(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】タンパク質/ペプチド抗原の免疫原性を向上させる方法
(51)【国際特許分類】
A61K 39/155 20060101AFI20241008BHJP
A61K 39/12 20060101ALI20241008BHJP
A61K 39/215 20060101ALI20241008BHJP
A61K 39/145 20060101ALI20241008BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20241008BHJP
C07K 14/08 20060101ALI20241008BHJP
C07K 14/165 20060101ALI20241008BHJP
C07K 14/11 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
A61K39/155 ZNA
A61K39/12
A61K39/215
A61K39/145
A61P37/04
C07K14/08
C07K14/165
C07K14/11
(21)【出願番号】P 2022566202
(86)(22)【出願日】2021-04-29
(86)【国際出願番号】 CN2021090809
(87)【国際公開番号】W WO2021219047
(87)【国際公開日】2021-11-04
【審査請求日】2022-12-27
(31)【優先権主張番号】202010369100.7
(32)【優先日】2020-05-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】521271439
【氏名又は名称】神州細胞工程有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】▲謝▼ 良志
(72)【発明者】
【氏名】▲張▼ 延静
(72)【発明者】
【氏名】▲張▼ 建▲東▼
【審査官】川合 理恵
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-513028(JP,A)
【文献】国際公開第2020/058963(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/110941(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/060383(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
C07K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質/ペプチド抗原の免疫原性を向上させる方法であって、タンパク質/ペプチド抗原を糖とコンジュゲートすることにより、糖タンパク質/ペプチド抗原コンジュゲートを形成する工程を
含み、
前記糖が、肺炎連鎖球菌の莢膜多糖であり、
前記タンパク質/ペプチド抗原が、ヒトRSウイルス糖タンパク質G(RSV-gpG)、C型肝炎ウイルスエンベロープ糖タンパク質E1タンパク質(HCV-E1)、C型肝炎ウイルスエンベロープE2タンパク質(HCV-E2)、B型インフルエンザヘマグルチニンタンパク質(Flu-B-HA1)、A型インフルエンザH5N1ヘマグルチニン(H5N1-HA)、エボラウイルス糖タンパク質(Ebola-GP)、エボラウイルス糖タンパク質GP1(Ebola-GP1)、ジカウイルスエンベロープタンパク質(ZIKV-E)、及び/又はコロナウイルススパイクタンパク質から選択されるウイルス病原体関連タンパク質/ペプチド抗原である、
方法。
【請求項2】
前記糖が
、肺炎連鎖球菌血清型14の莢膜多糖、肺炎連鎖球菌血清型6Bの莢膜多糖
又は肺炎連鎖球菌血清型7Fの莢膜多糖で
ある、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記タンパク質/ペプチド抗原が
、コロナウイルススパイクタンパク質受容体結合領域RBD
のウイルス抗原を含むタンパク質/ペプチドである、請求項
1に記載の方法。
【請求項4】
前記コロナウイルスがSARS-CoV-2又は中東呼吸器症候群コロナウイルスである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記タンパク質/ペプチド抗原が
、SARS-CoV-2 RBD-mFc;SARS-CoV-2 RBD-his;又はMERS-COV RBD-hisである融合タンパク質であり、
Fc断片が
、ヒト又はマウスのIgG Fc断片である、
請求項
4に記載の方法。
【請求項6】
前記タンパク質/ペプチド抗原が、配列番号1、配列番号2、配列番号3のいずれか1つとして記載される配列を含む、請求項
5に記載の方法。
【請求項7】
前記コンジュゲートの分子量が400~14000KDaである、請求項
1に記載の方法。
【請求項8】
前記タンパク質/ペプチド抗原が
、RSV-gpG-hisである融合タンパク質で
ある、請求項
1に記載の方法。
【請求項9】
前記タンパク質/ペプチド抗原が、配列番号4及び/又は配列番号12として記載される配列を含む、請求項
8に記載の方法。
【請求項10】
前記タンパク質/ペプチド抗原が
、Flu-B-HA1-his又はH5N1-HA-hisである融合タンパク質で
ある、請求項
1に記載の方法。
【請求項11】
前記タンパク質/ペプチド抗原が、配列番号7及び/又は配列番号15、配列番号8及び/又は配列番号16のいずれか1つとして記載される配列を含む、請求項
10に記載の方法。
【請求項12】
前記タンパク質/ペプチド抗原が
、Ebola-GP-Fc又はEbola-GP1-hisである融合タンパク質であり、
Fc
が、ヒト又はマウスのIgG Fc断片である、
請求項
1に記載の方法。
【請求項13】
前記タンパク質/ペプチド抗原が、配列番号9及び/又は配列番号17、配列番号10及び/又は配列番号18のいずれか1つとして記載される配列を含む、請求項
12に記載の方法。
【請求項14】
前記タンパク質/ペプチド抗原が
、
ZIKV-E-Fcである融合タンパク質であり、Fcが
、ヒト若しくはマウスのIgG Fc断片であるか;又
は
HCV-E2-his及び/若しくはHCV-E1-hisである融合タンパク質
である、
請求項
1に記載の方法。
【請求項15】
前記タンパク質/ペプチド抗原が、配列番号11及び/又は配列番号19、配列番号6及び/又は配列番号14、配列番号5及び/又は配列番号13のいずれか1つとして記載される配列を含む、請求項
14に記載の方法。
【請求項16】
前記糖タンパク質/ペプチド抗原が、タンパク質担体に更にコンジュゲートされている、請求項1から
15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記タンパク質担体が、破傷風トキソイド、破傷風トキソイド断片C、破傷風トキソイド非毒性変異体、ジフテリアトキソイド、CRM197、ジフテリアトキソイドの他の非毒性変異
体である、請求項
16に記載の方法。
【請求項18】
非コンジュゲートタンパク質/ペプチド抗原と比較して免疫原性が向上した糖タンパク質/ペプチド抗原コンジュゲート
であって、
前記糖が、肺炎連鎖球菌の莢膜多糖であり、
前記タンパク質/ペプチド抗原が、ヒトRSウイルス糖タンパク質G(RSV-gpG)、C型肝炎ウイルスエンベロープ糖タンパク質E1タンパク質(HCV-E1)、C型肝炎ウイルスエンベロープE2タンパク質(HCV-E2)、B型インフルエンザヘマグルチニンタンパク質(Flu-B-HA1)、A型インフルエンザH5N1ヘマグルチニン(H5N1-HA)、エボラウイルス糖タンパク質(Ebola-GP)、エボラウイルス糖タンパク質GP1(Ebola-GP1)、ジカウイルスエンベロープタンパク質(ZIKV-E)、及び/又はコロナウイルススパイクタンパク質から選択されるウイルス病原体関連タンパク質/ペプチド抗原である、
コンジュゲート。
【請求項19】
前記糖が
、肺炎連鎖球菌血清型14の莢膜多糖、肺炎連鎖球菌血清型6Bの莢膜多糖
又は肺炎連鎖球菌血清型7Fの莢膜多糖で
ある、請求項
18に記載のコンジュゲート。
【請求項20】
前記タンパク質/ペプチド抗原が
、コロナウイルススパイクタンパク質受容体結合領域RBD
のウイルス抗原を含むタンパク質/ペプチドである、請求項
18に記載のコンジュゲート。
【請求項21】
前記コロナウイルスがSARS-CoV-2又は中東呼吸器症候群コロナウイルスである、請求項
20に記載のコンジュゲート。
【請求項22】
前記タンパク質/ペプチド抗原が
、SARS-CoV-2 RBD-mFc;SARS-CoV-2 RBD-his;又はMERS-COV RBD-hisである融合タンパク質であり、
Fc断片が
、ヒト又はマウスのIgG Fc断片である、
請求項
21に記載のコンジュゲート。
【請求項23】
前記タンパク質/ペプチド抗原が、配列番号1、配列番号2、配列番号3のいずれか1つとして記載される配列を含む、請求項
22に記載のコンジュゲート。
【請求項24】
前記タンパク質/ペプチド抗原が
、RSV-gpG-hisである融合タンパク質で
ある、請求項
18に記載のコンジュゲート。
【請求項25】
前記タンパク質/ペプチド抗原が、配列番号4及び/又は配列番号12として記載される配列を含む、請求項
24に記載のコンジュゲート。
【請求項26】
前記タンパク質/ペプチド抗原が
、Flu-B-HA1-his又はH5N1-HA-hisである融合タンパク質で
ある、請求項
18に記載のコンジュゲート。
【請求項27】
前記タンパク質/ペプチド抗原が、配列番号7及び/又は配列番号15、配列番号8及び/又は配列番号16のいずれか1つとして記載される配列を含む、請求項
26に記載のコンジュゲート。
【請求項28】
前記タンパク質/ペプチド抗原が
、Ebola-GP-Fc又はEbola-GP1-hisである融合タンパク質であり、
Fc
は、ヒト又はマウスのIgG Fc断片である、
請求項
18に記載のコンジュゲート。
【請求項29】
前記タンパク質/ペプチド抗原が、配列番号9及び/又は配列番号17、配列番号10及び/又は配列番号18のいずれか1つとして記載される配列を含む、請求項
28に記載のコンジュゲート。
【請求項30】
前記タンパク質/抗原が、フラビウイルス科のウイルス抗
原を含むタンパク質/ペプチドである、請求項
18に記載のコンジュゲート。
【請求項31】
前記タンパク質/ペプチド抗原が
、
ZIKV-E-Fcである融合タンパク質であり
