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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】肺がんの診断方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 51/08 20060101AFI20241008BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20241008BHJP
   G01T 1/161 20060101ALI20241008BHJP
   A61B 5/055 20060101ALI20241008BHJP
   A61P 11/00 20060101ALN20241008BHJP
   A61P 35/04 20060101ALN20241008BHJP
   C07K 14/47 20060101ALN20241008BHJP
【FI】
A61K51/08 200
A61P35/00
G01T1/161 A
A61B5/055 383
G01T1/161 B
A61P11/00
A61P35/04
C07K14/47
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2022504334
(86)(22)【出願日】2020-03-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-23
(86)【国際出願番号】 EP2020057585
(87)【国際公開番号】W WO2020188023
(87)【国際公開日】2020-09-24
【審査請求日】2023-03-20
(31)【優先権主張番号】19382195.6
(32)【優先日】2019-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】515308936
【氏名又は名称】フンダシオ プリバダ インスティトゥト ディンベスティガシオ オンコロジカ デ バル エブロン
【氏名又は名称原語表記】FUNDACIO PRIVADA INSTITUT D’INVESTIGACIO ONCOLOGICA DE VALL HEBRON
【住所又は居所原語表記】Calle Natzaret 115,E-08035 Barcelona Spain
(73)【特許権者】
【識別番号】313013955
【氏名又は名称】インスティテュシオ・カタラナ・デ・レセルカ・イ・エスチュディス・アヴァンカス
(73)【特許権者】
【識別番号】521435134
【氏名又は名称】ペプトミク エセ.エレ.
【氏名又は名称原語表記】PEPTOMYC, S.L.
(74)【代理人】
【識別番号】100094640
【弁理士】
【氏名又は名称】紺野 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100103447
【弁理士】
【氏名又は名称】井波 実
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100180873
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 慶政
(72)【発明者】
【氏名】ソウセック、ラウラ
(72)【発明者】
【氏名】ボーリュー、マリー-エーヴ
【審査官】堂畑 厚志
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-520056(JP,A)
【文献】国際公開第2018/011433(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
CAplus/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Pubmed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
i)配列番号1の配列またはその機能的に等価な改変体であって配列番号1の配列に対して90%超の配列同一性を有する配列を含むポリペプチド、および
ii)検出可能な標識
を含む複合体を含んでなる、
肺内投与して用いられる、肺がん診断薬。
【請求項2】
配列番号1の機能的に等価な改変体が、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、および配列番号10からなる群から選択される配列である、請求項1に診断薬。
【請求項3】
前記検出可能な標識が、18F、32P、33P、45Ti、47Sc、52Fe、59Fe、62Cu、64Cu、67Ga、68Ga、75Sc、77As、86Y、89Sr、89Zr、94Tc、94Tc、99mTc、99Mo、105Pd、105Rh、111Ag、123I、124I、142Pr、143Pr、149Pm、153Sm、1541581Gd、161Tb、166Dy、166Ho、169Er、175Lu、186Re、189Re、194Ir、198Au、199Au、211Pb、212Bi、212Pb、223Raおよび225Acおよび89Zrからなる群から選択される、請求項1または2のいずれか一項に記載の診断薬。
【請求項4】
前記複合体の投与後のがん細胞の検出が、mPET/mCTイメージングによって行われる、請求項1から3のいずれか一項に記載の診断薬。
【請求項5】
前記肺がんが、小細胞肺がん(SCLC)および非小細胞肺がん(NSCLC)から選択される原発腫瘍であるか、またはがん転移である、請求項1~4のいずれか一項に記載の診断薬。
【請求項6】
前記肺がんが腺がんである、請求項1~5のいずれか一項に記載の診断薬。
【請求項7】
前記肺腺がんがKRAS変異腺がんである、請求項6に記載の診断薬。
【請求項8】
前記複合体の検出が、投与を必要とする被験体への前記複合体の投与後30分~96時間の間に行われる、請求項1~7のいずれか一項に記載の診断薬。
【請求項9】
前記肺内投与が、経鼻滴下、経鼻吸入または経口吸入によって行われる、請求項1~8のいずれか一項に記載の診断薬。
【請求項10】
前記複合体の用量が、0.04~0.8mg/Kg、または1.48~30mg/mの範囲である、請求項1~9のいずれか一項に記載の診断薬。
【請求項11】
前記複合体の用量が、0.19mg/kgまたは7mg/m である、請求項10に記載の診断薬。
【請求項12】
診断工程の後、前記肺がんの進行または肺がんに罹患している被験体に施行された治療の効果をモニターするために、前記複合体を少なくとももう1回投与する、請求項1~11のいずれか一項に記載の診断薬。
【請求項13】
被験体における肺がん細胞を検出またはイメージングするための方法に用いられる、請求項1~12のいずれか一項に記載の診断薬であって、当該方法が、
i)配列番号1の配列またはその機能的に等価な改変体であって配列番号1の配列に対して90%超の配列同一性を有する配列を含むポリペプチドと、検出可能な標識とを含む複合体を、肺に投与すること;
ii)前記複合体が増殖肺細胞内に入るのに十分な時間待つこと;および
iii)前記被験体にイメージング技術を適用して前記被験体における前記複合体の蓄積部位を検出することによって前記増殖肺細胞を検出し、それによってその増殖部位を検出またはイメージングすること
を含む方法である、診断薬。
【請求項14】
i)配列番号1の配列またはその機能的に等価な改変体であって配列番号1の配列に対して90%超の配列同一性を有する配列を含むポリペプチドと、検出可能な標識とを含む複合体;
ii)前記i)の複合体を肺内投与するための装置;および
iii)前記i)およびii)を包装するための手段
を含む、肺がんを診断するための、または肺がんの進行をモニターするための、または肺がんの治療の効果をモニターするためのキット。
【請求項15】
肺がんを検出またはイメージングするための、または肺がんの進行をモニターするための情報を得るための、または肺がんの治療の効果をモニターするための情報を得るための、キットの使用であって、
前記キットは、
i)配列番号1の配列、またはその機能的に等価な改変体であって配列番号1の配列に対して90%超の配列同一性を有する配列を含むポリペプチドと、検出可能な標識とを含む複合体;
ii)前記i)の複合体を肺内投与するための装置であって、前記肺内投与が、経鼻滴下、経鼻吸入または経口吸入によって行われる、装置;および
iii)前記i)およびii)を包装するための手段
を含む、使用
【請求項16】
i)配列番号1の配列またはその機能的に等価な改変体であって配列番号1の配列に対して90%超の配列同一性を有する配列を含むポリペプチド、および
ii)造影剤またはイメージング剤からなる群から選択される検出可能な標識
を含む複合体を含む、肺がんを診断するための組成物
【請求項17】
被験体における肺腫瘍を検出するための診断方法に用いられる、請求項1~12のいずれか一項に記載の診断薬であって、当該方法が、
i)配列番号1の配列またはその機能的に等価な改変体であって配列番号1の配列に対して90%超の配列同一性を有する配列を含むポリペプチドと、検出可能な標識とを含む複合体を、肺経路によって投与すること、
ii)前記複合体が増殖肺細胞内に入るのに十分な時間待つこと、
iii)前記被験体にイメージング技術を適用して前記被験体における前記複合体の蓄積部位を検出することによって前記増殖肺細胞を検出し、それによってその増殖部位を検出またはイメージングすること、および
iv)特異的標識化が検出された場合、肺腫瘍を特定すること
を含む方法である、診断薬。
【請求項18】
肺がんを有することが疑われる被験体を診断および治療するための方法に用いられる、請求項1~12のいずれか一項に記載の診断薬であって、当該方法が、
i)配列番号1の配列またはその機能的に等価な改変体であって配列番号1の配列に対して90%超の配列同一性を有する配列を含むポリペプチドと、検出可能な標識とを含む複合体を、肺経路によって投与すること、
ii)前記複合体が増殖肺細胞内に入るのに十分な時間待つこと、
iii)前記被験体にイメージング技術を適用して前記被験体における前記複合体の蓄積部位を検出することによって前記増殖肺細胞を検出し、それによってその増殖部位を検出またはイメージングすること、
iv)特異的標識化が検出された場合、肺がんを特定すること、および
v)肺がんと特定された前記被験体に、肺腫瘍の外科的切除および/または化学療法の施行および/または放射線療法の施行から選択される治療を施行すること
を含む方法である、診断薬。
【請求項19】
被験体における肺がんの進行をモニターするための方法に用いられる、請求項1~12のいずれか一項に記載の診断薬であって、当該方法が、
i)配列番号1の配列またはその機能的に等価な改変体であって配列番号1の配列に対して90%超の配列同一性を有する配列を含むポリペプチドと、検出可能な標識とを含む複合体を、肺に投与すること、
ii)前記複合体が増殖肺細胞内に入るのに十分な時間待つこと、および
iii)前記被験体にイメージング技術を適用して前記被験体における前記複合体の蓄積部位を検出することによって前記増殖肺細胞を検出し、それによってその増殖部位を検出またはイメージングすること、
iv)iii)で得られた蓄積部位を、以前の測定で得られた蓄積部位と比較すること
を含み、ここで、
以前の測定と比較して蓄積部位が有意に減少しているか変化がない場合は、前記肺がんが進行していないことを示し、または
以前の測定と比較して蓄積部位が有意に増加している場合は、前記肺がんが進行していることを示す方法である、診断薬。
【請求項20】
肺がんに罹患している被験体における治療に対する反応をモニターするための方法に用いられる、請求項1~12のいずれか一項に記載の診断薬であって、当該方法が、
i)配列番号1の配列またはその機能的に等価な改変体であって配列番号1の配列に対して90%超の配列同一性を有する配列を含むポリペプチドと、検出可能な標識とを含む複合体を、肺に投与すること;
ii)前記複合体が増殖肺細胞内に入るのに十分な時間待つこと;および
iii)前記被験体にイメージング技術を適用して前記被験体における前記複合体の蓄積部位を検出することによって前記増殖肺細胞を検出し、それによってその増殖部位を検出またはイメージングすること、
iv)iii)で得られた蓄積部位を、前記治療を施行する前の以前の測定で得られた蓄積部位と比較すること
を含み、ここで、
以前の測定と比較して蓄積部位が有意に減少しているか変化がない場合は、前記被験体に施行された前記治療が有効であることを示し、または
以前の測定と比較して蓄積部位が有意に増加している場合は、前記被験体に施行された前記治療が無効であることを示す方法である、診断薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、診断の分野に関し、より具体的には、増殖細胞内に特異的に蓄積する追跡可能な薬剤を用いて、in vivoで肺がんを診断する分野に関する。
【背景技術】
【0002】
肺がんは、国内のみならず世界的にも致死率の高いがんの一つであるが、このような傾向は、症状が無いこと、および高感度の早期診断法が無いことに起因している。
【0003】
ほとんどの患者は、診断前に進行期に進行していたため、早期での治療ができなかった。肺がんには、小細胞肺がん(SCLC)(16.8%)および非小細胞肺がん(NSCLC)(80.4%)の2種類がよくみられる。非小細胞肺がんには、主に扁平上皮がん、肺腺がん、および大細胞肺がんがあるが、中でも肺腺がんは最も一般的な肺がんである(30%~65%)。肺がんの病因はまだ解明されていない。
【0004】
現在の医学研究は、早期の肺がんの診断および治療に焦点を当てている。統計的には、早期の非小細胞肺がん患者の5年生存率は最大80%であるのに対し、非小細胞肺がんの全体の5年生存率はわずか15%である。したがって、肺がんを早期に診断および治療することが重要である。
【0005】
現在、肺がんの診断方法としては、喀痰細胞診、画像検査、内視鏡検査、および生検が挙げられる。喀痰細胞診の感度は低い。肺がんに一般的に用いられる画像検査法としては、X線、CT、MRI(磁気共鳴イメージング)、超音波、核種イメージング、PET-CT(陽電子放射断層撮影/コンピュータ断層撮影)などが挙げられる。画像検査法は感度が不十分であり、通常は1cmを超えるサイズの病変しか視認できない。内視鏡検査では、内視鏡が到達し得る気道内に腫瘍が存在する場合にのみ視認可能である。低線量胸部CTは、最も認知されている診断方法であるが、感度が限定的である。X線検査と同様、CTにも電離放射線が含まれており、それ自体ががんの原因となる可能性がある。
【0006】
典型的な症状を示さない早期患者の診断率は、わずか15%である。従来の肺がんスクリーニングの方法は、特異性および感度が限定的であり、負担が大きく、かつ費用も高いため、高リスク集団には適していない。これらの従来の方法では、肺がんの死亡率を有意に低下させることができない。したがって、早期肺がんの診断率を高め、外科手術の数を減らして合併症のリスクを低減するための、肺がんスクリーニングの代替法または補助法が必要とされている。
【発明の概要】
【0007】
第1の態様において、本発明は、
i)配列番号1の配列またはその機能的に等価な改変体を含むポリペプチド、および
ii)検出可能な標識
を含む複合体であって、
該複合体の肺内投与により、それを必要とする被験体において肺がんをin vivoで診断する方法での使用のための複合体に関する。
【0008】
第2の態様において、本発明は、被験体における肺がん細胞を検出またはイメージングするための方法であって、
i)配列番号1の配列またはその機能的に等価な改変体を含むポリペプチドと、検出可能な標識とを含む複合体を、鼻腔内に投与すること;
ii)上記複合体が上記増殖肺細胞内に入るのに十分な時間待つこと;および
iii)上記被験体にイメージング技術を適用して上記被験体における上記複合体の蓄積部位を検出することによって上記増殖肺細胞を検出し、それによってその増殖部位を検出またはイメージングすること
を含む方法に関する。
【0009】
第3の態様において、本発明は、
i)配列番号1の配列またはその機能的に等価な改変体を含むポリペプチドと、検出可能な標識とを含む複合体;
ii)項目i)の複合体を経鼻滴下または経鼻吸入するための装置;および
iii)項目i)およびii)を包装するための手段
を含む、肺がん診断用キットに関する。
【0010】
第4の態様において、本発明は、肺がんを診断するための、または肺がんの進行をモニターするための、または治療の効果をモニターするための、本発明の第3の態様に従うキットの使用に関する。
【0011】
第5の態様において、本発明は、
i)配列番号1の配列またはその機能的に等価な改変体を含むポリペプチド、および
ii)造影剤またはイメージング剤からなる群から選択される検出可能な標識
を含む複合体に関する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】KRasG12D駆動型肺腺がんマウスモデルにおいて、Omomycは鼻腔内投与により肺に分布する。(A)健常マウスの肺で検出されたOmomyc-DFO-89Zrの定量を、時間の関数として注入用量の%で表している。平均値、S.D.および動物数を示す。(B)Omomycミニプロテインで処置したマウスの肺組織の免疫蛍光検査である。特異的抗Omomyc抗体により、投与4時間後の肺細胞内にOmomyの存在が確認される。矢頭は陽性に染色された核を示す。スケールバーは10μmである。白破線で囲んだ領域の高倍率を右パネルに示す。数字は、ImageJで算出した補正総細胞蛍光に対応する。(C)2.37mg/kgのOmomyc-DFO-89Zrの鼻腔内投与24時間後の担腫瘍マウスの肺のマイクロPET/CTイメージングの3Dレンダリングである。CTデータはグレースケールで表示し、Omomyc-DFO-89ZrマイクロPETデータはカラースケールで表示した(2匹のマウスを分析した)。数字は、Omomyc-DFO-89Zr取り込みについての%鼻腔内用量(ID)/gに対応する。
図2】体内分布および薬物動態研究。2mg/kgのOmomyc-DFO-89Zrを健常対照マウスおよび担腫瘍KrasG12Dマウスに鼻腔内投与した。(A)担腫瘍マウスへの鼻腔内投与24時間後に得られた肺の画像である。数字はOmomyc-DFO-89Zr取り込みについての%ID/gに対応する。(B)健常対照への鼻腔内投与24時間後に得られた肺の画像である。(C)肺腺がん樹立マウスへの鼻腔内投与後の各時点でのOmomyc-DFO-89Zr由来の放射能のex vivo定量による体内分布である。
