IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新日鐵住金株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-積層コアおよび回転電機 図1
  • 特許-積層コアおよび回転電機 図2
  • 特許-積層コアおよび回転電機 図3
  • 特許-積層コアおよび回転電機 図4
  • 特許-積層コアおよび回転電機 図5
  • 特許-積層コアおよび回転電機 図6
  • 特許-積層コアおよび回転電機 図7
  • 特許-積層コアおよび回転電機 図8
  • 特許-積層コアおよび回転電機 図9
  • 特許-積層コアおよび回転電機 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-08
(45)【発行日】2024-10-17
(54)【発明の名称】積層コアおよび回転電機
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/18 20060101AFI20241009BHJP
   H01F 27/245 20060101ALI20241009BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20241009BHJP
【FI】
H02K1/18 B
H01F27/245 150
H01F41/02 B
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022091870
(22)【出願日】2022-06-06
(62)【分割の表示】P 2020537794の分割
【原出願日】2019-12-17
(65)【公開番号】P2022122982
(43)【公開日】2022-08-23
【審査請求日】2022-06-06
(31)【優先権主張番号】P 2018235866
(32)【優先日】2018-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】脇坂 岳顕
(72)【発明者】
【氏名】藤村 浩志
(72)【発明者】
【氏名】平山 隆
【審査官】津久井 道夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-082848(JP,A)
【文献】特開2016-167907(JP,A)
【文献】特開2012-060773(JP,A)
【文献】特開2010-081659(JP,A)
【文献】特開2009-072035(JP,A)
【文献】特開2012-196100(JP,A)
【文献】特開2002-088107(JP,A)
【文献】特開2014-096429(JP,A)
【文献】特開2007-068270(JP,A)
【文献】特開2016-025317(JP,A)
【文献】特開2015-142386(JP,A)
【文献】特開2004-357405(JP,A)
【文献】国際公開第2016/170624(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/18
H01F 27/245
H01F 41/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに積層された板厚が同一である複数の電磁鋼板を備え、
積層方向に隣り合う全ての組の電磁鋼板同士が固定された積層コアであって、
前記全ての組の電磁鋼板同士のうち、一部の組の電磁鋼板同士はかしめによりかしめられ接着されておらず、残りの組の電磁鋼板同士は接着部により接着されかしめられておらず、
前記複数の電磁鋼板は、積層方向に1組以上おきに接着されており、
前記複数の電磁鋼板では、積層方向に互いに異なる組数おきに接着されている部分が混在しており、
前記かしめは、前記積層方向からの平面視において前記接着部と重複せず、互いにずらされて配置されている、積層コア。
【請求項2】
前記電磁鋼板は、環状のコアバック部と、前記コアバック部から前記コアバック部の径方向に突出するとともに前記コアバック部の周方向に間隔をあけて配置された複数のティース部と、を備え、
前記かしめにより互いにかしめられている前記電磁鋼板は、第1かしめと第2かしめとを含み、
前記接着部は、前記電磁鋼板の周縁に沿って設けられ、前記平面視において帯状に形成されている請求項1に記載の積層コア。
【請求項3】
前記第1かしめは、前記コアバック部の径方向に沿って前記コアバック部の中央に配置され、前記第2かしめは、前記ティース部の周方向の中央に配置されている請求項2に記載の積層コア。
【請求項4】
前記接着部による接着面積率は1%以上、40%以下である請求項1~3のいずれか1項に記載の積層コア。
【請求項5】
前記複数の電磁鋼板では、積層方向に互いに異なる組数おきに接着されている請求項1に記載の積層コア。
【請求項6】
前記複数の電磁鋼板は、積層方向に素数組おきに接着されている部分が混在している請求項1に記載の積層コア。
【請求項7】
前記複数の電磁鋼板は、積層方向に1組超おきに接着されている部分が混在している請求項1に記載の積層コア。
【請求項8】
前記複数の電磁鋼板は、積層方向に1組超おきに接着されている請求項1に記載の積層コア。
【請求項9】
前記接着部の平均厚みが1.0μm~3.0μmである請求項1からのいずれか1項に記載の積層コア。
【請求項10】
前記接着部の平均引張弾性率Eが1500MPa~4500MPaである請求項1からのいずれか1項に記載の積層コア。
【請求項11】
前記接着部の接着剤が、エラストマー含有アクリル系接着剤からなるSGAを含む常温接着タイプのアクリル系接着剤である請求項1から10のいずれか1項に記載の積層コア。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか1項に記載の積層コアを備える回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層コアおよび回転電機に関する。
本願は、2018年12月17日に、日本に出願された特願2018-235866号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
従来から、下記特許文献1に記載されているような積層コアが知られている。この積層コアでは、積層方向に隣り合う電磁鋼板が、接着およびかしめの両方法により接合されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】日本国特開2015-136228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記従来の積層コアには、外形状の寸法精度を確保しつつ、磁気特性を向上させることについて改善の余地がある。