、Fcが
、ヒト若しくはマウスのIgG Fc断片であるか;又
は
HCV-E2-his及び/若しくはHCV-E1-hisである融合タンパク質
である、
請求項
30に記載のコンジュゲート。
【請求項32】
前記タンパク質/ペプチド抗原が、配列番号11及び/又は配列番号19、配列番号6及び/又は配列番号14、配列番号5及び/又は配列番号13のいずれか1つとして記載される配列を含む、請求項
31に記載のコンジュゲート。
【請求項33】
分子量が400~14000KDaである、請求項
18から32のいずれか一項に記載のコンジュゲート。
【請求項34】
糖タンパク質/ペプチド抗原がタンパク質担体に更にコンジュゲートされている、請求項
18から32のいずれか一項に記載の糖タンパク質/ペプチド抗原コンジュゲート。
【請求項35】
前記タンパク質担体が、破傷風トキソイド、破傷風トキソイド断片C、破傷風トキソイド非毒性変異体、ジフテリアトキソイド、CRM197、ジフテリアトキソイドの他の非毒性変異
体である、請求項
34に記載の糖タンパク質/ペプチド抗原コンジュゲート。
【請求項36】
請求項
18から35のいずれか一項に記載の糖タンパク質/ペプチド抗原コンジュゲート、免疫アジュバント及び賦形剤を含む、免疫原性組成物。
【請求項37】
前記アジュバントが、アルミニウムアジュバント、水中油型エマルジョンアジュバント、MF59、QS-21及び脂質モノホスフェートAから選択される、請求項
36に記載の免疫原性組成物。
【請求項38】
請求項
18から35のいずれか一項に規定される病原体関連タンパク質/ペプチド抗
原によって引き起こされる疾患の予防又は治療のためのワクチン又は薬剤の調製における、請求項
18から35のいずれかに記載の糖タンパク質/ペプチド抗原コンジュゲート又は請求項
36若しくは
37に記載の免疫原性組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年5月1日に出願された中国特許出願第202010369100.7号の利益を主張するものである。前述の出願の全内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、免疫原性組成物の分野に関し、より具体的には、タンパク質/ペプチド抗原を糖とコンジュゲートすることにより、タンパク質/ペプチド抗原の免疫原性を向上させ、その結果、非コンジュゲートのタンパク質/ペプチド抗原と比較して免疫原性が増加した糖タンパク質/ペプチド抗原コンジュゲートが得られる方法に関する。この方法は、より具体的には、ウイルス表面タンパク質抗原又はその断片等の病原体と多糖、特に肺炎連鎖球菌(Streptococcus pneumoniae)の莢膜多糖とのコンジュゲーションを伴う。この免疫原性増強コンジュゲートは、病原体、特にコロナウイルスによって引き起こされる疾患を予防又は治療するために使用することができる。
【背景技術】
【0003】
脊椎動物個体を、感染性微生物、毒素、ウイルス又はそのサブユニットが抗原性成分として使用されるワクチンで免疫化した場合、個体にとって外来性物質である前記抗原性成分は、個体において外来性分子に対する記憶免疫応答を誘発又は刺激し、それによって外来性分子への再曝露時の二次免疫応答によって損傷から個体を保護するであろう。
【0004】
用語「抗原」は、抗体又はT細胞受容体によって認識される(特異的に結合する)が、必ずしも免疫応答を誘発するものではない外来性物質である。抗体又はT細胞受容体に認識され(特異的に結合し)、特異的な免疫を誘発することができる外来性物質を「免疫原性抗原」又は「免疫原」と称する。
【0005】
感染性微生物、毒素、ウイルスのサブユニット、すなわち細胞構造(細菌又は真菌)、又はウイルスの一部を抗原として使用するワクチンは非生物ワクチンであり、その安全性から広く利用されている。しかし、サブユニットが特異的な免疫応答を誘発する能力は弱く、すなわち抗原の免疫原性は低い。
【0006】
免疫原性を増強する従来の手段は、免疫アジュバントを付加することである。免疫応答を増強する新しい手段は、現在も研究が進められている。重要なツールの1つは、免疫原性の低い抗原を外来性の担体高分子とコンジュゲートすることによって免疫原性を増強することであり、これは数十年間使用が成功しており、例えば、よく見られる脳炎ワクチン、ヘモフィルス・インフルエンザB型(Haemophilus influenza b)ワクチン、及び肺炎ワクチンであり、ここでは、精製莢膜多糖(莢膜ポリマー)が、より有効な免疫原性組成物を生成するために担体タンパク質と結合している(Schneersonら(1984) Infect. Immun. 45: 582-591)。一般的に使用される担体タンパク質、例えば、破傷風トキソイド、破傷風トキソイドフラグメントC、破傷風トキソイド非毒性変異体、ジフテリアトキソイド、CRM197、他のジフテリアトキソイドの非毒性変異体[例えばCRM176、CRM197、CRM228、CRM45(Uchidaら Human J. Biol. Chem. 218; 3838 3844, 1973);CRM9、CRM45、CRM02、CRM103及びCRM107、他の変異体]。これらの多糖抗原は、細胞性免疫応答を惹起しないため、免疫記憶を形成することができない非胸腺細胞依存性抗原であり、小児又は免疫不全者では保護抗体を形成することができない。多糖抗原は、T細胞エピトープを有するタンパク質担体にコンジュゲートした後、コンジュゲートは抗原提示細胞又はB細胞によってエンドサイトーシスされて処理され、担体タンパク質のペプチド断片が細胞表面に提示されてヘルパーT細胞を活性化し、一連の免疫応答を誘発して保護抗体を産生し、免疫記憶を形成する。
【0007】
しかし、タンパク質/ペプチド抗原の免疫原性に細菌多糖が及ぼす影響についてはほとんど報告されていない。米国特許第5192540号は、ヘモフィルス・インフルエンザB型の38,000ダルトン又は40,000ダルトンの外膜タンパク質とヘモフィルス・インフルエンザB型の酸化ポリリボース-リビトール-リン酸多糖断片との免疫原性コンジュゲートを含むワクチンを開示し、これは、ヘモフィルス・インフルエンザB型によって引き起こされる疾患に対する免疫化に使用し得る。しかし、「本発明のコンジュゲートワクチンは動物モデルにおいて免疫原性が高い。PRPに対する抗体反応は、以前の報告よりも有意に高かった。また、コンジュゲートワクチンは、ヘモフィルス・インフルエンザB型の主要タンパク質(38K又は40kタンパク質)に対する抗体を誘発する。」
【0008】
米国特許第9296795号は、免疫原性組成物中に病院病原体に由来する多糖抗原(又は1つ又は複数の抗原性エピトープを表すそのオリゴ糖断片)を有する免疫原性多糖タンパク質コンジュゲートの使用を開示しており、多糖はブドウ球菌表面アドヘシン担体タンパク質にコンジュゲートされ、多糖抗原及びブドウ球菌表面アドヘシン担体タンパク質に対する抗体応答を誘発させた。しかし、「本発明に記載のコンジュゲートは、いずれも病原因子である多糖抗原及び表面接着ベクタータンパク質に対する抗体の産生を誘導し、病院病原体によって引き起こされる疾患に対して免疫を付与するという独自の利点を有する。言い換えれば、表面アドヘシンタンパク質それ自体は、単に多糖抗原のタンパク質担体として作用するだけでなく、身体に免疫を付与する能力を有する。「ステープル止めされた表面アドヘシンタンパク質によって誘発される表面アドヘシンタンパク質特異的抗体の力価は、非コンジュゲート表面アドヘシンタンパク質と同様であった(
図17~
図20)。このことから、表面アドヘシンタンパク質とCPの結合によって、抗原エピトープが変化しないことが確認される。」
【0009】
上記2つの研究努力では、多糖にコンジュゲートしたタンパク質/ペプチド抗原が抗体産生を引き起こすことのみが報告されており、その免疫原性の増強は報告されていない。
【0010】
本発明者らの先駆的な研究は、タンパク質/ペプチド抗原を糖とコンジュゲートさせ、糖-タンパク質/ペプチド抗原コンジュゲートを形成することにより、タンパク質/ペプチド抗原の免疫原性を増強することを含んでいた。
【0011】
本発明者らは、その根拠として、タンパク質凝集体がタンパク質単量体よりも容易に身体の免疫応答を刺激し、抗体を産生するためと推測している。更に、動物の免疫系における抗原提示細胞表面のパターン認識受容体の多くは糖と結合しており、細菌によって産生される糖は免疫系を刺激する重要なシグナルである。しかし、本発明はこの理論に拘束されるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】米国特許第5192540号
【文献】米国特許第9296795号
【文献】中国特許第103865892号
【文献】中国特許第109996560号
【非特許文献】
【0013】
【文献】Schneersonら(1984) Infect. Immun. 45: 582-591
【文献】Uchidaら Human J. Biol. Chem. 218; 3838 3844, 1973
【文献】Lopezら(1998) J. Virology 72:6922-6928
【文献】Volchkova, VAら(1998)、Virology 250:408-414
【文献】Falzarano, D.ら(2006) Chembiochem 7: 1605-161 1
【文献】Sanchez, A.ら(1996)、Proc Natl Acad Sci USA 93:3602-3607
【文献】Alazard- Dany, N.ら(2006)、J. Gen. Virol. 87: 1247- 1257
【文献】Xingcui Zhangら(2017) Viruses. 2017 Nov; 9(11): 338. Structures and Functions of the Envelope Glycoprotein in Flavivirus Infections
【文献】Yimin, Tong.ら(2018) Front Immunol. 2018; 9: 1411. Role of Hepatitis C Virus Envelope Glycoprotein E1 in Virus Entry and Assembly
【文献】V.M. Goncalves、Optimization of medium and cultivation conditions for capsular polysaccharide production by Streptococcus pneumoniae serotype 23F, AllpMicrobiolBiotechnol (2002) 59:713-717
