(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】エンドエフェクタ付加装置、エンドエフェクタ及びロボットアーム機構
(51)【国際特許分類】
B25J 15/00 20060101AFI20241008BHJP
B25J 19/06 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
B25J15/00 F
B25J19/06
(21)【出願番号】P 2022571475
(86)(22)【出願日】2021-12-21
(86)【国際出願番号】 JP2021047170
(87)【国際公開番号】W WO2022138600
(87)【国際公開日】2022-06-30
【審査請求日】2023-07-11
(31)【優先権主張番号】P 2020216693
(32)【優先日】2020-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002103
【氏名又は名称】弁理士法人にじいろ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 樹
(72)【発明者】
【氏名】古屋 好丈
【審査官】臼井 卓巳
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-019086(JP,A)
【文献】特開平05-220691(JP,A)
【文献】特開2008-214054(JP,A)
【文献】特開昭58-155194(JP,A)
【文献】特開平03-043176(JP,A)
【文献】特開平05-138488(JP,A)
【文献】特開平08-132374(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0016746(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 15/00-19/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロボットのエンドエフェクタに付加されるエンドエフェクタ付加装置において、
ベース板と、
前記エンドエフェクタを取り付けるマウント板と、
前記ベース板に前記マウント板を吸着する吸着機構と、
前記ベース板に対して前記マウント板を連結する蛇腹と、
前記ベース板に対
して前記マウント板
が所定位置からずれたことを検出する位置ずれ検出部と、を具備し、
前記蛇腹の内部に密閉空間を確保するために前記ベース板と前記マウント板に前記蛇腹の前後縁は封止され、
前記位置ずれ検出部により
前記マウント板が前記所定位置からずれたことが検出されたとき、前記吸着機構による前記ベース板に対する前記マウント板の吸着状態が解除されるとともに前記蛇腹の内部が加圧されることで前記蛇腹が伸長し、前記ベース板に対して前記マウント板が離反され、
前記離反されたマウント板
は、前記蛇腹の内部が減圧されることで前記伸長された蛇腹が収縮し
、前記吸着機構による前記ベース板に対する前記マウント板の吸着状態が復帰されることで、
前記所定位置に戻され
、固定される、エンドエフェクタ付加装置。
【請求項2】
前記吸着機構は磁石を有する、請求項1記載のエンドエフェクタ付加装置。
【請求項3】
前記ベース板に対
して前記マウント板
を前記所定位置に位置決めするための位置決め機構をさらに備え
、
前記離反されたマウント板は、前記蛇腹の内部が減圧されることで前記伸長された蛇腹が収縮し、前記位置決め機構により前記所定位置に位置決めされ、前記吸着機構による前記ベース板に対する前記マウント板の吸着状態が復帰されることで、前記所定位置に固定される、
請求項1又は2に記載のエンドエフェクタ付加装置。
【請求項4】
ロボットのエンドエフェクタに付加されるエンドエフェクタ付加装置において、
ベース板と、
前記エンドエフェクタを取り付けるマウント板と、
前記ベース板に対して前記マウント板を懸吊する線条部材と、
前記線条部材を巻き取る巻き取り装置と、
前記ベース板に対
して前記マウント板
が所定位置からずれたことを検出する位置ずれ検出部と、を具備し、
前記位置ずれ検出部により
前記マウント板が前記所定位置からずれたことが検出されたとき、前記巻き取り装置により前記線条部材が送り出されることで
、前記ベース板に対して懸吊される前記マウント板が前記ベース板に対し
