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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】アルミニウム合金箔およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/00 20060101AFI20241008BHJP
   C22F 1/04 20060101ALI20241008BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20241008BHJP
【FI】
C22C21/00 M
C22F1/04 A
C22F1/00 606
C22F1/00 622
C22F1/00 630A
C22F1/00 630K
C22F1/00 604
C22F1/00 661C
C22F1/00 673
C22F1/00 683
C22F1/00 682
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686A
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 692A
C22F1/00 694A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023578004
(86)(22)【出願日】2023-10-02
(86)【国際出願番号】 JP2023035917
【審査請求日】2024-02-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】522160125
【氏名又は名称】MAアルミニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】捫垣 俊哉
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 貴史
(72)【発明者】
【氏名】安元 透
【審査官】河口 展明
(56)【参考文献】
【文献】特開2024-024624(JP,A)
【文献】国際公開第2022/224615(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/137394(WO,A1)
【文献】特開2021-066927(JP,A)
【文献】特開2019-014939(JP,A)
【文献】特開2022-103056(JP,A)
【文献】国際公開第2022/138620(WO,A1)
【文献】特開昭63-020103(JP,A)
【文献】特開2002-038234(JP,A)
【文献】特開2004-027353(JP,A)
【文献】特開2018-168450(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/00-21/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe:0.8質量%以上2.0質量%以下、Si:0.2質量%以下を含有し、残部Alと不可避不純物の組成を有するアルミニウム合金からなるアルミニウム合金箔であり、0.2%耐力が45MPa以上、伸びが15%以上であり、表面において各方位の面積率におけるCu方位の面積率とCube方位の面積率の比(Cu方位/Cube方位)が3以上であり、
表面において、方位差5°以上で囲まれた結晶粒の平均結晶粒径が3.5μm以下であり、
圧延方向に対し0°方向の引張試験において引張強さが98~111MPa、圧延方向に対し45°方向の引張試験において引張強さが86~101MPa、圧延方向に対し90°方向の引張試験において引張強さが90~110MPaであることを特徴とするアルミニウム合金箔。
【請求項2】
初期の表面粗さRaと引張試験におけるひずみ25%時点における表面粗さRa25の差である表面荒れ(Ra25-Ra)が0.30μm以下であることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム合金箔。
【請求項3】
表面において、EBSD法による結晶方位解析を行うことで取得される、同一視野内における結晶粒界長さの比が以下の(1)式を満足することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のアルミニウム合金箔。
方位差2゜以上15゜未満の結晶粒の結晶粒界長さ/方位差15゜以上の結晶粒の結晶粒界長さ>0.5…(1)式
【請求項4】
初期の表面粗さRa と引張試験におけるひずみ25%時点における表面粗さRa 25 の差である表面荒れ(Ra 25 -Ra )が0.17μm以上0.29μm以下であり、
表面において、EBSD法による結晶方位解析を行うことで取得される、同一視野内における結晶粒界長さの比が以下の式を満足することを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム合金箔。
0.52≦方位差2゜以上15゜未満の結晶粒の結晶粒界長さ/方位差15゜以上の結晶粒の結晶粒界長さ≧0.88
【請求項5】
