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特許7569000溝深さ監視システム、電磁鋼板の製造装置、溝深さ監視方法、及び溝深さ監視プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-08
(45)【発行日】2024-10-17
(54)【発明の名称】溝深さ監視システム、電磁鋼板の製造装置、溝深さ監視方法、及び溝深さ監視プログラム
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/00 20140101AFI20241009BHJP
   B23K 26/364 20140101ALI20241009BHJP
   C21D 8/12 20060101ALI20241009BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20241009BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20241009BHJP
   C22C 38/06 20060101ALI20241009BHJP
   H01F 1/147 20060101ALI20241009BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20241009BHJP
【FI】
B23K26/00 M
B23K26/364
C21D8/12 D
C21D9/46 501B
C22C38/00 303U
C22C38/06
H01F1/147 175
H01F41/02 A
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2024538493
(86)(22)【出願日】2024-03-01
(86)【国際出願番号】 JP2024007872
【審査請求日】2024-06-24
(31)【優先権主張番号】P 2023036047
(32)【優先日】2023-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】濱村 秀行
(72)【発明者】
【氏名】杉山 公彦
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-122264(JP,A)
【文献】特開平7-331332(JP,A)
【文献】国際公開第2016/171129(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 - 26/70
C21D 8/12
C21D 9/46
C22C 38/00
C22C 38/06
H01F 1/147
H01F 41/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビームによって溝が形成された鋼板の表面に付着した付着物を、研磨ブラシロールによって除去する際に発生する回転トルクを取得するトルク取得部と、
前記トルク取得部で取得した回転トルクと、予め定められた基準回転トルクと、に基づいて、前記鋼板の前記表面に形成された前記溝の深さが基準値以上か否かを判定する溝深さ判定部と、
を備える溝深さ監視システム。
【請求項2】
前記鋼板の前記表面に前記ビームを照射して前記溝を形成する際に発生するスパッタ量を取得するスパッタ量取得部を備え、
前記溝深さ判定部は、前記スパッタ量取得部で取得したスパッタ量と、予め定められた基準スパッタ量と、前記トルク取得部で取得した回転トルクと、前記基準回転トルクと、に基づいて、前記鋼板の前記表面に形成された前記溝の深さが基準値以上か否かを判定する、
請求項1に記載の溝深さ監視システム。
【請求項3】
前記溝深さ判定部は、前記スパッタ量取得部で取得したスパッタ量が前記基準スパッタ量以上で、前記トルク取得部で取得した回転トルクが前記基準回転トルク以下の場合に、前記鋼板の前記表面に形成された前記溝の深さが、前記基準値以上であると判定する、
請求項2に記載の溝深さ監視システム。
【請求項4】
前記基準スパッタ量は、前記鋼板の前記表面に前記基準値の深さの前記溝を形成する際に発生するスパッタ量に基づいて定められ、
前記基準回転トルクは、前記基準値の深さの前記溝が形成された前記鋼板の前記表面に付着した前記付着物を、前記研磨ブラシロールによって除去する際に発生する回転トルクに基づいて定められる、
請求項2又は請求項3に記載の溝深さ監視システム。
【請求項5】
前記基準スパッタ量は、前記鋼板の前記表面に照射されるビームのフォーカスのずれ量が0、かつ、前記ビームのパワーが基準値の場合に、前記ビームによって前記鋼板の前記表面に前記溝を形成する際に発生するスパッタ量に基づいて定められ、
前記基準回転トルクは、前記鋼板の前記表面に照射されるビームのフォーカスのずれ量が0、かつ、前記ビームのパワーが基準値の場合に、前記ビームによって前記溝が形成された前記鋼板の前記表面に付着した前記付着物を、前記研磨ブラシロールによって除去する際に発生する回転トルクに基づいて定められ、
前記溝深さ判定部は、式(1)を満たす場合に、前記鋼板の前記表面に形成された前記溝の深さが、前記基準値以上であると判定する、
請求項4に記載の溝深さ監視システム。
1≧S/S0≧C1、かつ、C2≦T/T0≦C3・・・(1)
ただし、
S :スパッタ量取得部で取得したスパッタ量
S0:基準スパッタ量
C1:S1/S0
S1:鋼板の表面に深さが基準値の溝を形成する際に発生する最小スパッタ量
T :トルク取得部で取得した回転トルク
T0:基準回転トルク
C2:T1/T0
T1:深さが基準値の溝が形成された鋼板の表面に付着した付着物を、研磨ブラシロールによって除去する際に発生する最小回転トルク
C3:T2/T0
T2:深さが基準値の溝が形成された鋼板の表面に付着した付着物を、研磨ブラシロールによって除去する際に発生する最大回転トルク
である。
【請求項6】
前記C1が、0.83とされ、
前記C2が、0.89とされ、
前記C3が、1.11とされる、
請求項5に記載の溝深さ監視システム。
【請求項7】
前記基準スパッタ量は、前記鋼板の前記表面に照射されるビームのフォーカスのずれ量が0、かつ、前記ビームのパワーが基準値の場合に、前記ビームによって前記鋼板の前記表面に前記溝を形成する際に発生するスパッタ量に基づいて定められ、
前記基準回転トルクは、前記鋼板の前記表面に照射されるビームのフォーカスのずれ量が0、あるいは、前記ビームのパワーが基準値の場合に、前記ビームによって前記溝が形成された前記鋼板の前記表面に付着した前記付着物を、前記研磨ブラシロールによって除去する際に発生する回転トルクに基づいて定められ、
前記溝深さ判定部は、式(2)を満たす場合に、前記鋼板の前記表面に形成された前記溝の深さが、前記基準値以上であると判定する、
請求項4に記載の溝深さ監視システム。
1≧S/S0≧C1、かつ、T1≦T≦T2・・・(2)
ただし、
S :スパッタ量取得部で取得したスパッタ量
S0:基準スパッタ量
C1:S1/S0
S1:鋼板の表面に深さが基準値の溝を形成する際に発生する最小スパッタ量
T :トルク取得部で取得した回転トルク
T1:基準回転トルクであり、深さが基準値の溝が形成された鋼板の表面に付着した付着物を、研磨ブラシロールによって除去する際に発生する最小回転トルク
T2:基準回転トルクであり、深さが基準値の溝が形成された鋼板の表面に付着した付着物を、研磨ブラシロールによって除去する際に発生する最大回転トルク
である。
【請求項8】
前記C1が、0.83とされ、
前記T1が、800[Nm]とされ、
前記T2が、1000[Nm]とされる、
請求項7に記載の溝深さ監視システム。
【請求項9】
前記基準回転トルクは、前記鋼板の前記表面に照射されるビームのフォーカスのずれ量が0の場合に、前記ビームによって前記基準値の深さの前記溝が形成された前記鋼板の前記表面に付着した前記付着物を、前記研磨ブラシロールによって除去する際に発生する回転トルクに基づいて定められる、
請求項1に記載の溝深さ監視システム。
【請求項10】
前記基準回転トルクは、前記鋼板の前記表面に照射されるビームのフォーカスのずれ量が0、かつ、前記ビームのパワーが基準値の場合に、前記ビームによって前記基準値の深さの前記溝が形成された前記鋼板の前記表面に付着した前記付着物を、前記研磨ブラシロールによって除去する際に発生する回転トルクに基づいて定められ、
前記溝深さ判定部は、式(3)を満たす場合に、前記鋼板の前記表面に形成された前記溝の深さが、前記基準値以上であると判定する、
請求項9に記載の溝深さ監視システム。
T1≦T≦T0・・・(3)
ただし、
T :トルク取得部で取得した回転トルク
T0:基準回転トルク
T1:深さが基準値の溝が形成された鋼板の表面に付着した付着物を、研磨ブラシロールによって除去する際に発生する最小回転トルク
である。
【請求項11】
前記T0が、900[Nm]とされ
前記T1が、800[Nm]とされる、
請求項10に記載の溝深さ監視システム。
【請求項12】
電磁鋼板の材料である鋼板の表面にビームを照射して溝を形成するビーム照射装置と、
前記溝が形成された前記鋼板の前記表面に付着した付着物を除去する研磨ブラシロールと、
請求項1~請求項3、及び請求項9~請求項11の何れか1項に記載の電磁鋼板の溝深さ監視システムと、
を備える電磁鋼板の製造装置。
【請求項13】
ビームによって溝が形成された鋼板の表面に付着した付着物を、研磨ブラシロールによって除去する際に発生する回転トルクを取得するトルク取得工程と、
前記トルク取得工程で取得した回転トルクと、予め定められた基準回転トルクと、に基づいて、前記鋼板の前記表面に形成された前記溝の深さが基準値以上か否かを判定する溝深さ判定工程と、
を備える溝深さ監視方法。
【請求項14】
ビームによって溝が形成された鋼板の表面に付着した付着物を、研磨ブラシロールによって除去する際に発生する回転トルクを取得するトルク取得工程と、
前記トルク取得工程で取得した回転トルクと、予め定められた基準回転トルクと、に基づいて、前記鋼板の前記表面に形成された前記溝の深さが基準値以上か否かを判定する溝深さ判定工程と、
を含む処理をコンピュータに実行させる溝深さ監視プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願が開示する技術は、溝深さ監視システム、電磁鋼板の製造装置、溝深さ監視方法、及び溝深さ監視プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
方向性電磁鋼板の表面にレーザビームを照射して溝を形成することで、方向性電磁鋼板の磁区を細分化し、鉄損を改善する方向性電磁鋼板の製造方法がある(例えば、特開2017-122264号公報参照)。
【0003】
また、レーザビームによって、方向性電磁鋼板の表面に形成される溝の形態を監視するレーザ溝加工モニタリング方法がある(例えば、特開2019-512047号公報参照)。
【0004】
特開2019-512047号公報に開示されたレーザ溝加工モニタリング方法では、方向性電磁鋼板の表面にレーザビームを照射して溝を形成する際に発生するスパッタを監視し、当該スパッタに基づいて、方向性電磁鋼板の表面に形成される溝の形態を判定する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、電磁鋼板の材料である圧延鋼板の表面にレーザビーム又は電子ビーム等のビームを照射して溝を形成する際に、ビームの出力が低下したり、当該表面に対するビームのフォーカス(焦点)がずれたりすると、溝が浅くなり、電磁鋼板の鉄損改善率が低下する可能性がある。
【0006】
しかしながら、圧延鋼板の表面にビームを照射して溝を形成する際に発生するスパッタ量を監視するだけでは、圧延鋼板の表面に対するビームの出力低下、又はビームのフォーカスのずれを検知することができない場合があり、電磁鋼板の表面に形成される溝の深さが浅くなる可能性がある。
【0007】
本願が開示する技術は、上記の事実を考慮し、電磁鋼板の表面に形成される溝の深さが浅くなることを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1態様に係る溝深さ監視システムは、
ビームによって溝が形成された鋼板の表面に付着した付着物を、研磨ブラシロールによって除去する際に発生する回転トルクを取得するトルク取得部と、
