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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-08
(45)【発行日】2024-10-17
(54)【発明の名称】電源装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/12 20060101AFI20241009BHJP
【FI】
H02M7/12 F
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020178727
(22)【出願日】2020-10-26
(65)【公開番号】P2022069838
(43)【公開日】2022-05-12
【審査請求日】2023-09-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000004709
【氏名又は名称】株式会社ノーリツ
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内倉 政治
(72)【発明者】
【氏名】土屋 友範
【審査官】今井 貞雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-111416(JP,A)
【文献】特開2005-192266(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部の交流電源と一対の交流電源ラインを介して接続され、前記交流電源からの交流入力電圧を整流して機器を駆動する電圧を生成する電圧生成回路と、
前記一対の交流電源ラインに接続され、前記交流入力電圧を昇圧する昇圧回路と、
前記一対の交流電源ラインに接続され、前記交流入力電圧のゼロクロス領域を検出するゼロクロス検出回路と、
前記ゼロクロス検出回路の検出結果に基づいて、前記昇圧回路に対して前記交流入力電圧1周期あたり1パルスのスイッチングを行うためのPAM信号を生成する制御部と、を備え、
前記昇圧回路は、前記PAM信号を契機として前記交流入力電圧を所定電圧まで昇圧するように構成され、
前記ゼロクロス検出回路は、前記ゼロクロス領域を検出しているときに第1状態から第2状態に変化するような矩形信号を出力し、
前記制御部は、
過去の交流入力電圧周期において検出された前記矩形信号の少なくとも1周期分における前記第2状態の時間幅に応じて遅延時間を決定し、以後の交流入力電圧周期において前記矩形信号が前記第1状態から前記第2状態に変化してから前記遅延時間経過後に前記PAM信号を出力し、
前記時間幅の半分の時間から所定の余裕時間を差し引いた時間を前記遅延時間に決定する、電源装置。
【請求項2】
前記制御部は、前回検出した前記矩形信号の1周期分における前記第2状態の時間幅に応じて次回の交流入力電圧周期において用いる前記遅延時間を決定する、請求項1記載の電源装置。
【請求項3】
前記ゼロクロス検出回路は、交流入力対応のフォトカプラを備えている、請求項1または2に記載の電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、外部の交流電源からの交流入力電力を整流して直流電力に変換し、コンプレッサ等の機器を駆動する電圧を生成する電源装置が知られている。このような電源装置においては、交流電源からの交流入力電圧を昇圧する昇圧回路が設けられる。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、交流入力電圧のゼロ点を検出し、ゼロ点の検出と同時か所定時間遅延した後に所定の幅のオン信号を1パルス生成する構成(1パルスモード)が開示されている。このような1パルス昇圧方式の昇圧回路を採用することにより、コストと効率とのバランスが良好な電源回路とすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-14076号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、ゼロ点を検出するためのゼロクロス検出回路は、交流入力電圧の絶対値が基準電圧以下になったことで第1状態(第1電圧)から第2状態(第2電圧)に変化し、電圧0(ゼロ点)を経て再び交流入力電圧の絶対値が基準電圧以上になったことで第2状態から第1状態に戻るような矩形信号を出力するように構成されている。すなわち、ゼロクロス検出回路は、ゼロクロスの瞬間を検出するのではなく、ゼロ点近傍において時間幅のあるゼロクロス領域を検出する。
