IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ジェンザイム・コーポレーションの特許一覧

<>
  • 特許-二次元LC-MS/MSシステム 図1
  • 特許-二次元LC-MS/MSシステム 図2
  • 特許-二次元LC-MS/MSシステム 図3
  • 特許-二次元LC-MS/MSシステム 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】二次元LC-MS/MSシステム
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/46 20060101AFI20241008BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20241008BHJP
   G01N 30/38 20060101ALI20241008BHJP
   G01N 30/26 20060101ALI20241008BHJP
   G01N 30/72 20060101ALI20241008BHJP
   B01J 20/287 20060101ALI20241008BHJP
   B01J 20/288 20060101ALI20241008BHJP
   G01N 30/34 20060101ALI20241008BHJP
   G01N 30/88 20060101ALI20241008BHJP
   H01J 49/00 20060101ALI20241008BHJP
   H01J 49/26 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
G01N30/46 A
G01N27/62 X
G01N27/62 V
G01N30/38
G01N30/26 M
G01N30/72 C
B01J20/287
B01J20/288
G01N30/26 A
G01N30/34 E
G01N30/88 E
H01J49/00 400
H01J49/26
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2021567966
(86)(22)【出願日】2020-05-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-29
(86)【国際出願番号】 US2020035231
(87)【国際公開番号】W WO2020243502
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2023-05-24
(31)【優先権主張番号】62/855,636
(32)【優先日】2019-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500034653
【氏名又は名称】ジェンザイム・コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】ウェイ-リエン・チュアン
(72)【発明者】
【氏名】フェリペ・ガソス・ロペス
(72)【発明者】
【氏名】ホシュア・パチェコ
(72)【発明者】
【氏名】ジェラード・サンデリンク
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0306797(US,A1)
【文献】特開2003-028849(JP,A)
【文献】特開2017-173281(JP,A)
【文献】米国特許第10018603(US,B1)
【文献】特表2014-514541(JP,A)
【文献】特開2007-205954(JP,A)
【文献】特表2016-526050(JP,A)
【文献】特表2016-522406(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00-30/96
B01J 20/287-20/288
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソースサンプル中の1つまたはそれ以上の分析物を分析する方法であって、以下の工程:
(a)ソースサンプルから1つまたはそれ以上の分析物を抽出溶媒で抽出して抽出サンプルを得る工程と、
(b)抽出サンプルおよび溶媒系を、液体クロマトグラフィー(LC)ポンプシステムを備えた第1の液体クロマトグラフィー(LC)カラムに適用する工程であって、第1のLCカラムは、分流バルブを備えたチューブを介して第2のLCカラムに直接接続されている工程と、
(c)第1のLCカラムからの溶媒流出液が廃液に向かうように、第1の所定の時間に分流バルブを第1の位置に設定する工程と、
(d)第1のLCカラムからの溶媒流出液がさらなる分離のために第2のLCカラムに入るように、第2の所定の時間に分流バルブを第2の位置に設定する工程と、
(e)第2のLCカラムから得たクロマトグラフィーにより分離されたサンプルを分析する工程と
を含み、
前記方法は、両方のLCカラムに対して1つのみのLCポンプシステムを利用する、
前記方法。
【請求項2】
工程()は、質量分析(MS)を用いて、第2のLCカラムから得たクロマトグラフィーにより分離されたサンプルを分析することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
MSがタンデムMSである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
LCが高速液体クロマトグラフィーまたは超高速液体クロマトグラフィーである、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
第1のLCカラムが順相カラムであり、第2のLCカラムが逆相カラムであるか、またはその逆である、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
溶媒系が、メタノール、アセトニトリル、および水の1つまたはそれ以上を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
溶媒系が、酢酸アンモニウムおよび/またはギ酸をさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
溶媒系の成分の相対比が1回のサンプルラン中に変化する、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
ソースサンプルが生体サンプルである、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
生体サンプルが、組織サンプル、血清、血漿、血液、乾燥血液スポット、尿、唾液、痰、涙、脳脊髄液、精液、または便である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
1つまたはそれ以上の分析物が、タンパク質、脂質、炭水化物、ヌクレオチド、代謝物、ビタミン、ホルモン、またはステロイドである、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
1つまたはそれ以上の分析物が、セラミドおよびlyso-スフィンゴミエリンであり、ソースサンプルが酸性スフィンゴミエリナーゼ欠損症の患者の血液に由来する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
セラミドおよびlyso-スフィンゴミエリンが、80%メタノール(v/v)、15~20%アセトニトリル(v/v)、0~5%水(v/v)、10mM酢酸アンモニウム、および1%ギ酸を含む抽出溶媒を用いて血液サンプルから抽出される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
