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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-08
(45)【発行日】2024-10-17
(54)【発明の名称】衝撃吸収部材
(51)【国際特許分類】
   B62D 25/08 20060101AFI20241009BHJP
   B62D 25/20 20060101ALI20241009BHJP
   F16F 7/00 20060101ALI20241009BHJP
   F16F 7/12 20060101ALI20241009BHJP
【FI】
B62D25/08 E
B62D25/20 C
F16F7/00 J
F16F7/12
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021028105
(22)【出願日】2021-02-25
(65)【公開番号】P2022129444
(43)【公開日】2022-09-06
【審査請求日】2023-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】三日月 豊
(72)【発明者】
【氏名】山崎 由光
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 泰則
(72)【発明者】
【氏名】白井 祥
【審査官】塚本 英隆
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-229452(JP,A)
【文献】特開2009-220635(JP,A)
【文献】特開2017-077746(JP,A)
【文献】特開2010-188753(JP,A)
【文献】再公表特許第2016/031964(JP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/08
B62D 25/20
F16F 7/00
F16F 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体用の衝撃吸収部材であって、
互いに対向する一対の第1縦壁と、前記第1縦壁の端縁同士を接続する第1天板と、前記第1縦壁と前記第1天板との角部を構成する一対の第1稜線部と、を含む第1構造部材と、
前記第1構造部材の内側において前記第1縦壁に沿って配置される一対の第2縦壁と、前記第1構造部材の内側において前記第1天板と対向し、前記第2縦壁の端縁同士を接続する第2天板と、前記第2縦壁と前記第2天板との角部を構成する一対の第2稜線部と、を含み、前記第1構造部材と接合される補強部材と、
を備え、
前記第2稜線部の一方は、当該第2稜線部の一部を前記補強部材の内側に窪ませるように設けられた第1凹部であって、前記第2縦壁の一方及び前記第2天板のそれぞれの途中まで達する前記第1凹部を有し、
前記第2稜線部の他方は、当該第2稜線部の一部を前記補強部材の内側に窪ませるように設けられた第2凹部であって、前記第1凹部に対向する位置に配置され、前記第2縦壁の他方及び前記第2天板のそれぞれの途中まで達する前記第2凹部を有し、
前記第1凹部及び前記第2凹部のそれぞれの表面は、全体として、前記補強部材の内側に向かって凹の曲面であり、球面、回転楕円面、及び回転放物面のうちのいずれかの一部で構成され、
前記第1凹部のうち前記第2天板に及ぶ領域の最大長さをW1、前記第2凹部のうち前記第2天板に及ぶ領域の最大長さをW2、前記一対の第2縦壁の外表面同士の距離をWとしたとき、0.5≦(W1+W2)/Wを満たす、衝撃吸収部材。
【請求項2】
請求項1に記載の衝撃吸収部材であって、さらに、
前記第1構造部材と直列に配置され、前記第1構造部材と連結される第2構造部材、
を備え、
前記第2構造部材は、
前記第1構造部材と前記第2構造部材との配列方向に延びる筒状の部材本体と、
前記部材本体内に設けられ、前記部材本体内の空間を横断するとともに前記部材本体の軸方向に延びるリブと、
を含む、衝撃吸収部材。
【請求項3】
請求項1に記載の衝撃吸収部材であって、さらに、
前記第1構造部材と直列に配置され、前記第1構造部材と連結される第2構造部材、
を備え、
前記第2構造部材は、前記第1構造部材と前記第2構造部材との配列方向に延びる筒状の部材本体を含み、
前記部材本体の周壁には、前記部材本体の内側に向かって凹の形状を有し、前記部材本体の軸方向に延びる溝が形成されている、衝撃吸収部材。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の衝撃吸収部材であって、
前記補強部材は、2.0mm未満の厚みを有する、衝撃吸収部材。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の衝撃吸収部材であって、
前記第1凹部及び前記第2凹部は、前記補強部材の長手方向の中央部に配置されている、衝撃吸収部材。
【請求項6】
請求項1からのいずれか1項に記載の衝撃吸収部材であって、
前記補強部材は、780MPa以上の引張強度を有する鋼板で形成されている、衝撃吸収部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車体用の衝撃吸収部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の車体構造として、モノコック構造が広く採用されている。モノコック構造の車体は、複数の構造部材を連結して形成されている。構造部材は、例えば、バンパーレインフォースメント、フロントサイドメンバー、リアサイドメンバー、クラッシュボックス、ピラー、サイドシル、クロスメンバー、フロアパネル、ルーフパネル等である。各構造部材は、単独で又は他の構造部材との組合せにより、自動車の衝突が生じた際に衝撃を吸収する衝撃吸収部材として機能する。
【0003】
特許文献1は、車長方向に延びるサイドシルと、車幅方向に延びてサイドシルに連結されるクロスメンバーとを有する衝撃吸収部材を開示する。サイドシルは、例えば、その側方から衝突荷重が入力された際に曲げ変形して衝突エネルギーを吸収する。特許文献1のサイドシルは、中空且つ略長方形状の横断面を有している。サイドシルは、車幅方向において外側の側壁と内側の側壁とを接続する複数の横リブを有する。これらの横リブの少なくとも1つは、サイドシルの長手方向から見て、クロスメンバーの上面に連続するように設けられる。サイドシルは、さらに、複数の横リブのいずれかと上壁又は下壁とを接続する複数の縦リブを有している。
