(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】水素製造システム及び水素製造システムの運転方法
(51)【国際特許分類】
C25B 1/042 20210101AFI20241008BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20241008BHJP
C25B 9/67 20210101ALI20241008BHJP
C25B 15/02 20210101ALI20241008BHJP
C25B 15/021 20210101ALI20241008BHJP
C25B 15/027 20210101ALI20241008BHJP
【FI】
C25B1/042
C25B9/00 A
C25B9/67
C25B15/02
C25B15/021
C25B15/027
(21)【出願番号】P 2023042839
(22)【出願日】2023-03-17
【審査請求日】2023-12-15
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】眞竹 徳久
(72)【発明者】
【氏名】小阪 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】入江 弘毅
(72)【発明者】
【氏名】加藤 雅之
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/078159(WO,A1)
【文献】特表2020-525641(JP,A)
【文献】特表2015-505344(JP,A)
【文献】特開2023-006454(JP,A)
【文献】特開2023-020282(JP,A)
【文献】特開2023-032587(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水蒸気を電気分解する固体酸化物形電解セル(SOEC)と、
前記SOECに熱中立電圧以上の電圧を印加する電源装置と、
前記SOECの余剰発熱を用いて水を加熱することにより、前記SOECに供給される前記水蒸気の少なくとも一部を生成する水蒸気生成装置と、
前記SOECの余剰発熱を熱媒体に回収する余剰発熱回収装置と、
を備え、
前記電圧は、前記熱中立電圧よりも0.05V~0.5V高い電圧であり、
前記水蒸気生成装置は、前記熱媒体と前記水とを熱交換することにより、前記SOECに供給される前記水蒸気の少なくとも一部を生成するように構成され、
前記余剰発熱回収装置は、前記SOECを冷却する前記熱媒体が流通する流路を備える水素製造システム。
【請求項2】
前記SOECは、前記水蒸気が流入する水素極を備え、
前記余剰発熱回収装置は、前記水素極から流出した水蒸気と前記熱媒体とが熱交換する熱交換器を備える、請求項1に記載の水素製造システム。
【請求項3】
水蒸気を電気分解する固体酸化物形電解セル(SOEC)と、
前記SOECに熱中立電圧以上の電圧を印加する電源装置と、
前記SOECの余剰発熱を用いて水を加熱することにより、前記SOECに供給される前記水蒸気の少なくとも一部を生成する水蒸気生成装置と、
前記SOECの余剰発熱を熱媒体に回収する余剰発熱回収装置と、
を備え、
前記電圧は、前記熱中立電圧よりも0.05V~0.5V高い電圧であり、
前記水蒸気生成装置は、前記熱媒体と前記水とを熱交換することにより、前記SOECに供給される前記水蒸気の少なくとも一部を生成するように構成され、
前記SOECは、酸素を含むガスが流入する酸素極を備え、
前記余剰発熱回収装置は、前記酸素極から流出した酸化性の排ガスと前記熱媒体とが熱交換する熱交換器を備える水素製造システム。
【請求項4】
水蒸気を電気分解する固体酸化物形電解セル(SOEC)であって、前記水蒸気が流入する水素極と、酸素を含むガスが流入する酸素極とを備えるSOECと、
前記SOECに熱中立電圧以上の電圧を印加する電源装置と、
前記SOECの余剰発熱を用いて水を加熱することにより、前記SOECに供給される前記水蒸気の少なくとも一部を生成する水蒸気生成装置と、
前記SOECの温度を検出する温度検出装置と、
前記水素極を流通する前記水蒸気の流量又は温度の少なくとも一方を制御する水蒸気制御装置、若しくは、前記酸素極に流入する前記ガスの流量又は温度の少なくとも一方を制御するガス制御装置と、
前記SOECを流れる電流値を調整する電流値調整装置と
を備え
、
前記水蒸気生成装置は、前記水と前記水素極から流出した水蒸気又は前記酸素極から流出した排ガスとが熱交換することにより、前記SOECに供給される前記水蒸気の少なくとも一部を生成するように構成されている水素製造システム。
【請求項5】
前記電圧は、前記熱中立電圧よりも0.05V~0.5V高い電圧である、請求項4に記載の水素製造システム。
【請求項6】
前記SOECの温度を検出する温度検出装置と、
前記水素極を流通する前記水蒸気の流量又は温度の少なくとも一方を制御する水蒸気制御装置と
を備える、請求項2に記載の水素製造システム。
【請求項7】
水蒸気を電気分解する固体酸化物形電解セル(SOEC)
であって、前記水蒸気が流入する水素極を備えるSOECと、
前記SOECに熱中立電圧以上の電圧を印加する電源装置と、
前記SOECの余剰発熱を用いて水を加熱することにより、前記SOECに供給される前記水蒸気の少なくとも一部を生成する水蒸気生成装置と、
前記SOECの余剰発熱を熱媒体に回収する余剰発熱回収装置と、
前記SOECの温度を検出する温度検出装置と、
前記水素極を流通する前記水蒸気の流量又は温度の少なくとも一方を制御する水蒸気制御装置と、
前記SOECを流れる電流値を調整する電流値調整装置と
を備え、
前記電圧は、前記熱中立電圧よりも0.05V~0.5V高い電圧であり、
前記水蒸気生成装置は、前記熱媒体と前記水とを熱交換することにより、前記SOECに供給される前記水蒸気の少なくとも一部を生成するように構成され
、
前記余剰発熱回収装置は、前記水素極から流出した水蒸気と前記熱媒体とが熱交換する熱交換器を備える水素製造システム。
【請求項8】
前記SOECの温度を検出する温度検出装置と、
前記酸素極を流通する前記ガスの流量又は温度の少なくとも一方を制御するガス制御装置と
を備える、請求項3に記載の水素製造システム。
【請求項9】
前記SOECを流れる電流値を調整する電流値調整装置を備える、請求項8に記載の水素製造システム。
【請求項10】
