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特許7568991フッ素樹脂シート、銅張積層体、回路用基板及びアンテナ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-08
(45)【発行日】2024-10-17
(54)【発明の名称】フッ素樹脂シート、銅張積層体、回路用基板及びアンテナ
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20241009BHJP
   B32B 15/082 20060101ALI20241009BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20241009BHJP
   C08L 27/18 20060101ALI20241009BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20241009BHJP
【FI】
C08J5/18 CEW
B32B15/082 B
C08K3/36
C08L27/18
H05K1/03 610H
H05K1/03 630H
【請求項の数】 23
(21)【出願番号】P 2024010739
(22)【出願日】2024-01-29
(65)【公開番号】P2024109088
(43)【公開日】2024-08-13
【審査請求日】2024-01-29
(31)【優先権主張番号】P 2023012649
(32)【優先日】2023-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023191408
(32)【優先日】2023-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001531
【氏名又は名称】弁理士法人タス・マイスター
(72)【発明者】
【氏名】上田 有希
(72)【発明者】
【氏名】奥野 晋吾
(72)【発明者】
【氏名】澤木 恭平
(72)【発明者】
【氏名】細川 萌
(72)【発明者】
【氏名】田中 義人
(72)【発明者】
【氏名】小松 信之
(72)【発明者】
【氏名】山内 昭佳
(72)【発明者】
【氏名】岸川 洋介
【審査官】川井 美佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-112028(JP,A)
【文献】国際公開第2020/145133(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/212285(WO,A1)
【文献】特開2022-140517(JP,A)
【文献】特開2021-061406(JP,A)
【文献】国際公開第2018/016644(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/017801(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C08J 5/00-5/02
C08J 5/12-5/22
C08J 7/00-7/02
C08J 7/12-7/18
C08K 3/36
C08L 27/18
H01B 5/14
H01Q 1/38
H05K 1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリテトラフルオロエチレンとシリカ粒子とを含むフッ素樹脂シートであって、
その片面又は両面において、X線光電子分光法(XPS)によって測定した際の酸素元素比率が3.0atomic%以上であり、線膨張率(CTE)が100ppm/℃以下であるフッ素樹脂シート。
【請求項2】
更に、前記同面において、X線光電子分光法(XPS)によって測定した際の窒素元素比率が1.35atomic%以上である請求項1記載のフッ素樹脂シート。
【請求項3】
更に、前記同面において、X線光電子分光法(XPS)によって測定した際の珪素元素比率が0.5atomic%以上である請求項1又は2記載のフッ素樹脂シート。
【請求項4】
更に、前記同面において、液滴量:2μL、着滴1秒後に測定した水の静的接触角が105°以下である請求項1又は2記載のフッ素樹脂シート。
【請求項5】
前記シリカ粒子が球状シリカである請求項1又は2記載のフッ素樹脂シート。
【請求項6】
前記シリカ粒子として、シランカップリング剤処理されたシリカ粒子を用いる請求項1又は2記載のフッ素樹脂シート。
【請求項7】
前記シリカ粒子の平均粒径が10μm以下である請求項1又は2記載のフッ素樹脂シート。
【請求項8】
ガラス繊維を含まない請求項1又は2記載のフッ素樹脂シート。
【請求項9】
前記シリカ粒子は、フッ素樹脂シート全量に対する含有量が30質量%以上である請求項1又は2記載のフッ素樹脂シート。
【請求項10】
前記シリカ粒子は、フッ素樹脂シート全量に対する含有量が50質量%以上である請求項1又は2記載のシート。
【請求項11】
前記シリカ粒子は、フッ素樹脂シート全量に対する含有量が50質量%以上65質量%以下である請求項1又は2記載のシート。
【請求項12】
10GHzでの誘電正接の値が0.0015以下である請求項1又は2記載のフッ素樹脂シート。
【請求項13】
厚みが5~250μmである請求項1又は2記載のフッ素樹脂シート。
【請求項14】
請求項1又は2に記載のフッ素樹脂シートの製造方法であって、フッ素樹脂粒子とシリカ粒子とを混合して成膜し、表面処理することを特徴とするフッ素樹脂シートの製造方法。
【請求項15】
実質的にフッ素樹脂粒子と、少なくともシリカ粒子を含むフィラー粒子とからなる組成物を用いて成膜し、表面処理することを特徴とする請求項14に記載のフッ素樹脂シートの製造方法。
【請求項16】
銅箔及び請求項1又は2記載のフッ素樹脂シートを必須の層とする銅張積層体。
【請求項17】
前記銅箔の表面粗さ(Rz)が2.0μm以下である請求項16記載の銅張積層体。
【請求項18】
前記銅箔の表面粗さ(Rq)が0.01~0.15μmである請求項16記載の銅張積層体。
【請求項19】
前記銅箔とフッ素樹脂シートとが直接積層されてなり、前記銅箔とフッ素樹脂シートとの界面のピール強度が0.5kN/m以上である請求項16記載の銅張積層体。
【請求項20】
請求項16に記載の銅張積層体の製造方法であって、請求項1に記載のフッ素樹脂シートと銅箔とを積層し、180~390℃で加熱し、圧力0.5~5MPaで、真空下または不活性ガス雰囲気下でプレス成形することを特徴とする銅張積層体の製造方法。
【請求項21】
請求項16記載の銅張積層体を有する回路用基板。
【請求項22】
請求項21に記載の回路用基板から形成されたアンテナ。
【請求項23】
モビリティ向けのミリ波アンテナである請求項22記載のアンテナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、フッ素樹脂シート、銅張積層体、回路用基板及びアンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
高周波用プリント配線板において、伝送損失が小さい高周波用プリント配線板が求められている。このような高周波用プリント配線板において、フッ素樹脂フィルムを使用することが公知である(特許文献1等)。
【0003】
このようなプリント配線基板において、フッ素樹脂フィルムに表面処理を施すことによって、銅箔との接着性を改善することが行われている。
特許文献2には、フッ素樹脂フィルムに対して、表面処理及びアニール処理を施すことで、銅箔との接着性を良好とすることが提案されている。
特許文献3には、フッ素樹脂基板の表面を親水化処理し、アミノ基と水酸基を有する親水化処理表面とすることで、金属箔との密着性を向上させることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-8260号公報
【文献】特開2022-112028号公報
【文献】特開2022-114351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、低い線膨張率(CTE)と、表面が平滑な銅箔への接着性の向上を両立させたフッ素樹脂シート及びこれを使用した銅張積層体を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、ポリテトラフルオロエチレンとシリカ粒子とを含むフッ素樹脂シートであって、その片面又は両面において、X線光電子分光法(XPS)によって測定した際の酸素元素比率が3.0atomic%以上であり、線膨張率(CTE)が100ppm/℃以下であるフッ素樹脂シートである。
【0007】
に、前記同面において、XPSによって測定した際の窒素元素比率が1.35atomic%以上であるフッ素樹脂シートであることが好ましい。
更に、前記同面において、XPSによって測定した際の珪素元素比率が0.5atomic%以上であるフッ素樹脂シートであることが好ましい。
【0008】
更に、前記同面において、液滴量:2μL、着滴1秒後に測定した水の静的接触角が105°以下であるフッ素樹脂シートであることが好ましい。
【0009】
前記シリカ粒子が球状シリカであることが好ましい。
前記シリカ粒子として、シランカップリング剤処理されたシリカ粒子を用いることが好ましい。
前記シリカ粒子の平均粒径が10μm以下であることが好ましい。
【0010】
本開示のフッ素樹脂シートは、ガラス繊維を含まないものであることが好ましい。
