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特許7568909温度上昇検出方法、変圧器および変圧装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-08
(45)【発行日】2024-10-17
(54)【発明の名称】温度上昇検出方法、変圧器および変圧装置
(51)【国際特許分類】
   H01F 27/00 20060101AFI20241009BHJP
   H01F 27/26 20060101ALI20241009BHJP
【FI】
H01F27/00 A
H01F27/26 130A
H01F27/26 130T
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020185699
(22)【出願日】2020-11-06
(65)【公開番号】P2022075122
(43)【公開日】2022-05-18
【審査請求日】2023-07-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104547
【弁理士】
【氏名又は名称】栗林 三男
(74)【代理人】
【識別番号】100206612
【弁理士】
【氏名又は名称】新田 修博
(74)【代理人】
【識別番号】100209749
【弁理士】
【氏名又は名称】栗林 和輝
(74)【代理人】
【識別番号】100217755
【弁理士】
【氏名又は名称】三浦 淳史
(72)【発明者】
【氏名】溝上 雅人
【審査官】久保田 昌晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-186991(JP,A)
【文献】特公昭59-052627(JP,B2)
【文献】特開平09-074023(JP,A)
【文献】特開2012-028394(JP,A)
【文献】特開2016-184637(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 27/00、27/26、27/40、30/00-30/16
H01F 41/00
H02H 5/04-5/06、7/04-7/055
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻線と、方向性電磁鋼板を用いた鉄心と、熱膨張しようとする前記鉄心に対して圧縮応力を発生させる拘束部材と、を有する変圧器において、
2次電圧と1次電流と2次電流とをそれぞれ検出し、
変圧器の温度上昇の検出に係るタイミングとして、2次電圧の半周期の期間を、2次電圧が0Vとなる時点を始点として0%から100%と表したときに、その5%から28%の範囲内に含まれるタイミングを判定し、
1次側に換算した2次電流を1次電流から差し引いて得られる励磁電流について、前記タイミングにおける前記励磁電流を予め設定された基準値と比較し、前記拘束部材によって前記鉄心に発生する圧縮応力により増加する前記励磁電流が前記基準値を上回る場合に過昇温であると判定する温度上昇検出方法。
【請求項2】
巻線と、方向性電磁鋼板を用いた鉄心と、熱膨張しようとする前記鉄心に対して圧縮応力を発生させる拘束部材と、を有する変圧器において、
2次電圧と1次電流と2次電流とをそれぞれ検出し、
変圧器の温度上昇の検出に係るタイミングとして、2次電圧の電圧最大値を100%として表したときに、2次電圧が16%から77%の範囲内となり、かつ2次電圧の絶対値が増加しているタイミングを判定し、
1次側に換算した2次電流を1次電流から差し引いて得られる励磁電流について、前記タイミングにおける前記励磁電流を予め設定された基準値と比較し、前記拘束部材によって前記鉄心に発生する圧縮応力により増加する前記励磁電流が前記基準値を上回る場合に過昇温であると判定する温度上昇検出方法。
【請求項3】
2つのヨークを有する積鉄心と、
前記2つのヨークそれぞれを加圧する2つのクランプと、
前記2つのクランプを締結する部材と、を有する変圧器であって、
前記部材は、熱膨張しようとする前記積鉄心に対して圧縮応力を発生させる拘束部材として機能し、
前記部材の全体または一部が、前記積鉄心の線膨張係数よりも小さい線膨張係数を有する材料で形成された、請求項1または2に記載の温度上昇検出方法が適用される変圧器。
【請求項4】
巻鉄心と、
前記巻鉄心の外周に巻き回された部材と、を有する変圧器であって、
前記部材は、熱膨張しようとする前記巻鉄心に対して圧縮応力を発生させる拘束部材として機能し、
前記部材の全体または一部が、前記巻鉄心の線膨張係数よりも小さい線膨張係数を有する材料で形成された、請求項1または2に記載の温度上昇検出方法が適用される変圧器。
【請求項5】
巻鉄心と、
前記巻鉄心の外周に巻き回された部材と、
前記巻鉄心と前記部材との間に配置された断熱材と、を備え
前記部材は、熱膨張しようとする前記巻鉄心に対して圧縮応力を発生させる拘束部材として機能する、請求項1もしくは2に記載の温度上昇検出方法が適用される変圧器または請求項4に記載の変圧器。
【請求項6】
巻鉄心と、
前記巻鉄心の外周に巻き回された部材と、
前記巻鉄心と前記部材との間に、前記巻鉄心の周方向に断続的に配置された第2の部材と、を備え
前記部材は、熱膨張しようとする前記巻鉄心に対して圧縮応力を発生させる拘束部材として機能する、請求項1もしくは2に記載の温度上昇検出方法が適用される変圧器または請求項4もしくは5に記載の変圧器。
【請求項7】
巻線と、方向性電磁鋼板を用いた鉄心と、熱膨張しようとする前記鉄心に対して圧縮応力を発生させる拘束部材と、を有する変圧器と、
2次電圧を検出する2次電圧検出手段と、
1次電流を検出する1次電流検出手段と、
2次電流を検出する2次電流検出手段と、
変圧器の温度上昇の検出に係るタイミングとして、2次電圧の半周期の期間を、2次電圧が0Vとなる時点を始点として0%から100%と表したときに、その5%から28%の範囲内に含まれるタイミングを判定するタイミング判定手段と、
