(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】粘着シート及び半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/56 20060101AFI20241008BHJP
C09J 7/38 20180101ALI20241008BHJP
C09J 201/00 20060101ALI20241008BHJP
H01L 21/301 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
H01L21/56 R
C09J7/38
C09J201/00
H01L21/78 M
(21)【出願番号】P 2023186955
(22)【出願日】2023-10-31
(62)【分割の表示】P 2019562171の分割
【原出願日】2018-12-27
【審査請求日】2023-10-31
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2017/047211
(32)【優先日】2017-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018152028
(32)【優先日】2018-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】高野 健
(72)【発明者】
【氏名】柄澤 泰紀
【審査官】安田 雅彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/064574(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/046529(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/157329(WO,A1)
【文献】特開2012-069586(JP,A)
【文献】特開2017-082104(JP,A)
【文献】特開2016-190939(JP,A)
【文献】特開2017-194572(JP,A)
【文献】特開2013-040276(JP,A)
【文献】特開2012-046763(JP,A)
【文献】特開2014-043543(JP,A)
【文献】特開2015-010198(JP,A)
【文献】特開2017-002119(JP,A)
【文献】特開2015-147828(JP,A)
【文献】国際公開第2017/038913(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/038917(WO,A1)
【文献】特開2010-229367(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/56
H01L 21/52
H01L 21/58
H01L 21/301
H01L 21/67-21/687
H01L 21/60-21/607
H01L 21/02
C09J 7/20
C09J 7/38
C09J 4/00
C09J 133/04-133/06
C09J 201/00-201/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、粘着剤層と、を有し、
前記粘着剤層は、エネルギー線硬化性成分が硬化された硬化物と、重合体成分とを含み、
前記重合体成分は、(メタ)アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アクリルウレタン系樹脂、シリコーン系樹脂、ゴム系樹脂、及びポリスチレン系樹脂からなる群から選択される少なくともいずれかであり、
前記重合体成分は、窒素含有官能基を有する単量体に由来する構成単位を含み、ただし前記窒素含有官能基は、N-H結合を含まないか、または
前記重合体成分は、反応性の官能基を有する官能基含有モノマーに由来する構成単位を含み、前記反応性の官能基は、3個以上の直鎖状に結合したメチレン基を介して前記重合体成分の主鎖に結合する、
電子部品加工用の粘着シート。
【請求項2】
請求項1に記載の粘着シートにおいて、
前記重合体成分は、(メタ)アクリル系樹脂である、粘着シート。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の粘着シートにおいて、
前記エネルギー線硬化性成分が、多官能エネルギー線硬化性化合物を含み、
前記多官能エネルギー線硬化性化合物は、一分子中に2個以上5個以下の重合性官能基を有する、
粘着シート。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の粘着シートにおいて、
前記エネルギー線硬化性成分が、多官能エネルギー線硬化性化合物を含み、
前記多官能エネルギー線硬化性化合物は、一分子中に2個以上の重合性官能基を有し、
前記多官能エネルギー線硬化性化合物が有する2個以上の重合性官能基から任意に選択する第1の重合性官能基と第2の重合性官能基との間に直鎖状に結合したメチレン基が存在し、
前記第1の重合性官能基と前記第2の重合性官能基との間に存在する直鎖状に結合したメチレン基の数が、8以上、30以下である、
粘着シート。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載の粘着シートにおいて、
前記多官能エネルギー線硬化性化合物は、分子中に環式構造を有し、
前記重合体成分は、反応性の官能基を有する官能基含有モノマーに由来する構成単位を含み、前記反応性の官能基は、3個以上の直鎖状に結合したメチレン基を介して前記重合体成分の主鎖に結合する、
粘着シート。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の粘着シートにおいて、
前記粘着シートの100℃におけるポリイミドに対する粘着力が、0.04N/25mm以上である、粘着シート。
【請求項7】
請求項6に記載の粘着シートにおいて、
前記粘着シートの100℃におけるポリイミドに対する粘着力が、0.06N/25mm以上であり、
前記粘着剤層の単位断面積当たりの破断強度が4.5N/mm
2以上である、
粘着シート。
【請求項8】
請求項1から請求項7までのいずれか一項に記載の粘着シートにおいて、
窒素雰囲気下で190℃、1.5時間の加熱処理をした後の前記粘着シートの25℃におけるポリイミドに対する粘着力が、3N/25mm以下である、
粘着シート。
【請求項9】
請求項1から請求項8までのいずれか一項に記載の粘着シートにおいて、
前記粘着剤層のヤング率が、5MPa以下である、
粘着シート。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の粘着シートにおいて、
電子部品を加工する際に、前記電子部品の固定又は保護に用いる、
粘着シート。
【請求項11】
請求項1に記載の粘着シートにおいて、
前記窒素含有官能基は、3級アミノ基、アミノカルボニル基、シアノ基、及び窒素含有複素環基からなる群から選択される少なくとも1種である、粘着シート。
【請求項12】
請求項1に記載の粘着シートにおいて、
前記窒素含有官能基を有する単量体は、複素環ビニル化合物、(メタ)アクリルアミド化合物、アミノ基含有(メタ)アクリル酸エステル化合物、及び(メタ)アクリロニトリルからなる群から選択される少なくとも1種である、粘着シート。
【請求項13】
請求項1から請求項12のいずれか一項に記載の粘着シート上に、半導体素子を固定する工程と、
封止材により前記半導体素子を封止する工程と、を含む、半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着シート及び半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造工程では、半導体素子(例えば半導体チップ等)の保護等を目的として粘着シートが用いられている。半導体装置の製造工程で使用される粘着シートには、様々な特性が求められる。
【0003】
例えば、特許文献1には、基材層と、該基材層上に設けられた粘着剤層を備える耐熱性粘着テープが記載されている。特許文献1に記載の耐熱性粘着テープは、粘着剤層が、紫外線硬化性化合物を含む紫外線硬化型粘着剤により構成され、粘着剤層に紫外線を照射し、更に200℃で1時間加熱した後にJIS Z0237に準拠して測定した粘着剤層の粘着力が1N/19mm幅以下であることが記載されている。
また、特許文献2には、基材と、基材に形成されたエネルギー線硬化型粘着剤を含む粘着剤層と、を有する、粘着シートが記載されている。
【0004】
また、近年は、粘着シートには、高温条件が課される工程を経た後、粘着シートを室温で剥離する際に、被着体等への粘着剤が残るという不具合(いわゆる糊残り)が少なく、かつ剥離力が小さいことも求められている。
【0005】
例えば、特許文献3には、金属製リードフレームに搭載された半導体チップを樹脂封止する際に貼着して使用する耐熱性粘着テープが記載されている。特許文献3に記載の耐熱性粘着テープは、少なくとも基材層と活性エネルギー線硬化型粘着剤層とを有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-46763号公報
【文献】特開2017-82104号公報
【文献】特開2010-73853号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1、2に記載の粘着テープおよび粘着シート(以下、総称して「粘着シート」と称する)は、紫外線照射により、粘着剤層の粘着力が低下するように構成されているため、被着体から比較的容易に粘着シートを剥離することができる。
【0008】
特許文献3によれば、当該文献に記載の耐熱性粘着テープによれば、剥離時には糊残りすることなく、容易に剥離することができる旨が記載されている。特許文献3には、活性エネルギー線硬化型粘着剤層を硬化させるタイミングとしては、貼り合わせ後、ワイヤボンディング工程前であれば、特に限定されないと記載されている。その理由として、特許文献3には、リードフレームのアウターパッド側に貼り合わせる前に粘着剤層を硬化させると、リードフレーム表面の凹凸への追従効果が得られず、粘着力が低下するため貼り合わせが困難となり、また、リードフレームへの密着性が低下するため封止樹脂の漏れを防止することが困難であると記載されている。
【0009】
しかしながら、特許文献1、2及び3に記載されたような粘着剤層に活性エネルギー線硬化型粘着剤を含む粘着テープを半導体装置の製造工程に用いた場合、封止工程における高温環境下で粘着テープが被着体から剥離したり膨れ(ブリスター)が発生したりする場合がある。また、封止工程に続いてプラズマ処理工程が実施される場合、加熱による温度上昇、又は温度上昇及び減圧が同時に生じる工程により、粘着テープと被着体との間に膨れ(ブリスター)等の不具合が発生する場合がある。
【0010】
本発明の目的は、高温、又は高温及び減圧条件下における膨れの発生及び被着体からの意図しない剥離を低減すべく、加熱時の粘着力を向上させつつ、被着体から剥離した際の糊残りを防止することができる粘着シートを提供することである。
本発明の別の目的は、当該粘着シートを用いて半導体装置を製造する半導体装置の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様に係る粘着シートは、基材と、粘着剤層と、を有し、前記粘着剤層は、エネルギー線硬化性成分が硬化された硬化物を含む、粘着シートである。
【0012】
本発明の一態様に係る粘着シートにおいて、前記粘着剤層は、さらに重合体成分を含み、前記重合体成分は、窒素含有官能基を有する単量体に由来する構成単位を含み、ただし前記窒素含有官能基は、N-H結合を含まないことが好ましい。
【0013】
本発明の一態様に係る粘着シートにおいて、前記重合体成分は、反応性の官能基を有する官能基含有モノマーに由来する構成単位を含み、前記反応性の官能基は、3個以上の直鎖状に結合したメチレン基を介して前記重合体成分の主鎖に結合することが好ましい。
【0014】
本発明の一態様に係る粘着シートにおいて、前記エネルギー線硬化性成分が、多官能エネルギー線硬化性化合物を含み、前記多官能エネルギー線硬化性化合物は、一分子中に2個以上5個以下の重合性官能基を有することが好ましい。
【0015】
本発明の一態様に係る粘着シートにおいて、前記エネルギー線硬化性成分が、多官能エネルギー線硬化性化合物を含み、前記多官能エネルギー線硬化性化合物は、一分子中に2個以上の重合性官能基を有し、前記多官能エネルギー線硬化性化合物が有する2個以上の重合性官能基から任意に選択する第1の重合性官能基と第2の重合性官能基との間に直鎖状に結合したメチレン基が存在し、前記第1の重合性官能基と前記第2の重合性官能基との間に存在する直鎖状に結合したメチレン基の数が、4以上であることが好ましい。
【0016】
本発明の一態様に係る粘着シートにおいて、前記第1の重合性官能基と前記第2の重合性官能基との間に存在する直鎖状に結合したメチレン基の数が、8以上、30以下であることが好ましい。
【0017】
本発明の一態様に係る粘着シートにおいて、前記多官能エネルギー線硬化性化合物は、分子中に環式構造を有することが好ましい。
【0018】
本発明の一態様に係る粘着シートにおいて、前記粘着剤層の単位断面積当たり破断強度が4.5N/mm2以上であることが好ましい。
【0019】
本発明の一態様に係る粘着シートにおいて、前記粘着シートの100℃におけるポリイミドに対する粘着力が、0.04N/25mm以上であることが好ましい。
【0020】
本発明の一態様に係る粘着シートにおいて、前記粘着シートの100℃におけるポリイミドに対する粘着力が、0.06N/25mm以上であり、前記粘着剤層の単位断面積当たりの破断強度が4.5N/mm2以上であることが好ましい。
【0021】
本発明の一態様に係る粘着シートにおいて、窒素雰囲気下で190℃、1.5時間の加熱処理をした後の前記粘着シートの25℃におけるポリイミドに対する粘着力が、3N/25mm以下であることが好ましい。
【0022】
本発明の一態様に係る粘着シートにおいて、前記粘着剤層のヤング率が、5MPa以下であることが好ましい。
【0023】
本発明の一態様に係る粘着シートにおいて、電子部品を加工する際に、前記電子部品の固定又は保護に用いることが好ましい。
【0024】
本発明の一態様に係る粘着シートにおいて、前記電子部品は、半導体素子であり、前記半導体素子を封止する際に、前記当該半導体素子を固定するために用いることが好ましい。
【0025】
本発明の一態様に係る粘着シートにおいて、電子部品が前記粘着剤層に直接貼り付けられることが好ましい。
【0026】
本発明の一態様に係る粘着シートにおいて、前記重合体成分は、架橋剤により架橋されていることが好ましい。
【0027】
本発明の一態様に係る粘着シートにおいて、前記重合体成分は、(メタ)アクリル系重合体であることが好ましい。
【0028】
本発明の一態様に係る粘着シートにおいて、前記窒素含有官能基は、3級アミノ基、アミノカルボニル基、シアノ基、及び窒素含有複素環基からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0029】
本発明の一態様に係る粘着シートにおいて、前記窒素含有官能基を有する単量体は、複素環ビニル化合物、(メタ)アクリルアミド化合物、アミノ基含有(メタ)アクリル酸エステル化合物、及び(メタ)アクリロニトリルからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0030】
本発明の一態様に係る粘着シートにおいて、前記重合体成分の全体の質量に占める、前記窒素含有官能基を有する単量体に由来する構成単位の割合は、1質量%以上20質量%以下の割合であることが好ましい。
【0031】
本発明の一態様に係る粘着シートにおいて、前記粘着剤層の全体の質量に占める、前記エネルギー線硬化性成分が硬化された硬化物の割合は、5質量%以上40質量%以下の割合であることが好ましい。
【0032】
