(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】同期電動機の制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 6/16 20160101AFI20241008BHJP
【FI】
H02P6/16
(21)【出願番号】P 2023509192
(86)(22)【出願日】2022-03-22
(86)【国際出願番号】 JP2022013130
(87)【国際公開番号】W WO2022202806
(87)【国際公開日】2022-09-29
【審査請求日】2023-10-10
(31)【優先権主張番号】P 2021053884
(32)【優先日】2021-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100112357
【氏名又は名称】廣瀬 繁樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169856
【氏名又は名称】尾山 栄啓
(72)【発明者】
【氏名】妹尾 達也
【審査官】谿花 正由輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-140962(JP,A)
【文献】特開平06-335273(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 6/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
同期電動機の制御装置であって、
電流位相を固定した直流電流を前記同期電動機に流す指令を生成する直流励磁指令生成部であって、
直流励磁中において、前記同期電動機のロータの角加速度又は角速度の少なくともいずれかに基づいて
、前記ロータの振動を減衰させる減速トルク
が前記ロータにかかるように前記直流電流の大きさを
変化させる直流励磁指令生成部と、
所定の検出終了条件が満たされたときの、前記同期電動機の位置検出器の出力信号に基づく前記ロータの角度位置を、磁極位置を表す情報として取得する磁極位置取得部と、を備える同期電動機の制御装置。
【請求項2】
同期電動機の制御装置であって、
電流位相を固定した直流電流を前記同期電動機に流す指令を生成する直流励磁指令生成部であって、前記同期電動機のロータの角加速度又は角速度の少なくともいずれかに基づいて前記ロータに減速トルクをかけるように前記直流電流の大きさを制御する直流励磁指令生成部と、
所定の検出終了条件が満たされたときの、前記同期電動機の位置検出器の出力信号に基づく前記ロータの角度位置を、磁極位置を表す情報として取得する磁極位置取得部と、を備え、
前記直流励磁指令生成部は、前記角加速度の極性が反転したタイミングで前記直流電流の大きさを増加させることで前記減速トルクをかける
、同期電動機の制御装置。
【請求項3】
前記直流励磁指令生成部は、前記直流電流の大きさを増加させた後、所定の時間が経過したタイミングで前記直流電流の大きさを低下させる、請求項2に記載の同期電動機の制御装置。
【請求項4】
同期電動機の制御装置であって、
電流位相を固定した直流電流を前記同期電動機に流す指令を生成する直流励磁指令生成部であって、前記同期電動機のロータの角加速度又は角速度の少なくともいずれかに基づいて前記ロータに減速トルクをかけるように前記直流電流の大きさを制御する直流励磁指令生成部と、
所定の検出終了条件が満たされたときの、前記同期電動機の位置検出器の出力信号に基づく前記ロータの角度位置を、磁極位置を表す情報として取得する磁極位置取得部と、
前記位置検出器の出力信号に基づき前記ロータの角加速度を検出する角加速度検出部と、
前記位置検出器の出力信号に基づき前記ロータの角速度を検出する角速度検出部と、
を備え、
前記直流励磁指令生成部は、前記角加速度の極性が反転したタイミングで前記直流電流の大きさを増加させた後、前記角速度の極性が反転したタイミングで前記直流電流の大きさを低下させることで、前記ロータに減速トルクをかける
、同期電動機の制御装置。
【請求項5】
前記直流励磁指令生成部は、
はじめに前記直流電流を第1の電流値とし、
前記角加速度の極性が反転したタイミングで前記直流電流を前記第1の電流値よりも大きい第2の電流値とし、
次に、前記角速度の極性が反転したタイミングで前記直流電流を前記第1の電流値に戻す、請求項4に記載の同期電動機の制御装置。
【請求項6】
