(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-08
(45)【発行日】2024-10-17
(54)【発明の名称】精錬装置及び低窒素鋼の製造方法
(51)【国際特許分類】
C21C 7/00 20060101AFI20241009BHJP
【FI】
C21C7/00 F
C21C7/00 N
(21)【出願番号】P 2020218301
(22)【出願日】2020-12-28
【審査請求日】2023-08-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104444
【氏名又は名称】上羽 秀敏
(74)【代理人】
【識別番号】100174285
【氏名又は名称】小宮山 聰
(72)【発明者】
【氏名】開澤 昭英
(72)【発明者】
【氏名】石橋 正嗣
(72)【発明者】
【氏名】折橋 広樹
(72)【発明者】
【氏名】眞壁 亮司
【審査官】隅川 佳星
(56)【参考文献】
【文献】特開昭50-114335(JP,A)
【文献】特開昭52-136806(JP,A)
【文献】特開平08-243730(JP,A)
【文献】特開2000-212635(JP,A)
【文献】特開2016-183385(JP,A)
【文献】特開2018-016843(JP,A)
【文献】国際公開第2020/036346(WO,A1)
【文献】米国特許第04990183(US,A)
【文献】中国実用新案第208517458(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21C 1/00 - 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極によって溶鋼及びスラグを加熱するLF精錬用の精錬装置であって、
前記溶鋼及び前記スラグを収容する取鍋と、
前記取鍋の開口を覆うように配置される蓋と、
前記取鍋の底部に設けられ、前記溶鋼にガスを底吹きするための底吹ガス導入部材と、を備え、
前記蓋は、前記スラグにガスを吹き付けるためのパージガス導入口を有し、
前記底吹ガス導入部材は、平面視において前記取鍋の中心とは異なる位置に配置され、
前記パージガス導入口は、平面視において、前記底吹ガス導入部材と、前記取鍋の中心から見て前記底吹ガス導入部材よりも奥側にある前記取鍋の炉壁との間に配置さ
れ、
平面視において、前記取鍋の中心と前記底吹ガス導入部材の中心を結ぶ直線と、前記取鍋の中心と前記パージガス導入口の中心とを結ぶ直線とがなす角が、20°以下である、精錬装置。
【請求項2】
請求項1に記載の精錬装置を用いた低窒素鋼の製造方法であって、
前記パージガス導入口から前記スラグに不活性ガスを供給する、低窒素鋼の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の低窒素鋼の製造方法であって、
前記不活性ガスの流量Q
Arが、下記の式(1)を満たす、低窒素鋼の製造方法。
【数1】
ここで、Cは流量係数(=0.7)、D
iは取鍋の内径、H
1は取鍋と蓋との間の鉛直方向のクリアランス、D
2は蓋の電極用の孔の直径、D
cは電極の外径、nは電極の本数、gは重力加速度、H
2は蓋の高さ、T
iは炉内平均温度、T
0は外気温度、d
0はパージガス導入口の内径、xはパージガス導入口の出口からスラグ面までの距離である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精錬装置及び低窒素鋼の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼の精錬方法は、加熱設備や真空設備の有無によって、幾つかの方式に分類される。LF精錬は、電極で溶鋼を加熱しながら大気圧下で精錬を行う精錬方法である。
【0003】
LF精錬では、外気からの吸窒抑制が重要な課題となる。特開平1-208413号公報には、アーク加熱取鍋精錬によって低窒素鋼を製造する方法が開示されている。同公報には、造滓剤を添加すると共に溶鋼を攪拌して、溶鋼熱により少なくとも造滓剤の一部を溶融し、次いで電孤棒の電極部を溶融造滓剤中に挿入してアーク加熱を行うことが開示されている。この方法は、造滓剤を前もって溶融させておき、溶融スラグ中に電極を浸漬することでオープンアークによる窒素プラズマの発生を抑制し、これによって溶鋼中への窒素の吸収を抑制しようとするものである。
