IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新日鐵住金株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-クランクシャフト及びその製造方法 図1
  • 特許-クランクシャフト及びその製造方法 図2
  • 特許-クランクシャフト及びその製造方法 図3
  • 特許-クランクシャフト及びその製造方法 図4
  • 特許-クランクシャフト及びその製造方法 図5
  • 特許-クランクシャフト及びその製造方法 図6
  • 特許-クランクシャフト及びその製造方法 図7
  • 特許-クランクシャフト及びその製造方法 図8
  • 特許-クランクシャフト及びその製造方法 図9A
  • 特許-クランクシャフト及びその製造方法 図9B
  • 特許-クランクシャフト及びその製造方法 図9C
  • 特許-クランクシャフト及びその製造方法 図9D
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-08
(45)【発行日】2024-10-17
(54)【発明の名称】クランクシャフト及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16C 3/08 20060101AFI20241009BHJP
   C21D 9/30 20060101ALI20241009BHJP
   C21D 1/10 20060101ALI20241009BHJP
   C21D 1/42 20060101ALI20241009BHJP
   H05B 6/10 20060101ALI20241009BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20241009BHJP
   C22C 38/60 20060101ALN20241009BHJP
【FI】
F16C3/08
C21D9/30 A
C21D1/10 R
C21D1/42 B
H05B6/10 331
C22C38/00 301Z
C22C38/60
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020162440
(22)【出願日】2020-09-28
(65)【公開番号】P2022055070
(43)【公開日】2022-04-07
【審査請求日】2023-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104444
【弁理士】
【氏名又は名称】上羽 秀敏
(74)【代理人】
【識別番号】100174285
【弁理士】
【氏名又は名称】小宮山 聰
(72)【発明者】
【氏名】安部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】山根 明仁
【審査官】倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-267598(JP,A)
【文献】特開昭63-118079(JP,A)
【文献】特開昭61-270517(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 3/06-3/08
C21D 9/30
C21D 1/10、1/42
H05B 6/10
C22C 38/00、38/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジャーナル部及びピン部を備えるクランクシャフトであって、
前記ジャーナル部及び前記ピン部の各々は、一定の外径を有する平行部と、前記平行部に連続して形成されたフィレット部とを有し、
前記ピン部は、スラスト壁及びピントップをさらに有し、
前記ピン部において、
前記平行部は、前記平行部の長さの少なくとも70.0%の長さにおいて、表面から前記平行部の半径の少なくとも80.0%の深さまでの組織が、87.5体積%以上のフェライト・パーライトを含む組織であり、
前記フィレット部の表面から前記平行部の半径の少なくとも12.0%の深さまでの組織、並びに前記スラスト壁及び前記ピントップの組織が、87.5体積%以上のマルテンサイトを含む組織である、クランクシャフト。
【請求項2】
請求項1に記載のクランクシャフトであって、
前記ピン部において、
前記平行部は、前記平行部の長さの少なくとも70.0%の長さにおいて、表面から前記平行部の半径の少なくとも80.0%の深さまでの硬さが、HV400以下であり、
前記フィレット部の表面から前記平行部の半径の少なくとも12.0%の深さまでの硬さが、HV580以上である、クランクシャフト。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のクランクシャフトの製造方法であって、
