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特許7568891混合インク及びその製造方法、並びに、混合インクの焼結方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-08
(45)【発行日】2024-10-17
(54)【発明の名称】混合インク及びその製造方法、並びに、混合インクの焼結方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/52 20140101AFI20241009BHJP
   H01B 1/22 20060101ALI20241009BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20241009BHJP
【FI】
C09D11/52
H01B1/22 A
H01B13/00 503Z
H01B13/00 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020180857
(22)【出願日】2020-10-28
(65)【公開番号】P2022071739
(43)【公開日】2022-05-16
【審査請求日】2023-08-08
(73)【特許権者】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 英也
(72)【発明者】
【氏名】友利 大介
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-164649(JP,A)
【文献】特開2013-108140(JP,A)
【文献】特開2014-182913(JP,A)
【文献】特開2016-098398(JP,A)
【文献】特開2012-131894(JP,A)
【文献】特開2012-131895(JP,A)
【文献】特開2014-210847(JP,A)
【文献】特開2014-051569(JP,A)
【文献】特開2013-108005(JP,A)
【文献】特開2007-224420(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0212562(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0056426(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0253758(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/52
H01B 1/22
H01B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅微粒子、及び、アミノ基を含有する配位子を有するギ酸ニッケル錯体を含む、混合インク。
【請求項2】
前記アミノ基を含有する配位子は、下記式(1)又は(2)で示される基を有する、請求項1に記載の混合インク。
【化1】
(式(1)及び(2)中、*は結合手を示す。)
【請求項3】
前記アミノ基を含有する配位子は、下記式(6)で示される配位子である、請求項1に記載の混合インク。
[化2]
N(CNH)H (6)
(式(6)中、nは1~5の整数を示す。)
【請求項4】
前記アミノ基を含有する配位子は、1-アミノ-2-プロパノール、エチレンジアミン、及び、2-アミノ-1-ブタノールからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の混合インク。
【請求項5】
金属銅の質量(MCu)と、金属ニッケルの質量(MNi)との合計(MCu+MNi)に対する前記金属ニッケルの質量(MNi)の割合が、3~40質量%である、請求項1~4のいずれかに記載の混合インク。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の混合インクを、200℃以下の温度で焼結させる、混合インクの焼結方法。
【請求項7】
銅微粒子、及び、アミノ基を含有する配位子を有するギ酸ニッケル錯体を含む混合インクの製造方法であって、
(1)ギ酸ニッケル、アミノ基を含有する配位子、及び、溶媒を混合して、アミノ基を含有する配位子を有するギ酸ニッケル錯体を含む組成物を調製する工程1、及び、
(2)前記組成物に銅微粒子を添加する工程2、
を有することを特徴とする製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混合インク及びその製造方法、並びに、混合インクの焼結方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、微細な電気回路配線を製造する方法として、リソグラフィー技術やエッチング技術を用いて回路を形成する方法が用いられていたが、大規模なスパッタ装置や露光装置が必要であり、また製造工程が複雑となり、高コスト化が問題となっている。このため、印刷技術により様々な材料に電子回路を製造できるプリンテッド・エレクトロニック技術が注目され、応用展開されている。
【0003】
プリンテッド・エレクトロニクス技術で電気回路を形成させる材料として、導電性ペースト(インク)が用いられる。導電性ペースト(インク)としては、Ag粒子、銅粒子などの金属微粒子を用いた数々の導電性インクが開発されている。