て離反され、前記巻き取り装置により前記線条部材が巻き取られることで
前記ベース板に対して懸吊される前記マウント板が
前記所定位置に戻される、エンドエフェクタ付加装置。
【請求項5】
前記ベース板に対して前記マウント板を前記所定位置に位置決めするための位置決め機構をさらに備える、請求項4記載のエンドエフェクタ付加装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載のエンドエフェクタ付加装置を有するエンドエフェクタ。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載のエンドエフェクタ付加装置が組み込まれたロボットアーム機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンドエフェクタ付加装置、エンドエフェクタ及びロボットアーム機構に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ロボットの普及に伴い、ロボットの安全対策が重要となってきている。ロボットの安全対策として、ロボットに装着されたエンドエフェクタが人や物などに衝突した場合に、ロボットを停止させる方法が知られている。しかしながら、この方法では、エンドエフェクタの人や物への衝突に伴う負荷を検出してからロボットを完全に停止させるまでの間にも、ロボットは動き続けてしまう。そのため、エンドエフェクタ及びロボットが破損してしまったり、人や物が傷ついてしまう可能性がある。また、エンドエフェクタが比較的大きな物に衝突した場合には、エンドエフェクタが衝突した物に押し込まれた状態でロボットが停止するため、ロボットを退避させて復帰させるまでに多くの時間を要する。復帰時間を短くできるように、例えば、特許文献1には、ハンド部材がロボット手首から落下するおそれがないようにするとともに、フランジ部材からハンド部材を取り外すときに敏速に取外動作をできるようにしたロボットハンドの着脱装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
エンドエフェクタが人や物に衝突した場合であっても、エンドエフェクタ及びエンドエフェクタを装着するロボットアーム機構等の移動装置の破損を回避することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様に係るエンドエフェクタ付加装置は、ロボットのエンドエフェクタに付加される装置である。エンドエフェクタ付加装置は、ベース板と、エンドエフェクタを取り付けるマウント板と、ベース板にマウント板を吸着する吸着機構と、ベース板に対してマウント板を連結する蛇腹とを具備する。蛇腹の内部に密閉空間を確保するためにベース板とマウント板に蛇腹の前後縁は封止される。
【発明の効果】
【0006】
エンドエフェクタが人や物に衝突した場合であっても、エンドエフェクタの破損を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係るエンドエフェクタ付加装置を含む全体システムを示す外観図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態に係るエンドエフェクタ付加装置の一例を示す斜視図である。
【
図3】
図3は、
図2のエンドエフェクタ付加装置の蛇腹が収縮した状態を示す側面図である。
【
図4】
図4は、
図2のエンドエフェクタ付加装置の蛇腹が伸長した状態を示す側面図である。
【
図5】
図5は、
図2のエンドエフェクタ付加装置の吸着機構及び蛇腹の内部構造を示す断面図である。
【
図6】
図6は、第1実施形態に係るエンドエフェクタ付加装置による衝撃緩和動作の手順を示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、第1実施形態に係るエンドエフェクタ付加装置による復帰動作の手順を示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、
図6、
図7に示すエンドエフェクタ付加装置の動作の説明を補足する図である。
【
図9】
図9は、第1実施形態に係るエンドエフェクタ付加装置による効果を説明するための図である。
【
図10】
図10は、第1実施形態に係るエンドエフェクタ付加装置による昇降動作の手順を示すフローチャートである。
【
図11】