前記フィレット部の近傍のみを高周波誘導加熱装置によってAc点以上の温度から焼入れする工程を備える、クランクシャフトの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クランクシャフト及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クランクシャフトには、疲労強度を向上させるため、高周波焼入れが行われる場合がある。高周波焼入れされたクランクシャフトには、高周波焼入れによる熱処理変形(焼曲がり)が生じている場合がある。
【0003】
特許第4007033号公報には、クランクシャフトの1スローにおいてアーム危険断面部それぞれにおけるピンの高周波焼入れ硬化層深さ及びジャーナルの高周波焼入れ硬化層深さが、所定の関係を満たすクランクシャフトが開示されている。
【0004】
特開2006-328497号公報には、鋼板部材の高周波焼入れに際して、導電性を有する保護板を鋼板部材の一部を覆うように配置し、高周波加熱を行う高周波加熱方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4007033号公報
【文献】特開2006-328497号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、焼曲がりが抑制されたクランクシャフト及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態によるクランクシャフトは、ジャーナル部及びピン部を備えるクランクシャフトであって、前記ジャーナル部及び前記ピン部の各々は、一定の外径を有する平行部と、前記平行部に連続して形成されたフィレット部とを有し、前記ジャーナル部及び前記ピン部の少なくとも一方は、前記平行部の長さの少なくとも15.0%の長さにおいて、表面から前記平行部の半径の少なくとも6.0%の深さまでの組織が、87.5体積%以上のフェライト・パーライトを含む組織であり、前記フィレット部の表面から前記平行部の半径の少なくとも6.0%の深さまでの組織が、87.5体積%以上のマルテンサイトを含む組織である。
【0008】
本発明の一実施形態によるクランクシャフトの製造方法は、上記のクランクシャフトの製造方法であって、前記フィレット部の近傍のみを高周波誘導加熱装置によってAc点以上の温度から焼入れする工程を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、焼曲がりが抑制されたクランクシャフトが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の一実施形態によるクランクシャフトの概略図である。
図2図2は、図1のクランクシャフトのピン部の近傍を拡大して示す断面図である。
図3図3は、図1のクランクシャフトの製造方法の一例を示すフロー図である。
図4図4は、シミュレーションで使用した3次元解析モデルの斜視図である。
図5図5は、図4の3次元解析モデルの正面図である。
図6図6は、図4の3次元解析モデルのピントップ近傍の拡大図である。
図7図7は、シミュレーションでの誘導コイルの配置を示す断面図である。
図8図8は、シミュレーションでの誘導コイルの別の配置を示す断面図である。
図9A図9Aは、No.1の組織分布を示す等高線図である。
図9B図9Bは、No.3の組織分布を示す等高線図である。
図9C図9Cは、No.5の組織分布を示す等高線図である。
図9D図9Dは、No.6の組織分布を示す等高線図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態を詳しく説明する。図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。各図に示された構成部材間の寸法比は、必ずしも実際の寸法比を示すものではない。
【0012】
[クランクシャフト]
図1は、本発明の一実施形態によるクランクシャフト10の概略図である。クランクシャフト10は、ジャーナル部11、ピン部12、及びアーム部13を備えている。
【0013】
クランクシャフト10は、例えば機械構造用鋼材からなる。クランクシャフト10は、これらに限定されないが、JIS G 4051:2009の機械構造用炭素鋼鋼材、JIS G 4052:2008の焼入れ性を保証した機械構造用鋼鋼材(H鋼)、JIS G4053:2008の機械構造用合金鋼鋼材等からなるものを用いることができる。これらの鋼材の中でも、JIS G 4051:2009のS45C、S50C及びS53C、並びにJIS G 4053:2008のSMn438や、これらの鋼材に被削性を向上させるためにSを添加した鋼材が好適である。
【0014】