前記直流励磁指令生成部は、前記直流電流を増加させ次に前記直流電流を低下させる動作を繰り返し複数回実行した後、一定の値の前記直流電流を前記同期電動機に継続して供給する、請求項3から5のいずれか一項に記載の同期電動機の制御装置。
【請求項7】
前記直流励磁指令生成部は、前記直流電流を増加させ及び低下させるときに、所定の変化率で電流値を変化させる、請求項3から6のいずれか一項に記載の同期電動機の制御装置。
【請求項8】
前記直流励磁指令生成部は、前記直流電流を増加させ及び低下させる動作を繰り返し複数回、実行する場合に、時間の経過とともに前記直流電流の増加及び低下の度合いが次第に緩やかとなるように、前記所定の変化率を変動させる、請求項7に記載の同期電動機の制御装置。
【請求項9】
同期電動機の制御装置であって、
電流位相を固定した直流電流を前記同期電動機に流す指令を生成する直流励磁指令生成部であって、前記同期電動機のロータの角加速度又は角速度の少なくともいずれかに基づいて前記ロータに減速トルクをかけるように前記直流電流の大きさを制御する直流励磁指令生成部と、
所定の検出終了条件が満たされたときの、前記同期電動機の位置検出器の出力信号に基づく前記ロータの角度位置を、磁極位置を表す情報として取得する磁極位置取得部と、を備え、
前記所定の検出終了条件は、前記角加速度のピーク値が所定の閾値以下となることである
、同期電動機の制御装置。
【請求項10】
前記所定の検出終了条件は、
(1)前記角加速度のピーク値が第1の閾値以下で、且つ、前記角速度のピーク値が第2の閾値以下であること、
(2)前記直流電流の大きさを増加させた後、前記直流電流の大きさを低下させる動作の繰り返し回数が所定回数に達したこと、
のいずれかである、請求項3から8のいずれか一項に記載の同期電動機の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同期電動機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
同期電動機ではロータの磁極位置に応じて適切な位相の電流を流し、所望のトルクを発生させる。このような同期電動機では、電動機の磁極位置と位置検出センサ(例えば、ロータリエンコーダ)の基準位置との角度差を検出すること、すなわち、磁極初期位置を検出する必要が生じる。同期電動機において磁極初期位置を検出する手法として、直流励磁による磁極初期位置検出法が知られている。直流励磁による磁極初期位置検出法では、電流位相を固定した一定の励磁電流をモータに流すことでロータが励磁位相の位置に吸引されて振動し、やがて励磁位相の位置に停止する性質を利用する。
【0003】
これに関し、特許文献1は、「サーボモータを駆動する制御装置において、サーボモータ1の回転子磁極位置を、前記制御装置で直流励磁により所定の位置において固定して、前記サーボモータ1に取り付けられた、基準位置信号を原点とするインクリメンタルエンコーダ2から得られる位置との角度差を検出し、制御装置内のEEROM11に記憶するまでの所定の動作を自動で行う構成」を記載する(要約書)。
【0004】
また、特許文献2は、「複数個の磁極を有する永久磁石回転子と、前記永久磁石回転子に所定の空隙を有して配設された複数相の固定子巻線と、前記永久磁石回転子の回転に応じて複数相のセンサ信号を発生するセンサ手段と、前記複数相のセンサ信号より前記永久磁石回転子の回転方向を検出し方向信号を出力する方向検出手段と、前記センサ信号と前記方向信号に応じて第1の複数相の位置信号の振幅値と位相値を変化させて前記永久磁石回転子の初期位置を検出する初期位置検出手段と、前記初期位置と少なくとも1つの前記センサ信号と前記方向信号とに応じて第2の複数相の位置信号を生成する位置検出手段と、前記第1の複数相の位置信号と前記第2の複数相の位置信号とに応じて前記固定子巻線に電力を供給する電力供給手段とを有することを特徴とするブラシレス直流モータ。」を記載する(請求項1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-103784号公報
【文献】特開平07-111794号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
