(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】ワイヤハーネスの固定構造
(51)【国際特許分類】
H02G 3/16 20060101AFI20241008BHJP
H02G 3/14 20060101ALI20241008BHJP
H02G 3/30 20060101ALI20241008BHJP
H05K 5/02 20060101ALI20241008BHJP
F16B 5/07 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
H02G3/16
H02G3/14
H02G3/30
H05K5/02 E
F16B5/07 L
(21)【出願番号】P 2022112694
(22)【出願日】2022-07-13
【審査請求日】2023-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】倉田 翔
(72)【発明者】
【氏名】中山 拓哉
【審査官】井上 弘亘
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-040956(JP,A)
【文献】特開2020-065339(JP,A)
【文献】実開昭63-113420(JP,U)
【文献】特開2021-019456(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02G 3/16
H02G 3/14
H02G 3/30
H05K 5/02
F16B 5/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定対象への固定部位を有するブラケットと、前記ブラケットに取り付けられる電気接続箱と、前記電気接続箱から延びるサブハーネスと、を備えるワイヤハーネスの固定構造であって、
前記電気接続箱は、
前記ブラケットへの取り付けのためのロック部を有し、
前記ブラケットは、
前記電気接続箱を取付可能な取付箇所と、前記取付箇所に設けられて前記ロック部に対応する形状の被ロック部と、前記取付箇所への前記電気接続箱の取付方向において弾性変形可能であり且つ前記電気接続箱に押圧接触する押圧部と、を有し、
前記電気接続箱の取付途中には、
前記押圧部が前記電気接続箱によって前記取付方向の前方に向けて押されて弾性変形し、且つ、前記ロック部と前記被ロック部との間に隙間があり、
前記電気接続箱の取付完了時には、
前記押圧部が前記取付方向の後方に向けて弾性回復して、前記ロック部が前記被ロック部に向けて移動することにより、前記隙間が狭められる、ように構成される、
ワイヤハーネスの固定構造。
【請求項2】
請求項1に記載のワイヤハーネスの固定構造において、
複数の前記電気接続箱を有し、
前記複数の前記電気接続箱の各々は、
前記ブラケットへの取り付けのための
前記複数の前記電気接続箱に共通
の形状の前記ロック部を有し、
前記ブラケットは、
複数の前記取付箇所と、前記複数の前記取付箇所の各々に設けられる前記被ロック部と、を有する、
ワイヤハーネスの固定構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定対象への固定部位を有するブラケットと、ブラケットに取り付けられる電気接続箱と、電気接続箱から延びるサブハーネスと、を備えるワイヤハーネスの固定構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車にワイヤハーネス(即ち、電気接続箱やサブハーネス等)を配索するにあたり、自動車の車体フレーム等に電気接続箱が固定される場合がある。例えば、従来の電気接続箱の一つでは、電気接続箱の外壁から延出するように固定用のアーム部が設けられ、このアーム部と車体フレームとがボルトで締結されるようになっている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来の電気接続箱では、ワイヤハーネスの配索(即ち、車体への固定)のために、電気接続箱に固定用のアーム部を設けている。ところが、一般に、電気接続箱を搭載することになる自動車の種別や仕様によって車体フレームの形状等は異なるため、従来の電気接続箱では、自動車の種別や仕様ごとに、専用形状の電気接続箱を準備することになる。電気接続箱の生産性や、その電気接続箱を用いたワイヤハーネスを自動車に配索(固定)する際の作業性を更に高める観点から、自動車の種別や仕様が異なっていても電気接続箱を共用できるように、汎用性に優れたワイヤハーネスの固定構造が望まれている。