図3】(A)OmomycCPP-AF660の鼻腔内投与(30μLのビヒクル10mM酢酸ナトリウムpH6.5中1.4mg/kg)の4時間後の処置肺のex vivo蛍光強度である。スケールバーは1cmである。(B)OmomycCPP-AF660の単回投与から24時間後、このポリペプチドは肺腫瘍中で検出可能なままである(FLIは蛍光強度)。下パネルは同じ肺を示しており、肉眼的可視の表在性腫瘍が円で示されている。スケールバーは1cmである。
図4】2.68mg/kgのOmomyc-DFO-89Zrを静脈内投与後72時間での放射能のex vivo定量による体内分布である。注入用量の%が、表示された組織の1gあたりで示されている。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、肺がんの診断および/またはモニタリングのための新規薬剤の提供に関する。
【0014】
別段の定義がない限り、本明細書中で使用されるすべての技術用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されているものと同じ意味を有する。
【0015】
本発明の一態様に関連して開示されるすべての実施形態は、本発明の他の態様にも適用可能である。
【0016】
本発明の複合体の診断的使用
本明細書中および本発明の他のあらゆる態様において提供される定義は、本発明全体に等しく適用可能である。
【0017】
実施例に開示するように、本発明者らは、配列番号1のポリペプチドと、蛍光標識(AF660)または放射性同位体標識(89Zr)などの検出可能な標識とを含む複合体を鼻腔内経路によってin vivoで投与すると、がん細胞に特異的に蓄積し、健常細胞と増殖細胞とを識別することができるため、これが肺腫瘍トレーサーとして使用され得ることを実証した。驚くべきことに、本発明の複合体は、正常組織からは洗い流されたのに対し、腫瘍内には24時間まで蓄積していた。
【0018】
したがって、第1の態様において、本発明は、
i)配列番号1の配列またはその機能的に等価な改変体を含むポリペプチド、および
ii)検出可能な標識
を含む複合体であって、
該複合体の肺内投与により、それを必要とする被験体において肺がんをin vivoで診断する方法での使用のための複合体に関する。
【0019】
別の態様では、本発明は、
i)配列番号1の配列またはその機能的に等価な改変体を含むポリペプチド、および
ii)検出可能な標識
を含む複合体の使用であって、
該複合体の肺内投与により、被験体において肺がんを診断または検出するための複合体の使用に関する。
【0020】
用語「複合体」とは、本明細書中で使用される場合、各化合物の機能が複合体中に保持されるように一緒に結合されている2つ以上の化合物を指す。2つの化合物の結合は、物理的または化学的相互作用、好ましくは化学的相互作用、より好ましくはイオン結合または共有結合;より好ましくは共有結合であり得る。
【0021】
用語「ポリペプチド」および「ペプチド」は、本明細書中では互換的に使用され、任意の長さのアミノ酸のポリマーを指す。本発明のポリペプチドは、修飾されたアミノ酸を含んでいてもよく、非アミノ酸が介在していてもよい。好ましい実施形態では、ポリペプチドはアミノ酸だけで形成される。好ましくは、複合体の項目(i)を形成するポリペプチドは、80~500アミノ酸、より好ましくは80~300アミノ酸、より好ましくは80~250アミノ酸、より好ましくは80~150アミノ酸、さらにより好ましくは80~130アミノ酸、好ましくは90~130アミノ酸、好ましくは125アミノ酸以下、より好ましくは100アミノ酸以下の長さを有する。好ましい実施形態では、ポリペプチドは、90~98アミノ酸、好ましくは90~95アミノ酸、より好ましくは91アミノ酸の長さを有する。
【0022】
用語「アミノ酸」とは、天然に存在するアミノ酸および非天然(合成)アミノ酸、ならびに天然に存在するアミノ酸と同様に機能するアミノ酸類似体およびアミノ酸模倣体を指す。さらに、用語「アミノ酸」には、D-およびL-アミノ酸(立体異性体)の両方、好ましくはL-アミノ酸が含まれる。
【0023】
「天然アミノ酸」または「天然に存在するアミノ酸」という用語には、20種類の天然に存在するアミノ酸;例えば、ヒドロキシプロリン、ホスホセリンおよびホスホスレオニンなど、in vivoで翻訳後に修飾されることが多いアミノ酸;ならびに、2-アミノアジピン酸、ヒドロキシリジン、イソデスモシン、ノルバリン、ノルロイシンおよびオルニチンが挙げられるがこれらに限定されない他の異常アミノ酸が含まれる。
【0024】
本明細書中で使用される場合、用語「非天然アミノ酸」または「合成アミノ酸」とは、位置「a」でアミン基に置換された、天然アミノ酸と構造的に関連するカルボン酸またはその誘導体を指す。修飾されたまたは一般的でないアミノ酸の例示的で非限定的な例としては、2-アミノアジピン酸、3-アミノアジピン酸、β-アラニン、2-アミノ酪酸、4-アミノ酪酸、6-アミノカプロン酸、2-アミノヘプタン酸、2-アミノイソ酪酸、3-アミノイソ酪酸、2-アミノピメリン酸、2,4-ジアミノ酪酸、デスモシン、2,2’-ジアミノピメリン酸、2,3-ジアミノプロピオン酸、N-エチルグリシン、N-エチルアスパラギン、ヒドロキシリジン、アリオヒドロキシリジン(alio hydroxy lysine)、3-ヒドロキシプロリン、4-ヒドロキシプロリン、イソデスモシン、アロイソロイシン、N-メチルグリシン、N-メチルイソロイシン、6-N-メチルリジン、N-メチルバリン、ノルバリン、ノルロイシン、オルニチンなどが挙げられる。
【0025】
本発明のポリペプチドはまた、例えば、ペプチドに結合された疎水性部分(種々の直鎖状、分岐状、環状、多環式または複素環式炭化水素および炭化水素誘導体);分解を減少させるために化合物の末端に結合される種々の保護基など、非アミノ酸部分を含んでいてもよい。適切な保護官能基は、GreenおよびWuts、「有機合成における保護基」、John Wiley and Sons、第5章および第7章、1991年に記載されている。
【0026】
ポリペプチド中に存在する化学(非アミノ酸)基は、分解またはクリアランスの減少、種々の細胞ポンプによる斥力の減少、種々の投与方法の改善、特異性の向上、親和性の向上、安定性、バイオアベイラビリティ、溶解度の向上、毒性の低減など、種々の生理学的特性を改善するために含まれ得る。
【0027】
「模倣体」には、ペプチド構造体の化学構造を模倣し、かつ、ペプチド構造体の機能特性を保持する分子が含まれる。ペプチド類似体、誘導体および模倣体を設計するためのアプローチは、当技術分野で公知である。
【0028】
一実施形態では、複合体の構成要素(i)は、配列番号1の配列からなるポリペプチドまたは配列番号1の機能的に等価な改変体からなるポリペプチドであり、好ましくは配列番号1の配列からなるポリペプチドである。
【0029】
配列番号1は、以下の配列に対応する:
TEENVKRRTHNVLERQRRNELKRSFFALRDQIPELENNEKAPKVVILKKATAYILSVQAETQKLISEIDLLRKQNEQLKHKLEQLRNSCA(配列番号1)。
【0030】
配列番号1の配列のポリペプチドは、Omomycタンパク質配列に対応する。用語「Omomyc」とは、本明細書中で使用される場合、Mycタンパク質のbHLHZipドメインの変異バージョンからなるポリペプチドであって、E61T、E68I、R74QおよびR75N変異を有するものを指す(変異位置の番号付けは、2015年3月15日公開のNCBIデータベースにアクセッション番号NP_002458として定義されているポリペプチドの365~454番目のアミノ酸に対応するMyc領域の配列に対して付与される)。NCBIデータベースにアクセッション番号NP_002458として提供されているc-Mycの配列を以下に示し(配列番号2)、配列中、Omomycが由来する領域は下線で示している:
【0031】
Omomycは、配列RQRRNELKRSF(配列番号3)を有するc-MycのM2ドメイン(DangおよびLee,Mol.Cell.Biol.,1988,8:4048~4054参照)(上記二重下線)もまた含み、これは核局在化シグナルに対応する。
【0032】
Omomycは、3つすべての発がん性Mycタンパク質(c-Myc、N-MycおよびL-Myc)との高い二量体化能を示すことを特徴とする。Omomycは、腫瘍抑制効果をもたらす変異が保存されていることを条件として、当技術分野で公知の任意のMycタンパク質のbHLHZipドメインに由来し得る。したがって、本発明で使用し得るOmomycは、限定されるものではないが、飼育動物および家畜(ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコまたはげっ歯類)、霊長類およびヒトを含めた、任意の哺乳動物種に由来し得る。好ましくは、Omomycタンパク質は、ヒトMycタンパク質(アクセッション番号NP_002458、2019年3月12日公開)に由来する。
【0033】
用語「Myc」とは、本明細書中で使用される場合、c-Myc、N-MycおよびL-Mycを含めた転写因子ファミリーを指す。Mycタンパク質は、コンセンサス配列CACGTG(エンハンサーボックス配列またはEボックス)に結合し、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ(HAT)をリクルートすることにより、多くの遺伝子の発現を活性化する。しかしながら、Mycは、転写抑制因子としても作用し得る。Miz-1転写因子に結合し、p300コアクチベーターに取って代わることにより、Miz-1標的遺伝子の発現を阻害する。Mycはまた、DNA複製の制御にも直接関与している。
【0034】
Myc b-HLH-LZまたはMyc塩基性領域ヘリックス-ループ-ヘリックスロイシンジッパードメインとは、MycとMaxタンパク質との二量体化およびMyc標的遺伝子への結合を決定する領域を指す。この領域は、ヒトMycの365~454番目のアミノ酸に対応し、ループで連結された2つのαヘリックスを特徴とする(Nair,S.K.,&Burley,S.K.,2003,Cell,112:193~205)。
【0035】
好ましい実施形態では、複合体の構成要素(i)は、以下に示す配列番号4を含むか、配列番号4からなるか、または配列番号4から本質的になるポリペプチドである。
【0036】
MTEENVKRRTHNVLERQRRNELKRSFFALRDQIPELENNEKAPKVVILKKATAYILSVQAETQKLISEIDLLRKQNEQLKHKLEQLRNSCA(配列番号4)。
【0037】
この文脈において、「~から本質的になる」とは、特定の分子が、配列番号4の活性を変化させるようないかなる追加の配列も含まないことを意味する。
【0038】
好ましくは、上記ポリペプチドは配列番号4からなる。
【0039】
用語「機能的に等価な改変体」とは、配列番号1のポリペプチドに対して1個以上のアミノ酸の挿入もしくは付加によって、および/または1個以上のアミノ酸の欠失によって、および/または1個以上のアミノ酸の保存的置換によって生じる任意のポリペプチド、ならびに/あるいは配列番号1のポリペプチドの化学修飾によって生じる任意のポリペプチドであって、配列番号1の腫瘍追跡活性を実質的に保持するものをいう。好ましくは、機能的に等価な改変体とは、配列番号1のポリペプチドに対して1個以上のアミノ酸の挿入もしくは付加によって、および/または1個以上のアミノ酸の欠失によって、および/または1個以上のアミノ酸の保存的置換によって生じ、かつ、配列番号1の腫瘍追跡活性を実質的に保持する任意のポリペプチドを指し、より好ましくは、配列番号1のポリペプチドに対して1個以上のアミノ酸の挿入または付加によって生じる任意のポリペプチドを指す。
【0040】
当業者であれば、腫瘍追跡活性を保持するためには、改変体が細胞内に透過できることが必要とされることを理解するであろう。したがって、Omomycの機能的に等価な改変体は、細胞膜を横切って移動することができる。Omomycの機能的に等価な改変体は、細胞と接触した後、前記細胞を形質導入することができる。Omomycの機能的に等価な改変体は、ネイティブなOmomycに見られるタンパク質形質導入ドメインまたは別の機能的なタンパク質形質導入ドメインを含むことが理解されるであろう。したがって、好ましい実施形態では、Omomycの機能的に等価な改変体は、細胞膜を横切って移動することができる。
【0041】
好ましい実施形態では、あるポリペプチドが、配列番号1と比較して、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%または100%効率よく標的細胞を形質導入することができる場合、そのポリペプチドは配列番号1の機能的に等価な改変体とみなされる。
【0042】
ポリペプチドが細胞膜を横切って移動する能力の観点から配列番号1の機能的に等価な改変体であるか否かを判定するのに適したアッセイには、そのポリペプチドに特異的な試薬で細胞を標識することが含まれる。本発明のポリペプチドの検出は、Omomyc特異的抗体または適切なフルオロフォアで標識したOmomycを用いて、共焦点顕微鏡法、フローサイトメトリー、または蛍光顕微鏡アッセイによって行うことができる。また、放射性標識したOmomycを同定するために、細胞分画オートラジオグラフィーアッセイによって検出を行ってもよい。
【0043】
さらに、配列番号1の機能的に等価な改変体は、核膜を横切って移行することもできる場合がある。一実施形態では、Omomycの機能的に等価な改変体は、核膜を横切って移行する能力があることを必要とする。別の実施形態では、Omomycの機能的に等価な改変体は、核膜を横切って移行する能力があることを必要としない。
【0044】
好ましい実施形態では、あるポリペプチドが、配列番号1と比較して、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%または100%効率よく標的腫瘍細胞の核に移行することができる場合、そのポリペプチドは配列番号1の機能的に等価な改変体とみなされる。
【0045】
ポリペプチドが核に移行する能力の観点から機能的に等価な改変体であるか否かを判定するのに適したアッセイには、上記で開示したポリペプチドに特異的な試薬と、細胞の核を特異的に標識する色素(DAPIまたはHoechst色素など)とで細胞を二重標識することが含まれる。本発明のポリペプチドの検出は、共焦点顕微鏡法、フローサイトメトリー、または蛍光顕微鏡法によって行うことができる。
【0046】
腫瘍追跡活性を保持するためには、改変体は、Mycおよび/またはその必須パートナーであるp21/p22Maxと二量体化してMyc活性を阻害できることが必要となる場合がある。一実施形態では、Omomycの機能的に等価な改変体は、腫瘍追跡活性を保持するために、Mycおよび/またはその必須パートナーであるp21/p22Maxと二量体化することを必要とせず、Myc活性を阻害しない。別の実施形態では、Omomycの機能的に等価な改変体は、Mycおよび/またはその必須パートナーであるp21/p22Maxと二量体化してMyc活性を阻害できることを必要とする。
【0047】
いくつかの実施形態では、本発明のポリペプチドの機能的に等価な改変体は、Omomycよりもホモ二量体化することが少ないか、またはジスルフィド架橋の形成によって強制的にホモ二量体にされることがない。
【0048】
「より少ないホモ二量体化」は、本明細書中で使用される場合、還元条件下であっても本発明のポリペプチドの必須ホモ二量体を形成する能力が低いことに関する。好ましい実施形態では、その能力は、Omomycのホモ二量体を形成する能力よりも、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%低い。還元条件は、本明細書中で使用される場合、酸化還元化学反応において別の化学種に電子を供与する化合物である還元剤の存在に関する。還元剤の例示的で非限定的な例は、DTT(ジチオスレイトール)、b-メルカプトエタノール、またはTCEP(トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン)である。ホモ二量体の量は、in vitroでは同じである可能性があり、機能的に等価な改変体とOmomycの違いは、ヘテロ二量体化パートナーが存在する細胞でのみ見られる可能性があり、ここでは、ジスルフィドが存在しないことで、ヘテロ二量体がより多く形成される。
【0049】
いくつかのアッセイを使用して、ペプチドのホモ二量体化を定量することができる。例示的で非限定的な例としては、円偏光二色性によってモニターされる熱変性が挙げられ、折り畳み構造および熱安定性の定量によって二量体化が検出され得る。
【0050】
適切な機能的に等価な改変体としては、配列番号1のポリペプチドから本質的になるポリペプチドが挙げられる。この文脈において、「~から本質的になる」とは、特定の分子が、配列番号1の活性を変化させるようないかなる追加の配列も含まないことを意味する。
【0051】
好ましい実施形態では、配列番号1の機能的に等価な改変体は、配列番号1のポリペプチドに対して1個以上のアミノ酸の挿入または付加によって生じるポリペプチドである。一実施形態では、機能的に等価な改変体は、10個未満のアミノ酸の挿入、より好ましくは5個未満のアミノ酸の挿入によって生じ、より好ましくは、1個のアミノ酸の挿入によって生じる。好ましい実施形態では、メチオニンである1個のアミノ酸の挿入によって生じる。
【0052】
別の実施形態では、配列番号1の機能的に等価な改変体は、配列番号1のポリペプチドに対して1個以上のアミノ酸の欠失によって生じるポリペプチドである。一実施形態では、機能的に等価な改変体は、10個未満のアミノ酸の欠失、より好ましくは5個未満のアミノ酸の欠失によって生じ、より好ましくは、1個のアミノ酸の欠失によって生じる。
【0053】