前記シリカ粒子は、フッ素樹脂シート全量に対する含有量が30質量%以上であることが好ましい。
前記シリカ粒子は、フッ素樹脂シート全量に対する含有量が50質量%以上であることが好ましい。
前記シリカ粒子は、フッ素樹脂シート全量に対する含有量が50質量%以上65質量%以下であることが好ましい。
【0011】
前記フッ素樹脂シートの、10GHzでの誘電正接の値が0.0015以下であることが好ましい。
前記フッ素樹脂シートの厚みが5~250μmであることが好ましい。
【0012】
本開示は、フッ素樹脂粒子とシリカ粒子とを混合して成膜し、表面処理することを特徴とする前記フッ素樹脂シートの製造方法でもある。
また、実質的にフッ素樹脂粒子と、少なくともシリカ粒子を含むフィラー粒子とからなる組成物を用いて成膜し、表面処理するフッ素樹脂シートの製造方法であることが好ましい。
【0013】
本開示は、銅箔及び前記フッ素樹脂シートを必須の層とする銅張積層体でもある。
前記銅箔の表面粗さ(Rz)が2.0μm以下であることが好ましい。
前記銅箔の表面粗さ(Rq)が0.01~0.15μmであることが好ましい。
前記銅箔とフッ素樹脂シートとが直接積層されてなり、前記表面粗さ(Rz)が2.0μm以下である銅箔と前記フッ素樹脂シートとの界面のピール強度が0.5kN/m以上であることが好ましい。
【0014】
本開示は、前記フッ素樹脂シートと銅箔とを積層し、180~390℃で加熱し、圧力0.5~5MPaで、真空下または不活性ガス雰囲気下でプレス成形することを特徴とする前記銅張積層体の製造方法でもある。
【0015】
本開示は、前記銅張積層体を有する回路用基板でもある。
本開示は、前記回路用基板から形成されたアンテナでもある。
前記アンテナは、モビリティ向けのミリ波アンテナであることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本開示のフッ素樹脂シートは、低い線膨張率(CTE)と、表面が平滑な銅箔への接着性の向上を両立するものである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本開示を詳細に説明する。
5G以上の高周波基板においては、フッ素樹脂シートと銅箔との界面が平滑であると伝送損失が少なく、高周波基板の特性がよくなる。そのため、フッ素樹脂シートと、表面が平滑な銅箔との良好な接着が求められる。
【0018】
しかしながら、フッ素樹脂単体からなるシートは、線膨張率が高く、基板の反りや回路の欠陥の原因になることがある。また、特に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂単体からなるシートおいては、表面処理を施しても、酸素等を含む官能基が形成されにくく、よって、表面が平滑な銅箔との接着性が充分得られず、更なる改良が求められている。このような問題が生じるのは、ポリテトラフルオロエチレン樹脂においては、表面に官能基が発生しにくいこと、また発生した官能基も分子運動しやすいため、表面から樹脂の内部に官能基が移動してしまい、表面に露出しにくいという作用によって表面処理の効果が得られにくいことによるものである。
【0019】
本開示は、フッ素樹脂とシリカ粒子とを含有するフッ素樹脂シートの表面にプラズマ処理等の表面処理を施し、フッ素樹脂シート表面の酸素元素比率を高くすることで、当該フッ素樹脂シートと、Rz2.0μm以下の表面平滑な銅箔との接着が良好となることを見出した。
【0020】
本開示は、シリカ粒子を含有させることによって、フッ素樹脂シートに表面処理を施した際に、シリカ表面にも表面処理由来の官能基を持たせることができることから、フッ素樹脂シート表面の酸素原子比率を高くすることができる。これにより、フッ素樹脂シートと銅箔との接着性が改善され、これらの接着面のピール強度をより良好とすることができる。更に、本開示は、フッ素樹脂とシリカ粒子との複合品を使用することで、フッ素樹脂シートの線膨張率をより低くすることができる。
このように、本開示のフッ素樹脂シートは、低い線膨張率と良好なピール強度とを両立させ得るものである。
【0021】
本開示は、フッ素樹脂とシリカ粒子とを含むフッ素樹脂シートであって、X線光電子分光法(XPS)によって測定した際の酸素元素比率が3.0atomic%以上であり、線膨張率(CTE)が100ppm/℃以下である。上記のように、フッ素樹脂とシリカ粒子とを含むフッ素樹脂シートとすることで、フッ素樹脂シート表面の酸素元素比率を高くすることができ、よって、表面が平滑な銅箔との良好な接着が可能である。また、線膨張率(CTE)が低く、基板の反りや回路の欠陥発生を充分に抑制することもできる。
【0022】
本開示のフッ素樹脂シートは、その片面又は両面において、X線光電子分光法(XPS)によって測定した際の酸素元素比率が3.0atomic%以上である。特に、銅箔と接着するシート表面において、X線光電子分光法(XPS)によって測定した際の酸素元素比率が3.0atomic%以上であればよい。上記酸素元素比率が3.0atomic%以上であることで、銅箔の表面と結合し、銅箔に対するピール強度が向上する。
上記酸素原子比率は、3.0atomic%以上であることが好ましく、5.0atomic%以上であることがより好ましく、10.0atomic%以上であることが更に好ましい。上限に関しては特に規定はしないが、生産性やその他の物性への影響を鑑みると、25.0atomic%以下であることが好ましい。
【0023】
上記X線光電子分光法(XPS)による測定は、具体的に、走査型X線光電子分光分析装置(XPS/ESCA)PHI5000VersaProbeII(アルバック・ファイ株式会社製)を用いて行う。
【0024】
本開示のフッ素樹脂シートは、上記X線光電子分光法(XPS)によって測定した際の酸素元素比率が3.0atomic%以上である面において、更に、X線光電子分光法(XPS)によって測定した際の、窒素元素比率が1.35atomic%以上であることが好ましい。上記窒素原子比率は、1.35atomic%以上であることがより好ましく、2.5atomic%以上であることが更に好ましく、3.0atomic%以上であることが最も好ましい。
このように接着に寄与する、フッ素樹脂シート表面の窒素元素比率を高めることで、誘電特性を損なわず、充分な銅箔とのピール強度を得ることができる。
上限に関しては特に規定はしないが、生産性やその他の物性への影響を鑑みると、25.0atomic%以下であることが好ましい。
【0025】
本開示のフッ素樹脂シートは、上記X線光電子分光法(XPS)によって測定した際の酸素元素比率が3.0atomic%以上である面において、更に、X線光電子分光法(XPS)によって測定した際の、珪素元素比率が0.5atomic%以上であることが好ましい。上記珪素原子比率は、1.0atomic%以上であることがより好ましく、1.5atomic%以上であることが更に好ましく、2.0atomic%以上であることが最も好ましい。
このように接着に寄与する、フッ素樹脂シート表面の珪素元素比率が高いことで、表面処理されうるシリカ粒子が露出しており、銅箔とのピール強度を高めることができる。
上限に関しては特に規定はしないが、生産性や強度などの他の物性への影響を鑑みると、10.0atomic%以下であることが好ましい。
【0026】
本開示のフッ素樹脂シートは、上記X線光電子分光法(XPS)によって測定した際の酸素元素比率が3.0atomic%以上である面において、液滴量:2μL、着滴1秒後に測定した水の静的接触角が105°以下であることが好ましく、103°以下であることがより好ましく、100°以下であることが更に好ましい。
このような範囲を満たすことで、フッ素樹脂シートに新たな官能基が生成しており、銅箔とのピール強度が高くなる。
【0027】
水の静的接触角は接触角計(協和界面科学社製、「DropMaster」)を用いて、23℃、液滴量:2μL、着滴1秒後の対水接触角を測定した。
【0028】
本開示のフッ素樹脂シートは、線膨張率(CTE)が、100ppm/℃以下である。上記範囲内であることで、低収縮で寸法安定性に優れたフッ素樹脂シートとなる点で好ましい。
上記上限は、70ppm/℃であることがより好ましく、50ppm/℃であることが更に好ましく、40ppm/℃であることがより更に好ましい。上記下限は、10ppm/℃であることが好ましく、18ppm/℃であることがより好ましい。
【0029】
本明細書における線膨張率は、TMA―7100(株式会社日立ハイテクサイエンス社製)を用いたTMA測定を引張モードで行い、サンプル片として、長さ20mm、幅5mm、厚み150μmに切出したフッ素樹脂シートを用いて、チャック間を10mmに設定し、49mNの荷重をかけながら、昇温速度2℃/分で0~150℃でのサンプルの変位量から求める。
【0030】
(フッ素樹脂)
フッ素樹脂は、低誘電性を有するものであることから、本開示において好適に使用することができる。
【0031】
本開示において使用することができるフッ素樹脂は特に限定されるものではないが、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン〔TFE〕/ヘキサフルオロプロピレン〔HFP〕共重合体〔FEP〕、TFE/アルキルビニルエーテル共重合体〔PFA〕、TFE/HFP/アルキルビニルエーテル共重合体〔EPA〕、TFE/クロロトリフルオロエチレン〔CTFE〕共重合体、TFE/エチレン共重合体〔ETFE〕、ポリフッ化ビニリデン〔PVdF〕、分子量30万以下のテトラフルオロエチレン〔LMW-PTFE〕等が挙げられる。これらのフッ素樹脂を一種類で使用してもよいし、二種類以上を混合しても良い。