【0005】
本発明の目的の一つは、汎用性に優れたワイヤハーネスの固定構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前述した目的を達成するために、本発明に係るワイヤハーネスの固定構造は、以下を特徴としている。
【0007】
固定対象への固定部位を有するブラケットと、前記ブラケットに取り付けられる電気接続箱と、前記電気接続箱から延びるサブハーネスと、を備えるワイヤハーネスの固定構造であって、
前記電気接続箱は、
前記ブラケットへの取り付けのためのロック部を有し、
前記ブラケットは、
前記電気接続箱を取付可能な取付箇所と、前記取付箇所に設けられて前記ロック部に対応する形状の被ロック部と、前記取付箇所への前記電気接続箱の取付方向において弾性変形可能であり且つ前記電気接続箱に押圧接触する押圧部と、を有し、
前記電気接続箱の取付途中には、
前記押圧部が前記電気接続箱によって前記取付方向の前方に向けて押されて弾性変形し、且つ、前記ロック部と前記被ロック部との間に隙間があり、
前記電気接続箱の取付完了時には、
前記押圧部が前記取付方向の後方に向けて弾性回復して、前記ロック部が前記被ロック部に向けて移動することにより、前記隙間が狭められる、ように構成される、
ワイヤハーネスの固定構造であること。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るワイヤハーネスの固定構造によれば、ブラケットが、固定対象(例えば、車体フレーム)への固定部位(例えば、ボルト締結用の孔)と、電気接続箱を取り付けるための取付箇所を有する。一方、ブラケットに取り付けられる電気接続箱は、ロック部を有する。ブラケットが有する取付箇所には、電気接続箱のロック部に対応する形状の被ロック部が設けられる。よって、例えば、汎用可能な外部形状(例えば、シンプルな直方体状の形状)の電気接続箱に、共通形状のロック部を設け、自動車の仕様に応じて内部構造や収容した電子部品を異ならせることで、多種類の電気接続箱を準備するとともに、自動車の仕様に対応する電気接続箱を選択してブラケットに取り付けることができる。即ち、電気接続箱を汎用化できる。一方、ブラケットは自動車の仕様ごとに異なる形状を有することになるものの、電気接続箱のように内部に電子部品を格納する構造をブラケットは要さないため、全体的な生産性への影響は限定的である。このように、本構成のワイヤハーネスの固定構造は、電気接続箱を汎用化しながら、種々様々なワイヤハーネスを構成し、ワイヤハーネスを固定対象に固定することができる。したがって、本構成のワイヤハーネスの固定構造は、汎用性に優れている。
【0009】
更に、上記構成のワイヤハーネスの固定構造によれば、ブラケットが、電気接続箱の取付方向において弾性変形可能であり且つ電気接続箱に押圧接触する押圧部を有する。そして、電気接続箱の取付途中には、押圧部が電気接続箱に取付方向の前方に向けて押されて弾性変形し、且つ、ロック部と被ロック部との間に隙間(いわゆる、クリアランス)があり、電気接続箱の取付完了時には、押圧部が取付方向の後方に向けて弾性回復して、ロック部が被ロック部に向けて移動することで、その隙間が狭められる。これにより、電気接続箱の取付途中には、適度な隙間(クリアランス)が存在することで、ロック部と被ロック部との掛かり合いが容易になり、電気接続箱の取付完了時には、その隙間が狭められる(又は、ロック部と被ロック部とが接触して隙間が無くなる)ことで、電気接続箱とブラケットとの間の位置ズレ(即ち、ガタツキ)を抑制できる。したがって、電気接続箱をブラケットに容易に取り付けられることと、電気接続箱とブラケットとの位置ズレを抑制することと、を両立することができる。
【0010】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係るワイヤハーネスの固定構造を説明するための斜視図である。
【
図3】
図3は、
図1に示す電気接続箱を下方からみた斜視図である。