前記トルク取得部で取得した回転トルクと、予め定められた基準回転トルクと、に基づいて、前記鋼板の前記表面に形成された前記溝の深さが基準値以上か否かを判定する溝深さ判定部と、
を備える。
【0009】
上記態様によれば、トルク取得部は、ビームによって溝が形成された鋼板の表面に付着した付着物を、研磨ブラシロールによって除去する際に発生する回転トルクを取得する。溝深さ判定部は、トルク取得部で取得した回転トルクと、予め定められた基準回転トルクと、に基づいて、鋼板の表面に形成された溝の深さが基準値以上か否かを判定する。
【0010】
ここで、例えば、トルク取得部で取得した回転トルクを監視することで、ビームの出力低下によって、溝の深さが基準値未満の鋼板を検出することができる。したがって、鋼板の表面に形成される溝の深さが浅くなることを抑制することができる。
【0011】
第2態様に係る溝深さ監視システムは、第1態様に係る溝深さ監視システムにおいて、
前記鋼板の前記表面に前記ビームを照射して前記溝を形成する際に発生するスパッタ量を取得するスパッタ量取得部を備え、
前記溝深さ判定部は、前記スパッタ量取得部で取得したスパッタ量と、予め定められた基準スパッタ量と、前記トルク取得部で取得した回転トルクと、前記基準回転トルクと、に基づいて、前記鋼板の前記表面に形成された前記溝の深さが基準値以上か否かを判定する。
【0012】
上記態様によれば、スパッタ量取得部は、鋼板の表面にビームを照射して溝を形成する際に発生するスパッタ量を取得する。そして、溝深さ判定部は、スパッタ量取得部で取得したスパッタ量と、予め定められた基準スパッタ量と、トルク取得部で取得した回転トルクと、基準回転トルクと、に基づいて、鋼板の表面に形成された溝の深さが基準値以上か否かを判定する。
【0013】
これにより、例えば、ビームの出力低下や、鋼板の表面に対するビームのフォーカスのずれ等によって、溝の深さが基準値未満の鋼板を検出することができる。したがって、鋼板の表面に形成される溝の深さが浅くなることを抑制することができる。
【0014】
ここで、鋼板の表面にビームを照射して溝を形成する際に発生するスパッタ量は、基本的に、当該表面に形成された溝の深さが浅くなるに従って減少する。そのため、スパッタ量取得部で取得したスパッタ量を監視することで、鋼板の表面に形成される溝の深さを推定することができる。
【0015】
ただし、鋼板の表面に対するビームのフォーカスのずれ量が小さい範囲では、ビームのフォーカスのずれ量が大きくなるに従って、スパッタ量が一旦減少した後、再び増加する。そのため、スパッタ量取得部で取得したスパッタ量を監視するだけでは、鋼板の表面に対するビームのフォーカスのずれ量が小さい範囲において、ビームのフォーカスのずれを検出することができない場合がある。
【0016】
ここで、鋼板の表面に対するビームのフォーカスのずれ量が小さい範囲では、鋼板の表面温度の変化等によって、発生するスパッタの粘度が高くなり、鋼板の表面に付着するスパッタ等の付着物の粒径が大きくなる。この結果、鋼板の表面に付着した付着物を、研磨ブラシロールによって除去する際に発生する回転トルクも大きくなる。
【0017】
そこで、溝深さ判定部は、スパッタ量取得部で取得したスパッタ量に加えて、トルク取得部で取得した回転トルクも監視する。これにより、鋼板の表面に対するビームのフォーカスのずれ量が小さい範囲においても、ビームのフォーカスのずれを検出することができる。したがって、鋼板の表面に形成される溝の深さが浅くなることをさらに抑制することができる。
【0018】
第3態様に係る溝深さ監視システムは、第2態様に係る溝深さ監視システムにおいて、
前記溝深さ判定部は、前記スパッタ量取得部で取得したスパッタ量が前記基準スパッタ量以上で、前記トルク取得部で取得した回転トルクが前記基準回転トルク以下の場合に、前記鋼板の前記表面に形成された前記溝の深さが、前記基準値以上であると判定する。
【0019】
上記態様によれば、溝深さ判定部は、スパッタ量取得部で取得したスパッタ量が基準スパッタ量以上で、トルク取得部で取得した回転トルクが基準回転トルク以下の場合に、鋼板の表面に形成された溝の深さが、基準値以上であると判定する。これにより、鋼板の表面に形成された溝の深さが、基準値以上か否かを容易に判定することができる。
【0020】
第4態様に係る溝深さ監視システムは、第2態様又は第3態様に係る溝深さ監視システムにおいて、
前記基準スパッタ量は、前記鋼板の前記表面に前記基準値の深さの前記溝を形成する際に発生するスパッタ量に基づいて定められ、
前記基準回転トルクは、前記基準値の深さの前記溝が形成された前記鋼板の前記表面に付着した前記付着物を、前記研磨ブラシロールによって除去する際に発生する回転トルクに基づいて定められる。
【0021】
上記態様によれば、基準スパッタ量は、鋼板の表面に基準値の深さの溝を形成する際に発生するスパッタ量に基づいて定められる。また、基準回転トルクは、基準値の深さの溝が形成された鋼板の表面に付着した付着物を、研磨ブラシロールによって除去する際に発生する回転トルクに基づいて定められる。
【0022】
そして、溝深さ判定部は、スパッタ量取得部で取得したスパッタ量と、予め定められた基準スパッタ量と、トルク取得部で取得した回転トルクと、基準回転トルクと、に基づいて、鋼板の表面に形成された溝の深さが基準値以上か否かを判定する。これにより、溝深さ判定部の判定精度が高められる。したがって、鋼板の表面に形成される溝の深さが浅くなることをさらに抑制することができる。
【0023】
第5態様に係る溝深さ監視システムは、第4態様に係る溝深さ監視システムにおいて、
前記基準スパッタ量は、前記鋼板の前記表面に照射されるビームのフォーカスのずれ量が0、かつ、前記ビームのパワーが基準値の場合に、前記ビームによって前記鋼板の前記表面に前記溝を形成する際に発生するスパッタ量に基づいて定められ、
前記基準回転トルクは、前記鋼板の前記表面に照射されるビームのフォーカスのずれ量が0、かつ、前記ビームのパワーが基準値の場合に、前記ビームによって前記溝が形成された前記鋼板の前記表面に付着した前記付着物を、前記研磨ブラシロールによって除去する際に発生する回転トルクに基づいて定められ、
前記溝深さ判定部は、式(1)を満たす場合に、前記鋼板の前記表面に形成された前記溝の深さが、前記基準値以上であると判定する。
1≧S/S0≧C1、かつ、C2≦T/T0≦C3・・・(1)
ただし、
S :スパッタ量取得部で取得したスパッタ量
S0:基準スパッタ量
C1:S1/S0
S1:鋼板の表面に深さが基準値の溝を形成する際に発生する最小スパッタ量
T :トルク取得部で取得した回転トルク
T0:基準回転トルク
C2:T1/T0
T1:深さが基準値の溝が形成された鋼板の表面に付着した付着物を、研磨ブラシロールによって除去する際に発生する最小回転トルク
C3:T2/T0
T2:深さが基準値の溝が形成された鋼板の表面に付着した付着物を、研磨ブラシロールによって除去する際に発生する最大回転トルク
である。
【0024】
上記態様によれば、溝深さ判定部は、式(1)を満たす場合に、鋼板の表面に形成された溝の深さが、基準値以上であると判定する。これにより、鋼板の表面に形成された溝の深さが、基準値以上か否かを容易に判定することができる。
【0025】
第6態様に係る溝深さ監視システムは、第5態様に係る溝深さ監視システムにおいて、
前記C1が、0.83とされ、
前記C2が、0.89とされ、
前記C3が、1.11とされる。
【0026】
上記態様によれば、鋼板の表面に形成された溝の深さが、基準値以上か否かを容易に判定することができる。
【0027】
第7態様に係る溝深さ監視システムは、第4態様に係る溝深さ監視システムにおいて、
前記基準スパッタ量は、前記鋼板の前記表面に照射されるビームのフォーカスのずれ量が0、かつ、前記ビームのパワーが基準値の場合に、前記ビームによって前記鋼板の前記表面に前記溝を形成する際に発生するスパッタ量に基づいて定められ、
前記基準回転トルクは、前記鋼板の前記表面に照射されるビームのフォーカスのずれ量が0、あるいは、前記ビームのパワーが基準値の場合に、前記ビームによって前記溝が形成された前記鋼板の前記表面に付着した前記付着物を、前記研磨ブラシロールによって除去する際に発生する回転トルクに基づいて定められ、
前記溝深さ判定部は、式(2)を満たす場合に、前記鋼板の前記表面に形成された前記溝の深さが、前記基準値以上であると判定する。
1≧S/S0≧C1、かつ、T1≦T≦T2・・・(2)
ただし、
S :スパッタ量取得部で取得したスパッタ量
S0:基準スパッタ量
C1:S1/S0
S1:鋼板の表面に深さが基準値の溝を形成する際に発生する最小スパッタ量
T :トルク取得部で取得した回転トルク
T1:基準回転トルクであり、深さが基準値の溝が形成された鋼板の表面に付着した付着物を、研磨ブラシロールによって除去する際に発生する最小回転トルク
T2:基準回転トルクであり、深さが基準値の溝が形成された鋼板の表面に付着した付着物を、研磨ブラシロールによって除去する際に発生する最大回転トルク
である。
【0028】
上記態様によれば、溝深さ判定部は、式(2)を満たす場合に、鋼板の表面に形成された溝の深さが、基準値以上であると判定する。これにより、鋼板の表面に形成された溝の深さが、基準値以上か否かを容易に判定することができる。
【0029】
第8態様に係る溝深さ監視システムは、第7態様に係る溝深さ監視システムにおいて、
前記C1が、0.83とされ、
前記T1が、800[Nm]とされ、
前記T2が、1000[Nm]とされる。
【0030】
上記態様によれば、鋼板の表面に形成された溝の深さが、基準値以上か否かを容易に判定することができる。
【0031】
第9態様に係る溝深さ監視システムは、第1態様に係る溝深さ監視システムにおいて、
前記基準回転トルクは、前記鋼板の前記表面に照射されるビームのフォーカスのずれ量が0の場合に、前記ビームによって前記基準値の深さの前記溝が形成された前記鋼板の前記表面に付着した前記付着物を、前記研磨ブラシロールによって除去する際に発生する回転トルクに基づいて定められる。
【0032】
上記態様によれば、基準回転トルクは、鋼板の表面に照射されるビームのフォーカスのずれ量が0の場合に、ビームによって基準値の深さの溝が形成された鋼板の表面に付着した付着物を、研磨ブラシロールによって除去する際に発生する回転トルクに基づいて定められる。
【0033】
そして、溝深さ判定部は、トルク取得部で取得した回転トルクと、予め定められた基準回転トルクと、に基づいて、鋼板の表面に形成された溝の深さが基準値以上か否かを判定する。したがって、鋼板の表面に形成される溝の深さが浅くなることを抑制することができる。
【0034】
第10態様に係る溝深さ監視システムは、第9態様に係る溝深さ監視システムにおいて、
前記基準回転トルクは、前記鋼板の前記表面に照射されるビームのフォーカスのずれ量が0、かつ、前記ビームのパワーが基準値の場合に、前記ビームによって前記基準値の深さの前記溝が形成された前記鋼板の前記表面に付着した前記付着物を、前記研磨ブラシロールによって除去する際に発生する回転トルクに基づいて定められ、
前記溝深さ判定部は、式(3)を満たす場合に、前記鋼板の前記表面に形成された前記溝の深さが、前記基準値以上であると判定する。
T1≦T≦T0・・・(3)
ただし、
T :トルク取得部で取得した回転トルク
である。
T0:基準回転トルク
T1:深さが基準値の溝が形成された鋼板の表面に付着した付着物を、研磨ブラシロールによって除去する際に発生する最小回転トルク
である。
【0035】
第11態様に係る溝深さ監視システムは、第10態様に係る溝深さ監視システムにおいて、
前記T0が、900[Nm]とされ
前記T1が、800[Nm]とされる。
【0036】
上記態様によれば、溝深さ判定部は、式(3)を満たす場合に、鋼板の表面に形成された溝の深さが、基準値以上であると判定する。これにより、鋼板の表面に形成された溝の深さが、基準値以上か否かを容易に判定することができる。
【0037】
第12態様に係る鋼板の製造装置は、
鋼板の材料である鋼板の表面にビームを照射して溝を形成するビーム照射装置と、
前記溝が形成された前記鋼板の前記表面に付着した付着物を除去する研磨ブラシロールと、
第1態様~第11態様の何れか1つに係る鋼板の溝深さ監視システムと、
を備える。
【0038】
上記態様によれば、基準値以上の深さの溝が表面に形成された鋼板を製造することができる。
【0039】
第13態様に係る溝深さ監視方法は、