1次側に換算した2次電流を1次電流から差し引いて励磁電流を算出する算出手段と、
前記タイミングにおける前記励磁電流を予め設定された基準値と比較し、前記拘束部材によって前記鉄心に発生する圧縮応力により増加する前記励磁電流が前記基準値を上回る場合に過昇温であると判定する温度上昇検出手段と、を備える変圧装置。
【請求項8】
巻線と、方向性電磁鋼板を用いた鉄心と、熱膨張しようとする前記鉄心に対して圧縮応力を発生させる拘束部材と、を有する変圧器と、
2次電圧を検出する2次電圧検出手段と、
1次電流を検出する1次電流検出手段と、
2次電流を検出する2次電流検出手段と、
変圧器の温度上昇の検出に係るタイミングとして、2次電圧の電圧最大値を100%として表したときに、2次電圧が16%から77%の範囲内となり、かつ2次電圧の絶対値が増加しているタイミングを判定するタイミング判定手段と、
1次側に換算した2次電流を1次電流から差し引いて励磁電流を算出する算出手段と、
前記タイミングにおける前記励磁電流を予め設定された基準値と比較し、前記拘束部材によって前記鉄心に発生する圧縮応力により増加する前記励磁電流が前記基準値を上回る場合に過昇温であると判定する温度上昇検出手段と、を備える変圧装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変圧器の温度上昇検出方法、変圧器および変圧装置に関する。
【背景技術】
【0002】
変圧器では、鉄損や銅損等によって鉄心、銅線、絶縁物等の温度が上昇し、特に絶縁物は劣化が加速されることになるため、機器内部の温度管理は健全な運転を続けるために重要となる。温度管理の一例として、特許文献1には、鉄心に温度検出手段(感温部)を設置して、過昇温した場合に電力を供給する電源を制御する方法が示されている。この方法については、特許文献2が問題点として機器の大型化を指摘しており、特許文献2には、代替法として2分割された鉄心の内側に熱膨張係数が大きい樹脂やゴムを充填し、過昇温の場合に熱膨張で鉄心のギャップが拡大して励磁電流が増加する現象を利用する方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-281748号公報
【文献】特開2019-186991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献2に記載の方法は、熱膨張部材が一定量必要で材料費が追加されるとともに、機器の製造工程において鉄心内部に熱膨張部材を充填する作業が追加されるため、コストアップに繋がる。さらに、鉄心にギャップが形成されると、漏れ磁束が発生して巻線に侵入し、渦電流損が追加されてしまう問題も発生し得る。
【0005】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、コストアップおよび鉄損の増加を抑えつつ変圧器の温度上昇を検出可能な、温度上昇検出方法、変圧器および変圧装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明の温度上昇検出方法は、
巻線と、方向性電磁鋼板を用いた鉄心と、を有する変圧器において、
2次電圧と1次電流と2次電流とをそれぞれ検出し、
1次側に換算した2次電流を1次電流から差し引いて得られる励磁電流について、2次電圧の半周期の期間を、2次電圧が0Vとなる時点を始点として0%から100%と表したときに、その5%から28%の範囲内における前記励磁電流の増加に基づいて変圧器の温度上昇を検出する。
【0007】
本発明では、変圧器の温度上昇に伴い増加する圧縮応力の増加に対して敏感に反応する励磁電流に基づいて変圧器の温度上昇を検出する。そして、本発明では、圧縮応力の増加に対して、特に敏感に反応する2次電圧の半周期の期間の5%から28%の範囲内における励磁電流の増加に基づいて温度上昇を検出するので、鉄損の増加が顕著となる前に過昇温を検出でき、鉄損の増加を抑えつつ変圧器の温度上昇を検出できる。
【0008】
また、本発明の温度上昇検出方法は、
巻線と、方向性電磁鋼板を用いた鉄心と、を有する変圧器において、
2次電圧と1次電流と2次電流とをそれぞれ検出し、
1次側に換算した2次電流を1次電流から差し引いて得られる励磁電流について、2次電圧の電圧最大値を100%として表したときに、2次電圧が16%から77%の範囲内となり、かつ2次電圧の絶対値が増加している区間における前記励磁電流の増加に基づいて変圧器の温度上昇を検出する。
【0009】
本発明では、圧縮応力の増加に対して、特に敏感に反応する2次電圧の電圧範囲が16%から77%となり、かつ2次電圧の絶対値が増加している区間における励磁電流の増加に基づいて温度上昇を検出するので、鉄損の増加が顕著となる前に過昇温を検出でき、鉄損の増加を抑えつつ変圧器の温度上昇を検出できる。
【0010】
また、本発明の変圧器は、
2つのヨークを有する積鉄心と、
前記2つのヨークそれぞれを加圧する2つのクランプと、
前記2つのクランプを締結する部材と、を有する変圧器であって、
前記部材の全体または一部が、前記積鉄心の線膨張係数よりも小さい線膨張係数を有する材料で形成された、前記温度上昇検出方法が適用される変圧器としてもよい。
【0011】
本発明によれば、2つのクランプを締結する部材が、積鉄心よりも小さい線膨張係数を有する材料によって形成されているので、当該部材が変圧器の線膨張を拘束する拘束部材として機能する。したがって、積鉄心が熱膨張しようとする際に、拘束部材による拘束によって積鉄心に圧縮応力が働き励磁電流が増加する。本発明によれば、特許文献2に記載の方法とは異なり、励磁電流に基づいて変圧器の温度上昇を検出する上で、鉄心内部に熱膨張部材を充填する必要が無く、また変圧器の温度上昇時に鉄心にギャップが形成されるようにする必要もない。したがって、コストアップおよび鉄損の増加を抑えつつ、変圧器の温度管理を行うことができる。
【0012】
また、本発明の変圧器は、
巻鉄心と、
前記巻鉄心の外周に巻き回された部材と、を有する変圧器であって、