【0004】
特許文献1のサイドシルは、全長にわたり一定の横断面形状を有する。そのため、サイドシルに衝突荷重が入力されたとき、サイドシルを所望の箇所で曲げ変形させることはできない。
【0005】
これに対して、特許文献2では、曲げ変形モードを制御することが可能な衝撃吸収部材が提案されている。特許文献2は、衝撃吸収部材の一例として、フロアパネル上に配置されるリアサイドメンバーを開示する。特許文献2におけるリアサイドメンバーは、天板と、天板の両側縁から下方に突出する一対の縦壁と、これらの縦壁の下端から外側に突出する一対のフランジとを含んでいる。各縦壁には、上下方向に延びる凹部が形成されている。一方の縦壁における凹部は、他方の縦壁における凹部からリアサイドメンバーの長手方向に離れて配置されている。特許文献2によれば、リアサイドメンバーに対して長手方向に衝突荷重が入力されたとき、リアサイドメンバーにおいて凹部を起点とする曲げ変形が安定して発生し、衝突エネルギーを効率的に吸収することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-192871号公報
【文献】特開2016-199187号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
衝撃吸収部材には、優れた衝突エネルギー吸収性能が要求される。曲げ変形モードを制御するための手段を衝撃吸収部材に持たせる場合には、車体全体の剛性への影響をできるだけ小さくすることが好ましい。
【0008】
本開示は、車体全体の剛性への影響を抑制しつつ、衝突エネルギー吸収性能を向上させることができる衝撃吸収部材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示に係る衝撃吸収部材は、車体用の衝撃吸収部材である。衝撃吸収部材は、第1構造部材と、補強部材とを備える。第1構造部材は、一対の第1縦壁と、第1天板と、一対の第1稜線部とを含む。一対の第1縦壁は、互いに対向する。第1天板は、第1縦壁の端縁同士を接続する。一対の第1稜線部は、第1縦壁と第1天板との角部を構成する。補強部材は、一対の第2縦壁と、第2天板と、一対の第2稜線部とを含む。一対の第2縦壁は、第1構造部材の内側において第1縦壁に沿って配置される。第2天板は、第1構造部材の内側において第1天板と対向する。第2天板は、第2縦壁の端縁同士を接続する。一対の第2稜線部は、第2縦壁と第2天板との角部を構成する。補強部材は、第1構造部材と接合される。第2稜線部の一方は、第1凹部を有する。第1凹部は、当該第2稜線部の一部を補強部材の内側に窪ませるように設けられる。第1凹部は、第2縦壁の一方及び第2天板のそれぞれの途中まで達している。第2稜線部の他方は、第2凹部を有する。第2凹部は、当該第2稜線部の一部を補強部材の内側に窪ませるように設けられる。第2凹部は、第1凹部に対向する位置に配置される。第2凹部は、第2縦壁の他方及び第2天板のそれぞれの途中まで達している。
【発明の効果】
【0010】
本開示に係る衝撃吸収部材によれば、車体全体の剛性への影響を抑制しつつ、衝突エネルギー吸収性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施形態に係る衝撃吸収部材を模式的に示す斜視図である。
図2図2は、図1に示す衝撃吸収部材のII-II断面図である。
図3図3は、図1に示す衝撃吸収部材に含まれる構造部材及び補強部材を天板側から見た図である。
図4図4は、図1に示す衝撃吸収部材のIV-IV断面図である。
図5図5は、図4に示す衝撃吸収部材の断面の別の例を示す図である。
図6図6は、図4に示す衝撃吸収部材の断面の別の例を示す図である。
図7図7は、図4に示す衝撃吸収部材の断面の別の例を示す図である。
図8図8は、図4に示す衝撃吸収部材の断面の別の例を示す図である。
図9図9は、図4に示す衝撃吸収部材の断面の別の例を示す図である。
図10図10は、実施形態に係る衝撃吸収部材において、構造部材同士が連結された状態を模式的に示す図である。
図11図11は、実施形態に係る衝撃吸収部材に含まれる補強部材の変形例を模式的に示す斜視図である。
図12図12は、自動車のオフセット前面衝突解析において、比較例1として用いた衝撃吸収部材を模式的に示す斜視図である。
図13図13は、自動車のオフセット前面衝突解析において、比較例2として用いた衝撃吸収部材を模式的に示す斜視図である。
図14図14は、自動車のオフセット前面衝突解析における比較例1及び実施例3について、車両ストローク(侵入量)とエネルギー吸収量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施形態に係る衝撃吸収部材は、車体用の衝撃吸収部材である。衝撃吸収部材は、第1構造部材と、補強部材とを備える。第1構造部材は、一対の第1縦壁と、第1天板と、一対の第1稜線部とを含む。一対の第1縦壁は、互いに対向する。第1天板は、第1縦壁の端縁同士を接続する。一対の第1稜線部は、第1縦壁と第1天板との角部を構成する。補強部材は、一対の第2縦壁と、第2天板と、一対の第2稜線部とを含む。一対の第2縦壁は、第1構造部材の内側において第1縦壁に沿って配置される。第2天板は、第1構造部材の内側において第1天板と対向する。第2天板は、第2縦壁の端縁同士を接続する。一対の第2稜線部は、第2縦壁と第2天板との角部を構成する。補強部材は、第1構造部材と接合される。第2稜線部の一方は、第1凹部を有する。第1凹部は、当該第2稜線部の一部を補強部材の内側に窪ませるように設けられる。第1凹部は、第2縦壁の一方及び第2天板のそれぞれの途中まで達している。第2稜線部の他方は、第2凹部を有する。第2凹部は、当該第2稜線部の一部を補強部材の内側に窪ませるように設けられる。第2凹部は、第1凹部に対向する位置に配置される。第2凹部は、第2縦壁の他方及び第2天板のそれぞれの途中まで達している(第1の構成)。
【0013】
第1の構成に係る衝撃吸収部材では、第1構造部材の少なくとも一部が補強部材によって内側から補強され、その剛性が高められている。そのため、例えば、衝撃吸収部材に対してその長手方向に衝突荷重が入力されたとき、第1構造部材の変形を抑制することができる。これにより、衝撃吸収部材の衝突エネルギー吸収性能を向上させることができる。