図11は、第1実施形態に係るエンドエフェクタ付加装置による昇降動作による効果を説明するための図である。
【
図12】
図12は、
図2のエンドエフェクタ付加装置の位置決め機構の他の例を蛇腹が収縮した状態で示す側面図である。
【
図13】
図13は、
図2のエンドエフェクタ付加装置の位置決め機構の他の例を蛇腹が伸長した状態で示す側面図である。
【
図14】
図14は、第2実施形態に係るエンドエフェクタ付加装置を線条部材が巻き取られた状態で示す側面図である。
【
図15】
図15は、第2実施形態に係るエンドエフェクタ付加装置を線条部材が送り出された状態で示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら第1、第2実施形態に係るエンドエフェクタ付加装置を説明する。以下の説明において、略同一の機能及び構成を有する構成要素については、同一符号を付し、重複説明は必要な場合にのみ行う。
【0009】
(第1実施形態)
第1実施形態に係るエンドエフェクタ付加装置2は、エンドエフェクタ400が障害物に衝突したときに、エンドエフェクタ400及びエンドエフェクタ400を装備するロボットアーム機構100が破損する事態を回避することを1つの目的とした装置である。
図1に示すように、エンドエフェクタ付加装置2は、エンドエフェクタ付加装置2の動作を制御する制御装置200と、エンドエフェクタ付加装置2が有する蛇腹5及びシリンダ71の内部を加減圧するための加減圧装置300とともに1つのシステムを構成する。典型的には、エンドエフェクタ付加装置2は、ロボットアーム機構100とエンドエフェクタ400との間に介在される。具体的には、エンドエフェクタ付加装置2は、ロボットアーム機構100のエンドエフェクタ400の取付部110に装着され、エンドエフェクタ400はエンドエフェクタ付加装置2を介して、ロボットアーム機構100に接続される。第1実施形態において、エンドエフェクタ400はワークWを吸着する吸着パッドを備える。
【0010】
制御装置200は、エンドエフェクタ付加装置2による衝撃緩和動作が記述された衝撃緩和動作プログラム、エンドエフェクタ付加装置2による復帰動作が記述された復帰動作プログラム及びエンドエフェクタ付加装置2による昇降動作が記述された昇降動作プログラムが記憶されたHDD等の記憶装置、記憶装置に記憶されたプログラムを実行するCPU等の演算処理装置などを備える。演算処理装置により衝撃緩和動作プログラムが実行されることで、エンドエフェクタ付加装置2は衝撃緩和動作プログラムで規定されたシーケンス(
図6参照)に従って動作する。それにより、エンドエフェクタ400が障害物に衝突したときにエンドエフェクタ400及びロボットアーム機構100が受ける衝撃を緩和することができる。演算処理装置により復帰動作プログラムが実行されることで、エンドエフェクタ付加装置2は復帰動作プログラムで規定されたシーケンス(
図7参照)に従って動作する。それにより、エンドエフェクタ400が障害物に衝突したことによって変形したエンドエフェクタ付加装置2を、エンドエフェクタ400が障害物に衝突する前の元の状態に復帰させることができる。演算処理装置により昇降動作プログラムが実行されることで、エンドエフェクタ付加装置2は昇降動作プログラムで規定されたシーケンス(
図10参照)に従って動作する。それにより、エンドエフェクタ400を降下させ、降下させたエンドエフェクタ400を元の位置に戻すことができる。第1実施形態において、制御装置200は、エンドエフェクタ付加装置2を制御する機能とロボットアーム機構100を制御する機能との両方の機能を備える。もちろん、エンドエフェクタ付加装置2の制御装置は、ロボットアーム機構100の制御装置と別体で構成されてもよい。
【0011】
加減圧装置300は、ポンプ、エアチューブ、及び電磁弁からなる。電磁弁は、ポンプの吸引口と排気口とをエアチューブに対して切り替える。制御装置200により、加減圧装置300の電磁弁の駆動が制御されることで、蛇腹5の内部及びシリンダ71の内部に対するエアの給気と排気とが切り替えられる。もちろん、蛇腹5の内部及びシリンダ71の内部のエアの給気、排気を制御できるのであれば、その構成はこれに限定されない。
【0012】
図2、
図3、
