IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新日鐵住金株式会社の特許一覧

特許7568983冷却構造、バッテリーユニット、及び冷却構造の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-08
(45)【発行日】2024-10-17
(54)【発明の名称】冷却構造、バッテリーユニット、及び冷却構造の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/6568 20140101AFI20241009BHJP
   H01M 10/613 20140101ALI20241009BHJP
   H01M 10/625 20140101ALI20241009BHJP
   H01M 10/651 20140101ALI20241009BHJP
   H01M 10/653 20140101ALI20241009BHJP
   H01M 10/6556 20140101ALI20241009BHJP
【FI】
H01M10/6568
H01M10/613
H01M10/625
H01M10/651
H01M10/653
H01M10/6556
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2023522336
(86)(22)【出願日】2022-04-15
(86)【国際出願番号】 JP2022017939
(87)【国際公開番号】W WO2022244569
(87)【国際公開日】2022-11-24
【審査請求日】2023-10-25
(31)【優先権主張番号】P 2021085197
(32)【優先日】2021-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】松井 翔
(72)【発明者】
【氏名】児玉 真二
(72)【発明者】
【氏名】三宅 恭平
(72)【発明者】
【氏名】三日月 豊
(72)【発明者】
【氏名】大毛 隆志
(72)【発明者】
【氏名】乘田 克哉
【審査官】杉田 恵一
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-276990(JP,A)
【文献】特開2012-17954(JP,A)
【文献】特開2013-101926(JP,A)
【文献】特開2020-107443(JP,A)
【文献】特開2021-64448(JP,A)
【文献】特表2009-522535(JP,A)
【文献】特表2015-527688(JP,A)
【文献】登録実用新案第3176976(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2019/0366876(US,A1)
【文献】国際公開第2012/147860(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/093286(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/613
H01M 10/625
H01M 10/651
H01M 10/653
H01M 10/6556
H01M 10/6568
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溝部、及び、前記溝部の周囲に設けられた堤部を有するプレス成形部材と、
前記プレス成形部材の前記溝部を覆う位置に重ねられた平板であって、平坦な冷却面を構成する流路上蓋と、
前記流路上蓋と前記堤部との互いに対向する面同士を接合して、冷却液が流通可能な流路を形成するレーザ溶接部と、
を備え、
前記プレス成形部材及び前記流路上蓋は、母材鋼板と、前記母材鋼板の表面に設けられたZn系めっきと、前記Zn系めっきの表面に化成処理皮膜として設けられた無機皮膜又は樹脂皮膜と、を有するめっき鋼板であり、
前記無機皮膜は、Si系成分又はZr系成分を50質量%以上の割合で含み、
前記流路は、第1方向に沿って延びる複数の部分流路が前記第1方向と直交する第2方向に並ぶ並列流路部を有し、
前記並列流路部の一部又は全部において、隣り合う前記部分流路同士の間隔が20mm以下であり、
前記流路に面する前記レーザ溶接部の全長に対する、ブローホール及びピットが形成された領域の長さの割合が0.2以下である
冷却構造。
【請求項2】
前記並列流路部において、隣り合う前記部分流路同士の間隔が0.8~15mmであることを特徴とする請求項1に記載の冷却構造。
【請求項3】
前記部分流路の幅が6~60mmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の冷却構造。
【請求項4】
前記部分流路の幅が6~20mmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の冷却構造。
【請求項5】
前記レーザ溶接部が有する溶接金属の周辺における、前記プレス成形部材及び前記流路上蓋の間の隙間が0.03mm以上であることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の冷却構造。
【請求項6】
前記レーザ溶接部が有する前記溶接金属の前記周辺において、前記プレス成形部材及び前記流路上蓋の間に配された、厚さ0.03mm以上のスペーサーをさらに備えることを特徴とする請求項5に記載の冷却構造。
【請求項7】
前記スペーサーが、前記流路上蓋又は前記プレス成形部材を変形させて形成された突起であることを特徴とする請求項6に記載の冷却構造。
【請求項8】
前記レーザ溶接部、又は前記レーザ溶接部の近傍に、前記流路上蓋及び前記プレス成形部材を接合するスポット溶接部をさらに有することを特徴とする請求項5に記載の冷却構造。
【請求項9】
前記堤部の断面形状が略円弧であり、
前記流路上蓋と、前記堤部との接触部における、前記堤部の曲率半径が15mm以下であることを特徴とする請求項1~8のいずれか一項に記載の冷却構造。
【請求項10】
前記プレス成形部材及び前記流路上蓋を構成する前記めっき鋼板の板厚が0.3~1.2mmであることを特徴とする請求項1~9のいずれか一項に記載の冷却構造。
【請求項11】
前記レーザ溶接部が、全ての前記流路を包囲する流路外縁溶接部を有し、
前記レーザ溶接部の始端部及び終端部が、前記流路外縁溶接部から除外されている
ことを特徴とする請求項1~10のいずれか一項に記載の冷却構造。
【請求項12】
前記冷却構造から、前記レーザ溶接部の始端部及び終端部が除かれていることを特徴とする請求項1~11のいずれか一項に記載の冷却構造。
【請求項13】
前記流路上蓋における、前記レーザ溶接部のビード高さが0.3mm以下であることを特徴とする請求項1~12のいずれか一項に記載の冷却構造。
【請求項14】
電池セルと、
前記電池セルが収納されたバッテリーパックと、
請求項1~13のいずれか一項に記載の冷却構造と
を備え、
前記冷却構造の前記流路上蓋が前記バッテリーパックに接合されているバッテリーユニット。
【請求項15】
電池セルと、
前記電池セルが収納されたバッテリーパックと、
請求項1~13のいずれか一項に記載の冷却構造と
を備え、
前記冷却構造の前記流路上蓋が前記バッテリーパックであるバッテリーユニット。
【請求項16】
鋼板をプレス成形して、溝部、及び、前記溝部の周囲に設けられた堤部を有するプレス成形部材を得る工程と、
平板である流路上蓋を、前記プレス成形部材の前記溝部を覆う位置に重ね、前記流路上蓋と前記プレス成形部材の前記堤部とをレーザ溶接して、冷却液が流通可能な流路を形成するレーザ溶接部を得る工程と、
を備え、
前記プレス成形部材及び前記流路上蓋は、母材鋼板と、前記母材鋼板の表面に設けられたZn系めっきと、前記Zn系めっきの表面に化成処理皮膜として設けられた無機皮膜又は樹脂皮膜と、を有するめっき鋼板であり、
前記無機皮膜は、Si系成分又はZr系成分を50質量%以上の割合で含み、
前記流路は、第1方向に沿って延びる複数の部分流路が前記第1方向と直交する第2方向に並ぶ並列流路部を有し、
前記並列流路部の一部又は全部において、隣り合う前記部分流路同士の間隔が20mm以下であり、
前記流路に面する前記レーザ溶接部の全長に対する、ブローホール及びピットが形成された領域の長さの割合が0.2以下である
冷却構造の製造方法。
【請求項17】
前記レーザ溶接の前に、前記レーザ溶接をする箇所、又は前記レーザ溶接をする前記箇所の近傍において、前記プレス成形部材及び前記流路上蓋の間に、厚さ0.03mm以上のスペーサーを配し、これにより前記レーザ溶接をする箇所、又は前記レーザ溶接をする箇所の近傍における前記プレス成形部材及び前記流路上蓋の間の隙間を0.03mm以上とする
ことを特徴とする請求項16に記載の冷却構造の製造方法。
【請求項18】
前記スペーサーが、前記流路上蓋又は前記プレス成形部材を変形させて形成された突起であることを特徴とする請求項17に記載の冷却構造の製造方法。
【請求項19】
前記レーザ溶接の前に、前記レーザ溶接をする箇所、又は前記レーザ溶接をする前記箇所の近傍において、前記プレス成形部材及び前記流路上蓋をスポット溶接して、これにより前記レーザ溶接をする箇所、又は前記レーザ溶接をする箇所の近傍における前記プレス成形部材及び前記流路上蓋の間の隙間を0.03mm以上とする
ことを特徴とする請求項16に記載の冷却構造の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却構造、バッテリーユニット、及び冷却構造の製造方法に関する。
本願は、2021年5月20日に、日本に出願された特願2021-085197号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
二酸化炭素排出量の削減のために、自動車のEV(Electric Vehicle)化が進んでいる。EVのバッテリーボックスでは、温度上昇による電池の劣化を防ぐために、冷却構造を設ける必要がある。これまで冷却構造は空冷式が主流であったが、近年では、バッテリーの大容量化に伴い、冷却能が高い水冷式が採用される例が増えてきている(例えば特許文献1~4)。水冷式のバッテリーパックでは、バッテリーパックの外側に冷却液が流れる水冷媒体用流路が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】日本国特開2020-107443号公報
【文献】日本国特許第6125624号公報
【文献】日本国特開2012-17954号公報
【文献】日本国特開2021-64448号公報
【文献】日本国特開2001-276990号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
水冷式のバッテリーパックの外壁部分及び冷却構造は、冷却液に対する耐食性が高いアルミニウムで構成されることが多い。しかし、アルミニウムにはコスト面の問題がある。また、アルミニウムは軟質であるので、アルミニウム板から構成される冷却構造においては、外壁強度を確保したまま外壁を薄くして、その重量を削減することが難しい。これらの部材の材料を鋼板とした場合、水冷式のバッテリーパックを安価に提供すること、及びその重量を削減することが可能となる。
【0005】
