(芳香族炭化水素環)としては、前記式(I)で表されるジカルボン酸(または第1のジカルボン酸単位(A1))の項に記載の環Z1aおよびZ1bと同様のアレーン環が例示できる。好ましい環Z2としては、ベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環などのC6-14アレーン環が挙げられ、さらに好ましくはC6-12アレーン環であり、なかでも、ベンゼン環、ナフタレン環などのC6-10アレーン環であってもよいが、屈折率および耐熱性を高く保持し易い点から、ナフタレン環、ビフェニル環などのC10-12多環式アレーン環が好ましく、特にナフタレン環などの縮合多環式アレーン環が好ましい。
【0141】
R3で表される置換基(非反応性置換基または非重合性置換基)としては、例えば、前記式(I)で表されるジカルボン酸(または第1のジカルボン酸単位(A1))の項に記載の基R1aおよびR1bと同様の置換基などが挙げられる。
【0142】
これらの基R3のうち、代表的には、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基などの炭化水素基、アルコキシ基、アシル基、ニトロ基、シアノ基、置換アミノ基などが挙げられる。pが1以上である場合、好ましい基R3としては、アルキル基、具体的には、メチル基などの直鎖状または分岐鎖状C1-6アルキル基;アリール基、具体的には、フェニル基などのC6-14アリール基;アルコキシ基、具体的には、メトキシ基などの直鎖状または分岐鎖状C1-4アルコキシ基が挙げられ、なかでも、アルキル基、アリール基が好ましく、特に、メチル基などの直鎖状または分岐鎖状C1-4アルキル基、フェニル基などのC6-10アリール基が好ましい。なお、基R3がアリール基であるとき、基R3は、環Z2とともに環集合アレーン環を形成してもよい。
【0143】
基R3の置換数pは、環Z2の種類に応じて選択でき、例えば0~6程度の整数、好ましくは以下段階的に、0~4の整数、0~2の整数、さらに好ましくは0または1、特に0である。pが2以上である場合、2以上の基R3の種類は、互いに同一または異なっていてもよい。また、基R3の置換位置は特に制限されず、2つのカルボニル基[-C(=O)-]と環Z2との結合位置以外の位置に置換していればよい。
【0144】
2つのカルボニル基[-C(=O)-]の置換位置は特に制限されず、例えば、環Z2がベンゼン環である場合、2つのカルボニル基[-C(=O)-]は、o-位、m-位またはp-位のいずれの位置関係で置換していてもよく、なかでも、m-位またはp-位、特にp-位の位置関係で置換するのが好ましい。また、環Z2がナフタレン環である場合、2つのカルボニル基[-C(=O)-]は、1~8位のいずれの位置に置換していてもよいが、通常、一方のカルボニル基が1または2位に置換したナフチル基に対して、他方のカルボニル基が5~8位に置換する場合が多く、例えば、1,5位または2,6位、特に2,6位の位置関係で置換するのが好ましい。環Z2がビフェニル環である場合、2つのカルボニル基[-C(=O)-]は、いずれの位置関係で置換していてもよいが、通常、異なるベンゼン環にそれぞれ置換する場合が多く、2,2’位、3,3’位または4,4’位、特に4,4’位であってもよいが、2,2’位の位置関係で置換するのが好ましい。
【0145】
第2のジカルボン酸単位(A2)に対応する代表的な第2のジカルボン酸成分(A2)としては、例えば、前記式(2)において、環Z2がベンゼン環である単位に対応するベンゼンジカルボン酸類;環Z2が多環式アレーン環である単位に対応する多環式アレーンジカルボン酸類;およびこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。
【0146】
ベンゼンジカルボン酸類としては、例えば、ベンゼンジカルボン酸、アルキルベンゼンジカルボン酸などが挙げられる。ベンゼンジカルボン酸としては、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸などが挙げられる。アルキルベンゼンジカルボン酸としては、例えば、5-メチルイソフタル酸などのC1-4アルキル-ベンゼンジカルボン酸などが挙げられる。
【0147】
多環式アレーンジカルボン酸類としては、例えば、縮合多環式アレーンジカルボン酸、環集合アレーンジカルボン酸などが挙げられる。
【0148】
縮合多環式アレーンジカルボン酸としては、例えば、1,2-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸などのナフタレンジカルボン酸;アントラセンジカルボン酸;フェナントレンジカルボン酸などの縮合多環式C10-24アレーン-ジカルボン酸などが挙げられる。好ましい縮合多環式アレーンジカルボン酸としては、縮合多環式C10-14アレーン-ジカルボン酸である。
【0149】
環集合アレーンジカルボン酸としては、例えば、2,2’-ビフェニルジカルボン酸、3,3’-ビフェニルジカルボン酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸などのビC6-10アレーン-ジカルボン酸などが挙げられ、好ましくはビフェニルジカルボン酸である。
【0150】
これらの第2のジカルボン酸に由来する第2のジカルボン酸単位(A2)は、単独でまたは2種以上組み合わせてもよい。これらの第2のジカルボン酸単位(A2)のうち、ベンゼンジカルボン酸類、具体的には、イソフタル酸、テレフタル酸などのベンゼンジカルボン酸;縮合多環式アレーンジカルボン酸;環集合アレーンジカルボン酸に由来するジカルボン酸単位が好ましい。なかでも、屈折率および耐熱性を向上し易い点から、縮合多環式C10-14アレーン-ジカルボン酸;ビC6-10アレーン-ジカルボン酸が好ましく、さらに好ましくはナフタレンジカルボン酸;2,2’-ビフェニルジカルボン酸などのビフェニルジカルボン酸であり、特に2,6-ナフタレンジカルボン酸に由来するジカルボン酸単位が好ましい。
【0151】
(A3)第3のジカルボン酸単位
ジカルボン酸単位(A)は、第3のジカルボン酸単位(A3)としての脂肪族ジカルボン酸単位を必ずしも含んでいなくてもよいが、必要に応じて含んでいてもよい。第3のジカルボン酸単位(A3)は、第1のジカルボン酸単位(A1)と組み合わせると、複屈折を大きく変化させることなくガラス転移温度の過度な上昇を抑制できるようであり、トレードオフな関係にある耐熱性と成形性(または生産性)とをより一層バランスよく両立した樹脂を効率的に調製できる。
【0152】
第3のジカルボン酸単位(A3)(脂肪族ジカルボン酸単位)を形成するための脂肪族ジカルボン酸成分としては、例えば、アルカンジカルボン酸、具体的には、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸などのC2-12アルカン-ジカルボン酸など;不飽和脂肪族ジカルボン酸、具体的には、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などのC2-10アルケン-ジカルボン酸、およびこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。
【0153】
これらの第3のジカルボン酸単位(A3)は、単独でまたは2種以上組み合わせてもよい。これらの第3のジカルボン酸単位(A3)のうち、C2-10アルカン-ジカルボン酸単位などのアルカンジカルボン酸に由来するジカルボン酸単位が好ましく、さらに好ましくはC2-8アルカン-ジカルボン酸単位であり、特にアジピン酸単位などのC2-6アルカン-ジカルボン酸単位が好ましい。
【0154】
(A4)第4のジカルボン酸単位
ジカルボン酸単位(A)は、下記式(1-0)で表される第4のジカルボン酸単位(A4)を必ずしも含んでいなくてもよいが、必要に応じて含んでいてもよい。第4のジカルボン酸単位(A4)を含んでいると、比較的高い屈折率を保持しつつ、複屈折を低減(またはマイナス(-)側に調整)できるが、第4のジカルボン酸単位(A4)の割合が多すぎると屈折率や耐熱性が低下するおそれがある。
【0155】
【0156】
(式中、R2a、R2b、n1、n2、A1a、A1bはそれぞれ前記式(I)と好ましい態様を含めて同じである)。
【0157】
第4のジカルボン酸単位(A4)を形成するための第4のジカルボン酸成分は、前記式(I)において、Z1含有基を有していない(m1=m2=0)ジカルボン酸成分に対応し、代表的な第4のジカルボン酸成分としては、A1aおよびA1bが直鎖状または分岐鎖状C2-6アルキレン基である構成単位、例えば、9,9-ビス(2-カルボキシエチル)フルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシプロピル)フルオレンなどの9,9-ビス(カルボキシC2-6アルキル)フルオレンなどが挙げられる。
【0158】
これらの第4のジカルボン酸単位(A4)は、単独でまたは2種以上組み合わせてもよい。これらの第4のジカルボン酸単位(A4)のうち、好ましくは9,9-ビス(カルボキシC2-5アルキル)フルオレンに由来する構成単位であり、さらに好ましくは9,9-ビス(カルボキシC2-4アルキル)フルオレン、なかでも、9,9-ビス(2-カルボキシエチル)フルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシプロピル)フルオレンなどの9,9-ビス(カルボキシC2-3アルキル)フルオレン、特に9,9-ビス(2-カルボキシエチル)フルオレンに由来する構成単位を含むのが好ましい。
【0159】
(A5)第5のジカルボン酸単位
なお、ジカルボン酸単位(A)は、第1のジカルボン酸単位(A1)、第2のジカルボン酸単位(A2)、第3のジカルボン酸単位(A3)および第4のジカルボン酸単位(A4)とは異なるジカルボン酸単位(第5のジカルボン酸単位(A5))を含んでいなくてもよいが、必要に応じて含んでいてもよい。
【0160】
第5のジカルボン酸単位(A5)としては、例えば、芳香族ジカルボン酸成分[ただし、第1のジカルボン酸単位(A1)、第2のジカルボン酸単位(A2)および第4のジカルボン酸単位(A4)を除く]、脂環族ジカルボン酸成分などに由来する構成単位が挙げられる。
【0161】
芳香族ジカルボン酸成分としては、例えば、ジアリールアルカンジカルボン酸、具体的には、4,4’-ジフェニルメタンジカルボン酸などのジC6-10アリールC1-6アルカン-ジカルボン酸など;ジアリールケトンジカルボン酸、具体的には、4.4’-ジフェニルケトンジカルボン酸などのジ(C6-10アリール)ケトン-ジカルボン酸など;およびこれらのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0162】
脂環族ジカルボン酸成分としては、例えば、シクロアルカンジカルボン酸、具体的には、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸などのC5-10シクロアルカン-ジカルボン酸など;架橋環式シクロアルカンジカルボン酸、具体的には、デカリンジカルボン酸、ノルボルナンジカルボン酸、アダマンタンジカルボン酸、トリシクロデカンジカルボン酸などのジまたはトリシクロアルカンジカルボン酸など;シクロアルケンジカルボン酸、具体的には、シクロヘキセンジカルボン酸などのC5-10シクロアルケン-ジカルボン酸など;架橋環式シクロアルケンジカルボン酸、具体的には、ノルボルネンジカルボン酸などのジまたはトリシクロアルケンジカルボン酸;およびこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。
【0163】
これらのジカルボン酸単位(A5)は、単独でまたは2種以上組み合わせてもよい。第5のジカルボン酸単位(A5)の割合は、ジカルボン酸単位(A)全体に対して、例えば50モル%以下、具体的には0~30モル%程度の範囲から選択してもよく、好ましい範囲としては、以下段階的に、20モル%以下、10モル%以下、5モル%以下であり、実質的に第5のジカルボン酸単位(A5)を含まないのが好ましい。
【0164】
第1のジカルボン酸単位(A1)の割合は、ジカルボン酸単位(A)全体に対して、例えば、1モル%以上、具体的には10~100モル%程度の範囲から選択でき、屈折率や耐熱性を向上する観点から、好ましい範囲としては、以下段階的に、30モル%以上、50モル%以上、60モル%以上、70モル%以上、80モル%以上、90モル%以上、95モル%以上であり、特に100モル%、実質的に第1のジカルボン酸単位(A1)のみで形成されるのが好ましい。また、比較的高い屈折率および耐熱性を保持しつつ、複屈折の絶対値を低減し易い点からは、第1のジカルボン酸単位(A1)の割合は、ジカルボン酸単位(A)全体に対して、例えば、50~100モル%程度であってもよく、好ましくは60~90モル%、より好ましくは70~80モル%であってもよいが、各特性のバランスを保持しつつより一層複屈折の絶対値を低減できる点から30~90モル%程度、例えば35~85モル%がさらに好ましく、さらには以下段階的に、40~80モル%、45~75モル%、50~70モル%が好ましく、なかでも特に高屈折率化もできる点から60~70モル%、特に65~70モル%が最も好ましい。第1のジカルボン酸単位(A1)の割合が少なすぎると、屈折率や耐熱性を十分に向上できなかったり、高い屈折率、低い複屈折の絶対値、低いアッベ数などの光学的特性と耐熱性とをバランスよく充足し難くなるおそれがあり、逆に多すぎても複屈折の絶対値を低く調整し難く、前記光学的特性と耐熱性とをバランスよく充足できないおそれがある。
【0165】
第1のジカルボン酸単位(A1)は、第2のジカルボン酸単位(A2)および第3のジカルボン酸単位(A3)から選択された少なくとも一種のジカルボン酸単位と組み合わせるのが好ましい。複屈折の絶対値を低く調整して前記光学的特性と耐熱性とをバランスよく充足しやすい点から、少なくとも第1のジカルボン酸単位(A1)および第2のジカルボン酸単位(A2)を組み合わせるのが好ましい。このような組み合わせにより成形性にも優れた樹脂が得られることが多い。そのため、第1のジカルボン酸単位(A1)および第2のジカルボン酸単位(A2)の総量の割合は、ジカルボン酸単位(A)全体に対して、例えば、1モル%以上、具体的には10~100モル%程度の範囲から選択でき、好ましい範囲としては、以下段階的に、30モル%以上、50モル%以上、55モル%以上であり、前述の各特性のバランスを保持しつつ特に高屈折率化できる点から、以下段階的に、60モル%以上、70モル%以上、80モル%以上、90モル%以上、95モル%以上が好ましく、特に100モル%、実質的に第1のジカルボン酸単位(A1)および第2のジカルボン酸単位(A2)のみでジカルボン酸単位(A)を形成するのが好ましい。第1のジカルボン酸単位(A1)および第2のジカルボン酸単位(A2)の総量の割合が少なすぎると、前記光学的特性と耐熱性とをバランスよく充足できないおそれがある。