前記温度検出装置による検出値に基づいて、前記水蒸気制御装置によって、前記水素極を流通する前記水蒸気の流量又は温度の少なくとも一方を制御する、請求項6に記載の水素製造システムの運転方法。
【請求項11】
前記温度検出装置による検出値に基づいて、前記ガス制御装置によって、前記酸素極を流通する前記ガスの流量又は温度の少なくとも一方を制御する、請求項8に記載の水素製造システムの運転方法。
【請求項12】
前記温度検出装置による検出値に基づいて、前記電流値調整装置によって、前記SOECを流れる電流値を調整する、請求項4に記載の水素製造システムの運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水素製造システム及び水素製造システムの運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化対策として、今後は太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーが大量に導入されることが予想される。再生可能エネルギーを大量に導入する場合には電力の需給ギャップを調整する手段が必要であるが、再生可能エネルギーによる電力余剰時に水を電気分解して水素として貯蔵し、電力不足時に貯蔵した水素を燃料として利用するシステムが提案されている。水の電気分解による水素の製造には常温から高温までの様々な方法があるが、中でも大規模な水素製造方法として数百度以上の高温の水蒸気を電気分解する高温水蒸気電解が高効率の水素製造方法として注目されている。特許文献1には、固体酸化物形電解セル(SOEC)において水蒸気を電気分解することにより水素を製造する水素製造システムが記載されている。この水素製造システムでは、ボイラで生成した水蒸気をSOECに供給している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
SOECに供給する水蒸気をボイラで生成する場合のボイラにおける熱源としては一般的に、水素製造システムの外部の熱源を使用することが多い。このような場合には、水素製造システムの設備費及び運転コストが高くなるといった課題があった。特に、水素製造システムを大型化する際には、水蒸気を生成するためのボイラ等の設備の設備費が上昇するという課題が顕著になる。
【0005】
上述の事情に鑑みて、本開示の少なくとも1つの実施形態は、設備費及び運転コストを低減可能な水素製造システム及び水素製造システムの運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本開示に係る水素製造システムは、水蒸気を電気分解する固体酸化物形電解セル(SOEC)と、前記SOECに熱中立電圧以上の電圧を印加する電源装置と、前記SOECの余剰発熱を用いて水を加熱することにより、前記SOECに供給される前記水蒸気の少なくとも一部を生成する水蒸気生成装置と、前記SOECの余剰発熱を熱媒体に回収する余剰発熱回収装置とを備え、前記電圧は、前記熱中立電圧よりも0.05V~0.5V高い電圧であり、前記水蒸気生成装置は、前記熱媒体と前記水とを熱交換することにより、前記SOECに供給される前記水蒸気の少なくとも一部を生成するように構成され、前記余剰発熱回収装置は、前記SOECを冷却する前記熱媒体が流通する流路を備える。
【発明の効果】
【0007】
本開示の水素製造システムによれば、水蒸気の生成に必要な熱量の少なくとも一部をSOECにおける水蒸気の電気分解時に発生する余剰発熱で賄うことにより、水蒸気の生成のために水素製造システムの外部から供給する熱量を削減する又は不要とすることができるので、さらに、電機ボイラ等の追加機器及びそれに付随する熱交換器等の機器を削減できるので、水素製造システムの設備費及び運転コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示の実施形態1に係る水素製造システムの構成模式図である。
【
図2】本開示の実施形態1に係る水素製造システムの変形例の構成模式図である。
【
図3】本開示の実施形態1に係る水素製造システムの別の変形例の構成模式図である。
【
図4】本開示の実施形態1に係る水素製造システムのさらに別の変形例の構成模式図である。
【
図5】本開示の実施形態1に係る水素製造システムのさらに別の変形例の構成模式図である。
【
図6】本開示の実施形態2に係る水素製造システムの構成模式図である。
【
図7】本開示の実施形態2に係る水素製造システムのSOECのIV特性を模式的に表したグラフである。
【
図8】本開示の実施形態2に係る水素製造システムのSOEC内に形成される温度分布の模式図である。
【
図9】本開示の実施形態2に係る水素製造システムの動作のフローチャートである。
【
図10】本開示の実施形態2に係る水素製造システムの変形例の構成模式図である。
【
図11】本開示の実施形態2に係る水素製造システムの別の変形例の構成模式図である。
【
図12】本開示の実施形態2に係る水素製造システムのさらに別の変形例の構成模式図である。
【
図13】本開示の実施形態3に係る水素製造システムの構成模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施形態による水素製造システムについて、図面に基づいて説明する。以下で説明する実施形態は、本開示の一態様を示すものであり、この開示を限定するものではなく、本開示の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。
【0010】
(実施形態1)
<本開示の実施形態1に係る水素製造システムの構成>
図1に示されるように、本開示の実施形態1に係る水素製造システム1は、一例としての加圧固体酸化物形電解セル(加圧SOEC)のシステムであり、水蒸気を電気分解する固体酸化物形電解セル(SOEC)2と、SOEC2に電圧を印加する電源装置3と、SOEC2の余剰発熱を熱媒体に回収する余剰発熱回収装置4と、SOEC2に供給される水蒸気を生成する水蒸気生成装置5とを備えている。尚、余剰発熱については後述する。SOEC2は、水素極2aと、酸素極2bと、水素極2a及び酸素極2bとの間に設けられた固体電解質2cとを備えている。
図1には、1つのSOEC2のみが描かれているが、複数のSOEC2が筐体6内に収容された構成でもよい。電源装置3は、水素極2a及び酸素極2b間に電圧を印加するように構成されている。
【0011】