本発明の一態様に係る半導体装置の製造方法は、エネルギー線硬化性成分が硬化された硬化物を含む粘着剤層を有する粘着シート上に、半導体素子を固定する工程と、封止材により前記半導体素子を封止する工程と、を含む、半導体装置の製造方法である。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、高温、又は高温及び減圧条件下における膨れの発生及び被着体からの意図しない剥離を低減すべく、加熱時の粘着力を向上させつつ、被着体から剥離した際の糊残りを防止することができる粘着シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】第一実施形態に係る粘着シートの断面概略図である。
【
図2】第二実施形態に係る粘着シートの断面概略図である。
【
図3】第三実施形態に係る粘着シートの断面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の一態様に係る粘着シートについて図面を参照して説明する。
【0036】
なお、本明細書において、「糊残り」とは、粘着シートを被着体から剥離した際に、粘着剤層に配合された成分であるか、粘着剤層の形成後に粘着剤層中に侵入した成分であるかを問わず、粘着剤層中の成分に起因して被着体に残渣物が発生する問題を指す。
【0037】
<第一実施形態>
[粘着シート]
図1には、本実施形態の粘着シート10の断面概略図が示されている。
【0038】
粘着シート10の使用態様は、特に限定されない。粘着シート10の使用態様として、粘着シート10を電子部品加工用の粘着シートとして使用する態様が挙げられる。また、粘着シート10の別の使用態様として、電子部品を固定又は保護するために使用される態様が挙げられる。また、粘着シート10を使用するより具体的な態様として、粘着シート10上の半導体素子を封止する際に当該半導体素子を固定するために使用される態様も挙げられる。
粘着シート10には、様々な部材を貼着させることができる。本明細書において、粘着シート10に貼着できる部材を被着体と称する場合がある。被着体としては、例えば、電子部品(半導体素子等)及び枠部材が挙げられる。電子部品等の被着体は、粘着剤層12に直接貼り付けられることが好ましい。枠部材は、例えば、粘着シート10上の半導体素子を封止樹脂で封止する場合に、封止樹脂の硬化収縮にともなう粘着シート10の反りを防止するために用いることができる。枠部材は、半導体素子の封止後に得られる半導体パッケージに残存し、所定の機能を果たす場合もあるし、枠部材を除いた部分のみから半導体パッケージを得る場合もある。
【0039】
本実施形態の粘着シート10は、基材11と、粘着剤層12とを有する。粘着剤層12は、エネルギー線硬化性成分が硬化された硬化物を含む。本実施形態においては、さらに粘着剤層12の上に、剥離シートRLが積層されていてもよい。粘着シート10を使用する際は、当該粘着シート10から剥離シートRLを剥離する。
【0040】
粘着剤層12は、重合体成分(以下、「重合体成分(A)」とも称する)と、エネルギー線硬化性成分が硬化された硬化物(以下、「硬化物(B)」とも称する)と、を含むことが好ましい。
【0041】
本実施形態の一態様における粘着剤層12は、窒素含有官能基を有する単量体に由来する構成単位を含む重合体成分(以下、「重合体成分(AX)」とも称する)と、エネルギー線硬化性成分が硬化された硬化物(「硬化物(B)」とも称する)と、を含む。ただし前記窒素含有官能基は、N-H結合を含まない。
【0042】
基材11は、第一基材面11a、及び第一基材面11aとは反対側の第二基材面11bを有する。本実施形態の粘着シート10においては、第一基材面11aに粘着剤層12が積層されている。この粘着剤層12には、半導体素子等の被着体が貼着される。粘着剤層12は、半導体装置の製造工程において被着体を粘着シート10上に保持する。
【0043】
本実施形態の粘着シート10によれば、高温及び減圧条件下における膨れの発生及び被着体からの意図しない剥離を低減すべく、加熱時の粘着力を向上させつつ、被着体から剥離した際の糊残りを防止することができる(以下、「本実施形態の効果」とも称する。)。
【0044】
本実施形態の効果が得られる理由は、以下のように推測される。
【0045】
本実施形態に係る粘着剤層12は、エネルギー線硬化性成分が硬化された硬化物(B)を含む。そのため、高温環境下でも、粘着剤層12は、被着体に対して粘着力を充分に維持することができる。その結果、粘着シート10は、被着体を脱落させることなく粘着シート10に固定することが可能である。本明細書における高温環境は、特に限定されないが、例えば、半導体素子の封止工程、電子部品に対して金属等のスパッタを行う工程、電子部品を熱水等により洗浄する工程等が挙げられる。本明細書において、粘着シートに貼着される被着体は特に限定されないが、半導体素子の封止工程に粘着シートが用いられる場合には、被着体の材質としては、半導体素子のシリコン表面、又は半導体素子に設けられたポリイミド膜等が挙げられる。半導体素子の封止の際に、枠部材を用いる場合には、枠部材も粘着シート10の被着体となり得、材質としてはガラスエポキシ樹脂等が挙げられる。また、半導体素子の封止工程以外の粘着シート10の用途における被着体としては、ガラスウェハ等が挙げられる。
【0046】
また、加熱、又は加熱及び減圧を伴う工程において、粘着シート10及び他の部材が保管中や製造工程中に吸収した水分に起因するガス発生により、粘着シートと被着体の間に膨れ(ブリスター)が発生することがある。粘着シート10は、高温、又は高温及び減圧環境下でも、粘着力が高いため、ブリスター等の発生を抑制し得る。そして、粘着剤層12は、充分な凝集性を有するため、加熱、又は加熱及び減圧を伴う工程の後において、被着体に残渣物を発生させずに、粘着シート10を剥離して、除去できる。本明細書において、加熱、又は加熱及び減圧を伴う工程は特に限定されないが、一例としては、例えば、封止工程、又は封止工程に続くプラズマ処理工程が挙げられる。加熱、又は加熱及び減圧を伴う工程における被着体は特に限定されないが、一例としては、例えば、半導体素子、枠部材、又はガラスウェハ等が挙げられる。
【0047】
被着体から粘着シートを剥離した後に、被着体の表面に残渣物が付着することを糊残りと称する場合がある。例えば、半導体装置の製造工程中、封止工程が完了した後に、封止体から粘着シートを剥離した際に、半導体デバイス(半導体素子)の導通部分に粘着剤が付着していることがある。例えば、導通部分としては、半導体デバイス又は枠部材のvia部が挙げられ、導通部分は、例えば、銅で形成される。
本実施形態に係る粘着シートによれば、例えば、封止工程で加熱された後であっても、銅の表面に対して粘着剤が付着することを防止できるので、半導体デバイスを樹脂封止した後に粘着シートを剥がした後、導通部分への糊残りを防止できる。
【0048】
硬化物(B)は、重合体成分(A)と異なり、粘着剤層12に含まれる粘着剤組成物を調製するための原材料の段階においては、未硬化(未反応)の状態である。硬化物(B)におけるエネルギー線硬化性成分は、粘着剤組成物から粘着剤層12が形成された後に反応し、高分子量体が合成されて硬化する。そのため、硬化物(B)は、粘着剤層12中に連続的に存在し、有機フィラー等のように不連続に存在するものとは異なる。
粘着剤層12は、このように連続的に存在する硬化物(B)を含むことで、重合体成分(A)が硬化物(B)の三次元網目構造中に侵入した構造が形成され、重合体成分(A)が網目状構造の緩い拘束により架橋された状態となると考えられる。これにより、粘着剤層の高温における凝集性が向上し、上記の高温における粘着力の向上効果と、糊残りを防止する効果が得られるものと考えられる。また、粘着剤層12の破断強度が向上する。
【0049】
粘着剤層12が重合体成分(A)の一態様としての重合体成分(AX)を含む場合における、重合体成分(AX)の意義について説明する。
重合体成分(AX)は、窒素含有官能基を有する単量体に由来する構成単位を含む。窒素含有官能基に含まれる窒素原子は、重合体成分(AX)中で極性基となって存在すると考えられる。この極性基(窒素含有官能基)の存在によって、粘着剤層12中では、重合体成分(AX)同士が、窒素含有官能基を介して相互作用し易くなり、粘着剤層12中に疑似的な架橋構造が形成されると考えられる。
これにより、粘着シート10が加熱されても、粘着剤層12の凝集力が保持され易くなり、その結果、封止工程を経た後に、被着体から粘着シート10を剥離した際の被着体への糊残りが発生し難くなると考えられる。また、加熱時に、粘着剤層12の凝集力が保持され易くなるので、加熱時の粘着力も高まると考えられる。また、粘着剤層の破断強度も上昇する傾向がある。
【0050】
ここで、本実施形態の一態様において、重合体成分(AX)における窒素含有官能基がN-H結合を含まないのは以下の理由による。通常、半導体素子を封止する際には、封止材としてエポキシ系樹脂を用いることが多い。エポキシ系樹脂は、アミノ基等のN-H結合を有する基と反応し易い。そのため、被着体から粘着シートを剥離する際に、粘着剤層と被着体との粘着力が過度に高くなることによって、被着体から粘着シートが剥がれにくくなることや、封止材に糊残りすることを抑制するために、窒素含有官能基からN-H結合を除外している。
【0051】
本実施形態の一態様においては、粘着剤層12が重合体成分(AX)を含み、重合体成分(AX)が、窒素含有官能基を含む。そのため、粘着剤層全体の極性が高まり、共重合成分(AX)とエネルギー線硬化性成分の相溶性がより高まり、三次元網目の相互侵入がしやすくなる。これにより、窒素含有極性基に由来する高温時の粘着力等の発現と、被着体への糊残りの原因となりうる局所的な硬化物(B)の発生が抑制されると推測する。したがって、加熱時における粘着剤層12の粘着力と、被着体への糊残りの防止とを両立することがより容易となると考えられる。
【0052】
以上のことから、本実施形態に係る粘着シート10によれば、加熱時の粘着力を向上させ、加熱、又は加熱及び減圧を伴う工程における膨れの発生及び被着体からの意図しない剥離を低減することができ、かつ、例えば、加熱及び減圧を伴う工程の後に、粘着シート10を剥離した際の被着体への糊残りも低減することができる。
【0053】
本実施形態において、硬化物(B)は、前述の通り、少なくとも、加熱時における粘着剤層12の粘着力と、被着体への糊残りの防止とを両立させる目的で粘着剤層12中に含ませている。そのため、特許文献1、2及び3のように、単純に粘着剤層の粘着力を低減させる目的で含ませている活性エネルギー線硬化型粘着剤の成分では、重合体成分(A)又は重合体成分(AX)が架橋される場合に、粘着剤層の形成時点から、使用時に活性エネルギー線硬化型粘着剤を硬化させるまでの間に重合体成分(A)又は重合体成分(AX)の架橋が進行するのに対し、本実施形態では、重合体成分(A)又は重合体成分(AX)の架橋が進行する前に硬化物(B)が硬化する。そのため、重合体成分(A)又は重合体成分(AX)と硬化物(B)の三次元網目の相互侵入がされやすくなり、被着体への糊残りの原因となりうる局所的な硬化物(B)の発生が抑制されるという前述の効果がいっそう得られやすい。さらに、粘着シートを被着体に貼り付ける際にエネルギー線硬化性成分がすでに硬化しているという観点からは、封止工程において重合開始剤が分解することによる問題も起こらず、未硬化のエネルギー線硬化性成分に起因した過剰なアンカー効果により、被着体への糊残りが発生することも防止されるという利点がある。
【0054】
本実施形態の粘着シート10の構成について説明する。以下、符号の記載を省略することがある。
【0055】
(粘着剤層)
・重合体成分(A)
粘着剤層は、硬化物(B)に加えて、さらに重合体成分(A)を含むことが好ましい。
重合体成分(A)の一態様としての重合体成分(AX)は、窒素含有官能基を有する単量体に由来する構成単位を含む。ただし前記窒素含有官能基は、N-H結合を含まない。
重合体成分(A)は、重合性化合物が重合反応されて形成された成分である。重合体成分(AX)は、重合性化合物として、少なくとも、窒素含有官能基を有する単量体が重合反応されて形成された成分である。ここでいう重合反応には、重縮合反応も含まれる。
【0056】
本明細書において、重合体成分(AX)は、重合体成分(A)の概念に含まれる一態様であるため、単に重合体成分(A)という場合においても、重合体成分(AX)を明示的に除外しない限り、重合体成分(AX)も含むものとする。
【0057】
重合体成分(A)は、エネルギー線硬化性成分と異なり、粘着剤層に含まれる粘着剤組成物を調製するための原材料の状態において、すでに重合されている成分である。
粘着剤層が、さらに重合体成分を含むことで、重合体成分がエネルギー線硬化性成分の硬化物の三次元網目構造中に侵入した構造が形成され、重合体成分が網目状構造の緩い拘束により架橋された状態となる。これにより、粘着剤層の粘着性と、粘着剤層の凝集性とを両立させ易くなる。
【0058】
・重合体成分(A)の種類
重合体成分(A)の種類は、エネルギー線硬化性成分の種類、粘着剤層の用途、及び粘着剤層に貼着される被着体の種類等を考慮して選択される。重合体成分(A)の種類は、例えば、(メタ)アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アクリルウレタン系樹脂、シリコーン系樹脂、ゴム系樹脂、フェノキシ系樹脂、及びポリスチレン系樹脂等からなる群から選択される少なくともいずれかの化合物であることが好ましく、(メタ)アクリル系樹脂がより好ましい。これらの重合体成分(A)は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0059】
重合体成分(A)が、上述のエネルギー線硬化性成分と反応して直接結合するのではなく、硬化物(B)の三次元網目構造中に侵入した構造により緩く拘束された状態を実現する観点から、粘着剤層は、重合体成分(A)として、エネルギー線硬化性を有さない非エネルギー線硬化性重合体成分を含有することが好ましい。非エネルギー線硬化性重合体成分の含有量は、重合体成分(A)全体の60質量%以上とすることが好ましく、75質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。
【0060】
本実施形態において、粘着剤層の全体の質量に占める、重合体成分(A)の質量の割合は、粘着シートの加熱時の粘着力と、粘着剤層の凝集性の制御を容易とする観点から、50質量%以上90質量%以下であることが好ましく、65質量%以上85質量%以下であることがより好ましい。
【0061】
重合体成分(A)の種類が(メタ)アクリル系樹脂である場合、重合体成分(A)は、(メタ)アクリル系重合体であることが好ましい。重合体成分(A)が(メタ)アクリル系重合体であれば、エネルギー線硬化性成分との相溶性が高くなり易く、粘着剤層の粘着力、特に加熱時における粘着力のコントロールが容易になる。
ただし、重合体成分(A)が(メタ)アクリル系重合体である場合、重合体成分(A)は、熱分解しにくい観点、及び凝集破壊を生じにくい観点から、アクリル系重合体であることがより好ましい。
【0062】
以下、重合体成分(A)が(メタ)アクリル系重合体である場合について説明する。
【0063】
(メタ)アクリル系重合体は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(CH2=CR1COOR2(R1は水素またはメチル基、R2は直鎖、分岐鎖または環状(脂環式)のアルキル基))に由来する重合体単位を含むことが好ましい。アクリル酸アルキルエステル(CH2=CR1COOR2)の一部または全部が、アルキル基R2の炭素数が6~8である(メタ)アクリル酸アルキルエステルであることが好ましい。アルキル基R2の炭素数が6~8である(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、及び(メタ)アクリル酸n-オクチル等が挙げられる。これらの中でも、R2が直鎖または分岐鎖のアルキル基であることが好ましい。また、アルキル基R2の炭素数が8であるものが好ましく、粘着シートの被着体への貼付直後における接着性を高め、粘着シートが加熱された後においても、被着体からの剥離性を高めるという観点から、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシルがより好ましく、アクリル酸2-エチルヘキシルがさらに好ましい。
【0064】
