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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】透明導電性圧電積層フィルム
(51)【国際特許分類】
   H10N 30/857 20230101AFI20241008BHJP
   H10N 30/30 20230101ALI20241008BHJP
   H10N 30/87 20230101ALI20241008BHJP
   B32B 15/01 20060101ALI20241008BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20241008BHJP
   B32B 15/082 20060101ALN20241008BHJP
【FI】
H10N30/857
H10N30/30
H10N30/87
B32B15/01 E
B32B15/08 P
B32B15/082 B
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023516356
(86)(22)【出願日】2022-03-22
(86)【国際出願番号】 JP2022013198
(87)【国際公開番号】W WO2022224671
(87)【国際公開日】2022-10-27
【審査請求日】2023-07-18
(31)【優先権主張番号】P 2021071061
(32)【優先日】2021-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】今治 誠
【審査官】小山 満
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-216451(JP,A)
【文献】特開2019-203194(JP,A)
【文献】国際公開第2015/129829(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/209081(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/221257(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第03795713(EP,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0033276(US,A1)
【文献】特開2018-164051(JP,A)
【文献】国際公開第2015/194320(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 30/857
H10N 30/30
H10N 30/87
B32B 15/01
B32B 15/08
B32B 15/082
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電フィルム、第一の導電体層、金属層、及び第二の導電体層がこの順で積層されており、
前記金属層は銀又は銀合金を含み、
X線回折測定において、35°±2°の範囲に回折ピークを有する透明導電性圧電積層フィルム。
【請求項2】
前記第二の導電体層側から測定した表面抵抗が30Ω/sq以下である請求項1に記載の透明導電性圧電積層フィルム。
【請求項3】
前記圧電フィルムは、フッ素系樹脂を含有する請求項1に記載の透明導電性圧電積層フィルム。
【請求項4】
前記金属層の厚みは、1~12nmである請求項1に記載の透明導電性圧電積層フィルム。
【請求項5】
全光線透過率が85%以上である請求項1に記載の透明導電性圧電積層フィルム。
【請求項6】
表色系におけるbが-3~3である請求項1に記載の透明導電性圧電積層フィルム。
【請求項7】
前記圧電フィルムの前記第一の導電体層側の前記圧電フィルムの面に透明コーティング層をさらに備える請求項1に記載の透明導電性圧電積層フィルム。
【請求項8】
前記透明コーティング層が微粒子を含む請求項に記載の透明導電性圧電積層フィルム。
【請求項9】
請求項1~のいずれか一項に記載の透明導電性圧電積層フィルムを備えるデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電性圧電積層フィルム及びそれを備えるデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
画像表示部に直接触れることにより、情報を入力できるデバイスとしてタッチパネルが広く用いられている。この代表的な形式として、透明電極と指との間に生じる電流容量の変化を利用した静電容量式タッチパネルがある(特許文献1)。
