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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-08
(45)【発行日】2024-10-17
(54)【発明の名称】静止誘導電器及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/02 20060101AFI20241009BHJP
   H01F 27/25 20060101ALI20241009BHJP
【FI】
H01F41/02 A
H01F27/25
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020188579
(22)【出願日】2020-11-12
(65)【公開番号】P2022077662
(43)【公開日】2022-05-24
【審査請求日】2023-07-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104547
【弁理士】
【氏名又は名称】栗林 三男
(74)【代理人】
【識別番号】100206612
【弁理士】
【氏名又は名称】新田 修博
(74)【代理人】
【識別番号】100209749
【弁理士】
【氏名又は名称】栗林 和輝
(74)【代理人】
【識別番号】100217755
【弁理士】
【氏名又は名称】三浦 淳史
(72)【発明者】
【氏名】溝上 雅人
【審査官】久保田 昌晴
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-017669(JP,A)
【文献】特開昭55-125617(JP,A)
【文献】国際公開第2010/110217(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 3/04、27/25、41/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導線を所定回数巻回して成る環状の巻線環体を用意する工程と、
交流周波数50Hzの交流磁界800A/mで励磁したときのその磁束密度B8が1.88T以上である方向性電磁鋼板を所定回数巻回して成る断面が円環状の巻鉄心ロールを用意する工程と、
前記方向性電磁鋼板に導入される機械的な歪を除去するために前記巻鉄心ロールを焼鈍する歪取り焼鈍工程と、
焼鈍された前記巻鉄心ロールから方向性電磁鋼板を繰り出しつつ前記巻鉄心ロールの内外周が入れ替わることなく前記巻線環体の対応する一辺に対して円環形状に巻き付けることにより少なくとも1つのトロイダル鉄心を前記巻線環体に組み付ける組み付け工程と、
を含み、
前記トロイダル鉄心の内半径をr (m)、前記トロイダル鉄心の内半径と前記巻鉄心ロールの内半径との差をΔr(m)、前記方向性電磁鋼板の板厚をt(m)とすると、前記組み付け工程は、
の関係が満たされるべく、前記トロイダル鉄心の内半径が前記巻鉄心ロールの内半径と異なるように前記方向性電磁鋼板を前記巻線環体に巻き付ける、
ことを特徴とする静止誘導電器の製造方法。
【請求項2】
前記組み付け工程は、前記トロイダル鉄心の内半径が前記巻鉄心ロールの内半径よりも大きくなるように前記方向性電磁鋼板を前記巻線環体に巻き付けることを特徴とする請求項に記載の静止誘導電器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導線を所定回数巻回して成る環状の巻線環体と、巻線環体に巻回状態で組み付けられるトロイダル鉄心とを備える静止誘導電器及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