【文献】Geert J. Schenk、Efficient CRM197-mediated drug targeting to monocytes, Journal of Controlled Release 158 (2012) 139 -147
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一態様は、タンパク質/ペプチド抗原の免疫原性を向上させる方法であって、タンパク質/ペプチド抗原を糖とコンジュゲートすることによって糖タンパク質/ペプチド抗原コンジュゲートを形成する工程を含む、方法に関する。
【0015】
本発明の特定の実施形態において、糖は、多糖、オリゴ糖又は単糖から選択され;
好ましくは、ナイセリア・エンセファリティス(Neisseria encephalitis)の莢膜多糖、ヘモフィルス・インフルエンザB型の莢膜多糖、肺炎連鎖球菌の莢膜多糖、B群黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の莢膜多糖、デキストラン、マンナン、デンプン、イヌリン、ペクチン、カルボキシメチルデンプン、キトサン及びその誘導体であり;
より好ましくは、肺炎連鎖球菌の莢膜多糖であり;
最も好ましくは、肺炎連鎖球菌血清型14の莢膜多糖、肺炎連鎖球菌血清型6Bの莢膜多糖及び肺炎連鎖球菌血清型7Fの莢膜多糖であり、
タンパク質/ペプチド抗原は、病原体関連タンパク質/ペプチド抗原又は腫瘍関連タンパク質/ペプチド抗原から選択され、
病原体は、
コロナウイルス、ヒト免疫不全ウイルスHIV-1、ヒト単純ヘルペスウイルス、サイトメガロウイルス、ロタウイルス、EBウイルス、水痘帯状疱疹ウイルス、肝炎ウイルス、RSウイルス、パラインフルエンザウイルス、麻疹ウイルス、流行性耳下腺炎ウイルス、ヒトパピローマウイルス、フラビウイルス又はインフルエンザウイルス、ナイセリア属(Neisseria)、モラクセラ属(Moraxella)、ボルデテラ属(Bordetella)、マイコバクテリウム属(Mycobacterium)、例えば結核菌(Mycobacterium tuberculosis)、エスケリキア属(Escherichia)、例えば毒素原生大腸菌(Escherichia coli)、サルモネラ属(Salmonella)、リステリア属(Listeria)、ヘリコバクター属(Helicobacter)、スタフィロコッカス属(Staphylococcus)、例えば黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)、ボレリア属(Borrelia)、クラミジア属(Chlamydia)、例えばクラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)、肺炎クラミジア(Chlamydia pneumoniae)、プラスモジウム属(Plasmodium)、例えば熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)、トキソプラズマ属(Toxoplasma)、カンジダ属(Candida)から選択され;
好ましくは、宿主への病原体の侵入に関連するタンパク質/ペプチドであり;
より好ましくは、上記病原体はウイルスであり;
より好ましくは、上記ウイルスは、コロナウイルス科(Coronaviridae)、パラミクソウイルス科(Paramyxoviridae)、オルトミクソウイルス科(Orthomyxoviridae)、フィロウイルス科(Filoviridae)又はフラビウイルス科(Flaviviridae)のウイルスから選択され、及び
腫瘍は:
びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、濾胞性リンパ腫、他のリンパ腫、白血病、多発性骨髄腫、中皮腫、胃癌、悪性横紋筋腫、肝細胞癌、前立腺癌、乳癌、胆管及び胆嚢癌、膀胱癌、脳腫瘍、例えば神経芽腫、神経鞘腫、神経膠腫、神経膠芽腫及び星細胞腫、子宮頸癌、結腸癌、メラノーマ、子宮内膜癌、食道癌、頭頸部癌、肺癌、鼻咽頭癌、卵巣癌、膵臓癌、腎細胞癌、直腸癌、甲状腺癌、副甲状腺腫瘍、子宮腫瘍及び軟部組織肉腫から選択される。
【0016】
本発明の具体的な実施形態において、タンパク質/ペプチド抗原は、
コロナウイルス科のウイルス抗原;
好ましくは、コロナウイルススパイクタンパク質;
より好ましくは、コロナウイルススパイクタンパク質S1サブユニット;
より好ましくは、コロナウイルススパイクタンパク質受容体結合領域RBD;
又は上記全てのタンパク質/ペプチド抗原の免疫原性を有する断片若しくはバリアントを含む、タンパク質/ペプチドである。
【0017】
本発明の具体的な実施形態において、コロナウイルスは、SARS-CoV-2又は中東呼吸器症候群コロナウイルスである。
【0018】
本発明の具体的な実施形態において、タンパク質/ペプチド抗原は、先に定義したような抗原と他のタンパク質又はペプチドとの融合タンパク質である。
【0019】
好ましくは、融合タンパク質は、SARS-CoV-2 RBD-mFc;又は
SARS-CoV-2 RBD-his;又は
MERS-COV RBD-hisから選択され;及び
Fcは、好ましくはIgG Fc断片、より好ましくはヒト又はマウスのIgG Fc断片である。
【0020】
本発明の具体的な実施形態において、タンパク質/ペプチド抗原は、配列番号1、配列番号2、配列番号3のいずれか1つとして記載されるような配列を含む。
【0021】
本発明の具体的な実施形態において、糖タンパク質/ペプチド抗原コンジュゲートは、400~14000KDaの分子量を有する。
【0022】
本発明の具体的な実施形態において、タンパク質/ペプチド抗原は、
パラミクソウイルス科のウイルス抗原;
好ましくは、パラミクソウイルス糖タンパク質受容体結合領域;
好ましくは、パラミクソウイルス糖タンパク質F、糖タンパク質G;
又は上記全てのタンパク質/ペプチド抗原の免疫原性を有する断片若しくはバリアントを含むタンパク質/ペプチドである。
【0023】
本発明の具体的な実施形態において、パラミクソウイルス科ウイルスは、ヒトRSウイルスである。
【0024】
本発明の具体的な実施形態において、タンパク質/ペプチド抗原は、先に定義したような抗原と他のタンパク質又はペプチドとの融合タンパク質であり;好ましくは、融合タンパク質はRSV-gpG-hisである。
【0025】
本発明の具体的な実施形態において、タンパク質/ペプチド抗原は、配列番号4及び/又は配列番号12として記載される配列を含む。
【0026】
本発明の具体的な実施態様において、タンパク質/ペプチド抗原は、
オルトミクソウイルス科のウイルス抗原;
好ましくは、オルトミクソウイルス糖タンパク質受容体結合領域;
好ましくは、ヘマグルチニン(HA)タンパク質及び/又はノイラミニダーゼ(NA)タンパク質;
又は上記の全てのタンパク質/ペプチド抗原の免疫原性を有する断片若しくはバリアントを含むタンパク質/ペプチドである。
【0027】
本発明の具体的な実施形態において、オルトミクソウイルスは、B型インフルエンザウイルス及び/又はA型インフルエンザH5N1ウイルスである。
【0028】
本発明の具体的な実施形態において、タンパク質/ペプチド抗原は、先に定義したような抗原と他のタンパク質又はペプチドとの融合タンパク質であり、
好ましくは、融合タンパク質は、Flu-B-HA1-his又はH5N1-HA-hisである。
【0029】
本発明の具体的な実施形態において、タンパク質/ペプチド抗原は、配列番号7及び/又は配列番号15、配列番号8及び/又は配列番号16のいずれか1つとして記載される配列を含む。
【0030】
本発明の具体的な実施形態において、タンパク質/ペプチド抗原は、
フィロウイルス科のウイルス抗原;
好ましくは、フィロウイルスエンベロープ糖タンパク質受容体結合領域;
好ましくは、フィロウイルスエンベロープ糖タンパク質GP1及び/若しくはGP2;
より好ましくは、フィロウイルスエンベロープ糖タンパク質GP1;
又は上記全てのタンパク質/ペプチド抗原の免疫原性を有する断片若しくはバリアントを含むタンパク質/ペプチドである。
【0031】
本発明の具体的な実施形態において、フィロウイルスは、エボラウイルスである。
【0032】
本発明の具体的な実施形態において、タンパク質/ペプチド抗原は、先に定義したような抗原と他のタンパク質又はペプチドとの融合タンパク質であり、
好ましくは、融合タンパク質は、Ebola-GP-Fc又はEbola-GP1-hisであり;
Fcは、好ましくはIgG Fc断片、より好ましくはヒト又はマウスのIgG Fc断片である。
【0033】
本発明の具体的な実施形態において、タンパク質/ペプチド抗原は、配列番号9及び/又は配列番号17、配列番号10及び/又は配列番号18のいずれか1つとして記載される配列を含む。
【0034】
本発明の具体的な実施形態において、タンパク質/抗原は、
フラビウイルス科のウイルス抗原;
好ましくは、フラビウイルス属(Flavivirus)若しくはヘパシウイルス属(Hepacivirus)のウイルス抗原;
好ましくは、フラビウイルス属ウイルスのエンベロープタンパク質受容体結合領域;
好ましくは、フラビウイルス属ウイルスエンベロープタンパク質の構造ドメインEDI、EDII及びEDIIIのうちの少なくとも1つ;
より好ましくは、フラビウイルス属ウイルスエンベロープタンパク質の構造ドメインEDIII;若しくは
好ましくは、ヘパシウイルス属ウイルスのエンベロープ糖タンパク質受容体結合領域;
好ましくは、ヘパシウイルス属ウイルスエンベロープ糖タンパク質E1及び/若しくはE2;
又は上記全てのタンパク質/ペプチド抗原の免疫原性を有する断片若しくはバリアントを含むタンパク質/ペプチドである。
【0035】
本発明の具体的な実施形態において、フラビウイルス属ウイルスは、好ましくはジカウイルスであり;ヘパシウイルス属ウイルスは、好ましくはC型肝炎ウイルスである。
【0036】
本発明の具体的な実施形態において、タンパク質/ペプチド抗原は、先に定義したような抗原と他のタンパク質又はペプチドとの融合タンパク質であり、
好ましくは、融合タンパク質は、ZIKV-E-Fcであり;
Fcは、好ましくはIgG Fc断片、より好ましくはヒト若しくはマウスのIgG Fc断片であるか;又は
好ましくは、融合タンパク質は、HCV-E2-his及び/若しくはHCV-E1-hisである。
【0037】