【0003】
タッチパネルに利用される位置検出センサには透明導電膜が使用されており、例えば、PETフィルムにITO(酸化インジウムスズ)を成膜した後、加熱処理(150℃前後)によりITOの結晶性を高めることで、低抵抗及び高透過率を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平5-324203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
最近は、指などにより操作面がタッチされる際の位置と押圧を同時に検知する技術に注目が高まっており、圧電センサからなる押圧検出センサを組み合わせることで実現することが提案されている。
【0006】
しかしながら、圧電センサに使用される透明導電圧電フィルムは、PETフィルムのように高温での加熱処理を行うと抵抗が悪化したりフィルムの色味を損なったりするため、タッチパネルでの使用が困難である。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、高い透明性と低抵抗を実現する透明導電性圧電積層フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、圧電フィルム、第一の導電体層、銀又は銀合金を含む金属層、及び第二の導電体層が積層されている透明導電性圧電積層フィルムであると、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のものに関する。
【0009】
本発明は、圧電フィルム、第一の導電体層、金属層、及び第二の導電体層がこの順で積層されており、上記金属層は銀又は銀合金を含む透明導電性圧電積層フィルムに関する。
【0010】
上記透明導電性圧電積層フィルムは、X線回折測定において、35°±2°の範囲に回折ピークを有することが好ましい。
【0011】
上記透明導電性圧電積層フィルムは、上記第二の導電体層側から測定した表面抵抗が30Ω/sq以下であることが好ましい。
【0012】
上記圧電フィルムは、フッ素系樹脂を含むことが好ましい。
【0013】
上記金属層の厚みは、1~12nmであることが好ましい。
【0014】
上記透明導電性圧電積層フィルムは、全光線透過率が85%以上であることが好ましい。
【0015】
上記透明導電性圧電積層フィルムは、L表色系におけるbが-3~3であることが好ましい。
【0016】
上記透明導電性圧電積層フィルムは、圧電フィルムの上記第一の導電体層側の圧電フィルムの面に透明コーティング層をさらに備えることが好ましい。
【0017】
上記透明コーティング層が微粒子を含有することが好ましい。
【0018】
本発明はまた、上記透明導電性圧電積層フィルムを備えるデバイスに関する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、高い透明性及び低抵抗を実現する透明導電性圧電積層フィルムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の透明導電性圧電積層フィルムの一実施形態を模式的に示す断面図である。
図2】本発明の透明導電性圧電積層フィルムの別の実施形態を模式的に示す断面図である。
図3】実施例1のX線回折測定の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について図面を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0022】
≪透明導電性圧電積層フィルム≫
本発明に係る透明導電性圧電積層フィルムは、圧電フィルム、第一の導電体層、金属層、及び第二の導電体層がこの順で積層されており、前記金属層は銀又は銀合金を含む。
【0023】
なお、本明細書において、「積層」とは、各層が順番に積層されていればよく、各層の間に他の層が積層されていてもよい。
【0024】
<透明導電性圧電積層フィルムの特性>
透明導電性圧電積層フィルムは、X線回折測定において、35°±2°の範囲に回折ピークを有することが好ましい。このような特徴により、導電性を向上させる高温加熱処理が不要となり圧電フィルムの性能低下を防止しやすく、高い透明性及び低抵抗を実現する透明導電性圧電積層フィルムを提供しやすい。
なお、本明細書において、上記X線回折測定の方法は、インプレーン法により行われる。また、本明細書において、「35°±2°の範囲に回折ピークを有する」とは、31°の回折角(2θ)における回折強度(I31)と、39°の回折角(2θ)における回折強度(I39)とを結ぶ直線をベースラインとして設定した場合に、ベースラインの回折強度(I31とI39との平均値として定義する。)の2倍以上(好ましくは3倍以上)の回折強度である山状の部分が、35°±2°の範囲において観察されることをいう。