【
図6】
図6は、ブラケットが有する2つの取付箇所のそれぞれに電気接続箱が取り付けられた状態を示す上面図である。
【
図7】
図7は、ブラケットが有する2つの取付箇所の一方にのみ電気接続箱が取り付けられた状態を示す上面図である。
【
図8】
図8は、ブラケットへの電気接続箱の取付完了直前の状態における、第1ロック部及び第1被ロック部の係合箇所の周辺を示す、
図6のB-B断面に相当する断面図である。
【
図9】
図9は、ブラケットへの電気接続箱の取付完了直前の状態における、第2ロック部及び第2被ロック部の係合箇所の周辺を示す、
図6のB-B断面に相当する断面図である。
【
図10】
図10は、ブラケットへの電気接続箱の取付完了直前の状態における、押圧部及び突起の接触箇所の周辺を示す、
図6のC-C断面に相当する断面図である。
【
図11】
図11は、ブラケットへの電気接続箱の取付完了状態における、
図10に対応する図である。
【
図12】
図12は、ブラケットへの電気接続箱の取付完了状態における、
図8に対応する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<実施形態>
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態に係るワイヤハーネス1の固定構造について説明する。本固定構造に用いられるワイヤハーネス1は、
図1に示すように、ブラケット10に取り付けられる一又は複数の電気接続箱20と、一又は複数の電気接続箱20の各々から延びる電線30と、を備える。このワイヤハーネス1が、ブラケット10を介して、自動車の車体ブレーム等の固定対象に固定されることになる。なお、ブラケット10、電気接続箱20、及び、電線30の全てをワイヤハーネス1が含むと考えてもよい。
【0013】
以下、説明の便宜上、
図1等に示すように、「前」、「後」、「左」、「右」、「上」及び「下」を定義する。前後方向、左右方向及び上下方向は、互いに直交している。上下方向は、電気接続箱20のブラケット10へ取付方向と一致しており、「上」側及び「下」側は、それぞれ、ブラケット10が自動車の車体フレームに固定された状態における自動車の「上」側及び「下」側と一致している。以下、ワイヤハーネス1の固定構造に用いられる各部品の構成について順に説明する。
【0014】
まず、電気接続箱20について説明する。電気接続箱20は、
図1~
図3に示すように、前後方向、左右方向及び上下方向に延びる略直方体状の樹脂製の筐体を有する。電気接続箱20の筐体は、単一の樹脂成形体で構成されても、複数の樹脂成形体を組み合わせて構成されてもよい。電気接続箱20の筐体の表面には、電線やコネクタ等を固定するための部位(即ち、後述する補助取付箇所)が設けられていない。電気接続箱20には、車両を制御するための複数種類の電子部品21等が搭載されている(
図1~
図3参照)。
【0015】
電気接続箱20の前面(前を向いた面)及び後面(後を向いた面)には、ブラケット10の後述する被ロック部13(13a,13b)(
図4等参照)と係合することになるロック部22が設けられている(
図1~
図3参照)。本例では、ロック部22は、電気接続箱20の前面に設けられた第1ロック部22aと、電気接続箱20の後面に設けられた第2ロック部22bとで構成されている(
図2参照)。
【0016】
第1ロック部22aは、
図8に示すように、電気接続箱20の前面から前方且つ上方に向けて片持ち梁状に延びる係止片22a2と、係止片22a2の先端(自由端)の近傍から前方へ突出する係止突起22a1と、を備えている。係止片22a2は、後方へ弾性変形可能となっている。係止突起22a1は、ブラケット10の後述する被係止突起13a1と係合することになる(
図8及び
図12参照)。第2ロック部22bは、
図9に示すように、電気接続箱20の後面(後壁)から直接後方へ突出する係止突起22b1を備えている。電気接続箱20の後壁における係止突起22b1が形成された箇所は、前方へ弾性変形可能となっている。係止突起22b1は、ブラケット10の後述する被係止突起13b1と係合することになる(
図8参照)。
【0017】
電気接続箱20の前面の右下の端部には、電線挿通部23が設けられている(
図1~
