(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】RFID読み取り装置用モジュラーアンテナ
(51)【国際特許分類】
H01Q 19/02 20060101AFI20241008BHJP
H01Q 13/08 20060101ALI20241008BHJP
H01P 11/00 20060101ALN20241008BHJP
【FI】
H01Q19/02
H01Q13/08
H01P11/00
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023083803
(22)【出願日】2023-05-22
【審査請求日】2023-06-19
(32)【優先日】2022-08-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591005615
【氏名又は名称】ジック アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フローリアン プデンツ
【審査官】岸田 伸太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-226605(JP,A)
【文献】特開2006-042059(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0027298(US,A1)
【文献】米国特許第09904822(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 19/02
H01Q 13/08
H01P 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
RFID読み取り装置(12)のための所定の寸法とアンテナ特性を持つモジュラーアンテナ(10)を製造する方法であって、まず互いに同じ種類の多数のベース素子(20)が製造され、各ベース素子上に、少なくとも1つの給電点を有する結合素子(26)と、高周波配線用の接続部(24)と、該接続部(24)と前記給電点の間の高周波接続部(28a~b)とが配置されており、前記ベース素子(20)の1つが次にケーシング(34)に填め込まれる方法において、
多数の異なるケーシング(34)が用意され、前記ベース素子(20)をケーシング(34)に填め込むために、前記所定の寸法を有するケーシング(34)が選択されること、
及び、多数の異なる放射器(22)が用意され、いずれの放射器も選択されない、又は、前記放射器(22)の1つが選択されて前記結合素子(26)に対する一定の結合位置において前記ケーシング(34)に填め込まれることで、
その時々の選択により前記所定の寸法とアンテナ特性を持つモジュラーアンテナ(10)を製造すること
を特徴とする方法。
【請求項2】
前記多数の異なるケーシング(34)が、サイズ、形状、前記ベース素子(20)の取り付け位置、及び/又は、放射器(22)の取り付け位置に関して互いに異なっている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ケーシング部品(34、40)が追加される、取り外される又は交換される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記多数の異なる放射器(22)がサイズ、形状、前記結合素子(26)に対する予定された横方向位置、前記結合素子(26)に対する予定された距離、及び/又は、追加の誘電体材料において互いに異なっている、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
用意された前記放射器(22)の少なくとも幾つかが専用のボード上に配置されている、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
選択された前記放射器(22)が前記ケーシング(34)の内壁に取り付けられる、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
少なくとも1つの追加の共振器(22a~b)が前記ケーシング(34、40)に填め込まれる、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
導電性の面が接地面(34)として前記ケーシング(34)内に入れられる、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記結合素子(26)がアンテナパッチとして構成されている、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記ベース素子(20)上に電力分配網(30)が