中でも、低誘電性、低線膨張率という観点から、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)であることが特に好ましい。PTFEはフィブリル性を有するものが好ましい。フィブリル性を有するPTFEとは、未焼成のポリマー粉末をペースト押出できるPTFEを意味する。
【0032】
PTFEは、変性ポリテトラフルオロエチレン(以下、変性PTFEという)であってもよいし、ホモポリテトラフルオロエチレン(以下、ホモPTFEという)であってもよいし、変性PTFEとホモPTFEの混合物であってもよい。なお、高分子PTFEにおける変性PTFEの含有割合は、ポリテトラフルオロエチレンの成形性を良好に維持させる観点から、10質量%以上98質量%以下であることが好ましく、50質量%以上95質量%以下であることがより好ましい。
【0033】
ホモPTFEは、特に限定されず、特開昭53-60979号公報、特開昭57-135号公報、特開昭61-16907号公報、特開昭62-104816号公報、特開昭62-190206号公報、特開昭63-137906号公報、特開2000-143727号公報、特開2002-201217号公報、国際公開第2007/046345号パンフレット、国際公開第2007/119829号パンフレット、国際公開第2009/001894号パンフレット、国際公開第2010/113950号パンフレット、国際公開第2013/027850号パンフレット等で開示されているホモPTFEを好適に使用できる。中でも、高い延伸特性を有する特開昭57-135号公報、特開昭63-137906号公報、特開2000-143727号公報、特開2002-201217号公報、国際公開第2007/046345号パンフレット、国際公開第2007/119829号パンフレット、国際公開第2010/113950号パンフレット等で開示されているホモPTFEが好ましい。
【0034】
変性PTFEは、TFEと、TFE以外のモノマー(以下、変性モノマーという)とからなる。変性PTFEには、変性モノマーにより均一に変性されたもの、重合反応の初期に変性されたもの、重合反応の終期に変性されたものなどが挙げられるが、特にこれらに限定されない。変性PTFEは、TFE単独重合体の性質を大きく損なわない範囲内で、TFEとともに微量のTFE以外の単量体をも重合に供することにより得られるTFE共重合体であることが好ましい。
【0035】
変性PTFEは、例えば、特開昭60-42446号公報、特開昭61-16907号公報、特開昭62-104816号公報、特開昭62-190206号公報、特開昭64-1711号公報、特開平2-261810号公報、特開平11-240917、特開平11-240918、国際公開第2003/033555号パンフレット、国際公開第2005/061567号パンフレット、国際公開第2007/005361号パンフレット、国際公開第2011/055824号パンフレット、国際公開第2013/027850号パンフレット等で開示されているものを好適に使用できる。中でも、高い延伸特性を有する特開昭61-16907号公報、特開昭62-104816号公報、特開昭64-1711号公報、特開平11-240917、国際公開第2003/033555号パンフレット、国際公開第2005/061567号パンフレット、国際公開第2007/005361号パンフレット、国際公開第2011/055824号パンフレット等で開示されている変性PTFEが好ましい。
【0036】
変性PTFEは、TFEに基づくTFE単位と、変性モノマーに基づく変性モノマー単位とを含む。変性モノマー単位は、変性PTFEの分子構造の一部分であって変性モノマーに由来する部分である。変性PTFEは、変性モノマー単位が全単量体単位の0.001~0.500質量%含まれることが好ましく、好ましくは、0.01~0.30質慮%含まれる。全単量体単位は、変性PTFEの分子構造における全ての単量体に由来する部分である。
【0037】
変性モノマーは、TFEとの共重合が可能なものであれば特に限定されず、例えば、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)等のパーフルオロオレフィン;クロロトリフルオロエチレン(CTFE)等のクロロフルオロオレフィン;トリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン(VDF)等の水素含有フルオロオレフィン;パーフルオロビニルエーテル;パーフルオロアルキルエチレン(PFAE)、エチレン等が挙げられる。用いられる変性モノマーは1種であってもよいし、複数種であってもよい。
【0038】
パーフルオロビニルエーテルは、特に限定されず、例えば、下記一般式(1)で表されるパーフルオロ不飽和化合物等が挙げられる。
CF=CF-ORf・・・(1)
(式中、Rfは、パーフルオロ有機基を表す。)
【0039】
本明細書において、パーフルオロ有機基は、炭素原子に結合する水素原子が全てフッ素原子に置換されてなる有機基である。上記パーフルオロ有機基は、エーテル酸素を有していてもよい。
【0040】
パーフルオロビニルエーテルとしては、例えば、上記一般式(1)において、Rfが炭素数1~10のパーフルオロアルキル基であるパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)が挙げられる。パーフルオロアルキル基の炭素数は、好ましくは1~5である。
PAVEにおけるパーフルオロアルキル基としては、例えば、パーフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロペンチル基、パーフルオロヘキシル基等が挙げられる。PAVEとしては、パーフルオロプロピルビニルエーテル(PPVE)、パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)が好ましい。
【0041】
上記パーフルオロアルキルエチレン(PFAE)は、特に限定されず、例えば、パーフルオロブチルエチレン(PFBE)、パーフルオロヘキシルエチレン(PFHE)等が挙げられる。
【0042】
変性PTFEにおける変性モノマーとしては、HFP、CTFE、VDF、PAVE、PFAE及びエチレンからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0043】
上記フッ素樹脂は、非溶融加工性であることが好ましい。非溶融加工性であるとは、融点以上に加熱しても、樹脂が十分な流動性を有さず、樹脂において一般的に使用される溶融成形の手法によって成形することができないことを意味する。PTFEがこれに該当する。
【0044】
本開示においては、このような非溶融加工性であるフッ素樹脂の粒子を使用し、これをフィブリル化するような成形方法によって、フッ素樹脂シートとすることが好ましい。当該成形方法については、後述する。
【0045】
上記PTFEは、標準比重(SSG)が2.0~2.3であることが好ましい。このようなPTFEを使用すると、高い強度(凝集力及び単位厚さあたりの突き刺し強度)を有するPTFE膜を得やすい。大きい分子量を有するPTFEは長い分子鎖を有するため、分子鎖が規則的に配列した構造を形成しにくい。この場合、非晶質部の長さが増加し、分子同士の絡み合いの度合いが増加する。分子同士の絡み合いの度合いが高い場合、PTFE膜は、加えられた負荷に対して変形しにくく、優れた機械的強度を示すと考えられる。また、大きい分子量を有するPTFEを使用すると、小さい平均孔径を有するPTFE膜を得やすい。
【0046】
上記SSGの下限は、2.05であることがより好ましく、2.1であることが更に好ましい。上記SSGの上限は、2.25であることがより好ましく、2.2であることが更に好ましい。
【0047】
標準比重〔SSG〕はASTM D-4895-89に準拠して試料を作製し、得られた試料の比重を水置換法によって測定したものである。
【0048】
本実施形態において、PTFE粒子を構成するPTFEの分子量(数平均分子量)は、例えば、200~1200万の範囲にある。PTFEの分子量の下限値は、300万であってもよく、400万であってもよい。PTFEの分子量の上限値は、1000万であってもよい。
【0049】
PTFEの数平均分子量の測定方法としては、標準比重(Standard Specific Gravity)から求める方法、及び、溶融時の動的粘弾性による測定法がある。標準比重から求める方法は、ASTM D-4895 98に準拠して成形されたサンプルを用い、ASTM D-792に準拠した水置換法によって実施することができる。動的粘弾性による測定法は、例えば、S.Wuによって、Polymer Engineering & Science, 1988, Vol.28, 538、及び、同文献1989, Vol.29, 273に説明されている。
【0050】
上記PTFEは、屈折率が1.2~1.6の範囲内のものであることが好ましい。このような屈折率を有するものとすることで、低誘電であるという点で好ましい。屈折率を上記範囲内のものとすることは、分極率や主鎖の柔軟性を調整する方法等によって行うことができる。上記屈折率の下限は、1.25であることがより好ましく、1.30であることがより好ましく、1.32であることが最も好ましい。上記屈折率の上限は、1.55であることがより好ましく、1.50であることがより好ましく、1.45であることが最も好ましい。
