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特許7569003柱状型浮体、柱状型浮体立起こしシステム、及び柱状型浮体立起こし方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-08
(45)【発行日】2024-10-17
(54)【発明の名称】柱状型浮体、柱状型浮体立起こしシステム、及び柱状型浮体立起こし方法
(51)【国際特許分類】
   B63B 35/00 20200101AFI20241009BHJP
   B63B 35/44 20060101ALI20241009BHJP
   B63B 35/34 20060101ALI20241009BHJP
【FI】
B63B35/00 T
B63B35/44 Z
B63B35/34 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020116835
(22)【出願日】2020-07-07
(65)【公開番号】P2022014509
(43)【公開日】2022-01-20
【審査請求日】2023-05-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001335
【氏名又は名称】弁理士法人 武政国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 智彦
(72)【発明者】
【氏名】前田 誠
(72)【発明者】
【氏名】西郡 一雅
(72)【発明者】
【氏名】山田 理紗
【審査官】中島 昭浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-201217(JP,A)
【文献】特開平02-049522(JP,A)
【文献】特開2015-140723(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0028439(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 35/00 - 35/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
浮体式洋上風力発電施設を構成する柱状型浮体において、
底部に重錘が設置された中空の柱状本体と、
取水口と注水口が設けられた連通管と、
前記連通管内への空気の流入出を制御する空気開閉栓と、を備え、
前記取水口は、前記柱状本体の外側に配置され、
前記注水口は、前記柱状本体の内側であって前記底部近傍に配置され、
前記柱状本体は、前記底部側の一部が海水面以下に沈むように傾斜した横倒しの状態で海面に浮き、
前記空気開閉栓は、所定量の海水が注水されて計画高さとなった前記柱状本体内における気中部に位置するように設けられ、
前記取水口が海水内に位置し、前記連通管内が満水状態とされ、前記空気開閉栓が閉鎖状態とされ、かつ前記注水口が海水面以下に位置すると、サイフォン作用によって該取水口から流入した海水が該注水口を通じて前記柱状本体内に注水される、
ことを特徴とする柱状型浮体。
【請求項2】
前記連通管は、前記取水口が設けられた取水管と、前記注水口が設けられた注水管と、該取水管と該注水管を接続する上部中継管と、を含んで構成され、
前記柱状本体の柱軸方向と平行又は略平行とされた前記取水管は、該柱状本体の外側に配置され、
前記取水口から流入した海水は、前記取水管内を上昇し、前記上部中継管内を経由して、前記注水管内を流下する、
ことを特徴とする請求項1記載の柱状型浮体。
【請求項3】
浮体式洋上風力発電施設を構成する柱状型浮体において、
底部に重錘が設置された中空の柱状本体と、
取水口と注水口が設けられた連通管と、を備え、
前記取水口は、前記柱状本体の外側に配置され、
前記注水口は、前記柱状本体の内側であって前記底部近傍に配置され、
前記連通管は、前記取水口が設けられた取水管と、前記注水口が設けられた注水管と、該取水管と該注水管を接続する上部中継管と、を含んで構成され、
前記柱状本体の柱軸方向と平行又は略平行とされた前記取水管は、該柱状本体の内側に配置され、
前記取水管のうち前記取水口側の一部が曲管として形成されるとともに、該曲管が前記柱状本体を貫通することによって前記取水口が該柱状本体の外側に配置され、
前記柱状本体は、前記底部側の一部が海水面以下に沈むように傾斜した横倒しの状態で海面に浮き、
前記取水口が海水内に位置し、前記連通管内が満水状態とされ、かつ前記注水口が海水面以下に位置すると、サイフォン作用によって該取水口から流入した海水が該注水口を通じて前記柱状本体内に注水され、
