(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】苗移植機
(51)【国際特許分類】
A01C 11/02 20060101AFI20241008BHJP
【FI】
A01C11/02 302D
(21)【出願番号】P 2022058930
(22)【出願日】2022-03-31
【審査請求日】2024-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】720001060
【氏名又は名称】ヤンマーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080160
【氏名又は名称】松尾 憲一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100149205
【氏名又は名称】市川 泰央
(72)【発明者】
【氏名】竹山 智洋
(72)【発明者】
【氏名】石▲崎▼ 創
(72)【発明者】
【氏名】坂垣内 貴保
(72)【発明者】
【氏名】平井 宏典
(72)【発明者】
【氏名】田村 得雄
(72)【発明者】
【氏名】大井戸 直幸
(72)【発明者】
【氏名】水谷 三喜男
【審査官】小林 直暉
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-047308(JP,A)
【文献】特開2011-234674(JP,A)
【文献】実開平4-110417(JP,U)
【文献】特開平1-215210(JP,A)
【文献】特開2006-223301(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01C11/00-14/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
苗載台上に載置した苗マットを植付爪によって一部ずつ切り取って連続的に苗を圃場に植え付けていく苗移植機であって、
前記植付爪の動軌跡の下部の前方に設けられた作溝器を備え、
前記作溝器は、
側面視で前下側を突側とした湾曲形状をなす部分を有するとともに、平面断面視で前側を突側とした湾曲形状をなす前側湾曲面を形成する作溝器本体部と、
前記作溝器本体部の背面側に設けられ、左右の側面を形成する側面形成部と、を有する
ことを特徴とする苗移植機。
【請求項2】
前記側面形成部は、前記左右の側面間の間隔を、前記植付爪の左右方向の寸法と略等しくするように形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の苗移植機。
【請求項3】
前記作溝器本体部は、丸パイプ状の部分であり、
前記側面形成部は、前記左右の側面を形成する左右の側板部である
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の苗移植機。
【請求項4】
前記作溝器の最後端は、前記植付爪の動軌跡の最下端の位置の前方かつ下方に位置している
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の苗移植機。
【請求項5】
前記作溝器は、前記左右の側板部間の少なくとも一部を閉塞する蓋部を有する
ことを特徴とする請求項3に記載の苗移植機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、苗植付装置によって圃場に対して連続的に苗植え作業を行う苗移植機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、苗植付装置によって圃場に対して連続的に苗植え作業を行う苗移植機において、後下がりの傾斜状の苗載台上に載せられた板状の苗マットを横送りおよび縦送りしながら、苗植付装置が有する植付爪によって苗マットを連続的に一部ずつ掻き取って(切り取って)苗を植えていく構成を備えたものがある。このような苗移植機において、植付爪による苗の植付けに際して圃場に溝を形成したり土をほぐしたりといった圃場に対する前処理をするための部材を備えた構成がある。
【0003】
特許文献1には、前部を船形状部分とするとともに後部に左右の側板を有し、植付爪による植付位置に溝を形成する作溝器を備えた構成が開示されている。特許文献1の構成において、植付爪の回動軌跡の下部が作溝器の左右の側板間に位置しており、作溝器の左右の側板間を通過する植付爪により苗の植付けが行われる。
【0004】
特許文献2には、苗植付け体の先端部の軌跡の前側下半分の軌跡の外側の近傍に設けられ、同軌跡に沿うように湾曲したナタ状の土ほぐし体を備えた構成が開示されている。この土ほぐし体は、棒状の苗植付け体の先端側部分の左右幅より若干幅広の板状部材により構成されている。同様に、特許文献3には、植付爪の前方に、苗植付溝を形成する部材として所定の幅を有する板状の作溝器を備えた構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6152118号公報
【文献】特開2002-17118号公報
【文献】実開平4-110417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された構成は、植付爪に作溝器の左右の側板間を通過させる構成であるため、左右の側板間において、苗を保持した状態の植付爪が通過するのに十分なスペースを確保する必要がある。このため、植付爪から放たれる苗が不安定になるという問題がある。また、特許文献2,3に開示された構成の場合、土ほぐし体や作溝器が板状の部材により構成されているため、重量増が懸念される。
【0007】
本発明は、上記のような問題点に鑑みてなされたものであり、圃場に植え付けられる苗の姿勢を安定させることができ、圃場における雑草等の夾雑物に引っかかりにくくスムーズな作溝を行うことができる苗移植機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る苗移植機は、苗載台上に載置した苗マットを植付爪によって一部ずつ切り取って連続的に苗を圃場に植え付けていく苗移植機であって、前記植付爪の動軌跡の下部の前方に設けられた作溝器を備え、前記作溝器は、側面視で前下側を突側とした湾曲形状をなす部分を有するとともに、平面断面視で前側を突側とした湾曲形状をなす前側湾曲面を形成する作溝器本体部と、前記作溝器本体部の背面側に設けられ、左右の側面を形成する側面形成部と、を有するものである。
【0009】
本発明に係る苗移植機は、前記苗移植機において、前記側面形成部は、前記左右の側面間の間隔を、前記植付爪の左右方向の寸法と略等しくするように形成されているものである。
【0010】
本発明に係る苗移植機は、前記苗移植機において、前記作溝器本体部は、丸パイプ状の部分であり、前記側面形成部は、前記左右の側面を形成する左右の側板部であるものである。
【0011】
本発明に係る苗移植機は、前記苗移植機において、前記作溝器の最後端は、前記植付爪の動軌跡の最下端の位置の前方かつ下方に位置しているものである。
【0012】
本発明に係る苗移植機は、前記苗移植機において、前記作溝器は、前記左右の側板部間の少なくとも一部を閉塞する蓋部を有するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、圃場に植え付けられる苗の姿勢を安定させることができ、圃場における雑草等の夾雑物に引っかかりにくくスムーズな作溝を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係る苗移植機の全体構成を示す左側面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る苗移植機の全体構成を示す平面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る苗移植機の動力伝達構成を示す図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る苗移植装置の構成を示す後方斜視図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る苗移植装置の構成を示す背面図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係る苗植付装置の構成を示す前方斜視図である。
【
図7】本発明の一実施形態に係る苗移植装置の下部の構成を示す後方斜視図である。
【
図8】本発明の一実施形態に係る苗マットを示す斜視図である。
【
図9】本発明の一実施形態に係る苗マットを示す平面図である。
【
図10】本発明の一実施形態に係る苗マットを示す側面図である。
【
図11】本発明の一実施形態に係るガイドレールおよび植付爪装置の構成を示す斜視図である。
【
図12】本発明の一実施形態に係るガイドレールおよび植付爪装置の構成を示す左側面図である。
【
図13】本発明の一実施形態に係るガイドレールおよび植付爪装置の構成を示す平面図である。
【
図14】本発明の一実施形態に係るガイドレールの構成およびガイドレールに対する苗マットの支持構成を示す左側面図である。
【
図15】本発明の一実施形態に係る植付爪装置の動作のうち苗マットの掻取り動作についての説明図である。
【
図16】本発明の一実施形態に係る植付爪装置の動作のうち苗ブロックの植付け動作についての説明図である。
【
図17】本発明の一実施形態に係る作溝器の構成を示す左側面図である。
【
図18】本発明の一実施形態に係る作溝器の構成を示す左後方斜視図である。
【
図19】本発明の一実施形態に係る作溝器および植付爪装置を示す平面図である。
【
図20】本発明の一実施形態に係る作溝器の構成を示す背面図である。
【
図22】本発明の一実施形態に係る作溝器の変形例の構成を示す左側面図である。
【
図23】本発明の一実施形態に係る作溝器の変形例の構成を示す左後方斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、苗移植機において、植付爪による苗の植付けに際して圃場に溝を形成するための作溝器の構成等を工夫することにより、圃場に対する作溝器によるスムーズな溝の形成を実現するとともに、植付爪による良好な植付け性を得ようとするものである。以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0016】
図1から
図7を用いて、本実施形態に係る苗移植機1の全体構成について説明する。なお、以下の説明では、苗移植機1の前方に向かって左側(
図2における下側)および右側(
図2における上側)を、それぞれ苗移植機1における左側および右側とする。
【0017】
図1および
図2に示すように、本実施形態に係る苗移植機1は、運転者であるオペレータを乗車させて走行しながら苗植え作業を行う乗用型の苗移植機であり、例えばキャベツ、タマネギ、トマト等の野菜の苗を圃場に対して順次移植するために用いられる。苗移植機1は、走行部を構成する走行機体2と、植付部を構成する苗移植装置3とを備える。苗移植装置3は、複数のリンクを含んで構成されたリンク装置4を介して走行機体2の後部に昇降可能に連結されている。苗移植装置3は、図示せぬ油圧シリンダの動作によって走行機体2に対して昇降する。
【0018】
走行機体2は、機体フレーム5と、左右の前輪6と、左右の後輪7とを有する。機体フレーム5は、複数のフレーム部材により枠組み状に構成されており、水平状のフレーム部分を構成する前フレーム部11と、前フレーム部11の後側において階段状に1段上がった段部をなす後フレーム部12とを有する。左右の前輪6は、前フレーム部11の下側に設けられており、左右の後輪7は、後フレーム部12の後下側に設けられている。左右の前輪6および左右の後輪7により、機体フレーム5が圃場に対して支持される。
【0019】