Fe:0.8質量%以上2.0質量%以下、Si:0.2質量%以下を含有し、残部Alと不可避不純物の組成を有するアルミニウム合金からなるアルミニウム合金箔であり、0.2%耐力が45MPa以上、伸びが15%以上であり、表面において各方位の面積率におけるCu方位の面積率とCube方位の面積率の比(Cu方位/Cube方位)が3以であり、表面において、方位差5°以上で囲まれた結晶粒の平均結晶粒径が3.5μm以下であり、圧延方向に対し0°方向の引張試験において引張強さが98~111MPa、圧延方向に対し45°方向の引張試験において引張強さが86~101MPa、圧延方向に対し90°方向の引張試験において引張強さが90~110MPaであることを特徴とするアルミニウム合金箔の製造方法であり、
前記組成のアルミニウム合金の鋳塊に480~540℃で8時間以上加熱保持後冷却する均質化処理を施し、仕上り温度240℃以上300℃未満とする熱間圧延を施し圧延率98%以上の冷間圧延を施した後、中間焼鈍を施すことなく箔圧延し、220~350℃に30分~20時間加熱する最終焼鈍を施すことを特徴とするアルミニウム合金箔の製造方法。
【請求項6】
前記均質化処理を480~540℃で8時間以上16時間以下加熱保持後冷却する条件で行うことを特徴とする請求項に記載のアルミニウム合金箔の製造方法。
【請求項7】
前記アルミニウム合金箔について、初期の表面粗さRa と引張試験におけるひずみ25%時点における表面粗さRa 25 の差である表面荒れ(Ra 25 -Ra )を0.30μm以下とすることを特徴とする請求項5または請求項6に記載のアルミニウム合金箔の製造方法。
【請求項8】
前記アルミニウム合金箔の表面において、EBSD法による結晶方位解析を行うことで取得される、同一視野内における結晶粒界長さの比が以下の(1)式を満足させることを特徴とする請求項5または請求項6に記載のアルミニウム合金箔の製造方法。
方位差2゜以上15゜未満の結晶粒の結晶粒界長さ/方位差15゜以上の結晶粒の結晶粒界長さ>0.5…(1)式
【請求項9】
前記アルミニウム合金箔の表面において、EBSD法による結晶方位解析を行うことで取得される、同一視野内における結晶粒界長さの比が以下の(1)式を満足させることを特徴とする請求項7に記載のアルミニウム合金箔の製造方法。
方位差2゜以上15゜未満の結晶粒の結晶粒界長さ/方位差15゜以上の結晶粒の結晶粒界長さ>0.5…(1)式
【請求項10】
前記アルミニウム合金箔について、初期の表面粗さRa と引張試験におけるひずみ25%時点における表面粗さRa 25 の差である表面荒れ(Ra 25 -Ra )を0.17μm以上0.29μm以下とし、
表面において、EBSD法による結晶方位解析を行うことで取得される、同一視野内における結晶粒界長さの比が以下の式を満足させることを特徴とする請求項5に記載のアルミニウム合金箔の製造方法。
0.52≦方位差2゜以上15゜未満の結晶粒の結晶粒界長さ/方位差15゜以上の結晶粒の結晶粒界長さ≧0.88
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金箔およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品やリチウムイオン電池等の包材に用いられるアルミニウム合金箔は、プレス成形等によって大きな変形が加えられて成形されるため、高い伸びを有していることが求められる。
【0003】
例えば以下の特許文献1には、成形加工性に優れたアルミニウム箔の製造方法として、Feを0.7~2.0%含有したアルミニウム合金からなる箔の製造方法が開示されている。特許文献1に記載の技術では、熱間圧延後、冷間圧延の工程中において中間焼鈍を行わずに箔製品まで97%以上の加工率で強加工し、300~450℃で仕上げ焼鈍を施す技術について記載されている。
また、以下の特許文献2には、Feを0.7~1.4質量%含有したアルミニウム合金箔において、傾角が5゜を超える結晶粒の平均結晶粒径が3.5μm以下であるアルミニウム合金軟質箔が記載されている。特許文献2に記載の技術では、鋳塊に400~500℃で均質化処理した後、熱間圧延終了温度を300℃以上として熱間圧延後、中間焼鈍を施すことなく冷間圧延し、220~275℃で最終焼鈍することにより、優れた強度を示す軟質箔を製造する技術について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平2-080541号公報
【文献】特開2017-160509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この種の包材用アルミニウム合金箔を製造する場合、必要な組成の合金溶湯から、鋳造により鋳塊を得、鋳塊に均質化処理を施した後、熱間圧延と冷間圧延を施し、最終焼鈍を施すことで目的の機械特性を有する包材を得ている。
このような工程を経て製造される包材について、前述の背景に鑑み、本発明者は電池用外装箔などの包材として好適なアルミニウム合金箔について、研究開発を行っている。
【0006】
この研究に基づき、本発明者は、高い成形性を有するアルミニウム合金箔を得るためには、変形時の表面の肌荒れを抑制できることが重要と考えている。
また、包材用アルミニウム合金箔について本発明者が研究した結果、変形時の表面の肌荒れに関し、包材の結晶粒組織において、Cu方位の面積率とCube方位の面積率の比が重要であることを知見した。
【0007】
そこで本発明者は、包材用アルミニウム合金箔について製造方法の見直しと結晶組織の検討を行うことで、生産性を向上できるとともに成形性に優れるアルミニウム合金箔の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