【0006】
このため、特許文献1では、ゼロ点(ゼロクロス検出回路)の検出から所定時間遅延した後に昇圧を開始するようにしている。
【0007】
しかし、このゼロクロス領域における時間幅は、交流入力電圧のばらつきによって変化する。外部の交流電源は、商用電源等が想定されるが、このような商用電源にはそのときの負荷状況によってばらつき(ある程度の時間幅を持った瞬間的でないばらつき)が生じ得る。また、ゼロクロス領域における時間幅は、ゼロクロス検出回路における回路定数のばらつき、ゼロクロス検出回路に用いられるフォトカプラの経年劣化等によっても変化し得る。このようにゼロクロス領域における時間幅が変化すると、昇圧回路において昇圧を開始するタイミングが交流入力電圧のゼロ点を基準とする所望のタイミングからずれてしまう。昇圧を開始するタイミングが所望のタイミングからずれると、所望の電圧まで昇圧できなかったり、損失やノイズが大きくなり、場合によっては昇圧回路のスイッチ素子に破損が生じたりする恐れがある。
【0008】
本発明は、以上のような課題を解決すべくなされたものであり、ゼロクロス検出回路における検出結果に基づいて所望のタイミングで昇圧を開始することができる電源装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係る電源装置は、外部の交流電源と一対の交流電源ラインを介して接続され、前記交流電源からの交流入力電圧を整流して機器を駆動する電圧を生成する電圧生成回路と、前記一対の交流電源ラインに接続され、前記交流入力電圧を昇圧する昇圧回路と、前記一対の交流電源ラインに接続され、前記交流入力電圧のゼロクロス領域を検出するゼロクロス検出回路と、前記ゼロクロス検出回路の検出結果に基づいて、前記昇圧回路に対して前記交流入力電圧1周期あたり1パルスのスイッチングを行うためのPAM信号を生成する制御部と、を備え、前記昇圧回路は、前記PAM信号を契機として前記交流入力電圧を所定電圧まで昇圧するように構成され、前記ゼロクロス検出回路は、前記ゼロクロス領域を検出しているときに第1状態から第2状態に変化するような矩形信号を出力し、前記制御部は、過去の前記矩形信号の少なくとも1周期分における前記第2状態の時間幅に応じて遅延時間を決定し、以後の交流入力電圧周期において前記矩形信号が前記第1状態から前記第2状態に変化してから前記遅延時間経過後に前記PAM信号を出力するように構成される。
【0010】
上記構成によれば、ゼロクロス領域の開始タイミング(第1状態から第2状態に変化したタイミング)から遅延時間経過後に昇圧回路にPAM信号が送信され、昇圧回路において1パルス昇圧動作が開始される。遅延時間は、過去の交流入力電圧周期におけるゼロクロス領域の時間幅に基づいて決定される。したがって、交流入力電圧のばらつき、回路定数のばらつき、フォトカプラの経年劣化等によりゼロクロス領域の時間幅が変化したとしても、ゼロクロス検出回路における検出結果に基づいて所望のタイミングで昇圧を開始することができる。
【0011】
前記制御部は、前記時間幅の半分の時間から所定の余裕時間を差し引いた時間を前記遅延時間に決定してもよい。ゼロクロス領域の開始端から過去のゼロクロス領域の時間幅の半分の時間が経過した時点をゼロ点とみなすことにより、簡単かつ確度の高いゼロ点位置を設定することができる。また、ゼロ点位置から余裕時間を差し引いたタイミングで昇圧を開始することにより、ゼロ点を過ぎてから昇圧されることによる昇圧回路におけるスイッチ素子の破損を抑制することができる。
【0012】