走行機体2において、前フレーム部11の上側には、車体カバー等により構成された水平状の床部13が設けられている。床部13上には、走行機体2および苗移植装置3を運転・操作するための運転部8が設けられている。後部の左右中央部には、シートマウントである座席支持台9が設けられており、座席支持台9上に運転用の座席10が設けられている。座席10の下方には、図示せぬ燃料タンクが設けられている。
【0020】
床部13上における前部には、座席10に着座したオペレータにより操作される操作部14が設けられている。操作部14には、座席10の前方に位置する操向ハンドル15等を配置したダッシュボード16、変速ペダル18等の各種操作ペダル、変速レバーや植付クラッチレバー等の各種操作レバー等が設けられている。操向ハンドル15は、ダッシュボード16から上側に突出したハンドル支軸15aの上端部に取り付けられている。
【0021】
床部13の前部の左右中央部であって操向ハンドル15の前下方には、駆動源としてのエンジン20が設けられている(
図1参照)。エンジン20は、ボンネット17で覆われている。エンジン20は、前フレーム部11の前部の下側に設けられたエンジンサポートフレーム部21に対してブラケットや防振ゴム等を介して搭載されている(
図1参照)。エンジンサポートフレーム部21は、正面視でU字状をなす前後2本のサポートフレーム21aを含む。エンジン20は、例えばディーゼルエンジンであり、出力軸の軸方向を左右方向とする向きで設けられている。
【0022】
エンジン20の後方には、ギア群やクラッチやブレーキ等を含んで構成された動力伝達機構を内蔵したミッションケース22が設けられている。ミッションケース22の左側には、無段変速機の一例であるHST23が取り付けられている。
【0023】
図3に示すように、エンジン20の動力は、エンジン20の出力軸20aから、プーリおよびベルト等により構成されたベルト伝動機構24を介して、HST23の入力軸23aに伝達される。入力軸23aに伝達された動力は、HST23からミッションケース22内の動力伝達機構に入力される。ここで、「HST」とは、油圧ポンプを駆動させることで発生させた油圧を油圧モータで再び回転力に変換する方式を採用した油圧式無段変速装置である。
【0024】
ミッションケース22の左右両側には、フロントアクスルケース25が取り付けられている。フロントアクスルケース25の下端部には前車軸26が回転可能に支持されており、前車軸26のフロントアクスルケース25からの左右外側への延出部分に、前輪6が取り付けられている。フロントアクスルケース25内には、ミッションケース22から左右両側に延出した前輪駆動軸の回転動力を前車軸26に伝達する動力伝達機構が設けられている。
【0025】
ミッションケース22の後方には、リアアクスルケース28が設けられている。リアアクスルケース28は、ミッションケース22の後部から延出した伝動軸27によりミッションケース22の動力の伝達を受ける。HST23からミッションケース22内の動力伝達機構に入力された動力は、伝動軸27を回転駆動させる。
【0026】
リアアクスルケース28は、左右両側に、ケース本体部に対して後向きに突出した張出しケース部28aを有する。左右のケース部28aには、後車軸29が回転可能に支持されており、後車軸29の張出しケース部28aからの左右外側への延出部分に、後輪7が取り付けられている。リアアクスルケース28内には、ミッションケース22から伝動軸27により入力された回転動力を左右の後車軸29に伝達する動力伝達機構が設けられている。
【0027】
また、ミッションケース22は、その後部から動力取出軸であるPTO出力軸31を後側に延出している。HST23から動力の入力を受けたミッションケース22内の動力伝達機構は、PTO出力軸31を回転駆動させる。
【0028】
PTO出力軸31の回転動力は、PTO伝動軸32を介して、株間変速ケース33の入力軸34に伝達される。PTO伝動軸32は、PTO出力軸31および入力軸34それぞれに対してユニバーサルジョイント等により連結されている。株間変速ケース33内には、増減速ギアや変速機構等により構成された変速装置36が設けられている。入力軸34に伝達された動力は、株間変速ケース33内の変速装置36により変速され、株間変速ケース33から後側に延出した植付駆動軸35により、苗移植装置3に伝達される。
【0029】
苗移植装置3は、植付駆動軸35により動力の伝達を受ける動力伝達機構を内蔵した植付ミッションケース40と、リンク装置4の後側に連結された植付フレーム41に設けられた苗載台42と、植付ミッションケース40から伝達される動力により駆動する苗植付装置43とを備えている。本実施形態では、左右一対の苗植付装置43を備えている。なお、苗植付装置43は、1つであっても3つ以上であってもよい。
【0030】
苗載台42には、複数の苗マット100が載置される。苗載台42は、表面側(後上側)に、苗マット100の載置を受ける載置面を有し、載置面を後下がりの傾斜状とするように設けられている。本実施形態に係る苗移植機1は、4条植えの構成を備えており、左右方向に並んだ4つの苗載台部46を有する。なお、図示においては、左から2番目の苗載台部46のみに苗マット100を載置した状態が示されているが、実際の植付け作業においては全ての苗載台部46に苗マット100が載置される。
【0031】
各苗載台部46は、板状の部材により構成され苗マット100の載置面部をなす台本体部46aと、台本体部46aの左右の縁部に沿って設けられた低い壁状のガイド部46bとを有する。ガイド部46bは、台本体部46aにおける苗マット100の載置面部に対する突条部分であり、台本体部46aの延伸方向の全体にわたって設けられている。苗載台42は、各苗載台部46の台本体部46aにおいて、セットされた苗マット100を間欠的に縦方向(下方)に移動させる縦送り構造を有する。
【0032】
各苗載台部46には、送出ベルト47が設けられている。本実施形態では、各苗載台部46において、横並びで2列の送出ベルト47が設けられている。送出ベルト47は、背面視で上下方向に沿う方向を送り方向とする無端状のベルトであり、台本体部46aの下部をなすように設けられている。送出ベルト47は、苗マット100の載置を受ける側を下側に移動させるように周回駆動するように構成されており、苗マット100を間欠的に縦送りする。
【0033】
苗載台42の下側には、機体の左右方向に直線状に延伸したガイドレール48が設けられている。ガイドレール48は、苗載台42の下縁部に沿うように設けられており、苗載台42の左右方向の幅よりも長い寸法を有する。ガイドレール48は、苗移植装置3において、植付フレーム41に対して所定の支持部材により支持され固定状態で設けられている。ガイドレール48は、苗載台42に載せられた苗マット100を下側から支持する。
【0034】
苗載台42は、各苗載台部46上に載置された苗マット100を、各植付ユニットに対して供給する。苗載台42は、苗マット100を左右方向(車幅方向)に横送りさせるため、図示せぬ駆動機構により左右方向に往復移動可能に構成されている。つまり、苗載台42は、ガイドレール48に対して、機体の左右方向に往復移動するように設けられている。また、苗載台42は、左右方向の往復移動について移動端に達したタイミングで、送出ベルト47の送り動作により、各苗載台部46上の苗マット100を下方に縦送りするように構成されている。苗載台42の左右方向の移動において、苗載台42上に載置された苗マット100は、ガイドレール48に下側から支持された状態でガイドレール48に沿って移動することになる。
【0035】
苗載台42の下方の位置には、植付フレーム41の一部を構成する横フレーム45が設けられている。横フレーム45は、四角筒状の外形を有する直線状のフレーム部材であり、左右方向に延伸するように横設されている。横フレーム45は、苗移植装置3において左右方向の略全体にわたる範囲に設けられている。
【0036】
横フレーム45上の中央部に、植付ミッションケース40が設けられている。植付ミッションケース40は、その後部を横フレーム45の後側に位置させるように張出し状に設けられており、後側への張出部を有する。横フレーム45の後側に、左右の苗植付装置43が設けられている。左右の苗植付装置43は、苗移植装置3の左右方向の中心に対して左右対称的に構成されている。
【0037】
苗植付装置43は、ロータリ式の植付装置であり、植付伝動ケース51と、植付伝動ケース51の左右両側に設けられた2つのロータリケース52と、各ロータリケース52に対して設けられた植付爪装置50とを有する。つまり、苗移植装置3は、4つの植付爪装置50を有し、4条植えの構成に対応している。植付伝動ケース51の左右両側において、ロータリケース52および植付爪装置50によって植付ユニットが構成されている。
【0038】
植付伝動ケース51は、前後方向を長手方向とした筒状の外形を有し、前端部を横フレーム45の後壁部に対して固定させており、横フレーム45の後側から後方に向けて延伸している。左右の植付伝動ケース51間には、左右方向を軸方向とした植付伝動軸55が設けられている。
【0039】
植付伝動軸55は、複数の軸体を継手等により同軸状に連結した軸であり、植付ミッションケース40に対して回転可能に支持されている。植付伝動軸55は、植付ミッションケース40の後部から左右両側に延出し、左右の植付伝動ケース51の前部において各植付伝動ケース51に対して回転可能に支持されている。植付伝動軸55は、植付ミッションケース40内に設けられた動力伝達機構による動力の伝達を受ける。植付伝動軸55により、植付ミッションケース40と左右の植付伝動ケース51との各ケース内の動力伝動機構同士が連動連結されている。
【0040】
植付伝動ケース51の後部の左右両側に、左右一対のロータリケース52が設けられている。ロータリケース52は、植付伝動ケース51の後端部に対して左右方向を軸方向とする駆動軸52aにより回転可能に取り付けられている。ロータリケース52は、長手状の外形を有し、長手方向の中央部を植付伝動ケース51に対して軸支させている。ロータリケース52の左右外側には、植付爪装置50が取り付けられている。
【0041】
植付爪装置50は、ロータリケース52の長手方向の一端側の部分に対して、左右方向を回転軸方向として回転可能に支持されている。植付爪装置50は、植付伝動ケース51に対するロータリケース52の回転動作に連動するようにロータリケース52に対して連結されている。植付爪装置50は、ロータリケース52の回転にともなって所定の植付け動作をするように構成されている。植付爪装置50は、植付け動作することにより、苗載台42に載置された苗マット100を順次一部ずつ(一株ずつ)掻き取って圃場に植え付ける。苗移植機1の機体の前進にともない、1つの植付爪装置50により1条分の苗の植付けが行われる。
【0042】
ガイドレール48には、苗マット100の被掻取り部分を位置させるとともに植付爪装置50の移動経路を確保する取口部49が設けられている。取口部49は、ガイドレール48の長手方向について、各植付爪装置50に対応する位置に設けられている。したがって、取口部49は、ガイドレール48において4箇所に設けられている。取口部49は、後側を開放側とするとともに平面視で矩形状に沿う形状を有する切欠き状の部分である。
【0043】
以上のような構成を備えた苗移植装置3は、植付ミッションケース40において、植付駆動軸35からの動力の入力を受ける。植付ミッションケース40に入力された駆動力は、植付ミッションケース40内の動力伝達機構によって植付伝動軸55に伝達される。植付伝動軸55の回転駆動力は、左右の苗植付装置43に分配され、植付伝動ケース51内に設けられた複数の伝動軸やギア等を介して、植付伝動ケース51の左右両側のロータリケース52の駆動軸52aに伝達される。駆動軸52aの回転駆動により、左右のロータリケース52が回転動作し、植付ユニットによる苗の連続的な植付け動作が行われる。
【0044】