、偏波制御論理回路と一緒に配置される、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記結合素子(26)が前記ベース素子(20)の一方の面に配置され、前記電力分配網(30)が他方の面に配置されている、請求項
10に記載の方法。
【請求項12】
前記接続部が、前記
モジュラーアンテナ(10)を含むRFID読み取り装置(12)を製造するために、トランシーバ(14)を通じてRFID制御及び評価ユニット(16)と接続される、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
RFID読み取り装置(12)のための所定の寸法とアンテナ特性を持つモジュラーアンテナ(10)、特に請求項1~3のいずれかに記載の方法で製造されるものであって、該モジュラーアンテナ(10)がケーシング(34)と該ケーシング(34)に填め込まれたベース素子(20)とを備え、該ベース素子(20)上に、少なくとも1つの給電点を有する結合素子(26)と、高周波配線用の接続部(24)と、該接続部(24)と前記給電点の間の高周波接続部(28a~b)とが配置されているものにおいて、
前記ベース素子(20)が多数の異なるケーシング(34)から選ばれた所定の寸法のケーシング(34)に填め込まれていること、及び、前記ケーシング(34)に放射器が填め込まれていない、又は、複数の異なる放射器(22)から選択された放射器(22)が前記結合素子(26)に対して一定の結合距離に填め込まれており、該放射器(22)が前記ベース素子(20)及び前記ケーシング(34)と一緒に作用して所定のアンテナ特性を示すこと
を特徴とするモジュラーアンテナ(10)。
【請求項14】
請求項13に記載のアンテナ(10)を含み、前記接続部(24)と接続されたトランシーバ(14)及び該トランシーバ(14)と接続されたRFID制御及び評価ユニット(16)を備える、RFID読み取り装置(12)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1及び13のプレアンブルにそれぞれ記載のモジュラーアンテナの製造方法及びモジュラーアンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
RFID読み取り装置は物体及び品物の識別に役立ち、とりわけ物流の自動化に利用されている。識別場所において、特に品物の所有者の変更や輸送手段の変更がある場合に、品物に固定されたRFIDトランスポンダが読み取られ、場合によっては逆に該トランスポンダへ情報が書き込まれる。得られた情報は商品及び製品の転送及び選別を制御するために用いられる。自動識別のための重要な応用には、小包発送業者等の物流配送センター、又は空港での手荷物チェックインがある。
【0003】
RFID読み取り装置は、そのアンテナを通じて電磁波の放射により読み取り領域内にあるRFIDトランスポンダを励起してそこに保存された情報を放射させ、それに対応するトランスポンダ信号を受信して評価する。そのためにしばしばUHF周波数域(極超短波)が用いられる。なぜなら、この帯域にはISO18000-6規格で定められた枠組みがあり、加えて数ミリメートルから数メートルまで様々な距離でトランスポンダを読み取ることができるからである。UHF-RFIDトランスポンダは非常にコンパクトな構造形態で利用可能であり、従って非常に小さい物体にも取り付けることができる。
【0004】
使用状況毎に特性及び構造形態の異なるRFID読み取り装置が必要となる。なぜなら、例えばRFIDトランスポンダは様々な方向から様々な距離で読み取られる必要があり、またRFID読み取り装置のために利用可能な構造空間の大きさも様々だからである。そこで従来から様々な応用のためにそれぞれの機器の変形を含む製品ファミリーが提供されている。機器の変形のためにこれまではそれぞれ独自のアンテナが必要とされていた。アンテナ取り付けに利用できる体積はアンテナが持ち得る特性に大きく影響する。それ故、与えられた体積に対してアンテナ利得等に関する最高のアンテナ特性を達成するために、それぞれ寸法の異なるアンテナが開発される。その開発には構造形態に特別に合わせた個別のアンテナ部品が含まれる。そうすると膨大な数の異なる部品が生じ、よってアンテナ型毎に部品を個々に新たに最適化するため長い開発時間がかかり、加えて、製品寿命を通じて製品の手入れ、保管、及び材料の入手可能性に関するコストが増大する。
【0005】
特許文献1は追加の共振器によりどのようにダイポールアンテナの指向性を改善できるかを記載している。これにより基本的な最適化の方法が与えられ、それは先ほど説明した従来の開発でも利用できるが、RFID読み取り装置の特別な構造形態毎にそれぞれアンテナを個別に最適化するコストはその方法では低減されない。
【0006】