ここで、水冷媒体用流路には有機成分を含んだLLC(ロングライフクーラント)水溶液が冷却液として流れる。そのため、水冷媒体用流路を構成する部材には、冷却液に対する耐食性が求められる。また、バッテリーパック及び冷却構造は自動車の底面部に配置されるため、外部環境にさらされる。したがって、バッテリーパック及び冷却構造を構成する部材には、自動車の足回り部品並みの耐食性が求められる。以下、冷却液に対する耐食性を冷却液耐食性、又は内面耐食性と称し、外部環境に対する耐食性を外面耐食性と称する。また、単に「耐食性」と記載されている場合は、冷却液耐食性、及び外面耐食性の両方を指す。
【0006】
鋼板の耐食性を高めるための手段の一つとして、めっきがある。例えばZn系めっき等のめっきを鋼板の表面に形成することにより、冷却液耐食性及び外面耐食性の両方を高めることができる。
【0007】
一方、当然のことながら、冷却構造には高い冷却効率が求められる。加えて、冷却効率保ち、LLC漏れを抑制するために、流路の液密性も必要となる。しかしながら、めっき鋼板を用いて流路を形成した冷却構造はこれまでほとんど例が無く、従って、めっき鋼板を接合する方法についての検討はなされていない。
めっき鋼板を強固に接合するための手段として通常用いられるのはスポット溶接である。しかし、スポット溶接は点接合であるので、流路の液密性を確保することが難しい。シーラーを用いてスポット溶接部の液密性を確保することが可能であるが、シーラーはLLCによって劣化するおそれがある。従って冷却構造の製造にあたっては、耐食性を保ったまま、流路の液密性を確保可能な接合方法も必要とされる。
特許文献3の技術では、アルミ系めっき鋼板をろう付けすることにより冷却器を製造している。しかし、特許文献3の技術は専ら小型の装置に適用することが想定されており、多様なサイズの冷却器に対応することは難しい。また、特許文献3においては外装部材の変形を防止することが課題とされており、外装部材の接合手段を変更することは難しい。
特許文献4には、FSW(Friction Stir Welding)を利用したバッテリーケースの製造方法が開示されている。当該文献によれば、FSWはブローホールが生じることもないとされている。しかしながらFSWは、狭い平面領域や局面領域の接合には適用できない。冷却構造の流路間隔を狭めて、冷却効率を向上させることが、特許文献3の技術では難しい。
特許文献5には、粘着剤をスペーサとして用いてブローホールの発生を抑制するめっき鋼板の重ねレーザ溶接構造が開示されている。しかしながら、特許文献5の技術は、LLCに晒される腐食環境を想定されていない。
【0008】
以上の事情に鑑みて本発明は、高い冷却効率を有し、流路の液密性に優れ、さらに高い冷却液耐食性及び外面耐食性を有する冷却構造、バッテリーユニット、及び冷却構造の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の要旨は以下の通りである。
【0010】
(1)本発明の一態様に係る冷却構造は、溝部、及び、前記溝部の周囲に設けられた堤部を有するプレス成形部材と、前記プレス成形部材の前記溝部を覆う位置に重ねられた平板であって、平坦な冷却面を構成する流路上蓋と、前記流路上蓋と前記堤部との互いに対向する面同士を接合して、冷却液が流通可能な流路を形成するレーザ溶接部と、を備え、前記プレス成形部材及び前記流路上蓋は、母材鋼板と、前記母材鋼板の表面に設けられたZn系めっきと、前記Zn系めっきの表面に化成処理皮膜として設けられた無機皮膜又は樹脂皮膜と、を有するめっき鋼板であり、前記無機皮膜は、Si系成分又はZr系成分を50質量%以上の割合で含み、前記流路は、第1方向に沿って延びる複数の部分流路が前記第1方向と直交する第2方向に並ぶ並列流路部を有し、前記並列流路部の一部又は全部において、隣り合う前記部分流路同士の間隔が20mm以下であり、前記流路に面する前記レーザ溶接部の全長に対する、ブローホール及びピットが形成された領域の長さの割合が0.2以下である。
(2)上記(1)に記載の冷却構造では、前記並列流路部において、隣り合う前記部分流路同士の間隔が0.8~15mmであってもよい。
(3)上記(1)又は(2)に記載の冷却構造では、前記部分流路の幅が6~60mmであってもよい。
(4)上記(1)又は(2)に記載の冷却構造では、前記部分流路の幅が6~20mmであってもよい。
(5)上記(1)~(4)のいずれか一項に記載の冷却構造では、前記レーザ溶接部が有する溶接金属の周辺における、前記プレス成形部材及び前記流路上蓋の間の隙間が0.03mm以上であってもよい。
(6)上記(5)に記載の冷却構造は、前記レーザ溶接部が有する前記溶接金属の前記周辺において、前記プレス成形部材及び前記流路上蓋の間に配された、厚さ0.03mm以上のスペーサーをさらに備えてもよい。
(7)上記(6)に記載の冷却構造では、前記スペーサーが、前記流路上蓋又は前記プレス成形部材を変形させて形成された突起であってもよい。
(8)上記(5)に記載の冷却構造は、前記レーザ溶接部、又は前記レーザ溶接部の近傍に、前記流路上蓋及び前記プレス成形部材を接合するスポット溶接部をさらに有してもよい。
(9)上記(1)~(8)のいずれか一項に記載の冷却構造では、前記堤部の断面形状が略円弧であり、前記流路上蓋と、前記堤部との接触部における、前記堤部の曲率半径が15mm以下であってもよい。
(10)上記(1)~(9)のいずれか一項に記載の冷却構造では、前記プレス成形部材及び前記流路上蓋を構成する前記めっき鋼板の板厚が0.3~1.2mmであってもよい。
(11)上記(1)~(10)のいずれか一項に記載の冷却構造では、前記レーザ溶接部が、全ての前記流路を包囲する流路外縁溶接部を有し、前記レーザ溶接部の始端部及び終端部が、前記流路外縁溶接部から除外されていてもよい。
(12)上記(1)~(11)のいずれか一項に記載の冷却構造では、前記冷却構造から、前記レーザ溶接部の始端部及び終端部が除かれていてもよい。
(13)上記(1)~(12)のいずれか一項に記載の冷却構造では、前記流路上蓋における、前記レーザ溶接部のビード高さが0.3mm以下であってもよい。
【0011】
(14)本発明の別の態様に係るバッテリーユニットは、電池セルと、前記電池セルが収納されたバッテリーパックと、上記(1)~(13)のいずれか一項に記載の冷却構造とを備え、前記冷却構造の前記流路上蓋が前記バッテリーパックに接合されている。
(15)本発明の別の態様に係るバッテリーユニットは、電池セルと、前記電池セルが収納されたバッテリーパックと、上記(1)~(13)のいずれか一項に記載の冷却構造とを備え、前記冷却構造の前記流路上蓋が前記バッテリーパックである。
【0012】
(16)本発明の別の態様に係る冷却構造の製造方法は、鋼板をプレス成形して、溝部、及び、前記溝部の周囲に設けられた堤部を有するプレス成形部材を得る工程と、平板である流路上蓋を、前記プレス成形部材の前記溝部を覆う位置に重ね、前記流路上蓋と前記プレス成形部材の前記堤部とをレーザ溶接して、冷却液が流通可能な流路を形成するレーザ溶接部を得る工程と、を備え、前記プレス成形部材及び前記流路上蓋は、母材鋼板と、前記母材鋼板の表面に設けられたZn系めっきと、前記Zn系めっきの表面に化成処理皮膜として設けられた無機皮膜又は樹脂皮膜と、を有するめっき鋼板であり、前記無機皮膜は、Si系成分又はZr系成分を50質量%以上の割合で含み、前記流路は、第1方向に沿って延びる複数の部分流路が前記第1方向と直交する第2方向に並ぶ並列流路部を有し、前記並列流路部の一部又は全部において、隣り合う前記部分流路同士の間隔が20mm以下であり、前記流路に面する前記レーザ溶接部の全長に対する、ブローホール及びピットが形成された領域の長さの割合が0.2以下である。
(17)上記(16)に記載の冷却構造の製造方法では、前記レーザ溶接の前に、前記レーザ溶接をする箇所、又は前記レーザ溶接をする前記箇所の近傍において、前記プレス成形部材及び前記流路上蓋の間に、厚さ0.03mm以上のスペーサーを配し、これにより前記レーザ溶接をする箇所、又は前記レーザ溶接をする箇所の近傍における前記プレス成形部材及び前記流路上蓋の間の隙間を0.03mm以上としてもよい。
(18)上記(17)に記載の冷却構造の製造方法では、前記スペーサーが、前記流路上蓋又は前記プレス成形部材を変形させて形成された突起であってもよい。
(19)上記(16)に記載の冷却構造の製造方法では、前記レーザ溶接の前に、前記レーザ溶接をする箇所、又は前記レーザ溶接をする前記箇所の近傍において、前記プレス成形部材及び前記流路上蓋をスポット溶接して、これにより前記レーザ溶接をする箇所、又は前記レーザ溶接をする箇所の近傍における前記プレス成形部材及び前記流路上蓋の間の隙間を0.03mm以上としてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高い冷却効率を有し、流路の液密性に優れ、さらに高い冷却液耐食性及び外面耐食性を有する冷却構造、バッテリーユニット、及び冷却構造の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】プレス成形部材の断面形状が矩形である冷却構造の、部分流路の延在方向に垂直な断面図である。
図2A】流路連通部と部分流路とが直交する冷却構造の、プレス成形部材の側から見た平面図である。
図2B】流路連通部が分岐構造を有する冷却構造の、プレス成形部材の側から見た平面図である。
図3】プレス成形部材の断面形状が波形である冷却構造の、部分流路の延在方向に垂直な断面図である。
図4】部分流路の間隔Dを説明するための、冷却構造の断面拡大図である。
図5A】ブローホールの概略図である。
図5B】ピットの概略図である。
図5C】気化したZn系めっきを、めっき鋼板の間の隙間を通して放出する様子の概略図である。
図5D】突起を用いてめっき鋼板の間に隙間を形成する方法を説明する概略図である。
図5E】スポット溶接部を用いてめっき鋼板の間に隙間を形成する方法を説明する概略図である。
図6A】レーザ溶接部の始端部及び終端部と流路との間にレーザ溶接部の中間部が配されている冷却構造の斜視図である。
図6B】レーザ溶接部の始端部及び終端部が除かれている冷却構造の斜視図である。
図7A】流路外縁溶接部からレーザ溶接部の始端部及び終端部が除かれている冷却構造の概略図である。
図7B】流路外縁溶接部からレーザ溶接部の始端部及び終端部が除かれている冷却構造の概略図である。
図8A】バッテリーユニットの斜視図である。
図8B】バッテリーパックを流路上蓋として用いたバッテリーユニットの断面図である。
図8C】バッテリーパックと流路上蓋とを接合したバッテリーユニットの断面図である。
図9A】流路上蓋と、突起を設けられたプレス成形部材とが重ねられた状態を示す斜視図である。
図9B】流路上蓋とプレス成形部材とがスポット溶接された状態を示す斜視図である。
図10】実施例1の冷却構造の斜視図である。
図11A】実施例2の冷却構造の、レーザ溶接前のプレス成形部材の斜視図である。
図11B】実施例2の冷却構造の、レーザ溶接前の流路上蓋の斜視図である。
図11C】実施例2の冷却構造の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0016】
(1.冷却構造)