【0005】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、外形状の寸法精度を確保しつつ、磁気特性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明は以下の手段を提案している。
<1>本発明の第一の態様は、互いに積層された板厚が同一である複数の電磁鋼板を備え、
積層方向に隣り合う全ての組の電磁鋼板同士が固定された積層コアであって、
前記全ての組の電磁鋼板同士のうち、一部の組の電磁鋼板同士はかしめられ接着されておらず、残りの組の電磁鋼板同士は接着部により接着されかしめられており、
前記複数の電磁鋼板では、積層方向に互いに異なる組数おきに接着されている部分が混在しており、
前記かしめは、前記積層方向からの平面視において前記接着部と重複せず、互いにずらされて配置されている、積層コアである。
<2>前記<1>に記載の積層コアにおいて、前記電磁鋼板は、環状のコアバック部と、前記コアバック部から前記コアバック部の径方向に突出するとともに前記コアバック部の周方向に間隔をあけて配置された複数のティース部と、を備え、
前記かしめにより互いにかしめられている前記電磁鋼板は、第1かしめと第2かしめとを含み、
前記接着部は、前記電磁鋼板の周縁に沿って設けられ、前記平面視において帯状に形成されていてもよい。
<3>前記<2>に記載の積層コアにおいて、前記第1かしめは、前記コアバック部の径方向に沿って前記コアバック部の中央に配置され、前記第2かしめは、前記ティース部の周方向の中央に配置されていてもよい。
<4>前記<1>~<3>のいずれか1つに記載の積層コアにおいて、前記接着部による接着面積率は1%以上、40%以下であってもよい。
>前記<1>に記載の積層コアにおいて、前記複数の電磁鋼板では、積層方向に互いに異なる組数おきに接着されていてもよい。
>前記<1>に記載の積層コアにおいて、前記複数の電磁鋼板は、積層方向に素数組おきに接着されている部分が混在していてもよい。
>前記<1>に記載の積層コアにおいて、前記複数の電磁鋼板は、積層方向に1組超おきに接着されている部分が混在してもよい。
>前記<1>に記載の積層コアにおいて、前記複数の電磁鋼板は、積層方向に1組超おきに接着されていてもよい。
>前記<1>~<>のいずれか1つに記載の積層コアにおいて、前記接着部の平均厚みが1.0μm~3.0μmであってもよい。
10>前記<1>~<>のいずれか1つに記載の積層コアにおいて、前記接着部の平均引張弾性率Eが1500MPa~4500MPaであってもよい。
11>前記<1>~<10>のいずれか1つに記載の積層コアにおいて、前記接着部の接着剤が、エラストマー含有アクリル系接着剤からなるSGAを含む常温接着タイプのアクリル系接着剤であってもよい。
12>本発明の第二の態様は、前記<1>~<11>のいずれか1つに記載の積層コアを備える回転電機である。
また、前記課題を解決するために、本発明は以下の手段を提案してもよい。
(1)本発明の更なる第一の態様は、互いに積層された複数の電磁鋼板を備え、積層方向に隣り合う全ての組の電磁鋼板同士が固定された積層コアであって、前記全ての組の電磁鋼板同士のうち、一部の組の電磁鋼板同士はかしめられ接着されておらず、残りの組の電磁鋼板同士は接着されかしめられていない積層コアである。
【0007】
かしめによる接合は、接着による接合に比べて、寸法精度を高めることができる。ここで、積層方向に隣り合う全ての組の電磁鋼板同士のうち、一部の組の電磁鋼板同士がかしめられている。したがって、積層コアのうち、これらの一部の組によって形成される部分の形状の精度を高めることができる。結果として、積層コアの外形状の精度を高めることができる。よって、積層コアの取り扱い性を確保することができる。例えば、積層コアに巻線を巻き回す場合であっても、精度良く巻き回すこと等ができる。
しかしながら、かしめによる接合は、積層方向に隣り合う電磁鋼板間において短絡電流(迷走電流)を発生させるおそれがある。ここで、積層方向に隣り合う全ての組の電磁鋼板同士のうち、前記一部の組を除く残りの組の電磁鋼板同士が接着されている。したがって、これらの残りの組の電磁鋼板同士の間では、迷走電流の発生を抑制することができる。その結果、積層コアの磁気特性を向上させることができる。
【0008】
(2)前記(1)に記載の積層コアでは、前記複数の電磁鋼板は、積層方向に1組以上おきに接着されていてもよい。
【0009】
複数の電磁鋼板が、積層方向に1組以上おきに接着されている。したがって、接着により接合される電磁鋼板が、積層コアにおいて積層方向の一部分に局所的に集中することを抑えることができる。言い換えると、接着により接合される電磁鋼板を積層方向に分散させることができる。その結果、積層コアの外形状の精度を一層高めることができる。
【0010】
(3)前記(1)または前記(2)に記載の積層コアでは、前記複数の電磁鋼板は、積層方向に素数組おきに接着されてもよい。
【0011】
積層コアにも、一般的な物品と同様に固有の共振周波数がある。積層コアの共振周波数が低いと、一般的な振動が入力されたときに共振が生じ易い。そのため、積層コアの共振周波数は高いことが好ましい。
ここで複数の電磁鋼板が、積層方向にN組おきに接着されている場合、積層コアの共振周波数は、Nに依存する傾向にある。
すなわち、N組おきに接着されている場合、積層方向に隣り合う接着部の間に、(N+1)枚の電磁鋼板が配置され、かつ、これらの電磁鋼板が互いにかしめられている。接着部による接合強度が、かしめによる接合強度よりも低い場合、前記(N+1)枚の電磁鋼板が、接着部を起点として一体的に挙動し易くなる。言い換えると、前記(N+1)枚の電磁鋼板が1つのブロックであるかのように挙動する。このような積層コアにおいて、複数の電磁鋼板が、積層方向に等間隔をあけてN組おきに接着されている場合、積層コアの共振周波数は、Nの約数に影響を受ける。また、複数の電磁鋼板が、積層方向に互いに異なるN1組おき、N2組おき、…に接着されている場合、積層コアの共振周波数は、N1、N2…についての最小公倍数に影響を受ける。前記の約数や前記最小公倍数が大きいほど、積層コアの共振周波数は高くなる。
複数の電磁鋼板が、積層方向に素数組おきに接着されている。そのため、複数の電磁鋼板が、積層方向に等間隔をあけてN組おき(ただし、Nは素数)に接着されている場合であっても、Nが素数であり、前記の約数を大きくすることができる。さらに、複数の電磁鋼板が、積層方向に互いに異なるN1組おき、N2組おき、…に接着されている場合においても、N1、N2…についての最小公倍数を大きくすることができる。したがって、積層コアの共振周波数を高くすることができる。その結果、例えば、共振周波数を可聴域より高い周波数とすることができる。これにより、例えばこの積層コアを電動機に適用した場合などにおいても、共振による騒音の発生を抑制することができる。