筐体6には、筐体6の内部に収容されたSOEC2を冷却するための熱媒体が流通する流路7が形成されてもよい。流路7は例えば、筐体6を構成する壁の内部に形成された流路であってもよいし、筐体6の外周面に対して間隔を空けて設けられたジャケットの形態であってもよい。流路7を流れる熱媒体は、SOEC2を冷却することによりSOEC2の余剰発熱を回収するので、流路7は余剰発熱回収装置4を構成する。
【0012】
水素極2aには、水素極2aに供給される水蒸気が流通する水蒸気供給ライン10と、水素極2aから排出された水蒸気が流通する水蒸気排出ライン11とが接続されている。水蒸気供給ライン10は水源12に接続され、水蒸気供給ライン10にはポンプ13が設けられている。水蒸気生成装置5としての例示的な装置であるボイラ5aは、ポンプ13よりも下流側で水蒸気供給ライン10に設けられている。水蒸気排出ライン11には凝縮器14が設けられている。
【0013】
水蒸気供給ライン10は、ポンプ13により水源12から供給された水がボイラ5aを通過するように構成されている。また、ボイラ5aには、流路7を流れる熱媒体が流路7から流出して再び流路7に戻るように構成された熱媒体ライン15が通過するように構成されている。ボイラ5aは、水蒸気供給ライン10を流通する水と、熱媒体ライン15を流通する熱媒体とが熱交換するように構成されている。
【0014】
酸素極2bには、酸素極2bに供給される酸素を含むガス、例えば空気が流通するガス供給ライン20と、酸素極2bから排出された酸化性の排ガスが流通するガス排出ライン21とが接続されている。ガス供給ライン20には、空気を圧縮するコンプレッサ22が設けられ、ガス排出ライン21には、酸素極2bから排出された排ガスによって駆動されるパワータービン23が設けられている。
【0015】
<本開示の実施形態1に係る水素製造システムの動作(運転方法)>
次に、本開示の実施形態1に係る水素製造システム1の動作(運転方法)について説明する。水源12からの水が、ポンプ13により水蒸気供給ライン10を流通し、ボイラ5aにおいて後述する動作によって加熱されて加圧水蒸気となる。ボイラ5aにおいて生成した加圧水蒸気は、水蒸気供給ライン10を流通して水素極2aに流入する。一方、コンプレッサ22によって圧縮された空気は、ガス供給ライン20を流通して酸素極2bに流入する。
【0016】
電源装置3が水素極2a及び酸素極2b間に電圧を印加することにより、水素極2a内の水蒸気が電気分解されて、水素と酸素イオン(O2-)とが生成する(下記反応式(1)参照)。酸素イオンは固体電解質2cを通過し、酸素極2bにおいて酸素となる(下記反応式(2)参照)。水素極2aから流出する水蒸気には水素が含まれ、水素を含んだ水蒸気は水蒸気排出ライン11を流通し、凝縮器14に流入する。凝縮器14では、水蒸気が水に凝縮されることで、水と水素とが気液分離される。凝縮器14で凝縮された水は排水処理されるか、又は、水蒸気供給用として再利用され、水素は、図示しない水素消費装置又は水素貯蔵装置に送られる。酸素極2bから流出した排ガスは、ガス排出ライン21を流通し、パワータービン23に流入してパワータービン23を駆動する。
H2O+2e-→H2+O2- ・・・(1)
2O2-→O2+4e- ・・・(2)
【0017】
水の電気分解は吸熱反応であるため、電流密度が増加するほどSOEC2の吸熱量は増加する。一方で、電流密度を増加すると、SOEC2のオーム損等の内部抵抗による発熱量も増加する。これら両者がバランスする状態が熱中立点である。このような熱中立点を実現するように電源装置3から印加される電圧が熱中立電圧であり、熱中立電圧は、温度の上昇と共にわずかに上昇する傾向はあるものの、おおよそ1.3V程度である。電源装置3からSOEC2に印加される電圧が電解電圧であり、SOEC2の平均電圧を表す。水素製造システム1の水素変換効率を高く維持するには一般的に、電解電圧は低い方が好ましい。
【0018】
実施形態1では、電源装置3から水素極2a及び酸素極2b間に印加される電圧を熱中立電圧よりも大きい電圧、好ましくは熱中立電圧よりも0.05V~0.5V高い電圧、さらに好ましくは0.05V~0.3V高い電圧とする。これにより、SOEC2からは、印加された電圧から熱中立電圧を差し引いた電圧に相当する熱が余剰に発生する。この余剰に発生する熱が、前述した余剰発熱である。このため、水素製造システム1が稼働する間、流路7に熱媒体を流し、熱媒体によってSOEC2を冷却する。SOEC2から発生した余剰発熱は熱媒体に吸収され、余剰発熱を吸収した熱媒体は、流路7から流出して熱媒体ライン15を流通する。熱媒体ライン15を流通する熱媒体は、ボイラ5aにおいて、水蒸気供給ライン10を流通する水と熱交換することにより冷却されて再び流路7に戻り、SOEC2を冷却する。一方、熱媒体との熱交換により加熱された水は蒸発して水蒸気となり、上述した動作で水素極2aに流入する。
【0019】
このように、水蒸気の生成に必要な熱量の少なくとも一部をSOEC2における水蒸気の電気分解時に発生する余剰発熱で賄うことにより、水蒸気の生成のために水素製造システム1の外部から供給する熱量を削減する又は不要とすることができるので、さらに、電気ボイラ等の追加機器及びそれに付随する熱交換器等の機器を削減できるので、水素製造システム1の設備費及び運転コストを低減することができる。
【0020】
<本開示の実施形態1に係る水素製造システムの変形例>
実施形態1では、余剰発熱回収装置4を、SOEC2を収容する筐体6を構成する壁の内部に形成された流路や、筐体6の外周面に対して間隔を空けて設けられたジャケット等として説明したが、これらに限定するものではない。余剰発熱回収装置4は例えば、流路7を含む構成に代えて又は加えて、
図2に示されるように、凝縮器14よりも上流側で水蒸気排出ライン11に設けられた熱交換器16であってもよい。熱交換器16は、水蒸気排出ライン11及び熱媒体ライン15が通過するように構成され、水蒸気排出ライン11を流通する水素を含む水蒸気と、熱媒体ライン15を流通する熱媒体とが熱交換するように構成される。水素極2aから流出した水蒸気は、SOEC2から発生した余剰発熱を吸収しているので、熱交換器16において水蒸気と熱媒体とが熱交換することにより、SOEC2から発生した余剰発熱が水蒸気から熱媒体に移動し、この余剰発熱を吸収した熱媒体がボイラ5aにおいて水と熱交換することにより水蒸気を生成することができる。
【0021】