【0014】
第1の構成では、補強部材によって衝撃吸収部材の衝突エネルギー吸収性能を向上させている。そのため、例えば、衝撃吸収部材に対してその長手方向に衝突荷重が入力されたとき、衝撃吸収部材が車両の内側に侵入する量(車両侵入量)が小さくなる。よって、車両侵入量に応じて決定される衝撃吸収部材の長さを短くすることができる。その結果、衝撃吸収部材、及び衝撃吸収部材が使用される車体を軽量化することができる。
【0015】
第1の構成では、第1構造部材の内側に配置される補強部材において、第2縦壁と第2天板との角部を構成する第2稜線部の各々に、第2縦壁の途中及び第2天板の途中まで達する凹部が形成されている。そのため、例えば、衝撃吸収部材に対してその長手方向に衝突荷重が入力され、第1構造部材に変形が生じる際には、これらの凹部を起点として第1構造部材を曲げることができる。すなわち、第1構造部材の曲げ変形モードを制御することができる。
【0016】
第1の構成に係る衝撃吸収部材において、第1構造部材は、通常、他の構造部材と連結されて車体を形成する。一方、補強部材は、第1構造部材を補強するための部材であり、他の構造部材には連結されない。曲げ変形モードを制御するための手段である凹部は、この補強部材に設けられている。そのため、凹部は、例えば曲げやねじり等の力が車体に入力されたとき、構造部材間における力の伝達を阻害しない。したがって、凹部は、車体全体の剛性に実質的に影響を与えない。
【0017】
衝撃吸収部材は、さらに、第2構造部材を備えることができる。第2構造部材は、第1構造部材と直列に配置され、第1構造部材と連結される。第2構造部材は、筒状の部材本体と、リブとを含むことが好ましい。部材本体は、第1構造部材と第2構造部材との配列方向に延びる。リブは、部材本体内に設けられる。リブは、部材本体内の空間を横断するとともに部材本体の軸方向に延びる(第2の構成)。
【0018】
第2の構成によれば、第1構造部材に対し、第2構造部材が直列に連結されている。第2構造部材は、部材本体内に設けられたリブにより、その剛性が高められている。これにより、第2構造部材が意図しない変形モードで変形するのを抑制することができる。よって、例えば、衝撃吸収部材に対して第2構造部材側から衝突荷重が入力されたとき、第2構造部材を部材本体の軸方向に安定して圧潰させることができる。一方、第1構造部材では、補強部材を内蔵することで少なくとも一部が補強されている。そのため、第2構造部材が圧潰した後に、第1構造部材を曲げ変形させることができる。このとき、補強部材の第2稜線部に設けられた凹部を起点として、第1構造部材の曲げ変形を生じさせることができる。
【0019】
第2構造部材において、部材本体の周壁には溝が形成されていてもよい。溝は、例えば、部材本体の内側に向かって凹の形状を有し、部材本体の軸方向に延びる(第3の構成)。
【0020】
第3の構成によれば、第1構造部材に対し、第2構造部材が直列に連結されている。第2構造部材は、部材本体の周壁に設けられた溝により、その剛性が高められている。この場合も、第2構造部材が意図しない変形モードで変形するのを抑制することができる。よって、例えば、衝撃吸収部材に対して第2構造部材側から衝突荷重が入力されたとき、第2構造部材を部材本体の軸方向に安定して圧潰させることができる。一方、第1構造部材では、補強部材を内蔵することで少なくとも一部が補強されている。そのため、第2構造部材が圧潰した後に、第1構造部材を曲げ変形させることができる。このとき、補強部材の第2稜線部に設けられた凹部を起点として、第1構造部材の曲げ変形を生じさせることができる。
【0021】
補強部材は、例えば、2.0mm未満の厚みを有することができる(第4の構成)。
【0022】
第1凹部及び第2凹部は、補強部材の長手方向の中央部に配置されていてもよい(第5の構成)。
【0023】
第1構造部材を設計する際は、曲げ変形の起点としたい箇所、つまり補強部材の凹部を配置したい箇所を決定し、凹部を中心として衝突荷重を負担するために補強が必要な領域を決定する。そのため、補強部材が凹部を挟んで一方側が長く、他方側が短い構成を有する場合、補強部材の一方側は、第1構造部材のうち特に補強が必要ない領域も補強している可能性がある。これに対して、第5の構成では、補強部材の長手方向の中央部に凹部が配置されている。よって、第1構造部材のうち補強が必要な領域のみを補強部材によって効率よく補強することができる。
【0024】
第1凹部及び第2凹部の少なくとも一方の表面は、全体として、補強部材の内側に向かって凹の曲面であってもよい(第6の構成)。
【0025】
補強部材は、780MPa以上の引張強度を有する鋼板で形成されていてもよい(第7の構成)。
【0026】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。各図において同一又は相当の構成については同一符号を付し、同じ説明を繰り返さない。
【0027】
[衝撃吸収部材の構成]
図1は、本実施形態に係る衝撃吸収部材100を模式的に示す斜視図である。衝撃吸収部材100は、自動車の車体に用いられる。衝撃吸収部材100は、長尺形状を有する。衝撃吸収部材100は、車体に組み込まれた状態で、例えば、概ね車体の前後方向(車長方向)に延びている。図1に示すように、衝撃吸収部材100は、構造部材10,20と、補強部材30とを備える。
【0028】
構造部材10は、例えばサイドメンバーである。構造部材10は、例えば、フロントサイドメンバーとして使用される。構造部材10は、長尺形状を有する。構造部材10は、概ね車長方向に延びている。構造部材10は、一対の縦壁11,12と、天板13と、一対の稜線部14,15とを含む。構造部材10は、さらに、一対のフランジ16,17と、一対の稜線部18,19とを含んでいる。
【0029】
構造部材20は、例えばクラッシュボックスである。構造部材20は、車長方向において構造部材10と直列に配置され、構造部材10と連結される。ただし、図1では、構造部材10,20が分解された状態で示されている。構造部材20は、筒状の部材本体21と、リブ22,23とを含んでいる。部材本体21は、構造部材10,20の配列方向、つまり概ね車長方向に延びている。リブ22,23は、部材本体21内に設けられる。
【0030】