特許文献2はスリットと突出部から成る複雑な構造を有する平面状の共振器素子を備えるパッチアンテナを開示している。特許文献3から、電磁信号を送給及び/又は受信するための、2次元的なパターンに折り畳まれたスリット構造を有する別のパッチアンテナが知られている。これらはRFID読み取り装置のために最適化されたアンテナを紹介する文献の2つの例である。その最適化は機器に固有であるから、先に述べたようなより大きな製品ファミリーになると開発及び製品の手入れに多大なコストが生じる。
【0007】
特許文献4に、一方の面にアンテナ素子、他方の面に接地素子が配置された誘電体基板を有するアンテナであって、前記アンテナ素子から間隔を置いて前記接地素子よりも大きい金属板を有するものが開示されている。RFID読み取り装置への特別な適合化への言及はなく、ましてや製品ファミリーへの言及はない。
【0008】
特許文献5は、金属層、誘電体層及び金属製の接地層を有する第1モジュールと、枠を有する第2モジュールとを有するモジュール式パッチアンテナに関するものである。第2モジュールには代わりに誘電体層のみ又は第1モジュールと同じ3つの層を設けることもできる。これは極めて限られた柔軟性しか生み出さず、RFID読み取り装置の製品ファミリーにとって十分ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】US 1 745 342
【文献】EP 2 790 269 A1
【文献】EP 2 811 575 A1
【文献】EP 3 553 886 A1
【文献】WO 2005/034290 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
故に本発明の課題はRFID読み取り装置用の改善されたアンテナを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この課題は請求項1及び13にそれぞれ記載のモジュラーアンテナの製造方法及びモジュラーアンテナにより解決される。本モジュラーアンテナは所定又は所望の寸法並びに所定又は所望のアンテナ特性で製造される。前記寸法は本アンテナ又は該アンテナを含むRFID読み取り装置の特定の構造形態を許容し、同時に特定の取り付け位置も許容する。アンテナ特性には例えば周波数域、利得(ゲイン)、ビーム幅、軸率、前後電界比、整合、及び/又は、電圧定在波比(VSWR)が含まれる。
【0012】
互いに同じ種類のベース素子が多数製造される。加えて、各ベース素子上に結合素子と接続部が高周波接続部を間に挟んで配置される。結合素子は組み立て後のアンテナにおいて放射器を通じてRFID信号を放射したりそれを受信したりする。接続部においてアンテナは高周波配線を通じてトランシーバに接続することができる。高周波接続部(例えば少なくとも1本のマイクロストリップライン)は結合素子と接続部の間で高周波信号を双方向に転送する。この接続は直接的でもよいし、そうでなければ結合素子と接続部の間に少なくとも1つの更に別の素子が設けられる。ベース素子は特に、相応に装備されたボードである。
【0013】
こうして作り出されたベース素子の1つが次にケーシングに填め込まれる。これは少し時間をおいて別の場所で行うことができ、ベース素子の製造とそのようなベース素子からのアンテナの組立ては原則的に切り離されている。実施形態に応じて、前記ケーシングは例えば外部アンテナのアンテナケーシング、又は内部アンテナを有するRFID読み取り装置のケーシングである。
【0014】
本発明の出発点となる基本思想は、互いに同じ種類の複数のベース素子の1つから成るモジュラーアンテナに、様々なケーシング又は放射器を用いることによって個別の特性を付与することにある。それぞれベース素子を収容できる多数の異なるケーシングが用意される。特定のケーシングの選択により所定の構造形態又は所定の寸法が達せられる。またそれに応じて、それぞれベース素子又はその結合素子と共働することができる多数の異なる放射器が用意される。各放射器がどのケーシングにも合うことが好ましいが、前記放射器の少なくとも1つが前記ケーシングのうち特定のものだけに填め込み可能であること、即ち、そのときに放射器とケーシングの特定の組み合わせのみが可能であることも考えられる。放射器のうち1つが選ばれ、結合素子に対して一定の結合位置、特に一定の結合距離においてケーシングに填め込まれる。放射器は好ましくは非導電的に結合される。
【0015】
1つの可能な選択は放射器をなくすことである。その場合、結合素子が直接RFID信号を放射したり受信したりする。このようにすると十分なアンテナ特性が得られないことがよくあるため、やはり放射器を選択して使用することが好ましい。
【0016】
ケーシングと放射器の選択により、所定のアンテナ特性を持つ所定の構造形態又は寸法のモジュラーアンテナが製造される。この製造は装備変更という意味に解釈することもできる。なぜならその場合も同様に所定の寸法とアンテナ特性を持つ新たなアンテナができるからである。また、好ましくは工具なしで、ベース素子が新たなケーシングに填め込まれる、ケーシングが改造される、及び/又は、別の放射器がケーシングに填め込まれる。
【0017】