まず、本発明の第一実施形態に係る冷却構造について説明する。本実施形態に係る冷却構造1は、図1及び図2Aに示されるように、プレス成形部材11と、流路上蓋12と、これらを接合するレーザ溶接部13とを有する。レーザ溶接部とは、線状のビード(即ち溶接金属)から構成される接合部のことである。図1は、この冷却構造1の断面図であり、図2Aは、この冷却構造1をプレス成形部材11側から平面視した図である。
【0017】
(1.1 冷却構造の概要)
プレス成形部材11は、めっき鋼板をプレス成形することによって得られた部材であり、溝部111、及び、溝部111の周囲に設けられた堤部112を有する。図1において、プレス成形部材11の底部及びその周辺が溝部111であり、プレス成形部材11の頂部及びその周辺が堤部112である。流路上蓋12は、平坦な冷却面を構成する部材であり、平板形状を有し、プレス成形部材11の溝部111を覆う位置に重ねられている。
【0018】
(1.2 プレス成形部材の形状)
プレス成形部材11と流路上蓋12は、レーザ溶接部13によって接合されている。具体的には、レーザ溶接部13は、流路上蓋12とプレス成形部材11の堤部112との互いに対向する面同士を接合する。これにより、流路上蓋12及び溝部111は、冷却液が流通可能な流路14を形成する。図2Aの破線で示されるように、流路14には、冷却液入口143から導入されたLLC等の任意の冷却液を、冷却液出口144へと流通させることができる。これにより、冷却面である流路上蓋12、及び流路上蓋12と接触する任意の物体を冷却することができる。なお、図2Aに示される流路は、第1方向に沿って延びる複数の部分流路1411が、第1方向と直交する第2方向に並ぶ並列流路部141と、これらの部分流路1411を連通する流路連通部142とを有する。第1方向とは、例えば、冷却構造1の長手方向又は短手方向である。流路14の具体的な構成については後述する。
【0019】
堤部112及び溝部111の形状は特に限定されない。図1に例示されるプレス成形部材11では、堤部112及び溝部111の断面が略矩形状(台形形状)とされている。一方、プレス成形部材11の堤部112及び溝部111の一方又は両方の断面形状が部分円形状、又は略円弧状であってもよい。図3に示されるように、堤部112及び溝部111の両方の断面形状が部分円形状又は略円弧状であるプレス成形部材11は、波板と称される。プレス成形部材11を波板とした場合、後述するブローホール及びピットの発生を一層抑制する効果が得られる。
【0020】
堤部112の断面形状が略円弧である場合、流路上蓋12と堤部112との接触部、即ちレーザ溶接部13における、堤部112の曲率半径が15mm以下、13mm以下、又は10mm以下であってもよい。レーザ溶接部13における堤部112の曲率半径が小さいほど、部分流路1411の幅Wを広くして、冷却構造1の冷却効率が一層高められる。
【0021】
なお、流路上蓋12と堤部112との接触部における堤部112の曲率半径は、部分流路1411の延在方向である第1方向と直交する第2方向に平行であり、且つ流路上蓋12の表面に垂直である、部分流路1411の断面において測定される。図3に示されるように、この断面において、堤部112の板厚方向中央における、溶接金属の中心と、前記溶接金属の中心から第2方向に沿って1mm離れた2点との合計3点を含む円Rの半径が、流路上蓋12と堤部112との接触部における堤部112の曲率半径である。
【0022】
(1.3 めっき鋼板の構成)
プレス成形部材11及び流路上蓋12は、母材鋼板と、母材鋼板の表面に設けられたZn系めっきとを有するめっき鋼板である。Zn系めっき鋼板の構成は特に限定されないが、好適な構成を例示すると以下の通りである。
【0023】
プレス成形部材11及び流路上蓋12を構成するめっき鋼板の板厚は、0.3mm以上としてもよい。板厚を0.3mm以上とすることにより、プレス成形性、及び冷却構造1の剛性を一層向上させることができる。プレス成形部材11、及び流路上蓋12を構成するめっき鋼板の板厚を0.4mm以上、0.6mm以上、又は0.8mm以上としてもよい。一方、プレス成形部材11、及び流路上蓋12を構成するめっき鋼板の板厚を、1.2mm以下としてもよい。プレス成形部材11の板厚を1.2mm以下とすることにより、プレス成形部材11を流路上蓋12に密着させることが一層容易になり、流路の液密性が一層向上する。また、流路上蓋12の板厚を1.2mm以下とすることにより、冷却構造1の冷却効率を一層向上させることができる。プレス成形部材11、及び流路上蓋12の板厚を1.1mm以下、1.0mm以下、又は0.8mm以下としてもよい。プレス成形部材11、及び流路上蓋12の板厚が異なっていてもよい。板厚が薄いほど冷却効率が高まるので、流路上蓋12は薄い方が好ましい。
【0024】
(1.4 めっき鋼板の母材鋼板の構成)
プレス成形部材11及び流路上蓋12を構成するめっき鋼板の母材鋼板は、特に限定されない。例えば冷却構造1の剛性を一層高めるために、流路上蓋12の母材鋼板を、引張強さ980MPa以上の高強度鋼板としてもよい。一方、プレス成形性を一層高めるために、プレス成形部材11の母材鋼板を引張強さ約270MPaの軟鋼板、例えばSPCCとしてもよい。冷却構造1の形状、及び用途に応じた種々の形態を、プレス成形部材11及び流路上蓋12を構成する母材鋼板に適用することができる。母材鋼板の例として、Ti、Nb、B等を添加したIF鋼、Al-k鋼、Cr添加鋼、ステンレス鋼、ハイテン、低炭素鋼、中炭素鋼、高炭素鋼、合金鋼等が挙げられる。
【0025】
(1.5 めっき鋼板のめっきの構成)
プレス成形部材11、及び流路上蓋12を構成するZn系めっき鋼板としては、例えば亜鉛めっき鋼板、亜鉛-ニッケルめっき鋼板、亜鉛-鉄めっき鋼板、亜鉛-クロムめっき鋼板、亜鉛-アルミニウムめっき鋼板、亜鉛-チタンめっき鋼板、亜鉛-マグネシウムめっき鋼板、亜鉛-マンガンめっき鋼板、亜鉛-アルミニウム(Al)-マグネシウム(Mg)めっき鋼板、亜鉛-アルミニウム-マグネシウム-シリコンめっき鋼板等が挙げられる。さらにはこれらのめっき層に少量の異種金属元素又は不純物として、コバルト、モリブデン、タングステン、ニッケル、チタン、クロム、アルミニウム、マンガン、鉄、マグネシウム、鉛、ビスマス、アンチモン、錫、銅、カドミウム、ヒ素等を含有したものや、シリカ、アルミナ、チタニア等の無機物を分散させたZn系めっき鋼板を用いることもできる。さらには上記のめっきを他の種類のめっきと組み合わせることもでき、例えば鉄めっき、鉄-リンめっき、ニッケルめっき、コバルトめっき等と組み合わせた複層めっきも適用可能である。めっき方法は特に限定されるものではなく、公知の電気めっき法、溶融めっき法、蒸着めっき法、分散めっき法、真空めっき法等のいずれの方法でもよい。Zn系めっきの膜厚は特に限定されないが、例えば4~25μmの範囲内としてもよい。Zn系めっきの膜厚を5μm以上、8μm以上、又は10μm以上としてもよい。Zn系めっきの膜厚を22μm以下、20μm以下、又は18μm以下としてもよい。
【0026】
さらに、Zn系めっき鋼板の表面には、化成処理皮膜として無機皮膜又は樹脂皮膜が形成されている。無機皮膜は、Si系成分及びZr系成分の一方又は両方を主成分(例えば質量%として50質量%以上)として含む。なお、Si系成分、及びZr系成分の両方が化成処理皮膜に含まれる場合は、これら成分の合計含有量が50質量%以上であればよい。また、無機皮膜は有機成分を含んでいてもよい。以下、化成処理皮膜の「主成分」とは、化成処理皮膜に占める割合が50質量%以上である成分を意味する。
【0027】
無機皮膜又は樹脂皮膜は、導電性を有することが好ましい。この場合、Zn系めっき鋼板の溶接性、あるいは電着塗装性を向上することができる。さらに、無機皮膜は、Si-O結合、Si-C結合、及びSi-OH結合のうち1種以上を含む化合物相で構成されていることが好ましい。また、化合物相中に後述するアクリル樹脂が含まれていることが好ましい。これらの要件が満たされる場合、化成処理皮膜の密着性を高めることができるので、Zn系めっき鋼板の加工部の外面耐食性及び冷却液耐食性を高めることができる。また、無機皮膜は、かつV成分、P成分、及びCo成分の少なくとも1種以上を防錆成分として含んでいることが好ましい。無機皮膜の防錆成分は、酸化バナジウム、リン酸、及び硝酸Coの何れか1種以上であることが好ましい。また、無機皮膜の厚みは0μm超1.5μm以下であることが好ましい。この場合、上述した化成処理皮膜の導電性あるいは密着性をさらに高めることができる。
【0028】
樹脂皮膜は、樹脂、防錆顔料、及び導電顔料を含むことが好ましい。さらに、樹脂皮膜は、金属粒子、金属間化合物粒子、導電性酸化物粒子、及び導電性非酸化物セラミクス粒子の何れか1種以上を前記導電顔料として含み、導電顔料は、25℃の粉体抵抗率が185×10-6Ωcm以下であり、かつZn、Si、Zr、V、Cr、Mo、Mn、Fe及びWからなる群から選択されるいずれか1種以上を構成元素として含むことが好ましい。さらに、樹脂皮膜は、導電顔料を1.0質量%以上30質量%以下の割合で含むことが好ましい。さらに、樹脂皮膜の平均厚みが1.0μm以上15μm以下であることが好ましい。さらに、導電顔料の平均粒径が樹脂皮膜の平均厚みの0.5倍以上1.5倍以下であることが好ましい。これらの要件のいずれか1つ以上が満たされる場合、Zn系めっき鋼板の外面耐食性及び冷却液耐食性をさらに高めることができる。
【0029】
化成処理皮膜の例は例えば特許第4776458号公報、特許第5336002号公報、特許第6191806号公報、特許第6263278号公報、国際公開第2020/202461号公報、特許第4084702号公報等に挙げられている。したがって、これらの公報に挙げられている化成処理皮膜を本実施形態の化成処理皮膜として好適に使用することができる。そこで、ここでは化成処理皮膜の概要を説明する。
【0030】
化成処理皮膜の第1の例は、無機皮膜の例であり、有機ケイ素化合物(シランカップリング剤)を主成分として含む化成処理皮膜である。有機ケイ素化合物は、分子中にアミノ基を1つ含有するシランカップリング剤(A)と、分子中にグリシジル基を1つ含有するシランカップリング剤(B)を固形分質量比〔(A)/(B)〕で0.5~1.7の割合で配合して得られる。有機ケイ素化合物は、分子内に式-SiR(式中、R、R及びRは互いに独立に、アルコキシ基又は水酸基を表し、少なくとも1つはアルコキシ基を表す)で表される官能基(a)を2個以上と、水酸基(官能基(a)に含まれ得るものとは別個のもの)及びアミノ基から選ばれる少なくとも1種の親水性官能基(b)を1個以上含有し、平均の分子量が1000~10000である。
【0031】
第1の例では、Zr系成分はジルコニウムフッ化水素酸として化成処理皮膜に含まれる。V成分はバナジウム化合物、P成分はリン酸、Co成分は硫酸コバルト、硝酸コバルト、及び炭酸コバルトからなる群から選択される少なくとも1種として化成処理皮膜に含まれる。バナジウム化合物としては、例えば五酸化バナジウムV、メタバナジン酸HVO、メタバナジン酸アンモニウム、メタバナジン酸ナトリウム、オキシ三塩化バナジウムVOCl、三酸化バナジウムV、二酸化バナジウムVO、酸化バナジウム、オキシ硫酸バナジウムVOSO、バナジウムオキシアセチルアセトネートVO(OC(=CH)CHCOCH))、バナジウムアセチルアセトネートV(OC(=CH)CHCOCH))、三塩化バナジウムVCl、リンバナドモリブデン酸などを例示することができる。また、5価のバナジウム化合物を水酸基、カルボニル基、カルボキシル基、1~3級アミノ基、アミド基、リン酸基及びホスホン酸基よりなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する有機化合物により、4価~2価に還元したものも使用可能である。