対象のペプチドの適切な機能的改変体は、配列番号1のペプチドに対して約25%を超えるアミノ酸配列同一性、例えば、25%、30%、40%、50%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の同一性の度合いを示すものである。2つのポリペプチド間の同一性の度合いは、当業者に周知のコンピュータアルゴリズムおよび方法を用いて決定される。2つのアミノ酸配列間の同一性は、好ましくは、以前に記載されたようなBLASTPアルゴリズムを用いて決定される[BLASTマニュアル,Altschul,S.ら,NCBI NLM NIH Bethesda,Md.20894,Altschul,S.ら,J.Mol.Biol.1990;215:403~410]。好ましい実施形態では、配列同一性は、配列番号1のポリペプチドの全長にわたって、または改変体の全長にわたって、またはその両方について決定される。
【0054】
本発明のポリペプチドの機能的に等価な改変体はまた、例えば、グリコシル化、アセチル化、イソプレニル化、ミリストイル化、タンパク質分解プロセシングなどの翻訳後修飾を含んでいてもよい。
【0055】
対象のペプチドの適切な機能的改変体は、本発明のポリペプチド内の1つ以上の位置が、上記の配列に存在するアミノ酸の保存的置換であるアミノ酸を含むものである。「保存的アミノ酸置換」は、1つのアミノ酸を、類似の構造的および/または化学的特性を有する別のアミノ酸で置換することによって生じる。例えば、以下の6つの群はそれぞれ、互いに保存的な置換であるアミノ酸を含む:1)アラニン(A)、セリン(S)、スレオニン(T);2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E);3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q);4)アルギニン(R)、リジン(K);5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V);および6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W)。このような保存的アミノ酸置換の選択は、当業者の技術の範囲内であり、例えば、Dordoら(J.Mol.Biol,1999,217;721~739)およびTaylorら(J.Theor.Biol.,1986,119:205~218)によって記載されている。
【0056】
Omomycの機能的に等価な改変体は、ヒトc-Myc由来のOmomycに見られる変異E61T、E68I、R74QおよびR75Nに対応する位置に変異を含むことが理解されるであろう。機能的に等価な改変体において前記変異が生じるべき位置は、種々のMyc配列の多重配列アラインメントによって決定され得、ヒトc-Mycに由来するOmomycの配列中の61、68、74および75番目に対応する位置のアラインメントによって同定され得る。一実施形態では、Omomycの機能的に等価な改変体は、ヒトc-Myc由来のOmomycに見られる変異E61T、E68I、R74QおよびR75Nに対応する位置に変異を含む。
【0057】
別の実施形態では、Omomycの機能的に等価な改変体は、Omomycの配列中のE61、E68、R74およびR75に対応する位置に変異を含み、E61はE61AまたはE61Sに変異しており、E68はE68L、E68MまたはE68Vに変異しており、R74はR74Nに変異しており、R75はR75Qに変異している。
【0058】
多重配列アラインメントとは、ペアワイズアラインメントの拡張であり、一度に3配列以上を組み入れるものである。多重アラインメント法は、所定のクエリセットの全ての配列を整列させる。好ましい多重配列アラインメントプログラム(およびそのアルゴリズム)は、ClustalW、Clusal2WまたはClustalW XXLである(Thompsonら(1994)Nucleic Acids Res 22:4673~4680参照)。本明細書中に記載されているように、異なる生物に由来するc-Mycの配列と改変体の配列を比較(整列)すれば、当業者は、Omomycに見られる位置E61T、E68I、R74QおよびR75Nに対応する各配列中の位置を容易に同定し、ヒトc-Myc由来のOmomycに見られるE61T、E68I、R74QおよびR75N変異に対応する変異をOmomyc改変体内に導入することができる。
【0059】
好ましい実施形態では、配列番号1の機能的に等価な改変体には、以下の特徴を1つ以上、好ましくはすべて有する配列が含まれる:Mycと二量体化してその活性を阻害する能力、細胞膜を横切る移動、核への移行、ホモ二量体を形成できないか、またはOmomycと比較してホモ二量体を形成する能力が低下していること。
【0060】
あるポリペプチドがOmomycの機能的に等価な改変体とみなされ得るか否かを判定するのに適したアッセイとしては、限定されるものではないが以下が挙げられる:
- 上記ポリペプチドがMaxおよびMycと二量体複合体を形成する能力を測定するアッセイ、例えば、Soucekら(Oncogene,1998,17:2463~2472)に記載されているようなレポーター遺伝子の発現に基づくアッセイ、およびPLA(タンパク質ライゲーションアッセイ)または共免疫沈降法など。
- 上記ポリペプチドがDNA内のMyc/Max認識部位(CACGTG部位)に結合する能力を測定するアッセイ、例えば、Soucekら(前出)に記載されている電気泳動移動度シフトアッセイ(EMSA)など。
- Myc誘導性トランス活性化を抑制する能力を測定するアッセイ、例えば、Soucekら(前出)に記載されているようなMyc/Maxに特異的なDNA結合部位の制御下にあるレポーター遺伝子の発現に基づくアッセイなど。
- Soucekら(前出)に記載されているような、上記ポリペプチドがmyc癌遺伝子を発現している細胞の増殖を阻害する能力に基づくアッセイ。
- 上記ポリペプチドがmyc誘導性アポトーシスを増強する能力を測定するアッセイ、例えば、Soucekら(Oncogene,1998:17,2463~2472)によって記載されているアッセイ。さらに、細胞におけるアポトーシスを評価するために当技術分野で一般的に公知の任意のアッセイ、例えば、Hoechst染色、ヨウ化プロピジウム(PI)またはアネキシンV染色、トリパンブルー、DNAラダー化/断片化およびTUNELなどを使用し得る。
- Omomyc特異的抗体または適切なフルオロフォアで標識したOmomycを用いたフローサイトメトリーまたは蛍光顕微鏡アッセイ。
- 放射性標識したOmomycを同定するための細胞分画オートラジオグラフィーアッセイ。
【0061】
好ましい実施形態では、あるポリペプチドが、上記アッセイのうち1つ以上のアッセイにおいて、ネイティブなOmomycの活性の少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%または100%の活性を示す場合、そのポリペプチドは、Omomycの機能的に等価な改変体とみなされる。
【0062】
特定の実施形態では、配列番号1のポリペプチドの機能的に等価な改変体は、配列番号1のポリペプチドを含むが、配列番号1の89番目の残基Xがシステインではない。好ましくは、配列番号1の89番目の残基Xは、脂肪族アミノ酸、または含硫アミノ酸(sulfured amino acid)、またはジカルボキシアミノ酸もしくはそれらのアミド、または塩基性基を2個有するアミノ酸、または芳香族アミノ酸、または環状アミノ酸、またはヒドロキシル化アミノ酸である。より好ましくは、セリン、スレオニンおよびアラニンから選択されるアミノ酸であり、好ましくは、セリンおよびアラニンから選択されるアミノ酸である。
【0063】
配列番号1の89番目位置にシステインではない残基Xを有する、配列番号1の適切な機能的に等価な改変体を以下の表に開示する。
【0064】
【表1】
【0065】
したがって、好ましい実施形態では、配列番号1のポリペプチドの機能的に等価な改変体は、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9および配列番号10からなる群から選択される。
【0066】
特定の実施形態では、本発明に従う使用のための複合体は、配列番号1を含むポリペプチドまたは配列番号1のポリペプチドの機能的に等価な改変体の細胞への取り込みを促進する化学的部分をさらに含む。
【0067】
別の実施形態では、本発明に従う使用のための複合体は、配列番号1またはその機能的に等価な改変体を含むポリペプチドの細胞への取り込みを促進する化学的部分を含まない。
【0068】
用語「化学的部分」とは、少なくとも1つの炭素原子を含む任意の化学物質を指す。化学的部分の例としては、疎水性アミノ酸および疎水性化学的部分に富む任意のペプチド鎖が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0069】
好ましい実施形態では、本発明に従う複合体は、ポリペプチドまたは前記ポリペプチドの機能的に等価な改変体の細胞への取り込みを促進する、少なくとも1個、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、少なくとも5個、少なくとも6個、少なくとも7個、少なくとも8個、少なくとも9個、少なくとも10個またはそれ以上の化学的部分を含む。
【0070】
一実施形態では、ポリペプチドの細胞への取り込みを促進する化学的部分は、脂質または脂肪酸である。
【0071】
脂肪酸とは、一般に、酸性部分(例えば、カルボン酸)を鎖の末端に有する炭素鎖を含む分子のことである。脂肪酸の炭素鎖は任意の長さであってよいが、炭素鎖の長さは少なくとも炭素原子2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、20個またはそれ以上、およびその中で誘導可能な任意の範囲であることが好ましい。ある実施形態では、炭素鎖の長さは、脂肪酸の鎖部分の炭素原子が4~18個である。ある実施形態では、脂肪酸の炭素鎖は奇数個の炭素原子を含んでいてもよいが、ある実施形態では、鎖中の炭素原子が偶数個であることが好ましい場合がある。炭素鎖中に単結合のみを含む脂肪酸を飽和脂肪酸と呼び、一方、鎖中に少なくとも1つの二重結合を含む脂肪酸を不飽和脂肪酸と呼ぶ。脂肪酸は、分岐していてもよいが、本発明の好ましい実施形態では、分岐していない。具体的な脂肪酸としては、リノール酸、オレイン酸、パルミチン酸、リノレン酸、ステアリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、アラキジン酸、パルミトレイン酸、アラキドン酸が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0072】
好ましい実施形態では、配列番号1またはその機能的に等価な改変体を含むポリペプチドの細胞への取り込みを促進する化学的部分は、細胞透過性ペプチド配列であり、この場合、その複合体は、配列番号1またはその機能的に等価な改変体を含むポリペプチドと細胞透過性ペプチド配列とを含む融合タンパク質を含むであろう。
【0073】
用語「融合タンパク質」は、異なるタンパク質に由来する2つ以上の機能ドメインからなる、遺伝子技術によって生成されたタンパク質に関する。融合タンパク質は、従来の手段、例えば、前記融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列を適切な細胞内で遺伝子発現させることによって得てもよい。上記細胞透過性ペプチドは、配列番号1を含むポリペプチドの一部かまたは配列番号1の機能的に等価な改変体の一部を形成する細胞透過性ペプチドとは異なる細胞透過性ペプチドを指すことが理解されるであろう。
【0074】
用語「細胞透過性ペプチド配列」は、本明細書中では、「CPP」、「タンパク質形質導入ドメイン」または「PTD」と互換的に使用される。これは、細胞内でのタンパク質の輸送を指示する可変長のペプチド鎖を指す。細胞内への送達過程は、一般にはエンドサイトーシスによって行われるが、上記ペプチドは、直接膜移動によって細胞内に内部移行されることもあり得る。CPPのアミノ酸組成は、リジンまたはアルギニンなどの正電荷を帯びたアミノ酸を高い相対的存在量で含んでいるか、極性・荷電アミノ酸と非極性・疎水性アミノ酸とを交互のパターンで含む配列を有するのが一般的である。
【0075】
本発明で使用され得るCPPの例としては、限定されるものではないが、ショウジョウバエアンテナペディアタンパク質に見られるCPP(RQIKIWFQNRRMKWKK、配列番号13)、単純ヘルペスウイルス1(HSV-1)VP22 DNA結合タンパク質に見られるCPP(DAATATRGRSAASRPTERPRAPARSASRPRRPVE、配列番号14)、Bac-7のCPP(RRIRPRPPRLPRPRPLPFPRPG、配列番号15)、HIV-1 TATタンパク質の49~57番目のアミノ酸(RKKRRQRRR、配列番号16)、48~60番目のアミノ酸(GRKKRRQRRRTPQ、配列番号17)、47~57番目のアミノ酸(YGRKKRRQRRR、配列番号18)からなるCPP;S413-PVペプチドのCPP(ALWKTLLKKVLKAPKKKRKV、配列番号19)、ペネトラチンのCPP(RQIKWFQNRRMKWKK、配列番号20)、SynB1のCPP(RGGRLSYSRRRFSTSTGR;配列番号21)、SynB3のCPP(RRLSYSRRRF;配列番号22)、PTD-4のCPP(PIRRRKKLRRLK;配列番号23)、PTD-5のCPP(RRQRRTSKLMKR;配列番号24)、FHV Coat-(35-49)のCPP(RRRRNRTRRNRRRVR;配列番号25)、BMV Gag-(7-25)のCPP(KMTRAQRRAAARRNRWTAR;配列番号26)、HTLV-II Rex-(4-16)のCPP(TRRQRTRRARRNR;配列番号27)、D-TatのCPP(GRKKRRQRRRPPQ;配列番号28)、CPP R9-Tat(GRRRRRRRPPQ;配列番号29)、MAPのCPP(KLALKLALALKLA;配列番号30)、SBPのCPP(MGLGLHLLVLAAALQGAWSQPKKKRKV;配列番号31)、FBPのCPP(GALFLGWLGAAGSTMGAWSQPKKKRKV;配列番号32)、MPGのCPP(ac-GALFLGFLGAAGSTMGAWSQPKKKRKV-cya;配列番号33)、MPG(ENLS)のCPP(ac-GALFLGFLGAAGSTMGAWSQPKSKRKV-cya;配列番号34)、Pep-1のCPP(ac-KETWWETWWTEWSQPKKKRKV-cya;配列番号35)、Pep-2のCPP(ac-KETWFETWFTEWSQPKKKRKV-cya;配列番号36)、構造RN(Nは4~17である)を有するポリアルギニン配列、GRKKRRQRRR配列(配列番号37)、RRRRRLR配列(配列番号38)、RRQRRTSKLMKR配列(配列番号39);トランスポータンGWTLNSAGYLLGKINLKALAALAKKIL(配列番号40);KALAWEAKLAKALAKHLAKALAKALKCEA(配列番号41);RQIKIWFQNRRMKWKK(配列番号42)、YGRKKRRQRRR配列(配列番号43);RKKRRQRR配列(配列番号44);YARAAARQARA配列(配列番号45);THRLPRRRR配列(配列番号46);GGRRARRRR配列(配列番号47)が挙げられる。
【0076】
好ましい実施形態では、前記細胞透過性ペプチドは、配列番号1に含まれる内在性のものではない。
【0077】
好ましい実施形態では、CPPは、HIV-1 TATタンパク質の49~57番目のアミノ酸からなるCPP(RKKRRQRRR、配列番号16)である。別の好ましい実施形態では、CPPは、GRKKRRQRRR配列(配列番号37)またはRRRRRLR(配列番号38)である。別の実施形態では、CPPは、GRKKRRQRRR配列(配列番号37)またはRRRRRRR(配列番号65)である。
【0078】
いくつかの実施形態では、CPPは、WO2019/018898(その内容全体が参照により本明細書に組み込まれる)に記載されているようなCPPである。
【0079】
一実施形態では、細胞透過性ペプチド配列は、本発明のポリペプチドまたは該ポリペプチドの機能的に等価な改変体のN末端で融合している。別の実施形態では、細胞透過性ペプチドは、本発明のポリペプチドまたは該ポリペプチドの機能的に等価な改変体のC末端で融合している。
【0080】
好ましい実施形態では、本発明に従う複合体または融合タンパク質は、配列番号1のポリペプチドまたは該ポリペプチドの機能的に等価な改変体に見られる自身の細胞透過性ペプチドに加えて、少なくとも1個、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、少なくとも5個、少なくとも6個、少なくとも7個、少なくとも8個、少なくとも9個、少なくとも10個またはそれ以上の追加の細胞透過性ペプチドを含む。
【0081】
本発明の適切な融合タンパク質としては、以下に定義されるポリペプチドOmomycTATおよびOmomycLZArgが挙げられる:
【0082】
【表2】
【0083】
したがって、好ましい実施形態では、融合タンパク質は、配列番号11および12から選択されるポリペプチドである。
【0084】
ある複合体がOmomycの細胞膜移動能を保持している否かを判定するのに適したアッセイとしては、その複合体が培養細胞を形質導入する能力を測定するアッセイが挙げられるが、これに限定されるものではない。このアッセイは、複合体を培養細胞と接触させて、細胞内位置にある複合体の存在を検出することに基づいている。
【0085】
別の好ましい実施形態では、本発明の複合体は、さらに、さらなる核局在化シグナルを含む。
【0086】
用語「核局在化シグナル」(NLS)とは、本明細書中で使用される場合、長さが約4~20アミノ酸残基のアミノ酸配列を指し、タンパク質を核に導く役割を果たす。典型的には、核局在化配列は塩基性アミノ酸に富み、例示的な配列は当技術分野で周知である(Gorlich D.(1998)EMBO 5.17:2721~7)。いくつかの実施形態では、NLSは、SV40ラージT抗原NLS(PKKKRKV、配列番号48);ヌクレオプラスミンNLS(KRPAATKKAGQAKKKK、配列番号49);CBP80 NLS(RRRHSDENDGGQPHKRRK、配列番号50);HIV-1 Revタンパク質NLS(RQARRNRRRWE、配列番号51);HTLV-1 Rex(MPKTRRRPRRSQRKRPPT、配列番号52);hnRNP A NLS(NQSSNFGPMKGGNFGGRSSGPYGGQYFKPRNQGGY、配列番号53);rpL23a NLS(VHSHKKKKIRTSPTFTTPKTLRLRRQPKYPRKSAPRRNKLDHY、配列番号54)からなる群から選択される。本発明の一実施形態では、核局在化シグナルは、モチーフK(K/R)X(K/R)(配列番号55)を含む。