前記制御部は、前回検出した前記矩形信号の1周期分における前記第2状態の時間幅に応じて次回の交流入力電圧周期において用いる前記遅延時間を決定してもよい。直近のゼロクロス領域の時間幅を用いて次回の遅延時間を決定することにより、最新の状態に基づいて遅延時間を決定することができ、演算を複雑化することなく昇圧の開始タイミングを適正化することができる。
【0013】
前記ゼロクロス検出回路は、交流入力対応のフォトカプラを備えていてもよい。これにより、簡単な構成で交流入力電圧を入力とするゼロクロス検出回路を実現することができる。
【発明の効果】
【0014】
一態様によれば、ゼロクロス検出回路における検出結果に基づいて所望のタイミングで昇圧を開始することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、一実施の形態に係る電源装置の概略構成を示す回路図である。
図2図2は、図1に示すゼロクロス検出回路13の一例における概略構成を示す回路図である。
図3図3は、本実施の形態において交流入力電圧に応じてゼロクロス検出回路が生成する矩形信号を示すグラフである。
図4図4は、交流入力電圧の実効値が変化した場合のゼロクロス領域の変化を説明するためのグラフである。
図5図5は、本実施の形態におけるPAM信号の出力タイミングを説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。
【0017】
図1は、一実施の形態に係る電源装置の概略構成を示す回路図である。図1に示すように、本実施の形態における電源装置1は、外部の交流電源2と一対の交流電源ライン3a,3bを介して接続され、交流電源2からの交流入力電圧Vinを整流して機器を駆動する電圧Vdrを生成する電圧生成回路4を備えている。
【0018】
電圧生成回路4は、複数のダイオードおよび複数のコンデンサを含むインバータ回路を構成する。図1の例では、電圧生成回路4は、ダイオードブリッジ回路5および複数のコンデンサ回路部6を用いた倍電圧整流回路として構成される。平滑コンデンサ7に印加される電圧が機器を駆動する電圧Vdrとなる。
【0019】
電圧生成回路4で生成された電圧Vdrにより駆動される機器は、例えば、給湯装置の電気温水器に設けられるヒートポンプのコンプレッサ、送風ファン等である。
【0020】
さらに、電源装置1は、一対の交流電源ライン3a,3bに接続された昇圧回路8を備えている。昇圧回路8は、後述するPAM信号SPAMを契機として交流入力電圧Vinを所定電圧まで昇圧する。昇圧回路8は、PAM信号SPAMを契機としてスイッチングを行うスイッチ素子9と、一対の交流電源ライン3a,3bの一方(交流電源ライン3a)に介挿されたインダクタ(コイル)10と、インダクタ10の交流電源2に接続される第1端部とは反対側の第2端部に接続されるブリッジダイオード11と、ブリッジダイオード11における一対の直流側端部に接続される平滑コンデンサ12と、を備えている。
【0021】
スイッチ素子9は、平滑コンデンサ12に並列に接続される。スイッチ素子9は、例えばFET(電界効果トランジスタ)である。スイッチ素子9がオン(主端子間が導通状態)のとき、インダクタ10にエネルギーが蓄えられ、そのインダクタ10に蓄えられていたエネルギーがスイッチ素子9のオフ期間にブリッジダイオード5を介して電圧生成回路4に入力される。これにより、電圧生成回路4に入力される交流入力電圧Vinが所定電圧まで昇圧される。
【0022】
ここで、PAM信号SPAMによりスイッチ素子9がオンになるタイミング(すなわち、インダクタ10にエネルギーを蓄え出すタイミング)は、交流入力電圧Vinがゼロクロスする時点(0点)が好ましい。これにより、損失やノイズ等の発生を抑制できるからである。
【0023】
そのために、電源装置1は、ゼロクロス検出回路13および制御部(コントローラ)14を備えている。ゼロクロス検出回路13は、一対の交流電源ライン3a,3bに接続され、交流入力電圧Vinのゼロクロス領域A(i=1,2,…)を検出する。制御部14は、ゼロクロス検出回路13の検出結果に基づいて、昇圧回路8に対して交流入力電圧1周期あたり1パルスのスイッチングを行うためのPAM信号SPAMを生成する。
【0024】