「1」本形態のアルミニウム合金箔は、Fe:0.8質量%以上2.0質量%以下、Si:0.2質量%以下を含有し、残部Alと不可避不純物の組成を有するアルミニウム合金からなるアルミニウム合金箔であり、0.2%耐力が45MPa以上、伸びが15%以上であり、表面において各方位の面積率におけるCu方位の面積率とCube方位の面積率の比(Cu方位/Cube方位)が3以上であり、表面において、方位差5°以上で囲まれた結晶粒の平均結晶粒径が3.5μm以下であり、圧延方向に対し0°方向の引張試験において引張強さが98~111MPa、圧延方向に対し45°方向の引張試験において引張強さが86~101MPa、圧延方向に対し90°方向の引張試験において引張強さが90~110MPaであることを特徴とする。
【0009】
「2」本形態の「1」に記載のアルミニウム合金箔において、初期の表面粗さRaと引張試験におけるひずみ25%時点における表面粗さRa25の差である表面荒れ(Ra25-Ra)が0.30μm以下であることが好ましい。
「3」本形態のアルミニウム合金箔は、「1」または「2」に記載のアルミニウム合金箔の表面において、EBSD法による結晶方位解析を行うことで取得される、同一視野内における結晶粒界長さの比が以下の(1)式を満足することが好ましい。
方位差2゜以上15゜未満の結晶粒の結晶粒界長さ/方位差15゜以上の結晶粒の結晶粒界長さ>0.5…(1)式
「4」本形態の「1」に記載のアルミニウム合金箔において、初期の表面粗さRa と引張試験におけるひずみ25%時点における表面粗さRa 25 の差である表面荒れ(Ra 25 -Ra )が0.17μm以上0.29μm以下であり、表面において、EBSD法による結晶方位解析を行うことで取得される、同一視野内における結晶粒界長さの比が以下の式を満足することが好ましい。
0.52≦方位差2゜以上15゜未満の結晶粒の結晶粒界長さ/方位差15゜以上の結晶粒の結晶粒界長さ≧0.88
【0011】
」本形態に係るアルミニウム合金箔の製造方法は、Fe:0.8質量%以上2.0質量%以下、Si:0.2質量%以下を含有し、残部Alと不可避不純物の組成を有するアルミニウム合金からなるアルミニウム合金箔であり、0.2%耐力が45MPa以上、伸びが15%以上であり、表面において各方位の面積率におけるCu方位の面積率とCube方位の面積率の比(Cu方位/Cube方位)が3上であり、表面において、方位差5°以上で囲まれた結晶粒の平均結晶粒径が3.5μm以下であり、圧延方向に対し0°方向の引張試験において引張強さが98~111MPa、圧延方向に対し45°方向の引張試験において引張強さが86~101MPa、圧延方向に対し90°方向の引張試験において引張強さが90~110MPaであることを特徴とするアルミニウム合金箔の製造方法であり、前記組成のアルミニウム合金の鋳塊に480~540℃で8時間以上加熱保持後冷却する均質化処理を施し、仕上り温度240℃以上300℃未満とする熱間圧延を施し圧延率98%以上の冷間圧延を施した後、中間焼鈍を施すことなく箔圧延し、220~350℃に30分~20時間加熱する最終焼鈍を施すことを特徴とする。
「6」本形態に係る「5」に記載のアルミニウム合金箔の製造方法において、前記均質化処理を480~540℃で8時間以上16時間以下加熱保持後冷却する条件で行うことが好ましい。
「7」本形態に係る「5」または「6」に記載のアルミニウム合金箔の製造方法において、初期の表面粗さRa と引張試験におけるひずみ25%時点における表面粗さRa 25 の差である表面荒れ(Ra 25 -Ra )を0.30μm以下とすることが好ましい。
「8」本形態に係る「5」または「6」に記載のアルミニウム合金箔の製造方法において、表面において、EBSD法による結晶方位解析を行うことで取得される、同一視野内における結晶粒界長さの比が以下の(1)式を満足することが好ましい。
方位差2゜以上15゜未満の結晶粒の結晶粒界長さ/方位差15゜以上の結晶粒の結晶粒界長さ>0.5…(1)式
「9」本形態に係る「7」に記載のアルミニウム合金箔の製造方法において、表面において、EBSD法による結晶方位解析を行うことで取得される、同一視野内における結晶粒界長さの比が以下の(1)式を満足することが好ましい。
方位差2゜以上15゜未満の結晶粒の結晶粒界長さ/方位差15゜以上の結晶粒の結晶粒界長さ>0.5…(1)式
「10」本形態に係る「5」に記載のアルミニウム合金箔の製造方法において、前記アルミニウム合金箔について、初期の表面粗さRa と引張試験におけるひずみ25%時点における表面粗さRa 25 の差である表面荒れ(Ra 25 -Ra )を0.17μm以上0.29μm以下とし、表面において、EBSD法による結晶方位解析を行うことで取得される、同一視野内における結晶粒界長さの比が以下の式を満足させることが好ましい。
0.52≦方位差2゜以上15゜未満の結晶粒の結晶粒界長さ/方位差15゜以上の結晶粒の結晶粒界長さ≧0.88
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るアルミニウム合金箔によれば、高い成形性を有するアルミニウム合金箔を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係るアルミニウム合金箔の第1実施形態を示す平面図である。