図3に示されるように、熱交換器16を設けずに、すなわち余剰発熱回収装置4を設けずに、水蒸気排出ライン11から分岐してボイラ5aを通過して水蒸気排出ライン11に再び接続するように構成されたバイパスライン17を設けて、水蒸気供給ライン10を流通する水と水蒸気排出ライン11を流通する水蒸気とが熱交換することにより、ボイラ5aで水蒸気を生成するようにすることもできる。水蒸気排出ライン11を流通する水蒸気は、SOEC2から発生した余剰発熱を吸収しているので、この形態でも、ボイラ5aは、SOEC2の余剰発熱を用いて水蒸気を生成している。この形態では、バイパスライン17を介してボイラ5aに流入する水蒸気の流量を調節するための装置、例えば、水蒸気排出ライン11にバイパスライン17の両端が接続する位置の間で水蒸気排出ライン11に流量調節弁18を設けてもよい。尚、流量調節弁18はバイパスライン17に設けてもよいし、流量調節弁18に代えて、バイパスライン17に、ボイラ5aに流入する水蒸気の流量を調節するための装置としてのブロワを設けてもよい。
【0022】
また、余剰発熱回収装置4は例えば、流路7を含む構成及び熱交換器16の少なくとも一方に代えて又は加えて、
図4に示されるように、パワータービン23よりも上流側でガス排出ライン21に設けられた熱交換器24であってもよい。熱交換器24は、ガス排出ライン21及び熱媒体ライン15が通過するように構成され、ガス排出ライン21を流通する排ガスと、熱媒体ライン15を流通する熱媒体とが熱交換するように構成される。酸素極2bから流出した排ガスは、SOEC2から発生した余剰発熱を吸収しているので、熱交換器24において水蒸気と熱媒体とが熱交換することにより、SOEC2から発生した余剰発熱が水蒸気から熱媒体に移動し、この余剰発熱を吸収した熱媒体がボイラ5aにおいて水と熱交換することにより水蒸気を生成することができる。
【0023】
図5に示されるように、熱交換器24を設けずに、すなわち余剰発熱回収装置4を設けずに、ガス排出ライン21から分岐してボイラ5aを通過してガス排出ライン21に再び接続するように構成されたバイパスライン27を設けて、水蒸気供給ライン10を流通する水とガス排出ライン21を流通する排ガスとが熱交換することにより、ボイラ5aで水蒸気を生成するようにすることもできる。ガス排出ライン21を流通する排ガスは、SOEC2から発生した余剰発熱を吸収しているので、この形態でも、ボイラ5aは、SOEC2の余剰発熱を用いて水蒸気を生成している。この形態では、バイパスライン27を介してボイラ5aに流入する排ガスの流量を調節するための装置、例えば、ガス排出ライン21にバイパスライン27の両端が接続する位置の間でガス排出ライン21に流量調節弁28を設けてもよい。尚、流量調節弁28はバイパスライン27に設けてもよいし、流量調節弁28に代えて、バイパスライン27に、ボイラ5aに流入する排ガスの流量を調節するための装置としてのブロワを設けてもよい。
【0024】
余剰発熱回収装置4が流路7を含む構成である場合のように、SOEC2が熱媒体により冷却されるようにすれば、水素製造システム1の稼働中におけるSOEC2の温度の上昇を抑制することができる。一方で、上述(
図2~5)の変形例の場合には、SOEC2の構成を変更せずに、水蒸気排出ライン11に熱交換器16を設けたり、ガス排出ライン21に熱交換器24を設けたり、ボイラ5aにおいて水と水素極2aから流出した水蒸気又は酸素極2bから流出した排ガスとを熱交換するようにすればよいので、既存の水素製造システムにおいても本開示の発明を容易に適用することができる。
【0025】
(実施形態2)
次に、本開示の実施形態2に係る水素製造システムについて説明する。実施形態2に係る水素製造システムは、実施形態1に対して、SOEC2の温度を耐熱温度未満に制御することとSOEC2に印加する電圧を制御することとを可能にしたものである。尚、実施形態2において、実施形態1の構成要件と同じものは同じ参照符号を付し、その詳細な説明は省略する。また、構成上の矛盾がない限り、実施形態1で説明した変形例の構成を実施形態2にも適用可能である。
【0026】
<本開示の実施形態2に係る水素製造システムの構成>
図6に示されるように、本開示の実施形態2に係る水素製造システム1には、SOEC2の温度を検出する温度検出装置30と、水素極2aを流通する水蒸気の流量又は温度の少なくとも一方を制御する水蒸気制御装置31とが設けられている。実施形態2において温度検出装置30は、筐体6内に設けられた温度センサ30aとして説明するが、これは例示に過ぎず、SOEC2の温度を直接測定する装置又は種々の条件から推定する装置であってもよい。実施形態2において、水蒸気の流量を制御するための水蒸気制御装置31は、ポンプ13の吐出量を調節する装置であってもよい。このような装置は例えば、ポンプ13の回転数やストロークを調節する装置であってもよいし、ポンプ13の上流側及び下流側で水蒸気供給ライン10に接続されてポンプ13をバイパスするバイパスラインと、バイパスラインに設けられた流量調節弁とを備える構成において流量調節弁の開度を制御する装置であってもよい。また、水蒸気の温度を制御するための水蒸気制御装置31は、熱媒体ライン15を流通する熱媒体の流量を調節する装置であってもよい。このような装置は例えば、熱媒体ライン15に設けられた流量調節可能なポンプ19の回転数やストロークを調節する装置であってもよいし、熱媒体ライン15に設けられた吐出流量一定のポンプと、このポンプをバイパスするバイパスラインと、バイパスラインに設けられた流量調節弁とを備える構成において流量調節弁の開度を制御する装置であってもよい。尚、水蒸気制御装置31は、水蒸気の流量を制御するための構成と、水蒸気の温度を制御するための構成とのいずれか一方を備えてもよいし、両方の構成を備えていてもよい。
【0027】
温度検出装置30と水蒸気制御装置31とが電気的に又は無線通信回線等を介して互いに直接接続される構成によって、温度検出装置30による検出値に基づいて、水蒸気制御装置31が、水素極2aを流通する水蒸気の流量又は温度の少なくとも一方を制御するようにしてもよいし、温度検出装置30と水蒸気制御装置31とが電気的に又は無線通信回線等を介して制御装置32に接続されて、温度検出装置30による検出値が制御装置32に伝送され、制御装置32がSOEC2の温度に基づいて、水素極2aを流通する水蒸気の適切な流量又は温度の少なくとも一方を決定し、決定された流量又は温度の少なくとも一方となるように水蒸気制御装置31を駆動するようにしてもよい。その他の構成は実施形態1と同じである。
【0028】