【0004】
特開2008-266759号公報には、電極加熱装置を用いた取鍋精錬における窒素ピックアップ防止方法が開示されている。同公報には、鍋口から周囲へ漏出したダスト濃度が予め定めた範囲内になるように、鍋内発生含塵ガスの吸引量を制御することが記載されている。
【0005】
LF精錬に関するものではないが、大気圧下で溶鋼を精錬する技術に関するものとして、特許第3804143号公報には、ステンレス鋼用溶銑を取鍋攪拌する際の雰囲気制御方法が開示されている。同公報には、攪拌用不活性ガスとは別にシール用ガスを取鍋空間内に供給し、取鍋攪拌時の雰囲気を制御することが記載されている。
【0006】
大気圧下で溶鋼を精錬する別の技術に関するものとして、特許第5082417号公報、特許第5505432号公報、特許第5979029号公報、及び特許第6645374号公報には、低窒素鋼の溶製方法が開示されている。これらの公報には、(1)大気圧下において取鍋内溶鋼にCaO系フラックスを添加する工程、(2)取鍋蓋を設置し、取鍋内溶鋼中に攪拌ガスを吹き込んで蓋の内側への大気の侵入を抑制しながら攪拌すると共に、溶鋼に酸化性ガスを供給し、生成した酸化物をCaO系フラックスと混合してカバースラグを形成する工程、(3)酸化性ガスの供給を停止し、取鍋内溶鋼中に攪拌ガスを吹き込んで脱硫及び介在物除去を行う工程、を順次実施することが記載されている。
【0007】
取鍋内を真空排気してから精錬を行う技術に関するものとして、特開2006-111950号公報には、鍛鋼品用溶鋼の真空脱水素処理方法が開示されている。同公報には、取鍋を蓋で覆うと共に、蓋に設けられたAr吹きつけ用ランスの吹きつけ口からスラグ表面までの距離を800~3000mmとし、該吹きつけ口からスラグ表面へArを流量15~200Nm3/hrで吹きつけ、且つ、取鍋底部に設けられた底吹き羽口からArを流量1500~12500NL/hrで吹き込むことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平1-208413号公報
【文献】特開2008-266759号公報
【文献】特許第3804143号公報
【文献】特許第5082417号公報
【文献】特許第5505432号公報
【文献】特許第5979029号公報
【文献】特許第6645374号公報
【文献】特開2006-111950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
LF精錬では近年、脱硫・脱酸に加えて、高いレベルでの窒素の低減が求められている。これを実現するためには、脱硫性能等を低下させずに吸窒を抑制できることが好ましい。一方、LF精錬における吸窒抑制に関する報告は、それほど多くなされていない。
【0010】
本発明の課題は、LF精錬において、脱硫性能等に影響する操業条件を大きく変えることなく、吸窒を抑制できる精錬装置を提供することである。本発明の他の目的は、LF精錬において、脱硫性能等に影響する操業条件を大きく変えることなく、吸窒を抑制できる低窒素鋼の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一実施形態による精錬装置は、電極によって溶鋼及びスラグを加熱するLF精錬用の精錬装置であって、前記溶鋼及び前記スラグを収容する取鍋と、前記取鍋の開口を覆うように配置される蓋と、前記取鍋の底部に設けられ、前記溶鋼にガスを底吹きするための底吹ガス導入部材と、を備え、前記蓋は、前記スラグにガスを吹き付けるためのパージガス導入口を有し、前記パージガス導入口は、平面視において、前記底吹ガス導入部材と、前記取鍋の中心から見て前記底吹ガス導入部材よりも奥側にある前記取鍋の炉壁との間に配置される。
【0012】
本発明の一実施形態による低窒素鋼の製造方法は、上記の精錬装置を用いた低窒素鋼の製造方法であって、前記パージガス導入口から前記スラグに不活性ガスを供給する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、脱硫性能等に影響する操業条件を大きく変えることなく、吸窒を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態による精錬装置の構成を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、取鍋の炉壁、ポーラスプラグ、パージガス導入口、及びプルームアイの平面視における位置関係を模式的に示す図である。