第1のLCカラムがシリカカラムであり、第2のLCカラムがC18カラムである、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
溶媒系が0.5%トリフルオロ酢酸を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
第1および第2のLCカラムに適用される溶媒系が、0~85%メタノール(v/v)、0~15%アセトニトリル(v/v)、および0~100%水(v/v)を含む、請求項14または15に記載の方法。
【請求項17】
溶媒系が、水および0.5%トリフルオロ酢酸を含む第1の溶媒と、85%メタノール(v/v)、15%アセトニトリル(v/v)、および0.5%トリフルオロ酢酸を含む第2の溶媒とを混合することによって得られる、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
第1の溶媒と第2の溶媒との比率が、70:30、85:15、または99:1である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
工程(c)および(d)を繰り返す工程を含む、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、2019年5月31日に出願された米国仮出願62/855,636からの優先権を主張するものであり、その開示内容は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
液体クロマトグラフィータンデム質量分析法(LC-MS/MS)は、多種多様な分析物を検出および測定するための強力な技術として現れた。それは、生体マトリックスから分析物を正確かつ精密に定量する方法として急速に選択されるようになっている。生体マトリックスのLC-MS/MS分析における大きな障害は、リン脂質、タンパク質、またはヌクレオチドなどの主要なマトリックス成分の存在であり、これらのマトリックス中に存在する目的の分析物の同定および定量を妨害する(例えば、非特許文献1および非特許文献2を参照のこと)。バイオ分析法の開発における基本的な工程として、サンプル分析の前に主要なマトリックス汚染物質を除去するためにサンプルの洗浄が必要となる。サンプル洗浄に用いられる方法は、ハンズオンでのサンプル調製手順を指す「オフライン」、または液体クロマトグラフィー(LC)システムで行うサンプル調製手順を指す「オンライン」のいずれかとして大別される(非特許文献3、非特許文献4および非特許文献5)。
【0003】
最も一般的なオフラインサンプル精製方法の1つは固相抽出(SPE)であり、サンプル調製カートリッジを用いてマトリックス成分を除去し、目的の分析物を濃縮することに焦点を当てる(非特許文献6、前出の非特許文献3、非特許文献4および非特許文献5も参照のこと)。目的の分析物を含むSPE抽出物を乾燥させ、別の溶媒系で再構成するが、この溶媒系は一次元(1D)LC-MS/MS分析に適合する必要がある。サンプルを別の溶媒系で乾燥および再構成するプロセスを「溶媒交換」または「バッファー交換」と呼ぶ。このプロセスは、SPEに使用する溶媒系と一次元LC-MS/MS分析に使用する溶媒系との互換性がないために必要となる。溶媒交換プロセスは、サンプルの損失および再現性の低下につながる。さらに、SPEカートリッジは高価であり、プロセスは時間がかかる。サンプルの精製のためのSPE工程をなくすために、オンライン二次元(2D)LC-MS/MSが開発された。2D LC-MS/MSは、2つのカラムシステムを使用する。第1のカラムは、しばしば親水性樹脂(順相クロマトグラフィー)で作られ、第2のカラムに目的のサンプルを導入する前に、主要なマトリックス汚染物質を除去するために使用される。第2のカラムは疎水性樹脂(逆相クロマトグラフィー)で作ることができ、質量分析計に導入する前に、目的の分析物を他の干渉分子からさらに分離する(非特許文献7、非特許文献8、非特許文献9および非特許文献10)。その結果、従来のオンライン2D LC-MS/MS分析方法では、2つの異なる溶媒システムが用いられる。これには、各カラムに専用のポンプシステム、ならびに分析物の移送および溶媒の交換を可能にするために複数ポートの分流バルブが必要となる。これらの要件により、従来の2D LC-MS/MS方法は非常に複雑で高価であり、2D LC-MS/MSの潜在的な利点を上回っている。ほとんどの研究所では、このタイプのアッセイを実施する装備がない。
【0004】
このように、精密であっても簡便な改良された分析方法が必要とされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Carmical and Brown,Biomed.Chromatogr.A(2016)30:710-20
【文献】Massood et al.,Lipids(2012)47:209-26
【文献】Afonso-Olivares et al.(2017)1487:54-63
【文献】Mokh et al., Sci Total Environ.(2017)609:830-41
【文献】Dong et al.,Bioanalysis(2015)7:2227-33
【文献】Vanol et al.,Biomed.Chromatogr.(2017)32:1-10
【文献】Iguiniz and Heinisch,J Pharmaceut Biomed Anal.(2017)145:482-503
【文献】Ling et al.,Biomed.Chromatogr.(2014)28:1284-93
【文献】Pirok et al.,Anal Chem.(2019)91:240-63
【文献】Iguiniz et al.,Talanta.(2019)195:272-80
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、ソースサンプル中の1つまたはそれ以上の分析物を分析するための新規な2D LC分析方法を提供する。本方法は、(a)ソースサンプルから1つまたはそれ以上の分析物を抽出溶媒で抽出して抽出サンプルを得る工程と、(b)抽出サンプルおよび溶媒系を、LCシステムを備えた第1の液体クロマトグラフィー(LC)カラムに適用する工程であって、第1のLCカラムは、分流バルブを備えたチューブを介して第2のLCカラムに直接接続される工程と、(c)第1のLCカラムからの溶媒の流出液が廃液に向けられるように、第1の所定の時間に分流バルブを第1の位置に設定する工程と、(d)第1のLCカラムからの溶媒の流出液がさらなる分離のために第2のLCカラムに入るように、第2の所定の時間に分流バルブを第2の位置に設定する工程と、(e)必要に応じて工程(c)および(d)を繰り返す工程と、(f)第2のLCカラムから得られたクロマトグラフ上で分離されたサンプルを分析する工程とを含む。LCシステムとは、溶媒系をLCカラムに投入するためのポンプシステムを備えたLC機器を指す。「直接」とは、第2のカラム専用の第2のLCシステムがないことを意味し、したがって、本方法は、両次元に対して1つのLCシステムのみを利用する。いくつかの実施形態では、工程(f)は、タンデムMSなどの質量分析(MS)を用いて、第2のLCカラムから得られたクロマトグラフィーにより分離されたサンプルを分析することを含む。
【0007】
いくつかの実施形態では、LCは、高速液体クロマトグラフィーまたは超高速液体クロマトグラフィーである。いくつかの実施形態では、第1のLCカラムは順相カラムであり、第2のLCカラムは逆相カラムであり、またはその逆もある。
【0008】
いくつかの実施形態では、2D LCの溶媒系は、メタノール、アセトニトリル、および水のうちの1つまたはそれ以上を含む。さらなる実施形態では、溶媒系は、酢酸アンモニウムおよび/またはギ酸をさらに含む。
