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特許7568761果実香の成分を含有しているアルコール飲料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】果実香の成分を含有しているアルコール飲料
(51)【国際特許分類】
   C12G 3/06 20060101AFI20241008BHJP
【FI】
C12G3/06
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023026533
(22)【出願日】2023-02-22
(62)【分割の表示】P 2019141078の分割
【原出願日】2019-07-31
(65)【公開番号】P2023054273
(43)【公開日】2023-04-13
【審査請求日】2023-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】311007202
【氏名又は名称】アサヒビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(72)【発明者】
【氏名】田中 善久
【審査官】吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-015686(JP,A)
【文献】J Food Sci Technol,2017年,Vol.54,No.13,pp.4284-4301
【文献】特許庁公報 周知・慣用技術集(香料)第II部食品用香料,2000年,pp.190-198
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12G
A23L
C11B
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE/FSTA/AGRICOLA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
果実香の成分と、フラン化合物とを含有し、
前記フラン化合物が、2-アセチル-5-メチルフラン及び2-アセチルフランからなる群より選択される1種以上であり、
前記フラン化合物の濃度が0.0015~0.7ppmであり、
前記果実香の成分が、γ-ウンデカラクトンであり、
桃の香りを有することを特徴とする、アルコール飲料。
【請求項2】
γ-ウンデカラクトン濃度が、0.01~10ppmである、請求項1に記載のアルコール飲料。
【請求項3】
アルコール濃度が3~70容量%である、請求項1又は2に記載のアルコール飲料。
【請求項4】
さらに、桃の果実、果皮、又は果汁を含有する、請求項1~3のいずれか一項に記載のアルコール飲料。
【請求項5】
シトラール濃度が、0.5~60ppmである、請求項4に記載のアルコール飲料。
【請求項6】
リモネン濃度が、0.5~260ppmである、請求項4に記載のアルコール飲料。
【請求項7】
果実香の成分を含有しているアルコール飲料の製造方法であって、
前記果実香の成分が、γ-ウンデカラクトンであり、
フラン化合物の濃度を0.0015~0.7ppmに調整し、
前記フラン化合物が、2-アセチル-5-メチルフラン及び2-アセチルフランからなる群より選択される1種以上であり、
桃の香りを有するアルコール飲料を製造する、アルコール飲料の製造方法。
【請求項8】
桃の香りを有しており、γ-ウンデカラクトンを含有しているアルコール飲料において、
2-アセチル-5-メチルフラン及び2-アセチルフランからなる群より選択される1種以上であるフラン化合物の濃度を0.0015~0.7ppmに調整する、アルコール飲料の果実感の増強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、果実香の成分を含有するアルコール飲料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ウイスキー、ブランデー、焼酎、ジン、ウォッカ等の蒸留酒に、果汁や果皮、果実風味のフレーバー等を添加して果実風味をつけたアルコール飲料が広く好まれている。例えば、オレンジ風味のリキュールであるオレンジキュラソーは、オレンジの果皮やハーブなどをアルコールに浸漬した後に常圧で蒸留した後に、糖類や着色料などを添加して製造される。また、アルコール飲料に柑橘風味を添加するために用いられる呈味改善剤として、柑橘類の果実、ホールペースト、香料、果汁、濃縮果汁、搾汁残渣、果皮及び/又はこれらの乾燥物のエタノール抽出物から精製した香気成分を含む呈味改善剤も知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
果実風味のアルコール飲料においては、果実本来の香味がより強いほうが好まれる。アルコール飲料の果実風味は、原料として添加する果汁や果実香料の量を増加させ、飲料中の果実香の成分の量を増加させることにより増強することができる。しかしながら、一般的に果皮に多く含まれている果実香の成分は、苦味や特有の刺激を有するものも多く、含有量を増加させると、アルコールの刺激や苦味と相まって嗜好性が低下する場合がある。なかでも果汁の場合には、含有量を多くすると、カロリーが高くなったり、アルコール濃度が低下する等の影響もある。そこで、果汁や果実香料の添加量を増大させることなく、果実感を増大させる方法が求められている。