本発明の具体的な実施形態において、タンパク質/ペプチド抗原は、配列番号11及び/又は配列番号19、配列番号6及び/又は配列番号14、配列番号5及び/又は配列番号13のいずれか1つとして記載される配列を含む。
【0038】
本発明の具体的な実施形態において、糖タンパク質/ペプチド抗原は、タンパク質担体に更にコンジュゲートされている。
【0039】
本発明の具体的な実施形態において、タンパク質担体は、破傷風トキソイド、破傷風トキソイド断片C、破傷風トキソイド非毒性変異体、ジフテリアトキソイド、CRM197、ジフテリアトキソイドの他の非毒性変異体、好ましくはCRM197である。
【0040】
本発明の第2の態様は、非コンジュゲートタンパク質/ペプチド抗原と比較して免疫原性が増加した糖タンパク質/ペプチド抗原コンジュゲートに関する。
【0041】
本発明の特定の実施形態において、糖は、多糖、オリゴ糖又は単糖から選択され;
好ましくは、ナイセリア・エンセファリティスの莢膜多糖、ヘモフィルス・インフルエンザB型の莢膜多糖、肺炎連鎖球菌の莢膜多糖、B群黄色ブドウ球菌の莢膜多糖、デキストラン、マンナン、デンプン、イヌリン、ペクチン、カルボキシメチルデンプン、キトサン及びその誘導体であり;
より好ましくは、肺炎連鎖球菌の莢膜多糖であり;
最も好ましくは、肺炎連鎖球菌血清型14の莢膜多糖、肺炎連鎖球菌血清型6Bの莢膜多糖及び肺炎連鎖球菌血清型7Fの莢膜多糖であり;
タンパク質/ペプチド抗原は、病原体関連タンパク質/ペプチド抗原又は腫瘍関連タンパク質/ペプチド抗原から選択され、
病原体は、
コロナウイルス、ヒト免疫不全ウイルスHIV-1、ヒト単純ヘルペスウイルス、サイトメガロウイルス、ロタウイルス、EBウイルス、水痘帯状疱疹ウイルス、肝炎ウイルス、RSウイルス、パラインフルエンザウイルス、麻疹ウイルス、流行性耳下腺炎ウイルス、ヒトパピローマウイルス、フラビウイルス又はインフルエンザウイルス、ナイセリア属、モラクセラ属、ボルデテラ属、マイコバクテリウム属、例えば結核菌、エスケリキア属、例えば毒素原生大腸菌、サルモネラ属、リステリア属、ヘリコバクター属、スタフィロコッカス属、例えば黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌、ボレリア属、クラミジア属、例えばクラミジア・トラコマチス、肺炎クラミジア、プラスモジウム属、例えば熱帯熱マラリア原虫、トキソプラズマ属、カンジダ属から選択され;
好ましくは、宿主への病原体の侵入に関連するタンパク質/ペプチドであり;
より好ましくは、上記病原体はウイルスであり;
より好ましくは、上記ウイルスは、コロナウイルス科、パラミクソウイルス科、オルトミクソウイルス科、フィロウイルス科又はフラビウイルス科のウイルスから選択され;及び
腫瘍は:
びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、濾胞性リンパ腫、他のリンパ腫、白血病、多発性骨髄腫、中皮腫、胃癌、悪性横紋筋腫、肝細胞癌、前立腺癌、乳癌、胆管及び胆嚢癌、膀胱癌、脳腫瘍、例えば神経芽腫、神経鞘腫、神経膠腫、神経膠芽腫及び星細胞腫、子宮頸癌、結腸癌、メラノーマ、子宮内膜癌、食道癌、頭頸部癌、肺癌、鼻咽頭癌、卵巣癌、膵臓癌、腎細胞癌、直腸癌、甲状腺癌、副甲状腺腫瘍、子宮腫瘍及び軟部組織肉腫から選択される。
【0042】
本発明の具体的な実施形態において、タンパク質/ペプチド抗原は、
コロナウイルス科のウイルス抗原;
好ましくは、コロナウイルススパイクタンパク質;
より好ましくは、コロナウイルススパイクタンパク質S1サブユニット;
より好ましくは、コロナウイルススパイクタンパク質受容体結合領域RBD;
又は上記全てのタンパク質/ペプチド抗原の免疫原性を有する断片若しくはバリアントを含むタンパク質/ペプチドである。
【0043】
本発明の具体的な実施形態において、コロナウイルスは、SARS-CoV-2又は中東呼吸器症候群コロナウイルスである。
【0044】
本発明の具体的な実施形態において、タンパク質/ペプチド抗原は、先に定義したような抗原と他のタンパク質又はペプチドとの融合タンパク質である。
【0045】
好ましくは、融合タンパク質は、SARS-CoV-2 RBD-mFc;又は
SARS-CoV-2 RBD-his;又は
MERS-COV RBD-hisから選択され;及び
Fcは、好ましくはIgG Fc断片、より好ましくはヒト又はマウスのIgG Fc断片である。
【0046】
本発明の具体的な実施形態において、タンパク質/ペプチド抗原は、配列番号1、配列番号2、配列番号3のいずれか1つとして記載されるような配列を含む。
【0047】
本発明の具体的な実施形態において、タンパク質/ペプチド抗原は、
パラミクソウイルス科を含む抗原;
好ましくは、パラミクソウイルス糖タンパク質受容体結合領域;
好ましくは、パラミクソウイルス糖タンパク質F、糖タンパク質G;
又は上記全てのタンパク質/ペプチド抗原の免疫原性を有する断片若しくはバリアントを含むタンパク質/ペプチドである。
【0048】
本発明の具体的な実施形態において、パラミクソウイルスは、ヒトRSウイルスである。
【0049】
本発明の具体的な実施形態において、タンパク質/ペプチド抗原は、先に定義したような抗原と他のタンパク質又はペプチドとの融合タンパク質であり、
好ましくは、融合タンパク質は、RSV-gpG-hisである。
【0050】
本発明の具体的な実施形態において、タンパク質/ペプチド抗原は、配列番号4及び/又は配列番号12として記載されるような配列を含む。
【0051】
本発明の具体的な実施形態において、タンパク質/ペプチド抗原は、
オルトミクソウイルス科を含む抗原;
好ましくは、オルトミクソウイルス糖タンパク質受容体結合領域;
好ましくは、ヘマグルチニン(HA)タンパク質及び/若しくはノイラミニダーゼ(NA)タンパク質;
又は上記の全てのタンパク質/ペプチド抗原の免疫原性を有する断片若しくはバリアントを含む。
【0052】
本発明の具体的な実施形態において、オルトミクソウイルスは、B型インフルエンザウイルス及び/又はA型インフルエンザH5N1ウイルスである。
【0053】
本発明の具体的な実施形態において、タンパク質/ペプチド抗原は、先に定義したような抗原と他のタンパク質又はペプチドとの融合タンパク質であり;
好ましくは、融合タンパク質は、Flu-B-HA1-his又はH5N1-HA-hisである。
【0054】
本発明の具体的な実施形態において、タンパク質/ペプチド抗原は、配列番号7及び/又は配列番号15、配列番号8及び/又は配列番号16のいずれか1つとして記載される配列を含む。
【0055】
本発明の特定の実施形態において、タンパク質/ペプチド抗原は、
フィロウイルス科を含む抗原;
好ましくは、フィロウイルスエンベロープ糖タンパク質受容体結合領域;
好ましくは、フィロウイルスエンベロープ糖タンパク質GP1及び/若しくはGP2;
より好ましくは、フィロウイルスエンベロープ糖タンパク質GP1;
又は上記全てのタンパク質/ペプチド抗原の免疫原性を有する断片若しくはバリアントを含む。
【0056】
本発明の具体的な実施形態において、フィロウイルスは、エボラウイルスである。
【0057】
本発明の具体的な実施形態において、タンパク質/ペプチド抗原は、先に定義したような抗原と他のタンパク質又はペプチドとの融合タンパク質であり、
好ましくは、融合タンパク質は、Ebola-GP-Fc又はEbola-GP1-hisであり;
Fcは、好ましくはIgG Fc断片、より好ましくはヒト又はマウスのIgG Fc断片である。
【0058】
本発明の特定の実施形態において、タンパク質/ペプチド抗原は、配列番号9及び/又は配列番号17、配列番号10及び/又は配列番号18のいずれか1つとして記載される配列を含む。
【0059】
本発明の特定の実施形態において、タンパク質/ペプチド抗原は、
フラビウイルス科を含む抗原;
好ましくは、フラビウイルス属若しくはヘパシウイルス属のウイルス抗原;
好ましくは、フラビウイルス属ウイルスのエンベロープタンパク質受容体結合領域;
好ましくは、フラビウイルス属ウイルスエンベロープタンパク質の構造ドメインEDI、EDII及びEDIIIのうちの少なくとも1つ;
より好ましくは、フラビウイルス属ウイルスエンベロープタンパク質の構造ドメインEDIII;若しくは
好ましくは、ヘパシウイルス属ウイルスのエンベロープ糖タンパク質受容体結合領域;
好ましくは、ヘパシウイルス属ウイルスエンベロープ糖タンパク質E1及び/若しくはE2;
又は上記全てのタンパク質/ペプチド抗原の免疫原性を有する断片若しくはバリアントを含む。
【0060】
本発明の具体的な実施形態において、フラビウイルス属ウイルスは、好ましくはジカウイルスであり;又は
ヘパシウイルス属ウイルスは、好ましくは、C型肝炎ウイルスである。
【0061】
本発明の具体的な実施形態において、タンパク質/ペプチド抗原は、先に定義したような抗原と他のタンパク質又はペプチドとの融合タンパク質であり;
好ましくは、融合タンパク質は、ZIKV-E-Fcであり;
Fcは、好ましくはIgG Fc断片、より好ましくはヒト若しくはマウスのIgG Fc断片であるか;又は
好ましくは、融合タンパク質は、HCV-E2-his及び/若しくはHCV-E1-hisである。
【0062】
本発明の具体的な実施形態において、タンパク質/ペプチド抗原は、配列番号11及び/又は配列番号19、配列番号6及び/又は配列番号14、配列番号5及び/又は配列番号13として記載される配列のうちのいずれか1つを含む。
【0063】
本発明の具体的な実施形態において、糖タンパク質/ペプチド抗原コンジュゲートは、400~14000KDaの分子量を有する。
【0064】
本発明の具体的な実施形態において、糖タンパク質/ペプチド抗原は、タンパク質担体に更にコンジュゲートされている。
【0065】
本発明の具体的な実施形態において、タンパク質担体は、破傷風トキソイド、破傷風トキソイド断片C、破傷風トキソイド非毒性変異体、ジフテリアトキソイド、CRM197、ジフテリアトキソイドの他の非毒性変異体、好ましくはCRM197である。
【0066】
本発明の第3の態様は、前述の糖タンパク質/ペプチド抗原コンジュゲート、免疫アジュバント、及び賦形剤を含む、免疫原性組成物に関する。
【0067】
本発明の特定の実施形態において、アジュバントは、アルミニウムアジュバント、水中油型エマルジョンアジュバント、MF59、QS-21及び脂質モノホスフェートAから選択される。
【0068】
本発明の第4の態様は、好ましくは病原体が、
コロナウイルス、より好ましくはSARS-CoV-2及び/又はMERS-CoV;
パラミクソウイルス、より好ましくは、ヒトRSウイルス;