前記部材の全体または一部が、前記巻鉄心の線膨張係数よりも小さい線膨張係数を有する材料で形成された、前記温度上昇検出方法が適用される変圧器としてもよい。
【0013】
本発明によれば、巻鉄心の外周に巻き回された部材が、巻鉄心よりも小さい線膨張係数を有する材料によって形成されているので、当該部材が変圧器の線膨張を拘束する拘束部材として機能する。したがって、巻鉄心が熱膨張しようとする際に、拘束部材による拘束によって巻鉄心に圧縮応力が働き励磁電流が増加する。本発明によれば、特許文献2に記載の方法とは異なり、励磁電流に基づいて変圧器の温度上昇を検出する上で、鉄心内部に熱膨張部材を充填する必要が無く、また変圧器の温度上昇時に鉄心にギャップが形成されるようにする必要もない。したがって、コストアップおよび鉄損の増加を抑えつつ、変圧器の温度管理を行うことができる。
【0014】
また、本発明の変圧器は、
巻鉄心と、
前記巻鉄心の外周に巻き回された部材と、
前記巻鉄心と前記部材との間に配置された断熱材と、を備える、前記温度上昇検出方法が適用される変圧器または前記構成を前提とした変圧器としてもよい。
【0015】
本発明によれば、巻鉄心から巻鉄心の外周に巻き回された部材への熱伝搬が、断熱材によって遅延し、前記部材は巻鉄心よりも遅れて温度上昇し、熱膨張していくこととなる。このため、過昇温の開始時には、巻鉄心に働く圧縮力が増加していくが、一定時間が経過すると定常状態となるため、鉄損の過度の増加を抑えることができる。すなわち、圧縮応力の増加による励磁電流の増加に基づいて温度上昇を検出することを可能としつつ、鉄損が過度に増加してしまうことを防止することができる。
【0016】
また、本発明の変圧器は、
巻鉄心と、
前記巻鉄心の外周に巻き回された部材と、
前記巻鉄心と前記部材との間に、前記巻鉄心の周方向に断続的に配置された第2の部材と、を備える、前記温度上昇検出方法が適用される変圧器または前記構成を前提とした変圧器としてもよい。
【0017】
本発明によれば、第2の部材が、巻鉄心と巻鉄心の外周に巻き回された部材との間に、巻鉄心の周方向に断続的に配置される。このため、第2の部材が断熱材の場合であって、断熱材の熱膨張率が低く、弾性率が高い場合であっても、断熱材から巻鉄心に働く拘束力が部分的なものとなり、熱伝搬の遅延の効果と断熱材による巻鉄心の拘束回避の効果とが得られる。また、第2の部材が、断熱材の代わりに一般的な材料を用いたスペーサ等であっても、スペーサが途切れた部分に流動性がある絶縁油等が入るため、その部分では巻鉄心から拘束部材への熱伝導に遅れが生じる。すなわち、第2の部材が介在していることで、巻鉄心から巻鉄心の外周に巻き回された部材への熱伝搬が遅延し、前記部材は巻鉄心よりも遅れて温度上昇し、熱膨張していくこととなる。このため、過昇温の開始時には、巻鉄心に働く圧縮力が増加していくが、一定時間が経過すると定常状態となるため、鉄損の過度の増加を抑えることができる。すなわち、圧縮応力の増加による励磁電流の増加に基づいて温度上昇を検出することを可能としつつ、鉄損が過度に増加してしまうことを防止することができる。
【0018】
また、本発明の変圧装置は、
巻線と、方向性電磁鋼板を用いた鉄心と、を有する変圧器と、
2次電圧を検出する2次電圧検出手段と、
1次電流を検出する1次電流検出手段と、
2次電流を検出する2次電流検出手段と、
1次側に換算した2次電流を1次電流から差し引いて励磁電流を算出する算出手段と、
2次電圧の半周期の期間を、2次電圧が0Vとなる時点を始点として0%から100%と表したときに、その5%から28%の範囲内における前記励磁電流に基づいて、前記変圧器の温度上昇を検出する温度上昇検出手段と、を備える。
【0019】
本発明によれば、圧縮応力の増加に対して、特に敏感に反応する2次電圧の半周期の期間の5%から28%の範囲内における励磁電流の増加に基づいて温度上昇を検出できるので、鉄損の増加が顕著となる前に過昇温を検出でき、鉄損の増加を抑えつつ変圧器の温度上昇を検出できる。
【0020】
また、本発明の変圧装置は、
巻線と、方向性電磁鋼板を用いた鉄心と、を有する変圧器と、
2次電圧を検出する2次電圧検出手段と、
1次電流を検出する1次電流検出手段と、
2次電流を検出する2次電流検出手段と、
1次側に換算した2次電流を1次電流から差し引いて励磁電流を算出する算出手段と、
2次電圧の電圧最大値を100%として表したときに、2次電圧が16%から77%の範囲内となり、かつ2次電圧の絶対値が増加している区間における前記励磁電流の増加に基づいて、前記変圧器の温度上昇を検出する温度上昇検出手段と、を備える。
【0021】
本発明によれば、圧縮応力の増加に対して、特に敏感に反応する2次電圧の電圧範囲が16%から77%となり、かつ2次電圧の絶対値が増加している区間における励磁電流の増加に基づいて温度上昇を検出できるので、鉄損の増加が顕著となる前に過昇温を検出でき、鉄損の増加を抑えつつ変圧器の温度上昇を検出できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、コストアップおよび鉄損の増加を抑えつつ変圧器の温度上昇が検出可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施の形態に係る2次電圧と圧縮応力による励磁電流の増加率との関係を示す図である。
図2】同、2次電圧波形と励磁電流を取得すべき範囲との関係を示す図である。
図3】同、変圧回路を説明するための図である。
図4】同、変圧回路のブロック図である。
図5】同、温度上昇検出方法を説明するためのフローチャートである。
図6】同、変圧器の一例を示す図である。
図7】同、変圧器の変形例1を示す図である。
図8】同、変圧器の変形例2を示す図である。
図9】同、変圧器の変形例3を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0025】