【0004】
上述の金属微粒子の中でも、銅微粒子は安価であり、導電性に優れ、マイグレーション傾向が小さいため、プリンテッドエレクトロニクス(PE)や接合材料用途向けの導電性ペースト(インク)材料として有用である。PEによる高分子フィルムへの配線形成を考えると、200℃以下で低温焼結でき、かつ焼成後にバルク銅に近い低電気抵抗率を実現できる導電性ペーストが求められている。
【0005】
導電性インク組成物として、ギ酸銅及び二種類以上のエタノールアミンを含む導電性インク組成物が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の導電性インク組成物は、銅の酸化の抑制については十分に検討されていない。銅は酸化され易く、銅表面に酸化銅の皮膜が形成される。銅が酸化されることにより、電気抵抗が増加し、焼結温度が上昇するという問題がある。
【0007】
従って、銅の酸化が抑制されており、低温焼結が可能であるため、導電性銅インク材料に好適に用いることができる混合インク及びその製造方法、並びに、当該混合インクの焼結方法の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2013-108005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、銅の酸化が抑制されており、低温焼結が可能であるため、導電性銅インク材料に好適に用いることができる混合インク及び当該混合インクの製造方法を提供することを目的とする。
【0010】
本発明は、また、上記混合インクの焼結方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、鋭意研究を重ねた結果、銅微粒子、及び、アミノ基を含有する配位子を有するギ酸ニッケル錯体を含む混合インクによれば、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は、下記の混合インク及びその製造方法、並びに、混合インクの焼結方法に関する。
1.銅微粒子、及び、アミノ基を含有する配位子を有するギ酸ニッケル錯体を含む、混合インク。
2.前記アミノ基を含有する配位子は、下記式(1)又は(2)で示される基を有する、項1に記載の混合インク。
【化1】
(式(1)及び(2)中、*は結合手を示す。)
3.前記アミノ基を含有する配位子は、下記式(6)で示される配位子である、項1に記載の混合インク。
[化2]
N(CNH)H (6)
(式(6)中、nは1~5の整数を示す。)
4.前記アミノ基を含有する配位子は、1-アミノ-2-プロパノール、エチレンジアミン、及び、2-アミノ-1-ブタノールからなる群より選択される少なくとも1種である、項1に記載の混合インク。
5.金属銅の質量(MCu)と、金属ニッケルの質量(MNi)との合計(MCu+MNi)に対する前記金属ニッケルの質量(MNi)の割合が、3~40質量%である、項1~4のいずれかに記載の混合インク。
6.項1~5のいずれかに記載の混合インクを、200℃以下の温度で焼結させる、混合インクの焼結方法。
7.銅微粒子、及び、アミノ基を含有する配位子を有するギ酸ニッケル錯体を含む混合インクの製造方法であって、
(1)ギ酸ニッケル、アミノ基を含有する配位子、及び、溶媒を混合して、アミノ基を含有する配位子を有するギ酸ニッケル錯体を含む組成物を調製する工程1、及び、
(2)前記組成物に銅微粒子を添加する工程2、
を有することを特徴とする製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の混合インクは、銅の酸化が抑制されており、低温焼結が可能であるため、導電性銅インクとして好適に用いることができる。また、本発明の製造方法は、上記混合インクを容易に製造することができる。
【0014】
更に、本発明の焼結方法は、上記混合インクを用いるので、200℃以下の低温で混合インクを焼結させることができるので、熱に弱い紙やプラスチック等の基板上にも銅微細配線を容易に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】参考例2のギ酸ニッケル錯体の状態を示す写真である。
図2】参考例3のギ酸ニッケル錯体の状態を示す写真である。
図3】参考例4のギ酸ニッケル錯体の状態を示す写真である。
図4】参考例5のギ酸ニッケル錯体の状態を示す写真である。
図5】参考例1のギ酸ニッケル含有組成物、及び、参考例2~5のギ酸ニッケル錯体の熱分析の結果を示す図である。
図6】参考例2のギ酸ニッケル錯体を焼成しXRD測定を行った結果を示す図である。
図7】混合インクの大気中での熱分析の結果を示す図である。
図8】混合インクの窒素雰囲気中での熱分析の結果を示す図である。
図9】混合インクを用いて、不活性雰囲気中(窒素雰囲気中)で焼結して焼結膜を調製し、体積抵抗率を測定した結果を示す図である。
図10】比較例1のインクを用いて形成した焼結膜の密着性評価の結果を示す写真である。
図11】実施例1の混合インクを用いて調製された焼結膜の密着性評価の結果を示す写真である。
図12】実施例2の混合インクを用いて調製された焼結膜の密着性評価の結果を示す写真である。
図13】実施例3の混合インクを用いて調製された焼結膜の密着性評価の結果を示す写真である。