【0087】
別の好ましい実施形態では、NLSは、配列番号1のポリペプチドまたはその機能的に等価な改変体を含む複合体または融合タンパク質のN末端またはC末端であってもよい。
【0088】
当業者であれば、本発明に従う使用のための複合体が、配列番号1またはその機能的に等価な改変体を含むポリペプチド、細胞透過性ペプチド配列および/またはNLSを連結する、1つまたは複数の柔軟なペプチドをさらに含むことが望ましい場合があることを理解するであろう。したがって、特定の実施形態では、配列番号1またはその機能的に等価な改変体を含むポリペプチドは、細胞透過性ペプチド配列に直接連結されている。別の特定の実施形態では、配列番号1またはその機能的に等価な改変体を含むポリペプチドは、柔軟なペプチドを介して細胞透過性ペプチド配列に連結されている。一実施形態では、配列番号1またはその機能的改変体を含むポリペプチドは、NLSに直接連結されている。別の実施形態では、配列番号1またはその機能的に等価な改変体を含むポリペプチドは、柔軟なペプチドを介してNLSに連結されている。
【0089】
特定の実施形態では、本発明に従う使用のための複合体のポリペプチドは、細胞透過性ペプチド配列およびNLSに直接連結されている。
【0090】
一実施形態では、NLSは、Myc配列に内在的に現れるNLSの1つ、例えば、M1ペプチド(PAAKRVKLD、配列番号56)またはM2ペプチド(RQRRNELKRSF、配列番号57)である。
【0091】
別の実施形態では、追加のNLSとは、配列番号1を含むポリペプチドまたは配列番号1の機能的に等価な改変体に見られる内在性NLSとは異なるNLSを指す。
【0092】
好ましい実施形態では、本発明に従う使用のための複合体または融合タンパク質は、本発明のポリペプチドまたはその機能的に等価な改変体に見られる内在性NLSに加えて、少なくとも1個、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、少なくとも5個、少なくとも6個、少なくとも7個、少なくとも8個、少なくとも9個、少なくとも10個のNLSを含む。
【0093】
別の特定の実施形態では、本発明に従う使用のための複合体のポリペプチドは、第1の柔軟なペプチドリンカーを介して細胞透過性ペプチド配列に連結され、第2の柔軟なペプチドリンカーを介してNLSに連結される。
【0094】
本明細書中で使用される場合、用語「柔軟なペプチド」、「スペーサーペプチド」または「リンカーペプチド」とは、2つのタンパク質または部分に共有結合するが、いずれのポリペプチドの一部でもないペプチドであって、上記タンパク質または部分のいずれの機能にも実質的な有害な影響を引き起こすことなく、一方が他方に対して動くことを可能にするペプチドを指す。したがって、柔軟なリンカーは、ポリペプチド配列の腫瘍追跡活性、細胞透過性ペプチドの細胞透過活性、またはNLSの核局在化能力に影響を及ぼさない。
【0095】
柔軟なペプチドは、少なくとも1個のアミノ酸、少なくとも2個のアミノ酸、少なくとも3個のアミノ酸、少なくとも4個のアミノ酸、少なくとも5個のアミノ酸、少なくとも6個のアミノ酸、少なくとも7個のアミノ酸、少なくとも8個のアミノ酸、少なくとも9個のアミノ酸、少なくとも10個のアミノ酸、少なくとも12個のアミノ酸、少なくとも14個のアミノ酸、少なくとも16個のアミノ酸、少なくとも18個のアミノ酸、少なくとも20個のアミノ酸、少なくとも25個のアミノ酸、少なくとも30個のアミノ酸、少なくとも35個のアミノ酸、少なくとも40個のアミノ酸、少なくとも45個のアミノ酸、少なくとも50個のアミノ酸、少なくとも60個のアミノ酸、少なくとも70個のアミノ酸、少なくとも80個のアミノ酸、少なくとも90個のアミノ酸、または約100個のアミノ酸を含む。いくつかの実施形態では、柔軟なペプチドは、タンパク質の溶解度を高めるために、かつ/またはその活性を向上させるために、一方のタンパク質が他方のタンパク質に対して動くことを可能にする。適切なリンカー領域としては、ポリグリシン領域、グリシン残基、プロリン残基およびアラニン残基の組み合わせのGPRRRR配列(配列番号58)が挙げられる。
【0096】
さらに好ましい実施形態では、核局在化シグナルは、PKKKRKV(配列番号48)、PAAKRVKLD(配列番号56)およびKRPAATKKAGQAKKKK(配列番号49)からなる群から選択される。
【0097】
特定の実施形態では、本発明に従う使用のための複合体は、その複合体に結合されたタグ、あるいは前記ポリペプチドまたは融合タンパク質またはその改変体のC末端ドメインまたはN末端ドメインに結合されたタグを含む。前記タグは、通常、前記融合タンパク質の単離または精製に使用され得るペプチドまたはアミノ酸配列である。したがって、前記タグは、1つ以上のリガンド、例えば、クロマトグラフィーの支持体またはビーズなどの親和性マトリックスの1つ以上のリガンドに高親和性で結合することができる。前記タグの例は、ニッケル(Ni2+)またはコバルト(Co2+)のカラムに高親和性で結合できるヒスチジンタグ(His-タグまたはHT)、例えば、6残基のヒスチジンを含むタグ(His6またはH6)である。His-タグは、ほとんどのタンパク質が変性し、かつ、ほとんどのタンパク質-タンパク質相互作用が破壊される条件下で、そのリガンドと結合可能であるという望ましい特徴を有する。したがって、これは、H6でタグ付けされたベイトタンパク質を、そのベイトが関与していたタンパク質-タンパク質相互作用の破壊後に除去するために使用することができる。
【0098】
上記複合体または配列番号1もしくはその改変体を含むポリペプチドまたは融合タンパク質を単離または精製するために有用なタグのさらなる例示的で非限定的な例としては、Arg-タグ、FLAG-タグ(DYKDDDDK;配列番号59)、Strep-タグ(WSHPQFEK、配列番号60)、抗体により認識可能なエピトープ、例えば、c-myc-タグ(抗c-myc抗体により認識される)、HAタグ(YPYDVPDYA、配列番号61)、V5タグ(GKPIPNPLLGLDST、配列番号62)、SBP-タグ、S-タグ、カルモジュリン結合ペプチド、セルロース結合ドメイン、キチン結合ドメイン、グルタチオンS-トランスフェラーゼ-タグ、マルトース結合タンパク質、NusA、TrxA、DsbA、Avi-タグなど(Terpe K.,Appl.Microbiol.Biotechnol.2003,60:523~525)、アミノ酸配列、例えば、AHGHRP(配列番号63)またはPIHDHDHPHLVIHSGMTCXXC(配列番号64)、β-ガラクトシダーゼなどが挙げられる。
【0099】
上記タグは、必要に応じて、前記融合タンパク質の単離または精製のために使用され得る。
【0100】
好ましい実施形態では、本発明に従う使用のための複合体は、肺がんの診断に使用され、該肺がんは、小細胞肺がん(SCLC)および非小細胞肺がん(NSCLC)から選択される原発腫瘍であるか、またはがん転移である。
【0101】
配列番号1の配列またはその機能的に等価な改変体を含むポリペプチドは、検出可能な標識との複合体化による診断薬の調製に使用される。
【0102】
別の態様では、本発明は、診断薬の調製のための本発明の第1の態様に従う複合体の使用に関する。
【0103】
本発明の文脈において、用語「診断薬」は、個体に投与された後に検出され得るように改変された、配列番号1の配列またはその機能的に等価な改変体を含むポリペプチドを含む薬剤であると理解される。
【0104】
用語「検出可能な標識」、「イメージング剤」、「イメージング用化合物」および「造影剤」は、本明細書中では互換的に使用され、直接的または間接的に検出される能力を有する生体適合性化合物を指し、それを使用することで、画像の異なる領域間の「コントラスト」を高めることによって、画像の異なる部分の区別を容易にするものである。それらは、配列番号1またはその機能的に等価な改変体を含むポリペプチドの取り込みと関連しているがんまたはその他の状態を、当技術分野で公知の以下に記載されるin vivo方法により診断、検出または可視化するのに有用な原子、分子、化合物またはその他の物質を指す。
【0105】
本明細書に記載の実施形態によれば、検出可能な標識としては、放射性物質(例えば、放射性同位体、放射性核種、放射性標識または放射性トレーサー)、色素、造影剤、蛍光化合物または分子、生物発光化合物または分子、酵素および増強剤(例えば、常磁性イオン)が挙げられ得るが、これらに限定されるものではない。さらに、いくつかのナノ粒子、例えば量子ドットおよび金属ナノ粒子(後述)も、検出剤としての使用に適し得ることに留意すべきである。
【0106】
好ましい実施形態では、検出可能な標識は、放射性物質、好ましくは放射性同位体である。
【0107】
本開示の実施形態に従って検出可能な標識として使用され得る放射性物質としては、18F、32P、33P、45Ti、47Sc、52Fe、59Fe、62Cu、64Cu、67Cu、67Ga、68Ga、75Sc、77As、86Y、90Y、89Sr、89Zr、94Tc、94Tc、99mTc、99Mo、105Pd、105Rh、111Ag、111In、123I、124I、125I、131I、142Pr、143Pr、149Pm、153Sm、1541581Gd、161Tb、166Dy、166Ho、169Er、175Lu、177Lu、186Re、188Re、189Re、194Ir、198Au、199Au、211At、211Pb、212Bi、212Pb、213Bi、223Raおよび225Acが挙げられるが、これらに限定されるものではない。本開示の実施形態に従って検出可能な標識として使用され得る常磁性イオンとしては、遷移金属およびランタニド金属(例えば、原子番号が6~9、21~29、42、43、44、または57~71の金属)のイオンが挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの金属には、Cr、V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuのイオンが含まれる。より好ましい実施形態では、放射性物質または放射性同位体は89Zrである。
【0108】
検出可能な標識が放射性金属または常磁性イオンである場合、その標識を、これらのイオンを結合させるための1つ以上のキレート基を結合させた長い尾部を有する試薬と反応させてもよい。その場合、該キレート基を、配列番号1またはその機能的に等価な改変体を含むポリペプチドに共有結合させてもよい。上記長い尾部は、ポリマー、例えば、ポリリジン、多糖、またはイオンを結合させるためのキレート基に結合可能なペンダント基を有する他の誘導体化されたもしくは誘導体化可能な鎖であってもよい。本開示に従って使用され得るキレート基の例としては、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、DOTA、NOTA、NETA、ポルフィリン、ポリアミン、クラウンエーテル、ビスチオセミカルバゾン、ポリオキシム、DFO(デフェロキサミン-マレイミド)などの基が挙げられるが、これらに限定されるものではない。同じキレート剤でも、マンガン、鉄およびガドリニウムなどの非放射性金属と錯体を形成すると、MRIに有用である。NOTA、DOTAおよびTETAなどの大環状キレートは、それぞれガリウム、イットリウムおよび銅の放射性核種が挙げられるがこれらに限定されない様々な金属および放射性金属と共に使用される。RAITのための223Raなどの核種を安定に結合するのに重要な、大環状ポリエーテルなどの他の環型キレートを使用してもよい。ある実施形態では、キレート部分を使用して、Al-18F錯体またはDFO-89ZrなどのPETイメージング剤を、PET分析に使用するための標的化分子に結合させてもよい。好ましい実施形態では、キレート基はDFOである。より好ましい実施形態では、複合体はOmomyc-DFO-89Zrである。
【0109】
本開示の実施形態に従って検出可能な標識として使用され得る酵素としては、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、酸性ホスファターゼ、グルコースオキシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、β-グルコロニダーゼまたはβ-ラクタマーゼが挙げられるが、これらに限定されるものではない。そのような酵素は、検出可能なシグナルを生成するために、色素原、蛍光原化合物または発光原化合物と組み合わせて使用されてもよい。
【0110】
したがって、用語「造影剤」には、そのような薬剤がなくとも作成され得る画像の質を向上させるために使用される薬剤(例えば、MRIの場合のように)、および画像作成に必須の薬剤(例えば、核イメージングの場合のように)が包含される。適切な造影剤としては、放射性核種イメージング用、コンピュータ断層撮影用、ラマン分光法用、磁気共鳴イメージング(MRI)用、および光学イメージング用の造影剤が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0111】
本発明の文脈では、造影剤は、本発明の複合体の一部であってもよいし、または本発明の複合体と一緒に投与されてもよく、それによって、例えばコンピュータ断層撮影(CT)または磁気共鳴イメージング(MRI)で取得された画像などを重ね合わせて特殊な図を作成することができる核医学画像を取得することができるが、この実務は画像統合またはコレジストレーションとして公知である。これらの図により、2つの異なる検査から得られた情報を1つの画像上で相関させて解釈することが可能になるため、より正確な情報および的確な診断が得られる。特定の実施形態では、放射性核種で標識された複合体の検出と、参照身体の画像または断面の取得とが、単一光子放射型コンピュータ断層撮影/コンピュータ断層撮影(SPECT/CT)および陽電子放射断層撮影/コンピュータ断層撮影(PET/CT)ユニット、またはさらには両方の画像検査を同時に行うことができるPET/MRIにおいて、同時に行われる。
【0112】
放射性核種イメージングのための造影剤としては、11C、13N、15O、18F、82Rb、62Cuおよび68Gaなどの陽電子放射体で一般に標識された放射性医薬品が挙げられる。SPECTの放射性医薬品は、94mTc、201Tlおよび67Gaなどの陽電子放射体で一般に標識されている。放射性核種イメージングモダリティ(陽電子放射断層撮影(PET);単一光子放射型コンピュータ断層撮影(SPECT))は、放射性核種で標識された放射性トレーサーの位置および濃度をマッピングする診断用断層イメージング技術である。PETおよびSPECTは、放射性核種の位置および特徴を把握するために用いられ得る。PETでは、陽電子を放出する放射性複合体が体内を移動する際にその物質をモニターすることができる。PETと密接な関係にあるのが、単一光子放射型コンピュータ断層撮影すなわちSPECTである。両者の大きな違いは、陽電子を放出する物質の代わりに、SPECTでは、低エネルギーの光子を放出する放射性トレーサーを使用することである。
【0113】
CTイメージング用の造影剤としては、例えば、ヨウ素化または臭素化された造影剤が挙げられる。これらの薬剤の例としては、イオタラメート、イオヘキソール(iohexyl)、ジアトリゾエート、イオパミドール、エチオドールおよびイオパノエートが挙げられる。ガドリニウム剤もCT造影剤として有用であることが報告されている。例えば、ガドペンテート剤はCT造影剤として使用されてきた。本発明の文脈では、イメージングモダリティとしてコンピュータ断層撮影(CT)が想定されている。CTは、一連のX線を、時には1000回を超えて様々な角度から撮影し、次いでコンピュータを用いてそれらを組み合わせることで、身体の任意の部分の3次元画像を構築することを可能にした。コンピュータは2次元断面を任意の角度からおよび任意の深さで表示するようにプログラムされている。CTにおいて、最初のCTスキャンで診断がつかないときには、本明細書に記載したものなどの放射線不透過性造影剤が、軟部組織腫瘤の同定および描出を補助し得る。
【0114】
光学イメージング用の造影剤としては、例えば、フルオレセイン、フルオレセイン誘導体、インドシアニングリーン、オレゴングリーン、オレゴングリーンの誘導体、ローダミングリーン、ローダミングリーンの誘導体、エオシン、エリスロシン、テキサスレッド、テキサスレッドの誘導体、マラカイトグリーン、ナノゴールドスルホスクシンイミジルエステル、カスケードブルー、クマリン誘導体、ナフタレン、ピリジルオキサゾール誘導体、カスケードイエロー色素、ダポキシル色素、および本明細書に開示されている種々の他の蛍光化合物が挙げられる。
【0115】
好ましい実施形態では、造影剤は、磁気共鳴イメージング装置によって画像化され得る化合物である。磁気共鳴イメージング装置によって画像化され得る造影剤は、他のイメージング技術で使用されるものとは異なる。それらの目的は、同一のシグナル特性を有する組織成分の識別を補助し、緩和時間を短縮することである(これにより、T1強調スピンエコーMR画像ではより強いシグナルが得られ、T2強調画像ではより弱いシグナルが得られるようになる)。MRI造影剤の例としては、ガドリニウムキレート、マンガンキレート、クロムキレート、および鉄粒子が挙げられる。ある特定の実施形態では、MRI造影剤は19Fである。CTおよびMRIのいずれも、組織の境界を識別するのに役立つ解剖学的情報を提供する。CTと比較して、MRIの欠点としては、患者の耐容性の低さ、ペースメーカーおよびある種の他の埋め込み型金属装置の禁忌、ならびに複数の原因(とりわけ重要なのは動きである)に関連するアーチファクトが挙げられる。一方、CTは、高速で、耐容性が良好であり、かつ容易に利用可能であるが、MRIよりもコントラスト分解能が低く、ヨード造影剤および電離放射線を必要とする。CTおよびMRIのいずれのイメージングモダリティも、細胞レベルでの機能情報は得られないという欠点がある。例えば、いずれのモダリティも細胞の生存率に関する情報は得られない。磁気共鳴イメージング(MRI)は、CTよりも新しいイメージングモダリティであり、高強度磁石および高周波シグナルを用いて画像を作成する。生体組織に最も多く存在する分子種は水である。イメージング実験において最終的にシグナルを生じさせるものは、水のプロトン核の量子力学的「スピン」である。MRIでは、画像化されるべき試料を強力な静磁場(1~12テスラ)に置き、高周波(RF)パルスの照射でスピンを励起して試料中に正味の磁化を生じさせる。次いで、種々の磁場勾配および他のRFパルスがスピンに作用して、空間的情報を記録シグナルにコード化する。これらのシグナルを収集して解析することにより、CT画像のように、通常2次元断面で表示される3次元画像を計算することが可能である。