前記取水口から流入した海水は、前記取水管内を上昇し、前記上部中継管内を経由して、前記注水管内を流下する、
ことを特徴とする柱状型浮体。
【請求項4】
前記連通管内への空気の流入出を制御する空気開閉栓を、さらに備え、
前記空気開閉栓は、所定量の海水が注水されて計画高さとなった前記柱状本体内における気中部に位置するように設けられ、
前記空気開閉栓が閉鎖状態とされると、サイフォン作用によって前記取水口から流入した海水が前記注水口を通じて前記柱状本体内に注水される、
ことを特徴とする請求項3記載の柱状型浮体
【請求項5】
前記連通管は、前記取水管と前記注水管を接続する中段迂回管を、さらに含み、
前記中段迂回管は、所定量の海水が注水されて前記柱状本体が直立状態とされたとき、前記上部中継管よりも下方となるように配置され、
海水面からの前記上部中継管高さが、サイフォン作用における限界高さを超えたとき、前記取水管内を上昇した海水は、前記中段迂回管内を経由して前記注水管内を流下する、
ことを特徴とする請求項2乃至請求項4のいずれかに記載の柱状型浮体。
【請求項6】
前記取水管のうち前記取水口の近傍に逆止弁が設けられ、
前記逆止弁は、前記取水管内から前記取水口への海水の逆流を防止し得る、
ことを特徴とする請求項2乃至請求項5のいずれかに記載の柱状型浮体。
【請求項7】
前記取水口は、所定量の海水が注水されて前記柱状本体が直立状態とされたときも、海水内となるよう配置された、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の柱状型浮体。
【請求項8】
浮体式洋上風力発電施設を構成する柱状型浮体を、海水で直立状態となるように立起こすシステムにおいて、
前記柱状型浮体は、底部に重錘が設置された中空の柱状本体と、前記柱状本体の外側に配置された取水口、及び前記柱状本体の内側であって前記底部近傍に配置された注水口が設けられた連通管と、前記連通管内への空気の流入出を制御する空気開閉栓と、を有し、
横倒しの状態で海面に浮いた前記柱状本体は、前記底部側の一部が海水面以下に沈むように傾斜し、前記取水口が海水内に位置するとともに、前記注水口が海水面以下に位置し、
オペレータの遠隔操作によって、前記空気開閉栓を制御し得る空気開閉栓制御手段と、
オペレータの遠隔操作によって、前記連通管内に海水を注水し得る注水手段と、を備え、
前記柱状本体を横倒しとした状態で、オペレータが前記注水手段を操作することによって、前記空気開閉栓が開栓された前記連通管内の空気を抜きながら該連通管内に海水が注水され、
前記連通管内が満水状態とされた状態で、オペレータが前記空気開閉栓制御手段によって前記空気開閉栓を閉塞すると、サイフォン作用によって前記取水口から流入した海水が前記注水口を通じて前記柱状本体内に注水され、
オペレータが前記空気開閉栓制御手段によって前記空気開閉栓を開栓すると、サイフォン作用による前記柱状本体内への注水が停止される、
ことを特徴とする柱状型浮体立起こしシステム。
【請求項9】
浮体式洋上風力発電施設を構成する柱状型浮体を、海水で直立状態となるように立起こす方法において、
前記柱状型浮体は、底部に重錘が設置された中空の柱状本体と、前記柱状本体の外側に配置される取水口、及び前記柱状本体の内側であって前記底部近傍に配置される注水口が設けられた連通管と、該連通管内への空気の流入出を制御する空気開閉栓と、を有し、
横倒しの状態で海面に浮いた前記柱状本体は、前記底部側の一部が海水面以下に沈むように傾斜し、前記取水口が海水内に位置するとともに、前記注水口が海水面以下に位置し、
前記柱状本体を横倒しとした状態で、前記空気開閉栓を開栓状態として前記連通管内の空気を抜きながら該連通管内に海水を注水する管内注水工程と、
前記連通管内を満水状態とするとともに前記空気開閉栓を閉鎖状態とすることによってサイフォン作用を利用し、前記取水口から流入した海水を、前記注水口を通じて前記柱状本体内に注水する本体内注水工程と、
前記本体内注水工程によって直立状態の前記柱状本体を計画高さに配置すると、前記空気開閉栓を開栓する注水停止工程と、を備え、
前記管内注水工程では、前記空気開閉栓を開栓することによって前記連通管内の空気を抜きながら該連通管内に海水を注水するとともに、該連通管内が満水状態となると該空気開閉栓を閉塞し、
前記注水停止工程では、前記空気開閉栓を開栓することによって前記連通管内に空気を送り、サイフォン作用による前記柱状本体内への注水を停止し、
所定量の海水を前記柱状本体内に注水することによって、横倒し状態の前記柱状本体を直立状態となるように立起こす、
ことを特徴とする柱状型浮体立起こし方法。
【請求項10】