【0009】
「溶媒系」とは、標的分析物を分析するためのLCラン中に使用される溶媒混合物または組み合わせを意味する。ラン中、溶媒組成は(例えば、溶媒混合物の成分の相対比を変化させることによって)変化しうるが、その変化は、サンプルが第1のカラムから第2のカラムに移動する際に、サンプルに対して溶媒交換を行う必要性にはつながらない。いくつかの実施形態では、溶媒系の成分の相対比は、サンプルラン中に変化する。
【0010】
ソースサンプルは、組織サンプル、血清、血漿、血液、乾燥血液スポット、尿、唾液、痰、涙、脳脊髄液、精液、または便などの生体サンプルであってもよい。いくつかの実施形態では、1つまたはそれ以上の分析物は、タンパク質、脂質、炭水化物、ヌクレオチド、代謝物、ビタミン、ホルモン、またはステロイドである。
【0011】
特定の実施形態では、1つまたはそれ以上の分析物は、セラミドおよびlyso-スフィンゴミエリンであり、ソースサンプルは、酸性スフィンゴミエリナーゼ欠損症の患者の血液に由来する。さらなる実施形態では、セラミドおよびlyso-スフィンゴミエリンは、80%メタノール(v/v)、15~20%アセトニトリル(v/v)、0~5%水(v/v)、10mM酢酸アンモニウム、および1%ギ酸を含む抽出溶媒を用いて、血液サンプルから抽出される。特定の実施形態では、第1のLCカラムはシリカカラムであり、第2のLCカラムはC18カラム(すなわち、カラムの樹脂は炭素数18のポリマーで作られている)である。さらなる実施形態では、溶媒系は、0.5%トリフルオロ酢酸を含む。
【0012】
いくつかの実施形態では、第1および第2のLCカラムに適用される溶媒系は、0~85%メタノール(v/v)、0~15%アセトニトリル(v/v)、および0~100%の水(v/v)を含む。さらなる実施形態では、溶媒系は、水および0.5%トリフルオロ酢酸を含む第1の溶媒と、85%メタノール(v/v)、15%アセトニトリル(v/v)および0.5%トリフルオロ酢酸を含む第2の溶媒とを混合することによって作られる。特定の実施形態では、第1の溶媒と第2の溶媒の比率は、70:30、85:15、または99:1である。
【0013】
本発明の他の特徴、目的、および利点は、以下の詳細な説明で明らかになる。しかしながら、詳細な説明は、本発明の実施形態および態様を示すもので、限定ではなく、例示のためのものであることを理解すべきである。本発明の範囲内での様々な変更および改変は、詳細な説明から当業者に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】従来のオンライン2D LC-MS/MSの構成を示す概略図である。
図2】オフライン1D LC-MS/MS、従来のオンライン2D LC-MS/MS、および本オンライン連続フロー2D LC-MS/MS(単一LCシステム)の構成を比較した図である。
図3】本発明の連続フロー2D LC-MS/MS方法論を示す模式図である。
図4】本発明の連続フロー2D LC-MS/MS方法論を用いたセラミドおよびlyso-スフィンゴミエリン(lyso-SPM)の分析を示す図である。この方法論では、セラミドおよびlyso-SPMは、汚染されたリン脂質から分離された。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本開示は、連続フロー二次元液体クロマトグラフィータンデム質量分析法(2D LC-MS/MS)により、ソースサンプル中の複数の分析物を同時に分析する新規な方法を提供する。本発明の2D LC-MS/MS方法では、2D LC-MS/MS分析の両次元の移動相と同様に抽出溶媒として単一の溶媒系が使用される。分析ランの2D LC部分の間は、第1のカラムからの溶媒の流れが廃液またはさらなる分離のために第2カラムのいずれかに流れるように、2つのカラムの間にある分流バルブを、時間を決めて様々な位置に切り替える。したがって、この方法では、2つまたはそれ以上の液体クロマトグラフィー(LC)カラムを使用することができるが、溶媒交換の必要が回避されるため、LCポンプシステム(すなわちLCシステム)は1つしか必要ない。さらに、本方法における溶媒の流れは連続的であり、溶媒交換の工程または第2のLCシステムによって中断されることがない。対照的に、従来の2D LC-MS/MSでは、2つの異なる溶媒システム、例えば、1つは極性、もう1つは非極性の2つの分離機構を使用している。その結果、2つのLCシステムが必要となる。
【0016】
本方法の1つの大きな利点は、第2のポンプシステムが排除され、その後の2D LC-MS/MSの構成が簡単になることである(例えば、より少ないポートを有する分流バルブを使用すること)。第2のポンプシステムが排除されたことで、装置のコストおよび方法の展開時間が大幅に削減される。この技術革新により、2D LC-MS/MS分析は、常用の1D LC-MS/MS分析が現在行われているあらゆる研究室で実施することができる。この技術革新は、分析研究室に柔軟性をもたらし、同じ装置を使用して1Dまたは2D LC-MS/MS分析のいずれかを選択することが可能になる。システムの単純化により、要員の訓練が迅速になり、アッセイの失敗の可能性が減り、サンプルの所要時間が短縮される。また、この方法は多重化にも適しており、サンプル調製および分析時間、ならびにサンプリングバイアスを大幅に低減し、再現性を向上させることができる。さらに、本明細書に記載された新規の2D-LC手法は、荷電エアロゾル検出器(CAD)、光散乱検出器、UV検出器など、質量分析計以外の検出器を用いた作業にも容易に適応させることができる。この柔軟性により、本分析法の適用性が大幅に高まる。
【0017】
これらの改良により、本分析法は、2D LC-MS/MS技術をバイオ医薬品研究、医療診断、および環境調査のための生化学分析分野で広く用いられるようになるであろう。
【0018】
サンプル調製
本方法は、生体または環境サンプルなどの任意のサンプルマトリックス中の1つまたはそれ以上の目的の分析物を分析する(例えば、検出および/または定量する)ために使用することができる。生体サンプルは、ヒト、植物、動物、または任意の生体器官、例えば、細胞および組織培養物、組織生検、全血、乾燥血液スポット、血漿、除タンパク血漿、血清、除タンパク血清、精液、痰、尿、便、汗、唾液、胆汁、涙、脳脊髄液、身体部位からのスワブ、皮膚、および毛髪などからのサンプルであってもよい。環境サンプルは、空気サンプル、土壌サンプル、水サンプル、食物サンプル、および任意の物質サンプルであってもよい。目的の分析物は、例えば、原薬などの小分子、ならびにポリペプチド、ペプチド、核酸、脂質または脂肪酸、炭水化物、ホルモン、ビタミン、ステロイド、および代謝物などの生体分子であってもよい。
【0019】
サンプルを2D LCシステムに適用する前に、汚染物質および干渉物質の大部分を除去するために、目的の分析物を、ろ過、沈殿、遠心分離、抽出、希釈、またはそれらの組み合わせによって濃縮および分離することができる。例えば、固相抽出(SPE)により、ソースサンプルから目的の成分を濃縮することができる。SPEでは、サンプル調製カートリッジを用いて目的の分析物を濃縮する。分析物を含むSPE抽出液を乾燥させ、2D LCシステムと適合する溶媒系中で再構成してもよい。本方法のいくつかの実施形態のように、SPE抽出溶媒が2D LCシステムと適合する場合、乾燥および再構成の工程は必要ない。
【0020】
目的の分析物は、液液抽出(LLE)によってソースサンプルから抽出することもできる。LLEは、2つの不混和性の液体または部分混和性の液体(通常、水などの極性溶媒および非極性有機溶媒中での相対的な溶解度に基づいて分析物を分離するために使用される。標的分析物をまず溶媒によって分配し、その後、抽出、濃縮、および希釈する。
【0021】