【0004】
例えば、特許文献2には、果汁を含有するアルコール飲料に、酢酸ボルニルを特定の濃度範囲となるように添加することによって、果汁に含まれる果皮成分に起因する果皮感を増強する方法が開示されている。また、特許文献3には、高甘味度甘味料を含有し、かつ低果汁又は無果汁である飲料に、ゲンチオオリゴ糖を添加することによって、果汁感を増強できる方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-41935号公報
【文献】特開2017-131134号公報
【文献】特開2011-206030号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、果実香の成分を含有するアルコール飲料において、果実感を増強する方法、及び当該方法により得られたアルコール飲料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、果実香の成分を含有するアルコール飲料に、フラン化合物を特定の濃度範囲となるように含有させることにより、果実感が増強されることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明に係るアルコール飲料、アルコール飲料の製造方法、及びアルコール飲料の果実感の増強方法は、下記[1]~[8]である。
[1] 果実香の成分と、フラン化合物とを含有し、
前記フラン化合物の濃度が0.0015~0.7ppmであり、
前記果実香が、柑橘類の香り又は桃の香りであることを特徴とする、アルコール飲料。
[2] 前記フラン化合物が、2-アセチル-5-メチルフラン及び2-アセチルフランからなる群より選択される1種以上である、前記[1]のアルコール飲料。
[3] アルコール濃度が3~70容量%である、前記[1]又は[2]のアルコール飲料。
[4] 前記果実香の成分が、シトラール、リモネン、及びγ-ウンデカラクトンからなる群より選択される1種以上である、前記[1]~[3]のいずれかのアルコール飲料。
[5] シトラール濃度が、0.5~60ppmである、前記[4]のアルコール飲料。
[6] リモネン濃度が、0.5~260ppmである、前記[4]のアルコール飲料。
[7] 果実香の成分を含有しているアルコール飲料の製造方法であって、
前記果実香が、柑橘類の香り又は桃の香りであり、
フラン化合物の濃度を0.0015~0.7ppmに調整する、アルコール飲料の製造方法。
[8] 柑橘類の香り又は桃の香りの果実香の成分を含有しているアルコール飲料において、フラン化合物の濃度を0.0015~0.7ppmに調整する、アルコール飲料の果実感の増強方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るアルコール飲料は、柑橘類の香り又は桃の香りを有するアルコール飲料であって、同じ量の果実香の成分を含有するアルコール飲料よりも、果実感が優れている。
また、本発明に係るアルコール飲料の製造方法により、果実香の成分の含有量を増加させることなく、柑橘類又は桃の果実感が増強されたアルコール飲料が製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明及び本願明細書において、アルコール飲料とは、アルコールを含有する飲料であればよく、発泡性飲料であってもよく、非発泡性飲料であってもよい。また、発酵工程を経て製造される飲料であってもよく、発酵工程を経ずに製造される飲料であってもよい。すなわち、本発明におけるアルコール飲料には、ウォッカ、ウイスキー、ブランデー、焼酎、ラム酒、スピリッツ、及びジン等の蒸留酒やリキュール等の非発泡性のアルコール飲料;ビールテイストアルコール飲料(ビールと同等の又はそれと似た風味・味覚及びテクスチャーを有するアルコール飲料)、発泡ワイン、シードル等の発泡性のアルコール飲料;蒸留酒やリキュール等の非発泡性のアルコール飲料を、ジュース、清涼飲料、サイダー、ラムネ、炭酸水等のノンアルコール飲料と混合したカクテル;等が挙げられる。
【0011】
本発明に係るアルコール飲料は、柑橘類の香り又は桃の香りの果実香の成分と、フラン化合物とを含有しており、当該フラン化合物の濃度が0.0015~0.7ppmであることを特徴とする。柑橘類の香り又は桃の香りの果実香の成分を含有するアルコール飲料に、特定濃度のフラン化合物を含有させることにより、果実感を増強させることができる。果実香の成分の中には特有の苦味や刺激を持つものがあり、果実香の成分の含有量を増大させた場合には、飲料に苦味や刺激が付与される場合があるが、本発明においては、果実感の増強のために果実香の成分自体を増量させる必要はないため、苦味や刺激を付与することなく、果実香が増強され、果実感が増強されたアルコール飲料を得ることができる。また、フラン化合物は甘味や酸味はないため、フラン化合物を混合させることにより、呈味に対する影響を抑えつつ、果実感が増強されたアルコール飲料を得ることができる。
【0012】