前記連通管は、前記取水口が設けられた取水管と、前記注水口が設けられた注水管と、該取水管と該注水管を接続する上部中継管と、を含んで構成され、
前記柱状本体の柱軸方向と平行又は略平行とされた前記取水管は、該柱状本体の外側に配置され、
前記本体内注水工程によって直立状態の前記柱状本体を計画高さに配置した後、前記取水管を撤去する取水管撤去工程と、
前記取水管が撤去された後に生じた前記柱状本体の開口部を、封鎖材によって封鎖する開口部封鎖工程と、をさらに備えた、
ことを特徴とする請求項9記載の柱状型浮体立起こし方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、浮体式洋上風力発電施設を構成する柱状型浮体に関するものであり、より具体的には、サイフォン作用を利用して内部に海水を注水することができる柱状型浮体と、その柱状型浮体を立起こすシステム、及び立起こす方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
我が国における電力消費量は、2008年の世界的金融危機の影響により一旦は減少に転じたものの、オイルショックがあった1973年以降継続的に増加しており、1973年度から2007年度の間には2.6倍にまで拡大している。その背景には、生活水準の向上に伴うエアコンや電気カーペットといったいわゆる家電製品の普及、あるいはオフィスビルの増加に伴うOA(Office Automation)機器や通信機器の普及などが挙げられる。
【0003】
これまで、このように莫大な量の電力需要を主に支えてきたのは、石油、石炭等いわゆる化石燃料による発電であった。ところが近年、化石燃料の枯渇化問題や、地球温暖化に伴う環境問題が注目されるようになり、これに応じて発電方式も次第に変化してきた。その結果、先に説明した1973年頃には、石油、石炭による発電が全体の約90%を占めていたのに対し、2010年にその割合は66%まで減少している。代わりに増加したのが全体の約10%強(2010年)を占めている原子力発電である。原子力発電は、従来の発電方式に比べ温室効果ガスの削減効果が顕著であるうえ、低コストで電力を提供できることから、我が国の電力需要にも大きく貢献してきた。
【0004】
また、温室効果ガスの排出を抑制することができるという点において、再生可能エネルギーによる発電方式も採用されるようになっている。この再生可能エネルギーは、太陽光や風力、地熱、中小水力、木質バイオマスといった文字どおり再生することができるエネルギーであり、温室効果ガスの排出を抑え、また国内で生産できることから、有望な低炭素エネルギーとして期待されている。
【0005】
再生可能エネルギーのうち特に風力を利用した発電方式は、電気エネルギーの変換効率が高いという特長を備えている。一般に、太陽光発電の変換効率は約20%、木質バイオマス発電は約20%、地熱発電は10~20%とされているのに対して、風力発電は20~40%とされているように、他の発電方法よりも高効率でエネルギーを電気に変換できる。また、太陽光発電とは異なり昼夜問わず発電することができることも風力発電の特長である。このような特徴を備えていることもあって、風力発電は既にヨーロッパで主要な発電方法として多用され、我が国でも「エネルギーミックス」の取り組みにおいて2030年には電源構成のうち1.7%を担うことを目指している。
【0006】
風力発電はその設置場所によって陸上風力発電と洋上風力発電に大別され、このうち陸上風力発電は洋上風力発電に比べ設置が容易であり、したがってそのコストも抑えることができるといった特長を備えている。一方、洋上風力発電は、陸上風力発電が抱える騒音問題が生ずることがなく、また転倒等による被害リスクも回避でき、なにより陸上に比して大きな風力を安定的に得ることができるという特長を備えている。世界第6位の排他的経済水域を持つ我が国は、洋上風力発電にとって適地であり、将来的には再生可能エネルギーの有望な産出地となり得ると考えられる。
【0007】
また洋上風力発電は、その設置場所によって異なる形式が採用され、50m以浅の海域では着床式洋上風力発電が適しており、50m以深の海域では浮体式洋上風力発電が適しているとされている。このうち浮体式洋上風力発電は、海水に浮かべる浮体を利用するものであり、係留索で繋がれた浮体上に発電機構を設置し、この発電機構によって発電する方式である。なお浮体形式には、ポンツーン形式(バージ形式)、セミサブ形式、スパー形式(柱状型)、緊張係留形式(TLP:Tension Leg Platform)などが挙げられ、大きな風力が得られるとされる陸域から離れた沖合では、主に柱状形式が採用される傾向にある。
【0008】