【0032】
化成処理皮膜の第2の例は、無機皮膜の例であり、有機ケイ素化合物(シランカップリング剤)を主成分として含む化成処理皮膜である。有機ケイ素化合物は、その構造中に環状シロキサン構造を有する。ここで「環状シロキサン結合」とは、Si-O-Si結合が連続する構成を有し、かつSiとOの結合のみで構成され、Si-O繰り返し数が3~8の環状構造を指す。
【0033】
当該有機ケイ素化合物は、分子中にアミノ基を少なくとも1つ含有するシランカップリング剤(A)と、分子中にグリシジル基を少なくとも1つ含有するシランカップリング剤(B)とを固形分質量比〔(A)/(B)〕で0.5~1.7の割合で配合して得られる。こうして得られる有機ケイ素化合物(W)は、分子内に式-SiR(式中、R、R及びRは互いに独立に、アルコキシ基又は水酸基を表し、R、R及びRの少なくとも1つはアルコキシ基を表す)で表される官能基(a)を2個以上と、水酸基(但し、官能基(a)が水酸基を含む場合は、その水酸基とは別個のもの)及びアミノ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の親水性官能基(b)を1個以上含有し、平均の分子量が1000~10000であることが好ましい。
【0034】
第2の例では、Zr系成分はジルコニウム化合物として化成処理皮膜に含まれる。ジルコニウム化合物としては、例えばジルコニウム弗化水素酸、ジルコニウムフッ化アンモニウム、硫酸ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウムなどを例示することができる。ジルコニウム化合物は、これらの中でも、ジルコニウム弗化水素酸であることがより好ましい。ジルコニウム弗化水素酸を用いる場合、より優れた耐食性や塗装性を得ることができる。
【0035】
V成分はバナジウム化合物、P成分はリン酸化合物、Co成分は硫酸コバルト、硝酸コバルト、及び炭酸コバルトからなる群から選択される少なくとも1種として化成処理皮膜に含まれる。バナジウム化合物としては、例えば五酸化バナジウムV、メタバナジン酸HVO、メタバナジン酸アンモニウム、メタバナジン酸ナトリウム、オキシ三塩化バナジウムVOCl、三酸化バナジウムV、二酸化バナジウムVO、酸化バナジウム、オキシ硫酸バナジウムVOSO、バナジウムオキシアセチルアセトネートVO(OC(=CH)CHCOCH、バナジウムアセチルアセトネートV(OC(=CH)CHCOCH、三塩化バナジウムVCl、リンバナドモリブデン酸などを例示することができる。また、水酸基、カルボニル基、カルボキシル基、1~3級アミノ基、アミド基、リン酸基及びホスホン酸基よりなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する有機化合物により、5価のバナジウム化合物を4価~2価に還元したものも使用可能である。
【0036】
リン酸化合物としては、例えばリン酸、リン酸アンモニウム塩、リン酸カリウム塩、リン酸ナトリウム塩などを例示することができる。リン酸化合物は、これらの中でも、リン酸であることがより好ましい。リン酸を用いる場合、より優れた耐食性を得ることができる。
【0037】
化成処理皮膜の第3の例は、無機皮膜の例であり、アクリル樹脂とジルコニウムとバナジウムとリンとコバルトとを含む。より具体的には、化成処理皮膜は、粒子状のアクリル樹脂(樹脂粒子)と、インヒビター相とを含む。アクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルの重合体を含む樹脂であることが好ましく、(メタ)アクリル酸アルキルエステルのみを重合した重合体であってもよいし、(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、その他のモノマーとを重合した共重合体であってもよい。「(メタ)アクリル」は「アクリル」又は「メタクリル」を意味する。インヒビター相は、ジルコニウムとバナジウムとリンとコバルトとを含む。ジルコニウムは、アクリル樹脂と架橋構造を形成している。
【0038】
化成処理皮膜の第4の例は、無機皮膜の例であり、炭酸ジルコニウム化合物と、アクリル樹脂と、バナジウム化合物と、リン化合物と、コバルト化合物とを含む。炭酸ジルコニウム化合物としては、例えば炭酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウムアンモニウム、炭酸ジルコニウムカリウム、炭酸ジルコニウムナトリウムなどが挙げられ、これらの1種以上を用いることができる。なかでも、耐食性が優れる点で炭酸ジルコニウム、及び炭酸ジルコニウムアンモニウムが好ましい。
【0039】
アクリル樹脂は、少なくともスチレン(b1)と、(メタ)アクリル酸(b2)と、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(b3)と、アクリロニトリル(d4)とを含むモノマー成分を共重合することから得られた樹脂であって、アクリロニトリル(b4)の量が、当該樹脂の全モノマー成分の固形分質量を基準として、20~38質量%であり、且つ、ガラス転移温度が-12~15℃の水溶性樹脂及び水系エマルション樹脂である。すなわち、アクリル樹脂は、化成処理皮膜中に樹脂粒子の態様で存在する。
【0040】
バナジウム化合物としては、例えば2~4価のバナジウム化合物、より具体的には、例えば五酸化バナジウム(V)、メタバナジン酸(HVO)、メタバナジン酸アンモニウム、メタバナジン酸ナトリウム、オキシ三塩化バナジウム(VOCl)等の5価のバナジウム化合物を還元剤で2~4価に還元したもの、三酸化バナジウム(V)、二酸化バナジウム(VO)、オキシ硫酸バナジウム(VOSO)、オキシ蓚酸バナジウム[VO(COO)]、バナジウムオキシアセチルアセトネート[VO(OC(CH)=CHCOCH))]、バナジウムアセチルアセトネート[V(OC(CH)=CHCOCH))]、三塩化バナジウム(VCl)、リンバナドモリブデン酸{H15-X[PV12-xMo40]・nHO(6<x<12,n<30)}、硫酸バナジウム(VSO・8HO)、ニ塩化バナジウム(VCl)、酸化バナジウム(VO)等の酸化数4~2価のバナジウム化合物等が挙げられる。
【0041】
リン化合物としては、例えばリンを含有する酸基を有する無機酸アニオン、リンを含有する酸基を有する有機酸アニオンが挙げられる。リンを含有する酸基を有する無機酸アニオンとしては、例えばオルトリン酸、メタリン酸、縮合リン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸、テトラリン酸、ヘキサメタリン酸等の無機酸の少なくとも1個の水素が遊離した無機酸アニオン及びそれらの塩類を挙げることができる。
【0042】
リンを含有する酸基を有する有機酸アニオンとしては、例えば、1-ヒドロキシメタン-1,1-ジホスホン酸、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸、1-ヒドロキシプロパン-1,1-ジホスホン酸、1-ヒドロキシエチレン-1,1-ジホスホン酸、2-ヒドロキシホスホノ酢酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミン-N,N,N’,N’-テトラ(メチレンホスホン酸)、ヘキサメチレンジアミン-N,N,N’,N’-テトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミン-N,N,N’,N’’,N’’-ペンタ(メチレンホスホン酸)、2-ホスホン酸ブタン-1,2,4-トリカルボン酸、イノシトールヘキサホスホン酸、フィチン酸等の有機ホスホン酸、有機リン酸等の少なくとも1個の水素が遊離した有機酸アニオン及びそれらの塩類を挙げることができる。
【0043】
コバルト化合物としては、例えば硫酸コバルト、硝酸コバルト及び炭酸コバルトなどが挙げられる。
【0044】
化成処理皮膜の第5の例は、樹脂皮膜の例であり、金属粒子、金属間化合物粒子、導電性酸化物粒子、導電性非酸化物セラミクス粒子の何れか1種以上を導電顔料として含む。導電顔料は、25℃の粉体抵抗率が185×10-6Ωcm以下であり、かつZn、Si、Zr、V、Cr、Mo、Mn、Fe及びWからなる群から選択されるいずれか1種以上を構成元素として含む。
【0045】
金属間化合物としては、例えばフェロシリコン、フェロマンガン等が挙げられる。導電性酸化物粒子としては、例えば、酸化物の結晶格子に不純物をドープすることで導電性を有する物質(ドープ型導電性酸化物)若しくは酸化物表面を導電性物質で修飾したタイプのものを使うことができる。前者としてはAl、Nb、Ga、Sn等から選択される1種以上の金属元素をドープした金属酸化物(例えば、Alドープ型酸化亜鉛、Nbドープ型酸化亜鉛、Gaドープ型酸化亜鉛、Snドープ型酸化亜鉛等)など一般に公知のものを使用することができる。後者としては、酸化物に導電性を有するSnOを修飾した酸化亜鉛やシリカなど一般に公知のものを使用することができる。導電性酸化物としてはドープ型導電性酸化物が好ましく、ドープ型導電性酸化物としては、Alドープ型酸化亜鉛が好ましい。
【0046】
導電性非酸化物セラミクス粒子は、酸素を含まない元素又は化合物からなるセラミクスで構成される。導電性非酸化物セラミクス粒子としては、例えば、ホウ化物セラミクス、炭化物セラミクス、窒化物セラミクス、及びケイ化物セラミクスが挙げられる。また、ホウ化物セラミクス、炭化物セラミクス、窒化物セラミクス、及びケイ化物セラミクスとは、それぞれ、ホウ素B、炭素C、窒素N、ケイ素Siを主要な非金属構成元素とする非酸化物セラミクスのことであり、これら一般に公知の非酸化物セラミックで、Zn、Si、Zr、V、Cr、Mo、Mn及びWからなる群から選択されるいずれか1種若しくは複数種を含むものを用いることができる。更に、非酸化物セラミクス粒子は、工業製品の有無、並びに、国内外市場での安定流通性、価格、及び電気抵抗率等の観点から、次に例示する非酸化物セラミクスがより好ましい。例えば、MoB、MoB、MoB、Mo、NbB、VB、VB、W、ZrB、MoC、VC、VC、WC、WC、ZrC、MoN、VN、ZrN、MoSi、MoSi、MoSi、NbSi、NiSi、TaSi、TaSi、TiSi、TiSi、VSi、VSi、WSi、WSi、ZrSi、ZrSi、CrB、CrB、Cr、CrN、CrSiの粒子、これらから選ばれる2種以上の混合物の粒子がより好ましい。
【0047】
化成処理皮膜の第6の例は、樹脂皮膜の例であり、ウレタン結合を有する樹脂と、導電性粒子(導電顔料)とを含む。ウレタン結合を有する樹脂は、(イ)官能基数が少なくとも3のポリエステルポリオール、(ロ)有機ポリイソシアネートのブロック化物又は有機ポリイソシアネートと活性水素化合物との反応により得られる末端にNCO基を有するプレポリマーのブロック化物、を含む成膜性樹脂原料から得られた有機樹脂である。
【0048】
