(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】クロロプレン重合体ラテックス組成物、及び、浸漬成形体
(51)【国際特許分類】
C08L 11/02 20060101AFI20241008BHJP
C08F 236/18 20060101ALI20241008BHJP
C08J 5/00 20060101ALI20241008BHJP
B29C 41/14 20060101ALI20241008BHJP
B29C 41/36 20060101ALI20241008BHJP
A41D 19/00 20060101ALI20241008BHJP
A61L 29/04 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
C08L11/02
C08F236/18
C08J5/00 CEQ
B29C41/14
B29C41/36
A41D19/00 A
A61L29/04 110
(21)【出願番号】P 2023508924
(86)(22)【出願日】2022-03-07
(86)【国際出願番号】 JP2022009789
(87)【国際公開番号】W WO2022202254
(87)【国際公開日】2022-09-29
【審査請求日】2023-06-16
(31)【優先権主張番号】P 2021049019
(32)【優先日】2021-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【氏名又は名称】中塚 岳
(74)【代理人】
【識別番号】100160897
【氏名又は名称】古下 智也
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 実沙樹
(72)【発明者】
【氏名】加藤 真洋
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 雄志
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/141170(WO,A1)
【文献】特開2019-143002(JP,A)
【文献】国際公開第2019/009038(WO,A1)
【文献】特開平07-292165(JP,A)
【文献】特開2014-114342(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L,C08J,B29C,A41D,A61L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロロプレン重合体ラテックスAとクロロプレン重合体ラテックスBとの混合物であるクロロプレン重合体ラテックス組成物であって、
前記クロロプレン重合体ラテックスA及び前記クロロプレン重合体ラテックスBがクロロプレン重合体を含有し、
前記クロロプレン重合体ラテックスBの前記クロロプレン重合体がクロロプレンと2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンとの共重合体を含み、
前記クロロプレン重合体ラテックスBの前記クロロプレン重合体における2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン共重合量が、クロロプレン及び2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンの合計100質量%に対して3質量%以上であり、
前記クロロプレン重合体ラテックスAの前記クロロプレン重合体のトルエン不溶分が10質量%以下であり、
前記クロロプレン重合体ラテックスBの前記クロロプレン重合体のトルエン不溶分が70質量%以上であり、
前記クロロプレン重合体ラテックスAにおけるトルエン可溶分の重量平均分子量が5,000~250,000であり、
前記クロロプレン重合体ラテックス組成物を凍結乾燥させて得られる乾燥物からエタノール/トルエン共沸混合物(JIS K 6229で規定されるエタノール/トルエン共沸混合物)で抽出される抽出物のガスクロマトグラフ質量分析の測定結果において、デヒドロアビエチン酸、ピマール酸、イソピマール酸、ジヒドロアビエチン酸及びこれらの塩の合計量aに対するアビエチン酸、ネオアビエチン酸、パラストリン酸、レボピマール酸及びこれらの塩の合計量bの質量比b/aが0.10以上である、クロロプレン重合体ラテックス組成物。
【請求項2】
前記クロロプレン重合体ラテックスBの前記クロロプレン重合体のトルエン不溶分が70~95質量%である、請求項
1に記載のクロロプレン重合体ラテックス組成物。
【請求項3】
前記クロロプレン重合体ラテックスAの割合が、前記クロロプレン重合体ラテックスA及び前記クロロプレン重合体ラテックスBの合計100質量部に対して0.5~30質量部であり、
当該クロロプレン重合体ラテックス組成物に含まれるクロロプレン重合体のトルエン不溶分が50~85質量%である、請求項1
又は2に記載のクロロプレン重合体ラテックス組成物。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか一項に記載のクロロプレン重合体ラテックス組成物を用いた、浸漬成形体。
【請求項5】
硫黄及び加硫促進剤を含まない、請求項
4に記載の浸漬成形体。
【請求項6】
手袋、風船、カテーテル又は長靴である、請求項
5に記載の浸漬成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロロプレン重合体ラテックス組成物、及び、浸漬成形体に関する。より詳しくは、本発明は、クロロプレンと2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンとの共重合体を含むクロロプレン重合体ラテックス組成物、及び、当該クロロプレン重合体ラテックス組成物を用いた浸漬成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
クロロプレン重合体は、医療用手術手袋、医療用検査手袋、工業用手袋、風船、カテーテル、ゴム長靴等の浸漬成形製品の材料として知られている。
【0003】
クロロプレン重合体の柔軟性改良又は浸漬成形製品用のクロロプレン重合体に関する技術は種々提案されている。下記特許文献1には、防振ゴム用途に向け、数平均分子量500~50,000の範囲の低分子量クロロプレン重合体を混合させることで、減衰性能が向上することが記載されている。下記特許文献2には、浸漬成形製品用途に向け、クロロプレンとメタクリル酸を共重合させて得られる変性ポリクロロプレン100質量部と、水90~150質量部と、乳化剤1~5質量部と、カリウムイオン0.5~2.5質量部を含有する、pH7~14のポリクロロプレンラテックスが記載されている。下記特許文献3には、浸漬成形製品用途に向け、クロロプレンと2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンとを共重合させ、ポリクロロプレンの13C-固体NMRスペクトルにおいて、126.2~127.6ppmのピーク面積(A)、122.0~126.2ppmのピーク面積(B)、129.9~130.3ppmのピーク面積(C)が下記一般式(I)で示される範囲であるメルカプタン変性ポリクロロプレンラテックスが記載されている。下記特許文献4には、浸漬成形製品用途に向け、高分子量体と低分子量体を含むことにより、浸漬成形により作製された加硫ゴムにおいて優れた柔軟性と力学物性を両立できるクロロプレン重合体ラテックスが記載されている。
【0004】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平7-292165号公報
【文献】特開2014-114342号公報
【文献】国際公開第2019/009038号
【文献】特開2019-143002号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