直流励磁において電流位相を固定した一定の励磁電流が流れている間、ロータは励磁位相の位置に吸引され振動する挙動を示す。この場合の振動はできるだけ小さいことが望ましい。例えば工作機械のテーブルを傾斜させる駆動軸に使用される同期電動機のように、同期電動機が適用される用途によっては、ロータの回転範囲が限定される場合があり、直流励磁中の振動を低減できるようにすることが、よりいっそう求められる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様は、同期電動機の制御装置であって、電流位相を固定した直流電流を前記同期電動機に流す指令を生成する直流励磁指令生成部であって、直流励磁中において、前記同期電動機のロータの角加速度又は角速度の少なくともいずれかに基づいて、前記ロータの振動を減衰させる減速トルクが前記ロータにかかるように前記直流電流の大きさを変化させる直流励磁指令生成部と、所定の検出終了条件が満たされたときの、前記同期電動機の位置検出器の出力信号に基づく前記ロータの角度位置を、磁極位置を表す情報として取得する磁極位置取得部と、を備える同期電動機の制御装置である。
【発明の効果】
【0008】
直流励磁による磁極位置検出における、ロータの振動の振幅を低減させ、それにより磁極位置検出に要する時間を短縮することが可能となる。
【0009】
添付図面に示される本発明の典型的な実施形態の詳細な説明から、本発明のこれらの目的、特徴および利点ならびに他の目的、特徴および利点がさらに明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】一実施形態に係る電動機制御装置の構成を表す図である。
【
図2】電動機制御装置において磁極位置検出動作が実行される場合の機能構成図である。
【
図3】磁極位置検出部の構成を機能的に表すブロック図である。
【
図4】比較例として、従来の直流励磁におけるロータの挙動及び励磁電流を表すグラフである。
【
図5】本実施形態による減速トルクを生じさせるタイミングを説明するための図である。
【
図6】本実施形態による直流励磁におけるロータの挙動及び励磁電流を表すグラフである。
【
図7】本実施形態による磁極位置検出動作を表すフローチャートである。
【
図8】直流励磁における電流制御の第1の変形例を示すグラフである。
【
図9】直流励磁における電流制御の第2の変形例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本開示の実施形態について図面を参照して説明する。参照する図面において、同様の構成部分または機能部分には同様の参照符号が付けられている。理解を容易にするために、これらの図面は縮尺を適宜変更している。また、図面に示される形態は本発明を実施するための一つの例であり、本発明は図示された形態に限定されるものではない。
【0012】
図1は一実施形態に係る電動機制御装置100の構成を表す図である。
図1に示すように、電動機制御装置100は、上位制御装置10と、位置制御器20と、速度制御器30と、電流制御器40と、増幅器60と、電動機2とを備える。電動機2は、ロータと、巻線が設けられるステータとを備える同期電動機である。電動機2は、ロータ位置(磁極位置)を検出するためのセンサとしての位置検出器3を有している。
【0013】
上位制御装置10は、例えばCNC(数値制御装置)であり、工作機械等に利用される電動機2の動作を制御する。上位制御装置10は、例えば、加工プログラムに従って、工作機械を適切に動作させるように電動機2の動作を制御する指令を送出する。上位制御装置10は、CPU、ROM、RAM、記憶装置、操作部、表示部、入出力インタフェース、ネットワークインタフェース等を有する一般的なコンピュータとしての構成を有していても良い。
【0014】
上位制御装置10から送出される位置指令は位置制御器20に入力される。位置制御器20は、電動機2の位置検出器3からフィードバックされる位置信号から得られる位置情報と、位置指令との偏差を計算する。そして、位置制御器20は、位置偏差に位置ループゲインを乗じて速度指令を計算し、速度指令を速度制御器30に送出する。
【0015】
速度制御器30は、電動機2の位置検出器3からフィードバックされる位置信号から得られる速度情報と、速度指令との間の速度偏差を計算する。そして、速度制御器30は、速度偏差に基づいて、例えば、比例積分制御により電流指令を計算し、電流指令を電流制御器40に送出する。
【0016】
電流制御器40は、入力される電流指令、増幅器からフィードバックされる電動機2のステータに流れる電流の情報、及び位置検出器3によって検出されるロータ位置の情報に基づいて増幅器60に対する制御指令を生成する。
【0017】
増幅器60は、電流制御器40からの制御指令に従って、電動機2のロータの動作に対応する駆動電流を電動機2に供給する。増幅器60は、半導体スイッチング素子のフルブリッジ回路からなる逆変換器(三相インバータ)を有し、電流制御器40からの制御指令に基づいて電動機2を制御するための三相電流を出力する。