(イ)の官能基数が少なくとも3のポリエステルポリオールは、ジカルボン酸、グリコール及び少なくとも3個のOH基を有するポリオールをエステル化する事により得ることができる。
【0049】
ポリエステルポリオールの製造に用いられるジカルボン酸としては、例えばコハク散、無水コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン2酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマール酸、イタコン酸、ダイマー酸、などの脂肪族系、例えばフタール酸、無水フタール酸、イソフタール酸、イソフタール酸ジメチルエステル、テレフタール酸、テレフタール酸ジメチルエステル、2,6-ナフタレンジカルボン酸、ヘキサヒドロ無水フタール酸、テトラヒドロ無水フタール酸、シクロヘキサンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルエステル、メチルヘキサヒドロ無水フタール酸、無水ハイミック酸、無水メチルハイミック酸などの芳香族及び脂環族系のものが挙げられる。
【0050】
グリコールとしては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、1,4-ブチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ヒドロキシジバリン酸のネオペンチルグリコールエステル、トリエチレングリコール、1,9-ノナンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、ポリカプロラクトンジオール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリカーボネートジオール、2-n-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオールなどの脂肪族系のもの、例えばシクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオール、2-メチル-1,1-シクロヘキサンジメタノール、キシリレングリコール、ビスヒドロキシエチルテレフタレート、1,4-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、水添ビスフェノールA、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加体、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加体などの脂肪族系あるいは芳香族系のものが挙げられる。
【0051】
少なくとも3個のOH基を有するポリオールとしては、例えばグリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、1,2,6-ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、ジグリセリン及びこれらのポリオールを開始剤としたエチレンオキサイド付加体、プロピオンオキサイド付加物あるいはε-カプロラクタン付加体などが挙げられる。
【0052】
(ロ)のブロック化物としては、例えば少なくとも2個のNCO基を有する化合物、例えば、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、1,2-プロピレンジイソシアネート、2,3-ブチレンジイソシアネート、1,3-ブチレンジイソシアネート、2,4,4-又は2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、2,6-ジイソシアナートメチルカプロエートなどの脂肪族ジイソシアネートや、例えば1,3-シクロペンタンジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、1,3-シクロヘキサンジイソシアネート、3-イソシアナートメチル-3,5,5-トリメチルヘキシルイソシアネート、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、メチル-2,4-シクロヘキサンジイソシアネート、メチル-2,6-シクロヘキサンジイソシアネート、1,2-ビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサン、1,3-ビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサン、トランス-シクロヘキサン-1,4-ジイソシアネートなどのシクロアルキレン系ジイソシアネートや、例えばm-キシレンジイソシアネート、m-フェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4-又は2,6-トリレンジイソシアネート、4,4’-トルイジンジイソシアネート、ジアニシジンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルエーテルジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネートや、例えばω,ω’-ジイソシアネート-1,3-ジメチルベンゼン、ω,ω’-ジイソシアネート-1,4-ジメチルベンゼン、ω,ω’-ジイソシアネート-1,4-ジエチルベンゼン、α,α,α’,α’-テトラメチルメタキシリレンジイソシアネートなどの芳香脂肪族ジイソシアネートや、例えばトリフェニルメタン-4,4’,4’’-トリイソシアネート、1,3,5-トリイソシアネートベンゼン、2,4,6-トリイソシアネートトルエン、ω-イソシアネートエチル-2,6-ジイソシアナートカプロエートなどのトリイソシアネートや、例えば4,4’-ジフェニルメチルメタン-2,2’,5,5’-テトライソシアネートなどのテトライソシアネートのブロック化物や、ダイマー、トリマー、ビュウレット、アロファネート、カルボジイミド、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(クルードMDI、c-MDI、ポリメリックMDI)、クルードTDI、などのイソシアネート化合物からの誘導体のブロック化物や、あるいはこれらと活性水素化合物との反応により得られる末端にNCO基を有するプレポリマーのブロック化物が挙げられる。
【0053】
導電性粒子は、50質量%以上のSiを含有する合金又は化合物、若しくはそれらの複合体である耐食性能を持つ粒子である。導電性粒子は、フェロシリコンであることが好ましい。また、化成処理皮膜には、防錆顔料を添加してもよい。防錆顔料としては、例えばストロンチウムクロメート、カルシウムクロメートのような6価クロム酸塩など、公知の防錆顔料が挙げられる。防錆剤として6価クロム化合物の使用を回避したい場合は、ケイ酸イオン、リン酸イオン、バナジン酸イオンのうち一種類以上を放出するものなどを用いることが出来る。
【0054】
本実施形態の化成処理皮膜の例は上記に限定されない。
【0055】
上述した化成処理皮膜の形成方法は特に制限されず、上記各組成に対応する化成処理液(皮膜処理液)を公知の方法でZn系めっき鋼板に塗布し、焼付け乾燥すればよい。なお、Zn系めっき鋼板と化成処理皮膜との好ましい組み合わせの一例として、Zn-Al-Mgめっき鋼板とSi系成分を主成分として含む無機皮膜との組み合わせが挙げられる。
【0056】
(1.7 流路の構成)
次に、本実施形態に係る冷却構造1の流路14の構成について説明する。
冷却構造1の冷却効率を高めるためには、冷却液と、流路上蓋12との間の接触面積を大きくすること、即ち、流路上蓋12における流路14に面している領域の面積を大きくすることが好ましい。このため、流路14は、第1方向に沿って延びる複数の部分流路1411が第1方向と直交する第2方向に並ぶ、並列流路部141を有する。第1方向とは、例えば、冷却構造1の長手方向又は短手方向である。部分流路1411を平行に複数配置した並列流路部141を設けることにより、冷却液と流路上蓋12との接触面積を増大させることができる。しかし、一層優れた冷却効率を確保するために、本発明者らはさらなる検討を重ねた。
【0057】
冷却液と流路上蓋12との接触面積を一層増大させるための手段として、部分流路1411の幅Wを広くすることが考えられた。しかしながら、部分流路1411の幅Wが広いほど、レーザ溶接部13に付加される応力が大きくなり、冷却構造1の寿命が低下するおそれがある。また、部分流路1411の幅Wが広すぎると、冷却液が部分流路1411の延在方向、即ち第1方向に沿って安定して流れなくなり、冷却ムラが生じるおそれがある。
【0058】
冷却液と流路上蓋12との接触面積を一層増大させるための別の手段は、部分流路1411の間隔Dを狭めることである。この手段によれば、レーザ溶接部13に付加される応力の増大、及び冷却ムラの発生を防ぎながら、冷却効率を高めることができる。以上の理由により、本実施形態に係る冷却構造1では、並列流路部141の一部または全部において、隣り合う部分流路1411同士の間隔Dを、20mm以下とする。部分流路1411の間隔Dを、18mm以下、16mm以下、又は15mm以下としてもよい。部分流路1411の間隔Dの下限値は特に限定されないが、接合不良を防止する観点から、間隔Dを0.8mm以上、1mm以上、3mm以上、5mm以上、又は8mm以上としてもよい。
【0059】
部分流路1411の間隔Dは、並列流路部141の全部において上述の範囲内とされていることが好ましい。しかしながら、例えば部分流路1411の間にねじ穴等の別の構成要素が配置されることにより、並列流路部141の一部において部分流路1411の間隔Dが20mm超であってもよい。換言すると、部分流路1411の間隔Dは、並列流路部141の一部において上述の範囲内とされていてもよい。
【0060】
部分流路1411の間隔Dを上述の範囲内とする限り、部分流路1411の幅Wは特に限定されない。流路形成部と流路上蓋12との接触面積を一層増大させる観点からは、部分流路1411の幅Wを6mm以上、8mm以上、又は10mm以上としてもよい。一方、プレス成形部材11と流路上蓋12との接合強度を一層高め、また、冷却の均一性を一層高める観点から、部分流路1411の幅Wを60mm以下、30mm以下、25mm以下、又は20mm以下としてもよい。部分流路1411の高さも特に限定されないが、冷却効率を一層向上させるために、例えば1mm以上としてもよい。一方、冷却構造1の軽量化のために、部分流路1411の高さを10mm以下としてもよい。上述された部分流路1411の形状を、流路連通部142を構成する部分流路に適用してもよい。
【0061】
なお、本実施形態に係る冷却構造1において、流路14、及びこれに含まれる部分流路1411とは、冷却液が容易に流通し、実質的な冷却効果を発揮する空間を意味する。このため、流路14及び部分流路1411は、図4に示されるように、流路上蓋12及びプレス成形部材11の間の空間であって、流路上蓋12に垂直な方向に沿った厚さが0.5mm以上の空間と定義される。部分流路1411の間隔Dとは、上述の定義による空間同士の間隔のことである。即ち、部分流路1411の間隔Dとは、レーザ溶接部13、流路上蓋12とプレス成形部材11とが接触している領域の幅、及び、流路上蓋12とプレス成形部材11との間の隙間が0.5mm未満の領域の幅の合計の長さのことである。また、図4では記載が省略されているが、部分流路1411の幅Wとは、上述の定義による空間の幅のことである。即ち、部分流路1411の幅Wとは、流路上蓋12に垂直な方向に沿った厚さが0.5mm以上の空間の幅のことである。また、部分流路1411の間隔D及び部分流路の幅Wは、部分流路1141の延在方向である第1方向に垂直な第2方向に沿って測定される値である。