上記特徴を得るための手法としては、特に限定されないが、例えば、銀合金を含む金属層を形成することなどが挙げられる。
【0025】
透明導電性圧電積層フィルムの第二の導電体層側から測定した表面抵抗は、30Ω/sq以下が好ましく、20Ω/sq以下がより好ましい。表面抵抗の下限は特に限定されないが、例えば、1Ω/sqである。
なお、本明細書において、上記表面抵抗は、JIS K 7194に準拠して測定される。
【0026】
透明導電性圧電積層フィルムの全光線透過率は、80%以上が好ましく、85%以上がより好ましい。全光線透過率の上限は特に限定されないが、例えば、95%である。
なお、本明細書において、上記全光線透過率は、JIS K 7361-1に準拠して測定される。
【0027】
透明導電性圧電積層フィルムのヘイズ値は、1.8%以下が好ましく、1.0%以下がより好ましく、0.7%以下がさらに好ましい。ヘイズ値の下限は特に限定されない。
なお、本明細書において、上記ヘイズ値は、JIS K 7136に準拠して測定される。
【0028】
透明導電性圧電積層フィルムのLは、80以上が好ましく、90以上がより好ましい。Lの上限は特に限定されない。
透明導電性圧電積層フィルムのaは、-3~3が好ましく、-2~2がより好ましい。
透明導電性圧電積層フィルムのbは、-3~3が好ましく、-2~2がより好ましい。
なお、本明細書において、L表色系のおける上記L、a、及びbは、JIS Z 8722に準拠して測定される。
【0029】
透明導電性圧電積層フィルムの厚みは、10~200μmが好ましく、20~100μmがより好ましい。10μm以上であると、機械的強度が十分となる傾向がある。また、200μm以下であると、透明性が十分であるため光学用途に使用しやすい傾向がある。
【0030】
次に、図面を参照しながら透明導電性積層フィルムの各層について説明する。
【0031】
図1は、透明導電性圧電積層フィルムの一実施形態を模式的に示す断面図である。透明導電性圧電積層フィルム1は、圧電フィルム11、第一の導電体層31、金属層41、第二の導電体層32がこの順で積層されている。すなわち、金属層41は、一対の導電体層の間に配置されている。一対の導電体層のうち、圧電フィルム11側に配置される層を第一の導電体層31といい、この第一の導電体層31よりも圧電フィルム11から離れて配置される層を第二の導電体層32という。
図2は、本発明の透明導電性圧電積層フィルムの別の実施形態を模式的に示す断面図である。透明導電性圧電積層フィルム2は、圧電フィルム11を挟むようにして一対の透明コーティング層(第一の透明コーティング層21及び第二の透明コーティング層22)を備える点で、透明導電性圧電積層フィルム1と異なっている。その他の構成は、透明導電性圧電積層フィルム1と同様である。
【0032】
<圧電フィルム>
圧電フィルム11は、圧電性(加えられた力を電圧に変換する性質、又は加えられた電圧を力に変換する性質)を有するフィルム(薄膜)である。
【0033】
圧電フィルム11としては、例えば、フッ素系樹脂;シアン化ビニリデン系重合体;ナイロン9、ナイロン11などの奇数ナイロン;ポリ乳酸などのヘリカルキラル高分子;ポリヒドロキシブチレートなどのポリヒドロキシカルボン酸;セルロース系誘導体;ポリウレア;などが挙げられる。
フッ素系樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ化ビニリデン系共重合体(例えば、フッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン/クロロトリフルオロエチレン共重合体、ヘキサフルオロプロピレン/フッ化ビニリデン共重合体、パーフルオロビニルエーテル/フッ化ビニリデン共重合体、テトラフルオロエチレン/フッ化ビニリデン共重合体、ヘキサフルオロプロピレンオキシド/フッ化ビニリデン共重合体、ヘキサフルオロプロピレンオキシド/テトラフルオロエチレン/フッ化ビニリデン共重合体、ヘキサフルオロプロピレン/テトラフルオロエチレン/フッ化ビニリデン共重合体);テトラフルオロエチレン系重合体;クロロトリフルオロエチレン系重合体;などが挙げられる。これらは1種単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
なかでも、得られる圧電性の高さ、耐候性、耐熱性等の観点で、フッ素系樹脂が好ましく、ポリフッ化ビニリデン及び/又はフッ化ビニリデン系共重合体がより好ましい。
【0034】
圧電フィルム11は、通常用いられる添加剤(フィラーや界面活性剤など)をさらに含有してもよい。