図4に示すように、エンドエフェクタ付加装置2は、円板状のベース板3を有する。ベース板3の上面には、複数の支持ポール31を介して矩形板状のアダプタ板4が固定されている。アダプタ板4はロボットアーム機構100のエンドエフェクタ取付部110に接続されるアダプタ41を有する。エンドエフェクタ付加装置2は、アダプタ板4を介してロボットアーム機構100のエンドエフェクタ取付部110に取り付けられる。ベース板3の下面には、蛇腹5により円形状のマウント板6が懸吊されている。マウント板6は、後述の吸着機構7によりベース板3に対して吸着可能に構成されている。典型的には、マウント板6は、磁石に吸着可能となるように磁性体で形成されている。もちろん、マウント板6を非磁性体で形成し、磁石に吸着可能な磁性体で形成された吸着片をマウント板6に設けるようにしてもよい。マウント板6にはエンドエフェクタ400が直接的に又は他の部材を介して間接的に接続される。
【0013】
ベース板3の下面には複数のボールプランジャ81が円周方向に沿って等間隔に配置され、マウント板6の上面には複数のボールプランジャ81のボールを受ける窪みを有する複数のボール受け部83が円周方向に沿って等間隔に配置される。ボールプランジャ81とボール受け部83とは、ベース板3に対するマウント板6の位置及び向きを決めるための位置決め機構8を構成する。位置決め機構8により、マウント板6を予め決められた位置(以下、初期位置という)に配置することができる。
【0014】
ベース板3の下面には複数の接触センサ91それぞれの接触ピンが下方に突出して設けられ、マウント板6の上面には接触センサ91の接触ピンを受ける面を有する複数のピン受け部93が設けられる。ピン受け部93は、接触ピンを受ける面がマウント板6の上面よりも上方に位置するように構成される。接触センサ91と接触センサ91の接触ピンを受けるピン受け部93とは、ベース板3に対するマウント板6の位置ずれを検出する位置ずれ検出部9を構成する。なお、ここでの位置ずれとは、ベース板3の下面に平行な平面内における位置ずれと、ベース板3の下面に垂直な方向に関する位置ずれとを含む。位置ずれ検出部9は、エンドエフェクタ400の障害物への衝突を検知するセンサとして機能するとともに、マウント板6がベース板3に対して予め決められた位置及び向きに配置されているのかを検出するセンサとしても機能する。複数の接触センサ91のセンサデータは制御装置200に送られる。
【0015】
第1実施形態に係るエンドエフェクタ付加装置2は、蛇腹5の内部に密閉空間を確保したことを1つの特徴としている。具体的には、
図5に示すように、蛇腹5の内部に密閉空間を確保するために蛇腹5の後端側5aの開口はベース板3により封止され、前端側5bの開口はマウント板6により封止される。ベース板3には、上下に貫通する蛇腹ポート51が設けられる。蛇腹ポート51には、加減圧装置300から延びるエアチューブが接続される。それにより、蛇腹5の内部は加減圧装置300に接続される。蛇腹5の内部に密閉空間を確保することにより、蛇腹5の内部を減圧することで蛇腹5を収縮させ、蛇腹5の内部を加圧することで蛇腹5を伸長させることができる。エンドエフェクタ400が障害物に衝突した直後に蛇腹5を伸長することでエンドエフェクタ400の障害物への衝突に伴う衝撃を緩和できるとともに、衝撃を緩和するために伸長した蛇腹5を収縮することでエンドエフェクタ付加装置2を衝突前の状態に復帰することができる。このように、複雑な機構を使用せずに、内部に密閉空間が形成された蛇腹5の内部の加減圧を制御するだけで、エンドエフェクタ400の衝突による衝撃の緩和動作とエンドエフェクタ付加装置2を元の状チアに戻す復帰動作とを実現していることが第1実施形態に係るエンドエフェクタ付加装置2の1つの特徴である。
【0016】
吸着機構7はベース板3に設けられる。典型的には、吸着機構7はマウント板6を磁力により吸着可能に構成される。具体的には、
図5に示すように、吸着機構7は、磁石75と、磁石75を上下方向に移動自在に支持する磁石支持機構とを有する。磁石支持機構は、円筒形状のシリンダ71と、シリンダ71の内部を上下に分割する板状のピストン72と、ピストン72を上下方向に移動自在に支持する圧縮コイルバネ73とを有する。圧縮コイルバネ73の一端はシリンダ71の内面の上部に固定され、他端はピストン72の上面に接続されている。ピストン72の下面には、ピン74を介して磁石75が固定されている。典型的には、ピストン72の駆動方式としては複動式を採用することができる。シリンダ71には、側面を貫通する2つのシリンダポート78,79が、ピストン72を挟んで上下に分散して設けられる。シリンダポート78,79には、加減圧装置300から延びるエアチューブがそれぞれ接続される。