ビームによって溝が形成された鋼板の表面に付着した付着物を、研磨ブラシロールによって除去する際に発生する回転トルクを取得するトルク取得工程と、
前記トルク取得工程で取得した回転トルクと、予め定められた基準回転トルクと、に基づいて、前記鋼板の前記表面に形成された前記溝の深さが基準値以上か否かを判定する溝深さ判定工程と、
を備える。
【0040】
上記態様によれば、トルク取得工程では、ビームによって溝が形成された鋼板の表面に付着した付着物を、研磨ブラシロールによって除去する際に発生する回転トルクを取得する。溝深さ判定工程では、トルク取得工程で取得した回転トルクと、予め定められた基準回転トルクと、に基づいて、鋼板の表面に形成された溝の深さが基準値以上か否かを判定する。
【0041】
ここで、例えば、トルク取得工程で取得した回転トルクを監視することで、ビームの出力低下によって、溝の深さが基準値未満の鋼板を検出することができる。したがって、鋼板の表面に形成される溝の深さが浅くなることを抑制することができる。
【0042】
第14態様に係る溝深さ監視プログラムは、
ビームによって溝が形成された鋼板の表面に付着した付着物を、研磨ブラシロールによって除去する際に発生する回転トルクを取得するトルク取得工程と、
前記トルク取得工程で取得した回転トルクと、予め定められた基準回転トルクと、に基づいて、前記鋼板の前記表面に形成された前記溝の深さが基準値以上か否かを判定する溝深さ判定工程と、
を含む処理をコンピュータに実行させる。
【0043】
上記態様によれば、第13態様に係る溝深さ監視方法と同様の作用及び効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0044】
本願が開示する技術によれば、電磁鋼板の表面に形成される溝の深さが浅くなることを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
図1】一実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造装置を冷間圧延鋼板の幅方向から見た側面図である。
図2】一実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造装置を冷間圧延鋼板の幅方向から見た側面図である。
図3】一実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法の一例を示すフローチャートである。
図4】一実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造装置が有する溝深さ監視システムを冷間圧延鋼板の搬送方向前側から見た斜視図である。
図5】一実施形態に係る溝深さ監視システムの制御装置のハードウェア構成図である。
図6】一実施形態に係る溝深さ監視システムの制御装置の機能ブロック図である。
図7】一実施形態に係る溝深さ監視処理の一例を示すフローチャートである。
図8】一実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造試験の試験結果を示す表である。
図9】一実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造試験において、方向性電磁鋼板の表面に形成された溝の深さと、方向性電磁鋼板の鉄損改善率との関係を示すグラフである。
図10】一実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造試験において、方向性電磁鋼板の表面に対するレーザビームのフォーカスのずれ量と、方向性電磁鋼板の表面に形成された溝の深さとの関係を示すグラフである。
図11】一実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造試験において、方向性電磁鋼板の表面に対するレーザビームのフォーカスのずれ量と、方向性電磁鋼板の表面にレーザビームを照射して溝を形成した際に発生するスパッタ量との関係を示すグラフである。
図12】一実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造試験において、方向性電磁鋼板の表面に対するレーザビームのフォーカスのずれ量と、方向性電磁鋼板の表面を研磨ブラシロールによって研磨する際に研磨ブラシロールに発生する回転トルクとの関係を示すグラフである。
図13】一実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造試験において、方向性電磁鋼板の表面にレーザビームを照射して溝を形成した際に発生するスパッタ量と、方向性電磁鋼板の表面に形成された溝の深さとの関係を示すグラフである。
図14】一実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造試験において、方向性電磁鋼板の表面を研磨ブラシロールによって研磨する際に研磨ブラシロールに発生する回転トルクと、方向性電磁鋼板の表面に形成された溝の深さとの関係を示すグラフである。
図15】一実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造試験において、基準スパッタ量に対するスパッタ量の比率と、方向性電磁鋼板の表面を研磨ブラシロールによって研磨する際に研磨ブラシロールに発生する回転トルクとの関係を示すグラフである。
図16】一実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造試験において、基準スパッタ量に対するスパッタ量の比率と、基準回転トルクに対する回転トルクTの比率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、図面を参照しながら、一実施形態について説明する。なお、各図面において同一または等価な構成要素には、同一の参照符号を付与している。また、特に断りが無い限り、各構成要素は、一つに限定されず、複数存在しても良い。
【0047】
(方向性電磁鋼板)
先ず、本実施形態に係る方向性電磁鋼板の構成について説明する。
【0048】
方向性電磁鋼板は、結晶粒の磁化容易軸(体心立方晶の<100>方向)が、鋼板の圧延方向(長手方向、搬送方向)に略揃った電磁鋼板である。また、方向性電磁鋼板は、圧延方向に磁化の方向が揃った複数の磁区を有している。なお、方向性電磁鋼板は、電磁鋼板の一例である。
【0049】
方向性電磁鋼板は、その特徴的な磁区の構成から、通常の鋼板に比べて鉄損が少ないという特性を有している。方向性電磁鋼板の鉄損を更に少なくするために、方向性電磁鋼板(又は、方向性電磁鋼板の材料となる冷間圧延鋼板)の表面にレーザビームを照射して複数の溝を形成することが行われている。複数の溝は、方向性電磁鋼板の幅方向(方向性電磁鋼板の圧延方向に垂直な方向)又は方向性電磁鋼板の幅方向から若干傾いた方向に延びるように形成されるとともに、方向性電磁鋼板の圧延方向に一定間隔で配列されるように形成される。これらの溝によって、方向性電磁鋼板の磁区が細分化され、方向性電磁鋼板の鉄損が改善されている。
【0050】
方向性電磁鋼板は、方向性電磁鋼板の圧延方向に磁化し易い性質を有しているため、磁力線が流れる方向が略一定となる巻トランスの巻鉄心(鉄心材料)の材料として用いられる。巻鉄心は、例えば、方向性電磁鋼板を複数枚積層し、積層された方向性電磁鋼板を鉄心の形状となるように曲げ加工する(巻く)ことで形成される。
【0051】
なお、方向性電磁鋼板の表面に溝を形成する際には、方向性電磁鋼板の幅方向に延びるように溝を形成することが、鉄損の改善効率を良くすることができるため望ましい。ただし、例えば、方向性電磁鋼板をトランスの巻鉄心にするために、溝が形成された方向性電磁鋼板を、方向性電磁鋼板の幅方向に沿った折り曲げ線で折り曲げ加工しようとすると、溝を起点に方向性電磁鋼板が破断する可能性が高まる。そこで、方向性電磁鋼板の幅方向から若干傾いた方向に延びるように溝を形成する。この場合、方向性電磁鋼板の鉄損の改善効率は多少悪化するものの、方向性電磁鋼板を折り曲げ加工する際の破断の可能性を低減することができる。方向性電磁鋼板の表面に、方向性電磁鋼板の幅方向から若干傾いた方向に延びる溝を形成する場合、溝の傾きの角度は、適宜設定することができる。この溝の傾きの角度は、方向性電磁鋼板の鉄損の改善効率と破断の可能性とを勘案すると、例えば、0°より大きく、20°以下にすることが好ましい。
【0052】
方向性電磁鋼板は、Siを含有する鉄合金で構成されている。この方向性電磁鋼板の組成は、一例として、Si;2.5質量%以上4.0質量%以下、C;0.001質量%以上0.10質量%以下、Mn;0.05質量%以上0.20質量%以下、酸可溶性Al;0.001質量%以上0.040質量%以下、N;0.0002質量%以上0.012質量%以下、S01質量%以上0.030質量%以下、P;0.01質量%以上0.04質量%以下、残部がFe及び不可避不純物である。方向性電磁鋼板の厚さは、例えば0.15mm以上で、かつ0.35mm以下である。
【0053】
方向性電磁鋼板の表面は、グラス被膜で被膜されている。グラス被膜は、例えば、フォルステライト(MgSiO)、スピネル(MgAl)及びコージライト(MgAlSi18)、といった複合酸化物によって構成されている。このグラス被膜の厚さは、例えば1μmである。
【0054】
グラス被膜は、絶縁被膜でさらに被膜されている。絶縁被膜は、例えば、コロイド状シリカとリン酸塩(リン酸マグネシウム、リン酸アルミニウムなど)を主体とする絶縁被膜剤(コーティング液)、又はアルミナゾルとホウ酸を混合した絶縁被膜剤(コーティング液)によって構成されている。
【0055】
(方向性電磁鋼板の製造装置)
次に、本実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造装置の構成について説明する。
【0056】
図1及び図2には、本実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造装置10を冷間圧延鋼板12の幅方向から見た側面図が示されている。方向性電磁鋼板の製造装置10(以下、「製造装置10」ともいう)は、方向性電磁鋼板14(図2参照)を製造する装置である。図1図2とは、製造装置10の製造ラインとして連続している。方向性電磁鋼板14の材料となる熱間圧延鋼板は、図1に示すように、製造装置10に含まれる各装置で処理された後、図2に示すように、製造装置10に含まれる各装置で処理されることで、鉄損が改善された方向性電磁鋼板14となる。なお、冷間圧延鋼板は、圧延鋼板、及び鋼板の一例である。
【0057】
製造装置10は、一例として、仕上げ圧延機15、油膜除去装置20、ビーム照射装置30、研磨装置40、脱炭焼鈍装置50、焼鈍分離剤塗布装置55、最終仕上げ焼鈍装置60、絶縁被膜剤塗布装置70、及び、平坦化焼鈍装置80を備えている。これらの仕上げ圧延機15、油膜除去装置20、ビーム照射装置30、研磨装置40、脱炭焼鈍装置50、焼鈍分離剤塗布装置55、最終仕上げ焼鈍装置60、絶縁被膜剤塗布装置70、及び、平坦化焼鈍装置80は、方向性電磁鋼板14(図2参照)の製造ラインに沿って、方向性電磁鋼板14の搬送方向に向かって、この順番で配置されている。
【0058】
(仕上げ圧延機)
図1に示されるように、仕上げ圧延機15は、公知の複数の粗圧延機で圧延されることで生成されるとともに方向性電磁鋼板14(図2参照)の材料となる熱間圧延鋼板を、所望の板厚となるように圧延(冷間圧延)することで、冷間圧延鋼板12を生成する圧延機である。本実施形態に係る仕上げ圧延機15としては、公知の仕上げ圧延機を適宜使用することができる。
【0059】
なお、矢印Xは、冷間圧延鋼板12(方向性電磁鋼板14)の搬送方向及び圧延方向を示す。また、以下では、矢印Xが示す方向を搬送方向Xという。また、搬送方向Xは、冷間圧延鋼板12(方向性電磁鋼板14)の長手方向と一致する。
【0060】
(油膜除去装置)
油膜除去装置20は、仕上げ圧延機15によって生成された冷間圧延鋼板12の表面12A及び裏面12Bに付着した油膜を除去する装置である。
【0061】