図3参照)。電線挿通部23からは、電気接続箱20に搭載された電子部品21等と電気的に接続された電線30(即ち、サブハーネス)が、電気接続箱20の内部から外部に向けて前方へ延出している(
図2参照)。
【0018】
電気接続箱20の底面(下を向いた面)における前端部近傍の左右両端部には、左右一対の突起24が下方に突出するように設けられている(
図3等参照)。電気接続箱20のブラケット10へ取付時、一対の突起24は、ブラケット10の後述する一対の押圧部19(
図4等参照)と接触することになる(
図10及び
図11参照)。
【0019】
ワイヤハーネス1が有する一又は複数の電気接続箱20の筐体の各々は、略直方体状の共通形状を有している。ワイヤハーネス1が有する一又は複数の電気接続箱20の各々は、ブラケット10が有する後述する2つの取付箇所12(12a,12b)(
図4参照)の何れにも取り付け可能である一方で、互いに異なる電気回路の仕様を有している。
【0020】
ワイヤハーネス1が有する一又は複数の電気接続箱20の各々(電気接続箱20A.20B)は、共通形状のロック部22(第1ロック部22a+第2ロック部22b)を有している。ワイヤハーネス1が有する一又は複数の電気接続箱20の各々のロック部22(第1ロック部22a+第2ロック部22b)は、ブラケット10が有する2つの取付箇所12(12a,12b)のうち何れの取付箇所12に設けられた被ロック部13(13a,13b)にも係合可能である。
【0021】
次いで、ブラケット10について説明する。ブラケット10は、樹脂成形体であり、
図1及び
図4に示すように、前後方向、左右方向及び上下方向に延び且つ上方に開口する略直方体状の箱状の本体部11を有する。本体部11の略直方体状の中空部には、
図4に示すように、左右方向に隣接して並ぶ2つの取付箇所12が画成されている。2つの取付箇所12の各々は、電気接続箱20を取付可能な略直方体状の共通形状を有している。以下、2つの取付箇所12を区別する必要がある場合には、左側及び右側の取付箇所12を、それぞれ、「取付箇所12a」及び「取付箇所12b」と呼ぶ。
【0022】
各取付箇所12には、電気接続箱20のロック部22に対応して、被ロック部13が設けられている(
図4参照)。本例では、被ロック部13は、第1ロック部22aに対応して本体部11を画成する前壁の内面(後を向いた面)に設けられた第1被ロック部13aと、第2ロック部22bに対応して本体部11を画成する後壁の内面(前を向いた面)に設けられた第2被ロック部13bとで構成されている。各取付箇所12は、共通形状の被ロック部13(第1被ロック部13a+第2被ロック部13b)を有している。
【0023】
第1被ロック部13aは、
図8に示すように、本体部11を画成する前壁の内面から後方へ突出する被係止突起13a1を備えている。第2被ロック部13bは、
図9に示すように、本体部11を画成する後壁の内面から前方へ突出する被係止突起13b1を備えている。
【0024】
各取付箇所12には、電気接続箱20の電線挿通部23に対応して、本体部11を画成する前壁の一部に、下方に向けて凹状に切り欠いた電線挿通用凹部14が設けられている(
図1、
図3及び
図4等参照)。電気接続箱20が取付箇所12に取り付けられた状態では、電気接続箱20の電線挿通部23から前方に延出する電線30の根元部が電線挿通用凹部14に収容される(
図1参照)。電線挿通部23から延出する電線30は、自動車に搭載された対応する電装品(図示省略)と接続される。
【0025】
ブラケット10の本体部11を画成する後壁の外面(後を向いた面)や、脚部16には、
図1及び
図4等に示すように、電気接続箱とは異なる補助部品(例えば、電線やコネクタ等)を固定するための複数の補助取付箇所15が設けられている。このような補助取付箇所15がブラケット10側に設けられているため、上述したように、電気接続箱20側には電線やコネクタ等を固定するための部位が不要となっている。
【0026】
図1及び
図4等に示すように、ブラケット10の本体部11の外面の複数箇所(本例では、2箇所)からはそれぞれ、脚部16が一体に延出している。各脚部16の先端部には、一又は複数のボルト孔(貫通孔)17が形成されている。ブラケット10の自動車の車体フレームへの取付時、これらのボルト孔17に挿通されたボルト(図示省略)を利用して、ブラケット10が自動車の車体フレームへ締結固定される。