図14】実施例4の混合インクを用いて調製された焼結膜の密着性評価の結果を示す写真である。
図15】実施例1の混合インクを用いて調製された焼結膜のエネルギー分散形X線分析装置を用いたEDS測定の結果を示す図である。
図16】実施例2の混合インクを用いて調製された焼結膜のエネルギー分散形X線分析装置を用いたEDS測定の結果を示す図である。
図17】実施例3の混合インクを用いて調製された焼結膜のエネルギー分散形X線分析装置を用いたEDS測定の結果を示す図である。
図18】実施例4の混合インクを用いて調製された焼結膜のエネルギー分散形X線分析装置を用いたEDS測定の結果を示す図である。
図19】実施例1の混合インクを用いて調製された焼結膜のSEM観察の結果を示す図である。
図20】実施例2の混合インクを用いて調製された焼結膜のSEM観察の結果を示す図である。
図21】実施例3の混合インクを用いて調製された焼結膜のSEM観察の結果を示す図である。
図22】実施例4の混合インクを用いて調製された焼結膜のSEM観察の結果を示す図である。
図23】実施例1の混合インクを用いて調製された焼結膜のSEM観察の結果を示す図である。
図24】実施例1の混合インクを用いて調製された焼結膜のSEM観察の結果を示す図である。
図25】実施例1の混合インクを用いて調製された焼結膜のSEM観察の結果を示す図である。
図26】実施例2の混合インクを用いて調製された焼結膜のSEM観察の結果を示す図である。
図27】実施例2の混合インクを用いて調製された焼結膜のSEM観察の結果を示す図である。
図28】実施例2の混合インクを用いて調製された焼結膜のSEM観察の結果を示す図である。
図29】実施例3の混合インクを用いて調製された焼結膜のSEM観察の結果を示す図である。
図30】実施例3の混合インクを用いて調製された焼結膜のSEM観察の結果を示す図である。
図31】実施例3の混合インクを用いて調製された焼結膜のSEM観察の結果を示す図である。
図32】実施例4の混合インクを用いて調製された焼結膜のSEM観察の結果を示す図である。
図33】実施例4の混合インクを用いて調製された焼結膜のSEM観察の結果を示す図である。
図34】実施例4の混合インクを用いて調製された焼結膜のSEM観察の結果を示す図である。
図35】実施例1~4の混合インク、及び比較例1のインクを用いて調製された焼結膜の耐湿熱試験の結果を示す図である。
図36】実施例1~4の混合インク、及び比較例1のインクを用いて調製された焼結膜のXRD測定結果を示す図である。
図37】実施例1~4の混合インク、及び比較例1のインクを用いて調製された焼結膜の、耐湿熱試験後のXRD測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0017】
1.混合インク
本発明の混合インクは、銅微粒子、及び、アミノ基を含有する配位子を有するギ酸ニッケル錯体を含む。本発明の混合インクは、銅微粒子を含有するので、焼結により比較的低温で焼結でき、混合インク中で安定に存在する。また、銅微粒子は、例えば銅ナノ粒子を用いた場合よりも低温で焼結し難い。しかしながら、本発明の混合インクは、銅微粒子、及び、アミノ基を含有する配位子を有するギ酸ニッケル錯体を含むので、ニッケル源として、銅よりも融点が高いニッケル金属ではなく、ギ酸ニッケル錯体を用いており、当ギ酸該ニッケル錯体の焼結により生成した金属ニッケルが銅微粒子の焼結を促進する。また、ギ酸ニッケル錯体は、焼結の際に水素を放出するため、当該水素が還元作用を示し、銅微粒子の酸化を抑制することができる。更に、焼結過程でギ酸ニッケル錯体から生成したニッケルが銅微粒子表面を覆うことにより、焼結銅膜に高い耐酸化性を付与することができる。すなわち、本発明の混合インクは、銅微粒子と、アミノ基を含有する配位子を有するギ酸ニッケル錯体とを含むことがあいまって、銅の酸化が抑制されており、低温焼結が可能である。このため、本発明の混合インクは、導電性銅インクとして好適に用いることができる。
【0018】
(銅微粒子)
銅微粒子は、銅の粒子であれば特に限定されず、銅の単結晶からなる銅微粒子であってもよいし、銅の一次粒子が凝集した二次粒子の形態の銅微粒子であってもよい。
【0019】
なお、本明細書における単結晶とは、結晶のどの部分をとっても同じ結晶方位をもっており、それを構成している原子が空間的に規則正しい配列になっているものをいう。すなわち、本明細書において、銅微粒子が銅の単結晶からなる場合の銅微粒子は、粒子全体が一つの結晶であり、色々な方向に成長した結晶が混ざり合っておらず、銅微粒子が凝集していないことを意味する。これは、銅微粒子のXRD解析のピーク測定と高分解能電子顕微鏡による原子配列の直接観察により確認することができる。
【0020】
銅微粒子の平均粒子径は0.05μm以上が好ましく、0.1μm以上がより好ましく、0.5μm以上が更に好ましく、0.7μm以上が特に好ましい。また、銅微粒子の平均粒子径は、5μm以下が好ましく3μm以下がより好ましく、2.5μm以下が更に好ましく、2μm以下が特に好ましく、1.5μm以下が最も好ましい。銅微粒子の平均粒子径の下限が上記範囲であると、銅微粒子の酸化がより一層抑制され、焼結膜の電気抵抗率の増大がより一層抑制される。銅微粒子の平均粒子径の上限が上記範囲であると、より一層低温で焼結膜を形成し易くなる。
【0021】
なお、本明細書における銅微粒子の平均粒子径は、TEM観察像中の任意の100個の粒子の粒子径の算術平均値である。