補強部材30は、構造部材10を補強するための部材である。補強部材30は、構造部材10内に配置され、構造部材10に接合される。補強部材30も、構造部材10と同様、概ね車長方向に延びている。ただし、補強部材30は、典型的には構造部材10よりも短い。補強部材30は、一対の縦壁31,32と、天板33と、一対の稜線部34,35とを含む。稜線部34,35は、それぞれ、凹部341,351を有している。
【0031】
図2は、図1に示す衝撃吸収部材100のII-II断面図である。図2では、衝撃吸収部材100のうち、構造部材10及び補強部材30の横断面を示す。横断面とは、衝撃吸収部材100の長手方向に対して実質的に垂直な平面で部材を切断したときの断面をいう。
【0032】
図2を参照して、構造部材10は、実質的にハット形状の横断面を有する。構造部材10の縦壁11,12は、互いに対向している。縦壁11,12は、例えば車体の上下方向(車高方向)において、その片面同士が向かい合うように配置される。構造部材10の横断面視で、縦壁11,12は、概ね車体の左右方向(車幅方向)に延びている。
【0033】
車幅方向における縦壁11,12の一端縁同士は、天板13によって接続されている。天板13は、縦壁11,12に対して車幅方向の内側又は外側に配置されている。構造部材10の横断面視で、天板13は、縦壁11の一端縁から縦壁12の一端縁に向かい、概ね車高方向に延びている。一方の縦壁11は、稜線部14を介して天板13に接続されている。他方の縦壁12は、稜線部15を介して天板13に接続されている。稜線部14,15は、それぞれ、縦壁11,12と天板13との角部を構成している。稜線部14,15の各々は、例えば、構造部材10の横断面視で実質的に円弧状を有する。
【0034】
車幅方向における縦壁11,12の他端縁には、フランジ16,17が接続されている。フランジ16,17は、縦壁11,12に対して天板13と反対側に配置され、縦壁11,12の外側に突出する。一方のフランジ16は、稜線部18を介して縦壁11に接続されている。他方のフランジ17は、稜線部19を介して縦壁12に接続されている。稜線部18,19は、それぞれ、縦壁11,12とフランジ16,17との角部を構成している。稜線部18,19の各々は、例えば、構造部材10の横断面視で実質的に円弧状を有する。
【0035】
本実施形態において、衝撃吸収部材100は、さらにクロージングプレート40を備えている。クロージングプレート40は、実質的にハット形状の横断面を有する構造部材10の開口を封鎖して、構造部材10とともに閉断面を形成する。クロージングプレート40は、構造部材10と同様に、概ね車長方向に延びている。クロージングプレート40は、例えば溶接等により、構造部材10のフランジ16,17に接合されている。
【0036】
引き続き図2を参照して、補強部材30は、構造部材10及びクロージングプレート40によって画定される空間内に収容されている。
【0037】
補強部材30において、一対の縦壁31,32は、構造部材10の内側で互いに対向するように配置される。一方の縦壁31は、構造部材10の一方の縦壁11に沿って配置されている。他方の縦壁32は、構造部材10の他方の縦壁12に沿って配置されている。縦壁31,32は、例えば溶接等により、構造部材10の縦壁11,12と接合することができる。
【0038】
車幅方向における縦壁31,32の一端縁同士は、天板33によって接続されている。車幅方向における縦壁31,32の他端縁は、開放端縁である。補強部材30の横断面視で、天板33は、縦壁31の一端縁から縦壁32の一端縁に向かい、概ね車高方向に延びている。天板33は、構造部材10の内側において構造部材10の天板13と対向する。天板33は、構造部材10の天板13に沿って配置されている。
【0039】
天板13,33は、互いに接触していてもよいし、車幅方向に若干離隔していてもよい。天板13,33が接触している場合、例えば溶接等によって天板13,33を接合することができる。天板13,33が離隔している場合、天板13,33間の車幅方向における隙間の大きさは、例えば、構造部材10の1/2高さ(車幅方向における1/2長さ)の10%以下とすることができる。
【0040】
一方の縦壁31は、稜線部34を介して天板33に接続されている。他方の縦壁32は、稜線部35を介して天板33に接続されている。稜線部34,35は、それぞれ、縦壁31,32と天板33との角部を構成する。稜線部34,35は、補強部材30の横断面視で実質的に円弧状を有する。
【0041】
稜線部34,35の各々には、凹部341,351が形成されている。凹部341は、一方の稜線部34の一部を補強部材30の内側に窪ませるように、稜線部34に設けられている。凹部351は、他方の稜線部35の一部を補強部材30の内側に窪ませるように、稜線部35に設けられている。稜線部35の凹部351は、稜線部34の凹部341に対向する位置に配置されている。すなわち、補強部材30の長手方向(車長方向)において、凹部341,351の位置は実質的に一致している。
【0042】
稜線部34における凹部341は、一方の縦壁31の途中まで達している。また、凹部341は、天板33の途中まで達している。凹部341の表面は、全体として、補強部材30の内側に向かって凹の曲面である。凹部341の表面は、例えば、球面、回転楕円面、回転放物面等の一部で構成される。凹部341の輪郭は、全体として曲線で構成されていることが好ましい。凹部341は、例えば、丸エンボス加工によって稜線部34に形成することができる。
【0043】
稜線部35における凹部351は、他方の縦壁32の途中まで達している。また、凹部351は、天板33の途中まで達している。ただし、凹部351は、凹部341までは達していない。すなわち、凹部341,351は、天板33において繋がっていない。凹部351の表面は、全体として、補強部材30の内側に向かって凹の曲面である。凹部351の表面は、例えば、球面、回転楕円面、回転放物面等の一部で構成される。凹部351の輪郭は、全体として曲線で構成されていることが好ましい。凹部351は、例えば、丸エンボス加工によって稜線部35に形成することができる。
【0044】
本実施形態の例において、凹部341,351は、車高方向における補強部材30の中心線CLを含む平面に対して対称の形状を有する。しかしながら、凹部341,351は、中心線CLを含む平面に対して非対称の形状を有していてもよい。
【0045】