目的の分析物は、固体担持液液抽出(SLE)によってソースサンプルから抽出することもできる。SLEでは、サンプルの水溶液を珪藻土で構成された支持体上に装填する。支持体へのサンプル吸着後、メチルtert-ブチルエーテルなどの有機抽出溶媒で数回洗浄する。目的の分析物が有機相中に分離された後、乾燥により濃縮してから、50:50のメタノール:水のような2D LCシステムに適合した溶媒中で再構成する。
【0022】
目的の分析物がタンパク質である場合、タンパク質沈殿抽出(PPE)によってソースサンプルから濃縮することもある。タンパク質沈殿法は、脱塩、等電点沈殿、および有機溶媒抽出を含んでもよい。例として、ソースサンプルを、脱塩によって2D LC装填のために調製する。このタンパク質沈殿法は、硫酸アンモニウムなどの中性塩の濃度増大に応じて、タンパク質が溶液から「塩析」されることに基づく。別の例では、ソースサンプルを等電点沈殿によって調製する。この方法は、標的タンパク質よりも、汚染タンパク質を沈殿させるために使用してもよい。等電点(pI)とは、タンパク質の正味の一次電荷がゼロになるpHである。ほとんどのタンパク質では、pIはpH4~6の範囲にある。塩酸および硫酸などの無機酸を沈殿剤として用いてもよい。等電点沈殿の潜在的な欠点は、無機酸によって生じる不可逆的な変性である。
【0023】
ソースサンプルから目的の分析物を抽出し、濃縮するために使用される溶媒は、2D LCシステムと適合性であってもよい。すなわち、抽出された分析物を含む抽出溶媒は、溶媒交換の必要なしに、2D LCシステムに直接装填してもよい。いくつかの実施形態では、生体分子(例えば、ポリペプチド、ペプチド、核酸、脂質、ホルモン、ビタミン、ステロイド、および炭水化物)の抽出溶媒は、メタノール、アセトニトリル、および/または水を含み、これら3つの物質の比率は、目的の分析物に応じて変えることができる。例えば、血液サンプルまたは組織から脂質を抽出するには、溶媒は、メタノール、アセトニトリル、および水の混合物を100%の総体積パーセント、例えば、約30~100%メタノール(v/v)、約0~100%アセトニトリル(v/v)および約0~50%水(v/v)で含む。溶媒は、所望により他の成分、例えば、10mM酢酸アンモニウムおよび1%ギ酸を含んでもよい。例えば、抽出溶媒は、80%メタノール、15%アセトニトリル、5%水、10mM酢酸アンモニウム、および1%ギ酸を含んでもよく、または、80%メタノール、20%のアセトニトリル、10mM酢酸アンモニウム、および1%ギ酸を含んでもよい。また、Chuang et al.,Methods Mol Biol.(2016)1378:263-72を参照のこと。具体的な溶媒の組成は、標的分析物および干渉マトリックスの特性によって決まることになる。
【0024】
二次元液体クロマトグラフィー
例えば、目的の分析物を濃縮することによってソースサンプルを処理してから、処理されたサンプルを、第1の液体クロマトグラフィーカラムに適用するために、液体クロマトグラフィーポンプシステムに入力することができる。
【0025】
液体クロマトグラフィー(LC)は、流体溶液(移動相)が毛細管現象によって微細に分割された物質(固定相)のカラムを透過する際に、流体溶液の1つまたはそれ以上の成分を選択的に保持するプロセスである。固定相による流体溶液中の選択的成分の保持は、成分の固定相に対する親和性が移動相よりも高いためである。本明細書で使用される液体クロマトグラフィーには、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、超高速液体クロマトグラフィー(UHPLC)、高乱流液体クロマトグラフィー(HTLC)、順相クロマトグラフィー(NPC)、逆相クロマトグラフィー(RPC)、超臨界流体クロマトグラフィー(SFC)、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー(IEX)、キャピラリー液体クロマトグラフィー、エレクトロクロマトグラフィー、メンブレンクロマトグラフィー、モノリスクロマトグラフィー、ナノおよびキャピラリー液体クロマトグラフィー、およびサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)が含まれるが、これらに限定されるわけではない。目的の分析物は固定相に保持され、その後、溶出されてもよいし、または、保持されずに固定相を通って流れてもよい。溶出液または流出液中の分析物は、保持時間、ピーク強度、およびピーク面積に基づいて、さまざまな手段(例えば、UV、蛍光、光散乱、または電気伝導度)によってモニターすることができる。分析物のさらなる詳細な分析は、以下に説明するように、質量分析などの技術を用いて行ってもよい。
【0026】
液体クロマトグラフィー(LC)システムは、典型的には、以下の構成要素のいくつかまたは全てを含む。
(i)インジェクター:サンプルマネージャまたはオートサンプラーとしても知られるインジェクターは、ソースサンプルをLCカラムに移す移動相に導入するために使用される。
(ii)リザーバー:溶媒リザーバーは、液体クロマトグラフィーの分離に使用する溶媒系(移動相)を保持する。
(iii)ポンプ:移動相の所定の流量を生成し、維持するために、典型的には高圧ポンプが使用される。従来は、それぞれのLCカラムに専用のポンプシステムが必要とされた。
(iv)カラム:LCカラムは、サンプルを受け入れるための入口ポートと、流出液を放出するための出口ポートとを含み、典型的に、シリカ、ポリマー、およびその他の樹脂などの固体吸着媒体が充填されている。LCカラムは、例えば、順相カラム(通常は親水性)、逆相カラム(通常は疎水性)、カチオン交換カラム、アニオン交換カラム、サイズ排除クロマトグラフィーカラム、メンブレンカラム、モノリスカラム、ナノまたはキャピラリーLCカラム、およびキラルクロマトグラフィーカラムであってもよい。
(v)バルブ:切替バルブまたはスイッチングバルブは、カラムと、カラムを通過する溶出液または流出液の次の目的地との間の高圧バルブである。次の目的地は、例えば、廃液回収器または分析物検出器となりうる。ダイバータ(またはダイバート)バルブは、手動またはコンピュータによって制御することができ、場合によりトラップカラムを含むことができる。典型的に、LCシステムで使用されるダイバータバルブは、12個ものポートを有することができる。
(vi)付属品:高圧チューブおよび継手は、サンプルインジェクター、溶媒リザーバー、ポンプ、カラム、および検出器を相互に接続し、移動相の導管を形成するために使用される。
【0027】
2D LCシステムは、2つの直交する分離機構を有する2つのLCカラムを有する。第1のLCカラムは一次元目(D)と呼ばれ、第2のLCは二次元目(D)と呼ばれる。1つまたはそれ以上の標的分析物を含むサンプルを、適合する溶媒とともに第1のLCカラムに注入する。溶媒は高圧でカラムを通過し、標的分析物はサンプル中の汚染物質から分離される。第1のLCカラムからの流出液を集め、第2のLCカラムに注入し、ここで標的分析物がさらに分離される。別法として、D溶出液をトラップカラムに保持した後、二次元目に注入することができる。Dカラムと同様の固定相を含むガードカラムをトラップカラムとして用いてもよい。二次元目から溶出した後、標的分析物を含む流出液をさらに分析することができる。
【0028】
一般的に2つのタイプの2D LCがある。包括的2D LC(LC×LC)では、D流出液の全流れをDカラムに向ける。ハートカット2D LC(LC-LC)では、クロマトグラムの特定の流出ピークまたは特定の部分をDカラムに向ける。また、Dカラムに移すために、クロマトグラムの複数のピークまたは複数の部分を選択することもできる。LCシステムの分流バルブにより、複数のカット(cuts)を切り離し、保存することができ、これらを、その後、Dカラムで分析する。
【0029】