アルキル基R2の炭素数が1~5または9~20の、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(前記CH2=CR1COOR2)としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸n-ペンチル、(メタ)アクリル酸n-デシル、(メタ)アクリル酸n-ドデシル、(メタ)アクリル酸ミリスチル、(メタ)アクリル酸パルミチル、及び(メタ)アクリル酸ステアリル等が挙げられる。
(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
なお、本明細書における「(メタ)アクリル酸」は、「アクリル酸」及び「メタクリル酸」の双方を表す場合に用いる表記であり、他の類似用語についても同様である。
【0065】
熱分解しにくい観点、及び凝集破壊を生じにくい観点から、(メタ)アクリル系重合体に含まれる(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する重合体単位の全体に占める、アクリル酸アルキルエステル(すなわち、前記CH2=CR1COOR2であって、R1が水素であるもの)に由来する重合体単位の質量の割合は、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。
【0066】
(メタ)アクリル系重合体全体の質量に占める、前記CH2=CR1COOR2由来の重合体単位の質量の割合が50質量%以上であることが好ましい。
(メタ)アクリル系重合体全体の質量に占める、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(前記CH2=CR1COOR2)に由来する重合体単位の質量の割合が、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましい。(メタ)アクリル酸アルキルエステル(前記CH2=CR1COOR2)に由来する重合体単位の質量の割合は、初期密着力の向上等の観点から、96質量%以下であることが好ましい。
また、本実施形態においては、粘着シートの被着体への貼付直後における接着性を高め、粘着シートが加熱された後においても、被着体からの剥離性を高めるという観点から、(メタ)アクリル系重合体全体の質量に占める、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル由来の重合体単位の質量の割合が50質量%以上であることが好ましい。(メタ)アクリル系重合体全体の質量に占める、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル由来の重合体単位の質量の割合は、60質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましい。(メタ)アクリル系重合体全体の質量に占める、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル由来の重合体単位の質量の割合は、96質量%以下であることが好ましい。
【0067】
(メタ)アクリル系重合体が共重合体であり、(メタ)アクリル系共重合体における第一の共重合体単位が(メタ)アクリル酸アルキルエステルである場合、当該アクリル系共重合体における(メタ)アクリル酸アルキルエステル以外の共重合体単位(以下、「第二の共重合体単位」と称する)の種類及び数は、特に限定されない。この場合、重合体成分(AX)においては、「第二の共重合体単位」は、窒素含有官能基を有する単量体に由来する構成単位である。一方、重合体成分(AX)でない重合体成分(A)においては、例えば、第二の共重合体単位としては、反応性の官能基を有する官能基含有モノマーが好ましい。第二の共重合体単位の反応性官能基としては、後述する架橋剤を使用する場合には、当該架橋剤と反応し得る官能基であることが好ましい。この反応性の官能基としては、例えば、カルボキシル基、水酸基、アミノ基、置換アミノ基、及びエポキシ基等が挙げられる。
【0068】
重合体成分(AX)における(メタ)アクリル系重合体が共重合体であり、当該共重合体が、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(「第一の共重合体単位」)と、窒素含有官能基を有する単量体に由来する構成単位(「第二の共重合体単位」)と、第一の共重合体単位および第二の共重合体単位以外の共重合体単位(以下、「第三の共重合体単位」とも称する)とからなる場合、第三の共重合体単位の種類及び数は、特に限定されない。例えば、第三の共重合体単位としては、反応性の官能基を有する官能基含有モノマーが好ましい。第三の共重合体単位の反応性官能基としては、後述する架橋剤を使用する場合には、当該架橋剤と反応し得る官能基であることが好ましい。この反応性の官能基としては、例えば、カルボキシル基、水酸基、及び1級もしくは2級のアミノ基等が挙げられる。これらのうち、反応性の官能基としては、水酸基が好ましい。前述の窒素含有官能基がN-H結合を含まないことと同じ理由により、反応性の官能基を有する官能基含有モノマーとして、1級もしくは2級のアミノ基を有する官能基含有モノマーを採用しないことが好ましい。
【0069】
本実施形態において、粘着剤層を形成するための原材料組成物のポットライフを延長する観点から、(メタ)アクリル系共重合体は、カルボキシル基を有するモノマーに由来する共重合体単位を含まないことも好ましい。または、(メタ)アクリル系共重合体は、カルボキシル基を有するモノマーに由来する共重合体単位を含み、かつ、前記(メタ)アクリル系共重合体全体の質量に占める、前記カルボキシル基を有するモノマー由来の共重合体単位の質量の割合が1質量%以下であることも好ましく、0.05質量%以上1質量%以下であることがより好ましい。
【0070】
カルボキシル基を有するモノマー(以下、「カルボキシル基含有モノマー」と称する場合がある)としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、及びシトラコン酸等のエチレン性不飽和カルボン酸が挙げられる。カルボキシル基含有モノマーを用いる場合には、カルボキシル基含有モノマーの中でも、反応性及び共重合性の点から、(メタ)アクリル酸が好ましく、アクリル酸がより好ましい。カルボキシル基含有モノマーは、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0071】
本実施形態において、(メタ)アクリル系共重合体は、水酸基を有するモノマーに由来する共重合体単位を含むことが好ましい。
(メタ)アクリル系共重合体が、水酸基を有するモノマーに由来する共重合体単位を含むことで、後述する架橋剤を使用する場合に、水酸基を架橋点とした架橋密度を上昇させることができる。その結果、(メタ)アクリル系共重合体の架橋構造を効果的に形成することができる。このような効果を高める観点から、(メタ)アクリル系共重合体全体の質量に占める、水酸基を有するモノマーに由来する共重合体単位の質量の割合は、3質量%以上であることが好ましい。(メタ)アクリル系共重合体全体の質量に占める、水酸基を有するモノマーに由来する共重合体単位の質量の割合は、9.9質量%以下であることが好ましい。
【0072】
水酸基を有するモノマー(以下、「水酸基含有モノマー」と称する場合がある)としては、例えば、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイロキシエチル-2-ヒドロキシエチル-フタル酸、及び水酸基含有カプロラクトン変性(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリル酸モノマー等が挙げられる。水酸基含有モノマーの中でも、水酸基の反応性及び共重合性の点から、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチルが好ましい。また、加熱後、常温における粘着力が高くなり過ぎないように適度に粘着力を調整する観点から、例えば、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチルが好ましい。水酸基含有モノマーは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0073】
エポキシ基を有するアクリル酸エステルとしては、例えば、グリシジルアクリレート、及びグリシジルメタクリレート等が挙げられる。
【0074】
反応性の官能基を有する官能基含有モノマーの当該反応性の官能基は、3個以上の直鎖状に結合したメチレン基を介して重合体成分(A)の主鎖に結合することが好ましい。これにより、反応性の官能基と架橋剤との会合確率が上昇するため、架橋密度が上昇する。また、粘着剤層の形成後に反応性の官能基が残存する可能性も低下する。その結果、加熱後の常温における粘着力が低下し、粘着シートを被着体から剥がすことが容易となる。なお、本発明において、メチレン基はメチリデン基を含まず、メチレン基は、一つ以上の水素原子が置換されていてもよい。また、メチレン基の直鎖状の結合は、他の基を介して間接的に結合していてもよい。例えば、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピルを官能基含有モノマーとして用いた重合体成分において、反応性の官能基としてのヒドロキシ基は、3個の直鎖状に結合したメチレン基を介して重合体成分(A)の主鎖に結合する。また、2-アクリロイロキシエチル-2-ヒドロキシエチル-フタル酸を官能基含有モノマーとして用いた重合体成分において、反応性の官能基としてのヒドロキシ基は、4個の直鎖状に結合したメチレン基を介して重合体成分(A)の主鎖に結合し、これらのメチレン基は、フタル酸とのエステル結合を介して間接的に結合している。
官能基含有モノマーの当該反応性の官能基は、10個以下の直鎖状に結合したメチレン基を介して重合体成分(A)の主鎖に結合することが好ましく、6個以下の直鎖状に結合したメチレン基を介して重合体成分(A)の主鎖に結合することがより好ましい。
【0075】
重合体成分(AX)でない重合体成分(A)においては、アクリル系共重合体における第二の共重合体成分としては、上記の官能基含有モノマーの他、例えば、アルコキシアルキル基含有(メタ)アクリル酸エステル、芳香族環を有する(メタ)アクリル酸エステル、酢酸ビニル、及びスチレンからなる群から選択される少なくともいずれかのモノマーに由来する共重合体単位が挙げられる。
【0076】
・窒素含有官能基を有する単量体
窒素含有官能基を有する単量体としては、窒素含有官能基を有する重合性化合物であれば特に限定されないが、窒素含有官能基を有するエチレン性不飽和単量体であることが好ましい。
窒素含有官能基としては、例えば、3級アミノ基(-NR3R4)、アミノカルボニル基(-(C=O)-NR5R6)、アミノカルボニルオキシ基(-O-(C=O)-NR7R8)、アミノカルボニルアミノ基(-NR9-(C=O)-NR10R10A)、シアノ基、ニトロ基、および窒素含有複素環基等が挙げられ、3級アミノ基(-NR3R4)、アミノカルボニル基(-(C=O)-NR5R6)、シアノ基、窒素含有複素環基からなる群から選択される少なくとも1種以上であることが好ましい。
R3~R10、およびR10Aは、それぞれ独立に、置換基を表す。当該置換基としては、例えば、置換もしくは無置換の炭素数1~6(好ましくは炭素数1~4)のアルキル基、および置換もしくは無置換の炭素数2~4(好ましくは炭素数2~3)のアルケニル基等が挙げられる。アルキル基は、直鎖、分岐鎖および環状のいずれであってもよい。アルケニル基は、直鎖、分岐鎖および環状のいずれであってもよい。R3~R10、およびR10Aは、互いに同一または異なる。
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前に記載される数値を下限値とし、「~」の後に記載される数値を上限値として含む範囲を意味する。
【0077】
窒素含有複素環基は、窒素含有複素環化合物から水素原子を1つ取り除いた基である。窒素含有複素環化合物としては、例えば、モルホリン、カルバゾール、ピロリドン、ピペリジン、キノリン、ピロリジン、アジリジン、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、イミダゾール、およびフタルイミド等が挙げられる。窒素含有複素環基が有する窒素含有複素環化合物としては、粘着剤層の凝集性を高める観点から、モルホリンが好ましい。
窒素含有官能基を有する単量体(重合性化合物)は、上記に列挙した窒素含有官能基を一分子中に1個含んでいても、2個以上含んでいてもよい。
【0078】
窒素含有官能基を有する単量体は、複素環ビニル化合物、(メタ)アクリルアミド化合物、アミノ基含有(メタ)アクリル酸エステル化合物、及び(メタ)アクリロニトリルからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、複素環ビニル化合物であることがより好ましい。ただし、これらの化合物はN-H結合を含まない。
複素環ビニル化合物中に含まれる複素環基は、その構造(環構造)に起因して、粘着シートが加熱されても、分解されにくいと考えられる。
したがって、窒素含有官能基を有する単量体が複素環ビニル化合物である場合、粘着剤層の凝集力がより保持され易くなり、本実施形態の効果がより発現されると考えられる。
本明細書において、(メタ)アクリルとは、アクリル及びメタクリルの双方を意味する。(メタ)アクリロニトリルとは、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルの双方を意味する。
窒素含有官能基を有する単量体は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0079】
複素環ビニル化合物としては、例えば、N-アクリロイルモルホリン、N-メタクリロイルモルホリン、N-ビニル-2-ピロリドン、N-アクリロイルピロリドン、N-メタクリロイルピロリドン、N-アクリロイルピペリジン、N-メタクリロイルピペリジン、N-アクリロイルピロリジン、N-メタクリロイルピロリジン、N-アクリロイルアジリジン、N-メタクリロイルアジリジン、アジリジニルエチルアクリレート、アジリジニルエチルメタクリレート、2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン、2-ビニルピラジン、1-ビニルイミダゾール、N-ビニルカルバゾール、及びN-ビニルフタルイミド等が挙げられる。
中でも複素環ビニル化合物としては、本実施形態の効果を発現する観点から、N-アクリロイルモルホリン、N-ビニル-2-ピロリドン、N-アクリロイルピロリドン、N-アクリロイルピペリジン、N-アクリロイルピロリジン、N-アクリロイルアジリジン、アジリジニルエチルアクリレート、2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン、2-ビニルピラジン、1-ビニルイミダゾール、N-ビニルカルバゾール、またはN-ビニルフタルイミドが好ましく、N-アクリロイルモルホリンがより好ましい。
【0080】
(メタ)アクリルアミド化合物としては、例えば、下記一般式(1)で表される化合物が挙げられる。
【0081】
【0082】
一般式(1)において、R11は水素原子又はメチル基を表す。R12及びR13は、それぞれ独立に、置換もしくは無置換の炭素数1~6(好ましくは炭素数1~4)のアルキル基、または置換もしくは無置換の炭素数2~4(好ましくは炭素数2~3)のアルケニル基を表す。アルキル基は、直鎖、分岐鎖および環状のいずれであってもよい。アルケニル基は、直鎖、分岐鎖および環状のいずれであってもよい。
R12及びR13が置換基を有する場合の当該置換基は、それぞれ独立に、ジアルキルアミノ基(-NR14R15)、または水酸基であることが好ましい。
R14及びR15は、それぞれ独立に、無置換の炭素数1~4(好ましくは炭素数1~3)のアルキル基を表す。
【0083】