方向性電磁鋼板は、外部からの応力によって磁気特性が変化する。そこで、本実施形態では、過昇温発生時の鉄心の熱膨張を利用して応力を発生させ、磁気特性の変化に基づいて過昇温を検出する。
【0026】
方向性電磁鋼板の特性は、圧延方向の圧縮応力に最も敏感であるため、これを利用して過昇温を検出するが、圧縮応力が大きくなると鉄損も増大してしまう。よって、鉄損の増加が顕著となるまでに過昇温が検出できる方法とする必要がある。すなわち、圧縮応力に対してより敏感な特性を検出に利用することが必要である。本発明の発明者らは、実験による検討の結果、その特性が鉄心の励磁電流であり、2次電圧の半周期の期間を、2次電圧が0Vとなる時点を始点として0%から100%と表したときに、5%から28%の範囲内で励磁電流の増加を測定することが最も適当であることを見出した。当該実験の結果を図1に示す。図1は、方向性電磁鋼板に圧縮応力を印加したときの励磁電流の増加率を示すものである。なお、図1(c)は、図1(b)の横軸方向における一部を拡大した図である。図1に示すように、2次電圧の半周期の期間の5%から28%の範囲内において、圧縮応力に対する励磁電流の増加が特に顕著となる。この範囲を2次電圧の振幅に置き換えると、2次電圧の電圧最大値を100%として表したときに、2次電圧が16%から77%の範囲内となり、かつ2次電圧の絶対値が増加している区間となる。この励磁電流を測定すべき範囲を2次電圧波形上に表すと、図2において矢印で示す区間となる。なお、図1図2において、横軸(時間)および縦軸(振幅)は、ここで説明した規則に従って規格化している。
【0027】
本発明を実施するための具体的な回路の一例について、図3を参照しながら説明する。変圧回路10は、電源11と、変圧装置12と、負荷13と、を備えている。また、変圧装置12は、電源11と負荷13との間に設けられている。
【0028】
変圧装置12は、変圧器20と、変流器21,22と、シャント抵抗23,24と、乗減算回路25と、比較回路26と、ゼロクロス検知回路27と、遅延回路28と、制御回路29と、を備えている。
【0029】
変流器21は、変圧器20の1次側に配置されており、1次側(1次巻線31)に流れる1次電流(1次電流波形)ipを検出可能となっている。変流器22は、変圧器20の2次側に配置されており、2次側(2次巻線32)に流れる2次電流(2次電流波形)isを検出可能となっている。
【0030】
シャント抵抗23は、変流器21に接続されており、変流器21が検出した1次電流ipを、電圧に変換するようになっている。シャント抵抗24は、変流器22に接続されており、変流器22が検出した2次電流isを、電圧に変換するようになっている。換言すると、シャント抵抗23,24にはそれぞれ、1次電流ipまたは2次電流isに応じた電圧がかかるようになっている。
【0031】
乗減算回路25には、シャント抵抗23にかかる1次電流ipに応じた電圧と、シャント抵抗24にかかる2次電流isに応じた電圧とがそれぞれ入力される。すなわち、変流器21,22で検出した1次電流ipおよび2次電流isは、電圧に変換されて乗減算回路25に入力される。そして、これにより、乗減算回路25が1次電流ipおよび2次電流isを取得するようになっている。換言すると、乗減算回路25は、変流器21およびシャント抵抗23を介して、変圧器20の1次側(1次巻線31)に流れる1次電流(1次電流波形)ipの測定値を取得する。また、乗減算回路25は、変流器22およびシャント抵抗24を介して、変圧器20の2次側(2次巻線32)に流れる2次電流(2次電流波形)isの測定値を取得する。
【0032】
また、乗減算回路25は、負荷電流である2次電流isの測定値に、変圧器20の1次巻線31の巻き数npと2次巻線32の巻き数nsとの巻き数比を乗じることで、1次側に換算した換算電流を求める(後述する式(1)参照)。次いで、乗減算回路25は、この求めた換算電流を、1次電流ipの測定値から差し引くことで負荷電流を引き去り、励磁電流(励磁電流波形)ieを算出する。
【0033】
乗減算回路25は、算出した励磁電流ieを出力し、出力された励磁電流ieは、比較回路26に入力される。
【0034】
一方、変圧器20の2次側にかかる2次電圧(2次電圧波形)vsは、ゼロクロス検知回路27に入力される。すなわち、ゼロクロス検知回路27は、2次電圧vsの測定値を取得可能となっている。また、ゼロクロス検知回路27は、取得した2次電圧vsに基づいて、2次電圧vsが0となる時点を検知し、2次電圧vsが0となる時点を知らせる検知信号Sdを出力する。
【0035】
ゼロクロス検知回路27から出力された検知信号Sdは、遅延回路28に入力される。遅延回路28は、検知信号Sdを遅延させ、タイミング報知信号Stを発する。具体的には、遅延回路28は、2次電圧vsの半周期の期間を、2次電圧が0Vとなる時点を始点(0%)として0%から100%と表したときに、その5%から28%の範囲内に設定された所定の時点(ゼロクロス検知回路27に予め設定された所定の時点)で、タイミング報知信号Stを発する。
【0036】
すなわち、ゼロクロス検知回路27と遅延回路28とは、比較回路26が後述する比較を行うのに適したタイミングを知らせるタイミング報知回路(タイミング報知手段54)として機能する。また、比較を行うのに適したタイミングとは、2次電圧vsの半周期の期間を、2次電圧が0Vとなる時点を始点(0%)として0%から100%と表したときの、5%から28%の範囲内となるタイミングをいう。また、比較を行うのに適したタイミングとは、2次電圧vsが,2次電圧vsの電圧最大値を100%として表したときに、2次電圧が16%から77%の範囲内となり、かつ2次電圧の絶対値が増加している区間となるタイミングともいえる。
【0037】
遅延回路28から出力されたタイミング報知信号Stは、比較回路26に入力される。比較回路26は、タイミング報知信号Stを受信した時点で、乗減算回路25から出力される励磁電流ieと、比較回路26が内部に保持する(比較回路26に予め設定された)基準値irとを比較し、励磁電流ieが基準値irを上回ると、励磁電流ieが基準値irを上回ったことを知らせる報知信号Scを出力する。報知信号Scが出力される条件を下記式(1)に示す。