【0051】
上記屈折率は、屈折計(Abbemat 300)を用いて測定した値である。
【0052】
また、上記PTFEは、最大吸熱ピーク温度(結晶融点)は340±7℃であることが好ましい。
【0053】
PTFEは、示差走査熱量計で測定した結晶融解曲線上の吸熱カーブの最大ピーク温度が338℃以下の低融点PTFEと、示差走査熱量計で測定した結晶融解曲線上の吸熱カーブの最大ピーク温度が342℃以上の高融点PTFEであっても良い。
【0054】
低融点PTFE粉末は、乳化重合法で重合し製造された粉末粒子であり、前記の最大吸熱ピーク温度(結晶融点)を有し、誘電率(ε)は2.08~2.2、誘電正接(tan δ)は1.9×10-4~4.0×10-4である。市販品としては、たとえばダイキン工業(株)製のポリフロンファインパウダーF201、同F203、同F205、同F301、同F302;旭硝子工業(株)製のCD090、CD076;デュポン社製のTF6C、TF62、TF40などがあげられる。
【0055】
高融点PTFE粉末も、乳化重合法で重合し製造された粉末粒子であり、前記の最大吸熱ピーク温度(結晶融点)を有し、誘電率(ε)は2.0~2.1、誘電正接(tanδ)は1.6×10-4~2.2×10-4と全体的に低い。市販品としては、たとえばダイキン工業(株)製のポリフロンファインパウダーF104、F106;旭硝子工業(株)製のCD1、CD141、CD123;デュポン社製のTF6、TF65などが挙げられる。
【0056】
なお、両PTFE重合粒子が2次凝集した粉末の平均粒径は通常、250~2000μmであるのが好ましい。特に、溶媒を用いて造粒して得られる造粒粉末は予備成形の際の金型充填時の流動性が向上する点から好ましい。
【0057】
上述したような各パラメータを満たす粉末形状のPTFE粒子は、従来の製造方法により得ることができる。例えば、国際公開第2015-080291号や国際公開第2012-086710号等に記載された製造方法に倣って製造すればよい。
【0058】
(シリカ粒子)
本開示のフッ素樹脂シートは、シリカ粒子を含有することが必須である。
上記シリカ粒子は、その形状を特に限定されるものではないが、球状であることが特に好ましい。球状であると、穴あけ加工時に均一に加工しやすい、比表面積が少なく伝送損失が低いという点で好ましいものである。本開示においては、球状シリカを使用することが最も好ましい。
【0059】
上記球状シリカは、その粒子形状が真球に近いものを意味しており、具体的には、球形度が0.80以上であることが好ましく、0.85以上であることがより好ましく、0.90以上がさらに好ましく、0.95以上が最も好ましい。球形度はSEMで写真を撮り、その観察される粒子の面積と周囲長から、(球形度)={4π×(面積)÷(周囲長)2}で算出される値として算出する。1に近づくほど真球に近い。具体的には画像処理装置(スペクトリス株式会社:FPIA-3000)を用いて100個の粒子について測定した平均値を採用する。
【0060】
本開示で使用する球状シリカは、粒径が小さい方から体積を積算したときにD90/D10が2以上(望ましくは2.3以上、2.5以上)、D50が10μm以下であることが好ましい。更に、D90/D50が1.5以上であることが好ましい(更に望ましくは1.6以上)。D50/D10が1.5以上であることが好ましい(更に望ましくは1.6以上)。更に、D50が5μm以下であることがより好ましい。粒径が大きな球状シリカの間隙に粒径が小さな球状シリカが入ることが可能になるため、充填性に優れ、且つ、流動性を高くすることができる。特に粒度分布としてはガウス曲線と比較して粒径が小さい側の頻度が大きいことが好ましい。粒径はレーザー回折散乱方式粒度分布測定装置により測定可能である。また、粗粒がシートの薄膜化を困難にするため、所定以上の粒径をもつ粗粒をフィルタなどで除去したものであることが好ましい。
【0061】
上記球状シリカは、吸水性が1.0%以下であることが好ましく、0.5%以下であることが更に好ましい。吸水性は乾燥時のシリカ粒子の質量を基準とする。吸水性の測定は乾燥状態にある試料を40℃、80%RHに1時間放置し、カールフィッシャー水分測定装置で200℃加熱により生成する水分を測定し、算出する。
【0062】
また、上記球状シリカの各パラメータは、フッ素樹脂シートを600℃で30分間、大気雰囲気下で加熱することでフッ素樹脂を焼き飛ばし、球状シリカ粒子を取り出したのち、上述の方法を用いて測定することもできる。
【0063】
上記シリカ粒子は、表面処理が施されたものであることが好ましい。表面処理を予め施すことで、シリカ粒子間に相互作用をもたらすことができ、フッ素樹脂シートの線膨張率を低下させることができる。
【0064】
上記表面処理としては特に限定されるものではなく、公知の任意のものを使用することができる。具体的には例えば、反応性官能基を有するエポキシシラン、アミノシラン、イソシアネートシラン、ビニルシラン、アクリルシラン、疎水性のアルキルシラン、フェニルシラン、フッ素化アルキルシランなどのシランカップリング剤による処理、プラズマ処理、フッ素化処理等を挙げることができる。中でも、シランカップリング剤による処理を行うことが好ましい。
【0065】
本開示においては、シランカップリング剤処理されたシリカ粒子を用いることが好ましい。シリカ粒子をシランカップリング剤処理することにより、線膨張率を低くすることができ、銅箔との接着性をより良好とするという点で有利である。また、シランカップリング剤処理を施すことにより、シリカ粒子表面に存在する極性官能基が反応し、極性官能基の量が低減するため電気特性に優れるものとなる。さらに、シランカップリング剤に含まれる官能基が銅箔表面と反応することにより、銅箔とのピール強度がより高くなる。
【0066】
上記シランカップリング剤として、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン、3-イソシアネートプロピルトリメトキシシラン等のイソシアネートシラン、ビニルトリメトキシシラン等のビニルシラン、アクリロキシトリメトキシシラン等のアクリルシラン等が例示される。
【0067】
シリカ粒子の平均粒径は、10μm以下であることが好ましい。シリカ粒子の平均粒径が10μm以下であると、シートの表面粗度が低くなるため好ましい。
シリカ粒子の平均粒径の上限は、8μm以下であることがより好ましく、5μm以下であることが更に好ましい。
また、シリカ粒子の平均粒径の下限は、特に限定されないが、0.5μm以上であることが好ましい。平均粒径が0.5μm未満であると、フィラーの凝集が生じることで、充分な効果が得られない傾向にある。
なお、ここでの平均粒径は、レーザー解析式粒度分布計によって測定したD50の値である。
【0068】
上記シリカ粒子は、市販のシリカ粒子で上述した性質を満たすものを使用するものであってもよい。市販のシリカ粒子としては、例えば、デンカ溶融シリカ FBグレード(デンカ株式会社製)、デンカ溶融シリカ SFPグレード(デンカ株式会社製)、エクセリカ(株式会社トクヤマ製)、高純度合成球状シリカ粒子 アドマファイン(株式会社アドマテックス製)、アドマナノ(株式会社アドマテックス製)、アドマフューズ(株式会社アドマテックス製)等を挙げることができる。
【0069】
上記シリカ粒子は、フッ素樹脂シート全量に対する含有量が30質量%以上であることが好ましい。このような配合量とすることで、低誘電率、低損失を維持しながら、線膨張率を低くできるという点で好ましい。また、フッ素樹脂としてPTFEを用いた場合、PTFEは、プラズマ処理しても酸素や窒素の官能基が形成されにくいが、シリカ粒子が存在することで、シリカ表面にも表面処理由来の官能基を持たせることができる。その結果、フッ素樹脂シート表面の酸素原子比率を高くすることができ、フッ素樹脂シートと銅箔との接着性が良好となり、接着面のピール強度をより良好とすることができる。
上記配合量は、35質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることが更に好ましく、55質量%以上であることがより更に好ましい。シリカ粒子の配合量の上限は特に限定されるものではないが、70質量%以下であることが好ましく、68質量%以下であることがより好ましく、65質量%以下であることが更に好ましい。
【0070】
(シート)
本開示のフッ素樹脂シートは、10GHzにおける誘電正接が0.0015以下であることが好ましい。誘電正接を当該範囲内のものとすることで、回路中の電気信号の損失を低く抑えることができる点で好ましい。上記誘電正接は、0.0012以下であることがより好ましく、0.0011以下であることが更に好ましい。一方、上記誘電正接の下限は、0.00001であることが好ましい。
【0071】
本開示のフッ素樹脂シートは、10GHzでの比誘電率が3.5以下であることが好ましい。このような範囲内のものとすることで、誘電損失が低いという点で好ましい。
上記比誘電率の上限は、3.2であることがより好ましく、3.1であることが更に好ましい。一方、上記比誘電率の下限は、2.0であることが好ましく、2.5であることがより好ましい。
【0072】
本明細書における10GHzでの比誘電率(Dk)及び誘電正接(Df)は、スプリットシリンダ式誘電率・誘電正接測定装置(EM lab社製)を用いて、25℃、10GHzのDk及びDfを測定することにより求めた。
【0073】