(メタ)アクリルアミド化合物としては、例えば、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジメチルメタクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、N,N-ジエチルメタクリルアミド、N,N-ジ-n-プロピルアクリルアミド、N,N-ジ-n-プロピルメタクリルアミド、N,N-ジ-イソプロピルアクリルアミド、N,N-ジ-イソプロピルメタクリルアミド、N,N-ジアリルアクリルアミド、N,N-ジアリルメタクリルアミド、N,N-ジ-n-ブチルアクリルアミド、N,N-ジ-n-ブチルメタクリルアミド、N,N-エチルメチルアクリルアミド、及びN,N-エチルメチルメタクリルアミド等が挙げられる。
【0084】
中でも(メタ)アクリルアミド化合物としては、本実施形態の効果を発現する観点から、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、N,N-ジ-n-プロピルアクリルアミド、N,N-ジ-イソプロピルアクリルアミド、N,N-ジアリルアクリルアミド、N,N-ジ-n-ブチルアクリルアミド、またはN,N-エチルメチルアクリルアミドが好ましく、N,N-ジメチルアクリルアミドがより好ましい。
【0085】
アミノ基含有(メタ)アクリル酸エステル化合物としては、例えば、下記一般式(2)で表される化合物が挙げられる。
【0086】
【0087】
一般式(2)において、R16は水素原子又はメチル基を表す。R17及びR18は、それぞれ独立に、置換もしくは無置換の炭素数1~3(好ましくは炭素数1~2)のアルキル基を表す。アルキル基は、直鎖であっても、分岐鎖であっても、環状(脂環式)であってもよい。kは1以上4以下であり、1以上3以下であることが好ましい。
【0088】
アミノ基含有(メタ)アクリル酸エステル化合物としては、例えば、N,N-ジメチルアミノエチルアクリレート、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジエチルアミノエチルアクリレート、N,N-ジエチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピルアクリレート、及びN,N-ジメチルアミノプロピルメタクリレート等が挙げられる。
【0089】
中でもアミノ基含有(メタ)アクリル酸エステル化合物としては、本実施形態の効果を発現する観点から、N,N-ジメチルアミノエチルアクリレート、N,N-ジエチルアミノエチルアクリレート、及びN,N-ジメチルアミノプロピルアクリレートが好ましい。
【0090】
重合体成分(A)の全体の質量に占める、窒素含有官能基を有する単量体に由来する構成単位の割合は、本実施形態の効果を発現する観点から、好ましくは1質量%以上20質量%以下の割合、より好ましくは4.5質量%以上18質量%以下の割合、さらに好ましくは9質量%以上15質量%以下の割合である。
窒素含有官能基を有する単量体に由来する構成単位の割合がこのような範囲にあると、粘着シートの加熱時の粘着力と、粘着剤層の凝集性の調整がより容易となる。
【0091】
アクリル系共重合体が、重合体成分(AX)を含む場合、重合体成分(AX)の第三の共重合成分としては、例えば、上記の官能基含有モノマーの他、アルコキシアルキル基含有(メタ)アクリル酸エステル、芳香族環を有する(メタ)アクリル酸エステル、酢酸ビニル、及びスチレンからなる群から選択される少なくともいずれかのモノマーに由来する共重合体単位が挙げられる。
【0092】
アルコキシアルキル基含有(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メトキシメチル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシメチル、及び(メタ)アクリル酸エトキシエチル等が挙げられる。
芳香族環を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸フェニル等が挙げられる。
これらのモノマーは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0093】
(メタ)アクリル系共重合体の重量平均分子量(Mw)は、5万以上200万以下であることが好ましく、8万以上100万以下であることがより好ましく、10万以上40万以下であることがさらに好ましい。(メタ)アクリル系共重合体の重量平均分子量Mwが5万以上であれば、被着体への糊残りがなく粘着シートを剥離することが容易である。(メタ)アクリル系共重合体の重量平均分子量Mwが小さいほど、窒素雰囲気下で190℃、1.5時間の加熱処理をした後の粘着シートの25℃(常温)におけるポリイミドに対する粘着力が低下する傾向がある。
(メタ)アクリル系共重合体の重量平均分子量(Mw)は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography;GPC)法により測定される標準ポリスチレン換算値であり、具体的には以下の条件で測定して得られるものである。
(測定条件)
・GPC装置:東ソー株式会社製、製品名「HLC-8320」・測定試料:サンプル濃度1質量%のテトラヒドロフラン溶液・カラム:「TSK gel Super HM-H」を2本、「TSK gel Super H2000」を1本(いずれも東ソー株式会社製)、順次連結したもの・カラム温度:40℃・展開溶媒:テトラヒドロフラン・流速:0.60mL/min
重合体成分(A)の重量平均分子量(Mw)も、(メタ)アクリル系共重合体の重量平均分子量(Mw)と同様の方法で測定することができる。
【0094】
(メタ)アクリル系共重合体は、前述の各種原料モノマーを用いて、従来公知の方法に従って製造することができる。
【0095】
(メタ)アクリル系共重合体の共重合の形態は、特に限定されず、ブロック共重合体、ランダム共重合体、またはグラフト共重合体のいずれでもよい。
【0096】
本実施形態において、粘着剤層12の全体の質量に占める、重合体成分の質量の割合は、50質量%以上90質量%以下であることが好ましく、65質量%以上85質量%以下であることがより好ましい。
本実施形態において、粘着剤層12の全体の質量に占める、アクリル系共重合体の質量の割合は、50質量%以上90質量%以下であることが好ましく、65質量%以上85質量%以下であることがより好ましい。
【0097】
本実施形態において、重合体成分(A)は、架橋剤により架橋されていることが好ましい。
重合体成分(A)が、さらに架橋剤により架橋されていることにより、粘着剤層の凝集力がさらに保持されると考えられる。この理由は、重合体成分(A)から形成される三次元網目構造と、硬化物(B)の三次元網目構造とが相互侵入網目構造を形成するためと考えられる。
【0098】
本実施形態において、(メタ)アクリル系共重合体の架橋剤としては、例えば、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、アジリジン系架橋剤、金属キレート系架橋剤、アミン系架橋剤、及びアミノ樹脂系架橋剤等が挙げられる。これらの架橋剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0099】
本実施形態において、(メタ)アクリル系粘着剤組成物の耐熱性及び粘着力を向上させる観点から、これら架橋剤の中でも、イソシアネート基を有する化合物である架橋剤(イソシアネート系架橋剤)が好ましい。イソシアネート系架橋剤としては、例えば、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、1,3-キシリレンジイソシアネート、1,4-キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、ジフェニルメタン-2,4’-ジイソシアネート、3-メチルジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-2,4’-ジイソシアネート、及びリジンイソシアネート等の多価イソシアネート化合物が挙げられる。
また、多価イソシアネート化合物は、これらの化合物のトリメチロールプロパンアダクト型変性体、水と反応させたビュウレット型変性体、またはイソシアヌレート環を有するイソシアヌレート型変性体であってもよい。
【0100】
本実施形態において、粘着剤層が架橋剤により架橋されている重合体成分(A)を含む場合、重合体成分(A)と架橋剤との架橋前の配合比は、100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上20質量部以下であり、より好ましくは1質量部以上15質量部以下であり、さらに好ましくは5質量部以上10質量部以下である。
重合体成分(A)として(メタ)アクリル系共重合体を用いる場合も、(メタ)アクリル系共重合体と架橋剤との架橋前の配合比は、100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上20質量部以下、より好ましくは1質量部以上15質量部以下、さらに好ましくは5質量部以上10質量部以下での割合である。
重合体成分(A)と架橋剤との架橋前の配合比が上記範囲内であれば、加熱時における粘着シートの粘着力を向上させやすいという点で好ましい。
【0101】
本実施形態において、重合体成分(A)を架橋剤により架橋させる場合には、粘着剤層に重合体成分(A)と架橋剤と架橋促進剤とが配合されていてもよい。架橋促進剤は、架橋剤の種類等に応じて、適宜選択して用いることが好ましい。例えば、(メタ)アクリル系共重合体を架橋剤としてのポリイソシアネート化合物によって架橋させる場合には、有機スズ化合物等の有機金属化合物系の架橋促進剤を用いることができる。
【0102】
粘着剤層12は、前述の(メタ)アクリル系共重合体が架橋剤により架橋した架橋物を含むことも好ましい。
【0103】
・硬化物(B)
本実施形態に係る粘着剤層は、エネルギー線硬化性成分の硬化物(硬化物(B))を含む。
エネルギー線硬化性成分は、エネルギー線硬化性化合物を含む。エネルギー線硬化性化合物は、エネルギー線の照射を受けて、硬化する化合物である。エネルギー線硬化性成分を硬化させるためのエネルギー線としては、紫外線(UV)及び電子線(EB)の少なくともいずれかのエネルギー線であることが好ましく、紫外線であることがより好ましい。
【0104】
本実施形態に係るエネルギー線硬化性化合物としては、特に制限はなく、従来公知のエネルギー線硬化性化合物の中から選択できる。エネルギー線硬化性化合物としては、エネルギー線硬化性のモノマー、低分子化合物、オリゴマー、及び樹脂が挙げられる。エネルギー線硬化性成分は、エネルギー線硬化性のモノマー、低分子化合物、オリゴマー、及び樹脂からなる群から選択される少なくともいずれか一種を含む組成物であってもよい。
【0105】
エネルギー線硬化性成分は、エネルギー線硬化性化合物として、重合性官能基を有する低分子化合物、及び重合性官能基を有するオリゴマーの少なくともいずれかを含むことが好ましい。エネルギー線硬化性成分が、重合性官能基を有する低分子化合物又はオリゴマーであることで、硬化物(B)において、三次元網目構造の架橋密度が高くなる。粘着剤層が、重合性官能基を有する低分子化合物、及び重合性官能基を有するオリゴマーの少なくともいずれかを含むエネルギー線硬化性成分の硬化物(B)と、重合体成分(A)とを含むことにより、重合体成分(A)が硬化物の三次元網目構造中に侵入し易くなり、粘着剤層の凝集力がより向上する効果がより得られやすい。
重合性官能基を有する低分子化合物の式量は、通常、3,000以下であり、2,000以下であることが好ましい。
重合性官能基を有するオリゴマーの理論分子量は、通常、10,000以下であり、8,000以下であることが好ましい。
【0106】
重合性官能基としては、重合性の炭素-炭素二重結合を有する官能基が挙げられる。重合性官能基としては、例えば、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、及びアリル基からなる群から選択されるいずれかの基であることが好ましい。
【0107】
100℃におけるポリイミドに対する粘着シートの粘着力を向上させるという観点から、エネルギー線硬化性成分に含まれるエネルギー線硬化性化合物が有する重合性官能基の数は、一分子中に、2個以上6個以下であることが好ましく、2個以上5個以下であることがより好ましく、2個以上3個以下であることがさらに好ましく、2個であることが特に好ましい。
エネルギー線硬化性成分が、一分子中に2個の重合性官能基を有する化合物(二官能エネルギー線硬化性化合物)であることにより、粘着剤層の凝集力を向上させつつ、3官能以上の硬化物(B)に比べて、架橋密度が低く抑えられ、被着体表面の微小凹凸に対する粘着剤層の追従性が向上する。
また、封止工程における加熱環境下での粘着力も向上し易く、粘着剤の柔軟性が保たれ、糊残りの発生を抑制することもより容易となる。本実施形態における加熱環境下としては、特に限定されないが、一例としては、封止工程が挙げられる。
高温環境下での粘着力が向上すると、粘着シートが高温及び真空環境に置かれた場合に、粘着シート自体や、部材から発生するガスによって粘着シートと被着体との界面にブリスターが発生することや、被着体が粘着シートから剥がれてしまうことを防止し易くなる。本実施形態における高温環境は、特に限定されないが、一例としては、半導体素子の封止工程が挙げられ、封止工程後に、粘着シートが貼り付けられたまま、封止材の表面に、配線のための前処理としてプラズマ処理を行う等のプロセスが例示される。
なお、一分子中の重合性官能基の数を2以上とすることで、三次元網目構造を形成し易くなる。
【0108】
本実施形態の一態様においては、ポリイミド等の被着体に対する粘着力を向上させる観点(本実施形態のある一態様においては、高温、又は高温及び減圧環境におけるポリイミドに対する粘着力が向上するという観点)から、エネルギー線硬化性化合物は、重合性官能基及び環式構造を有する化合物であることが好ましい。重合性官能基については、前述のとおりである。環式構造としては、芳香族環、複素環、及び脂肪族環からなる群から選択される少なくともいずれかの環式構造であることがより好ましい。エネルギー線硬化性化合物は、芳香族環、及び脂肪族環の少なくともいずれかの環式構造を有する化合物であることも好ましい。
【0109】
エネルギー線硬化性化合物の硬化物(B)を含む粘着剤層の単位断面積当たり破断強度は、4.5N/mm2以上であることが好ましく、5.0N/mm2以上であることがより好ましい。粘着剤層の単位断面積当たり破断強度の測定方法は、後述の実施例に記載したとおりである。
エネルギー線硬化性化合物が一分子中に2個以上(好ましくは2個)の重合性官能基を有し、かつ、環式構造を有する化合物である場合において、当該エネルギー線硬化性化合物の硬化物を含む粘着剤層の単位断面積当たり破断強度が、4.5N/mm2以上であることが好ましく、5.0N/mm2以上であることがより好ましい。このように破断強度を高くすることで、糊残り防止効果をさらに向上できる。例えば、粘着剤層が重合体成分(AX)を含有し、硬化物(B)におけるエネルギー線硬化性化合物が環式構造を有する化合物に由来する場合において、100℃における粘着力が高くなったとしても、破断強度を高くすることで、糊残り防止効果をさらに向上できる。
【0110】
また、本実施形態の一態様においては、エネルギー線硬化性化合物は、環式構造を有さず、重合性官能基及び鎖状構造を有する化合物であることも好ましく、この場合、環式構造を有さず、鎖状構造を有する多官能エネルギー線硬化性化合物であることがより好ましい。
【0111】
本実施形態の一態様においては、多官能エネルギー線硬化性化合物が有する2個以上の重合性官能基から任意に選択する第1の重合性官能基と第2の重合性官能基との間に直鎖状に結合したメチレン基が存在し、第1の重合性官能基と第2の重合性官能基との間に存在する直鎖状に結合したメチレン基の数(以下、「官能基間鎖長」ともいう。)が、4以上であることが好ましく、6以上であることがより好ましい。この第1の重合性官能基と第2の重合性官能基との間に存在する直鎖状に結合したメチレン基の数が、4以上であることにより、粘着剤層のヤング率が低下する。その結果、加熱後の常温における粘着力が低い場合であっても、粘着シートを被着体に貼付後の初期の密着性が保たれる。第1の重合性官能基と第2の重合性官能基との間に存在する直鎖状に結合したメチレン基の数の求め方について、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートを例に挙げて説明する。