本発明には非常に簡単、柔軟且つ安価なアンテナ設計が可能になるという利点がある。アンテナの最も複雑な部分であるベース素子は一度開発するだけでよい。それは、初めから複数の周波数域をカバーしていて、様々な構造形態に使用できることが好ましい。個々に開発されるアンテナに比べてより大量に、よってより安価に製造することができる。ケーシング及び放射器のような個々の部品だけを個別に開発するだけでよい。このような部品が新たなアンテナの設計の際に再利用できる可能性も若干ある。ケーシングの様々な形態により、目的とする応用の様々な要求、特に構造形態、取り付け位置及び利用可能な構造空間に関する要求に対応することができる。可能なアンテナ特性も同様に、ケーシングの特性、放射器の特性及び後述するその他の可能な個別の修正によって柔軟に変えられる。モジュール式のアプローチにより、既に使用されているRFID読み取り装置に対して、例えば読み取り射程を長くする必要があるからといった要求の変化に適応すべく、後から付属部品を通じて事後的な装備変更を行うことさえ可能である。
【0018】
前記多数の異なるケーシングは、サイズ、形状、ベース素子の取り付け位置、及び/又は、放射器の取り付け位置に関して互いに異なっていることが好ましい。サイズ又は形状によりアンテナの構造形態及び寸法が決まるため、適切なケーシングの選択により所定の寸法が守られる。ベース素子及び放射器の取り付け位置により互いの結合位置並びにケーシングに対する位置が確定する。加えて、放射器の取り付け位置により、どの放射器が当該ケーシング内で使用可能であるかを決めることができる。
【0019】
好ましくは、ケーシング部品が追加される、取り外される又は交換される。これによれば、ケーシング全体を交換せずにケーシング若しくはアンテナが改造される。一例として、放射器のための少なくとも1つの取り付け位置を有するカバーの載置又は取り外しがある。こうしてケーシング部品を用いてアンテナの装備を変更する又は価値を高めることができる。
【0020】
前記多数の異なる放射器はサイズ、形状、結合素子に対する予定された横方向位置、結合素子に対する予定された距離、及び/又は、追加の誘電体材料において互いに異なっていることが好ましい。サイズと形状は、当該放射器を用いて得られるアンテナ特性、並びに、使用可能なケーシング及び該ケーシング内で放射器を填め込むことができる取り付け位置に影響を及ぼす。結合素子に対する予定された横方向位置及び予定された距離はケーシングに用意された取り付け位置に対応する。放射器の表側及び又は裏側の面上の誘電体材料がアンテナ特性を更に修正する。
【0021】
用意された放射器の少なくとも幾つかは専用のボード上に配置されていることが好ましい。特にこれにより異なる放射器を同じ種類のボード上に配置することが可能になる。そうすればケーシング内の予定された取り付け位置が様々な放射器に対して簡単に同じ位置になることができ、ケーシングへの填め込みが標準化される。放射器は結合素子との電気的な接続を持っていないこと、従って前記ボードをベース素子又はそのボードと電気的に接触させる必要がないことが好ましい。
【0022】
選択された放射器はケーシングの内壁に取り付けられることが好ましい。例えば、金属箔状の放射器が内壁に貼り付けられる。用意された多数の異なる放射器は、一種類のボード又は複数種類のボード上のもの、ボードのないもの、及びケーシングの内壁に直接取り付けるためのものから成る任意の混成とすることができる。
【0023】
好ましくは、少なくとも1つの追加の共振器がケーシングに填め込まれる。ケーシングはそのために少なくとも1つの適切な取り付け位置を備えていることが好ましい。共振器は放射器を補助するか、若しくは放射器と該少なくとも1つの共振器が一緒に機能的に本来の放射器となる。従って、前記少なくとも1つの追加の共振器は所定のアンテナ特性を得るための自由度を提供する。少なくとも1つの追加の共振器の使用は特にアンテナの装備変更又は価値向上のために行うことができる。
【0024】
好ましくは導電性の面が接地面(ground plane)としてケーシング内に入れられる。ケーシングはそのために少なくとも1つの適切な取り付け位置を備えていることが好ましい。接地面は結合素子を有するベース素子の導電性の面から電気的に絶縁された第2の導電層を成す。接地面はベース素子の一部(例えばベース素子の多層ボードの1つの層)又はケーシングの一部としておくことができる。これは最初に入れられる接地面の代わりであるか、或いはこれらの接地面が互いに補い合う。複数の接地面の間には良好な導電性の接続がなければならない。その場合、前記導電性の面はベース素子及び/又はケーシングの接地面を実質的に拡大する。一般に、接地面又は結合された接地面のサイズ、形状及び位置はアンテナ特性に影響を及ぼし、特にアンテナ利得を改善する。従って接地面は所定のアンテナ特性を得るための更に別の自由度を提供する。
【0025】