図9は、柱状形式の洋上風力発電施設を模式的に示す側面図である。この図に示すように柱状形式の洋上風力発電施設は、海中に浮かべる柱状型浮体(スパー型浮体)と、その上に設置されるタワーやローター、ナセルなどを含んで構成される。タワーはローターやナセルを支持する構造体であり、さらに柱状型浮体がタワーの基礎として機能している。そしてブレード(羽根)とハブからなるローターによって風を動力に変換し、増速機や発電機、変圧器などを含むナセルによって動力を電気に変換して、海底ケーブルを通じて陸域まで送電するわけである。なお柱状型浮体は、カテナリー(懸垂線)形状とされた係留索の自重によって係留されるのが一般的である。
【0009】
柱状型浮体を構成する本体部分は、断面寸法に比して軸(以下、「柱軸」という。)方向寸法の方が大きい長尺体であって、内部が中空の管状を呈している。そして図9にも示すように、運用時における柱状型浮体はその柱軸方向が略鉛直(鉛直含む)となる状態(以下、「直立状態」という。)とされる。通常、この柱状型浮体はドライドックなど陸域で製作されることから、運用場所(ウィンドファーム:WF)まで海上輸送する必要があるが、北欧など一部では直立状態のまま柱状型浮体を輸送する例はあるものの、陸域周辺の水深が浅い我が国においては柱軸方向が略水平となる状態で柱状型浮体を輸送することとなる。
【0010】
したがって運用状態とするためには、柱状型浮体を略水平な状態から直立状態に回転させる(以下、「立起こす」という。)必要がある。なお、ウィンドファームでは相当の風力を受けることが予想されることから柱状型浮体を立起こす場所としては適切ではなく、あらかじめ選定された静穏域の海上で立起こされる。また、タワーやローター、ナセルなどは柱状型浮体とは別に製作されてウィンドファームまで輸送され、立起こした柱状型浮体に起重機船などを用いて設置される。そして洋上風力発電施設として概ね完成した構造体は、運用状態(つまり、柱状型浮体が直立状態)のままウィンドファームまで輸送される。
【0011】
従来、柱状型浮体を立起こすにあたっては、特許文献1に示すように柱状型浮体の本体部分内にポンプを用いてバラスト水(例えば、海水)を注水することによって立起こしていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2012-201217号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
図10は、柱状型浮体を立起こすために行っていた従来の手順を示すステップ図である。この図を参照しながら、柱状型浮体を立起こす従来手順について説明する。まず図10(a)に示すように、ドライドック等で製作された柱状型浮体を、あらかじめ選定された静穏域の海上まで曳船によって輸送する。目的の静穏域まで柱状型浮体を輸送すると、図10(b)に示すようにポンプを使用して本体部分内に海水を注水していく。なお、柱状型浮体の底部にはコンクリート製等の重錘が設けられていることから、海水注水開始前から柱状型浮体は底部側がやや沈んだ傾斜状態となっている。そのため、海水の注水が進むと図10(c)に示すようにその傾斜角(水平面と柱状型浮体の柱軸方向との交差角)が大きくなり、最終的には図10(d)に示すように柱状型浮体は直立状態となる。そして、図10(d)の状態からさらに海水注水を進め、計画の吃水が得られるまで柱状型浮体を沈めていく。
【0014】
ところで種々の海上施工を行うにあたっては、常に潮流や波浪に留意する必要があり、長期に亘って海面が安定することは期待できないため、できる限り1つの工程は短期間で完了させるよう努められる。もちろん、柱状型浮体を立起こす作業も短期間で完了させることが望ましく、その施工期間が数日(例えば、1~2日間)で計画されることも珍しくない。
【0015】
しかしながら、浮体式洋上風力発電施設を構成する柱状型浮体は、相当程度の径と軸長を有しており、したがって相当量の海水を注水しなければ柱状型浮体を計画吃水まで沈めることはできない。すなわち、短期間で大量の海水を注水するためには、相当数のポンプを必要とするわけである。さらに図10(d)からも分かるように、柱状型浮体が直立状態となった直後(計画吃水に至る前)には必要揚程が高くなっており、比較的大きな出力を持つポンプを用意しなければならない。
【0016】
例えば、径が10m程度で全長が120m程度の柱状型浮体を計画吃水まで沈める場合、17,000mの海水を注水することになる。そして、柱状型浮体が直立状態となった直後の吃水は60m程度であり、したがって60m(120m-60m)以上の高さで海水を汲み上げることができる大規模なポンプ(例えば、吐出量3m/min級)が必要となる。また注水施工が1日間で計画される場合、1日の施工可能時間を6時間とすると、吐出量3m/min級のポンプを17基用意しなければならない。
