(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】同期モータ制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 6/16 20160101AFI20241008BHJP
【FI】
H02P6/16
(21)【出願番号】P 2023509200
(86)(22)【出願日】2022-03-22
(86)【国際出願番号】 JP2022013186
(87)【国際公開番号】W WO2022202817
(87)【国際公開日】2022-09-29
【審査請求日】2023-10-10
(31)【優先権主張番号】P 2021053495
(32)【優先日】2021-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100112357
【氏名又は名称】廣瀬 繁樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169856
【氏名又は名称】尾山 栄啓
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 謙治
(72)【発明者】
【氏名】堤 智久
【審査官】谿花 正由輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-065433(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 6/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
同期モータに対してセンサレス制御による駆動制御を行う同期モータ制御装置であって、
電流位相を固定した一定の励磁電流を前記同期モータへ流す指令を生成する直流励磁指令生成部と、
前記同期モータに前記指令に基づく前記励磁電流が流れているときにおいて、前記同期モータに対する
制御に係わる電圧データ又は
電流データに基づいて、前記同期モータのロータに発生するトルクがゼロ相当となる時点を検出するトルクゼロ相当検出部と、
検出された前記トルクがゼロ相当となる時点で前記固定した電流位相に基づき磁極位置を初期化する磁極位置更新部と、を備える同期モータ制御装置。
【請求項2】
同期モータに対してセンサレス制御による駆動制御を行う同期モータ制御装置であって、
電流位相を固定した一定の励磁電流を前記同期モータへ流す指令を生成する直流励磁指令生成部と、
前記同期モータに前記指令に基づく前記励磁電流が流れているときにおいて、前記同期モータに対する電圧又は電流制御に係わるデータに基づいて、前記同期モータのロータに発生するトルクがゼロ相当となる時点を検出するトルクゼロ相当検出部と、
検出された前記トルクがゼロ相当となる時点で前記固定した電流位相に基づき磁極位置を初期化する磁極位置更新部と、を備え、
前記トルクゼロ相当検出部は、Q相電流積算値の極値を検出することによって前記トルクがゼロ相当となる時点を検出する
、同期モータ制御装置。
【請求項3】
同期モータに対してセンサレス制御による駆動制御を行う同期モータ制御装置であって、
電流位相を固定した一定の励磁電流を前記同期モータへ流す指令を生成する直流励磁指令生成部と、
前記同期モータに前記指令に基づく前記励磁電流が流れているときにおいて、前記同期モータに対する電圧又は電流制御に係わるデータに基づいて、前記同期モータのロータに発生するトルクがゼロ相当となる時点を検出するトルクゼロ相当検出部と、
検出された前記トルクがゼロ相当となる時点で前記固定した電流位相に基づき磁極位置を初期化する磁極位置更新部と、を備え、
前記トルクゼロ相当検出部は、D相電流の極大値を検出することによって前記トルクがゼロ相当となる時点を検出する
、同期モータ制御装置。
【請求項4】
同期モータに対してセンサレス制御による駆動制御を行う同期モータ制御装置であって、
電流位相を固定した一定の励磁電流を前記同期モータへ流す指令を生成する直流励磁指令生成部と、
前記同期モータに前記指令に基づく前記励磁電流が流れているときにおいて、前記同期モータに対する電圧又は電流制御に係わるデータに基づいて、前記同期モータのロータに発生するトルクがゼロ相当となる時点を検出するトルクゼロ相当検出部と、
検出された前記トルクがゼロ相当となる時点で前記固定した電流位相に基づき磁極位置を初期化する磁極位置更新部と、を備え、
前記トルクゼロ相当検出部は、D相電圧指令のゼロクロスを検出することによって前記トルクがゼロ相当となる時点を検出する
、同期モータ制御装置。
【請求項5】
同期モータに対してセンサレス制御による駆動制御を行う同期モータ制御装置であって、
電流位相を固定した一定の励磁電流を前記同期モータへ流す指令を生成する直流励磁指令生成部と、
前記同期モータに前記指令に基づく前記励磁電流が流れているときにおいて、前記同期モータに対する電圧又は電流制御に係わるデータに基づいて、前記同期モータのロータに発生するトルクがゼロ相当となる時点を検出するトルクゼロ相当検出部と、
検出された前記トルクがゼロ相当となる時点で前記固定した電流位相に基づき磁極位置を初期化する磁極位置更新部と、を備え、
前記トルクゼロ相当検出部は、Q相電圧指令の極値を検出することによって前記トルクがゼロ相当となる時点を検出する
、同期モータ制御装置。
【請求項6】
同期モータに対してセンサレス制御による駆動制御を行う同期モータ制御装置であって、
電流位相を固定した一定の励磁電流を前記同期モータへ流す指令を生成する直流励磁指令生成部と、
前記同期モータに前記指令に基づく前記励磁電流が流れているときにおいて、前記同期モータに対する電圧又は電流制御に係わるデータに基づいて、前記同期モータのロータに発生するトルクがゼロ相当となる時点を検出するトルクゼロ相当検出部と、
検出された前記トルクがゼロ相当となる時点で前記固定した電流位相に基づき磁極位置を初期化する磁極位置更新部と、を備え、
前記トルクゼロ相当検出部は、前記一定の励磁電流を前記同期モータへ流す指令の開始から所定の時間経過後から前記電圧又は電流制御に係わるデータに基づき前記トルクがゼロ相当となる時点の検出を開始する
、同期モータ制御装置。
【請求項7】
速度指令が入力されると、前記直流励磁指令生成部、前記トルクゼロ相当検出部、及び前記磁極位置更新部により前記磁極位置の初期化を行い、前記磁極位置の初期化が完了したら前記センサレス制御を開始する、請求項1から6のいずれか一項に記載の同期モータ制御装置。
【請求項8】
同期モータに対してセンサレス制御による駆動制御を行う同期モータ制御装置であって、
電流位相を固定した一定の励磁電流を前記同期モータへ流す指令を生成する直流励磁指令生成部と、
前記同期モータに前記指令に基づく前記励磁電流が流れているときにおいて、前記同期モータに対する電圧又は電流制御に係わるデータに基づいて、前記同期モータのロータに発生するトルクがゼロ相当となる時点を検出するトルクゼロ相当検出部と、