苗移植機1の動力伝達系において、ロータリケース52の駆動軸52aに入力される回転動力は、HST23により、運転部8に設けられた変速ペダル18等の変速操作部材の操作量に応じて、走行機体2の走行速度とともに変速する。したがって、ロータリケース52の回転速度、つまり苗移植装置3の植付け速度は、走行機体2の走行速度に応じて変化する。詳細には、機体の走行速度が高速となるほど、ロータリケース52の回転周期は短くなり、機体の走行速度が低速となるほど、ロータリケース52の回転周期は長くなる。これにより、走行機体2の走行速度にかかわらず、苗の植付け間隔(株間)が一定となる。
【0045】
また、株間に関し、
図3に示すように、株間変速ケース33内の変速装置36により、ロータリケース52の回転速度を変更することができ、これにより、株間を変更することができる。株間変速ケース33内には、植付クラッチ37が設けられている。植付クラッチ37の操作により、変速装置36から植付駆動軸35への回転動力の断続が操作される。植付クラッチ37の接続/切断の切換え動作は、運転部8に設けられた植付クラッチレバーの操作により操作される。なお、植付クラッチ37の動作は、苗移植機1が備えるコントローラによっても制御可能となっている。
【0046】
苗移植装置3が備える4つの各植付ユニットの後方には、左右一対の覆土輪61が設けられている。覆土輪61は、円錐台状の外形を有し、外周面を圃場に対する作用面として回転自在に支持されている。一対の覆土輪61は、底面側同士を対向させる向きで、各覆土輪61の外周面の下側を略水平とするように傾斜状に設けられており、背面視で略「V」字状をなすように配置されている。
【0047】
覆土輪61は、平面視で苗植付装置43を囲むように枠状に構成された覆土輪支持フレーム62の後辺部62aに対して支持部材を介して支持されている。覆土輪支持フレーム62は、前側の端部を横フレーム45に対して支持させた状態で設けられている。一対の覆土輪61により、植付爪装置50による苗の植付けが行われた部分に対して植付けの直後に覆土輪61が作用することで鎮圧が行われる。
【0048】
また、苗移植装置3においては、植付フレーム41の下部の左右両側に、苗移植装置3を地面に対して支持するスタンド64が設けられている。スタンド64は、略「L」字状に屈曲形成されたパイプ状の部材により構成されており、一側の端部を、横フレーム45に対して支持金具等を介して前後方向を軸方向として回動可能に支持させている。スタンド64は、略水平状の収納状態から、一方の辺部を地面に沿わせるように立った状態となることで、地面に対して苗移植装置3を支持する使用状態となる。なお、図示においては、収納状態のスタンド64を示しており、
図5において使用状態のスタンド64を二点鎖線で示している。
【0049】
苗マット100について、
図8から
図10を参照して説明する。苗マット100は、複数の種子を所定の配列で播種させたものである。苗マット100に播種される種子は、例えばキャベツ、タマネギ、トマト等の野菜の種子である。ただし、種子は、水稲種子であってもよい。苗移植機1による苗の植付けに際し、苗マット100は、種子から苗を成長させた状態で用いられる。
【0050】
図8から
図10に示すように、苗マット100は、略矩形板状の外形を有し、全体として平板状に形成されている。苗マット100においては、矩形状の平面視外形における長手方向(
図9における上下方向)を縦方向とし、同外形における短手方向(
図9における左右方向)を横方向とする。縦方向と横方向とは、苗マット100の平面視において互いに直交する方向となる。
【0051】
苗マット100は、一方の板面側を表面部101とし、他方の板面側を裏面部102とする。苗マット100は、表面部101に、縦方向に所定の間隔を隔てて横方向に沿って形成された複数の表面側溝部103を有する。苗マット100は、横方向の両側の面部である側面部100aと、縦方向の両側の面部である端面部100bとを有する。
【0052】
表面側溝部103は、V字溝であり、苗マット100の側面視でV字状をなす一対の溝形成面103aにより形成されている。表面側溝部103は、その深さD1を、例えば苗マット100の厚さT1の1/3~1/2程度の寸法とするように形成されている。なお、苗マット100は、横方向視(側面視)での外形形状を横方向の全体について略一定としており、表面側溝部103の両端を苗マット100の側面部100aに開放させている。
【0053】
苗マット100において、表面部101側の表面側溝部103により区画された部分が、行ブロック部104となる。行ブロック部104は、表面部101側において、縦方向の両側の表面側溝部103により、相対的に突出した突条部をなしている。表面部101側において、行ブロック部104に複数の播種穴105が形成されている。
【0054】
図8から
図10に示す例では、苗マット100は、横方向に沿う行ブロック部104を縦方向に20行分つなげたものとなっている。なお、
図10において、隣り合う行ブロック部104間の境界を仮想線B1で示している。
【0055】
各行ブロック部104において、複数の播種穴105は、横方向に沿って1列に所定の間隔で設けられている。播種穴105は、例えば略円柱形状の穴部である。播種穴105には、一または複数の種子が入れられる。各行ブロック部104は、仮想平面A1に沿う上面104aを有する。播種穴105は、行ブロック部104の上面104aに臨んで開口している。
【0056】
播種穴105内の種子から成長した苗106は、播種穴105から伸び出て、表面部101から延出した状態となる。また、苗マット100は、播種穴105内の種子から裏面部102側において根が伸びることを許容する材料により形成されている。苗マット100を形成する材料は、有機物によって構成される繊維材料である有機質繊維資材を含む。有機質繊維資材は、例えば、ココピート、ピートモス、籾殻等である。また、苗マット100を形成する材料は、バインダー、土壌改良資材、肥料、土等を含むものであってもよい。なお、
図8および
図9においては苗106の図示を省略している。
【0057】
苗マット100においては、1つの播種穴105の形成部位が、植付爪装置50の植付け動作により1回に掻き取られる(切り取られる)1株分の単位ブロック部108となる。単位ブロック部108は、平面視で播種穴105を中心部とした略正方形状の範囲の部分であり、植付爪装置50によって苗マット100の厚さ方向の全体にわたって掻き取られることで、苗マット100から分離され、略直方体形状あるいは略立方体形状の苗ブロック110(
図15C参照)となる。あくまでも一例であるが、苗ブロック110は、一辺の長さを約30mm程度とした略立方体形状を有する。
【0058】
図8から
図10に示す例では、各行ブロック部104において横方向に10個の播種穴105が形成されており、各行ブロック部104は、植付爪装置50により掻き取られることで苗ブロック110となる単位ブロック部108が10個分つながった部分となっている。なお、
図8および
図9において、苗マット100の端に位置する1つの行ブロック部104について、隣り合う単位ブロック部108間の境界を仮想線B2で示している。
【0059】
また、苗マット100は、裏面部102に、縦方向に所定の間隔を隔てて横方向に沿って形成された複数の裏面側溝部107を有する。裏面側溝部107は、縦方向について、表面側溝部103に対応した位置に形成されている。したがって、裏面側溝部107は、表面側溝部103とともに、縦方向に隣り合う行ブロック部104間の繋がり部分の、苗マット100の厚さ方向(
図10における上下方向)の寸法を短くしている。
【0060】
裏面側溝部107は、U字溝であり、苗マット100の側面視でU字状をなす一対の側面および湾曲状の上湾曲面により形成されている。裏面側溝部107は、その深さD2を、例えば苗マット100の厚さT1の1/4~1/3程度の寸法とするように形成されている。裏面側溝部107は、両端を苗マット100の側面部100aに開放させている。なお、裏面側溝部107の形状はU字溝に限定されない。
【0061】
複数の行ブロック部104は、苗マット100の裏面部102側において、複数の裏面側溝部107により、表面部101側と同様のピッチで区画されている。行ブロック部104は、裏面部102側において、縦方向の両側の裏面側溝部107により、相対的に突出した突条部をなしている。各行ブロック部104は、仮想平面A1と平行な仮想平面A2に沿う下面104bを有する。
【0062】
裏面側溝部107は、送出ベルト47上に載置される苗マット100において、送出ベルト47に設けられた係止用の複数の突条部47a(
図7参照)の嵌合を受ける部分となる。突条部47aは、送出ベルト47の表面から突出した部分であり、左右方向に沿って直線状に形成されている。突条部47aは、例えば矩形状に沿う横断面形状を有する。複数の突条部47aの縦方向の間隔は、苗マット100における複数の裏面側溝部107の縦方向の間隔に対応している。裏面側溝部107は、突条部47aを嵌合させるように突条部47aよりもわずかに幅広に形成されている。
【0063】
苗マット100は、送出ベルト47上に載置された状態において、各裏面側溝部107に突条部47aを嵌合させることで、送出ベルト47に係止された状態となる。これにより、苗マット100は、縦送り動作として周回駆動する送出ベルト47に対して滑ることなく、送出ベルト47による縦送りの作用を確実に受けることができる。つまり、苗載台42は、送出ベルト47により、苗マット100を確実にガイドレール48側へと縦送りすることができる。また、各裏面側溝部107に突条部47aを嵌合させることによる送出ベルト47に対する苗マット100の係止作用により、苗マット100が自重により縦方向に圧縮されることを防止することができる。
【0064】
以上のような苗マット100は、苗移植装置3において、植付爪装置50によって次のようにして掻き取られて圃場に植え付けられる。すなわち、ガイドレール48により支持された部分となる下端の行ブロック部104の左右一側の端部である始端に位置する単位ブロック部108から、苗載台42の左右一方側への移動により、左右他側に向けて順次掻き取られる。つまり、苗マット100は、植付爪装置50による1回の掻取りを受ける周期で、横方向について1つの単位ブロック部108分の距離だけガイドレール48に沿って移動し、順次新たな単位ブロック部108が被掻取り位置である取口部49上に位置することになる。
【0065】
下端の行ブロック部104が始端側から順次掻き取られ、下端の行ブロック部104の左右他側の端部である終端の単位ブロック部108が掻き取られたタイミングで、送出ベルト47の動作により、苗マット100が行ブロック部104の一行分下側へと送られ(縦送りされ)、苗マット100は新たに下端に位置することになった行ブロック部104の端面部100b側からガイドレール48に支持された状態となる。つまり、新たな行ブロック部104が被掻取り部分としてガイドレール48上に位置した状態となる。そして、直前での終端側が始端側となり、折り返して左右他方側へ移動する苗載台42により苗マット100が移動しながら、単位ブロック部108が順次掻き取られる。
【0066】
このように、苗マット100は、苗載台42の左右往復移動による横送り、および送出ベルト47の間欠的な動作による縦送りにより、下側から上側にかけて左右方向に往復する順番で、所定の軌跡を描いて回転する植付爪装置50によって単位ブロック部108毎に掻き取られる。
【0067】
苗マット100において、ガイドレール48に支持される側となる端面部100bは、溝形成面103aと、裏面側溝部107の幅方向の略半分の形状に対応した溝形成面107aと、溝形成面103aと溝形成面107aとの間の中間面109aとを有する。苗マット100は縦方向について行ブロック部104を単位として周期的な形状を有することから、端面部100bの形状は、植付爪装置50による掻取りを受ける前の苗マット100における下側の端面部100bと、少なくとも一行の行ブロック部104が掻き取られた後の苗マット100における端面部100bとで略同じとなっている。植付爪装置50による掻取りを受けた状態の端面部100bにおいては、中間面109aが、植付爪装置50による切断面となる。