【0022】
銅微粒子の形状は特に限定されず、フレーク状(扁平状)であってもよいし、球状であってもよい。大気中で焼結がし易く、より一層体積抵抗率低い焼結膜を形成できる観点から、フレーク状が好ましい。
【0023】
フレーク状の銅微粒子としては、市販品を用いることができる。フレーク状の銅微粒子の市販品としては、三井金属株式会社製、製品名1050YF、1050YP等が挙げられる。
【0024】
混合インク中の銅微粒子の含有量は、混合インクを100質量%として、20質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましい。また、銅微粒子の含有量は、混合インクを100質量%として、80質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましい。銅微粒子の含有量の下限が上記範囲であることにより、混合インクを用いて形成した焼結膜の体積低効率がより一層低くなる。また、銅微粒子の含有量の上限が上記範囲であることにより、ギ酸ニッケル錯体の含有量が多くなるので、ギ酸ニッケル錯体の熱分解により混合インクの焼結がより一層進行し易くなり、形成される焼結膜の体積抵抗率がより一層低くなる。
【0025】
(アミノ基を含有する配位子を有するギ酸ニッケル錯体)
本発明の混合インクは、アミノ基を含有する配位子を有するギ酸ニッケル錯体を含有する。上記アミノ基を含有する配位子を有するギ酸ニッケル錯体(以下、単に「ギ酸ニッケル錯体」とも示す。)は、例えば、後述する製造方法における工程1のように、ギ酸ニッケル、アミノ基を含有する配位子、及び、溶媒を混合することにより調製することができる。
【0026】
ギ酸ニッケルとしては、ギ酸ニッケル無水和物、ギ酸ニッケル2水和物等を用いることができる。より一層配位子を形成し易い観点から、ギ酸ニッケル無水和物が好ましい。
【0027】
上記ギ酸ニッケルは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0028】
アミノ基を含有する配位子(以下、単位「配位子」とも示す。)としては、アミノ基を有し、配位子として用いることができれば特に限定されず、アミノ基を有する単座配位子又は多座配位子を用いることができる。このような配位子としては、例えば、1-アミノ-2-プロパノール(IPA)、3-アミノ-1-プロパノール(3AP)、2-アミノ-1-ブタノール(2AB)、エチレンジアミン(EDA)、ジエチルトリアミン(DETA)、トリエチルテトラアミン(TETA)、テトラエチレンペンタミントリメチルアミン(TEPA)、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、プロピルアミン、オクチルアミン、ジエチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、ジメチルエチレンジアミン等が挙げられる。これらの中でも、混合インクをより一層低温で焼結できる観点から、1-アミノ-2-プロパノール(IPA)、3-アミノ-1-プロパノール(3AP)、2-アミノ-1-ブタノール(2AB)、エチレンジアミン(EDA)が好ましく、1-アミノ-2-プロパノール(IPA)、エチレンジアミン(EDA)、2-アミノ-1-ブタノール(2AB)がより好ましい。
【0029】
上記配位子は、下記式(1)で示される基を有することが好ましい。なお、下記式(1)~(5)中、*は、結合手を示す。
【0030】
【化3】
【0031】
上記式(1)で示される基は、当該基が酸化されてケトンとなり、下記式(3)で示される基を生成する。
【0032】
【化4】
【0033】
上記式(1)及び(3)で示される基は、高い配位力を示し、ニッケル原子と5員環を形成して、下記式(4)及び(5)で示されるメタラサイクル構造を有する基となり、安定化する。このため、ギ酸ニッケル錯体の凝集がより抑制される。
【0034】
【化5】
【0035】
【化6】
【0036】
上記配位子は、下記式(2)で示される基を有することも好ましい。
【0037】
【化7】
【0038】
上記式(2)で示される基も、ニッケル原子と5員環を形成して、メタラサイクル構造を有する基となり、安定化する。このため、ギ酸ニッケル錯体の凝集がより抑制されることとなる。
【0039】
上記配位子は、下記式(6)で示される配位子であってもよい。
【0040】
[化8]
N(CNH)H (6)
【0041】
なお、式(6)中、nは、1~5の整数を示す。nは、1~3の整数であることが好ましく、1であることがより好ましい。
【0042】
上記式(6)で示される配位子は、ニッケル原子に容易に配位するため、ギ酸ニッケル錯体の凝集がより抑制されることとなる。
【0043】
上記配位子は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0044】
上記ギ酸ニッケル、アミノ基を含有する配位子、及び、溶媒を混合することにより、ギ酸ニッケル錯体を調製することができる。
【0045】