【0112】
【0113】
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの場合、2つの重合性官能基を選択して、第1の重合性官能基(アクリロイル基)と第2の重合性官能基(アクリロイル基)との間に存在する直鎖状に結合したメチレン基の数は、最大の数で定義すると、6である。ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートのように分子内に3つ以上の重合性官能基がある場合は、官能基間鎖長の最大の数が、4以上であればよい。官能基間鎖長は、分子内の全ての官能基間において、4以上であることが好ましい。なお、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの場合、上記の構造式の2及び5の直鎖状に結合したメチレン基においては、2つの水素原子が他の基に置換されている。また、例えば、トリプロピレングリコールジアクリレートにおいては、直鎖状に結合したメチレン基の一部は、水素原子がメチル基に置換されており、また、これらのメチレン基は酸素原子を介して間接的に結合している。
【0114】
本実施形態の一態様においては、多官能エネルギー線硬化性化合物が有する2個以上の重合性官能基から任意に選択する第1の重合性官能基と第2の重合性官能基との間にメチレン基が存在し、第1の重合性官能基と第2の重合性官能基との間に存在する直鎖状に結合したメチレン基の数が、8以上、30以下であることが好ましく、8以上、12以下であることがより好ましい。この第1の重合性官能基と第2の重合性官能基との間に存在する直鎖状に結合したメチレン基の数が、8以上、30以下であることにより、糊残りを防止する効果がさらに向上し、また、加熱後の常温における粘着力を下げる効果も得られる。この場合、多官能エネルギー線硬化性化合物の分子内に3つ以上の重合性官能基がある場合は、官能基間鎖長の最大の数が、上記の範囲内にあればよく、官能基間鎖長は、分子内の全ての官能基間において、上記の範囲内にあることが好ましい。
【0115】
エネルギー線硬化性低分子化合物としては、例えば、多官能(メタ)アクリレートが挙げられる。エネルギー線硬化性オリゴマーとしては、多官能ウレタン(メタ)アクリレート、多官能ポリエステル(メタ)アクリレート、多官能ポリエーテル(メタ)アクリレート、及び多官能シリコーン(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらは一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。多官能とは、重合性官能基が1分子中に2個以上含まれていることをいう。
【0116】
多官能(メタ)アクリレートのうち、1分子中に2個の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレートとしては、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、1,9-ノナンジオールジアクリレート、1,10-デカンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール#400ジアクリレート(製品名:APG-400)、ポリプロピレングリコール#700ジアクリレート(製品名:APG-700)、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、9,9-ビス[4-(2-アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン、及びプロポキシ化ビスフェノールAジアクリレート等が挙げられる。
多官能(メタ)アクリレートのうち、1分子中に3個の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレートとしては、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ε-カプロラクトン変性トリス-(2-アクリロキシエチル)イソシアヌレート、及びグリセロールトリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
多官能(メタ)アクリレートのうち、1分子中に4個の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレートとしては、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
多官能(メタ)アクリレートのうち、1分子中に6個の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレートとしては、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
プロポキシ化ビスフェノールAジアクリレートとしては、例えば、新中村化学(株)製のA-BPP(商品名)を用いることができる。ε-カプロラクトン変性トリス-(2-アクリロキシエチル)イソシアヌレートとしては、例えば、新中村化学(株)製のA-9300-1CL(商品名)を用いることができる。
多官能(メタ)アクリレートは、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0117】
多官能(メタ)アクリレートの中でも、1分子中の(メタ)アクリロイル基の数が、2個以上5個以下である(メタ)アクリレートが好ましく、2個又は3個である(メタ)アクリレートがより好ましく、2個である(メタ)アクリレートであることがさらに好ましい。
【0118】
また、エネルギー線硬化性低分子化合物としては、環式構造を有する(メタ)アクリレートであることが好ましく、芳香族環、及び脂肪族環の少なくともいずれかの環式構造を有する(メタ)アクリレートであることがより好ましい。
【0119】
また、エネルギー線硬化性低分子化合物としては、環式構造を有する多官能(メタ)アクリレートであることが好ましい。環式構造を有する多官能(メタ)アクリレートにおいて、(メタ)アクリロイル基は、2個以上5個以下であることが好ましく、2個又は3個であることがより好ましく、2個であることがさらに好ましい。環式構造を有する多官能(メタ)アクリレートにおいて、環式構造は、芳香族環、及び脂肪族環の少なくともいずれかであることが好ましい。
【0120】
エネルギー線硬化性成分に対して照射するエネルギー線として紫外線を用いる場合には、エネルギー線硬化性成分は、さらに光重合開始剤を含有することが好ましい。光重合開始剤を含有することにより、エネルギー線硬化性成分を効率良く硬化させることができ、また重合硬化時間及び活性エネルギー線の照射量を少なくすることができる。
【0121】
光重合開始剤としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾイン-n-ブチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、アセトフェノン、ジメチルアミノアセトフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、2,2-ジエトキシ-2-フェニルアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノ-プロパン-1-オン、4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル-2-(ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン、ベンゾフェノン、p-フェニルベンゾフェノン、4,4’-ジエチルアミノベンゾフェノン、ジクロロベンゾフェノン、2-メチルアントラキノン、2-エチルアントラキノン、2-ターシャリ-ブチルアントラキノン、2-アミノアントラキノン、2-メチルチオキサントン、2-エチルチオキサントン、2-クロロチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、ベンジルジメチルケタール、アセトフェノンジメチルケタール、p-ジメチルアミノ安息香酸エステル、オリゴ[2-ヒドロキシ-2-メチル-1[4-(1-メチルビニル)フェニル]プロパノン]、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド、及び2-ヒロドキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]フェニル}-2-メチル-プロパン-1-オン等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0122】
光重合開始剤は、エネルギー線硬化性成分100質量部に対して、好ましくは2質量部以上15質量部以下、より好ましくは5質量部以上12質量部以下の範囲の量で用いられることが好ましい。
【0123】
粘着剤層は、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の成分を含んでいてもよい。粘着剤層が含み得るその他の成分としては、例えば、粘着助剤、有機溶媒、難燃剤、粘着付与剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、防腐剤、防黴剤、可塑剤、消泡剤、着色剤、フィラー、及び濡れ性調整剤等からなる群から選択される少なくともいずれかの成分が挙げられる。
【0124】
本実施形態において、粘着剤層の全体の質量に占める、硬化物(B)の割合は、5質量%以上40質量%以下の割合であることが好ましく、10質量%以上30質量%以下の割合であることがより好ましい。
【0125】
粘着剤層の厚さは、粘着シートの用途に応じて適宜決定される。本実施形態において、粘着剤層の厚さは、5μm以上60μm以下であることが好ましく、10μm以上50μm以下であることがより好ましい。粘着剤層の厚さが5μm以上であれば、被着体の凹凸に粘着剤層が追従し易くなり、隙間の発生を防止できる。凹凸を有する被着体としては、特に限定されないが、一例としては、チップ回路面が挙げられる。そのため、例えば、層間絶縁材及び封止樹脂等が半導体チップの回路面の凹凸の隙間に入り込み、チップ回路面の配線接続用の電極パッドが塞がれる等のおそれがない。粘着剤層の厚さが60μm以下であれば、半導体チップが粘着剤層に沈み込み難く、半導体チップ部分と、半導体チップを封止する樹脂部分との段差が生じ難くなる。そのため、再配線の際に段差により配線が断線する等のおそれがない。
【0126】
・100℃における対ポリイミド粘着力
粘着シートの100℃におけるポリイミドに対する粘着力は、0.04N/25mm以上であることが好ましく、0.05N/25mm以上がより好ましく、0.08N/25mm以上がさらに好ましい。
当該粘着力が、0.04[N/25mm]以上の粘着シートは、加熱時の粘着力が確保されており、良好な工程適性を示すシートである。
したがって、0.04[N/25mm]以上の粘着シートを用いることで、粘着シートが半導体素子等の被着体から剥離することを抑制できる。さらに被着体が粘着シートへの貼着位置からずれること(位置ずれ)も抑制できる。また、半導体素子が封止樹脂で封止されたもの(封止体)に粘着シートが貼り付けられた状態で、高温、又は高温及び減圧環境下でのプラズマ処理等の加工を行う場合であっても、粘着シートと封止体の間の膨れ(ブリスター)や封止体からの剥離が生じにくくなる。
粘着シートの100℃におけるポリイミドに対する粘着力は、1N/25mm以下であることが好ましく、0.5N/25mm以下がより好ましい。
【0127】
窒素雰囲気下で190℃、1.5時間の加熱処理をした後の粘着シートの25℃(常温)におけるポリイミドに対する粘着力が、3N/25mm以下であることが好ましく、2.5N/25mm以下であることがより好ましい。当該粘着力が3N/25mm以下であれば、電子部品の加工後の粘着シートの剥離除去が容易となる。
【0128】
粘着剤層のヤング率が、5MPa以下であることが好ましく、4MPa以下であることがより好ましい。粘着剤層がこのようなヤング率を有することで、電子部品に粘着シートを貼付した際の接着性が向上し、その後の加工開始までに粘着シートが剥がれることを防止できる。
【0129】
粘着シートの100℃におけるポリイミドに対する粘着力が、0.06N/25mm以上であり、かつ、粘着剤層の単位断面積当たりの破断強度が4.5N/mm2以上であることが好ましい。このような粘着力と破断強度を満たすことにより糊残り防止効果を向上させることができる。
【0130】
(基材)
基材は、粘着剤層を支持する部材である。
基材としては、例えば、合成樹脂フィルム等のシート材料等を用いることができる。合成樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリブテンフィルム、ポリブタジエンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、塩化ビニル共重合体フィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリウレタンフィルム、エチレン酢酸ビニル共重合体フィルム、アイオノマー樹脂フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、及びポリイミドフィルム等が挙げられる。その他、基材としては、これらの架橋フィルム及び積層フィルム等が挙げられる。
【0131】
基材は、ポリエステル系樹脂を含むことが好ましく、ポリエステル系樹脂を主成分とする材料からなることがより好ましい。本明細書において、ポリエステル系樹脂を主成分とする材料とは、基材を構成する材料全体の質量に占める、ポリエステル系樹脂の質量の割合が50質量%以上であることを意味する。ポリエステル系樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリブチレンナフタレート樹脂、及びこれらの樹脂の共重合樹脂からなる群から選択されるいずれかの樹脂であることが好ましく、ポリエチレンテレフタレート樹脂がより好ましい。
基材としては、ポリエチレンテレフタレートフィルム、またはポリエチレンナフタレートフィルムが好ましく、ポリエチレンテレフタレートフィルムがより好ましい。
【0132】
基材側からエネルギー線を照射してエネルギー線硬化性成分を硬化させる場合には、基材は、エネルギー線を透過させる材質で形成されていることが好ましい。エネルギー線として紫外線を用いる場合、基材は、紫外線透過性の材質で形成されていることが好ましい。
【0133】
基材の100℃での貯蔵弾性率の下限は、加工時の寸法安定性の観点から、1×107Pa以上であることが好ましく、1×108Pa以上であることがより好ましい。基材の100℃での貯蔵弾性率の上限は、加工適性の観点から1×1012Pa以下であることが好ましい。
なお、本明細書において、基材の100℃での貯蔵弾性率は、粘弾性測定機器を用いて、周波数1Hzで測定した引張弾性率の値である。測定する基材を幅5mm、長さ20mmに切断し、粘弾性測定機器(ティー・エイ・インスツルメント社製、DMAQ800)を使用し、周波数1Hz、引張モードにより、100℃の貯蔵粘弾率を測定する。
【0134】
基材と粘着剤層との密着性を高めるために、第一基材面は、プライマー処理、コロナ処理、及びプラズマ処理等の少なくともいずれかの表面処理が施されていてもよい。
【0135】
基材の厚さは、10μm以上500μm以下であることが好ましく、15μm以上300μm以下であることがより好ましく、20μm以上250μm以下であることがさらに好ましい。
【0136】
(剥離シート)
剥離シートとしては、特に限定されない。例えば、取り扱い易さの観点から、剥離シートは、剥離基材と、剥離基材の上に剥離剤が塗布されて形成された剥離剤層とを備えることが好ましい。また、剥離シートは、剥離基材の片面のみに剥離剤層を備えていてもよいし、剥離基材の両面に剥離剤層を備えていてもよい。
剥離シートを積層させた後に剥離シート側からエネルギー線を照射してエネルギー線硬化性成分を硬化させる場合には、剥離シートは、エネルギー線を透過させる材質で形成されていることが好ましい。エネルギー線として紫外線を用いる場合、剥離シートは、紫外線透過性の材質で形成されていることが好ましい。