【0012】
(4)前記(1)から前記(3)のいずれか1つに記載の積層コアでは、前記複数の電磁鋼板では、積層方向に互いに異なる組数おきに接着されている部分が混在していてもよい。
【0013】
複数の電磁鋼板で、積層方向に互いに異なる組数おきに接着されている部分が混在している。そのため、複数の電磁鋼板が、積層方向に互いに異なるN1組おき、N2組おき、…に接着されているとしたときに、N1、N2…についての最小公倍数を大きくすることができる。したがって、積層コアの共振周波数を、それらの組数についての最小公倍数に応じて高くすることができる。これにより、共振による騒音の発生を一層抑制することができる。
なおこのような作用効果は、積層方向に互いに異なる素数組おきに接着されている場合に顕著に奏功される。すなわち、この場合には前記最小公倍数を大きくすることができる。
【0014】
(5)前記(1)から前記(4)のいずれか1つに記載の積層コアでは、前記電磁鋼板は、環状のコアバック部と、前記コアバック部から前記コアバック部の径方向に突出するとともに前記コアバック部の周方向に間隔をあけて配置された複数のティース部と、を備えていてもよい。
【0015】
積層コアが、コアバック部とティース部を備えるステータコアである。そのため、例えば、周方向に隣り合うティース部間のスロットに巻線を通すときに、前述した取り扱い性が確保されているという作用効果が顕著に奏功される。すなわち、スロットの寸法精度が高められると、巻線を設計通りにティース部に巻き回し易くすることができる。これにより、スロットにおける巻線占積率を高めることができる。結果として、スロット内の電気装荷を高めることができる。
【0016】
(6)前記(1)から前記(5)のいずれか1つに記載の積層コアでは、前記接着部の平均厚みが1.0μm~3.0μmであってもよい。
【0017】
(7)前記(1)から前記(6)のいずれか1つに記載の積層コアでは、前記接着部の平均引張弾性率Eが1500MPa~4500MPaであってもよい。
【0018】
(8)前記(1)から前記(7)のいずれか1つに記載の積層コアでは、前記接着部が、エラストマー含有アクリル系接着剤からなるSGAを含む常温接着タイプのアクリル系接着剤であってもよい。
【0019】
(9)本発明の更なる第二の態様は、前記(1)から前記(8)のいずれか1つに記載の積層コアを備える。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、外形状の寸法精度を確保しつつ、磁気特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態に係る回転電機の断面図である。
図2図1に示す回転電機が備えるステータの平面図である。
図3図1に示す回転電機が備えるステータの側面図である。
図4図1に示す回転電機が備えるステータの電磁鋼板および接着部の平面図である。
図5図1に示す回転電機が備えるステータの電磁鋼板およびかしめの平面図である。
図6図5に示すVI-VI断面矢視図である。
図7図1に示す回転電機の第1変形例が備えるステータの側面図である。
図8図7に示すステータの断面図であって、図6に相当する断面図である。
図9図1に示す回転電機の第2変形例が備えるステータの側面図である。
図10図1に示す回転電機の第3変形例が備えるステータの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照し、本発明の一実施形態に係る回転電機を説明する。なお本実施形態では、回転電機として電動機、具体的には交流電動機、より具体的には同期電動機、より一層具体的には永久磁石界磁型電動機を一例に挙げて説明する。この種の電動機は、例えば、電気自動車などに好適に採用される。
【0023】
図1および図2に示すように、回転電機10は、ステータ20と、ロータ30と、ケース50と、回転軸60と、を備える。ステータ20およびロータ30は、ケース50に収容される。ステータ20は、ケース50に固定される。
本実施形態では、回転電機10として、ロータ30がステータ20の内側に位置するインナーロータ型を採用している。しかしながら、回転電機10として、ロータ30がステータ20の外側に位置するアウターロータ型を採用してもよい。また本実施形態では、回転電機10が、12極18スロットの三相交流モータである。しかしながら、例えば極数やスロット数、相数などは適宜変更することができる。なおこの回転電機10は、例えば、各相に実効値10A、周波数100Hzの励磁電流を印加することにより、回転数1000rpmで回転することができる。
【0024】
ステータ20は、ステータコア21と、図示しない巻線と、を備える。
ステータコア21は、環状のコアバック部22と、複数のティース部23と、を備える。以下では、ステータコア21(コアバック部22)の軸方向(ステータコア21の中心軸線O方向)を軸方向といい、ステータコア21(コアバック部22)の径方向(ステータコア21の中心軸線Oに直交する方向)を径方向といい、ステータコア21(コアバック部22)の周方向(ステータコア21の中心軸線O周りに周回する方向)を周方向という。
【0025】
コアバック部22は、ステータ20を軸方向から見た平面視において円環状に形成されている。
複数のティース部23は、コアバック部22から径方向の内側に向けて(径方向に沿ってコアバック部22の中心軸線Oに向けて)突出する。複数のティース部23は、周方向に同等の間隔をあけて配置されている。本実施形態では、中心軸線Oを中心とする中心角20度おきに18個のティース部23が設けられている。複数のティース部23は、互いに同等の形状で、かつ同等の大きさに形成されている。なお、例えば、コギングトルク低減の目的で、複数のティース部23の形状、大きさは同等でなくてもよい。
前記巻線は、ティース部23に巻き回されている。前記巻線は、集中巻きされていてもよく、分布巻きされていてもよい。
【0026】
ロータ30は、ステータ20(ステータコア21)に対して径方向の内側に配置されている。ロータ30は、ロータコア31と、複数の永久磁石32と、を備える。
ロータコア31は、ステータ20と同軸に配置される環状(円環状)に形成されている。ロータコア31内には、前記回転軸60が配置されている。回転軸60は、ロータコア31に固定されている。
複数の永久磁石32は、ロータコア31に固定されている。本実施形態では、2つ1組の永久磁石32が1つの磁極を形成している。複数組の永久磁石32は、周方向に同等の間隔をあけて配置されている。本実施形態では、中心軸線Oを中心とする中心角30度おきに12組(全体では24個)の永久磁石32が設けられている。なお、例えば、コギングトルク低減の目的で、複数組の永久磁石32の間隔は、同等でなくてもよい。