【0116】
MRI造影剤としては、クロム(III)、マンガン(II)、鉄(III)、鉄(II)、コバルト(II)、ニッケル(II)、銅(II)、ネオジム(III)、サマリウム(III)、イッテルビウム(III)、ガドリニウム(III)、バナジウム(II)、テルビウム(III)、ジスプロシウム(III)、ホルミウム(III)およびエルビウム(III)からなる群から選択される金属の錯体が挙げられる。好ましい実施形態では、磁気共鳴イメージング装置によって画像化され得る化合物は、ガドリニウム系化合物である。
【0117】
本明細書中で使用される「ガドリニウム系化合物」という用語は、肺イメージングに関して使用される場合、血管内増強をもたらす、被験体に投与可能な任意のガドリニウム含有物質を意味するものとする。別の実施形態では、ガドリニウム含有造影剤は、ガドリニウム、ガドリニウムペンテート(gadolinium pentate)、およびガドジアミドからなる群から選択される。
【0118】
検出可能な標識を、配列番号1の配列またはその機能的に等価な改変体を含むポリペプチドに複合体化させるには、いくつかの方式がある。特定の実施形態では、複合体化は、マレイミドを介した方法論によって、すなわち、マレイミド-DFO(または他のキレート基)のOmomycへの結合によって、またはマレイミド-AF660(または他のフルオロフォア)のOmomycへの結合によって、およびOmomycのC末端にあるユニークなシステイン残基との後のマレイミド反応によって行われることになる。このカップリング反応は、マレイミド標識化の標準的な手順を用いて行われる。
【0119】
この化学的標識工程は、例えば、NHS-(遊離アミンを介して標識するため)またはジスルフィドカップリング剤などの他の化学試薬を用いて行ってもよい。
【0120】
本発明に従う使用のための複合体の存在、非存在、濃度、局在、または特異的分布の検出は、磁気共鳴イメージング(MRI)、陽電子放射断層撮影(PET)またはマイクロPET、コンピュータ断層撮影(CT)、PET/CTコンビネーションイメージャー、冷却電荷結合素子(CCD)、カメラ光学イメージング、光学イメージングおよび単一光子放射コンピュータ断層撮影(SPECT)などのin vivoイメージングモダリティによって達成される。
【0121】
さらに好ましい実施形態では、複合体の投与後のがん細胞の検出は、mPET/mCTまたはPET/CTイメージング、好ましくはmPET/mCTによって行われる。
【0122】
本発明はまた、マルチモーダルイメージング方法を提供する。本発明のある実施形態は、複数のシグナルの測定を伴う複数のイメージングモダリティを用いて、被験体または被験体内の部位をイメージングする方法に関する。ある実施形態では、複数のシグナルは、細胞上または細胞内の単一の標識から生じる。上述のように、当業者に公知の任意のイメージングモダリティを、本発明のイメージング方法のこれらの実施形態に適用してもよい。
【0123】
イメージングモダリティは、複合体の投与中または投与後の任意の時間に実施される。例えば、画像化研究は、本発明の複合体の投与中に、すなわち、特定の位置への送達をガイドするのを補助するために実施してよく、またはその後の任意の時間に実施してよい。
【0124】
追加のイメージングモダリティは、第1のイメージングモダリティと同時に実施しても、または第1のイメージングモダリティの後の任意の時間に実施してもよい。例えば、追加のイメージングモダリティは、第1のイメージングモダリティの完了後、約1秒、約1時間、約1日、もしくはより長い任意の期間、または記載されているこれらの時間のいずれかの間の任意の時間に実施してよい。本発明のある実施形態では、複数のイメージングモダリティが、複合体の投与後に同時に開始されるように、同時に実施される。当業者であれば、本発明で想定される様々なイメージングモダリティの実施に精通しているであろう。
【0125】
本発明のイメージング方法のいくつかの実施形態では、同じイメージング装置を使用して、第1のイメージングモダリティと第2のイメージングモダリティを実施する。他の実施形態では、異なるイメージング装置を使用して、異なるイメージングモダリティを実施する。当業者であれば、本明細書中に記載されているイメージングモダリティの実施に利用可能なイメージング装置に精通しているであろう。
【0126】
本発明は、1つ以上のイメージングモダリティを用いて細胞をイメージングするための方法を提供する。いくつかの実施形態では、本発明に従う使用のための複合体は、2種類以上の検出可能な標識を有するか、あるいは配列番号1を含むポリペプチドにまたはその機能的に等価な改変体に連結された複数の、同等のまたは異なる、検出可能な標識を有する。他の実施形態では、複合体は、単一の検出可能な標識と連結されている。ある実施形態では、単一の検出可能な標識は、多モード検出可能な標識である。
【0127】
好ましい実施形態では、検出可能な標識は、18F、32P、33P、45Ti、47Sc、52Fe、59Fe、62Cu、64Cu、67Ga、68Ga、75Sc、77As、86Y、89Sr、89Zr、94Tc、94Tc、99mTc、99Mo、105Pd、105Rh、111Ag、123I、124I、142Pr、143Pr、149Pm、153Sm、1541581Gd、161Tb、166Dy、166Ho、169Er、175Lu、186Re、189Re、194Ir、198Au、199Au、211Pb、212Bi、212Pb、223Raおよび225Acからなる群から選択される。より好ましい実施形態では、放射性物質または放射性同位体は89Zrである。
【0128】
本発明のこの態様の一実施形態では、複合体は、細胞透過性ペプチド配列を含まない。別の実施形態では、複合体は、配列番号1のポリペプチドまたはその機能的に等価な改変体の細胞への取り込みを促進する化学的部分を含まない。本発明の複合体の別の実施形態では、複合体は、蛍光標識または放射性同位体を含まず、より好ましくは、複合体は、フルオレセイン-マレイミド(FITC)、または131I、90Y、177Lu、188Re、67Cu、211At、213Bi、125Iおよび111Inからなる群から選択される放射性同位体を含まない。別の実施形態では、本発明の複合体は、細胞透過性ペプチド配列、蛍光標識または放射性同位体を含まず、より好ましくは、フルオレセイン-マレイミド(FITC)、または131I、90Y、177Lu、188Re、67Cu、211At、213Bi、125Iおよび111Inからなる群から選択される放射性同位体を含まない。
【0129】
別の実施形態では、本発明の複合体は、蛍光基、ビオチン、PEG、アミノ酸類似体、非天然アミノ酸、リン酸基、グリコシル基、放射性同位体標識、タグ、例えばヒスチジンタグ、Arg-タグ、FLAG-タグ、Strep-タグ、抗体によって認識され得るエピトープ、例えばc-myc-タグ、HAタグ、V5タグ、SBP-タグ、S-タグ、カルモジュリン結合ペプチド、セルロース結合ドメイン、キチン結合ドメイン、グルタチオンS-トランスフェラーゼタグ、マルトース結合タンパク質、NusA、TrxA、DsbA、Avi-タグ、アミノ酸配列、例えばAHGHRP(配列番号63)もしくはHDHPHPHIHSGMTCXXC(配列番号64)またはβ-ガラクトシダーゼなどを含まない。
【0130】
用語「診断」または「検出」は、本明細書中では区別なく使用され、病態の存在または特徴を特定することを指す。用語「診断」とは、本明細書中で使用される場合、被験体において可能性のある疾患を判定および/または特定しようと試みるプロセス、すなわち診断手順と、このプロセスによって到達される見解、すなわち診断見解の両方を指す。そのため、これは、治療および予後に関する医学的判断がなされるのを可能にするために、個人の状態を異なる別個のカテゴリーに分類する試みとみなすこともできる。当業者が理解するように、このような診断は、診断される被験体の100%にとって正しいとは限らないが、そうであることが好ましい。しかしながら、この用語は、被験体の統計学的に有意な部分が、疾患、特に本発明の文脈では増殖性疾患に罹患していると特定できることを必要とする。ある集団が統計学的に有意であるか否かは、例えば、信頼区間の決定、p値決定、スチューデントの検定、マン-ホイットニーなど、周知の様々な統計学的評価ツールを用いて当業者が判定し得る。好ましい信頼区間は、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも95%である。p値は、好ましくは、0.05、0.025、0.001またはそれ以下である。
【0131】
一実施形態では、診断方法は、
a)配列番号1の配列またはその機能的に等価な改変体を含むポリペプチドと、検出可能な標識とを含む複合体を被験体に肺内投与すること、および
b)上記検出可能な標識を検視することにより、前記患者において肺腫瘍を検出すること
を含む。
【0132】
「診断する方法」という表現は、本発明に従って言及される場合、その方法が前述の工程から実質的になるものであってもよいし、さらなる工程を含んでいてもよいことを意味する。
【0133】
本明細書中で使用される場合、「in vivo診断」という表現は、ヒトまたは動物の体に適用される診断方法を指す。
【0134】
本発明の目的では、診断は、肺がんの存在を特定することである。
【0135】
用語「肺がん」または「肺腫瘍」とは、肺の組織における無秩序な細胞増殖を特徴とする、哺乳動物における生理的状態を指す。肺がんという用語は、肺の任意のがんを指すことを意味し、非小細胞肺がんおよび小細胞肺がんを含む。一実施形態では、肺がんは非小細胞肺がん(NSCLC)である。別の実施形態では、肺がんは小細胞肺がん(SCLC)である。
【0136】
非小細胞肺癌(NSCLC)という用語は、本明細書中で使用される場合、それらの予後および管理がおおよそ同一であるために一緒に分類された異質な疾患群を指し、世界保健機構/国際肺癌学会の組織学的分類(Travis WDら、肺および胸膜腫瘍の組織型分類、第3版、ベルリン:Springer-Verlag、1999)によれば、以下のものが挙げられる:
(i)扁平上皮がん(SCC)は、NSCLCの30~40%を占め、より太い呼吸管に発生するが、増殖が遅いため、診断時の腫瘍の大きさは多様である。
(ii)腺がんは、NSCLCの最も一般的なサブタイプであり、NSCLCの50%~60%を占め、肺のガス交換表面付近に発生し、治療に対する反応が異なる可能性があるサブタイプである気管支肺胞上皮がんを含む。
(iii)大細胞がんは、肺の表面付近で増殖する急速成長型である。これは主に除外診断であり、さらなる検査が行われると、通常は扁平上皮がんまたは腺がんに再分類される。
(iv)腺扁平上皮がんは、2種類の細胞、すなわち扁平細胞(特定の臓器の内側を覆う薄く平らな細胞)と腺様細胞を含むがんの一種である。
(v)多形性、肉腫様または肉腫性要素を有するがん。これは、組織学的異質性ならびに上皮および間葉の分化における連続性を反映する希少な腫瘍の群である。
(vi)カルチノイド腫瘍は、増殖の遅い神経内分泌肺腫瘍であり、神経系からの刺激に応答してホルモンを放出する能力のある細胞に発生する。
(vii)唾液腺型のがんは、肺の太い気道の内側に位置する唾液腺細胞に発生する。
(viii)未分類のがんには、前述の肺がんカテゴリーのいずれにも当てはまらないがんが含まれる。
【0137】
本明細書中で使用される場合、用語「被験体」または「患者」とは、哺乳動物に分類されるすべての動物を指し、飼育動物および家畜、霊長類およびヒト、例えば、ヒト、非ヒト霊長類、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、またはげっ歯類が挙げられるが、これらに限定されるものではない。好ましくは、被験体は、任意の年齢または人種のヒトの男性または女性である。
【0138】
用語「原発腫瘍」とは、本明細書中で使用される場合、その腫瘍が存在している位置または臓器に発生したものであり、別の位置からその位置に転移したのではない腫瘍を指す。
【0139】
本発明の文脈では、「転移」は、がんが発生した臓器から異なる臓器へと拡散することと理解される。転移は通常、血液またはリンパ系を介して起こる。がん細胞が拡散して新たな腫瘍を形成する場合、その新たな腫瘍は二次性腫瘍または転移性腫瘍と呼ばれる。二次性腫瘍を形成するがん細胞は、元の腫瘍のがん細胞と類似している。例えば、乳がんが肺に拡散(転移)する場合、その二次性腫瘍は悪性乳がん細胞で形成される。肺におけるこの疾患は、転移性乳がんであって、肺がんではない。
【0140】
特定の実施形態では、NSCLCは、肺の扁平上皮がん、肺の大細胞がん、および肺の腺がんから選択される。
【0141】
さらにより好ましい実施形態では、肺がんは腺がんである。
【0142】
さらにより好ましい実施形態では、肺腺がんはKRAS変異腺がんである。
【0143】
KRASとは、カーステンラット肉腫ウイルス癌遺伝子ホモログ(KRAS)タンパク質を指す。NSCLCの場合、KRAS変異は、コドン12(80%超)およびコドン13で主に(95%)生じる。KRAS変異NSCLCの約39%を占める最も頻度の高いコドン変異体は、KRAS-G12C変異である。他の一般的な変異としては、KRAS-G12V(18~21%)およびKRAS-G12D(17~18%)の変異体が挙げられる。注目すべきことには、喫煙者と非喫煙者では、KRASにおける変異およびコドン変異体のスペクトルが異なる。例えば、非喫煙者ではトランジション変異(G>A)の頻度が高く、一方、以前または現在の喫煙者ではトランスバージョン変異(G>CまたはG>T)が多く見られる。好ましい実施形態では、KRAS変異腺がんは、KRAS-G12D変異体である。
【0144】
小細胞肺がん(SCLC)という用語は、本明細書中で使用される場合、高密度の神経分泌顆粒を含有し、それにより、この腫瘍に内分泌/腫瘍随伴症候群との関連性を与える、独特かつ厳密な形態学的特徴を有する小細胞の増殖を指す。ほとんどの症例では、より太い気道(一次および二次気管支)に発生する。これらのがんは疾患の初期に急速に増殖し、拡散する。
【0145】
別の実施形態では、本発明に従う使用のための複合体によって診断されるがんは、がん転移である。
【0146】
本発明の複合体の投与は、肺内投与である。
【0147】
用語「肺内投与」とは、薬学的活性物質を肺の任意の表面に送達する任意の投与様式を指す。送達様式としては、液体懸濁液、乾燥粉末「ダスト」、またはエアロゾルが挙げられ得るが、これらに限定されるものではない。
【0148】
「肺表面を横切る輸送」とは、肺の内表面を透過または浸透する任意の通過様式を指す。これには、肺胞表面、細気管支表面を含む任意の肺表面を介する通過および任意のこれらの表面間の通過が含まれる。好ましくは、通過は肺胞表面を介する。最も好ましくは、通過は肺胞表面のII型細胞を介する。通過は、局所作用のために直接肺組織に到達するものか、または全身作用のために肺組織を経由して循環系に入るもののいずれであってもよい。
【0149】
特定の実施形態では、本発明に従う使用のための複合体は、鼻腔内に投与される。
【0150】
さらにより好ましい実施形態では、鼻腔内投与は、滴下によるものである。
【0151】
特定の実施形態では、本発明に従う使用のための複合体は、経鼻滴下、経鼻吸入または経口吸入によって、好ましくは経鼻滴下または経鼻吸入によって、より好ましくは経鼻滴下によって投与される。
【0152】
「滴下」は、本発明に従う使用のための複合体の有効量を哺乳動物の鼻孔に提供することのできる任意の送達システムを包含する。代表的かつ非限定的な形式としては、液滴、スプレー、粉末、エアロゾル、ミスト、カテーテル、チューブ、シリンジ、クリーム用アプリケータ、微粒子、ペレットなどが挙げられる。
【0153】
本発明は、様々な経鼻送達ビヒクルおよび/またはキャリアを使用して実施され得る。このようなビヒクルは、鼻孔内への滴下後のその鼻孔内での複合体の半減期を増加させる。これらのキャリアとしては、天然ポリマー、半合成ポリマー、合成ポリマー、リポソーム、および半固体剤形が挙げられる。天然ポリマーとしては、例えば、タンパク質および多糖が挙げられる。半合成ポリマーは、例えば、天然多糖であるキチンの脱アセチル化形態であるキトサンなどの修飾天然ポリマーである。合成ポリマーとしては、例えば、デンドリマー、ポリリン酸エステル、ポリエチレングリコール、ポリ(乳酸)、ポリスチレンスルホン酸(PSSA)、およびポリ(ラクチド-コ-グリコリド)が挙げられる。半固体剤形としては、例えば、クリーム、軟膏、ゲル、およびローションが挙げられる。これらのキャリアはまた、複合体をマイクロカプセル化するために、または複合体に共有結合されるためにも使用され得る。
【0154】
一実施形態では、本発明に従う使用のための複合体は、キャリア粒子を含むか、またはキャリア粒子に共有結合的もしくは非共有結合的に結合しており、鼻孔に投与するために粉末、スプレー、エアロゾル、クリーム、ゲルなどとして処方されてもよい。一実施形態では、複合体は、粘膜付着性物質を含んでいてもよい溶解性フィルム中のキャリア粒子コア上にコーティングされる。キャリア粒子コアは、不活性であっても、溶解性であってもよい。
【0155】
本発明はまた、本発明に従う使用のための複合体を、例えば、粉末、クリーム、または液体であってもよい薬学的に許容されるキャリアと共に含む医薬組成物も開示する。薬学的に許容されるキャリアとしては、例えば、水、油、例えば、石油、動物油、植物油、落花生油、大豆油、鉱油、ゴマ油などの滅菌液体が挙げられる。適切な薬学的キャリアは、参照により本明細書に組み込まれているRemington’s Pharmaceutical Sciences、第18版(56)に記載されている。
【0156】