【0137】
剥離基材としては、例えば、紙基材、この紙基材にポリエチレン等の熱可塑性樹脂をラミネートしたラミネート紙、及びプラスチックフィルム等が挙げられる。紙基材としては、グラシン紙、コート紙、及びキャストコート紙等が挙げられる。プラスチックフィルムとしては、ポリエステルフィルム(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、及びポリエチレンナフタレート等)、並びにポリオレフィンフィルム(例えば、ポリプロピレン、及びポリエチレン等)等が挙げられる。
剥離剤としては、例えば、オレフィン系樹脂、ゴム系エラストマー(例えば、ブタジエン系樹脂、及びイソプレン系樹脂等)、長鎖アルキル系樹脂、アルキド系樹脂、フッ素系樹脂、並びにシリコーン系樹脂等が挙げられる。粘着剤層が、シリコーン系粘着剤組成物からなる場合には、剥離剤は、非シリコーン系の剥離剤であることが好ましい。
【0138】
剥離シートの厚さは、特に限定されない。剥離シートの厚さは、通常、20μm以上200μm以下であり、25μm以上150μm以下であることが好ましい。
剥離剤層の厚さは、特に限定されない。剥離剤を含む溶液を塗布して剥離剤層を形成する場合、剥離剤層の厚さは、0.01μm以上2.0μm以下であることが好ましく、0.03μm以上1.0μm以下であることがより好ましい。
剥離基材としてプラスチックフィルムを用いる場合、当該プラスチックフィルムの厚さは、3μm以上50μm以下であることが好ましく、5μm以上40μm以下であることがより好ましい。
【0139】
(粘着シートの製造方法)
粘着シートの製造方法は、特に限定されない。
塗布法により粘着剤層を形成する場合、有機溶媒で粘着剤組成物を希釈してコーティング液(塗布用粘着剤液)を調製して用いることが好ましい。
粘着剤組成物は、少なくとも、エネルギー線硬化性成分と、重合体成分(A)とを含む。粘着剤組成物は、さらに、架橋剤、架橋促進剤、及びその他の成分からなる群から選択される少なくともいずれかの成分を含んでいても良い。
有機溶媒としては、例えば、芳香族系溶媒、脂肪族系溶媒、エステル系溶媒、ケトン系溶媒、及びアルコール系溶媒が挙げられる。芳香族系溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、及びキシレンが挙げられる。脂肪族系溶媒としては、例えば、ノルマルヘキサン、及びノルマルヘプタンが挙げられる。エステル系溶媒としては、例えば、酢酸エチル、及び酢酸ブチルが挙げられる。ケトン系溶媒としては、例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、及びシクロペンタノンが挙げられる。アルコール系溶媒としては、例えば、イソプロピルアルコール、及びメタノールが挙げられる。
【0140】
例えば、粘着シートは、次のような工程を経て製造される。
まず、基材の第一基材面の上に粘着剤組成物を塗布し、塗膜を形成する。次に、この塗膜を乾燥させて、さらにエネルギー線を照射してエネルギー線硬化性成分を硬化させて硬化物を形成することにより、粘着剤層を形成する。その後、剥離シートを貼着して、粘着剤層を覆う。
粘着シートの別の製造方法としては、次のような工程を経て製造される。まず、剥離シートの上に粘着剤組成物を塗布し、塗膜を形成する。次に、塗膜を乾燥させて、塗膜に基材の第一基材面を貼り合わせる。次いで、剥離シートを透過させて塗膜にエネルギー線を照射してエネルギー線硬化性成分を硬化させて硬化物を形成することにより、粘着剤層を形成する。
粘着シートのさらに別の製造方法としては、基材の第一基材面の上に粘着剤組成物を塗布し、塗膜を形成する。次に、この塗膜を乾燥させて、この塗膜に剥離シートを貼着して、塗膜を覆う。その後、基材側及び剥離シート側の少なくともいずれかの側からエネルギー線を照射して、塗膜中のエネルギー線硬化性成分を硬化させて硬化物を形成することにより、粘着剤層を形成する方法が挙げられる。
【0141】
コーティング液を塗布する方法は、特に限定されない。塗布方法としては、例えば、スピンコート法、スプレーコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、及びグラビアコート法等が挙げられる。
有機溶媒及び低沸点成分が粘着剤層に残留することを防ぐため、コーティング液を基材または剥離シートに塗布した後、塗膜を加熱して乾燥させることが好ましい。
粘着剤組成物に架橋剤が配合されている場合には、架橋反応を進行させて凝集力を向上させるためにも、塗膜を加熱することが好ましい。エネルギー線の照射は、架橋反応を進行させるための加熱の前でも後でも良いが、加熱後にエネルギー線を照射することが好ましい。なお、塗膜の乾燥と粘着剤組成物の架橋反応の促進のために粘着剤組成物を加熱した場合、加熱によって架橋に関与する官能基の全ての反応が完了するわけではなく、その後の粘着シートの保管中に、徐々に残存した官能基が反応して、さらに粘着剤組成物の架橋が進行していくものと考えられている。したがって、塗膜を加熱後、エネルギー線照射により硬化物(B)の三次元網目構造中に重合体成分(A)が拘束された構造が形成され、さらに重合体成分(A)の架橋が進行することにより、硬化物(B)と重合体成分(A)の架橋構造が相互に侵入した状態が形成されていくと考えられる。
【0142】
(粘着シートの使用)
粘着シートは、電子部品加工用の粘着シートとして使用される。また、粘着シートの別の使用態様として、電子部品を固定又は保護するために使用される態様が挙げられる。電子部品の固定又は保護の一例として、粘着シートは、半導体素子を封止する際に使用される。本実施形態の粘着シートは、粘着剤組成物中のエネルギー線硬化性成分が硬化されて硬化物が形成された後に使用される。
金属製リードフレームに搭載された状態ではなく、粘着シート上に貼着された状態の半導体素子を封止する際に、粘着シートが使用されることが好ましい。具体的には、粘着シートは、金属製リードフレームに搭載された半導体素子を封止する際に使用されるのではなく、粘着剤層に貼着された状態の半導体素子を封止する際に使用されることが好ましい。すなわち、粘着シートに半導体素子が直接貼り付けられた状態で使用されることが好ましい。本発明の粘着シートは、高温、又は高温及び減圧環境下での工程を行う場合であっても、粘着シートと封止体の間の膨れ(ブリスター)や封止体からの剥離が生じにくい。金属製リードフレームを用いずに半導体素子をパッケージングする形態としては、パネルレベルパッケージ(Panel Level Package;PLP)及びWLP等が挙げられる。
粘着シートは、複数の開口部が形成された枠部材を粘着シートに貼着させる工程と、前記枠部材の開口部にて露出する粘着剤層に半導体チップを貼着させる工程と、前記半導体チップを封止樹脂で覆う工程と、前記封止樹脂を熱硬化させる工程と、を有するプロセスにおいて使用されることが好ましい。
なお、封止樹脂の材質は、特に限定されず、熱硬化性樹脂であっても、紫外線等のエネルギー線で硬化するエネルギー線硬化性樹脂であってもよい。
本実施形態の粘着シートにおいて粘着剤層が重合体成分(AX)を含む場合、重合体成分(AX)は、「N-H結合を含まない窒素含有官能基」を有するので、封止樹脂の材質としては、エポキシ系樹脂を好適に使用できる。
封止樹脂の材質がエポキシ系樹脂である場合、被着体から粘着シートを剥離する際に、エポキシ系樹脂と、N-H結合を有する基との反応が生じ得ないので、被着体から粘着シートを比較的容易に剥離でき、かつ被着体への糊残りをより低減し易くなる。
封止樹脂を熱硬化させる工程の後に、高温、又は高温及び減圧環境下で行われる工程として、プラズマ処理等の加工工程が行われる場合もある。
封止樹脂を熱硬化する工程及びプラズマ処理工程以外の、高温、又は高温及び減圧環境下で行われる工程としては、電子部品に対して金属等のスパッタを行う工程、電子部品を熱水等により洗浄する工程等が挙げられる。
【0143】
基材と粘着剤層との間に中間層が設けられていてもよい。中間層には所望の目的に応じた機能を持たせることが好ましい。中間層としては、例えば、後述するオリゴマー封止層、プライマー層、及び帯電防止層等が挙げられる。例えば、中間層を設けることにより、基材と粘着剤層との密着性、基材表面へのオリゴマーの析出抑制、並びに帯電防止性のうちの少なくとも1つを向上させることができる。
【0144】
また、基材の粘着剤層が設けられていない側の表面上に、機能層が設けられていてもよい。機能層としては、例えば、後述するオリゴマー封止層、及び帯電防止層等が挙げられる。例えば、中間層を設けることにより、基材表面へのオリゴマーの析出抑制、並びに帯電防止性のうちの少なくとも1つを向上させることができる。
【0145】
<第二実施形態>
第二実施形態に係る粘着シートは、基材と粘着剤層との間にオリゴマー封止層を含んでいる点において、第一実施形態に係る粘着シートと相違する。その他の点においては第一実施形態と同様であるため、説明を省略又は簡略化する。以下、符号の記載を省略することがある。
【0146】
(オリゴマー封止層)
オリゴマー封止層は、基材と粘着剤層との間に設けられる。オリゴマー封止層は、基材に起因したオリゴマーを基材中に封じ込めるための層である。オリゴマー封止層は、例えば、180℃以上200℃以下の高温条件下においても、粘着剤層へのオリゴマーの浸入を防止することが好ましい。
図2には、第二実施形態に係る粘着シート10Aの断面図が示されている。粘着シート10Aは、オリゴマー封止層13を有している。
粘着シート10Aは、基材11と、オリゴマー封止層13と、粘着剤層12と、をこの順に有する。粘着シート10Aにおいては、第一基材面11aにオリゴマー封止層13が積層されている。
粘着剤層12は、重合体成分(A)と、硬化物(B)とを含む。
第二実施形態の粘着シート10Aは、基材11と粘着剤層12との間に、オリゴマー封止層13を有するので、粘着シート10Aが加熱されても、オリゴマーが粘着剤層12と被着体との界面に移動することを抑制できる。
したがって、第二実施形態の粘着シート10Aによれば、加熱時の粘着力をより向上させることができ、被着体から剥離した際の糊残りをより防止することができる。
【0147】
・オリゴマー封止層の膜厚
オリゴマー封止層の厚さは、50nm以上500nm以下であることが好ましく、80nm以上300nm以下であることがより好ましい。
オリゴマー封止層の厚さが50nm以上であれば、基材中に含まれるオリゴマーの粘着剤層への浸入を効果的に防止できる。
オリゴマー封止層の厚さが500nm以下であれば、例えば粘着シートをコア材にロール状に巻き取る際に巻き取り易くなる。コア材の材質としては、例えば、紙製、プラスチック製、及び金属製が挙げられる。
【0148】
オリゴマー封止層の材質は、基材中のオリゴマーが粘着剤層12に浸入することを防止できれば、特に限定されない。
例えば、オリゴマー封止層は、オリゴマー封止層用組成物を硬化させた硬化皮膜であることが好ましい。オリゴマー封止層用組成物は、例えば、(A)エポキシ化合物、(B)ポリエステル化合物、及び(C)多官能アミノ化合物からなる群から選択される少なくとも一種を含むことが好ましく、(A)エポキシ化合物と、(C)多官能アミノ化合物と、を含むことがより好ましく、(A)エポキシ化合物と、(B)ポリエステル化合物と、(C)多官能アミノ化合物と、を含むことがさらに好ましい。
オリゴマー封止層用組成物は、硬化反応を促進するために、更に、(D)酸性触媒を含んでいても良い。
【0149】
・(A)エポキシ化合物
(A)エポキシ化合物は、ビスフェノールA型エポキシ化合物であることが好ましい。ビスフェノールA型エポキシ化合物としては、ビスフェノールAジグリシジルエーテル等を挙げることができる。
【0150】
・(B)ポリエステル化合物
(B)ポリエステル化合物としては、特に限定されず、公知のポリエステル化合物の中から適宜選択して用いることができる。ポリエステル化合物としては、具体的には、多価アルコールと多塩基酸との縮合反応によって得られる樹脂であって、二塩基酸と二価アルコールとの縮合物、若しくは不乾性油脂肪酸等で変性した化合物である不転化性ポリエステル化合物、及び二塩基酸と三価以上のアルコールとの縮合物である転化性ポリエステル化合物等が挙げられる。
【0151】
(B)ポリエステル化合物の原料として用いられる多価アルコール及び多塩基酸としては、公知の多価アルコール及び多塩基酸を適宜選択して用いることができる。
【0152】
・(C)多官能アミノ化合物
(C)多官能アミノ化合物としては、例えば、メラミン化合物、尿素化合物、ベンゾグアナミン化合物、及びジアミン類を用いることができる。
メラミン化合物としては、例えば、ヘキサメトキシメチルメラミン、メチル化メラミン化合物、及びブチル化メラミン化合物が挙げられる。
尿素化合物としては、例えば、メチル化尿素化合物、及びブチル化尿素化合物が挙げられる。
ベンゾグアナミン化合物としては、例えば、メチル化ベンゾグアナミン化合物、及びブチル化ベンゾグアナミン化合物が挙げられる。
ジアミン類としては、例えば、エチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、N,N’-ジフェニルエチレンジアミン、及びp-キシリレンジアミンが挙げられる。
硬化性の観点から、(C)多官能アミノ化合物としては、ヘキサメトキシメチルメラミンが好ましい。
【0153】
・(D)酸性触媒
酸性触媒(D)としては、例えば、塩酸、及びp-トルエンスルホン酸が挙げられる。
【0154】
・硬化皮膜
本実施形態において、オリゴマー封止層は、(A)ビスフェノールA型エポキシ化合物、(B)ポリエステル化合物、及び(C)多官能アミノ化合物を、それぞれ、(A)50質量%以上80質量%以下、(B)5質量%以上30質量%以下、及び(C)10質量%以上40質量%以下の配合率で含むオリゴマー封止層用組成物を硬化させた硬化皮膜であることが好ましい。(D)酸性触媒をオリゴマー封止層用組成物に配合する場合は、(D)成分の含有量を1質量%以上5質量%以下とすることが好ましい。
前述の範囲の配合率のオリゴマー封止層用組成物を硬化させた硬化皮膜によれば、オリゴマー封止層による粘着剤層12へのオリゴマーの浸入を防止する効果を向上させることができる。
【0155】
(第二実施形態の粘着シートの製造方法)
第二実施形態の粘着シートは、例えば、次のような工程を経て製造される。
まず、基材の第一基材面の上に、オリゴマー封止層形成用組成物を塗布し、塗膜を形成する。次に、この塗膜を加熱及び硬化させて、オリゴマー封止層となる硬化皮膜を形成する。加熱硬化の条件は、例えば、120℃以上170℃以下で、5秒間以上5分間以内である。
次に、基材の第一基材面の上に形成されたオリゴマー封止層の上に、第一実施形態での説明と同様に粘着剤層を形成する。
【0156】
<第三実施形態>
第三実施形態に係る粘着シートは、基材の両面にオリゴマー封止層を有する点において、第二実施形態に係る粘着シートと相違する。その他の点においては第二実施形態と同様であるため、説明を省略又は簡略化する。
図3には、第三実施形態の一例に係る粘着シート10Bの断面図が示されている。
粘着シート10Bは、基材11の第二基材面11bに形成されたオリゴマー封止層13Bと、基材11と、基材11の第一基材面11aに形成されたオリゴマー封止層13Aと、粘着剤層12と、をこの順に有する。
第三実施形態の粘着シート10Bは、基材11の両面に、オリゴマー封止層13A,13Bを有するので、第二実施形態の効果に加えて、第二基材面11bに析出したオリゴマーが被着体以外の部材及び装置に付着して汚染することを抑制できる。例えば、半導体装置を製造する際、加熱プレス工程で粘着シートと接触する板状部材の汚染を抑制できる。
【0157】
(第三実施形態の粘着シートの製造方法)
第三実施形態の粘着シートは、第二実施形態の粘着シートの製造方法において、基材の第一基材面および第二基材面の上に前記オリゴマー封止層形成用組成物からなる塗膜を形成することで製造される。
【0158】
〔実施形態の変形〕
本発明は、前記実施形態に限定されず、本発明の目的を達成できる範囲での変形及び改良等は、本発明に含まれる。なお、以下の説明では、前記実施形態で説明した部材等と同一であれば、同一符号を付してその説明を省略または簡略する。
【0159】