【0068】
このように、苗移植機1が用いる苗マット100は、苗載台42の載置面側と反対側の面である表面側(表面部101側)に、植付爪72による切取りの単位に対応するとともに縦送り方向に直交する方向に延伸した溝部として表面側溝部103を有する。
【0069】
植付爪装置50の構成について、
図6、
図11から
図13を用いて説明する。
図6、
図11から
図13に示すように、植付爪装置50は、アーム部71と、アーム部71に固定された状態で設けられた植付爪72と、アーム部71に対して移動可能に設けられた押出部材73と、植付爪72に対向するように設けられた保持部材としての保持板74と、保持板74を支持する保持板支持部75とを有する。
【0070】
植付爪装置50は、ロータリケース52に対する連結部分を基部70とし、アーム部71や植付爪72等を基部70から所定の方向に向けて直線状に延出させた延出部を有し、植付爪72の先端を延出部の先端としている。以下では、植付爪装置50における延出部の延出方向(
図12における矢印C1の方向)に沿う向きを「爪延出方向」とする。また、植付爪装置50において、爪延出方向についての植付爪72の先端側を前側とし、その反対側を後側とする。
【0071】
アーム部71は、植付爪装置50の爪延出方向を筒軸方向とした略筒状の部分である。アーム部71は、基部70と一体の部分として基部70から爪延出方向に延出している。
【0072】
植付爪72は、略矩形板状の爪基部81と、爪基部81の長手方向の一側から爪延出方向に延出した2つの爪本体部82とを有し、先端側を二股状とした構成を有する。植付爪72は、全体として略一定の幅を有し、幅方向を左右方向とするとともに、長手方向を爪延出方向に沿わせた向きで設けられている。
【0073】
爪基部81は、扁平な略「U」字状の横断面形状をなす屈曲板状の部分であり、平面部と左右両側の側壁部とを有する。爪基部81の前端部の上側から、爪本体部82が爪延出方向に延出している。
【0074】
植付爪72は、爪基部81において爪延出方向に間隔をあけて設けられた2箇所の固定部によりアーム部71の上側に固定されている。植付爪72の固定部は、アーム部71から上側に突出するとともに爪基部81の平面部を貫通した雄ネジ部83にナット84を螺合させた締結固定部である。
【0075】
一対の爪本体部82は、爪基部81の幅方向の両縁部から爪延出方向に沿って直線状に延出している。一対の爪本体部82は、互いの間に略一定幅の間隔をあけて平行状に形成されており、一対の爪本体部82の間には空間部85が形成されている。
【0076】
各爪本体部82は、先端部を先鋭状に形成された先鋭部82aとしている。一対の爪本体部82は、左右方向について略対称の形状を有する。各爪本体部82は、上面部82bと左右外側の側面部82cとにより、略「L」字状の横断面形状をなしている。左右の爪本体部82の側面部82c間の間隔は、苗ブロック110の横方向の寸法と略同じとなっている。つまり、苗マット100における単位ブロック部108の横方向の寸法は、左右の側面部82c間の間隔と略同じとなっている。
【0077】
押出部材73は、アーム部71の前側に設けられており、アーム部71に対して、爪延出方向に沿って往復移動するように設けられている。押出部材73は、植付爪72の一対の爪本体部82の下側に設けられている。押出部材73は、プッシュロッド86と、プッシュロッド86の先端側に設けられた押圧片87とを有する。
【0078】
プッシュロッド86は、アーム部71をシリンダ部としてアーム部71とともにシリンダ機構を構成するロッド部であり、アーム部71の先端から爪延出方向に沿って延出している。プッシュロッド86は、アーム部71からの突出量を変化させるようにアーム部71に対して往復移動する。プッシュロッド86は、先端部をロッド本体部に対して上側に向けて直角状に屈曲させた屈曲部86aとしている。
【0079】
押圧片87は、平板状の支持板部87aと、支持板部87aの幅方向の両側に設けられた左右の側壁部87bと、前壁部87cとを有する。前壁部87cは、プッシュロッド86の軸方向視で支持板部87aおよび左右の側壁部87bの形状に対応して、上側を開放側とした切欠部87d(
図13参照)によりプッシュロッド86の軸方向視で略「U」字状をなす形状を有する。
【0080】
押圧片87においては、前壁部87cの前側の壁面が、苗ブロック110に対する押圧面87eとなる。押圧片87においては、支持板部87a上における左右の側壁部87b間に、前側を切欠部87dにより開放させた空間部95が形成されている。押圧片87は、アーム部71に対してプッシュロッド86と一体的に移動する。
【0081】
押圧片87は、支持板部87aにプッシュロッド86の屈曲部86aを貫通させた状態で、プッシュロッド86に溶接等によって固定されている。押圧片87は、側壁部87bにおいて、後部に対して前部の上下方向の寸法を大きくした形状を有する。押圧片87は、左右の側壁部87bの前部の上縁部を、爪本体部82に沿わせるとともに略「L」字状の横断面形状を有する爪本体部82の内側に位置させている。
【0082】
押出部材73は、アーム部71に対する移動について、後端位置である保持位置(
図15A参照)と、前端位置である押出位置(
図15B参照)との間で往復移動する。
【0083】
押出部材73の保持位置は、植付爪装置50における押出部材73の待機位置であって、植付爪装置50が苗ブロック110を保持する状態での位置である。押出部材73が保持位置にある状態で、押圧片87は、爪延出方向について爪本体部82の中間部に位置する。
【0084】
押出部材73の押出位置は、アーム部71に対する押出部材73の前進端の位置であって、植付爪装置50が苗ブロック110を押し出した(放出した)状態での位置である。押出部材73が押出位置にある状態で、押圧片87は、爪延出方向について前端を爪本体部82の先鋭部82aと略同じ位置に位置させる。
【0085】
保持板74は、側面視で所定の屈曲形状を有する板状の部材であり、弾性変形を可能としている。保持板74は、幅方向を左右方向とした向きで、アーム部71における植付爪72の固定側と反対側である下側から爪延出方向に向けて延出している。保持板74は、一対の爪本体部82の下側において、爪本体部82に対向するように設けられている。保持板74は、例えば数ミリメートル程度の厚さの板金等によって形成されている。
【0086】
保持板74は、側面視での屈曲形状をなす部分として、後側(アーム部71側)から前側(爪本体部82の先端側)にかけて順に、基部板部74a、傾斜板部74b、および先端屈曲部74cを有する。保持板74は、爪突出方向について、先端の位置を、爪本体部82の先端の位置と略一致させている。
【0087】
基部板部74aは、爪延出方向に沿って延伸した部分であり、爪本体部82と平行状の部分である。基部板部74aは、保持板74の長手方向の略半分をなしている。傾斜板部74bは、基部板部74aに対して鈍角をなすように屈曲した部分である。側面視において基部板部74aと傾斜板部74bとがなす角度は例えば140°程度である。保持板74は、傾斜板部74bにより、後側から前側にかけて徐々に爪本体部82との間の間隔を狭くしている。
【0088】
先端屈曲部74cは、傾斜板部74bに対して直角状あるいは鈍角をなすように屈曲した部分である。側面視において傾斜板部74bと先端屈曲部74cとがなす角度は例えば100°程度である。保持板74は、先端屈曲部74cにより、爪本体部82との間の間隔を後側から前側にかけて徐々に広げている。
【0089】
保持板74は、傾斜板部74bと先端屈曲部74cとによる上側(爪本体部82側)に凸の稜線部74dを、爪本体部82の先端部近傍に位置させている。左右の爪本体部82と保持板74の稜線部74dとの間の間隔は、苗ブロック110の縦方向の寸法よりもわずかに小さくなっている。つまり、苗マット100における単位ブロック部108の縦方向の寸法は、爪本体部82と稜線部74dとの間の間隔に対してわずかに小さくなっている。
【0090】
保持板74は、爪本体部82により掻き取られた苗ブロック110を、爪本体部82とともに挟み込んで保持する板バネとして機能する。つまり、保持板74は、その自然状態に対して弾性変形によって爪本体部82との間の間隔を広げた状態で、付勢力を持って一対の爪本体部82とともに苗ブロック110を挟持する。保持板74は、保持板支持部75に固定された状態で支持されている。
【0091】
保持板支持部75は、左右方向を板厚方向とした板状の部材により構成されており、植付爪装置50の基部70に対して、左右方向について植付伝動ケース51側と反対側に取り付けられている。保持板支持部75は、ボルト88によって基部70に締結固定されている。
【0092】
保持板支持部75は、上縁部を、アーム部71の下方近傍に位置させている。保持板支持部75の前部の上縁部に、保持板74が固定されている。保持板74は、基部板部74aの左右一側(植付伝動ケース51側)に、基部板部74aに対して直角状に屈曲した固定面部74eを有する。保持板74は、固定面部74eを保持板支持部75の左右一側に沿わせた状態で、保持板支持部75を貫通するボルト89とこれに螺合するナット90によって前後2箇所で保持板支持部75に締結固定されている。なお、保持板74は、アーム部71に対して直接取り付けられたものであってもよい。
【0093】
ガイドレール48の構成について、
図11から
図14を用いて説明する。ガイドレール48は、苗載台42の下側に設けられており、苗載台42上に載置された苗マット100の下側の端面部100bの接触を受けて苗マット100を支持することで、植付爪72の軌道に対して苗マット100の位置を規定する。
【0094】
ガイドレール48は、所定の屈曲形状を有する板状の部材により、長手方向の略全体にわたって両側の端面の形状(側面視形状)と同じ一定の横断面形状をなすように構成されている。ガイドレール48は、側面視形状をなす部分として、概略的に、苗載台42の載置面に沿うように後下がりに傾斜した前傾斜面部121と、前傾斜面部121とともに側面視で略「V」字状をなす後傾斜面部122とを有し、これらの面部によって樋状に構成されている。
【0095】
ガイドレール48は、平面視における前側の部分をなす第1レール部材123と、平面視における後側の部分をなす第2レール部材124とを複数の連結部材125により連結させた構成を有する。第1レール部材123により、前傾斜面部121の上側の部分が形成されており、第2レール部材124により、前傾斜面部121の下側の部分と後傾斜面部122とが形成されている。
【0096】
連結部材125は、第1レール部材123と第2レール部材124の端面同士の合わせ部120に跨るように、前傾斜面部121の裏側(苗マット100の載置側と反対側)に位置している。連結部材125は、左右方向を長手方向とした幅狭の板状部材であり、左右方向に複数設けられている。連結部材125は、第1レール部材123の後縁部および第2レール部材124の前縁部のそれぞれを貫通する固定ネジ126の螺挿を受けることで、第1レール部材123と第2レール部材124を互いに連結させている。なお、ガイドレール48は、一体のレール部材により構成されたものであってもよい。
【0097】
ガイドレール48は、長手方向の複数箇所(4箇所)に、苗マット100のうち植付爪72により切り取られる部分(単位ブロック部108)を位置させる切欠状の取口部49を有する。
図13に示すように、取口部49は、後側を開放側とした切欠き形状をなす部分として、左右方向に互いに対向する左右の側縁部49aと、左右方向に沿う前縁部49bとを有する。また、取口部49の開口縁部の左右両側の角部には、側縁部49aに対する傾斜辺をなす面取部49cが形成されている。左右の面取部49cにより、取口部49の開口端部の左右幅が拡開状に広がっている。取口部49は、平面視での前後方向について前傾斜面部121および後傾斜面部122の全体にわたる範囲に切欠き状に形成されている。
【0098】