【0035】
圧電フィルム11の厚みは、10~200μmが好ましく、20~100μmがより好ましい。上記数値範囲内であると、10μm以上であると、機械的強度が十分となる傾向がある。また、200μm以下であると、透明性が十分であるため光学用途に使用しやすい傾向がある。
【0036】
<導電体層>
導電体層(第一の導電体層31及び第二の導電体層32)は、導電性を示す透明の層である。可視光の透過性を示すように金属層を薄膜にすると酸素や水蒸気、熱などに対する安定性が低下するが、透明度が高くて導電性を損ねない導電体層で金属層を挟むことにより、耐環境性が改善される。
【0037】
導電体層を構成する材料としては、例えば、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化亜鉛インジウム、酸化アルミニウム、酸化ガリウムなどの金属酸化物;ポリチオフェン系やポリアニリン系の導電性有機高分子;などが挙げられる。これらは1種単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
なかでも、銀薄膜の可視域の光の透過率を高める観点から、誘電率が大きい金属酸化物が好ましく、酸化インジウムスズがより好ましい。
【0038】
導電体層は、その機能を損なわない範囲で、微量成分や不可避的成分を含んでいても良い。
【0039】
導電体層の厚みは、10~55nmが好ましく、20~45nmがより好ましい。上記数値範囲内であると、可視光の透過率が高くなりやすい。
【0040】
導電体層のうち、圧電フィルム11側に設けられる第一の導電体層31、及び、圧電フィルム11から離れて設けられる第二の導電体層32は、厚み、構造及び組成の点で、同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0041】
第二の導電体層32の上には配線電極などが設けられてもよい。後述する金属層41を導通する電流は、第二の導電体層32を通って、第二の導電体層32の上に設けられる配線電極などに導かれる。
【0042】
<金属層>
金属層41は、主成分として金属を含む層であり、銀(Ag)又は銀合金(Ag合金)を含む。金属層41が高い導電性を有することで、上記の導電体層の結晶性を高める高温加熱処理が不要となるため圧電フィルムの性能低下を防止しつつ、透明導電性圧電積層フィルムの表面抵抗値を十分に低くすることができる。また、金属層として銀(Ag)又は銀合金(Ag合金)を含むので、例えば、金属層がAu、Cu又はAlである場合と比較して、透過率を向上させることができる。
【0043】
Ag合金を構成する金属元素としては、Au、Pd、Nd、Bi、Cu、Sb、Bi、In、Sn、Ge、Nb、Ti、Ru、Al、Ga及びGdから選ばれる少なくとも1種が挙げられる。好ましいAg合金としては、Ag-Pd、Ag-Cu、Ag-Ge、Ag-Bi、Ag-Nd、Ag-In及びAg-Nbが挙げられる。このようなAg合金は、その他の金属元素等の添加物を含有していてもよい。したがって、金属層41は、3種以上の金属元素を含有していてもよい。金属層41における添加物の含有量は、例えば2.5質量%以下である。該含有量が、2.5質量%を超えると、全光線透過率が低下する傾向、又は抵抗値が高くなる傾向にある。
【0044】
金属層41の厚みは、可視光の透過性の観点から、20nm以下が好ましく、1~12nmがより好ましい。
【0045】
<透明コーティング層>
透明導電性圧電積層フィルム2は、一対の透明コーティング層として、圧電フィルム11の第一の導電体層31側の圧電フィルム11の面に第一の透明コーティング層21と、圧電フィルム11の第一の導電体層31側とは反対側の圧電フィルム11の面に第二の透明コーティング層22とを備える。すなわち、透明導電性圧電積層フィルム2は、第二の透明コーティング層22、圧電フィルム11、第一の透明コーティング層21、第一の導電体層31、金属層41及び第二の導電体層32がこの順に積層された積層構造を有している。第一の透明コーティング層21と第二の透明コーティング層22の厚み、構造及び組成は、同一であってもよく異なっていてもよい。また、必ずしも第一の透明コーティング層21と第二の透明コーティング層22の両方を備える必要はなく、どちらか一方のみを備えていてもよい。
【0046】
透明コーティング層としては、例えば、ハードコート層、光学調整層、アンダーコート層が挙げられる。透明コーティング層は、これらの単独の層であってもよいし、組み合わせた複数の層であってもよい。
透明コーティング層を設けることによって、透明導電性圧電積層フィルム2に発生する傷をより抑制できるとともに、透明導電性圧電積層フィルム2の透過性がより向上する。
【0047】