【0017】
このように、ポンプを使用して柱状型浮体の本体部分内に海水を注水する従来技術は、大規模のポンプを数多く用意しなければならない。しかもポンプを搭載するための台船やポンプが動作するための動力設備が大型化し、さらにポンプを制御するため相当数の作業者が必要となる。すなわち、ポンプや台船にかかる費用(損料や燃料代など)や人件費がかさみ、従来の注水施工には相当な予算を要していた。また、数多くのポンプを使用することから、当然ながら取り扱うホースの数も多くなり、ホースの配置や制御、撤去といった作業が極めて複雑かつ困難であり、また安全性の面においても問題視されていた。
【0018】
本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち、従来に比して低コストかつ容易に立起こすことができる柱状型浮体と、その柱状型浮体を立起こすシステム、及び立起こす方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本願発明は、サイフォン作用を利用することによって柱状型浮体の柱状本体内に海水を注水する、という点に着目してなされたものであり、これまでにない発想に基づいて行われたものである。
【0020】
本願発明の柱状型浮体は、浮体式洋上風力発電施設を構成するものであって、底部に重錘が設置された中空の柱状本体と、取水口と注水口が設けられた連通管を備えたものである。なお、取水口は柱状本体の外側に配置され、注水口は柱状本体の内側であって底部近傍に配置され、柱状本体は底部側の一部が海水面以下に沈むように傾斜した横倒しの状態で海面に浮く。そして、取水口が海水内に位置し、連通管内が満水状態とされ、かつ注水口が海水面以下に位置すると、サイフォン作用によって取水口から流入した海水が注水口を通じて柱状本体内に注水される。
【0021】
本願発明の柱状型浮体は、連通管が取水管と注水管、上部中継管を含んで構成されるものとすることもできる。なお、取水管には取水口が設けられ、注水管には注水口が設けられ、取水管と注水管は上部中継管によって接続される。この場合、柱状本体の柱軸方向と略平行(平行含む)とされた取水管は、柱状本体の外側に配置され、取水口から流入した海水は、取水管内を上昇し上部中継管内を経由して注水管内を流下する。
【0022】
本願発明の柱状型浮体は、取水管が柱状本体の内側に配置されたものとすることもできる。この場合、取水管のうち取水口側の一部が曲管として形成されるとともに、この曲管が柱状本体を貫通することによって取水口が柱状本体の外側に配置される。
【0023】
本願発明の柱状型浮体は、連通管が中段迂回管を含んで構成されるものとすることもできる。なお、中段迂回管は取水管と注水管を接続するもので、所定量の海水が注水されて柱状本体が直立状態とされたときに上部中継管よりも下方となるように配置される。海水面からの上部中継管高さがサイフォン作用における限界高さ(例えば、10m)を超えたときは、取水管内を上昇した海水は中段迂回管内を経由して注水管内を流下する。
【0024】
本願発明の柱状型浮体は、連通管のうち取水口の近傍に逆止弁が設けられたものとすることもできる。この逆止弁は、取水管内から取水口への海水の逆流を防止し得るものである。
【0025】
本願発明の柱状型浮体は、柱状本体が直立状態とされたときにも取水口が海水内に配置されるものとすることもできる。
【0026】
本願発明の柱状型浮体は、連通管内への空気の流入出を制御する空気開閉栓をさらに備えたものとすることもできる。この空気開閉栓は、所定量の海水が注水されて柱状本体が計画高さとなったときにも、柱状本体内における気中部に位置するように設けられる。
【0027】
本願発明の柱状型浮体立起こしシステムは、本願発明の柱状型浮体を海水で直立状態となるように立起こすものであり、空気開閉栓制御手段と注水手段を備えたシステムである。この空気開閉栓制御手段は、オペレータの遠隔操作によって空気開閉栓を制御し得る手段であり、注水手段は、オペレータの遠隔操作によって連通管内に海水を注水し得る手段である。柱状本体を横倒しとした状態でオペレータが注水手段を操作すると、空連通管(気開閉栓が開栓された状態)内の空気を抜きながら連通管内に海水が注水される。また、連通管内が満水状態とされた状態でオペレータが空気開閉栓制御手段によって空気開閉栓を閉塞すると、サイフォン作用によって取水口から流入した海水が注水口を通じて柱状本体内に注水される。そしてオペレータが空気開閉栓制御手段によって空気開閉栓を開栓すると、サイフォン作用による柱状本体内への注水が停止される。