図13に示すように、取口部49の左右の幅寸法G1、つまり左右の側縁部49a間の間隔は、所定の幅を有する植付爪72の幅寸法G2と略同じとなっている。詳細には、ガイドレール48は、取口部49の幅寸法G1について、植付爪72の幅寸法G2に対してわずかに大きい寸法を有する。
図13に示すように、植付爪装置50は、左右方向について、植付爪72の左右の側面を、取口部49の左右の側縁部49aに対して所定の隙間G3分内側に位置させるように設けられている。隙間G3の大きさは、例えば数ミリメートル(例えば3mm)である。なお、植付爪装置50は、左右方向について所定の位置を保持しながら植付け動作を行うように構成されており、植付爪装置50の植付け動作において、隙間G3の大きさは保持される。
【0099】
ガイドレール48は、苗マット100の下側の端面部100bの接触を受ける接触支持面部130と、接触支持面部130に対して凹状溝131を形成し苗マット100の下側の端面部100bとの間に空間132をなす溝形成部133とを有する。そして、接触支持面部130は、苗マット100の表面側溝部103を形成する溝形成面103aに沿う形状を有する。接触支持面部130は、溝形成面103aに沿う部分として、傾斜支持面部134を有する。
【0100】
接触支持面部130は、後傾斜面部122のうち、ガイドレール48の幅方向(平面視で前後方向に沿う方向)の後側の部分である。接触支持面部130は、概略的に後上がりの傾斜状の面部をなす後傾斜面部122における後上側の部分として設けられている。
【0101】
接触支持面部130において、傾斜支持面部134は、苗載台42上に載置されたセット状態の苗マット100の下側の端面部100bの溝形成面103aの接触を受ける部分となる。傾斜支持面部134は、苗マット100の表面側溝部103の形状等に応じて、セット状態の苗マット100の下側の端面部100bにおける溝形成面103aと平行または略平行となるように傾斜している。
【0102】
接触支持面部130は、傾斜支持面部134の後側に、ガイドレール48の後側の縁端部をなす縁端面部135を有する。接触支持面部130は、傾斜支持面部134と縁端面部135により、側面視で鈍角状をなす屈曲面部として形成されている。
【0103】
図14に示す例では、傾斜支持面部134は、側面視での苗載台42の載置面の傾斜方向(矢印H1参照、以下「載置面傾斜方向」という。)に対する垂直方向に対してなす角度θ1が約30°となるように傾斜している。ただし、傾斜支持面部134の傾斜角度は限定されるものではなく、苗マット100の表面側溝部103の形状等に対応して適宜定められる。
【0104】
以下では、側面視において載置面傾斜方向に直交する方向を載置面直交方向(
図14、矢印H2参照)とする。載置面傾斜方向は、苗マット100の縦送り方向に対応している。また、セット状態の苗マット100の縦方向が載置面傾斜方向に対応し、セット状態の苗マット100の厚さ方向が載置面直交方向に対応する。
【0105】
溝形成部133は、後傾斜面部122の前下側の部分と、前傾斜面部121の後下側の部分とにより形成されている。溝形成部133は、後傾斜面部122により形成された部分として、側面視で載置面傾斜方向に沿う面部である後溝側面部136と、側面視で載置面直交方向に沿う面部である溝底面部137とを有する。
【0106】
また、溝形成部133は、前傾斜面部121により形成された部分として、側面視で載置面傾斜方向に沿う前溝側面部138を有する。前溝側面部138は、前傾斜面部121の下端側の部分であって、載置面直交方向について後溝側面部136に対向した部分である。後溝側面部136および前溝側面部138は、それぞれ溝底面部137の載置面直交方向の両側において溝底面部137に対して角部を湾曲面部(R形状部)として直角状をなすように屈曲した部分である。
【0107】
このように、溝形成部133は、後溝側面部136および前溝側面部138並びに溝底面部137により、セット状態の苗マット100側を開放側とするとともに側面視で略矩形状に沿う略U字状の溝部を形成している。後溝側面部136の上側に傾斜支持面部134の下側が繋がっている。後溝側面部136と傾斜支持面部134は、側面視で鈍角状の屈曲面部を形成している。
【0108】
前溝側面部138の上側は、前傾斜面部121の上部として側面視で載置面傾斜方向に沿って延設されている。前傾斜面部121の上縁部に対しては、角部を湾曲面部として直角状をなすように前側に屈曲状に形成された支持縁部139が設けられている。
【0109】
図14に示すように、ガイドレール48に支持された苗マット100は、ガイドレール48に対して、端面部100bにおける溝形成面103aを傾斜支持面部134の内側面134aに接触させるとともに、溝形成面103aよりも下側(下面104b側)の部分を、凹状溝131内に臨ませた状態で支持されている。つまり、苗マット100は、端面部100bについて、傾斜支持面部134に接触する溝形成面103aによりガイドレール48に支持されるとともに、中間面109aおよび溝形成面107aを、空間132を介して溝底面部137に対向させた状態となる。傾斜支持面部134の内側面134aは、横送りされる苗マット100に対する摺動面つまりガイド面となる。
【0110】
ガイドレール48において、後側の縁部をなす縁端面部135は、側面視において、苗マット100に対して載置面直交方向について上面104aよりも上側に延出した部分となる。また、ガイドレール48において、前傾斜面部121の表面121aが、下端の行ブロック部104の下面104bの接触を受ける面となる。前傾斜面部121は、載置面傾斜方向について、少なくとも一行分の行ブロック部104の全体を含む長さ(幅)を有する。
【0111】
以上のように、ガイドレール48は、側面視での屈曲形状をなす部分として、下部を前溝側面部138とする前傾斜面部121と、前溝側面部138とともに凹状溝131を形成する後溝側面部136および溝底面部137と、接触支持面部130をなす傾斜支持面部134および縁端面部135とを有する。
【0112】
ガイドレール48において、凹状溝131の取口部49に対する開口端部には、凹状溝131の凹みを無くしたまたは凹状溝131の凹みを小さくした切断補助部140が設けられている。切断補助部140は、各取口部49の左右両側に設けられており、各取口部49の左右両側の切断補助部140は、左右方向について対称的に構成されている。なお、
図14においては切断補助部140の図示を省略している。
【0113】
切断補助部140は、取口部49の左右両側において、凹状溝131の深さ分、凹状溝131を部分的に底上げした部分である。切断補助部140は、ガイドレール48における凹状溝131の取口部49に対する開口端部に、切断補助部材150を取り付けることにより設けられている。切断補助部材150は、略矩形板状ないしブロック状の金属製の部材であり、凹状溝131に嵌った状態で、ガイドレール48に固定されている。
【0114】
図11および
図13に示すように、切断補助部材150は、平面視で矩形状の外形を有し、長手方向を凹状溝131の延伸方向とする向きで設けられている。切断補助部材150は、長手方向の一側の端面である第1端面151と、長手方向の他側の端面である第2端面152とを有する。切断補助部材150は、その幅方向の寸法を、凹状溝131の幅の寸法と略同じとしており、凹状溝131の後溝側面部136と前溝側面部138との間に嵌合した態様で設けられている。また、切断補助部材150は、水平状の上面156を有する。
【0115】
切断補助部材150は、1本のネジ161によりガイドレール48に固定されている。ネジ161は、ガイドレール48の下側から、凹状溝131の溝底面部137を貫通し、切断補助部材150に形成されたネジ孔158に螺挿されている。ネジ孔158は、切断補助部材150の厚さ方向に貫通形成されている。溝底面部137には、ネジ161を貫通させるための孔部137bが形成されている(
図14参照)。
【0116】
切断補助部材150は、第1端面151を、ガイドレール48の取口部49側とする向きで設けられている。切断補助部材150は、第1端面151を、取口部49の側縁部49aをなす端面と面一状とするように設けられている。
【0117】
以上のようにガイドレール48の凹状溝131に対して切断補助部材150を取り付けた構成において、上面156により、凹状溝131の底面137aをその溝深さ分底上げした切断補助面が形成されている。つまり、切断補助部140は、凹状溝131において凹みを無くした部分であり、切断補助部140においては、切断補助部材150により、切断補助部材150の厚さ分、凹状溝131の底面137aに対する底上げ面として上面156が形成されている。なお、底面137aは、溝底面部137の内側面である。
【0118】
本実施形態では、切断補助部材150は、凹状溝131の深さと略同じ厚さを有し、凹状溝131における切断補助部材150の配設部位においては、凹状溝131の深さ方向の略全体が切断補助部材150により埋まっている。つまり、切断補助部材150の配設部位においては、切断補助部材150により凹状溝131の開口端部が塞がれ、凹状溝131の凹みが無くなっている。なお、切断補助部140は、ガイドレール48に切断補助部材150を取り付けた構成ではなく、ガイドレール48自体の形状部分として設けられてもよい。
【0119】
以上のような構成を備えた植付爪装置50の動作について、
図15および
図16を用いて説明する。
図15A~
図15C、並びに
図16Aおよび
図16Bに示すように、植付爪装置50は、ロータリケース52(
図6参照)の駆動軸52aによる回転にともなって、ガイドレール48上に支持された苗マット100からの苗ブロック110の取出し(掻取り)、苗ブロック110を一時的に保持した状態での搬送、および苗ブロック110の植付けを繰り返し行うように連続的に回動する。
【0120】
図15Aは、植付爪装置50が苗マット100を掻き取る直前の状態を示している。
図15Aに示すように、植付爪装置50は、苗マット100を下側から支持したガイドレール48に対して爪本体部82を上後側から近付ける。植付爪装置50は、ガイドレール48に支持された苗マット100の下端の行ブロック部104の1つの単位ブロック部108を掻取り対象とし、その単位ブロック部108に爪本体部82を近付ける。掻取り対象の単位ブロック部108は、ガイドレール48の取口部49上に位置している。
【0121】
図15Bに示すように、植付爪装置50は、苗マット100に対し、爪本体部82の先端を、掻取り対象の単位ブロック部108の上側の表面側溝部103から切り込ませる。
【0122】
そして、植付爪装置50が振り下ろされる態様で前下側に移動することで、
図15Cに示すように、植付爪72により単位ブロック部108が掻き取られ、苗ブロック110として植付爪装置50に保持された状態となる。ここで、単位ブロック部108は、一対の爪本体部82と保持板74との間に挟まれながら掻き取られる。単位ブロック部108の掻取りにおいて、爪本体部82と保持板74との先端部間の間隔を広げた先端屈曲部74cによってガイド作用が得られる。また、掻取り対象の単位ブロック部108は、爪本体部82の先端を受け入れる表面側溝部103の溝形状によりガイド作用を受ける。
【0123】
苗マット100の掻取りにおいて、植付爪装置50は、ガイドレール48に対して、側面視で爪本体部82の先端部の移動軌跡について所定の軌跡E1(
図12参照)を描きながら苗マット100に作用する。軌跡E1は、ガイドレール48の近傍において上側を凸側とした湾曲形状を有し、全体としてループ状となる。爪本体部82の先端部は、側面視において、隣り合う行ブロック部104間の境界(
図10、仮想線B1)の近傍を通過する。
【0124】