クランクシャフト10の化学組成は例えば、Fe及び不純物に加えて、質量%で、C:0.30~0.60%、Si:0.01~2.0%、Mn:0.1~2.0%、Cr:0.01~0.50%、Al:0.001~0.06%、N:0.001~0.02%、P:0.03%以下、S:0.20%以下を含む。クランクシャフト10の化学組成は、上記以外の元素を含有していてもよい。クランクシャフト10の化学組成は例えば、質量%で、Mo:0~0.50%、Cu:0~0.50%、Ni:0~0.50%、Ti:0~0.050%、Nb:0~0.050%、Ca:0~0.005%、Bi:0~0.30%、及びV:0~0.20%を含有していてもよい。
【0015】
ジャーナル部11は、シリンダブロック(不図示)と連結される。ピン部12は、コネクティングロッド(不図示)と連結される。アーム部13は、ジャーナル部11とピン部12とを接続する。
【0016】
[ピン部12の構成]
図2は、クランクシャフト10のピン部12の近傍を拡大して示す断面図である。ピン部12は、一定の外径を有する平行部121と、平行部121に連続的に形成されたフィレット部122とを有している。フィレット部122の外側には、スラスト壁14及びピントップ15が形成されている。平行部121は、コネクティングロッドの軸受と摺動する部分である。フィレット部122は、平行部121とスラスト壁14とを繋ぐ部分であって、応力集中を緩和するために滑らかな形状に形成されている。
【0017】
本実施形態によるクランクシャフト10は、平行部121の一定以上の長さの範囲において表層の組織がフェライト・パーライトを主体とする組織であり、フィレット部122の表層の組織がマルテンサイトを主体とする組織である。以下、平行部121及びフィレット部122の各々の組織分布について詳述する。
【0018】
[平行部121の組織及び硬さ]
本実施形態では、平行部121のうちの長さL1の範囲において、表面から深さd1までの組織(図2の領域121aの組織)が、87.5体積%以上のフェライト・パーライトを含む組織である。ここで、長さL1は平行部121の長さLの15.0%以上であり、深さd1は平行部121の半径Rの6.0%以上である。ここでの「フェライト・パーライト」は、フルパーライトを含むものとする。
【0019】
この構成によれば、マルテンサイト変態による変態膨張が小さくなり、クランクシャフト10の焼曲がりを抑制することができる。
【0020】
長さL1は、平行部121の長さLの15.0%以上である。焼曲がりを小さくする観点では、長さL1は大きいほど好ましい。長さL1の下限は、好ましくは長さLの30.0%であり、より好ましくは長さLの50.0%であり、さらに好ましくは長さLの70.0%であり、さらに好ましくは長さLの80.0%である。一方、長さL1が大きすぎると、フィレット部122の表層の組織をマルテンサイト主体の組織にすることが困難になる場合がある。長さL1の上限は、好ましくは長さLの95.0%である。
【0021】
平行部121の長さL1の範囲において、表面から深さd1までの組織が87.5体積%以上のフェライト・パーライトを含む組織であれば、焼曲がりを抑制する効果が得られる。深さd1よりも深い位置の組織は任意である。平行部121の長さL1の範囲における組織は、芯部までフェライト・パーライトを主体とする組織であってもよい。深さd1は、好ましくは半径Rの50.0%以上であり、より好ましくは半径Rの80.0%以上であり、さらに好ましくは半径Rの100.0%である。ここで、深さd1が半径Rの100.0%であることは、平行部121の長さL1の範囲における組織が、芯部までフェライト・パーライトを主体とする組織であることを意味する。
【0022】
平行部121のうちの長さL1の範囲における表面から深さd1までの硬さ(図2の領域121aの硬さ)は、HV400以下であることが好ましい。領域121aの硬さは、クランクシャフト10の軸方向と平行な断面(縦断面)を測定面とするサンプルを採取し、測定面をJIS Z 2244(2009)に準拠して測定するものとする。試験力は300gf(2.942N)とする。領域121aの硬さは、好ましくはHV350以下であり、さらに好ましくはHV320以下である。領域121aの硬さの下限は、例えばHV220である。
【0023】
[フィレット部122の組織及び硬さ]
本実施形態では、フィレット部122の表面から深さd2までの組織(図2の領域122aの組織)が、87.5体積%以上のマルテンサイトを含む組織である。ここで、深さd2は平行部121の半径Rの6.0%以上である。深さd2は、深さd1と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0024】
フィレット部122は、ピン部12において最も強い応力が加わる部分である。また、クランクシャフト10で問題となる曲げ疲労は、部品の表層部の特性の影響が支配的である。そのため、フィレット部122の表面から深さd2までの組織をマルテンサイト主体の組織にすることで、所定の疲労強度を確保することができる。
【0025】