【0062】
(1.8 レーザ溶接部の構成)
部分流路1411の間隔Dを上述の範囲内とするために、本実施形態に係る冷却構造1では、流路14を形成するための接合部をレーザ溶接部13とする。レーザ溶接は、ビード幅を細くすることができる。従って、部分流路1411の間隔Dを狭めるために有効な接合手段である。また、レーザ溶接は線状のビードを形成するので、スポット溶接のような点接合手段よりも、流路14の液密性を高めることができる。
【0063】
レーザ溶接部13には、図5Aに模式的に示されるブローホールB、及び図5Bに模式的に示されるピットPが形成される場合がある。ブローホールBとは、溶接金属中に生じる球状の空洞である。ピットPとは、溶接部の表面まで達し、開口した気孔のことである。ブローホールB及びピットPは、レーザ溶接中に気化したZn系めっきによって生じる。Zn系めっきの沸点は母材鋼板の融点よりも低いので、レーザ溶接によってZn系めっきはガス化する。ブローホール及びピットは、冷却構造1の耐食性の低下、及び液密性の低下をもたらす。
【0064】
以上の理由により、本実施形態に係る冷却構造1においては、流路14に面するレーザ溶接部13の全長に対する、ブローホールB及びピットPが形成された領域の長さの割合が、0.2以下とされる。ここで、流路14に面するレーザ溶接部13とは、全てのレーザ溶接部13のうち、他のレーザ溶接部によって流路14から離隔されていないものを示す。例えば図6Aにおいては、流路14を囲む4本のレーザ溶接部13が形成されている。このうち、流路14を囲む長方形を形成する領域が、「流路14に面するレーザ溶接部13」である。流路14に面するレーザ溶接部13は、流路14の内部を流通する冷却液に晒される。一方、長方形の外部に突出しているレーザ溶接部13は、他のレーザ溶接部13によって流路14から離隔されているので、「流路14に面するレーザ溶接部13」には該当しない。レーザ溶接部13のうち、「流路14に面するレーザ溶接部13」に該当しない領域は、冷却液に晒されない。
【0065】
流路14に面するレーザ溶接部13は、流路14の液密性及び冷却構造1の内面耐食性に強く影響する。そのため、流路14に面するレーザ溶接部13におけるブローホールB及びピットPの量は可能な限り小さくすることが好ましい。冷却構造1に求められる液密性及び冷却液耐食性を確保するためには、流路14に面するレーザ溶接部13の全長に対する、ブローホールB及びピットPが形成された領域の長さの割合が、0.2以下とされることが必要である。流路14に面するレーザ溶接部13の全長に対する、ブローホールB及びピットPが形成された領域の長さの割合は、好ましくは0.18以下、0.15以下、0.10以下、又は0.05以下である。一方、レーザ溶接部13のうち、流路14に面しない領域は、冷却液に晒されることがない。従って、流路14に面しないレーザ溶接部13において、ブローホールB及びピットPの量を限定する必要がない。
【0066】
流路14に面するレーザ溶接部13の全長に対する、ブローホールB及びピットPが形成された領域の長さの割合は、以下の手順で測定する。レーザ溶接部13をX線で透過して観察することによって、ブローホールBの存在、およびブローホールBの溶接線方向の長さを確認することができる。また、ピットPはレーザ溶接部13の表面に露出しているため、ピットPの溶接線方向の長さを目視で測定することができる。このようにして測定したブローホールBおよびピットPの溶接線方向の長さの和を流路14に面するレーザ溶接部13の全長で割ることにより、前記流路14に面するレーザ溶接部13の全長に対する、ブローホールB及びピットPが形成された領域の長さの割合を求めることができる。
【0067】
ブローホールB及びピットPを減少させるための手段は特に限定されない。好適な例を以下に説明する。
【0068】
ブローホールB及びピットPを減少させるために、レーザ溶接部13が有する溶接金属の周辺における、プレス成形部材11及び流路上蓋12の間の隙間を0.03mm以上、0.05mm以上、0.1mm以上、又は0.2mm以上としてもよい。これにより、図5Cに模式的に示されるように、レーザ溶接中に気化したZn系めっきが、溶接金属の中に入らず、溶接部の外部に放出される。そのため、めっき鋼板同士の合わせ面に設けられた隙間は、ブローホールB及びピットPを減少させることができる。レーザ溶接部13が有する溶接金属の周辺における、プレス成形部材11及び流路上蓋12の間の隙間の上限値は特に限定されないが、レーザ溶接を確実に実施するために、この隙間を0.5mm以下とすることが好ましい。また、レーザ溶接部13の溶接金属から離れた箇所、例えば溶接金属から5mm以上離れた箇所に設けられた隙間は、ブローホールB及びピットPの発生率に影響しない。そのため、溶接金属から5mm以上離れた箇所における隙間の大きさは特に限定されない。
【0069】
上述の隙間を設けるために、例えば、レーザ溶接部13が有する溶接金属の周辺において、プレス成形部材11及び流路上蓋12の間に、厚さ0.03mm以上のスペーサーを配してもよい。スペーサーの厚さは、設けるべき隙間の大きさに合わせて、適宜選択することができる。スペーサーの厚さを0.05mm以上、0.1mm以上、又は0.2mm以上としてもよい。スペーサーの厚さを0.5mm以下、又は0.3mm以下としてもよい。なお隙間が広すぎると溶け落ちが発生して水漏れの原因となるおそれがあるため、隙間の大きさは、プレス成形部材11及び流路上蓋12のうち薄い方の板厚t以下であることが好ましく、0.8t以下であることがより好ましい。スペーサーは、例えばプレス成形部材11及び流路上蓋12の間に挟み込まれた金属箔であってもよい。一方、図5Dに示されるように、流路上蓋12又はプレス成形部材11を変形させて、突起15を形成し、これをスペーサーとして用いてもよい。突起15をスペーサーとして用いる場合、突起15の高さをスペーサーの厚さとみなす。
【0070】
スペーサーを用いることに代えて、又はスペーサーを用いることに加えて、図5Eに示されるようにスポット溶接によって隙間を形成してもよい。めっき鋼板をスポット溶接すると、めっき鋼板の合わせ面に隙間が形成される場合がある。従って、レーザ溶接の前にプレス成形部材11及び流路上蓋12をスポット溶接することにより、プレス成形部材11及び流路上蓋12との間に隙間を設け、レーザ溶接の際にブローホールB及びピットPの発生を抑制することができる。施工性の観点からは、スペーサーよりも、スポット溶接によって隙間を形成することが一層好ましい。
【0071】
プレス成形部材11及び流路上蓋12を接合するスポット溶接部16は、レーザ溶接部13と重なる場所、又は、レーザ溶接部13の近傍に形成すればよい。一層好ましくは、レーザ溶接部13の近傍であって、且つ、流路14に面しない箇所に、スポット溶接部16を形成する。換言すると、スポット溶接部16と流路14との間にレーザ溶接部13が配されるように、スポット溶接部16を設けることが好ましい。なお、スポット溶接部16によって形成される隙間の大きさは、スポット溶接条件に応じて異なる。スポット溶接部16とレーザ溶接部13との間の距離は特に限定されないが、例えばスポット溶接部16からレーザ溶接部13への最短距離を1mmとし、適切な隙間を形成すればブローホールBおよびピットPを防止できる。スポット溶接部16とレーザ溶接部13との間の距離は、スポット溶接条件、めっき鋼板の厚さ、及びめっき鋼板の強度を考慮しながら、総合的に判断することが望ましい。
【0072】
レーザ溶接部13が有する溶接金属の周辺における、プレス成形部材11及び流路上蓋12の間の隙間の測定方法は、以下の通りである。レーザ溶接部13を、溶接線方向に直行する方向に切断して断面を観察し、プレス成形部材11及び流路上蓋12の間における溶接金属端部から0.1mm溶接部幅方向に離れた位置におけるプレス成形部材11及び流路上蓋12間の距離が、レーザ溶接部13が有する溶接金属の周辺におけるプレス成形部材11及び流路上蓋12の間の隙間の量である。
【0073】
ブローホールB及びピットPの発生を抑制するための好適な手段の例は以上の通りである。しかし、本実施形態に係る冷却構造1においては、その他の種々の手段を採用することができる。例えば、レーザ溶接される箇所のZn系めっきを、レーザ溶接によってめっき鋼板の母材鋼板を溶融凝固させる前に、予め除去してもよい。この場合、プレス成形部材11及び流路上蓋12の間に隙間を設けることなく、ブローホールB及びピットPの発生を抑制可能である。例えば、レーザ溶接前にZn系めっきの融点以上母材鋼板の融点以下の温度範囲まで、レーザを用いて溶接対象部を加熱してもよい。これにより、溶接対象部からZn系めっきを除去することができる。また、レーザ溶接の前に、研削などの手段を用いて、めっき鋼板の溶接対象部からZn系めっきを機械的に除去してもよい。
【0074】
ブローホールB及びピットPの発生量が上述の範囲内とされている限り、レーザ溶接部13の構成は特に限定されず、流路14の形状に応じた種々の構成を採用することができる。以下に、レーザ溶接部13の好ましい態様を述べる。
【0075】
例えば、レーザ照射側のビード幅、即ち流路上蓋12におけるレーザ溶接部13の表面のビード幅及びプレス成形部材11におけるレーザ溶接部13の表面のビード幅のうち太い方を、0.8~1.5mmとしてもよい。ビード幅を0.8mm以上とすることにより、流路14の液密性を一層高めることができる。一方、ビード幅を1.5mm以下とすることにより、ビード近傍におけるめっきの蒸発を防ぎ、冷却構造1の耐食性を一層高めることができる。
【0076】
レーザ溶接部13は例えば、図6Aに示すように、始端部131、終端部132、及びこれらの間の中間部133から構成される。レーザ溶接部13の始端部131とは、レーザ溶接を開始した箇所に該当する部位であり、レーザ溶接部13の終端部132とは、レーザ溶接を終了した箇所に該当する部位である。本実施形態では、始端部131及び終端部132を区別する必要はない。始端部131及び終端部132は、その幅などが中間部133とは明確に異なるので、始端部131及び終端部132と、中間部133とは明確に区別することができる。
【0077】
始端部131及び終端部132よりも中間部133の方が、溶接欠陥が少なく、従って耐食性及び液密性に一層優れる傾向にある。従って流路14は、レーザ溶接部13の中間部133を用いて構成されており、始端部131及び終端部132からは離隔されていることが好ましい。換言すると、図6Aに例示されるように、レーザ溶接部13の始端部131及び終端部132と、流路14との間に、レーザ溶接部13の中間部133が配されるようにレーザ溶接が行われることが好ましい。これにより、始端部131及び終端部132が、冷却液に晒されることを防止することができる。