浸漬成形製品としてクロロプレン重合体浸漬成形被膜は、硫黄、加硫促進剤等の架橋剤を添加することで一般的に機械的強度に優れており、クロロプレン重合体ラテックスは、手袋、風船、長靴、カテーテル等の浸漬成形被膜におけるゴムラテックス原料として用いられてきた。一方で、天然ゴム又はポリイソプレンを用いて得られる浸漬成形被膜と同様に高い柔軟性が求められる傾向があり、特に手袋用途においては、装着感又は被膜の風合いに直結する柔軟性に関する物性を改善したクロロプレン重合体ラテックスが望まれている。
【0007】
また、機械的強度を向上させる上で好まれる硫黄及び加硫促進剤は、人体に悪影響を及ぼすIV型アレルギー成分に該当する物質となっている。また、それらの成分を使用しないことによる浸漬成形被膜を製造する上でのコストダウンが求められており、硫黄及び加硫促進剤を含まず、且つ、優れた柔軟性を有しつつ破断強度に優れた浸漬成形被膜を提供可能なクロロプレン重合体ラテックスが望まれている。
【0008】
そこで、本発明は、硫黄及び加硫促進剤を用いずとも、高い破断強度を有しつつ優れた柔軟性を有するクロロプレン重合体浸漬成形被膜を得ることが可能なクロロプレン重合体ラテックス組成物を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は、クロロプレン重合体ラテックスAとクロロプレン重合体ラテックスBとの混合物であるクロロプレン重合体ラテックス組成物であって、前記クロロプレン重合体ラテックスA及び前記クロロプレン重合体ラテックスBがクロロプレン重合体を含有し、前記クロロプレン重合体ラテックスBの前記クロロプレン重合体がクロロプレンと2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンとの共重合体を含み、前記クロロプレン重合体ラテックスBの前記クロロプレン重合体における2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン共重合量(2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンの単量体単位の含有量;以下において同様)が、クロロプレン及び2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンの合計100質量%に対して3質量%以上であり、前記クロロプレン重合体ラテックスBの前記クロロプレン重合体のトルエン不溶分が70質量%以上であり、前記クロロプレン重合体ラテックスAにおけるトルエン可溶分の重量平均分子量が5,000~250,000であり、前記クロロプレン重合体ラテックス組成物を凍結乾燥させて得られる乾燥物からエタノール/トルエン共沸混合物(JIS K 6229で規定されるエタノール/トルエン共沸混合物)で抽出される抽出物のガスクロマトグラフ質量分析の測定結果において、デヒドロアビエチン酸、ピマール酸、イソピマール酸、ジヒドロアビエチン酸及びこれらの塩の合計量aに対するアビエチン酸、ネオアビエチン酸、パラストリン酸、レボピマール酸及びこれらの塩の合計量bの質量比b/aが0.10以上である、クロロプレン重合体ラテックス組成物に関する。なお、本発明において「JIS」とは、日本工業規格(Japanese Industrial Standards)を意味する。
【0010】
上記クロロプレン重合体ラテックス組成物は、前記クロロプレン重合体ラテックスAの前記クロロプレン重合体のトルエン不溶分が5質量%以下である、クロロプレン重合体ラテックス組成物であってよい。
【0011】
上記クロロプレン重合体ラテックス組成物は、前記クロロプレン重合体ラテックスBの前記クロロプレン重合体のトルエン不溶分が70~95質量%である、クロロプレン重合体ラテックス組成物であってよい。
【0012】
上記クロロプレン重合体ラテックス組成物は、前記クロロプレン重合体ラテックスAの割合が、前記クロロプレン重合体ラテックスA及び前記クロロプレン重合体ラテックスBの合計100質量部に対して0.50~30.0質量部であり、当該クロロプレン重合体ラテックス組成物に含まれるクロロプレン重合体のトルエン不溶分が50~85質量%である、クロロプレン重合体ラテックス組成物であってよい。
【0013】
また、本発明は、上記クロロプレン重合体ラテックス組成物を用いた、浸漬成形体に関する。このような浸漬成形体は、硫黄及び加硫促進剤を含まなくてもよい。上記浸漬成形体は、手袋、風船、カテーテル又は長靴であってもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、人体に悪影響を及ぼすIV型アレルギー成分に該当する硫黄及び加硫促進剤を用いずとも、高い破断強度を有しつつ優れた柔軟性を有するクロロプレン重合体浸漬成形被膜を得ることが可能なクロロプレン重合体ラテックス組成物を提供することができる。このようなクロロプレン重合体ラテックス組成物では、トルエン可溶分の重量平均分子量が比較的低分子量の250,000以下であること等により、低分子量ポリマーの可塑効果によって非常に優れた柔軟性を得ることができる。本発明によれば、硫黄及び加硫促進剤を用いずとも、高い破断強度及び破断伸びを有しつつ優れた柔軟性を有するクロロプレン重合体浸漬成形被膜を得ることもできる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0016】
本明細書において、数値範囲の「A以上」とは、A、及び、Aを超える範囲を意味する。数値範囲の「A以下」とは、A、及び、A未満の範囲を意味する。本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値と任意に組み合わせることができる。本明細書に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてよい。「A又はB」とは、A及びBのどちらか一方を含んでいればよく、両方とも含んでいてよい。本明細書に例示する材料は、特に断らない限り、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸、及び、それに対応するメタクリル酸の少なくとも一方を意味し、「(メタ)アクリレート」等の他の類似の表現においても同様である。「トルエン可溶分」及び「トルエン不溶分」の測定においては、室温23℃のトルエンを用いることができる。
【0017】
<クロロプレン重合体ラテックス組成物>
まず、本発明の第一の実施形態に係るクロロプレン重合体ラテックス組成物について説明する。本実施形態に係るクロロプレン重合体ラテックス組成物(以下、「混合クロロプレン重合体ラテックス組成物」という)は、クロロプレン重合体ラテックスAとクロロプレン重合体ラテックスBとの混合物である。
【0018】
本実施形態に係る混合クロロプレン重合体ラテックス組成物は、例えば、パドル翼を用いて、クロロプレン重合体ラテックスA及びBを含む2種以上のクロロプレン重合体ラテックスを100rpmで1分間攪拌混合させることで得ることができる。本実施形態に係る混合クロロプレン重合体ラテックス組成物は、クロロプレン重合体ラテックスA及びB以外のクロロプレン重合体ラテックスを混合して得られてよい。クロロプレン重合体ラテックスA及びB以外のクロロプレン重合体ラテックスとしては、例えば、混合クロロプレン重合体ラテックス組成物を用いて得られた浸漬成形体において表面硬さを要求する際に、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンが共重合しておらず結晶性が高いクロロプレン重合体ラテックスが挙げられる。
【0019】
(クロロプレン重合体)
クロロプレン重合体ラテックスAは、クロロプレン重合体を含有する。クロロプレン重合体は、クロロプレン(2-クロロ-1,3-ブタジエン)を単量体単位として有する重合体であり、クロロプレンの単独重合体、又は、クロロプレンと他の単量体との共重合体(クロロプレンと2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンとの共重合体等)であってよい。クロロプレン重合体ラテックスBは、クロロプレン重合体を含有し、当該クロロプレン重合体がクロロプレンと2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンとの共重合体を含む。