本発明及び本願明細書において、果実香の成分とは、それぞれの果実特有の香りを構成する成分である。例えば、柑橘類の果実香の成分としては、シトラール、リモネン等が挙げられる。また、桃の果実香の成分としては、γ-ウンデカラクトン等が挙げられる。ぶどうの果実香の成分としては、メチルアンスラニレート等が挙げられる。本発明に係るアルコール飲料は、柑橘類の香り又は桃の香りの果実香の成分を含有するものであり、シトラール、リモネン、及びγ-ウンデカラクトンからなる群より選択される1種以上を含有するものが好ましく、シトラールとリモネンの少なくとも一方を含有するアルコール飲料、又はγ-ウンデカラクトンを含有するアルコール飲料がより好ましい。
【0013】
柑橘類の香り又は桃の香りの果実香の成分を含有するアルコール飲料にフラン化合物を含有させると、果実感が増強されることに加えて、コク(味の厚み)や余韻(味の後引き)も増強される。このようなフラン化合物による果実感やコクに対する増強効果は、柑橘類の香り又は桃の香りの果実香の成分を含有するアルコール飲料に対しては発揮されるが、ぶどうの香りの果実香の成分を含むアルコール飲料に対しては発揮されない。この理由は明らかではないが、フラン化合物の香味や呈味が、柑橘類の香りの成分又は桃の香りの成分との相性がよく、両者の香味が相まってこのような効果が得られるのではないかと推察される。
【0014】
本発明に係るアルコール飲料が含有する果実香の成分は、果実感が感じられる程度の含有量であればよく、果実香の成分の種類ごとに適宜調整される。例えば、果実香の成分がシトラールの場合、フラン化合物による柑橘感増強効果が充分に感じられる点から、本発明に係るアルコール飲料のシトラール濃度は、0.5~60ppmであることが好ましく、1~50ppmであることがより好ましい。果実香の成分がリモネンの場合、フラン化合物による柑橘感増強効果の強さが充分に感じられる点から、本発明に係るアルコール飲料のリモネン濃度は、0.5~260ppmであることが好ましく、1~250ppmであることがより好ましい。果実香の成分がγ-ウンデカラクトンの場合、フラン化合物による桃感増強効果が充分に感じられる点から、本発明に係るアルコール飲料のγ-ウンデカラクトン濃度は、0.01~10ppmが好ましく、0.05~1ppmがより好ましい。なお、アルコール飲料の各種の果実香の成分の濃度は、例えば、GC-MS(ガスクロマトグラフ質量分析)により定量することができる。
【0015】
柑橘類又は桃の果実、果皮、又は果汁を原料とすることにより、柑橘類の香り又は桃の香りの果実香の成分を含有するアルコール飲料を製造することができる。柑橘類としては、みかん、オレンジ、夏みかん、レモン、ゆず、すだち、カボス、グレープフルーツ、シークワァーサー、はっさく、ライム等が挙げられる。果汁には、濃縮果汁も含まれる。果実、果皮、及び果汁は常法により調製されたものを用いることができる。原料として、果汁自体に代えて、果汁を含有する清涼飲料水を用いてもよい。これらの果実等は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0016】
柑橘類又は桃の果皮や果実等から香気成分をアルコール等の溶媒で抽出したものや、これを減圧蒸留や常圧蒸留等により濃縮したものは、それ自体を柑橘類の香り又は桃の香りの果実香の成分を含有するアルコール飲料とすることができる。また、溶媒で抽出した香気成分又はその濃縮物を原料とすることによっても、柑橘類の香り又は桃の香りの果実香の成分を含有するアルコール飲料を製造することができる。果皮や果実等からの香気成分のアルコール抽出やその後の濃縮処理は、常法により行うことができる。その他、柑橘類の香り又は桃の香りの果実香の成分自体の合成品や天然物からの抽出・精製品を添加剤として用いたり、レモン香料、グレープフルーツ香料等の柑橘系香料や桃香料等の柑橘類の香り又は桃の香りの果実香の成分を含有する食品香料を添加剤として用いることによっても、柑橘類の香り又は桃の香りの果実香の成分を含有するアルコール飲料を製造することができる。本発明に係るアルコール飲料の製造においては、柑橘類又は桃の果皮や果実等のアルコール抽出物やその濃縮物が好ましい。また、それらを原料とすることや、シトラール、リモネン、及びγ-ウンデカラクトンからなる群より選択される1種以上の合成品や天然物からの抽出・精製品、又はこれらを含有する食品香料を原料とすることも好ましい。
【0017】
本発明に係るアルコール飲料が含有するフラン化合物は、フラン環を含む化合物であり、フラン(1-オキサ-2,4-シクロペンタジエン)、又は、フラン環を構成する炭素原子に結合する水素原子が、アルキル基、アシル基、アルコキシ基等で置換された化合物である。これらの置換基は、フラン環を構成する4個の炭素原子のうち1個にのみ導入されていてもよく、2~4個に導入されていてもよい。また、2~4個の炭素原子に置換基が導入されている場合、全て同種の置換基であってもよく、互いに異なる種類の置換基であってもよい。本発明において用いられるフラン化合物としては、果実感増強効果の点から、フラン環の1~3個の炭素原子に、アルキル基、アシル基、アルコキシ基、又はヒドロキシ基が導入された化合物であることが好ましく、フラン環の1~3個の炭素原子に、炭素数1~6のアルキル基又は炭素数1~6のアシル基がそれぞれ独立して導入された化合物であることがより好ましい。中でも、食品香料としての使用実績から、2-アセチル-5-メチルフラン(CAS No:1193-79-9)、2-アセチルフラン(CAS No: 1192-62-7)、3-アセチル-2,5-ジメチルフラン(CAS No:10599-70-9)、2-プロピオニルフラン(CAS No:3194-15-8)、2-ヘキサノイルフラン(CAS No:14360-50-0)、又は2-メチル-5-プロピオニルフラン(CAS No:10599-69-6)が好ましく、2-アセチル-5-メチルフラン又は2-アセチルフランが特に好ましい。本発明に係るアルコール飲料が含有するフラン化合物は、1種類であってもよく、2種類以上を組み合わせて含有していてもよい。