尚、制御装置32は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、及びコンピュータ読み取り可能な記憶媒体等から構成されている。そして、各種機能を実現するための一連の処理は、一例として、プログラムの形式で記憶媒体等に記憶されており、このプログラムをCPUがRAM等に読み出して、情報の加工・演算処理を実行することにより、各種機能が実現される。尚、プログラムは、ROMやその他の記憶媒体に予めインストールしておく形態や、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記憶された状態で提供される形態、有線又は無線による通信手段を介して配信される形態等が適用されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記憶媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリ等である。
【0029】
<本開示の実施形態2に係る水素製造システムの動作>
図7に、SOEC2のIV特性を模式的に表わしたグラフを示す。IV特性は、例えばSOEC2内の温度分布やSOEC2の劣化状態等により変化するが、SOEC2における電解電流とSOEC2に印加される電解電圧とはおおよそ比例関係にある。SOEC2を熱中立点で運転する場合、そのときの電解電流をI
0とすると、IV特性において電解電流をI
0とした場合に得られる電圧V
0が熱中立電圧(約1.3V)である。SOEC2に要求される水素発生量(電解電流)に基づいて、I
0よりも大きな電解電流I
1が印加されると、
図7のIV特性において電解電圧はV
1となる。このように電解電流がI
1となる電解量に相当する条件でSOEC2を運転する場合には、電解電圧は熱中立点以上の電解電圧V
1となり、内部発熱が過剰となるため、SOEC2の運転条件を調整し、熱媒体で余剰発熱を外部へ取り出すことで、ボイラ5aにおける熱源とすることができる。以下の説明では、このような電解電圧V
1を設定電圧と称することとする。尚、電解電圧とは、SOEC2に組み込まれる電解セル全体の平均電圧のことをいう。
【0030】
実施形態1で説明した動作で水素製造システム1が駆動すると、
図8に示されるように、SOEC2内では、SOEC2のガス流れ方向(水蒸気又は空気の流れる方向)に対して温度分布Aが形成される。温度分布Aは、水蒸気及び空気それぞれの入口及び出口からSOEC2のガス流れ方向中央に向かって温度が高くなる傾向を有している。電解電流を熱中立点における電解電流I
0より大きいI
1に設定すると、内部発熱量の増加により、温度分布Aのように最高温度(例えばガス流れ方向中央部付近の温度)と最低温度(入口及び出口の温度)との差が大きくなり、局所的にSOEC2の耐熱温度T
0を超えてしまい、SOEC2の運転を継続できなくなるおそれがある。
【0031】
これに対し、電解電流I
1を変えずに、温度分布Aを、最高温度と最低温度との差が小さくなる温度分布B又はCに変化させることができれば、電気分解に必要な量の水蒸気を生成するための発熱量を確保しながら、言い換えると、設定電圧を維持しながらSOEC2の運転を継続すると同時に局所的にSOEC2の作動温度が耐熱温度T
0を超えてしまうことを回避できる。尚、
図8は、水素極2aに流入する水蒸気の流量又は温度を調節することによるSOEC2の内部の温度分布の変化の一般的な特性を模式的に示したものである。水素極2aに流入する水蒸気の流量が増加すると、入口又は出口における温度と最高温度との温度差が小さくなり、すなわち、温度分布Aが温度分布Cに変化し、水素極2aに流入する水蒸気の温度を下げると、入口又は出口における温度と最高温度との温度差はあまり変わらないものの作動温度が全体的に低下する(SOEC2の平均温度が低下する)、すなわち、温度分布Aが温度分布Bに変化する。
【0032】
この目的のための動作の一例として、例えば、
図6に示されるように、温度センサ30aによる検出値に基づいて上述のおそれが生じたと制御装置32が判断したら、制御装置32は水蒸気制御装置31を駆動させて、水素極2aに流入する水蒸気の流量を増加させる。水素極2aに流入する水蒸気の流量が増加することにより、SOEC2内に形成された温度分布を、最高温度と最低温度との温度差が小さい温度分布C(
図8参照)に変化させることができる。これにより、SOEC2が局所的に耐熱温度T
0を超えてしまう状態を回避することができる。
【0033】
また、この目的のための別の動作として、例えば、上述のおそれが生じたと制御装置32が判断したら、制御装置32は、
図3に示されるバイパスライン17を介してボイラ5aに流入する水蒸気の流量を減少させることにより、ボイラ5aにおける水蒸気と水との熱交換量を減少させる。これにより、ボイラ5aで生成される水蒸気の温度が低下する。温度が低下した水蒸気が水素極2aに流入することにより、SOEC2内に形成された温度分布を、作動温度が全体的に低下した温度分布B(
図8参照)に変化させることができる。これにより、SOEC2が局所的に耐熱温度T
0を超えてしまう状態を回避することができる。
【0034】
尚、この目的のための動作は、水素極2aを流通する水蒸気の流量又は温度のいずれか一方を制御することに限定されず、これら両方の制御を同時に又は順次に(どちらが先か後かを問わない)行ってもよい。
【0035】
このように、SOEC2の温度に基づいて水素極2aを流通する水蒸気の流量又は温度の少なくとも一方を制御することにより、SOEC2内の温度分布が変化し、最高温度を低下させることができるので、SOEC2の電解電流を一定に保ったまま、SOEC2が局所的に耐熱温度T0を超えてしまう状態を回避することができる。
【0036】
また、上記動作によって、局所的な温度を耐熱温度T0以下に制御できた場合でも、SOEC2の平均的な温度が、想定されている平均温度より低い場合には、電解電圧が設定電圧よりも高くなり、水素製造システム1のエネルギー効率が低下する(発熱過剰の状態となる)ことが予想される。そのような場合は、次のような手順で操作を行うことで作動温度を耐熱温度T0以下とし、電解電圧を設定電圧とすることが可能である。
【0037】
まず、温度センサ30aによる検出値に関し、局所的にSOEC2の耐熱温度T
0に達してしまうおそれのある設定温度T
1を予め設定しておく。
図8のフローチャートに示されるように、ステップS1において、外部からの指令により水素の生成量(電解電流)が決定されると、与えられた運転条件において温度センサ30aによる検出値が設定温度T