【0017】
制御装置200により、吸着機構7の吸着機能がオフされたとき、制御装置200の制御に従って、加減圧装置300により上側のシリンダポート78からシリンダ71の内部のエアが排気され、下側のシリンダポート79からシリンダ71の内部にエアが給気される。磁石75はピストン72とともにマウント板6から離反する方向に引き上げられ、ピストン72の内部の上方に配置されるため、磁石75とマウント板6との間の距離は広がり、磁石75の磁力によりマウント板6を吸着することができない。
【0018】
制御装置200により、吸着機構7の吸着機能がオンされたとき、制御装置200の制御に従って、加減圧装置300により上側のシリンダポート78からシリンダ71の内部にエアが給気され、下側のシリンダポート79からシリンダ71の内部のエアが排気される。磁石75はピストン72とともにマウント板6に接近する方向に押し下げられ、ピストン72の内部の下方に配置されるため、磁石75の磁力によりマウント板6が吸着される。吸着機構7によるマウント板6の吸着力がエンドエフェクタ400が障害物に衝突したときに受ける負荷よりも小さくなるように、磁石75、磁石75とマウント板6との距離などが調整されている。それにより、制御装置200は、接触センサ91のオン、オフによって、エンドエフェクタ400が障害物に衝突したか否かを判定することができる。なお、吸着機構7の吸着機能がオンされたとき、制御装置200の制御に従って、加減圧装置300による2つのシリンダポート78,79への給気、排気が停止され、シリンダ71内を大気圧に戻すようにしてもよい。磁石75は圧縮コイルバネ73によりシリンダ71の下方に向かって付勢されているため、シリンダ71内が大気圧に戻されたとき、圧縮コイルバネ73により磁石75はピストン72ともにマウント板6に接近する方向に押し下げられ、ピストン72の内部の下方に配置される。
【0019】
以下、
図6、
図8、
図9を参照して、第1実施形態に係るエンドエフェクタ付加装置2による衝撃緩和動作を説明する。
【0020】
図6に示すように、制御装置200により、エンドエフェクタ400の障害物への衝突が検知されるまでの間、エンドエフェクタ付加装置2は平常時の状態である(ステップS11のNo)。平常時において、蛇腹5の内部は負圧の状態であり、吸着機構7による吸着機能はオンされた状態である。具体的には、
図8(a)に示すように、加減圧装置300により蛇腹ポート51から蛇腹5の内部のエアが排気され、上側のシリンダポート78からシリンダ71の内部にエアが給気され、下側のシリンダポート79からシリンダ71の内部のエアが排気される。それにより、マウント板6は初期位置で固定された状態で維持される。マウント板6が初期位置に配置されているとき、複数の接触センサ91の全てから接触センサ91がオンしていることを示すデータが制御装置200に送信される。制御装置200は、エンドエフェクタ400が障害物に衝突していないと判定する。
【0021】
制御装置200は、複数の接触センサ91のうち少なくとも1つの接触センサ91から接触センサ91がオフしていることを示すデータを受信したとき(ステップS11のYes)、エンドエフェクタ400が障害物に衝突したと判定し、エンドエフェクタ付加装置2に衝撃緩和動作を実行させる。
図8(b)に示すように、制御装置200の制御に従って、加減圧装置300により、上側のシリンダポートからシリンダ71の内部のエアが排気され、下側のシリンダポートからシリンダ71の内部にエアが給気される。それにより、磁石75が上方に引き上げられ、吸着機構7による吸着機能がオフにされる(ステップS12)。制御装置200の制御に従って、加減圧装置300により、蛇腹ポート51から蛇腹5の内部にエアが給気され、加圧される(ステップS13)。ステップS12によりマウント板6はフリーな状態であるため、蛇腹5の内部が加圧されることで蛇腹5は伸長され、蛇腹5に懸吊されたマウント板6はベース板3から離反する方向に押し下げられる。伸長された蛇腹5は、その内部が加圧された状態であり、可撓性を有する棒状の緩衝部材として機能する。その後、制御装置200により、エンドエフェクタ400が障害物に衝突したことを作業員に通知するために、例えば、アラームが発生される(ステップS14)。作業員は、ボタン等を操作することによりアラームを停止するとともに、障害物を除去する。
【0022】