図2は、図1に示すゼロクロス検出回路13の一例における概略構成を示す回路図である。また、図3は、本実施の形態において交流入力電圧に応じてゼロクロス検出回路が生成する矩形信号を示すグラフである。図2に示す例では、ゼロクロス検出回路13は、交流入力電圧Vinの大きさ(絶対値)が所定電圧Vth以下になったこと(交流入力電圧Vinが-Vth以上かつVth以下になったこと)を検出するゼロクロス領域検出部15と、ゼロクロス領域検出部15の検出結果に応じた状態信号(矩形信号)Sを生成する信号生成部16と、を備えている。
【0025】
図2に示す例において、ゼロクロス領域検出部15は、交流入力対応のフォトカプラで構成される。交流入力対応のフォトカプラは、入力される交流電圧が正の領域で発光する発光ダイオードと、入力される交流電圧が負の領域で発光する発光ダイオードと、各発光ダイオードの光を受けて電流を生じさせる受光素子(例えばフォトトランジスタ等)とを備えている。
【0026】
これにより、交流入力電圧Vinが正の領域でも負の領域でも電圧の大きさが所定電圧Vth以上の電圧が生じた場合には何れかの発光ダイオードが発光し、受光素子がその発光を検出することにより、受光素子に電流が流れる。すなわち、交流入力電圧Vinの大きさが所定電圧Vth以下のゼロクロス領域Aである場合、何れの発光ダイオードも発光しないため、電流が流れなくなる。交流入力対応のフォトカプラを用いることにより、簡単な構成で交流入力電圧Vinを入力とするゼロクロス検出回路13を実現することができる。
【0027】
なお、ゼロクロス検出回路13は、ゼロクロス領域検出部15の前段に、交流入力電圧Vinを降圧する降圧部17を備えている。降圧部17は、交流入力電圧Vinを分圧する分圧抵抗と分圧された電圧を平滑する平滑コンデンサとを含む。降圧部17で交流入力電圧Vinから降圧された交流電圧がゼロクロス領域検出部15に入力される。
【0028】
さらに、ゼロクロス検出回路13は、ゼロクロス領域検出部15の受光素子の両端部に印加される電圧を平滑する平滑部18を備えている。平滑部18は、ゼロクロス領域検出部15の受光素子の両端部に接続されるコンデンサおよび抵抗により構成される。
【0029】
信号生成部16は、平滑部18で平滑化された直流電流により動作するトランジスタを備え、トランジスタに電流が流れないときに第1電圧V1を出力電圧Voutとして出力し、トランジスタに電流が流れたときに第2電圧V2を出力電圧Voutとして出力する。本実施の形態では、第2電圧V2は第1電圧V1より低い電圧である。したがって、信号生成部16が出力する電圧信号は、第1電圧V1を出力する第1状態(ハイ状態)と第2電圧V2を出力する第2状態(ロー状態)との間で電圧が変化する矩形信号Sとなる。
【0030】
本実施の形態において、ゼロクロス領域検出部15のフォトカプラが発光することにより受光素子に電流が流れると、信号生成部16のトランジスタには電流が流れない。この結果、信号生成部16の出力電圧Voutは、第1電圧V1となる。また、ゼロクロス領域検出部15のフォトカプラが発光しない場合、受光素子には電流が流れない。この結果、信号生成部16のトランジスタに電流が流れ、出力電圧Voutは、第2電圧V2となる。
【0031】
図3の上側のグラフは、交流入力電圧Vinのグラフであり、下側のグラフは、対応する矩形信号Sのグラフである。図3に示すように、ゼロクロス領域A(i=1,2,…)は、ゼロクロス検出回路13が出力する矩形信号Sにおける第2状態の期間(出力電圧Voutが第2電圧Vである期間。時間幅T)として表される。すなわち、ゼロクロス検出回路13は、ゼロクロス領域Aを検出しているときに第1状態から第2状態に変化するような矩形信号Sを出力する。
【0032】
制御部14は、CPU、ROM、およびRAM等で構成されたマイクロコントローラや集積回路を備えている。また、制御部14は、時間を計測するためのタイマを備えている。制御部14には、ゼロクロス検出回路13が出力する矩形信号Sが入力される。
【0033】
制御部14は、矩形信号Sが第1状態から第2状態に変化した時刻t1(i=1,2,…)に基づいてPAM信号SPAMを出力する。ここで、時刻t1から所定の固定時間経過後にPAM信号SPAMを出力すると以下のような問題が生じる。