【0038】
【数1】
【0039】
基準値irを事前に、鉄心の熱膨張で増加する励磁電流の限界値に設定しておくことで、過昇温となった時点で報知信号Scが出力される。すなわち、報知信号Scは、過昇温となったことを報知する信号ともいえる。比較回路から出力された報知信号Scは、制御回路29に入力される。
【0040】
制御回路29は、電源11と変圧器20(変圧器)との間に配置されている。制御回路29は、変圧器20の1次側への電源供給を制御可能となっている。そして、制御回路29は、報知信号Scが入力されると(過昇温が検出されると)、電源を遮断したり、抑制したりするようになっている。すなわち、制御回路29は、報知信号Scに基づいて変圧器20の1次側への電源供給を制御可能となっている。
【0041】
なお、制御回路29は、報知信号Scが入力された(過昇温が検出された)場合に、変圧器20が使用されている電力ネットワークを監視するシステムにアラートを送信するようになっていてもよい。換言すると、制御回路29は、変圧装置12の外部の装置に対して過昇温が生じたことを報知するアラート信号を出力可能となっていてもよい。
【0042】
変圧回路10は、図4のように表すこともできる。すなわち、以上から明らかなように、変流器21、シャント抵抗23および乗減算回路25は、1次電流(1次電流波形)ipを検出する1次電流検出手段50として機能する。また、変流器22、シャント抵抗24および乗減算回路25は、2次電流(2次電流波形)isを検出する2次電流検出手段51として機能する。また、乗減算回路25は、1次側に換算した2次電流isを1次電流ipから差し引いて励磁電流ieを算出する算出手段53として機能する。また、ゼロクロス検知回路27は、2次電圧(2次電圧波形)vsを検出する2次電圧検出手段52として機能する。また、ゼロクロス検知回路27および遅延回路28は、2次電圧検出手段52が検出した2次電圧vsに基づいて、励磁電流ieに基づく変圧器20の温度上昇の検出を実行するのに適したタイミングを判定し、当該タイミングを報知するタイミング報知手段54として機能する。また、比較回路26は、タイミング報知手段54が報知するタイミングで、励磁電流ieの増加に基づいて変圧器20の温度上昇を検出する温度上昇検出手段55として機能する。なお、1次電流検出手段50、2次電流検出手段51、2次電圧検出手段52は、それぞれ1次電流、2次電流、2次電圧を検出(測定)可能であれば、他の構成を用いてもよい。また、算出手段53は、1次電流ipと2次電流isとに基づいて励磁電流ieを取得可能であれば、他の構成を用いてもよい。また、温度上昇検出手段55は、所定のタイミングで励磁電流ieに基づいて変圧器20の温度上昇を検出することが可能であれば、他の構成を用いてもよい。
【0043】
なお、本明細書において、各回路(手段)で扱われる1次電流ip、2次電流is、2次電圧vsおよび励磁電流ieは、それぞれ、変圧器20における電流値あるいは電圧値そのものを示すものでなくてもよく、必要に応じて規格化されたものであってもよい。
【0044】
次に、変圧回路10における温度上昇検出方法について、図5に示すフローチャートを参照しながら説明する。
【0045】
まず、1次電流検出手段50は、1次電流ipを検出し、2次電流検出手段51は、2次電流isを検出する(ステップS1)。
【0046】
次いで、算出手段53は、1次電流ipと2次電流isとに基づいて励磁電流ieを求める(ステップS2)。例えば、算出手段53は、検出された2次電流isに、変圧器20の1次巻線31の巻き数npと2次巻線32の巻き数nsとの巻き数比を乗じることで、1次側に換算した換算電流を求める。そして、算出手段53は、検出された1次電流ipから換算電流を差し引いて、励磁電流ieを求める。
【0047】
一方、2次電圧検出手段52は、2次電圧vsを検出する(ステップS3)。
【0048】
次いで、タイミング報知手段54は、検出された2次電圧vsに基づいて、温度上昇検出手段55が温度上昇を検出するのに適したタイミングを判定し、当該タイミングを報知するタイミング報知信号Stを温度上昇検出手段に送信する(ステップS4)。
【0049】
次いで、温度上昇検出手段55は、タイミング報知信号Stによって報知されるタイミングで、ステップS2で求められる励磁電流ieが増加しているか否かを判定し、増加していると判定した場合に報知信号Scを出力する(ステップS5)。具体的には、温度上昇検出手段55は、タイミング報知手段54からタイミング報知信号Stが送信されると、ステップS2で求められる励磁電流ieと、温度上昇検出手段55が内部に保持する基準値irとを比較し、励磁電流ieが基準値irを上回っていれば、励磁電流ieが基準値irを上回ったことを知らせる報知信号Scを出力する。ここで、励磁電流ieが基準値irを上回る場合というのは、過昇温となっている場合に相当する。すなわち、温度上昇検出手段55は、励磁電流ieが基準値irを上回っていれば、過昇温であると判定し過昇温であることを報知する報知信号Scを出力する。
【0050】
以上により、変圧器20が過昇温となったことが検出される。
【0051】