1以下か否かを判定する(ステップ2)。温度センサ30aによる検出値が設定温度T
1を上回っていたら、ステップS3において、上述した動作で水素極2aを流通する水蒸気の流量又は温度の少なくとも一方を制御した後、ステップS2に戻る。
【0038】
ステップ2において、温度センサ30aによる検出値が設定温度T1以下と判定された場合は、ステップS4において、電解電圧が設定電圧V1であるかを判定する。尚、電解電圧が設定電圧V1と完全に一致するとことは稀なので、設定電圧V1を間に挟むように上限電圧と下限電圧とを決めておき、温度センサ30aによる検出値が、上限電圧と下限電圧との間と定義される許容値内か否かを判定するようにする。ステップS4において、温度センサ30aによる検出値が設定電圧V1の許容値内になっていないと判定された場合は、ステップS5において、上述した動作で水素極2aを流通する水蒸気の流量又は温度の少なくとも一方を再度調整した後、ステップS2に戻る。ステップS4において、温度センサ30aによる検出値が設定電圧V1の許容値内になっていると判定された場合は、その状態で運転を継続する(ステップ6)。尚、ステップS2及びS3と、ステップS4及びS5とは、上述のように順番に行ってもよいし、SOEC2の特性が予め把握できていれば、同時に行ってもよい。
【0039】
<本開示の実施形態2に係る水素製造システムの変形例>
実施形態2では、SOEC2内の最高温度を低下させるために、水素極2aを流通する水蒸気の流量又は温度の少なくとも一方を制御していたが、この形態に限定するものではなく、酸素極2bを流通するガスの流量又は温度の少なくとも一方を制御してもよい。この形態を実施するための構成を
図10に示す。
【0040】
図10に示されるように、水素製造システム1には、SOEC2の温度を検出する温度検出装置30と、酸素極2bを流通するガスの流量又は温度の少なくとも一方を制御するガス制御装置33とが設けられている。温度検出装置30の具体的構成については、
図4の水素製造システム1に関して説明した構成と同じである。ガスの流量を制御するためのガス制御装置33は、コンプレッサ22の吐出量を調節する装置、例えば、コンプレッサ22の回転数やストロークを調節する装置であってもよい。また、ガスの温度を制御するためのガス制御装置33は、ガス供給ライン20に設けられた熱交換器34であってもよい。この熱交換器34は、ガス供給ライン20を流通するガスと任意の熱媒体とが熱交換するように構成されており、例えば熱媒体の流量を制御することによりガスと熱媒体との熱交換量が変化して、ガスの温度を調節することができるものである。尚、ガス制御装置33は、ガスの流量を制御するための構成と、ガスの温度を制御するための構成とのいずれか一方を備えてもよいし、両方の構成を備えていてもよい。
【0041】
この変形例においても、
図6の水素製造システム1に関して説明した動作と同じように、SOEC2内の最高温度と最低温度との温度差が小さい温度分布C(
図8参照)に変化させる場合には、制御装置32はガス制御装置33を駆動させて、酸素極2bに流入するガスの流量を増加させる。また、酸素極2bに流入するガスの温度を低下させてSOEC2内の温度分布全体の温度を低下させる場合には、制御装置32はガス制御装置33を駆動させて、熱交換器34を流通する熱媒体の流量を維持して熱交換器34の低温側流体の流量(例えばボイラ5aへの給水流量)を増加させることにより、酸素極2bに流入する空気の温度を低下させることができ、SOEC2内に形成された温度分布を、作動温度が全体的に低下した温度分布B(
図8参照)に変化させることができる。酸素極2bを流通するガスの流量及び温度の両方の制御を同時に又は順次に(どちらが先か後かを問わない)行ってもよい。
【0042】
この変形例においても、SOEC2の温度に基づいて酸素極2bを流通するガスの流量又は温度の少なくとも一方を制御することにより、SOEC2内の温度分布が変化し、最高温度を低下させることができるので、SOEC2の電解電流を一定に保ったまま、設定電圧で水蒸気の電気分解を継続するとともにSOEC2が局所的に耐熱温度T0を超えてしまう状態を回避することができる。尚、水素極2aを流通する水蒸気の流量又は温度の少なくとも一方を制御することと、酸素極2bを流通するガスの流量又は温度の少なくとも一方を制御することとを同時に行ってもよい。
【0043】
図11に示されるように、水蒸気排出ライン11から分岐して再び接続するように構成されたバイパスライン47と、バイパスライン47を流通する水蒸気とボイラ5aに流入する前の熱媒体とを熱交換させる熱交換器48を設けてもよい。この変形例では、熱媒体ライン15を流通する熱媒体の流量を制御するために、例えば、熱媒体ライン15にポンプ19が設けられ、ボイラ5aへ供給する熱媒体の温度を制御するために、例えば、水蒸気排出ライン11にバイパスライン17の両端が接続する位置の間で水蒸気排出ライン11に流量調節弁18が設けられる。ポンプ19及び熱交換器48により熱媒体の循環流量とボイラ5aに供給する熱媒体の温度とを制御することによって、電解性能に直接影響を与える因子、すなわち、水素極2aへ供給する水蒸気の流量や温度を所定の値に設定しつつ、SOEC2の運転温度を許容値内に維持することができるので、要求された電解電流やSOEC2の性能の変化に応じて安定した運転が可能となる。
【0044】
図12に示される変形例は、
図11に示される変形例に対して、熱媒体が余剰発熱回収装置4とボイラ5aとの間を循環するのではなく、熱媒体ライン15が熱交換器48を通過するように構成されて、熱媒体がボイラ5aと熱交換器48との間を循環するように変更したものである。この変形例は、SOEC2の構成を変更する必要はなく、水素極2aへ供給する水蒸気の流量及び温度を調整することで、SOEC2の運転温度を許容値内に調整できるので、既存のSOEC2を用いた水素製造システム1においても本開示の発明を容易に適用することができる。
【0045】
図11及び12に記載された変形例はいずれも、水蒸気排出ライン11を流通する水蒸気から余剰発熱を回収又は系外へ放出する構成であったが、これらと同様にして、ガス排出ライン21を流通する排ガスから余剰発熱を回収又は系外へ放出するように構成することもできる。
【0046】
(実施形態3)
次に、本開示の実施形態3に係る水素製造システムについて説明する。実施形態3に係る水素製造システムは、実施形態2に対して、SOEC2の経時劣化に対応可能にしたものである。尚、実施形態3において、実施形態2の構成要件と同じものは同じ参照符号を付し、その詳細な説明は省略する。また、構成上の矛盾がない限り、実施形態1及び2のそれぞれで説明した変形例の構成を実施形態3にも適用可能である。