【0027】
本実施形態では、永久磁石界磁型電動機として、埋込磁石型モータが採用されている。ロータコア31には、ロータコア31を軸方向に貫通する複数の貫通孔33が形成されている。複数の貫通孔33は、複数の永久磁石32に対応して設けられている。各永久磁石32は、対応する貫通孔33内に配置された状態でロータコア31に固定されている。各永久磁石32のロータコア31への固定は、例えば永久磁石32の外面と貫通孔33の内面とを接着剤により接着すること等により、実現することができる。なお、永久磁石界磁型電動機として、埋込磁石型モータに代えて表面磁石型モータを採用してもよい。
【0028】
ステータコア21およびロータコア31は、いずれも積層コアである。積層コアは、複数の電磁鋼板40が積層されることで形成されている。
なおステータコア21およびロータコア31それぞれの積厚は、例えば50.0mmとされる。ステータコア21の外径は、例えば250.0mmとされる。ステータコア21の内径は、例えば165.0mmとされる。ロータコア31の外径は、例えば163.0mmとされる。ロータコア31の内径は、例えば30.0mmとされる。ただし、これらの値は一例であり、ステータコア21の積厚、外径や内径、およびロータコア31の積厚、外径や内径はこれらの値に限られない。ここで、ステータコア21の内径は、ステータコア21におけるティース部23の先端部を基準としている。ステータコア21の内径は、全てのティース部23の先端部に内接する仮想円の直径である。
【0029】
ステータコア21およびロータコア31を形成する各電磁鋼板40は、例えば、母材となる電磁鋼板を打ち抜き加工すること等により形成される。電磁鋼板40としては、公知の電磁鋼板を用いることができる。電磁鋼板40の化学組成は特に限定されない。本実施形態では、電磁鋼板40として、無方向性電磁鋼板を採用している。無方向性電磁鋼板としては、例えば、JIS C 2552:2014の無方向性電鋼帯を採用することができる。しかしながら、電磁鋼板40として、無方向性電磁鋼板に代えて方向性電磁鋼板を採用することも可能である。方向性電磁鋼板としては、例えば、JIS C 2553:2012の方向性電鋼帯を採用することができる。
【0030】
電磁鋼板の加工性や、積層コアの鉄損を改善するため、電磁鋼板40の両面には、絶縁被膜が設けられている。絶縁被膜を構成する物質としては、例えば、(1)無機化合物、(2)有機樹脂、(3)無機化合物と有機樹脂との混合物、などが適用できる。無機化合物としては、例えば、(1)重クロム酸塩とホウ酸の複合物、(2)リン酸塩とシリカの複合物、などが挙げられる。有機樹脂としては、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、アクリルスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、シリコン系樹脂、フッ素系樹脂などが挙げられる。
【0031】
互いに積層される電磁鋼板40間での絶縁性能を確保するために、絶縁被膜の厚さ(電磁鋼板40片面あたりの厚さ)は0.1μm以上とすることが好ましい。
一方で絶縁被膜が厚くなるに連れて絶縁効果が飽和する。また、絶縁被膜が厚くなるに連れて占積率が低下し、積層コアとしての性能が低下する。したがって、絶縁被膜は、絶縁性能が確保できる範囲で薄い方がよい。絶縁被膜の厚さ(電磁鋼板40片面あたりの厚さ)は、好ましくは0.1μm以上5μm以下、さらに好ましくは0.1μm以上2μm以下である。
【0032】
電磁鋼板40が薄くなるに連れて次第に鉄損の改善効果が飽和する。また、電磁鋼板40が薄くなるに連れて電磁鋼板40の製造コストは増す。そのため、鉄損の改善効果および製造コストを考慮すると電磁鋼板40の厚さは0.10mm以上とすることが好ましい。
一方で電磁鋼板40が厚すぎると、電磁鋼板40のプレス打ち抜き作業が困難になる。そのため、電磁鋼板40のプレス打ち抜き作業を考慮すると電磁鋼板40の厚さは0.65mm以下とすることが好ましい。
また、電磁鋼板40が厚くなると鉄損が増大する。そのため、電磁鋼板40の鉄損特性を考慮すると、電磁鋼板40の厚さは0.35mm以下とすることが好ましく、より好ましくは、0.20mmまたは0.25mmである。
上記の点を考慮し、各電磁鋼板40の厚さは、例えば、0.10mm以上0.65mm以下、好ましくは、0.10mm以上0.35mm以下、より好ましくは0.20mmや0.25mmである。なお電磁鋼板40の厚さには、絶縁被膜の厚さも含まれる。
【0033】
ステータコア21を形成する複数の電磁鋼板40の一部は、接着部41によって接着されている。接着部41は、積層方向に隣り合う電磁鋼板40同士の間に設けられ、分断されることなく硬化した接着剤である。接着剤には、例えば重合結合による熱硬化型の接着剤などが用いられる。接着剤の組成物としては、(1)アクリル系樹脂、(2)エポキシ系樹脂、(3)アクリル系樹脂およびエポキシ系樹脂を含んだ組成物などが適用可能である。このような接着剤としては、熱硬化型の接着剤の他、ラジカル重合型の接着剤なども使用可能であり、生産性の観点からは、常温硬化型の接着剤を使用することが望ましい。常温硬化型の接着剤は、20℃~30℃で硬化する。常温硬化型の接着剤としては、アクリル系接着剤が好ましい。代表的なアクリル系接着剤には、SGA(第二世代アクリル系接着剤。Second Generation Acrylic Adhesive)などがある。本発明の効果を損なわない範囲で、嫌気性接着剤、瞬間接着剤、エラストマー含有アクリル系接着剤がいずれも使用可能である。なお、ここで言う接着剤は硬化前の状態を言い、接着剤が硬化した後は接着部41となる。
【0034】
接着部41の常温(20℃~30℃)における平均引張弾性率Eは、1500MPa~4500MPaの範囲内とされる。接着部41の平均引張弾性率Eは、1500MPa未満であると、積層コアの剛性が低下する不具合が生じる。そのため、接着部41の平均引張弾性率Eの下限値は、1500MPa、より好ましくは1800MPaとされる。逆に、接着部41の平均引張弾性率Eが4500MPaを超えると、電磁鋼板40の表面に形成された絶縁被膜が剥がれる不具合が生じる。そのため、接着部41の平均引張弾性率Eの上限値は、4500MPa、より好ましくは3650MPaとされる。
なお、平均引張弾性率Eは、共振法により測定される。具体的には、JIS R 1602:1995に準拠して引張弾性率を測定する。
より具体的には、まず、測定用のサンプル(不図示)を製作する。このサンプルは、2枚の電磁鋼板40間を、測定対象の接着剤により接着し、硬化させて接着部41を形成することにより、得られる。この硬化は、接着剤が熱硬化型の場合には、実操業上の加熱加圧条件で加熱加圧することで行う。一方、接着剤が常温硬化型の場合には常温下で加圧することで行う。