凹部341は、高さH1を有する。高さH1は、凹部341のうち縦壁31に及ぶ領域の最大長さであり、天板33の外表面から凹部341の縦壁31側の端までの距離をいう。一方、凹部351は、高さH2を有する。高さH2は、凹部351のうち縦壁32に及ぶ領域の最大長さであり、天板33の外表面から凹部351の縦壁32側の端までの距離をいう。補強部材30の高さHに対する高さH1,H2の各割合は、1未満である(H1/H<1,H2/H<1)。すなわち、凹部341,351の高さH1,H2は、いずれも補強部材30の全体の高さHよりも小さい。よって、凹部341,351の縦壁31,32側の端は、縦壁31,32の開放端縁までは到達していない。
【0046】
凹部341,351の高さH1,H2は、それぞれ20mm以上とすることができる。本実施形態の例では、凹部341の高さH1は、凹部351の高さH2と等しい。しかしながら、凹部341の高さH1は、凹部351の高さH2と異なっていてもよい。
【0047】
凹部341は、幅W1を有する。幅W1は、凹部341のうち天板33に及ぶ領域の最大長さであり、縦壁31の外表面から凹部341の天板33側の端までの距離をいう。凹部351は、幅W2を有する。幅W2は、凹部351のうち天板33に及ぶ領域の最大長さであり、縦壁32の外表面から凹部351の天板33側の端までの距離をいう。補強部材30の幅、つまり縦壁31の外表面から縦壁32の外表面までの長さをWとしたとき、凹部341,351の幅W1,W2は、例えば、(W1+W2)/W≧0.5を満たす。幅W1,W2は、(W1+W2)/W≦0.8を満たすように設定されることが好ましい。また、幅W1,W2は、W-(W1+W2)≧14[mm]を満たすように設定されることが好ましい。
【0048】
凹部341,351の幅W1,W2は、それぞれ20mm以上とすることができる。本実施形態の例では、凹部341の幅W1は、凹部351の幅W2と等しい。しかしながら、凹部341の幅W1は、凹部351の幅W2と異なっていてもよい。
【0049】
図3は、構造部材10及び補強部材30を天板13,33側から見た図である。図3では、構造部材10を実線で示し、構造部材10内の補強部材30を破線で示している。
【0050】
図3に示すように、補強部材30の長手方向において、稜線部34,35の一部には凹部341,351が設けられている。本実施形態の例において、凹部341,351は、補強部材30の長手方向の中央部に配置されている。凹部341,351は、それぞれ、補強部材30の長手方向における長さL1,L2を有する。
【0051】
凹部341の長さL1は、補強部材30の幅Wに対して、L1/W≧0.3の関係を満たすように設定されることが好ましい。長さL1は、補強部材30の幅Wに対して、L1/W≦0.9の関係を満たすように設定されることが好ましい。
【0052】
補強部材30全体の長手方向における長さをLとしたとき、凹部341の長さL1は、L-L1≧50[mm]を満たすように設定されることが好ましい。また、長さL1は、L-L1≦150[mm]を満たすように設定されることが好ましい。L-L1は、補強部材30のうち凹部341を除いた部分の長手方向の長さである。
【0053】
同様に、凹部351の長さL2は、補強部材30の幅Wに対して、L2/W≧0.3の関係を満たすように設定されることが好ましい。長さL2は、補強部材30の幅Wに対して、L2/W≦0.9の関係を満たすように設定されることが好ましい。
【0054】
凹部351の長さL2は、L-L2≧50[mm]を満たすように設定されることが好ましい。また、長さL2は、L-L2≦150[mm]を満たすように設定されることが好ましい。L-L2は、補強部材30のうち凹部351を除いた部分の長手方向の長さである。本実施形態の例において、凹部351の長さL2は、凹部341の長さL1と等しい。ただし、凹部351の長さL2は、凹部341の長さL1と異なっていてもよい。
【0055】
構造部材10及び補強部材30の長手方向において、補強部材30の長さLは、典型的には構造部材10の長さよりも小さい。補強部材30の長さLは、例えば、構造部材10の長さの1/2以下である。構造部材10に対する補強部材30の長手方向の位置は、適宜決定することができる。
【0056】
図1図3に示す構造部材10、クロージングプレート40、及び補強部材30は、典型的には金属で構成される。構造部材10、クロージングプレート40、及び補強部材30の材質は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。構造部材10及び補強部材30は、例えば、金属板をプレス加工することによって形成される。補強部材30は、例えば、780MPa以上の引張強度を有する鋼板で形成することができる。構造部材10及びクロージングプレート40は、例えば、補強部材30に用いられる鋼板の引張強度以下の引張強度を有する鋼板で形成される。
【0057】
補強部材30の厚み(板厚)は、2.0mm未満であることが好ましい。構造部材10及びクロージングプレート40の各厚み(板厚)は、例えば、補強部材30の厚み以下とすることができる。ただし、構造部材10及びクロージングプレート40の各厚みは、補強部材30の厚みよりも大きくてもよい。構造部材10の厚みは、クロージングプレート40の厚みと同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0058】
図4は、図1に示す衝撃吸収部材100のIV-IV断面図である。図4では、衝撃吸収部材100に含まれる構造部材20の横断面を示す。
【0059】
図4を参照して、構造部材20の部材本体21は、周壁211を含む。周壁211は、構造部材20の横断面視で、中空且つ実質的に正方形状を有する。周壁211は、上壁211aと、下壁211bと、側壁211c,211dとを含む。上壁211a及び下壁211bは、車高方向において上下に配置されている。側壁211c,211dは、上壁211aと下壁211bとを接続する。
【0060】
リブ22,23は、部材本体21内に設けられている。リブ22,23は、それぞれ板状を有する。リブ22は、部材本体21内の空間を概ね車高方向に横断する。リブ22は、部材本体21内の空間を車高方向に横断した状態で、部材本体21の軸方向に延びている。リブ22は、部材本体21の上壁211a及び下壁211bに接続されている。
【0061】