【0166】
第2のジカルボン酸単位(A2)を含む場合、第1のジカルボン酸単位(A1)と第2のジカルボン酸単位(A2)との割合(A1/A2)は、例えば、A1/A2(モル比)=99.9/0.1~1/99程度の広い範囲から選択でき、好ましくは以下段階的に、99/1~10/90、95/5~30/70、90/10~50/50、85/15~60/40、80/20~65/35、78/22~70/30であってもよいが、前記光学的特性と耐熱性とをバランスよく充足できる点から95/5~45/55、例えば90/10~50/50が好ましく、前述の各特性のバランスを保持しつつ特に高屈折率化できる点から、さらに好ましくは以下段階的に、85/15~50/50、80/20~55/45、75/25~60/40であり、特に70/30~65/35が好ましい。第2のジカルボン酸単位(A2)が多すぎると、複屈折が上昇し過ぎて絶対値を低減できないおそれがあり、逆に少なすぎると、複屈折が(-側)に大きくなって絶対値を低減できないおそれがある。
【0167】
また、前記光学的特性と耐熱性とをバランスよく充足しつつ、トレードオフな関係にある耐熱性と成形性(または生産性)とをより一層バランスよく両立させるために第3のジカルボン酸単位(A3)を含む場合、第1のジカルボン酸単位(A1)および第3のジカルボン酸単位(A3)の総量の割合は、ジカルボン酸単位(A)全体に対して、例えば、1モル%以上、具体的には10~100モル%程度の範囲から選択でき、好ましい範囲としては、以下段階的に、30モル%以上、50モル%以上、60モル%以上、70モル%以上、80モル%以上、85モル%以上であり、特に90~95モル%が好ましい。また、第1のジカルボン酸単位(A1)と第3のジカルボン酸単位(A3)との割合(A1/A3)は、例えば、A1/A3(モル比)=90/10~20/80程度の範囲から選択してもよく、好ましくは以下段階的に80/20~40/60、70/30~45/55、65/35~50/50であり、特に60/40~55/45が好ましい。第3のジカルボン酸単位(A3)が多すぎると、屈折率や耐熱性が大きく低下するおそれがあり、逆に少なすぎると、耐熱性と成形性とを高度に両立できないおそれがある。
【0168】
なお、第4のジカルボン酸単位(A4)を含む場合、第1のジカルボン酸単位(A1)および第4のジカルボン酸単位(A4)の総量の割合は、ジカルボン酸単位(A)全体に対して、例えば、1モル%以上、具体的には10~100モル%程度の範囲から選択でき、好ましい範囲としては、以下段階的に、30モル%以上、50モル%以上、70モル%以上、90モル%以上である。また、第1のジカルボン酸単位(A1)と第4のジカルボン酸単位(A4)との割合(A1/A4)は、例えば、A1/A4(モル比)=90/10~10/90程度の範囲から選択してもよく、好ましくは以下段階的に70/30~20/80、60/40~30/70、50/50~35/65である。
【0169】
(ジオール単位(B))
本発明の樹脂は、ポリエステル系樹脂を形成するためのジオール単位(B)を有するのが好ましい。ジオール単位(B)は特に制限されないが、通常、前記式(3)で表される第1のジオール単位(B1)、前記式(4)で表される第2のジオール単位(B2)および前記式(5)で表される第3のジオール単位(B3)から選択される少なくとも1種のジオール単位を含む場合が多く、好ましくは第1のジオール単位(B1)および第2のジオール単位(B2)から選択される少なくとも1種のジオール単位を含んでいる。屈折率を大きく向上し易い点からは少なくとも第1のジオール単位(B1)を含むのが好ましく、高い屈折率、低い複屈折の絶対値などの光学的特性と、耐熱性とをバランスよく向上する点からは、第1のジオール単位(B1)および第2のジオール単位(B2)の双方を含むのが好ましい。
【0170】
(B1)第1のジオール単位
下記式(3)で表される第1のジオール単位(B1)は、芳香族骨格を全く有していないにもかかわらず、前記第1のジカルボン酸単位(A1)と組み合わせることにより、意外にも樹脂の屈折率を大きく低減することなく、逆に向上できる場合がある。また、第1のジオール単位(B1)は、重合反応性を高めて分子量を増加し易いとともに、ガラス転移温度の過度な上昇を抑制したり、樹脂に柔軟性または靱性などを付与して成形性や取り扱い性も大きく向上できる場合もある。
【0171】
【0172】
(式中、A2は直鎖状または分岐鎖状アルキレン基を示し、qは1以上の整数を示す)。
【0173】
前記式(3)において、A2で表されるアルキレン基としては、例えば、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、1,2-ブタンジイル基、1,3-ブタンジイル基、テトラメチレン基、1,5-ペンタンジイル基、1,6-ヘキサンジイル基、1,8-オクタンジイル基、1,10-デカンジイル基などの直鎖状または分岐鎖状C2-12アルキレン基などが挙げられる。好ましいアルキレン基A2としては、以下段階的に、直鎖状または分岐鎖状C2-10アルキレン基、直鎖状または分岐鎖状C2-8アルキレン基、直鎖状または分岐鎖状C2-6アルキレン基、直鎖状または分岐鎖状C2-4アルキレン基であり、さらに好ましくはエチレン基、プロピレン基などの直鎖状または分岐鎖状C2-3アルキレン基であり、特にエチレン基が好ましい。
【0174】
繰り返し数qは、例えば、1~10程度の範囲から選択でき、好ましい範囲としては、以下段階的に、1~8、1~6、1~4、1~3、1~2であり、特に1が好ましい。なお、繰り返し数qは、平均値(算術平均値または相加平均値)であってもよく、好ましい態様は前記整数の範囲と同様である。qが2以上である場合、2以上のオキシアルキレン基(-A2O-)の種類は、互いに異なっていてもよいが、通常、同一であることが多い。
【0175】
第1のジオール単位(B1)に対応する第1のジオール成分としては、例えば、アルカンジオール(またはアルキレングリコール)、ポリアルカンジオール(またはポリアルキレングリコール)などが挙げられる。
【0176】
アルキレングリコールとしては、例えば、前記式(3)においてqが1、A2が前記例示のアルキレン基に対応する化合物、具体的には、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、テトラメチレングリコール(または1,4-ブタンジオール)、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、1,10-デカンジオールなどの直鎖状または分岐鎖状C2-12アルキレングリコールなどが挙げられ、好ましい態様は前記アルキレン基A2に対応して同様である。
【0177】
ポリアルキレングリコールとしては、前記式(3)においてqが2以上、例えば、2~10程度、A2が前記例示のアルキレン基に対応する化合物、具体的には、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコールなどのジないしデカ直鎖状または分岐鎖状C2-12アルキレングリコールなどが挙げられ、好ましくはジないしヘキサ直鎖状または分岐鎖状C2-6アルキレングリコール、さらに好ましくはジないしテトラ直鎖状または分岐鎖状C2-4アルキレングリコールが挙げられる。
【0178】
これらの第1のジオール単位(B1)は、単独でまたは2種以上組み合わせて含まれていてもよい。好ましい第1のジオール単位(B1)としては、屈折率を向上し易く、耐熱性を低減し難い点から、アルキレングリコールであり、より好ましくはエチレングリコール、1,5-ペンタンジオールなどの直鎖状または分岐鎖状C2-6アルキレングリコール、さらに好ましくはエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオールなどの直鎖状または分岐鎖状C2-4アルキレングリコール、なかでも、エチレングリコール、プロピレングリコールなどの直鎖状または分岐鎖状C2-3アルキレングリコール、特にエチレングリコールに由来する構成単位が好ましい。なお、後述するカーボネート単位とともにポリエステルカーボネートを形成する場合、ガラス転移温度を調整したり、副反応を抑制して反応性を向上できる観点から、1,5-ペンタンジオールなどの直鎖状または分岐鎖状C4-6アルキレングリコールが好ましい。
【0179】
(B2)第2のジオール単位
ジオール単位(B)が下記式(4)で表される第2のジオール単位(B2)を含むと、比較的高い屈折率を維持しつつ、耐熱性を向上できる。また、複屈折の絶対値を大きく低減できる場合がある。
【0180】
【0181】
(式中、Z3aおよびZ3bはそれぞれ独立してアレーン環を示し、R4は置換基を示し、rは0~8の整数を示し、R5aおよびR5bはそれぞれ独立して置換基を示し、s1およびs2はそれぞれ独立して0以上の整数を示し、A3aおよびA3bはそれぞれ独立して直鎖状または分岐鎖状アルキレン基を示し、t1およびt2はそれぞれ独立して0以上の整数を示す)。
【0182】
前記式(4)において、Z3aおよびZ3bで表されるアレーン環としては、例えば、前記式(I)で表されるジカルボン酸(または第1のジカルボン酸単位(A1))の項に記載の環Z1aおよびZ1bの例示と同様のアレーン環が挙げられる。環Z3aおよびZ3bの種類は、互いに同一または異なっていてもよく、通常、同一であることが多い。環Z3aおよびZ3bのうち、ベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環などのC6-12アレーン環が好ましく、ベンゼン環、ナフタレン環などのC6-10アレーン環がさらに好ましい。また、高い屈折率、低い複屈折の絶対値などの光学的特性と高い耐熱性とをバランスよく充足できる点から、縮合多環式アレーン環などの多環式アレーン環が好ましく、さらに好ましくは縮合多環式C10-14アレーン環であり、特にナフタレン環が好ましい。
【0183】
なお、フルオレン環の9位に結合する環Z3aおよびZ3bの置換位置は、特に限定されない。例えば、環Z3aおよびZ3bがベンゼン環の場合、いずれの位置であってもよく、環Z3aおよびZ3bがナフタレン環の場合、1位または2位のいずれかの位置、好ましくは2位であり、環Z3aおよびZ3bがビフェニル環の場合、2位、3位、4位のいずれかの位置、好ましくは3位である。
【0184】
R4で表される置換基(非反応性置換基または非重合性置換基)としては、アルキル基、アリール基などの炭化水素基;シアノ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などのハロゲン原子などが挙げられる。前記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基などの直鎖状または分岐鎖状C1-6アルキル基などが挙げられる。前記アリール基としては、例えば、フェニル基などのC6-10アリール基などが挙げられる。
【0185】
rが1以上の場合、好ましい基R4は、アルキル基、シアノ基、ハロゲン原子であり、さらに好ましくはアルキル基であり、特にメチル基などの直鎖状または分岐鎖状C1-4アルキル基が好ましい。
【0186】
基R4の置換数rは、例えば0~7程度の整数、好ましい範囲としては、以下段階的に、0~6の整数、0~4の整数、0~3の整数、0~2の整数であり、さらに好ましくは0または1、特に0である。rが2以上の場合、2以上の基R4の種類は互いに同一または異なっていてもよい。また、基R4の置換位置は、特に制限されず、例えば、フルオレン環の2位ないし7位、通常、2位、3位および/または7位などであることが多く、好ましくは2位または2,7位である。
【0187】
R5aおよびR5bで表される置換基(非反応性置換基または非重合性置換基)としては、例えば、前記式(I)で表されるジカルボン酸(または第1のジカルボン酸単位(A1))の項に記載のR1aおよびR1bとして例示した置換基と同様の基が挙げられる。
【0188】
これらの基R5aおよびR5bのうち、代表的には、ハロゲン原子;アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基などの炭化水素基;アルコキシ基;アシル基;ニトロ基;シアノ基;置換アミノ基などが挙げられる。置換数s1またはs2が1以上である場合、好ましい基R5aおよびR5bとしては、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルコキシ基が挙げられ、さらに好ましくはメチル基などの直鎖状または分岐鎖状C1-6アルキル基、シクロヘキシル基などのC5-8シクロアルキル基、フェニル基などのC6-14アリール基、メトキシ基などの直鎖状または分岐鎖状C1-4アルコキシ基が挙げられる。これらのなかでも、アルキル基、アリール基が好ましく、特に、メチル基などの直鎖状または分岐鎖状C1-4アルキル基、フェニル基などのC6-10アリール基が好ましい。なお、基R5aまたはR5bがアリール基であるとき、基R5aまたはR5bは、環Z3aまたはZ3bはとともに前記環集合アレーン環を形成してもよい。
【0189】
基R5aおよびR5b置換数s1およびs2は、それぞれ0以上の整数であればよく、環Z3aまたはZ3bの種類に応じて適宜選択でき、例えば、0~8程度の整数であってもよく、好ましい範囲としては、以下段階的に、0~4の整数、0~3の整数、0~2の整数であり、なかでも0または1が好ましく、特に0が好ましい。
【0190】