そして、このサンプルについての引張弾性率を、共振法で測定する。共振法による引張弾性率の測定方法は、上述した通り、JIS R 1602:1995に準拠して行う。その後、サンプルの引張弾性率(測定値)から、電磁鋼板40自体の影響分を計算により除くことで、接着部41単体の引張弾性率が求められる。
このようにしてサンプルから求められた引張弾性率は、積層コア全体としての平均値に等しくなるので、この数値をもって平均引張弾性率Eとみなす。平均引張弾性率Eは、その積層方向に沿った積層位置や積層コアの中心軸線回りの周方向位置で殆ど変わらないよう、組成が設定されている。そのため、平均引張弾性率Eは、積層コアの上端位置にある、硬化後の接着部41を測定した数値をもってその値とすることもできる。
【0035】
接着方法としては、例えば、電磁鋼板40に接着剤を塗布した後、加熱および圧着のいずれかまたは両方により接着する方法が採用できる。なお加熱手段は、例えば高温槽や電気炉内での加熱、または直接通電する方法等、どのような手段でも良い。
【0036】
安定して十分な接着強度を得るために、接着部41の厚さは1μm以上とすることが好ましい。
一方で接着部41の厚さが100μmを超えると接着力が飽和する。また、接着部41が厚くなるに連れて占積率が低下し、積層コアをモータにした時のトルク密度が低下する。したがって、接着部41の厚さは1μm以上100μm以下、さらに好ましくは1μm以上10μm以下とすることが好ましい。
なお、上記において接着部41の厚さは、接着部41の平均厚みを意味する。
【0037】
接着部41の平均厚みは、1.0μm以上3.0μm以下とすることがより好ましい。接着部41の平均厚みが1.0μm未満であると、前述したように十分な接着力を確保できない。そのため、接着部41の平均厚みの下限値は、1.0μm、より好ましくは1.2μmとされる。逆に、接着部41の平均厚みが3.0μmを超えて厚くなると、熱硬化時の収縮による電磁鋼板40の歪み量が大幅に増えるなどの不具合を生じる。そのため、接着部41の平均厚みの上限値は、3.0μm、より好ましくは2.6μmとされる。
接着部41の平均厚みは、積層コア全体としての平均値である。接着部41の平均厚みはその積層方向に沿った積層位置や積層コアの中心軸線回りの周方向位置で殆ど変わらない。そのため、接着部41の平均厚みは、積層コアの上端位置において、円周方向10箇所以上で測定した数値の平均値をもってその値とすることができる。
【0038】
なお、接着部41の平均厚みは、例えば、接着剤の塗布量を変えて調整することができる。また、接着部41の平均引張弾性率Eは、例えば、熱硬化型の接着剤の場合には、接着時に加える加熱加圧条件及び硬化剤種類の一方もしくは両方を変更すること等により調整することができる。
【0039】
なお本実施形態では、ロータコア31を形成する複数の電磁鋼板40は、かしめC(ダボ)によって互いに固定されている。しかしながら、ロータコア31を形成する複数の電磁鋼板40が、接着部41によって互いに接着されていてもよい。
なお、ステータコア21やロータコア31などの積層コアは、いわゆる回し積みにより形成されていてもよい。
【0040】
ここで図3および図4に示すように、本実施形態のステータコア21では、積層方向に隣り合う電磁鋼板40同士の全ての組が接着またはかしめのどちらかにより固定されている。前記全ての組の電磁鋼板40同士のうち、一部の組の電磁鋼板40同士はかしめられ接着されておらず、残りの組の電磁鋼板40同士は接着されかしめられていない。
【0041】
本実施形態では、複数の電磁鋼板40は、積層方向に1組以上おき、具体的には1組おき、1組超おき(2組おき、3組おき、4組おき・・・)または素数組おきに接着されている。言い換えると、複数の電磁鋼板40が、積層方向にN組おきに接着されているとしたとき、Nは自然数であり、具体的にはNは1、1超の自然数(2、3、4・・・)または素数である。すなわち、複数の電磁鋼板40は、積層方向に1組おき、1組超おきまたはN組おきに接着され、1組おき、1組超おきまたはN組おきにかしめられている。言い換えると、複数の電磁鋼板40は、積層方向に沿ってかしめと接着とによって交互に接合されている。例えば、Nが1の場合には、図3に示すように、接着部41が全ての組の間に配置されているのではなく、1組おきに配置されている。また、一対の電磁鋼板40によって積層方向に挟まれている電磁鋼板40では、前記一対の電磁鋼板40のうちの一方とはかしめられ、他方とは接着されている。
ここで、複数の電磁鋼板40が積層方向にN組おきに接着されていることは、積層方向に離れて配置された一対の接着部41同士の間に、N組(N+1枚)の電磁鋼板40が配置されていることを意味する。Nが1の場合、前記一対の接着部41同士の間に1組(2枚)の電磁鋼板40が配置され、Nが2の場合、前記一対の接着部41同士の間に2組(3枚)の電磁鋼板40が配置される。
【0042】
なお本発明はこれに限られず、図7および図8や、図9に示す各変形例に係るステータ20A、20Bのように、複数の電磁鋼板40が、積層方向に2組おき(3枚おき)や3組おき(4枚おき)に接着されていてもよい。言い換えると、積層方向に2組おきや3組おきに、接着部41が設けられていてもよい。これらの場合、接着されていない電磁鋼板40同士が、かしめられている。結果的に、前記全ての組の電磁鋼板40同士のうち、かしめにより接合される電磁鋼板40の組数が、接着により接合される電磁鋼板40の組数よりも多くなる。
【0043】
さらに本発明はこれに限られず、図10に示す変形例に係るステータ20Cのように、複数の電磁鋼板40で、積層方向に互いに異なる組数おきに接着される部分が混在していてもよい。言い換えると、複数の電磁鋼板40では、積層方向に第1の組数おきに接着されている部分と、積層方向に第2の組数おきに接着されている部分と、が混在していてもよい。図10に示す変形例では、複数の電磁鋼板40では、積層方向に1組おき(2枚おき)に接着されている部分と、積層方向に2組おき(3枚おき)に接着されている部分と、が混在している。すなわち、複数の電磁鋼板40が、積層方向に互いに異なる組数おきに接着されている。接着されていない組は、かしめにより接合されている。ここでこの変形例では、積層方向に1組おきに接着された後、2組おきに接着され、また1組おきに接着された後、2組おきに接着されている。言い換えると、複数の電磁鋼板40が、積層方向に1組おき(第1の組数おき)と2組おき(第2の組数おき)とに交互に接着されている。
なおこの変形例において、1組おき、2組おきに代えて、3組おき以上の組数おきに接着してもよい。
また、複数の電磁鋼板40が、積層方向に第1の組数おきと第2の組数おきとに交互に接着されていなくてもよい。例えば、第1の組数おきの接着と第2の組数おきの接着とが、不規則に配置されていてもよい。