鼻腔内投与および肺内投与を目的とした組成物の剤形は、好ましくは、液体、懸濁液、または固体である。懸濁液は、固体粒子を液体ビヒクル中に分散させて含む液体製剤である。剤形は、好ましくは計量式である。例えば、計量式の液滴/スプレーは、液滴/スプレーを含むディスペンサーが、計量された用量(所定量)の本発明に従う使用のための複合体を含む液滴/スプレーを送達することを意味する。
【0157】
鼻腔内投与経路の文脈における1つの好ましい剤形としては、点鼻薬が挙げられる。点鼻薬は、主に鼻の後部に沈着するため、咽頭鼻部に速やかに排出される。点鼻薬に関する懸念は、多くの場合、薬物の用量をいかに正確に制御するかであり、これは上記複合体の投与には特に重要である。
【0158】
本発明の使用のための複合体を投与することができる別の鼻腔内剤形は、鼻腔スプレーである。鼻腔スプレーは、通常、非加圧ディスペンサーの中に、賦形剤(例えば、防腐剤、粘度調整剤、乳化剤、緩衝剤)の溶液または混合物中に溶解または懸濁された複合体を含む。鼻腔スプレーには、送達装置のコンパクト性、利便性、使用の簡便性、および25~200pLの投薬量を送達する精度など、いくつかの利点がある。鼻腔スプレーは、鼻の前部に沈着し、粘液線毛クリアランスによってゆっくりと咽頭鼻部に排出される。本明細書中で使用される鼻腔スプレーは、液体であっても懸濁液であってもよい。
【0159】
別の鼻腔内剤形は、鼻エアロゾルである。鼻エアロゾルと鼻腔スプレーの違いは、複合体の分配方法にある。エアロゾルでは、化合物は過剰圧力によって分配され、バルブから放出される。スプレーでは、バイアル内の圧力が大気圧に近い状態で、マイクロポンプバケットにより強制的に取り出すことによって、化合物が分配される。エアロゾルもスプレーと同様の利点を有する。
【0160】
あるいは、本発明に従う使用のための複合体は、好ましくは鼻腔エマルジョン、軟膏、ゲル、ペーストまたはクリームによって投与されてもよい。これらは、鼻粘膜に塗布される高粘度の溶液または懸濁液である。
【0161】
鼻粘膜に効率的に送達できる組成物の体積が限られているため、液体の鼻腔内剤形は、通常、対応する静脈内剤形よりも高い濃度を有する。液体形態では物質の溶解性が不十分になるかまたは不安定になる場合には、本発明の使用のための複合体を投与するために粉末を使用し得る。粉末のさらなる利点は、防腐剤を必要とせず、液体製剤と比較してより高い安定性を通常有することである。粉末を鼻腔内に適用する際の主な限界は、鼻粘膜に対する粉末の刺激作用に関連している。
【0162】
肺内投与の文脈における1つの剤形は、吸入エアロゾルである。吸入エアロゾルは、通常、加圧下でパッケージ化され、本発明に従う使用のための複合体を含んでおり、バルブシステムの作動時に気道内、特に肺内に放出される。放出されるエアロゾルは、空気または他の気体中の微細な固体粒子(懸濁液)または液体液滴(溶液)のコロイドである。したがって、エアロゾルは、溶液または懸濁液エアロゾルであってもよい。液体液滴または固体粒子は、好ましくは100pm未満、より好ましくは10pm未満、最も好ましくは1pm未満の直径を有する。
【0163】
肺内投与の文脈における別の剤形は、吸入スプレーである。吸入スプレーは、典型的には水性ベースであり、いかなる噴霧剤も含まない。吸入スプレーは、経口吸入することにより、肺に複合体を送達する。
【0164】
噴霧された吸入溶液および懸濁液を使用して、肺内経路により複合体を送達してもよい。噴霧された吸入溶液および懸濁液は、典型的には、本発明に従う使用のための複合体を含む水性ベースの製剤である。噴霧された吸入溶液および懸濁液は、全身作用のために経口吸入によって複合体を肺に送達し、噴霧器とともに使用される。
【0165】
乾燥粉末吸入は、エアロゾル吸入の代替手段である。複合体は、通常、手動投入用のカプセル中または吸入器内に収容されている。乾燥粉末は、典型的には吸入器で経口吸入によって肺に送達される。本明細書中で使用される乾燥粉末は、水なしストレート(neat)で処方されてもよい。水なしストレート製剤は、薬物を単独または準単独で、例えば、噴霧乾燥した粉末として含む。また、本明細書中で使用される乾燥粉末は、ラクトースなどのキャリアと共に処方されてもよい。
【0166】
肺内剤形は、好ましくは計量式である、すなわち、所定の量で肺に送達される。
【0167】
有効成分の用量は、体重1kg当たりの有効成分のmg、または体表面1平方メートル当たりの有効成分のmgのいずれかで表し得る。Reagan-Shaw S.の論文「Dose translation from animal to human studies revisited(動物での研究からヒトでの研究への用量換算の再検討)」FASEB J 2007、22:659~661には、mg/kgをmg/mに換算するために用いられる標準換算係数が記載されている。
用量(mg/kg)×Km=用量(mg/m
【0168】
この換算は、第1の動物種における用量を第2の動物種における用量に換算するための基礎である(非比例的用量換算)。したがって、mg/kg単位の動物用量(AD)は、以下の式を用いて、mg/kg単位のヒト等価用量(HED)に換算され得る:
【数1】
式中、各動物種のKmを第1表に示す。
【0169】
【表3】
【0170】
特に、本明細書に記載されている用量は、体表面積に基づく用量の換算に関するFDAのガイドライン(業界向けガイダンス、Estimating the Maximum Safe Starting Dose in Initial Clinical Trials for Therapeutics in Adult Healthy Volunteers(成人健常志願者を対象とした治療薬の初期臨床試験における最大安全開始用量の推定)、米国保健社会福祉省、食品医薬品局、医薬品評価研究センター(CDER)、2005年7月、表1参照)に従って、任意の哺乳動物に適合させ得る。
【0171】
好ましい実施形態では、本発明に従う使用のための複合体の用量は、0.5~10mg/kg、より好ましくは1~5mg/kg、そしてより好ましくは2~3mg/kgの範囲である。好ましい実施形態では、複合体の用量は、2.37±0.5mg/kg、好ましくは2mg/kg、より好ましくは2.37mg/kgである。別の好ましい実施形態では、本発明に従う使用のための複合体の用量は、0.04~0.8mg/Kg、より好ましくは0.08~0.4mg/Kg、そしてより好ましくは0.16~0.24mg/Kgの範囲である。好ましい実施形態では、複合体の用量は、0.19±0.5mg/kg、好ましくは0.16mg/kg、より好ましくは0.19mg/kgである。あるいは、本発明に従う使用のための複合体の用量は、1.48~30mg/m、より好ましくは3~14.8mg/m、そしてより好ましくは5.9~8.8mg/mの範囲である。好ましい実施形態では、複合体の用量は、7±0.5mg/m、好ましくは5.92mg/m、より好ましくは7.03mg/mである。
【0172】
好ましい実施形態では、複合体の検出は、それを必要とする被験体への該複合体の投与後30分~96時間の間に、好ましくは30分~48時間の間に行われる。一実施形態では、複合体の検出は、それを必要とする被験体への該複合体の投与の少なくとも30分後、少なくとも1時間後、少なくとも2時間後、少なくとも3時間後、少なくとも4時間後、少なくとも5時間後、少なくとも6時間後、少なくとも7時間後、少なくとも8時間後、少なくとも9時間後、少なくとも10時間後、少なくとも11時間後、少なくとも12時間後、少なくとも13時間後、少なくとも14時間後、少なくとも15時間後、少なくとも16時間後、少なくとも17時間後、少なくとも18時間後、少なくとも19時間後、少なくとも20時間後、少なくとも21時間後、少なくとも22時間後、少なくとも23時間後、少なくとも24時間後、少なくとも25時間後、少なくとも26時間後、少なくとも27時間後、少なくとも28時間後、少なくとも29時間後、少なくとも30時間後、少なくとも35時間後、少なくとも40時間後、少なくとも45時間後、少なくとも48時間後、少なくとも54時間後、少なくとも60時間後、少なくとも66時間後、少なくとも72時間後、少なくとも78時間後、少なくとも84時間後、少なくとも90時間後、少なくとも96時間後に実施される。好ましい実施形態では、複合体の検出は、投与後、好ましくは鼻腔内投与後、30分、1時間、4時間、24時間および48時間から選択される時間に行われる。
【0173】
好ましい実施形態では、診断工程の後、肺がんの進行をモニターするか、または肺がんに罹患している被験体に施行された治療の効果をモニターするために、複合体を少なくとももう1回投与する。
【0174】
本発明の文脈において、「肺がんの進行をモニターする」とは、肺がんの大きさおよび/または広がりが、以前の測定に対して縮小または拡大したかどうかを知ることを意味する。
【0175】
本発明の文脈において、「被験体に施行された治療の効果をモニターする」とは、肺がんに罹患している被験体に施行された治療が、肺がんの大きさおよび/または広がりを縮小し、したがって有効であるかどうか、あるいは肺がんの大きさおよび/または広がりを拡大したか縮小せず、したがって無効であるかどうかを知ることを意味する。肺がんの治療に用いられる治療は、当業者に周知である。
【0176】
別の態様では、本発明は、診断薬の調製のための、配列番号1の配列またはその機能的に等価な改変体を含むポリペプチドの使用に関する。
【0177】
別の態様では、本発明は、診断薬の調製のための、配列番号1の配列またはその機能的に等価な改変体を含むポリペプチドと、検出可能な標識とを含む複合体の使用に関する。
【0178】
本発明の診断方法および検出方法
別の態様では、本発明は、被験体における肺腫瘍を検出するための診断方法であって、
i)配列番号1の配列またはその機能的に等価な改変体を含むポリペプチドと、検出可能な標識とを含む複合体を、肺経路によって投与すること、
ii)上記複合体が上記増殖肺細胞内に入るのに十分な時間待つこと、
iii)上記被験体にイメージング技術を適用して上記被験体における上記複合体の蓄積部位を検出することによって上記増殖肺細胞を検出し、それによってその増殖部位を検出またはイメージングすること、および
iv)特異的標識化が検出された場合、肺腫瘍を特定すること
を含む方法に関する。
【0179】
別の態様では、本発明は、肺がんを有することが疑われる被験体を診断および治療するための方法に関し、該方法は、
i)配列番号1の配列またはその機能的に等価な改変体を含むポリペプチドと、検出可能な標識とを含む複合体を、肺経路によって投与すること、
ii)上記複合体が上記増殖肺細胞内に入るのに十分な時間待つこと、
iii)上記被験体にイメージング技術を適用して上記被験体における上記複合体の蓄積部位を検出することによって上記増殖肺細胞を検出し、それによってその増殖部位を検出またはイメージングすること、
iv)特異的標識化が検出された場合、肺がんを特定すること、および
v)肺がんと特定された被験体に、その肺腫瘍の外科的切除および/または化学療法の施行および/または放射線療法の施行から選択される治療を施行すること
を含む。
【0180】
用語「治療」または「治療する」とは、本明細書中で使用される場合、臨床徴候が現れる前または後に、疾患の進行を制御するために治療を施行することをいう。疾患の進行の制御は、症状の軽減、疾患の期間の短縮、病態の安定化(具体的には、さらなる障害の回避)、疾患の進行の遅延、病態の改善、および寛解(部分寛解および完全寛解の両方)を含むが、これらに限定されない、有益なまたは望ましい臨床結果と理解される。また、疾患の進行の制御には、その治療を適用しなかった場合に予想される生存期間と比較して、生存期間を延長することも含まれる。
【0181】
「複合体の蓄積部位」という表現は、本明細書中で使用される場合、Omomycまたはその機能的に等価な改変体が、肺内投与後に位置する部位を指す。蓄積部位の可視化は、複合体の一部を形成する標識によって達成される。
【0182】
「増殖部位」という表現は、本明細書中で使用される場合、がんが位置する部位、すなわち、増殖細胞が位置する部位を指す。
【0183】
「外科的切除」という表現は、本明細書中で使用される場合、肺がん組織および一部の周辺組織の外科的切除を指す。肺は、完全に切除されることも部分的に切除されこともあり得る。肺の一部を切除するために一般的に用いられる2つの手法としては、限定されないが、開胸術および低侵襲手術が挙げられる。がんに罹患している患者における肺の外科的切除の例としては、限定されないが、肺葉切除術、区域切除術、楔状切除術、または肺摘除術が挙げられる。
【0184】
用語「化学療法」とは、がん細胞を破壊するための薬物の使用を指す。薬物は通常、経口経路または静脈内経路で投与される。ときには、化学療法は放射線治療と併用されることもある。化学療法とは、がんの治療に使用される抗悪性腫瘍薬、またはこれらの薬物を2つ以上組み込んだ細胞傷害性標準化治療レジメンによる治療を指す。本発明の文脈では、用語「化学療法」には、肺がんおよび血管新生または転移などの関連プロセスの治療に使用される、小型有機分子、ペプチド、オリゴヌクレオチドなどを含む任意の抗悪性腫瘍薬が含まれる。適切な化学療法剤としては、アルキル化剤[例えば、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、BBR3464、クロラムブシル、クロルメチン、シクロホスファミド、イホスファミド、メルファラン、カルムスチン、フォテムスチン、ロムスチン、ストレプトゾシン、ブスルファン、ダカルバジン、メクロレタミン、プロカルバジン、テモゾロミド、チオTPA、ウラムスチンなど];代謝拮抗剤[例えば、プリン系(アザチオプリン、メルカプトプリン)、ピリミジン系(カペシタビン、シタラビン、フルオロウラシル、ゲムシタビン)、葉酸系(メトトレキサート、ペメトレキセド、ラルチトレキセド)など];ビンカアルカロイド系[例えば、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビノレルビン、ビンデシンなど];タキサン系[例えば、パクリタキセル、ドセタキセル、BMS-247550など];アントラサイクリン系[例えば、ダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、イダルビシン、ミトキサントロン、バルルビシン、ブレオマイシン、ヒドロキシウレア、マイトマイシンなど];トポイソメラーゼ阻害剤[例えば、トポテカン、イリノテカン エトポシド、テニポシドなど];モノクローナル抗体[例えば、アレムツズマブ、ベバシズマブ、セツキシマブ、ゲムツズマブ、パニツムマブ、リツキシマブ、トラスツズマブなど]);光増感剤[例えば、アミノレブリン酸、アミノレブリン酸メチル、ポルフィマーナトリウム、ベルテポルフィンなど];チロシンキナーゼ阻害剤[例えば、イマチニブ];上皮成長因子受容体阻害剤[例えば、エルロチニブ、ゲフィチニブなど];FPTアーゼ阻害剤[例えば、FTI(Rl15777、SCH66336、L-778,123)など];KDR阻害剤[例えば、SU6668、PTK787など];プロテアソーム阻害剤[例えば、PS341など];TS/DNA合成阻害剤[例えば、ZD9331、ラルチトレキセド(ZD1694、トムデックス)、ZD9331、5-FUなど];S-アデノシル-メチオニンデカルボキシラーゼ阻害剤[例えば、SAM468Aなど];DNAメチル化剤[例えば、TMZなど];DNA結合剤[例えば、PZAなど];O-6-アルキルグアニンAGTに結合して不活性化する薬剤[例えば、BG];c-ra/-lアンチセンスオリゴデオキシヌクレオチド[例えば、ISIS-5132(CGP-69846A)];腫瘍免疫療法;ステロイド系および/または非ステロイド系抗炎症剤[例えば、コルチコステロイド、COX-2阻害剤];免疫チェックポイント阻害剤(アテゾリズマブもしくはデュルバルマブなどのPD-L1阻害剤;またはニボルマブ、ペムブロリズマブなどのPD-1阻害剤;またはイピリムマブなどのCTLA-4阻害剤);あるいはその他の薬剤、例えば、アリトレチノイン、アルトレタミン、アムサクリン、アナグレリド、三酸化ヒ素、アスパラギナーゼ、ベキサロテン、ボルテゾミブ、セレコキシブ、ダサチニブ、デニロイキンジフチトクス、エストラムスチン、ヒドロキシカルバミド、イマチニブ、ペントスタチン、マソプロコール、ミトタン、ペガスパルガーゼ、およびトレチノインなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0185】
白金系化合物は、肺がんの治療に特に適しており、カルボプラチン、シスプラチン[シス-ジアンミンジクロロ白金、(CDDP)]、オキサリプラチン、イプロプラチン、ネダプラチン、四硝酸トリプラチン、テトラプラチン、サトラプラチン(JM216)、JM118[シス-アンミンジクロロ(II)]、JM149[シスアンミンジクロロ(シクロヘキシルアミン)トランスジヒドロキソ白金(IV)]、JM335[トランスアンミンジクロロジヒドロキソ白金(IV)]、トランスプラチン、ZD0473、シス,トランス,シス-Pt(NH3)(C6H11NH2)(OOCC3H7)2Cl、マラネート-1,2-ジアミノシクロヘキサノプラチン(diaminociclohexanoplatin)(II)、5-スルホサリチル酸(sulphosalycilate)-トランス-(1,2-ジアミノシクロヘキサン(diaminociclohexane))プラチン(II)(SSP)、ポリ-[(トランス-1,2-ジアミノシクロヘキサン)プラチン]-カルボキシアミロース(POLY-PLAT)および4-ヒドロキシ-スルホニルフェニル酢酸(トランス-1,2-ジアミノシクロヘキサン)白金(II)(SAP)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。特定の実施形態では、白金系化合物は、カルボプラチン、シスプラチンおよびオキサリプラチンから選択され、好ましくはシスプラチンである。
【0186】