【0018】
図1の構成において、位置制御器20、速度制御器30、電流制御器40、及び磁極位置検出部50は、CPUコア、メモリ、外部機器とのインタフェース機能等が集積されたマイクロコントローラ1により実現されても良い。すなわち、この場合、位置制御器20、速度制御器30、電流制御器40、及び磁極位置検出部50を、マイクロコントローラ1のCPUの制御下で実行されるソフトウェアの機能として実現することができる。或いは、これらの各機能ブロックを、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等のハードウェアを主体とした構成により実現しても良い。
【0019】
電動機2の動作を適切に制御するためには、ロータの位置(磁極位置)を把握する必要がある。本実施形態において、位置検出器3は、例示として、ロータの位置情報を示す信号(A相信号、B相信号)と、基準位置を示す基準位置信号とを出力するものとする。この場合、磁極位置検出部50は、位置検出器3の基準位置と、電動機2のロータの磁極位置との角度差を取得する。これにより、電動機制御装置100において、ロータの磁極位置を把握することができる。
【0020】
磁極位置検出部50は、以下で説明する磁極位置検出動作を実行することでこの角度差を検出する。磁極位置検出部50は、磁極位置を検出するために、電流位相を固定した励磁電流を電動機2のステータに流して磁極位置の検出を行う直流励磁を適用する。本実施形態に係る電動機制御装置100は、直流励磁による磁極位置の検出におけるロータの振動の大きさを低減し直流励磁における磁極検出動作に要する時間を低減するように構成される。
【0021】
図2は、
図1に示した電動機制御装置100において磁極位置検出動作が実行される場合における機能に着目した場合の機能構成図である。
図2に示すように、磁極位置検出動作が行われる場合、磁極位置検出部50は、固定した電流位相でステータを励磁するための電流位相指令と、励磁電流の値(振幅)を指定する電流振幅指令とを、電流制御器40に入力する。電流制御器40は、磁極位置検出部50から入力される電流位相指令、電流振幅指令、及び増幅器60からフィードバックされるステータに流れる電流の情報に基づいて増幅器60に対する制御指令を送出する。増幅器60は、電流制御器40からの制御指令に従って、電動機2に対し駆動電流を供給する。
【0022】
また、上位制御装置10は、位置検出器3の出力情報であるロータの位置情報に基づいてロータの角加速度を算出する角加速度検出部11と、位置検出器3からの位置情報に基づいてロータの角速度を算出する角速度検出部12とを備えている。
【0023】
本実施形態に係る磁極位置検出部50は、直流励磁中に電動機2に流す電流の大きさをロータの角加速度又は角速度の少なくともいずれかを用いて制御することでロータに減速トルクをかけ、電流位相を固定した一定の電流を流し続ける従来の直流励磁による磁極初期位置検出法と比較して、直流励磁時のロータの振動の振幅を小さくし、それにより磁極初期位置検出に要する時間を短縮できるように構成される。
図3は、本実施形態に係る磁極位置検出部50の構成を機能的に表すブロック図である。
図3に示すように、磁極位置検出部50は、直流励磁指令生成部55と、角加速度/角速度取得部51と、検出終了条件判定部52と、磁極位置取得部53とを有する。
【0024】
直流励磁指令生成部55は、直流励磁動作中に電動機2に流す直流電流の指令(電流位相指令、電流振幅指令)を生成する。
【0025】
角加速度/角速度取得部51は、上位制御装置10から、電動機2のロータの角加速度及び角速度を取得する。
【0026】
検出終了条件判定部52は、直流励磁による磁極位置検出動作を終了させるための所定の条件が成立したか否かを判定する。
【0027】
磁極位置取得部53は、磁極位置検出動作を終了する条件が満たされたとき、磁極位置が検出された(磁極位置が励磁位相に合致した)とみなして、このときの位置検出器3により角度位置を、位置検出器3による基準位置に対する磁極位置の角度差を表す情報として磁極位置記憶部54に記憶する。このように記憶された角度差を用いることで、電動機制御装置100では、位置検出器3の出力信号から現在のロータの位置(磁極位置)を把握できるようになる。磁極位置検出部50は、上記のように記憶された角度差を、磁極位置を表す情報として上位制御装置10、電流制御器40等に提供する。
【0028】