【0027】
各取付箇所12を画成する底壁における前端部近傍の左右両端部には、電気接続箱20の左右一対の突起24に対応して、左右一対の押圧部19が形成されている。各押圧部19は、
図5に示すように、前後方向に離れて対向しながら左右方向に延びる一対のスリット(貫通孔)19の間に位置する、左右方向に延びる両持ち梁状の部分である。押圧部19は、下方へ弾性変形可能となっている。
【0028】
電気接続箱20は、
図1に示すように、上方から、取付箇所12に取り付けられる。具体的には、上方から取付箇所12に挿入された電気接続箱20は、下方への押し込み力を受けて下方に向けて押し込まれる(下方へ移動する)。この下方への押し込み(下方への移動)は、係止突起22a1が、被係止突起13a1からの押圧による係止片22a2の後方への一時的な弾性変形を経て被係止突起13a1を乗り越え、且つ、係止突起22b1が、被係止突起13b1からの押圧による電気接続箱20の後壁の前方への一時的な弾性変形を経て被係止突起13b1を乗り越えるまで、継続される(
図8及び
図9参照)。一方、係止突起22a1,22b1の乗り越えが完了する直前の段階にて、一対の突起24が一対の押圧部19に接触開始する。よって、この段階から、電気接続箱20が下方への押し込み力により更に下方へ移動して、係止突起22a1,22b1の乗り越えが完了した段階に至るまで、下方への押し込み力により一対の突起24が一対の押圧部19を下方に押し込むことで、一対の押圧部19は、下方に弾性変形した状態に維持されている(
図10の白矢印を参照)。
【0029】
ここで、係止突起22a1,22b1の乗り越えが完了した段階では、係止突起22b1と被係止突起13b1との上下方向の隙間(クリアランス)Lb(
図9参照)が微小であるのに対し、係止突起22a1と被係止突起13a1との上下方向の隙間(クリアランス)La(
図8参照)は、隙間Lbより十分に大きい。これは、係止突起22a1の乗り越えによって後方へ弾性変形していた係止片22a2が前方へ弾性回復する際の係止突起22a1の回動軌跡に起因して、係止突起22a1が被係止突起13a1に対して相対的に下方に移動することに因る。
【0030】
このように、係止突起22a1,22b1の乗り越えが完了した後、電気接続箱20への下方への押し込み力が解除される。この押し込み力の解除に起因して、下方に弾性変形していた一対の押圧部19が、自身の上向きの弾性回復力により一対の突起24を上方へ押し戻すことで(
図11の白矢印を参照)、電気接続箱20の前端部が上方へ移動する(
図12の白矢印を参照)。この結果、係止突起22a1が被係止突起13a1に対して相対的に上方に移動することで、隙間Laが減少する。ここで、減少後の隙間Laは、ゼロであっても、隙間Lb(
図9参照)程度の微小値であってもよい。このように、隙間Laが減少することで、係止突起22a1と被係止突起13a1との間(即ち、電気接続箱20とブラケット10との間)の位置ズレ(即ち、ガタツキ)が抑制され得る。
【0031】
以上により、電気接続箱20の取付箇所12への取り付けが完了する。電気接続箱20の取付完了状態では、被ロック部13(第1被ロック部13a+第2被ロック部13b)とロック部22(第1ロック部22a+第2ロック部22b)とが係合することで(
図9及び
図12参照)、電気接続箱20のブラケット10(本体部11)からの上方への分離(抜け)が防止される。
【0032】
本例では、第1ロック部22aは、係止片22a2の自由端の近傍から係止突起22a1が延びる構成を有し、第2ロック部22bは、電気接続箱20の後壁から直接係止突起22b1が延びる構成を有している。係止片22a2を後方へ弾性変形させるために必要な電気接続箱20への下方への押し込み力は、電気接続箱20の後壁を前方へ弾性変形させるために必要な電気接続箱20への下方への押し込み力より小さい。即ち、第1ロック部22aの構成は、第2ロック部22bの構成と比べて、電気接続箱20への下方への押し込み力の軽減に寄与している。一方、第1ロック部22aの構成を採用すると、上述したように、係止片22a2の弾性回復時の係止突起22a1の回動軌跡に起因して、隙間Laが大きくなる(即ち、係止突起22a1と被係止突起13a1との間の位置ズレが大きくなる)という問題がある。この点、本例によれば、電気接続箱20側の突起24とブラケット10側の押圧部19との協働により、第1ロック部22aの構成を採用しても、隙間Laを小さくする(即ち、係止突起22a1と被係止突起13a1との間の位置ズレを小さくする)ことができる。以上、ワイヤハーネス1の固定構造に用いられる各部品の構成について説明した。