【0047】
<本開示の実施形態3に係る水素製造システムの構成>
図13に示されるように、本開示の実施形態3に係る水素製造システム1には、SOEC2を流れる電流値を調整するための電流値調整装置である制御装置32が設けられ、制御装置32は、電源装置3と電気的に又は無線通信回線等を介して接続されている。その他の構成は実施形態2と同じである。
【0048】
<本開示の実施形態3に係る水素製造システムの動作>
SOEC2は、継続的な使用による内部の電気部品の劣化に伴い内部抵抗が上昇するため、SOEC2からの発熱量が運転初期に比べて増加する。この場合、実施形態2の動作により、各構成機器の設計範囲においてはSOEC2内の最高温度を低下させることができるが、SOEC2の劣化の程度によっては、最高温度がSOEC2の耐熱温度に達するおそれを解消できない場合があるし、その状態が解消されたとしても、電解電圧が設定電圧よりも高い状態となり、水素変換効率が低下することとなる場合がある。このような場合、制御装置32は、温度センサ30aによる検出値に基づいて、SOEC2に供給する電流を低下させる。これにより、SOEC2における電解量は低下するものの発熱量が低下するので、SOEC2内の温度が低下し、その結果、SOEC2内の最高温度を耐熱温度よりも低い温度にすることができるし、電解電圧を設定電圧に低下させることができるので、水素変換効率を電気分解の開始初期(内部抵抗が上昇する前)の状態と同等に維持することができる。
【0049】
また、SOEC2の経時劣化により電解電圧が初期の設定電圧よりも高い状態となる場合、SOEC2に供給される電流を低下させることにより、電解電圧を設定電圧に低下させることで、SOEC2をより長寿命化することができる。
【0050】
<本開示の実施形態3に係る水素製造システムの変形例>
実施形態3では、実施形態2の
図6の構成に対して電流値の調整を可能にしているが、実施形態2の変形例の
図10~12のそれぞれの構成に対して電流値の調整を可能にしてもよい。
【0051】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0052】
[1]一の態様に係る水素製造システムは、
水蒸気を電気分解する固体酸化物形電解セル(SOEC)(2)と、
前記SOEC(2)に熱中立電圧以上の電圧を印加する電源装置(3)と、
前記SOEC(2)の余剰発熱を用いて水を加熱することにより、前記SOEC(2)に供給される前記水蒸気の少なくとも一部を生成する水蒸気生成装置(5)と
を備える。
【0053】
本開示の水素製造システムによれば、水蒸気の生成に必要な熱量の少なくとも一部をSOECにおける水蒸気の電気分解時に発生する余剰発熱で賄うことにより、水蒸気の生成のために水素製造システムの外部から供給する熱量を削減する又は不要とすることができるので、さらに、電機ボイラ等の追加機器及びそれに付随する熱交換器等の機器を削減できるので、水素製造システムの設備費及び運転コストを低減することができる。
【0054】
[2]別の態様に係る水素製造システムは、[1]の水素製造システムであって、
前記電圧は、前記熱中立電圧よりも0.05V~0.5V高い電圧である。
【0055】
このような構成によれば、水蒸気の生成に必要な熱量に相当する電力だけ過剰にSOECに供給されるので、水素製造システムにおける消費電力の上昇を抑制することができる。
【0056】
[3]さらに別の態様に係る水素製造システムは、[1]または[2]の水素製造システムであって、
前記SOEC(2)の余剰発熱を熱媒体に回収する排熱回収装置(4)を備え、
前記水蒸気生成装置(5)は、前記熱媒体と前記水とを熱交換することにより、前記SOEC(2)に供給される前記水蒸気の少なくとも一部を生成するように構成されている。
【0057】
このような構成によれば、水蒸気の生成に必要な熱量の少なくとも一部をSOECにおける水蒸気の電気分解時に発生する余剰発熱で賄うことにより、水蒸気の生成のために水素製造システムの外部から供給する熱量を削減する又は不要とすることができるので、さらに、電機ボイラ等の追加機器及びそれに付随する熱交換器等の機器を削減できるので、水素製造システムの設備費及び運転コストを低減することができる。
【0058】
[4]さらに別の態様に係る水素製造システムは、[3]の水素製造システムであって、
前記余剰発熱回収装置(4)は、前記SOEC(2)を冷却する前記熱媒体が流通する流路(7)を備える。
【0059】
このような構成によれば、SOECが熱媒体により冷却されるので、水素製造システムの稼働中におけるSOECの温度の上昇を抑制することができる。
【0060】
[5]さらに別の態様に係る水素製造システムは、[3]の水素製造システムであって、
前記SOEC(2)は、前記水蒸気が流入する水素極(2a)を備え、
前記余剰発熱回収装置(4)は、前記水素極(2a)から流出した水蒸気と前記熱媒体とが熱交換する熱交換器(16)を備える。
【0061】
このような構成によれば、SOECの構成を変更せずに、水素極から排出された水蒸気が流通する水蒸気排出ラインに熱交換器を設ければよいので、既存のSOECを用いた水素製造システムにおいても本開示の発明を容易に適用することができる。
【0062】
[6]さらに別の態様に係る水素製造システムは、[3]の水素製造システムであって、
前記SOEC(2)は、酸素を含むガスが流入する酸素極(2b)を備え、
前記余剰発熱回収装置(4)は、前記酸素極(2b)から流出した酸化性の排ガスと前記熱媒体とが熱交換する熱交換器(24)を備える。
【0063】
このような構成によれば、SOECの構成を変更せずに、酸素極から排出された排ガスが流通するガス排出ラインに熱交換器を設ければよいので、既存のSOECを用いた水素製造システムにおいても本開示の発明を容易に適用することができる。
【0064】
[7]さらに別の態様に係る水素製造システムは、[1]または[2]の水素製造システムであって、
前記SOEC(2)は、前記水蒸気が流入する水素極(2a)と、酸素を含むガスが流入する酸素極(2b)とを備え、
前記水蒸気生成装置(5)は、前記水と前記水素極(2a)から流出した水蒸気又は前記酸素極(2b)から流出した排ガスとが熱交換することにより、前記SOEC(2)に供給される前記水蒸気の少なくとも一部を生成するように構成されている。
【0065】