以下、本実施形態に係る磁極位置検出部50による磁極位置の検出動作について説明する。はじめに、本実施形態に係る磁極位置検出部50による磁極位置検出動作の理解のため、比較例として、一定の励磁電流を流し続けることによる一般的な直流励磁による磁極初期位置検出法の動作波形を示すこととする。
【0029】
図4の上段に、一般的な直流励磁による磁極初期位置検出が行われる場合におけるロータ位置を表すグラフ61を示す。また、
図4の下段には、一般的な直流励磁が行われる場合における励磁電流の大きさを表すグラフを示す。
図4に示す通り、一般的な直流励磁が開始されると、ロータは固定された励磁位相の位置に吸引されて移動をはじめ、励磁位相の位置(符号62を付す)を中心とし振動する挙動を示す。振動は徐々に減衰し、ロータはやがて励磁位相の位置で停止する。
図4下段に示す通り、一般的な直流励磁中における励磁電流(符号63を付す)は電流値A1で一定である。
【0030】
これに対し本実施形態においては、磁極位置検出部50は、磁極初期位置検出動作中において電動機2に流す電流を、
図6の下段に一例として示すように、ロータの加速度に基づいてロータに対して減速トルクをかける(減速トルクを生じさせる或いは増加する)ように制御する。これにより、
図5の上段に例示するように、磁極初期位置検出動作におけるロータの振動の振幅は、
図4の上段に示すような従来の直流励磁による場合の状態と比較して低減され、それにより磁極初期位置検出動作に要する時間も短縮される。以下、磁極位置検出部50の動作の詳細を説明する。
【0031】
電動機2に電流位相を固定した一定の励磁電流を流し続けた場合に
図4上段に示したように振動するロータに減速トルクをかけるため、本実施形態に係る磁極位置検出部50の直流励磁指令生成部55は、具体的な電流制御の動作パターンとして、以下のような動作パターンを適用する。
動作パターンA:
減速トルクをかける動作の開始:ロータの角加速度の極性が反転したとき
減速トルクをかける動作の終了:ロータの角速度の極性が反転したとき
動作パターンB:
減速トルクをかける動作の開始:ロータの角加速度の極性が反転したとき
減速トルクをかける動作の終了:減速トルクをかけてから一定の時間が経過したとき
ここで、一定の時間は、減速トルクをかける時間が不必要に長くならないように決定する。例えば、減速トルクをかける動作を開始してから、次に、角速度の極性が反転するまでの見込み時間以下となるように設定することが好ましい。磁極位置検出部50は、上記動作パターンA或いは動作パターンBによる動作を、検出終了条件判定部による終了条件が満たされると判定されるまで繰り返す。
【0032】
検出終了条件は、ロータの振動が減衰しロータが励磁位相近傍にあると考えられる状態を満たすような条件である。検出終了条件として、例えば、以下のような条件がある。
(a1)ロータの角加速度又は角速度の少なくとも一方が所定の閾値以下となっている状態。
(a2)ロータの角加速度が閾値(第1の閾値)以下となり、且つ、角速度が閾値(第2の閾値)以下となっている状態。
(a3)検出動作の開始から所定回数、電流の増減を繰り返した状態。
なお、検出終了条件が満たされているか否かを判定する場合には、例えば、角加速度、角速度のピーク値を用いる。
【0033】
図5は、上記動作パターンAによる減速トルクをかけるタイミングを説明するための図である。
図5には、
図4上段に示したロータの位置のグラフ61と共に、この場合におけるロータの角加速度のグラフ72、及び角速度のグラフ73を示した。
図5に示されるように、ロータ位置がグラフ71のように変化するとき、角加速度はグラフ72のように変化し、角速度はグラフ73のように変化する。したがって、
図5における角加速度のグラフ72の極性が反転するタイミングt1、t3等は、減速トルクをかけるタイミングに該当し得る。また、角速度のグラフ73の極性が反転するタイミングt2、t4等は、減速トルクをかける動作を停止するタイミングに該当し得る。
図5には、減速トルクをかけるタイミングの例に符号81を付して示している。
【0034】
図6に、動作パターンAにしたがって磁極初期位置検出のための直流励磁を行った場合のデータ波形図の例を示す。
図6の上段にはロータ位置のグラフ91を示し、
図6の下段にはこの場合の励磁電流のグラフ93を示す。また、図中、符号92を付した破線は、励磁位相の位置を表している。
図6の下段に示されるように、
図4に示す従来の励磁電流と同じ振幅の励磁電流A1で直流励磁の動作を開始する。タイミングT1は、ロータの角加速度の極性が反転するタイミングである。タイミングT1で、ロータに減速トルクをかける(減速トルクを増加させる)ため、励磁電流を電流値A2まで増加させる。電流を増加させる期間は、次に、ロータの角速度の極性が反転するタイミングT2までとする。タイミングT2において、増加させた減速トルクを解除するため励磁電流を元の値A1に戻す。