【0018】
本発明に係るアルコール飲料のフラン化合物の濃度は、0.0015~0.7ppmである。アルコール飲料が2種類以上のフラン化合物を含む場合、フラン化合物の濃度は、飲料中に含まれているフラン化合物の合計濃度であり、0.002~0.5ppmであることが好ましい。なお、アルコール飲料のフラン化合物濃度は、例えば、GC-MSにより定量することができる。
【0019】
フラン化合物をアルコール飲料に含有させる手段は特に限定されない。例えば、フラン化合物を原料として用いることにより、フラン化合物濃度が0.0015~0.7ppmのアルコール飲料を製造することができる。使用する原料としては、合成の又は天然物から抽出・精製されたフラン化合物であってもよく、フラン化合物を含有する香料であってもよい。また、フラン化合物は、柑橘類の果皮に含まれているため、例えば、柑橘類の果皮をアルコールに浸漬させることにより、果皮中のフラン化合物を抽出できる。ただし、果皮のフラン化合物の含有量は、柑橘香の成分に比べて非常に少ないため、比較的大量の果皮を比較的少量のアルコールに浸漬させることが好ましい。例えば、アルコールの容量に対する果皮の質量が30%(質量/容量)以上、好ましくは40%(質量/容量)以上、より好ましくは50%(質量/容量)以上となるように果皮をアルコールに浸漬させ、12時間以上、好ましくは18時間以上、より好ましくは24時間以上浸漬状態を保持する。これにより、柑橘香の成分と共に十分量のフラン化合物を含むアルコール抽出液が得られる。この抽出液を蒸留したものは、本発明に係るアルコール飲料に相当する。蒸留は、蒸留時の液温が30℃以上であればよく、常温蒸留であってもよく減圧蒸留であってもよい。
【0020】
本発明に係るアルコール飲料のアルコール濃度は特に限定はされないが、70容量%以下であることが好ましく、60容量%以下であることがより好ましく、50容量%以下であることがさらに好ましい。アルコールはそれ自体が特有の苦味と刺激を有しており、アルコール濃度が75容量%以上では、刺激が強すぎ、飲料としての嗜好性は低い。本発明に係るアルコール飲料のアルコール濃度が75容量%以上の場合には、希釈してアルコール濃度を調整できる。また、フラン化合物の香味はアルコールの刺激や苦味と相性がよく、フラン化合物により、アルコール由来の苦味や刺激が和らげられる傾向にある。このため、本発明に係るアルコール飲料のアルコール濃度は、3~70容量%が好ましく、5~65容量%がより好ましく、10~60容量%がさらに好ましい。
【0021】
本発明に係るアルコール飲料は、アルコールを原料として製造することもできる。原料とするアルコールは、原料アルコールであってもよく、常法により製造された酒類であってもよい。当該酒類としては、蒸留酒であってもよく、醸造酒であってもよい。蒸留酒としては、ウォッカ、ウイスキー、ブランデー、スピリッツ、焼酎、ラム酒、ジン等が挙げられ、リキュールであってもよい。醸造酒としては、ビール、ワイン、シードル等が挙げられる。
【0022】
フラン化合物による果実感を増強する対象であるアルコール飲料は、柑橘類の香り又は桃の香りの果実香の成分を含有するアルコール飲料であれば特に限定されるものではない。
【0023】
本発明に係るアルコール飲料は、フラン化合物による果実感増強効果を損なわない限りにおいて、アルコール、果実香の成分、及びフラン化合物に加えて、その他の成分を含有していてもよい。当該その他の成分としては、果実、果皮、果汁、野菜類、ハーブ、香料、清涼飲料水、炭酸水、炭酸ガス、酸味料、甘味料、水溶性食物繊維、着色料、酸化防止剤、起泡剤、タンパク質若しくはその分解物、酵母エキス、原料水等が挙げられる。
【0024】
果実、果皮、及び果汁としては、製造されるアルコール飲料が柑橘類の香り又は桃の香りを有するものであれば、特に限定されるものではない。本発明に係るアルコール飲料の原料としては、柑橘類又は桃の果実、果皮、又は果汁であることが好ましいが、これ等の果物以外の各種の果物の果実、果皮、及び果汁を用いてもよい。その他の果物としては、リンゴ、なし、ぶどう、キウイ、バナナ、メロン、すいか等をあげることができる。果実、果皮、及び果汁は常法により調製されたものを用いることができる。これらの果実等は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0025】
野菜類やハーブとしては、製造されるアルコール飲料が柑橘類の香り又は桃の香りを有するものであれば、特に限定されるものではない。野菜類としては、例えば、トマト、ピーマン、セロリ、ショウガ、パセリ等が挙げられ、ハーブとしては、レモングラス、セージ、シナモン、ラベンダー、ローズマリー、ペッパー、ペパーミント等が挙げられる。これらの野菜類等は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0026】