図2】本発明の実施例において限界成形高さ試験で用いる角型ポンチの平面形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面に基づき、本発明の実施形態の一例について詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合がある。
【0015】
図1は、本発明に係るアルミニウム合金箔の一実施形態を示す平面図である。
図1に示すアルミニウム合金箔1は、鋳造法により得られた鋳塊に熱間圧延と冷間圧延と箔圧延を経て得られた箔であり、図1では一定幅を有し長さ方向を左右に向けた帯状体として描かれている。
このアルミニウム合金箔1の圧延方向は図1に示す左右方向(帯状の箔の長さ方向)であり、便宜的に圧延方向に対し0°の方向は図1の左右方向を意味し、圧延方向に対し45°方向とは図1に示す45°と記載した矢印方向を意味し、圧延方向に対し90°方向とは図1に示す90°と記載した矢印方向を意味する。アルミニウム合金箔1において圧延方向に対し90°方向とは、換言すると帯状のアルミニウム合金箔1の幅方向(図1の紙面上下方向)を意味する。
【0016】
図1に示すアルミニウム合金箔1は、例えば、0.01mm~0.2mm程度の厚さに形成されている。アルミニウム合金箔1の厚さは箔として用いる一般的な厚さで差し支えない。例えば、0.04mm(40μm)程度の厚さに形成される。なお、本明細書において上限と下限を記載して範囲を示すために「~」を用いた場合、特に明記しない限り上限と下限を含む範囲とする。従って、0.01mm~0.2mmは0.01mm以上0.2mm以下を意味する。
このアルミニウム合金箔1は、一例として、Fe:0.8質量%以上2.0質量%以下、Si:0.2質量%以下を含有し、残部Alと不可避不純物の組成を有するアルミニウム合金からなる。
【0017】
このアルミニウム合金箔1は、一例として、圧延方向に対し45°方向の引張試験において最大引張強さが85MPa以上、0.2%耐力が45MPa以上、伸びが15%以上であり、表面において各方位の面積率におけるCu方位の面積率とCube方位の面積率の比(Cu方位/Cube方位)が3以上である。
アルミニウム合金箔1において、方位差5゜以上で囲まれた平均結晶粒径が4μm以下であることが好ましい。アルミニウム合金箔1において、初期の表面粗さRaと引張試験におけるひずみ25%時点における表面粗さRa25の差である表面荒れ(Ra25-Ra)が0.30μm以下であることが好ましい。表面荒れ測定の詳細については、後述する実施例において説明する。
【0018】
また、アルミニウム合金箔1において、EBSD法による結晶方位解析を行うことで取得される、同一視野内における結晶粒界長さの比が以下の(1)式を満足することが好ましい。
方位差2゜以上15゜未満の結晶粒の結晶粒界長さ/方位差15゜以上の結晶粒の結晶粒界長さ>0.5…(1)式
更に、アルミニウム合金箔1は、圧延方向に対し0°方向の伸び、90°方向の伸びがいずれも10%以上であることが好ましい。
【0019】
以下、アルミニウム合金箔1を構成するアルミニウム合金の組成限定理由と特性限定理由、組織限定理由について説明する。
・Fe:0.8質量%以上2.0質量%以下
Feは、鋳造時にAl-Fe系金属間化合物として晶出し、それら化合物のサイズが適している場合は、焼鈍時に再結晶のサイトとなって再結晶粒を微細化する効果がある。
Fe含有量を0.8質量%未満にすると金属間化合物の分布密度が低くなり、結晶粒の微細化効果が低くなり、最終的な再結晶粒が粗大となり、方位差2゜以上15゜未満の結晶粒の粒界密度が低くなる。Fe含有量が2.0質量%を超えると結晶粒微細化の効果が飽和もしくは低下し、さらに鋳造時に生成されるAl-Fe系金属間化合物のサイズが非常に大きくなり、箔の伸びや成形性、生産性が低下する。Fe含有量において特に好ましい範囲は、1.2質量%以上、1.8質量%以下である。
・Si:0.20質量%以下
SiはFeと共に金属間化合物を形成するが、過剰に添加した場合には化合物のサイズの粗大化、及び分布密度の低下を招く。含有量が上限を超えると、粗大な晶出物による伸びや成形性の低下、さらには最終焼鈍後の再結晶粒サイズ分布の均一性が低下する懸念がある。これらの理由からSiの含有量を0.20質量%以下に定める。なお、同様の理由により、Si含有量の上限を0.04質量%とするのがより好ましい。
【0020】
本発明に係るアルミニウム合金箔を構成する成分の残部は、Alと不可避不純物からなる。この不可避不純物とは、アルミニウム合金箔の製造時に不可避的に混入した元素をいう。この不可避不純物は、本発明のアルミニウム合金箔の特性に影響を与えない範囲で含んでもよい。この不可避不純物としては、例えば、マグネシウム(Mg)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、ガリウム(Ga)、ニッケル(Ni)、ホウ素(B)、ジルコニウム(Zr)等の元素があげられ、これらのうち、1種又は2種以上を各々500質量ppm以下含んでいてもよい。
【0021】
・「圧延方向に対し45°方向の引張試験において最大引張強さが85MPa以上、0.2%耐力が45MPa以上、伸びが15%以上」
包材に用いられるアルミニウム合金箔は、プレス成形によって3次元的な変形が加えられる。そのため、圧延方向のみではなく、種々の方向に対する良好な機械的性質を有することが求められる。