さらに、複数の電磁鋼板40が、積層方向に第1の組数おきと第2の組数おきとの2種類の組数おきに交互に接着されていなくてもよい。すなわち、3種類以上の組数おきに交互に接着されていてもよい。
【0044】
図4に示すように、接着部41によって接着された積層方向に隣り合う電磁鋼板40同士は、互いに全面接着されていない。これらの電磁鋼板40同士は、互いに局所的に接着されている。
【0045】
本実施形態では、積層方向に隣り合う電磁鋼板40同士は、電磁鋼板40の周縁に沿って設けられた接着部41によって接着されている。具体的には、積層方向に隣り合う電磁鋼板40同士は、第1の接着部41aと、第2の接着部41bと、によって接着されている。第1の接着部41aは、電磁鋼板40を積層方向から見た平面視において、電磁鋼板40の外周縁に沿って設けられている。第2の接着部41bは、電磁鋼板40を積層方向から見た平面視において、電磁鋼板40の内周縁に沿って設けられている。なお、第1、第2の接着部41a、41bは、それぞれ平面視において帯状に形成されている。
【0046】
ここで帯状とは、帯の幅が途中で変化する形状も含む。例えば、丸形状の点が分断されることなく一方向に連続する形状も、一方向に延びる帯状に含まれる。また、周縁に沿っていることには、周縁に対して完全に平行な場合だけでなく、周縁に対して例えば5度以内の傾斜を有している場合も含まれる。
【0047】
第1の接着部41aは、電磁鋼板40の外周縁に沿って配置されている。第1の接着部41aは、周方向の全周にわたって連続して延びている。第1の接着部41aは、この第1の接着部41aを積層方向から見た平面視において円環状に形成されている。
第2の接着部41bは、電磁鋼板40の内周縁に沿って配置されている。第2の接着部41bは、周方向の全周にわたって連続して延びている。
【0048】
第2の接着部41bは、複数のティース部分44と、複数のコアバック部分45と、を備えている。複数のティース部分44は、周方向に間隔をあけて設けられ、各ティース部23に配置されている。複数のコアバック部分45は、コアバック部22に配置され、周方向に隣り合うティース部分44同士を連結している。
ティース部分44は、一対の第1部分44aと、第2部分44bと、を備えている。第1部分44aは、周方向に間隔をあけて配置されている。第1部分44aは、径方向に沿って延びている。第1部分44aは、径方向に帯状に延びている。第2部分44bは、一対の第1部分44a同士を周方向に連結している。第2部分44bは、周方向に帯状に延びている。
【0049】
本実施形態では、電磁鋼板40同士の間に設けられた全ての接着部41の平面視形状は同一である。接着部41の平面視形状とは、接着部41が設けられた電磁鋼板40を積層方向から見た平面視における、接着部41の全体形状を意味する。電磁鋼板40同士の間に設けられた全ての接着部41の平面視形状が同一であることは、電磁鋼板40同士の間に設けられた全ての接着部41の平面視形状が完全に同一である場合だけを含むものではなく、実質的に同一の場合を含む。前記実質的に同一の場合は、電磁鋼板40同士の間に設けられた全ての接着部41の平面視形状が95%以上の部分で共通している場合である。
【0050】
そして本実施形態では、接着部41による電磁鋼板40の接着面積率は、1%以上、40%以下である。図示の例では、前記接着面積率は、1%以上、20%以下であり、具体的には20%である。なお、接着部41による電磁鋼板40の接着面積率とは、電磁鋼板40において積層方向を向く面(以下、電磁鋼板40の第1面という)の面積に対する、第1面のうちの接着部41が設けられた領域(接着領域42)の面積の割合である。接着部41が設けられた領域とは、電磁鋼板40の第1面のうち、分断されることなく硬化した接着剤が設けられている領域(接着領域42)である。接着部41が設けられた領域の面積は、例えば、剥離後の電磁鋼板40の第1面を撮影し、その撮影結果を画像解析することによって求められる。
【0051】
本実施形態では、電磁鋼板40同士の間において、接着部41による電磁鋼板40の接着面積率が、1%以上、20%以下である。積層方向に隣り合う両電磁鋼板40において、その接着部41による電磁鋼板40の接着面積率は、いずれも1%以上、20%以下となっている。1つの電磁鋼板40に対して積層方向の両側に接着部41が設けられている場合、その電磁鋼板40の両面における前記接着面積率は、いずれも1%以上、20%以下となっている。
なお、電磁鋼板40を接着部41により接着することで、電磁鋼板40をかしめる場合に比べて、接着面積(接合面積)を容易に確保することができる。
【0052】
図5に示すように、互いにかしめられている電磁鋼板40には、かしめC1、C2が形成されている。かしめC1、C2は、コアバック部22に設けられた第1かしめC1と、ティース部23に設けられた第2かしめC2と、を含む。
【0053】
第1かしめC1は、周方向に沿って同等の間隔をあけて複数配置されている。図示の例では、第1かしめC1は、周方向に沿ってティース部23とずらされて配置されている。第1かしめC1は、周方向に沿って隣り合うティース部23の中間に配置されている。第1かしめC1は、径方向に沿ってコアバック部22の中央に配置されている。
第2かしめC2は、全てのティース部23に設けられている。第2かしめC2は、各ティース部23の周方向の中央に配置されている。第2かしめC2は、各ティース部23に径方向に2つ並んで配置されている。
【0054】
図6に示すように、第1かしめC1は、各電磁鋼板40に設けられた凸部C11および凹部C12を備えている。凸部C11は、電磁鋼板40から積層方向に突出している。凹部C12は、各電磁鋼板40において、凸部C11の裏側に位置する部分に配置されている。凹部C12は、電磁鋼板40の表面(第1面)に対して、積層方向に窪んでいる。凸部C11および凹部C12は、各電磁鋼板40を、例えばプレス加工することにより形成される。
ここで、互いにかしめられている2枚の電磁鋼板40のうち、一方を第1の電磁鋼板40といい、他方を第2の電磁鋼板40という。第1かしめC1は、第1の電磁鋼板40の凸部C11が、第2の電磁鋼板40の凹部C12に嵌め込まれることにより形成されている。凸部C11が凹部C12に嵌め込まれ、第1かしめC1が形成されることにより、積層方向に隣り合う2枚の電磁鋼板40同士の相対的な変位が規制される。
【0055】
第2かしめC2は、第1かしめC1と同様の構成である。第2かしめC2は、各電磁鋼板40に設けられた前記凸部C11および前記凹部C12を備えている。第2かしめC2は、第1の電磁鋼板40の凸部C11が、第2の電磁鋼板40の凹部C12に嵌め込まれることにより形成されている。凸部C11が凹部C12に嵌め込まれ、第2かしめC2が形成されることにより、積層方向に隣り合う2枚の電磁鋼板40同士の相対的な変位が規制される。