以上説明した第1実施形態に係るエンドエフェクタ付加装置2による衝撃緩和動作によれば、以下の作用効果を奏する。
図9に示すように、水平移動中にエンドエフェクタ400が障害物Sに衝突しても、衝突の瞬間に蛇腹5は伸長され、可撓性を有する棒状の緩衝材として機能するため、エンドエフェクタ400が障害物Sから受ける力をある程度受け流すことができる。また、エンドエフェクタ400が障害物Sに衝突した瞬間にロボットアーム機構100を停止できなくても、衝突時に蛇腹5が伸長し、且つ可撓性を有する棒状材となることで、エンドエフェクタ400が障害物Sに衝突してからロボットアーム機構100が停止するまでのロボットアーム機構100のわずかな移動を許容することができる。これらにより、エンドエフェクタ400及びロボットアーム機構100の破損を回避できる。また、エンドエフェクタ400及びロボットアーム機構100が破損した場合でもその破損の程度を軽度に抑えられる。
【0023】
図7、
図8を参照して、第1実施形態に係るエンドエフェクタ付加装置2による復帰動作を説明する。作業員により、復帰指示が入力されたのを契機に、制御装置200は、エンドエフェクタ付加装置2の復帰動作を実行する(ステップS21)。復帰動作の実行前において、エンドエフェクタ付加装置2は、
図8(b)に示すように、蛇腹5の内部は加圧された状態であり、吸着機構7による吸着機能はオフされた状態である。復帰動作が実行されると、制御装置200は、ロボットアーム機構100を予め決められた退避位置に移動させる(ステップS22)。この工程は、手動で行われれてもよい。次に、制御装置200は、加減圧装置300を制御して、蛇腹5の内部を減圧する(ステップS23)。具体的には、
図8(c)に示すように、加減圧装置300により蛇腹ポート51から蛇腹5の内部のエアが排気される。それにより、蛇腹5が収縮され、蛇腹5に懸吊されたマウント板6はベース板3に接近する方向に引き上げられる。ベース板3に近い位置に到達したマウント板6は、位置決め機構8による規制を受けながらさらに引き上げられ、初期位置に戻される。制御装置200は、複数の接触センサ91の出力に基づいて、マウント板6が初期位置に戻されたかを判定する(ステップS24)。例えば、マウント板6を引き上げ始めてから所定の時間が経過するまでに全ての接触センサ91から接触センサ91がオンしていることを示すデータを受信できないとき、制御装置200は、マウント板6が初期位置に戻されていないと判定する(ステップS24のNo)。
【0024】
そして、作業員に復帰が未完了であることを通知するためにアラームを発生する(ステップS26)。作業員は、ボタン操作等によりアラームを停止するとともに、エンドエフェクタ付加装置2を手動で復帰させる。一方、マウント板6を引き上げ始めてから所定の時間が経過するまでに全ての接触センサ91から接触センサ91がオンしていることを示すデータを受信したとき、制御装置200は、マウント板6が初期位置に戻されたと判定し(ステップS24のYes)、吸着機構7による吸着機能をオンにする(ステップS25)。具体的には、
図8(d)に示すように、上側のシリンダポートからシリンダ71の内部にエアが給気され、下側のシリンダポートからシリンダ71の内部のエアが排気される。それにより、シリンダ71の内部の下方に配置された磁石75によりマウント板6は吸着され、初期位置に固定される。エンドエフェクタ付加装置2は衝突前の状態に復帰し、エンドエフェクタ400も衝突前の位置に復帰される。
【0025】
なお、ステップS24でマウント板6が初期位置に戻されていないと判定されたとき、蛇腹5が捻じれている等の蛇腹5の状態が起因である可能性がある。そのため、ステップS26でアラームを発生する前に、再度、蛇腹5を伸長させた後に収縮させ、ステップS24の判定処理を再度実行するようにしてもよい。
【0026】
第1実施形態に係るエンドエフェクタ付加装置2による復帰動作によれば、作業員はエンドエフェクタ400が衝突した障害物Sを除去した後に、マウス、キーボード、ボタンなどの操作により復帰指示を制御装置200に入力するだけで、エンドエフェクタ付加装置2を衝突前の状態に復帰させることができ、エンドエフェクタ400も衝突前の位置及び向きに戻すことができる。ロボットアーム機構100に対するエンドエフェクタ400の位置及び向きは、エンドエフェクタ付加装置2の位置決め機構8により自動的に調整することができるため、作業員が工具等を使用してエンドエフェクタ400の位置を調整する必要はない。また、エンドエフェクタ付加装置2が衝突前の状態に復帰されたかの確認は接触センサ91の出力に基づいて行うことができるため、水準器等を使ってエンドエフェクタ付加装置2のマウント板6の傾きなどを測る必要はない。このように、第1実施形態に係るエンドエフェクタ付加装置2によれば、エンドエフェクタ400が障害物に衝突してから、衝突前の状態に復帰するまでの作業員による作業を非常に簡易なものにし、復帰時間を短縮することができる。