また、苗マット100の掻取りにおいて、ガイドレール48の取口部49に対する開口端部に切断補助部140が設けられていることから、良好な切断性(切削性)を得ることができる。すなわち、切断補助部140により、上側から植付爪72による作用を受ける苗マット100の下側において、苗マット100の逃げ空間となる凹状溝131の空間132を埋めることができ、凹状溝131の形成部位においても苗マット100を下側から支持することができるので、苗マット100の逃げが防止され、良好な剪断作用を得ることができる。これにより、安定した掻取りを行うことが可能となる。
【0125】
図15Cに示すように、植付爪72により掻き取られた苗ブロック110は、一対の爪本体部82と保持板74との間に挟持されて保持される。一対の爪本体部82とともに苗ブロック110を保持する保持板74においては、稜線部74dが苗ブロック110に対する主な当接部分となる。例えば、苗ブロック110の保持状態において、保持板74の弾性変形により、一対の爪本体部82と保持板74との間の間隔が、苗ブロック110の保持前の状態と比べて広がる。
【0126】
植付爪装置50に保持された状態の苗ブロック110の後側には、押圧片87が位置している。また、植付爪装置50において、左右の爪本体部82間の空間部85および押圧片87の空間部95(
図11参照)は、保持された状態の苗ブロック110の苗106を位置させる空間部分となり、植付爪装置50に対する苗106の干渉が避けられる。
【0127】
図16Aに示すように、苗ブロック110を保持した状態の植付爪装置50は、植付爪72の先端部を下側に向けながら下方に移動する。そして、
図16Bに示すように、植付爪装置50は、植付爪72の先端部を圃場面91より下側の圃場内に位置させる所定のタイミングで、押出部材73により苗ブロック110を押し出す(放出する)。植付爪装置50は、アーム部71に対して押出部材73を前側に移動させることで、押出部材73により苗ブロック110を爪延出方向に向けて押し出す(矢印F1参照)。苗ブロック110は、押出部材73による押出しの勢いをともなって放出され圃場に対して所定の植付け深さで植え付けられる。
【0128】
押出部材73による苗ブロック110の押出しにおいて、押出部材73は、押圧片87の押圧面87eを苗ブロック110への接触面として苗ブロック110に押圧作用する。苗ブロック110に対する押圧面87eの接触面は、苗マット100における上面104aに相当する面となる。また、押出部材73は、アーム部71に対して付勢力をもって前側に移動し、苗ブロック110を弾き出す態様で押し出す。また、苗ブロック110は、圃場に植え付けられる際、保持板74により後側から覆われているため、圃場に対する衝突から保護される。
【0129】
圃場に苗ブロック110を植え付けた植付爪装置50は、押出位置にある押出部材73を徐々に保持位置に戻しながら、圃場面91に対して上昇するように移動する。そして、植付爪装置50は、植付爪72をガイドレール48の後上側に位置させる位置に戻り、次の掻取り対象の単位ブロック部108の掻取りおよび苗の植付けを行う。このように、植付爪装置50は、爪本体部82の先端部についてループ状の軌跡E1を描くように回動しながら、1サイクルで1つの単位ブロック部108の掻取りおよび苗ブロック110の植付けを行い、機体の前進にともなって一列に所定の株間で連続的な苗の植付けを行う。
【0130】
苗マット100においては、下端の行ブロック部104、つまりガイドレール48上に位置する行ブロック部104が、左右のいずれかの方向に向かう苗マット100の横送りの一行程における掻取り対象となる。苗マット100を左右一方へ横送りしながらの植付爪装置50による連続的な植付け動作により、下端に位置する行ブロック部104の単位ブロック部108がすべて掻き取られた所定のタイミングで、送出ベルト47により苗マット100が一行分縦送りされる。
【0131】
苗マット100の縦送り後、新たに下端に位置した行ブロック部104について、苗マット100を左右他方へ横送りしながらの単位ブロック部108の連続的な掻取りが順次行われる。このように、苗マット100は、横送りによって左右方向に往復移動しながら、間欠的に縦送りされ、植付爪装置50により、下側の行ブロック部104から順次掻き取られていく。
【0132】
以上のように、苗移植機1は、苗載台42上に載置した苗マット100を機体の左右方向に沿う横送り方向に送るとともに、間欠的に苗マット100を平面視で機体の前後方向に沿う縦送り方向に送りながら、植付爪72によって苗マット100を一部ずつ切り取って連続的に苗106を圃場に植え付けていくように構成されている。
【0133】
以上のような構成を備えた苗移植機1は、苗移植装置3において、植付爪72による苗の植付けに際して圃場に溝を形成したり土をほぐしたりといった圃場に対する前処理をするための部材として、作溝器200を備えている(
図1、
図4、
図5参照)。作溝器200は、4つの植付爪装置50のそれぞれに対応して設けられており、苗移植装置3は、4つの作溝器200を有する。
【0134】
作溝器200は、植付爪72の動軌跡である軌跡E1の下部の前方に設けられている。植付爪72の軌跡E1は、爪本体部82の先端部の移動軌跡(回動軌跡)である。作溝器200は、所定の植付け動作を行う植付爪装置50の前方において、植付フレーム41に対して固定された状態で下側に突出するように設けられている。
【0135】
作溝器200について、
図17から
図21を用いて説明する。
図17から
図21に示すように、作溝器200は、全体として長手状の部材であり、長手方向を後下がりの傾斜方向とするように設けられている。作溝器200は、作溝器本体部201と、左右の側面形成部としての側板部202とを有する。
【0136】
作溝器本体部201および左右の側板部202は、一体の作溝器200を構成している。作溝器200は、左右方向について対称に構成されている。作溝器200は、金属製の部材により構成されている。ただし、作溝器200は、樹脂製の部材により構成されてもよい。
【0137】
作溝器本体部201は、側面視で前下側を突側とした湾曲形状をなす部分を有する。本実施形態では、作溝器本体部201は、丸パイプ状の部分である。すなわち、作溝器本体部201は、円形状の横断面形状を有するとともに側面視で所定の形状を有するパイプ部材によって構成されている。
【0138】
作溝器本体部201は、その側面視形状をなす中空状のパイプ部分として、上側から下側にかけて順に、上傾斜部211と、湾曲部212と、下傾斜部213とを有する。作溝器本体部201は、全体として略一定のパイプ径を有する。作溝器本体部201は、平面視および背面視において前後方向に沿う直線形状を有する。作溝器本体部201の上端および下端は、それぞれ円周形状の開口端面201a,201bをなすように開口している。ただし、作溝器本体部201の上端および下端は、閉塞されていてもよい。
【0139】
上傾斜部211は、後下がりに傾斜した直線状の部分であり、作溝器本体部201の上側の大部分を形成している。側面視において上傾斜部211の延伸方向が水平方向に対してなす角度は60°程度である。上傾斜部211の上端部(前端部)が、作溝器本体部201の上端部(前端部)となる。
【0140】
湾曲部212は、前下側を凸側とした円弧状の部分であり、上傾斜部211の下側に連続している。側面視において湾曲部212がなす円弧形状の角度範囲は例えば45°程度である。湾曲部212は、上傾斜部211と下傾斜部213との間において湾曲状の角部を形成している。湾曲部212は、曲げRを大きくした比較的緩やかな湾曲部分となっている。湾曲部212が、作溝器本体部201において、側面視で前下側を突側とした湾曲形状をなす部分となる。なお、湾曲部212は、側面視で湾曲形状をなす部分であればよく、円弧状の部分に限られない。
【0141】
下傾斜部213は、後下がりに傾斜した直線状の部分であり、作溝器本体部201の下端部を形成している。下傾斜部213の水平方向に対する傾斜角度は、上傾斜部211よりも緩やかである。側面視において下傾斜部213の延伸方向が水平方向に対してなす角度は20°程度である。したがって、側面視において上傾斜部211の軸方向と下傾斜部213の軸方向とがなす角度は140°程度となる。また、下傾斜部213は、上傾斜部211の長さの1/3~1/4程度の長さを有する。下傾斜部213の下端部(後端部)が、作溝器本体部201の下端部(後端部)となる。
【0142】
作溝器本体部201は、平面断面視で前側を突側とした湾曲形状をなす前側湾曲面215を形成している。作溝器本体部201は、平面断面視において、円周形状または前後方向を長手方向とした楕円形状の断面形状を有する(
図21参照)。作溝器本体部201においては、パイプ状をなす周壁の前側の部分である前側周壁部216により、前側湾曲面215が形成されている。
【0143】
前側周壁部216は、平面断面視において、前後方向について、パイプ状の作溝器本体部201の中心線の位置O1よりも前側の部分が、前側周壁部216となる(
図21参照)。前側周壁部216の外周面が、前側湾曲面215となる。したがって、前側湾曲面215は、半円筒状の面となる。作溝器本体部201において、前側湾曲面215は、作溝器本体部201の長さ方向の全体にわたって形成されている。
【0144】
側板部202は、作溝器本体部201の背面側に設けられ、左右の側面203を形成する側壁状の部分である。側板部202は、左右方向を板厚方向として全体として略一定の板厚を有する板状の部分であり、作溝器本体部201に対して側面視における内周側となる後上側に突出するように設けられている。
【0145】
左右の側板部202は、左右方向に対向するように互いに平行状に設けられている。側板部202は、作溝器本体部201の長さ方向の略全体にわたって設けられている。側板部202は、作溝器本体部201を構成するパイプ部材に対して板状の部材を溶接等によって固定することにより設けられている。
【0146】
側板部202は、作溝器本体部201に対して後上側に張り出しており、側面視で湾曲形状により凹状の部分をなす作溝器本体部201に対して、凹部を埋めるとともに後側に張り出した態様で設けられている。側板部202は、側面視外形をなす辺部として、前側直線辺部202a、前側傾斜辺部202b、後側湾曲辺部202c、後側直線辺部202d、および下側辺部202eを有する。
【0147】
前側直線辺部202aは、作溝器本体部201の上側の開口端面201aに沿って立ち上がった辺部である。前側傾斜辺部202bは、前側直線辺部202aとともに鈍角状の角部をなし、上傾斜部211よりも緩やかな傾斜で後下がりに傾斜した辺部である。
【0148】
後側湾曲辺部202cは、前側傾斜辺部202bの後側から緩やかな凹状の湾曲形状をなす辺部である。後側直線辺部202dは、作溝器本体部201の下側の開口端面201bに沿って立ち上がり、後側湾曲辺部202cとともに鈍角状の角部をなす辺部である。下側辺部202eは、作溝器本体部201の上傾斜部211、湾曲部212および下傾斜部213による側面視形状に沿った形状を有する辺部である。
【0149】
左右の側板部202においては、左右外側の板面が、作溝器200における側面203となる。このように、作溝器200は、側面形成部として、左右の側面203を形成する左右の側板部202を有する。側板部202は、作溝器本体部201からの突出方向、つまり作溝器本体部201に対する高さ方向について、例えば、作溝器本体部201の外径の寸法に対して1~2倍の寸法を有する。
【0150】
左右の側板部202は、下側の縁部により、作溝器本体部201の長さ方向の略全体にわたって、作溝器本体部201の上側(内周側)の約1/4の部分を左右外側から覆うように設けられている。すなわち、左右の側板部202は、側面視において、作溝器本体部201の後上側(内周側)の縁端から作溝器本体部201の外径の約1/4前下側(外周側)に下側辺部202eを位置させるように設けられている。したがって、作溝器本体部201は、前下側の約3/4の部分を、側板部202から露出させている。
【0151】
また、左右の側板部202は、作溝器200の横断面視において作溝器本体部201に対して接線状につながるように設けられている。これにより、左右の側板部202は、作溝器本体部201の周壁部と略連続した壁面部を形成している。