【0035】
次に再び角加速度の極性が反転するタイミングT3において、励磁電流を再び電流値A1まで増加させ、減速トルクをかける(減速トルクを増加させる)。そして、次にロータの速度の極性が反転するタイミングT4で励磁電流を元の電流値A1に戻し減速トルクをかける(減速トルクを増加させる)動作を解除する。
【0036】
以上の動作によりロータの振動の振幅は十分に減衰し、ロータの位置は励磁位相に近い状態となり、タイミングT5にて、例えばロータ速度及びロータ加速度が共に閾値を下回り、検出終了条件が満たされたものとする。磁極位置検出部50は、この時点でのロータの位置(角度位置)を磁極位置記憶部54に記憶する。なお、
図6の動作例では磁極初期位置検出動作を終了するタイミングから励磁電流を電流値A1に増加させているが、タイミングT5以降ではロータの振動は十分に減衰しているので、タイミングT5以降での励磁電流の値はこれに限定するものではなく、例えば電流値A1のままとしてもかまわない。
【0037】
なお、
図6の動作例において、減速トルクをかける動作を解除する期間(タイミングT2からT3)において励磁電流を電流値A1まで戻しているが、これは例示であり、タイミングT2からT3での電流値は、電流値A1よりも小さい値とすればよく、元の電流値A1よりも大きくても良い。
【0038】
図7は、上述した動作パターンAによる磁極位置検出動作を実現するフローチャートである。
図7の動作は、マイクロコントローラ1のCPUによる制御の下で実行される。
【0039】
はじめに、磁極位置検出部50(直流励磁指令生成部55)は、固定した励磁位相(位相A)で電流値A1の励磁電流を電動機2に流す(ステップS1)。次に、磁極位置検出部50は電動機2の位置検出器3の出力或いは上位制御装置10からロータの位置情報を取得する(ステップS2)。次に、磁極位置検出部50(角加速度/角速度取得部51)は、上位制御装置10(角加速度検出部11及び角速度検出部12)からロータの角加速度及び角速度を取得する(ステップS3)。なお、ロータの角加速度、加速度は、磁極位置検出部50(角加速度/角速度取得部51)においてロータの位置情報から算出するようにしても良い。
【0040】
次に、磁極位置検出部50(直流励磁指令生成部55)は、ロータの角加速度の極性(符号)反転が生じているか否かを判断する(ステップS4)。ロータの角加速度の極性反転が生じている場合(S4:YES)、磁極位置検出部50は、励磁電流を増加(電流値A1から電流値A2に増加)させることでロータに対する減速トルクをかける(減速トルクを増加させる)(ステップS5)。次に処理はステップS2に戻る。次に、ステップS6での判定結果はYES判定となるまでの間、ステップS8でのNO判定が続くことで、励磁電流を電流値A2に増加させた状態が継続する(ステップS2、S3、S4:NO、S6:NO、S8:NO)。ここでの動作は、
図6におけるタイミングT1からT2間の動作に対応する。
【0041】
次に、ステップS6において、角速度の極性(符号)反転が検出されると(S6:YES)、処理はステップS7に進み、磁極位置検出部50は、励磁電流を(例えば電流値A1まで)減少させる(ステップS7)。そして処理はステップS2に戻る。角加速度の再度の反転が検出されるまでの間、励磁電流が低減された状態が継続することとなる(ステップS2、S3、S4:NO、S6:NO、S8:NO)。ここでの動作は、
図6におけるタイミングT2からT3間の動作に対応する。
【0042】
次に再び角加速度の極性反転が検出されると(S4:YES)、再び励磁電流が電流値A2に増加される(
図6のタイミングT3に対応)。そして、その後に角速度の極性反転が再び検出されると(S6:YES)、励磁電流は再び電流値A1に戻される(
図6のタイミングT4に対応)。そして、ロータの振動が減衰し、ステップS8にて検出終了条件(ここでは、角速度及角加速度が共に閾値以下となったこととする)が満たされると(S8:Yes)、ロータが停止したものとみなし、ロータの停止位置(ロータの位置情報が示す角度位置)を磁極位置記憶部54に記憶する(ステップS9)。なお、ステップS8では、一例として、角速度及び角加速度のピーク値を検出して、角速度及び角加速度のピーク値が所定の閾値以下となっているか否かを判定する。
【0043】