なお、異なる環Z3aおよびZ3bにおける置換数s1およびs2は、互いに異なっていてもよいが、通常、同一であることが多い。また、置換数s1またはs2が2以上である場合、同一の環Z3aまたはZ3bに置換する2以上のR5aまたはR5bの種類は、互いに同一または異なっていてもよい。また、異なる環Z3aおよびZ3bにそれぞれ結合する基R5aおよびR5bの種類は、互いに同一または異なっていてもよい。特に、s1およびs2が1である場合、環Z3aおよびZ3bがベンゼン環、ナフタレン環またはビフェニル環、基R5aおよびR5bがメチル基であってもよい。また、基R5aおよびR5bの置換位置は特に制限されず、環Z3aおよびZ3bと、エーテル結合(-O-)およびフルオレン環の9位との結合位置以外の位置に置換していればよく、通常、環Z3aおよびZ3bにおいて、エーテル結合(-O-)に対してオルト位(エーテル結合の結合位置に隣接する炭素原子)に置換することが多い。
【0191】
アルキレン基A3aおよびA3bとしては、例えば、エチレン基、プロピレン基(1,2-プロパンジイル基)、トリメチレン基、1,2-ブタンジイル基、テトラメチレン基などの直鎖状または分岐鎖状C2-6アルキレン基などが挙げられ、繰り返し数t1またはt2が1以上である場合、好ましくは直鎖状または分岐鎖状C2-4アルキレン基、さらに好ましくはエチレン基、プロピレン基などの直鎖状または分岐鎖状C2-3アルキレン基であり、特にエチレン基が好ましい。
【0192】
オキシアルキレン基(-OA3a-)および(-OA3b-)の繰り返し数(付加モル数)t1およびt2は、それぞれ0以上であればよく、例えば0~15程度の整数の範囲から選択でき、好ましい範囲としては、以下段階的に、0~10、0~8、0~6、0~4、0~2、0~1である。また、繰り返し数t1およびt2は、重合反応性を向上できる点から、通常、1以上であることが多く、例えば1~15程度の整数の範囲から選択でき、好ましい範囲としては、以下段階的に、1~10、1~8、1~6、1~4、1~3、1~2であり、特に1であるのが好ましい。なお、本明細書および特許請求の範囲において、「繰り返し数(付加モル数)」は、平均値(算術平均値、相加平均値)または平均付加モル数であってもよく、好ましい態様は、上記好ましい範囲(上記整数の範囲)と同様である。繰り返し数t1およびt2が大きすぎると、屈折率や耐熱性が低下するおそれがある。
【0193】
また、2つの繰り返し数t1およびt2は、互いに同一または異なっていてもよい。t1またはt2が2以上である場合、2以上のオキシアルキレン基(-OA3a-)または(-OA3b-)の種類は、互いに同一または異なっていてもよい。また、異なる環Z3aおよびZ3bにエーテル結合(-O-)を介して結合する(ポリ)オキシアルキレン基(-OA3a-)および(-OA3b-)の種類は、互いに同一または異なっていてもよい。
【0194】
基[-O-(A3aO)t1-]および[-O-(A3bO)t2-](エーテル含有基ともいう)の環Z3aおよびZ3bに対する置換位置は、特に限定されず、環Z3aおよびZ3bの適当な位置にそれぞれ置換していればよい。前記エーテル含有基の置換位置は、環Z3aおよびZ3bがベンゼン環である場合、フルオレン環の9位に結合するフェニル基の2位、3位、4位のいずれかの位置、なかでも、3位または4位、特に4位に置換している場合が多い。また、環Z3aおよびZ3bがナフタレン環である場合、エーテル含有基はフルオレン環の9位に結合するナフチル基の5~8位のいずれかの位置に置換している場合が多く、例えば、フルオレン環の9位に対してナフタレン環の1位または2位が置換し(1-ナフチルまたは2-ナフチルの関係で置換し)、この置換位置に対して1,5-位、2,6-位などの関係、特に2,6-位の関係で置換している場合が多い。また、環Z3aおよびZ3bが環集合アレーン環である場合、前記エーテル含有基の置換位置は特に限定されず、例えば、フルオレンの9位に結合するアレーン環またはこのアレーン環に隣接するアレーン環に置換していてもよい。例えば、環Z3aおよびZ3bがビフェニル環(または環Z3aおよびZ3bがベンゼン環、s1およびs2が1、R5aおよびR5bがフェニル基)の場合、ビフェニル環の3位または4位がフルオレンの9位に結合していてもよく、ビフェニル環の3位がフルオレンの9位に結合する場合、前記エーテル含有基の置換位置は、例えば、ビフェニル環の2位、4位、5位、6位、2’位、3’位、4’位のいずれの位置であってもよく、好ましくは6位または4’位、特に6位に置換することが多い。
【0195】
第2のジオール単位(B2)に対応する第2のジオール成分としては、例えば、前記式(4)において、t1およびt2が0である9,9-ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類;t1およびt2が1以上、例えば、1~10程度である9,9-ビス[ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール]フルオレン類などが挙げられる。なお、本明細書および請求の範囲において、特に断りのない限り、「(ポリ)アルコキシ」とは、アルコキシ基およびポリアルコキシ基の双方を含む意味に用いる。
【0196】
9,9-ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類としては、例えば、9,9-ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(アルキル-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(アリール-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレンなどが挙げられる。
【0197】
9,9-ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレンとしては、例えば、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレンなどが挙げられる。
【0198】
9,9-ビス(アルキル-ヒドロキシフェニル)フルオレンとしては、例えば、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-イソプロピルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)フルオレンなどの9,9-ビス[(モノまたはジ)C1-4アルキル-ヒドロキシフェニル]フルオレンなどが挙げられる。
【0199】
9,9-ビス(アリール-ヒドロキシフェニル)フルオレンとしては、例えば、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-フェニルフェニル)フルオレンなどの9,9-ビス(C6-10アリール-ヒドロキシフェニル)フルオレンなどが挙げられる。
【0200】
9,9-ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレンとしては、例えば、9,9-ビス(6-ヒドロキシ-2-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス(5-ヒドロキシ-1-ナフチル)フルオレンなどが挙げられる。
【0201】
9,9-ビス[ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール]フルオレン類としては、例えば、9,9-ビス[ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル]フルオレン、9,9-ビス[アルキル-ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル]フルオレン、9,9-ビス[アリール-ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル]フルオレン、9,9-ビス[ヒドロキシ(ポリ)アルコキシナフチル]フルオレンなどが挙げられる。
【0202】
9,9-ビス[ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル]フルオレンとしては、例えば、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-(2-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ)フェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル]フルオレンなどの9,9-ビス[ヒドロキシ(モノないしデカ)C2-4アルコキシ-フェニル]フルオレンなどが挙げられる。
【0203】
9,9-ビス[アルキル-ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル]フルオレンとしては、例えば、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-メチルフェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-(2-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ)-3-メチルフェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3,5-ジメチルフェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシプロポキシ)-3-メチルフェニル]フルオレンなどの9,9-ビス[(モノまたはジ)C1-4アルキル-ヒドロキシ(モノないしデカ)C2-4アルコキシ-フェニル]フルオレンなどが挙げられる。
【0204】
9,9-ビス[アリール-ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル]フルオレンとしては、例えば、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル)フルオレン、9,9-ビス[4-(2-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシプロポキシ)-3-フェニルフェニル)フルオレンなどの9,9-ビス[C6-10アリール-ヒドロキシ(モノないしデカ)C2-4アルコキシ-フェニル]フルオレンなどが挙げられる。
【0205】
9,9-ビス[ヒドロキシ(ポリ)アルコキシナフチル]フルオレンとしては、例えば、9,9-ビス[6-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-ナフチル]フルオレン、9,9-ビス[5-(2-ヒドロキシエトキシ)-1-ナフチル]フルオレン、9,9-ビス[6-(2-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ)-2-ナフチル]フルオレン、9,9-ビス[6-(2-ヒドロキシプロポキシ)-2-ナフチル]フルオレンなどの9,9-ビス[ヒドロキシ(モノないしデカ)C2-4アルコキシ-ナフチル]フルオレンなどが挙げられる。
【0206】
これらの第2のジオール単位(B2)は、単独でまたは2種以上組み合わせて含んでいてもよい。第2のジオール単位(B2)のうち、好ましくは9,9-ビス[ヒドロキシ(モノないしヘキサ)C2-4アルコキシC6-10アリール]フルオレンなどの9,9-ビス[ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール]フルオレン類、より好ましくは9,9-ビス[ヒドロキシ(モノまたはジ)C2-4アルコキシ-C6-10アリール]フルオレン、さらに好ましくは9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレン、9,9-ビス[6-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-ナフチル]フルオレンなどの9,9-ビス[ヒドロキシC2-3アルコキシ-C6-12アリール]フルオレン、なかでも、高い屈折率を保持しつつ、高い耐熱性を付与でき、複屈折の絶対値も低減できる点から、9,9-ビス[6-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-ナフチル]フルオレンなどの9,9-ビス[ヒドロキシC2-3アルコキシナフチル]フルオレンに由来する構成単位が好ましい。
【0207】
(B3)第3のジオール単位
ジオール単位(B)は、必要に応じて、下記式(5)で表される第3のジオール単位(B3)を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。第3のジオール単位(B3)を含むと、ガラス転移温度の過度な上昇を抑え、複屈折を維持し、または複屈折の上昇を抑えつつ、高い屈折率および低いアッベ数を付与できるようである。
【0208】
【0209】
(式中、A4は直接結合(単結合)あるいは直鎖状または分岐鎖状アルキレン基、A5aおよびA5bはそれぞれ独立して直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基、R6aおよびR6bはそれぞれ独立して置換基、u1およびu2はそれぞれ独立して0以上の整数、v1およびv2はそれぞれ独立して0~6の整数を示す)。
【0210】
前記式(5)において、A4で表されるアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、1,2-ブタンジイル基、テトラメチレン基などの直鎖状または分岐鎖状C1-4アルキレン基などが挙げられる。高屈折率、低アッベ数、低複屈折などの光学特性の観点から、A4としては、直接結合またはメチレン基などのC1-2アルキレン基が好ましく、特に、直接結合が好ましい。
【0211】
オキシアルキレン基(-OA5a-)および(-OA5b-)を構成する基A5aおよびA5bで表されるアルキレン基としては、例えば、前記式(4)で例示したアルキレン基A3aおよびA3bと好ましい態様も含めて同様である。
【0212】
オキシアルキレン基(-OA5a-)および(-OA5b-)の繰り返し数u1およびu2は、例えば、0~15程度の範囲から選択でき、好ましい範囲としては以下段階的に、0~10、0~8、0~6、0~4、0~2、0~1である。また、u1およびu2は、重合反応性が高く、高屈折率、低アッベ数、低複屈折などの光学特性及び耐熱性にも優れ、さらに、着色も抑制できる点から、通常、1以上であることが多く、例えば、1~15程度の範囲から選択でき、好ましい範囲としては、以下段階的に、1~10、1~8、1~6、1~4、1~3、1~2であり、特に、1であるのが好ましい。なお、u1およびu2は、平均付加モル数であってもよく、好ましい態様は、上記好ましい範囲(上記整数の範囲)と同様である。u1およびu2が大きすぎると、耐熱性や屈折率が低下するおそれがある。