図1は、典型的なハートカット2D LCシステムを示しており、実線は移動相の流れ方向を示している。工程1では、順相(NP)カラムを備えた第1のLCシステムが、目的の脂質分析物を干渉するリン脂質から分離する。10ポート分流バルブにより、分析物を含む流出液をトラップカラムに向け、分析物をトラップカラムによって保持する一方で、リン脂質はトラップカラムを出て廃液収集器に送られる。工程2では、第2のLCポンプシステムによって第2のLCカラム(逆相またはRP)に適合する流体が入力される。この流体は、10ポートバルブの位置の制御によりトラップカラムに流れ、トラップカラム中の溶媒交換が実現される。工程3では、第2のLCポンプによって第2移動相の溶媒が入力され、トラップカラムを通過し、分流バルブの位置設定により、分析物をRPカラムにもたらす。分析物は、RPカラムでさらに分離され、最終的には質量分析計で分析される。
【0030】
本開示の新規な2D LCシステムでは、1つのLCポンプシステムしか必要ない。第1のカラムから第2のカラムへの流れは、溶媒交換の工程を必要とすることなく、連続的であることができる。これは、1つの移動相溶媒システムを使用するために可能となる。移動相溶媒系の組成(例えば、成分の相対比)は、分析物が分離システムを通過する際に時間を決めて調整することができるが、溶媒系はその成分を調整しても両方のカラムに適合するため、分析物が1つのカラムから次に移動する際に溶媒交換の必要がない。2つのカラムの間にある分流バルブは、分析物の第1カラムからの予想排出時間に応じて、第1カラムからの流出液を廃液または第2カラムに向けることができる。溶媒交換の必要性がないため、2つのカラム間の分流バルブをより単純にして、必要なポート数をより少なくすることができる。本開示の新規な2D LCシステムは、包括的な2D LCおよびハートカット2D LCシステムの両方を包含する。
【0031】
図3は、本開示の新規な2D LCシステムのハートカットの実施形態を示す。工程1において、LCシステムは、第1の移動相比を有する溶媒系を用いてサンプルをNPカラムに入力し、この溶媒系が、3ポートの分流バルブの位置を介して、目的の特定の分析物をRPカラムに運び、ここでそれらは保持される。工程2(すなわち、後の時点)では、分流バルブを第2の位置に切り替え、干渉するマトリックスを担持するNPカラム流出液を廃液に向ける。工程3では、NPカラムからの追加の分析物がRPカラムに移動し、RPカラムに保持されたすべての標的分析物が、LCポンプシステムによって入力された異なる移動相比の溶媒システムによって溶出される。RPカラムから溶出した標的分析物は、次いで、質量分析などのさらなる分析にかけられる。LCラン全体の溶媒系は、同じ適合性の成分を含むため(ランの進行に応じて比率は変化するが)、溶媒交換を行うために溶媒の流れを中断する必要がない。さらに、従来の2D LCシステムとは対照的に、1つのポンプシステム(「LCシステム1」と表示)しか必要ない。
【0032】
本発明の新規なシステムにおけるDカラムおよびDカラムは、標的分析物およびマトリックス干渉成分の性質に基づいて選択してもよい。いくつかの実施形態では、上に例示したように、Dカラムは順相カラムであり、Dカラムは逆相カラムである。いくつかの実施形態(例えば、炭水化物分析物に関して)では、Dカラムは順相カラムであり、Dカラムは弱アニオン交換カラムである。いくつかの実施形態(例えば、タンパク質/ペプチド分析物に関して)では、Dカラムは順相カラムであり、Dカラムは逆相カラムである。いくつかの実施形態(例えば、循環腫瘍細胞(CTC)DNAなどのオリゴヌクレオチド分析物に関して)では、Dカラムは順相カラムであり、Dカラムはイオンペアリング試薬を有する逆相カラムである。
【0033】
LC溶媒としては、水、メタノール、エタノール、アセトニトリル、トリフルオロ酢酸、ヘプタフルオロ酪酸、エーテル、ヘキサン、酢酸エチル、および有機溶媒、例えば炭化水素溶媒(例えば、脂肪族および芳香族溶媒)、酸素化溶媒(例えば、アルコール、ケトン、アルデヒド、グリコールエーテル、エステル、およびグリコールエーテルエステル)、およびハロゲン化溶媒(例えば、塩素化および臭素化炭化水素)が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。LC溶媒は緩衝化されてもよく、酢酸アンモニウム、ギ酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、酢酸、トリフルオロ酢酸、ギ酸、トリメチルアミン、およびトリエチルアミンを含んでもよい。いくつかの実施形態では、本2D LCシステムに使用される溶媒系は、抽出溶媒と適合性があり、メタノール、アセトニトリル、および水を含んでもよい。特定の実施形態では、溶媒系は、約0~100%メタノール、約0~100%アセトニトリル、および約0~90%水を含み、総体積パーセントは100%である。特定の実施形態では、2D LCシステムの溶媒系は、移動相A(移動相溶媒A)と移動相B(移動相溶媒B)との様々な比率の混合物であり、移動相Aは水および0.5%トリフルオロ酢酸を含み、移動相Bは85%メタノール、15%アセトニトリル、およい0.5%トリフルオロ酢酸を含む。
【0034】
一例として、1つまたはそれ以上の脂質分析物(例えば、スフィンゴ脂質、コレステロール、およびトリグリセリド)を含むソースサンプルを、80%メタノール、15~20%アセトニトリル、および0~5%水(例えば、80%メタノール、15%アセトニトリル、および5%水;または80%メタノールおよび20%アセトニトリル)を含む抽出溶媒で抽出する。抽出溶媒は、場合により10mM酢酸アンモニウムおよび1%ギ酸を含んでもよい。抽出されたサンプルは、アセトニトリル、メタノール、および水を含む移動相溶媒系を用いてLCシステムに装填され、脂質分析物は主要なマトリックス汚染物質(炭水化物、タンパク質、ヌクレオチドなど)から分離される。溶媒系は、10mM酢酸アンモニウム、1%ギ酸、および0.5%トリフルオロ酢酸をさらに含んでもよい。第1のLCカラムはNPカラムであり、より低い極性の脂質が最初に溶出し、分流バルブを介して逆相カラムに向かうのに対して、より高い極性の脂質はNPカラムに保持される。次に、マトリックス汚染物質を担持するNPカラム流出液を除去するため、分流バルブを廃液位置に切り替える。次いで、分流バルブを元の位置に戻し、すでにNPカラムに保持されていたより高い極性の脂質を、さらなる分離のため二次元目に移動させる。バルブを切り替えるタイミングは、廃液または第2のカラムのいずれかへの溶媒の流れを調節するように調整される。RPカラムでは、より高い極性の脂質分析物が最初に溶出されるのに対して、より低い極性の脂質分析物は疎水性の高い溶出溶媒が使用されるまでカラム内に保持される。分離された脂質分析物は、質量分析などの方法でさらに分析することができる。
【0035】
また、例として、1つまたはそれ以上のタンパク質/ペプチド分析物、例えば、インスリンを含むサンプルを、メタノール、アセトニトリルおよび水を含む抽出溶媒で抽出する。抽出溶媒は、0.5%酢酸および0.01%トリフルオロ酢酸をさらに含んでもよい。抽出されたサンプルを、次に、アセトニトリル、メタノールおよび水を含む移動相溶媒系を用いて、第1のカラム、例えば順相カラムに注入し、タンパク質/ペプチド分析物を主要なマトリックス汚染物質(炭水化物、脂質、ヌクレオチドなど)から分離する。溶媒系は、0.5%酢酸および0.01%トリフルオロ酢酸をさらに含んでもよい。いくつかの実施形態では、一次元目は順相カラムであり、より疎水性のリン脂質が最初に溶出され、より親水性のポリペプチドが順相カラム中に保持される。他のいくつかの実施形態では、一次元目がアニオン交換カラムであり、正に荷電されたポリペプチドが最初に溶出され、分流バルブを介して二次元目に移されるのに対して、負に荷電されたポリペプチドはアニオン交換カラムに保持される。次に、分流バルブを廃液に切り替えて、マトリックス汚染物質を除去する。分流バルブを元の位置に戻して、すでに一次元目で保持されたポリペプチドを、さらなる分離のため二次元目に移す。廃液または第2カラムのいずれかへの溶媒の流れを調整するためのバルブ切り替えのタイミング、および溶媒勾配の設計は、異なるタンパク質分析物を分離するため、およびマトリクス干渉を排除するために容易に調整することができる。さらなる実施形態では、二次元目が逆相カラムであり、極性タンパク質が最初に溶出されるのに対して、非極性タンパク質は、より疎水性の溶出溶媒が使用されるまでカラム内に保持される。分離されたタンパク質分析物を、次いで、例えば、質量分析によって、さらに分析することができる。