【0027】
第1実施形態に係るエンドエフェクタ付加装置2は、蛇腹5の伸縮動作を積極的に活用することで、エンドエフェクタ400に昇降機能を付加することができる。また、昇降機能を有するエンドエフェクタ400に対しては、昇降動作のストローク長を、エンドエフェクタ400単独のそれよりも延長させることができる。
【0028】
図10、
図11を参照して、エンドエフェクタ付加装置2の昇降動作を説明する。ここでは、エンドエフェクタ400の吸着パッドでワークWを吸着し、把持するものとする。制御装置200は吸着パッドをワークWの上方に配置するためにロボットアーム機構100を移動させる。制御装置200は、吸着パッドをワークWの上方に配置後、エンドエフェクタ付加装置2の昇降動作をオンする。制御装置200は、加減圧装置300を制御して、吸着機構7による吸着機能をオフにし(ステップS31)、蛇腹5の内部を加圧する(ステップS32)。それにより、吸着パッドはマウント板6とともにベース板3から離反する方向(下方)に移動され、その吸着面がワークWの表面に密着する。制御装置200は、加減圧装置300を制御して、吸着パッドの内部を減圧する(ステップS33)。制御装置200は、吸着パッドがワークWを吸着したか否かを、例えば、エンドエフェクタ400に取り付けられたカメラの撮影画像に基づいて判定する(ステップS34)。吸着パッドがワークWを吸着していないと判定したとき(ステップS34のNo)、制御装置200は、吸着パッドの位置を調整するためにロボットアーム機構100を移動させ(ステップS35)、再度、ステップS33の処理を実行する。ステップS33~S35の処理は吸着パッドがワークWを吸着するまで繰り返される。吸着パッドがワークWを吸着したと判定したとき(ステップS34のYes)、制御装置200は、加減圧装置300を制御して、蛇腹5の内部を減圧する(ステップS36)。それにより、ワークWを吸着した吸着パッドは、マウント板6とともにベース板3に接近する方向(上方)に引き上げられる。制御装置200は、複数の接触センサ91の出力に基づいてマウント板6が初期位置に戻されたかを判定し(ステップS37)、マウント板6が初期位置に戻らなかったと判定したとき(ステップS37のNo)、作業員に復帰が未完了であることを通知するためにアラームを発生する(ステップS39)。作業員は、ボタン操作等によりアラームを停止するとともに、エンドエフェクタ付加装置2を手動で復帰させる。一方、マウント板6が初期位置に戻されたと判定したとき(ステップS37のYes)、吸着機構7による吸着機能をオンにする(ステップS38)。それにより、マウント板6は初期位置で固定され、エンドエフェクタ付加装置2は元の状態に復帰される。吸着パッドでワークWを搬送するだけであれば、ワークWを吸着後、ワークWのリリース位置までロボットアーム機構100を移動させ、吸着パッドの減圧状態を解除し、ワークWをリリースするようにしてもよい。
【0029】
エンドエフェクタ付加装置2の昇降動作によれば、
図11に示すように、開口が狭く、深い箱Bなどの、ロボットアーム機構100のアームを降下させることはできないが、エンドエフェクタ付加装置2を挿入することができるような箇所に配置されたワークWに対して、エンドエフェクタ付加装置2の蛇腹5を伸長させることで、エンドエフェクタ400をワークWにアプローチさせることができる。エンドエフェクタ付加装置2の蛇腹5の伸縮動作を積極的に活用することで、エンドエフェクタ400の降下動作のストローク長を延長させることができる。つまり、エンドエフェクタ400の移動の自由度を向上させることができる。
【0030】