オルトミクソウイルス、より好ましくは、B型インフルエンザウイルス及び/又はA型インフルエンザH5N1ウイルス;
フィロウイルス、より好ましくは、エボラウイルス;
フラビウイルス、好ましくはジカウイルス;又はC型肝炎ウイルスである、先に定義した病原体関連タンパク質/ペプチド抗原又は腫瘍関連タンパク質/ペプチドによって引き起こされる疾患の予防又は治療のための糖タンパク質/ペプチド抗原コンジュゲート又は免疫原性組成物の使用に関する。
【0069】
本発明の第5の態様は、好ましくは病原体が、
コロナウイルス、より好ましくはSARS-CoV-2及び/又はMERS-CoV;
パラミクソウイルス、より好ましくは、ヒトRSウイルス;
オルトミクソウイルス、より好ましくは、B型インフルエンザウイルス及び/又はA型インフルエンザH5N1ウイルス;
フィロウイルス、より好ましくはエボラウイルス;
フラビウイルス、より好ましくはジカウイルス;又はC型肝炎ウイルスである、先に定義した病原体関連タンパク質/ペプチド抗原又は腫瘍関連タンパク質/ペプチドによって引き起こされる疾患の予防的治療のためのワクチン又は薬剤の調製における糖タンパク質/ペプチド抗原コンジュゲート又は免疫原性組成物の使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【
図1】SARS-COV-2 RBD-mFcを抗原とする免疫組合せで免疫化したマウス血清の抗SARS-COV-2 RBD抗体力価を示す。値は、血清の8,000倍希釈で検出された吸光度である。
【
図2】血清希釈度32,000倍、及び免疫化用量3μg/マウスでの抗原SARS-COV-2 RBD-his-PS14コンジュゲートとの異なるアジュバントの比較を示す。
【
図3】SARS-COV-2 RBDタンパク質-PS14多糖コンジュゲート、及び、血清希釈1500x、及び免疫化用量3μg/マウスで免疫化したマウスにおける、抗原としてSARS-COV-2 RBD及びPS14と共コンジュゲートしたCRM197の免疫組合せの血清中和活性の比較を示す。
【
図4】PS7F、PS14及びデキストランのコンジュゲートについてのコンジュゲート剤としての免疫学的結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0071】
定義
特に断らない限り、本明細書で使用する全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野における通常の当業者によって通常理解される意味を有する。本発明の目的のために、以下の用語は更に定義される。
【0072】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「one」、「a」、「another」及び「the」は、文脈が明らかに他のものを示さない限り、対象物の複数形の呼称を含む。
【0073】
用語「含む(include)」、「含む(comprise)」は、他の成分を除外することなく、特定の成分を含むことを指す。「本質的に......からなる」等の用語は、本発明の新規性又は本質的な特徴を損なわない他の成分又は工程を含めることを可能にする、すなわち、本発明の新規性又は本質的な特徴を損なう他の未列挙の成分又は工程を除外する。用語「......からなる」は、特定の成分又は成分群を含み、他の全ての成分を除外することを意味する。本明細書及び添付の特許請求の範囲において、「タンパク質/ペプチド抗原がXを含むタンパク質/ペプチドである」とは、タンパク質/ペプチド抗原のアミノ酸配列がXのタンパク質/ペプチド配列を含むことを意味する。
【0074】
用語「抗原」は、抗体又はT細胞受容体によって認識される(特異的に結合する)が、確実な免疫応答を誘発しない外来性物質である。特定の免疫を誘発する外来性物質を「免疫原性抗原」又は「免疫原」と称する。「半抗原」は、単独では免疫応答を誘発できない抗原である(ただし、数分子の半抗原の組合せ、又は半抗原と大きな分子担体の組合せは、免疫応答を誘発し得る)。
【0075】
「体液性免疫応答」は、抗体媒介性免疫応答であり、本発明の免疫原性組成物中の抗原を一定の親和性で認識し結合する抗体の導入及び産生を伴う。「細胞媒介性免疫応答」は、主要組織適合性複合体(MHC)のクラスI又はII分子、CD1又は他の非典型MHC様分子と関連する抗原性エピトープを提供することによって誘発されるT細胞及び/又は他の白血球によって媒介される免疫応答である。
【0076】
用語「糖」は、多糖、オリゴ糖又は単糖を指すために使用することができる。多糖は、細菌等の生物から単離することができ、天然に存在する多糖であってもよく、任意にマイクロ流体法によって、一定の大きさにすることができる。多糖を再サイズ化することにより、多糖試料の粘度が低下し、及び/又はコンジュゲート生成物の濾過性が向上される。オリゴ糖は、反復単位数が少ない(典型的には、5~30の反復単位)加水分解された多糖である。多糖は化学的に合成することもできる。
【0077】
本明細書及び添付の特許請求の範囲において、用語「コンジュゲート」は、糖と共有結合によってコンジュゲートしたタンパク質/ペプチドを指すために用いられる。本発明の糖タンパク質/ペプチドコンジュゲート及びそれを含む免疫原性組成物は、一定量の遊離糖、タンパク質/ペプチドを含んでいてもよい。
【0078】
本明細書で使用される場合、「コンジュゲーション」は、細菌莢膜多糖等の糖がタンパク質/ペプチドに共有結合されるプロセスを指す。
【0079】
用語「免疫原性組成物」は、微生物又はその成分等の抗原を含む任意の医薬組成物を指し、これは、個体における免疫応答を誘発するために使用することができる。
【0080】
用語「担体」は、医薬組成物と共に投与される希釈剤、アジュバント、賦形剤、又はメディエータを指すために使用され得る。水、生理食塩水、及びデキストロースとグリセロールの水溶液を、特に注射液のための液体担体として使用することができる。
【0081】
本明細書で使用される場合、「免疫原性」は、コロナウイルスのスパイクタンパク質受容体結合領域等の抗原(又は抗原のエピトープ)又はその糖コンジュゲート、或いはそれを含む免疫原性組成物が宿主(例えば哺乳動物)において体液性免疫応答若しくは細胞媒介性免疫応答、又はその両方を誘発する能力を意味する。
【0082】
「保護」免疫応答は、感染から個体を保護するために、体液性免疫応答、若しくは細胞媒介性免疫応答、又はその両方を誘発する免疫原性組成物の能力である。提供される保護は絶対的である必要はなく、すなわち、個体の対照群(例えば、ワクチン又は免疫原性組成物を与えていない感染動物)に対して統計的に有意な向上がある限り、感染を完全に予防又は根絶する必要はない。保護は、感染の症状の重症度又は攻撃の速度を緩和することに限定され得る。
【0083】
用語「免疫原性量」及び「免疫有効量」は、本明細書において互換的に使用され、抗原又は免疫原性組成物が、当技術分野の当業者に公知の標準的アッセイによって測定されるように、免疫応答(細胞性(T細胞)応答又は体液性(B細胞又は抗体)応答又はその両方を引き起こすのに十分であることを意味する(当技術分野の当業者に公知の標準的なアッセイによって測定される)。
【0084】
免疫原としての抗原の有効性は、例えば、増殖アッセイによって、細胞溶解アッセイによって、又はB細胞活性のレベルを測定することによって、測定され得る。
【0085】
タンパク質/ペプチド抗原の免疫原性を向上させるための本発明の方法
本発明は、タンパク質/ペプチド抗原の免疫原性が、タンパク質/ペプチド抗原を糖とコンジュゲートさせて糖タンパク質/ペプチド抗原コンジュゲートを形成することにより向上されることを本発明者らが見出した先駆的な発明である。
【0086】
本発明に先立って、糖タンパク質/ペプチド抗原コンジュゲートにおいて、タンパク質/ペプチド抗原の免疫原性の向上を報告する研究はない。対照的に、背景技術で述べたように、先行研究では、コンジュゲート中のタンパク質/ペプチド抗原の免疫原性は保存されている(米国特許第5192540号/米国特許第9296795号)、又はタンパク質/ペプチド抗原エピトープがコンジュゲーションによって変化しない(米国特許第9296795号)ことを記載していた。これらの教示は、本発明の目的に反している。
【0087】
本発明の糖コンジュゲートタンパク質/ペプチド抗原
1. 抗原としてのコロナウイルス科ウイルス
コロナウイルス科には、オルトコロナウイルス亜科とレトビウイルス亜科がある。
【0088】
オルトコロナウイルス亜科のベータコロナビル属には、よく知られている重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)、中東呼吸器症候群関連コロナウイルス(MERS-CoV)、及び重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)が含まれる。これら3つのウイルスは、主にスパイクタンパク質(Sタンパク質)の宿主細胞受容体への結合によってウイルス侵入を媒介し、ウイルス組織又は宿主のトロピズムを決定する。SARS-CoV-2の宿主細胞受容体タンパク質は、アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)である。スパイクタンパク質(Sタンパク質)は、ACE2受容体に結合し、宿主プロテアーゼによって、受容体結合ドメイン(SARS-CoV-2 RBD)を含むS1ポリペプチドと、ウイルスの細胞膜との融合を媒介し、それによって宿主への侵入に関与するS2ポリペプチドとに切断される。
【0089】
本発明の一実施形態において、コロナウイルスSARS-CoV-2スパイクタンパク質(SARS-CoV-2 Sタンパク質)、その細胞外領域、S1サブユニット又は受容体結合領域が抗原として使用される。
【0090】
本発明の一実施形態において、中東呼吸器症候群コロナウイルスが抗原として選択される。例えば、その細胞外領域、S1サブユニット又は受容体結合領域が抗原として使用される。
【0091】
2. 抗原としてのパラミクソウイルス科ウイルス
パラミクソウイルス科は、パラミクソウイルス亜科及びニューモウイルス亜科の2つの亜科を含む。ヒトRSウイルス(RSV)は、パラミクソウイルス亜科のレスピロウイルス(Respirovirus)属の呼吸器系ウイルスの1つである。RSVは、2つの主要な膜貫通型表面糖タンパク質である糖タンパク質G(吸着タンパク質)及び糖タンパク質F(融合タンパク質)をコードしている。糖タンパク質Gは、細胞受容体へのウイルス結合を媒介し、一方、糖タンパク質Fは、細胞膜へのウイルス融合を促進し、ウイルスリボ核タンパク質が細胞質に侵入することを可能にする(Lopezら(1998) J. Virology 72:6922-6928)。