【0152】
左右の側板部202は、左右方向について、外側の板面である側面203の位置を、作溝器本体部201の左右の縁端の位置に合わせるように設けられている。つまり、
図21に示すように、左右の側面203の間の左右方向の間隔の寸法N1は、作溝器本体部201の左右方向の寸法(外径)N2と一致または略一致している。本実施形態では、左右の側面203の間の寸法N1は、作溝器本体部201の外径N2よりもわずかに大きく、作溝器200全体としての左右方向の寸法となっている。なお、左右の側面203の間の寸法N1は、例えば20~30mmの範囲内の大きさである。
【0153】
このように作溝器本体部201の上側において左右の側板部202を設けた構成においては、作溝器本体部201の上側に、左右の側板部202間の空間部をなす溝部210が形成されている。溝部210は、作溝器本体部201の後上側(内周側)の略1/4の周壁部の外周面204と、左右の側板部202の内側面205とにより形成されている。
【0154】
作溝器200において、左右の側板部202は、左右の側面203間の間隔を、植付爪72の左右方向の寸法と略等しくするように形成されている。
図19に示すように、作溝器200における左右の側面203間の間隔の寸法N1、つまり左右の側板部202の幅寸法は、所定の幅を有する植付爪72の幅寸法N3と略同じとなっている。なお、作溝器200は、左右方向について、左右対称的に構成された植付爪72に対して、左右中心を一致させるように配置されている。
【0155】
図19に示す例では、作溝器200は、左右の側面203間の寸法N1について、植付爪72の幅寸法N3に対して同一の寸法を有する。ただし、左右の側面203間の寸法N1は、植付爪72の幅寸法N3よりもわずかに大きい寸法であってもよく、わずかに小さい寸法であってもよい。左右の側面203間の寸法N1は、例えば、植付爪72の幅寸法N3に対して±20%の範囲内の寸法であることが好ましく、幅寸法N3に対して±10%の範囲内の寸法であることがより好ましい。
【0156】
また、作溝器200の最後端は、植付爪72の軌跡E1の最下端の位置の前方かつ下方に位置している。
図17に示すように、側面視において植付爪72の先端部が描く軌跡E1について、軌跡E1の下部は、略「U」字状をなすように下側を凸側とした略半楕円形状となっており、下側の頂点の位置が、軌跡E1の最下端の位置P1となる。
【0157】
軌跡E1は、下部の前側の部分において、作溝器200の側板部202の後部の上縁部、つまり後側湾曲辺部202cの湾曲形状に沿うような湾曲形状を有する。このように、側板部202は、その後部の形状について、側面視で軌跡E1との間に略一定の間隔を隔てて軌跡E1の前下側に位置するような形状を有する。
【0158】
一方、作溝器200において、その最後端の位置は、側板部202の後側湾曲辺部202cと後側直線辺部202dとによる角部202fの頂点の位置P2となる。なお、
図17等に示す例では、角部202fは、湾曲状のR形状の角部であるが、角部202fは、尖った角部(ピン角)であってもよい。
【0159】
そして、作溝器200における位置P2は、前後方向について、軌跡E1の最下端の位置P1より寸法ΔQ1前方に位置している。また、作溝器200における位置P2は、上下方向について、軌跡E1最下端の位置P1より寸法ΔQ2下方に位置している。このように、作溝器200の後端は、植付爪72の軌跡E1の最下端の位置に対して前下方に位置している。
【0160】
作溝器200の支持構成について説明する。作溝器200は、植付フレーム41を構成する横フレーム45に対して、第1支持ブラケット221および第2ブラケット222を介して取り付けられている。横フレーム45は、側面視で略正方形状をなす外形を有する中空状の鋼材であり、鉛直状の前面部45aおよび後面部45b、並びに水平状の上面部45cおよび下面部45dを有する。
【0161】
第1支持ブラケット221は、平面視で後側を開放側とした略「U」字状をなす溝形鋼状の部材であり、鉛直状の前面部223と、左右の側面部224とを有する。第1支持ブラケット221は、上下方向について、横フレーム45の上下方向の寸法の約2倍の寸法を有する。
【0162】
側面部224は、上部224aについて、略一定の幅(前後方向の寸法)を有し、下部224bについて、上側から下側にかけて徐々に幅を広くした略三角形状の側面視形状を有する。側面部224は、下部224bにおいて、後下がりの傾斜辺部224cをなしている。
【0163】
第2ブラケット222は、略「U」字状をなす溝形鋼状の部材であり、傾斜底面部225と、左右の側面部226とを有する。第2ブラケット222は、開放側を後側とするとともに後下がりの傾斜状となるように、第1支持ブラケット221に固定された状態で設けられている。
【0164】
第2ブラケット222は、左右方向の寸法である幅寸法を、第1支持ブラケット221の左右の側面部224間の間隔の寸法と略一致させている。第2ブラケット222は、左右の側面部224間に嵌った状態で、溶接等によって第1支持ブラケット221に対して固定されている。
【0165】
第2ブラケット222は、長手方向を、第1支持ブラケット221の傾斜辺部224cの傾斜に沿わせるとともに、下部を第1支持ブラケット221の下端よりも下側に突出させた状態で設けられている。第1支持ブラケット221および第2ブラケット222により、横フレーム45に対する作溝器200の支持部として、一体的な支持ブラケット部230が構成されている。
【0166】
支持ブラケット部230は、横フレーム45に対し、第1支持ブラケット221の上端を横フレーム45の上面部45cの高さに合わせ、第1支持ブラケット221の下部を横フレーム45の下面部45dより下側に突出させた状態で固定されている。支持ブラケット部230は、横フレーム45に対し、第1支持ブラケット221の前面部223を後面部45bに沿わせた状態で、ボルト231により上下2箇所で固定されている。ボルト231は、横フレーム45を前面部45a側から前後方向に貫通するとともに第1支持ブラケット221の前面部223を貫通し、第1支持ブラケット221の前面部223の後側に設けられたナット部227に螺挿されている。
【0167】
作溝器200は、支持ブラケット部230に対し、上端部を第2ブラケット222の左右の側面部226間に位置させた状態で、左右方向を軸方向とするボルト233およびナット234により上下2箇所で固定されている。ボルト233は、第2ブラケット222に対し、左右一方(左方)から、左右の側面部226およびその間に位置する作溝器200の作溝器本体部201を貫通し、左右他方(右方)への突出部分にナット234を螺合させている。側面部226には、ボルト233を貫通させるための孔部226aが形成されている。
【0168】
作溝器200において、ボルト233の貫通部には、左右方向を軸方向とした円筒状のボス部208が形成されている。ボス部208は、ボルト233を貫通させる孔部を形成した筒状部分であり、作溝器本体部201を貫通するとともに左右両端部を作溝器本体部201から左右外側に向けて突出させた態様で設けられている。ボス部208は、左右外側の開口端面を左右の側面部226の内側面に対する接触面として、左右の側面部226間において、作溝器200を左右方向について位置決めさせている。
【0169】
また、第2ブラケット222においては、左右の側面部226に、作溝器200の上下位置を調整するための2つの孔部226aが別途形成されている。つまり、上下のボス部208の配置間隔に対応した2つの孔部226aが2組形成されており、上下方向について上位置と下位置の2段階で作溝器200の取付け位置の調整が可能となっている。
【0170】
上位置用の孔部226aと下位置用の孔部226aとの間の間隔は、上下のボス部208の間隔よりも小さい。作溝器200の位置調整の方向は、第2ブラケット222の後下がりの傾斜に沿った方向となる。
図17から
図20に示す例では、作溝器200は、支持ブラケット部230に対して上位置で固定されている。圃場の状態や土質や苗の作物の種類等により、作溝器200の高さ位置が調整される。なお、2つの孔部226aを3組以上設けることで、3段階以上の位置調整が可能となる。
【0171】
以上のように、各植付爪装置50の前方に作溝器200を備えた構成によれば、
図17に示すように、苗移植機1の機体の前進にともなって、横フレーム45と一体的に前進する(矢印R1参照)。作溝器200は、下部を圃場面91よりも下側に位置させるように設けられており、圃場に対して土中を引き摺られる態様で作用する。これにより、畝の上面側において、植付爪装置50により押し出される苗ブロック110を受ける部分に、機体の進路に沿った直線状の溝240が事前に形成される。
【0172】
植付爪装置50は、苗ブロック110の押出しに際して作溝器200により直前に形成された溝240内に対して、苗ブロック110を放出して植え付ける(
図16B参照)。これにより、苗ブロック110に対する地面からの負荷が低減され、圃場に対して所定の深さ位置に精度良く苗ブロック110を植え付けることが可能となる。
【0173】
図17に戻り、作溝器200による溝240の形成に際して左右に押し退けられた土の一部は、作溝器200の通過後に溝240内に崩れ落ち(矢印R2参照)、溝240が崩壊する。つまり、溝240が埋め戻される。土が溝240内に崩れ落ちるタイミングは、溝240内に苗ブロック110が植え付けられた後のタイミングとなる。これにより、植え付けられた苗ブロック110に、溝240内に崩れ落ちた土が被さり、苗の乾燥が抑制される。なお、苗ブロック110の植付け部分は、溝240内に崩れ落ちた土を被った後、一対の覆土輪61による押圧作用を受ける。
【0174】
また、作溝器200の上方には、作溝器200の上部を後上側から覆うカバー体250が設けられている(
図5、
図7、
図17参照)。カバー体250は、作溝器200よりも幅広の板状部材により構成されており、ガイドレール48の前部から垂れ下がった態様で設けられている。カバー体250は、側面視で前側を凸側とした湾曲状の形状を有し、下端部を、作溝器200における側板部202の前側傾斜辺部202bと後側湾曲辺部202cとによる角部202gの直上に位置させている。なお、カバー体250は、左右方向の中心を、作溝器200の左右方向の中心に一致させるように設けられている。
【0175】
カバー体250は、下側の略半分を、略矩形板状のカバー体本体部251としている。カバー体250は、後面視において、カバー体本体部251により作溝器200における角部202gの近傍部分よりも上側の部分を全体的に被覆するように設けられている。カバー体本体部251の左右両縁部には、前側に向けて直角状に屈曲形成された幅狭の屈曲面部251aが形成されている。
【0176】
カバー体250は、カバー体本体部251よりも上側の部分を、カバー体250の支持部252としている。支持部252とカバー体本体部251により、側面視において、カバー体250の上下中間部に、前側を突側とした鈍角状の屈曲部が形成されている。カバー体本体部251と支持部252の間には、左右中間部において、カバー体250の屈曲部の内側に膨出形状をなす補強部253が形成されている。カバー体250は、支持部252の上端部を、ガイドレール48を構成する第1レール部材123の前部123aに対して図示せぬボルト等の固定具によって固定させることで、植付フレーム41側に対して固定状態で設けられている(
図17参照)。
【0177】
以上のような構成を備えた本実施形態に係る苗移植機1によれば、圃場に植え付けられる苗の姿勢を安定させることができ、圃場における雑草等の夾雑物に引っかかりにくくスムーズな作溝を行うことができる。
【0178】
各植付爪装置50の前方に作溝器200を設けた構成により、植付爪72が貫入する地面を軟らかくすることができるとともに、苗ブロック110が収まる空間として溝240を形成することができる。これにより、苗の植付深さを安定させることができるとともに、苗の植付姿勢を良くすることができ、安定した苗の植付けを行うことができる。