また、図6Bに例示されるように、冷却構造1から、レーザ溶接部13の始端部131及び終端部132が除かれていることが一層好ましい。例えば、レーザ溶接される前の流路上蓋12又はプレス成形部材11にタブ板Tを設け、タブ板Tに始端部131及び終端部132が形成されるようにレーザ溶接を行い、その後タブ板Tを切断除去することにより、レーザ溶接部13の始端部131及び終端部132を含まない冷却構造1を得ることができる。
【0078】
冷却構造1のうち、液漏れが懸念される箇所においてのみ、始端部131及び終端部132を排除する構成を適用してもよい。例えば、図7A及び図7Bに示される冷却構造1においては、レーザ溶接部13のうち、プレス成形部材11及び流路上蓋12の外縁に沿って設けられた部分(符号13Aが付された濃色部)でプレス成形部材11から流路上蓋12が剥離すると、冷却液が冷却構造1の外部に漏出する。一方、図7A及び図7Bに示される冷却構造1において、流路14に囲まれた領域に設けられたレーザ溶接部13でプレス成形部材11から流路上蓋12が剥離したとしても、冷却水が冷却構造1の外部に漏出することはない。従って、レーザ溶接部13のうち、全ての流路14を包囲する部分(符号13Aが付された濃色部)を流路外縁溶接部13Aと定義した場合、流路外縁溶接部13Aから始端部131及び終端部132が除かれていることが好ましい。この場合、たとえ流路外縁溶接部13Aを除くレーザ溶接部13に始端部131及び終端部132が含まれていたとしても、冷却水が冷却構造1の外部に漏れる事態を十分に抑制することができる。
なお、図7Aに例示される冷却構造1は、図5Aと同様に、レーザ溶接部13の中間部133のみを用いて流路外縁溶接部13Aを製造することにより得られたものである。この場合、始端部及び終端部は流路外縁溶接部13Aからは排除されているが、冷却構造1には残される。一方、図7Bに例示される冷却構造1は、図5Bと同様に、レーザ溶接される前の流路上蓋12又はプレス成形部材11にタブ板Tを設け、タブ板Tに始端部131及び終端部132が形成されるようにレーザ溶接を行い、その後タブ板Tを切断除去することにより得られたものである。この場合、流路外縁溶接部13Aを形成する際に生じた始端部及び終端部は、冷却構造1に残らない。また、流路上蓋12及びプレス成形部材11に当たらない箇所からレーザの照射を開始した後、レーザ溶接を行い、走り抜けるように流路上蓋12及びプレス成形部材11に当たらない箇所までレーザを照射し、その後にレーザ照射を停止することでも、流路外縁溶接部13Aの形成における始端部及び終端部が冷却構造1に残らない。
【0079】
流路上蓋12における、レーザ溶接部13のビード高さが0.3mm以下であってもよい。レーザ溶接部13のビード高さを0.3mm以下とすることにより、流路上蓋12と冷却対象(例えばバッテリーパック又は電池セル)との間の隙間を小さくして、冷却効率を一層高めることができる。レーザ溶接部13のビード高さは、例えばレーザ溶接条件の制御を介して小さくしてもよい。また、レーザ溶接の終了後にビードを研削することによって、ビード高さを小さくしてもよい。
【0080】
(1.9 その他の構成)
図2Aに示されるように、複数の部分流路1411を連通する流路連通部142が、流路14にさらに設けられてもよい。また、流路に冷却液を導入するための冷却液入口143、及び冷却液出口144が、流路14にさらに設けられてもよい。流路14が流路連通部142を有する場合、流路14は1つの空間をなすこととなる。この場合、冷却構造1には、冷却液入口143及び冷却液出口144が1つずつ設けられれば良い。一方、流路連通部142が冷却構造1に設けられなくてもよい。この場合、複数の部分流路1411それぞれに、冷却液入口143及び冷却液出口144を設ければよい。複数の部分流路1411の一部のみが流路連通部142によって連通され、流路14が2以上の空間をなしてもよい。
【0081】
なお図2A等においては、2つの流路連通部142それぞれが一本の真っ直ぐな流路であり、流路連通部142が全ての部分流路1411に直交するように連通している。しかし、流路連通部142の形状、及び、流路連通部142と部分流路1411の配置はこれに限定されない。例えば、流路連通部142と部分流路1141とがなす角度は90°に限定されず、冷却構造1の用途に応じて適宜選択することができる。また、流路連通部142が分岐構造を有していてもよい。図2Bに示されるように、2つの流路連通部142それぞれが冷却液入口143又は冷却液出口144を起点に扇状に分岐し、その分岐先において各部分流路1411と種々の角度をもって連通していてもよい。なお、図2Bにおいて、レーザ溶接部13は省略されている。
【0082】
プレス成形部材11、及び冷却構造1の冷却面を構成する流路上蓋12の平面視形状は特に限定されない。例えば冷却構造1の用途がEVのバッテリーの冷却である場合、流路上蓋12の平面視形状は長方形であることが望ましい。この場合、流路上蓋12の平面視での大きさは、長手方向が1000~2300mmであり、短手方向が200mm~1500mmであることが好ましい。プレス成形部材11の平面視での大きさも、同様に長手方向が1000~2300mmであり、短手方向が200mm~1500mmであることが好ましい。プレス成形部材11、及び/又は流路上蓋12が大面積を有し、かつ、流路の間隔Dが狭い冷却構造1を製造する際には、堤部112と流路上蓋12との接合不良が問題となりやすいが、例えば後述する製造方法によれば、接合不良を容易に回避することができる。
流路上蓋12の平面視での長手方向の大きさを、1200mm以上、1400mm以上、又は1600mm以上としてもよい。流路上蓋12の平面視での長手方向の大きさを、2200mm以下、2000mm以下、又は1800mm以下としてもよい。流路上蓋12の平面視での短手方向の大きさを、250mm以上、500mm以上、又は700mm以上としてもよい。流路上蓋12の平面視での短手方向の大きさを、1400mm以下、1300mm以下、又は1200mm以下としてもよい。
プレス成形部材11の平面視での長手方向の大きさを、1200mm以上、1400mm以上、又は1600mm以上としてもよい。プレス成形部材11の平面視での長手方向の大きさを、2200mm以下、2000mm以下、又は1800mm以下としてもよい。プレス成形部材11の平面視での短手方向の大きさを、250mm以上、500mm以上、又は700mm以上としてもよい。プレス成形部材11の平面視での短手方向の大きさを、1400mm以下、1300mm以下、又は1200mm以下としてもよい。
【0083】
以上説明されたように、第1実施形態に係る冷却構造では、プレス成形部材11及び流路上蓋12をZn系めっき鋼板とすることにより、外面耐食性及び冷却液耐食性を確保することができる。これにより、水路腐食を抑制し、熱伝導率の低下及び目詰まりの原因となるコンタミの発生を抑制することができる。
また、第1実施形態に係る冷却構造では、プレス成形部材11及び流路上蓋12をレーザ溶接することにより、並列流路部141における部分流路1411同士の間隔Dを20mm以下として、冷却液と流路上蓋12とが接触する面積を大きくして、冷却効率を向上させることができる。
加えて、第1実施形態に係る冷却構造では、プレス成形部材11及び流路上蓋12をレーザ溶接し、さらに、ブローホール及びピットの発生を抑制することにより、流路14の液密性を高めることができる。
【0084】
(2.バッテリーユニット)
次に、本発明の第二実施形態に係るバッテリーユニットについて説明する。本実施形態に係るバッテリーユニット2は、図8A図8Cに示されるように、電池セル21と、電池セル21が収納されたバッテリーパック22と、第一実施形態に係る冷却構造1とを有する。
【0085】
冷却構造1をバッテリーユニット2に組み込むにあたっては、図8Bに示されるように、バッテリーパック22を冷却構造1の流路上蓋12として用いることができる。換言すると、プレス成形部材11の堤部112とバッテリーパック22とをレーザ溶接することができる。バッテリーパック22と冷却構造1とを一体化することにより、バッテリーユニット2は電池セル21を極めて効率的に冷却することができる。
【0086】
一方、バッテリーパック22と冷却構造1とが分離した構造を採用してもよい。例えば、流路上蓋12と、バッテリーパック22とを接合することにより、バッテリーユニット2を製造しても良い。この場合、図8Cに示されるように、流路上蓋12とバッテリーパック22との間にギャップフィラー23を配置しても良い。何らかの原因(寸法精度の誤差、バッテリーパック22に複雑な凹凸形状が形成されている等)によって、バッテリーパック22と冷却構造1の流路上蓋12とを隙間なく接合することが難しい場合がある。そのような場合に、ギャップフィラー23を用いることができる。ギャップフィラー23は、一般的に、樹脂に熱伝導性の高い顔料を含めたものである。ギャップフィラー23を異なる物質間に挿入することで、熱交換効率を向上させることができる。本実施形態では、ギャップフィラー23の熱伝導率が3.5W/m以上であることが好ましい。ギャップフィラー23の例として、信越シリコーン社製の「SDP-3540-A」が挙げられる。ギャップフィラーの厚さは0.1mm~8.0mmであることが好ましく、0.5mm~3.0mmであることがさらに好ましい。
【0087】
バッテリーパック22の構成は特に限定されない。例えばバッテリーパック22を略矩形状とし、その底面部に冷却構造1を配置するか、又はその底面部を冷却構造1の流路上蓋12としてもよい。また、耐食性を向上させる観点から、バッテリーパック22を構成する鋼板はZn系めっき鋼板又はAl系めっき鋼板であることが好ましい。ただし、図8Cに示されるような、バッテリーパック22と冷却構造1とが分離した構造が採用される場合、バッテリーパック22において冷却構造1が取り付けられる箇所、例えば底面部に冷却液耐食性を持たせることは必須ではない。
【0088】
バッテリーパック22の底面部を構成するZn系めっき鋼板の厚さは特に制限されないが、例えば、0.2~1.2mm又は0.3~1.2mmであることが好ましく、0.4~0.6mmであることがさらに好ましい。この場合、バッテリーパック22の底面部の強度を保ちつつ底面部を薄く形成することができる。したがって、冷却液とバッテリーパック22の内部構造との距離を狭めることができるので、バッテリーパック22の冷却効率を高めることができる他、バッテリーパック22の冷却応答性を高めることができる。
【0089】
(3.冷却構造の製造方法)
次に、本発明の第三実施形態に係る冷却構造の製造方法について説明する。第三実施形態に係る冷却構造の製造方法は、めっき鋼板をプレス成形してプレス成形部材11を得る工程S1と、プレス成形部材と流路上蓋とをレーザ溶接する工程S2と、を備える。これら工程の詳細について、以下に説明する。この製造方法によれば、第一実施形態に係る冷却構造を好適に製造することができる。ただし、以下の記載は、第一実施形態に係る冷却構造の製造方法を限定するものではない。
【0090】
(S1 プレス成形)
本実施形態にかかる冷却構造の製造方法では、まず、めっき鋼板をプレス成形する。これにより、溝部111、及び、溝部111の周囲に設けられた堤部112を有するプレス成形部材11を得る。プレス成形に供されるめっき鋼板は、Zn系めっきと、Zn系めっきの表面に化成処理皮膜として設けられた無機皮膜又は樹脂皮膜とを有する。無機皮膜は、Si系成分又はZr系成分を主成分として含む。めっき鋼板の好適な形態は、上述の通りである。また、最終的に得られる冷却構造1においては、流路14が、第1方向に沿って延びる複数の部分流路1411が第1方向と直交する第2方向に並ぶ並列流路部141を有するものとされ、並列流路部141において、隣り合う部分流路1411同士の間隔Dが20mm以下とされる。このような流路14の形状が達成されるように、プレス成形において溝部111を形成する必要がある。