本開示のフッ素樹脂シートは、厚みが5~250μmであることが好ましい。厚みの下限は、15μm以上であることがより好ましく、30μm以上であることが更に好ましい。厚みの上限は、230μm以下であることがより好ましく、200μm以下であることが更に好ましい。当該厚みは、積層体の電気特性と線膨張率等のバランスを考慮して選択することができる。
【0074】
本開示のフッ素樹脂シートは、フッ素樹脂及びシリカ粒子以外の成分を含有するものであってもよい。含有する成分としては特に限定されず、フッ素を含まない熱硬化性樹脂・熱可塑性樹脂等を挙げることができる。
なお、本開示のフッ素樹脂シートは、ガラス繊維を含まないことが好ましい。ガラス繊維又はガラス繊維からなるクロスを含まないことで、フッ素樹脂シートの薄膜化が可能であり、また、より柔軟になり、屈曲させて使用する用途で使いやすいという有利な点がある。
【0075】
本開示においては、本開示の目的を阻害しない範囲で、シリカ粒子以外のフィラーを使用してもよい。使用するフィラーとしては特に限定されず、ポリフェニルエステル、ポリフェニレンサルファイド、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレン、ポリアミド、全芳香族ポリエステル樹脂から選ばれる一種以上である有機充填材、セラミックス、タルク、マイカ、酸化アルミ、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化チタン、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、チタン酸カリウム、弗化カルシウム、窒化ホウ素、硫酸バリウム、二硫化モリブデン及び炭酸カリウムウイスカから選ばれる一種以上である無機充填材などを挙げることができる。これらの2種以上を併用するものであってもよい。
【0076】
(フッ素樹脂シートの製造方法)
本開示のフッ素樹脂シートは、例えば、上述したフッ素樹脂粒子とシリカ粒子とを混合して成膜し、表面処理することによって得ることができる。上記成膜する方法は限定するものではないが、ペースト押出成形、粉体圧延成形等によって行うことができる。
【0077】
上述したように、本開示のフッ素樹脂シートに使用するフッ素樹脂粒子としては、非溶融加工性であるフッ素樹脂粒子を使用することが好ましい。このようなフッ素樹脂粒子を使用する場合、これをシート状に成形するには、原料としての粉末状のPTFEをフィブリル化することで成形することが好ましい。
【0078】
上記粉末状のPTFEは、一次粒子径が0.05~10μmのものを使用することが好ましい。このようなものを使用することで、成形性、分散性に優れるという利点がある。なお、ここでの一次粒子径は、ASTM D 4895に準拠し測定した値である。
【0079】
上記粉末状のPTFEは、二次粒子径が500μm以上のポリテトラフルオロエチレン樹脂を50質量%以上含むことが好ましく、80質量%以上含むことがより好ましい。二次粒子径が500μm以上のPTFEが当該範囲内のものであることによって、強度の高いフッ素樹脂シートを作製できるという点で利点を有する。
二次粒子径が500μm以上のPTFEを用いることで、より抵抗が低く、靭性に富んだシートを得ることができる。
【0080】
上記二次粒子径の下限は、300μmであることがより好ましく、350μmであることが更に好ましい。上記二次粒子径の上限は、700μm以下であることがより好ましく、600μm以下であることが更に好ましい。二次粒子径は、例えば、ふるい分け法などで求めることができる。
【0081】
上記粉末状のPTFEは、より高強度でかつ均質性に優れるシートが得られることから、平均一次粒子径が50nm以上であることが好ましい。より好ましくは100nm以上であり、更に好ましくは150nm以上であり、特に好ましくは200nm以上である。
PTFEの平均一次粒子径が大きいほど、その粉末を用いてペースト押出成形をする際に、ペースト押出圧力の上昇を抑えられ、成形性に優れる。上限は特に限定されないが、500nmであってよい。重合工程における生産性の観点からは、350nmであることが好ましい。
【0082】
上記平均一次粒子径は、重合により得られたPTFEの水性分散液を用い、ポリマー濃度を0.22質量%に調整した水性分散液の単位長さに対する550nmの投射光の透過率と、透過型電子顕微鏡写真における定方向径を測定して決定された平均一次粒子径との検量線を作成し、測定対象である水性分散液について、上記透過率を測定し、上記検量線をもとに決定できる。
【0083】
本開示に使用するPTFE粒子は、コアシェル構造を有していてもよい。コアシェル構造を有するPTFE粒子としては、例えば、粒子中に高分子量のポリテトラフルオロエチレンのコアと、より低分子量のポリテトラフルオロエチレンまたは変性のポリテトラフルオロエチレンのシェルとを含む変性ポリテトラフルオロエチレンが挙げられる。このような変性ポリテトラフルオロエチレンとしては、例えば、特表2005-527652号公報に記載されるポリテトラフルオロエチレンが挙げられる。
【0084】
上記ペースト押出成形、粉体圧延成形の具体的な方法は特に限定されるものではないが、以下に一般的な方法を記載する。
【0085】
(ペースト押出成形)
上記フッ素樹脂シートの製造方法は、炭化水素系界面活性剤を使用して得られた粉末状のフッ素樹脂粒子、シリカ粒子及び押出助剤を混合する工程(1a)、得られた混合物をペースト押出成形する工程(1b)、押出成形で得られた押出物を圧延する工程(1c)、圧延後のシートを乾燥する工程(1d)、乾燥後のシートを焼成して成形体を得る工程(1e)を含むものであってよい。
上記ペースト押出成形は、上記フッ素樹脂粒子及びシリカ粒子に、顔料や充填剤等の従来公知の添加剤を加えて行うこともできる。
【0086】
上記押出助剤としては特に限定されず、一般に公知のものを使用できる。例えば、炭化水素油等が挙げられる。
【0087】
(粉体圧延成形)
上記フッ素樹脂シートは、粉体圧延成形によって成形することもできる。粉体圧延成形は、粉末状のフッ素樹脂粒子に剪断力を付与することで、フィブリル化させ、これによってシート状に成形する方法である。その後、焼成して成形体を得る工程を含むものであってよい。
より具体的には、
フッ素樹脂粒子及びフィラー粒子を含む原料組成物を混合しながら、剪断力を付与する工程(1)
前記工程(1)によって得られた混合物をバルク状に成形する工程(2)及び
前記工程(2)によって得られたバルク状の混合物をシート状に圧延する工程(3)
を有する製造方法等によって得ることができる。
更に、上記で得られたシート状物を、200~400℃で、1~60分間焼成する工程(4)を有するようにしてもよい。
また、工程(2)は省略しても構わない。
【0088】
上記粉体圧延成形方法により、フッ素樹脂シートを製造する場合、液状成分は含まず、実質的にフッ素樹脂粒子と、少なくともシリカ粒子を含むフィラー粒子とからなる組成物を用いて成膜することが好ましい。なお、「実質的にフッ素樹脂粒子と、少なくともシリカ粒子を含むフィラー粒子とからなる」とは、フッ素樹脂粒子及び上記フィラー粒子以外の成分の含有量が、組成物全量に対して3質量%以下であることを意味する。
フィラー粒子は、少なくともシリカ粒子を含むものであり、その他のフィラー粒子としては、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化チタン、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム等が好ましい。また、シリカ粒子以外のフィラー粒子は、用いなくてもよく、1種類用いるようにしてもよく、また、2種類以上を混合して用いても構わない。シリカ粒子以外のフィラー粒子は、フィラー粒子中、0.1~80質量%であることが好ましい。
特に、フッ素樹脂粒子とシリカ粒子のみを混合して成形することが好ましい。
【0089】
上記フッ素樹脂シートの製造方法により得られた、表面処理前のフッ素樹脂シートは、少なくとも表面処理する面において、X線光電子分光法(XPS)によって測定した際の酸素元素比率が1.5atomic%以上であることが好ましい。表面処理前のフッ素樹脂シート表面に酸素元素が存在することにより、表面が平滑な銅箔との良好な接着が可能である。また、表面処理後のフッ素樹脂シートのX線光電子分光法(XPS)によって測定した際の酸素元素比率を上記特定の範囲とするためにも、このような範囲であることが好ましい。
上記酸素原子比率は、1.65atomic%以上であることが好ましく、1.7atomic%以上であることがより好ましく、1.8atomic%以上であることが更に好ましい。上限に関しては特に規定はしないが、生産性やその他の物性への影響を鑑みると、4.9atomic%以下であることが好ましい。
表面処理前のフッ素樹脂シートの酸素元素比率を上記範囲とする方法は、特に限定されるものでなく、例えば、シリカ粒子の配合量の調整や成形方法の調整等により制御すればよい。
【0090】
表面処理前のフッ素樹脂シートは、少なくとも表面処理する面において、X線光電子分光法(XPS)によって測定した際の珪素元素比率が0.2atomic%以上であることが好ましい。表面処理前のフッ素樹脂シート表面に珪素元素が存在することにより、表面が平滑な銅箔との良好な接着が可能である。表面処理後のフッ素樹脂シートのX線光電子分光法(XPS)によって測定した際の珪素元素比率を好ましくは0.5atomic%以上とするためにも、このような範囲であることが好ましい。