リブ23は、部材本体21内の空間を概ね車幅方向に横断する。リブ23は、部材本体21内の空間を車幅方向に横断した状態で、部材本体21の軸方向に延びている。リブ23は、部材本体21の側壁211c,211dに接続されている。リブ23は、リブ22と交差している。例えば、リブ22,23は互いに直交する。部材本体21内には、リブ22,23以外のリブをさらに設けることもできる。例えば、リブ22,23の少なくとも一方と交差するリブや、周壁211とリブ22,23の一方とを接続するリブが部材本体21内に設けられていてもよい。
【0062】
構造部材20の構造は、図4に示す例に限定されるものではない。図5図9において、構造部材20に代えて、本実施形態に係る衝撃吸収部材100に適用可能な構造部材の横断面を例示する。
【0063】
図5に示す構造部材20Aにおいて、部材本体21Aの周壁211Aは、中空且つ実質的に長方形状の横断面を有する。部材本体21A内には、互いに交差しないリブ22A,23Aが設けられている。構造部材20Aの横断面視で、リブ22A,23Aは、それぞれ、部材本体21A内の空間を部材本体21Aの短手方向に横断する。図5に示す例では、2つのリブ22A,23Aが部材本体21A内に設けられているが、部材本体21A内には、単一のリブが設けられていてもよいし、3つ以上のリブが設けられていてもよい。
【0064】
図6に示す構造部材20Bでは、部材本体21Bの周壁211Bに複数の溝24が設けられている。同様に、図7に示す構造部材20Cにおいても、部材本体21Cの周壁211Cに複数の溝24が設けられている。溝24の各々は、部材本体21B,21Cの内側に向かって凹の形状を有し、部材本体21B,21Cの軸方向に延びている。
【0065】
図6及び図7において、構造部材20B,20Cの横断面視で部材本体21B,21Cの周壁211B,211Cが内接する仮想多角形を二点鎖線で示す。この仮想多角形の角部の少なくとも1つに溝24が設けられる。図6に示す例では、構造部材20Bの横断面視で周壁211Bが内接する仮想六角形において、6つの角部のうち4つの角部にそれぞれ溝24が設けられている。図7に示す例では、構造部材20Cの横断面視で周壁211Cが内接する仮想四角形において、各角部に溝24が設けられている。
【0066】
図8及び図9に示す構造部材20D,20Eでも、図6及び図7に示す構造部材20B,20Cと同様に、部材本体21D,21Eの周壁211D,211Eに複数の溝24が設けられている。図8及び図9に示す例では、構造部材20D,20Eの横断面視で周壁211D,211Eが内接する仮想多角形の辺の少なくとも1つに、溝24が設けられる。図8に示す構造部材20Dでは、その横断面視で周壁211Dが内接する仮想長尺八角形の長辺に溝24が設けられている。図9に示す構造部材20Eでは、その横断面視で部材本体21Eが内接する仮想四角形において、各辺に溝24が設けられている。
【0067】
構造部材20,20A~20Eの材質は、典型的には金属である。構造部材20は、例えば鋼板で形成することができる。部材本体21,21A~21Eは、例えば、補強部材30(図1図3)に用いられる鋼板の引張強度以下の引張強度を有する鋼板で形成される。部材本体21,21A~21Eの厚み(板厚)は、補強部材30の厚み以下であってもよいし、補強部材30の厚みよりも大きくてもよい。また、部材本体21,21A~21Eに用いられる鋼板の引張強度は、構造部材10(図1図3)に用いられる鋼板の引張強度と同じであってもよいし、異なっていてもよい。部材本体21,21A~21Eの厚みは、構造部材10の厚みと同じであってもよいし、異なっていてもよい。ただし、部材本体21,21A~21Eの厚みをt、部材本体21,21A~21Eの引張強度をTS、構造部材10の厚みをt、構造部材10の引張強度をTSとしたとき、t×TS≦t×TSが満たされることが好ましい。リブ22,23,22A,23Aの材質及び厚みは、部材本体21と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0068】
構造部材20,20A~20Eは、補強部材30を内蔵する構造部材10と連結される。図10は、構造部材20が構造部材10と連結された状態を模式的に示す図である。
【0069】
図10に示すように、構造部材20は、セットプレート51,52を介して構造部材10に取り付けられる。セットプレート51には、構造部材20の部材本体21が接合される。セットプレート52には、構造部材10の長手方向の一端が接合される。セットプレート51,52は、ボルト等の締結部材53によって互いに固定される。図5図9に示す構造部材20A~20Eは、構造部材20と同様にして構造部材10に取り付けることができる。
【0070】
[効果]
本実施形態に係る衝撃吸収部材100では、例えばサイドメンバーである構造部材10の少なくとも一部が補強部材30によって内側から補強され、その剛性が高められている。これにより、例えば、衝撃吸収部材100に対してその長手方向に衝突荷重が入力されたとき、構造部材10の変形を抑制することができる。そのため、衝撃吸収部材100の衝突エネルギー吸収性能を向上させることができる。
【0071】
本実施形態では、補強部材30によって衝撃吸収部材100の衝突エネルギー吸収性能を向上させているため、衝撃吸収部材100に対してその長手方向に衝突荷重が入力されたとき、衝撃吸収部材100が車体の内側に侵入する量(車両侵入量)が小さくなる。そのため、車両侵入量に応じて決定される衝撃吸収部材100の長さを短くすることができる。その結果、衝撃吸収部材100、及び衝撃吸収部材100が使用される車体を軽量化することができる。
【0072】
本実施形態に係る衝撃吸収部材100では、補強部材30のうち、縦壁31,32と天板33との角部を構成する稜線部34,35の各々に凹部341,351が形成されている。凹部341,351は、補強部材30の長手方向において互いに対向する位置に配置され、縦壁31,32及び天板33の途中にまで達している。そのため、例えば、構造部材10の天板13及び補強部材30の天板33を車幅方向内側又は外側に向けた状態で、衝撃吸収部材100に対してその長手方向に衝突荷重が入力されたとき、凹部341,351を起点として補強部材30とともに構造部材10を曲げることができる。すなわち、衝撃吸収部材100の曲げ変形モードを制御することができる。
【0073】