以上述べた動作フローにより、直流励磁による磁極初期位置検出動作において、ロータの振動の振幅(ロータの回転の角度幅)を減少させ、またそれにより磁極位置検出に要する時間を短縮することができる。
【0044】
次に、上述した動作パターンAに関する変形例を説明する。動作パターンAでは、減速トルクをかける(増加させる)タイミング(タイミングT1、T3等)で電流を電流値A1からA2に一気に増加させ、減速トルクを解除するタイミング(タイミングT2、T4等)で電流を電流値A2から電流値A1に一気に低下させる制御を行う例、すなわち、電流を矩形波状に変化させる場合の例であった。ここで記載する変形例は、電流値の変化に時定数を持たせる場合(すなわち、電流値を所定の変化率で変化させる場合)の例である。
【0045】
図8に変形例1における電流制御パターンを示す。また、
図9に変形例2における電流制御パターンを示す。なお、ここでは、電流増加により減速トルクをかける動作を3回繰り返す場合の例を示す。
【0046】
図8に示すグラフ95は、変形例1による電流制御波形を示す。グラフ95による制御では、電流の変化に一定の時定数TC0を持たせる。グラフ95において、角加速度の極性反転に伴い励磁電流を電流値A1から電流値A3へ増加させる場合の立ち上がりを、時定数TC0にしたがった変動させる。また、角速度の極性反転の検出により励磁電流を電流値A3から電流値A1に低下させる場合の立下り時間も、立ち上がり時と同じ時定数TC0で立ち下げる。なお、
図8のグラフ95において、タイミングT11、T13、T15が角加速度の極性が反転するタイミングに該当し、タイミングT12、T14、T16が角速度の極性が反転するタイミングに該当する。
【0047】
このように電流波形の変動に時定数を持たせることで、電流の急激な変動によりロータにショックが加わるような事態が生じるのを回避することが可能となる。
【0048】
図9に示すグラフ96は、変形例2による電流制御波形を示す。グラフ96に示す電流制御では、電流の変化に時定数を持たせ、且つ、時定数を徐々に変化させる(本例では増加させる)。変形例2の電流制御のグラフ96における3回の減速トルクの発生部分(三角波状の部分96a、96b、96c)における時定数を、それぞれ、TC1、TC2、TC3とすると、本変形例2における時定数は、
TC1<TC2<TC3
となるように制御する。なお、
図9のグラフ96において、タイミングT21、T23、T25が角加速度の極性が反転するタイミングに該当し、タイミングT22、T24、T26が角速度の極性が反転するタイミングに該当する。
【0049】
本例の様に電流変化の時定数を徐々に増加させる(変化率を徐々に低減する)ことで、電流制御のはじめの段階では振動低減を優先した比較的急激な減速トルクを生じさせ、後の段階ではロータに対するショック低減を優先したより穏やかな減速トルクを生じさせる制御を行うことが可能となる。
【0050】
以上説明したように、本実施形態によれば、直流励磁による磁極位置検出における、ロータの振動の振幅を低減させ、それにより磁極位置検出に要する時間を短縮することが可能となる。
【0051】
以上、典型的な実施形態を用いて本発明を説明したが、当業者であれば、本発明の範囲から逸脱することなしに、上述の各実施形態に変更及び種々の他の変更、省略、追加を行うことができるのを理解できるであろう。
【0052】
図1、
図2、
図3に示した機能構成は例示であり、機能構成例としては様々な変形例が有り得る。例えば、上述の実施形態では、上位制御装置10が角加速度検出器及び角速度検出器を有する構成例を記載しているが、磁極位置検出部がこれらの角加速度検出器及び角速度検出器としての機能を備えていても良い。
【0053】
上述の実施形態における動作パターンBによる磁極位置検出動作を行う場合には、ロータの速度情報は必ずしも必要でないため、磁極位置検出動作を終了させる検出動作終了条件として、「角加速度(のピーク値)が所定の閾値以下となったこと」を用いることができる。
【0054】
図7に示した磁極位置検出動作の処理を実行するプログラムは、コンピュータに読み取り可能な各種記録媒体(例えば、ROM、EEPROM、フラッシュメモリ等の半導体メモリ、磁気記録媒体、CD-ROM、DVD-ROM等の光ディスク)に記録することができる。
【符号の説明】
【0055】
1 マイクロコントローラ
2 電動機
3 位置検出器
10 上位制御装置
20 位置制御器
30 速度制御器
40 電流制御器
50 磁極位置検出部
51 角加速度/角速度取得部
52 検出終了条件判定部
53 磁極位置取得部
54 磁極位置記憶部
55 直流励磁指令生成部
60 増幅器
100 電動機制御装置