なお、図5のフローチャートに示すフローはあくまで一例であり、各処理の順序や構成は異なるものであってもよい。例えば、タイミング報知信号Stが出力されたタイミングで1次電流ipと2次電流isとに基づいて励磁電流ieを求め、求めた励磁電流ieと基準値irとを比較することとしてもよい。また、励磁電流ieと基準値irとの比較は、2次電圧vsの半周期の期間の5%から28%の範囲内(あるいは電圧範囲で16%から77%の範囲内、かつ電圧の絶対値が増加している区間)において1度だけ行ってもよく、複数回行ってもよく、また、連続的に行ってもよく、断続的に行ってもよい。換言すると、タイミング報知信号Stは、2次電圧vsの半周期の期間の5%から28%の範囲内(あるいは電圧範囲で16%から77%の範囲内、かつ電圧の絶対値が増加している区間)における1点(励磁電流ieと基準値irとの比較を行うべき特定の時点)を知らせるものであってもよく、複数点に相当する期間を知らせるものであってもよい。また、例えば、励磁電流ieと基準値irとの比較自体は、タイミング報知信号Stが出力されたタイミング以外でも(例えば常に)行っていてもよく、タイミング報知信号Stが出力されたタイミングにおいて、励磁電流ieが基準値irを上回っている場合に報知信号Scを出力することとしてもよい。この場合でも、タイミング報知信号Stが報知するタイミングにおいて励磁電流ieの増加に基づいて温度上昇を検出しているといえる。なお、本実施形態においては、判定を繰り返し実行する上で、励磁電流ieの増加を判定するタイミングは、常に2次電圧vsの半周期の期間における同じ時点となるように設定している。具体的には、常に、2次電圧vsの半周期の期間の15%の時点における励磁電流ieが基準値irを上回っているか否かを判定するように、遅延回路28やタイミング報知手段54を設定している。なお、繰り返される判定のタイミングを常に同一とする場合に、当該タイミングは、2次電圧vsの半周期の期間の15%の時点ではなく他の時点に設定してもよい。
【0052】
次に、変圧器20の構成について説明する。鉄心の熱膨張時に応力を発生させるためには、熱膨張を抑える何らかの拘束力が必要となる。そこで、本実施形態においては、拘束力を得るために、一般的に用いられている鉄心の固定構造を利用する。図6は、変圧器20としての積鉄心変圧器100に本発明を適用した一例を示すものである。
【0053】
積鉄心変圧器100は、積鉄心110と、クランプ113と、ロッド114と、巻線115と、を備えている。積鉄心110は、方向性電磁鋼板を積み重ねて形成されている。また、積鉄心110は、脚111とヨーク112とを備えている。積鉄心110の固定には一般的に、垂直方向(Y軸方向)に延びる脚111にはガラステープが用いられるが、水平方向(X軸方向)に延びるヨーク112(上部ヨーク112a、下部ヨーク112b)には鋼板プレート(クランププレート)120によって構成されるクランプ113(上部クランプ113a、下部クランプ113b)が用いられる。また、上部クランプ113a(上部クランプ113aの鋼板プレート120)と下部クランプ113b(下部クランプ113bの鋼板プレート120)とは、複数のロッド(締結部材)114で締結される。
【0054】
上部クランプ113aおよび下部クランプ113bはそれぞれ、2枚の鋼板プレート120と、この2枚の鋼板プレート120を連結する連結部材116とを有している。そして、上部クランプ113aおよび下部クランプ113bはそれぞれ、2枚の鋼板プレート120によって、上部ヨーク112aまたは下部ヨーク112bを挟みこみ、上部ヨーク112aまたは下部ヨーク112bの積層方向(Z軸方向)に圧力を加えるようになっている。
なお、上部クランプ113aおよび下部クランプ113bはそれぞれ、上部ヨーク112aまたは下部ヨーク112bを加圧できるものであればよい。例えば、各クランプ113は、断面コ字状に折り曲げた1枚の鋼板プレート120によって、コ字の内側に配置された各ヨーク112に圧力を加えるようになっていてもよい。
【0055】
本実施形態では、上部クランプ113aと下部クランプ113bとを締結する部材、すなわちロッド114の全体または少なくとも一部を、積鉄心110を構成する方向性電磁鋼板よりも熱膨張率(線膨張係数)の小さい材料を用いて形成することで、拘束部材114として機能させている。すなわち、上部クランプ113aと下部クランプ113bとを、方向性電磁鋼板よりも熱膨張率(線膨張係数)の小さい拘束部材114としてのロッド114で締結している。これにより、拘束部材114によって、積鉄心110の垂直方向(Y軸方向)の熱膨張(線膨張)を拘束する力が生じ、熱膨張(線膨張)しようとする積鉄心110に対して方向性電磁鋼板の圧延方向への圧縮力が発生する。
【0056】
なお、ロッド114の材料は、例えば、線膨張係数が、-1×10-6/℃~4×10-6/℃の範囲のものとしてもよい。具体的には、ロッド114の材料を、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)としてもよい。ロッド114の材料を、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)とすることで、機械的強度を高くしつつ、線膨張係数を所望の範囲とすることができる。積鉄心110の方向性電磁鋼板の線膨張係数は、例えば、約13×10-6/℃と想定できる。
【0057】
(変形例1)
次に、変形例として、変圧器20としての巻鉄心変圧器200に本発明を適用した例を、図7を参照しながら説明する。図7は、本発明を適用した巻鉄心変圧器200の断面図である。
【0058】
巻鉄心変圧器200は、巻鉄心210と、巻鉄心210の外周に巻き回されるバンド211と、巻線212と、を備えている。巻鉄心210の固定は、巻鉄心210の外周にバンド211を巻き回して締めることによって行われている。
【0059】
本変形例では、バンド211の全体または少なくとも一部を、巻鉄心210を構成する方向性電磁鋼板よりも熱膨張率(線膨張係数)の小さい材料を用いて形成することで、拘束部材211として機能させている。すなわち、巻鉄心210の外周に巻き回された部材を、方向性電磁鋼板よりも熱膨張率(線膨張係数)の小さい材料を用いて形成し、拘束部材211とすることで、巻鉄心210の熱膨張(線膨張)を拘束する力が生じ、熱膨張(線膨張)しようとする巻鉄心210に対して方向性電磁鋼板の圧延方向への圧縮力が発生する。
【0060】