【0179】
作溝器200は、作溝器本体部201において、側面視で湾曲形状をなすとともに、平面断面視で前側を突側とした湾曲形状をなす前側湾曲面215を形成している。このような構成によれば、機体の前進にともなって圃場に作用する作溝器200において、作溝器本体部201により土や雑草等の夾雑物を引っ掛けることなく滑らかに押し退けて相対的に後側に流すことができる。これにより、作溝器200に作用する作溝抵抗を低減することができ、スムーズな作溝を行うことができる。
【0180】
また、作溝器200は、植付爪72の軌跡に沿うように設けられ左右の側面203を形成する側板部202を有する。このような構成によれば、左右の側板部202が、作溝器200により形成された溝240の側壁部分に沿うことで、溝240の崩壊が一時的に抑制され、溝240において苗ブロック110の植付けを受けるために必要な溝空間を確保することができる。また、左右の側板部202により、溝240が崩壊するタイミングを遅らせることができるので、植付爪装置50によるプッシュ後の苗ブロック110を確実に溝240内に保持することができ、苗の植付姿勢を安定させることができる。
【0181】
特に、左右の側板部202は、作溝器200の左右幅をなす左右の側面203間の間隔を植付爪72の左右幅と略等しくするように設けられている。このような構成によれば、作溝器200により形成される溝240の幅を、苗ブロック110の幅に可及的に近付けることができる。これにより、溝240の幅を苗ブロック110の幅と略同一にすることができるので、溝240内に放たれた苗ブロック110の姿勢を安定させることができ、苗の植付姿勢を安定させることができる。
【0182】
また、作溝器200において、作溝器本体部201は、丸パイプにより構成されており、側面203は、左右の側板部202により形成されている。このような構成によれば、作溝器本体部201について容易に強度を確保することができ、土中を進行して作溝抵抗を受ける作溝器本体部201の変形を抑制することができる。また、作溝器本体部201を中空部とすることができるので、作溝器200の重量化を抑制することができる。
【0183】
また、パイプ状の作溝器本体部201において、湾曲部212における曲げRを比較的大きくすることにより、効果的に夾雑物の引っ掛かりを抑制することができ、よりスムーズな作溝を行うことができる。このように、作溝器200によれば、中空のパイプと板材の組合せにより、軽量かつ高強度な構成を実現することができるとともに、夾雑物の引っ掛かりを抑制することができる。
【0184】
なお、本実施形態では、作溝器200は、パイプ状の部材および左右の板状の部材により構成されているが、このような構成に限定されない。作溝器200は、前側湾曲面215および左右の側面203をなす部分を有するものであればよく、例えば、略「U」字状の横断面形状をなす所定の湾曲形状を有する一体の板状部材や、左右方向を板厚方向とするとともに作溝器200の側面視外形をなす一体の厚板状の部材等により構成されたものであってもよい。
【0185】
また、作溝器200は、その後端を植付爪72の回動軌跡の最下端位置より機体の進行方向の前下方に位置させるように設けられている。このような構成によれば、作溝器200により圃場に溝240を形成した直後の場所、つまり溝240が崩れ始める前の場所に、苗ブロック110を押し出すことができるため、苗の植付姿勢を安定させることができる。また、植付爪装置50から苗ブロック110が押し出される際に、作溝器200によって先行して溝240が形成されることから、苗ブロック110の放出スペースを確保することができるため、植付爪装置50による苗ブロック110の押出し動作を安定して行うことができる。
【0186】
また、作溝器200の上方には、作溝器200の上部を後上側から覆うカバー体250が設けられている。このような構成によれば、カバー体250が障壁となり、苗ブロック110の苗106が前側に倒れるのを防ぐことができ、埋没苗が生じることを抑制することができる。
【0187】
すなわち、ロータリケース52の回転速度が速く、植付爪装置50に保持された状態の苗ブロック110に対して比較的大きい遠心力が作用することで、植付爪装置50から押し出された苗ブロック110の苗106が前側に倒れ込む場合がある。このような場合、苗106が復元力によって元の状態に立ち戻る前に、溝240が崩壊して埋め戻されると、苗106が土中に埋没することになる。そこで、カバー体250によって苗106の前側への倒れ込みを防止することで、ロータリケース52の回転速度によらず、埋没苗の発生を抑制することができる。
【0188】
本実施形態に係る作溝器200の変形例について、
図22から
図24を用いて説明する。
図22から
図24に示すように、変形例の作溝器200は、上述した作溝器200の構成において、溝部210(
図18参照)を塞ぐ閉塞部として、左右の側板部202間の少なくとも一部を閉塞する蓋部260を有する。
【0189】
蓋部260は、側面視で左右の側板部202の下部の上縁部に沿った形状を有する板状の部分であり、左右の側板部202の上縁部間に架設された態様で設けられている。蓋部260は、例えば側板部202と略同じ板厚を有する。
【0190】
蓋部260は、作溝器200において作溝器本体部201および左右の側板部202により形成された溝部210に対して、側板部202の角部202gよりも下側の部分のうち、下端側となる後側直線辺部202d側を除いた部分を上側から塞ぐように設けられている。したがって、蓋部260は、側板部202の下部の上縁部の側面視形状に対応して、後側湾曲辺部202cに対応した湾曲形状を有する。蓋部260は、板状の部材を左右の側板部202の上縁部間に溶接等によって固定することにより設けられている。
【0191】
蓋部260は、上下の板面として上面260aと下面260bとを有する。上面260aおよび下面260bは、いずれも左右方向については平坦な面であって作溝器200の横断面視において直線状をなす面である(
図24参照)。蓋部260は、上面260aを、左右の側板部202の上縁端をなす上側面202hと面一状とするように設けられている。
【0192】
このように左右の側板部202間に蓋部260を設けた構成においては、作溝器本体部201の上側に、左右の側板部202および蓋部260により空洞部270が形成されている。空洞部270は、作溝器本体部201の後上側(内周側)の略1/4の周壁部の外周面204と、左右の側板部202の内側面205と、蓋部260の下面260bにより形成された空間部分である。
【0193】
このように、変形例の構成において、作溝器200は、パイプ状の作溝器本体部201内の内部空間201cと、蓋部260の形成部位における左右の側板部202間の空洞部270とを有する。作溝器200において、作溝器本体部201の内部空間201cと、空洞部270とは、作溝器本体部201の後上側の周壁部によって上下に仕切られた態様の2つの中空部となる。
【0194】
蓋部260は、上側への延出部分であるガイド板部262を有する。ガイド板部262は、蓋部260をなす板状の部分を上側に延出した態様で設けられた板状の部分である。ガイド板部262は、蓋部260の上面260aおよび下面260bをそれぞれ上側に延出させた板面を形成している。
【0195】
ガイド板部262は、蓋部260に対して、側板部202の角部202g近傍から、蓋部260よりも後下がりの傾斜角度を大きくしながら上側に延出されている。ガイド板部262は、上端部を、カバー体250のカバー体本体部251の下端部の前側に位置させ、カバー体本体部251により後側から被覆された被覆部262aとしている。ガイド板部262は、カバー体本体部251の表面251bに対して、蓋部260の上面260aに連続したガイド板部262の表面を略連続させるように設けられている。なお、ガイド板部262の被覆部262aは、カバー体250のカバー体本体部251の裏面側(前面側)に対して溶接やボルト等の固定具によって固定されてもよい。
【0196】
このように、作溝器200の蓋部260は、ガイド板部262を介して、カバー体250のカバー体本体部251に連続するように設けられている。すなわち、蓋部260、ガイド板部262、およびカバー体250のカバー体本体部251により、連続または略連続した後下がりの傾斜面部が形成されている。
【0197】
したがって、後側から前側にかけて、蓋部260の上面260a、ガイド板部262の表面、およびカバー体本体部251の表面251bにより、連続または略連続した後下がりの面が形成されている。そして、この後下がりの面は、蓋部260およびガイド板部262により形成された下部において、比較的幅狭の所定の幅を有するとともに、カバー体250のカバー体本体部251により形成された上部において、比較的幅広の所定の幅を有する。カバー体本体部251の幅寸法は、例えば、蓋部260およびガイド板部262の幅寸法の3倍程度である。
【0198】
以上のような変形例の構成によれば、左右の側板部202間に蓋部260が設けられていることから、作溝器200の強度を向上させることができ、土中を進行して作溝抵抗を受ける作溝器本体部201の変形を抑制することができる。また、蓋部260は、左右の側板部202とともに作溝器本体部201上に空洞部270をなすように設けられていることから、作溝器200の重量化を抑制することができる。このように、変形例の構成によれば、パイプ状の作溝器本体部201と相俟って、軽量かつ高強度な構成を実現することができる。
【0199】
また、作溝器200において蓋部260を設けた構成により、左右の側板部202間の空間を塞ぐことができる。これにより、蓋部260が障壁となり、植付爪装置50から放出された苗ブロック110の苗106が前側に倒れ込んで左右の側板部202間の空間に入り込むことを防ぐことができる。したがって、例えば、苗ブロック110の苗106の長さが短く、苗106がカバー体250に届かない長さである場合も、苗106が前側に倒れるのを防ぐことができ、埋没苗が生じることを抑制することができる。
【0200】
また、この変形例の構成では、ガイド板部262を設けたことにより、蓋部260とカバー体本体部251との間の隙間をなくすことができるので、前側に倒れ込んでくる苗106に対して連続的なガイド面を形成することができる。これにより、苗ブロック110の苗106の長さにかかわらず、苗106が前側に倒れるのを防ぐことができ、埋没苗が生じることを効果的に抑制することができる。
【0201】
また、ガイド板部262の上部をカバー体本体部251の前側に位置させた構成によれば、ガイド板部262によりカバー体250の下端部を前側から支持することができる。これにより、カバー体250の変形や位置ずれを抑制することができる。また、ガイド板部262の上部がカバー体本体部251の前側に位置することにより、上側から下側に移動する苗ブロック110の苗106がカバー体本体部251とガイド板部262の段差部への引っかかりを防止することができ、苗106の品質を保持することができる。
【0202】
なお、蓋部260は、作溝器200の下部において左右の側板部202間を全体的に塞ぐように設けられているが、このような構成に限定されない。蓋部260は、例えば、作溝器200の延伸方向について所定の間隔をあけて複数箇所に設けられてもよい。
【0203】
以上のように実施形態を用いて説明した本発明に係る苗移植機は、上述した実施形態に限定されず、本発明の趣旨に沿う範囲で、種々の態様を採用することができる。
【符号の説明】
【0204】
1 苗移植機
3 苗移植装置
42 苗載台
50 植付爪装置
72 植付爪
82 爪本体部
100 苗マット
200 作溝器
201 作溝器本体部
202 側板部(側面形成部)
202f 角部
203 側面
212 湾曲部
215 前側湾曲面
250 カバー体
260 蓋部