【0213】
u1およびu2は互いに同一または異なっていてもよく、u1またはu2が2以上である場合、2以上のオキシアルキレン基(-OA5a-)または(-OA5b-)の種類は、互いに同一又は異なっていてもよい。また、異なるナフタレン環にエーテル結合(-O-)を介して結合する基[-(OA5a)u1-O-]および[-(OA5b)u2-O-]の種類は、互いに同一または異なっていてもよい。
【0214】
基[-(OA5a)u1-O-]および[-(OA5b)u2-O-]の置換位置は、ナフタレン環の1,1’位に結合するA4に対して、2位ないし4位および2’位ないし4’位のいずれの位置であってもよいが、複屈折を低減できる点から、2,2’位が特に好ましい。
【0215】
R6aおよびR6bで表される置換基(非反応性置換基または非重合性置換基)としては、例えば、前記式(I)で表されるジカルボン酸(または第1のジカルボン酸単位(A1))の項に記載のR1aおよびR1bとして例示した置換基と同様の基が挙げられる。置換数v1またはv2が1以上である場合、好ましい基R6aおよびR6bは、臭素原子などのハロゲン原子である。
【0216】
置換数v1およびv2は、それぞれ、例えば、0~4、好ましくは以下段階的に0~2、0または1であり、特に0である。v1およびv2は互いに同一または異なっていてもよい。また、v1またはv2が2以上である場合、2以上の基R6aまたはR6bの種類は、それぞれ互いに同一または異なっていてもよい。さらに、2つの異なるナフタレン環に置換する基R6aおよびR6bの種類は、互いに同一または異なっていてもよい。
【0217】
また、基R6aおよびR6bの置換位置は、A4および基[-(OA5a)u1-O-]および[-(OA5b)u2-O-]の置換位置以外の位置である限り、特に制限されず、2つのナフタレン環の1,1’位に結合するA4に対して、3~8位および/または3’~8’位であることが多い。
【0218】
第3のジオール単位(B3)に対応する第3のジオール成分として代表的には、A4が直接結合であるジヒドロキシ-1,1’-ビナフタレン類などが挙げられる。ジヒドロキシ-1,1’-ビナフタレン類としては、例えば、2,2’-ジヒドロキシ-1,1’-ビナフタレンなどのジヒドロキシ-1,1’-ビナフタレン;ビス[ヒドロキシ(ポリ)アルコキシ]-1,1’-ビナフタレンなどが挙げられる。
【0219】
ビス[ヒドロキシ(ポリ)アルコキシ]-1,1’-ビナフタレンとしては、例えば、2,2’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-1,1’-ビナフタレン、2,2’-ビス(2-ヒドロキシプロポキシ)-1,1’-ビナフタレン、2,2’-ビス[2-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ]-1,1’-ビナフタレンなどの2,2’-ビス[ヒドロキシ(モノないしデカ)C2-4アルコキシ]-1,1’-ビナフタレンなどが挙げられる。
【0220】
これらの第3のジオール単位(B3)は、単独でまたは2種以上組み合わせて含んでいてもよい。第3のジオール単位(B3)のうち、着色を抑制しつつ、高屈折率、低アッベ数、低複屈折などの光学特性に優れ、比較的高い重合反応性を示す観点から、2,2’-ビス[ヒドロキシ(モノないしヘキサ)C2-4アルコキシ]-1,1’-ビナフタレン、なかでも、2,2’-ビス[ヒドロキシ(モノまたはジ)C2-4アルコキシ]-1,1’-ビナフタレンが好ましく、特に、2,2’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-1,1’-ビナフタレンなどの2,2’-ビス[ヒドロキシC2-3アルコキシ]-1,1’-ビナフタレンに由来する構成単位が好ましい。
【0221】
(B4)第4のジオール単位
なお、ジオール単位(B)は、第1のジオール単位(B1)、第2のジオール単位(B2)および第3のジオール単位(B3)とは異なるジオール単位(第4のジオール単位(B4))を必ずしも含んでいなくてもよいが、必要に応じて含んでいてもよい。
【0222】
第4のジオール単位(B4)としては、例えば、脂環族ジオール、芳香族ジオール[ただし、第2のジオール単位(B2)および第3のジオール単位(B3)を除く]、およびこれらのジオール成分のアルキレンオキシド(アルキレンカーボネートまたはハロアルカノール)付加体に由来する構成単位などが挙げられる。
【0223】
脂環族ジオールとしては、例えば、シクロヘキサンジオールなどのシクロアルカンジオール;シクロヘキサンジメタノールなどのビス(ヒドロキシアルキル)シクロアルカン;ビスフェノールAの水添物などの後に例示する芳香族ジオールの水添物などが挙げられる。
【0224】
芳香族ジオールとしては、例えば、ヒドロキノン、レゾルシノールなどのジヒドロキシアレーン;ベンゼンジメタノールなどの芳香脂肪族ジオール;ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、ビスフェノールC、ビスフェノールG、ビスフェノールSなどのビスフェノール類;p,p’-ビフェノールなどのビフェノール類などが挙げられる。
【0225】
これらのジオール成分のアルキレンオキシド(対応するアルキレンカーボネートまたはハロアルカノール)付加体としては、例えば、C2-4アルキレンオキシド付加体、好ましくはエチレンオキシド付加体、プロピレンオキシド付加体などのC2-3アルキレンオキシド付加体が挙げられ、付加モル数は特に制限されない。具体的には、ビスフェノールAなどのジオール1モルに対して、2~10モル程度のエチレンオキシドが付加した付加体などが挙げられる。
【0226】
ジオール単位(B)は、これらの第4のジオール単位(B4)を、単独でまたは2種以上組み合わせて含んでいてもよい。
【0227】
第1のジオール単位(B1)、第2のジオール単位(B2)および第3のジオール単位(B3)の総量の割合は、ジオール単位(B)全体に対して、例えば、1モル%以上、具体的には10~100モル%程度の範囲から選択でき、好ましい範囲としては、以下段階的に、30モル%以上、50モル%以上、60モル%以上、70モル%以上、80モル%以上、90モル%以上、95モル%以上であり、特に100モル%、実質的に第4のジオール単位(B4)を含まないのが好ましい。
【0228】
第1のジオール単位(B1)の割合は、ジオール単位(B)全体に対して、例えば、1モル%程度以上であってもよく、好ましい範囲としては、以下段階的に、5モル%以上、10モル%以上、15モル%以上、20モル%以上である。屈折率を向上し易い点では、前記割合は、25モル%以上が好ましく、さらに好ましい範囲としては、以下段階的に、30モル%以上、40モル%以上、50モル%以上、70モル%以上、80モル%以上、90モル%以上、95モル%以上であり、さらに好ましくは実質的に100モル%、すなわち、第1のジオール単位(B1)のみで形成されているのが好ましい。高い屈折率と、低い複屈折の絶対値と、高い耐熱性と、高い成形性とをバランスよく充足しつつ、特に高耐熱化できる点では、前記割合は、1~50モル%が好ましく、さらに好ましい範囲としては、以下段階的に、5~40モル%、10~30モル%、15~25モル%、20~25モル%である。前記特性をバランスよく充足しつつ、特に高屈折率化できる点では、前記割合は、50~100モル%が好ましく、さらに好ましい範囲としては、以下段階的に、60~95モル%、70~90モル%、75~85モル%であり、特に75~80モル%が最も好ましい。
【0229】
第1のジオール単位(B1)の割合が少なすぎると、屈折率を大きく向上できないおそれや、重合反応が進行し難く、生産性などが低下するおそれがある。逆に多すぎると、耐熱性が低下するおそれや、複屈折の絶対値を低減できないおそれがある。
【0230】
ジオール単位(B)が、第1のジオール単位(B1)および第2のジオール単位(B2)の双方を含む場合の割合(B1/B2)は、B1/B2(モル比)=1/99~99/1程度の範囲から選択してもよく、例えば、10/90~90/10、好ましくは15/85~85/15である。高い屈折率と、低い複屈折の絶対値と、高い耐熱性と、高い成形性とをバランスよく充足しつつ、特に高耐熱化できる点では、前記割合は、1/99~50/50が好ましく、さらに好ましい範囲としては、以下段階的に、5/95~40/60、10/90~30/70、15/85~25/75、20/80~25/75である。前記特性をバランスよく充足しつつ、特に高屈折率化できる点では、前記割合は、50/50~99/1が好ましく、さらに好ましい範囲としては、以下段階的に、60/40~95/5、70/30~90/10、75/25~85/15であり、特に75/25~80/20が最も好ましい。第2のジオール単位(B2)の割合が少なすぎると、耐熱性が低下したり、複屈折の絶対値を低く調整できないおそれがあり、逆に多すぎると、複屈折の絶対値を低く調整できないだけでなく、成形性が低下するおそれがある。
【0231】
ジオール単位(B)が、第1のジオール単位(B1)および第3のジオール単位(B3)の双方を含む場合の割合(B1/B3)は、B1/B3(モル比)=1/99~99/1程度の範囲から選択してもよく、例えば、10/90~90/10、好ましい範囲としては、以下段階的に、20/80~80/20、30/70~70/30、40/60~60/40である。
【0232】
(カーボネート単位(C))
樹脂は、必ずしもカーボネート単位(C)を含んでいなくてもよいが、ジオール単位(B)とともにカーボネート単位(C)を含んでポリエステルカーボネート樹脂を形成してもよい。なお、本明細書および請求の範囲において、「カーボネート単位」とは、カーボネート結合形成成分に由来する構成単位、すなわち、カルボニル基[-C(=O)-]を意味し、このカルボニル基に隣接して結合する2つのジオール単位の末端酸素原子とともにカーボネート結合を形成する。そのため、カーボネート結合形成成分としては、2つのジオール成分との反応により、カーボネート結合を形成可能な化合物であればよく、代表的なカーボネート結合形成成分としては、例えば、ホスゲン、トリホスゲンなどのホスゲン類、ジフェニルカーボネートなどの炭酸ジエステル類などが挙げられる。
【0233】
これらのカーボネート結合形成成分は単独でまたは2種以上組み合わせて使用することもできる。これらのカーボネート結合形成成分のうち、安全性などの観点からジフェニルカーボネートなどの炭酸ジエステル類が好ましい。
【0234】
樹脂中のジカルボン酸単位(A)およびカーボネート単位(C)の総量と、ジオール単位(B)との割合は、前者/後者(モル比)=1/0.8~1/1.2、好ましくは1/0.9~1/1.1であり、通常、ほぼ等モル程度であるのが好ましい。また、ジカルボン酸単位(A)とカーボネート単位(C)との割合(A/C)は、A/C(モル比)=99/1~1/99程度、例えば90/10~10/90の範囲から選択してもよく、好ましくは以下段階的に、80/20~20/80、70/30~30/70、60/40~40/60である。カーボネート単位(C)の割合が多すぎると、屈折率や耐熱性が低下するおそれがある。
【0235】
なお、樹脂は、ジカルボン酸単位(A)、ジオール単位(B)およびカーボネート単位(C)とは異なる他の構成単位(D)を含んでいなくてもよいが、必要に応じ、本発明の効果を害しない範囲で含んでいてもよい。
【0236】
他の構成単位(D)としては、例えば、ヒドロキシアルカン酸や対応するラクトン、3以上のカルボキシル基および/またはヒドロキシル基を有する多官能性重合成分などに由来する構成単位が挙げられる。
【0237】
前記ヒドロキシアルカン酸や対応するラクトンとしては、例えば、乳酸、3-ヒドロキシ酪酸、6-ヒドロキシヘキサン酸などのヒドロキシアルカン酸;ε-カプロラクトンなどのヒドロキシアルカン酸に対応するラクトンなどが挙げられる。
【0238】
前記多官能性重合成分としては、例えば、トリメリット酸、ピロメリット酸などの3価以上の多価カルボン酸や、グリセリン、ペンタエリスリトールなどの3価以上の多価アルコールなど、合計で3以上のカルボキシル基および/またはヒドロキシル基を有する多官能性重合成分などが挙げられる。
【0239】
このような他の構成単位(D)の割合は、構成単位全体(ジカルボン酸単位(A)、ジオール単位(B)およびカーボネート単位(C)および他の構成単位(D)の総量)に対して、例えば、50モル%以下、好ましい範囲としては、以下段階的に、40モル%以下、30モル%以下、20モル%以下、10モル%以下、5モル%以下であり、通常、他の構成単位(D)を実質的に含まない場合が多い。なお、前記割合は、0~10モル%程度、例えば、0.01~1モル%であってもよい。
【0240】
本発明の樹脂は、高い屈折率(または低いアッベ数)と、低い複屈折の絶対値と、高い耐熱性とをバランスよく充足できる点では、第1のジカルボン酸単位(A1)に加え、第1のジオール単位(B1)および第2のジオール単位(B2)を少なくとも有するのが好ましく、特に低い複屈折の絶対値を示す点から、第1のジカルボン酸単位(A1)に加え、第2のジカルボン酸単位(A2)、第1のジオール単位(B1)および第2のジオール単位(B2)を少なくとも有するのがさらに好ましい。このような各特性のバランスに優れた樹脂のなかでも、特に低複屈折で光学レンズなどの用途に有効に利用できる点から、(i)第1のジカルボン酸単位(A1)、第2のジカルボン酸単位(A2)、第1のジオール単位(B1)および第2のジオール単位(B2)で形成されたポリエステル樹脂(以下、単に樹脂(i)ともいう);または(ii)第1のジカルボン酸単位(A1)、第2のジカルボン酸単位(A2)、第3のジカルボン酸単位(A3)、第1のジオール単位(B1)および第2のジオール単位(B2)で形成されたポリエステル樹脂(以下、単に樹脂(ii)ともいう)が特に好ましく、樹脂(i)が最も好ましい。
【0241】
(樹脂(i))