【0036】
また一例として、1つまたはそれ以上の核酸分析物、例えば合成オリゴヌクレオチドを含むサンプルを、水およびアセトニトリルを含む抽出溶媒で抽出する。次に、抽出されたサンプルは、メタノール、アセトニトリル、および水を含む移動相溶媒系を用いて、シリカカラム、例えば順相カラムに注入され、核酸分析物が主要なマトリックス汚染物質(炭水化物、脂質、タンパク質など)から分離される。溶媒系は、トリメチルアミンまたは重炭酸トリエチルアンモニウムをさらに含んでもよい。次に、分流バルブを廃液に切り替えてマトリックスの汚染物質を除去する。分流バルブを元の位置に切り替えて、すでに一次元目に保持されていた核酸分析物を、さらなる分離のために二次元目に移す。廃液または第2カラムのいずれかに溶媒の流れを調整するためのバルブ切り替えのタイミング、および溶媒勾配の設計は、異なる核酸分析物を分離するため、およびマトリックス干渉を排除するために容易に調整することができる。さらなる実施形態では、二次元目は、イオンペアリング機構を使用するC18カラム、例えば、逆相カラムである。分離された核酸分析物は、その後、例えば、質量分析によって、さらに分析することができる。
【0037】
また、例として、1つまたはそれ以上の炭水化物分析物、例えば、N-結合フェツインオリゴ糖を含むサンプルを、メタノール、アセトニトリル、および水を含む抽出溶媒で抽出する。抽出溶媒は、さらに、10mM酢酸アンモニウム、0.5%酢酸、および0.1%ギ酸を含んでもよい。抽出されたサンプルは、次いで、メタノール、アセトニトリル、および水を含む移動相溶媒系を用いて、シリカカラム、例えば順相カラムに注入され、糖質分析物が主要なマトリックス汚染物質(脂質、タンパク質、核酸など)から分離される。溶媒系は、10mM酢酸アンモニウム、1%ギ酸、および0.5%トリフルオロ酢酸をさらに含んでもよい。次に、分流バルブを廃液に切り替えて、マトリックス汚染物質を除去する。分流バルブを元の位置に戻し、すでに一次元目で保持されていた炭水化物を、さらなる分離のため二次元目に移す。廃液または第2カラムのいずれかへの溶媒の流れを調整するためのバルブ切り替えのタイミング、および溶媒勾配の設計は、異なる炭水化物分析物を分離するだけでなく、マトリックス干渉を排除するために容易に調整することができる。さらなる実施形態では、二次元目は、弱アニオン交換カラムである。分解された炭水化物分析物は、次に、例えば、質量分析によって、さらに分析することができる。
【0038】
また、例として、1つまたは以上のステロイド分析物、例えば、ジヒドロテストステロンを含むサンプルを、メタノール、アセトニトリル、および水を含む抽出溶媒で抽出する。抽出溶媒は、10mM酢酸アンモニウム、0.5%酢酸、および1%ギ酸をさらに含んでもよい。抽出されたサンプルは、メタノール、アセトニトリル、および水を含む移動相溶媒系を用いて、シリカカラム、例えば順相カラムに注入され、ステロイド分析物が主要なマトリックス汚染物質(炭水化物、脂質、タンパク質、核酸など)から分離される。溶媒系は、10mM酢酸アンモニウム、0.5%酢酸、および0.5%トリフルオロ酢酸をさらに含んでもよい。次に、分流バルブを廃液に切り替えて、マトリックス汚染物質を除去する。分流バルブを元の位置に戻し、すでに一次元目で保持されていたステロイド分析物を、さらなる分離のため二次元目に移動させる。廃液または第2カラムのいずれかへの溶媒の流れを調整するためのバルブ切り替えのタイミング、および溶媒勾配の設計は、異なるステロイド分析物を分離するため、およびマトリックス干渉を排除するために容易に調整することができる。さらなる実施形態では、二次元目は、C18カラム、例えば、逆相カラムである。分離されたステロイド分析物は、質量分析などの方法でさらに分析することができる。
【0039】
質量分析
本発明の新規な2D LCシステムによって分離された分析物は、最適な技術によってさらに分析することができる。多くの場合、質量分析(MS)は、超高感度のため用いられる。質量分析計は、標的分析物をイオン化し、真空中で質量電荷比に基づいてイオンを分離し、最終的に各イオンの強度を測定する。質量スペクトルは、特定の質量を持つイオンの濃度レベルを示すことができるため、定性および定量分析に非常に有効である。
【0040】
質量分析計は、分析物イオン化のためのイオン源、質量電荷比(m/z)に基づいてイオンを分離する質量分析器、および分離されたイオンを検出する検出器の3つの主要構成要素からなる。イオン化装置では、D流出液を噴霧し、脱溶媒し、イオン化して荷電粒子、イオンを生成する。イオンは、真空下で一連の質量分析器を通過する。特定の(m/z)比のプレカーサーイオンが選択され、すべての他の(m/z)比の粒子が除かれて、質量分析器を通過する。次いで、分離されたイオンは、例えば電子増倍管によって検出される。サンプルのイオン化は、例えば、エレクトロスプレーイオン化(ESI)、大気圧化学イオン化(ACPI)、光イオン化、電子衝撃イオン化、化学イオン化、高速原子衝撃(FAB)/液体二次イオン質量分析(LSIMS)、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)、電界イオン化、電界脱離、サーモスプレー/プラズマスプレーイオン化、または粒子ビームイオン化によって行ってもよい。イオンは、例えば、多重反応モニタリング(MRM)、選択的イオンモニタリングモード(SIM))、選択的反応モニタリング(SRM)、または電子増倍管によって検出してもよい。
【0041】
MSデータはコンピュータに送られ、これにより電圧対時間がプロットされる。ソースサンプル中の1つまたはそれ以上の標的分析物の濃度は、クロマトグラムのピーク下面積を検量線と比較することによって、または試験サンプルに対する内部標準の比率を比較することによって決定することができる。
【0042】
本開示のいくつかの実施形態では、質量分析法は、「タンデム質量分析」または「MS/MS」を利用し、選択されたプレカーサーイオンは、例えば、アルゴン、ヘリウム、または窒素などの不活性ガスとの衝突によって、プロダクトイオンにさらに断片化される。第2の質量分析器を使用して、検出のため特定のプロダクトイオン断片を標的にする。この選択-断片化-検出の手順は、第1世代のプロダクトイオンにさらに拡張することができる。例えば、選択されたプロダクトイオンをさらに断片化して、別のプロダクトイオンなどの群を生成することができる。イオンの断片化パターンは、化合物の構造に非常に特異的であり、そのため精密な構造決定が可能となる。
【0043】
いくつかの実施形態では、質量分析器は、四重極分析器、イオントラップ分析器、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(FTICR)質量分析器、静電トラップ分析器、磁気セクター分析器、四重極イオントラップ分析器、および飛行時間型分析器(MALDIおよびSELDIの両方)から選択されうる。
【0044】