検出された前記トルクがゼロ相当となる時点で前記固定した電流位相に基づき磁極位置を初期化する磁極位置更新部と、を備え、
Q相電流振幅が所定の閾値以下の状態が所定の時間以上継続した場合、前記ロータの実位相が前記固定した電流位相近傍で停止しているものとみなし、前記磁極位置の初期化を完了する
、同期モータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同期モータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
同期モータにおいてはdq座標制御系を用いてロータの磁極位置に応じて適切な位相巻線に電流を流し、所望のトルクを発生させる。このような同期モータでは、ロータの適切な制御を行うために、磁極初期位置を検出する必要が生じる。同期モータにおいて磁極初期位置を検出する手法として、直流励磁による磁極初期位置検出法が知られている。直流励磁による磁極初期位置検出法では、同期モータに電流位相を固定した一定の励磁電流を流し続け、ロータが最終的に停止した後、当該電流位相によって磁極位置を初期化する。
【0003】
同期モータには、ロータの磁極位置を検出するための位置検出センサを有する同期モータと、位置検出センサを有しない同期モータがある。特許文献1は、ロータ位置を検出する位置検出センサを備えた同期モータにおいて、直流励磁による一定の励磁電流を同期モータに流し続けているときにおいて、位置検出センサの出力からロータの加速度の極性が変化した時点を検出することによりロータに発生するトルクがゼロとなった時点を検出し、この時点におけるロータ実位置に基づいて磁極初期位置を取得する磁極初期位置検出装置を記載する(例えば、段落[0047]参照)。
【0004】
特許文献2は、「γ軸電流発生回路からのγ軸電流指令をステップ状の交番電流指令として与えたときのδ軸方向に発生する干渉電流をθγ・θs作成回路内で観測して、記憶し、このようにして記憶した干渉電流の大小関係より予め磁極位置推定開始位相θsを決定するという手順で処理するようにした、ブラシレスモータの初期磁極位置推定方法」を記載する(要約書)。
【0005】
特許文献3はセンサレス制御を行う同期電動機制御装置として、「相選択信号sで選択された、PMモータ1に流れているいずれか1相の電流をフィードバック電流Irとして検出するフィードバック電流検出部と、相電流指令値I*とフィードバック電流Ifbとに基づいて相電圧指令値V*を演算する相電圧指令演算部と、相選択信号sによって選択された相を相電圧指令値V*とする3相電圧指令値を演算する3相電圧指令演算部と、前記相選択信号に応じて設定されている初期位相θ0を出力する初期位相選択部を備える」ものを記載する(要約書)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2020-065433号公報
【文献】特開2006-014423号公報
【文献】特開2017-221001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
位置検出センサを使用できるモータ制御装置の場合、特許文献1に記載のように、直流励磁による一定の励磁電流が流れているときにおいて、位置検出センサの信号からロータ速度、加速度等を算出しトルクゼロ相当の時点を検出し、それにより磁極初期位置を短時間で検出可能な構成をとることができる。しかしながら、位置検出センサの信号を利用できないセンサレス制御の場合、位置検出センサの信号を用いる場合の様に直接的にトルクゼロ(加速度ゼロ又は速度極値)を検出することはできない。磁極位置センサを有しないセンサレス制御を行うモータ制御装置でありながらも短時間で磁極初期位置を検出可能なモータ制御装置が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様は、同期モータに対してセンサレス制御による駆動制御を行う同期モータ制御装置であって、電流位相を固定した一定の励磁電流を前記同期モータへ流す指令を生成する直流励磁指令生成部と、前記同期モータに前記指令に基づく前記励磁電流が流れているときにおいて、前記同期モータに対する制御に係わる電圧データ又は電流データに基づいて、前記同期モータのロータに発生するトルクがゼロ相当となる時点を検出するトルクゼロ相当検出部と、検出された前記トルクがゼロ相当となる時点で前記固定した電流位相に基づき磁極位置を初期化する磁極位置更新部と、を備える同期モータ制御装置である。
【発明の効果】
【0009】
上記構成によれば、モータに位置検出センサを有しないセンサレス制御を行うモータ制御装置においても、トルクゼロ相当となる時点の検出が可能となり、直流励磁方式による磁極初期値の検出を短時間で行うことが可能となる。
【0010】
添付図面に示される本発明の典型的な実施形態の詳細な説明から、本発明のこれらの目的、特徴および利点ならびに他の目的、特徴および利点がさらに明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】一実施形態に係るモータ制御装置を示すブロック図である。
【
図2A】電流位相を固定して一定の励磁電流を同期モータに流し続けたときにおける同期モータのロータの挙動を例示する図である。
【
図3】同期モータに係るdq座標系と同期モータを制御するモータ制御装置に係るdq座標系との関係を示す図である。
【
図4A】突極性を有する同期モータの磁極初期位置を取得するために流す励磁電流の大きさを説明する図であり、横軸はずれ量θを示し、縦軸はトルクT
rを示す。
【
図4B】突極性を有する同期モータの磁極初期位置を取得するために流す励磁電流の大きさを説明する図であり、横軸はずれ量θを示し、縦軸は発生トルクの式をQ相電流で除したものを示す。
【
図5】同期モータに設けられる永久磁石の温度と同期モータの主磁束の磁束密度との関係を例示する図である。
【
図6】モータ制御装置における励磁位置推定部の機能ブロック図である。
【
図7】直流励磁中におけるQ相電流、D相電流等の波形図である。
【
図8】直流励磁中におけるロータ実位置、Q相電流積算値、及びロータ実速度の波形図である。
【
図9】直流励磁中におけるD相電圧、Q相電圧等の波形図である。
【
図10】ハイパスフィルタ処理後のD相電圧の波形図である。
【
図11】Q相電流積算値を用いてトルクゼロ相当を検出する場合の動作例を表す波形図である。
【
図12】磁極初期位置検出処理を表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施形態について図面を参照して説明する。参照する図面において、同様の構成部分または機能部分には同様の参照符号が付けられている。理解を容易にするために、これらの図面は縮尺を適宜変更している。また、図面に示される形態は本発明を実施するための一つの例であり、本発明は図示された形態に限定されるものではない。
【0013】