香料としては、例えば、柑橘類や桃以外の果物の果皮等から香気成分をアルコール等の溶媒で抽出したものやこれを減圧蒸留や常圧蒸留等により濃縮したものを用いることができる。その他、飲料に添加される各種の食品香料を適宜用いることもできる。これらの香料は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0027】
酸味料としては、クエン酸、グルコン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、リン酸、乳酸、アジピン酸、及びフマル酸等の有機酸が挙げられる。これらの酸味料は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0028】
甘味料としては、ショ糖、液糖、オリゴ糖、デキストリン、でんぷん、甘味系アミノ酸、高感度甘味料等が挙げられる。甘味系アミノ酸としては、アラニンやグリシンが挙げられ、アラニンが好ましい。当該高感度甘味料としては、アセスルファムカリウム、アスパルテーム、ステビア、酵素処理ステビア、スクラロース等が挙げられる。これらの甘味料は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0029】
水溶性食物繊維とは、水に溶解し、かつヒトの消化酵素により消化されない又は消化され難い炭水化物を意味する。水溶性食物繊維としては、例えば、大豆食物繊維、ポリデキストロース、難消化性デキストリン、ガラクトマンナン、イヌリン、グアーガム分解物、ペクチン、アラビアゴム等が挙げられる。これらの水溶性食物繊維は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0030】
酸化防止剤としては、例えば、亜硫酸やビタミンC等が挙げられる。これらの酸化防止剤は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
起泡剤としては、例えば、大豆ペプチド、大豆サポニン、アルギン酸エステル、キラヤサポニン等が挙げられる。これらの起泡剤は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
タンパク質分解物としては、例えば、大豆タンパク分解物等が挙げられる。これらのタンパク質分解物は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
着色料としては、例えば、カラメル色素等の飲食品に一般的に使用される色素等が挙げられる。これらの着色料は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0031】
本発明に係るアルコール飲料は、例えば、各原料を混合する方法(調合法)によって製造できる。各原料を混合する順番は特に限定されるものではない。原料水に、全ての原料を同時に添加してもよく、先に添加した原料を溶解させた後に残る原料を添加する等、順次原料を添加してもよい。また、例えば、原料水に、固形(例えば粉末状や顆粒状)の原料及びアルコールを混合してもよく、固形原料を予め水溶液としておき、これらの水溶液、及びアルコール、必要に応じて原料水を混合してもよい。さらに、原料水に原料を加熱したものを入れてもよく、調製した調合液を加熱してもよい。
【0032】
調製された調合液に、不溶物が生じた場合には、当該調合液に対して濾過等の不溶物を除去する処理を行うことが好ましい。不溶物除去処理は、特に限定されるものではなく、濾過法、遠心分離法等の当該技術分野で通常用いられている方法で行うことができる。本発明においては、不溶物は濾過除去することが好ましく、珪藻土濾過により除去することがより好ましい。
【0033】
本発明に係るアルコール飲料が発泡性アルコール飲料の場合、例えば、原料として炭酸水や、サイダーやラムネ等の発泡性清涼飲料を用いることにより製造できる。また、炭酸ガス以外の原料を全て混合した調合液を調製した後、この調合液に炭酸ガスを導入することによっても、発泡性アルコール飲料を製造できる。炭酸ガスの導入は、常法により行うことができる。
【0034】
本発明に係るアルコール飲料は、例えば、柑橘類の香り又は桃の香りの成分として柑橘類若しくは桃の果皮や果実等のエタノール抽出物又は粗濃縮物と、フラン化合物又はこれを含有する香料と、必要に応じて原料水又は炭酸水と、を混合することにより製造することができる。柑橘類若しくは桃のエタノール抽出物等に代えて、柑橘類の香り又は桃の香りの成分を含む香料を用いてもよく、シトラール、リモネン、及びγ-ウンデカラクトンからなる群より選択される1種以上を含有する香料を用いることが好ましい。
【0035】
フラン化合物によるコクや余韻の増強により、アルコールに由来する苦味や刺激が低減される傾向にある。アルコールに由来する苦味や刺激は、通常、甘味や酸味を調整することで低減されるが、本発明により、甘味料や酸味料を含有せずとも、アルコールに由来する苦味や刺激が低減されたアルコール飲料が得られる。
【実施例
【0036】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0037】
[官能評価]