深さd2よりも深い位置の組織は任意である。フィレット部122の組織は、芯部までマルテンサイトを主体とする組織であってもよい。疲労強度を確保する観点からは、深さd2は大きいほど好ましい。深さd2の下限は、好ましくは半径Rの8.0%であり、より好ましくは半径Rの10.0%であり、さらに好ましくは半径Rの12.0%である。一方、フィレット部122の焼入れ深さが大きすぎると、平行部121にフェライト・パーライト主体の組織を確保することが困難になる場合がある。深さd2の上限は、好ましくは半径Rの30.0%であり、より好ましくは半径Rの25.0%であり、さらに好ましくは半径Rの20.0%である。
【0026】
フィレット部122の表面から深さd2までの硬さ(図2の領域122aの硬さ)は、HV580以上であることが好ましい。領域122aの硬さは、クランクシャフト10の軸方向と平行な断面(縦断面)を測定面とするサンプルを採取し、測定面をJIS Z 2244(2009)に準拠して測定するものとする。試験力は300gf(2.942N)とする。領域122aの硬さは、好ましくはHV600以上であり、さらに好ましくはHV620以上である。領域122aの硬さの上限は、例えばHV800である。
【0027】
[ジャーナル部11の構成]
図示は省略するが、ジャーナル部11もピン部12と同様に、一定の外径を有する平行部と、平行部に連続的に形成されたフィレット部とを有している。
【0028】
ジャーナル部11においても、ピン部12の場合と同様に、平行部の長さの少なくとも15.0%の長さにおいて、表面から平行部の半径の少なくとも6.0%の深さまでの組織が、87.5体積%以上のフェライト・パーライトを含む組織である。また、ジャーナル部11においても、ピン部12の場合と同様に、フィレット部の表面から平行部の半径の少なくとも6.0%の深さまでの組織が、87.5体積%以上のマルテンサイトを含む組織である。
【0029】
この構成によれば、ピン部12の場合と同様に、所定の疲労強度を確保しつつ、クランクシャフト10の焼曲がりを小さくすることができる。平行部において組織をフェライト・パーライト主体の組織とする領域の好適な大きさや同領域の硬さの好適範囲、及びフィレット部において組織をマルテンサイト主体の組織とする領域の好適な大きさや同領域の硬さの好適範囲は、ピン部12の場合と同じである。
【0030】
ジャーナル部11及びピン部12以外の部分(例えばアーム部13)の組織や硬さは任意である。
【0031】
[クランクシャフトの製造方法]
次に、クランクシャフト10の製造方法の一例を説明する。以下に説明する製造方法は、あくまでも例示であって、クランクシャフト10の製造方法を限定するものではない。
【0032】
図3は、クランクシャフト10の製造方法の一例を示すフロー図である。この製造方法は、素材を準備する工程(ステップS1)、熱間鍛造工程(ステップS2)、熱処理工程(ステップS3)、機械加工工程(ステップS4)、焼入れ工程(ステップS5)、及び仕上加工工程(ステップS6)を備えている。以下、各工程を詳述する。
【0033】
クランクシャフト10の素材を準備する(ステップS1)。素材は、例えば棒鋼である。素材は例えば、所定の化学組成を有する溶鋼を連続鋳造又は分塊圧延して製造することができる。
【0034】
素材を熱間鍛造してクランクシャフトの粗形状にする(ステップS2)。熱間鍛造は、粗鍛造と仕上鍛造とに分けて実施してもよい。
【0035】
熱間鍛造によって製造されたクランクシャフトの粗形品に対して、必要に応じて焼準し等の熱処理を実施する(ステップS3)。熱処理工程(ステップS3)は任意の工程であり、クランクシャフトの要求特性等によってはこの工程を省略してもよい。
【0036】
クランクシャフトの粗形品を機械加工する(ステップS4)。機械加工は、切削加工や研削加工、孔開け加工等である。この工程により、最終製品に近い形状を有する中間品が製造される。
【0037】
機械加工されたクランクシャフトの中間品を焼入れする(ステップS5)。具体的には、所定の加熱温度に加熱した後、急冷する。このとき、例えば高周波誘導加熱装置によってジャーナル部11のフィレット部の近傍及びピン部12のフィレット部122の近傍のみを加熱し、ジャーナル部11の平行部及びピン部12の平行部121ができるだけ加熱されないようにする。加熱箇所は、誘導コイルの形状、誘導コイルと対象部分との距離、出力周波数等によって調整することができる。この焼入れは、複数回に分けて実施してもよい。加熱温度は、Ac点以上であり、好ましくは900℃以上である。加熱後の急冷は、好ましくは水冷である。なお、焼入れ後の中間品に対して、焼割れを抑制するため、組織に大きな影響を与えない温度での低温焼戻しを実施してもよい。
【0038】
焼入れ後の中間品に対して、必要に応じて仕上加工を実施する(ステップS6)。例えばジャーナル部11及びピン部12に研削やラッピングを施して表面形状を調整する。
【0039】
以上、本発明の一実施形態によるクランクシャフト10の構成及びその製造方法の一例を説明した。本実施形態によれば、焼曲がりが抑制されたクランクシャフトが得られる。