透明コーティング層は、例えば、樹脂組成物を硬化させて得られる樹脂硬化物を含有する。樹脂組成物は、熱硬化性樹脂組成物、紫外線硬化性樹脂組成物、及び電子線硬化性樹脂組成物から選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましい。樹脂組成物は、(メタ)アクリル酸エステル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ系樹脂、フェノキシ系樹脂、及びメラミン系樹脂から選ばれる少なくとも一種を含んでもよい。
【0048】
樹脂組成物は、例えば、(メタ)アクリロイル基、ビニル基などのエネルギー線反応性基を有する硬化性化合物を含む組成物である。なお、(メタ)アクリロイル基なる表記は、アクリロイル基及びメタクリロイル基の少なくとも一方を含む意味である。硬化性化合物は、1つの分子内に2つ以上、好ましくは3つ以上のエネルギー線反応性基を含む多官能モノマー又はオリゴマーを含んでいることが好ましい。
エネルギー線で硬化する樹脂組成物を用いると、紫外線などのエネルギー線を照射することによって、樹脂組成物を硬化させることができる。したがって、このような樹脂組成物を用いることが製造工程上の観点からも好ましい。
【0049】
硬化性化合物は、好ましくはアクリル系モノマーを含有する。アクリル系モノマーとしては、ウレタン変性アクリレート、及びエポキシ変性アクリレートなどが挙げられる。
【0050】
樹脂組成物は、塗膜の強度を高めること、屈折率を調整すること、透明導電性圧電積層フィルムの透過性を高めること、などの観点で、微粒子(有機微粒子及び/又は無機微粒子)を含むことが好ましい。特に、透明コーティング層と第一の導電体層との密着性の観点で、無機微粒子を含むことがより好ましい。有機微粒子としては、例えば、有機珪素微粒子、架橋アクリル微粒子、及び架橋ポリスチレンン微粒子などが挙げられる。無機微粒子としては、例えば、合成シリカ粒子、タルク粒子、珪藻土粒子、炭酸カルシウム粒子、長石粒子、石英粒子、酸化アルミニウム微粒子、酸化ジルコニウム微粒子、酸化チタン微粒子、及び酸化鉄微粒子などが挙げられる。
【0051】
微粒子の平均粒径は、透明コーティング層の厚みよりも小さく、十分な透明性を確保する観点から、100nm以下であってもよい。一方、コロイド溶液の製造上の観点から、5nm以上であってもよく、10nm以上であってもよい。有機微粒子及び/又は無機微粒子を用いる場合、有機微粒子及び無機微粒子の合計量は、硬化性化合物100質量部に対して、例えば5~500質量部であってもよく、20~200質量部であってもよい。
なお、本明細書において、平均粒径とは、電子顕微鏡法(SEM)法により測定した体積基準の累積平均粒子径(D50)をいう。
【0052】
透明コーティング層が薄すぎると、透明コーティング層が圧電フィルムの表面の微細な凹凸形状を十分に覆うことができないことがあり、圧電フィルムのヘイズを低減する効果が十分に得られないことがある。また、透明コーティング層が厚すぎると、透明導電性圧電積層フィルムの圧電性が不十分になることがある。したがって、第一の透明コーティング層21及び第二の透明コーティング層22の厚みはそれぞれ、圧電フィルムのヘイズを低減する観点から、0.20μm以上であることが好ましく、0.35μm以上であることがより好ましく、0.50μm以上であることがさらに好ましい。また、透明コーティング層の厚みは、圧電フィルムの圧電特性を十分に発現できる透明導電性圧電積層フィルムを得る観点から、3.5μm以下であることが好ましく、2.5μm以下であることがより好ましく、1.5μm以下であることがさらに好ましい。透明コーティング層の厚みが上記範囲であることにより、透明導電性圧電積層フィルムにおいて、用途に応じた十分な圧電性と透明性とを両立することが可能となる。
【0053】
以上、本発明の好適な実施形態を説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。例えば、上述の透明導電性圧電積層フィルム2は一対の透明コーティング層を有しているが、第一の透明コーティング層21及び第二の透明コーティング層22のどちらか一方のみを備えていてもよい。また、透明導電性圧電積層フィルム1、2には、その機能が大きく損なわれない範囲で、上述の層以外に任意の位置に任意の層を設けてもよい。
【0054】
<透明導電性圧電積層フィルムの用途>
本発明に係る透明導電性圧電積層フィルムは、静電容量方式、抵抗膜方式などのタッチパネルなどのデバイスに好適に用いられる。
上記デバイスは、上記透明導電性圧電積層フィルムの下に、LCDなどの一般的な表示パネルユニットをさらに備える。