以降の実験において、官能評価は、果実感、苦味、刺激を、訓練されたパネリスト6名で行い、全パネリストの評価点の平均値を、評価対象の評価点とした。
【0038】
果実感のうち、シトラールを含有させたアルコール飲料の柑橘感は、レモンキャンディーを想起させる、レモン様の爽やかさとスイートさを備える香味である。
果実感のうち、リモネンを含有させたアルコール飲料の柑橘感は、レモン等の柑橘類の果皮(外皮)が備える香味である。
果実感のうち、γ-ウンデカラクトンを含有させたアルコール飲料のもも感は、ももジュースを想起させる、ももらしいクリーミーでマイルドな甘い香味である。
果実感のうち、メチルアンスラニレートを含有させたアルコール飲料のぶどう感は、ぶどうジュースを想起させる香味である。
【0039】
柑橘感、もも感、ぶどう感、厚み、苦味、刺激の評価基準は以下の通りとした。
評価点1:対照より弱い。
評価点2:対照よりやや弱い。
評価点3:対照と同等。
評価点4:対照よりやや強い。
評価点5:対照より強い。
【0040】
[実施例1~6、比較例1~5]
原料アルコール(アルコール濃度95容量%)、原料水、シトラール、2-アセチル-5-メチルフラン、及び2-アセチルフランを用いて、表1及び2に記載の処方により、アルコール飲料を製造し、柑橘感、苦味、及び刺激について、官能評価を行った。比較例2のアルコール飲料を対照(評価点3)とした。また、柑橘感のみ、シトラール無添加の比較例1のアルコール飲料を評価点1とし、シトラール添加量が比較例2のアルコール飲料の2倍量である比較例5のアルコール飲料を評価点5とし、他のアルコール飲料の柑橘感を評価した。結果を表1及び2に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【0043】
この結果、2-アセチル-5-メチルフランを0.002ppm~1.0ppm添加した実施例1~5及び比較例4、2-アセチルフランを0.05ppm添加した実施例6のアルコール飲料は、柑橘感の評点が4以上であり、これらのフラン化合物を添加することにより、柑橘感が増強されていた。特に、実施例1~6のアルコール飲料は、余韻とコクも増強されていた。加えて、これらのアルコール飲料は、苦味と刺激は増強されていなかった。一方で、2-アセチル-5-メチルフランを1.0ppm添加した比較例4では、苦味も強くなってしまっていた。
【0044】
[実施例7~12、比較例6~9]
原料アルコール(アルコール濃度95容量%)、原料水、リモネン、2-アセチル-5-メチルフラン、及び2-アセチルフランを用いて、表3及び4に記載の処方により、アルコール飲料を製造し、柑橘感、苦味、及び刺激について、官能評価を行った。比較例6のアルコール飲料を対照(評価点3)とした。また、柑橘感のみ、リモネン無添加の比較例1のアルコール飲料を評価点1とし、リモネン添加量が比較例6のアルコール飲料の2倍量である比較例9のアルコール飲料を評価点5とし、他のアルコール飲料の柑橘感を評価した。結果を表3及び4に示す。
【0045】
【表3】
【0046】
【表4】
【0047】
この結果、2-アセチル-5-メチルフランを0.002ppm~1.0ppm添加した実施例7~11及び比較例8、2-アセチルフランを0.05ppm添加した実施例12のアルコール飲料は、柑橘感の評点が4以上であり、これらのフラン化合物を添加することにより、柑橘感が増強されていた。特に、実施例7~11のアルコール飲料は、余韻とコクも増強されていた。加えて、これらのアルコール飲料は、苦味と刺激は増強されていなかった。一方で、2-アセチル-5-メチルフランを1.0ppm添加した比較例8では、苦味も強くなってしまっていた。
【0048】
[実施例13~15、比較例10~13]
原料アルコール(アルコール濃度95容量%)、原料水、シトラール、及び2-アセチル-5-メチルフランを用いて、表5に記載の処方により、アルコール飲料を製造し、柑橘感、苦味、及び刺激について、官能評価を行った。比較例11のアルコール飲料を対照(評価点3)とした。また、柑橘感のみ、シトラール無添加の比較例10のアルコール飲料を評価点1とし、シトラール添加量が比較例11のアルコール飲料の2倍量である比較例13のアルコール飲料を評価点5とし、他のアルコール飲料の柑橘感を評価した。結果を表5に示す。
【0049】
【表5】
【0050】
比較例10のアルコール飲料は、比較例1等のアルコール飲料よりも、苦味と刺激が強くなっており、これは、アルコール濃度が25容量%と高かったためと推察された。
2-アセチル-5-メチルフランを0.01ppm~0.5ppm添加した実施例13~15のアルコール飲料は、実施例2~5のアルコール飲料と同様に、柑橘感の評点が4以上であり、フラン化合物を添加することにより、柑橘感が増強されていた。一方で、比較例4のアルコール飲料とは異なり、2-アセチル-5-メチルフランを1ppm添加した比較例12のアルコール飲料では、苦味と刺激の増強が見られなかったことに加えて、柑橘感の増強も観察されなかった。これは、アルコール濃度が25容量%と高くなったことから、水よりもアルコールへの溶解性が高いシトラールがアルコールに溶解して揮発しにくくなり、香りが弱くなったためと推察された。
【0051】
[実施例16~18、比較例14~17]