図1は、一実施形態に係る同期モータ制御装置100(以下、モータ制御装置100と記載)の構成を表すブロック図である。モータ制御装置100は、位置検出センサを有しない同期モータ2に対する駆動制御、すなわちセンサレス制御を行う制御装置である。モータ制御装置100は、上位制御装置から速度指令ω
cmdを受け、同期モータ2に適切なトルクを発生させて駆動制御を実行する。
【0014】
同期モータ2を適切に制御するためには、モータ制御装置100において同期モータ2のロータの位置、すなわち磁極位置を把握しておく必要がある。モータ制御装置100は、速度指令ωcmdを適用したセンサレス制御を実行するのに先立ち、電圧又は電流制御に係わるデータを用いて磁極初期位置を検出するように構成される。磁極初期位置が検出されると、モータ制御装置100は、速度指令ωcmdを適用した通常のセンサレス制御に移行する。
【0015】
図1に示すように、モータ制御装置100は、速度制御部31と、電流指令生成部32と、電流制御部33と、dq3相変換部34と、電力変換部35と、3相dq変換部36と、速度計算部37と、磁極位置推定部40とを備える。
【0016】
速度制御部31は、速度指令ωcmdと速度計算部37によって取得された同期モータ2のロータの速度ωmとに基づいて、トルク指令Tcmdを生成する。
【0017】
電流指令生成部32は、トルク指令Tcmdと速度計算部37によって取得された同期モータ2のロータの速度ωmとに基づいて、d軸電流指令Idc及びq軸電流指令Iqcを生成する。
【0018】
3相dq変換部36は、電力変換部35から出力された三相電流Iu、Iv、Iwを磁極位置推定部40で検出された磁極位置(θe)に基づいて三相dq変換し、d軸電流Id及びq軸電流Iqを電流制御部33へ出力する。なお、3相dq変換部36は、三相電流Iu、Iv、Iw相互の関係に基づき、U相電流(Iu)とV相電流(Iv)とからW相電流(Iw)を求める。
【0019】
通常のセンサレス制御による同期モータ2の駆動制御時には、スイッチSWは電流指令生成部32側に接続され、電流指令生成部32からの電流指令が電流制御部33へ入力される。他方、磁極初期位置検出時には、スイッチSWは磁極位置推定部40側に接続され、磁極位置推定部40からの直流励磁指令が電流制御部33へ入力される。
【0020】
電流制御部33は、通常のモータ制御時には、d軸電流指令Idc及びq軸電流指令Iqcとd軸電流Id及びq軸電流Iqとに基づいて、d軸電圧指令Vdc及びq軸電圧指令Vqcを生成する。また、電流制御部33は、磁極初期位置検出時には、磁極位置推定部40から出力された直流励磁指令(Id=Ie,Iq=0)に基づいて、電流位相を固定した一定の励磁電流を流すためのd軸電圧指令Vdc及びq軸電圧指令Vqcを生成する。なお、直流励磁の実行中においても、電流制御部33は、3相dq変換部36からフィードバックされるd軸電流Id及びq軸電流Iqによる制御を実行する。
【0021】
dq3相変換部34は、d軸電圧指令Vdc及びq軸電圧指令Vqcを磁極位置推定部40で検出された磁極位置(θe)に基づいてdq三相変換し、三相電圧指令Vuc、Vvc、Vwcを電力変換部35へ出力する。
【0022】
電力変換部35は、例えば半導体スイッチング素子のフルブリッジ回路からなる逆変換器(三相インバータ)で構成され、受信した三相電圧指令Vuc、Vvc、Vwcに基づいて半導体スイッチング素子のオンオフを制御し同期モータ2を駆動するための三相電流Iu、Iv、Iwを出力する。
【0023】
図1の構成において、速度制御部31、電流指令生成部32、電流制御部33、dq3相変換部34、3相dq変換部36、速度計算部37、及び磁極位置推定部40は、CPUコア、メモリ、外部機器とのインタフェース機能等が集積されたマイクロコントローラ3により実現されても良い。すなわち、この場合、速度制御部31、電流指令生成部32、電流制御部33、dq3相変換部34、3相dq変換部36、速度計算部37、及び磁極位置推定部40を、マイクロコントローラ3のCPUの制御下で実行されるソフトウェアの機能として実現することができる。或いは、これらの各機能ブロックを、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等のハードウェアを主体とした構成により実現しても良い。
【0024】
上記構成において、磁極位置推定部40は、磁極初期位置検出動作時、電流位相を固定した一定の励磁電流を同期モータ2に流し続けたときにおける電圧又は電流制御に係わるデータに基づいて磁極初期位置を取得する。磁極位置推定部40は、取得した磁極初期位置により磁極位置カウンタを初期化し、以後はセンサレス制御により推定される磁極位置情報(以下、このような情報を電気角フィードバックとも記載する)により磁極位置カウンタを更新することで磁極位置(θe)を出力し続ける。速度計算部37は、この磁極位置(θe)の信号に基づき、例えば磁極位置の変化量(Δθe)に速度換算係数を乗じて、ロータ速度を算出する。磁極位置推定部40の機能の詳細については後述する。
【0025】
図2A-
図2Bは、電流位相を固定して一定の励磁電流を同期モータ2に流し続けたときにおける同期モータ2のロータの挙動を例示する図であって、
図2Aはロータの速度及び位置の時間経過を例示する図であり、
図2Bは
図2Aを時間軸方向に拡大した図である。
図2A及び
図2Bにおいて、実線は同期モータ2のロータ実位置の時間経過を示し、一点鎖線は同期モータ2の速度(回転角速度)を示す。電流位相を固定して一定の励磁電流を同期モータ2に流し続けると、
図2A-
図2Bに例示するように、同期モータ2のロータは回転方向に振動する。同期モータ2の振動は徐々に減衰していき、ロータは最終的には停止する。
【0026】
図3は、同期モータに係るdq座標系と同期モータを制御するモータ制御装置に係るdq座標系との関係を示す図である。同期モータに係るdq座標系の座標軸をd
m及びq
m、同期モータを制御するモータ制御装置に係るdq座標系の座標軸をd
c及びq
cとする。また、各座標系間のd軸のずれ量(すなわち座標軸d
mと座標軸d
cとのなす角)をθとする。なお、ずれ量θは、各座標系間のq軸のずれ量(すなわち座標軸q
mと座標軸q
cとのなす角)でもある。
【0027】
電流位相をモータ制御装置に係るdq座標系において0度に固定した一定の励磁電流をIeとする。このとき、励磁電流Ieは、同期モータに係るdq座標系では、式(1)のように表される。
【0028】
【0029】
同期モータ2の極対数をpp、主磁束をΦ、d相インダクタンスをLd、q相インダクタンスをLqとしたとき、突極性を有する同期モータに励磁電流Ieを流したときに発生するトルクTrは式(2)のように表される。
【0030】
【0031】
また、非突極性の同期モータ(すなわち突極性を有さない同期モータ)では、d相インダクタンスLdとq相インダクタンスLqとは等しい。したがって、非突極性の同期モータに励磁電流Ieを流したときに発生するトルクTrは、式(2)を変形して式(3)のように表される。