本実施形態に係る衝撃吸収部材100において、構造部材10は、通常、他の構造部材と連結されて車体を形成する。一方、補強部材30は、他の構造部材には連結されない部材である。曲げ変形モードを制御するための手段である凹部341,351は、この補強部材30に設けられている。そのため、凹部341,351は、例えば、曲げやねじり等の力が車体に入力されたとき、構造部材間における力の伝達を阻害しない。よって、凹部341,351は、車体全体の剛性に実質的に影響を与えない。
【0074】
本実施形態において、凹部341の長さL1は、補強部材30の幅Wに対して、L1/W≧0.3の関係を満たすように設定されることが好ましい。凹部351の長さL2は、補強部材30の幅Wに対して、L2/W≧0.3の関係を満たすように設定されることが好ましい。これにより、凹部341,351における構造部材10及び補強部材30の局所的な変形を抑制することができ、構造部材10において凹部341,351を起点とする曲げ変形を安定して発生させることができる。
【0075】
本実施形態において、凹部341の長さL1は、補強部材30の幅Wに対して、L1/W≦0.9の関係を満たすように設定されることが好ましい。凹部351の長さL2は、補強部材30の幅Wに対して、L2/W≦0.9の関係を満たすように設定されることが好ましい。これにより、補強部材30のうち凹部341,351の周辺部分による構造部材10の拘束効果を十分に確保することができる。よって、構造部材10に曲げ変形を生じさせる荷重が低下するのを抑制することができる。
【0076】
本実施形態において、凹部341,351の高さH1,H2は、例えば20mm以上である。これにより、凹部341,351において十分に応力集中を生じさせることができる。よって、凹部341,351を構造部材10の曲げ変形の起点として安定して機能させることができる。
【0077】
本実施形態において、凹部341,351の幅W1,W2は、例えば20mm以上である。これにより、凹部341,351において十分に応力集中を生じさせることができる。よって、凹部341,351を構造部材10の曲げ変形の起点として安定して機能させることができる。
【0078】
本実施形態において、凹部341,351の幅W1,W2は、補強部材30の幅Wに対して、(W1+W2)/W≦0.8の関係を満たすように設定されることが好ましい。この場合、補強部材30の天板33が構造部材10の天板13を十分に支持することができる。その結果、構造部材10に曲げ変形を生じさせる荷重が低下するのを抑制することができる。
【0079】
本実施形態において、凹部341,351の幅W1,W2は、補強部材30の幅Wに対して、W-(W1+W2)≧14[mm]の関係を満たすように設定されることが好ましい。この場合、例えばスポット溶接等により、補強部材30の天板33のうち凹部341,351の間の部分を構造部材10の天板13と容易に接合することができる。
【0080】
本実施形態において、凹部341の長さL1は、補強部材30の長さLに対して、L-L1≧50[mm]の関係を満たすように設定されることが好ましい。凹部351の長さL2は、補強部材30の長さLに対して、L-L2≧50[mm]の関係を満たすように設定されることが好ましい。これにより、補強部材30のうち凹部341,351の周辺部分による構造部材10の拘束効果を十分に確保することができる。よって、構造部材10に曲げ変形を生じさせる荷重が抑制するのを防止することができる。
【0081】
また、凹部341の長さL1は、L-L1≦150[mm]を満たすように設定されることが好ましい。同様に、凹部351の長さL2は、L-L2≦150[mm]を満たすように設定されることが好ましい。これにより、補強部材30の長手方向において、補強部材30のうち凹部341,351以外の部分の長さが過大になるのを防止することができる。よって、補強部材30によって衝撃吸収部材100の重量が増加し過ぎるのを防止することができる。
【0082】
本実施形態では、構造部材10に対し、構造部材20,20Aが直列に連結される。構造部材20,20Aは、部材本体21,21A内に設けられたリブ22,23,22A,23Aにより、その剛性が高められている。これにより、構造部材20,20Aが意図しない変形モードで変形するのを抑制することができ、構造部材20,20Aを部材本体21,21Aの軸方向に安定して圧潰させることができる。一方、構造部材10では、補強部材30を内蔵することで少なくとも一部が補強されている。そのため、衝撃吸収部材100に対して構造部材20,20A側から衝突荷重が入力されたとき、例えばクラッシュボックスである構造部材20,20Aが圧潰した後に、例えばサイドメンバーである構造部材10を曲げ変形させることができる。
【0083】
構造部材10に連結される構造部材20B~20Eは、部材本体21B~21Eの周壁211B~211Eに設けられた溝24により、その剛性が高められている。この場合も、構造部材20B~20Eが意図しない変形モードで変形するのを抑制することができ、構造部材20B~20Eを部材本体21B~21Eの軸方向に安定して圧潰させることができる。一方、構造部材10では、補強部材30を内蔵することで少なくとも一部が補強されている。そのため、衝撃吸収部材100に対して構造部材20B~20E側から衝突荷重が入力されたとき、構造部材20B~20Eが圧潰した後に構造部材10を曲げ変形させることができる。
【0084】
本実施形態において、補強部材30の厚みは、2.0mm未満であることが好ましい。これにより、構造部材10を補強部材30によって適度に補強することができる。この場合、衝撃吸収部材100に対してその長手方向に衝突荷重が入力されたとき、構造部材10において凹部341,351を起点とする曲げ変形を適切なタイミングで生じさせやすくなる。
【0085】
構造部材10を設計する際は、構造部材10のうち曲げ変形の起点としたい箇所、つまり凹部341,351を設けるべき箇所を決定し、凹部341,351を中心として衝突荷重を負担するために補強が必要な領域を決定する。そのため、補強部材30が凹部341,351を挟んで一方側が長く、他方側が短い構成である場合、補強部材30の一方側は、構造部材10のうち特に補強が必要ない領域も補強している可能性がある。よって、本実施形態において、凹部341,351は、補強部材30の長手方向の中央部に配置されることが好ましい。これにより、構造部材10のうち補強が必要な領域のみを補強部材30によって効率よく補強することができる。
【0086】