原料アルコール(アルコール濃度95容量%)、原料水、シトラール、及び2-アセチル-5-メチルフランを用いて、表6に記載の処方により、アルコール飲料を製造し、柑橘感、苦味、及び刺激について、官能評価を行った。比較例15のアルコール飲料を対照(評価点3)とした。また、柑橘感のみ、シトラール無添加の比較例14のアルコール飲料を評価点1とし、シトラール添加量が比較例15のアルコール飲料の2倍量である比較例17のアルコール飲料を評価点5とし、他のアルコール飲料の柑橘感を評価した。結果を表6に示す。
【0052】
【表6】
【0053】
2-アセチル-5-メチルフランを0.01ppm~0.5ppm添加した実施例16~18のアルコール飲料は、実施例2~5、13~15のアルコール飲料と同様に、柑橘感の評点が4以上であり、フラン化合物を添加することにより、柑橘感が増強されていた。また、比較例12のアルコール飲料と同様、2-アセチル-5-メチルフランを1ppm添加した比較例16のアルコール飲料では、柑橘感の増強は観察されず、苦味と刺激の増強も観察されなかった。
【0054】
[実施例19~20、比較例18~21]
原料アルコール(アルコール濃度95容量%)、原料水、シトラール、及び2-アセチル-5-メチルフランを用いて、表7に記載の処方により、アルコール飲料を製造し、柑橘感、苦味、及び刺激について、官能評価を行った。実施例19のアルコール飲料の評価では、比較例18のアルコール飲料を対照(評価点3)とし、柑橘感については、比較例1のアルコール飲料を評価点1とし、比較例19のアルコール飲料を評価点5とした。実施例20のアルコール飲料の評価では、比較例20のアルコール飲料を対照(評価点3)とし、柑橘感については、比較例1のアルコール飲料を評価点1とし、比較例21のアルコール飲料を評価点5とした。結果を表7に示す。
【0055】
【表7】
【0056】
2-アセチル-5-メチルフランを添加した実施例19と20のアルコール飲料はいずれも、苦味と刺激の評価点は4未満であったが、柑橘感の評点が4以上であり、かつ余韻とコクも改善されていた。これらの結果から、シトラール濃度が1~50ppmの範囲内であるアルコール飲料において、2-アセチル-5-メチルフランを添加することにより、アルコールに由来する苦味や刺激を増強させることなく、柑橘感を増強でき、余韻とコクも改善できることが確認された。
【0057】
[実施例21~22、比較例22~25]
原料アルコール(アルコール濃度95容量%)、原料水、リモネン、及び2-アセチル-5-メチルフランを用いて、表8に記載の処方により、アルコール飲料を製造し、柑橘感、苦味、及び刺激について、官能評価を行った。実施例21のアルコール飲料の評価では、比較例22のアルコール飲料を対照(評価点3)とし、柑橘感については、比較例1のアルコール飲料を評価点1とし、比較例23のアルコール飲料を評価点5とした。実施例22のアルコール飲料の評価では、比較例24のアルコール飲料を対照(評価点3)とし、柑橘感については、比較例1のアルコール飲料を評価点1とし、比較例25のアルコール飲料を評価点5とした。結果を表8に示す。
【0058】
【表8】
【0059】
2-アセチル-5-メチルフランを添加した実施例21と22のアルコール飲料はいずれも、苦味と刺激の評価点は4未満であったが、柑橘感の評点が4以上であり、かつ余韻とコクも改善されていた。これらの結果から、リモネン濃度が1~250ppmの範囲内であるアルコール飲料において、2-アセチル-5-メチルフランを添加することにより、アルコールに由来する苦味や刺激を増強させることなく、柑橘感を増強でき、余韻とコクも改善できることが確認された。
【0060】
[実施例23、比較例26~27]
原料アルコール(アルコール濃度95容量%)、原料水、γ-ウンデカラクトン、及び2-アセチル-5-メチルフランを用いて、表9に記載の処方により、アルコール飲料を製造し、もも感、苦味、及び刺激について、官能評価を行った。比較例26のアルコール飲料を対照(評価点3)とし、もも感については、比較例1のアルコール飲料を評価点1とし、比較例27のアルコール飲料を評価点5とした。結果を表9に示す。
【0061】
【表9】
【0062】
2-アセチル-5-メチルフランを添加した実施例23のアルコール飲料は、苦味と刺激の評価点は4未満であったが、もも感の評点が4以上であり、かつ余韻とコクも改善されていた。この結果から、γ-ウンデカラクトンを含有するアルコール飲料に、2-アセチル-5-メチルフランをすることにより、アルコールに由来する苦味や刺激を増強させることなく、もも感を増強でき、余韻とコクも改善できることが確認された。
【0063】
[比較例28~30]
原料アルコール(アルコール濃度95容量%)、原料水、メチルアンスラニレート、及び2-アセチル-5-メチルフランを用いて、表10に記載の処方により、アルコール飲料を製造し、ぶどう感、苦味、及び刺激について、官能評価を行った。比較例28のアルコール飲料を対照(評価点3)とし、ぶどう感については、比較例1のアルコール飲料を評価点1とし、比較例30のアルコール飲料を評価点5とした。結果を表10に示す。
【0064】
【表10】
【0065】
2-アセチル-5-メチルフランを添加した比較例29のアルコール飲料は、ぶどう感、苦味、刺激の全てが、評価点は対照の比較例28のアルコールと同じであり、2-アセチル-5-メチルフランを添加しても、ぶどう感は増強されなかった。
【0066】