樹脂(i)では、高屈折率(または低アッベ数)、低複屈折、高耐熱性および高成形性をバランスよく充足しつつ、特に高い屈折率に調整できる。
【0242】
樹脂(i)を形成する構成単位の好ましい組み合わせとしては、第1のジカルボン酸単位(A1)としての9,9-ビス(2-カルボキシエチル)-2,7-ジ(2-ナフチル)フルオレンなどの9,9-ビス(カルボキシC2-4アルキル)-2,7-ジ(2-ナフチル)フルオレンに由来する構成単位と;第2のジカルボン酸単位(A2)としての2,6-ナフタレンジカルボン酸などのナフタレンジカルボン酸単位と;第1のジオール単位(B1)としてのエチレングリコールなどの直鎖状または分岐鎖状C2-4アルキレングリコールに由来する構成単位と;第2のジオール単位(B2)としての9,9-ビス[6-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-ナフチル]フルオレンなどの9,9-ビス[ヒドロキシC2-3アルコキシナフチル]フルオレンに由来する構成単位との組み合わせである。
【0243】
樹脂(i)において、第1のジカルボン酸単位(A1)と第2のジカルボン酸単位(A2)との割合(A1/A2)は、例えば、A1/A2(モル比)=85/15~50/50、好ましくは80/20~55/45、より好ましくは75/25~60/40、さらに好ましくは70/30~65/35、特に69/31~66/34が好ましい。第2のジカルボン酸単位(A2)が多すぎると、複屈折が上昇し過ぎるおそれがあり、逆に少なすぎると、複屈折が(-)側に大きくなるおそれがある。
【0244】
樹脂(i)において、第1のジオール単位(B1)と第2のジオール単位(B2)との割合(B1/B2)は、例えば、B1/B2(モル比)=50/50~95/5、好ましくは60/40~90/10、さらに好ましくは70/30~85/15、特に75/25~80/20が好ましく、76/24~79/21が最も好ましい。第2のジオール単位(B2)の割合が少なすぎると、耐熱性が低下したり、複屈折の絶対値を低く調整できないおそれがあり、逆に多すぎると、複屈折の絶対値を低く調整できないだけでなく、成形性が低下するおそれがある。
【0245】
(樹脂(ii))
樹脂(ii)では、高屈折率(または低アッベ数)、低複屈折、高耐熱性および高成形性をバランスよく充足しつつ、特に高耐熱性と高成形性とを高度に両立できる。
【0246】
樹脂(ii)を形成する構成単位の好ましい組み合わせとしては、第1のジカルボン酸単位(A1)としての9,9-ビス(2-カルボキシエチル)-2,7-ジ(2-ナフチル)フルオレンなどの9,9-ビス(カルボキシC2-4アルキル)-2,7-ジ(2-ナフチル)フルオレンに由来する構成単位と;第2のジカルボン酸単位(A2)としての2,6-ナフタレンジカルボン酸などのナフタレンジカルボン酸単位と;第3のジカルボン酸単位(A3)としてのアジピン酸などのC2-6アルカン-ジカルボン酸単位と;第1のジオール単位(B1)としてのエチレングリコールなどの直鎖状または分岐鎖状C2-4アルキレングリコールに由来する構成単位と;第2のジオール単位(B2)としての9,9-ビス[6-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-ナフチル]フルオレンなどの9,9-ビス[ヒドロキシC2-3アルコキシナフチル]フルオレンに由来する構成単位との組み合わせである。
【0247】
樹脂(ii)において、第1のジカルボン酸単位(A1)と第2のジカルボン酸単位(A2)との割合(A1/A2)は、例えば、A1/A2(モル比)=99/1~80/20、好ましくは95/5~85/15、さらに好ましくは93/7~87/13である。第2のジカルボン酸単位(A2)が多すぎると、複屈折が上昇し過ぎるおそれがあり、逆に少なすぎると、複屈折が(-)側に大きくなるおそれがある。
【0248】
樹脂(ii)において、第1のジカルボン酸単位(A1)と第3のジカルボン酸単位(A3)との割合(A1/A3)は、例えば、A1/A3(モル比)=65/35~45/55、好ましくは60/40~50/50であり、さらに好ましくは60/40~55/45、特に59/41~56/44が好ましい。第3のジカルボン酸単位(A3)が多すぎると、屈折率や耐熱性が大きく低下するおそれがあり、逆に少なすぎると、耐熱性と成形性とを高度に両立できないおそれがある。
【0249】
樹脂(ii)において、第2のジカルボン酸単位(A2)と第3のジカルボン酸単位(A3)との割合(A2/A3)は、例えば、A2/A3(モル比)=25/75~1/99であり、好ましくは20/80~5/95、さらに好ましくは15/85~10/90である。第2のジカルボン酸単位(A2)が多すぎると、複屈折が上昇し過ぎるおそれがあり、逆に少なすぎると、複屈折が(-)側に大きくなるおそれがある。
【0250】
樹脂(ii)において、第1のジオール単位(B1)と第2のジオール単位(B2)との割合(B1/B2)は、例えば、B1/B2(モル比)=85/15~65/35、好ましくは80/20~70/30、さらに好ましくは78/22~72/27である。第2のジオール単位(B2)の割合が少なすぎると、複屈折の絶対値を低く調整できないおそれがあり、逆に多すぎると、成形性が低下するおそれがある。
【0251】
[樹脂の製造方法]
樹脂の製造方法は、前記第1のジカルボン酸成分(A1)を含むジカルボン酸成分(A)を重合成分として用いること以外は特に制限されず、樹脂の種類または他の重合成分(共重合成分)などに応じて、慣用の方法が利用できる。例えば、ポリエステル樹脂などのポリエステル系樹脂である場合、前述の各ジカルボン酸単位などに対応するジカルボン酸成分(A)と、前述のジオール単位などに対応するジオール酸成分(B)と、必要に応じてカーボネート結合形成成分(C)とを反応させて製造すればよく、慣用の方法、具体的には、エステル交換法、直接重合法などの溶融重合法、溶液重合法、界面重合法などで調製でき、溶融重合法が好ましい。なお、反応は、重合方法に応じて、溶媒の存在下または非存在下で行ってもよい。
【0252】
ジカルボン酸成分(A)とジオール成分(B)との使用割合(または仕込み割合)は、通常、前者/後者(モル比)=例えば、1/1.2~1/0.8、好ましくは1/1.1~1/0.9であるが、必ずしもこの範囲である必要はなく、各ジカルボン酸成分(A)および各ジオール成分(B)から選択される少なくとも1種の成分を、予定する導入割合に対して過剰に用いて反応させてもよい。例えば、反応系から留出可能なエチレングリコールなどの第1のジオール成分(B1)は、樹脂中に導入される割合(または導入割合)よりも過剰に使用してもよい。また、カーボネート結合形成成分(C)を用いる場合、ジカルボン酸成分(A)およびカーボネート結合形成成分(C)の総量と、ジオール成分(B)との使用割合は、例えば、前者/後者(モル比)=1/1.2~1/0.8、好ましくは1/1.1~1/0.9である。なお、カーボネート結合形成成分(C)は、反応における揮発や分解を考慮して、予定する導入割合に対してやや過剰に用いてもよく、ジカルボン酸単位(A)およびカーボネート単位(C)の総量(樹脂中への導入予定量の総量)に対して、例えば0.1~5モル%、好ましくは2~3モル%過剰にカーボネート結合形成成分(C)を用いてもよい。
【0253】
反応は、触媒の存在下で行ってもよい。触媒としては、慣用のエステル化触媒、例えば、金属触媒などが利用できる。金属触媒としては、例えば、ナトリウムなどのアルカリ金属;マグネシウム、カルシウム、バリウムなどのアルカリ土類金属;チタン、マンガン、コバルトなどの遷移金属;亜鉛、カドミウムなどの周期表第12族金属;アルミニウムなどの周期表第13族金属;ゲルマニウム、鉛などの周期表第14族金属;アンチモンなどの周期表第15族金属などを含む金属化合物が用いられる。金属化合物としては、例えば、アルコキシド;酢酸塩、プロピオン酸塩などの有機酸塩;ホウ酸塩、炭酸塩などの無機酸塩;酸化物などであってもよく、これらの水和物であってもよい。代表的な金属化合物としては、例えば、二酸化ゲルマニウム、水酸化ゲルマニウム、シュウ酸ゲルマニウム、ゲルマニウムテトラエトキシド、ゲルマニウム-n-ブトキシドなどのゲルマニウム化合物;三酸化アンチモン、酢酸アンチモン、アンチモンエチレングリコレートなどのアンチモン化合物;テトラ-n-プロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラ-n-ブチルチタネート(チタン(IV)テトラブトキシド)、シュウ酸チタン、シュウ酸チタンカリウムなどのチタン化合物;酢酸マンガン・4水和物などのマンガン化合物;酢酸カルシウム・1水和物などのカルシウム化合物などが例示できる。
【0254】
これらの触媒は単独でまたは2種以上組み合わせて使用できる。複数の触媒を用いる場合、反応の進行に応じて、各触媒を添加することもできる。これらの触媒のうち、酢酸マンガン・4水和物、酢酸カルシウム・1水和物、二酸化ゲルマニウム、チタン(IV)テトラブトキシドなどが好ましい。触媒の使用量は、例えば、ジカルボン酸成分(A)1モルに対して、0.01×10-4~100×10-4モル、好ましくは0.1×10-4~40×10-4モルである。
【0255】
また、反応は、必要に応じて、熱安定剤や酸化防止剤などの安定剤の存在下で行ってもよい。通常、熱安定剤がよく利用され、例えば、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、ジブチルホスフェート(リン酸ジブチルまたはジブチルリン酸)、亜リン酸、トリメチルホスファイト、トリエチルホスファイトなどのリン化合物などが挙げられる。これらのうち、リン酸ジブチルがよく利用される。熱安定剤の使用量は、例えば、ジカルボン酸成分(A)1モルに対して、0.01×10-4~100×10-4モル、好ましくは0.1×10-4~40×10-4モルである。
【0256】
反応は、通常、不活性ガス、例えば、窒素ガス;ヘリウム、アルゴンなどの希ガスなどの雰囲気中で行われる。また、反応は、減圧下、例えば、1×102~1×104Pa程度で行うこともできる。通常、エステル交換反応は、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下で行うことが多く、重縮合反応は、減圧下で行うことが多い。反応温度は、重合方法に応じて選択でき、例えば、溶融重合法における反応温度は150~320℃、好ましくは180~310℃、さらに好ましくは200~300℃である。
【0257】
[樹脂の特性および成形体]
(特性)
本発明の樹脂は、前記第1のジカルボン酸単位(A1)を含むため、高い屈折率および高い耐熱性を有している。また、優れた光学的特性(高屈折率、低アッベ数、低い複屈折の絶対値)と高い耐熱性とを高度にバランスよく充足できる。
【0258】
樹脂のガラス転移温度Tgは、例えば、100~250℃程度の範囲であってもよく、好ましい範囲としては、以下段階的に、110~230℃、120~210℃、130~200℃である。高屈折率、低アッベ数、低い複屈折の絶対値などの光学的特性と、高い耐熱性とをバランスよく充足しつつ、さらに、高い成形性を有する点からは、135~200℃が好ましく、さらに好ましい範囲としては、以下段階的に、140~190℃、145~185℃、145~180℃、148~175℃、150~170℃、150~165℃であり、150~160℃であってもよいが、高い耐熱性と高い成形性とを高度に両立する観点から特に好ましくは155~165℃である。
【0259】
ガラス転移温度Tgが低過ぎると、耐熱性が低下して、成形および/または使用に際して劣化または変色(または着色)し易くなるおそれや、所定形状に成形後、高温環境下で変形し易くなるおそれがあり、車載用光学レンズなどの高い耐熱性(または熱安定性)が要求される用途などで利用できなくなるおそれがある。一方、ガラス転移温度Tgが高過ぎると、射出成形などの成形加工を高温で行う必要があり、成形性(または生産性)が低下するのみならず、成形温度の上昇が、得られる成形体の劣化や着色の原因にもなり、さらに、成形体における歪の抑制や表面平滑性の低下防止のために、冷却用の特殊な金型が必要となるおそれもある。
【0260】
通常、樹脂に高い屈折率を付与するために樹脂の化学構造中に芳香族環を導入すると、分子骨格が剛直になるため、屈折率とともにガラス転移温度も上昇するが、近年要求される高屈折率な領域、例えばnDが1.7以上、好ましくは1.71以上を有する樹脂では、ガラス転移温度が特に高くなり過ぎるため、高い成形性(または生産性)との両立がより一層困難となる。しかし、本発明の樹脂では、高い屈折率および耐熱性を備える一方で、意外にもガラス転移温度の過度な上昇を抑制し易いためか、優れた前記光学的特性および高い耐熱性と、高い成形性とをバランスよく充足できる。
【0261】
樹脂の屈折率nDは、温度20℃、波長589nmにおいて、例えば、1.68~1.75程度の範囲から選択でき、好ましくは以下段階的に、1.69~1.74、1.7~1.735、1.71~1.73であり、さらに好ましくは1.715~1.725である。
【0262】
樹脂のアッベ数は、温度20℃において、例えば、20以下である。通常、アッベ数は、屈折率の増加に伴って低くなる傾向にあるため、高屈折率を示す本発明の樹脂は、より低いアッベ数が求められる用途、例えば、各種カメラにおける光学部材、具体的には、凹レンズおよび凸レンズを組み合わせて用いるカメラ用レンズなどとしても有効に利用できる。各種カメラの光学系では、凸レンズで生じる色収差(滲み)を、低アッベ数の凹レンズを利用し低減する(または打ち消す)ため、通常、複数枚の凹レンズおよび凸レンズの組合せで構成される。本発明の樹脂は、前記凹レンズに要求される低いアッベ数に十分に対応できる。このような用途における樹脂のアッベ数は、温度20℃において、例えば、18以下、好ましくは15以下、より好ましくは10~14、さらに好ましくは10.5~13.5である。
【0263】
樹脂の複屈折は、樹脂単独で形成したフィルムを、延伸温度:ガラス転移温度Tg+10℃、延伸速度:25mm/分、延伸倍率:3倍で一軸延伸した延伸フィルムの複屈折(3倍複屈折)により評価してもよい。前記延伸フィルムの3倍複屈折の絶対値は、測定温度20℃、波長600nmにおいて、例えば、300×10-4以下の範囲から選択でき、好ましい範囲としては、以下段階的に、200×10-4以下、100×10-4以下、50×10-4以下、40×10-4以下、30×10-4以下、25×10-4以下、20×10-4以下であり、さらに好ましくは15×10-4以下、特に好ましくは10×10-4以下である。通常、0~35×10-4程度、例えば、0.001×10-4~25×10-4である。