肺がん、特にNSCLCの治療に適した組み合わせとしては、白金系化合物と有糸分裂阻害剤(例えば、シスプラチン-パクリタキセル、シスプラチン-ドセタキセル(CI-TAレジメン)、カルボプラチン-パクリタキセル、カルボプラチン-ドセタキセル、オキサリプラチン-パクリタキセル、シスプラチン-ビノレルビン、カルボプラチン-ビノレルビン、シスプラチン-ビンデシン、オキサリプラチン-ビノレルビン);白金系化合物と代謝拮抗薬(例えば、シスプラチン-ゲムシタビン、カルボプラチン-ゲムシタビン、オキサリプラチン-ゲムシタビン);白金系化合物と有糸分裂阻害剤と抗VEGF薬(例えば、シスプラチン-ドセタキセル-ベバシズマブ);白金系化合物と代謝拮抗薬と抗VEGF薬(例えば、シスプラチン-ゲムシタビン-ベバシズマブ)があり得るが、これらに限定されるものではない。他の適した組み合わせには、シスプラチン-エトポシド、カルボプラチン-エトポシド、シスプラチン-テニポシド、シスプラチン-ビンデシン、シスプラチン-チラパザミン、ZD0473-ビノレルビン、ZD0473-パクリタキセル、ZD0473-ゲムシタビン、シスプラチン-エトポシド-マイトマイシンC、シスプラチン-パクリタキセル-ゲムシタビン、シスプラチン-ドキソルビシン-5-フルオロウラシル(AFP)、シスプラチン-シクロホスファミド-ブレオマイシン(CBP)、シスプラチン-ビンデシン-マイトマイシンC(MVP)、シクロホスファミド-ドキソルビシン-シスプラチン(CISCA)、シスプラチン-アドリアマイシン(CA)、シスプラチン-フルオロウラシル(CF)、シスプラチン-ゲムシタビン-ビノレルビン(CGVレジメン)、およびパクリタキセルの後にシスプラチン-ゲムシタビン-ビノレルビン(T-CGVレジメン)がある。
【0187】
好ましい実施形態では、化学療法剤はOmomycであり、特に、配列番号1の配列またはその機能的に等価な改変体を含むポリペプチドであり、好ましくは、本発明の第1の態様の文脈で開示されているか、または特許出願WO2014/180889A1およびWO2018/011433A1に開示されている。
【0188】
用語「放射線療法」とは、急速に分裂している細胞を破壊し得るかまたは症状を緩和するために、放射線を照射する治療を指す。許容されないネガティブな副作用がなく患者が耐えられる放射線量であれば、任意の種類の放射線を患者に照射し得る。適切な種類の放射線療法としては、例えば、電離(電磁)放射線療法(例えば、X線またはγ線)または粒子線放射線療法(例えば、高線エネルギー放射線)が挙げられる。
【0189】
別の態様では、本発明は、被験体における肺がん細胞を検出またはイメージングするための方法であって、
i)配列番号1の配列またはその機能的に等価な改変体を含むポリペプチドと、検出可能な標識とを含む複合体を、鼻腔内に投与すること、
ii)上記複合体が上記増殖肺細胞内に入るのに十分な時間待つこと、
iii)上記被験体にイメージング技術を適用して上記被験体における上記複合体の蓄積部位を検出することによって上記増殖肺細胞を検出し、それによってその増殖部位を検出またはイメージングすること
を含む方法に関する。
【0190】
「検出すること」とは、試料中の分析物の存在、非存在、または量を決定することをいい、試料中の、または試料中の細胞あたりの、分析物の量を定量することを含み得る。
【0191】
別の態様では、本発明は、
i)配列番号1の配列またはその機能的に等価な改変体を含むポリペプチド、および
ii)検出可能な標識
を含む複合体を使用して、肺がんをイメージングする方法に関し、
前記複合体は、肺経路によって投与される。
【0192】
本発明の診断的使用に関連して開示されるすべての実施形態は、本発明の診断方法および検出方法にも適用可能である。
【0193】
本発明の複合体のモニタリング使用
別の態様では、本発明は、被験体における肺がんの進行をモニターするための方法に関し、該方法は、
i)配列番号1の配列またはその機能的に等価な改変体を含むポリペプチドと、検出可能な標識とを含む複合体を、肺に投与すること;
ii)上記複合体が上記増殖肺細胞内に入るのに十分な時間待つこと;および
iii)上記被験体にイメージング技術を適用して上記被験体における上記複合体の蓄積部位を検出することによって上記増殖肺細胞を検出し、それによってその増殖部位を検出またはイメージングすること、
iv)iii)で得られた蓄積部位を、以前の測定で得られた蓄積部位と比較すること
を含み、ここで、
以前の測定と比較して蓄積部位が有意に減少しているか変化がない場合は、上記肺がんが進行していないことを示し、または
以前の測定と比較して蓄積部位が有意に増加している場合は、上記肺がんが進行していることを示す。
【0194】
「肺がんの進行をモニターすること」という表現は、本明細書中で使用される場合、肺がんと診断された患者において、疾患の進行を判定すること、または臨床状態もしくは疾患の予想される経過および結果(例えば、悪化、部分回復、または完全回復)を予測することを指す。患者の予後は、通常、疾患の好ましいまたは好ましくない経過または結果を示す疾患の要因または症状を評価することによって行われる。予後という用語は、必ずしも100%の正確さで状態の経過または結果を予測する能力を指すものではないことは理解されている。むしろ、当業者であれば、用語「予後」は、ある経過または結果が生じる確率の増加を意味すると理解するであろう。本発明の文脈では、肺がんの進行をモニターすることとは、肺腫瘍が縮小しているか成長しているかを評価するためにイメージングを使用することを指す。
【0195】
この態様によれば、第1の期間での本発明の複合体の蓄積部位(第1の被験試料)と第2の期間での蓄積部位(第2の被験試料)とを比較することにより、肺がんの進行をモニターすることができる。第2の被験試料は、第2の期間に、すなわち、第1の期間の後の任意の時点で、例えば、第1の被験試料の1日後、1週間後、1ヵ月後、2ヵ月後、3ヵ月後、1年後、2年後、またはそれより後に、第1の測定が得られた肺がんを有する同じ被験体から採取され得る。
【0196】
特定の実施形態では、第1の被験試料は、被験体が治療、例えば、化学療法、放射線療法、または手術を受ける前に採取され、第2の被験試料は、治療後に採取される。別の特定の実施形態では、第1の被験試料は、被験体が治療、例えば、化学療法、放射線療法、または手術を開始した/受けた後に採取され、第2の被験試料は、それよりも後で、治療経過中の異なる期間に採取される。したがって、その肺がんが進行しているか予後不良であった場合には、前記被験体における前記疾患を治療するためにさらなる治療を計画すべきである。
【0197】
複合体の蓄積部位の位置特定を可能にする画像を得る方法、および蓄積部位を定量化するかまたは腫瘍の寸法もしくは質量を算出する方法は、当業者に公知である。複合体の肺内投与後に腫瘍部位に蓄積されるその複合体の量は、腫瘍の大きさを示すことになる。同じ患者で行われる連続スキャンにおけるその蓄積量の経時的比較は、疾患の進行と相関している。
【0198】
異なる期間での被験試料(第1および第2の被験試料)中の蓄積部位を測定した後、第1の被験試料中の蓄積部位と比較して、第2の被験試料中の蓄積部位に有意な増加、減少、または変化がないかどうかを特定する必要がある。これは、第1の蓄積部位と第2の蓄積部位を比較することによって行われる。
【0199】
本発明の文脈では、第2の被験試料中の蓄積部位が、第1の被験試料中の蓄積部位に対して少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも100%(すなわち、存在しない)減少している場合、検討中の第2の被験試料中の蓄積部位における減少は、第1の被験試料中の蓄積部位に対して有意な減少であるとみなされる。
【0200】
本発明の文脈では、第2の被験試料中の蓄積部位が、第1の被験試料に対して少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも100%、少なくとも110%、少なくとも120%、少なくとも130%、少なくとも140%、少なくとも150%、またはそれ以上増加している場合、検討中の第2の被験試料中の蓄積部位における増加は、第1の被験試料中の蓄積部位に対して有意な増加であるとみなされる。
【0201】
同様に、第2の被験試料中の蓄積部位が、上記2つの測定値の間で蓄積部位が実質的に一定であることを示している場合、第1の被験試料に対して検討中の第2の被験試料中の蓄積部位における変化はないとみなされる。例として、蓄積が一定であるとは、第1の測定値が105%以下、104%以下、103%以下、102%以下、101%以下、99%以上、98%以上、97%以上、97%以上、96%以上、または95%以上であることを示す。
【0202】
したがって、第1の被験試料に対して第2の被験試料における有意な増加は、肺がんが進行中である(すなわち予後不良である)ことを示す;したがって、検討中の被験体に施行されている治療を変更し、前記被験体における肺がんを治療するための新たな治療を計画すべきである。反対に、第1の被験試料に対して第2の被験試料における有意な増加がないことが達成された場合、またはさらに第1の被験試料に対して第2の被験試料における有意な減少が達成された場合、肺がんは進行していない(すなわち、予後不良ではない)。
【0203】
別の態様では、本発明は、肺がんに罹患している被験体における治療に対する反応をモニターするための方法に関し、該方法は、
i)配列番号1の配列またはその機能的に等価な改変体を含むポリペプチドと、検出可能な標識とを含む複合体を、肺に投与すること;
ii)上記複合体が上記増殖肺細胞内に入るのに十分な時間待つこと;および
iii)上記被験体にイメージング技術を適用して上記被験体における上記複合体の蓄積部位を検出することによって上記増殖肺細胞を検出し、それによってその増殖部位を検出またはイメージングすること、
iv)iii)で得られた蓄積部位を、上記治療を施行する前の以前の測定で得られた蓄積部位と比較すること
を含み、ここで、
以前の測定と比較して蓄積部位が有意に減少しているか変化がない場合は、上記被験体に施行された治療が有効であることを示し、または
以前の測定と比較して蓄積部位が有意に増加している場合は、上記被験体に施行された治療が無効であることを示す。
【0204】
「治療に対する反応をモニターすること」という表現は、本発明で使用される場合、肺がんに罹患している被験体に施行された治療に対する該被験体の反応を判定する可能性に関する。肺がんの治療では、がんを除去または封じ込めを試みてさまざまな治療が用いられ得る。肺がんの治療には、積極的監視、外科的切除、化学療法、放射線療法、またはこれらの併用などがある。どの選択肢が最善であるかは、さまざまな要因に左右される。すべての治療は重大な副作用を引き起こす可能性があるため、治療の目的と生活習慣の変更のリスクとのバランスに重点を置いて治療を検討する場合が多い。
【0205】
したがって、この態様では、第1の被験試料は、治療の施行前に採取され、第2の被験試料は、被験体が治療、例えば、化学療法、手術または放射線療法を開始した/受けた後に採取される。この方法により、以前に肺がんと診断された選ばれた被験体に対する特定の治療を評価することが可能になる。したがって、その治療が前記被験体の肺がん治療に有効でない(患者が改善していない)場合には、前記治療を変更し、前記被験体の肺がんを治療するための新たな治療を計画すべきである。これらの方法により、新しい治療の経過を容易にたどることができる。反対に、患者が改善している場合は、現在の治療を継続してもよい。
【0206】
蓄積部位における「有意な減少」、「有意な増加」または「変化なし」という表現は、以前に定義されている。
【0207】
本発明の文脈では、被験体に施行された治療は、肺がんに罹患しかつ前記治療で治療されている被験体の肺における本発明の複合体の蓄積の減少につながる場合、すなわち、施行後に、測定可能なすべての病変が減少または消失している場合、有効である。理想的には、一次元的または二次元的に測定可能な病変はすべて、各評価時に測定されるべきである。好ましい実施形態では、患者は、完全奏効または部分奏効を示し得る。
【0208】
一実施形態では、完全奏効とは、2回の別々の評価によって判定される、臨床的に検出可能なすべての悪性疾患の完全な消失を意味する。
【0209】
別の実施形態では、部分奏効とは、2回の連続した評価によって判定される、評価可能な疾患の進行を伴わず、かつ任意の新たな病変のエビデンスを伴わずに、すべての測定可能な疾患の最長垂直直径の積の合計がベースラインから減少することを意味する。一実施形態では、部分奏効は、少なくとも5%の減少であり得る。より好ましくは、部分奏効は、50%以上の減少を意味する。
【0210】
本発明の文脈では、被験体に施行された治療は、肺がんに罹患しかつ前記治療で治療されている被験体の肺における本発明の複合体の蓄積を減少させる助けにならない場合、すなわち、施行後に、測定可能なすべての病変が増加している場合には、無効である。
【0211】
別の態様では、本発明は、肺がんの進行をモニターするための、または肺がんに罹患している被験体における治療に対する反応をモニターするための方法における、配列番号1の配列またはその機能的に等価な改変体を含むポリペプチドと、検出可能な標識とを含む複合体の使用に関する。特定の実施形態では、複合体は肺に投与される。
【0212】
別の態様では、本発明は、肺がんに罹患している被験体を治療するための方法を提供し、この方法は、肺腫瘍の外科的切除および/または化学療法の施行および/または放射線療法の施行から選択される治療を施行することを含み、ここで、上記被験体は、本明細書に記載される診断方法、検出方法、またはイメージング方法によって特定される。
【0213】
別の態様では、本発明は、肺がんに罹患している被験体を治療するための方法を提供し、この方法は、肺腫瘍の外科的切除および/または化学療法の施行および/または放射線療法の施行から選択される治療を施行することを含み、ここで、上記被験体における肺がんの進行は、本明細書に記載されるモニタリング方法によって評価される。
【0214】
本発明のキット
別の態様では、本発明は、
i)配列番号1の配列またはその機能的に等価な改変体を含むポリペプチドと、検出可能な標識とを含む複合体;
ii)項目i)の複合体を経鼻滴下または経鼻吸入するための装置;および
iii)項目i)およびii)を包装するための手段
を含む、肺がん診断用キットに関する。
【0215】
別の態様では、本発明は、肺がんを診断するための、または肺がんの進行をモニターするための、または治療の効果をモニターするための、本発明に従うキットの使用に関する。
【0216】
また、本発明には、本発明に従う使用のための複合体を含む組成物を、この組成物のための適切な送達装置またはアプリケータ、例えば、カテーテル、チューブ、スプレイヤー、シリンジ、アトマイザー、あるいは、クリーム、微粒子、ペレット、粉末、液体、ゲルなどのための他のアプリケータと共に含むキットも包含される。
【0217】
本発明の文脈における鼻腔内送達のための装置には、スプレーポンプシステム、液滴を送達するためのピペット、定量スプレーポンプ、鼻腔加圧式定量吸入器、粉末スプレーシステム、呼吸作動式粉末吸入器、および経鼻粉末注入器が含まれる。鼻腔内送達装置には、単回用量または複数回用量の鼻腔内製剤を充填し得る。
【0218】
肺内経路を用いて、複合体を定量吸入器で投与してもよい。定量吸入器(MDI)は、一般に空気力学的粒子径が5pm未満の細かいミスト状の複合体を提供する。
【0219】
あるいは、乾燥粉末吸入器を使用して、複合体を肺内に送達してもよい。乾燥粉末吸入器は、粉末を単回用量または複数回用量の粉末として提供する。
【0220】
肺内送達のための別の装置としては、超音波噴霧器およびエアジェット噴霧器などの噴霧器がある。超音波噴霧器では、セラミック圧電結晶が電気的に励起されて振動することにより、超音波が超音波噴霧器チャンバー内に形成される。これにより、溶液の表面にエアロゾルクラウドが発生する。エアジェット噴霧器によって生成されるエアロゾルは、圧縮された空気がオリフィスを通過する際に発生する。液体が垂直ノズルから引き出されて(ベルヌーイ効果)空気ジェットと混合され、バッフルを使用して霧化されることで、エアロゾルクラウドの形成が促進され得る。
【0221】
本発明の先の態様に関連して開示されるすべての実施形態は、本発明のキットにも適用可能である。
【0222】
本発明の複合体
別の態様では、本発明は、
i)配列番号1の配列またはその機能的に等価な改変体を含むポリペプチド、および
ii)好ましくは造影剤またはイメージング剤からなる群から選択される、検出可能な標識
を含む複合体に関する。
【0223】
本発明のこの態様の好ましい実施形態では、複合体は、細胞透過性ペプチド配列を含まない。別の好ましい実施形態では、複合体は、配列番号1のポリペプチドまたはその機能的に等価な改変体の細胞への取り込みを促進する化学的部分を含まない。本発明の複合体の別の好ましい実施形態では、複合体は、蛍光標識または放射性同位体を含まず、より好ましくは、複合体は、フルオレセイン-マレイミド(FITC)、または131I、90Y、177Lu、188Re、67Cu、211At、213Bi、125Iおよび111Inからなる群から選択される放射性同位体を含まない。別の好ましい実施形態では、本発明の複合体は、細胞透過性ペプチド配列、蛍光標識または放射性同位体を含まず、より好ましくは、フルオレセイン-マレイミド(FITC)、または131I、90Y、177Lu、188Re、67Cu、211At、213Bi、125Iおよび111Inからなる群から選択される放射性同位体を含まない。
【0224】
別の実施形態では、本発明の複合体は、蛍光基、ビオチン、PEG、アミノ酸類似体、非天然アミノ酸、リン酸基、グリコシル基、放射性同位体標識、タグ、例えばヒスチジンタグ、Arg-タグ、FLAG-タグ、Strep-タグ、抗体によって認識され得るエピトープ、例えばc-myc-タグ、HAタグ、V5タグ、SBP-タグ、S-タグ、カルモジュリン結合ペプチド、セルロース結合ドメイン、キチン結合ドメイン、グルタチオンS-トランスフェラーゼタグ、マルトース結合タンパク質、NusA、TrxA、DsbA、Avi-タグ、アミノ酸配列、例えばAHGHRP(配列番号63)もしくはHDHPHPHIHSGMTCXXC(配列番号64)またはβ-ガラクトシダーゼなどを含まない。
【0225】
好ましい実施形態では、造影剤またはイメージング剤は、18F、32P、33P、45Ti、47Sc、52Fe、59Fe、62Cu、64Cu、67Ga、68Ga、75Sc、77As、86Y、89Sr、89Zr、94Tc、94Tc、99mTc、99Mo、105Pd、105Rh、111Ag、123I、124I、142Pr、143Pr、149Pm、153Sm、1541581Gd、161Tb、166Dy、166Ho、169Er、175Lu、186Re、189Re、194Ir、198Au、199Au、211Pb、212Bi、212Pb、223Raおよび225Acからなる群から選択される。より好ましい態様では、放射性物質または放射性同位体は89Zrである。