変圧器やリアクトルなどの静止誘導電器の一形態として、導線を所定回数巻回して成る環状の巻線環体と、巻線環体に巻回状態で組み付けられるトロイダル鉄心とを備えるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このような静止誘導電器の製造工程では、まず最初に、導線が所定の形状及び寸法になるように巻回されて成形される巻線環体(例えば矩形状)と、磁性鋼板を巻き取って筒状にしたトロイダル鉄心を成す巻鉄心ロールとが作製される。その後、前記巻鉄心ロールに歪取り焼鈍を施すことにより、磁気特性の改善とトロイダル形状の保持とが行なわれた後、巻線環体に対してトロイダル鉄心が組み付けられて一体化される。この一体化工程は、巻鉄心ロールの最外周部から引き出される鋼板を固定状態の巻線環体の窓に通した後に巻鉄心ロールの外側を通過させて再び巻線環体の窓に通すものであり、これを繰り返し行なうことにより、最終的に鋼板の全てが当初の巻回形態を保ったまま(巻鉄心ロールの内外周が入れ替わることなく)巻線環体の一辺に巻き付いた状態となり、トロイダル鉄心が小径化するように成形されて完成状態となる。このような製造方法を実現する装置の一例が例えば特許文献2において提案されている。
【0004】
なお、巻鉄心ロールの最外周の鋼板からそのまま巻線環体に直接に巻き付けていく方法も考えられるが、そのような方法では、巻線環体への鋼板の巻き付け完了後には、巻鉄心ロールの鋼板の当初の最外周部位が巻線環体に組み付けられたトロイダル鉄心の鋼板の最内周部位になるとともに、巻鉄心ロールの鋼板の当初の最内周部位がトロイダル鉄心の鋼板の最外周部位となって、内外周が入れ替わることとなる。そのため、静止誘導電器完成時の鋼板の曲率半径が歪取り焼鈍後のそれと異なってしまい、歪が発生して磁気特性が劣化してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平8-51034号公報
【文献】特開昭55-125617号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような静止誘導電器において一般に求められることは、鉄心で発生する鉄損を低下させることである。その実現方法の一つとして、鉄心材料として多用されている方向性電磁鋼板に対しその表面にレーザ光線や電子ビームを照射して微細な歪を導入し、磁区を細分化して鉄損のうちの異常渦電流損を低下させる方法がある。
【0007】
しかしながら、静止誘導電器のトロイダル鉄心を含め、巻鉄心には一般に前述したように歪取り焼鈍が施されるため、レーザ光線等により導入した微細な歪は焼鈍によって消失してしまい、鉄損が増加してしまう。
【0008】
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、歪取り焼鈍の影響を受けずに歪を容易且つ効果的に導入してトロイダル鉄心の鉄損を低下させることができる静止誘導電器及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明は、導線を所定回数巻回して成る環状の巻線環体と、方向性電磁鋼板を所定回数巻回して成るとともに、前記巻線環体の対応する一辺に巻回状態で組み付けられる断面が円環状の少なくとも1つのトロイダル鉄心とを備え、前記方向性電磁鋼板に導入される機械的な歪を除去する歪取り焼鈍が既に施された断面が円環状の巻鉄心ロールから方向性電磁鋼板を繰り出しつつ前記巻線環体に対して円環形状に巻き付けることにより前記トロイダル鉄心が形成される静止誘導電器であって、前記トロイダル鉄心は、前記巻鉄心ロールの内半径と異なる内半径を有するように前記巻線環体に対して巻回して組み付けられていることを特徴とする。
【0010】
上記構成に係る本発明の静止誘導電器によれば、歪取り焼鈍後の鋼板の曲率半径と、静止誘導電器として完成した状態での鋼板の曲率半径とを異ならせることにより鋼板に対し歪を導入するようにしているため、歪取り焼鈍の影響を受けずに歪を容易且つ効果的に導入してトロイダル鉄心の鉄損を低下させることができる。
【0011】
また、上記構成では、トロイダル鉄心の内半径が巻鉄心ロールの内半径よりも大きいことが好ましい。これによれば、トロイダル鉄心が巻線環体に対して巻回して組み付けられた状態では、トロイダル鉄心に巻き締まる力が発生し、鉄心成形が容易となる。
【0012】
また、上記構成では、交流周波数50Hzの交流磁界800A/mで励磁したときの方向性電磁鋼板における磁束密度B8が1.88T以上であることが好ましい。素材特性としてこのような条件を伴う鋼板では、結晶軸の鋼板長手方向からの振れ量が小さく、ヒステリシス損は小さいが、磁区幅は広い。このような鋼板に本発明を適用すると、歪導入での磁区細分化効果がより大きくなり、異常渦電流損も低くできるため、低鉄損が得られる。