また、第1実施形態に係るエンドエフェクタ付加装置2は、蛇腹5の伸縮動作を積極的に活用することで、以下のような効果を奏する。ロボットアーム機構100の加減速時に吸着機構7によって吸着されるマウント板6の吸着箇所に発生する負荷の増大分を、蛇腹5の内部を減圧することによってマウント板6のベース板3に接近する方向に働く吸引力を増加させることによってキャンセルすることができる。例えば、制御装置200は、ロボットアーム機構100が加減速するとき、加減圧装置300を制御して、蛇腹5の内部の減圧度合いを高くすることで、蛇腹5を収縮させる力を増加させ、吸着機構7による吸着力に抗ってマウント板6がベース板3から離れてしまう事態を回避することができる。これは、接触センサ91によるエンドエフェクタ400の障害物への衝突検知の精度の向上にも寄与する。
【0031】
図12、
図13を参照して、第1実施形態の変形例に係るエンドエフェクタ付加装置2を説明する。第1実施形態に係るエンドエフェクタ付加装置2において、エンドエフェクタ付加装置2の位置決め機構8は、ボールプランジャ81とボール受け部83とにより構成された。第1実施形態の変形例に係るエンドエフェクタ付加装置500は、エンドエフェクタ付加装置2の位置決め機構8として伸縮性を有する可撓管を用いたものである。
図12、
図13に示すように、可撓管85の一端はベース板3の下面に固定され、他端はマウント板6の上面に固定される。それにより、可撓管85は、ボールプランジャ81とボール受け部83とにより構成された位置決め機構8と同様の効果を奏する。
【0032】
図14、
図15を参照して、第2実施形態に係るエンドエフェクタ付加装置600を説明する。第1実施形態に係るエンドエフェクタ付加装置2は、ベース板3に対してマウント板6を懸吊する部材として蛇腹5を用い、マウント板6を元の位置に復帰させるための復帰機構として吸着機構7と加減圧装置300とを有するものであったが、ベース板3に対してマウント板6を接近、離反させることができ、ベース板3から離反されたマウント板6を初期位置に復帰させることができるのであれば、懸吊部材は蛇腹5に限定されない。第2実施形態に係るエンドエフェクタ付加装置600は、懸吊部材として紐等の線条部材53を用い、マウント板6を元の位置に復帰させるための復帰機構として、線条部材53を巻き取る巻き取り装置55を有するものである。
【0033】
図14、
図15に示すように、第2実施形態に係るエンドエフェクタ付加装置600は、ベース板3に対してマウント板6を懸吊する弾性を有する線条部材53と、線条部材53を巻き取る巻き取り装置55とを有する。巻き取り装置55は、リールと、リールの回転を駆動する駆動機構とを有し、ベース板3に設置される。線条部材53は、その一端が巻き取り装置55のリールに固定され、ベース板3を上下に貫通する孔を通り、他端はマウント板6に固定されている。制御装置200による制御に従って、駆動機構によりリールが順方向に回転されたとき、線条部材53はリールから送り出され、マウント板6はベース板3から離反する方向に移動される。制御装置200による制御に従って、駆動機構によりリールが逆方向に回転されたとき、線条部材53はリールに巻き取られ、マウント板6はベース板3に接近する方向に引き戻される。
【0034】
第2実施形態に係るエンドエフェクタ付加装置600は、第1実施形態に係るエンドエフェクタ付加装置2と同様の効果を奏する。
【0035】
第1、第2実施形態において、エンドエフェクタ付加装置は、ロボットアーム機構100とエンドエフェクタ400との間に介在されていたが、エンドエフェクタ400が装着される様々な装置、例えばエンドエフェクタ400を移動させる移動装置等に対しても使用することができる。
【0036】
第1、第2実施形態に係るエンドエフェクタ付加装置は、それ単独の装置である必要はない。例えば、第1、第2実施形態に係るエンドエフェクタ付加装置が組み込まれたエンドエフェクタであってもよいし、第1、第2実施形態に係るエンドエフェクタ付加装置が組み込まれたロボットアーム機構であってもよい。いずれの装置においても、第1、第2実施形態に係るエンドエフェクタ付加装置と同様の効果を奏する。
【0037】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0038】
2…エンドエフェクタ付加装置、3…ベース板、31…支持ポール、4…アダプタ板、41…アダプタ、5…蛇腹、51…蛇腹ポート、6…マウント板、7…吸着機構、71…シリンダ、72…ピストン、73…圧縮コイルバネ、74…ピン、75…磁石、78,79…シリンダポート、8…位置決め機構、81…ボールプランジャ、83…ボール受け部、9…位置ずれ検出部、91…接触センサ、93…ピン受け部。