【0032】
【0033】
電流位相を固定して一定の励磁電流を同期モータに流し続けると、
図2A-
図2Bに例示するように、同期モータのロータは回転方向に振動し、振動は徐々に減衰していき、最終的には停止する。同期モータのロータが最終的な停止位置にあるとき、このロータの停止位置は励磁位相と合致し、各座標系間のずれ量θはゼロとなる。同期モータに励磁電流を流し続けてロータが回転方向の振動している間、ずれ量θが刻々と変化している。式(2)及び式(3)には「sinθ」が含まれるが、ずれ量θがゼロのとき「sinθ」はゼロになり、したがってトルクT
rはゼロとなる。逆に言えば、トルクT
rがゼロのとき、式(2)及び式(3)における「sinθ」がゼロであり、すなわちずれ量θがゼロとなり得る。よって、電流位相を固定して一定の励磁電流を同期モータに流し続けているときにおいて、トルクT
rがゼロ相当となる時点を検出し、この検出時点の電流位相(励磁位相)により磁極位置を初期化することができる。
【0034】
ただし、突極性を有する同期モータの場合は、励磁電流Ieの大きさによっては、θがゼロ以外のときに式(2)における「{Φ-(Lq-Ld)・Ie・cosθ}」がゼロになり、すなわち式(2)で表されるトルクTrがゼロとなる可能性がある。つまり、突極性を有する同期モータの場合は、トルクTrがゼロであるからといっても必ずしもずれ量θがゼロであるとは限らない。したがって、突極性を有する同期モータに本実施形態を適用する際には、「{Φ-(Lq-Ld)・Ie・cosθ}」がゼロになるような励磁電流Ieを流さないようにする必要がある。一方、非突極性の同期モータの場合は、ずれ量θは式(3)で表されるので、トルクTrがゼロとなるのはずれ量θがゼロのときに限られるので、非突極性の同期モータに本実施形態を適用する際には、電流位相を固定した一定の励磁電流Ieに上限値を設ける必要はない。
【0035】
ここで、突極性を有する同期モータの磁極初期位置を取得するために流すべき励磁電流I
eの大きさについて、
図4A-
図4B及び
図5を参照して説明する。
【0036】
図4A及び
図4Bは、突極性を有する同期モータの磁極初期位置を取得するために流す励磁電流の大きさを説明する図である。
図4Aにおいて、横軸はずれ量θを示し、縦軸はトルクT
rを示す。
図4Bにおいて、横軸はずれ量θを示し、縦軸は発生トルクの式をQ相電流で除したものを示す。また、
図4A及び
図4Bにおいて、二点鎖線は励磁電流I
eが30Armsの場合を示し、一点鎖線は励磁電流I
eが60Armsの場合を示し、実線は励磁電流I
eが80Armsの場合を示す。なお、
図4A及び
図4Bに示した励磁電流I
eの大きさはあくまでも一例である。
【0037】
励磁電流I
eが30Armsの場合及び60Armsの場合は、
図4Aに示すようにずれ量θがゼロのときのみ、トルクT
rがゼロになっている。これに対し、励磁電流I
eが80Armsの場合はずれ量θがゼロのときのみならず「-44度」付近でもトルクT
rがゼロになっている。このように励磁電流I
eが80Armsの場合において、ずれ量θがゼロ以外のときにもトルクT
rがゼロになる状態が発生するのは、
図4Bに示すように発生トルクの式をQ相電流で除したものに負の領域が発生するからである。よって、突極性を有する同期モータに本実施形態を適用する際には、ずれ量θがゼロである以外の全ての場合において、式(2)で表されるトルクTrが正(すなわちゼロよりも大きい)となるような励磁電流I
eを設定する必要がある。具体的には次の通りである。
【0038】
式2において「Tr>0」かつ「θ≠0」を適用し、整理すると、不等式(4)が得られる。
【0039】
【0040】
不等式(4)において「-1≦cosθ≦1」が成り立つので、不等式(4)から不等式(5)が得られる。
【0041】
【0042】
不等式(5)を整理すると、不等式(6)が得られる。
【0043】
【0044】
よって、突極性を有する同期モータに本実施形態を適用する際には、電流位相を固定した一定の励磁電流Ieは、不等式(6)を満たす大きさに設定すべきである。本実施形態では、磁極初期位置が取得されるべき同期モータが突極性を有する同期モータである場合は、磁極位置推定部40は、上限値「Φ/(Lq-Ld)」未満の励磁電流Ieを同期モータ2へ流すような指令を生成する。
【0045】
なお、主磁束Φは、同期モータ2に設けられる永久磁石の温度の上昇に従って、低下する。よって、突極性を有する同期モータ2の駆動時に想定される永久磁石の温度上昇を考慮して、励磁電流I
eの上限値を設定してもよい。ここで、突極性を有する同期モータの永久磁石の温度上昇を考慮した磁極初期位置を取得するために流すべき励磁電流I
eの大きさについて、
図5を参照して説明する。
【0046】
図5は、同期モータに設けられる永久磁石の温度と同期モータの主磁束の磁束密度との関係を例示する図である。
図5において、横軸は同期モータ2に設けられる永久磁石の温度を示し、縦軸は永久磁石が20℃のとき磁束密度を100%としたときの磁束密度の比率を示す。なお、
図5に示す数値はあくまでも一例であって、その他の数値であってもよい。例えば、突極性を有する同期モータ2の駆動時に想定される永久磁石の最高温度が160度である場合、永久磁石が160度のときでもずれ量θがゼロ以外で発生トルクがゼロとなることがないように、想定される同期モータ2の永久磁石の最高温度における磁束Φ
min(もっとも小さくなる磁束密度)を考慮して、励磁電流I
eを制限する。すなわち、不等式(6)から不等式(7)を得ることができる。
【0047】
【0048】
よって、突極性を有する同期モータに本実施形態を適用する際には、電流位相を固定した一定の励磁電流Ieは、同期モータの駆動時に想定される永久磁石の温度上昇を考慮して、不等式(7)を満たす大きさに設定してもよい。この場合、磁極位置推定部40は、上限値「Φmin/(Lq-Ld)」未満の励磁電流Ieを同期モータ2へ流すような指令を生成する。
【0049】
図6は、磁極位置推定部40の機能ブロック図である。
図6に示すように、磁極位置推定部40は、直流励磁指令生成部41と、トルクゼロ相当検出部42と、磁極位置更新部43と、通常のセンサレス制御時における推定演算を実行するセンサレス制御演算部44とを備える。直流励磁指令生成部41は、電流位相を所定の位相に固定した一定の励磁電流を同期モータ2へ流すための指令を生成する(本実施形態において、I
d=I
e、I
q=0とする)。直流励磁指令生成部41によって生成された指令は、同期モータ2の駆動を制御するためのモータ制御装置100内の電流制御部33へ送られる。電流制御部33は、直流励磁指令生成部41から受信した電流指令と固定された電流位相で変換される電流フィードバック(I
d,I