混合インク中のギ酸ニッケル錯体の含有量は、混合インクを100質量%として、20質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましい。また、ギ酸ニッケル錯体の含有量は、混合インクを100質量%として、60質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましい。ギ酸ニッケル錯体の含有量の下限が上記範囲であることにより、ギ酸ニッケル錯体の熱分解により混合インクの焼結がより一層進行し易くなり、形成される焼結膜の体積抵抗率がより一層低くなる。また、ギ酸ニッケル錯体の含有量の上限が上記範囲であることにより、混合インク中の銅微粒子の比率が高くなるので、形成される焼結膜の体積抵抗率がより一層低くなる。
【0046】
本発明の混合インクにおいて、金属銅の質量(MCu)と、金属ニッケルの質量(MNi)との合計(MCu+MNi)に対する金属ニッケルの質量(MNi)の割合は、3~40質量%が好ましく、5~30質量%がより好ましく、5~20質量%が更に好ましく、8~15質量%が特に好ましい。金属ニッケルの質量(MNi)の割合の下限が上記範囲であることにより、ギ酸ニッケル錯体の熱分解により混合インクの焼結がより一層進行し易くなり、形成される焼結膜の体積抵抗率がより一層低くなる。また、金属ニッケルの質量(MNi)の割合の上限が上記範囲であることにより、混合インク中の銅微粒子の比率が高くなるので、形成される焼結膜の体積抵抗率がより一層低くなる。
【0047】
本発明の混合インクは、溶媒を含有していてもよい。例えば、後述する製造方法の工程1において上述のギ酸ニッケル錯体を溶媒中で調製して組成物とし、工程2において当該組成物に銅微粒子を添加することにより混合インクを製造した場合は、工程1において用いられた溶媒がそのまま混合インクに含まれる溶媒となる。
【0048】
上記溶媒としては特に限定されず、エーテル、アルコール、ポリオール等を用いることができる。これらの中でも、還元性を有する点で、ポリオールが好ましい。
【0049】
アルコールとしては、特に限定されず、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等を用いることができる。これらの中でも、還元性を有し、低粘度である点で、エチレングリコール、プロピレングリコールが好ましくエチレングリコールがより好ましい。
【0050】
上記溶媒は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0051】
2.混合インクの製造方法
本発明の混合インクの製造方法は、銅微粒子、及び、アミノ基を含有する配位子を有するギ酸ニッケル錯体を含む混合インクの製造方法であって、
(1)ギ酸ニッケル、アミノ基を含有する配位子、及び、溶媒を混合して、アミノ基を含有する配位子を有するギ酸ニッケル錯体を含む組成物を調製する工程1、及び、
(2)前記組成物に銅微粒子を添加する工程2、
を有することを特徴とする製造方法である。
上記工程1及び2を有する本発明の製造方法により、上述の本発明の混合インクを製造することができる。
【0052】
(工程1)
工程1は、ギ酸ニッケル、アミノ基を含有する配位子、及び、溶媒を混合して、アミノ基を含有する配位子を有するギ酸ニッケル錯体を含む組成物を調製する工程である。
【0053】
上記工程1に用いられるギ酸ニッケル、アミノ基を含有する配位子、及び、溶媒は、上述の混合インクにおけるギ酸ニッケル、アミノ基を含有する配位子、及び、溶媒と同一のものを用いることができる。
【0054】
組成物中のギ酸ニッケルの含有量は、組成物を100質量%として、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましい。また、ギ酸ニッケルの含有量は、組成物を100質量%として、50質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましい。ギ酸ニッケルの含有量の下限が上記範囲であることにより、組成物中でギ酸ニッケル錯体を十分に形成することができる。
【0055】
組成物中のアミノ基を含有する配位子の含有量は、組成物中の上記ギ酸ニッケルの含有量を1モル当量として、8モル当量以下が好ましく、6モル当量以下がより好ましい。また、組成物中のアミノ基を含有する配位子の含有量は、組成物中の上記ギ酸ニッケルの含有量を1モル当量として、4モル当量以上が好ましい。配位子の含有量の下限が上記範囲であることにより、組成物中でギ酸ニッケル錯体を十分に形成することができる。また、配位子の含有量の上限が上記範囲であることにより、錯体形成がより容易となる。
【0056】
組成物中の溶媒の含有量は、組成物を100質量%として、10質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましい。また、溶媒の含有量は、組成物を100質量%として、80質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましい。溶媒の含有量の下限が上記範囲であることにより、組成物中でギ酸ニッケルと配位子とを十分に分散させることができ、ギ酸ニッケル錯体を十分に形成することができる。また、溶媒の含有量の上限が上記範囲であることにより、混合インク中のギ酸ニッケル錯体の含有量がより一層十分となり、ギ酸ニッケル錯体を十分に形成することができる。
【0057】
工程1において、混合する際の組成物の温度は特に限定されず、0~40℃程度であればよい。
【0058】