【0013】
また、上記構成では、トロイダル鉄心の内半径をr(m)、トロイダル鉄心の内半径と巻鉄心ロールの内半径との差をΔr(m)、方向性電磁鋼板の板厚をt(m)とすると、
【数1】

の関係が満たされることが好ましい。
このような関係を満たせば、鋼板に十分な歪を導入でき、十分な磁区細分化が成されるため、十分な鉄損低減効果を得ることができる。これに対し、Δr が過少であると、十分な歪が導入されず、磁区細分化が不十分となるため、十分な鉄損低減効果が得られない。一方、Δr が過大であると、十分な磁区細分化効果は得られるが、過大な歪でヒステリシス損が増加するため、鉄損低減効果が相殺されてしまう。歪は磁壁の動きを妨げるため、一定の磁化を得るためのエネルギーを増加させる弊害があり、ヒステリシス損が増加してしまう。
【0014】
また、本発明は、導線を所定回数巻回して成る環状の巻線環体を用意する工程と、方向性電磁鋼板を所定回数巻回して成る断面が円環状の巻鉄心ロールを用意する工程と、前記方向性電磁鋼板に導入される機械的な歪を除去するために前記巻鉄心ロールを焼鈍する歪取り焼鈍工程と、焼鈍された前記巻鉄心ロールから方向性電磁鋼板を繰り出しつつ前記巻線環体の対応する一辺に対して円環形状に巻き付けることにより少なくとも1つのトロイダル鉄心を前記巻線環体に組み付ける組み付け工程とを含み、前記組み付け工程は、前記トロイダル鉄心の内半径が前記巻鉄心ロールの内半径と異なるように前記方向性電磁鋼板を前記巻線環体に巻き付けることを特徴とする静止誘導電器の製造方法も提供する。
【0015】
このような製造方法によれば、トロイダル鉄心は、巻鉄心ロールの内半径と異なる内半径を有するように前記巻線環体に対して巻回して組み付けられるようになり、したがって、歪取り焼鈍後の鋼板の曲率半径と、静止誘導電器として完成した状態での鋼板の曲率半径とが異なって鋼板に対し歪が導入されるようになるため、歪取り焼鈍の影響を受けずに歪を容易且つ効果的に導入してトロイダル鉄心の鉄損を低下させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の静止誘導電器及びその製造方法によれば、歪取り焼鈍後の鋼板の曲率半径と、静止誘導電器として完成した状態での鋼板の曲率半径とを異ならせることにより鋼板に対し歪を導入するようにしているため、歪取り焼鈍の影響を受けずに歪を容易且つ効果的に導入してトロイダル鉄心の鉄損を低下させることができる
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施の形態に係る静止誘導電器の概略斜視図である。
図2】(a)は、歪取り焼鈍後の巻鉄心ロールの正面図、(b)は、巻線環体に対して巻回して組み付けられた状態のトロイダル鉄心を単体で示す正面図であって、巻鉄心ロールの内半径よりも大きい内半径を有するトロイダル鉄心の正面図である。
図3】巻鉄心ロールの製造過程での状態の一例を示す概略斜視図である。
図4】巻線環体の一例を示す概略斜視図である。
図5図4のA-A線に沿う断面図である。
図6図5に示される巻線環体の断面における分解図であり、(a)は巻線環体を構成する外側巻枠を示し、(b)は巻線環体を構成する内側巻枠を示す。
図7】内側巻枠に嵌め付けられた外側巻枠に対して巻枠蓋を組み付けようとしている状態を示す巻線環体の側面図である。
図8】トロイダル鉄心を巻線環体に組み付けるべく歪取り焼鈍後の巻鉄心ロールから方向性電磁鋼板を巻線環体に巻き付けるために使用可能な装置の一例を示す概略斜視図である。
図9】低鉄損を実現できる静止誘導電器を構成する巻線環体及びトロイダル鉄心の寸法例を示す図であり、(a)は組み付け状態の静止誘導電器の正面図、(b)はトロイダル鉄心単体の正面図である。
図10】静止誘導電器の製造工程の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施の形態に係る静止誘導電器について詳細に説明する。ただし、本発明は本実施形態に開示の構成のみに制限されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。なお、下記する数値限定範囲には、下限値及び上限値がその範囲に含まれる。「超」又は「未満」と示す数値は、その値が数値範囲に含まれない。また、化学組成に関する「%」は、特に断りがない限り「質量%」を意味する。