q)とに基づいて電圧指令を生成し、電力変換部35は受信した電圧指令に基づいて同期モータ2に駆動電圧を印加することで、電流位相を固定した一定の励磁電流を生成する。この励磁電流を駆動源にして同期モータ2は励磁位相の位相位置に吸引され始める。
【0050】
トルクゼロ相当検出部42は、同期モータ2に電流位相を固定した一定の励磁電流が流れているときにおいて、電圧又は電流制御に係わるデータを処理することにより、ロータにかかるトルクがゼロ相当となる時点を検出する。トルクゼロ相当検出部42は電流・電圧データ処理部42aを有し、この電流・電圧データ処理部42aが電圧又は電流制御に係わるデータを処理し、トルクがゼロ相当となる時点を検出する。
【0051】
磁極位置更新部43は、トルクゼロ相当検出部42がトルクゼロ相当の時点を検出したときに、その時点の電流位相(すなわち、励磁位相)を磁極位相とみなして磁極位置カウンタ43aを初期化する。これによりロータの磁極初期位置が検出されたことになる。このように磁極初期位置の検出がなされると、モータ制御装置100は、速度指令を適用する通常のセンサレス制御の動作に移行する。センサレス制御による通常の動作中は、センサレス制御演算部44において所定のアルゴリズムによりロータ位置或いは速度を求める演算が行われる。磁極位置更新部43は、通常動作時には、センサレス制御演算部44から得られるロータ位置情報(電気角フィードバック)により磁極位置カウンタ43aを更新して磁極位置(θe)を出力する動作を継続する。
【0052】
なお、通常動作時のセンサレス制御法による回転子位置等の推定方法(センサレス制御演算部44により実行される推定演算アルゴリズム)としては、モータ巻線に誘起される速度起電力の電圧を利用する方法、巻線インダクタンス値が持つ回転子位置依存性を利用する方法等の様々な手法が当分野で知られており、本実施形態においてはセンサレス制御法として当分野で知られた各種手法を適用することができる。
【0053】
トルクゼロ相当検出部42は、直流励磁時にロータにかかるトルクがゼロ相当となる時点を検出する機能として、電流データに基づきトルクゼロ相当の時点を検出する機能と、電圧指令データに基づいてトルクゼロ相当の時点を検出する機能とを有する。具体的には、トルクゼロ相当検出部42は、以下で示す(1)から(4)によりトルクゼロ相当となる時点を検出できるように構成されている。トルクゼロ相当検出部42は、以下の(A1)から(A4)の機能のいずれかによりトルクゼロ相当を検出することができる。
(A1)Q相電流を用いてトルクゼロ相当の位相を検出する機能。
(A2)D相電流を用いてトルクゼロ相当の位相を検出する機能。
(A3)D相電圧指令を用いてトルクゼロ相当の位相を検出する機能。
(A4)Q相電圧指令を用いてトルクゼロ相当の位相を検出する機能。
【0054】
以下では、トルクゼロ相当となる時点を検出するための上記機能(A1)から(A4)の各々について説明する。
【0055】
(A1)Q相電流を用いてトルクゼロ相当の位相を検出する機能。
上述したように非突極性の電動機を想定した場合、トルク(Tr)は下記式により表される。
Tr=k・Φ・Iq
ここで、k:比例定数
Φ:主磁束
Iq:Q相電流
である。
【0056】
よって、励磁中のQ相電流Iqがゼロクロスするとき、発生トルク(Tr)の極性が変化する。この時がトルクゼロの時点である。しかし、磁極検出中も電流制御部33による電流制御がなされているためQ相電流Iqの変化は小さく、ゼロクロスを直接検出するのは誤検出が生じやすいと考えられる。そこで、トルク相当であるQ相電流Iqを加速度相当と考え、これを積算したQ相電流積算値を速度相当と考えると、このQ相電流積算値の極値(極大値、極小値)を検出すれば、それがトルクゼロを検出したことに相当する。なお、この時検出されるQ相電流の極性と実トルクの極性が逆なので極性を揃えるため、Q相電流積算値をΣ(-Iq)により求めることとする。
【0057】
図7にD相電流指令(I
d指令)を一定値、Q相電流指令(I
q指令)をゼロとした場合におけるQ相電流(I
q)、D相電流(I
d)、ロータ実位置、ロータ実速度の時間推移の例を示す。
図7において、符号171を付したグラフはId指令を表し、符号172を付したグラフはD相電流(I
d)を表し、符号173を付したグラフはIq指令を表し、符号174を付したグラフはQ相電流(I
q)を表し、符号175を付したグラフはロータ実速度を表し、符号176を付した破線のグラフはロータ実位置を表す。
【0058】
図7に示すように時刻t0においてI
d=一定値、I
q=0とする直流励磁を開始する。これに伴い、上述したようにロータは励磁位相位置に吸引され振動する挙動を示し、ロータ速度(符号175)及びロータ実位置(符号176)は図中に示すように振動的に変化する。また、電流制御部33が直流励磁指令と電流フィードバック(I
d,I
q)とに基づいて電圧指令を生成する動作を行うことにより、I
d電流データ(符号172)及びI
q電流データ(符号173)は図のように変化する。
図7中符号180を付した矢印(一部のみに符号を付している)は、トルクがゼロクロスする時点(トルクゼロ相当の時点)を表している。
図7からI
q電流データがゼロクロスする時点(実速度が極値をとる時点)が、トルクゼロに相当していることが理解できる。ただし上述したように、本実施形態では、誤検出を回避するためIq電流の積算値を用いてトルクゼロ相当の時点を検出することとしている。
【0059】
図8は、直流励磁の実行中におけるロータ実位置、Q相電流積算値、及びロータ実速度の時間推移を示す図である。
図8におけるグラフ181はロータ実位置を示し、グラフ182はQ相電流積算値を示し、グラフ183はロータ実速度を示す。時刻t1で直流励磁が開始すると、ロータは励磁位相の位相位置に吸引され始め振動する動作を開始する。この振動は減衰する。この時のQ相電流積算値を示すグラフ182は、ロータ実速度を示すグラフ183とほぼ同じとなっていることが理解できる。したがって、Q相電流積算値をロータの速度を示すデータとして利用できる。なお。
図8には、Q相電流積算値(ロータ速度)が極値をとりトルクゼロ相当となる時点の一つを符号184を付した破線で示している。
【0060】
(A2)D相電流を用いてトルクゼロ相当の位相を検出する機能。
次にD相電流を用いてトルクゼロ相当の時点を検出する手法について説明する。D相の電圧式は、下記数式(8)で表される。
【0061】
【0062】
直流励磁において、Q相電流Iqcはほぼ0に制御されているので、D相電流は下記数式(9)となると考えられる。
【0063】
【0064】
ここで数式(3)のトルク式から加速度も同様に-sinθで変化することが分かるので、加速度を積分した速度ωは余弦波(cos)状に変化する。よって、ω=Acosθとすれば、数式(9)は次式(10)に書き改める事ができる。
【0065】
【0066】