【0020】
クロロプレンと2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンとの共重合体は、クロロプレン及び2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンを単量体単位として有する重合体であり、クロロプレンと2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンとを含む単量体組成物を重合させることにより得ることができる。
【0021】
クロロプレンと2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンとの共重合体は、クロロプレン及び2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン以外の他の単量体の単量体単位を有してよい。このような単量体としては、(メタ)アクリル酸のエステル類((メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル等)、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート(2-ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等)、(メタ)アクリル酸、1-クロロ-1,3-ブタジエン、ブタジエン、イソプレン、エチレン、スチレン、(メタ)アクリロニトリルなどが挙げられる。一方で、クロロプレンと2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンとの共重合体は、クロロプレン及び2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン以外の他の単量体の単量体単位を有していなくてもよく、実質的にクロロプレンの単量体単位及び2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンの単量体単位からなる共重合体であってよい。
【0022】
クロロプレン重合体ラテックスA及びクロロプレン重合体ラテックスBからなる群より選ばれる少なくとも一種は、ロジン酸、ロジン酸ナトリウム及びロジン酸カリウムからなる群より選ばれる少なくとも一種と、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムからなる群より選ばれる少なくとも一種と、を含有することができる。クロロプレン重合体ラテックスA及びBの乳化系は、ブレンドしたときにゴム固形分の凝集、pH変動等を防ぐため、ベースラテックスと合わせることが望ましい。
【0023】
(トルエン不溶分)
クロロプレン重合体のトルエン不溶分は、クロロプレン重合体ラテックスA,B、又は、混合クロロプレン重合体ラテックス組成物を凍結乾燥させて得られるクロロプレン重合体をトルエンで溶解した後に遠心分離を行い、さらに、200メッシュ金網を用いて不溶分(ゲル分)を分離した後に乾燥させて得られる乾燥物の質量を測定することで求められる。
【0024】
クロロプレン重合体ラテックスAのクロロプレン重合体のトルエン不溶分(ゲル分)は、クロロプレン重合体100質量%に対して10質量%以下が好ましい。トルエン不溶分が10質量%以下であれば、混合クロロプレン重合体ラテックス組成物を用いて得られる浸漬成形被膜の柔軟性の指標である100%伸長時のモジュラス値が低くなりやすく、優れた柔軟性を得やすい。
【0025】
クロロプレン重合体ラテックスAのクロロプレン重合体のトルエン不溶分は、優れた柔軟性が得られやすい観点から、8質量%以下、6質量%以下、5質量%以下、5質量%未満、4質量%以下、3質量%以下、2質量%以下、又は、1.5質量%以下であってよい。トルエン不溶分は、0質量%以上、0質量%超、1質量%以上、1.5質量%以上、2質量%以上、3質量%以上、4質量%以上、5質量%以上、又は、6質量%以上であってよい。これらの観点から、トルエン不溶分は、0質量%超10質量%以下、1~10質量%、1.5~10質量%、0質量%超6質量%以下、1~6質量%、1.5~6質量%、0質量%超3質量%以下、1~3質量%、又は、1.5~3質量%であってよい。
【0026】
クロロプレン重合体ラテックスBのクロロプレン重合体のトルエン不溶分(ゲル分)は、クロロプレン重合体100質量%に対して70質量%以上である。トルエン不溶分が70質量%以上であれば、混合クロロプレン重合体ラテックス組成物を用いて得られる浸漬成形被膜において優れた柔軟性が得られると共に、ポリマー同士の絡み合い(ゲル)等によって架橋構造が形成されることにより浸漬成形被膜の機械的強度が高くなる。
【0027】
クロロプレン重合体ラテックスBのクロロプレン重合体のトルエン不溶分は、優れた柔軟性が得られやすい観点、及び、機械的強度が高くなりやすい観点から、75質量%以上、80質量%以上、82質量%以上、85質量%以上、86質量%以上、又は、90質量%以上であってよい。トルエン不溶分は、未反応モノマーの減少による重合反応性の低下を回避しやすい観点から、95質量%以下、90質量%以下、86質量%以下、85質量%以下、82質量%以下、80質量%以下、又は、75質量%以下であってよい。これらの観点から、トルエン不溶分は、70~95質量%、70~90質量%、70~85質量%、75~95質量%、75~90質量%、又は、75~85質量%であってよい。
【0028】
混合クロロプレン重合体ラテックス組成物に含まれるクロロプレン重合体のトルエン不溶分(ゲル分)は、クロロプレン重合体100質量%に対して、下記の範囲であってよい。トルエン不溶分は、50質量%以上、55質量%以上、60質量%以上、65質量%以上、70質量%以上、75質量%以上、又は、80質量%以上であってよい。トルエン不溶分は、85質量%以下、80質量%以下、75質量%以下、70質量%以下、65質量%以下、60質量%以下、又は、55質量%以下であってよい。これらの観点から、トルエン不溶分は、50~85質量%、50~80質量%、50~75質量%、60~85質量%、60~80質量%、又は、60~75質量%であってよい。トルエン不溶分の数値範囲は、クロロプレン重合体ラテックスAとクロロプレン重合体ラテックスBとの混合比率によって調整できる。
【0029】
(トルエン可溶分の重量平均分子量)
クロロプレン重合体ラテックスAにおけるトルエン可溶分(トルエン可溶なゾル分)の重量平均分子量は、5,000~250,000である。重量平均分子量が250,000以下であると、低分子量ポリマーの可塑効果により、優れた柔軟性を示す浸漬成形被膜が得られる。重量平均分子量が5,000以上であると、浸漬成形被膜を好適に得ることができる。
【0030】
トルエン可溶分の重量平均分子量は、優れた柔軟性及び破断強度を両立しやすい観点から、下記の範囲であってよい。重量平均分子量は、6,000以上、7,000以上、10,000以上、12,000以上、15,000以上、16,000以上、18,000以上、20,000以上、22,000以上、又は、24,000以上であってよい。重量平均分子量は、240,000以下、220,000以下、200,000以下、180,000以下、100,000以下、50,000以下、25,000以下、24,000以下、22,000以下、20,000以下、18,000以下、16,000以下、15,000以下、12,000以下、10,000以下、又は、7,000以下であってよい。これらの観点から、重量平均分子量は、5,000~240,000、5,000~180,000、6,000~240,000、6,000~200,000、6,000~100,000、6,000~50,000、6,000~25,000、7,000~100,000、7,000~50,000、7,000~25,000、10,000~100,000、10,000~50,000、10,000~25,000、20,000~100,000、20,000~50,000、又は、20,000~25,000であってよい。