ここで、仕上げ圧延機15によって冷間圧延鋼板12を生成する際には、仕上げ圧延機15の圧延ロールと冷間圧延鋼板12(熱間圧延鋼板)と間の摩擦を低減するために、圧延ロール及び冷間圧延鋼板12(熱間圧延鋼板)の少なくとも一方に油(圧延油)を差したうえで、冷間圧延鋼板12(熱間圧延鋼板)が圧延される。そのため、圧延直後の冷間圧延鋼板12の表面12A及び裏面12Bには、圧延油が油膜となって付着している。油膜除去装置20は、このように冷間圧延鋼板12の表面12A及び裏面12Bに付着した圧延油(油膜)を除去する。
【0062】
油膜除去装置20は、一対の洗浄ブラシロール22を有している。一対の洗浄ブラシロール22は、冷間圧延鋼板12の表面12A側及び裏面12B側に配置されている。
【0063】
洗浄ブラシロール22は、ロール22A及び洗浄ブラシ22Bを有している。ロール22Aは、その回転軸の方向が、冷間圧延鋼板12の幅方向と平行となるように配置されている。また、ロール22Aの軸方向の両端側は、図示しない軸受けによって回転可能にそれぞれ支持されている。ロール22A、すなわち洗浄ブラシロール22は、図示しないモータ等によって回転される。なお、洗浄ブラシロール22の回転方向は、特に限定されない。ただし、洗浄ブラシロール22の回転方向を冷間圧延鋼板12の搬送方向Xと逆方向とした方が、冷間圧延鋼板12の表面12A及び裏面12Bの洗浄を効率的に行うことができるため好ましい。
【0064】
洗浄ブラシ22Bは、ロール22Aから放射状に延び出す複数の毛材を有している。洗浄ブラシ22Bは、冷間圧延鋼板12の表面12A又は裏面12Bに付着した油膜を除去可能なように、複数の毛材の先端部が冷間圧延鋼板12の表面12A又は裏面12Bに接触するように配置されている。洗浄ブラシ22Bの毛材は、冷間圧延鋼板12の表面12A又は裏面12Bに疵等のダメージを与えないように、後述する研磨ブラシ44Bよりも柔らかいナイロン等によって形成されている。この洗浄ブラシ22Bには、図示しない洗浄液供給ノズルから、油膜を除去可能な洗浄剤が供給される。洗浄剤としては、例えば、アルカリ洗浄剤が用いられる。油膜除去装置20は、ロール22Aの回転に応じて、洗浄ブラシ22Bの複数の毛材を冷間圧延鋼板12の表面12A又は裏面12Bに順次擦り付ける。これにより、油膜除去装置20は、冷間圧延鋼板12の表面12A又は裏面12Bに広がった油膜を、洗浄剤を適宜用いつつ、削ぎ落すことができる。
【0065】
なお、油膜除去装置20の直後に、冷間圧延鋼板12の表面12A及び裏面12Bに付着した洗浄剤等を乾燥させるための図示しない乾燥機を設けても良い。
【0066】
(ビーム照射装置)
ビーム照射装置30は、一例として、油膜除去装置20によって油膜が除去された冷間圧延鋼板12の表面12Aに、レーザビームLを照射して溝を形成する装置である。
【0067】
具体的には、ビーム照射装置30は、冷間圧延鋼板12の表面12A及び裏面12Bのうち、冷間圧延鋼板12の表面12AにレーザビームLを照射する。そして、ビーム照射装置30は、レーザビームLで冷間圧延鋼板12の表面12Aを走査することで、当該表面12Aに、冷間圧延鋼板12の幅方向に平行な方向又は冷間圧延鋼板12の幅方向から所定の角度(好ましくは、0°より大きく、20°以下の角度)だけ傾いた方向(これらの方向を、走査方向とも称する)に延びる溝を形成する。
【0068】
また、ビーム照射装置30は、走査方向に延びる溝を、冷間圧延鋼板12の搬送方向Xに所定ピッチで複数形成する。これらの溝によって、方向性電磁鋼板14(図2参照)の磁区を細分化することで、方向性電磁鋼板14の鉄損が改善される。
【0069】
なお、レーザビームLの種類としては、例えば、ファイバーレーザ、YAGレーザ、又はCOレーザを用いることができる。また、レーザビームLの波長としては、例えば、1060~1090nm、又は10.6μmを用いることができる。さらに、レーザビームLの波長としては、例えば、150nm~11000nm(11μm)を用いることができる。各溝の深さは、例えば20μmとされる。また、溝の幅は、例えば50μmとされる。さらに、溝の間隔(ピッチ)は、例えば3mmとされる。
【0070】
また、ビーム照射装置30は、レーザビームに限らず、例えば、冷間圧延鋼板12の表面12Aに、電子ビームを照射して溝を形成する装置でもよい。
【0071】
(研磨装置)
研磨装置40は、ビーム照射装置30によるレーザビームLの照射後で、かつ、後述する脱炭焼鈍装置50で脱炭焼鈍する前に、冷間圧延鋼板12の表面12Aに、当該表面12Aに溝を形成する際に発生したスパッタや溶融物等に起因して付着した溶融突起や飛散物等の付着物を、研磨又は研削して除去する装置である。
【0072】
研磨装置40は、一対のバックアップロール42及び研磨ブラシロール44を有している。バックアップロール42は、その回転軸の方向が、冷間圧延鋼板12の幅方向と平行となるように配置されている。また、バックアップロール42の軸方向の両端側は、図示しない軸受けによって回転可能にそれぞれ支持されている。バックアップロール42は、冷間圧延鋼板12の表面12A及び裏面12Bのうち、溝が形成されていない裏面12B側に配置され、当該裏面12Bを支持している。
【0073】
研磨ブラシロール44は、冷間圧延鋼板12に対してバックアップロール42の反対側(溝が形成された表面12A側)に配置されている。この研磨ブラシロール44は、ロール44A及び研磨ブラシ44Bを有している。ロール44Aは、その回転軸の方向が、冷間圧延鋼板12の幅方向と平行となるように配置されている。また、ロール44Aの軸方向の両端側は、図示しない軸受けによって回転可能にそれぞれ支持されている。ロール44A、すなわち研磨ブラシロール44は、図示しないモータ等によって回転される。なお、研磨ブラシロール44の回転方向は、特に限定されない。ただし、研磨ブラシロール44の回転方向を冷間圧延鋼板12の搬送方向Xと逆方向とした方が、冷間圧延鋼板12の表面12Aの研磨を効率的に行うことができるため好ましい。
【0074】
研磨ブラシ44Bは、ロール44Aから放射状に延び出す複数の毛材を有している。複数の毛材は、前述した洗浄ブラシ22Bよりも硬いナイロンや、砥粒入りのナイロン等によって形成される。複数の毛材の先端部は、冷間圧延鋼板12の表面12Aに接触するように配置されている。研磨装置40は、研磨ブラシロール44の回転に応じて、研磨ブラシ44Bの毛材の先端部を冷間圧延鋼板12の表面12Aに順次擦り付ける。これにより、研磨装置40は、冷間圧延鋼板12の表面12Aから突出した溶融突起等の付着物を、削ぎ落すことができる。
【0075】
なお、本実施形態では、前述したビーム照射装置30のレーザビームLの走査方向が、冷間圧延鋼板12の幅方向に平行な方向である場合、及び冷間圧延鋼板12の幅方向から所定の角度だけ傾いた方向である場合のいずれの場合であっても、洗浄ブラシロール22及び研磨ブラシロール44の回転軸の方向は、冷間圧延鋼板12の幅方向と平行な方向とされる。しかし、レーザビームLの走査方向が冷間圧延鋼板12の幅方向から所定の角度だけ傾いた方向である場合で、かつ、冷間圧延鋼板12の搬送速度等を調整することで、冷間圧延鋼板12の蛇行を抑制可能な場合は、洗浄ブラシロール22及び研磨ブラシロール44の回転軸の方向を、冷間圧延鋼板12の幅方向と平行な方向から上記の所定角度までの範囲内で、冷間圧延鋼板12の幅方向に対して傾けても良い。
また、研磨装置40の直後に、冷間圧延鋼板12の表面12A及び裏面12Bに付着した研磨剤や水分等を乾燥させるための図示しない乾燥機を設けても良い。
【0076】
(脱炭焼鈍装置)
脱炭焼鈍装置50は、溝が形成された冷間圧延鋼板12を脱炭焼鈍する装置である。より具体的には、脱炭焼鈍装置50は、溝が形成された冷間圧延鋼板12を、所定の温度(例えば、700℃~900℃)、及び所定の加熱時間(例えば、1分~3分)等で脱炭焼鈍(連続焼鈍)する。これにより、後述するように、冷間圧延鋼板12内に一次再結晶(結晶粒径:10~30μm)が生成されるとともに、冷間圧延鋼板12の表面12A及び裏面12Bに、シリカ(SiO2)を主体とする酸化物層が形成される。
【0077】
ここで、脱炭焼鈍装置50によって冷間圧延鋼板12を脱炭焼鈍すると、冷間圧延鋼板12が脱炭されるとともに、冷間圧延鋼板12内に一次再結晶(結晶粒径:10~30μm)が生成される。また、冷間圧延鋼板12を脱炭焼鈍すると、冷間圧延鋼板12の表面12A及び裏面12Bに、シリカ(SiO2)を主体とする酸化物層が形成される。
【0078】
なお、例えば、脱炭焼鈍中又は脱炭焼鈍後で、かつ、冷間圧延鋼板12の表面12A及び裏面12B上に焼鈍分離剤を塗布する前に、含アンモニア雰囲気での熱処理によって冷間圧延鋼板12を窒化することも可能である(例えば150~300ppm)。
【0079】
(焼鈍分離剤塗布装置)
焼鈍分離剤塗布装置55は、脱炭焼鈍によって冷間圧延鋼板12の表面12A及び裏面12B上に形成された酸化物層の上に、マグネシア(MgO)を主体とする焼鈍分離剤を塗布する装置である。冷間圧延鋼板12は、焼鈍分離剤塗布装置55によって焼鈍分離剤が塗布された後、図示しない巻き取り装置によってコイル状に巻き取られる。
【0080】
(最終仕上げ焼鈍装置)
図2に示されるように、最終仕上げ焼鈍装置60は、脱炭焼鈍装置50によって脱炭焼鈍された冷間圧延鋼板12を焼鈍し、二次再結晶を生成する装置である。より具体的には、最終仕上げ焼鈍装置60は、脱炭焼鈍装置50で脱炭焼鈍されるとともに、焼鈍分離剤塗布装置55で焼鈍分離剤が塗布されたコイル状の冷間圧延鋼板12を、バッチ式炉内に挿入して熱処理を行う。熱処理条件は、例えば、加熱温度が1100℃~1300℃で、加熱時間が20~24時間である。この熱処理によって、冷間圧延鋼板12内において、冷間圧延鋼板12の搬送方向Xと磁化容易軸とが一致した、いわゆるゴス粒が優先的に結晶成長する(二次再結晶が生成される)。この結果、結晶方位性(結晶配向性)が高い方向性電磁鋼板14が得られる。また、最終仕上げ焼鈍装置60による最終仕上げ焼鈍の際に、酸化物層と焼鈍分離剤とが反応し、冷間圧延鋼板12の表面12A及び裏面12Bにフォルステライト(MgSiO)からなるグラス被膜が形成され、方向性電磁鋼板14が形成される。
【0081】
(絶縁被膜剤塗布装置)
絶縁被膜剤塗布装置70は、コイル状に巻き取られるとともに、二次再結晶が生成された方向性電磁鋼板14を巻き解くことで板状に伸ばす。また、絶縁被膜剤塗布装置70は、伸ばされた方向性電磁鋼板14の表面14A及び裏面14B上のグラス被膜の上に、電気絶縁性を付与可能で、かつ、表面14A及び裏面14Bに所定の張力を付与可能な絶縁被膜剤(コーティング液)を塗布する。
【0082】
(平坦化焼鈍装置)
平坦化焼鈍装置80は、絶縁被膜剤が塗布された方向性電磁鋼板14を、搬送装置によって搬送しながら、所定温度(例えば、800℃~850℃)、所定時間(例えば、10秒以上120秒以下)で焼鈍し、方向性電磁鋼板14の表面14A及び裏面14Bに絶縁被膜剤の焼付けを行う。これにより、方向性電磁鋼板14の表面14A及び裏面14Bに絶縁被膜を形成する。また、方向性電磁鋼板14には、搬送装置から方向性電磁鋼板14の搬送方向Xに張力(通板張力)が付与される。この結果、最終仕上げ焼鈍の際に方向性電磁鋼板14に加わった巻癖やひずみが除去され、方向性電磁鋼板14が平坦化される。また、方向性電磁鋼板14の表面14A及び裏面14Bの絶縁被膜によって、方向性電磁鋼板14に電気的な絶縁性が付与される。
【0083】
(方向性電磁鋼板の製造方法)
次に、本実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法の一例について説明する。
【0084】
図3に示されるように、本実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法は、一例として、鋳造工程、熱間圧延工程、焼鈍工程、冷間圧延工程、油膜除去工程、ビーム照射工程、研磨工程、脱炭焼鈍工程、焼鈍分離剤塗布工程、最終仕上げ焼鈍工程、絶縁被膜剤塗布工程、及び平坦化焼鈍工程を備えている。
【0085】
(鋳造工程~焼鈍工程)
先ず、鋳造工程(ステップP10、連続鋳造工程)において、図示しない連続鋳造機によってスラブを形成する。次に、熱間圧延工程(ステップP12)において、図示しない粗圧延機等によってスラブを熱間圧延し、所定厚さの鋼板(以下、「熱間圧延鋼板」という)を形成する。次に、焼鈍工程(ステップP14)において、熱間圧延鋼板を所定温度で焼鈍する。
【0086】
(冷間圧延工程)