本実施形態において、凹部341,351の表面は、全体として、補強部材30の内側に向かって凹の曲面である。この場合、補強部材30の成形性を向上させることができる。
【0087】
ただし、凹部341,351の表面は、必ずしも全体的に曲面状でなくてもよい。凹部341,351の表面は、1つ以上の平面を含んでいてもよい。例えば、図11に示すように、凹部341Aは、曲面341aと、曲面341aと天板33とを接続する平面341bとを有していてもよい。同様に、凹部351Aは、曲面351aと、曲面351aと天板33とを接続する平面351bとを有していてもよい。この場合、天板33における凹部341A,351Aの輪郭は矩形状となる。一方、縦壁31,32における凹部341,351の輪郭は、縦壁31,32の開放端縁に向かって凸の円弧状、楕円弧状、又は放物線状等である。図11に示す例では、縦壁31のうち、凹部341Aに対応する部分が他の部分と比較して補強部材30Aの外側に膨出している。ただし、縦壁31において凹部341Aに対応する部分は、必ずしも膨出している必要はない。
【0088】
図1図3に示す補強部材30には、図11に示す凹部341A,351Aの一方を適用することもできる。例えば、凹部341に代えて凹部341Aを補強部材30に設けてもよい。また、補強部材30において、凹部351に代えて凹部351Aを設けることもできる。
【0089】
以上、本開示に係る実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【実施例
【0090】
以下、実施例によって本開示をさらに詳しく説明する。ただし、本開示は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0091】
本開示に係る衝撃吸収部材の効果を確認するため、汎用の構造解析ソフトウェア(汎用動的陽解法FEMソルバー LS-DYNA,LSTC社製)を用い、自動車のオフセット前面衝突解析を実施した。
【0092】
本解析では、実施例1として、構造部材10,20、クロージングプレート40、及び補強部材30を含む衝撃吸収部材(図1図4)を車体に設けたケースについて、衝撃吸収部材が車両の内側に侵入する量(車両侵入量)を確認した。また、実施例2として、構造部材10,20、クロージングプレート40、及び補強部材30Aを含む衝撃吸収部材(図4及び図11)を自動車の車体に設けたケースについて、車両侵入量を確認した。さらに、実施例3として、実施例1と同形状の衝撃吸収部材であるが補強部材30の厚み(板厚)が実施例1とは異なるものを車体に設けたケースについて、車両侵入量を確認した。実施例1における補強部材30の厚みは2.0mmとし、実施例3における補強部材30の厚みは1.3mmとした。実施例2における補強部材30Aの厚みは、1.4mmとした。
【0093】
比較のため、各実施例と異なる構成の衝撃吸収部材を車体に設けたケース(比較例1及び2)についても、車両侵入量を確認した。図12に示すように、比較例1では、構造部材10が補強部材を内蔵せず、構造部材10に連結される構造部材80が部材本体81内にリブを有しない。図13に示すように、比較例2では、構造部材10内の補強部材90において、一方の縦壁91から他方の縦壁92に向かって天板93を横断する凹部931が設けられている。
【0094】
また、各実施例及び各比較例について、キャビンが後退する量(キャビン後退量)も確認した。本解析において、構造部材10はフロントサイドメンバーであり、構造部材20,80はクラッシュボックスである。解析では、各衝撃吸収部材に対して、長手方向の衝突荷重が構造部材20,80側(車両前方)から入力された。解析の結果を表1に示す。
【0095】
【表1】
【0096】
表1では、比較例1を対照例とし、車両侵入量及びキャビン後退量を比較例1に対する差で表示している。表1に示すように、比較例2では、比較例1と比べて車両侵入量が減少したものの、クラッシュボックスである構造部材20が圧潰する前にサイドメンバーである構造部材10の曲げ変形が発生した。これに対して、実施例1~3では、比較例1と比べて車両侵入量が減少したのに加え、構造部材20が圧潰した後で構造部材10の曲げ変形が生じた。
【0097】
この結果から、稜線部34,35に凹部341,351,341A,351Aを設けた補強部材30,30Aにより、構造部材10を適切なタイミングで曲げ変形させることができ、且つ衝突エネルギー吸収性能を向上させられることがわかる。また、車両侵入量が減少した分だけ衝撃吸収部材の長さを小さくすることが可能となり、衝撃吸収部材及び車体を軽量化することができる。さらに、交換容易なボルトオン部材である構造部材20(クラッシュボックス)を優先的に圧潰させることができるため、衝撃吸収部材の修理性が向上する。
【0098】
図14は、比較例1及び実施例3について、車両ストローク(侵入量)と構造部材10(サイドメンバー)のエネルギー吸収量との関係を示すグラフである。このグラフにおける縦軸は、比較例1の最大吸収エネルギー量で規格化されている。
【0099】
図14に示すように、補強部材30を内蔵する実施例3の構造部材10(サイドメンバー)では、補強部材30を内蔵しない比較例1の構造部材10に比べてエネルギー吸収量が大きくなった。実施例3では、短い車両ストロークでエネルギー吸収量が増加している。よって、補強部材30により、構造部材10自身の衝突エネルギー吸収量性能が向上することがわかる。
【0100】
実施例1では、実施例2及び3と比較して補強部材30の厚みが2.0mmと大きく、補強部材30の剛性が高い。そのため、実施例1では、構造部材10の曲げ変形が比較的生じにくく、実施例2及び3と比較するとキャビン後退量が大きくなった。よって、衝突時においてキャビンスペースを確保するという観点では、補強部材30,30Aの厚みは2.0mm未満であることが好ましい。
【符号の説明】
【0101】
100:衝撃吸収部材
10:構造部材
11,12:縦壁
13:天板
14,15:稜線部
20,20A~20E:構造部材
21,21A~21E:部材本体
211,211B~211E:周壁
22,23,22A,23A:リブ
24:溝
30,30A:補強部材
31,32:縦壁
33:天板
34,35:稜線部
341,341A,351,351A:凹部
図1
図2
図3
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図14