【0031】
トルエン可溶分の重量平均分子量は、クロロプレン重合体ラテックスAをトルエンに溶解させ、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で溶出分(ゾル分)の重量平均分子量を測定することにより得ることができる。重量平均分子量の測定値は、連鎖移動剤の配合量(仕込み量)等によって変化する。
【0032】
[ゲル浸透クロマトグラフィーによる重量平均分子量測定]
下記の条件でGPC測定を行う。分子量の算出はポリスチレン換算で求める。
・ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定装置:東ソー株式会社製、ゲル浸透クロマトグラフ(HLC-8320)
・カラム:東ソー株式会社製、TSKgel ALPHA-M
・溶離液:テトラヒドロフラン(関東化学株式会社製)
・溶離液流量:1.0ml/min
・カラム温度:40℃
・検出方法:示差屈折率(RI)計
・検量線:標準ポリスチレンを用いて作成
【0033】
(クロロプレン共重合量)
クロロプレン重合体ラテックスAに含まれるクロロプレン重合体がクロロプレンと他の単量体との共重合体である場合、クロロプレン重合体におけるクロロプレン共重合量(クロロプレンの単量体単位の含有量;以下において同様)は、浸漬成形被膜において優れた柔軟性が得られやすい観点から、クロロプレン重合体中の単量体単位の全量100質量%、又は、クロロプレン重合体中のクロロプレン共重合量及び2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン共重合量の合計100質量%に対して、下記の範囲であってよい。クロロプレン共重合量は、99質量%以下、97質量%以下、95質量%以下、92質量%以下、90質量%以下、88質量%以下、85質量%以下、82質量%以下、又は、80質量%以下であってよい。クロロプレン共重合量は、50質量%以上、50質量%超、60質量%以上、70質量%以上、75質量%以上、80質量%以上、82質量%以上、85質量%以上、88質量%以上、又は、90質量%以上であってよい。これらの観点から、クロロプレン共重合量は、50~99質量%、70~99質量%、80~99質量%、85~99質量%、90~99質量%、50~90質量%、70~90質量%、80~90質量%、85~90質量%、50~85質量%、70~85質量%、80~85質量%、50~80質量%、又は、70~80質量%であってよい。
【0034】
クロロプレン重合体ラテックスBのクロロプレン重合体におけるクロロプレン共重合量は、浸漬成形被膜において優れた柔軟性が得られやすい観点から、クロロプレン重合体中の単量体単位の全量100質量%、又は、クロロプレン重合体中のクロロプレン共重合量及び2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン共重合量の合計100質量%に対して、下記の範囲であってよい。クロロプレン共重合量は、99質量%以下、97質量%以下、95質量%以下、92質量%以下、90質量%以下、88質量%以下、85質量%以下、82質量%以下、又は、80質量%以下であってよい。クロロプレン共重合量は、70質量%以上、75質量%以上、80質量%以上、82質量%以上、85質量%以上、88質量%以上、90質量%以上、92質量%以上、又は、95質量%以上であってよい。これらの観点から、クロロプレン共重合量は、70~99質量%、70~97質量%、70~95質量%、70~90質量%、80~99質量%、80~97質量%、80~95質量%、80~90質量%、85~99質量%、85~97質量%、85~95質量%、又は、85~90質量%であってよい。
【0035】
(2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン共重合量)
クロロプレン重合体ラテックスAに含まれるクロロプレン重合体がクロロプレンと他の単量体との共重合体である場合、クロロプレン重合体における2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン共重合量は、浸漬成形被膜において優れた柔軟性が得られやすい観点から、クロロプレン重合体中の単量体単位の全量100質量%、又は、クロロプレン重合体中のクロロプレン共重合量及び2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン共重合量の合計100質量%に対して、下記の範囲であってよい。2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン共重合量は、1質量%以上、3質量%以上、5質量%以上、8質量%以上、10質量%以上、12質量%以上、15質量%以上、18質量%以上、又は、20質量%以上であってよい。2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン共重合量は、50質量%以下、50質量%未満、40質量%以下、30質量%以下、25質量%以下、20質量%以下、18質量%以下、15質量%以下、12質量%以下、又は、10質量%以下であってよい。これらの観点から、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン共重合量は、1~50質量%、1~30質量%、1~20質量%、1~15質量%、1~10質量%、10~50質量%、10~30質量%、10~20質量%、10~15質量%、15~50質量%、15~30質量%、15~20質量%、20~50質量%、又は、20~30質量%であってよい。
【0036】
クロロプレン重合体ラテックスBのクロロプレン重合体における2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン共重合量は、浸漬成形被膜において優れた柔軟性が得られやすい観点から、クロロプレン重合体中の単量体単位の全量100質量%、又は、クロロプレン重合体中のクロロプレン共重合量及び2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン共重合量の合計100質量%に対して3質量%以上が好ましい。2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン共重合量が3質量%以上であれば、浸漬成形被膜において優れた柔軟性を得やすい。2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン共重合量は、浸漬成形被膜において優れた柔軟性が得られやすい観点から、下記の範囲であってよい。2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン共重合量は、5質量%以上、8質量%以上、10質量%以上、12質量%以上、15質量%以上、18質量%以上、又は、20質量%以上であってよい。2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン共重合量は、30質量%以下、25質量%以下、20質量%以下、18質量%以下、15質量%以下、12質量%以下、10質量%以下、8質量%以下、又は、5質量%以下であってよい。これらの観点から、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン共重合量は、3~30質量%、5~30質量%、10~30質量%、3~20質量%、5~20質量%、10~20質量%、3~15質量%、5~15質量%、又は、10~15質量%であってよい。
【0037】