次に、図1に示されるように、冷間圧延工程(ステップP16)において、例えば、表面及び裏面に圧延油(冷間圧延油)が塗布された熱間圧延鋼板を、仕上げ圧延機15によって圧延し、搬送方向Xに引き延ばすことで、所定厚さの冷間圧延鋼板12を形成する。
【0087】
(油膜除去工程)
次に、油膜除去工程(ステップP18)において、油膜除去装置20を用いて、冷間圧延鋼板12の両側の表面12A及び裏面12Bに付着した油膜を除去する。
【0088】
(ビーム照射工程)
次に、ビーム照射工程(ステップP20)において、搬送装置によって搬送されるとともに、油膜が除去された冷間圧延鋼板12の表面12Aに、ビーム照射装置30を用いてレーザビームLを照射して複数の溝(レーザ溝)を形成する。
【0089】
具体的には、搬送装置によって搬送された冷間圧延鋼板12の表面12Aに、ビーム照射装置30からレーザビームLを照射し、当該表面12Aに冷間圧延鋼板12の幅方向に平行な方向又は冷間圧延鋼板12の幅方向から所定の角度(好ましくは、0°より大きく、20°以下の角度)だけ傾いた方向に沿った溝を形成する。
【0090】
また、ビーム照射装置30は、冷間圧延鋼板12の表面12Aに、冷間圧延鋼板12の搬送方向Xに所定の間隔(ピッチ)で複数の溝を形成する。これらの溝によって、方向性電磁鋼板14の磁区が細分化され、方向性電磁鋼板14の鉄損が改善される。
【0091】
(研磨工程)
次に、研磨工程(ステップP22)において、レーザビームLによって溝が形成された冷間圧延鋼板12の表面12Aに付着した溶融突起や飛散物等の付着物を、冷間圧延鋼板12を脱炭焼鈍装置50で脱炭焼鈍する前に、研磨装置40を用いて除去する。
【0092】
具体的には、研磨装置40において、図示しない研磨液供給ノズルから冷間圧延鋼板12の表面12Aに砥粒を含む研磨液を供給しながら、図示しないモータによって研磨ブラシロール44を回転させる。又は、研磨装置40において、研磨液供給ノズルから冷間圧延鋼板12の表面12Aに水からなる研磨液を供給しながら、図示しないモータによって砥粒入りのナイロン等の毛材を有する研磨ブラシロール44を回転させる。これにより、冷間圧延鋼板12の表面12Aに付着した付着物が、回転する研磨ブラシロール44に取り付けられた研磨ブラシ44Bによって研磨され、除去される。
【0093】
(脱炭焼鈍工程)
次に、脱炭焼鈍工程(ステップP24)において、脱炭焼鈍装置50を用いて、溝が形成された冷間圧延鋼板12を所定温度(例えば、700℃~900℃)で脱炭焼鈍(連続焼鈍)する。これにより、冷間圧延鋼板12が脱炭されるとともに、冷間圧延鋼板12内に、一次再結晶(結晶粒径:10~30μm)が生成される。また、冷間圧延鋼板12を脱炭焼鈍することで、冷間圧延鋼板12の表面12A及び裏面12Bに、シリカ(SiO2)を主体とする酸化物層が形成される。
【0094】
(焼鈍分離剤塗布工程)
次に、焼鈍分離剤塗布工程(ステップP26)において、焼鈍分離剤塗布装置55を用いて、脱炭焼鈍の際に形成された冷間圧延鋼板12の表面12A及び裏面12Bの酸化物層の上に、マグネシア(MgO)を主体とする焼鈍分離剤を塗布する。その後、図示しない巻き取り装置によって、冷間圧延鋼板12をコイル状に巻き取る。
【0095】
(最終仕上げ焼鈍工程)
次に、図2に示されるように、最終仕上げ焼鈍工程(ステップP28)において、最終仕上げ焼鈍装置60を用いて、コイル状の冷間圧延鋼板12を、所定温度(例えば、約1200℃)、所定時間(例えば、約20時間)で焼鈍(バッチ焼鈍)する。熱処理条件は、例えば、加熱温度が1100~1300℃で、加熱時間が20~24時間である。
【0096】
これにより、冷間圧延鋼板12内に二次再結晶が生成され、磁化容易軸が冷間圧延鋼板12の搬送方向Xに略揃った結晶方位が生じるとともに、冷間圧延鋼板12の表面12A及び裏面12B上にグラス被膜が形成される。この結果、方向性電磁鋼板14が形成される。その後、コイル状の方向性電磁鋼板14は、巻き解かれる。
【0097】
ここで、方向性電磁鋼板14は、例えば、MnSやAlN等のインヒビターを含む。これにより、最終仕上げ焼鈍工程では、方向性電磁鋼板14の搬送方向Xに磁化容易軸が略揃ったゴス方位の結晶粒が優先的に結晶成長する。この結果、結晶方位性(結晶配向性)が高い方向性電磁鋼板14が形成される。
【0098】
(絶縁被膜剤塗布工程)
次に、絶縁被膜剤塗布工程(ステップP30)において、絶縁被膜剤塗布装置70を用いて、電気絶縁性を有するとともに方向性電磁鋼板14の表面14A及び裏面14Bに所定の張力を付与可能な絶縁被膜剤(コーティング液)を、方向性電磁鋼板14の表面14A及び裏面14Bに塗布する。なお、通常は、絶縁被膜剤塗布装置70での絶縁被膜剤の塗布は、方向性電磁鋼板14の表面14A及び裏面14Bの残留未反応のマグネシアを洗浄し、乾燥後に行う。
【0099】
(平坦化焼鈍工程)
次に、平坦化焼鈍工程(ステップP32)において、平坦化焼鈍装置80を用いて、絶縁被膜剤が塗布された方向性電磁鋼板14を搬送装置で搬送しながら、所定温度(例えば、800℃~850℃)、所定時間(例えば、10秒以上120秒以下)で焼鈍(平坦化焼鈍)する。
【0100】
この際、方向性電磁鋼板14には、搬送装置から方向性電磁鋼板14の搬送方向Xに張力(通板張力)が付与される。これにより、最終仕上げ焼鈍時の方向性電磁鋼板14の巻癖やひずみが除去され、方向性電磁鋼板14が平坦化される。
【0101】
また、平坦化焼鈍工程において、方向性電磁鋼板14が焼鈍されると、方向性電磁鋼板14の表面14A及び裏面14Bに絶縁被膜剤が焼き付けられ、絶縁被膜剤によって方向性電磁鋼板14の表面14A及び裏面14Bが絶縁被膜される。その後、方向性電磁鋼板14が冷却される。
【0102】
(溝深さ監視システム)
次に、本実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造装置が有する溝深さ監視システムについて説明する。
【0103】
図4は、本実施形態に係る溝深さ監視システム100を、冷間圧延鋼板12の搬送方向Xの前側から見た斜視図である。本実施形態に係る溝深さ監視システム100は、冷間圧延鋼板12の表面12Aに形成された溝Gの深さが基準値以上か否かを監視するシステムである。図4に示されるように、この溝深さ監視システム100は、制御装置130を備えている。図4に示す実施形態では、溝深さ監視システム100は、制御装置130と、スパッタ量検出装置110と、トルク検出装置120とを備える。制御装置130には、スパッタ量検出装置110及びトルク検出装置120(図1参照)が有線又は無線で通信可能に接続されている。
【0104】
(スパッタ量検出装置)
スパッタ量検出装置110は、ビーム照射装置30によって冷間圧延鋼板12の表面12Aに溝Gを形成する際に発生するスパッタ量を検出する装置である。このスパッタ量検出装置110は、撮像機器112、及び減光フィルタ114を備えている。
【0105】
撮像機器(撮像部)112は、例えば、ビーム照射装置30によって冷間圧延鋼板12の表面12Aに溝Gを形成する際に、溝G周辺に飛散するスパッタSPを撮影するカメラとされる。この撮像機器112は、一例として、ビーム照射装置30によって冷間圧延鋼板12の表面12Aに溝Gを形成する際に、搬送装置16によって搬送される冷間圧延鋼板12の幅方向外側から溝G周辺の所定領域を撮影し、撮影した画像情報を後述する制御装置130に出力する。
【0106】
なお、撮像機器112は、溝G周辺の所定領域の動画を撮影しても良いし、静止画を撮影しても良い。
【0107】
減光フィルタ114は、撮像機器112によってスパッタSPを撮影する際に、撮像機器112に入射するスパッタSP以外の光を減光するフィルタである。この減光フィルタ114の減光率は、例えば、75%に設定される。
【0108】
なお、減光フィルタ114の減光率は、10%以上が好ましく、50%以上がより好ましい。また、減光フィルタ114の減光率は、95%以下が好ましく、75%以下がより好ましい。
【0109】
(トルク検出装置)
トルク検出装置120は、冷間圧延鋼板12の表面12Aに付着した付着物を研磨ブラシロール44によって除去する際に研磨ブラシロール44に発生する回転トルクを検出する。即ち、トルク検出装置120は、図1に示されるように、ビーム照射装置30で溝Gを形成する際に生じた冷間圧延鋼板12の表面12Aに付着したスパッタSP(図4参照)等の付着物を、研磨装置40によって除去する際に、研磨ブラシロール44に発生する回転トルクを検出する装置である。
【0110】
トルク検出装置120は、例えば、研磨ブラシロール44を回転駆動する図示しないモータに供給される電流値を計測する電流計とされる。このトルク検出装置120は、計測した電流値を、後述する制御装置130に出力する。
【0111】
(制御装置の概要)
制御装置130は、溝深さ監視システム100の全体の動作を制御する。また、制御装置130は、冷間圧延鋼板12の表面12Aに形成された溝Gの深さが基準値以上か否かを判定する。そして、冷間圧延鋼板12の表面12Aに形成された溝Gの深さが、基準値未満の場合に、例えば、後述する入出力装置148(図5参照)の表示部に警告等を表示する。
【0112】
(制御装置のハードウェア構成)
先ず、制御装置130のハードウェア構成について説明する。
【0113】
制御装置130は、例えば、図5に示されるコンピュータ140で実現される。コンピュータ140は、CPU(Central Processing Unit)142、一時記憶領域としてのメモリ144と、不揮発性の記憶部146とを備えている。また、コンピュータ140は、入出力装置148を備えている。これらのCPU142、メモリ144、記憶部146、及び入出力装置148は、バス149を介して互いに接続されている。なお、CPU142は、制御部の一例である。
【0114】
記憶部146は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、フラッシュメモリ等によって実現される。記録媒体としての記憶部146には、コンピュータ140を、制御装置130として機能させるための溝深さ監視プログラムが予め記憶されている。また、記憶部146には、各種のデータを記憶する記憶領域が設けられている。
【0115】
入出力装置148は、マウス等のポインティングデバイス、キーボード、及び表示部を含み、各種の入力を行うために使用される。
【0116】
CPU142は、溝深さ監視プログラムを記憶部146から読み出してメモリ144に展開して実行する。これにより、溝深さ監視プログラムを実行したコンピュータ140が、制御装置130として機能する。
【0117】
(制御装置の機能)
次に、制御装置130の機能について説明する。
【0118】
図6に示されるように、制御装置130は、前述した溝深さ監視プログラムを実行する際に、上記のハードウェア資源を用いて、各種の機能を実現する。具体的には、制御装置130は、機能的に、スパッタ量取得部132と、トルク取得部133と、溝深さ判定部134と、報知部136とを有している。これらのスパッタ量取得部132、溝深さ判定部134、及び報知部136は、CPU142が、記憶部146に記憶された溝深さ監視プログラムを読み出して実行することで実現される。
【0119】
(スパッタ量取得部)
スパッタ量取得部132は、スパッタ量検出装置110によって検出されたスパッタ量を取得する。具体的には、スパッタ量取得部132は、スパッタ量検出装置110の撮像機器112で撮影された画像情報を処理し、ビーム照射装置30によって冷間圧延鋼板12の表面12Aに溝Gを形成する際に、溝G周辺に飛散するスパッタ量を算出して取得する。
【0120】
なお、スパッタ量とは、ビーム照射装置30によって冷間圧延鋼板12の表面12Aに溝Gを形成する際に、溝G周辺に飛散するスパッタSP(図4参照)の量である。
【0121】
スパッタ量取得部132は、一例として、撮像機器112から入力された画像情報の各画素を、明るさ(輝度値)に応じて複数のランク(例えば、256段階(0~255))に分類する。そして、スパッタ量取得部132は、撮像機器112から入力された画像情報のうち、ランクが基準ランク以上の画素の数をスパッタ量(スパッタ画素数)として算出(カウント)する。
【0122】
なお、基準ランクは、例えば、150に設定される。この画素の基準ランクは、減光フィルタ114の減光率や、スパッタSPを撮影する環境の照度に基づいて適宜設定される。また、スパッタ量(スパッタ画素数)は、撮像機器112によって撮影された溝G周辺の所定領域(撮影領域)のうち、画素の明るさのランクが基準ランク以上の領域の面積と捉えることができる。