特にプレス成形時においては圧延方向に対し45°方向における機械的性質が重要であることを本発明者らは見出した。最大引張強さと0.2%耐力については成形時の形状維持および成形後の強度を確保するため、最大引張強さは85MPa以上、0.2%耐力は45MPaとすることが好ましい。特に上限は限定するものではないが、最大引張強さと0.2%耐力が高すぎると成形時の取り扱いが困難となるため、より好ましくは、最大引張強さは130MPa以下、0.2%耐力は85MPa以下とする。伸びは成形性と最も相関があり、本製品においては特に45°方向の伸び値が高いと成形性が良好であることが確認されている。圧延方向に対し45゜方向の伸びが15%以上であることが好ましく、20%以上であることが最も好ましい。
【0022】
「方位面積率」
アルミニウム合金箔1において、Cu方位とCube方位の面積率の比(Cu方位面積率/Cube方位面積率)は3以上であることが好ましい。(Cu方位面積率/Cube方位面積率)は、例えば5.0以上31以下とすることができる。
箔表面を電解研磨した後、SEM(Scanning Electron Microscope)-EBSDにて結晶方位解析し、各方位の面積率を算出することができる。解析にはTSL Solutions社のOIM Analysisを使用することができる。理想方位からのズレは15°までとする。得られた面積率からCu方位とCube方位の面積率の比(Cu方位面積率/Cube方位面積率)を算出できる。各方位の理想方位について下記に示す。方位面積率を算出する方法の詳細は実施例において詳述する。
本実施形態のアルミニウム合金箔では、結晶方位を同一方向に揃えることで表面荒れを抑制し、成形性を向上させることができる。本実施形態の合金箔では特にCu方位とCube方位が主な結晶方位となり、この中でもCu方位へ揃えることが重要であることを本発明者らは見出した。また、Cu方位の割合が増加してもCube方位が多く存在していると表面の荒れを生じやすくなり、成形性を悪化させる要因となる。
そのため、Cu方位とCube方位の面積率の比により指標化することとした。検討の結果、Cu方位とCube方位の面積率の比(Cu方位面積率/Cube方位面積率)は3以上とすることが好ましいことが確認された。より好ましくは5以上とする。3未満となる場合、結晶粒が微細であってもアルミニウム合金箔表面の肌荒れを生じ易くなり、限界成形高さが低くなるなど、成形性の低下をもたらす。
Cu方位 {112}<111>
Cube方位 {001}<100>
この理想方位については、等価な方位も全て含む方位として表記している。
【0023】
本実施形態のアルミニウム合金箔を塑性変形させると、材料表面に表面荒れ(凹凸)が生じる。表面荒れは厚みの不均一さと捉えられ、抑制することで限界成形高さの低下を防ぐことが可能となる。
包材に使用される際の3次元的な変形に対して、塑性変形前の初期における表面粗さRaと引張試験におけるひずみ25%時点における表面粗さRa25の差である表面荒れ(Ra25-Ra)が重要であると発明者らは見出した。表面荒れ(Ra25-Ra)は0.30μm以下が好ましく、より好ましくは0.25μm以下である。表面荒れ(Ra25-Ra)が0.30μmを超えると、限界成形高さが低下する。
【0024】
・「方位差5°以上で囲まれた結晶粒の平均結晶粒径が4.0μm以下」
軟質アルミニウム箔は結晶粒が微細になることで、変形した際の箔表面の肌荒れを抑制することができ、高い伸びとそれに伴う高い成形性を期待できる。この表面荒れの影響を及ぼす因子の一つとして結晶粒径が挙げられる。高い伸び特性やそれに伴う高成形性を実現するには方位差5°以上の粒界に囲まれた結晶粒について、平均結晶粒径が4.0μm以下であることが望ましい。本発明者らは、平均結晶粒径が4.0μmを超えた場合には、成形時の表面荒れが顕著になる事も見出しており、表面荒れの抑制に対しても結晶粒組織の制御は重要である。
なお、アルミニウム合金箔1において、平均結晶粒径は4.0μm以下が好ましく、3.5μm以下がより好ましい。電子線後方散乱回折(EBSD:Electron BackScatter Diffraction)において、単位面積あたりの結晶方位解析により、方位差5°以上の結晶粒を描いた場合の粒界マップを得ることが出来る。平均結晶粒径の算出方法の詳細は実施例において記載する。
【0025】
方位差2゜以上15゜未満の結晶粒の結晶粒界長さ(LAGB)/方位差15゜以上の結晶粒の結晶粒界長さ(HAGB)>0.5
アルミニウム合金箔表面の肌荒れを抑制するためには、アルミニウム合金箔の表面において、方位差2゜以上15゜未満の結晶粒の密度が高く存在していることが重要と考えられる。よって、方位差2゜以上15゜未満の結晶粒の結晶粒界長さ(LAGB)/方位差15゜以上の結晶粒の結晶粒界長さ(HAGB)>0.5の関係を(1)式として、この(1)式の関係を満足することが好ましい。
方位差2゜以上15゜未満の結晶粒の結晶粒界長さ/方位差15゜以上の結晶粒の結晶粒界長さ≦0.5の関係となる場合、箔表面の肌荒れを生じ、限界成形高さが低くなるなど、成形性の低下をもたらす。より好ましくは方位差2゜以上15゜未満の結晶粒の結晶粒界長さ(LAGB)/方位差15゜以上の結晶粒の結晶粒界長さ(HAGB)>0.6である。
【0026】
「アルミニウム合金箔の製造方法」