2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン共重合量は、クロロプレン重合体ラテックスを凍結乾燥させて得られるクロロプレン重合体の熱分解ガスクロマトグラフを測定することで求められる。
【0038】
[熱分解ガスクロマトグラフの測定]
熱分解ガスクロマトグラフは以下の測定条件で実施できる。
・使用カラム:DB-5 0.25mmφ×30m(膜厚1.0μm)
・カラム温度:50℃→10℃/min→120℃→25℃/min→300℃
・注入口温度:270℃
・検出器温度:280℃
・試料量:0.05mg
【0039】
(質量比b/a)
本実施形態に係る混合クロロプレン重合体ラテックス組成物を凍結乾燥させて得られる乾燥物(クロロプレン重合体)からエタノール/トルエン共沸混合物(JIS K 6229で規定されるエタノール/トルエン共沸混合物)で抽出される抽出物のガスクロマトグラフ質量分析の測定結果において、デヒドロアビエチン酸、ピマール酸、イソピマール酸、ジヒドロアビエチン酸及びこれらの塩の合計量aに対するアビエチン酸、ネオアビエチン酸、パラストリン酸、レボピマール酸及びこれらの塩の合計量bの質量比b/a(合計量b/合計量a)は、0.10以上である。質量比b/aが0.10以上であることにより、優れた破断強度を得ることができる。
【0040】
質量比b/aは、優れた破断強度が得られやすい観点から、0.20以上、0.30以上、0.40以上、0.50以上、0.60以上、0.70以上、0.80以上、0.90以上、1.00以上、1.20以上、1.40以上、又は、1.60以上であってよい。質量比b/aは、2.00以下、1.80以下、1.60以下、1.40以下、1.20以下、1.00以下、0.90以下、0.80以下、0.70以下、0.60以下、0.50以下、0.40以下、又は、0.30以下であってよい。これらの観点から、質量比b/aは、0.10~2.00、0.10~1.20、0.10~1.00、0.10~0.80、0.10~0.70、0.30~2.00、0.30~1.20、0.30~1.00、0.30~0.80、0.30~0.70、0.50~2.00、0.50~1.20、0.50~1.00、0.50~0.80、0.50~0.70、0.80~2.00、0.80~1.20、0.80~1.00、又は、1.00~2.00であってよい。
【0041】
混合クロロプレン重合体ラテックス組成物を凍結乾燥させて得られる乾燥物を裁断した後にコンデンサー付属のフラスコに入れ、JIS K 6229で規定されるエタノール/トルエン共沸混合物で抽出し、塩酸処理を施した後、ガスクロマトグラフ質量分析の測定を実施することができる。各成分のピーク面積値を含有量とみなして算出することで、合計量a及び合計量bを求めることができる。質量比b/aの値は、乳化剤として添加するロジン酸及びロジン酸金属塩の種類に起因する。
【0042】
[ガスクロマトグラフ質量分析の測定条件]
ガスクロマトグラフ質量分析は、以下の測定条件で実施できる。
・使用カラム:FFAP 0.32mmφ×25m(膜厚0.3μm)
・カラム温度:200℃→250℃
・昇温速度:10℃/min
・注入口温度:270℃
・注入量:1μL
・インターフェイス温度:270℃
・イオン源温度:270℃
・イオン化電流:50μA
・イオン化電圧:70eV
・検出器電圧:-1000V
・検出器電圧:EI法
【0043】
(クロロプレン重合体ラテックスの混合割合)
クロロプレン重合体ラテックスAの割合(混合割合)は、混合クロロプレン重合体ラテックス組成物を用いて得られる浸漬成形被膜における破断強度と柔軟性を両立させやすい観点から、固形分比率で、クロロプレン重合体ラテックスA及びクロロプレン重合体ラテックスBの合計100質量部に対して、下記の範囲であってよい。クロロプレン重合体ラテックスAの割合は、0.5質量部以上、1質量部以上、5質量部以上、10質量部以上、15質量部以上、20質量部以上、25質量部以上、又は、30質量部以上であってよい。クロロプレン重合体ラテックスAの割合は、50質量部以下、40質量部以下、30質量部以下、25質量部以下、20質量部以下、15質量部以下、10質量部以下、又は、5質量部以下であってよい。これらの観点から、クロロプレン重合体ラテックスAの割合は、0.5~50質量部、0.5~30質量部、0.5~25質量部、0.5~20質量部、0.5~15質量部、5~50質量部、5~30質量部、5~25質量部、5~20質量部、5~15質量部、10~50質量部、10~30質量部、10~25質量部、10~20質量部、又は、10~15質量部であってよい。
【0044】
(混合クロロプレン重合体ラテックス組成物により得られる効果)
本実施形態に係る混合クロロプレン重合体ラテックス組成物によれば、硫黄及び加硫促進剤を用いずとも、高い破断強度を有しつつ優れた柔軟性を有するクロロプレン重合体浸漬成形被膜を得ることができる。具体的には、硫黄及び加硫促進剤を用いることなく混合クロロプレン重合体ラテックス組成物を130℃で4時間加硫することにより得られる浸漬成形被膜は、JIS K 6251に準拠して測定したときに、100%伸長時モジュラス0.40~0.75MPa、及び、破断強度17MPa以上を与える。特に、手術用手袋用途におけるASTM規格「D3577」において、破断強度は17MPa以上と規定されている。当該浸漬成形被膜は、優れた柔軟性を備え、硫黄及び加硫促進剤を含まずとも十分な機械的強度を有している。
【0045】
従来のクロロプレン重合体は、目的とする機械的強度を持った加硫ゴムを得るために、硫黄又は加硫促進剤の使用が不可欠であった。硫黄及び加硫促進剤は、皮膚炎等の皮膚疾患を発症させるIV型アレルギーの原因物質であることから、硫黄及び加硫促進剤の削減又は不使用化が重要なテーマとなっている。また、硫黄及び加硫促進剤の不使用化は、アレルギーの低減だけではなくコストダウンにも繋がることから、硫黄及び加硫促進剤を使用せずに優れた柔軟性を有しつつ十分な機械的強度を発現する浸漬成形製品を得ることが可能なクロロプレン重合体ラテックス組成物が望まれている。
【0046】
本実施形態に係る混合クロロプレン重合体ラテックス組成物から得られる浸漬成形被膜は、硫黄及び/又は加硫促進剤を含んでもよい。しかしながら、上記浸漬成形被膜は、硫黄及び加硫促進剤を含まずとも、従来のクロロプレン重合体ラテックスから得られる加硫浸漬成形被膜と同等かそれ以上の機械的特性を備える。このため、本実施形態に係る混合クロロプレン重合体ラテックス組成物は浸漬成形被膜の原料として好適に用いられる。
【0047】
(クロロプレン重合体ラテックスA及びBの製造方法)
次に、クロロプレン重合体ラテックスA及びBの製造方法について説明する。
【0048】
クロロプレン重合体ラテックスAの製造方法は、クロロプレン及び2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む単量体組成物を乳化重合する重合工程を含む。重合工程は、クロロプレンと、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンと、アルキルメルカプタンとを乳化重合させてクロロプレン重合体ラテックスを得る工程であってよい。
【0049】
クロロプレン重合体ラテックスBの製造方法は、クロロプレンと2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンとを含む単量体組成物を乳化重合する重合工程を含む。重合工程は、クロロプレンと、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンと、アルキルメルカプタンとを乳化重合させてクロロプレン重合体ラテックスを得る工程であってよい。
【0050】