【0034】
図4は、交流入力電圧の実効値が変化した場合のゼロクロス領域の変化を説明するためのグラフである。図4の上側のグラフは、交流入力電圧Vinのグラフであり、下側のグラフは、対応する矩形信号Sのグラフである。図4においては交流入力電圧のゼロクロス領域近傍の電圧変化を拡大(かつ誇張)して示している。
【0035】
交流入力電圧Vinは、様々な要因でばらつきを生じる。図4に示すように、例えば、交流入力電圧Vinaから実効値がより高い交流入力電圧Vinbに変化した場合を考える。このとき、ゼロ点の近傍における交流入力電圧Vina,Vinbの単位時間あたりの変化量は、実効値がより高い交流入力電圧Vinbの方が交流入力電圧Vinaに比べて大きくなる(傾きがより急峻になる)。
【0036】
したがって、交流入力電圧Vinbの負の領域から0点に近づく際に交流入力電圧Vinbの大きさが所定電圧Vth未満(交流入力電圧Vinbが-Vth以上)となるタイミングは、交流入力電圧Vinaの場合と比べて遅くなり、その後に0点を過ぎて交流入力電圧Vinbが所定電圧Vth以上となるタイミングは、交流入力電圧Vinaの場合と比べて早くなる。交流入力電圧Vinbの正の領域から0点に近づく際も同様である。
【0037】
このため、ゼロクロス検出回路13で検出される交流入力電圧Vinbのゼロクロス領域Abは、交流入力電圧Vinaのゼロクロス領域Aaに比べて時間幅が短くなる(Tb<Ta)。ある例において、交流入力電圧の実効値が85Vのときのゼロクロス領域の時間幅が1.25msであるのに対し、交流入力電圧が125Vに変化すると、そのときのゼロクロス領域の時間幅は1.0msになる。時間幅TbがTaより短くなると、矩形信号Sにおける第1状態から第2状態への変化タイミングt1bも、交流入力電圧Vinaにおける変化タイミングt1aに比べて遅くなる。この結果、第1状態から第2状態への変化タイミングt1a,t1bの情報だけでは、正確なゼロ点のタイミングが分からない。すなわち、第1状態から第2状態への変化タイミングt1a,t1bからの遅延時間を固定の時間とすると昇圧を開始するタイミングが実際のゼロ点のタイミングからずれてしまうという問題がある。
【0038】
そこで、本実施の形態における制御部14は、過去の矩形信号Sの少なくとも1周期分における第2状態の時間幅Ti’を計測し、第1状態から第2状態への変化タイミングt1a,t1bの情報と合わせてPAM信号SPAMの出力タイミングを決定する。
【0039】
図5は、本実施の形態におけるPAM信号の出力タイミングを説明するためのグラフである。図5において、上側のグラフが矩形信号Sのグラフであり、下側のグラフがPAM信号SPAMのグラフである。
【0040】
図5の例では、制御部14は、内蔵されたタイマにより前回検出した矩形信号Sの1周期分における第2状態の時間幅Ti-1を計測する。制御部14は、計測した時間幅Ti-1の半分の時間から所定の余裕時間Toffを差し引いた時間を遅延時間Tdi(Tdi=Ti-1/2-Toff)に決定する。制御部14は、次回の周期(i番目の周期)においてゼロクロス検出回路13によって検出された第1状態から第2状態への変化タイミングt1から、決定した遅延時間Tdi経過後にPAM信号SPAMを出力する(立ち上げる)。
【0041】
余裕時間Toffは、周期ごとのゼロ点のずれを考慮して各周期においてゼロ点を経過した後にPAM信号SPAMを出力することがないような値に設定される。ゼロ点を経過する前にPAM信号SPAMが出力される場合より、ゼロ点を経過した後にPAM信号SPAMが出力された場合の方が、デメリット(ノイズや損失の増大、スイッチ素子9の破損等)が大きいため、余裕時間Toffを設定し、交流入力電圧Vinにばらつきが生じてもゼロ点を経過するまでにPAM信号SPAMを出力することで、上記デメリットが生じるのを抑制することができる。
【0042】
ただし、交流入力電圧Vinにおける瞬間的なばらつきが小さい場合等には、余裕時間Toffは設定しないように(Toff=0に)してもよい。