また、本明細書において用いる、形状や幾何学的条件並びにそれらの程度を特定する、例えば、「平行」、「垂直」、「同一」、「直角」等の用語や長さや角度の値等については、厳密な意味に縛られることなく、同様の機能を期待し得る程度の範囲を含めて解釈することとする。
また、本明細書において「方向性電磁鋼板」のことを単に「鋼板」又は「電磁鋼板」と記載し、「トロイダル鉄心」のことを単に「鉄心」と記載する場合もある。
【0019】
図1は、本発明の一実施の形態に係る静止誘導電器1を概略的に示している。図示のように、本実施形態に係る静止誘導電器1は、導線7を所定回数巻回して成る環状の巻線環体2、特に本実施の形態では互いに平行な2つの短脚部2aと互いに平行な2つの長脚部2bとを有するとともに中央に窓2cを有する矩形環状の巻線環体2と、方向性電磁鋼板10を所定回数巻回して成るとともに、巻線環体2の対応する一辺に巻回状態で組み付けられる断面が円環状の少なくとも1つのトロイダル鉄心4、特に本実施の形態では巻線環体2の対向する2辺に相当する2つの長脚部2b,2bにそれぞれ巻回状態で組み付けられる2つのトロイダル鉄心4,4とを備える。
【0020】
この場合、トロイダル鉄心4,4は、電磁鋼板10に導入される機械的な歪を除去する歪取り焼鈍が既に施された断面が円環状の巻鉄心ロールR(図1には示されない;図2図3図8参照)から電磁鋼板10を繰り出しつつ巻線環体4の対応する長脚部2bに対して円環形状に巻き付けることにより形成されるようになっている。具体的には、まず最初に、電磁鋼板10を巻回して筒状にした巻鉄心ロールRを作成し、この巻鉄心ロールRに対して鉄損を低下させるべく歪取り焼鈍を施した後、巻鉄心ロールRの最外周部から引き出される電磁鋼板10を固定状態の巻線環体2の窓2cに通した後に巻鉄心ロールRの外側を通過させて再び巻線環体2の窓2cに通し、これを繰り返し行なうことにより、最終的に鋼板10の全てを当初の巻回形態を保ったまま(巻鉄心ロールRの内外周が入れ替わることなく)巻線環体2の長脚部2bに巻き付けることによってトロイダル鉄心4が形成される。
【0021】
このようにして形成される静止誘導電器1では、図2に明確に示されるように、トロイダル鉄心4が、巻鉄心ロールRの内半径(巻鉄心ロールRの中心から巻鉄心ロールRの内周面までの長さ寸法)と異なる内半径(トロイダル鉄心4の中心からトロイダル鉄心4の内周面までの長さ寸法)を有するように巻線環体2に対して巻回して組み付けられている。特に、本実施の形態では、トロイダル鉄心4の内半径が巻鉄心ロールRの内半径よりもΔr(m)だけ大きく設定される。すなわち、トロイダル鉄心4の内半径がr(m)に設定されるとともに、巻鉄心ロールRの内半径がr-Δr(m)に設定されている。また、このような寸法設定により、特に本実施の形態では、トロイダル鉄心4の外径も巻鉄心ロールRの外径より大きくなっている。そして、本実施の形態では、方向性電磁鋼板10の板厚をt(m)とすると、
【数2】
の関係が更に満たされるようになっている。
【0022】
また、本実施の形態において、トロイダル鉄心4(したがって、巻鉄心ロールR)を構成する方向性電磁鋼板10は、交流周波数50Hzの交流磁界800A/mで励磁したときの磁束密度B8が1.88T以上となる素材特性を有する。
【0023】
以下、巻鉄心ロールRの内半径と異なる内半径を有するようにトロイダル鉄心4を巻線環体2に対して巻回して組み付けるための装置及び製造方法について説明する。
図3には、巻鉄心ロールRの製造過程での状態の一例が示されている。これは、円柱形又は円筒形の巻き取り芯30の周囲に、所定の幅にスリットされた鋼板10を所定の巻厚となるまで巻き付け、その外周に固定バンド22を巻いて固定した状態である。このような状態にすることにより、方向性電磁鋼板10を所定回数巻回して成る断面が円環状の巻鉄心ロールRが製造される(図10のステップS1;巻鉄心ロールを用意する工程)。ここで、巻き取り芯20の外半径はrc-Δrに設定されている。そのようにすることにより、巻き取り芯20の外周に巻き付けられる巻鉄心ロールRの内半径がrc-Δrとなる。