【0056】
なお、凸部C11および凹部C12の形状は特に限定されない。例えば、凹部C12として、電磁鋼板40に貫通孔が設けられていてもよい。
また、凸部C11が突出する向き、凹部C12が窪む向きは、積層方向の第1側D1、第2側D2のどちらであってもよい。
【0057】
なお本実施形態では、かしめC1、C2と接着部41とは、平面視において重複せず、互いに回避する位置に配置されている。かしめC1、C2と接着部41とは、平面視においてずらされて配置されている。平面視におけるかしめC1、C2の面積の合計は、接着部41の面積の合計よりも小さい。
【0058】
また本実施形態では、互いにかしめられている電磁鋼板40は、接着されていない。言い換えると、互いにかしめられている電磁鋼板40の間には、接着部41が設けられていない。
さらに本実施形態では、互いに接着されている電磁鋼板40は、かしめられていない。言い換えると、互いに接着されている電磁鋼板40では、凸部C11および凹部C12が嵌め合わされていない。すなわち、互いに接着されている電磁鋼板40の相対的な変位の規制が、少なくとも凸部C11および凹部C12の嵌め合いよっては実現されていない。
【0059】
かしめによる接合は、接着による接合に比べて、寸法精度を高めることができる。ここで、積層方向に隣り合う全ての組の電磁鋼板40同士のうち、一部の組の電磁鋼板40同士がかしめられている。したがって、ステータコア21のうち、これらの一部の組によって形成される部分の形状の精度を高めることができる。結果として、ステータコア21の外形状の精度を高めることができる。よって、ステータコア21の取り扱い性を確保することができる。例えば、ステータコア21に巻線を巻き回す場合であっても、精度良く巻き回すこと等ができる。
本実施形態では、周方向に隣り合うティース部23間のスロットに巻線を通すときに、前述した取り扱い性が確保されているという作用効果が顕著に奏功される。すなわち、スロットの寸法精度が高められると、巻線を設計通りにティース部23に巻き回し易くすることができる。これにより、スロットにおける巻線占積率を高めることができる。結果として、スロット内の電気装荷を高めることができる。
【0060】
しかしながら、かしめによる接合は、積層方向に隣り合う電磁鋼板40間において短絡電流(迷走電流)を発生させるおそれがある。ここで、積層方向に隣り合う全ての組の電磁鋼板40同士のうち、前記一部の組を除く残りの組の電磁鋼板40同士が接着されている。したがって、これらの残りの組の電磁鋼板40同士の間では、迷走電流の発生を抑制することができる。その結果、ステータコア21の磁気特性を向上させることができる。
【0061】
複数の電磁鋼板40が、積層方向に1組以上おき(本実施形態では1組おき)に接着されている。したがって、接着により接合される電磁鋼板40が、ステータコア21において積層方向の一部分に局所的に集中することを抑えることができる。言い換えると、接着により接合される電磁鋼板40を積層方向に分散させることができる。その結果、ステータコア21の外形状の精度を一層高めることができる。
【0062】
ところで、ステータコア21にも、一般的な物品と同様に固有の共振周波数がある。ステータコア21の共振周波数が低いと、一般的な振動が入力されたときに共振が生じ易い。そのため、ステータコア21の共振周波数は高いことが好ましい。
ここで複数の電磁鋼板40が、積層方向にN組おきに接着されている場合、ステータコア21の共振周波数は、Nに依存する傾向にある。
すなわち、N組おきに接着されている場合、積層方向に隣り合う接着部41の間に、(N+1)枚の電磁鋼板40が配置され、かつ、これらの電磁鋼板40が互いにかしめられている。接着部41による接合強度が、かしめによる接合強度よりも低い場合、前記(N+1)枚の電磁鋼板40が、接着部41を起点として一体的に挙動し易くなる。言い換えると、前記(N+1)枚の電磁鋼板40が1つのブロックであるかのように挙動する。このようなステータコア21において、複数の電磁鋼板40が、積層方向に等間隔をあけてN組おきに接着されている場合、ステータコア21の共振周波数は、Nの約数に影響を受ける。また、複数の電磁鋼板40が、積層方向に互いに異なるN1組おき、N2組おき、…に接着されている場合、ステータコア21の共振周波数は、N1、N2…についての最小公倍数に影響を受ける。前記の約数や前記最小公倍数が大きいほど、ステータコア21の共振周波数は高くなる。
【0063】
複数の電磁鋼板40が、積層方向に1組おき、1組超おきまたは素数組おき(本実施形態では1組おき)に接着されている。そのため、複数の電磁鋼板40が、積層方向に等間隔をあけてN組おき(ただし、Nは1、1超の自然数または素数)に接着されている場合であっても、Nが1、1超の自然数または素数であり、前記の約数を大きくすることができる。さらに、複数の電磁鋼板40が、積層方向に互いに異なるN1組おき、N2組おき、…に接着されている場合においても、N1、N2…についての最小公倍数を大きくすることができる。したがって、ステータコア21の共振周波数を高くすることができる。その結果、例えば、共振周波数を可聴域より高い周波数とすることができる。これにより、例えば本実施形態のように、このステータコア21を電動機に適用した場合などにおいても、共振による騒音の発生を抑制することができる。
【0064】
図10に示すような変形例では、複数の電磁鋼板40で、積層方向に互いに異なる組数おきに接着されている部分が混在している。そのため、複数の電磁鋼板40が、積層方向に互いに異なるN1組おき、N2組おき、…に接着されているとしたときに、N1、N2…についての最小公倍数を大きくすることができる。したがって、ステータコア21の共振周波数を、それらの組数についての最小公倍数に応じて高くすることができる。これにより、共振による騒音の発生を一層抑制することができる。
なおこのような作用効果は、上記実施例のように、積層方向に互いに異なる組数おきに接着されている場合に顕著に奏功される。すなわち、この場合には前記最小公倍数を大きくすることができる。
【0065】
なお、本発明の技術的範囲は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0066】
ステータコアの形状は、前記実施形態で示した形態に限定されるものではない。具体的には、ステータコアの外径および内径の寸法、積厚、スロット数、ティース部23の周方向と径方向の寸法比率、ティース部23とコアバック部22との径方向の寸法比率、などは所望の回転電機の特性に応じて任意に設計可能である。
【0067】
前記実施形態におけるロータでは、2つ1組の永久磁石32が1つの磁極を形成しているが、本発明はこれに限られない。例えば、1つの永久磁石32が1つの磁極を形成していてもよく、3つ以上の永久磁石32が1つの磁極を形成していてもよい。