結合素子はアンテナパッチとして構成されていることが好ましい。これにより本アンテナはモジュール式パッチアンテナとなる。アンテナパッチは、多様なアンテナ特性をカバーするために、前記用意された多数の放射器の全ての放射器と調和するサイズ、形状、位置及び他の形態を有している。
【0026】
ベース素子上には電力分配網が、特に偏波制御論理回路と一緒に配置されることが好ましい。電力分配網又は給電網は接続部と結合素子の間で高周波接続部(今度は2つに分かれている)を通じて接続される。結合素子は今度は複数の給電点を備えている。偏波制御論理回路(例えば複数の高周波配線と高周波スイッチを備えるもの)により給電点に特定の電力及び位相を供給することができる。これによりアンテナを様々な偏波特性で駆動することができ、特に水平及び垂直等の優先方向への直線偏波又は時計回り若しくは反時計回りの円偏波をさせることができる。
【0027】
結合素子がベース素子の一方の面に配置され、電力分配網が他方の面に配置されていることが好ましい。これによりベース素子を非常にコンパクトに構成することができ、特に結合素子は実質的にベース素子の全面を利用することができる。
【0028】
接続部は、前記アンテナを含むRFID読み取り装置を製造するために、トランシーバを通じてRFID制御及び評価ユニットと接続されることが好ましい。これにより、実施形態に応じて、前記アンテナがRFID読み取り装置の外部アンテナとしてトランシーバと所要のRFID制御論理回路により駆動されるか、或いはトランシーバとRFID制御論理回路がケーシング内に組み込まれることで内部アンテナを持つRFID読み取り装置が作り上げられる。アンテナはRFID読み取り装置によってRFIDトランスポンダへRFID信号を送信するため及び/又はRFIDトランスポンダからRFID読み取り装置信号を受信するために用いられる。RFID制御及び評価ユニットは、マイクロプロセッサ、FPGA(Field Programmable Gate Array)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等のデジタル計算部品を少なくとも1つ備えており、RFID情報のRFID信号への符号化及び/又はRFID信号からのRFID情報の読み取りを行うように構成されている。トランシーバとRFID制御及び評価ユニットは共通の計算チップであったり、少なくとも部分的に計算チップを共用したりできる。このようなRFID読み取り装置は、ベルトコンベア又は読み取りポータルの読み取り領域の付近に固定的に取り付けて、該ベルトコンベア上で又は該読み取りポータルを通って移動する少なくとも1つのRFIDトランスポンダの読み取りのために用いることが好ましい。本発明に係るアンテナの基本構成のおかげで、読み取りでの使用に適したモジュラーアンテナを製造することが簡単にできる。
【0029】
本発明に係るRFID読み取り装置用モジュラーアンテナは、好ましくは本発明に係る方法で製造されたものであり、適切なケーシングと放射器の選択により所定の寸法とアンテナ特性を備えている。特に好ましくは、トランシーバとRFID制御及び評価ユニットとを備えるRFID読み取り装置が設けられ、それが前記モジュラーアンテナを内部又は外部アンテナとして利用する。製造方法について記載した全ての形態、実施形態及び従属請求項はその趣旨をくんで本発明に係るモジュラーアンテナ及び本発明に係るRFID読み取り装置にも転用可能であり、逆も然りである。
【0030】
以下、本発明について、更なる特徴及び利点をも考慮しつつ、模範的な実施形態に基づき、添付の図面を参照しながら詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】モジュラーアンテナを有するRFID読み取り装置の概略図。
【
図2】モジュラーアンテナを製造するためのベース素子及びそれと組み合わせ可能な様々な放射器の概略図。
【
図3】ベース素子とそのために選択された放射器から成るモジュラーアンテナの概略的な3次元図。
【
図5a】コンパクトなケーシングとコンパクトな放射器を有するモジュラーアンテナの変形Aの概略的な3次元図。
【
図5b】より大きなケーシングとコンパクトな放射器を有するモジュラーアンテナの変形Bの概略的な3次元図。
【
図5c】より大きなケーシングとより大きな放射器を有するモジュラーアンテナの変形Cの概略的な3次元図。
【
図6】
図5a~cに示した変形A~Cに対応した異なるアンテナ特性の概略図。
【
図7】結合素子として円形のアンテナパッチを有するベース素子の模範的な3次元図。
【
図8】変形Aのモジュラーアンテナの模範的な3次元図。
【
図10】変形Bのモジュラーアンテナの模範的な3次元図。
【
図11】変形Cのモジュラーアンテナの模範的な3次元図。
【
図13】変形A~Cのモジュラーアンテナの最大放射方向におけるアンテナ利得の周波数依存性の比較図。
【
図14】周波数が900MHzの場合の変形A~Cのモジュラーアンテナの指向性の比較図。