【0091】
(S2 レーザ溶接)
次に、平板である流路上蓋12を、プレス成形部材11の溝部111を覆う位置に重ね、流路上蓋12とプレス成形部材11の堤部112とをレーザ溶接する。これにより、冷却液が流通可能な流路14を形成するレーザ溶接部13を得る。
【0092】
レーザ溶接条件は特に限定されず、めっき鋼板の板厚等に応じた好適な条件を適宜採用することができる。ただし、レーザ溶接によって得られたレーザ溶接部13においては、流路14に面するレーザ溶接部13の全長に対する、ブローホール及びピットが形成された領域の長さの割合を0.2以下とする必要がある。ブローホール及びピットの発生は、レーザ溶接条件の最適化によって抑制されてもよいし、レーザ溶接前に追加の工程を設けることによって抑制されてもよい。以下に、ブローホール及びピットの発生を抑制する手段の例について説明する。
【0093】
Zn系めっき鋼板のレーザ溶接の際には、気化したZn系めっきがブローホール及びピットを形成される。ブローホール及びピットの発生するための手段の一つは、めっき鋼板の間に隙間を設けて、気化したZnをこの隙間から溶接部の外部へ放出することである。
【0094】
隙間を形成するための手段の一例は、スペーサーである。例えば、レーザ溶接の前に、レーザ溶接をする箇所、又はレーザ溶接をする箇所の近傍において、プレス成形部材11及び流路上蓋12の間に、厚さ0.03mm以上のスペーサーを配してもよい。これにより、レーザ溶接をする箇所、又はレーザ溶接をする箇所の近傍におけるプレス成形部材11及び流路上蓋12の間の隙間を0.03mm以上とすることができる。スペーサーは、例えば金属箔である。
また、図9Aに示されるように、流路上蓋12又はプレス成形部材11を変形させて形成された突起15を、スペーサーとして用いてもよい。換言すると、冷却構造1の製造方法が、流路上蓋12又はプレス成形部材11を変形させて突起15を形成する工程をさらに備えてもよい。プレス成形部材に突起15を形成する場合、突起15は、めっき鋼板をプレス成形する工程において設けることができる。図9Aに示されるように、流路上蓋12と、突起15を設けたプレス成形部材11とを重ね合わせると、流路上蓋12及びプレス成形部材11の間に隙間ができる。この状態で、流路上蓋12及びプレス成形部材11をレーザ溶接することにより、ブローホール及びピットの発生を抑制することができる。
【0095】
隙間を形成するための手段の別の例は、図9Bに示されるスポット溶接である。めっき鋼板をスポット溶接すると、溶接部において隙間が発生する場合がある。この隙間を、レーザ溶接の際に気化したZn系めっきを放出するための手段として利用可能である。従って、例えば、レーザ溶接の前に、レーザ溶接をする箇所、又はレーザ溶接をする箇所の近傍において、プレス成形部材11及び流路上蓋12をスポット溶接してもよい。スポット溶接部16を用いて、レーザ溶接をする箇所、又はレーザ溶接をする箇所の近傍におけるプレス成形部材11及び流路上蓋12の間の隙間を0.03mm以上とすることができる。また、スポット溶接の前に、スポット溶接の対象となる箇所に金属箔を挿入しておくことにより、隙間の大きさを一層容易に調節することができる。
【0096】
また、レーザ溶接の前にZn系めっきを溶接対象部から除去することによっても、ブローホール及びピットの発生を抑制することができる。例えば、レーザ溶接される箇所のZn系めっきを、レーザ溶接によってめっき鋼板の母材鋼板を溶融凝固させる前に、予め除去してもよい。例えば、Zn系めっきの融点以上母材鋼板の融点以下の温度範囲まで、レーザを用いて溶接対象部を加熱してもよい。また、レーザ溶接の前に、研削などの手段を用いて、めっき鋼板の溶接対象部からZn系めっきを機械的に除去してもよい。
【実施例
【0097】
実施例により本発明の一態様の効果を更に具体的に説明する。ただし、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例に過ぎない。本発明は、この一条件例に限定されない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限り、種々の条件を採用し得る。
【0098】
(実施例1 流路間隔と、組立て可否および冷却構造の性能との関係)
Zn系めっき鋼板をプレス成形して、プレス成形部材を作成した。このプレス成形部材と、Zn系めっき鋼板の平板から構成される流路上蓋とをレーザ溶接して、冷却構造を製造した。平行に延在する複数の部分流路の流路幅、流路間隔を表1に示す。なお、表1に含まれない製造条件は以下の通りとした。部分流路を連通する流路連通部は作成しなかった。めっき鋼板の間の隙間は、めっき鋼板の間に治具を挟み込むことによって形成した。・めっき鋼板の種類:板厚0.5mmのZn系めっき軟鋼板
・レーザ溶接機:ファイバーレーザ溶接機
・レーザ溶接時の入熱条件:45000J/m
・実施例の冷却構造の形状:図10に記載
・部分流路長さ:200mm
・部分流路高さ:10mm
・めっき鋼板の間の隙間:0.1mm
【0099】
なお、図10は、製造した冷却構造の一部分の模式図である。便宜上、図10には部分流路を2本だけ記載しているが、実際には、幅120mmのバッテリーを覆うことができる数の部分流路を冷却構造に設けた。表1に示すいずれの例においても、レーザ溶接によって冷却構造を組み立てることができた。
【0100】
上述の通り作成された冷却構造の評価結果を、あわせて表1に示す。評価基準は以下に説明する通りとした。
部分流路の流路幅Wに関しては、20mm以下のものはランク「S」、20mm超30mm以下のものはランク「A」、30mm超のものはランク「B」と判定した。流路幅Wが小さいほど、冷却液の流れを安定化させて、冷却効率を一層向上させることができるからである。
「D/2」とは、複数の部分流路同士の間隔Dを2で割った値である。この値は、部分流路と部分流路とが直接接触していない箇所の流路幅方向に沿った最大距離であり、小さいほど好ましい。このD/2が大きすぎると、流路と接していない箇所の冷却が不十分となり、冷却構造として十分な機能を発揮できないおそれがある。D/2が7.5mm以下のものをランク「A」、7.5mm超10mm以下のものをランク「B」、10mm超のものをランク「C」と判定した。ランクA又はランクBと評価された試料は、流路間隔が十分に狭められたものと判定された。
【0101】
【表1】
【0102】
表1に示される全ての例は、レーザ溶接によって製造可能であった。従って、レーザ溶接であれば、作製した中で最も部分流路幅が狭い10mmの場合であっても、高い冷却能を発揮できる部分流路を製造可能であることが分かる。
【0103】
(実施例2 液密性評価)
板厚0.5mmのZn系めっき軟鋼板を用いて、流路を作製した。溶接前のプレス成形部材及び流路上蓋の形状は基本的に図11A及び図11Bの通りとし、流路の形状は図11Cに記載の通りとした。備考欄に「波板形状」と記載されている例に関しては、部分流路の断面形状が図3に示される波形となるようにしたが、それ以外は他の例と同様の形状を採用した。いずれの例においても、平面視での流路形状はU字形状であり、縦方向に延在する2本の流路が部分流路にあたる。流路間隔、及びめっき鋼板の間の隙間の大きさは、表2に記載した通りとした。隙間を設けるための手段は、表2の「備考」列に記載した。流路幅は、全ての例において20mmとした。
【0104】
そして、上述の手順で製造した冷却構造における、ブローホール・ピット率を測定した。レーザ溶接部をX線で透過して観察することによって、各ブローホールの溶接線方向の長さを測定した。また、目視で、ピットの溶接線方向の長さを測定した。測定したブローホールおよびピットの溶接線方向の長さの和を流路に面するレーザ溶接部の全長で割ることで、前記流路に面するレーザ溶接部の全長に対する、ブローホール及びピットが形成された領域の長さの割合(ブローホール・ピット率)を求めた。
【0105】
さらに、上述の手順で製造した冷却構造の液密性を評価した。冷却構造の流路の内部に、冷却液であるLLC(ロングライフクーラント液)を循環させた。流路の内部の圧力が1.5気圧となるように、LLC循環時の出力を調整した。この循環試験によって、溶接部からの水漏れの有無を確認した。その結果を表2に示す。
【0106】
【表2】
【0107】
鋼板間の隙間を設ける等、何らかの溶接不良対策がなされない状態で溶接した場合、多量のピット及びブローホールが発生し、水漏れした。
鋼板間の隙間を0.05mm及び0.1mmになるように治具を調整した場合、ブローホール及びピットの発生が大きく抑制され、水漏れが発生しなかった。流路の角部近傍を抵抗スポット溶接した場合のシートセパレーション、又は成形した突起によって、重ね合わせた際に鋼板間の隙間が0.1mmになるように調整した場合も、ブローホール及びピットの発生を防止でき、水漏れが発生しなかった。なお、表2には記載していないが、鋼板間の隙間が0.5mmとなる突起を有する冷却構造も作製した。この冷却構造においても、他の隙間を設けた流路と同様にブローホール及びピットが防止され、また溶け落ちも発生しなかったので、水漏れが発生しなかった。
図3のように、プレス成形部材を波板状にした場合、たとえめっき鋼板の間の隙間が0mmであっても、ブローホール及びピットの発生が抑制された。流路上蓋と堤部との接触部における堤部の曲率半径Rが12mmの場合、ブローホール及びピットの発生が防止され、水漏れも発生しなかった。半径Rが30mmの場合、ブローホール及びピットは少量発生したが、水漏れは発生しなかった。波板状のプレス成形部材を用いる場合は、流路間隔がビード幅と同値となり、流路間隔を狭め、冷却能が高い流路を製造可能となる。
【0108】
以上説明された通り、流路に面するレーザ溶接部の全長に対する、ブローホール及びピットが形成された領域の長さの割合が0.2以下である冷却構造は、流路の液密性に優れていた。また、全ての例において流路間隔が狭められていたので、これらを電池セル等の冷却に供した場合、高い冷却効率を発揮することができる。さらに、全ての例がZn系めっき鋼板から製造されていたので、これらは高い冷却液耐食性及び外面耐食性を有する。
【符号の説明】
【0109】
1 冷却構造
11 プレス成形部材
111 溝部
112 堤部
12 流路上蓋
13 レーザ溶接部
13A 流路外縁溶接部
131 始端部
132 終端部
133 中間部
14 流路
141 並列流路部
1411 部分流路
142 流路連通部
143 冷却液入口
144 冷却液出口
15 突起
16 スポット溶接部
2 バッテリーユニット
21 電池セル
22 バッテリーパック
23 ギャップフィラー
R 堤部の曲率半径を示す円
P ピット
B ブローホール
T タブ板
L レーザ
D 流路の間隔
W 流路の幅
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図8C
図9A
図9B
図10
図11A
図11B
図11C