【0123】
(トルク取得部)
トルク取得部133は、トルク検出装置120によって検出された研磨ブラシロール44の回転トルクを取得する。具体的には、トルク取得部133は、トルク検出装置120から、当該トルク検出装置120によって検出されたモータの電流値を取得し、取得した電流値に基づいて研磨ブラシロール44の回転トルクを算出する。
【0124】
トルク取得部133は、一例として、下記式に基づいて、回転トルクを算出する。
回転トルク(N・m)=Kt×Ia
ただし、
Kt:トルク定数(N・m/A)
Ia:モータの電流値(A)
である。
【0125】
なお、トルク定数Ktは、研磨ブラシ44Bの仕様(材質及び長さ等)、研磨液の仕様(種類及び供給量等)、及び研磨ブラシロール44を回転させるモータの仕様(出力等)等に応じて設定される。
【0126】
また、トルク検出装置120は、研磨ブラシロール44を回転駆動するモータに供給される電流値に限らず、周知の方法によって研磨ブラシロール44の回転トルクを検出しても良い。
【0127】
なお、本実施形態では、トルク取得部133が、トルク検出装置120によって検出された電流値に基づいて、研磨ブラシロール44の回転トルクを算出した。しかし、トルク検出装置120に研磨ブラシロール44の回転トルクの算出機能を設けても良い。この場合、トルク取得部133は、トルク検出装置120から研磨ブラシロール44の回転トルクを取得する。
【0128】
(溝深さ判定部)
溝深さ判定部134は、スパッタ量取得部132で取得したスパッタ量と、予め定められた基準スパッタ量と、トルク取得部133で取得した研磨ブラシロール44の回転トルクと、予め定められた基準回転トルクとに基づいて、冷間圧延鋼板12の表面12Aに形成された溝Gの深さが基準値以上か否かを判定する。
【0129】
具体的には、溝深さ判定部134は、後述する製造試験の結果から得られた下記式(1)を満たす場合に、溝Gの深さが基準値以上であると判定する。一方、溝深さ判定部134は、下記式(1)を満たさない場合に、溝Gの深さが基準値未満であると判定する。
【0130】
1≧S/S0≧C1、かつ、C2≦T/T0≦C3・・・(1)
ただし、
S :スパッタ量取得部で取得したスパッタ量
S0:基準スパッタ量
C1:S1/S0
S1:冷間圧延鋼板(鋼板)の表面に深さが基準値の溝を形成する際に発生する最小スパッタ量
T :トルク取得部で取得した回転トルク
T0:基準回転トルク
C2:T1/T0
T1:深さが基準値の溝が形成された冷間圧延鋼板(鋼板)の表面に付着した付着物を、研磨ブラシロールによって除去する際に発生する最小回転トルク
C3:T2/T0
T2:深さが基準値の溝が形成された冷間圧延鋼板(鋼板)の表面に付着した付着物を、研磨ブラシロールによって除去する際に発生する最大回転トルク
である。
【0131】
なお、式(1)については、製造試験において後述する。
【0132】
(報知部)
報知部136は、溝深さ判定部134によって、溝Gの深さが基準値未満であると判定された場合、例えば、入出力装置148の表示部に警告等のメッセージを表示する。なお、報知部136は、警告等のメッセージに限らず、例えば、警報等を発生するように構成されても良い。
【0133】
(方向性電磁鋼板の溝深さ監視方法)
次に、制御装置130の動作について説明しつつ、方向性電磁鋼板の溝深さ監視方法の一例について説明する。
【0134】
前述した冷間圧延鋼板12通板中(方向性電磁鋼板14の製造中)に、制御装置130において、例えば、溝深さ監視処理が定期的に実行される。溝深さ監視処理は、スパッタ量取得工程と、トルク取得工程と、溝深さ判定工程とを有している。なお、溝深さ監視処理は、電磁鋼板の溝深さ監視方法の一例である。また、スパッタ量取得工程及びトルク取得工程は、冷間圧延鋼板12通板中に実施し、溝深さ判定工程は、冷間圧延鋼板12通板中に実施しても良い。溝深さ判定工程は、方向性電磁鋼板14の製造後に実施しても良い。
【0135】
(スパッタ量取得工程)
図7に示されるように、先ず、ステップS10において、CPU142は、前述したビーム照射工程と並行して、スパッタ量取得工程を実施し、ビーム照射装置30によって冷間圧延鋼板12の表面12Aに溝Gを形成する際に発生したスパッタ量Sを取得する。
【0136】
具体的には、CPU142は、ビーム照射装置30によって冷間圧延鋼板12の表面12Aに溝Gを形成する際に、スパッタ量検出装置110の撮像機器112を制御しても良い。これにより、ビーム照射装置30によって冷間圧延鋼板12の表面12Aに溝Gを形成する際に、溝G周辺に飛散したスパッタSPが撮像機器112によって撮影され、撮影された画像情報が制御装置130に出力される。CPU142は、撮像機器112から出力された画像情報に基づき、輝度値が高い箇所を判定することで、スパッタ量Sを算出(検出)する。
【0137】
(トルク取得工程)
次に、CPU142は、ステップS12において、前述した研磨工程と並行してトルク取得工程を実施し、冷間圧延鋼板12の表面12Aに付着した付着物を研磨ブラシロール44によって研磨する際に、研磨ブラシロール44に発生した回転トルクTを取得する。
【0138】
具体的には、CPU142は、冷間圧延鋼板12の表面12Aに付着した付着物を研磨ブラシロール44によって研磨する際に、トルク検出装置120を制御しても良い。トルク検出装置120は、冷間圧延鋼板12の表面12Aに付着した付着物を研磨装置40の研磨ブラシロール44によって研磨する際に、研磨ブラシロール44を回転する図示しないモータに供給される電流値を検出し、検出した電流値を制御装置130に出力する。CPU142は、トルク検出装置120から出力された電流値に基づいて、研磨ブラシロール44に発生した回転トルクTを算出することで、回転トルクTを取得する。
【0139】
なお、スパッタ量取得工程及びトルク取得工程は、冷間圧延鋼板12通板中(方向性電磁鋼板14の製造中)に、連続的又は定期的に実施される。
【0140】
(溝深さ判定工程)
次に、CPU142は、ステップS14において、溝深さ判定工程を実施し、スパッタ量取得工程において取得したスパッタ量S、基準スパッタ量S0、トルク取得工程において取得した研磨ブラシロール44の回転トルクT、及び、基準回転トルクに基づいて、冷間圧延鋼板12の表面12Aに形成された溝Gの深さが、基準値以上か否かを判定する。
【0141】
具体的には、CPU142は、上記式(1)を満たす場合に、溝Gの深さが基準値以上であると判定し、処理を終了する。一方、CPU142は、上記式(1)を満たさない場合に、溝Gの深さが基準値未満であると判定し、ステップS16に移行する。
【0142】
ステップS16において、CPU142は、入出力装置148の表示部に警告等を表示し、処理を終了する。
【0143】
(作用及び効果)
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0144】
本実施形態に係る溝深さ監視システム100は、冷間圧延鋼板12の表面12Aに、ビーム照射装置30からレーザビームLを照射して溝Gを形成する際に発生するスパッタ量Sを取得する。また、溝深さ監視システム100は、ビーム照射装置30のレーザビームLによって溝Gが形成された冷間圧延鋼板12の表面12Aに付着した付着物を研磨ブラシロール44によって除去する際に、研磨ブラシロール44に発生する回転トルクを取得する。
【0145】
そして、溝深さ監視システム100は、取得したスパッタ量Sと、予め定められた基準スパッタ量S0と、取得した研磨ブラシロール44の回転トルクTと、予め定められた基準回転トルクT0と、に基づいて、冷間圧延鋼板12の表面12Aに形成された溝Gの深さが基準値以上か否かを判定する。より具体的には、監視システム100は、上記式(1)に基づいて冷間圧延鋼板12の表面12Aに形成された溝Gの深さが基準値以上か否かを判定する。
【0146】
これにより、例えば、ビーム照射装置30のレーザビームLの出力低下、及び冷間圧延鋼板12の表面12Aに対するレーザビームLのフォーカスのずれによって、溝Gの深さが基準値未満の冷間圧延鋼板12を検出することができる。したがって、方向性電磁鋼板14の表面14Aに形成される溝Gの深さが浅くなることを抑制することができる。
【0147】
また、溝深さ監視システム100は、冷間圧延鋼板12の表面12Aに形成された溝Gの深さをリアルタイムで監視する。そのため、溝Gの深さが基準値未満の冷間圧延鋼板12を早期に検出することができる。したがって、溝Gの深さが基準値未満の方向性電磁鋼板14の製造量を低減することができる。
【0148】
ここで、ビーム照射装置30によって冷間圧延鋼板12の表面12Aに溝Gを形成する際に発生するスパッタ量Sは、基本的に、当該表面12Aに形成された溝Gの深さが浅くなるに従って減少する。そのため、スパッタ量検出装置110によって検出されたスパッタ量Sを監視することで、冷間圧延鋼板12の表面12Aに形成される溝Gの深さを推定することができる。
【0149】
ただし、冷間圧延鋼板12の表面12Aに対するレーザビームLのフォーカスのずれ量が小さい範囲では、レーザビームLのフォーカスのずれ量が大きくなるに従って、スパッタ量Sが一旦減少した後、再び増加する。そのため、スパッタ量検出装置110によって検出されたスパッタ量Sを監視するだけでは、冷間圧延鋼板12の表面12Aに対するレーザビームLのフォーカスのずれ量が小さい範囲において、レーザビームLのフォーカスのずれを検出することができない場合がある。
【0150】
ここで、冷間圧延鋼板12の表面12Aに対するレーザビームLのフォーカスのずれ量が小さい範囲では、冷間圧延鋼板12の表面12Aの温度変化等によって、発生するスパッタの粘度が高くなり、冷間圧延鋼板12の表面12Aに付着するスパッタ等の付着物の粒径が大きくなる。この結果、研磨ブラシロール44によって、冷間圧延鋼板12の表面
12Aに付着した付着物を研磨する際に、研磨ブラシロール44に発生する回転トルクTも大きくなる。
【0151】
そこで、溝深さ監視システム100では、スパッタ量検出装置110によって検出されたスパッタ量Sに加えて、トルク検出装置120によって検出された研磨ブラシロール44の回転トルクTも監視する。
【0152】
具体的には、溝深さ監視システム100のCPU142は、上記式(1)を満たす場合に、冷間圧延鋼板12の表面12Aに形成された溝Gの深さが基準値以上であると判定する。これにより、冷間圧延鋼板12の表面12Aに対するレーザビームLのフォーカスのずれ量が小さい範囲においても、レーザビームLのフォーカスのずれを検出することができる。したがって、溝深さ監視システム100の判定精度が高められる。また、冷間圧延鋼板12の表面12Aに形成される溝Gの深さが浅くなることをさらに抑制することができる。
【0153】
(製造試験)
次に、製造試験について説明する。
【0154】
本製造試験では、先ず、試験1として、方向性電磁鋼板の表面に対するレーザビームのフォーカス(焦点)のずれ量をパラメータとし、前述した製造方法によって方向性電磁鋼板を製造した。そして、製造された方向性電磁鋼板の溝の深さ、及び鉄損改善率を評価した。
【0155】
次に、試験2として、ビーム照射装置から方向性電磁鋼板の表面に照射するレーザビームのレーザパワー(出力)をパラメータとし、前述した製造方法によって方向性電磁鋼板を製造した。そして、製造された方向性電磁鋼板の溝の深さ、及び鉄損改善率を評価した。
【0156】
(溝の加工条件)
ビーム照射装置によって方向性電磁鋼板の表面に形成する溝の加工条件は、次のとおりである。
レーザビームのスキャン速度(走査速度):45[m/s]
溝のピッチ(間隔) :3[mm]
レーザビームの形状 :25×50[μm]
レーザパワー(試験1) :2000[W]、
レーザパワー(試験2) :図8参照
【0157】
(研磨ブラシロール)
研磨ブラシの材質等 :砥粒入りナイロンブラシ、線径(直径)1.4[mm]、砥粒番手80、3本束タイプ
研磨ブラシロールの回転数 :1200[rpm]
研磨ブラシロールの回転方向:方向性電磁鋼板の搬送方向と反対方向
研磨ブラシロールの圧下量 :3[mm]
研磨液 :水(砥粒を含まない)
研磨液の温度 :50℃
回数1パス :バックアップロール方式
方向性電磁鋼板の搬送速度 :60[m/m]
トルク定数Kt :9.5(N・m/A)
【0158】