本開示の2D LC-MSシステムは、精製された標的分析物をDカラムから質量分析計に中継するインターフェースをさらに含む。このインターフェースは、液体クロマトグラフィーと質量分析との固有の不適合性のために使用される。LCシステム中の移動相溶媒系は加圧された流体であるのに対して、MS装置は一般的に真空下で動作する。このインターフェースは、標的分析物をLCユニットからMSユニットに移し、液体クロマトグラフィー分離プロセスで使用される移動相溶媒系の大部分を除去し、標的分析物の化学的同一性を保持する。
【0045】
いくつかの実施形態では、インターフェースは、エレクトロスプレーインターフェースである。別法として、インターフェースは、大気圧イオン化インターフェース、大気圧化学イオン化インターフェース、サーモスプレーインターフェース、移動ベルトインターフェース、直接液体導入インターフェース、粒子ビームインターフェース、または高速原子衝撃(FAB)ベースのインターフェースであってもよい。
【0046】
2D LC-MSは、液体クロマトグラフィーの優れた分離能力と、質量分析の優れた感度および選択的な質量分析能力とを組み合わせて、混合物中の成分の分子質量および構造情報を提供する。この情報は、屈折率検出器、キラル検出器、ラジオフロー(radio flow)検出器、UV検出器、蛍光検出器、光散乱検出器、および電気伝導度検出器を含むがこれらに限定されない、他のLC検出器から得られる情報で補足することができる。
【0047】
応用
本開示の新規な2D LC-MS/MSシステムを含む新規な2D LC-MSシステムは、小分子(例えば、原薬)および大分子(例えば、生体分子)を含む様々な分子を分析(検出及び定量を含む)するために使用することができる。
【0048】
いくつかの実施形態では、本発明の2D LC-MS/MSシステムは、前臨床および臨床研究ならびにスクリーニング/診断および治療目的の開発においてバイオマーカーをモニターするために使用される。例として、2D LC-MS/MSシステムは、ファブリー病、ゴーシェ病、クラッベ病、および酸性スフィンゴミエリナーゼ欠損症(ASMD;例えば、ニーマン-ピック病(NPD)A型、B型、およびA/B型)などのライソゾーム病における特定の脂質バイオマーカーのレベルを測定するために使用してもよい。
【0049】
以下の実施例でさらに説明するように、2D LC-MS/MSシステムを使用して、ASMD患者の血液サンプル中の2つの脂質バイオマーカー:セラミド(CER)およびlyso-スフィンゴミエリン(lyso-SPM)を分析することができる。ASMDは、全身の組織、特に脾臓、肝臓、肺、骨髄、および場合によっては脳にスフィンゴミエリンが蓄積する、スフィンゴ脂質の代謝異常である。lyso-SPM(スフィンゴシンホスホコリン)のレベル上昇も同様に一般的である。患者の欠損した酵素、酸性スフィンゴミエリナーゼは、リソソーム中でスフィンゴミエリンの加水分解を触媒し、ホスホコリンおよびセラミドを生成する。セラミドおよびlyso-SPMなどの脂質は、ASMD患者では高度に上昇しているため、ASMDのスクリーニングおよび診断のためのバイオマーカーとして、また(オリプダーゼアルファなどの組換えヒトASMを用いた)酵素置換療法のモニターとして使用することができる。
【0050】
本発明をよりよく理解することができるように、以下の実施例を示す。これらの実施例は例示のみを目的としたものであり、本発明の範囲をいかなる方法でも限定するものと解釈すべきではない。
【実施例
【0051】
実施例1:ヒト血漿中のセラミドおよびlyso-SPMの2D LC-MS/MS検出
本実施例では、ヒト血漿サンプル中のセラミド(CER)およびlyso-SPMを分析するための本開示の新規な2D LC-MS/MSシステムの使用について説明する。
【0052】
化学物質および試薬
標準参照セラミド(ブタ脳由来)は、Avanti Polar Lipids(AL,USA)から購入した。CER内部標準(N-ノナデカノイル-D-エリスロ-スフィンゴシン)およびlyso-スフィンゴミエリン標準(スフィンゴシルホスホリルコリン)は、Matreya(PA,USA)から購入した。lyso-SPM内部標準(d9-リゾスフィンゴミエリン)は社内で合成した。メタノールおよびアセトニトリル(いずれもHPLCグレード)はHoneywell(NC,USA)から購入した。酢酸アンモニウムは,Sigma Aldrich(MO,USA)から購入した。脱イオン水は、社内のMilliQ DIシステム(Millipore,MA,USA)を用いて入手した。ギ酸(Optima(商標)LC/MSグレード)はFisher Scientific(Hampton,NH)から購入した。トリフルオロ酢酸(TFA)は、EMD Millipore(MA,USA)から購入した。
【0053】
脂質抽出
ヒト血漿10μLを、96ウェルプレート中のCERの内部標準(IS)(0.22μg/mL)を含むアッセイ使用液(80%メタノール、20%アセトニトリル、10mM酢酸アンモニウム、および1%ギ酸)800μLと混合した。DVX-2500マルチチューブボルテキサー(VWR Scientific Products,NJ,USA)を用いて11,000rpmで10分間ボルテックスし、水浴(Branson 3510 Ultrasonic Cleaner、Marshall Scientific,NH,USA)で10分間超音波処理した後、プレートを対向遠心機(Beckman Coulter,CA,USA)で5分間遠心分離した。上澄みを新たな96ウェルプレートに移し、2D LC-MS/MS分析にかけた。各サンプル中のCER濃度はμg/mLとして定量化し、lyso-SPMは線形適合(linear fit)を用いた検量線に基づいて血漿中のng/mLとして定量化した。
【0054】
LC-MS/MSシステム構成
2D LC-MS/MS分析は、Acquity UPLCシステム(Waters Corp.,Milford,MA,USA)およびAPI 4000四重極質量分析計(AB Sciex,Toronto,Canada)を用いて行った。2D LC-MS/MSシステムは、Analyst(登録商標)ソフトウェア(AB Sciex)によって制御した。データ処理および分析は,Microsoft ExcelおよびWatson LIMS(商標)Software(Thermo Fisher Scientific,Waltham,MA)を用いて行った。
【0055】
2D LCの構成は、一次元目にシリカカラム(Ultra Silicaカラム,2.1×150mm,5.0μm,Restek,PA,USA)、二次元目にC18カラム(Acquity UPLC BEH C18カラム,2.1×100mm,1.7μm,Waters Corp.)を使用した。各カラムがColumn Manager内の異なる区画を占めるように両方のHPLCカラムをAcquity Column Manager内に配置し、両カラムを同じ温度(60℃)に維持した。2D HPLCの構成では、以下の接続を含んだ。
a)一次元分析カラムの出口を分流バルブのポート1に接続するPEEKチューブ(長さ約60cm)
b)分流バルブのポート2を二次元分析カラムの入口に接続する第2のPEEKチューブ(長さ約70cm)
c)二次元分析カラムの出口を質量分析計に接続する第3のPEEKチューブ(長さ約80cm)および
d)分流バルブのポート3を廃液に接続する第4のPEEKチューブ(長さ少なくとも60cm)
【0056】
移動相
移動相Aは、水に0.5%のトリフルオロ酢酸を加えたものであった。移動相Bは、85%メタノール、15%アセトニトリル、および0.5%トリフルオロ酢酸であった。移動相Aと移動相Bを異なる比率で混合し、以下の表1に示すように、ランの予め定められた時点でLCシステムに装填した。注入体積はサンプルに対して2μLの注入であり、移動相の流速は0.2mL/分であった。
【0057】
【表1】