【0092】
本発明の一実施形態において、RSVエンベロープ糖タンパク質が抗原として選択される。RSV糖タンパク質F又は糖タンパク質GのようなヒトRSVエンベロープ糖タンパク質を使用することができる。
【0093】
3. 抗原としてのオルトミクソウイルス科ウイルス
オルトミクソウイルス科には、A型インフルエンザウイルス、B型インフルエンザウイルス、C型インフルエンザウイルス及び他の属がある。
【0094】
A、B及びC型インフルエンザウイルスの感染は、主に2つのエンベローププロテオグリカン:ヘマグルチニン(HA)及びノイラミニダーゼ(NA)に依存しており、これらはウイルスの付着及びウイルス粒子への細胞侵入を担っている。インフルエンザウイルスの感染は、ヘマグルチニン(HA)タンパク質が、ビリオン表面上のシアル酸含有細胞受容体(糖タンパク質及び糖脂質)に付着することによって引き起こされる。ノイラミニダーゼ(NA)タンパク質は、シアル酸受容体の処理を媒介し、ウイルスの細胞への侵入は、HA依存性の受容体媒介性細胞質分裂に依存している(中国特許第103865892号)。
【0095】
本発明の一実施形態において、A型インフルエンザH5N1ヘマグルチニン(HA)タンパク質が抗原として使用され、B型インフルエンザヘマグルチニンタンパク質(HA1サブユニット)もまた抗原として使用し得る。
【0096】
4. 抗原としてのフィロウイルス科ウイルス
フィロウイルス科は、エボラウイルス属のエボラウイルス及びマールブルグウイルス属のマールブルグウイルスに代表される。
【0097】
エボラウイルスの表面に存在するタンパク質は糖タンパク質(GP)のみである。ウイルスの表面スパイクを形成するGP1,2の3量体は、ジスルフィド結合によって連結されたGP1とGP2の2つのサブユニットによって構成されている(Volchkova, VAら(1998)、Virology 250:408-414; Falzarano, D.ら(2006) Chembiochem 7: 1605-161 1)。GP1は宿主細胞へのウイルス付着を媒介することが知られており、GP2は膜融合に関連している(Sanchez, A.ら(1996)、Proc Natl Acad Sci USA 93:3602-3607; Alazard- Dany, N.ら(2006)、J. Gen. Virol. 87: 1247- 1257)。
【0098】
本発明の一実施形態において、エボラウイルス糖タンパク質(GP)が抗原として選択される。例えば、GP細胞外構造ドメイン、サブユニットGPタンパク質(GP1及び/又はGP2)である。
【0099】
5. 抗原としてのフラビウイルス科ウイルス
フラビウイルス科のウイルスは、主にフラビウイルス属、ペスティウイルス属、ペジウイルス属、及びヘパシウイルス属を含み、フラビウイルス科は、ジカウイルス(ZIKV)、デング熱(DV)、西ナイルウイルス、日本脳炎ウイルス、及び黄熱病ウイルスを含む。ヘパシウイルス属は、C型肝炎ウイルス(HCV)を含む。
【0100】
フラビウイルスのエンベロープタンパク質は、宿主細胞のウイルス感染において重要な役割を果たし、ウイルスの宿主細胞への侵入を媒介する。3つの独立した構造エンベロープドメインI、II及びIII(EDI、EDII及びEDIII)から構成されている。EDIはエンベロープタンパク質の構造的中心ドメインであり、タンパク質全体の配向を安定化させ、EDIのグリコシル化部位は、ウイルス産生、pH感受性、及び神経侵入性に関連している。EDIIは、融合ループエピトープ及びエンベロープ二量体エピトープの免疫学的な優位性により、膜融合に重要な役割を担っている。更に、EDIIIは中和抗体の主要な標的である(Xingcui Zhangら(2017) Viruses. 2017 Nov; 9(11): 338. Structures and Functions of the Envelope Glycoprotein in Flavivirus Infections)。
【0101】
ジカウイルスのエンベロープタンパク質(「E」又は「EP」)は、3つの異なる構造ドメインからなる。E構造ドメインI(E-DI)は、Eタンパク質全体の構造を組織化する中心的な構造ドメインである。E構造ドメインII(E-DII)は、E-DIから突出し、E-DIとE構造ドメインIII(E-DIII)のポケットに位置する2つの延長ループによって形成される。E-DIIIは免疫グロブリン様構造ドメインであり、これは、それ以外は滑らかな球状の成熟ウイルス粒子の表面に小さな突起を形成し、標的細胞上の細胞受容体と相互作用すると考えられている(中国特許第109996560号)。
【0102】
HCV RNAゲノムは、翻訳時又は翻訳後に3つの構造タンパク質(コア、糖タンパク質E1及びE2)及び7つの非構造タンパク質(p7、NS2、NS3、NS4A、NS4B、NS5A及びNS5B)に切断される単一の多量体タンパク質をコードしている。エンベロープタンパク質である糖タンパク質E1及びE2は、ヘテロ二量体を形成してウイルスエンベロープタンパク質を構成し、これは、ウイルスが宿主細胞に侵入する際に、ウイルスの侵入及び形態形成を媒介する上で重要な役割を担っている。C型肝炎ウイルスのエンベローププロテオグリカンは、宿主肝細胞の表面の特定のタンパク質と結合し、侵入プロセスを開始する。このプロセスは、多数の宿主受容体/共受容体が関与している。ここで、E2は主要なHCVエンベローププロテオグリカンであり、受容体/共受容体と直接的に相互作用する。E1はこのプロセスで宿主受容体と直接的に相互作用するのではなく、受容体結合に必要な機能的E2コンフォメーションを維持することによって、E2と連携して膜融合を誘発すると長い間考えられてきた(Yimin, Tong.ら(2018) Front Immunol. 2018; 9: 1411. Role of Hepatitis C Virus Envelope Glycoprotein E1 in Virus Entry and Assembly)。
【0103】
本発明の一実施形態において、ジカウイルスエンベロープタンパク質E-DIIIが、抗原として選択される。
【0104】
本発明の一実施形態において、C型肝炎ウイルスエンベロープ糖タンパク質E1及び/又はE2が、抗原として選択される。
【0105】
本章で上述したウイルス抗原は、天然病原体の抽出又は遺伝子組換えによって得ることができる。その改変体、例えば免疫原性断片又はそのバリアント、及び例えば精製タグ又は抗体Fc断片とのその融合タンパク質を本発明において使用することができる。
【0106】
多糖は、ナイセリア・エンセファリティスの一般的な莢膜多糖、ヘモフィルス・インフルエンザB型の莢膜多糖、肺炎連鎖球菌の莢膜多糖、B群黄色ブドウ球菌の莢膜多糖、並びにデキストラン及びマンナン等の細菌多糖であり得る。また、多糖は、デンプン、イヌリン、ペクチン等の植物由来の多糖、又はカルボキシメチルデンプン等の化学改変された多糖の誘導体であってもよい。また、多糖は、キトサン及びその誘導体等の動物由来の多糖であってもよい。
【0107】
多糖タンパク質コンジュゲーションプロセスは以下の通りである:多糖は、化学反応により反応活性基を担持させる。次いで、この反応活性基が、タンパク質分子上の、アミノ基、カルボキシル基、スルフヒドリル基、ヒスチジン上のイミダゾール環、トリプトファン上のインドール環、チロシン上のフェニル環、フェニルアラニン上のフェニル環、セリン及びグルタミン及びアスパラギン上のヒドロキシル基等の化学反応性基と反応して共有結合を形成する。
【0108】
多糖をタンパク質分子にコンジュゲートする一つの方法は、過ヨウ素酸ナトリウムで多糖を酸化して多糖上にアルデヒド基を生成し、これはタンパク質分子上のアミノ基と反応してシッフ塩基を形成し、これは還元剤の存在下で安定な単結合に還元される。これによって多糖はタンパク質分子と共有結合を形成する。反応系にはシアノ水素化ホウ素ナトリウムのような還元剤を添加することができる。
【0109】
多糖をタンパク質分子にコンジュゲートする他の方法は、多糖を臭化シアノゲン又はテトラフルオロホウ酸1-シアノ-4-ジメチルアミノピリジンと反応させて反応性シアネートエステルを生成する方法である。シアネート基は、タンパク質表面上のアミノ基と反応して共有結合を形成する。活性化多糖は、ヘキサンジアミン、ヘキサンジヒドラジド等のリンカーアームと最初に反応させることもできる。次にこの生成物を縮合剤の存在下でタンパク質と反応させ、共有結合のリンカーを形成する。
【0110】
多糖も他の化学試薬で活性化した後、タンパク質と反応させコンジュゲートを形成することができる。例えば、エピクロロヒドリン、トリアジン、ジアジン、ジビニルスルホン及び当技術分野でよく知られている試薬が挙げられる。
【0111】
本発明の糖タンパク質/ペプチド抗原コンジュゲートの免疫原性を向上させるために、糖とタンパク質/ペプチド抗原コンジュゲートとの反応にタンパク質担体を更に添加して、糖タンパク質/ペプチド抗原-タンパク質担体コンジュゲートを形成することができる。タンパク質担体は、ワクチン産業で一般的に使用されている、破傷風トキソイド、破傷風トキソイド断片C、破傷風トキソイド非毒性変異体、ジフテリアトキソイド、CRM197、他のジフテリアトキソイドの非毒性変異体、好ましくはCRM197であってもよい。
【0112】
本発明の免疫原性組成物
一実施形態において、本発明の免疫原性組成物は、アジュバント、緩衝液、凍結保護剤、塩、二価カチオン、非イオン性界面活性剤、フリーラジカル酸化抑制剤、希釈剤又は担体のうちの少なくとも1つを更に含む。一実施形態において、本発明の免疫原性組成物におけるアジュバントは、アルミニウム系アジュバントである。一実施形態において、アジュバントは、リン酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、及び水酸化アルミニウムから選択されるアルミニウム系アジュバントである。一実施形態において、アジュバントは、リン酸アルミニウムである。
【0113】
アジュバントは、免疫原又は抗原と共に投与された場合に免疫応答を増強する物質である。本発明で使用される組成物は、ワクチンアジュバントを含んでもよいし、含まなくてもよい。本発明の組成物に使用され得るアジュバントとしては:
スクアレン-水エマルジョン、例えばMF59を含むオイルエマルジョン組成物;完全フロイントアジュバント(CFA)及び不完全フロイントアジュバント(IFA);サポニン製剤;免疫刺激複合体(ISCOM)と称する特有の粒子を形成するためのサポニンとコレステロールの組合せ;バイロソーム及びウイルス様粒子が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、使用されるアジュバントは、免疫原性組成物を投与される個体、所定の投与経路及び頻度に依存するであろう。
【0114】
免疫原性組成物は、任意に、薬学的に許容される担体を含んでいてもよい。薬学的に許容される担体としては、国家薬局方に文書化されている、又は文書化される予定の動物(ヒト並びに非ヒト哺乳類を含む)の担体が含まれる。用語「担体」は、医薬組成物と共に投与される希釈剤、アジュバント、賦形剤又は媒体を指すために使用され得る。水、生理食塩水、並びにデキストロース水溶液及びグリセロール水溶液を、特に注射液のための液体担体として使用することができる。
【0115】
本発明の免疫原性組成物は、体液性及び/又は細胞媒介性免疫の上方制御又は下方制御が観察されるように、免疫系を撹乱又は変化させる物質である1つ又は複数の追加の免疫調節剤も含み得る。一実施形態において、免疫系の体液性及び/又は細胞媒介性能力(アーム)の上方制御が提供される。これには、例えば、アジュバント又はサイトカインが含まれる。
【0116】
本発明の免疫原性組成物の投与経路
治療的又は予防的治療のための本発明の免疫原性組成物は、筋肉内、腹腔内、皮内又は皮下;又は粘膜を介して口腔/食道、呼吸器、泌尿器管に投与することができる。好ましくは肺炎又は中耳炎等の特定の疾患の治療には、ワクチンの鼻腔内投与が好ましい。本発明のワクチンは、単回投与することができるが、その成分を同時に又は異なる時間に共投与することもできる。また、単一の投与経路に加えて、2つの異なる投与経路を使用することができる。
【0117】
特定の免疫原性組成物についての成分の最適量は、個体における適切な免疫応答の観察を含む標準的な研究によって決定することができる。最初のワクチン接種の後、個体は、1回又は数回の適切に時間間隔を置いたブースター免疫化を受けることができる。
【0118】
本発明の免疫原性組成物の用途
本発明のタンパク質/ペプチド抗原コンジュゲート及び免疫原性組成物は、コロナウイルス、パラミクソウイルス、オルトミクソウイルス、フィロウイルス及びフラビウイルス等の病原体、より具体的にはSARS-CoV-2ウイルス及び/又はMERS-CoVウイルス、ヒトRSウイルス、B型インフルエンザウイルス、A型インフルエンザH5N1ウイルス、エボラウイルス、ジカウイルス及び/又はC型肝炎ウイルスによって引き起こされる疾患を予防又は治療し得る。
【0119】
本発明の略語
SARS-COV-2 RBD-mFc:SARS-CoV-2コロナウイルススパイクタンパク質受容体-結合領域-マウスFc融合タンパク質;
SARS-COV-2 RBD-his: 6-ヒスチジンタグを有するSARS-CoV-2コロナウイルススパイクタンパク質受容体結合領域;
MERS-COV RBD-his:6-ヒスチジンタグを有する中東呼吸器症候群コロナウイルススパイクタンパク質受容体結合領域;
RSV-gpG:ヒトRS(respiratory syncytial)ウイルス糖タンパク質G;
HCV-E1:C型肝炎ウイルスエンベロープ糖タンパク質E1;
HCV-E2:C型肝炎ウイルスエンベロープE2タンパク質;
flu-B-HA1:B型インフルエンザヘマグルチニンタンパク質(HA1サブユニット);
H5N1-HA:A型インフルエンザH5N1 ヘマグルチニン;
Ebola-GP:エボラウイルス糖タンパク質(受容体結合ドメイン);
Ebola-GP1:エボラウイルス糖タンパク質GP1;
ZIKV-E: ジカウイルスエンベロープタンパク質(ドメイン III);
PS14:肺炎連鎖球菌血清型14の莢膜多糖
PS7F:肺炎連鎖球菌血清型7Fの莢膜多糖
Alum:アルミニウムアジュバント、この場合、リン酸アルミニウムアジュバントである
【実施例1】
【0120】
肺炎連鎖球菌血清型14(PS14)及び7F(PS7F)の莢膜多糖の調製
血清型14型肺炎連鎖球菌の種菌はATCC6314であり、血清型7F型肺炎連鎖球菌の種菌はATCC10351であった。
【0121】
グリセロールで保存した肺炎連鎖球菌の種菌0.5mLを500mlのHoeprich培地(V.M. Goncalves、Optimization of medium and cultivation conditions for capsular polysaccharide production by Streptococcus pneumoniae serotype 23F, AllpMicrobiolBiotechnol (2002) 59:713-717)に添加して、37℃、150rpmにおいてシェーカーで10~16時間培養して、培養をOD600が1.0を超えたら停止させた。0.6gのデオキシコール酸ナトリウムを添加してよく混合し、2時間以上静置して細菌を完全に溶解させる。14000gで30分間遠心分離し、上清を除去した後、100kDaで限外濾過し、元の体積の10分の1、約400 mlに濃縮する。濃縮液に36%酢酸を徐々に添加し、pH3.5に調整した。2時間放置し、14000gで30分間遠心分離し、上清390mlを除去し、無水エタノール130mlと混合し、一晩静置した。翌日、上清を14000gで30分間遠心分離し、上清に780mlの無水エタノールを添加し、一晩静置した。翌日、14000gで30分間遠心分離した後上清を捨てた。沈殿に75%エタノール300mlを添加し、沈殿を懸濁した後、再び14000gで30分間遠心分離した。上清を捨て、沈殿物を水10mlに溶解し、溶液中の多糖の濃度が10mg/mlを超えるように管理した。得られた溶液は肺炎連鎖球菌莢膜多糖溶液である。
【実施例2】
【0122】
多糖の加水分解、高活性化度活性化及び低活性化度活性化
多糖は、実施例1で調製した肺炎連鎖球菌血清型14(PS14)及び7F(PS7F)莢膜多糖、又はデキストラン(dextran、Sigma、00894、以下同じ)であった。
【0123】
2.1 多糖の加水分解
10mg/mlの精製莢膜多糖10mLを36%酢酸0.86mlに添加し、溶液中の酢酸の最終濃度は500mMであった。2時間の90℃における水浴後、1 M NaOHを添加してpH6~7に中和し、加水分解多糖試料を得た。
【0124】
HPLC-MALSによって、PS14多糖の分子量は約500KDa、加水分解後の分子量は約300KDaと決定された。
【0125】
PS7F莢膜多糖の分子量は約700KDaであり、加水分解されなかった。
【0126】
デキストランは加水分解されなかった。
【0127】
2.2 多糖の高活性化度活性化
10mg/mlの多糖溶液10mLに過ヨウ素酸ナトリウム100mgを添加し、よく混合した後、暗所で1時間反応させた。Sephadex G 25を5 ml充填した遠心クロマトグラフィーカラムを取り、50 mM、pH=7.0 Na2HPO4緩衝液を10ml添加した。緩衝液はその重力でカラムを通過して流れた。その後、カラムを遠心分離機に入れ、1000gで2分間遠心分離した。その後、新しい収集管を古いものと交換し、過ヨウ素酸ナトリウムで酸化した多糖溶液1mlを遠心カラムにアプライし、再び1000gで2分間遠心分離した。カラムから収集された流出液は高活性化活性化多糖溶液であった。
【0128】
2.3 多糖の低活性化度活性化
10mg/mlの多糖溶液10mLに過ヨウ素酸ナトリウム30mgを添加し、よく混合した。Sephadex G 25を5 ml充填した遠心クロマトグラフィーカラムを取り、50mM Na2HPO4緩衝液、pH=7.0を10ml添加した。その後、カラムを遠心分離機に入れ、1000gで2分間遠心分離した。その後、新しい収集管を古いものと交換し、過ヨウ素酸ナトリウムで酸化した多糖溶液1mlをカラムにアプライし、再び1000gで2分間遠心分離した。カラムから収集された流出液は低活性化活性多糖溶液であった。
【実施例3】
【0129】
多糖とコンジュゲートしたタンパク質/ペプチド抗原
使用したタンパク質/ペプチド抗原はコロナウイルススパイクタンパク質受容体結合領域であり、多糖は肺炎連鎖球菌莢膜多糖又はデキストランである。具体的な成分、量、及び体積をTable 1(表1)に示す。
1. コロナウイルスのスパイク受容体タンパク質の緩衝液交換:コロナウイルスのスパイク受容体タンパク質を5mg収集し、30,000MW限外濾過チューブを用いて50mM Na2HPO4緩衝液、pH7.0に交換し、交換したタンパク質の最終濃度が≧10mg/mLであることが必要であった。
2. コロナウイルスのスパイク受容体タンパク質と多糖のコンジュゲーション:コロナウイルスのスパイク受容体タンパク質3mgをTable 1(表1)に従って活性化肺炎連鎖球菌莢膜多糖又はデキストランに添加し、50mM Na2HPO4緩衝液、pH7.0をTable 1(表1)に示す最終体積で補充した。10mg/mLの水素化ホウ素ナトリウム溶液を反応溶液に添加し(反応系0.15ml~0.6ml、及び反応系0.375ml~1.5ml)、反応を室温で2時間行った。その後、PBS緩衝液を10倍交換した100,000MW限外濾過管でコンジュゲートを無菌的に濾過し、最終限外濾過体積を2ml未満とした。0.22umフィルターを用いて固定試料を無菌的に濾過し、4℃で保存した。
【0130】
3. HPLC-MALLSを用いたコンジュゲートの分子量の決定。結果をTable 1(表1)に示す。
【0131】
【実施例4】
【0132】
多糖とコンジュゲートしたタンパク質/ペプチド抗原及びタンパク質担体
使用したタンパク質/ペプチド抗原は、コロナウイルスのスパイクタンパク質受容体結合領域であるSARS-COV-2 RBDであり、タンパク質ベクターはCRM197、多糖は肺炎連鎖球菌の莢膜多糖であった。具体的な組成、量、体積をTable 2(表2)に示した。
【0133】
CRM197はジフテリア毒素のバリアントである(Geert J. Schenk, Efficient CRM197-mediated drug targeting to monocytes, Journal of Controlled Release 158 (2012) 139 -147)。コロナウイルスのスパイクタンパク質受容体結合領域とCRM197は、肺炎連鎖球菌血清型14の莢膜多糖と共コンジュゲートする。多糖の活性化は、実施例2.2と同様に進行した。多糖1.5mg、コロナウイルスのスパイクタンパク質受容体結合領域タンパク質2.7mg、及びCRM197 0.3mgを取り、実施例3と同じ手順でコンジュゲートした。コンジュゲートの反応条件とその生成物の分子量をTable 2(表2)に示す。