【
図3】
図3は、Arパージ位置と吸窒量との関係を示すグラフである。
【
図4】
図4は、Ar流量と吸窒量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者らは、LF精錬において外気からの吸窒を抑制する方法を検討し、以下の知見を得た。
【0016】
精錬中の溶鋼は通常、表面がスラグによって覆われており、外気から遮断されている。一方、精錬中の溶鋼には取鍋の底部から攪拌ガスが底吹きされており、この攪拌ガスが溶鋼から離脱する際、付近のスラグが掻き分けられて溶鋼露出面が形成される場合がある。この溶鋼露出面はプルームアイと呼ばれ、このプルームアイに外気が接触することで吸窒が起こる場合がある。
【0017】
プルームアイの発生を抑制する方法としては、スラグ厚みの調整、及び攪拌ガスの流量の制御等が挙げられる。一方、スラグの炉壁付着の問題等のため、十分なスラグ厚みを確保できない場合がある。また、脱硫速度を確保するため、攪拌ガスの流量を小さくできない場合がある。これらの操業条件が変動しても吸窒を抑制できるようにするためには、プルームアイが発生した状況であっても吸窒を抑制できるようにすることが好ましい。
【0018】
本発明者らは、数値流体解析を行って、LF精錬に用いられる精錬装置の内外のガスの流れを計算した。その結果、外気は取鍋-蓋間の隙間から流入し、蓋内のガスは電極-蓋間の隙間から排出されることが分かった。この一方向のガスの流れは、煙突効果による上昇気流によって生成したものと考えられる。煙突効果とは、煙突下部の空気取り入れ口から外部の低温高密度の空気を煙突内に引き入れながら、高温低密度の空気が上昇する現象である。
【0019】
すなわち、LF精錬に用いられる精錬装置では、装置の最外周に位置する取鍋-蓋間の隙間から、装置の中心付近に位置する電極-蓋間の隙間に向かうガスの流れが発生している。侵入する外気の流量は、集塵流量をゼロにした場合であっても現実的なパージガスの流量の10倍以上と見積もられ、蓋内全体を不活性ガスで置換することは困難である。また、集塵流量の低減による効果も限定的と考えられる。
【0020】
本発明者らは、種々の検討の結果、平面視においてプルームアイと炉壁との間になる位置にパージガス導入口を設け、不活性ガスをスラグ面に吹き付けることで、炉壁側から侵入した外気がプルームアイに向かう流れを妨げ、外気とプルームアイとの接触を抑制できることを見出した。
【0021】
本発明は、以上の知見に基づいて完成された。以下、図面を参照し、本発明の実施の形態を詳しく説明する。図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。各図に示された構成部材間の寸法比は、必ずしも実際の寸法比を示すものではない。
【0022】
[精錬装置]
図1は、本発明の一実施形態による精錬装置1の構成を模式的に示す断面図である。精錬装置1は、電極によって溶鋼及びスラグを加熱するLF精錬用の精錬装置である。
【0023】
精錬装置1は、取鍋11、蓋12、電極13、及び底吹ガス導入部材であるポーラスプラグ14を備えている。蓋12は、パージガス導入口12aを有している。
図1では便宜上、電極13、ポーラスプラグ14、及びパージガス導入口12aが同一断面内にあるように図示しているが、
図1はあくまでも模式図であり、これらの部材の正確な位置関係を示したものではない。電極13、ポーラスプラグ14、及びパージガス導入口12aは、同一断面内になくてもよい。
【0024】
取鍋11は、溶鋼21及びスラグ22を収容する。
【0025】
蓋12は、取鍋11の開口を覆うように、取鍋11の上部に配置される。蓋12には、パージガス導入口12aに加えて、電極13を挿入するための孔が形成されている。
【0026】
電極13は、溶鋼21を加熱する。電極13は、例えば人造黒鉛電極であり、アーク加熱によって溶鋼21及びスラグ22を加熱する。電極13は通常、取鍋11の耐火物の損耗を低減するため、取鍋11の炉壁11aから離れた位置に配置される。すなわち、電極13は通常、平面視において取鍋11の中心付近に配置される。