【
図15】模範的な載置式のパッチ型共振器を有するアンテナの3次元図。
【
図16】載置式のパッチ型共振器と追加的に継ぎ合わされた接地面とを有するアンテナの断面図。
【
図17】3つの共振器を有する別の模範的な載置式のカバーを有するアンテナの3次元図。
【
図18】3つの共振器を有する載置されたカバーと追加的に継ぎ合わされた接地面とを有するアンテナの3次元図。
【発明を実施するための形態】
【0032】
図1はRFID読み取り装置12内のモジュラーアンテナ10の概略図である。アンテナ10にはRFID読み取り装置12のトランシーバ14が接続され、該トランシーバには、アンテナ10を用いて受信されたRFID信号を評価したり情報をRFID信号としてトランスポンダに送ったりするために、制御及び評価ユニット16が接続されている。制御及び評価ユニット16は更にデータ交換やパラメータ設定等を行うために有線又は無線のインターフェイス18が接続されている。
【0033】
例えばISO18000-6に準拠したUHF周波数域(極超短波)用のRFID読み取り装置の機能の仕方そのものは公知であり、故に詳しい説明は行わない。本発明は、引き続き他の
図2~18を参照して詳しく説明するように、アンテナ10若しくはその製造に関するものである。図示した内部アンテナ10の代わりに外部アンテナも考えられ、その場合、トランシーバ14と制御及び評価ユニット16は、アンテナ10から切り離され、ケーブルを通じて接続された少なくとも1つの別のケーシング内に収納されている。
【0034】
図2はモジュラーアンテナ10を製造するためのベース素子20をそれと組み合わせ可能な様々な放射器22と共に概略的に描いている。ベース素子20上には、高周波配線(これによりアンテナ10をトランシーバ14に接続できる)のための接続部24、電気的に接続されていない別の素子(選択された放射器22等)に高周波信号を結合するための結合素子26、並びに接続部24と結合素子26の間の高周波接続部28a~bが配置されている。
【0035】
ベース素子20は例えば少なくとも1つの導電層を有するボードである。加えて、その層から絶縁された図示しない第2の導電層を接地面(ground plane)として備えることができる。小型の構造形態の場合、ベース素子20は、アンテナの多数の変形においてモジュラーアンテナ10の組立てに同じように利用できる部品をできるだけ数多く含むべきである。それ故、ベース素子20はモジュラーアンテナ10の特定の形態だけに合わせて最適化されるのではなく、むしろ、構造形態が異なっていても様々な組み込み状況と所望のアンテナ特性のために少なくとも十分良好に機能するように設計される。従って、同じベース素子20をより多くの個数で事前に製造して、多数の異なるモジュラーアンテナ10に使用することができ、それらが、選択された放射器22、ケーシング及び後述する別の追加素子のような更に別の部品を用いて個別化される。
【0036】
接続部24は、同軸ケーブル用のプラグ又はブッシュとして、導波管用の結合構造として、又は、はんだ結合若しくはプラグ結合(特にトランシーバ14のボードへの結合)用の接触面として設計することができる。高周波接続部28は好ましくは少なくとも1本のマイクロストリップラインを備えている。任意選択で接続部24と結合素子26の間に更に電力分配網30が設けられており、その場合、高周波接続部28は2つの部分から成り、一方では接続部24を電力分配網30と接続し、他方では今度は複数のポート32とそれに付属する経路を通じて電力分配網30を結合素子26と接続する。結合素子26、特にアンテナパッチは、ベース素子20ができるだけ幅広く利用可能であることに合わせて、様々な放射器22と一緒に作用するように設計されている。高周波信号はベース素子20上で結合素子26へ転送され、そこで少なくとも1つの放射器22等の金属的な構造内に結合される。指向性を持つ電磁信号の放射がベース素子20又はその接地面から発生する。任意選択の電力分配網30が設けられている場合、結合素子26はポート32に対応して複数の給電点を備えている。例えば高周波スイッチによる高周波信号の分配は、様々な偏波の電磁波を発生させる又は受信するために電力分配網30の偏波論理回路によって利用することができる。
【0037】
放射器22は、ベース素子20との導電性の接触を必要としない別のボード上で実現することができる。代わりに、いずれにせよ存在する部品に結合される金属製の構造物も考えられる。例として覆い又はケーシングの内面の自己接着性の金属被覆フィルムがある。例えば、追加の誘電体又は冒頭に挙げた特許文献2にあるようなコンパクトなアンテナ構造を用いることにより、同じ共振周波数で異なるサイズの放射器22を実現できる。
【0038】