(試験結果)
図8には、各試験1,2の試験結果が示されている。また、図9には、各試験1,2において、方向性電磁鋼板の表面に形成された溝の深さと、鉄損改善率ηとの関係が示されている。
【0159】
図8に示されるように、各試験1,2では、以下の基準値以上の方向性電磁鋼板を合格(実施例)とし、基準値未満の方向性電磁鋼板を比較例とした。
<基準値>
溝の深さ :20[μm]
鉄損改善率η:18[%]
【0160】
なお、溝の深さの基準値は、適宜変更可能であり、例えば、20[μm]以上、25[μm]以下の範囲で設定される。これと同様に、鉄損改善率ηの基準値も適宜変更可能である。
【0161】
方向性電磁鋼板の表面に形成された溝の深さは、測定装置(キーエンス(登録商標)WI-5000、WI-001)で測定した。溝の深さは、例えば、溝の無い任意の範囲で計測した方向性電磁鋼板の表面の平均高さをH0(>0)とし、溝の最大深さ(溝の底)の高さをH(>0)としたときに、上記測定装置を用いて、その差分(H0-H)に当たる長さを測定することで得ることができる。
【0162】
また、方向性電磁鋼板の鉄損改善率ηは、素材鋼板の鉄損を基準として下記式から求めた。
鉄損改善率η[%]=((素材鋼板の鉄損-方向性電磁鋼板の鉄損)/素材鋼板の鉄損)×100
【0163】
ここで、素材鋼板の製造方法は、ビーム照射工程、及び研磨工程を実施しない点で、上記実施形態に係る製造方法と相違する。つまり、素材鋼板には、溝が形成されてない。
【0164】
また、各素材鋼板、実施例1~6、及び比較例1~10に係る方向性電磁鋼板の鉄損[W/kg]は、以下の10枚の試験片に対し、最大磁束密度1.7テスラ、50Hzの磁場を付与したときの鉄損であり、SST(Single Sheet Tester)測定器で測定した。なお、素材鋼板の鉄損は、0.86[W/kg]である。
<試験片>
試験片の寸法:60×300[mm]
試験片の板厚:0.23[mm]
【0165】
また、本製造試験では、実施例1における溝の加工条件の場合、すなわちレーザビームのフォーカスのずれ量が0[mm]、かつ、レーザビームのレーザパワーが基準値(2000[W])の場合に、スパッタ量取得部132で取得したスパッタ量を、基準スパッタ量S0(=120000[画素])とした。これと同様に、実施例1における溝の加工条件の場合に、トルク取得部133で取得した研磨ブラシロール44の回転トルクを、基準回転トルクT0(=900[Nm])とした。
【0166】
そして、各実施例1~6及び比較例1~10について、基準スパッタ量S0に対するスパッタ量Sの比率(S/S0)、及び基準回転トルクT0に対する回転トルクTの比率(T/T0)を求めた。
【0167】
図10には、レーザビームのフォーカスのずれ量と溝の深さとの関係が示されている。この図10に示されるように、レーザビームのフォーカスのずれ量が大きくになるに従って、溝の深さが浅くなる。
【0168】
次に、図11には、レーザビームのフォーカスのずれ量とスパッタ量Sとの関係が示されている。この図11に示されるように、レーザビームのフォーカスのずれ量が0.6[mm]以上の場合、レーザビームのフォーカスのずれ量が大きくなるに従ってスパッタ量Sが減少する。
【0169】
これに対してレーザビームのフォーカスのずれ量が0.6[mm]以下の場合は、次のようになる。すなわち、レーザビームのフォーカスのずれ量が0~0.3[mm]の範囲では、レーザビームのフォーカスのずれ量が大きくなるに従ってスパッタ量Sが減少する。一方、レーザビームのフォーカスのずれ量が0.3~0.6[mm]の範囲では、レーザビームのフォーカスのずれ量が大きくなるに従ってスパッタ量Sが増加する。
【0170】
このことから、スパッタ量検出装置110によって検出されたスパッタ量Sを監視するだけでは、冷間圧延鋼板12の表面12Aに対するレーザビームのフォーカスのずれ量が小さい範囲(0.6[mm]以下)では、レーザビームのフォーカスのずれを検出することが難しいことが分かる。
【0171】
次に、図12には、レーザビームのフォーカスのずれ量と回転トルクTとの関係が示されている。この図12、及び前述した図11に示されるように、レーザビームのフォーカスのずれ量が0.3~0.6[mm]の範囲では、回転トルクT及びスパッタ量Sが同じ傾向を示している。すなわち、レーザビームのフォーカスのずれ量が0.3~0.6[mm]の範囲では、レーザビームのフォーカスのずれ量が大きくなるに従って、回転トルクT、及びスパッタ量Sが増加する。
【0172】
ここで、レーザビームのフォーカスのずれ量が0.3~0.6[mm]の範囲では、冷間圧延鋼板12の表面12Aの温度変化等によって、発生するスパッタの粘度が高くなり、冷間圧延鋼板12の表面12Aに付着するスパッタ等の付着物の粒径が大きくなる。そのため、レーザビームのフォーカスのずれ量が0.3~0.6[mm]の範囲では、冷間圧延鋼板12の表面12Aに付着した付着物を研磨する際に発生する回転トルクTが大きくなったと考えられる。
【0173】
このことから、回転トルクTを監視することで、レーザビームのフォーカスのずれ量が0.3~0.6[mm]の範囲において、フォーカスのずれを検出可能になることが分かる。つまり、スパッタ量Sに加えて、回転トルクTも監視することで、溝の深さの推定精度を高めることができる。
【0174】
具体的には、図13には、スパッタ量Sと溝の深さとの関係が示されている。この図13に示されるように、溝の深さが基準値20[μm]以上となるスパッタ量Sの条件は、100000[画素]以上となる。また、図14には、回転トルクTと溝の深さとの関係が示されている。この図14に示されるように、溝の深さが基準値20[μm]以上となる回転トルクTの条件は、800[Nm]以上、1000[Nm]以下となる。つまり、溝の深さの基準値20[μm]を満たすスパッタ量S及び回転トルクTの条件は、下記式(a)のようになる。
【0175】
S≧100000[画素]、かつ、800[Nm]≦T≦1000[Nm]・・・(a)
ただし、
S :スパッタ量取得部で取得したスパッタ量
T :トルク取得部で取得した回転トルク
である。
【0176】
ここで、上記式(a)におけるスパッタ量Sの条件を一般化すると、ビーム照射装置30によって冷間圧延鋼板12の表面12Aに基準値の深さの溝Gを形成する際に発生する最小スパッタ量(100000[画素])以上となる。また、上記式(a)における回転トルクTの条件を一般化すると、ビーム照射装置30によって基準値の深さの溝Gが形成された冷間圧延鋼板12の表面12Aに付着した付着物を、研磨ブラシロール44によって除去する際に研磨ブラシロール44に発生する最大回転トルク(1000[Nm])以下となる。そのため、上記式(a)では、上記の最小スパッタ量が基準スパッタ量となり、上記の最大回転トルクが基準回転トルクとなる。
【0177】
この場合、上記式(a)では、スパッタ量取得部132で取得したスパッタ量Sが基準スパッタ量以上で、かつ、トルク取得部133で取得した回転トルクTが基準回転トルク以下の場合に、冷間圧延鋼板12の表面12Aに形成された溝の深さが、基準値以上か否かを判定することができる。
【0178】
なお、図8に示されるように、スパッタ量取得部132で取得したスパッタ量Sが、基準スパッタ量(100000[画素])以上の場合、トルク取得部133で取得した回転トルクTは、800[Nm]以上となる。そのため、上記式(a)の回転トルクTの下限値(800[Nm])は、省略可能である。
【0179】
次に、図15には、基準スパッタ量S0に対するスパッタ量Sの比率(S/S0)と、回転トルクTとの関係が示されている。ここでの基準スパッタ量S0は、前述したように、実施例1における溝の加工条件の場合、すなわちレーザビームのフォーカスのずれ量が0[mm]、かつ、レーザビームのレーザパワーが基準値(2000[W])の場合に、スパッタ量取得部132で取得したスパッタ量(=120000[画素])である。
【0180】
図15に示されるように、溝の深さが基準値(20[μm])以上となる条件は、下記式(2)のようになる。
1≧S/S0≧C1、かつ、T1≦T≦T2・・・(2)
ただし、
S :スパッタ量取得部で取得したスパッタ量
S0:基準スパッタ量
C1:S1/S0
S1:冷間圧延鋼板(鋼板)の表面に深さが基準値の溝を形成する際に発生する最小スパッタ量
T :トルク取得部で取得した回転トルク
T1:基準回転トルクであり、深さが基準値の溝が形成された冷間圧延鋼板(鋼板)の表面に付着した付着物を、研磨ブラシロールによって除去する際に発生する最小回転トルク
T2:基準回転トルクであり、深さが基準値の溝が形成された冷間圧延鋼板(鋼板)の表面に付着した付着物を、研磨ブラシロールによって除去する際に発生する最大回転トルク
である。
【0181】
なお、本製造試験では、C1が0.83、T1が800[Nm]、T2が1000[Nm]となるが、C1、T1、及びT2は適宜変更可能である。
【0182】
また、図16には、基準スパッタ量S0に対するスパッタ量Sの比率(S/S0)と、基準回転トルクT0に対する回転トルクTの比率(T/T0)との関係が示されている。ここでの基準回転トルクT0は、前述したように、実施例1における溝の加工条件の場合に、トルク取得部133で取得した研磨ブラシロール44の回転トルク(=900[Nm])である。
【0183】
図16に示されるように、溝の深さが基準値(20[μm])以上となる条件は、前述した式(1)のようになる。
【0184】
1≧S/S0≧C1、かつ、C2≦T/T0≦C3・・・(1)
ただし、
S :スパッタ量取得部で取得したスパッタ量
S0:基準スパッタ量
C1:S1/S0
S1:冷間圧延鋼板(鋼板)の表面に深さが基準値の溝を形成する際に発生する最小スパッタ量
T :トルク取得部で取得した回転トルク
T0:基準回転トルク
C2:T1/T0
T1:深さが基準値の溝が形成された冷間圧延鋼板(鋼板)の表面に付着した付着物を、研磨ブラシロールによって除去する際に発生する最小回転トルク
C3:T2/T0
T2:深さが基準値の溝が形成された冷間圧延鋼板(鋼板)の表面に付着した付着物を、研磨ブラシロールによって除去する際に発生する最大回転トルク
である。
【0185】
なお、本製造試験では、C1が0.83、C2が0.89、C3が1.11となるが、C1、C2、C3は適宜変更可能である。
【0186】
このように式(a)、式(1)、又は式(2)を用いることで、冷間圧延鋼板12の表面12Aに形成された溝の深さが、基準値(20[μm])以上か否かを判定することができる。
【0187】
(変形例)
次に、上記実施形態の変形例について説明する。
【0188】
上記式(a)において、基準スパッタ量は、例えば、上記の最小スパッタ量に所定の安全率を乗じたスパッタ量としても良い。また、上記式(a)において、基準スパッタ量は、例えば、ビーム照射装置30によって冷間圧延鋼板12の表面12Aに基準値以上の深さの溝Gを形成する際に発生するスパッタ量を複数回計測し、計測された複数のスパッタ量の平均値としても良い。
【0189】
このように式(a)における基準スパッタ量は、ビーム照射装置30によって冷間圧延鋼板12の表面12Aに基準値以上の深さの溝Gを形成する際に発生するスパッタ量に基づいて定めることができる。
【0190】
また、上記式(a)において、基準回転トルクは、例えば、上記の最大回転トルクに所定の安全率を乗じた回転トルクとしても良い。また、上記式(a)において、基準回転トルクは、例えば、ビーム照射装置30によって基準値以上の深さの溝Gが形成された冷間圧延鋼板12の表面12Aに付着した付着物を、研磨ブラシロール44によって除去する際に研磨ブラシロール44に発生する回転トルクを複数回計測し、計測された複数の回転トルクの平均値としても良い。
【0191】
このように式(a)における基準回転トルクは、ビーム照射装置30によって基準値以上の深さの溝Gが形成された冷間圧延鋼板12の表面12Aに付着した付着物を、研磨ブラシロール44によって除去する際に研磨ブラシロール44に発生する回転トルクに基づいて定めることができる。
【0192】