【0068】
前記実施形態では、回転電機として、永久磁石界磁型電動機を一例に挙げて説明したが、回転電機の構造は、以下に例示するようにこれに限られず、更には以下に例示しない種々の公知の構造も採用可能である。
前記実施形態では、同期電動機として、永久磁石界磁型電動機を一例に挙げて説明したが、本発明はこれに限られない。例えば、回転電機がリラクタンス型電動機や電磁石界磁型電動機(巻線界磁型電動機)であってもよい。
前記実施形態では、交流電動機として、同期電動機を一例に挙げて説明したが、本発明はこれに限られない。例えば、回転電機が誘導電動機であってもよい。
前記実施形態では、電動機として、交流電動機を一例に挙げて説明したが、本発明はこれに限られない。例えば、回転電機が直流電動機であってもよい。
前記実施形態では、回転電機として、電動機を一例に挙げて説明したが、本発明はこれに限られない。例えば、回転電機が発電機であってもよい。
【0069】
前記実施形態では、本発明に係る積層コアをステータコアに適用した場合を例示したが、ロータコアに適用することも可能である。
【0070】
その他、本発明の趣旨に逸脱しない範囲で、前記実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、前記した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【0071】
次に、上記した作用効果を検証する検証試験を実施した。なお本検証試験は、ソフトウェアを用いたシミュレーションにより実施した。ソフトウェアとしては、JSOL株式会社製の有限要素法電磁場解析ソフトJMAGを利用した。
検証試験として、第1の検証試験と、第2の検証試験と、を実施した。
【0072】
(第1の検証試験)
第1の検証試験では、かしめと接着とが混合されることに基づく作用効果について検証した。
この検証試験では、比較例1、2のステータ、参考例1、実施例2、3のステータについてシミュレーションを実施した。
【0073】
比較例1、2のステータ、参考例1、実施例2、3のステータのいずれについても共通して、上記図1から図6に示す実施形態に係るステータ20を基本構造とし、このステータ20に対して以下の点を変更した。すなわち、電磁鋼板の板厚を0.20mmとし、積層コアの積厚を50mmとし、電磁鋼板の枚数を250枚とした。
【0074】
その上で、比較例1のステータでは、250枚の電磁鋼板を全層、かしめにより接合した。比較例2のステータでは、250枚の電磁鋼板を全層、接着により接合した。参考例1のステータでは、250枚の電磁鋼板を、積層方向に1組おきに接着により接合し、残りをかしめにより接合した(接着とかしめとにより交互に接合した)。実施例2のステータでは、250枚の電磁鋼板を、積層方向に2組おきに接着により接合し、残りをかしめにより接合した。実施例3のステータでは、250枚の電磁鋼板のうち、積層方向の片側125枚を接着により接合し、残りの125枚をかしめにより接合した。
【0075】
比較例1、2、参考例1、実施例2、3のステータそれぞれについて、電磁鋼板1枚当たりの鉄損と、ステータコアとしての寸法精度を確認した。鉄損は上記ソフトウェアを利用したシミュレーションにより算出した。寸法精度は、各例において5台のステータコアを製造した場合における狙い寸法からのずれの大きさで評価した。
【0076】
結果を以下の表1に示す。
【0077】
【表1】
【0078】
以上から、例えば、参考例1では、比較例1に比べて、8.8%(=(25.2-23.4)/25.2)の鉄損の改善がみられる等、参考例1、実施例2、3では、比較例1に比べていずれも鉄損が改善され、迷走電流の発生も軽微であることが確認された。その上、参考例1、実施例2、3では、寸法精度について、比較例2に比べて優れているという結果が得られた。
【0079】
(第2の検証試験)
第2の検証試験では、接着間隔と共振との関係について検証した。
この検証試験では、参考例11、実施例12~21のステータについてシミュレーションを実施した。
【0080】
参考例11、実施例12~21のステータのいずれについても共通して、上記図1から図6に示す実施形態に係るステータ20を基本構造とし、このステータ20に対して以下点を変更した。すなわち、電磁鋼板の板厚を0.20mmとし、積層コアの積厚を50mmとし、電磁鋼板の枚数を250枚とした。
【0081】
その上で、参考例11、各実施例12~19のステータを、以下のように設定した。
参考例11のステータでは、250枚の電磁鋼板を、積層方向に1組おきに接着により接合し、残りをかしめにより接合した(接着とかしめとにより交互に接合した)。
実施例12のステータでは、250枚の電磁鋼板を、積層方向に2組おきに接着により接合し、残りをかしめにより接合した。
実施例13~19のステータも同様に、250枚の電磁鋼板を、積層方向に3組おき、4組おき、・・・、9組おきと、接着による接合する間隔を、実施例の番号の増加に伴い1組ずつ増やしていった。
【0082】
また実施例20、21のステータは、以下のように設定した。
実施例20のステータでは、250枚の電磁鋼板において、積層方向に3組おきに接着した部分と、積層方向に5組おきに接着した部分と、を混在させた上で、接着されていない組をかしめにより接合した。
実施例21のステータでは、250枚の電磁鋼板において、積層方向に3組おきに接着した部分と、積層方向に5組おきに接着した部分と、積層方向に7組おきに接着した部分と、を混在させた上で、接着されていない組をかしめにより接合した。
【0083】
これらの参考例11、実施例12~21のステータについて、共振時に可聴域の振動が発生するか否かについて確認した。
【0084】
結果を以下の表2に示す。
【0085】
【表2】
【0086】
以上から、参考例11、実施例12、13、15、17のステータ(複数の電磁鋼板において積層方向に1組おきまたは素数組おきに接着されているステータ)では、可聴域の振動が弱いことが確認された。
さらに、実施例20、21のステータ(複数の電磁鋼板において、積層方向に互いに異なる素数組おきに接着されている部分が混在しているステータ)では、可聴域の振動が極めて弱いことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明によれば、外形状の寸法精度を確保しつつ、磁気特性を向上させることができる。よって、産業上の利用可能性は大である。
【符号の説明】
【0088】
10 回転電機
21 ステータコア(積層コア)
22 コアバック部
23 ティース部
40 電磁鋼板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10