上記珪素元素比率は、0.3atomic%以上であることが好ましく、0.5atomic%以上であることがより好ましく、0.7atomic%以上であることが更に好ましい。上限に関しては特に規定はしないが、生産性やその他の物性への影響を鑑みると、2.0atomic%以下であることが好ましい。
表面処理前のフッ素樹脂シートの珪素元素比率を上記範囲とするためには、シリカ粒子の配合量を調整する等により行えばよい。
【0091】
(表面処理)
上記のような方法で得られたフッ素樹脂シートに対して、適切な条件で片面もしくは両面への表面処理を行うことによって、上記要件を満たすフッ素樹脂シートとすることができる。
フッ素樹脂は、一般的に銅箔との接着性を得ることが困難な素材である。このため、本開示においては、ラミネート特性を向上させるために、フッ素樹脂シートの表面処理を行う。このような表面処理は、主に、樹脂表面の酸素原子量を増加させるような方法が一般的に知られている。
【0092】
上記表面処理の具体的な方法は特に限定されるものではなく、公知の任意の方法によって行うことができる。
フッ素樹脂シートの表面処理は、従来行なわれている、プラズマ放電処理、コロナ放電処理やグロー放電処理、スパッタリング処理などによる放電処理が採用できる。中でも、プラズマ処理が好適である。
【0093】
プラズマ処理は、フッ素樹脂シートにプラズマを接触させることにより、フッ素樹脂シートの外表面のフッ素樹脂をエッチングし、フッ素樹脂シートの外表面に酸素原子や窒素原子等を付加する処理である。
例えば、放電雰囲気中に酸素ガス、窒素ガス、水素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガスなどを導入することで表面自由エネルギーをコントロールできる。
【0094】
また、有機化合物を含む不活性ガスである有機化合物含有不活性ガスの雰囲気に改質すべき表面を曝し、電極間に高周波電圧をかけることにより放電を起こさせ、これにより表面に活性種を生成し、ついで有機化合物の官能基を導入もしくは重合性有機化合物をグラフト重合することによって表面処理を行うようにしてもよい。
【0095】
前記有機化合物含有不活性ガス中の有機化合物としては酸素原子を含有する重合性又は非重合性有機化合物が挙げられ、例えば、酢酸ビニル、ギ酸ビニルなどのビニルエステル類;グリシジルメタクリレートなどのアクリル酸エステル類;ビニルエチルエーテル、ビニルメチルエーテル、グリシジルメチルエーテルなどのエーテル類;酢酸、ギ酸などのカルボン酸類;メチルアルコール、エチルアルコール、フェノール、エチレングリコールなどのアルコール類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;酢酸エチル、ギ酸エチルなどのカルボン酸エステル類;アクリル酸、メタクリル酸などのアクリル酸類などが挙げられる。これらのうち改質された表面が失活しにくい、すなわち、寿命が長い点、安全性の面で取扱いが容易な点から、ビニルエステル類、アクリル酸エステル類、ケトン類が好ましく、特に酢酸ビニル、グリシジルメタクリレートが好ましい。
【0096】
前記有機化合物含有不活性ガス中の有機化合物の濃度は、その種類、表面処理されるフッ素樹脂の種類などによって異なるが、通常0.1~3.0容量%、好ましくは0.1~1.0容量%、より好ましくは0.15~1.0容量%、更に好ましくは0.30~1.0容量%である。放電条件は目的とする表面処理の度合い、フッ素樹脂の種類、有機化合物の種類や濃度などによって適宜選定すればよい。通常、放電量が50W・min/m以上1500W・min/m以下、好ましくは70W・min/m以上1400W・min/m以下の範囲で放電処理する。処理温度は0℃以上100℃以下の範囲の任意の温度で行なうことができる。フッ素樹脂シートの伸びや皺などの懸念から80℃以下であることが好ましい。
【0097】
上記のようにして表面処理された、本開示のフッ素樹脂シートは、回路用基板のシートとして、その他の基材と積層して使用することができる。
上述したフッ素樹脂シートの片面又は両面に銅箔を接着させた積層体としてもよい。
本開示は、銅箔及び上述したフッ素樹脂シートを必須の層とする銅張積層体でもある。上述したように、本開示のフッ素樹脂及びシリカ粒子を含むフッ素樹脂シートは、接着性に優れたものである。よって、本開示のフッ素樹脂シートの表面処理面と銅箔とが直接積層した積層体が好ましい。
【0098】
上記銅箔は、表面粗さ(Rz)が2.0μm以下であることが好ましい。表面粗さ(Rz)が2.0μm以下であると、銅箔とフッ素樹脂シートとの界面は平滑となり、金属界面導電率が高くなり、伝送損失は少なく好ましい。銅箔は、少なくとも上述したフッ素樹脂シートと接着する面がRz2.0μm以下であればよく、他方の面は、Rzを特に限定するものではない。
本開示のフッ素樹脂シートは、Rz2.0μm以下、更にRz1.0μm以下、より更にRz0.5μm以下という平滑性の高い銅箔への接着性に優れたものである。
【0099】
上記Rzは、もっとも高い部分(最大山高さ:Rp)ともっとも深い部分(最大谷深さ:Rv)の和の値である。上記RzはJIS-B0601に規定される十点平均粗さである。本明細書において、上記Rzは、測定長を4mmとして、表面粗さ計(商品名:サーフコム470A、東京精機社製)を用いて測定した値である。
【0100】
上記銅箔は、表面粗さ(Rq)が0.01~0.15μmであることが好ましい。
Rqが、上記範囲内であると、金属界面導電率を高くでき、伝送損失を良好に減少させることができるため好ましい。
銅箔は、少なくとも上述したフッ素樹脂シートと接着する面が、Rq0.01~0.15μmであればよく、他方の面は、Rqを特に限定するものではない。フッ素樹脂シートと接着する面のRqは0.015~0.1μmであることがより好ましく、0.03~0.08μmであることが更に好ましい。
上記Rqは、二乗平均平方根高さである。本明細書において、上記Rqは、測定長を4mmとして、触針式表面粗さ測定機(商品名:SE600A、小坂研究所社製)を用いて測定した値である。
【0101】
上記銅箔の厚みは特に限定されないが、1~100μmであることが好ましく、5~50μmであることがより好ましく、9~35μmであることがさらに好ましい。
【0102】
上記銅箔は特に限定されるものではなく、具体的には、例えば、圧延銅箔、電解銅箔等が挙げられる。
【0103】
Rz2.0μm以下及び/又はRqが0.01~0.15μmの銅箔としては特に限定されず、市販のものを使用することができる。このような市販の銅箔としては、例えば、電解銅箔CF-T9DA-SV-18(厚み18μm/Rz0.85μm/Rq0.05μm)(福田金属箔粉工業株式会社製)等を挙げることができる。
【0104】
上記銅箔は、本開示のフッ素樹脂シートとのピール強度を高めるために、表面処理を施したものであってもよい。
【0105】
上記表面処理は特に限定されないが、シランカップリング処理、プラズマ処理、コロナ処理、UV処理、電子線処理などであり、シランカップリング剤の反応性官能基としては、特に限定されないが、本開示のフッ素樹脂シート等の樹脂基材に対する接着性の観点から、アミノ基、(メタ)アクリル基、メルカプト基、及びエポキシ基から選択される少なくとも1種を末端に有することが好ましい。また、加水分解性基としては、特に限定されないが、メトキシ基、エトキシ基などのアルコキシ基などが挙げられる。本開示で使用する銅箔は、防錆層(クロメート等の酸化物皮膜等)、耐熱層等が形成されたものであってもよい。
【0106】
上記シラン化合物による表面処理層を銅箔表面上に有する表面処理銅箔は、シラン化合物を含む溶液を調製した後、この溶液を用いて銅箔を表面処理することによって製造することができる。
【0107】
上記銅箔は、表面に、樹脂基材との接着性を高めるなどの観点から、粗化処理層を有するものであってもよい。
なお、粗化処理が本開示において要求される性能を低下させるおそれがある場合は、必要に応じて銅箔表面に電着させる粗化粒子を少なくしたり、粗化処理を行わない態様としたりすることもできる。
【0108】
銅箔と表面処理層との間には、各種特性を向上させる観点から、耐熱処理層、防錆処理層及びクロメート処理層からなる群から選択される1種以上の層を設けてもよい。これらの層は、単層であっても、複数層であってもよい。
【0109】
本開示の銅張積層体は、フッ素樹脂シートの表面処理面と、銅箔とが直接積層されてなる場合、前記銅箔とフッ素樹脂シートとの界面のピール強度が0.5kN/m以上であることが好ましい。
本開示のフッ素樹脂シートを使用することで、上記のようなピール強度を実現することができる。
ピール強度を0.5kN/m以上とすることで、銅張積層板や回路用基板として好適に使用することができる。ピール強度は、0.7kN/m以上であることが更に好ましい。
ピール強度の上限は、特に限定するものではないが、3.0kN/m以下であってよい。
なお、ここでのピール強度は、実施例に記載した条件で測定したピール強度を意味するものである。
【0110】
また、片面のみに表面処理を行ったフッ素樹脂シートの表面処理面へ銅箔を接着させた積層体の場合、積層体と他材との接着性を向上させるために、表面処理がされていないフッ素樹脂シート面に別途表面処理を行ってもよい。
【0111】
本開示の銅張積層体は、更に、銅箔およびフッ素樹脂シート以外の層を有するものであってもよい。