その時々の同じベース素子20を様々な放射器22から選択された少なくとも1つの放射器と組み合わせることにより、モジュラーアンテナ10の様々なバリエーションのアンテナパラメータ又はアンテナ特性が得られる。その際、放射器22の寸法と形、ベース素子20に対するその位置決め、とりわけ距離、そして表側及び/又は裏側の面上に追加の誘電体材料があればその材料が、重要な役割を果たす。既に述べたように、ケーシング、追加の共振器、又は、接地面若しくは反射器としての追加の金属面といった他の部品もアンテナ特性に影響を及ぼす。アンテナ特性の差別化は、できるだけ低い材料コスト乃至は製造コストで生産できる部品(例えば別のボードがないもの、又は追加の装備部品がない簡素なボードを有するもの)を通じて行うことができる。アンテナ特性を変えるためにベース素子20とその部品(特に結合素子26)も同じく変形することはできるが、そうはせずにその時々で同じベース素子20が用いられる。
【0039】
図3は、今やベース素子20に対して放射器22が選択され、結合素子26に対して適切な位置に配置されて成るモジュラーアンテナ10の概略的な3次元図である。ベース素子20と結合素子26は、対応する収容部を有するケーシング(ここでは図示せず)により各々の位置に保持されることが好ましい。
【0040】
図4はモジュラーアンテナ10の断面図である。これは
図3のモジュラーアンテナ10にかなり対応している。ただし、今度は幾つかの部品(ここでは一方で結合素子26、他方で電力分配網30)がベース素子20のボードの表面と裏面に配置されている。この実施形態によるベース素子20はよりコンパクトな状態を保つことができる。
【0041】
図5a~cはモジュラーアンテナ10の3つの変形A~Cを非常に概略的に示している。図に示したのは変形A~Cを通じて同じベース素子20とその結合素子26並びにそれに対して変形A~C毎に選択された放射器22乃至はケーシング34のみであり、ケーシングについてはアンテナ特性に関係する接地面乃至は反射器として機能する部分のみが描かれている。
図5aはコンパクトな放射器22とコンパクトなケーシング34を有する変形A、
図5bはコンパクトな放射器22と、より広い導電性の面を有するより大きなケーシング34とを有する変形B、
図5cはより大きな放射器22とより大きなケーシング34を有する変形Cを示している。原理を明確に示すため、図には可能な組み合わせのうち僅かな数の選択しか示していないが、極めて多様な放射器22及び/又はケーシング34を組み合わせることができることは自明である。これにより、例えば周波数域、アンテナ利得(ゲイン)、ビーム幅、軸率、前後電界比、整合、及び/又は、電圧定在波比(VSWR)等に関して、極めて多様な構造形態及びアンテナ特性のモジュラーアンテナ10を作り上げることができる。
【0042】
図6は
図5a~cに示した変形A~Cに対応した異なるアンテナ特性を非常に概略的に示したものである。実線36aは
図5aの変形A、点線36bは
図5bの変形B、破線36cは
図5cの変形Cに対応している。
【0043】
図7は、上面に結合素子26として直径94mmの円形のパッチを有する寸法120mm×120mmの多層ボードである模範的なベース素子20のシミュレーションモデルを示している。給電若しくは高周波接続部28a~bはここではボード裏面上又はボードの下層内でビアとマイクロストリップラインにより実現されている。ベース素子20の寸法が、それを用いて作り上げられるモジュール式パッチアンテナ10のファミリーの変形の最小の可能な寸法を規定する。非常に簡単な実施形態では、ベース素子20を直接アンテナ10として利用すること、即ちそれに放射器22を組み合わせないことも考えられよう。しかしそうすると、利用した体積と比べたアンテナ利得として表される効率が比較的悪くなる。これは、RFIDトランスポンダまでの読み取り距離が非常に短い使い方をするため、又は、読み取り対象のRFIDトランスポンダを置いた小売の販売カウンタ等において過大な射程を意図的に回避するためには考えられよう。ほとんどの実際の使用状況にとっては、アンテナ特性を改善するために少なくとも1つの放射器22を組み合わせることが好ましい。
【0044】
図8~12は単に概略的であった
図5a~cのモジュラーアンテナ10の変形A~Cを再び詳しいシミュレーションモデルで示している。それぞれ、
図7に描いたベース素子20が上方に開いた金属製のケーシング34に収められ、その上に放射器22が配置されている。変形A~Cにおいては異なる放射器22とケーシングが用いられているが、放射器22の距離は全ての変形を通じて同じままでもよいし、異なっていてもよい。ケーシング34は金属製でなくてもよく、そうすればアンテナ10のビーム幅が広がり、それに応じて最大放射方向におけるアンテナ利得が低下する。
【0045】
図8はアンテナ10の変形Aの模範的な3次元図、
図9は付属する断面図である。ここでは放射器22は比較的小さく、結合素子26のパッチと同じような寸法であり、またそれに応じて小さいケーシング34が用いられている。放射器22の細かい構造並びにその具体的な形状及びサイズは全て単に任意の例として理解すべきものである。