【0024】
その後、図3の状態で巻鉄心ロールRに歪取り焼鈍を施す(図10のステップS2;歪取り焼鈍工程)。このような焼鈍によって鋼板10の形状が固定され、固定バンド22を外しても巻鉄心ロールRの内半径rc-Δrが保たれる。巻鉄心ロールRのその時の状態が図2の(a)に示される。
【0025】
図4には、巻線環体2の一例が図1よりも詳細に示されている。また、図4のA-A線に沿う断面図が図5に示され、巻線環体2の分解図が図6に示されている。これらの図から分かるように、巻線環体2は、内側巻枠34と、内側巻枠34の外周に嵌め付けられる外側巻枠32と、外側巻枠32に取り付けられる巻枠蓋30と、内側巻枠34の外周に巻回される導線7から成る内側巻線7aと、外側巻枠32の外周に巻回される導線7から成る外側巻線7bとによって主に構成される。この場合、内側巻線7a及び外側巻線8bはそれぞれ1次側巻線又は2次側巻線のいずれかになる。
【0026】
図5及び図6に明確に示されるように、内側巻枠34は、四隅に所定の曲率の屈曲部を有する矩形状の枠本体34aと、この枠本体34aの外周に別体又は一体に形成される導線巻回部34bとを有する。この場合、導線巻回部34bは、内側巻線7aを巻回状態で収容できるように枠本体34aの外周にその全周にわたって凹部34cを形成しており、その凹部34cの底面が円弧状を成している。一方、外側巻枠32は、四隅に所定の曲率の屈曲部を有するとともに内側巻枠34が嵌合できる矩形状の嵌合窓32eを内側に形成する矩形状の枠本体32aと、この枠本体32aの外周に別体又は一体に形成される導線巻回部32bとを有する。この場合、導線巻回部32bは、枠本体34aの外周にその全周にわたって形成されており、枠本体32aにより形成されてもよい平面状の底壁部32cと、底壁部32cの両側から円弧状に延出する側壁部32dとから成り、底壁部32cと側壁部32dとによって外側巻線7bを巻回状態で少なくとも部分的に収容できる導線収容空間を内側に画定している。また、この導線収容空間を閉じるように、断面が円弧状を成す巻枠蓋30が、外側巻枠32に対して、より正確には外側巻枠32の導線巻回部32bの円弧状の側壁部32dに対して取り付けられるようになっており、巻枠蓋30が側壁部32dに取り付けられた状態では、図5に示される断面において、巻枠蓋30と側壁部32dとが共通の1つの点を中心とする同一の曲率半径の半円を協働して形成するようになっている。更に、外側巻枠32の内側の嵌合窓32eに内側巻枠34を嵌め付けた組み付け状態では、図5に示される断面において、円弧状の巻枠蓋30と、導線巻回部32bの円弧状の側壁部32dと、凹部34cの円弧状の底面を形成する導線巻回部34bの部位とが、共通の1つの点を中心とする同一の曲率半径の1つの真円C(トロイダル鉄心4が巻回されて接触される部分)を協働して形成するようになっている。
【0027】
このように、巻線環体2は、外側巻枠32及び内側巻枠34のそれぞれの導線巻回部32b,34bに巻線(導線)7a,7bを巻き付けた後、図6に矢印Xで示されるように外側巻枠32を内側巻枠34に(あるいはその逆で)嵌め込み、図6及び図7に矢印Yで示されるように巻枠蓋30を外側巻枠32に被せるように取り付けることにより形成される。すなわち、これにより、導線7(7a,7b)を所定回数巻回して成る環状の巻線環体2が製造される(図10のステップS3;巻線環体を用意する工程)ことになる。なお、このような巻線環体2の製造は、工程短縮のため、巻鉄心ロールRの製造と並行して行なわれる(ステップS1(S2)がステップS3と並行して行なわれる)。
【0028】
次に、図8を参照して、このように形成された巻線環体2に対して組み付け装置90によりトロイダル鉄心4を組み付ける場合について説明する。