当該銅箔およびフッ素樹脂シート以外の層は、ポリイミド、モディファイドポリイミド、液晶ポリマー、ポリフェニレンスルファイド、シクロオレフィンポリマー、ポリスチレン、エポキシ樹脂、ビスマレイミド、ポリフェニレンオキサイド、変性ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンエーテル、及び、ポリブタジエンからなる群から選択される少なくとも1種の樹脂からなる層であることが好ましい。
【0112】
銅箔およびフッ素樹脂シート以外の層である、上記樹脂からなる層は、強化繊維を含んでいても良い。強化繊維としては特に限定されないが、例えばガラスクロス、とくに低誘電タイプのものが好ましい。
【0113】
これらの銅箔およびフッ素樹脂シート以外の層は、上述した樹脂からなるものであれば特に限定されない。また、当該銅箔およびフッ素樹脂シート以外の層は、厚みが、12.5~260μmのものであることが好ましい。
【0114】
本開示の銅張積層体において、銅箔層を形成するのはロール状シートの片面でも両面でも構わない。銅箔層を形成する方法としては、ロール状シートの表面に銅箔を積層(粘着)する方法、蒸着法、めっき法などが挙げられる。
上記銅箔を積層する方法としては、熱プレスによる方法等が挙げられる。熱プレス温度はシートの融点-150℃~シートの融点+40℃が挙げられる。熱プレスの時間は例えば1~30分である。
【0115】
例えば、フッ素樹脂シートと銅箔とを積層し、180~390℃で加熱し、圧力0.5~5MPaで、真空下または不活性ガス雰囲気下でプレス成形することにより、銅張積層体を製造する方法が好適である。
このような条件下でプレス成形することで、フッ素樹脂シートの劣化がなく、銅箔との接着も可能である。
【0116】
上述した積層体の構成を得るに際して、本開示のフッ素樹脂シートは、片面又は両面に銅箔を接着させて使用することとなる。上述したように、本開示のフッ素樹脂シートは、接着性に優れたものである。したがって、Rz2.0μm以下という平滑性の高い銅箔への接着性も優れたものである。
【0117】
回路用基板に使用される銅箔は、フッ素樹脂シートとの接着性を確保するために従来は表面に一定の凹凸を付与されている。しかし、高周波用途において銅箔の表面に凹凸が存在すると電気信号のロスの原因となるため、好ましいものではない。上記の積層体は、平滑性の高い銅箔に対しても好適な接着性を得ることができるものであり、回路用基板として好適に使用することができる積層体となる。
【0118】
本開示の銅張積層体は、その用途は特に限定されず、回路用基板として使用される。本開示は、上記銅張積層体を有する回路用基板でもある。
【0119】
本開示の銅張積層体は回路用基板として使用されるものでもあるため、金属界面導電率は高い方が好ましい。好ましくは、1.00(1e7 S/m)以上、より好ましくは、3.00(1e7 S/m)以上、更に好ましくは、5.00(1e7 S/m)以上である。上限は特に限定されないが、6.00(1e7 S/m)以下であることが好ましい。
【0120】
本開示の銅張積層体は回路用基板として使用されるものでもあるため、伝送損失は0に近い方が好ましい。周波数67GHzの伝送損失が、好ましくは、-4.20dB/100mm以上、より好ましくは、-4.00dB/100mm以上、更に好ましくは、-3.30dB/100mm以上である。
【0121】
回路用基板とは半導体やコンデンサチップなどの電子部品を電気的に接続すると同時に、限られた空間内に配置し固定するための板状部品である。本開示の誘導体又は銅張積層体から形成される回路用基板の構成は特に制限はない。回路用基板は、リジッド基板、フレキシブル基板、リジッドフレキシブル基板のいずれであってもよい。回路用基板は、片面、基板、両面基板、多層基板(ブルドアップ基板等)のいずれであってもよい。特に、フレキシブル基板、リジット基板用に好適に使用することができる。本開示のシートが、ガラス繊維又はガラス繊維からなるクロス等を含まない場合には、フレキシブル基板用に好適である。
特に10GHz以上の高周波用プリント基板として好適に使用することができる。
【0122】
本開示において高周波回路とは、単に高周波信号のみを伝送する回路からなるものだけでなく、高周波信号を低周波信号に変換して、生成された低周波信号を外部へ出力する伝送路や、高周波対応部品の駆動のために供給される電源を供給するための伝送路等、高周波信号ではない信号を伝送する伝送路も同一平面上に併設された回路も含まれる。また、アンテナ、フィルタなどの回路基板としても利用できる。
本開示は、上記回路基板から形成されたアンテナでもある。特に、自動車、航空機等のモビリティ向けのミリ波アンテナとすることが好適である。
【0123】
回路用基板としては特に限定されず、上述した銅張積層体を使用して、一般的な方法によって製造することができる。
【0124】
本開示のフッ素樹脂シートと銅張積層体は、電気電子部品として使用される。例えば、ETC、GPS、無線LANおよび携帯電話等の電子機器や通信機器に使用されるアンテナ、高速伝送用コネクタ、CPUソケット、衝突防止用レーダーなどのミリ波および準ミリ波レーダー、RFIDタグ、コンデンサー、インバーター部品、ケーブルの被覆材、リチウムイオン電池等の二次電池の絶縁材、スピーカー振動板等が挙げられる。
【0125】
高速通信対応基板としては、基地局アンテナ基板、アンテナ分配基板、無線基地局の無線部分であるRRH(Remote Radio Head)用基板、無線基地局の制御部又はベースバンド部(BBU:Base Band Unit)用基板、高速通信用トランシーバー基板、RNC(Radio Network Contoroler)用基板、高速トランスミッター用基板、高速レシーバー用基板、高速信号多重回路用基板、60GHz帯使用のWiFig用基板、データセンター用のサーバーで使用されるデーター転送用基板などが挙げられる。また、高速通信対応基板としては、アンテナ用基板、例えば、5G以降の規格で求められる大容量通信に向けた、超多素子アンテナ(Massive MIMO)向けの基板等も例示できる。さらに、マイクロ波による空間伝送型無線給電用の受電アンテナも挙げられる。本開示のフッ素樹脂シートは、伝送損失が低い無粗化銅箔と良好な接着性を有するので、本開示のフッ素樹脂シートと無粗化銅箔を含む銅張積層体を加工してアンテナを得た場合、利得が向上するため、特にアンテナに好適である。
【0126】
本開示のフッ素樹脂シートは、基板用の絶縁体のみならず、信号線被覆材用の絶縁体として使用できる。例えば、高速信号を伝送する導波管、高速LAN用のQSFPケーブル、高速通信対応用の同軸ケーブル(例;SFP+ケーブル、QSFP+ケーブルなど)、低損失用の同軸ケーブル等の絶縁被覆材(例;絶縁チューブ)として使用できる。
【0127】
こうした高周波を使用する場合、コネクタなどの電気部品、ケーシングなどの通信機器に使用される資材には、安定して低い比誘電率(εr)及び低い誘電正接(tanδ)といった電気的特性が求められる。本開示のフッ素樹脂シートは、そのような資材用の絶縁材料としても使用できる。
【0128】
本開示のフッ素樹脂シートは、ハンダ付けが必要となるコネクタプリント配線基板用の絶縁材料としても使用できる。本開示のフッ素樹脂シートは優れた耐熱性を有しているので、ハンダ付け時の高温でも問題が生じにくい。
【0129】
誘電体導波線路においては、高周波のミリ波又はサブミリ波を低損失で伝送させために、低誘電損失な材料が求められている。本開示のフッ素樹脂シートは、ミリ波、サブミリ波等を伝送する誘電体導波線路用の絶縁材料としても使用できる。誘電体導波線路としては、円柱状誘電体線路、方形状誘電体線路、だ円形状誘電体線路、チューブ状誘電体線路、イメージ線路、インシュラーイメージ線路、トラップドイメージ線路、リブガイド、ストリップ誘電体線路、逆ストリップ線路、Hガイド、非放射性誘電体線路(NRDガイド)等が挙げられる。
【0130】
本開示においてモビリティとは、自家用車やバス、タクシー、トラックなどの自動車全般をはじめ、オートバイや自転車、原動機付自転車などの二輪車、鉄道、シニアカー、1人乗りのコンパクトなパーソナルモビリティなど、移動や輸送に関わるあらゆる手段・手法を示す。また、必ずしも地上を移動するものに限られず、空中や水中を移動するものであってもよい。
【0131】
回路基板用の積層体は、銅箔層及び上述したフッ素樹脂シート、更に、基材層を積層してもよい。基材層としては特に限定されないが、ガラス繊維からなる布帛層、樹脂フィルム層等が挙げられる。
【0132】
上記基材層として用いる樹脂フィルムとしては、耐熱性樹脂フィルム、熱硬化性樹脂フィルムが好ましい。耐熱性樹脂フィルムとしては、ポリイミド、モディファイドポリイミド、液晶ポリマー、ポリフェニレンスルファイドなどが挙げられる。熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、ビスマレイミド、ポリフェニレンオキサイド、変性ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンエーテル、ポリブタジエンなどを含むものが挙げられる。
耐熱性樹脂フィルムおよび熱硬化性樹脂フィルムは強化繊維を含んでいても良い。強化繊維としては特に限定されないが、例えばガラスクロス、とくに低誘電タイプのものが好ましい。
【0133】