工程1において、混合する際の組成物は、撹拌してもよい。撹拌時間は特に限定されず、30~60分程度であればよい。
【0059】
工程1では、ギ酸ニッケル水和物を加熱し、ギ酸ニッケル無水和物を調製する、ギ酸ニッケル無水和物調製工程を含んでいてもよい。工程1がギ酸ニッケル無水和物調製工程を含むことにより、より一層効率よくギ酸ニッケル錯体を調製することができる。
【0060】
ギ酸ニッケル無水和物を調製する方法としては、上述のギ酸ニッケル2水和物等のギ酸ニッケル水和物を加熱する方法が挙げられる。
【0061】
ギ酸ニッケル無水和物調製工程の加熱温度は特に限定されず、170~230℃程度であればよい。また、加熱時間は、30~120分程度であればよい。
【0062】
以上説明した工程1により、アミノ基を含有する配位子を有するギ酸ニッケル錯体を含む組成物が調製される。
【0063】
(工程2)
工程2は、上記組成物に銅微粒子を添加する工程である。工程2に用いられる銅微粒子は、上述の混合インクにおける銅微粒子と同一のものを用いることができる。
【0064】
工程2における銅微粒子の添加量は、組成物を100質量%として、20質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましい。また、銅微粒子の添加量は、組成物を100質量%として、80質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましい。銅微粒子の添加量の下限が上記範囲であることにより、製造される混合インクを用いて形成した焼結膜の体積低効率がより一層低くなる。また、銅微粒子の添加量の上限が上記範囲であることにより、混合インク中のギ酸ニッケル錯体の含有量が多くなるので、ギ酸ニッケル錯体の熱分解により混合インクの焼結がより一層進行し易くなり、形成される焼結膜の体積抵抗率がより一層低くなる。
【0065】
工程2において、銅微粒子を添加する際の組成物の温度は特に限定されず、0~40℃程度であればよい。
【0066】
工程2において、銅微粒子を添加した組成物は、撹拌してもよい。撹拌時間は特に限定されず、0.5~10分程度であればよい。
【0067】
工程2では、組成物に銅微粒子を添加する前に、銅微粒子表面の酸化皮膜を除去する、酸化皮膜除去工程を有していてもよい。
【0068】
酸化皮膜を除去する方法としては特に限定されず、例えば、銅微粒子を還元剤に浸漬する方法が挙げられる。
【0069】
還元剤としては特に限定されず、ギ酸、ヒドラジン化合物、等が挙げられる。これらの中でも、還元性に優れる観点から、ギ酸が好ましい。
【0070】
還元剤に浸漬する浸漬時間は特に限定されず、30~120分程度であればよい。
【0071】
工程2を経て製造される混合インクにおいて、金属銅の質量(MCu)と、金属ニッケルの質量(MNi)との合計(MCu+MNi)に対する金属ニッケルの質量(MNi)の割合が、3~40質量%となる添加量が好ましく、5~30質量%となる添加量がより好ましく、10~20質量%となる添加量が更に好ましく、10~15質量%となる添加量が特に好ましい。金属ニッケルの質量(MNi)の割合の下限が上記範囲であることにより、ギ酸ニッケル錯体の熱分解により、製造される混合インクの焼結がより一層進行し易くなり、形成される焼結膜の体積抵抗率がより一層低くなる。また、金属ニッケルの質量(MNi)の割合の上限が上記範囲であることにより、製造される混合インク中の銅微粒子の比率が高くなるので、形成される焼結膜の体積抵抗率がより一層低くなる。
【0072】
以上説明した工程2により、工程1で調製された組成物に銅微粒子が添加され、上述の本発明の混合インクを製造することができる。
【0073】
3.混合インクの焼結方法
本発明の混合インクは、上述の構成であるので、200℃以下の低温領域の温度範囲での加熱であっても、短時間で銅微細配線を形成することができる。このような、上記混合インクを、200℃以下の温度で焼結させる混合インクの焼結方法も、本発明の一つである。上記温度は、180℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましく、120℃以下が更に好ましい。また、上記温度は、70℃以上が好ましく、80℃以上がより好ましく、90℃以上が更に好ましい。
【0074】
上記混合インクを、非還元性雰囲気中で焼結させる場合、焼結温度は、120℃以下が好ましく、100℃以下がより好ましい。また、焼結温度は、70℃以上が好ましく、80℃以上がより好ましい。
【0075】
上記銅粒子混合物を、非還元性雰囲気中で焼結させる場合、常圧で焼結させてもよいし、減圧下で焼結させてもよい。減圧下で焼結させる際の圧力は特に限定されず、常圧よりも低い圧力であればよい。
【0076】
上記非還元性雰囲気としては特に限定されないが、例えば、窒素、アルゴン等が挙げられる。
【0077】
上記銅粒子混合物を、大気中で焼結させる場合、焼結温度は、150℃以下が好ましく、140℃以下がより好ましい。また、焼結温度は、80℃以上が好ましく、90℃以上がより好ましい。
【0078】
上記銅粒子混合物を大気中で焼結させる場合は、常圧で焼結させればよい。
【0079】
本発明の混合インクは、金属微細配線を形成するためのインク材料、パワー半導体用途の接合材料として好適に用いることができるが、当該用途に限られず、触媒材料(触媒又は触媒担体)としても利用することができる。また、ITOに変わる透明導電膜、反射防止コーティング材料としても利用することができる。