【0264】
樹脂の重量平均分子量Mwは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)などにより測定でき、ポリスチレン換算で、例えば、10000~1000000程度の範囲から選択でき、好ましい範囲としては、以下段階的に、20000~200000、30000~150000、40000~120000、50000~110000、60000~100000、70000~90000、75000~85000であってもよいが、さらに好ましくは40000~70000、特に好ましくは43000~63000である。重量平均分子量Mwが低すぎると、耐熱性や成形性(生産性)が低下し易くなるおそれがある。
【0265】
なお、本明細書および請求の範囲において、ガラス転移温度Tg、屈折率nD、アッベ数、3倍複屈折、重量平均分子量Mwは、後述する実施例に記載の方法により測定できる。
【0266】
(成形体)
本発明の成形体は、少なくとも前記樹脂を含み、高屈折率、低い複屈折の絶対値、低いアッベ数などの優れた光学的特性および高い耐熱性を有しているため、光学フィルム(または光学シート)、光学レンズなどの光学部材として利用できる。このような成形体は、慣用の添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、充填剤または補強剤、染顔料などの着色剤、導電剤、難燃剤、可塑剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤、分散剤、流動調整剤、レベリング剤、消泡剤、表面改質剤、加水分解抑制剤、炭素材、安定剤、低応力化剤などを含んでいてもよい。安定剤としては、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤などが挙げられる。低応力化剤としては、例えば、シリコーンオイル、シリコーンゴム、各種プラスチック粉末、各種エンジニアリングプラスチック粉末などが挙げられる。これらの添加剤は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0267】
成形体は、例えば、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、トランスファー成形法、ブロー成形法、加圧成形法、キャスティング成形法などを利用して製造することができる。
【0268】
また、成形体の形状は、特に限定されず、例えば、線状、繊維状(またはファイバー状)、糸状などの一次元的構造、フィルム状、シート状、板状などの二次元的構造、凹または凸レンズ状、棒状、中空状(管状)などの三次元的構造などが挙げられる。
【0269】
特に、本発明の樹脂は、種々の光学的特性に優れているため、光学フィルムを形成するのに有用である。そのため、本発明には、前記樹脂で形成されたフィルム(光学フィルムまたは光学シート)も含まれる。
【0270】
このようなフィルムの平均厚みは、1~1000μm程度の範囲から用途に応じて選択でき、例えば1~200μm、好ましくは5~150μm、さらに好ましくは10~120μmである。
【0271】
このようなフィルム(光学フィルム)は、前記樹脂を、慣用の成膜方法、例えば、キャスティング法(溶剤キャスト法)、溶融押出法、カレンダー法などを用いて成膜(または成形)することにより製造できる。
【0272】
フィルムは、延伸フィルムであってもよい。本発明のフィルムは、延伸フィルムであっても、低い複屈折を維持できる。なお、このような延伸フィルムは、一軸延伸フィルムまたは二軸延伸フィルムのいずれであってもよい。
【0273】
延伸倍率は、一軸延伸または二軸延伸において各方向にそれぞれ、例えば1.1~10倍、好ましくは1.2~6倍であり、さらに好ましくは1.5~3倍である。なお、二軸延伸の場合、等延伸、例えば、縦横両方向に1.5~5倍程度の延伸であってもよく、偏延伸、例えば、縦方向に1.1~4倍程度、横方向に2~6倍程度の延伸であってもよい。また、一軸延伸の場合、縦延伸、例えば、縦方向に2.5~8倍程度の延伸であってもよく、横延伸、例えば、横方向に1.2~5倍程度の延伸であってもよい。
【0274】
延伸フィルムの平均厚みは、例えば1~150μm、好ましくは3~120μm、さらに好ましくは5~100μmである。
【0275】
なお、このような延伸フィルムは、成膜後のフィルム(または未延伸フィルム)に、延伸処理を施すことにより得ることができる。延伸方法は特に制限されず、一軸延伸の場合、湿式延伸法または乾式延伸法のいずれであってもよく、二軸延伸の場合、テンター法(フラット法)であってもチューブ法であってもよいが、延伸厚みの均一性に優れるテンター法が好ましい。
【0276】
また、成形体は他の基材と接合または接着されていてもよく、基材の種類や材質は特に制限されず、例えば、樹脂材料、セラミック材料、金属材料などで形成された一次元的形状、二次元的形状または三次元的形状の基材であってもよい。例えば、成形体がフィルム状である場合、フィルム状などの二次元的形状の基材と組み合わせて積層体または積層フィルムを形成してもよい。
【0277】
前記二次元的形状の基材として代表的には、ガラス基板などのセラミック基板、樹脂フィルムなどが挙げられ、通常、透明基材であることが多い。前記樹脂フィルムを形成する樹脂としては、例えば、鎖状オレフィン系樹脂、環状オレフィン系樹脂(またはシクロオレフィン系樹脂)などのポリオレフィン系樹脂;(メタ)アクリル系樹脂;スチレン系樹脂;ポリアルキレンアリレート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂などのポリエステル系樹脂;ポリアミド系樹脂などが挙げられ、なかでも、シクロオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂などで形成された樹脂フィルムと貼り合わせて使用してもよい。
【実施例】
【0278】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。以下に、評価項目および原料の詳細について示す。
【0279】
[評価方法]
(HPLC)
HPLC(高性能または高速液体クロマトグラフ)装置として(株)島津製作所製「LC-2010A HT」、カラムとして東ソー(株)製「ODS-80TM」を用いて、試料を、アセトニトリルに溶解し測定し、HPLC純度[面積%]を算出した。
【0280】
(FD-MS)
以下の測定装置及び条件に基づいて、質量分析(MS)を行った。
【0281】
使用装置:日本電子(株)製「JMS-T200GC」
イオン化法:FD(電界脱離)
エミッタ:カーボン
エミッタ電流:0~50mA(25mA/分)。
【0282】
(融点)
示差走査熱量計(エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製「EXSTAR DSC6200」)を用い、窒素雰囲気下、測定温度30~300℃、昇温速度10℃/分の条件で測定した。得られたDSCチャート(DSC曲線)から、融解による吸熱ピークのピークトップの温度を融点として求めた。
【0283】
(5%質量減少温度)
熱重量測定-示差熱分析装置(TG-DTA)(エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製「TG/DTA6200」)を使用して、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分の条件下で、試料の質量が5質量%減少した温度を測定した。
【0284】
(ポリマー組成)
試料を、内部標準物質としてテトラメチルシランを含む重クロロホルムに溶解し、核磁気共鳴装置(BRUKER社製「AVANCE III HD」)を用いて、1H-NMRスペクトルを測定した。得られたスペクトルについて、重合に用いた各々のモノマーに由来するピークの積分値を求め、ポリマー中に導入された各モノマー成分(構成単位)の割合を算出した。
【0285】
(ガラス転移温度Tg)
示差走査熱量計(エスアイアイナノテクノロジー(株)製「EXSTAR6000 DSC6220 ASD-2」)を用いて、窒素ガス雰囲気下、10℃/分の昇温速度で測定した。
【0286】
(分子量)
試料をクロロホルムに溶解し、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(東ソー(株)製「HLC-8320GPC」)を用いて、ポリスチレン換算の重量平均分子量Mwを求めた。
【0287】
(屈折率nD)
実施例1~2で得られた2-DNFDP-mおよび1-DNFDP-m、ならびに比較例1で得られたFDP-mの屈折率は、屈折率計((株)アタゴ製、DR-M2(循環式恒温水槽60-C3))を用いて、温度25℃、波長589nm(D線)で測定した。なお、屈折率の算出は、試料をクロロホルムに溶解して、濃度7.67質量%、16.8質量%の溶液を調製し、得られた溶液の屈折率を測定することで作成した検量線(近似直線)において、濃度を100質量%に外挿して求めた。
【0288】
樹脂試料の屈折率は、次のようにして測定した。試料を200~240℃で熱プレスすることによって、厚みが200~300μmのフィルムを成形した。このフィルムを縦20~30mm×横10mmの短冊状に切り出し、試験片を得た。得られた試験片について、多波長アッベ屈折計((株)アタゴ製「DR-M4(循環式恒温水槽60-C3)」)を用いて、測定温度20℃で、接触液にジヨードメタンを使用して、589nm(D線)の屈折率nDを測定した。
【0289】
(アッベ数)
589nm(D線)の屈折率nDを測定した試験片を用いて、測定波長を486nm(F線)、656nm(C線)に変更する以外は屈折率nDと同様にして、屈折率nF、nCをそれぞれ測定した。得られた各波長における屈折率nF、nDおよびnCから、アッベ数を以下の式によって算出した。
【0290】
(アッベ数)=(nD-1)/(nF-nC)。
【0291】
(複屈折(3倍延伸))
試料を200~240℃で熱プレスすることによって、厚みが200~600μmのフィルムを成形した。このフィルムを横10mm×縦50mmの短冊状に切り出し、ガラス転移温度Tg+10℃の温度条件下、25mm/分で延伸倍率が3倍となるよう(縦50mmが150mmとなるよう)縦方向に一軸延伸して試験片を得た。得られた試験片を、位相差フィルム・光学材料検査装置(大塚電子(株)製「RETS-100」)を用いて、測定温度20℃、測定波長600nmの条件下、平行ニコル回転法にてリタデーションを測定し、その値を測定部位の厚みで除して複屈折(または3倍複屈折)を算出した。
【0292】
[樹脂原料]
(ジカルボン酸成分)
2-DNFDP-m:9,9-ビス(2-メトキシカルボニルエチル)-2,7-ジ(2-ナフチル)フルオレン、後述する実施例1(実施例1Aおよび1B)に従って合成したもの
1-DNFDP-m:9,9-ビス(2-メトキシカルボニルエチル)-2,7-ジ(1-ナフチル)フルオレン、後述する実施例2に従って合成したもの
FDP-m:9,9-ビス(2-メトキシカルボニルエチル)フルオレン[あるいは9,9-ビス(2-カルボキシエチル)フルオレンまたはフルオレン-9,9-ジプロピオン酸のジメチルエステル]、後述する比較例1に従って合成したもの
DMN:2,6-ビス(メトキシカルボニル)ナフタレン
DA:2,2’-ビフェニルジカルボン酸
AA-m:アジピン酸ジメチル
(カーボネート結合形成成分)
DPC:炭酸ジフェニル
(ジオール成分)
BNEF:9,9-ビス[6-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-ナフチル]フルオレン、特開2018-59074号公報記載の合成例1に準じて合成したもの
BINOL―2EO:2,2’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-1,1’-ビナフチル、特開2018-59074号公報記載の合成例2に準じて合成したもの
1,5-PDO:1,5-ペンタンジオール
EG:エチレングリコール。
【0293】
[実施例1A]2-DNFDP-mの調製
特開2005-89422号公報記載の実施例1において、アクリル酸t-ブチルに代えて、アクリル酸メチル[37.9g(0.44mol)]を用い、フルオレンに代えて2,7-ジブロモ-9H-フルオレン[54.7g(0.17mol)]を用いること以外は同様にして、9,9-ビス(2-メトキシカルボニルエチル)-2,7-ジブロモフルオレン(DBrFDP-m)を合成した。
【0294】
反応器内にDBrFDP-m 192.3g(0.39mol)、2-ナフチルボロン酸200g(1.2mol)、ジメトキシエタン4.3L、および2M炭酸ナトリウム水溶液1Lを仕込み、窒素気流下、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)[またはPd(PPh3)4]22.4g(19.4mmol)添加し、内温71~78℃にて5時間加熱還流して反応させた。室温まで冷却後、トルエン2.0Lおよびイオン交換水500mLを加え、5回分液抽出して洗浄した。有機層は濃橙色から褐色に変化した。不溶物をろ過、濃縮し、褐色の粗結晶305gを得た。得られた粗結晶を酢酸エチル1.5kgとイソプロピルアルコール(IPA)300gとの混合液にて加熱溶解させた後、氷水で10℃以下まで冷却し、1時間撹拌して、結晶を析出させた。析出した結晶をろ過後、減圧乾燥させ、灰褐色結晶130gを得た。得られた灰褐色結晶をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル担体、展開溶剤 クロロホルム:酢酸エチル(体積比)=4:1)で精製した後、メタノールで再結晶し、減圧乾燥させることにより、下記式で表される9,9-ビス(2-メトキシカルボニルエチル)-2,7-ジ(2-ナフチル)フルオレン(2-DNFDP-m)116g(白色結晶、収率54.9%、HPLC純度99.4面積%)を得た。1H-NMRおよびFD-MSの結果を以下に示す。
【0295】
【0296】