次に、上記式(1)及び式(2)において、基準スパッタ量S0は、例えば、冷間圧延鋼板12の表面12Aに照射されるレーザビームLのフォーカスのずれ量が0、かつ、レーザビームLのレーザパワーが基準値の場合に、当該レーザビームLによって冷間圧延鋼板12の表面12Aに溝Gを形成する際に発生するスパッタ量に、所定の安全率を乗じたスパッタ量としても良い。また、基準スパッタ量S0は、例えば、冷間圧延鋼板12の表面12Aに照射されるレーザビームLのフォーカスのずれ量が0、かつ、レーザビームLのレーザパワーが基準値の場合に、当該レーザビームLによって冷間圧延鋼板12の表面12Aに溝Gを形成する際に発生するスパッタ量を複数回計測し、計測した複数のスパッタ量の平均値としても良い。
【0193】
このように上記式(1)及び式(2)における基準スパッタ量S0は、冷間圧延鋼板12の表面12Aに照射されるレーザビームLのフォーカスのずれ量が0、かつ、レーザビームLのレーザパワーが基準値の場合に、当該レーザビームLによって冷間圧延鋼板12の表面12Aに溝Gを形成する際に発生するスパッタ量に基づいて定めることができる。
【0194】
また、上記式(1)及び式(2)において、基準回転トルクT0は、例えば、冷間圧延鋼板12の表面12Aに照射されるレーザビームLのフォーカスのずれ量が0、かつ、レーザビームLのレーザパワーが基準値の場合に、当該レーザビームLによって溝Gが形成された冷間圧延鋼板12の表面12Aに付着した付着物を研磨ブラシロール44によって除去する際に発生する回転トルクに、所定の安全率を乗じた回転トルクとしても良い。また、例えば、上記式(1)及び式(2)において、基準回転トルクT0は、例えば、冷間圧延鋼板12の表面12Aに照射されるレーザビームLのフォーカスのずれ量が0、かつ、レーザビームLのレーザパワーが基準値の場合に、当該レーザビームLによって溝Gが形成された冷間圧延鋼板12の表面12Aに付着した付着物を研磨ブラシロール44によって除去する際に発生する回転トルクを複数回計測し、計測した複数の回転トルクの平均値としても良い。
【0195】
このように上記式(1)及び式(2)における基準回転トルクT0は、冷間圧延鋼板12の表面12Aに照射されるレーザビームLのフォーカスのずれ量が0、かつ、レーザビームLのレーザパワーが基準値の場合に、当該レーザビームLによって溝Gが形成された冷間圧延鋼板12の表面12Aに付着した付着物を研磨ブラシロール44によって除去する際に発生する回転トルクに基づいて定めることができる。
【0196】
また、上記実施形態では、制御装置130(溝深さ判定部134)が、スパッタ量検出装置110によって検出されたスパッタ量Sと、予め定められた基準スパッタ量S0と、トルク検出装置120によって検出された研磨ブラシロール44の回転トルクTと、予め定められた基準回転トルクと、に基づいて、冷間圧延鋼板12の表面12Aに形成された溝Gの深さが基準値以上か否かを判定する。
【0197】
しかし、例えば、ビーム照射装置30から冷間圧延鋼板12の表面12Aに照射されるレーザビームLのフォーカスのずれ量がない場合、又はフォーカスのずれ量が無視可能な程度に微小な場合、制御装置130(溝深さ判定部134)は、次のようにしても良い。すなわち、制御装置130(溝深さ判定部134)は、トルク検出装置120によって検出された研磨ブラシロール44の回転トルクTと、予め定められた基準回転トルクT0と、に基づいて、冷間圧延鋼板12の表面12Aに形成された溝Gの深さが基準値以上か否かを判定しても良い。
【0198】
より具体的には、制御装置130(溝深さ判定部134)は、下記式(3)を満たす場合に、冷間圧延鋼板12の表面12Aに形成された溝Gの深さが基準値以上か否かを判定しても良い。なお、下記式(3)における基準回転トルクT0は、例えば、冷間圧延鋼板12の表面12Aに照射されるレーザビームLのフォーカスのずれ量が0の場合に、レーザビームLによって基準値の深さの溝Gが形成された冷間圧延鋼板12の表面12Aに付着した付着物を、研磨ブラシロール44によって除去する際に発生する回転トルクに基づいて定められる。
【0199】
T1≦T≦T0・・・(3)
ただし、
T :トルク取得部で取得した回転トルク
T0:基準回転トルク
T1:深さが基準値の溝が形成された鋼板の表面に付着した付着物を、研磨ブラシロールによって除去する際に発生する最小回転トルク
である。
【0200】
この場合、図8に示される試験2の結果から分かるように、ビーム照射装置30のレーザビームの出力低下によって、冷間圧延鋼板12の表面12Aに形成される溝Gの深さが基準値未満の冷間圧延鋼板12を検出することができる。したがって、冷間圧延鋼板12の表面12Aに形成される溝Gの深さが浅くなることを抑制することができる。
【0201】
なお、上記製造試験では、T0が900[Nm]となり、T1が=800[Nm]となるが、T0、T1は適宜変更可能である。
【0202】
また、冷間圧延鋼板12の表面12Aに形成された溝の深さが基準値以上か否かの判定基準は、式(a)、式(1)、式(2)、及び式(3)に限らず、適宜変更可能である。
【0203】
また、上記実施形態における研磨ブラシロール44の形状、大きさ、回転速度、回転方向、研磨ブラシ44Bの材質等は、必要に応じて適宜変更可能である。
【0204】
また、上記実施形態では、製造装置10に、仕上げ圧延機15、油膜除去装置20、脱炭焼鈍装置50、焼鈍分離剤塗布装置55、最終仕上げ焼鈍装置60、絶縁被膜剤塗布装置70、及び、平坦化焼鈍装置80が設けられている。しかし、仕上げ圧延機15、油膜除去装置20、脱炭焼鈍装置50、焼鈍分離剤塗布装置55、最終仕上げ焼鈍装置60、絶縁被膜剤塗布装置70、及び、平坦化焼鈍装置80は、必要に応じて製造装置10に設ければ良く、適宜省略可能である。
【0205】
また、上記実施形態において、CPU142がソフトウェア(プログラム)を読み込んで実行した溝深さ監視処理は、CPU142以外の各種のプロセッサが実行しても良い。この場合のプロセッサとしては、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等の製造後に回路構成を変更可能なPLD(Programmable Logic Device)、及びASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の特定の処理を実行させるために専用に設計された回路構成を有するプロセッサである専用電気回路等が例示される。また、溝深さ監視処理を、これらの各種のプロセッサのうちの1つで実行しても良いし、同種又は異種の2つ以上のプロセッサの組み合わせ(例えば、複数のFPGA、及びCPUとFPGAとの組み合わせ等)で実行しても良い。また、これらの各種のプロセッサのハードウェア的な構造は、より具体的には、半導体素子等の回路素子を組み合わせた電気回路である。
【0206】
また、上記実施形態では、溝深さ監視プログラムが記憶部146に予め記憶されている。しかし、溝深さ監視プログラムは、CD-ROM(Compact Disk Read Only Memory)、DVD-ROM(Digital Versatile Disk Read Only Memory)、及びUSB(Universal
Serial Bus)メモリ等の記録媒体(非一時的記録媒体、コンピュータ可読記録媒体)に記録された形態で提供されても良い。また、プログラムは、ネットワークを介して外部装置から制御装置130にダウンロードされる形態としても良い。
【0207】
以上、一実施形態について説明したが、本開示はこうした実施形態に限定されるものでなく、一実施形態及び各種の変形例を適宜組み合わせて用いても良いし、本開示の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【0208】
また、2023年3月8日に出願された日本国特許出願2023-036047号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
【0209】
なお、以上の実施形態に関し、さらに以下の付記を開示する。
【0210】
(付記1)
方向性電磁鋼板の製造装置であって、
前記方向性電磁鋼板の材料である冷間圧延鋼板の表面にレーザビームを照射して溝を形成するレーザ照射装置と、
前記溝が形成された前記冷間圧延鋼板の表面に付着した付着物を、回転しながら研磨して除去する研磨ブラシロールと、
前記冷間圧延鋼板の表面に形成された溝の深さを判定する溝深さ監視システムと、
を有し、
前記溝深さ監視システムは、
前記レーザ照射装置を用いて前記冷間圧延鋼板の表面に溝を形成する際に発生するスパッタ量を検出するスパッタ量検出部と、
前記冷間圧延鋼板の表面に付着した付着物を前記研磨ブラシロールによって除去する際に前記研磨ブラシロールに発生するトルクを検出する研磨トルク検出部と、
前記スパッタ量検出部によって検出された前記スパッタ量と、予め定められた基準スパッタ量と、前記研磨トルク検出部によって検出された前記研磨ブラシロールのトルクと、予め定められた基準研磨トルクと、に基づいて、前記冷間圧延鋼板の表面に形成された前記溝の深さが基準値以上か否かを判定する溝深さ判定部と、
を備える、方向性電磁鋼板の製造装置。
(付記2)
前記基準スパッタ量は、前記レーザ照射装置を用いて前記冷間圧延鋼板の表面に前記基準値以上の深さの溝を形成する際に発生する最小スパッタ量であり、
前記基準研磨トルクは、前記レーザ照射装置を用いて前記基準値の深さの溝が形成された前記冷間圧延鋼板の表面に付着した付着物を、前記研磨ブラシロールによって除去する際に前記研磨ブラシロールに発生する最大トルクである、付記1に記載の方向性電磁鋼板の製造装置。
(付記3)
前記溝深さ判定部は、前記スパッタ量検出部によって検出された前記スパッタ量が前記基準スパッタ量以上で、前記研磨トルク検出部によって検出された前記研磨ブラシロールのトルクが前記基準研磨トルク以下の場合に、前記冷間圧延鋼板の表面に形成された前記溝の深さが、前記基準値以上であると判定する、付記2に記載の方向性電磁鋼板の製造装置。
(付記4)
前記溝深さ判定部は、前記基準研磨トルクが1000[Nm]で、式(1)を満たす場合に、前記冷間圧延鋼板の表面に形成された前記溝の深さが、前記基準値以上であると判定する、付記2に記載の方向性電磁鋼板の製造装置。
S/S0≧0.83、かつ、800[Nm]≦T≦1000[Nm]・・・(1)
ただし、
S :スパッタ量検出部によって検出されたスパッタ量
S0:基準スパッタ量
T :研磨トルク検出部によって検出された研磨ブラシロールのトルク
である。
(付記5)
前記溝深さ判定部は、式(2)を満たす場合に、前記冷間圧延鋼板の表面に形成された前記溝の深さが、前記基準値以上であると判定する、付記2に記載の方向性電磁鋼板の製造装置。
S/S0≧0.83、かつ、0.89≦T/T0≦1.11・・・(2)
ただし、
S :スパッタ量検出部によって検出されたスパッタ量
S0:基準スパッタ量
T :研磨トルク検出部によって検出された研磨ブラシロールのトルク
T0:基準研磨トルク
である。
(付記6)
方向性電磁鋼板の製造方法であって、
前記方向性電磁鋼板の材料である冷間圧延鋼板の表面にレーザビームを照射して溝を形成するレーザ照射装置と、
前記溝が形成された前記冷間圧延鋼板の表面に付着した付着物を、回転しながら研磨して除去する研磨ブラシロールと、
前記冷間圧延鋼板の表面に形成された溝の深さを判定する溝深さ監視システムと、
を有する製造装置を用い、
前記溝深さ監視システムを用いて、
スパッタ量検出部で、前記レーザ照射装置を用いて前記冷間圧延鋼板の表面に溝を形成する際に発生するスパッタ量を検出するスパッタ量検出工程と、
研磨トルク検出部で、前記冷間圧延鋼板の表面に付着した付着物を前記研磨ブラシロールによって除去する際に前記研磨ブラシロールに発生するトルクを検出する研磨トルク取得工程と、
溝深さ判定部で、前記スパッタ量検出部によって検出された前記スパッタ量と、予め定められた基準スパッタ量と、前記研磨トルク検出部によって検出された前記研磨ブラシロールのトルクと、予め定められた基準研磨トルクと、に基づいて、前記冷間圧延鋼板の表面に形成された前記溝の深さが基準値以上か否かを判定する溝深さ判定工程と、
を備える、方向性電磁鋼板の製造方法。
【要約】
溝深さ監視システムは、ビームによって溝が形成された鋼板の表面に付着した付着物を、研磨ブラシロールによって除去する際に発生する回転トルクを取得するトルク取得部と、前記トルク取得部で取得した回転トルクと、予め定められた基準回転トルクと、に基づいて、前記鋼板の前記表面に形成された前記溝の深さが基準値以上か否かを判定する溝深さ判定部と、を備える。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16