粘着シートは、シート片であってもよく、複数枚の粘着シートが積層された状態で提供されてもよい。この場合、例えば、粘着剤層は、積層される別の粘着シートの基材によって覆われていてもよい。
また、粘着シートは、帯状のシートであってもよく、ロール状に巻き取られた状態で提供されてもよい。ロール状に巻き取られた粘着シートは、ロールから繰り出されて所望のサイズに切断する等して使用することができる。また、粘着シートを予め所望のサイズに切断しておき、帯状の剥離シートに担持された状態で提供されてもよい。
また、オリゴマー封止層は基材の第二基材面にのみ設けられていてもよい。基材の第二基材面上に直接、又はオリゴマー封止層等を介して、接着剤層が設けられていてもよい。接着剤層は、粘着シートを接着剤層により支持基板等に貼り付け、粘着シートの粘着剤層上に電子部品を固定する場合等に用いられる。接着剤層に使用される接着剤は、粘着剤層の粘着剤と同種のものであってもよいし、異なる種類のものであってもよい。
【実施例】
【0160】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。本発明はこれら実施例に何ら限定されない。
【0161】
〔評価方法〕
粘着シートの評価は、以下に示す方法に従って行った。結果を表1、表2及び表3に示す。
【0162】
(高温真空時のブリスター発生の評価)
ガラスエポキシ基板(日立化成(株)製、「MCL-E-679FG」(商品名)、100mm×100mm×0.4mm)を#800の研磨材を用いて研磨した。研磨後、ガラスエポキシ基板の研磨した面の全体に実施例及び比較例で作製した粘着シートを貼り付けた。粘着シートの貼り付けには、ロールラミネーターを用いた。
粘着シートをガラスエポキシ基板に貼り付けた後、加熱真空ラミネーター(ニッコー・マテリアルズ(株)製、「V130」(商品名))を用いて100℃で真空ラミネートし、測定サンプルを作製した。
真空ラミネートの後、85℃の温水に30分間、測定サンプルを浸漬した。浸漬後、測定サンプルを温水から取り出し、測定サンプルの表面の水適を拭き取った。拭き取り後に、25℃の加熱真空乾燥機に測定サンプルを投入した。
その後、加熱真空乾燥機内を減圧(0.005MPa未満)し、設定温度を130℃として測定サンプルを加熱した。昇温速度を5℃/minとした。加熱真空乾燥機内が25℃から130℃になるまでに、膨れ(ブリスター)が発生したか目視で確認した。
判定A:膨れ(ブリスター)が生じなかった。
判定B:被着体の面積10cm2の50%未満の面積においてに膨れ(ブリスター)が発生した。
判定C:被着体の面積10cm2の50%以上の面積においてに膨れ(ブリスター)が発生した。
【0163】
(初期密着試験)
ガラスエポキシ基板(日立化成(株)製、「MCL-E-679FG」(商品名)、100mm×100mm×0.4mm)の表面を#800の研磨材を用いて研磨した。研磨後、ガラスエポキシ基板の研磨した面の全体に実施例及び比較例で作製した粘着シートを貼り付けた。粘着シートの貼り付けは、2kgロールを一往復させて行った。標準環境(23℃50%RH)で30分静置後に、同標準環境で粘着力を測定した。
測定条件は以下の通りとした。
・装置 :島津製作所製引張試験機AG-X plus 10kN
・剥離角度:180°・剥離速度:300mm/minこの粘着力が0.08N/25mm以上の場合を評価A、0.08N/25mm未満である場合をBとした。
【0164】
(100℃における対ポリイミド粘着力)
ポリイミドフィルム(東レ・デュポン(株)製、カプトン200H(商品名))を両面テープ(リンテック(株)製、TL-450S-16(商品名))を用いてアルミニウム板(150mm×70mm、厚さ1mm)に貼り付けた。ポリイミドフィルムに対してJIS Z 0237(2000)を参考にして、測定温度を変更して粘着シートの粘着力を測定した。実施例及び比較例で作製した粘着シートを上記のポリイミドフィルムに貼付けて測定サンプルを作製し、この測定サンプルを30分間、23℃、50%相対湿度の環境下に置き、次いで、3分間、100℃の環境下に置いた後、100℃の環境下で引張試験を行った。
なお、粘着力が0.04[N/25mm]以上の粘着シートを、粘着力が確保されており、良好な工程適性を示すシートであると判定する。
測定条件は以下の通りとした。
・装置 :恒温槽付き引張試験機((株)オリエンテック製「テンシロン」(商品名))
・剥離角度:180°・剥離速度:300mm/min
なお、本明細書において、ポリイミドを、PIと略記する場合がある。
【0165】
(加熱後、常温における対ポリイミド粘着力)
100℃における対ポリイミド粘着力と同様に、実施例及び比較例で作製した粘着シートを上記のポリイミドフィルムに貼付けて測定サンプルを作製した。その後、測定サンプルを窒素環境下で加熱した。
加熱条件は以下の通りとした。
・装置 :MOTOYAMA製 MS-3642
・N2流量:1.5L/min(N2純度:99.995%(体積))
・実温 :190℃・時間 :1.5hrその後、標準環境(23℃、50%RH)に6時間以上静置した後、同標準環境で測定サンプルから粘着シートを剥離角度180°、剥離速度300mm/minで剥離した。
【0166】
(粘着剤層のヤング率)
実施例及び比較例で、乾燥させた塗布用粘着剤液の塗膜をオリゴマー封止層付き基材に貼り合わせる代わりに、リンテック製剥離フィルム「SP-PET381031」(商品名)の剥離剤層を備える面と貼り合せて、基材を有しない単層の粘着剤層を作製した。この粘着剤層4層を、試料が200μm厚みになる様に積層した。この粘着剤層のみの積層体を試料として下記の条件で引張試験を行い、ひずみ及び応力の測定結果から、ひずみの変化に対する応力の変化をグラフ化した。ひずみの変化に対する応力の変化の初期の傾きから、粘着剤のヤング率を測定した。
・装置 :島津製作所製引張試験機AG-X plus 10kN
・試験サンプルサイズ:測定領域長さ50mm×15mm幅・引張試験速度:200mm/min
【0167】
(粘着剤層の単位断面積当たり破断強度)
粘着剤層のヤング率測定と同じ方法で引張試験を行い、破断に至った際の力の最大値(破断強度)を、初期のサンプルの断面積で除して、単位面積当たりの破断強度を算出した。
【0168】
(第1の残渣物評価(第1の糊残り評価))
予め銅箔を#800の研磨材で研磨して、銅箔の表面の一方向に沿って研磨傷を形成した(研磨後の算術平均粗さRa=0.2±0.1μm)。実施例及び比較例で作製した粘着シートを、当該研磨傷が形成された銅箔の表面に貼付した。ここで、比較例1-3の粘着シートについてのみ、紫外線照射装置として、アイグラフィックス社製の高圧水銀ランプを用い、照度200mW/cm2、積算光量200mJ/cm2の条件で紫外線を照射した。その後、銅箔に貼付された粘着シートを100℃で30分加熱し、次いで180℃で30分加熱し、次いで190℃で60分加熱した。加熱後、粘着シートを室温で3mm/minの速度で剥離した。粘着シートを剥がす方向を、研磨傷に対して直交する方向とした。粘着シートを剥離した後の銅箔の表面をデジタル顕微鏡で観察し、糊残りを評価した。糊残りの評価における、判定基準は、次の通りとした。
A判定:糊残りしなかった。
B判定:部分的に糊残りした。
C判定:全面に糊残りした。
【0169】
(第2の残渣物評価(第2の糊残り評価))
ポリイミドフィルム(東レ・デュポン(株)製、カプトン200H(商品名))を両面テープ(リンテック(株)製、TL-450S-16(商品名))を用いて、シリコンミラーウエハ(直径6インチ、厚さ0.68mm)の鏡面に貼り合せた。
その後、ポリイミドフィルムの表面にレーザーマーカー(EO TECHNICS社製CSM300M)を用いて、200μmφの円形のマークを3mm間隔で刻印した(レーザー波長512nm、出力1.0W、走査速度300mm/s)。
なお、本評価に際しては、糊残りが生じやすい条件で評価するために、上記のように、レーザーアブレーションによって、ポリイミドフィルムの表面に上記マークを刻印して、凹凸を形成した。
ポリイミドフィルムの加工面にJIS Z0237(2000)を参考にして、実施例及び比較例で作製した粘着シートを2kgローラーの自重により力をかけてラミネートし、更にその上から加熱ラミネートして測定サンプルを作製した。
加熱ラミネートの条件は以下の通りとした。
・装置 :ニッコーマテリアルズ社製、真空ラミネーターV-130
・加熱温度:100℃・真空待機:60sec
・ダイヤフラム加圧:0.3MPa
【0170】
その後、測定サンプルを窒素環境下で加熱した。
加熱条件は以下の通りとした。
・装置 :MOTOYAMA製 MS-3642
・N2流量:1.5L/min(N2純度:99.995%(体積))
・実温 :190℃・時間 :1.5hr
【0171】
その後、標準環境(23℃、50%RH)に6時間以上静置した後、測定サンプルから粘着シートを剥離角度180°及び剥離速度300mm/minで剥離した。粘着シートを剥離した後のポリイミドフィルムの表面をSEM(走査電子顕微鏡、観察倍率3000倍)で観察し、残渣物の発生の態様により糊残りを評価した。糊残りの評価における判定基準は、以下の通りとした。
-判定基準-
A判定:残渣物がなかった。
B判定:残渣物があり、かつ残渣物の大きさが5μm未満であった。
C判定:残渣物があり、かつ残渣物の大きさが5μm以上10μm未満であった。
D判定:残渣物があり、かつ残渣物の大きさが10μm以上であった。
【0172】
〔粘着シートの作製〕
[実施例1-1]
(1-1)塗布用オリゴマー封止剤液の調製
下記(A)ビスフェノールA型エポキシ化合物、(B)ポリエステル化合物、(C)多官能アミノ化合物及び(D)酸性触媒を配合し、充分に撹拌して、実施例1-1に係る塗布用オリゴマー封止剤液(オリゴマー封止層用組成物)を調製した。
(A)ビスフェノールA型エポキシ化合物
DIC社製「EPICLON H-360」(商品名)、固形分濃度:40質量%、質量平均分子量:25000
(B)ポリエステル化合物
東洋紡績社製「バイロンGK680」(商品名)、数平均分子量:6000、ガラス転移温度:10℃
(C)多官能アミノ化合物
ヘキサメトキシメチルメラミン、日本サイテックインダストリーズ社製「サイメル303」(商品名)
(D)酸性触媒
p-トルエンスルホン酸のメタノール溶液(固形分濃度:50質量%)
具体的には、上記(A)ビスフェノールA型エポキシ化合物100質量部に、上記(B)ポリエステル化合物のトルエン希釈溶液(固形分濃度:30質量%)19.0質量部、及び上記(C)ヘキサメトキシメチルメラミン11.4質量部を加え、さらに、トルエン/メチルエチルケトン=50質量%/50質量%の混合溶剤で希釈し、固形分濃度が3質量%の溶液を調製した。調製した溶液を撹拌し、撹拌後の溶液に(D)p-トルエンスルホン酸のメタノール溶液(固形分濃度:50質量%)を2.9質量部添加して、塗布用オリゴマー封止剤液を得た。なお、質量部数はすべて固形分換算したものである。
【0173】
(1-2)オリゴマー封止層の作製(オリゴマー封止層付き基材の作製)
調製した塗布用オリゴマー封止剤液を、アニールされた二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(帝人フィルムソリューション株式会社製「テイジンテトロンG2A」(商品名)、厚さ25μm)の一方の面にマイヤーバーコート法にて均一に塗布した。塗布後のフィルムをオーブンの内部を通過させ、塗膜を加熱硬化させて、厚さが150nmのオリゴマー封止層を形成し、オリゴマー封止層付き基材を得た。オーブンにおける熱風の吹き出し条件としては、温度を150℃とし、風速を8m/minとした。オーブンにおける加工速度としては、塗布後のフィルムがオーブン内部を20秒で通過する速度に調整した。
【0174】
(1-3)粘着剤組成物の作製
以下の材料(ポリマー(重合体成分)、架橋剤、重合性官能基を有する低分子化合物、光重合開始剤及び希釈溶剤)を配合し、充分に撹拌して、実施例1-1に係る塗布用粘着剤液を調製した。
・ポリマー:アクリル酸エステル共重合体、100質量部(固形分)
アクリル酸エステル共重合体は、アクリル酸2-エチルヘキシル92.8質量%と、アクリル酸2-ヒドロキシエチル7.0質量%と、アクリル酸0.2質量%とを共重合して調製した。
・架橋剤:ヘキサメチレンジイソシアネートを有する脂肪族系イソシアネート〔日本ポリウレタン工業(株)社製;コロネートHX〕、7.4質量部(固形分)
・重合性官能基を有する低分子化合物:トリシクロデカンジメタノールジアクリレート〔新中村化学(株)社製;A-DCP〕23.3質量部(固形分)
・光重合開始剤:2-ヒロドキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]フェニル}-2-メチル-プロパン-1-オン〔IGM Resin社製;Omnirad 127〕4.1質量部(固形分)
・希釈溶剤:酢酸エチルを用い、塗布用粘着剤液の固形分濃度は、30質量%に調製した。
【0175】
(1-4)粘着剤層の作製
調製した塗布用粘着剤液を、ナイフコーターを用いて、シリコーン系剥離層を備える厚さ38μmの透明ポリエチレンテレフタレートフィルムからなる剥離フィルム〔リンテック(株)社製;SP-PET382150〕の剥離層面側に塗布した。次いで剥離フィルム上の塗布用粘着剤液の塗膜に90℃で90秒間の加熱を行い、続いて115℃で90秒間の加熱を行い、塗膜を乾燥させた。その後、塗膜と、上述の手順により得たオリゴマー封止層付き基材のオリゴマー封止層が設けられた面とを貼り合わせた。そして、塗膜に、紫外線照射装置として、アイグラフィックス社製の高圧水銀ランプを用い、照度200mW/cm2、積算光量200mJ/cm2の条件で剥離フィルム側から紫外線を照射し、厚さ50μmの粘着剤層を作製した。このようにして、実施例1-1に係る粘着シートを得た。
【0176】
[実施例1-2]
トリシクロデカンジメタノールジアクリレート23.3質量部(固形分)の代わりに、9,9-ビス[4-(2-アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン〔新中村化学(株)製;A-BPEF〕23.3質量部(固形分)を用いた以外は、実施例1-1と同様にして実施例1-2の粘着シートを得た。
【0177】
[実施例1-3]
トリシクロデカンジメタノールジアクリレート23.3質量部(固形分)の代わりに、プロポキシ化ビスフェノールAジアクリレート〔新中村化学(株)製;A-BPP〕23.3質量部(固形分)を用いた以外は、実施例1-1と同様にして実施例1-3の粘着シートを得た。
【0178】
[実施例1-4]
トリシクロデカンジメタノールジアクリレート23.3質量部(固形分)の代わりに、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート〔新中村化学(株)社製;A-DPH〕(官能基間鎖長:6)23.3質量部(固形分)を用いた以外は、実施例1-1と同様にして実施例1-4の粘着シートを得た。
【0179】
[実施例1-5]
トリシクロデカンジメタノールジアクリレート23.3質量部(固形分)の代わりに、ε-カプロラクトン変性トリス-(2-アクリロキシエチル)イソシアヌレート〔新中村化学(株)社製;A-9300-1CL〕23.3質量部(固形分)を用いた以外は、実施例1-1と同様にして実施例1-5の粘着シートを得た。
【0180】
[比較例1-1]
粘着剤組成物の作製において、以下の材料(ポリマー、粘着助剤、架橋剤及び希釈溶剤)を配合し、粘着剤層の作製において、紫外線を照射する工程を省略した以外は、実施例1-1と同様にして比較例1-1の粘着シートを得た。
・ポリマー:アクリル酸エステル共重合体、100質量部(固形分)
アクリル酸エステル共重合体は、アクリル酸2-エチルヘキシル92.8質量%と、アクリル酸2-ヒドロキシエチル7.0質量%と、アクリル酸0.2質量%とを共重合して調製した。
・粘着助剤:両末端水酸基水素化ポリブタジエン〔日本曹達(株)製;GI-1000〕、12.5質量部(固形分)
・架橋剤:ヘキサメチレンジイソシアネートを有する脂肪族系イソシアネート〔日本ポリウレタン工業(株)製;コロネートHX〕、8.75質量部(固形分)
・希釈溶剤:メチルエチルケトンを用い、塗布用粘着剤液の固形分濃度は、30質量%に調製した。
【0181】
[比較例1-2]