1H-NMR(CDCl3、300MHz):δ(ppm)1.7(t,4H),2.6(t,4H),3.4(s,6H),7.5(m,4H),7.7-8.0(m,14H),8.1(s,2H)
FD-MS:m/z 590(M+)。
【0297】
また、屈折率nDは1.845であり、融点は191℃、5%質量減少温度は390℃であった。
【0298】
[実施例1B]2-DNFDP-mの調製
特開2005-89422号公報記載の実施例1において、アクリル酸t-ブチルに代えて、アクリル酸メチル[31.0g(0.36mol)]を用い、フルオレンに代えて2,7-ジブロモ-9H-フルオレン[54.7g(0.17mol)]を用いること以外は同様にして、DBrFDP-mを合成した。
反応器内にDBrFDP-m 193.5g(0.39mol)、2-ナフチルボロン酸137.5g(0.80mol)、トルエン4.3L、および2M炭酸ナトリウム水溶液0.5Lを仕込み、窒素気流下、Pd(PPh3)4 0.22g(0.19mmol)添加し、内温83~90℃にて5時間加熱還流して反応させた。反応後、イオン交換水500mLを加え、5回分液抽出して洗浄した。排水後、有機層へ粉末活性炭(大阪ガスケミカル(株)製「特製白鷺」)を加えパラジウムの除去処理を行った後、ろ過により不溶物を除いた。有機層を濃縮しトルエン3.8Lを除去した後、イソプロピルアルコール(IPA)0.1Lを加え、氷水で10℃以下まで冷却し、1時間撹拌して、結晶を析出させた。析出した結晶をろ過後、減圧乾燥させ、白色結晶を得た。2-DNFDP-m 194.9g(白色結晶、収率84.7%、HPLC純度99.8面積%)を得た。1H-NMR、FD-MS、屈折率nD、融点、5%質量減少温度の結果は、いずれも実施例1Aの結果と同様であった。
【0299】
[実施例2]1-DNFDP-mの調製
実施例1Bと同様にしてDBrFDP-mを合成した。
反応器内にDBrFDP-m 176.6g(0.36mol)、1-ナフチルボロン酸134.7g(0.78mol)、ジメトキシエタン1.95L、および2M炭酸ナトリウム水溶液0.44Lを仕込み、窒素気流下、Pd(PPh3)4 6.2g(5.4mmol)添加し、内温70~77℃にて5時間加熱還流して反応させた。50℃まで冷却後、トルエン1.0Lおよびイオン交換水500mLを加え、5回分液抽出して洗浄した。不溶物をろ過、濃縮し、酢酸エチル0.18kgとイソプロピルアルコール(IPA)870gとの混合液にて加熱溶解させた後、3℃以下まで冷却し、1時間撹拌して、結晶を析出させた。析出した結晶をろ過後、減圧乾燥させ、淡黄色結晶199.6gを得た。得られた結晶をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル担体、展開溶剤 クロロホルム:酢酸エチル(体積比)=500:1)で精製した後、メタノールで再結晶し、減圧乾燥させることにより、下記式で表される9,9-ビス(2-メトキシカルボニルエチル)-2,7-ジ(1-ナフチル)フルオレン(1-DNFDP-m)176g(淡黄色結晶、収率84.3%、HPLC純度98.7面積%)を得た。1H-NMRの結果を以下に示す。
【0300】
【0301】
1H-NMR(CDCl3、300MHz):δ(ppm)1.8(t,4H),2.5(t,4H),3.5(s,6H),7.5-7.6(m,12H),7.9(m,8H)。
【0302】
また、屈折率nDは1.784であり、融点は142.2℃、5%質量減少温度は401℃であった。
【0303】
[比較例1]FDP-mの調製
特開2005-89422号公報記載の実施例1において、アクリル酸t-ブチルに代えて、アクリル酸メチル[37.9g(0.44モル)]を用いること以外は同様にして合成した。FDP-mの屈折率nDは1.559であり、融点は83℃、5%質量減少温度は240℃であった。
【0304】
実施例1(1A、1B)~2および比較例1の評価結果を表1に示す。
【0305】
【0306】
表1の結果から明らかなように、実施例で得られたDNFDP-mでは、比較例1のFDP-mに比べて、ナフチル基の導入により、5%質量減少温度が極めて高く、耐熱性(分解および/または揮発する温度)が大きく向上した。また、融点は2-DNFDP-mの方が高く、5%質量減少温度は1-DNFDP-mの方が高かった。
【0307】
[比較例2]
特開2014-218645号公報記載の実施例1に準じてポリエステル樹脂を調製した。
【0308】
[比較例3]
反応器に、ジカルボン酸成分としてFDP-m(23.70g(70mmol))、DA(16.97g(70mmol))、ジオール成分として、BNEF(64.10g(119mmol))、EG(18.68g(301mmol))、エステル交換反応および重縮合反応の触媒として、チタン(IV)テトラブトキシド(8.2mg(24μmol))、熱安定剤として、ジブチルリン酸(37.8mg(180μmol))を仕込み、窒素ガス雰囲気下、250℃まで徐々に加熱、撹拌し、エステル交換反応を行った。エステル交換反応により生成するアルコール成分を除去した後、徐々に300℃、130Paまで昇温、減圧し、EGを除去しながら、所定の撹拌トルクに達するまで重縮合反応を行った。反応終了後、内容物を反応器から取り出し、ポリエステル樹脂を得た。
【0309】
[実施例3]
反応器に、ジカルボン酸成分として2-DNFDP-m(23.63g(40mmol))、ジオール成分として、EG(7.45g(120mmol))、エステル交換反応および重縮合反応の触媒として、チタン(IV)テトラブトキシド(1.4mg(4μmol))、熱安定剤として、ジブチルリン酸(8.4mg(40μmol))を仕込み、窒素ガス雰囲気下、245℃まで徐々に加熱、撹拌し、エステル交換反応を行った。エステル交換反応により生成するアルコール成分を除去した後、徐々に280℃、130Paまで昇温、減圧し、EGを除去しながら、所定の撹拌トルクに達するまで重縮合反応を行った。反応終了後、内容物を反応器から取り出し、ポリエステル樹脂を得た。
【0310】
[実施例4]
反応器に、ジカルボン酸成分として1-DNFDP-m(23.63g(40mmol))、ジオール成分として、EG(7.45g(120mmol))、エステル交換反応および重縮合反応の触媒として、チタン(IV)テトラブトキシド(1.4mg(4μmol))、熱安定剤として、ジブチルリン酸(8.4mg(40μmol))を仕込み、窒素ガス雰囲気下、245℃まで徐々に加熱、撹拌し、エステル交換反応を行った。エステル交換反応により生成するアルコール成分を除去した後、徐々に280℃、130Paまで昇温、減圧し、EGを除去しながら、所定の撹拌トルクに達するまで重縮合反応を行った。反応終了後、内容物を反応器から取り出し、ポリエステル樹脂を得た。
【0311】
[実施例5]
反応器に、ジカルボン酸成分として2-DNFDP-m(23.63g(40mmol))、DA(9.69g(40mmol))、ジオール成分として、BNEF(36.68g(68mmol))、EG(10.68g(172mmol))、エステル交換反応および重縮合反応の触媒として、チタン(IV)テトラブトキシド(8.2mg(24μmol))、熱安定剤として、ジブチルリン酸(16.8mg(80μmol))を仕込み、窒素ガス雰囲気下、260℃まで徐々に加熱、撹拌し、エステル交換反応を行った。エステル交換反応により生成するアルコール成分を除去した後、徐々に295℃、130Paまで昇温、減圧し、EGを除去しながら、所定の撹拌トルクに達するまで重縮合反応を行った。反応終了後、内容物を反応器から取り出し、ポリエステル樹脂を得た。
【0312】
[実施例6]
反応器に、ジカルボン酸成分として2-DNFDP-m(23.63g(40mmol))、ジオール成分として、BNEF(17.24g(32mmol))、EG(5.46g(88mmol))、エステル交換反応および重縮合反応の触媒として、チタン(IV)テトラブトキシド(1.4mg(4μmol))、熱安定剤として、ジブチルリン酸(8.4mg(40μmol))を仕込み、窒素ガス雰囲気下、250℃まで徐々に加熱、撹拌し、エステル交換反応を行った。エステル交換反応により生成するアルコール成分を除去した後、徐々に290℃、130Paまで昇温、減圧し、EGを除去しながら、所定の撹拌トルクに達するまで重縮合反応を行った。反応終了後、内容物を反応器から取り出し、ポリエステル樹脂を得た。
【0313】
[実施例7]
反応器に、ジカルボン酸成分として2-DNFDP-m(28.35g(48mmol))、DMN(2.91g(12mmol))、ジオール成分として、BNEF(14.54g(27mmol))、EG(13.22g(213mmol))、エステル交換反応および重縮合反応の触媒として、チタン(IV)テトラブトキシド(2.0mg(6μmol))、熱安定剤として、ジブチルリン酸(12.6mg(60μmol))を仕込み、窒素ガス雰囲気下、240℃まで徐々に加熱、撹拌し、エステル交換反応を行った。エステル交換反応により生成するアルコール成分を除去した後、徐々に285℃、130Paまで昇温、減圧し、EGを除去しながら、所定の撹拌トルクに達するまで重縮合反応を行った。反応終了後、内容物を反応器から取り出し、ポリエステル樹脂を得た。
【0314】
[実施例8]
反応器に、ジカルボン酸成分として2-DNFDP-m(41.35g(70mmol))、DMN(7.33g(30mmol))、ジオール成分として、BNEF(16.16g(30mmol))、EG(16.77g(270mmol))、エステル交換反応および重縮合反応の触媒として、チタン(IV)テトラブトキシド(4.3mg(12.5μmol))、熱安定剤として、ジブチルリン酸(26.3mg(125μmol))を仕込み、窒素ガス雰囲気下、240℃まで徐々に加熱、撹拌し、エステル交換反応を行った。エステル交換反応により生成するアルコール成分を除去した後、徐々に290℃、130Paまで昇温、減圧し、EGを除去しながら、所定の撹拌トルクに達するまで重縮合反応を行った。反応終了後、内容物を反応器から取り出し、ポリエステル樹脂を得た。
【0315】
[実施例9]
反応器に、ジカルボン酸成分として2-DNFDP-m(16.54g(28mmol))、DMN(2.93g(12mmol))、ジオール成分として、BNEF(4.31g(8mmol))、EG(6.95g(112mmol))、エステル交換反応および重縮合反応の触媒として、チタン(IV)テトラブトキシド(1.7mg(5μmol))、熱安定剤として、ジブチルリン酸(10.5mg(50μmol))を仕込み、窒素ガス雰囲気下、250℃まで徐々に加熱、撹拌し、エステル交換反応を行った。エステル交換反応により生成するアルコール成分を除去した後、徐々に290℃、130Paまで昇温、減圧し、EGを除去しながら、所定の撹拌トルクに達するまで重縮合反応を行った。反応終了後、内容物を反応器から取り出し、ポリエステル樹脂を得た。
【0316】
[実施例10]
反応器に、ジカルボン酸成分として1-DNFDP-m(16.54g(28mmol))、DMN(2.93g(12mmol))、ジオール成分として、BNEF(4.31g(8mmol))、EG(6.21g(100mmol))、エステル交換反応および重縮合反応の触媒として、チタン(IV)テトラブトキシド(1.7mg(5μmol))熱安定剤として、ジブチルリン酸(10.5mg(50μmol))を仕込み、窒素ガス雰囲気下、240℃まで徐々に加熱、撹拌し、エステル交換反応を行った。エステル交換反応により生成するアルコール成分を除去した後、徐々に280℃、130Paまで昇温、減圧し、EGを除去しながら、所定の撹拌トルクに達するまで重縮合反応を行った。反応終了後、内容物を反応器から取り出し、ポリエステル樹脂を得た。
【0317】
[実施例11]
反応器に、ジカルボン酸成分として2-DNFDP-m(32.13g(54.4mmol))、DMN(6.25g(25.6mmol))、ジオール成分として、BNEF(8.62g(16mmol))、EG(13.91g(224mmol))、エステル交換反応および重縮合反応の触媒として、チタン(IV)テトラブトキシド(2.7mg(8μmol))、熱安定剤として、ジブチルリン酸(21.0mg(100μmol))を仕込み、窒素ガス雰囲気下、240℃まで徐々に加熱、撹拌し、エステル交換反応を行った。エステル交換反応により生成するアルコール成分を除去した後、徐々に290℃、130Paまで昇温、減圧し、EGを除去しながら、所定の撹拌トルクに達するまで重縮合反応を行った。反応終了後、内容物を反応器から取り出し、ポリエステル樹脂を得た。
【0318】
[実施例12]
反応器に、ジカルボン酸成分として2-DNFDP-m(35.44g(60mmol))、DMN(9.77g(40mmol))、ジオール成分として、BNEF(10.77g(20mmol))、EG(17.38g(280mmol))、エステル交換反応および重縮合反応の触媒として、チタン(IV)テトラブトキシド(4.3mg(12.5μmol))、熱安定剤として、ジブチルリン酸(26.3mg(125μmol))を仕込み、窒素ガス雰囲気下、240℃まで徐々に加熱、撹拌し、エステル交換反応を行った。エステル交換反応により生成するアルコール成分を除去した後、徐々に290℃、130Paまで昇温、減圧し、EGを除去しながら、所定の撹拌トルクに達するまで重縮合反応を行った。反応終了後、内容物を反応器から取り出し、ポリエステル樹脂を得た。
【0319】
[実施例13]
反応器に、ジカルボン酸成分として2-DNFDP-m(14.77g(25mmol))、DMN(6.11g(25mmol))、ジオール成分として、BNEF(5.38g(10mmol))、EG(8.70g(140mmol))、エステル交換反応および重縮合反応の触媒として、チタン(IV)テトラブトキシド(1.7mg(5μmol))、熱安定剤として、ジブチルリン酸(10.5mg(50μmol))を仕込み、窒素ガス雰囲気下、250℃まで徐々に加熱、撹拌し、エステル交換反応を行った。エステル交換反応により生成するアルコール成分を除去した後、徐々に290℃、130Paまで昇温、減圧し、EGを除去しながら、所定の撹拌トルクに達するまで重縮合反応を行った。反応終了後、内容物を反応器から取り出し、ポリエステル樹脂を得た。
【0320】
[実施例14]