図1に示すアルミニウム合金箔1を製造するには、上述の組成を満足するアルミニウム合金溶湯を作製し、このアルミニウム合金溶湯を用いる鋳造法によりアルミニウム合金鋳塊を得る。次に、このアルミニウム合金鋳塊に対し均質化処理を施し、熱間圧延と冷間圧延と箔圧延により目的の厚さに加工し、最終焼鈍することでアルミニウム合金箔1を得ることができる。
【0027】
・均質化処理:480~540℃で6時間以上保持
得られた鋳塊に対しては、480~540℃で6時間以上保持する均質化処理を行うのが望ましい。480℃未満ではFe析出が少なく、また金属間化合物の成長が不十分となる。一方、540℃を超えると金属間化合物の成長が著しく、粒子径0.1μm以上1μm未満の微細な金属間化合物の密度が大きく低下してしまう。このため、例えば、500~540℃の温度範囲を選択することがより好ましい。
このような500℃付近の均質化処理において微細な金属間化合物を高密度に析出させるには長時間の熱処理が必要であり、最低6時間以上は確保する必要がある。6時間未満では析出が十分でなく、微細な金属間化合物の密度が低下するおそれがある。均質化処理時間の上限は特に定めないが、生産コストの観点から、16時間以内が望ましい。
【0028】
・熱間圧延:仕上がり温度240℃以上300℃未満
熱間圧延においては、仕上がり温度を300℃未満とし、再結晶を抑制することが望ましい。熱間圧延仕上がり温度を300℃未満とする事で、熱間圧延板は均一なファイバー組織となる。熱間圧延仕上がり温度が300℃以上では熱間圧延板の一部で再結晶を生じ、ファイバー組織と再結晶組織が混在する組織になり、最終焼鈍時において再結晶粒径が不均一化するおそれがある。240℃未満で熱間圧延を仕上げるには、熱間圧延中の温度も極めて低温となる為、圧延板のサイドにクラックが発生し易くなり、生産性が大幅に低下する懸念がある。従って、熱間圧延の仕上がり温度は、240℃以上300℃未満の範囲であることが好ましい。
仕上がり板厚については特に限定はされないが、最終冷間圧延率を低くするために、3.0mm以上にすることが好ましい。
【0029】
・最終冷間圧延率:98%以上
熱間圧延後から最終箔厚みまでの冷間圧延率が高い程、材料に蓄積されるひずみ量が多くなり、最終焼鈍後の再結晶粒が微細化される。
必要な加工率で冷間圧延を必要回数行い、箔圧延を行うことで厚さ10μm~0.2mm程度、例えば厚さ40μmのアルミニウム合金箔1を得ることができる。
冷間圧延を必要回数行う場合、中間焼鈍を施すことなく最終の箔圧延を行い、最終焼鈍を施すことが好ましい。
また、冷間圧延後に最終焼鈍を行うにあたり最終焼鈍条件は、220℃~350℃に30分~20時間程度加熱後、徐冷する条件とすることが望ましい。
【0030】
得られたアルミニウム合金箔1において、Feを所定量含んでいるが、Feはアルミニウム合金の集合組織に影響して結晶粒径の微細化に寄与する。Feを0.8~2.0質量%含有しているアルミニウム合金であるが、冷間圧延の最終段階に中間焼鈍を施すことなく最終冷間圧延としての箔圧延を行い、最終焼鈍することで上述の範囲のFe含有量としても、良好な伸びを有することとなる。
なお、ここで用いるアルミニウム合金には、Feに加えてSiを0.2質量%以下程度含んでいても良い。本実施形態のアルミニウム合金箔1においてSiを上述の範囲含んでいても目的を達成できるアルミニウム合金箔が得られる。
【0031】
以上説明の製造方法により、圧延方向に対し45°方向の引張試験において最大引張強さが85MPa以上、0.2%耐力が45MPa以上、伸びが15%以上であり、表面において各方位の面積率におけるCu方位の面積率とCube方位の面積率の比(Cu方位/Cube方位)が3以上であるアルミニウム合金箔1を得ることができる。
以上説明のアルミニウム合金箔1であるならば、食品包装用、あるいは、リチウムイオン電池の成形包材用として好適であり、プレス成形によって大きな変形を施す用途、高い伸び、成形性が要求される用途に好適なアルミニウム合金箔を提供できる。また、冷間圧延後に中間焼鈍を施すことなく生産できるので、生産性に優れたアルミニウム合金箔1を得ることができる。
【実施例
【0032】
表1、表2に示す組成(残部がAlとその他不可避不純物)を有するアルミニウム合金の鋳塊を半連続鋳造法により作製した。その後、得られた鋳塊に対し、表1、表2に示す製造条件(均質化処理の条件、熱間圧延仕上り温度、熱間圧延の仕上り厚み、冷間圧延の仕上がり箔厚み)により、均質化処理、熱間圧延、冷間圧延、最終焼鈍を行い、アルミニウム合金箔を製造した。
最終焼鈍の条件は300℃×20時間とした。アルミニウム合金箔の最終厚さは表1、表2に示す厚さ(箔厚)とした。中間焼鈍を実施した試料については、中間焼鈍を360℃×3時間の条件で実施した。表1、表2では中間焼鈍を施していない例は中間焼鈍の欄に×を表示し、中間焼鈍を施した例は○を記載している。
【0033】
【表1】
【0034】
【表2】
【0035】
得られたアルミニウム合金箔に対し、以下の測定および評価を行った。
・引張強度(MPa)、伸び(%)
いずれも引張試験にて測定した。引張試験は、JIS Z2241に準拠し、圧延方向に対して45゜方向の伸びを測定できるように、JIS5号試験片をアルミニウム合金箔の試料から打ち抜き加工(株式会社 ダンベル製 スーパーダンベル(登録商標)使用)にて採取し、万能引張試験機(島津製作所社製 AGS-X 10kN)で引張り速度2mm/minにて引張試験を行った。