【0046】
図10はアンテナ10の変形Bの模範的な3次元図である。放射器22は変形Aのものと同じであり、よってこの変形Bの例では放射器22の選択の自由が十分に利用されている。ところがケーシング34は金属面が拡張されている。或いは、単に概念的であって技術的ではない別の見方をすれば、そのような金属面が特に、相応のケーシング部品として付加されている。この追加の反射器面はアンテナ利得を高め、アンテナ10のビーム幅を小さくし、前後電界比を大きくする。
【0047】
図11はアンテナ10の変形Cの模範的な3次元図、
図12は付属する断面図である。ここでも変形Bの場合と同様に拡張されたケーシング34が用いられているが、今度は放射器22も明らかに大きく、しかも変形A及びBの略長方形状で細部が非常に複雑な構造ではなく、単純な円形になっている。全ての実施形態と同じように変形Cの放射器22の具体的な形態は純粋な例として理解すべきものである。
【0048】
図13は
図8~12を参照して紹介したシミュレーションモデルによる変形A~Cのモジュラーアンテナ10のアンテナ利得の周波数依存性の比較図である。図中、実線38aは
図8及び9に示した変形A、点線38bは
図10に示した変形B、破線38cは
図11及び12に示した変形Cに対応している。アンテナ利得(円偏波の実現利得、単位はdBic。即ち、使用された材料及び配線における損失を含み、θ=0°及びφ=0°の最大放射方向における指向性だけではない)が周波数の関数として約800MHzと約1000MHzの間の極超短波域内でプロットされている。
【0049】
全ての変形A~Cが同じベース素子20を用いているため、異なるアンテナ利得及び部分的に拡大された帯域は放射器22又はケーシング34の違いに起因するものとみなされる。これらの個別部品のサイズが増大するにつれてアンテナ利得は高くなる。865MHzから928MHzまでという所望の周波数帯において変形Aでは利得が6.1dBicに達し、変形Bでは7.1dBicに達し、変形Cでは8.2dBicに達している。比較のため、ベース素子20のみ、即ち放射器22がなく且つケーシング34の追加の接地面もない場合、同じ周波数帯で約-5dBicの利得が得られる。
【0050】
図14は、
図13と同様に取り決めた線38a~cを用いた、周波数が900MHzの場合の変形A~Cのモジュラーアンテナ10の指向性の比較図である。アンテナ利得とともに3dBビーム幅及び前方と後方に放射される電力の比(前後電界比)も変化することが明らかに分かる。
【0051】
アンテナ特性の適合化は、様々なケーシング34へのベース素子20の組み込みによってのみ可能なのではなく、組み立て済みのアンテナ10への付属部品の取り付けによっても可能である。その場合、それは製造箇所に限定されず、現場において非常に簡単に装備変更又は価値向上を行うことができる。
図15~18は付属部品の幾つかの模範的なバリエーションを示している。
【0052】
図15は模範的な載置式のパッチ型共振器を有するアンテナ10の3次元図である。これは前記放射器22であってもよいし、追加の共振器でもよい。好ましくはケーシング34用の一種のカバー40が設けられ、それが共振器を結合素子26に対して予定された距離で適切な位置に置く。カバー40の形状を角錐台としたのは例と理解すべきであるが、よくある直方体状のケーシング34には非常に適している。
【0053】
図16は
図15のものと同様の載置されたパッチ型共振器と追加的に継ぎ合わされた接地面42とを有するアンテナ10の断面図である。接地面はケーシング34の一部とすること又は事後的に継ぎ合わせることができる。接地面42はアンテナ特性を更に修正し、その修正は接地面の材料、サイズ、形状及び位置によって変えることができる。
【0054】
図17は3つの共振器22、22a、22bを有する別の模範的な載置式のカバー40を有するアンテナ10の3次元図である。追加の共振器22a~bはアンテナ特性を更に適合させる。共振器22a~bの個数を可変とし、サイズ、形状、及び、カバー40内又はカバーの変形版内の位置を変えられるようにすることで、更に別の個別のアンテナ10を得ることが考えられる。
【0055】
図18は3つの共振器22、22a、22bを有する載置式のカバー40と追加的に継ぎ合わされた金属製の接地面42とを有するアンテナ10の3次元図である。これはいわば
図16及び17の修正方法を具体的な説明のために組み合わせたものである。
【0056】
各々の共振器は導電性の接続を必要とせず、位置決めの際に一定の公差を許容する。これにより、例えば、プラスチック製のカバー40を使用し、その中で共振器を嵌合式又は係合式のロックのような弾性を持つ要素により固定して定位置に保持するというように、工具なしでの取り付けさえ容易になる。
図16及び18の接地面は金属的に導電性を持つ結合(例えばねじ留め)により取り付けることで、導電性の接続を用意してアンテナ特性の所望の改善を達成することができる。