まず最初に、組み付け装置90の基台70に回転駆動可能に支持された巻鉄心回転軸62に対して歪取り焼鈍後の巻鉄心ロールRをセットする。そして、巻鉄心ロールRの外周の鋼板10の端部を巻鉄心ロールRから引き出して巻線環体2の中央窓2cに(長脚部2bを周回するように)通した後、その鋼板10の端部を、巻鉄心ロールRまで再び戻し、巻鉄心ロールRの外側に回転且つ並進可能に配置されたピンチロール50と巻鉄心ロールRとの間に通す。その後は、鋼板10が矢印Pの方に流れていくようにピンチロール50が矢印Qの方向に回転駆動される。その際、巻鉄心回転軸62も鋼板10に弛みができないように駆動させる機構が設けられることが好ましい。この巻き取り工程(図10のステップS4;トロイダル鉄心を巻線環体に組み付ける組み付け工程)が進むにつれて巻鉄心ロールRの巻厚が減少していくため、ピンチロール50は巻鉄心回転軸62の方向に並進移動できる構造となっており、巻鉄心ロールRに対して常にほぼ一定の圧力が与えられるように制御される。なお、本実施の形態では、基台70に形成されたガイド孔72に沿ってピンチロール50が巻鉄心回転軸62の方向に並進移動できるようになっている。
【0029】
また、基台70からはガイドロール60が巻線環体2の鋼板巻回部(長脚部2b)に隣接して垂直に延びている。このガイドロール60は、鋼板10の矢印P方向への流れをスムーズにする役割を担っており、巻線環体2側での鋼板10(トロイダル鉄心4)の厚みの増大に応じて位置が変わるように移動可能(基台70に設けられたガイド溝74に沿って移動可能)となっている。このようなガイドロール60は、図では1本のみ示されているが、鋼板10の流れをよりスムーズにするために複数本設けられてもよい。
【0030】
このような組み付け装置90を用いることにより、巻鉄心ロールRから最終的に鋼板10の全てを当初の巻回形態を保ったまま(巻鉄心ロールRの内外周が入れ替わることなく)巻線環体2の長脚部2bに巻き付けることができ、それにより、巻線環体2に組み付けられるトロイダル鉄心4が形成される。
【0031】
また、本実施の形態では、このようにして製造される静止誘導電器1において、トロイダル鉄心4が組み付けられる巻線環体2に関し、円弧状の巻枠蓋30と、導線巻回部32bの円弧状の側壁部32dと、凹部34cの円弧状の底面を形成する導線巻回部34bの部位とによって形成される真円Cの外半径がrcに設定されている。このような寸法設定により、鉄心4を組み付けたときにその内半径がrcとなる。以上の方法により、巻鉄心ロールRは、歪取り焼鈍後の内半径がrc-Δrとなり、それが鉄心4として巻線環体2に組付けられた状態、すなわち、静止誘導電器1として完成した状態では、トロイダル鉄心4としてその内半径がrcとなり、本発明の条件を実現することができる。なお、以上の装置構成や製造方法は単なる一例であって、巻線環体2の鉄心4に接する部分が真円で且つその外半径がrcであれば、巻線環体2はいかなる形状であってもよい。
【0032】
以下の表は、以上のようにして製造される本実施の形態に係る静止誘導電器1のトロイダル鉄心4の鉄損がどのように改善されるのかを示している。
【表1】
ここで、この表は、図9に示される静止誘導電器1の寸法設定(トロイダル鉄心4の内半径rc(m)が00mm、外半径が00mm、長さが600mm、鋼板10の厚さが0.23mm)に関し、トロイダル鉄心4の内半径と巻鉄心ロールRの内半径との差Δr(m)を1mmから10mmまで変化させたときのトロイダル鉄心4の鉄損(W)を求めた結果である(磁気特性として、800A/mで励磁したときの鋼板の磁束密度B8は1.92Tであった)。この表から分かるように、トロイダル鉄心4の内半径をrc(m)、トロイダル鉄心4の内半径と巻鉄心ロールRの内半径との差をΔr(m)、方向性電磁鋼板10の板厚をt(m)とするときに、
【数3】
の関係を満たすようにΔrを設定すると、すなわち、Δrが3.2mm以上7.2mm以下であるとき(本発明への適合が〇のとき)に、鉄損が低く抑えられている(低鉄損が得られている)。
【0033】
なお、本発明は、前述した実施の形態に限定されず、その要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できる。例えば、前述した図10の製造工程の順序は、単なる一例であって、これに限らない。また、製造装置も図4に示される形態のものに限定されない。
【符号の説明】
【0034】
1 静止誘導電器
2 巻線環体
4 トロイダル鉄心
7 導線
10 方向性電磁鋼板
R 巻鉄心ロール
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10