伸び率の算出について以下の通りである。まず、試験前に試験片長手中央に試験片垂直方向に2本の線を標点距離である50mm間隔でマークする。試験後にアルミニウム合金箔の破断面をつき合わせてマーク間距離を測定し、そこから標点距離(50mm)を引いた伸び量(mm)を、標点間距離(50mm)で除して伸び率(%)を求めた。
【0036】
・方位面積率
結晶方位解析に先立ち、箔表面を電解研磨にて鏡面加工した。電解研磨には過塩素酸:エタノール=1:4(体積比)の溶液を用い、電圧20Vで5秒処理する条件とした。
箔表面を電解研磨した後、SEM(Scanning Electron Microscope)-EBSDにて結晶方位解析し、各方位の面積率を算出した。SEMはFE-SEM(日本電子製 JSM-7900F)を使用し、解析にはTSL Solutions社のOIM Analysis(Ver.8.0)を使用した。理想方位からのズレは15°までとしている。
【0037】
測定条件は、観察倍率:900倍、加速電圧:15kV、試料傾斜角度:70°、Step Size:0.3μmとしている。
観察面積は、900倍で測定した画像を連結させて合計面積50000μm以上とした。CI値(Confidence Index)は0.1以下を排除し、Minimum Grain Size[points]:2、Anti Grains:2を採用した。
【0038】
(方位解析)
各方位の面積率の算出は、Crystal Orientation機能を用いて実施した。Toleranceは15°未満として、各方位のOrientation Euler AnglesとOrientation{hk(i)l}<uv(t)w>は以下の表3のように規定し、面積率を得た。得られた面積率から(Cu方位面積率/Cube方位面積率)を計算して面積率の比を算出した。
【0039】
【表3】
【0040】
・表面荒れ
本実施例において塑性加工は引張試験にて行った。引張試験は前項の伸び率測定同様、JIS5号試験片を用い、前記万能引張試験機にて引張ひずみを付与することで実施した。
供試材の表面粗さ測定はJIS B0601:2001に基づいて実施した。実際の測定は、共焦点レーザー顕微鏡(キーエンス社,VK-X100)によって行い、解析アプリケーション(キーエンス社,VK-H1XA)を用いて分析した。観察倍率×500で視野サイズ1000×500μmとし、測定箇所は前記JIS5号試験片の幅手と長手の中央部である。
レーザー顕微鏡によってスキャンしたデータに対し、ノイズ除去、傾き補正処理を施し表面粗さを測定した。ノイズ除去はノイズ検出レベルを[通常]とし、傾き補正は補正方法を[面傾き補正(プロファイル)]を選択した。表面粗さのパラメータは面粗さの算術平均粗さを用い、JIS B0601:2001に基づいて算出した。
まず、試験前の試験片の表面性状を共焦点レーザー顕微鏡にて観察して、これをRとする。その後、引張試験を行う。塑性変形中のひずみ25%の時点で試験を途中停止し、塑性変形後の試験片における試験前と同一の箇所において表面性状観察(表面粗さ測定)を再び行い、これをR25とする。上記手順で測定した同一試験片においてRとR25を用いて(R25―R)の値を算出する。同一水準についてn=5以上行い、最大及び最小を除いた中での平均値を表面荒れの算出値とした。
【0041】
・平均結晶粒径
箔表面を電解研磨した後、SEM-EBSDにて結晶方位解析を行い、傾角が5°を超える粒界で囲まれた結晶粒を以下の条件の基でNumber法(数平均結晶粒径)にて解析し、平均結晶粒径を算出した。解析条件の詳細は、以下の通りである。
Grain Tolerance Angle:5°
Minimum Grain Size[points]:2 Anti Grains:2
Minimum Confidence Index:0
Multiple rows required:全てOFF
Apply partition before calculation:OFF
Include grains at edges of scan in statistics:OFF
Number法による平均結晶粒径は、測定領域を結晶粒の個数で割ることで算出された面積を円に仮定した時の直径である。測定条件は、上述した方位面積率の場合と同様に、観察倍率:900倍、合計面積50000μmとした
【0042】
・LAGB長/HAGB長
箔表面を電解研磨した後、SEM-EBSDにて結晶方位解析を行い、結晶粒間の方位差が15°以上の大角粒界(HAGB)と、方位差2°以上15°未満の小角粒界(LAGB)を観察した。倍率×900で視野サイズ45×90μmを3視野測定し、視野内のHAGBとLAGBの長さを求め、比を算出した。測定条件は、上述した方位面積率の場合と同様に、観察倍率:900倍、合計面積50000μmとした。
EBSDでは、Grain-MAPにおいてBoundariesを規定することで、任意の方位差を持つ粒界について解析を実施することが出来る。なお、方位差2°未満の粒界についてはノイズを含む可能性があるため、排除して計算を行った。本願では方位差2゜以上15°未満(=LAGB)はmin:2°-max:15°とし、方位差15°以上(=HAGB)はmin:15°(-max:90°)と規定して解析を実施し、解析によって得た粒界長さを用いてLAGB/HAGBを算出した。
【0043】
・限界成形高さ