クロロプレン重合体ラテックスBのクロロプレン重合体における2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン共重合量は、前述の通り、クロロプレン重合体中の単量体単位の全量100質量%、又は、クロロプレン重合体中のクロロプレン及び2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンの合計100質量%に対して、3質量%以上等(例えば3~30質量%)であってよい。この場合、重合工程(乳化重合開始前)における2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンの配合量(仕込み量)は、クロロプレン重合体を得るための単量体の全量100質量部、又は、クロロプレン及び2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンの合計100質量部に対して、3質量部以上等(例えば3~30質量部)であってよい。
【0051】
乳化重合に際して用いる連鎖移動剤の種類は、特に限定されるものではない。連鎖移動剤としては、例えば、n-ドデシルメルカプタン(1-ドデシルメルカプタン)、tert-ドデシルメルカプタン等の長鎖アルキルメルカプタン類、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィド、ジエチルキサントゲンジスルフィド等のジアルキルキサントゲンジスルフィド類、ヨードホルムなどのように、クロロプレンの乳化重合に一般的に使用されている公知の連鎖移動剤を使用することができる。
【0052】
クロロプレン重合体ラテックスAにおいて、乳化重合開始前の連鎖移動剤の配合量(仕込み量)で重量平均分子量を調整することができる。例えば、連鎖移動剤の配合量(例えば、メルカプタン系連鎖移動剤(n-ドデシルメルカプタン等)の配合量)は、クロロプレン及び2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンの合計100質量部に対して0.50~10.0質量部が好ましい。これにより、トルエン可溶分の重量平均分子量を5,000~250,000に調整しやすく、混合クロロプレン重合体ラテックス組成物を用いて得られる浸漬成形被膜の柔軟性が向上しやすい。
【0053】
クロロプレン重合体ラテックスBにおいて、乳化重合開始前の連鎖移動剤(例えばアルキルメルカプタン)の配合量(仕込み量)は、クロロプレン及び2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンの合計100質量部に対して、0.01~0.1質量部が好ましく、0.02~0.05質量部がより好ましい。連鎖移動剤の配合量が0.01質量部以上であると、ラテックスの貯蔵安定性が向上しやすい。連鎖移動剤の配合量が0.1質量部以下であると、トルエン不溶分が多くなり、混合クロロプレン重合体ラテックス組成物を用いて得られる浸漬成形被膜の強度が高くなりやすい。
【0054】
乳化重合に用いる乳化剤は、優れた破断強度が得られやすい観点から、ロジン酸類が好ましく、アビエチン酸、ネオアビエチン酸、パラストリン酸、レボピマール酸及びこれらの塩が含まれるロジン酸類がより好ましい。また、ロジン酸類を用いることで、ベースラテックスとブレンドしたときにゴム固形分の凝集、pH変動等を防ぐことができる。
【0055】
また、一般的に用いられるその他の乳化剤、脂肪酸類等を用いることもできる。その他の乳化剤としては、芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物の金属塩(例えばβ-ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩)、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸カリウム、アルキルジフェニルエーテルスルホン酸ナトリウム、アルキルジフェニルエーテルスルホン酸カリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテルスルホン酸ナトリウム、ポリオキシプロピレンアルキルエーテルスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテルスルホン酸カリウム、ポリオキシプロピレンアルキルエーテルスルホン酸カリウム等が挙げられる。
【0056】
ロジン酸を除く陰イオン界面活性剤の含有量は、クロロプレン重合体ラテックスに含まれるクロロプレン重合体100質量%に対して0.2~1.0質量%が好ましい。このため、乳化重合開始前のロジン酸を除く陰イオン界面活性剤の配合量(仕込み量)を、クロロプレン及び2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンの合計100質量部に対して0.2~0.9質量部の範囲内とすることが好ましい。
【0057】
乳化重合開始時の水性乳化液のpHは10.5~13.5であることが好ましい。水性乳化液とは、乳化重合開始前のアルキルメルカプタン、クロロプレン、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン等の混合液を指すが、各成分を後添加したり、分割添加したりすることにより、その組成が変わる場合も包含される。乳化重合開始時の水性乳化液のpHが10.5以上であると、より安定的に重合反応を制御することができる。pHが13.5以下であると、重合中の過度な粘度上昇が抑制されて、より安定的に重合反応を制御することができる。
【0058】
乳化重合の重合温度は、5~55℃の範囲内であってよい。重合温度が5℃以上であると、乳化液が凍結しづらい。重合温度が55℃以下であると、クロロプレンモノマーの蒸散及び沸騰を抑制しやすい。
【0059】
重合開始剤としては、通常のラジカル重合で用いられる過硫酸カリウム、過酸化ベンゾイル、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等を用いればよい。
【0060】
重合転化率は、50~95%の範囲であってよい。重合反応は、重合禁止剤を加えることにより停止させることができる。重合転化率が50%以上であると、トルエン不溶分が増加し、得られる浸漬成形被膜の強度が高くなりやすく、また、生産コストが有利である。重合転化率が95%以下であると、未反応モノマーの減少による重合反応性の低下を回避し、生産性の低下を避けられる。
【0061】
重合禁止剤としては、ジエチルヒドロキシルアミン、チオジフェニルアミン、4-tert-ブチルカテコール、2,2’-メチレンビス-4-メチル-6-tert-ブチルフェノール等が挙げられる。乳化重合終了後の未反応単量体は、常法の減圧蒸留等の方法で除去することができる。
【0062】
また、クロロプレン重合体ラテックスA及びBには、重合後に凍結安定剤、乳化安定剤、粘度調整剤、酸化防止剤、防腐剤等を任意に添加することができる。
【0063】
<浸漬成形体>
次に、本発明の第二の実施形態に係る浸漬成形体について説明する。本実施形態に係る浸漬成形体は、前述した第一の実施形態の混合クロロプレン重合体ラテックス組成物を用いた浸漬成形体であり、例えば、第一の実施形態の混合クロロプレン重合体ラテックス組成物を単独で浸漬成形したもの(第一の実施形態の混合クロロプレン重合体ラテックス組成物に他のクロロプレン重合体ラテックスを混合することなく浸漬成形したもの)、あるいは、第一の実施形態の混合クロロプレン重合体ラテックス組成物と、他のクロロプレン重合体ラテックスとをブレンドした後に浸漬成形したものである。すなわち、本実施形態に係る浸漬成形体は、第一の実施形態の混合クロロプレン重合体ラテックス組成物単独の浸漬成形体、又は、第一の実施形態の混合クロロプレン重合体ラテックス組成物と、他のクロロプレン重合体ラテックスとを混合して得られる混合ラテックス組成物の浸漬成形体であってよい。本実施形態に係る浸漬成形体は、100%伸長時のモジュラスが低く柔軟であり、且つ、強度、伸び等の機械的特性に優れている。本実施形態に係る浸漬成形体は、手袋、風船、カテーテル又は長靴であってよい。
【0064】
本実施形態に係る浸漬成形体の製造方法(成形方法)としては、例えば凝固液浸漬法が挙げられるが、これに限定されるものではなく、常法に従って成形すればよい。
【0065】