【0058】
LC分流バルブ条件
上の表に示した溶媒系の調整と連携して、以下の表2に示した所定の時点で、2D LCシステムの分流バルブを異なるポート位置に切り替えて、D流出液の異なる画分を廃液または次の(RP)カラムのいずれかに向けることが可能であった。図4も参照のこと。
【0059】
【表2】
【0060】
質量分析
セラミドおよびlyso-SPMの分析には、多重反応モニタリング(MRM)法を用いた。この手法では、トリプル四重極MSを用いて、目的の化合物であるセラミドおよびlyso-SPMに対応するイオンを最初に標的とし、その後、その標的イオンを断片化して様々な娘イオンを生成する。これらの断片娘イオンの中から1つ(またはそれ以上)を、定量化のために選択する。これらの基準の両方を満たす化合物、すなわち、化合物の質量に対応する特定の親イオンおよび特定の娘イオンのみが、質量分析計内で分離される。
【0061】
API 4000質量分析計のMRMチャンネルパラメータを以下の表3に示す。
【0062】
【表3】
【0063】
表4は、セラミド内部標準(IS)、lyso-SPM分析物、およびlyso-SPM ISのMRMチャネルパラメータを示す。
【0064】
【表4】
【0065】
結果
この新規な分析法では、2D LCシステムで後に使用する移動相溶媒系と適合性のあるアッセイ使用液を用いてCERおよびlyso-SPMを同時に抽出した。次いで、抽出サンプルを第1のカラムに直接注入し、溶媒交換の必要なしに連続的な流れによって第2のカラムに移した。リン脂質からCERおよびlyso-SPMを分離するには、順相クロマトグラフィーが適していることがわかった。そこで、この手法をLCによる分離の一次元目として用いた。CERおよびlyso-SPMを、スフィンゴ糖脂質およびlyso-スフィンゴ糖脂質のような構造的に関連する化合物から分離するために、逆相クロマトグラフィーを用いた二次元目の分離を用いた。
【0066】
より具体的には、このLCプロセスでは、カラムのフラッシングを可能にするために、最初に分流バルブを位置Aに設定した。次いで、バルブを位置Bに設定し、セラミドが順相(NP)カラム中でリン脂質から分離されて、RPカラムに流れ込み、RPカラム中に保持された。その後、分流バルブを廃液(位置A)に切り替え、D流出液に続くリン脂質およびその他のマトリックス成分を除去した。最後に、分流バルブを再び位置Bに切り替え、lyso-SPMがRPカラムに入るのを可能にし、セラミドおよびlyso-SPMの両方を、質量分析の前に他の潜在的な干渉分子から分離した。
【0067】
データは、CERおよびlyso-SPMの両方がうまく抽出され、定量されたことを示している。図4に示すように、NPカラムから最初にセラミドが溶出し、主要な汚染物質リン脂質、次いでlyso-SPMが続いた。分流バルブを位置Aに設定することによってリン脂質を廃液に向け、バルブを位置Bに設定してセラミドおよびlyso-SPM分析物をRPカラムに向けた。RPカラムでは、lyso-SPMは単一のピークとして現れたが、セラミド分析物は脂肪酸鎖の長さと二重結合の数に応じて、以下のアイソフォーム:C16、C18、C20およびC22:1、C22およびC24:1、C24、およびC26:1を含む明確な保持ウィンドウに分画された。このデータは、CERアイソフォームがRPカラムからバックグラウンドノイズの少ないシャープなピークとして溶出し、各アイソフォームに対して単一のピークが同定されたことを示している。いくつかのランを行い、一致した保持時間が得られた。
【0068】
上記の2D LC-MS/MS法により、ヒト血漿中のCERおよびlyso-SPMを定量するためのサンプル所要時間が、典型的には8日からわずか2日に短縮された。さらに、サンプル清浄化のためのSPEおよびタンパク質沈殿(PPT)手順を含む元々の労働集約的なオフライン抽出作業は、本発明の抽出溶媒および連続フロー2D LCを利用することで、25時間から1時間に短縮された。例えば、Chuang et al.,Methods in Molecular Biology、Vol.1378、DOI 10.1007/978-1-4939-3182-8_28を参照のこと。上に見られるように、2D LCの全ランは20分で完了した。
【0069】
【表5】
【0070】
実施例2:ヒト血漿中のセラミドの2D LC-MS/MS検出のアッセイ適格性(Assay Qualification)
本実施例では、セラミドを検出するための2D LC-MS/MSシステムを適格とする研究について説明する。本研究では、サンプル、検量線標準、およびコントロールを96ウェルプレートに加えた。次に、既知量の内部標準(CER-IS)を含むアッセイ使用液をウェルに加えた。次いで、実施例1に記載のように、プレートをボルテックスし、超音波処理し、遠心分離した。遠心分離後、上澄みを新しい96ウェルプレートに移した。次いで、この新しいプレートを、実施例1にも記載したように分析のため2D LC-MS/MSシステムに移した。
【0071】
サンプルラン後、Analyst(商標)ソフトウェアを用いて個々のCERアイソフォームに対応するピークを積分した。次に、いずれか所定のサンプルの個々のCERアイソフォームのピーク面積をExcelで合計した。総CERピーク面積をWatson(登録商標)にインポートし、検量線の切片および傾きを用いてCER-ISピーク面積に対する総CERピーク面積の比に基づいて総CER濃度(μg/mL)を算出した。
【0072】
新規な多重アッセイは、CER定量に適格であった。適格性パラメータには、システム適合性、ラン内およびラン間の精度および正確さ、検量(標準)線の直線性、分析感度、キャリーオーバー、脱脂血漿マトリックス効果、再注入の再現性,バッチサイズ評価,抽出の回復、サンプル希釈の完全性、健康なドナーにおけるCER基準の決定、および血漿CERレベルを決定する方法の比較が含まれた。
【0073】
キャリーオーバーは、各ランの最高較正標準の後に溶媒(アッセイ使用液のみ)を注入することによって評価した。脱脂血漿マトリックス効果は、3つの異なる濃度の分析物をスパイクした3つの独立したロットの脱脂血漿を用いて評価した(低品質管理(LQC)、中品質管理(MQC)、および高品質管理(HQC))。再注入の再現性は、LLOQ(定量下限)、LQC、MQC、HQC、およびULOQ(定量上限)濃度のサンプルを継続的に再注入することで評価した。抽出の回復は、2つのプールされた患者サンプルにCERを添加する前と後とを比較することによって評価した。内部標準(IS)は、添加前および後の条件に関して同じ段階で導入した。
【0074】
このデータは、本発明の新規な2D LC-MS/MS法が、11種類のCERアイソフォームを、これらのアイソフォームのそれぞれについて独立したMS/MSチャネルを用いた多重反応モニタリング(MRM)により検出したことを示している。システム適合性テストでは、検証プロセスを通して行われたすべてのパスランにおいて、0%から5%の間の%CVを示した。すべての濃度の平均%Biasおよび平均%CV(変動係数)は、精度および正確さに関する確立された基準を満たした。分析感度は、許容できる精度および正確さで測定できる分析物の最低濃度と定義した。LLOQの%CVおよび平均%バイアスは、それぞれ8%および-8%であった。
【0075】
分析物のピーク面積の最小および最大キャリーオーバーは、それぞれ2%および11%であった。3つの濃度で測定した脱脂血漿マトリックス効果の全体的な%CVは、6%(LQC)、2%(MQC)および3%(HQC)であった。再注入の再現性の%CVは、特定の濃度で2%から4%であった。抽出物の回収率は67%から88%までの範囲で、%CVは2%から11%まで変化した。結果から、本方法は精密かつ正確であり、ヒト血漿中のセラミド濃度の測定に使用するのに適格であることが示された。
図1
図2
図3
図4