粘着剤組成物の作製において、粘着助剤を配合しなかった以外は、比較例1-1と同様にして比較例1-2の粘着シートを得た。
【0182】
[比較例1-3]
紫外線を照射する工程を省略した以外は、実施例1-1と同様にして比較例1-3の粘着シートを得た。なお、第1の残渣物評価の際には、上述の条件により紫外線を照射した上で評価を行った。
【0183】
【0184】
[試験・評価結果]
ブリスター試験の結果、実施例1-1、1-2及び1-3について膨れ(ブリスター)が発生せずA判定であり、実施例1-4及び1-5についてはB判定であり、比較例1-1及び1-2についてはC判定であり、比較例1-3は、B判定であった。被着体に貼着する前に予め紫外線硬化性成分を硬化させて硬化物とすることで、当該硬化物を含有する粘着剤層は、粘着力が向上し、ブリスター発生の抑制効果が認められた。一分子中に重合性官能基を2つ有する紫外線硬化性成分を用いた実施例1-1、1-2及び1-3は、膨れ(ブリスター)を抑制する効果がより高い。
第1の残渣物評価の結果、実施例1-1、1-2、1-3、1-4及び1-5について糊残りなしのA判定であった。比較例1-1については一部糊残りしてB判定であり、比較例1-2及び比較例1-3については全面に糊残りしてC判定であった。
この結果から、封止工程に実施例1-1、1-2、1-3、1-4及び1-5に係る粘着シートを用いた場合でも糊残りせず、更に実施例1-1、1-2及び1-3に係る粘着シートは、プラズマ工程の様なブリスターが発生し易い工程においても剥離が発生し難いことを確認した。
【0185】
[実施例2-1]
(2-1)塗布用オリゴマー封止剤液の調製
実施例1-1に係る塗布用オリゴマー封止剤液の調製と同様にして、実施例2-1に係る塗布用オリゴマー封止剤液を調製した。
【0186】
(2-2)オリゴマー封止層の作製(オリゴマー封止層付き基材の作製)
基材として、アニールされた二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(帝人フィルムソリューション株式会社製「テイジンテトロンG2A」(商品名)、厚さ25μm)を準備した。以下、アニールされた二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを単に「PETフィルム」とも称する。
調製した塗布用オリゴマー封止剤液を、「PETフィルム」の片面にマイヤーバーコート法にて均一に塗布した。塗布用オリゴマー封止剤液を塗布後の「PETフィルム」をオーブンの内部を通過させ、塗膜を加熱硬化させて、PETフィルムの片面に厚さが150nmのオリゴマー封止層を形成した。次いで、「PETフィルム」のもう一方の表面にも、同様にして厚さが150nmのオリゴマー封止層を形成し、両面オリゴマー封止層付き基材を得た。オーブンにおける熱風の吹き出し条件としては、温度を150℃とし、風速を8m/minとした。オーブンにおける加工速度としては、塗布後の「PETフィルム」がオーブン内部を20秒で通過する速度に調整した。
【0187】
(2-3)粘着剤組成物の作製
以下の材料(ポリマー(重合体成分(A))、架橋剤、重合性官能基を有する低分子化合物、光重合開始剤及び希釈溶剤)を配合し、充分に撹拌して、実施例2-1に係る塗布用粘着剤液を調製した。
・ポリマー:アクリル酸エステル共重合体(重合体成分(A))、100質量部(固形分)
アクリル酸エステル共重合体は、アクリル酸2-エチルヘキシル80.8質量%と、アクリロイルモルホリン(窒素含有官能基を有する単量体)12.0質量%と、アクリル酸2-ヒドロキシエチル7.0質量%と、アクリル酸0.2質量%とを共重合して、重量平均分子量440,000の重合体を調製した。
・架橋剤:ヘキサメチレンジイソシアネートを有する脂肪族系イソシアネート〔日本ポリウレタン工業(株)社製;コロネートHX〕、7.4質量部(固形分)
・重合性官能基を有する低分子化合物:プロポキシ化ビスフェノールAジアクリレート〔新中村化学(株)社製;A-BPP-3〕23.3質量部(固形分)
・光重合開始剤:2-ヒロドキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]フェニル}-2-メチル-プロパン-1-オン〔IGM Resin社製;Omnirad 127〕4.1質量部(固形分)
・希釈溶剤:酢酸エチルを用い、塗布用粘着剤液の固形分濃度は、30質量%に調製した。
【0188】
(2-4)粘着剤層の作製
調製した塗布用粘着剤液を、ナイフコーターを用いて、シリコーン系剥離層を備える厚さ38μmの透明ポリエチレンテレフタレートフィルムからなる剥離フィルム〔リンテック(株)社製;SP-PET382150〕の剥離層面側に塗布した。次いで剥離フィルム上の塗布用粘着剤液の塗膜に90℃で90秒間の加熱を行い、続いて115℃で90秒間の加熱を行い、塗膜を乾燥させた。その後、塗膜と、上述の手順により得たオリゴマー封止層付き基材のオリゴマー封止層が設けられた一方の面とを貼り合わせた。そして、塗膜に、紫外線照射装置として、アイグラフィックス社製の高圧水銀ランプを用い、照度200mW/cm2、積算光量200mJ/cm2の条件で剥離フィルム側から紫外線を照射し、厚さ50μmの粘着剤層を作製した。このようにして、実施例2-1に係る粘着シートを得た。
【0189】
[実施例2-2]
重合体成分(A)としてのアクリル酸エステル共重合体を、アクリル酸2-エチルヘキシル86.8質量%と、アクリロイルモルホリン6.0質量%と、アクリル酸2-ヒドロキシエチル7.0質量%と、アクリル酸0.2質量%とを共重合して、重量平均分子量510,000の重合体を調製した以外は、実施例2-1と同様にして実施例2-2の粘着シートを得た。
【0190】
[実施例2-3]
重合体成分(A)としてのアクリル酸エステル共重合体を、アクリル酸2-エチルヘキシル89.8質量%と、アクリロイルモルホリン3.0質量%と、アクリル酸2-ヒドロキシエチル7.0質量%と、アクリル酸0.2質量%とを共重合して、重量平均分子量520,000の重合体を調製した以外は、実施例2-1と同様にして実施例2-3の粘着シートを得た。
【0191】
[実施例2-4]
重合体成分(A)としてのアクリル酸エステル共重合体を、アクリル酸2-エチルヘキシル80.8質量%と、窒素含有官能基を有する単量体としてのN,N-ジメチルアクリルアミド(窒素含有官能基を有する単量体)12.0質量%と、アクリル酸2-ヒドロキシエチル7.0質量%と、アクリル酸0.2質量%とを共重合して、重量平均分子量500,000の重合体を調製した以外は、実施例2-1と同様にして実施例2-4の粘着シートを得た。
【0192】
[実施例2-5]
アクリル酸エステル共重合体を、アクリル酸2-エチルヘキシル92.8質量%と、アクリル酸2-ヒドロキシエチル7.0質量%と、アクリル酸0.2質量%とを共重合して、重量平均分子量1,050,000の重合体を調製した以外は、実施例2-1と同様にして実施例2-5の粘着シートを得た。なお、アクリル酸エステル共重合体自体は、実施例1-3に係るアクリル酸エステル共重合体と同じである。
【0193】
[比較例2-2]
粘着剤組成物の作製において、以下の材料(ポリマー、粘着助剤、架橋剤及び希釈溶剤)を配合し、粘着剤層の作製において、紫外線を照射する工程を省略した以外は、実施例2-1と同様にして比較例2-2の粘着シートを得た。
・ポリマー:アクリル酸エステル共重合体、100質量部(固形分)
アクリル酸エステル共重合体は、アクリル酸2-エチルヘキシル92.8質量%と、アクリル酸2-ヒドロキシエチル7.0質量%と、アクリル酸0.2質量%とを共重合して、重量平均分子量1,050,000の重合体を調製した。
・粘着助剤:両末端水酸基水素化ポリブタジエン〔日本曹達(株)製;GI-1000〕、12.5質量部(固形分)
・架橋剤:ヘキサメチレンジイソシアネートを有する脂肪族系イソシアネート〔日本ポリウレタン工業(株)製;コロネートHX〕、8.75質量部(固形分)
・希釈溶剤:メチルエチルケトンを用い、塗布用粘着剤液の固形分濃度は、30質量%に調製した。
なお、アクリル酸エステル共重合体自体は、比較例1-1に係るアクリル酸エステル共重合体と同じである。
【0194】
【0195】
(表2の説明)
・「ACMO」は、アクリロイルモルホリンを意味する。
・「DMAA」は、N,N-ジメチルアクリルアミドを意味する。
・「PI」は、ポリイミドを意味する。
【0196】
[評価結果]
実施例2-1、2-2、2-3及び2-4の粘着シートは、比較例2-2の粘着シートに比べ、第2の残渣物評価が良好であった。
なお、実施例2-5の粘着シートは、粘着剤層自体の構成は、実施例1-3と同じであるため、比較例2-2(粘着剤層自体の構成は、比較例1-1と同じ)に比べて、表1に示すように第1の残渣物評価が良好であったものの、第2の残渣物評価では、どちらも判定がDとなった。
実施例2-1、2-2、2-3及び2-4の粘着シートは、100℃におけるポリイミドに対する粘着力が0.04[N/25mm]以上であった。すなわち、実施例2-1、2-2、2-3及び2-4の粘着シートは、粘着力が確保されており、良好な工程適性を示すシートであった。
本実施例の粘着シートによれば、粘着剤層が、重合体成分(A)と、硬化物(B)とを含むことによって、加熱時の粘着力を向上させ、被着体から剥離した際の糊残りを防止することができる。
【0197】
〔粘着シートの作製〕
[実施例3-1]
(3-1)塗布用オリゴマー封止剤液の調製
実施例1-1に係る塗布用オリゴマー封止剤液の調製と同様にして、実施例3-1に係る塗布用オリゴマー封止剤液を調製した。
【0198】
(3-2)オリゴマー封止層の作製(オリゴマー封止層付き基材の作製)
実施例2-1に係るオリゴマー封止層付き基材の作製と同様にして、実施例3-1に係るオリゴマー封止層付き基材を調製した。
【0199】
(3-3)粘着剤組成物の作製
以下の材料(ポリマー(重合体成分)、架橋剤、重合性官能基を有する低分子化合物、光重合開始剤及び希釈溶剤)を配合し、充分に撹拌して、実施例3-1に係る塗布用粘着剤液を調製した。
アクリル酸エステル共重合体は、アクリル酸2-エチルヘキシル80.8質量%と、アクリロイルモルホリン(窒素含有官能基を有する単量体)12.0質量%と、4-ヒドロキシブチルアクリレート7.0質量%と、アクリル酸0.2質量%とを共重合して、重量平均分子量120,000の重合体を調製した。
・架橋剤:ヘキサメチレンジイソシアネートを有する脂肪族系イソシアネート〔日本ポリウレタン工業(株)社製;コロネートHX〕、7.4質量部(固形分)
・重合性官能基を有する低分子化合物:プロポキシ化ビスフェノールAジアクリレート〔新中村化学(株)社製;A-BPP-3〕23.3質量部(固形分)
・光重合開始剤:2-ヒロドキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]フェニル}-2-メチル-プロパン-1-オン〔IGM Resin社製;Omnirad 127〕4.1質量部(固形分)
・希釈溶剤:酢酸エチルを用い、塗布用粘着剤液の固形分濃度は、30質量%に調製した。
【0200】
(3-4)粘着剤層の作製
実施例3-1に係る粘着剤層は、実施例2-1の「(2-4)粘着剤層の作製」における塗布用粘着剤液を、実施例3-1に係る塗布用粘着剤液に変更したこと以外、実施例2-1と同様にして作製した。
【0201】
[実施例3-2]
実施例3-1におけるプロポキシ化ビスフェノールAジアクリレート〔新中村化学(株)社製;A-BPP-3〕を、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート〔新中村化学(株)社製;A-HD-N〕(官能基間鎖長:4)に変更したこと以外、実施例3-1と同様にして実施例3-2の粘着シートを得た。
【0202】
[実施例3-3]
実施例3-1におけるプロポキシ化ビスフェノールAジアクリレート〔新中村化学(株)社製;A-BPP-3〕を、トリプロピレングリコールジアクリレート〔新中村化学(株)社製;APG-200〕(官能基間鎖長:6)に変更したこと以外、実施例3-1と同様にして実施例3-3の粘着シートを得た。
【0203】
[実施例3-4]
実施例3-1におけるプロポキシ化ビスフェノールAジアクリレート〔新中村化学(株)社製;A-BPP-3〕を、1,9-ノナンジオールジアクリレート〔新中村化学(株)社製;A-NOD-N〕(官能基間鎖長:9)に変更したこと以外、実施例3-1と同様にして実施例3-4の粘着シートを得た。
【0204】
[実施例3-5]
実施例3-1におけるプロポキシ化ビスフェノールAジアクリレート〔新中村化学(株)社製;A-BPP-3〕を、1,10-デカンジオールジアクリレート〔新中村化学(株)社製;A-DOD-N〕(官能基間鎖長:10)に変更したこと以外、実施例3-1と同様にして実施例3-5の粘着シートを得た。
【0205】
[実施例3-6]
実施例3-1におけるアクリル酸エステル共重合体を、実施例2-5におけるものに変更し、さらに、プロポキシ化ビスフェノールAジアクリレート〔新中村化学(株)社製;A-BPP-3〕を、1,10-デカンジオールジアクリレート〔新中村化学(株)社製;A-DOD-N〕(官能基間鎖長:10)に変更したこと以外、実施例3-1と同様にして実施例3-6の粘着シートを得た。
【0206】
[実施例3-7]
実施例3-1におけるアクリル酸エステル共重合体を、実施例2-5におけるものに変更し、さらに、プロポキシ化ビスフェノールAジアクリレート〔新中村化学(株)社製;A-BPP-3〕を、ポリプロピレングリコール#400ジアクリレート〔新中村化学(株)社製;APG-400〕(官能基間鎖長:14)に変更したこと以外、実施例3-1と同様にして実施例3-7の粘着シートを得た。
【0207】
[実施例3-8]
実施例3-1におけるアクリル酸エステル共重合体を、実施例2-5におけるものに変更し、さらに、プロポキシ化ビスフェノールAジアクリレート〔新中村化学(株)社製;A-BPP-3〕を、ポリプロピレングリコール(#700)ジアクリレート〔新中村化学(株)社製;APG-700〕(官能基間鎖部炭素数:24)に変更したこと以外、実施例3-1と同様にして実施例3-8の粘着シートを得た。
【0208】
実施例3-1~実施例3-8に係る粘着シートの評価結果を表3に示す。
なお、実施例3-1~実施例3-8に係る粘着シートを評価するために、比較対象とする実施例1-3、実施例2-1及び比較例1-1に係る粘着シートの評価結果も、表3に含めた。
【0209】
【0210】
[評価結果]
実施例3-1~実施例3-8に係る粘着シートによれば、比較例1-1と比べて、第2の糊残り評価結果が良好であった。
【0211】
実施例3-1~実施例3-5に係る粘着シートによれば、剥離性を向上させることができた。官能基含有モノマーとしてHEAを用いた実施例2-1の加熱後、常温における対ポリイミド粘着力がやや高いのに対し、官能基含有モノマーとして4-HBAを用いた実施例3-1~実施例3-5に係る粘着シートは、適度な、常温における対ポリイミド粘着力を示し、剥離性が向上した。
【0212】
実施例3-1と実施例3-2~3-6に係る粘着シートを対比すると、実施例3-2~3-6に係る粘着シートの方が初期密着力に優れていた。
実施例3-1においては、エネルギー線硬化性化合物として、環式構造を有するエネルギー線硬化性化合物を用いた。実施例3-2~3-6では、所定の鎖状構造を有するエネルギー線硬化性化合物を用いたところ、初期密着力が向上した。これは、環式構造ではなく、所定の鎖状構造を有するエネルギー線硬化性化合物を用いたことにより、ヤング率が低下して初期密着性が向上したと考えられる。
【0213】
実施例3-6~3-8に係る粘着シートは、重合体成分の構成単位としてACMOを含有しないものの、所定の鎖状構造を有するエネルギー線硬化性化合物を用いたことにより、糊残り防止効果が向上した。
【0214】
実施例1-3、2-1及び3-1を対比すると、いずれも、第1の糊残り評価の結果は、A判定であったが、より厳しい条件である第2の糊残り評価の結果は、実施例1-3がD判定であり、重合体成分の単量体として窒素含有官能基を有するACMOを用いた実施例2-1及び3-1がA判定であった。
【符号の説明】
【0215】
10,10A,10B…粘着シート、11…基材、11a…第一基材面、11b…第二基材面、12…粘着剤層、13,13A,13B…オリゴマー封止層、RL…剥離シート。