【0226】
本発明の先の態様に関連して開示されるすべての実施形態は、本発明の複合体にも適用可能である。
【0227】
本明細書で使用されるすべての用語は、別段の定めがない限り、当技術分野において公知のそれらの通常の意味に理解されるものとする。本願で使用される特定の用語についての他のより具体的な定義は、以下に記載される通りであり、他に明示された定義がより広い定義を提供しない限り、本明細書および特許請求の範囲を通して一様に適用されることを意図している。本明細書および特許請求の範囲を通して、単語「含む」およびこの単語の変化形は、他の技術的特徴、添加物、構成要素、または工程を除外することを意図するものではない。さらに、単語「含む」は、「からなる」の場合を包含する。本発明のさらなる目的、利点および特徴は、当業者であれば本明細書を検討することによって明らかになるか、または本発明を実施することによって習得され得る。さらに、本発明は、本明細書に記載される特徴および特定の実施形態のすべての可能な組み合わせを網羅する。
【0228】
本明細書および添付の特許請求の範囲では、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈上明らかに別段の指示がない限り、複数形の指示対象を含む。用語「a」(または「an」)、ならびに用語「1つ以上」、および「少なくとも1つ」は、本明細書では互換的に使用され得る。さらに、「および/または」は、本明細書中で使用される場合、2つの特定の特徴または構成要素の各々の、他方を伴うかまたは伴わない具体的な開示とみなされるべきである。したがって、用語「および/または」は、本明細書中で「Aおよび/またはB」などの句で使用される場合、「AおよびB」、「AまたはB」、「A」(単独)、および「B」(単独)を含むことを意図している。同様に、用語「および/または」は、「A、B、および/またはC」などの句で使用される場合、以下の各態様を包含することを意図している:A、B、およびC;A、B、またはC;AまたはC;AまたはB;BまたはC;AおよびC;AおよびB;BおよびC;A(単独);B(単独);ならびにC(単独)。本明細書および特許請求の範囲を通して数値と関連して使用される用語「約」は、当業者にとって馴染みがありかつ許容される精度の間隔を示す。一般に、そのような精度の間隔は±15%である。別段の定義がない限り、本明細書で使用されるすべての技術的および科学的用語は、本開示が関連する分野の当業者によって一般的に理解されているものと同じ意味を有する。単位、接頭辞、および記号は、国際単位系(SI)で認められている形式で示す。数値範囲は、その範囲を規定する数値を含む。別段の指示がない限り、アミノ酸配列は、アミノからカルボキシの方向で左から右に記載される。本明細書で提供される見出しは、本開示の様々な態様または局面を限定するものではなく、それらは、本明細書を全体として参照することにより得ることができるものである。したがって、以下に定義される用語は、明細書全体を参照することによって、より詳細に定義される。
【0229】
以下の実施例を用いて本発明を説明するが、これらの実施例は単なる例示であり、本発明の範囲を限定するものではないとみなされるべきである。
【実施例
【0230】
方法論
Omomycの生成、精製および標識
Omomycペプチド配列(配列番号1)を逆転写し、N末端にメチオニンを付加してE.coliでの発現のためにコドンを最適化し、pET3a発現ベクター(Novagen)にクローン化し、J.-F.Naudら、2003、J Mol Biol、326:1577~1595;F.-O.およびMcduffら、2009、J Mol Recognit、22:261~269に記載されているMax°精製プロトコルを改変したプロトコルを用いてBL21(DE3)アラビノース誘導性(Invitrogen(登録商標))細菌株から精製した。得られた精製構築物は、配列番号4のポリペプチドであった。各精製構築物の同定は、質量分析およびウェスタンブロット分析によって確認した。OmomycのユニークなC末端システイン残基へのAlexaFluor(登録商標)660(Invitrogen)部分またはデフェロキサミン(Macrocyclics)部分のマレイミド複合体化は、製造業者の指示に従って行った。共有結合で修飾されたペプチドを、陽イオン交換、続いてサイズ排除クロマトグラフィーによって遊離標識剤から精製し、完全標識化および純度を、質量分析、SDS-PAGEおよびUV分光法によって確認した。in vivo投与のために、ToxinEraser(商標)エンドトキシン除去キット(Genscript)を用いて追加の精製工程を実施して、エンドトキシンを除去した。エンドトキシン濃度は、Pierce(登録商標)LAL発色性エンドトキシン定量キット(Thermo Scientific)を用いて定量した。緩衝液交換は、Amicon Ultra-15(MerckMillipore)を用いて、3kDaの排除限界で行った。
【0231】
Omomyc-DFOの放射性標識のために、89Zr(T1/2=78.4h、β=22.6%;1Mシュウ酸中~2.7GBq/mLで市販)をBV Cyclotron VU(アムステルダム、オランダ)から入手した。74MBqに相当する89Zr-シュウ酸溶液の必要体積を、1Mシュウ酸を用いて全体積200μLに調整し、90μLの2M NaCOを添加し、室温で3分間インキュベートした。1mLの0.5M HEPESおよび710μLのOmomyc-DFO(2.17mg/mL)を添加し、回転式撹拌器を用いて室温で60分間インキュベートし、pHが7.0~7.5であることを確認した。反応混合物をあらかじめ平衡化したPD-10カラムに負荷し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で溶出して500μLの画分を得た。回収した画分をドーズキャリブレータ(IBC、Veenstra Instruments)で測定した。品質管理は、0.02Mクエン酸緩衝液(pH5.0):アセトニトリル(9:1)を溶出液として用いたITLCストリップ(モデル150-771、Biodex)上のインスタント薄層クロマトグラフィー(ITLC)によって行った。Omomyc-DFO-89Zrの安定性は、ヒト血清(HS)、PBSおよびDTPA(50mM)中で37℃24時間インキュベートすることによって調査した。放射化学的純度は、上記のようにITLCによって決定した。本研究で使用したOmomyc-DFO-89Zrの放射化学的収率、純度、および比放射能は、それぞれ98%超、99%超および34MBq/mgであり、サイズ排除クロマトグラフィー後のOmomyc-DFO-89Zr複合体の回収がほぼ完全であると推測されたため、この化合物はさらなる精製を行わずに使用した。また、HSおよびPBS中の37℃での安定性研究では、24時間後に99%を超える放射性トレーサーがインタクトなままであり、一方、DTPA中では37℃で24時間後に96%を超える放射性トレーサーがインタクトなままであったことが示されたことから、Omomyc-DFO-89Zrがin vivo研究に適したプローブであることが確認された。
【0232】
薬物動態および体内分布研究
マイクロPET/CTによる薬物動態および体内分布の研究のために、8週齢の雌FVB/NRjマウスをJANVIER LABSから購入した。実験は、動物愛護に関する国家指針を遵守し、地方動物福祉委員会およびCIEMATの動物倫理委員会の承認を得て実施した。マウスはCIEMATの動物施設で飼育した。
【0233】
i.n.投与研究では、イソフルラン麻酔を受けた5匹のマウスの一群を誘導室から取り出し、30μlのOmomyc-DFO-89Zr(2.9±0.4MBq、2.37±0.5mg Omomyc-DFO/kg体重)を鼻孔の外縁にピペッティングすることにより、直ちにi.n.投与を行った。マウスを注入から48時間後にO中イソフルラン麻酔下で頸椎脱臼により安楽死させ、直ちに心臓穿刺により血液を採取した。体内分布研究では、以下に記載するように、示された時点でPET/mCTイメージングによってマウスを画像化した。体内分布研究では、臓器組織を摘出し、湿重量を測定し、ガンマカウンター(2470 Wizard、PerkinElmer)を用いて、注入用量の標準試料とともに放射能を計測した。グラブス検定を適用して、グローバルデータセットに含まれる1匹の異常値動物の存在が検出され、この異常値からのデータを破棄した。
【0234】
i.v.投与研究では、H1975細胞の確立された皮下異種移植片(平均サイズ430mm)を有する5匹のBalb/c-ヌードマウスの一群に、尾静脈からOmomyc-DFO-89Zr(3.2±0.1MBq、2.62±0.3mg Omomyc-DFO/kg体重)を投与した。マウスを注射から72時間後にO中イソフルラン麻酔下で頸椎脱臼により安楽死させ、直ちに心臓穿刺により血液を採取した。体内分布研究では、以下に記載するように、示された時点でPET/mCTイメージンングによってマウスを画像化した。エンドポイントでは、投与から48時間後に臓器組織を摘出し、湿重量を測定し、ガンマカウンター(2470 Wizard、PerkinElmer)を用いて、注入用量の標準試料とともに放射能を計測した。
【0235】
体内分布および肺腺がん処置研究では、時点および条件ごとに最低5匹のマウスを無作為化し、Adeno-Cre感染の16週間後に処置を開始した。動物を吸入イソフルラン(AbbVie Farmaceutica S.L.U.)で麻酔し、1.4mg/kgのOmomycCPP-AF660またはビヒクル(10mM酢酸ナトリウムpH6.5)を全体積30μLで鼻腔内に単回用量投与し、示された時点で安楽死させた。組織を採取し、励起波長663nmおよび発光波長690nmを用いたIVIS(登録商標)スペクトルイメージングによって蛍光を直ちに可視化した。蛍光シグナルの測定値は、Living Image(登録商標)4.3.1ソフトウェア(PerkinElmer)を用いて取得および解析した。
【0236】
マイクロPET/CTイメージング
i.n.滴下後、マウスを直ちに小動物用Argus PET-CTスキャナー(SEDECAL、マドリード、スペイン)でスキャンした。注入後の種々の時点(30分、4時間、24時間および48時間)で、2~2.5%イソフルランの吸入により麻酔をかけたマウスにおいて、PET研究(エネルギーウィンドウ400~700KeV、20分間の静的取得)およびCT(電圧45kV、電流150μA、8ショット、360投影、標準解像度)を実施した。2D-OSEM(順序付けサブセット期待値最大化法)アルゴリズム(16サブセット、2反復)を用いてPET画像を再構成するとともに、ランダム補正および散乱補正を行った。既知の放射能の89Zrを含む円柱ファントムをスキャンすることによって事前に決定した校正係数を用いて、ピクセル/秒あたりのカウント数をkBq/cmに変換した。PET画像に手動で描いた関心領域(ROI)(鼻腔内送達、口腔および中咽頭領域、食道および腸)、またはCT解剖学的ガイドラインを用いてPET画像から選択したROI(肺、肝臓および腎臓について)を用いて、領域内の得られた平均トレーサー濃度(kBq/cm)を総ID(kBq)で割ることにより、平均放射性トレーサー蓄積を%ID/g組織の単位で決定した(注入時に対して減衰補正)。ROI内のパーセント注入用量は、得られた平均トレーサー濃度(kBq/cm)にROIの体積(cm)を乗じて算出した。また、肺、腎臓、肝臓については、最終スキャン(48時間)と動物を安楽死させた後に行った臓器の直接分析とを比較することにより、別々の画像校正係数を決定した。これらの校正係数を用いて、PETイメージングから得られた%ID/gを注入後の異なる時点での放射能濃度に正規化した。画像は、画像解析ソフトウェアITK-SNAP(www.itksnap.org)を用いて解析した。
【0237】
免疫組織化学的検査
マウスは頸椎脱臼により安楽死させた。肺を摘出し、気管を通してPBSで灌流し、次いで3.7%PFAで灌流して一晩固定し、70%エタノールに移し、パラフィンに包埋した。4マイクロメートルの厚さで切片を作成し、病理学的検査のためにH&Eで染色した。抗Omomycによる免疫組織化学的検査のために、0.01Mクエン酸緩衝液pH6.0中で、400Wのマイクロ波で20分間加熱することにより、抗原賦活化を行った。3%BSA中で45分間ブロッキングし、PBS中で洗浄した後、スライドを0.02mg/mLの最終濃度の一次ウサギポリクローナル抗Omomyc抗体(MYCエピトープの認識に対してアフィニティ精製して選択されている)とともに4℃で一晩インキュベートした。PBS洗浄後、スライドを、1/200希釈したヤギ抗ウサギIgG(H+L)-AlexaFluor(登録商標)488複合体(Thermo Fisher Scientific A-11008)とともにインキュベートし、1/10000希釈したDAPI(Life Technologies D1306)で染色し、水で1回洗浄し、蛍光マウンティング培地(Dako S3023)でマウントした。
【0238】
マウス
KRasLSL-G12D/+マウスをTransnetyxによって遺伝子型決定し、雌雄ともに肺腫瘍の発生を以前に記載されたように実施した(E.L.Jackson、2001、Genes&Development、15:3243~3248)。動物をC57BL/6J×FVBNの混合バックグラウンドで維持した。時点および条件ごとに最低5匹のマウスを無作為化し、Adeno-Cre感染の16週間後に処置を開始した(実験の生物学的反復を2回行った)。動物を吸入イソフルラン(AbbVie Farmaceutica S.L.U.)で麻酔し、Omomycまたはビヒクル(10mM酢酸ナトリウムpH6.5)のいずれかを全体積30μLでi.n.投与した。
【0239】
統計分析
すべての分析および図表化は、GraphPad Prism5ソフトウェアを用いて行った。データの正規分布は、D’Agostino-Pearson検定を用いて各群について評価した。試料の平均値の差は、正規分布したデータについてはStudent t検定またはANOVA(パラメトリック)を用いて、その他についてはMann-WhitneyまたはKruskal-Wallis検定を用いて分析した。F検定を用いて、群の分散の差を算出した。
【0240】
実施例1:Omomycミニタンパク質は、肺腺がんのマウスモデルにおける直接肺内投与後に主に肺腫瘍に局在する。
in vivoにおけるOmomycミニタンパク質の潜在的な診断的有用性を評価するために、本発明者らはまず、マウスにおいて高分子製剤を直接肺に送達することが可能であると以前に示されている手法である鼻腔内投与(i.n.)後のOmomycミニタンパク質の組織分布を分析した。本発明者らはまず、Omomycにデフェロキサミン-マレイミド(DFO)基を共有結合させ、これを89Zrで放射性標識した後、健常マウスにおける体内分布および薬物動態学的特性をex vivo放射線計測で測定した(図1A)。平均して、Omomyc-DFO-89Zr用量(2.37mg/kg)の8%が、i.n.投与後に速やかに(30分以内に)肺に到達し、そこで48時間より長く存続していた(図1A)。特異的抗Omomyc抗体を用いた免疫蛍光法により、i.n.滴下後4時間の処理マウスの肺上皮内に非標識のOmomycミニタンパク質の検出(一部は核内に局在)が確認された(図1B)。この方法が肺腺がんを有するマウスに適用可能であることを確認するために、本発明者らは、十分に特徴づけられたKRasLSL-G12D/+誘導性肺腺がんマウスモデル(E.L.Jackson、2001、Genes&Development、15:3243~3248)を用いてこの手順を繰り返した。マウスのmPET/mCTイメージングから、i.n.滴下の24時間後、Omomyc-DFO-89Zrは主に肺腫瘍に局在していることが明らかになった(図1C)。このように優先的に腫瘍に保持される正確な原因は不明であるが、がんに典型的に見られる腫瘍の脈管構造または代謝の変化に関連している可能性がある。
【0241】
さらなる実験では、2mg/kgのOmomyc-DFO-89Zrを、AdCre誘導の18週間後に、担腫瘍KrasG12Dマウスに鼻腔内投与した。鼻腔内投与の24時間後に画像を取得したところ(図2A)、担腫瘍マウスでは、24時間後に存在しているペプチドが、腫瘍と共局在しているのに対し(図2A)、腫瘍のないマウスでは、同じ時点での肺分布が、肺全体にわたってより散在的であることがわかる(図2B)。図2Aの数字は、Omomyc-DFO-89Zrの濃度を示しており、数字が大きいほど複合体の濃度が高いことを示している。図2Bは、健常対照の肺が散在的かつ非特異的に標識されたことを示す過露光画像であるため、定量値は表示されていない。また、肺に分布する総量は、個体差は大きいものの、担腫瘍マウスの方が健常マウスと比較して多い(図2C)。
【0242】
同じ実験を、IVIS technology(登録商標)によるex vivoイメージングが可能な異なる標識(今回は放射性標識の代わりに蛍光プローブAF660を使用した)で実施した。1.4mg/kgのOmomycCPP-AF660を単回処置した4時間後(図3A)に、蛍光シグナルがマウスの肺で検出された。鼻腔内投与24時間後には、大部分のOmomycCPP-AF660が正常組織からは洗い流されていたが、肺腫瘍には特異的に観察されたままであった(図3B)。ここでも、蛍光シグナルはマウスへの鼻腔内投与後に腫瘍と共局在している(図3)。
【0243】
実施例2.肺腫瘍を有するマウスにおけるOmomycの静脈内投与後の体内分布。
肺を有する5匹のマウスに29.1mg/kgのOmomyc-DFOを静脈内投与し、注入の72時間後にPET/CTイメージングを行った。図4に示すように、他の群と比較して肺におけるOmomyc取り込みの有意な増加はない。この結果は、肺に直接投与した場合の肺腫瘍トレーサーとしてのOmomycの特異性を示すものである。
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C
図3
図4
【配列表】
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