式(10)において、分子中のVdcが電流制御が生成する成分であり、第2項は磁極がずれているために生ずるd軸への干渉成分である。このため、Idcを一定に保つために、制御電圧には干渉分電圧を0にしようとする電圧指令と抵抗分電圧R*Ieを加算した電圧指令を生成する。しかし、干渉分を抑制するための電圧指令分は干渉分電圧に対して、わずかに時間遅れがある。この時間遅れによる位相遅れをαとすると、D相電流は以下の式(11)のようになると考えられる。
【0067】
【0068】
ここで、α≒0なので、cosα=1、sinα=αとなり、D相電流の式は以下の式(12)となる。
【0069】
【0070】
トルク0となるのはθ=0の時であり、この時cos2θは最大となるので、D相電流Idcも最大となる。よって、D相電流が最大(極大)になる事を検出できれば、トルク0を検出した事になる。
【0071】
図7にはD相電流波形を表すグラフ172が含まれている。
図7のD相電流の波形データ(符号172)とトルクゼロ相当の時点である符号180の矢印の時点との位置関係からも、D相電流が最大(極大)となる時点とトルクゼロの位置とが一致していることを理解することができる。したがって、トルクゼロ相当検出部42は、D相電流が最大(極大)となる時点を検出することで、トルクゼロ相当となる時点を検出することができる。
【0072】
(A3)D相電圧指令を用いてトルクゼロ相当の位相を検出する機能。
D相の電圧式は、上記式(8)で表せるが、直流励磁下でも、電流制御は機能しており、Iqc=0、Idc=Ieとするように制御するので、D相電圧は、以下の式(13)のようになると考えられる。
【0073】
【0074】
式(13)により表されるD相電圧をハイパスフィルタに掛けると、フィルタ後は、下記式(14)のようになる。
【0075】
【0076】
ここで、速度ωの変動を考えると、磁極位置が励磁位相から最も離れた位置で速度が0、磁極位置が励磁位相に合致(θ=0)すると最大もしくは最小(負の最大)となるので、速度は余弦波(cosθ)状に変化する。よって、ハイパスフィルタ通過後、HPF(Vdc)は-sin(2θ)状に変化することになる。よって、θ=-90度、0度、90度、そして180度と90度毎に0クロスすることになるが、トルクゼロとなる箇所は速度が極大もしくは極小となる点であり、それは0度、180度なので、HPF(Vdc)が正から負に変化する所に相当する。
【0077】
図9は、直流励磁中のD相電圧指令、Q相電流、Q相電流指令、Q相電圧指令等の各データの時間推移の例を示すグラフである。符号191のグラフはD相電圧指令を表すグラフ(以下、V
d指令191とも記載)であり、符号192のグラフはQ相電流指令を示すグラフであり(以下、I
q指令192とも記載)であり、符号193のグラフはQ相電流を示すグラフであり(以下、I
q193とも記載)、符号194はQ相電圧指令を示すグラフである(以下、V
q指令194とも記載)。
図9には、更に、ロータ実速度を示すグラフ195、及びロータ実位置を示すグラフ196が含まれている。
図9中符号198を付した矢印(一部のみに符号を付している)は、トルクがゼロクロスする時点(トルクゼロ相当の時点)を表している。
【0078】
図9に示すように、時刻t10での直流励磁の開始に伴い、ロータ実速度及びロータ実位置はグラフ195及びグラフ196にそれぞれ示すように振動的に変動する。このときQ相電流はグラフ193で示すように変動し、また、D相電圧指令及びQ相電圧指令はグラフ191及びグラフ194でそれぞれ示すように変動する。D相電圧指令のグラフ191は、上記式(13)に対応する。
【0079】
図10は、
図9に示したV
d指令191をハイパスフィルタに通した後の波形を表すグラフ197(以下、HPF(V
d)197とも記載)を示すと共に、実速度のグラフ195を再掲している。グラフ197は、上記式(14)に対応する。
図10から、HPF(V
d)197がゼロクロス(正から負)する時点が実速度のピークと一致し、すなわち、トルクゼロと一致していることを理解できる。
【0080】
(A4)Q相電圧指令を用いてトルクゼロ相当の位相を検出する機能。
Q相の電圧式から、Q相電流は次式(15)で流れていると考えられる。
【0081】
【0082】
直流励磁下でも電流制御は機能しており、Iqc=0、Idc=Ieとなるように制御するので、Q相電圧指令は以下の式(16)のようになると考えられる。
【0083】
【0084】
上記式(16)において括弧内の値はθ=0で最大となり、この時ωは最大、もしくは最小(負の最大)となる。よって、Q相電圧指令の極大、もしくは極小を検出することが、トルク0を検出した事に相当する。
【0085】
図9にはQ相電圧指令の波形を表すグラフ194も含まれている。
図9中のV
q指令のグラフ194から、V
q指令の極値(極大値、極小値)がトルクゼロ相当の時点の矢印198に一致することを理解することができる。ただし、V
q指令のゼロ近傍での誤検出を防止するため、V
q指令の絶対値が所定の閾値を超えていることを条件として極値を検出するようにしても良い。
【0086】
次に、以上で説明したトルクゼロ相当の時点を検出する機能を用いて直流励磁により磁極初期位置を検出する場合の動作例について
図11を参照して説明する。ここでは、Q相電流積算値(I
q積算値)を用いてトルクゼロ相当を検出する場合の動作例を説明する。
図11は、Q相電流積算値を用いて磁極初期位置検出を行う場合における各種データ波形の時間推移の例を示す図である。
図11の上段側の各データ波形図において、グラフ211はI
q積算値(SUMIQA)を表し、グラフ212はI
q積算値の極大値を示す内部変数(MAXSMQ)の値、グラフ213はI
q積算値の極小値を示す内部変数(MINSMQ)の値を表している。また、
図11の下段側の各データの波形図において、グラフ221は速度指令を表し、グラフ222はロータの測定速度を表し、グラフ223はロータの測定位置を表している。
【0087】
図中、時点T1で速度指令が入力されると、モータ制御装置100の磁極位置推定部40は、速度指令を反映させる前に直流励磁による磁極初期位置検出動作を実行する。はじめに、モータ制御装置100は、Iq積算値を示す変数SUMIQAを0に初期化すると共に、直流励磁の励磁電流を流し始める。これにより、モータのロータは振動的な動きをはじめるが、図中破線の丸印(符号230)で示した部分の波形のような過渡時の影響により極値の誤検出を行わないように時点T2までは検出を保留するようにする。すなわち、モータ制御装置100は、安定的な動作のため、直流励磁の開始後、所定の期間はIq積算値の極値の検出を保留する。
【0088】
検出保留期間が終わった時点T2において、MAXSMQ、MINSMQをSUMIQAで初期化して検出を開始する。例示として、極値の検出や変数の更新の一連の動作は、所定の周期で実行するものとする。これら変数の次回の更新タイミングではSUMIQAが変化するので、SUMIQAと前回のMAXSMQ、MINSMQとを比較して、MAXSMQ、MINSMQを以下のように更新する。