【0134】
【実施例5】
【0135】
コロナウイルスのスパイクタンパク質受容体結合領域-多糖コンジュゲートの免疫原性
使用したコロナウイルスのスパイクタンパク質受容体結合領域-多糖コンジュゲートをTable 3~6(表3~6)に示した。
【0136】
5.1 免疫原性組成物の調製
コロナウイルスのスパイクタンパク質受容体結合領域タンパク質、又は実施例3若しくは4で調製したコンジュゲートを抗原として、免疫原性組成物を調製した。
【0137】
5.1.1 MF59アジュバントの調製
10mM クエン酸ナトリウム溶液(HClでpH6.5に調整)を200ml調製し、Tween 80(Nanjing Well Pharmaceutical co., LTD)1mlを添加し、よく混合して溶解させる。スクワレン(Merck)10mlを取り、Span 85(Zhaoqing Chaoneng Industrial Co., Ltd.)1mlを添加し、よく混合して溶解させる。先の2つの溶液を混合し、800barに設定した高圧ホモジナイザー(AH-PILOTATS)を用いて3回均質化し、MF59アジュバントとして均質なエマルジョンを得た。
【0138】
5.1.2 モノホスファチジル脂質A(MPL)を含むMF59アジュバントの調製
10mgのMPL(MERCK L6895)を10mlのクエン酸ナトリウム緩衝液(10mM、pH6.5)中に分散させた。MPL分散液1mlに更にMF59アジュバント4mlを添加して混合し、MPLを含有するMF59アジュバントを得た。
【0139】
5.1.3 アルミニウムアジュバント免疫原性組成物の調製
抗原をPBSで0.02mg/ml又は0.06mg/ml(ペプチド/タンパク質換算、以下同様)に希釈し、アルミニウムアジュバント(Beijing Nuoning Biotechnology Co., Ltd.)をPBSで1mg/mlに希釈した。希釈した抗原及びアルミニウムアジュバントを等体積ずつ混合した。この免疫原性組成物中の抗原のタンパク質濃度は、それぞれ0.01mg/ml又は0.03mg/mlであった。
【0140】
5.1.4 MF59アジュバント免疫原性組成物の調製
抗原をPBSでそれぞれ0.02mg/ml又は0.06mg/mlに希釈し、希釈抗原を等体積のMF59アジュバントと混合した。この免疫組成物中の抗原のタンパク質濃度は、それぞれ0.01mg/ml又は0.03mg/mlであった。
【0141】
5.1.5 MPLを含むMF59アジュバント免疫原性組成物の調製
抗原をPBSでそれぞれ0.02mg/ml又は0.06mg/mlに希釈し、希釈抗原を等体積のMPLを含むMF59アジュバントと混合した。この免疫組成物中の抗原のタンパク質濃度は、それぞれ0.01mg/ml又は0.03mg/mlであった。
【0142】
5.1.6 MF59とアルミニウムアジュバントを混合したアジュバント免疫原性組成物の調製
アルミニウムアジュバント1.5mlとMF59アジュバント1.5mlを混合した後、濃度1mg/mlの抗原を0.18ml添加した。この免疫組成物中の抗原のタンパク質濃度は0.03mg/mlであった。
【0143】
5.2 免疫化マウス
マウスは4~6週齢のBalb/cマウスから選択し、実施例5.1に記載したように0.01mg/ml又は0.03mg/mlの濃度の免疫組成物を0.1ml腹腔内注射し、それぞれ14日目及び28日目に免疫化した。7日目、21日目、35日目に眼窩から採血し、血清抗体力価及び中和力価を決定した。
【0144】
5.3 血清力価のアッセイ
5.3.1 抗原がSARS-COV-2 RBD又はその融合タンパクである場合の血清力価のアッセイ
SARS-COV-2 RBD-mFcタンパク質(SinoCelltech Ltd.、全文)の5μg/mLの濃度を使用して96ウェルプレートを100μl/ウェル、室温で2時間コーティングし、プレートを洗浄して2% BSAで室温で1時間閉塞し、同じ標識の無関係な対照としてCD155(D1)-mFc(SinoCelltech Ltd.、全文)を使用した。試験する血清(実施例5.2で調製)を、0.1%ウシ血清アルブミン(BSA)を含むPBSを用いて異なる希釈率(正確な希釈率は免疫学的収集の設定時間によって異なり、例えば1000倍、8000倍、16000倍、32000倍の希釈率)に希釈し、SARS-COV-2 RBD-mFcで免疫化したマウス血清を陽性、無関係の免疫標的のマウス血清(抗CD70血清、Beijing Sino Biological, Inc.)を陰性対照として使用し、試験する血清とヤギ抗マウスIgG F(ab)2/HRP(Beijing Sino Biological, Inc.)検出二次抗体をそれぞれ異なる希釈度で100μl/ウェルずつ、同時に添加した。特定の希釈レベルにおけるOD450が抗体力価を示す。
【0145】
5.3.2 抗原がMERS-COV RBD又はその融合タンパク質である場合の血清力価のアッセイ
MERS-COV RBD-his免疫血清アッセイでは、プレートを陽性対照又は陰性対照なしでMERS-COV RBD-his(Beijing Sino Biological, Inc., 40071-V08B1)でコーティングする。他の手順は5.3.1と同じである。
【0146】
5.3.3 血清力価アッセイ結果
血清力価アッセイの結果をTable 3~5(表3~5)及び
図1~
図4に示す。
【0147】
8000倍希釈の血清で35日間免疫化したマウスのアルミニウムアジュバント免疫化組合せの力価をTable 3(表3)に示す。
【0148】
【0149】
SARS-COV-2 RBD-his-PS14アルミニウム/MF59/MF59--アルミニウム/MF59-MPLアジュバント免疫組成物の35日目における血清32,000倍希釈での力価結果をTable 4(表4)に示す。
【0150】
【0151】
8000倍希釈の血清で21日目に免疫化したマウスにおけるMF59アジュバント免疫組成物の血清力価をTable 5(表5)に示す。
【0152】
【0153】
5.4 中和力価のアッセイ
実施例5.2で得られたマウス血清試料を経験的に一定倍数に希釈(例えば500倍希釈)し、同体積の疑似ウイルス2019-nCoV PSV(中国食品薬品監督管理局)と混合し、血清を含まないそれ以外の点で同じ試料を陽性対照、疑似ウイルスを含まないそれ以外の点で同じ試料を陰性対照として使用し、37℃で1時間インキュベーションした後、Vero E6又は293FT/ACE2細胞(SinoCelltech Ltd.)に同時に感染させた。感染後約20~28時間、37℃、5%CO2で細胞をインキュベートし、マイクロプレート発光検出器でRLU値を測定した。
中和阻害%=(lg(陽性RLU)-lg(試料RLU))/(lg(陽性RLU)-lg(陰性RLU))×100%に従って、中和阻害率を算出した。
【0154】
異なる免疫原性組成物で免疫化したマウスの血清の中和力の結果をTable 6(表6)及び
図3に示す。
【0155】
【実施例6】
【0156】
多糖によるいくつかのウイルス抗原の免疫原性の増強
Table 7(表7)に示すようないくつかのウイルス抗原(全てBeijing Sino Biological, Inc.製)を選択し、以下の工程でPS14多糖とコンジュゲートした。
【0157】
肺炎連鎖球菌血清型14(PS14)を実施例1に従って調製し、実施例2.2の工程に従って活性化し、ここでは過ヨウ素酸ナトリウムの添加量をTable 8(表8)に従って調節した。PS14を、実施例3の工程に従って担体タンパク質CRM197にコンジュゲートし、コンジュゲートのためのタンパク質の多糖に対する比はTable 8(表8)に示すとおりであった。実施例5.1.3に従ってアルミニウム含有アジュバント免疫原性組成物を調製する。マウスを、マウスあたり3μgの抗原の用量で、実施例5.2に従って免疫化した。
【0158】
免疫血清力価を、陽性及び陰性対照なしの対応する抗原コーティングを使用してアッセイし、その手順は5.3.1と全く同じであった。
【0159】
様々な抗原コンジュゲートの免疫血清力価をTable 8(表8)に示す。ほとんどの抗原で、多糖とのコンジュゲーション後に免疫原性の著しい増大が見られる。
【0160】
【0161】
【0162】
Table 8(表8)で使用した抗原はTable 7(表7)に記載されているが、ここではHis-タグは示されていない。
【0163】
上記データによれば、タンパク質抗原を肺炎連鎖球菌莢膜多糖とコンジュゲートした場合、その免疫原性は著しく増加した。アルミニウムアジュバント条件下で、コンジュゲートの免疫血清の抗体力価は、元の力価の2.3倍まで達した。コンジュゲートの中和活性も、対応するタンパク質の中和活性よりも大幅に高かった。アルミニウムアジュバントと比較して、MF59アジュバント、アルミニウムアジュバントと混合したMF59及びMPLアジュバントを含むMF59アジュバントは全て、コンジュゲートの免疫効果を更に向上させるものである。また、コンジュゲートとして肺炎連鎖球菌血清型14莢膜多糖、肺炎連鎖球菌血清型7F莢膜多糖及びデキストランを用いた場合、免疫効果は同等であった。
【0164】
配列表
【0165】
配列番号1
SARS-COV-2 RBD
【0166】
【0167】
配列番号2
SARS-COV-2RBD-his
【0168】
【0169】
配列番号3
SARS-COV-2 RBD-mFc
【0170】
【0171】
配列番号4
RSV-gpG
【0172】
【0173】
配列番号5
HCV-E1
【0174】
【0175】
配列番号6
HCV-E2
【0176】
【0177】
配列番号7
flu-B-HA1
【0178】
【0179】
配列番号8
H5N1-HA
【0180】
【0181】
配列番号9
Ebola-GP
【0182】
【0183】
配列番号10
Ebola-GP1
【0184】
【0185】
配列番号11
ZIKV-E
【0186】
【0187】
配列番号12
RSV-gpG-his
【0188】
【0189】
配列番号13
HCV-E1-his
【0190】
【0191】
配列番号14
HCV-E2-his
【0192】
【0193】
配列番号15
flu-B-HA1-his
【0194】
【0195】
配列番号16
H5N1-HA-his
【0196】
【0197】
配列番号17
Ebola-GP-Fc
【0198】
【0199】
配列番号18
Ebola-GP1-his
【0200】
【0201】
配列番号19
ZIKV-E-Fc
【0202】
【配列表】