【0027】
本明細書において、「平面視」とは、鉛直方向の上方から鉛直方向と平行に見ることを意味する。平面視における各構成要素間の位置関係は、各構成要素を
図1における直線A-A’の位置で取鍋11を水平に切断したとして、その切断面上に投影したときの位置関係に相当する。
【0028】
ポーラスプラグ14は、取鍋11の底部に設けられている。ポーラスプラグ14は、溶鋼21にガスを底吹きして溶鋼21を攪拌する。ポーラスプラグ14は、平面視において電極13と離れた位置に配置されることが好ましい。これは、ポーラスプラグ14から吹き込まれるガスが電極13に供給されると、電圧が変動して電極13の損耗の原因になるためである。上述のとおり、電極13は通常、平面視において取鍋11の中心付近に配置される。そのため、ポーラスプラグ14は、平面視において取鍋11の中心から離れた位置に配置されることが好ましい。
【0029】
パージガス導入口12aは、スラグ22にガスを吹き付ける。パージガス導入口12aは、より正確には、平面視において、ポーラスプラグ14と、取鍋11の中心から見てポーラスプラグ14よりも奥側にある取鍋11の炉壁11aとの間に配置される。パージガス導入口12aのより好ましい配置については後述する。
【0030】
[低窒素鋼の製造方法]
次に、精錬装置1を用いた低窒素鋼の製造方法の一例を説明する。まず、取鍋11内に溶鋼21及び副原料等を投入する。副原料の溶融によって、スラグ22が形成される。電極13によって溶鋼21及びスラグ22を加熱する。ポーラスプラグ14から不活性ガスを底吹きし、溶鋼21及びスラグ22を攪拌する。不活性ガスは、通常はArガスが用いられる。これによって、溶鋼21の脱硫及び脱酸が行われる。必要に応じて、合金元素を添加して、成分の調整等を行ってもよい。
【0031】
精錬中の溶鋼21は通常、表面がスラグ22によって覆われており、外気から遮断されている。しかし、ポーラスプラグ14から底吹きされるガスが溶鋼21から離脱する際、付近のスラグ22が掻き分けられて、溶鋼露出面であるプルームアイ21aが形成される場合がある。プルームアイ21aは、平面視においてポーラスプラグ14とほぼ同じ位置に形成される。プルームアイ21aに外気が接触すると、吸窒が起こる場合がある。
【0032】
本実施形態では、蓋12に形成されたパージガス導入口12aから、不活性ガスをスラグ22に吹き付ける。不活性ガスは、通常はArガスが用いられる。
【0033】
精錬装置1では、
図1に白抜きの矢印で示すように、外気が取鍋11と蓋12との間の隙間から流入し、蓋12と電極13と間の隙間から排出される。パージガス導入口12aから不活性ガスを吹き付けることによって、取鍋11と蓋12との間の隙間から流入する外気がプルームアイ21aに向かうのを妨げ、外気とプルームアイ21aとが接触するのを抑制することできる。これによって、プルームアイ21aが存在する状況であっても吸窒を抑制することができ、窒素含有量の低い鋼を製造することができる。
【0034】
図2は、取鍋11の炉壁11a、ポーラスプラグ14、パージガス導入口12a、及びプルームアイ21aの平面視における位置関係を模式的に示す図である。上述のとおり、パージガス導入口12aは、平面視において、ポーラスプラグ14と、取鍋11の中心c0から見てポーラスプラグ14よりも奥側にある取鍋11の炉壁11aとの間に配置される。
【0035】
取鍋11の中心c0、ポーラスプラグ14、及びパージガス導入口12aは、平面視において必ずしも同一直線上になくてもよい。パージガス導入口12aは、炉壁11a側から流入する外気がプルームアイ21aに向かうのを妨げることができる位置であればよい。取鍋11の中心c0からポーラスプラグ14の中心までの距離やプルームアイ21aの大きさにも依存するが、平面視において取鍋11の中心c0とポーラスプラグ14の中心を結ぶ直線と、取鍋11の中心c0とパージガス導入口12aの中心とを結ぶ直線とがなす角θは、好ましくは20°以下であり、より好ましくは10°以下であり、さらに好ましくは5°以下である。
【0036】