(動作a)SUMIQA≧MAXSMQの場合、Iq積算値が上昇中であるため、MAXSMQ=SUMIQAとして、極大値を検出することとする。
(動作b)SUMIQA≦MINSMQの場合、Iq積算値が下降中であるため、MINSMQ=SUMIQAとして、極小値を検出することとする。
【0089】
さらに次の更新タイミング以降では、上記動作において(動作a)であった場合と(動作b)であった場合とで以下の様に処理する。
(動作c):上記で(動作a)であった場合、SUMIQA≧MAXSMQであった場合、MAXSMQ=SUMIQAとして、検出(極大値の検出)を継続する。他方、SUMIQA<MAXSMQであった場合、SUMIQAが反転して(SUMIQAが極大値となり)トルクゼロとなったとみなして、磁極位置が励磁位相に合致したものとみなす。
(動作d):上記で(動作b)であった場合、SUMIQA≦MINSMQであった場合、MINSMQ=SUMIQAとして、検出(極小値の検出)を継続する。他方、SUMIQA>MINSMQであった場合、MINIQAが反転して(SUMIQAの極小値が検出され)トルクゼロとなったとみなして、磁極位置が励磁位相に合致したものとみなす。
【0090】
図11の動作例では、時点T3で極小値を検出できるためこの時点でトルクゼロを検出したとして磁極位置を検出することも可能であるが、本例では速度指令の方向(極性)でI
q積算値の極値を検出することとしている。すなわち、時点T3でMAXSMQ=SUMIQAに初期化して極大値を検出する準備をする。時点T3からT4の間はSUMIQA≧MAXSMQであるため、MAXSMQ=SUMIQAと更新し、時点T4でSUMIQA<MAXSMQを検出し、磁極位置が励磁位相に合致したとみなして、検出を完了する。本例のように、速度指令の極性と、Iq積算値の極値検出の極性を合わせることで、直流励磁動作(磁極初期位置検出動作)と通常の速度制御動作(センサレス制御)とをスムーズにつなげることが可能となる。
【0091】
磁極初期位置検出が完了したら、次に、保留していた速度指令を読み込んで、速度指令に応じた加速を開始する。
【0092】
なお、本例のように、時点T4からT5の期間はセンサレス制御を開始する準備期間とし、ある程度、電圧データが大きくなるのを待ってセンサレス制御を開始するようにしても良い。センサレス制御において電圧データを用いた方式とする場合、電圧分解能が低い低速域を乗り越えるため、本例では、指令速度に応じて磁極を回転させることで、磁極を連れ回らせている。時点T5で所定の切換え速度に達したら、センサレス制御を開始する。
【0093】
図11を参照して説明した磁極初期位置検出動作における、検出保留期間を設ける考え方、極値を検出するアルゴリズム、センサレス制御を開始する前の準備期間を設ける考え方等は、トルクゼロを検出のためにD相電流を用いる場合、D相電圧指令を用いる場合、及びQ相電圧指令を用いる場合にも適用することができる。
【0094】
D相電流を用いる場合には、
図11に示した検出保留期間が完了した時点T2以降に、D相電流の極大値を上述と同様のアルゴリズムにより検出する。D相電流の極大値が検出されたら、トルクゼロ相当が検出されたとして、磁極位置を初期化する。以降は、上記時点T4以降と同様の動作により速度指令を適用する通常動作へと移行する。
【0095】
D相電圧指令を用いる場合には、
図11に示した検出保留期間が完了した時点T2以降に、ハイパスフィルタ通過後のD相電圧指令HPF(V
dc)の正から負へのゼロクロスを検出する動作を行う。HPF(V
dc)の正から負へのゼロクロスは、HPF(V
dc)の下降中にHPF(V
dc)の極性の反転をとらえることで検出することができる。HPF(V
dc)の正から負へのゼロクロスが検出されたら、トルクゼロ相当の時点が検出されたとして磁極位置を初期化する。以降は、上記時点T4以降と同様の動作により速度指令を適用する通常動作へと移行する。
【0096】
Q相電圧指令を用いる場合には、
図11に示した検出保留期間が完了した時点T2以降に、Q相電圧指令の極大又は極小を検出する動作を行う。Q相電圧指令の極大又は極小の検出は、Iq積算値の極大又は極小の検出と同様の手法により検出することができる。Q相電圧指令の極大又は極小が検出されたら、トルクゼロ相当が検出されたとして磁極位置を初期化する。以降は、上記時点T4以降と同様の動作により速度指令を適用する通常動作へと移行する。
【0097】
図12は、
図11を参照して上述した磁極初期位置検出処理を実現するフローチャートである。例えば、速度指令の入力に伴い本処理が起動され、磁極初期位置検出が完了するまで本処理を所定の周期で周期的に実行する。本処理は、マイクロコントローラ3のCPUによる制御の下で実行される。はじめに、磁極初期位置が検出済みか否かが判定される(ステップS1)。この判定は、例えば、磁極位置推定部40内の記憶部(不図示)に磁極初期位置が記憶済みであるか否かにより判定しても良い。未検出である場合(S1:NO)、ステップS2において磁極検出動作が実行中であるか否かが判定される。なお、ここでは、プログラムの制御に用いる各種変数(CNT,FLG,CNT2)は初期化されているものとする。なお、ステップS1において検出済みと判定される場合や、ステップS2において磁極検出中ではないと判定される場合は、ステップS26において各種変数を初期化し、本処理を抜け出る。
【0098】
ステップS2からS7に至る一連の処理は、
図11の時間T1からT2まで検出を待機する動作に対応する。この場合には磁極検出中であると判定され(S2:YES)、処理はステップS3に進む。ステップS3では、Q相電流の積算値(Σ(-I
q))を取得し、変数SUMIQAに格納する。次に、関数max(CNT-1,0)によりCNT-1と0のうちの最大値を求め変数CNTに格納する(ステップS4)。これは変数CNTをデクリメントする処理に相当する。変数CNTが1となっている場合(1までカウントダウンされている場合)(S5:YES)、Q相電流積算の最大値を格納する変数MAXSMQ、及びQ相電流積算の最小値を格納する変数MINSMQを、それぞれ現時点におけるQ相電流積算値SUMIQAで初期化する(ステップS6)。ここでは、CNT=1であるため、次のステップS7にてNO判定となり、一旦、本処理を抜けることとなる。
【0099】
次の周期にてステップS2からの処理に入ると、ステップS4においてCNTがデクリメントされ、ステップS5:NOに続き、ステップS7にてYES判定がなされる。これにより検出を待機するループを抜け、検出動作に入る。
【0100】
ステップS8では変数CNT2をインクリメントする。次にステップS9では、速度指令の極性を判定する。
図11で示したように速度指令の方向がプラス側である場合、処理はステップS10に進む。速度指令の方向がマイナス側である場合、処理はステップS18に進む。なお、速度指令がゼロの場合には、処理はステップS17に進み、CNT2が閾値を超えていない場合は本処理を抜け出るようにする。
【0101】