[実施例24~25]
<レモン減圧蒸留酒>
生のレモンの果皮1000gを65容量% アルコール2000mLに浸漬し、室温で24時間抽出し、減圧度700mmHgで減圧蒸留した。減圧蒸溜により得られた蒸留液をさらに、アルコール濃度が65容量%になるように水で希釈し、レモン減圧蒸留酒を得た。
【0067】
<レモン常圧蒸留酒>
生のレモンの果皮1000gを65容量% アルコール2000mLに浸漬し、室温で24時間抽出し、常圧蒸留した。常圧蒸溜により得られた蒸留液をさらに、アルコール濃度が65容量%になるように水で希釈し、レモン常圧蒸留酒を得た。
【0068】
<シトラール及びリモネンの測定>
製造したレモン減圧蒸留酒及びレモン常圧蒸留酒のシトラール及びリモネンの濃度を測定した。具体的には、まず、レモン減圧蒸留酒又はレモン常圧蒸留酒0.5gに200μLの内部標準(10ppm リナロール-d5)を添加した後に、エタノールで20mLに希釈した。このエタノール溶液をさらに超純水で50倍希釈し、得られた希釈試料の香気成分をTwisterに吸着(40℃、2時間)させ、下記の条件にてGC/MS分析(内部標準法)により定量を行った。結果を表11に示す。
【0069】
〈GC条件〉
装置:昇温気化型注入口(CIS4、Gerstel社製)、加熱脱着ユニット(TDU、Gerstel社製)、及びMass Selective Detector(5977、Agilent Technologies社製)を備えたGC System(7890B、Agilent Technologies社製)
1st LTMカラム:DB-WAX(20m(長さ)×0.18mm(内径)、0.3μm(膜厚)、Agilent Technologies社製)
2nd LTMカラム:DB-5(10m(長さ)×0.18mm(内径)、0.4μm(膜厚)、Agilent Technologies社製)
TDU:20℃(1分間)-(720℃/分)-250℃(3分間)
CIS4:-50℃(1.5分間)-(12℃/秒)-240℃(45分間)
スプリット比:10:1
注入口圧:508.28kPa
ベント圧:314.11kPa
1stカラム温度:40℃(3分間)-(5℃/分)-180℃(0分間)
2ndカラム温度:40℃(31分間)-(5℃/分)-180℃(0分間)
MSD SCAN mode:m/z 29-230、20Hz、EI
【0070】
<2-アセチル-5-メチルフランの測定>
製造したレモン減圧蒸留酒及びレモン常圧蒸留酒のシトラール及びリモネンの濃度を測定した。具体的には、レモン減圧蒸留酒又はレモン常圧蒸留酒10.0gに、100μLの2-アセチル-5-メチルフラン(0.01~0.1ppm)及び乾燥させた塩化ナトリウム0.9gを添加した後、十分に振とうさせて塩化ナトリウムを溶解させた。得られた溶液をサンプルとして、下記の条件にてGC-MS分析(ヘッドスペース法、標準添加法)により定量を行った。結果を表11に示す。
【0071】
〈GC条件〉
装置:昇温気化型注入口(CIS4、Gerstel社製)、加熱脱着ユニット(TDU、Gerstel社製)、及びMass Selective Detector(5977、Agilent Technologies社製)を備えたGC System(7890B、Agilent Technologies社製)
1st LTMカラム:DB-WAX(20m(長さ)×0.18mm(内径)、0.3μm(膜厚)、Agilent Technologies社製)
2nd LTMカラム:DB-5(10m(長さ)×0.18mm(内径)、0.4μm(膜厚)、Agilent Technologies社製)
TDU:40℃(1分間)-(720℃/分)-250℃(3分間)
CIS4:10℃(1.5分間)-(12℃/秒)-240℃(17分間)
スプリット比:5:1
注入口圧:508.28kPa
1stカラム温度:40℃(3分間)-(10℃/分)-230℃(1分間)
2ndカラム温度:40℃(24分間)
MSD SIM mode:m/z 109、124
【0072】
【表11】
【0073】
[実施例26、27、比較例31、32]
原料アルコール(アルコール濃度95容量%)、実施例24で製造したレモン減圧蒸留酒(アルコール濃度65容量%)、実施例25で製造したレモン常圧蒸留酒(アルコール濃度65容量%)、原料水、シトラール、及びリモネンを用いて、表12に記載の処方により、アルコール飲料を製造した。製造されたアルコール飲料の柑橘感、苦味、及び刺激について、官能評価を行った。官能評価においては、比較例31のアルコール飲料を対照(評価点3)とした。ただし、柑橘感のみ、シトラール無添加の比較例1のアルコール飲料を評価点1とし、シトラール添加量が比較例2のアルコール飲料の2倍量である比較例32のアルコール飲料を評価点5とし、他のアルコール飲料の柑橘感を評価した。結果を表12に示す。
【0074】
【表12】
【0075】
この結果、レモン減圧蒸留酒及びレモン常圧蒸留酒を添加した実施例26、27のアルコール飲料は、苦味と刺激の評価点は4未満であったが、柑橘感の評点が4以上であり、かつ余韻とコクも改善されていた。これらの結果から、レモン減圧蒸留酒及びレモン常圧蒸留酒に含まれるフラン化合物によって、アルコールに由来する苦味や刺激を増強させることなく、柑橘感を増強でき、余韻とコクも改善できたと推察された。