【0040】
上述した実施形態では、ジャーナル部11及びピン部12の両方において、平行部の一定以上の長さの範囲における表層の組織がフェライト・パーライトを主体とする組織であり、フィレット部の表層の組織がマルテンサイトを主体とする組織である場合を説明した。しかしクランクシャフト10は、ジャーナル部11及びピン部12の一方のみが、上述した組織分布を備えていてもよい。ジャーナル部11及びピン部12の少なくとも一方が上述した組織分布を備えていれば、焼曲がりを小さくする効果を得ることができる。
【0041】
ジャーナル部11とピン部12とを比較した場合、ピン部12の方が、焼曲がりが大きくなりやすい。これは、ピントップ15(図2)の熱容量が小さいためである。そのため、ジャーナル部11及びピン部12の一方のみを上述した組織分布にする場合、ピン部12を上述した組織分布にすることが好ましい。この場合、ピントップ15をより小さくすることができるため、クランクシャフト10の軽量化にも寄与する。もっとも、焼曲がりをより小さくするという観点では、ジャーナル部11及びピン部12の両方を上述した組織分布にすることが好ましい。
【実施例
【0042】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明する。本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0043】
有限要素法により、クランクシャフトのピン部の焼曲がりのシミュレーションを行った。図4図6に、このシミュレーションで使用した3次元解析モデルを示す。図4はこのモデルの斜視図、図5は正面図、図6はピントップ近傍の拡大図である。図5及び図6に示すように、スラスト間距離を21.0mm、平行部長さLを15.0mm、平行部半径Rを24.0mm、フィレット部曲率半径を3.0mmとして、計算負荷低減のためピントップ側半分の領域だけをモデル化した。各種計算にはS45Cの材料定数を使用した。
【0044】
このクランクシャフトを高周波焼入れしたときの組織及び硬さの分布、並びに変位量を計算した。図7及び図8は、このシミュレーションでの誘導コイルの配置を示す断面図である。図7の配置では、フィレット部の近傍のみに誘導コイルを配置している。図8の配置では、フィレット部の近傍に加えて、平行部の近傍にも誘導コイルを配置している。これらの誘導コイルを用いて、出力周波数を10kHz、通電時間を22秒として誘導加熱し、加熱後、水冷を模擬して熱伝達率を40kW/(mK)として20℃まで冷却した。結果を表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
表1において、「コイル配置」の欄が「フィレット部」となっているものは、図7のコイル配置で高周波焼入れを行った場合を模擬したデータであり、同欄が「フィレット部+平行部」となっているものは、図8のコイル配置で高周波焼入れを行った場合を模擬したデータである。「電流」の欄の値は、誘導コイルに流した電流値であり、No.6の電流値を100%とした相対値で記載している。
【0047】
「ピントップx方向変位」の欄の値は、図6の点P2の位置における、クランクシャフトの軸方向と平行な方向の変位量であり、平行部長さ(15.0mm)に対する割合いとして記載している。「ピントップy方向変位」の欄の値は、図6の点P2の位置における、クランクシャフトの軸方向と垂直な方向の変位量であり、平行部の半径(24.0mm)に対する割合いとして記載している。「平行部y方向変位」の欄の値は、図5の点P1の位置における、クランクシャフトの軸方向と垂直な方向の変位量であり、平行部の半径(24.0mm)に対する割合いとして記載している。
【0048】
図9A図9Dはそれぞれ、No.1、No.3、No.5、及びNo.6の組織分布を示す等高線図である。これらの図中の「M≧87.5%」は、マルテンサイトの体積率が87.5%以上である領域を示しており、「α+P≧87.5%」は、フェライト・パーライトの体積率が87.5%以上である領域を示している。
【0049】
表1に示すとおり、L1/Lが15.0%以上であったNo.1~No.4は、L1/Lが15.0%未満であったNo.5、6と比較して、焼曲がりが小さく、特にピントップのx方向の変位量が小さくなっている。
【0050】
以上、本発明の一実施形態を説明したが、上述した実施形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施形態を適宜変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0051】
10 クランクシャフト
11 ジャーナル部
12 ピン部
121 平行部
122 フィレット部
13 アーム部
14 スラスト壁
15 ピントップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図9C
図9D