耐熱性樹脂フィルムおよび熱硬化性樹脂フィルムの誘電特性、線膨張率、吸水率などの特性は特に限定されないが、たとえば、20GHzにおける誘電率は3.8以下が好ましく、3.4以下がより好ましく、3.2以下が更に好ましい。20GHzにおける誘電正接は、0.0030以下が好ましく、0.0025以下がより好ましく、0.0020以下が更に好ましい。線膨張率は100ppm/℃以下が好ましく、70ppm/℃以下がより好ましく、40ppm/℃以下が更に好ましい。吸水率は1.0%以下が好ましく、0.5%以下がより好ましく、0.1%以下が更に好ましい。
【0134】
フッ素樹脂シート及び銅箔を必須とする銅張積層体を、樹脂フィルム層等の基材層と積層させる場合、銅張積層体のフッ素樹脂シート層側を基材層と接着させることで積層させることができる。この場合は、積層前に銅張積層体のフッ素樹脂シート層側に対して表面処理を施して、接着性能を高めたものを使用するものであってもよい。ここでの表面処理としては、特に限定されず、上述したプラズマ処理等を挙げることができる。
【0135】
上記積層体において、銅箔層、基材、及び上述したフッ素樹脂シートの積層順や製造方法は特に限定されるものではなく、目的に応じた層構成とすることができる。
上述した積層順として、具体的には、基材層/フッ素樹脂シート/銅箔層で構成されるもの、銅箔層/フッ素樹脂シート/基材層/フッ素樹脂シート/銅箔層、銅箔層/基材層/フッ素樹脂シート/基材層/銅箔層で構成されるもの等を挙げることができる。
また、必要に応じて、その他の層を有するものとすることもできる。
【実施例
【0136】
以下、本開示を実施例に基づいて具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。以下の実施例においては特に言及しない場合は、「部」「%」はそれぞれ「質量部」「質量%」を表す。
【0137】
得られた各サンプルについて、以下の基準に基づいて評価を行った。
【0138】
[フッ素樹脂シートの厚み]
マイクロメーターを用いて測定した。
【0139】
[フッ素樹脂シート表面のXPS測定]
走査型X線光電子分光分析装置(XPS/ESCA)PHI5000VersaProbeII(アルバック・ファイ株式会社製)を用いて測定した。
【0140】
[線膨張率(CTE)]
TMA―7100(株式会社日立ハイテクサイエンス社製)を用いたTMA測定を引張モードで行い、サンプル片として、長さ20mm、幅5mm、厚み150μmに切出したフッ素樹脂シートを用いて、チャック間を10mmに設定し、49mNの荷重をかけながら昇温速度2℃/分で0~150℃でのサンプルの変位量から線膨張率を求めた。
【0141】
[フッ素樹脂シートの誘電率及び誘電正接]
スプリットシリンダ式誘電率・誘電正接測定装置(EM lab社製)を用いて、25℃、10GHzの誘電率及び誘電正接を測定した。
【0142】
[水の静的接触角]
作製したフッ素樹脂シートの水の静的接触角は、水の静的接触角は接触角計(協和界面科学社製、「DropMaster」)を用いて、23℃、液滴量:2μL、着滴1秒後の対水接触角を測定した。
【0143】
[ピール強度]
表面処理後のフッ素樹脂シートの上下に、銅箔(福田金属箔粉製 CF-T9DA-SV-18、Rz=0.85μm、Rq=0.05μm)の処理面がフッ素樹脂シートと密着するように重ね、真空ヒートプレス(360℃・2.5MPa・300s)で加圧加熱してサンプルを作製した。
得られたサンプルを10mm幅の短冊状にカットし、テンシロン万能試験機(株式会社島津製作所製)を用いて、短冊状サンプルの接着されていない部分をテンシロンの上下のチャックで掴みながら、毎分50mmの速度で引張ることで引きはがし強さを測定し、得られた値をピール強度とした。
【0144】
<シートA~Gの作製方法>
(ペースト押出成形)
PTFE粉末(平均粒径:500μm、見掛密度:460g/L、標準比重:2.17)と、表1に示すシリカ粒子とを、表1に示す質量比となるように計量し、ドライアイス存在下、ミキサーで混合した。混合中の温度は-10℃以下であった。
得られた混合粉末にオイル(アイソパーH)を18~23%添加し、混合し、5時間程度熟成させた。
熟成させた組成物を、圧力3MPa条件で予備成形し、予備成形した成形体を40℃、50mm/minの条件で押出し、押出サンプルを得た。
押出サンプルを二本ロールで圧延し、膜厚125μmのサンプルを得、200℃の乾燥ロールを通し、乾燥させた。
さらに二本ロールのギャップ、圧力を調節し、膜厚30μmのサンプルを作製可能であることを確認した。
【0145】
<シートHの作製方法>
(粉体圧延成形)
PTFE粉末(平均粒径:500μm、見掛密度:460g/L、標準比重:2.17)と、表1に示すシリカ粒子とを、表1に示す質量比となるように計量し、ワンダークラッシャーで室温中、メモリ6で30秒×2回攪拌した。
得られた混合物を二本ロールで圧延し(ロール間隙:100μmに設定、ロール温度:100℃)、膜厚130μmのサンプルを得た。
【0146】
なお、各実施例において使用したシリカは、表1に示すように、球状シリカとして、アドマテックス社製SC6500-SQ(平均粒径2.1μm)、アドマテックス社製SC6500-SQ(平均粒径2.1μm)を3-アミノプロピルトリエトキシシラン(シリカ粒子の質量に対して0.5質量%又は1質量%の処理量)により表面処理を施したものを用いた。
【0147】
【表1】
【0148】
(実施例1~10)
(フッ素樹脂シート表面処理)
上電極と下電極が供えられた処理室(ダイレクト型 プラズマ表面処理装置、エア・ウォーター社製)内の上下電極間にフッ素樹脂シートを設置し、処理室内を、下記の混合ガス雰囲気にした後、表2に示す処理時間で、フッ素樹脂シート表面の放電プラズマ処理を行った。
(処理雰囲気)
A:アルゴン、ヘリウム、および酸素の混合ガス
B:アルゴン、ヘリウム、窒素および酸素の混合ガス

表面処理したフッ素樹脂シートについて、XPSにより各元素組成を測定した。
【0149】
(比較例1)
シートAについて、表面処理を行わず、XPSにより各元素組成を測定した。
【0150】
(比較例2~4)
シートE~Gを用いた他は、実施例5と同様にして、フッ素樹脂シート表面の放電プラズマ処理を行った。
表面処理したフッ素樹脂シートについて、XPSにより各元素組成を測定した。
【0151】
実施例1~10および比較例1~4の結果を表2に示す。
【0152】
【表2】
【0153】
[金属界面導電率測定]
実施例5で作製したシートの上下に、銅箔(福田金属箔粉製 CF-T9DA-SV-18)の処理面がシートと密着するように重ね、真空ヒートプレスに挿入し、真空下、室温から360℃まで昇温して、360℃下にて3MPaの圧力で加圧して、両面銅張積層板を作製した。作製した両面銅張積層板から、円形誘電体サンプル(両面銅なし)と円形誘電体サンプル(片面円形銅箔パターニング)を作製し、平衡型円板共振器法を用いて、周波数14.5GHzから111.5GHzの範囲の金属層界面導電率(1e7 S/m)を測定した。実施例5から作製した両面銅張積層板の金属層界面導電率の平均は5.66(1e7 S/m)であり、基準銅円板と同等の結果であった。
【0154】
また、フッ素樹脂とフィラーの複合体シートの両面銅張積層板である市販のRO3003(Rogers社製)を用いて、同様に金属層界面導電率の平均を測定したところ、0.56(1e7 S/m)であった。
よって、実施例5で作製したシートを用いた両面銅張積層板は、市販の両面銅張積層板より高金属界面導電率であることが明らかとなった。
【0155】
[伝送損失測定]
実施例5で作製したフッ素樹脂シートの上下に、銅箔(福田金属箔粉製 CF-T9DA-SV-18、Rz=0.85μm)の処理面がフッ素樹脂シートと密着するように重ね、真空ヒートプレスに挿入し、真空下、室温から360℃まで昇温して、360℃下にて3MPaの圧力で加圧して、両面銅張積層板を作製した。
【0156】
作製した両面銅張積層板上に伝送線路を形成するために、マイクロストリップラインを用いた。プリント基板における50、68GHzの信号を、ネットワークアナライザー(キーサイトテクノロジー社製、「E8361A」)を用いて処理し、Universal Test Fixtureをプローブとして伝送損失を表すS21パラメータを測定した。その際、線路の特性インピーダンスは50Ωとし、プリント基板の伝送線路の長さは100mmとして、伝送損失を測定した。
伝送損失の尺度としては、高周波電子回路や高周波電子部品の特性を表すために使用される回路網パラメータの一つである「S21-parameter」を伝送損失値として用いた。この値は、その値が0に近い程、伝送損失が小さいことを意味する。
【0157】
伝送損失は周波数50GHzにおいて-2.42dB/100mm,周波数67GHzにおいて-2.96dB/100mmであった。
また、フッ素樹脂とフィラーの複合体シートの両面銅張積層板である市販のRO3003G2(Rogers社製)を用いて、同様に伝送損失測定を行ったところ、伝送損失は周波数50GHzにおいて-3.47dB/100mm,周波数67GHzにおいて-4.53dB/100mmであった。
よって、実施例5で作製したフッ素樹脂シートを用いた両面銅張積層板は、市販の両面銅張積層板より低伝送損失であることが明らかとなった。
【0158】
以上の実験結果から、実施例のフッ素樹脂シートは、CTEが低く、平滑性の高い銅箔と良好な接着を行うことができ、平滑性の高い銅箔との積層体は、金属界面導電率が高く、伝送損失も低く、回路用基板材料として好適に使用できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0159】
本開示のフッ素樹脂シートは、回路基板用の銅張積層板に好適に使用することができる。