【0033】
上述したように、ワイヤハーネス1が有する一又は複数の電気接続箱20の各々は、ブラケット10が有する2つの取付箇所12a,12b(
図4参照)の何れにも取り付け可能である一方で、互いに異なる電気回路の仕様を有している。よって、例えば、電気接続箱20をワイヤハーネス1が適用される自動車の特定のシステム(仕様)ごとにあらかじめ準備することができる。即ち、一又は複数の電気接続箱20の各々は、ワイヤハーネス1が適用される自動車の特定のシステムを実現する電装品(図示省略)に対応した電子部品21を格納していてもよい。換言すると、一又は複数の電気接続箱20の各々から延びる電線30が、ワイヤハーネス1が適用される自動車の特定のシステムを実現する電装品に接続されてもよい。
【0034】
具体的には、例えば、電気接続箱20として、自動車に標準装備される機器に関連する電装品(以下「スタンダード電装品」という。)に対応するスタンダード用電気接続箱20Aと、自動車に選択的に装備される機器に関連する電装品(以下「オプション電装品」という。)に対応するオプション用電気接続箱20Bと、を準備する場合を想定する(
図6及び
図7参照)。スタンダード電装品として、例えば、エンジン仕様の自動車に用いられる電装品が挙げられ、オプション電装品として、例えば、ハイブリッド仕様の自動車に用いられる電装品が挙げられる。
【0035】
この場合、スタンダード用電気接続箱20Aが2つの取付箇所12a,12bの一方に取り付けられ、選択されるオプション電装品に応じ、対応するオプション用電気接続箱20Bが2つの取付箇所12a,12bの他方に取り付けられる。
図6に示す例では、スタンダード用電気接続箱20Aが取付箇所12aに取り付けられ、選択されるオプション電装品に応じたオプション用電気接続箱20Bが取付箇所12bに取り付けられている。
図7に示す例では、スタンダード用電気接続箱20Aが取付箇所12aに取り付けられる一方で、オプション電装品が装備されないことに起因して、オプション用電気接続箱20Bは取り付けられていない。スタンダード用電気接続箱20Aから延びる電線30は、スタンダード電装品に接続され、オプション用電気接続箱20Bから延びる電線30は、選択されたオプション電装品に接続される。
【0036】
このように、選択されるオプション電装品に応じ、対応するオプション用電気接続箱20Bをワイヤハーネス1に加えればよいことになる。これにより、オプション電装品の有無にかかわらずワイヤハーネス1に予備的に設置される電線等(いわゆる、付け捨て回路)が不要となる。
【0037】
また、電気接続箱20を自動車のシステム(仕様)ごとに準備することに代えて、電気接続箱20をワイヤハーネス1が適用される自動車の特定のエリアごとにあらかじめ準備することができる。即ち、一又は複数の電気接続箱20の各々は、ワイヤハーネス1が適用される自動車の特定のエリアに設置されている電装品(図示省略)に対応した電子部品21を格納していてもよい。換言すると、一又は複数の電気接続箱20の各々から延びる電線30が、ワイヤハーネス1が適用される自動車の特定のエリアに設置されている電装品に接続されてもよい。
【0038】
これにより、自動車の特定のエリアごとに電線30を独立させられる。このため、電線30の配索作業が容易になることに加え、特定のエリアに対応する電線30に不具合が生じた場合にはその電線30のみを修理・交換等すればよいため、ワイヤハーネス1のメンテナンス性を高められる。また、特定のエリアに設置される電装品が同じであれば、自動車の車種が異なっても同じ電線30を利用できるため、ワイヤハーネス1の汎用性を高められる。
【0039】
<作用・効果>