なお、バンド211の材料は、例えば、線膨張係数が、-1×10-6/℃~4×10-6/℃の範囲のものとしてもよい。具体的には、バンド211の材料を、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)としてもよい。バンド211の材料を、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)とすることで、機械的強度を高くしつつ、線膨張係数を所望の範囲とすることができる。巻鉄心210の方向性電磁鋼板の線膨張係数は、例えば、約13×10-6/℃と想定できる。
【0061】
(変形例2)
次に、他の変形例として、変圧器20としての巻鉄心変圧器300に本発明を適用した例を、図8を参照しながら説明する。図8は、本発明を適用した巻鉄心変圧器300の断面図である。なお、変形例1と同様のまたは対応する構成については、同一の符号を付して説明する。
【0062】
図7に示した変形例1の形態では、一旦温度上昇が始まると、鉄心と拘束部材との熱膨張の差が拡大する一方で、拘束力は増加の一途となるために鉄損も増加を続け、鉄損の増加が無視できない状態となる可能性がある。そこで、本変形例においては、巻鉄心210の外周に巻き回された拘束部材(バンド)211には、巻鉄心210を構成する方向性電磁鋼板と同等の熱膨張係数(線膨張係数)を持つ材料を用いる。なお、拘束部材211には、例えば、スチールバンドを用いてもよい。また、巻鉄心210と拘束部材211との間には、断熱材320を配置する。換言すると、巻鉄心210と拘束部材211とで、断熱材320を挟む構造とする。
【0063】
このような構成にすることで、巻鉄心210から拘束部材211への熱伝搬が遅延し、拘束部材211は巻鉄心210よりも遅れて温度上昇し、熱膨張していくこととなる。このため、過昇温の開始時には巻鉄心210に働く圧縮力が増加していくが、一定時間が経過すると定常状態となり圧縮力が一定値となるため、鉄損の過度の増加を抑えることができる。
なお、断熱材320には、熱伝導率が0.5W/(m・K)以下で、巻鉄心210を拘束しない低弾性率の材料を用いるのがよい。
【0064】
(変形例3)
次に、他の変形例として、変圧器20としての巻鉄心変圧器400に本発明を適用した例を、図9を参照しながら説明する。図9は、本発明を適用した巻鉄心変圧器400の断面図である。なお、変形例2と同様のまたは対応する構成については、同一の符号を付して説明する。
【0065】
本変形例では、変形例2において説明した断熱材320を、巻鉄心210の周方向において断続的に配置している。用いる断熱材320の熱膨張率が低く、弾性率が高い場合には、断熱材320による巻鉄心210の拘束が発生し、上述の遅延の効果が十分に得られない可能性がある。そこで、本変形例のように、断熱材320を不連続とすることで、断熱材320によって巻鉄心210に働く拘束力が部分的なものとなり、熱伝搬の遅延の効果と巻鉄心210の拘束回避の効果とが得られる。
【0066】
なお、本変形例においては、巻鉄心210と拘束部材211との間に、断熱材320の代わりに一般的な材料を用いたスペーサ320を配置してもよい。このような構成としても、スペーサ320が途切れた部分(隣り合うスペーサ同士の隙間等)に流動性がある絶縁油等が入るため、その部分では巻鉄心210から拘束部材211への熱伝導に遅れが生じ、変形例2の場合と同様の効果を得ることができる。
【0067】
以上のように、本実施形態の温度上昇検出方法は、巻線と、方向性電磁鋼板を用いた鉄心と、を有する変圧器20において、2次電圧vsと1次電流ipと2次電流isとをそれぞれ検出し、1次側に換算した2次電流isを1次電流ipから差し引いて得られる励磁電流ieについて、2次電圧vsの半周期の期間を、2次電圧vsが0Vとなる時点を始点として0%から100%と表したときに、その5%から28%の範囲内における励磁電流ieの増加に基づいて変圧器20の温度上昇を検出する。このような構成によれば、変圧器20の温度上昇に伴い増加する圧縮応力の増加に対して敏感に反応する励磁電流ieに基づいて変圧器20の温度上昇を検出できる。そして、本構成では、圧縮応力の増加に対して、特に敏感に反応する2次電圧vsの半周期の期間の5%から28%の範囲内における励磁電流ieの増加に基づいて温度上昇を検出するので、鉄損の増加が顕著となる前に過昇温を検出でき、鉄損の増加を抑えつつ変圧器の温度上昇を検出できる。
【0068】
また、本実施形態の温度上昇検出方法は、巻線と、方向性電磁鋼板を用いた鉄心と、を有する変圧器20において、2次電圧vsと1次電流ipと2次電流isとをそれぞれ検出し、1次側に換算した2次電流isを1次電流ipから差し引いて得られる励磁電流ieについて、2次電圧vsの電圧最大値を100%として表したときに、2次電圧vsが16%から77%の範囲内となり、かつ2次電圧vsの絶対値が増加している区間における励磁電流ieの増加に基づいて変圧器20の温度上昇を検出する。このような構成によれば、圧縮応力の増加に対して、特に敏感に反応する2次電圧vsの電圧範囲が16%から77%となり、かつ2次電圧vsの絶対値が増加している区間における励磁電流ieの増加に基づいて温度上昇を検出するので、鉄損の増加が顕著となる前に過昇温を検出でき、鉄損の増加を抑えつつ変圧器の温度上昇を検出できる。
【0069】
また、本実施形態の変圧器100は、2つのヨーク112を有する積鉄心110と、2つのヨーク112それぞれを加圧する2つのクランプ113と、2つのクランプ113を締結するロッド114と、を有し、ロッド114の全体または一部が、積鉄心110の線膨張係数よりも小さい線膨張係数を有する材料で形成されている。このような構成によれば、2つのクランプ113を締結するロッド114が、積鉄心110よりも小さい線膨張係数を有する材料によって形成されているので、ロッド114が変圧器の線膨張を拘束する拘束部材114として機能する。したがって、積鉄心110が熱膨張しようとする際に、ロッド(拘束部材)114による拘束によって積鉄心110に圧縮応力が働き励磁電流ieが増加する。本構成によれば、励磁電流ieに基づいて変圧器の温度上昇を検出する上で、鉄心内部に熱膨張部材を充填する必要が無く、また変圧器の温度上昇時に鉄心にギャップが形成されるようにする必要もない。したがって、コストアップおよび鉄損の増加を抑えつつ、変圧器の温度管理を行うことができる。