【実施例
【0080】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
【0081】
(ギ酸ニッケル錯体の調製)
参考例1
ギ酸ニッケル2水和物を200℃で1時間加熱して、ギ酸ニッケル無水和物を得た。得られたギ酸ニッケル無水和物2gに対し、メタノール8mLを添加して混合し、常温で1時間撹拌してギ酸ニッケル含有組成物を調製した。次いで、エバポレータでメタノールを除去した。
【0082】
参考例2
(アミノ基を含有する配位子を有するギ酸ニッケル錯体の調製)
アミノ基を含有する配位子を有するギ酸ニッケル錯体として、アミン-ギ酸ニッケル錯体を調製した。具体的には、ギ酸ニッケル2水和物を200℃で1時間加熱して、ギ酸ニッケル無水和物を得た。得られたギ酸ニッケル無水和物2gに対し、4モル当量の1-アミノ-2-プロパノール(IPA)(4.15mL)、及びメタノール8mLを添加して混合し、常温で1時間撹拌して、アミン-ギ酸ニッケル錯体を調製した。参考例2のギ酸ニッケル錯体の状態の写真を図1に示す。
【0083】
参考例3~5
参考例2の4モル当量の1-アミノ-2-プロパノール(IPA)に代えて、4モル当量の3-アミノ-1-プロパノール(3AP)(参考例3)、4モル当量の2-アミノ-1-ブタノール(2AB)(参考例4)、又は、4モル当量のエチレンジアミン(EDA)(参考例5)に変更した以外は参考例2と同様にして、アミン-ギ酸ニッケル錯体を調製した。参考例3~5のギ酸ニッケル錯体の状態の写真を、それぞれ図2~4に示す。
【0084】
(評価)
熱分析(TG-DTA)
参考例1のギ酸ニッケル含有組成物、及び、参考例2~5のギ酸ニッケル錯体の熱分析を、リガクのThermo plus EVOを用いて、窒素雰囲気下、5℃/minの条件で行った。結果を図5に示す。
【0085】
図5の結果から、ギ酸ニッケル錯体にアミノ基を有する配位子を配位させることにより、低温分解することができることが分かった。また、アミノ基を含有する配位子を有するギ酸ニッケル錯体の中でも、IPA-ギ酸ニッケル錯体がより低温で分解することが分かった。
【0086】
大気焼成後のXRD測定
参考例2のギ酸ニッケル錯体を、200℃の温度条件下で10分間大気中で焼成し、X線回折装置(ブルカーD2 PHASER)を用いてXRD測定を行った。結果を図6に示す。
【0087】
図6の結果から、XRD測定結果に酸化銅及び亜酸化銅のピークが見られず、ギ酸ニッケル錯体にアミノ基を有する配位子を配位させることにより、焼成時に還元作用が作用して、銅の酸化が抑制されることが分かった。
【0088】
(混合インクの調製)
実施例1~4、比較例1
ギ酸20mLに銅微粒子(三井金属鉱業株式会社製 製品名:1050YF)を0.500g(比較例1)、1.425g(実施例1)、1.350g(実施例2)、0.600g(実施例3)、0.350g(実施例4)添加し、1時間浸漬して、銅微粒子表面の酸化皮膜を溶融させた。次いで、銅微粒子を30mLのエタノールで4回洗浄した。洗浄した銅微粒子をN雰囲気中で乾燥させた。
【0089】
溶媒としてエチレングリコールをそれぞれ360μL、(比較例1)、340μL(実施例1)、340μL(実施例2)、200μL(実施例3)、280μL(実施例4)用意した。エチレングリコール中で、洗浄した銅微粒子と、参考例2で調製したアミン-ギ酸ニッケル錯体とを、金属銅と金属ニッケルとが重量比でそれぞれ100:0(比較例1)、95:5(実施例1)、90:10(実施例2)、80:20(実施例3)、70:30(実施例4)となるように混合し、撹拌機(株式会社シンキー社製 製品名:あわとり練太郎)を用いて混練作業を2000rpmで5分間、脱泡作業を2200rpmで5分間行う条件で撹拌し混合インクを調製した。
【0090】
(評価)
熱分析(TG-DTA)
実施例1~4及び比較例1の混合インクの熱分析を、リガクのThermo plus EVOを用いて、大気中及び窒素雰囲気中で、5℃/minの条件で行った。結果を図7(大気中)、及び、図8(窒素雰囲気中)に示す。
【0091】
図7及び図8の結果から、比較例1(銅微粒子のみ)のインクでは、250℃付近から酸化が生じることが分かった。これに対し、実施例1~4の混合インクでは、400℃以上まで大幅に酸化を生じないことがわかった。これにより、銅微粒子と、アミノ基を含有する配位子を有するギ酸ニッケル錯体とを混合することにより、優れた耐酸化性を示すことが分かった。
【0092】
(焼結膜の調製)
実施例1~4及び比較例1の混合インクを、ポリイミド基板上にドクターブレード(12μm)を用いて塗布し、製膜した。電気炉内において、窒素雰囲気中(流量3.0L/min)で昇温速度5℃/min、焼結温度180℃、焼結時間30minの条件で焼結し、焼結膜を調製した。
【0093】
(評価)
四探針法による体積抵抗率測定
焼結膜のシート抵抗値(Ω/□)を四探針法によって測定した。測定は、ロレスターEP抵抗率計(Loresta-EP MCP-T360)及び四探針プローブ(MCP-TPQPP)を用いて行った。マイクロメータにより膜厚を測定し、シート抵抗値との積により、体積抵抗率(Ωcm)を算出した。結果を図9に示す。なお、図9において、横軸はCu-xNiのxの値(質量%)を示している。