【0043】
上記構成によれば、ゼロクロス領域Aの開始タイミング(第1状態から第2状態に変化したタイミングt1)から遅延時間Tdi経過後に昇圧回路8にPAM信号SPAMが送信され、昇圧回路8において1パルス昇圧動作が開始される。遅延時間Tdiは、過去の交流入力電圧周期におけるゼロクロス領域の時間幅Ti-1に基づいて決定される。したがって、交流入力電圧Vinのばらつき、回路定数のばらつき、フォトカプラ(ゼロクロス領域検出部15)の経年劣化等によりゼロクロス領域Aiの時間幅Tが変化したとしても、ゼロクロス検出回路13における検出結果に基づいて所望のタイミングで昇圧を開始することができる。
【0044】
また、本実施の形態においては、ゼロクロス領域Aの開始タイミングt1から過去のゼロクロス領域Ai’の時間幅Ti’の半分の時間が経過した時点をゼロ点とみなすことにより、簡単かつ確度の高いゼロ点位置を設定することができる。また、ゼロ点位置から余裕時間Toffを差し引いたタイミングで昇圧を開始することにより、ゼロ点を過ぎてから昇圧されることによる昇圧回路8におけるスイッチ素子9の破損を抑制することができる。
【0045】
また、本実施の形態においては、直近のゼロクロス領域Ai-1の時間幅Ti-1を用いて次回の遅延時間Tdiを決定することにより、最新の状態に基づいて遅延時間Tdiを決定することができ、演算を複雑化することなく昇圧の開始タイミングを適正化することができる。
【0046】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変更、修正が可能である。
【0047】
例えば、上記実施の形態においては、直近のゼロクロス領域Ai-1の時間幅Ti-1を用いて次回の遅延時間Tdiを決定する態様を例示したが、これに限られず、前回までのゼロクロス領域Ai’の時間幅Ti’(少なくとも一周期分)を用いて次回の遅延時間Tdiを決定すればよい。例えば、前回までの複数周期分のゼロクロス領域Ai’の時間幅Ti’の平均値(移動平均値等)を用いて次回の遅延時間Tdiが決定されてもよい。
【0048】
また、計測された時間幅Ti’が予め定められた基準範囲外(上限値以上および/または下限値以下)となった場合には、上限値または下限値を用いて次回の遅延時間Tdiが決定されてもよいし、複数周期分のゼロクロス領域Ai’の時間幅Ti’を用いる場合では、基準範囲外となった周期の時間幅Ti’は遅延時間Tdiを決定する時間幅として使用しない(除外する)ようにしてもよい。
【0049】
また、あるタイミングで取得した時間幅Ti’を用いて遅延時間Tdiを決定し、以後の複数周期で同じ遅延時間Tdiを使用してもよい。すなわち、本発明は、遅延時間Tdiを毎周期決定する態様に限られず、所定期間ごとまたは所定周期ごとに遅延時間Tdiを更新するようにしてもよい。
【0050】
また、電圧生成回路4、昇圧回路8および/またはゼロクロス検出回路13は、上記実施の形態で説明した態様に限られず、種々の回路が適用可能である。例えば、電圧生成回路4は、倍電圧整流回路に限られず、種々のインバータ回路が採用可能である。また、昇圧回路8は、PAM信号SPAMを契機として交流入力電圧1周期あたり1パルスのスイッチングを行うことにより、昇圧動作するような回路であればよい。また、ゼロクロス検出回路13は、ゼロクロス領域Aを検出可能な回路であればよく、例えば直流駆動のフォトカプラと全波整流回路とを組み合わせてゼロクロス検出回路13が構成されてもよい。
【0051】
また、上記実施の形態の電源装置は、種々の機器の電源電圧を生成するための電源装置に適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、ゼロクロス検出回路における検出結果に基づいて所望のタイミングで昇圧を開始することができる電源装置を提供するために有用である。
【符号の説明】
【0053】
1 電源装置
2 交流電源
3a,3b 一対の交流電源ライン
4 電圧生成回路
8 昇圧回路
13 ゼロクロス検出回路
14 制御部
15 ゼロクロス領域検出部(交流入力対応のフォトカプラ)
図1
図2
図3
図4
図5