速度指令がプラス方向である場合、ステップS10にて、SUMIQAとMINSMQとを対比する。SUMIQA≦MINSMQである場合は、速度指令がプラスである場合においてQ相電流積算値が下降している状況である。この場合、ステップS12でMINSMQをQ相電流積算値SUMIQAで更新し、ステップS17にてNO判定され、一旦、本処理を抜け出る。Q相電流積算値が減少を続ける間、ステップS10でのSUMIQA≦MINSMQの判定、ステップS12でのMINSMQ=SUMIQAの更新が継続することとなる。
【0102】
そして、Q相電流積算値が上昇に転じると、ステップS10にてSUMIQA>MINSMQと判定され、MINSMQを現在値に更新するステップS11を経た後、ステップS13においてフラグ変数FLG=1であるか否かを判定する。ここではまだFLG=1となっていないので(S13:NO)、処理はステップS14に進む。ステップS14では、変数MAXSMQを現在のQ相電流積算値に更新する。次に、ステップS17において変数CNT2は閾値以下であると判定され(S17:NO)、一旦本処理から抜け出る。
【0103】
Q相電流積算値が上昇を続けている間、ステップS10からの処理に入ると、ステップS13にてYESと判定され、ステップS15からステップS16の処理により変数MAXSMQがQ相電流積算値により更新される処理が継続的に実行される。そして、Q相電流積算値が極大値に達し減少し始めると、ステップS15にてSUMIQA<MAXSMQと判定され、ステップS25にて磁極位置が励磁位相と合致したとして磁極検出完了とされる。
【0104】
以上のS10からS16、S25における一連の処理により、速度指令がプラスの場合には極小値を検出することなく最初に生じる極大値を検出し磁極検出を完了することができる。すなわち、
図11を参照して上述した磁極検出動作が達成されることとなる。
【0105】
ステップS18からステップS24に至る一連の処理は、速度指令がマイナス方向である場合において、Iq積算値の極小値の時点をトルクゼロ相当して検出するための処理である。速度指令がマイナスであると判定された場合(S9:速度指令“-”)、ステップS18においてSUMIQAの値の状態を確認する。SUMIQA≧MAXSMQ、すなわち、SUMIQAが増加していると判定されると、処理はステップS19に進みMAXSMAを現在のSUMIQAで更新する(MAXSMA=SUMIQA)。
【0106】
他方、ステップS18においてSUMIQA<MAXSMA、すなわち、SUMIQAが下降していると判定されると、ステップS20においてMAXSMQを現在値で更新した後、ステップS21にてフラグFLGが1であるか否かを判定する。ここでは、FLGは初期値0であるため処理はステップS22へ進む。ステップS22では、MINSMQを現在のSUMIQAの値に更新し(MINSMQ=SUMIQA)、フラグFLGに1をセットする。
【0107】
これにより、SUMIQAの下降中にステップS18、S20を経てステップS21においてフラグFLG=1であると判定されると、処理はステップS23へ進む。ステップS23では、SUMIQAの状態を確認する。SUMIQAがさらに下降中であると判定されると(S23:SUMIQA≦MINSMQ)、SUMIQAは更に下降しているのでMINSMQを現在のSUMIQAで更新する(MINSMQ=SUMIQA)(ステップS24)。そして、ここではステップS17においてCNT2は閾値以下であると判定され(S17:NO)、本処理を一旦抜け出る。他方、ステップS23においてSUMIQA>MINSMQと判定されるのは、SUMIQAの極小値(ピーク)が検出された場合である。この場合、処理はステップS25に進み、磁極位置が励磁位相に合致した状態が得られたとして磁極検出を完了する。
【0108】
なお、ステップS10でSUMIQA≦MINSMQと判定されステップS12の処理がなされる状態や、ステップS15にてSUMIQA≧MAXSMQと判定されステップS16の処理がなされる状態が継続しステップS17にてYES判定がなされるような場合(或いは、ステップS18でSUMIQA≧MAXSMQと判定されステップS19の処理がなされる状態や、ステップS23にてSUMIQA≦MINSMQと判定されステップS24の処理がなされる状態が継続しステップS17にてYES判定がなされるような場合)に、ステップS25にて磁極検出を完了させても良い。
【0109】
磁極検出処理の開始時に実磁極位置が直流励磁の励磁位相近傍にあった場合、Q相電流がほとんど流れず、トルクゼロ相当を検出できない可能性がある。しかしながら、この場合、実磁極位置が励磁位相近傍にあり、励磁位相にあるとみなすことができる。そこで、モータ制御装置100の制御部(マイクロコントローラ3)は、磁極検出処理の開始時に、Q相電流の振幅が所定の閾値以下の状態が所定の時間以上継続した場合には、実磁極位置が励磁位相近傍にあるとみなして磁極検出(磁極位置の初期化)を完了しても良い。なお、このような状態は、
図12の処理のステップS17にてyes判定される状況として検出され得る。
【0110】
以上説明したように、本実施形態によれば、モータに位置検出センサを有しないセンサレス制御を行うモータ制御装置においても、トルクゼロ相当となる時点の検出が可能となり、直流励磁方式による磁極初期値の検出を短時間で行うことが可能となる。
【0111】
以上、典型的な実施形態を用いて本発明を説明したが、当業者であれば、本発明の範囲から逸脱することなしに、上述の各実施形態に変更及び種々の他の変更、省略、追加を行うことができるのを理解できるであろう。
【0112】
上述の実施形態において
図1や
図6に記載したモータ制御装置の構成は例示であり、上述の実施形態で説明した各種機能は、dq座標系を用いてセンサレスによる制御を実行する各種モータ制御装置に適用し得る。
【0113】
図6に示した磁極位置推定部の構成は例示であり、上述の本実施形態で説明した直流励磁による磁極初期位置の検出機能は、速度制御の始動前に磁極初期位置を検出しそれを通常のセンサレス制御に適用する様々なタイプのモータ制御装置に適用することができる。
【0114】
上述した実施形態における磁極初期位置検出処理(
図12)等の各種の処理を実行するプログラムは、コンピュータに読み取り可能な各種記録媒体(例えば、ROM、EEPROM、フラッシュメモリ等の半導体メモリ、磁気記録媒体、CD-ROM、DVD-ROM等の光ディスク)に記録することができる。
【符号の説明】
【0115】
2 同期モータ
3 マイクロコントローラ
31 速度制御部
32 電流指令生成部
33 電流制御部
34 dq三相変換部
35 電力変換部
36 三相dq変換部
37 速度計算部
40 磁極位置推定部
41 直流励磁指令生成部
42 トルクゼロ相当検出部
42a 電流・電圧データ処理部
43 磁極位置更新部
43a 磁極位置カウンタ
44 センサレス制御演算部
100 同期モータ制御装置