パージガス導入口12aは、取鍋11の中心c0からの距離の観点では、平面視において、取鍋11の中心c0からポーラスプラグ14の中心までの距離をr1、取鍋11の中心c0からパージガス導入口12aの中心までの距離をr2、取鍋11の中心c0から炉壁11aまでの距離をr3として、r1<r2<r3となる位置に配置される。
【0037】
パージガス導入口12aをポーラスプラグ14の直上に配置すると、パージガス導入口12aから吹き付けるガスが周囲の外気を巻き込んでプルームアイ21aに接触することにより、吸窒抑制効果が十分に得られない場合がある。そのため、パージガス導入口12aは、平面視において、ポーラスプラグ14の中心よりも炉壁11a寄りに配置する。パージガス導入口12aは、プルームアイ21aの外周よりも炉壁側に設置することが好ましい。プルームアイ21aが平面視において円形である場合、その直径は、操業条件にもよるが、例えば、約300~400mmである。従って、r2の大きさは、好ましくはr1+150mm以上であり、より好ましくはr1+200mm以上であり、さらに好ましくはr1+300mm以上であり、さらに好ましくはr1+500mm以上である。
【0038】
パージガス導入口12aから供給する不活性ガス(以下、単に「パージガス」という。)の流量は、小さすぎると外気を遮る効果が十分に得られない場合があり、大きすぎると外気を巻き込むことで却ってプルームアイ21aを汚染してしまう場合がある。
【0039】
パージガスの流量は、スラグ22面上でのパージガスの平均流速vArが、下記の式(1)を満たすように決定することが好ましい。
【0040】
【0041】
vairは、取鍋11と蓋12との間の隙間から流入する外気の平均流速であり、下記の式(2)及び(3)から算出できる。
【0042】
【0043】
ここで、Qairは給気流量、A1は取鍋11と蓋12との間の開口面積、A2は蓋12と電極13との間の開口面積、Cは流量係数(=0.7)、gは重力加速度、H2は蓋12の高さ、Tiは炉内平均温度、T0は外気温度である。
【0044】
取鍋11、電極13、及び電極用の孔の各々が平面視において円形である場合、A1及びA2はそれぞれ、下記の式(4)及び(5)から算出することもできる。
【0045】
【0046】
ここで、Diは取鍋11の内径、H1は取鍋11と蓋12との間の鉛直方向のクリアランス、D2は蓋12の電極用の孔の直径、Dcは電極の外径、nは電極の本数である。
【0047】
vArは、下記の式(6)及び(7)から算出できる。
【0048】
【0049】
ここで、vAr’はスラグ22面上でのパージガスの中心流速、v0はパージガス導入口12aでのパージガスの出口流速、d0はパージガス導入口12aの内径、xはパージガス導入口12aの出口からスラグ22面までの距離である。
【0050】
なお、パージガスの流量QArとvArの関係は、v0=4QAr/(π・d0
2)から、下記の式(8)で与えられる。
【0051】
【0052】
以上を整理して、パージガスの流量QArは、下記の式(9)を満たすことが好ましい。
【0053】
【0054】
取鍋11、電極13、及び電極用の孔の各々が平面視において円形である場合、Q0は、式(4)及び式(5)を用いて、下記のように表すこともできる。
【0055】
【0056】
以上、本発明の一実施形態による精錬装置、及び低窒素鋼の製造方法を説明した。本実施形態による精錬装置1は、蓋12にパージガス導入口12aを有する。このパージガス導入口12aは、平面視において、ポーラスプラグ14と、取鍋11の中心から見てポーラスプラグ14よりも奥側にある取鍋11の炉壁11aとの間に配置される。この構成によれば、パージガス導入口12aから不活性ガスをスラグ22に吹き付けることによって、炉壁11a側から流入する外気がプルームアイ21aに接触するのを抑制し、溶鋼21の吸窒を抑制することができる。そのため、プルームアイ21aが存在する状況であっても吸窒を抑制することができ、窒素含有量の低い鋼を製造することができる。別の観点では、脱硫性能等に影響する操業条件を大きく変えることなく、吸窒を抑制することができる。
【0057】
上記の実施形態では、溶鋼21にガスを底吹きするための底吹ガス導入部材がポーラスプラグである場合を説明したが、底吹ガス導入部材は、ポーラスプラグでなくてもよく、溶鋼21にガスを底吹きできるものであれば任意である。
【0058】