上記デバイスは、携帯電話、スマートフォン、携帯情報端末、タブレットPC、ノートパソコン、販売機器、ATM、FA機器、OA機器、医療機器、カーナビゲーションシステムなどの表示装置に好適に用いられる。
【0055】
≪透明導電性圧電積層フィルムの製造方法≫
本発明に係る透明導電性圧電積層フィルムは、例えば、圧電フィルムの少なくとも一方の面に、必要に応じて透明コーティング層を形成し、第一の導電体層、金属層、及び第二の導電体層をこの順に形成する方法などにより製造することができる。
【0056】
第一の透明コーティング層は、樹脂組成物の溶液又は分散液を、圧電フィルムの一方面上に塗布して乾燥し、樹脂組成物を硬化させて作製することができる。この際の塗布は、公知の方法により行うことができる。塗布方法としては、例えば、エクストルージョンノズル法、ブレード法、ナイフ法、バーコート法、キスコート法、キスリバース法、グラビアロール法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、カーテン法、及びスクイズ法などが挙げられる。第二の透明コーティング層も、第一の透明コーティング層と同様にして、圧電フィルムの他方面上に作製することができる。
【0057】
<導電体層及び金属層の形成方法>
第一の導電体層、第二の導電体層、及び金属層は、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、又はCVD法などの真空成膜法によって形成することができる。これらのうち、成膜室を小型化できる点、及び、成膜速度が速い点で、スパッタリング法が好ましい。ターゲットとしては、酸化物ターゲットなどを用いることができる。
【0058】
スパッタリング法において、スパッタガスとしては、例えば、Ar等の不活性ガスが挙げられる。また、必要に応じて、酸素ガス等の反応性ガスを併用することができる。反応性ガスを併用する場合において、反応性ガスの流量比は特に限定しないが、スパッタガスおよび反応性ガスの合計流量比に対して、例えば、0.1流量%以上5流量%以下である。
スパッタリング時の気圧は、スパッタリングレートの低下抑制、放電安定性等の観点から、例えば、1Pa以下であり、好ましくは、0.7Pa以下である。
スパッタリング法に用いる電源は、例えば、DC電源、AC電源、MF電源およびRF電源のいずれであってもよく、また、これらの組み合わせであってもよい。
スパッタリング時の温度は特に限定されるものではないが、基材の耐熱性の観点から、120℃以下が好ましく、100℃以下がさらに好ましい。
【実施例
【0059】
以下に実施例及び比較例を示して本発明をさらに説明するが、本発明は、本実施例に限定されるものではない。本発明の透明導電性圧電積層フィルムにおける特性は、以下の方法により測定し、結果を表1に示した。
【0060】
〔表面抵抗〕
ロレスタGP((株)三菱化学アナリテック製)を用いて、JIS K 7194に準拠して各透明導電性圧電積層フィルムの表面抵抗を測定した。なお、実施例1及び2では第二の導電体層側から測定し、比較例1では導電体層側から測定した。
【0061】
〔全光線透過率〕
JIS K 7361-1に準じて、ヘイズメータ(「NDH7000SP II」、日本電色工業株式会社製)を用いて、各透明導電性圧電積層フィルムの全光線透過率を測定した。
【0062】
〔ヘイズ値〕
JIS K 7136に準じて、ヘイズメータ(「NDH7000SP II」、日本電色工業株式会社製)を用いて、各透明導電性圧電積層フィルムのヘイズ値を測定した。
【0063】
〔測色〕
各透明導電性圧電積層フィルムを分光色彩計(「SE7700」、日本電色工業株式会社製)を用いて、JIS Z 8722に準拠する方法により測定した。
【0064】
〔密着性〕
各透明導電性圧電積層フィルムの密着性についてクロスカット法を用いて評価した。各透明導電性圧電積層フィルムの導電体層において、1mm間隔のラインを縦横11本ずつカッターで引き、100個の碁盤目を作製した後、テープ(ニチバン株式会社製のセロテープ(登録商標)、粘着力4.01N/10mm)を貼って剥離することにより、圧電フィルムから剥離した導電体層の割合をASTM D3359に基づき、以下の評価基準で評価した。
0B:65%以上の剥離
1B:35%以上、65%未満の剥離
2B:15%以上、35%未満の剥離
3B:5%以上、15%未満の剥離
4B:5%未満の剥離
5B:剥離無し
【0065】
〔X線回折測定(XRD)〕
X線回折装置を用いて、回折角(2θ)=15.0~70.0°の範囲を走査速度1°/分で走査し、インプレーン法で測定した。測定条件の詳細を以下に示す。実施例1の測定結果を図3に示した。35°±2°の範囲に回折ピークを有する場合は○、有しない場合は×で示した。
【0066】