【0070】
また、本実施形態の変圧器200は、巻鉄心210と、巻鉄心210の外周に巻き回されたバンド211と、を有し、バンド211の全体または一部が、巻鉄心210の線膨張係数よりも小さい線膨張係数を有する材料で形成されている。このような構成によれば、巻鉄心210の外周に巻き回されたバンド211が、巻鉄心よりも小さい線膨張係数を有する材料によって形成されているので、バンド211が変圧器の線膨張を拘束する拘束部材211として機能する。したがって、巻鉄心210が熱膨張しようとする際に、バンド(拘束部材)211による拘束によって巻鉄心210に圧縮応力が働き励磁電流ieが増加する。本構成によれば、励磁電流ieに基づいて変圧器の温度上昇を検出する上で、鉄心内部に熱膨張部材を充填する必要が無く、また変圧器の温度上昇時に鉄心にギャップが形成されるようにする必要もない。したがって、コストアップおよび鉄損の増加を抑えつつ、変圧器の温度管理を行うことができる。
【0071】
また、本実施形態の変圧器300は、巻鉄心210と、巻鉄心210の外周に巻き回されたバンド211と、巻鉄心210とバンド211との間に配置された断熱材320と、を備える。このような構成によれば、巻鉄心210から巻鉄心210の外周に巻き回されたバンド211への熱伝搬が、断熱材320によって遅延し、バンド211は巻鉄心210よりも遅れて温度上昇し、熱膨張していくこととなる。このため、過昇温の開始時には、巻鉄心210に働く圧縮力が増加していくが、一定時間が経過すると定常状態となるため、鉄損の過度の増加を抑えることができる。すなわち、圧縮応力の増加による励磁電流ieの増加に基づいて温度上昇を検出することを可能としつつ、鉄損が過度に増加してしまうことを防止することができる。
【0072】
また、本実施形態の変圧器400は、巻鉄心210と、巻鉄心210の外周に巻き回されたバンド211と、巻鉄心210とバンド211との間に、巻鉄心210の周方向に断続的に配置された第2の部材320と、を備える。このような構成によれば、第2の部材320が、巻鉄心210とバンド211との間に、巻鉄心210の周方向に断続的に配置される。このため、第2の部材320が断熱材の場合であって、断熱材の熱膨張率が低く、弾性率が高い場合であっても、断熱材から巻鉄心210に働く拘束力が部分的なものとなり、熱伝搬の遅延の効果と断熱材による巻鉄心210の拘束回避の効果とが得られる。また、第2の部材320が、スペーサであっても、スペーサが途切れた部分に流動性がある絶縁油等が入るため、その部分では巻鉄心210からバンド211への熱伝導に遅れが生じる。すなわち、第2の部材320が介在していることで、巻鉄心210からバンド211への熱伝搬が遅延し、バンド211は巻鉄心210よりも遅れて温度上昇し、熱膨張していくこととなる。このため、過昇温の開始時には、巻鉄心210に働く圧縮力が増加していくが、一定時間が経過すると定常状態となるため、鉄損の過度の増加を抑えることができる。すなわち、圧縮応力の増加による励磁電流ieの増加に基づいて温度上昇を検出することを可能としつつ、鉄損が過度に増加してしまうことを防止することができる。
【0073】
また、本実施形態の変圧装置12は、巻線と、方向性電磁鋼板を用いた鉄心と、を有する変圧器20と、2次電圧vsを検出する2次電圧検出手段52と、1次電流ipを検出する1次電流検出手段50と、2次電流isを検出する2次電流検出手段51と、1次側に換算した2次電流isを1次電流ipから差し引いて励磁電流ieを算出する算出手段53と、2次電圧vsの半周期の期間を、2次電圧vsが0Vとなる時点を始点として0%から100%と表したときに、その5%から28%の範囲内における励磁電流ieに基づいて、変圧器20の温度上昇を検出する温度上昇検出手段55と、を備える。このような構成によれば、圧縮応力の増加に対して、特に敏感に反応する2次電圧vsの半周期の期間の5%から28%の範囲内における励磁電流ieの増加に基づいて温度上昇を検出できるので、鉄損の増加が顕著となる前に過昇温を検出でき、鉄損の増加を抑えつつ変圧器の温度上昇を検出できる。
【0074】
また、本実施形態の変圧装置12は、2次電圧vsの電圧最大値を100%として表したときに、2次電圧vsが16%から77%の範囲内となり、かつ2次電圧vsの絶対値が増加している区間における励磁電流ieの増加に基づいて、変圧器20の温度上昇を検出する温度上昇検出手段55を備える。このような構成によれば、圧縮応力の増加に対して、特に敏感に反応する2次電圧vsの電圧範囲が16%から77%となり、かつ2次電圧vsの絶対値が増加している区間における励磁電流ieの増加に基づいて温度上昇を検出できるので、鉄損の増加が顕著となる前に過昇温を検出でき、鉄損の増加を抑えつつ変圧器の温度上昇を検出できる。
【0075】
なお、前述した実施形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。したがって、本発明は前述の実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、各構成要素を置換、削除する等、変更することが可能である。
【符号の説明】
【0076】
12 変圧装置
20 変圧器
31 1次巻線
32 2次巻線
50 1次電流検出手段
51 2次電流検出手段
52 2次電圧検出手段
53 算出手段
54 タイミング報知手段
55 温度上昇検出手段
100 積鉄心変圧器
110 積鉄心
112 ヨーク
113 クランプ
114 ロッド(拘束部材)
115 巻線
200 巻鉄心変圧器
210 巻鉄心
211 バンド(拘束部材)
212 巻線
300 巻鉄心変圧器
320 断熱材(スペーサ)
400 巻鉄心変圧器
ie 励磁電流
ip 1次電流
is 2次電流
vs 2次電圧
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9