以上、本発明の実施形態に係るワイヤハーネス1によれば、ブラケット10が、固定対象(例えば、車体フレーム)への固定部位(例えば、ボルト締結用のボルト孔17)と、電気接続箱20を取り付けるための取付箇所12を有する。一方、ブラケット10に取り付けられる電気接続箱20は、ロック部22を有する。ブラケット10が有する取付箇所12には、電気接続箱20のロック部22に対応する形状の被ロック部13が設けられる。よって、例えば、汎用可能な外部形状(例えば、シンプルな直方体状の形状)の電気接続箱20に、共通形状のロック部22を設け、自動車の仕様に応じて内部構造や収容した電子部品を異ならせることで、多種類の電気接続箱20を準備するとともに、自動車の仕様に対応する電気接続箱20を選択してブラケット10に取り付けることができる。即ち、電気接続箱20を汎用化できる。一方、ブラケット10は自動車の仕様ごとに異なる形状を有することになるものの、電気接続箱20のように内部に電子部品を格納する構造をブラケット10は要さないため、全体的な生産性への影響は限定的である。このように、本実施形態に係るワイヤハーネス1の固定構造は、電気接続箱20を汎用化しながら、種々様々なワイヤハーネス1を構成し、ワイヤハーネス1を固定対象に固定することができる。したがって、本実施形態に係るワイヤハーネス1の固定構造は、汎用性に優れている。
【0040】
更に、ブラケット10が、電気接続箱20の取付方向(上下方向)において弾性変形可能であり且つ取付箇所12に取り付けられた電気接続箱20に押圧接触する押圧部19を有する。そして、電気接続箱20の取付の途中には、押圧部19が電気接続箱20に取付方向の前方(下方)に押圧されて弾性変形し、且つ、ロック部22(係止突起22a1)と被ロック部13(被係止突起13a1)との間に隙間La(いわゆる、クリアランス)があり、電気接続箱20の取付の完了時には、押圧部19が取付方向の後方(上方)に弾性回復し、且つ、隙間Laを無くすようにロック部22(係止突起22a1)が被ロック部13(被係止突起13a1)に向けて移動する。これにより、電気接続箱20の取付の途中には、適度な隙間La(クリアランス)があることで、ロック部22(係止突起22a1)と被ロック部13(被係止突起13a1)との掛かり合いが容易になり、電気接続箱20の取付の完了時には、隙間Laが狭められる(又は、係止突起22a1と被係止突起13a1とが接触して隙間が無くなる)ことで、電気接続箱20とブラケット10との間の位置ズレ(即ち、ガタツキ)を抑制できる。したがって、電気接続箱20をブラケット10に容易に取り付けられることと、電気接続箱20とブラケット10との位置ズレを抑制することと、を両立することができる。
【0041】
更に、ブラケット10が、複数の取付箇所12(12a,12b)を有し、複数の電気接続箱20(20A,20B)が、共通形状のロック部22(第1ロック部22a+第2ロック部22b)を有する。ブラケット10が有する複数の取付箇所12(12a,12b)には、電気接続箱20のロック部22に対応する形状の被ロック部13(第1被ロック部13a+第2被ロック部13b)が設けられる。よって、例えば、汎用可能な形状の電気接続箱20に共通形状のロック部22を設け、自動車の仕様ごとに、ブラケット10に取り付ける電気接続箱20の数を増減させたり、ブラケット10に取り付ける電気接続箱20の種類(品番)を入れ替えたりすることができる。したがって、本実施形態に係るのワイヤハーネス1の固定構造は、更に汎用性に優れている。
【0042】
<他の形態>
なお、本発明は上記各実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【0043】
ここで、上述した本発明に係るワイヤハーネス1の固定構造の実施形態の特徴をそれぞれ以下[1]~[2]に簡潔に纏めて列記する。
【0044】
[1]
固定対象への固定部位(17)を有するブラケット(10)と、前記ブラケット(10)に取り付けられる電気接続箱(20)と、前記電気接続箱(20)から延びるサブハーネス(30)と、を備えるワイヤハーネス(1)の固定構造であって、
前記電気接続箱(20)は、
前記ブラケット(10)への取り付けのためのロック部(22)を有し、
前記ブラケット(10)は、
前記電気接続箱(20)を取付可能な取付箇所(12)と、前記取付箇所(12)に設けられて前記ロック部(22)に対応する形状の被ロック部(13)と、前記取付箇所(12)への前記電気接続箱(20)の取付方向において弾性変形可能であり且つ前記電気接続箱(20)に押圧接触する押圧部(19)と、を有し、