【0094】
図9において、比較例1(x=0質量%、8.3×10-4Ωcm)よりも実施例1(x=5質量%、2.4×10-5Ωcm)の方が電気抵抗率は低くなっている。電気低効率は、銅金属よりもニッケル金属の方が高いが、ギ酸ニッケル錯体の熱分解により焼結が進行したため、体積抵抗率が低下したと考えられる。
【0095】
また、図9において、実施例1(x=5質量%、2.4×10-5Ωcm)よりも、実施例2(x=10質量%、6.7×10-5Ωcm)、実施例3(x=20質量%、2.1×10-4Ωcm)、実施例4(x=30質量%、6.5×10-4Ωcm)の方が体積抵抗率が高くなっている。これは、ニッケルの割合が増加すると、焼結膜に占める金属銅の割合が減少するため、体積抵抗率が増加したためであると考えられる。
【0096】
焼結膜の密着性評価
実施例1~4、比較例1で調製した焼結膜について、密着性を評価した。具体的な評価方法は以下の通りである。すなわち、クロスカット試験法に従い、縦横1mm間隔に6本切れ込みを入れ、縦横1mmの正方形を25個作製し、そこにテープを貼り付け勢いよく引き剥がした際の基板からの剥離の程度を目視で確認することにより密着性を評価した。結果を図10(比較例1)、図11(実施例1)、図12(実施例2)、図13(実施例3)、及び図14(実施例4)に示す。
【0097】
図10図14の結果から、実施例2(図12)の焼結膜が最も密着性が高いことが分かった。図10の結果から、比較例1では、焼結膜が銅金属により形成されているため、焼結膜が柔らかく、剥離し易いことが分かった。実施例2(図12)では、焼結膜中にニッケルが存在するため、焼結膜が硬く、剥離し難いことが分かった。実施例3及び4では、実施例2よりもギ酸ニッケル錯体が多いため、焼結膜中にギ酸ニッケル錯体に含まれる有機成分が実施例2よりも多いため、実施例2と比較して焼結膜が若干均一に形成されておらず、銅及びニッケルが若干剥離し易くなっていることが分かった。
【0098】
焼結膜のSEM-EDS測定
実施例1~4で調製された焼結膜の元素組成分析として、エネルギー分散形X線分析装置(JEOL社製、型番JCM-6000 SEM)を用いて、15keVの条件でEDS測定を行った。結果を図15(実施例1)、図16(実施例2)、図17(実施例3)、図18(実施例4)に示す。なお、得られた測定値は以下の表1の通りである。
【0099】
【表1】
【0100】
焼結膜の走査型電子顕微鏡(SEM)観察
実施例1~4で調製された焼結膜のSEM観察を、エネルギー分散形X線分析装置(JEOL社製、型番JCM-6000 SEM)を用いて、15keVの条件で行った。結果を図19(実施例1)、図20(実施例2)、図21(実施例3)、図22(実施例4)、図23図25(実施例1)、図26図28(実施例2)、図29図31(実施例3)、図32図34(実施例4)に示す。なお、図19図22において、左側が金属ニッケルの分散性を示しており、右側が金属銅の分散性を示している。
【0101】
耐湿熱試験(焼結膜の抵抗値増加率測定)
実施例1~4の混合インク、及び比較例1のインクを用いて調製された焼結膜を、温度80℃、湿度80%の高温高湿環境下で7日間静置した。焼結膜のシート抵抗値(Ω/□)を四探針法によって測定した。測定は、ロレスターEP抵抗率計(Loresta-EP MCP-T360)及び四探針プローブ(MCP-TPQPP)を用いて行った。マイクロメータにより膜厚を測定し、シート抵抗値との積により、体積抵抗率(Ωcm)を算出した。初期抵抗値をRとし、1、3、5、7日経過後の抵抗値をRとして、R/Rを算出し、抵抗値増加率とした。結果を図35に示す。
【0102】
図35において、比較例1のインクで調製された焼結膜は、5日目でオーバーロードしたことを示している。図35の結果から、実施例1~4では、焼結膜が均一に生成しており、焼結膜の酸化が抑制されていることが分かった。また、比較例1では、ニッケルを含まないため焼結膜が酸化し易く、CuOが生成したため抵抗値が上昇したことが分かった。
【0103】
焼結膜のXRD測定
実施例1~4の混合インク、及び比較例1のインクを用いて調製された焼結膜のXRD測定を行った。結果を図36に示す。また、上記耐湿熱試験に供し、温度80℃、湿度80%の高温高湿環境下で7日経過後の焼結膜のXRD測定を行った。結果を図37に示す。なお、XRD測定は、X線回折装置(ブルカーD2 PHASER)を用いて行った。
【0104】
図37において、比較例1のインクで調製された焼結膜のXRD測定により、CuOのピークが検出されており、酸化していることが分かった。図37の結果から、実施例1~4では、焼結膜が均一に生成しており、焼結膜の酸化が抑制されていることが分かった。また、比較例1では、ニッケルを含まないため焼結膜が酸化し易く、CuOが生成したことが分かった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
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図22
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図24
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図33
図34
図35
図36
図37