<測定条件>
装置:株式会社リガク製SmartLab
X線源:Cu-Kα(λ=1.5418Å) 40kV 30mA
検出器:SC-70
ステップ幅:0.04°
スキャン範囲:15.0~70.0°
スリット:入射スリット=0.2mm
長手制御スリット=10mm
受光スリット=20mm
【0067】
〔実施例1〕
インヘレント粘度が1.10dl/gであるポリフッ化ビニリデン((株)クレハ製)から成形された樹脂フィルム(幅350mm、長さ200m、厚さ120μm)を、延伸倍率が4.2倍になるように一軸延伸した。延伸後、フィルムを分極ロールに通して分極処理を行い、圧電フィルムを得た。その際、直流電圧は0kVから12.0kVへと増加させながら印加することで分極処理を行った。分極処理後のフィルムをさらに130℃で1分間熱処理することで、厚みが40μmの透明圧電フィルムを得た。
透明圧電フィルムの片面(第一主面)に、アクリル樹脂からなる非晶質シリカ(平均粒径80nm)含有紫外線硬化性樹脂組成物をバーコーターにて塗布し、80℃で2分間乾燥させた。乾燥させた塗膜に、窒素雰囲気下で400mJ/cmの積算光量のUVを照射した。さらに、もう一方の面にも同様の操作を行い、厚みが1.0μmの第一の透明コーティング層及び第二の透明コーティング層を両面に有するフィルムを得た。
第一の透明コーティング層上に、90質量%の酸化インジウム、10質量%の酸化スズを含有する焼結体材料をターゲットとして用いる反応性スパッタリング法により、厚み40nmの第一の導電体層を形成した。
第一の導電体層上に、Ag合金(Ag-Pd-Cu-Ge系)ターゲットを用いて反応性スパッタリング法により、厚み8nmの金属層を形成した。
金属層上に、90質量%の酸化インジウム、10質量%の酸化スズを含有する焼結体材料をターゲットとして用いる反応性スパッタリング法により、厚み40nmの第二の導電体層を形成した。
図2に示すような透明導電性圧電積層フィルム(第二の透明コーティング層/圧電フィルム/第一の透明コーティング層/第一の導電体層/金属層/第二の導電体層)を得た。
【0068】
〔実施例2〕
透明コーティング層の形成において、アクリル樹脂からなる非晶質シリカ含有紫外線硬化性樹脂組成物の代わりに、非晶質シリカを含有しないアクリル樹脂からなる紫外線硬化性樹脂組成物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、透明導電性圧電積層フィルム(第二の透明コーティング層/圧電フィルム/第一の透明コーティング層/第一の導電体層/金属層/第二の導電体層)を得た。
【0069】
〔比較例1〕
実施例1と同様にして、厚みが40μmの透明圧電フィルムを得た。
次に、透明圧電フィルム上に、90質量%の酸化インジウム、10質量%の酸化スズを含有する焼結体材料をターゲットとして用いる反応性スパッタリング法により、厚み40nmの導電体層を形成することにより、透明導電性圧電積層フィルム(圧電フィルム/導電体層)を得た。
【0070】
〔比較例2〕
実施例1と同様にして、厚みが40μmの透明圧電フィルムを得た。
透明圧電フィルムの片面(第一主面)に、アクリル樹脂からなる非晶質シリカ(平均粒径80nm)含有紫外線硬化性樹脂組成物をバーコーターにて塗布し、80℃で2分間乾燥させた。乾燥させた塗膜に、窒素雰囲気下で400mJ/cmの積算光量のUVを照射することで、厚みが1.0μmの透明コーティング層を有する圧電フィルムを得た。
次に、透明コーティング層上に、90質量%の酸化インジウム、10質量%の酸化スズを含有する焼結体材料をターゲットとして用いる反応性スパッタリング法により、厚み40nmの導電体層を形成することにより、透明導電性圧電積層フィルム(圧電フィルム/透明コーティング層/導電体層)を得た。
【0071】
【表1】
【0072】
表1に示される通り、実施例において、表面抵抗が低く、全光線透過率が高く、ヘイズ値が低く、明度が高かった。よって、本発明により、高い透明性と低抵抗を実現する透明導電性圧電積層フィルムが得られることが確認された。
【0073】
なお、金属層としてAg合金の代わりにCu又はAlを用いたこと以外は実施例1と同様にして得た比較例の場合、550nmにおける透過率はそれぞれ、72%、39%であった(実施例1:87%)。
また、金属層の厚みを5nm又は10nmにしたこと以外は実施例1と同様にして得た参考例の場合、550nmにおける透過率はそれぞれ、86%、85%であった(実施例1:87%)。
【符号の説明】
【0074】
1、2:透明導電性圧電積層フィルム、11:圧電フィルム、21:第一の透明コーティング層、22:第二の透明コーティング層、31:第一の導電体層、32:第二の導電体層、41:金属層
図1
図2
図3