反応器に、ジカルボン酸成分として2-DNFDP-m(33.09g(56mmol))、DMN(5.86g(24mmol))、ジオール成分として、BNEF(4.31g(8mmol))、EG(14.4g(232mmol))、エステル交換反応および重縮合反応の触媒として、チタン(IV)テトラブトキシド(2.6mg(7.5μmol))、熱安定剤として、ジブチルリン酸(21.0mg(100μmol))を仕込み、窒素ガス雰囲気下、240℃まで徐々に加熱、撹拌し、エステル交換反応を行った。エステル交換反応により生成するアルコール成分を除去した後、徐々に290℃、130Paまで昇温、減圧し、EGを除去しながら、所定の撹拌トルクに達するまで重縮合反応を行った。反応終了後、内容物を反応器から取り出し、ポリエステル樹脂を得た。
【0321】
[実施例15]
反応器に、ジカルボン酸成分として2-DNFDP-m(11.53g(19.5mmol))、DMN(2.56g(10.5mmol))、ジオール成分として、BINOL-2EO(5.62g(15mmol))、EG(4.67g(75mmol))、エステル交換反応および重縮合反応の触媒として、チタン(IV)テトラブトキシド(1.3mg(3.75μmol))、熱安定剤として、ジブチルリン酸(3.2mg(15μmol))を仕込み、窒素ガス雰囲気下、250℃まで徐々に加熱、撹拌し、エステル交換反応を行った。エステル交換反応により生成するアルコール成分を除去した後、徐々に290℃、130Paまで昇温、減圧し、EGを除去しながら、所定の撹拌トルクに達するまで重縮合反応を行った。反応終了後、内容物を反応器から取り出し、ポリエステル樹脂を得た。
【0322】
[実施例16]
反応器に、ジカルボン酸成分として2-DNFDP-m(28.35g(48mmol))、AA-m(5.57g(32mmol))、ジオール成分として、BNEF(32.32g(60mmol))、EG(11.19g(180mmol))、エステル交換反応および重縮合反応の触媒として、チタン(IV)テトラブトキシド(2.7mg(8μmol))、熱安定剤として、ジブチルリン酸(16.8mg(80μmol))を仕込み、窒素ガス雰囲気下、240℃まで徐々に加熱、撹拌し、エステル交換反応を行った。エステル交換反応により生成するアルコール成分を除去した後、徐々に285℃、130Paまで昇温、減圧し、EGを除去しながら、所定の撹拌トルクに達するまで重縮合反応を行った。反応終了後、内容物を反応器から取り出し、ポリエステル樹脂を得た。
【0323】
[実施例17]
反応器に、ジカルボン酸成分として2-DNFDP-m(25.05g(42.4mmol))、DMN(1.37g(5.6mmol))、AA-m(5.57g(32mmol))、ジオール成分として、BNEF(32.32g(60mmol))、EG(11.18g(180mmol))、エステル交換反応および重縮合反応の触媒として、チタン(IV)テトラブトキシド(2.7mg(8μmol))、熱安定剤として、ジブチルリン酸(16.8mg(80μmol))を仕込み、窒素ガス雰囲気下、240℃まで徐々に加熱、撹拌し、エステル交換反応を行った。エステル交換反応により生成するアルコール成分を除去した後、徐々に290℃、130Paまで昇温、減圧し、EGを除去しながら、所定の撹拌トルクに達するまで重縮合反応を行った。反応終了後、内容物を反応器から取り出し、ポリエステル樹脂を得た。
【0324】
[実施例18]
反応器に、ジカルボン酸成分として2-DNFDP-m(23.63g(40mmol))、DMN(1.95g(8mmol))、AA-m(5.57g(32mmol))、ジオール成分として、BNEF(32.32g(60mmol))、EG(11.18g(180mmol))、エステル交換反応および重縮合反応の触媒として、チタン(IV)テトラブトキシド(2.7mg(8μmol))、熱安定剤として、ジブチルリン酸(16.8mg(80μmol))を仕込み、窒素ガス雰囲気下、240℃まで徐々に加熱、撹拌し、エステル交換反応を行った。エステル交換反応により生成するアルコール成分を除去した後、徐々に290℃、130Paまで昇温、減圧し、EGを除去しながら、所定の撹拌トルクに達するまで重縮合反応を行った。反応終了後、内容物を反応器から取り出し、ポリエステル樹脂を得た。
【0325】
[実施例19]
反応器に、ジカルボン酸成分として2-DNFDP-m(23.63g(40mmol))、FDP-m(13.54g(40mmol))、ジオール成分として、BNEF(32.32g(60mmol))、EG(11.18g(180mmol))、エステル交換反応および重縮合反応の触媒として、チタン(IV)テトラブトキシド(2.7mg(8μmol))、熱安定剤として、ジブチルリン酸(16.8mg(80μmol))を仕込み、窒素ガス雰囲気下、240℃まで徐々に加熱、撹拌し、エステル交換反応を行った。エステル交換反応により生成するアルコール成分を除去した後、徐々に290℃、130Paまで昇温、減圧し、EGを除去しながら、所定の撹拌トルクに達するまで重縮合反応を行った。反応終了後、内容物を反応器から取り出し、ポリエステル樹脂を得た。
【0326】
[実施例20]
反応器に、ジカルボン酸成分として2-DNFDP-m(16.54g(28mmol))、DMN(1.95g(8mmol))、FDP-m(14.89g(44mmol))、ジオール成分として、BNEF(32.32g(60mmol))、EG(11.18g(180mmol))、エステル交換反応および重縮合反応の触媒として、チタン(IV)テトラブトキシド(2.7mg(8μmol))、熱安定剤として、ジブチルリン酸(16.8mg(80μmol))を仕込み、窒素ガス雰囲気下、240℃まで徐々に加熱、撹拌し、エステル交換反応を行った。エステル交換反応により生成するアルコール成分を除去した後、徐々に290℃、130Paまで昇温、減圧し、EGを除去しながら、所定の撹拌トルクに達するまで重縮合反応を行った。反応終了後、内容物を反応器から取り出し、ポリエステル樹脂を得た。
【0327】
[実施例21]
反応器に、ジカルボン酸成分として2-DNFDP-m(23.63g(40mmol))、カーボネート結合形成成分としてDPC(9.08g(42.4mmol))、ジオール成分として、BNEF(32.32g(60mmol))、1,5-PDO(2.08g(20mmol))、エステル交換反応および重縮合反応の触媒として、チタン(IV)テトラブトキシド(2.7mg(8μmol))を仕込み、窒素ガス雰囲気下、210℃で1時間、加熱、撹拌した後、240℃まで徐々に加熱、撹拌し、エステル交換反応を行った。エステル交換反応により生成するアルコール成分およびフェノール成分を除去した後、徐々に290℃、130Paまで昇温、減圧し、所定の撹拌トルクに達するまで重縮合反応を行った。反応終了後、内容物を反応器から取り出し、ポリエステルカーボネート樹脂を得た。
【0328】
実施例および比較例の仕込み比を表2に示し、得られた各ポリエステル樹脂の評価結果、すなわち、ポリマー組成比(調製に用いた各重合成分に由来する構成単位の割合)および各物性値を表3に示す。
【0329】
【0330】
【0331】
なお、実施例15では、EG以外に揮発性の高いモノマー成分がなく、重合時に副生成物の昇華も確認されなかったため、仕込み比や反応方法などの重合条件から、ポリマー組成比は、2-DNFDP-m/DMN/BINOL-2EO/EG(モル比)=65/35/50/50程度であると推測される。
【0332】
表3から明らかなように、実施例で得られたポリエステル樹脂はいずれも著しく高い屈折率nDおよび低いアッベ数を示した。また、ガラス転移温度Tgも高く耐熱性にも優れるとともに、高い成形性も有していた。
【0333】
実施例3と6とを比較すると、実施例3のジオール単位は芳香族環(またはベンゼン環)骨格を全く有しないEG単位のみであるにもかかわらず、多数の芳香族環を有するBNEF単位を含む実施例6よりも屈折率が若干向上した。2-DNFDP-m単位にEG単位を組み合わせると、意外にも効率よく屈折率を向上できることが分かった。
【0334】
また、実施例3と、2-DNFDP-mに代えてFDP-mを用いた比較例2とを比べると、樹脂全体に対して50モル%のFDP-m単位を2-DNFDP-m単位に置き換えることにより、nDは0.124程度、Tgは66℃程度も向上できることが分かる。特に、光学材料の分野において、nDは0.01程度の向上であっても優位性が認められることから、屈折率の向上が顕著なものであると思われる。
【0335】
一方、特許文献2の実施例16と17とを比較すると、実施例17のBPEF(9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン)50モル%に代えて、BPDN2(BPEFの2,7-位に2-ナフチル基を有する化合物)を用いた実施例16とすることにより、nDは0.036、Tgは14℃向上している。
【0336】
本願実施例と特許文献2の実施例とを比較すると、樹脂全体に対して50モル%のフルオレン骨格を有する構成単位を、2,7-ジ(2-ナフチル)フルオレン骨格を有する構成単位に置き換えることにより、本願実施例では特許文献2に対して、nDが約3.4倍、Tgが約4.7倍も大きく向上している。すなわち、フルオレン骨格の2,7-位に2-ナフチル基を置換する点では同じであっても、本願実施例では、樹脂全体に対する単位導入量(単位モル%)当たりのnDおよびTgの向上度合いが極めて大きく、特許文献2から予想される値を大きく上回っていた。特に、本願実施例では、フルオレン骨格の9,9-位に屈折率や耐熱性を向上し易い芳香環を有していない構成単位であるにもかかわらず、このような顕著な向上度合いを示したのは予想外な結果であった。
【0337】
また、実施例3と比較例2との比較から、2-DNFDP-mはFDP-mに比べて、負の複屈折性(複屈折をマイナス(-)側に偏らせる性質)が大きく、且つ、アッベ数を大きく下げる効果が確認できた。
【0338】
なお、実施例3と4とを比較すると、2-DNFDP-mを用いた実施例3では1-DNFDP-mを用いた実施例4に比べて、Tgがやや低下したものの、高屈折率、低アッベ数であり、負の複屈折性も大きく、光学的特性が顕著に優れていた。
【0339】
これらの実施例のうち、高屈折率の点では実施例3が優れており、高屈折率、高耐熱性および低複屈折をバランスよく充足する点では実施例6が優れていた。特に、高い屈折率および低い複屈折と、高い耐熱性および高い成形性(または生産性)とは、それぞれ互いに相反する特性であるにもかかわらず、これら全ての特性をバランスよく充足できる点から、実施例7~9、11、14および16~18が好ましく、なかでも、これらの特性をバランスよく備えつつ、特に低い複屈折を示し、光学レンズなどの用途に特に有用な観点では、実施例9、11および17~18がより好ましく、高屈折率な点で実施例11が、高耐熱性な点で実施例17がさらに好ましく、これらのうち、実施例11が特に好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0340】
本発明のジカルボン酸またはその誘導体は、高い屈折率および耐熱性を示すため、樹脂原料や、屈折率向上剤、耐熱性向上剤などの添加剤(または樹脂添加剤)などとして有効に利用できる。
【0341】
また、本発明の樹脂は、高い屈折率、低いアッベ数、低い複屈折などの優れた光学的特性や、高い耐熱性を示すため、様々な用途、例えば、コーティング剤またはコーティング膜、具体的には、塗料、インキ、電子機器や液晶部材などの保護膜など;接着剤、粘着剤;樹脂充填剤;電気・電子材料または電気・電子部品(電気・電子機器)、具体的には、帯電防止剤、キャリア輸送剤、発光体、有機感光体、感熱記録材料、フォトクロミック材料、ホログラム記録材料、帯電トレイ、導電シート、光ディスク、インクジェットプリンタ、デジタルペーパ、カラーフィルタ、有機EL素子、有機半導体レーザ、色素増感型太陽電池、センサ、EMIシールドフィルムなど;機械材料または機械部品(機器)、具体的には、自動車用材料または部品、航空・宇宙関連材料または部品、摺動部材などに利用してもよい。
【0342】
本発明の樹脂は、優れた光学的特性と高い耐熱性とをバランスよく充足しているため、光学部材として特に有効に利用できる。
【0343】
代表的な光学部材としては、液晶用フィルム、有機EL用フィルムなどの光学フィルム(光学シート);メガネ用レンズ、カメラ用レンズなどの光学レンズ;プリズム、ホログラム、光ファイバーなどが挙げられる。
【0344】
光学フィルムとしては、例えば、偏光フィルム、偏光フィルムを構成する偏光素子と偏光板保護フィルム、位相差フィルム、配向膜(配向フィルム)、視野角拡大(補償)フィルム、拡散板(フィルム)、プリズムシート、導光板、輝度向上フィルム、近赤外吸収フィルム、反射フィルム、反射防止(AR)フィルム、反射低減(LR)フィルム、アンチグレア(AG)フィルム、透明導電(ITO)フィルム、異方導電性フィルム(ACF)、電磁波遮蔽(EMI)フィルム、電極基板用フィルム、カラーフィルタ基板用フィルム、バリアフィルム、カラーフィルタ層、ブラックマトリクス層、光学フィルム同士の接着層もしくは離型層などが挙げられる。これらの光学フィルムは、液晶ディスプレイ(LCD)、有機ELディスプレイ(OLED)、プラズマディスプレイ(PDP)、フィールド・エミッション・ディスプレイ(FED)、電子ペーパなどのディスプレイ用の光学フィルムとして有効に利用でき、具体的な機器または装置としては、テレビジョン;デスクトップ型PC、ノート型PCまたはタブレット型PCなどのパーソナル・コンピュータ(PC);スマートフォン、携帯電話;カー・ナビゲーションシステム;タッチパネルなどフラットパネルディスプレイ(FPD)を備えた機器または装置などが挙げられる。
【0345】
光学レンズとしては、例えば、メガネ用レンズ、コンタクトレンズ、カメラ用レンズ、VTRズームレンズ、ピックアップレンズ、フレネルレンズ、太陽集光レンズ、対物レンズ、ロッドレンズアレイなどが挙げられ、なかでもカメラ用レンズなどの低アッベ数が要求されるレンズに好適に利用できる。このような光学レンズが搭載される機器または装置として、代表的には、スマートフォン、携帯電話、デジタルカメラなどのカメラ機能を有する小型機器またはモバイル機器;ドライブレコーダー、バックカメラ(リアカメラ)などの車載用カメラなどが挙げられる。特に、本発明の樹脂は、高い耐熱性を有するため、車載用光学レンズなどの高温環境下における使用が想定される用途であっても好適に利用できる。