本実施形態に係る浸漬成形体は、加硫剤及び加硫促進剤からなる群より選ばれる少なくとも一種を含まなくてよく、加硫剤及び加硫促進剤からなる群より選ばれる少なくとも一種を含んでもよい。すなわち、本実施形態に係る浸漬成形体は、加硫剤を含み加硫促進剤を含まない態様、加硫剤を含まず加硫促進剤を含む態様、加硫剤及び加硫促進剤を含む態様、並びに、加硫剤及び加硫促進剤を含まない態様を包含する。加硫剤及び加硫促進剤を配合するか否かは、目的とする浸漬成形体に応じて決定すればよい。
【0066】
加硫剤としては、硫黄、酸化亜鉛、酸化マグネシウム等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0067】
加硫促進剤は、原料ゴムの加硫に際して、加硫剤と作用して加硫速度を増大させ加硫時間の短縮、加硫温度の低下、加硫剤の減量、加硫ゴムの物性向上等を目的として添加する薬剤である。加硫促進剤は、通常は硫黄加硫反応を促進する薬剤を指す。
【0068】
クロロプレン重合体ラテックスの加硫に一般的に用いられる加硫促進剤としては、チウラム系、ジチオカルバミン酸塩系、チオウレア系、グアニジン系、キサントゲン酸塩系、チアゾール系等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。加硫促進剤は、単独で、又は、必要に応じ2種以上組み合わせて用いられるが、これに限定されるものではない。
【0069】
チウラム系の加硫促進剤としては、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド、テトラキス(2-エチルヘキシル)チウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド等が挙げられる。
【0070】
ジチオカルバミン酸塩系の加硫促進剤としては、ジブチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛、N-エチル-N-フェニルジチオカルバミン酸亜鉛、N-ペンタメチレンジチオカルバミン酸亜鉛、ジメチルジチオカルバミン酸銅、ジメチルジチオカルバミン酸第二鉄、ジエチルジチオカルバミン酸テルル等が挙げられ、特にジブチルジチオカルバミン酸亜鉛が好適に用いられる。
【0071】
チオウレア系の加硫促進剤としては、エチレンチオウレア、N,N’-ジエチルチオウレア、トリメチルチオウレア、N,N’-ジフェニルチオウレア等が挙げられる。
【0072】
グアニジン系の加硫促進剤としては、1,3-ジフェニルグアニジン、1,3-ジ-o-トリルグアニジン、1-o-トリルビグアニド、ジカテコールボレートのジ-o-トリルグアニジン塩等が挙げられる。
【0073】
キサントゲン酸塩系の加硫促進剤としては、ブチルキサントゲン酸亜鉛、イソプロピルキサントゲン酸亜鉛等が挙げられる。
【0074】
チアゾール系の加硫促進剤としては、2-メルカプトベンゾチアゾール、ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド、2-メルカプトベンゾチアゾール亜鉛塩、2-メルカプトベンゾチアゾールのシクロヘキシルアミン塩、2-(4’-モルホリノジチオ)ベンゾチアゾール等が挙げられる。
【0075】
本実施形態に係る浸漬成形体は、硫黄及び加硫促進剤の有無を問わず優れた機械的特性を発揮するが、アレルギー低減及びコストダウンの観点からは、硫黄及び加硫促進剤を含まないものが好ましい。
【実施例】
【0076】
以下、実施例、比較例及び参考例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0077】
<実施例1>
(クロロプレン重合体ラテックスAの作製)
内容積40リットルの重合缶に、クロロプレン単量体80質量部、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン単量体20質量部、1-ドデシルメルカプタン3質量部、純水90質量部、ロジン酸X(質量比b/a=0.80)4.5質量部、水酸化カリウム1.50質量部、及び、β-ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩(商品名「デモールN」、花王株式会社製)0.50質量部を添加した。重合開始前の水性乳化液のpHは12.9であった。重合開始剤として過硫酸カリウム0.1質量部を添加し、重合温度20℃にて窒素気流下で重合を行った。重合転化率85%となった時点で、重合禁止剤であるジエチルヒドロキシルアミンを0.01質量部加えて重合を停止させ、ラテックスを得た。
【0078】
上記ラテックスを減圧蒸留して未反応の単量体と水分を除去することで、固形分55%のクロロプレン重合体ラテックスA(メルカプタン変性クロロプレン重合体ラテックス)を得た。
【0079】
(クロロプレン重合体ラテックスBの作製)
内容積40リットルの重合缶に、クロロプレン単量体95質量部、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン単量体5質量部、1-ドデシルメルカプタン0.04質量部、純水90質量部、ロジン酸X(質量比b/a=0.80)4.3質量部、水酸化カリウム1.50質量部、及び、β-ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩(商品名「デモールN」、花王株式会社製)0.50質量部を添加した。重合開始前の水性乳化液のpHは13.2であった。重合開始剤として過硫酸カリウム0.1質量部を添加し、重合温度15℃にて窒素気流下で重合を行った。重合転化率70%となった時点で、重合禁止剤であるジエチルヒドロキシルアミンを0.01質量部加えて重合を停止させ、ラテックスを得た。
【0080】
上記ラテックスを減圧蒸留して未反応の単量体と水分を除去することで、固形分55%のクロロプレン重合体ラテックスB(メルカプタン変性クロロプレン重合体ラテックス)を得た。
【0081】
(ロジン酸の質量比b/aの測定)
上述のロジン酸Xをエタノール/トルエン共沸混合物(JIS K 6229で規定されるエタノール/トルエン共沸混合物、ETA溶液)に溶解させて1.5%溶液を調製した後に塩酸処理を施し、ガスクロマトグラフ質量分析を用いて測定した。ガスクロマトグラフ質量分析で検出される総ピーク面積値に対する面積百分率を含有量とみなして、デヒドロアビエチン酸、ピマール酸、イソピマール酸、ジヒドロアビエチン酸及びこれらの塩の合計量a、並びに、アビエチン酸、ネオアビエチン酸、パラストリン酸、レボピマール酸及びこれらの塩の合計量bを算出し、合計量aに対する合計量bの質量比b/aを算出した。
【0082】
共役樹脂酸成分のうち、アビエチン酸成分(アビエチン酸及びその塩。他の樹脂酸成分についても同様)は31.2%、ネオアビエチン酸成分は0.8%、パラストリン酸成分は4.0%、レボピマール酸成分は2.7%検出され、共役樹脂酸成分の総面積は38.7%であった。非共役樹脂酸成分のうち、デヒドロアビエチン酸成分は35.3%、ピマール酸成分は7.5%、イソピマール酸成分は3.2%、ジヒドロアビエチン酸成分は2.4%検出され、非共役樹脂酸成分の総面積は48.4%であった。よって、ロジン酸Xにおける「(共役樹脂酸成分の含有量)÷(非共役樹脂酸成分の含有量)」の値(質量比b/a)は「38.7÷48.4=0.80」であった。後述のロジン酸Y(質量比b/a=1.87)及びロジン酸Z(質量比b/a=0;アビエチン酸、ネオアビエチン酸、パラストリン酸、レボピマール酸及びこれらの塩が検出されず)についても同様に分析し、質量比b/aを得た。
【0083】
(クロロプレン重合体ラテックスA及びBのトルエン不溶分の測定)
上記クロロプレン重合体ラテックスA及びBを凍結乾燥させて得られるクロロプレン重合体1gを2mm角に裁断することにより小片を得た後、この小片をコニカルビーカーに入れてトルエンで16時間溶解した。その後、遠心分離し、200メッシュ金網を用いてゲル分を分離した後に乾燥させて得られる乾燥物の質量を測定することによりトルエン不溶分を算出した。クロロプレン重合体ラテックスAのトルエン不溶分は1.1質量%であり、クロロプレン重合体ラテックスBのトルエン不溶分は82質量%であった。