前記電気接続箱(20)の取付途中には、
前記押圧部(19)が前記電気接続箱(20)によって前記取付方向の前方に向けて押されて弾性変形し、且つ、前記ロック部(22)と前記被ロック部(13)との間に隙間(La)があり、
前記電気接続箱(20)の取付完了時には、
前記押圧部(19)が前記取付方向の後方に向けて弾性回復して、前記ロック部(22)が前記被ロック部(13)に向けて移動することにより、前記隙間(La)が狭められる、ように構成される、
ワイヤハーネス(1)の固定構造。
【0045】
上記[1]の構成のワイヤハーネスの固定構造によれば、ブラケットが、固定対象(例えば、車体フレーム)への固定部位(例えば、ボルト締結用の孔)と、電気接続箱を取り付けるための取付箇所を有する。一方、ブラケットに取り付けられる電気接続箱は、ロック部を有する。ブラケットが有する取付箇所には、電気接続箱のロック部に対応する形状の被ロック部が設けられる。よって、例えば、汎用可能な外部形状(例えば、シンプルな直方体状の形状)の電気接続箱に、共通形状のロック部を設け、自動車の仕様に応じて内部構造や収容した電子部品を異ならせることで、多種類の電気接続箱を準備するとともに、自動車の仕様に対応する電気接続箱を選択してブラケットに取り付けることができる。即ち、電気接続箱を汎用化できる。一方、ブラケットは自動車の仕様ごとに異なる形状を有することになるものの、電気接続箱のように内部に電子部品を格納する構造をブラケットは要さないため、全体的な生産性への影響は限定的である。このように、本構成のワイヤハーネスの固定構造は、電気接続箱を汎用化しながら、種々様々なワイヤハーネスを構成し、ワイヤハーネスを固定対象に固定することができる。したがって、本構成のワイヤハーネスの固定構造は、汎用性に優れている。
【0046】
更に、上記構成のワイヤハーネスの固定構造によれば、ブラケットが、電気接続箱の取付方向において弾性変形可能であり且つ電気接続箱に押圧接触する押圧部を有する。そして、電気接続箱の取付途中には、押圧部が電気接続箱に取付方向の前方に向けて押されて弾性変形し、且つ、ロック部と被ロック部との間に隙間(いわゆる、クリアランス)があり、電気接続箱の取付完了時には、押圧部が取付方向の後方に向けて弾性回復して、ロック部が被ロック部に向けて移動することで、その隙間が狭められる。これにより、電気接続箱の取付途中には、適度な隙間(クリアランス)が存在することで、ロック部と被ロック部との掛かり合いが容易になり、電気接続箱の取付完了時には、その隙間が狭められる(又は、ロック部と被ロック部とが接触して隙間が無くなる)ことで、電気接続箱とブラケットとの間の位置ズレ(即ち、ガタツキ)を抑制できる。したがって、電気接続箱をブラケットに容易に取り付けられることと、電気接続箱とブラケットとの位置ズレを抑制することと、を両立することができる。
【0047】
[2]
上記[1]に記載のワイヤハーネス(1)の固定構造において、
複数の前記電気接続箱(20)を有し、
前記複数の前記電気接続箱(20)の各々は、
前記ブラケット(10)への取り付けのための共通形状の前記ロック部(22)を有し、
前記ブラケット(10)は、
複数の前記取付箇所(12)と、前記複数の前記取付箇所(12)の各々に設けられる前記被ロック部(13)と、を有する、
ワイヤハーネス(1)の固定構造。
【0048】
上記[2]の構成のワイヤハーネスの固定構造によれば、ブラケットが、複数の取付箇所を有し、複数の電気接続箱が、共通形状のロック部を有する。ブラケットが有する複数の取付箇所には、電気接続箱のロック部に対応する形状の被ロック部が設けられる。よって、例えば、汎用可能な形状の電気接続箱に共通形状のロック部を設け、自動車の仕様ごとに、ブラケットに取り付ける電気接続箱の数を増減させたり、ブラケットに取り付ける電気接続箱の種類(品番)を入れ替えたりすることができる。したがって、本構成のワイヤハーネスの固定構造は、更に汎用性に優れている。
【符号の説明】
【0049】
1 ワイヤハーネス
10 ブラケット
12 取付箇所
13 被ロック部
17 ボルト孔(固定部位)
19 押圧部
20 電気接続箱
22 ロック部
30 電線(サブハーネス)
La 隙間