成形高さは角筒成形試験にて評価した。試験は万能薄板成形試験器(ERICHSEN社製 モデル142/20)にて行い、厚さ40μmのアルミ箔を図2に示す形状を有する角型ポンチ(一辺の長さD=37mm、角部の面取り径R=4.5mm)2を用いて行った。試験条件として、シワ抑え力は10kN、ポンチの上昇速度(成形速度)の目盛は1とし、そして箔の片面(ポンチが当たる面)に鉱物油を潤滑剤として塗布した。
アルミニウム合金箔に対し装置の下部から上昇するポンチが当たり、箔が成形されるが、3回連続成形した際に割れやピンホールがなく成形できた最大のポンチの上昇高さをそのアルミニウム合金箔の限界成形高さ(mm)と規定した。ポンチの高さは0.1mm間隔で変化させた。
本実施例においては、成形高さ11.0mm以上の試料を優秀品として符号Aで示し、成形高さ10.0mm以上11.0mm未満の試料を合格品として符号Bで示し、10.0mm未満の試料は不合格品として符号Cで示した。
【0044】
先の表1、表2に示す合金組成と表1、表2に示す製造条件のいずれかを採用し、No.1~22の実施例、No.23~31の比較例を作成した。実施例はいずれも前述した望ましい組成あるいは製造条件を満たす例である。比較例はいずれも前述した望ましい組成あるいは製造条件のいずれかを満たしていない例である。
No.1~31の試料について、0°、45゜、90°方向の引張強度(MPa)を表1、表2に示した。さらに、0°、45゜、90°方向の耐力(MPa)と、0°、45゜、90゜方向の伸び(%)と、Cu方位面積率、Cube方位面積率、及び面積率比(Cu方位面積率/Cube方位面積率)の値と、平均結晶粒径(μm)、表面荒れ(ΔRa25-ΔRa:μm)、(LAGBの長さ/HAGBの長さ)の値、限界成形高さ(mm)を求めた。それらの測定結果と評価を表4、表5に記載した。
【0045】
【表4】
【0046】
【表5】
【0047】
表1、表2、表4、表5に示す結果が示すように、Fe:0.8質量%以上2.0質量%以下、Si:0.2質量%以下を含有し、残部Alと不可避不純物の組成を有するアルミニウム合金からなるアルミニウム合金箔であり、圧延方向に対し45°方向の引張試験において最大引張強さが85MPa以上、0.2%耐力が45MPa以上、伸びが15%以上であり、表面において各方位の面積率におけるCu方位の面積率とCube方位の面積率の比(Cu/Cube)が3以上であるNo.1~22の試料(実施例)は、表面荒れが小さく、限界成形高さに優れていた。
また、これら実施例の試料は、平均結晶粒径が4μm以下であり、充分に小さい。更に、これら実施例の試料は、表面荒れ(Ra25-Ra)が0.30μm以下であり、充分小さい。
【0048】
実施例試料のFe含有量は0.82%以上1.96%以下であり、Si含有量は0.03%以上0.19%以下である。実施例試料の箔厚は25μm以上80μm以下である。実施例試料において圧延方向に対し45゜方向の引張試験による最大引張強さは、86MPa以上101MPa以下である。実施例試料において圧延方向に対する45゜方向の0.2%耐力は、48MPa以上74MPa以下である。実施例試料においてCu方位/Cube方位の値は、5.8以上30.8以下である。実施例試料において平均結晶粒径は、2.53μm以上3.42μm以下である。実施例試料において表面荒れは、0.17以上μm以上0.29μm以下である。実施例試料においてLAGB/HAGBの値は、0.52以上0.88以下である。実施例試料において限界成形高さは、10.1mm以上12.5mmである。
【0049】
これら実施例に対し、No.23、24の試料は、Fe含有量が上述の範囲を外れた試料であるが、実施例試料より同じ方向の比較で引張強度が小さく、耐力が小さく、伸びも低くなった。また、表面荒れが大きく、限界成形高さも低い傾向となった。
No.25、26の試料は、Si含有量が上述の範囲を外れた試料であるが、実施例試料より同じ方向の比較で引張強度が小さく、耐力が小さく、伸びも低くなった。また、限界成形高さが低くなった。
No. 27、28、29の試料は、中間焼鈍を実施した試料であるが、実施例試料より同じ方向の比較で引張強度が小さく、耐力が小さく、伸びも低くなった。また、これらNo.27~29の試料は実施例試料に比較し、平均結晶粒径が大きく、表面荒れも大きく、(LAGB/HAGB)の値が小さく、限界成形高さが低くなった。
【0050】
No. 30の試料は、均質化処理温度を望ましい範囲より高くした試料であるが、耐力が低く、平均結晶粒径が実施例試料より若干大きく、表面荒れが若干大きく、限界成形高さが悪化した。
No. 31の試料は、均質化処理温度を望ましい範囲より低くした試料であるが、平均結晶粒径が実施例試料より若干大きく、表面荒れが若干大きく、実施例試料より限界成形高さが悪化した。
【符号の説明】
【0051】
1…アルミニウム合金箔、2…ポンチ。
【要約】
本発明に係るアルミニウム合金箔は、Fe:0.8質量%以上2.0質量%以下、Si:0.2質量%以下を含有し、残部Alと不可避不純物の組成を有するアルミニウム合金からなるアルミニウム合金箔であり、圧延方向に対し45°方向の引張試験において最大引張強さが85MPa以上、0.2%耐力が45MPa以上、伸びが15%以上であり、表面において各方位の面積率におけるCu方位の面積率とCube方位の面積率の比(Cu方位/Cube方位)が3以上であることを特徴とする。
図1
図2