【0084】
(クロロプレン重合体ラテックスAのトルエン可溶分の重量平均分子量の測定)
上記クロロプレン重合体ラテックスAをトルエンに溶解させた際の溶出分(ゾル分)について、ゲル浸透クロマトグラフィーによる重量平均分子量をポリスチレン換算で測定したところ、24,000であった。
【0085】
(2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン共重合量の測定)
上記クロロプレン重合体ラテックスA及びBを凍結乾燥させて得られるクロロプレン重合体を0.05mgの試験片に裁断し、熱分解ガスクロマトグラフにて測定を実施した。この熱分解ガスクロマトグラフにて測定したクロロプレン重合体ラテックスの2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン共重合量として、クロロプレン重合体中のクロロプレン及び2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンの合計100質量%に対して、クロロプレン重合体ラテックスAは21質量%であり、クロロプレン重合体ラテックスBは4.6質量%であった。本分析値より、クロロプレン重合体中の2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン共重合量は、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンの配合量(仕込み量)と概ね相関を示すことが確認された。
【0086】
(混合ラテックス組成物の調製)
クロロプレン重合体ラテックスAとクロロプレン重合体ラテックスBとの合計を100質量部とした際に、クロロプレン重合体ラテックスAを10質量部、及び、クロロプレン重合体ラテックスBを90質量部の比率(固形分比率)で攪拌混合させることで混合ラテックス組成物(混合クロロプレン重合体ラテックス組成物)を得た。
【0087】
(混合ラテックス組成物におけるロジン酸の質量比b/aの測定)
上記混合ラテックス組成物を凍結乾燥させて得られる乾燥物(クロロプレン重合体)3gを2mm角に裁断することにより小片を得た。この小片をコンデンサー付属のナス形フラスコに入れ、エタノール/トルエン共沸混合物(JIS K 6229で規定されるエタノール/トルエン共沸混合物、ETA溶液)に溶解させて1.5%溶液を調製した。その後に塩酸処理を施し、ガスクロマトグラフ質量分析を用いて測定した。ガスクロマトグラフ質量分析で検出される総ピーク面積値に対する面積百分率を含有量とみなして、デヒドロアビエチン酸、ピマール酸、イソピマール酸、ジヒドロアビエチン酸及びこれらの塩の合計量a、並びに、アビエチン酸、ネオアビエチン酸、パラストリン酸、レボピマール酸及びこれらの塩の合計量bを算出し、合計量aに対する合計量bの質量比b/aを算出した。質量比b/aは0.80であった。
【0088】
(混合ラテックス組成物のトルエン不溶分の測定)
上記混合ラテックス組成物を凍結乾燥させて得られるクロロプレン重合体1gを2mm角に裁断することにより小片を得た後、この小片をコニカルビーカーに入れてトルエンで16時間溶解した。その後、遠心分離し、200メッシュ金網を用いてゲル分を分離した後に乾燥させて得られる乾燥物の質量を測定することによりトルエン不溶分を算出した。混合ラテックス組成物のトルエン不溶分は72質量%であった。
【0089】
(評価サンプルの作製)
上記混合ラテックス組成物の固形分100質量部に、水分散液4.1質量部を混合した後に水を加えて配合物の全体の固形分濃度を30質量%に調整して、硫黄及び加硫促進剤を含まない成形用組成物を作製した。上記水分散液は、酸化亜鉛(加硫剤、商品名「酸化亜鉛2種」、堺化学工業株式会社製)2質量部、p-クレゾールとジシクロペンタジエンのブチル化反応生成物(商品名「ノクラックPBK」、大内新興化学工業株式会社製)2質量部、β-ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩(商品名「デモールN」、花王株式会社製)0.1質量部、及び、水13質量部を、陶器製ボールミルを用いて、20℃で16時間混合し、調製した。
【0090】
外径50mmのセラミック製の筒(株式会社シンコー製)を、水62質量部、硝酸カリウム四水和物35質量部、及び、炭酸カルシウム3質量部を混合した凝固液に1秒間浸した後に筒を取り出した。室温23℃にて3分間乾燥させた後、上記筒を上記成形用組成物に10秒間浸した。その後、45℃の流水で1分間洗浄した後、130℃で4時間加硫して、評価サンプルとして加硫フィルム(浸漬成形被膜。硫黄及び加硫促進剤を含まない加硫フィルム)を作製した。加硫フィルムを筒の外周面から剥離して評価を行った。
【0091】
(評価サンプルの評価)
上記加硫フィルムについて、JIS K 6251に準拠して100%伸長時モジュラス、破断強度及び破断伸びを測定した。
【0092】
<実施例2~9、比較例1~5及び参考例1~2>
表1~表3に示した条件により、実施例1と同様に加硫フィルムを作製及び評価した。実施例6~9及び比較例4~5において、ロジン酸Y(質量比b/a=1.87)を使用した。実施例5~9及び比較例3において、ロジン酸Z(質量比b/a=0;アビエチン酸、ネオアビエチン酸、パラストリン酸、レボピマール酸及びこれらの塩が検出されず)を使用した。
【0093】
<結果>
実施例1~9、比較例1~5及び参考例1~2の結果を表1~表3に示す。
【0094】
【0095】
【0096】
【0097】
表1~表3から明らかなように、実施例1~9の混合ラテックス組成物を用いて得られた浸漬成形被膜(浸漬成形体)は、非常に低い100%伸長時モジュラス(非常に優れた柔軟性)を有しつつ機械的特性(破断強度及び破断伸び)に優れていた。
【0098】
比較例1では、クロロプレン重合体ラテックスAの重量平均分子量が250,000を超えており、100%伸長時モジュラスの値が高くなり、柔軟性が劣っていた。
【0099】
比較例2では、クロロプレン重合体ラテックスAの重量平均分子量が5,000未満であり、浸漬成形被膜の作製を試みると、クロロプレン重合体ラテックスAの低分子量クロロプレン重合体がブリードし(染み出し)、べとつきが酷くなってしまい浸漬成形被膜が作製できなかった。
【0100】
比較例3では、クロロプレン重合体ラテックスA及びBのいずれにおいても乳化剤としてロジン酸Z(質量比b/a=0)を使用し、混合ラテックス組成物の質量比b/aが0であったため、破断強度が劣っていた。
【0101】
比較例4では、クロロプレン重合体ラテックスBにおいて2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンが共重合されておらず、得られた浸漬成形被膜におけるクロロプレン重合体の結晶性が高くなってしまい、100%伸長時モジュラスの値が高くなり、柔軟性が劣っていた。
【0102】
比較例5では、クロロプレン重合体ラテックスBの重合転化率が低く、クロロプレン重合体ラテックスBのトルエン不溶分(ゲル分)が低くなってしまい、破断強度が劣っていた。また、100%伸長時モジュラスの値が高くなり、柔軟性が劣っていた。
【0103】
参考例1では、クロロプレン重合体ラテックスAを混合せずクロロプレン重合体ラテックスBのみを用いて浸漬成形被膜を作製したところ、破断強度は優れるが、100%伸長時モジュラスの値が高くなり、柔軟性が劣っていた。このことから、低分子量クロロプレン重合体が含まれるクロロプレン重合体ラテックスAを混合することで、低分子量クロロプレン重合体による可塑効果が発揮され、柔軟性に優れる浸漬成形被膜が得られることが判明した。
【0104】
参考例2では、クロロプレン重合体ラテックスBを混合せずクロロプレン重合体ラテックスAのみを用いて浸漬成形被膜を作製したところ、低分子量クロロプレン重合体によりべとつきが酷くなり、浸漬成形被膜が作製できなかった。