上記の実施形態では、取鍋11にポーラスプラグ14(底吹ガス導入部材)が一つだけ設けられている場合を説明したが、取鍋11に複数のポーラスプラグが設けられていてもよい。この場合、複数のポーラスプラグの少なくとも一つについて、平面視において当該ポーラスプラグと炉壁11aとの間にパージガス導入口が設けられていれば、当該ポーラスプラグによって形成されるプルームアイと外気との接触を抑制できるので、一定の吸窒抑制効果が得られる。もっとも、複数のポーラスプラグがある場合、複数のポーラスプラグの各々について、平面視において当該ポーラスプラグと炉壁11aとの間にパージガス導入口が設けられていることがより好ましい。また、一つのポーラスプラグに対して複数のパージガス導入口が設けられていてもよい。
【0059】
精錬装置1は、パージガス導入口12aに加えて、さらに別のパージガス導入口を任意の箇所に備えていてもよい。
【0060】
図1及び
図2では、精錬装置1が3本の電極13を備える三相交流式であるように図示しているが、精錬装置1は、直流式であってもよい。
【実施例】
【0061】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明する。本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0062】
100トン規模のアーク加熱を付与した取鍋型の精錬装置を用いて、吸窒抑制試験を実施した。具体的には、N含有量が0.0020~0.0030質量%の溶鋼を原料として、精錬後のS含有量が0.002~0.003質量%、Sol.Al含有量が0.05~0.06質量%となる条件でLF精錬を行い、精錬前後での窒素含有量の差を吸窒量(質量ppm)として求めた。
【0063】
副原料にて10kg/tのスラグを製造した後、合金成分の調整を行った。取鍋は、炉内径2720mmで、ポーラスプラグを取鍋の中心から640mmの距離の位置に設置した。このポーラスプラグから、Arガスを100NL/minで供給し、溶鋼とスラグとを攪拌した。交流電極からのアーク加熱により、溶鋼を1530℃から1590℃になるまで加熱した。処理時間は40分間とした。
【0064】
パージガス導入口は、取鍋の中心から見て、平面視においてポーラスプラグと同一方向(
図2においてθ=0°)の位置に、取鍋の中心からの距離を変えて設置した。このパージガス導入口から、0~750NL/minのアルゴンガスを鉛直下向きに供給した。
【0065】
この試験では、外気の平均流速vairは0.3m/s、Q0は160NL/minであった。
【0066】
それぞれの条件で10回の試験を実施し、平均値で吸窒量を評価した。結果を表1に示す。Arパージなしの条件(比較例1)と比較して、吸窒量が10%以上低減した場合について、吸窒抑制効果があったと評価した。
【0067】
【0068】
Arパージ位置と吸窒量との関係、及びAr流量と吸窒量との関係をそれぞれ
図3及び
図4に示す。
【0069】
実施例1~3では、平面視において、ポーラスプラグと、取鍋の中心から見てポーラスプラグよりも奥側にある取鍋の炉壁との間にパージガス導入口を配置した。その結果、比較例1~3に対して吸窒量の低減が認められた。これは、パージガスによって外気を遮断したことによる効果であると考えられる。
【0070】
比較例2及び3では、平面視においてポーラスプラグと、取鍋の中心との間にパージガス導入口を配置した。その結果、Arパージなしの条件(比較例1)に対して吸窒量の低減は認めらなかった。
【0071】
実施例3~7では、Ar流量を変更して試験を実施した。その結果、実施例3で最も吸窒量が低減した。Arが外気を遮断する一方、外気を巻き込んだArパージ噴流によってプルームアイが汚染されるため、最適なAr流量範囲があるものと考えられる。
【0072】
以上、本発明の実施の形態を説明した。上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で、上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0073】
1 精錬装置
11 取鍋
11a 炉壁
12 蓋
12a パージガス導入口
13 電極
14 ポーラスプラグ(底吹ガス導入部材)
21 溶鋼
21a プルームアイ
22 スラグ