このような構成によれば、SOECの構成を変更する必要がないので、既存のSOECを用いた水素製造システムにおいても本開示の発明を容易に適用することができる。
【0066】
[8]さらに別の態様に係る水素製造システムは、[5]の水素製造システムであって、
前記SOEC(2)の温度を検出する温度検出装置(30)と、
前記水素極(2a)を流通する前記水蒸気の流量又は温度の少なくとも一方を制御する水蒸気制御装置(31)と
を備える。
【0067】
このような構成によれば、SOECの温度に基づいて水素極を流通する水蒸気の流量又は温度の少なくとも一方を制御することにより、SOEC内の温度分布を調整し、SOECに印加される電圧を設定電圧に制御するとともに、SOECの温度を耐熱温度以下に制御することができる。
【0068】
[9]さらに別の態様に係る水素製造システムは、[8]の水素製造システムであって、
前記SOEC(2)を流れる電流値を調整する電流値調整装置(制御装置32)を備える。
【0069】
このような構成によれば、SOECの経時劣化により電解電圧が設定電圧よりも高い状態となる場合、SOEC2に供給される電流を低下させることにより、電解電圧を設定電圧に低下させることができる。
【0070】
[10]さらに別の態様に係る水素製造システムは、[6]の水素製造システムであって、
前記SOEC(2)の温度を検出する温度検出装置(30)と、
前記酸素極(2b)を流通する前記ガスの流量又は温度の少なくとも一方を制御するガス制御装置(33)と
を備える。
【0071】
このような構成によれば、SOECの温度に基づいて酸素極を流通するガスの流量又は温度の少なくとも一方を制御することにより、SOEC内の温度分布を調整し、SOECに印加される電圧を設定電圧に制御するとともに、SOECの温度を耐熱温度以下に制御することができる。
【0072】
[11]さらに別の態様に係る水素製造システムは、[10]の水素製造システムであって、
前記SOEC(2)を流れる電流値を調整する電流値調整装置(制御装置32)を備える。
【0073】
このような構成によれば、SOECの経時劣化により電解電圧が設定電圧よりも高い状態となる場合、SOEC2に供給される電流を低下させることにより、電解電圧を設定電圧に低下させることができる。
【0074】
[12]さらに別の態様に係る水素製造システムは、[7]の水素製造システムであって、
前記SOEC(2)の温度を検出する温度検出装置(30)と、
前記水素極(2a)を流通する前記水蒸気の流量又は温度の少なくとも一方を制御する水蒸気制御装置(31)、若しくは、前記酸素極(2b)に流入する前記ガスの流量又は温度の少なくとも一方を制御するガス制御装置(33)と
を備える。
【0075】
このような構成によれば、SOECの温度に基づいて水素極を流通する水蒸気の流量又は温度の少なくとも一方、若しくは、酸素極に流入するガスの流量又は温度の少なくとも一方を制御することにより、SOEC内の温度分布を調整し、SOECに印加される電圧を設定電圧に制御するとともに、SOECの温度を耐熱温度以下に制御することができる。
【0076】
[13]さらに別の態様に係る水素製造システムは、[12]の水素製造システムであって、
前記SOEC(2)を流れる電流値を調整する電流値調整装置(制御装置32)を備える。
【0077】
このような構成によれば、SOECの経時劣化により電解電圧が設定電圧よりも高い状態となる場合、SOEC2に供給される電流を低下させることにより、電解電圧を設定電圧に低下させることができる。
【0078】
[14]一の態様に係る水素製造システムの運転方法は、
[8]の水素製造システム(1)の運転方法であって、
前記温度検出装置(30)による検出値に基づいて、前記水蒸気制御装置(31)によって、前記水素極(2a)を流通する前記水蒸気の流量又は温度の少なくとも一方を制御する。
【0079】
この運転方法によれば、SOECの温度に基づいて水素極を流通する水蒸気の流量又は温度の少なくとも一方を制御することにより、SOEC内の温度分布を調整し、SOECに印加される電圧を設定電圧に制御するとともに、SOECの温度を耐熱温度以下に制御することができる。
【0080】
[15]一の態様に係る水素製造システムの運転方法は、
[10]の水素製造システム(1)の運転方法であって、
前記温度検出装置(30)による検出値に基づいて、前記ガス制御装置(33)によって、前記酸素極(2b)を流通する前記ガスの流量又は温度の少なくとも一方を制御する。
【0081】
このような構成によれば、SOECの温度に基づいて酸素極を流通するガスの流量又は温度の少なくとも一方を制御することにより、SOEC内の温度分布を調整し、SOECに印加される電圧を設定電圧に制御するとともに、SOECの温度を耐熱温度以下に制御することができる。
【0082】
[16]一の態様に係る水素製造システムの運転方法は、
[12]の水素製造システム(1)の運転方法であって、
前記温度検出装置(30)による検出値に基づいて、前記水蒸気制御装置(31)又はガス制御装置(33)によって、前記水素極(2a)を流通する前記水蒸気の流量又は温度の少なくとも一方、若しくは、前記酸素極(2b)に流入する前記ガスの流量又は温度の少なくとも一方を制御する。
【0083】
この運転方法によれば、SOECの温度に基づいて水素極を流通する水蒸気の流量又は温度の少なくとも一方、若しくは、酸素極に流入するガスの流量又は温度の少なくとも一方を制御することにより、SOEC内の温度分布を調整し、SOECに印加される電圧を設定電圧に制御するとともに、SOECの温度を耐熱温度以下に制御することができる。
【0084】
[17]別の態様に係る水素製造システムの運転方法は、
[13]の水素製造システム(1)の運転方法であって、
前記温度検出装置(30)による検出値に基づいて、前記電流値調整御装置(制御装置32)によって、前記SOEC(2)を流れる電流値を調整する。
【0085】
この運転方法によれば、SOECの経時劣化により電解電圧が設定電圧よりも高い状態となる場合、SOEC2に供給される電流を低下させることにより、電解電圧を設定電圧に低下させることができる。
【符号の説明】
【0086】
1 水素製造システム
2 固体酸化物形電解セル(SOEC)
2a 水素極
2b 酸素極
3 電源装置
4 余剰発熱回収装置
5 水蒸気生成装置
7 流路
16 熱交換器
24 熱交換器
30 温度検出装置
31 水蒸気制御装置
32 制御装置(電流値調整御装置)
33 ガス制御装置