【0028】
本願発明の柱状型浮体立起こし方法は、本願発明の柱状型浮体を海水で直立状態となるように立起こす方法であり、管内注水工程と本体内注水工程を備えた方法である。この管内注水工程では、柱状本体を横倒しとした状態で連通管内の空気を抜きながら連通管内に海水を注水する。また本体内注水工程では、連通管内を満水状態とすることによってサイフォン作用を利用し、取水口から流入した海水を、注水口を通じて柱状本体内に注水する。
【0029】
本願発明の柱状型浮体立起こし方法は、注水停止工程をさらに備えた方法とすることもできる。この注水停止工程では、本体内注水工程によって直立状態の柱状本体が計画高さに配置されたときに空気開閉栓を開栓する。この場合、管内注水工程では、空気開閉栓を開栓することによって連通管内の空気を抜きながら連通管内に海水を注水するとともに、連通管内が満水状態となると空気開閉栓を閉塞する。なお注水停止工程では、空気開閉栓を開栓することによって連通管内に空気を送り、サイフォン作用による柱状本体内への注水を停止する。
【0030】
本願発明の柱状型浮体立起こし方法は、取水管撤去工程と開口部封鎖工程をさらに備えた方法とすることもできる。この取水管撤去工程では、本体内注水工程によって柱状本体が計画高さにされた後に、柱状本体の外側に配置された取水管を撤去する。また開口部封鎖工程では、取水管が撤去された後に生じた柱状本体の開口部を封鎖材によって封鎖する。
【発明の効果】
【0031】
本願発明の柱状型浮体、柱状型浮体立起こしシステム、及び柱状型浮体立起こし方法には、次のような効果がある。
(1)柱状型浮体の本体部分内に海水を注水するため大規模かつ大量のポンプを使用する必要がなく、ポンプや台船、その他設備にかかる費用や人件費を軽減することができ、すなわち注水にかかる施工費を従来技術に比して大幅に抑えることができる。
(2)サイフォン作用を利用して注水するため複雑な制御が不要であり、電気設備等の不具合やその他不測の事態による作業中断などを抑制することができ、すなわち一連の作業を円滑に行うことができる。
(3)多数のポンプやホースを取り扱う必要がないため、従来技術に比して施工性が向上するとともにその安全性も向上する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本願発明の柱状型浮体を立起こすまでの各段階を示したステップ図。
図2】本願発明の柱状型浮体を模式的に示す側面図。
図3】連通管を模式的に示す側面図。
図4】取水管が柱状本体の管内側に配置された本願発明の柱状型浮体を模式的に示す側面図。
図5】中段迂回管が設けられた本願発明の柱状型浮体を模式的に示す側面図。
図6】(a)は横倒しとされた直接型柱状型浮体200を模式的に示す側面図、(b)は直立状態となった直接型柱状型浮体200を模式的に示す側面図。
図7】本願発明の柱状型浮体立起こしシステムの主な構成を示すブロック図。
図8】本願発明の柱状型浮体立起こし方法の主な工程を示すフロー図。
図9】スパー形式の洋上風力発電施設を模式的に示す側面図。
図10】柱状型浮体を立起こすために行っていた従来の手順を示すステップ図。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本願発明の柱状型浮体(スパー型浮体)、柱状型浮体立起こしシステム、及び柱状型浮体立起こし方法の実施形態の一例を、図に基づいて説明する。なお本願発明の柱状型浮体は、浮体式洋上風力発電施設を構成するものとして利用する場合に特に好適に実施することができ、本願発明の柱状型浮体立起こしシステムと柱状型浮体立起こし方法は、本願発明の柱状型浮体を立起こす場合に特に好適に実施することができる。
【0034】
1.全体概要
はじめに図1を参照しながら本願発明の概要について説明する。図1は、本願発明の柱状型浮体100を立起こすまでの各段階を示したステップ図である。本願発明の柱状型浮体100は、柱状本体110と連通管120、重錘130を含んで構成され、図1(a)に示すように内部が空洞であれば(海水が注水されなければ)横倒しの状態で海上に浮く。ただし、柱状本体110の底部に重錘130が設けられているため、その柱軸方向が水平とはならず底部側が沈むように傾斜して海上に浮いている。
【0035】
また図1(a)では、連通管120の一端に設けられた取水口121Eが海水内(海水中)に位置しており、連通管120の他端に設けられた注水口122Eが海水面以下に位置している。この状態で連通管120内を満水にすると、サイフォンの原理によって海水が取水口121Eから流入して連通管120内を流れ、注水口122Eから柱状本体110内に注水される。
【0036】
上記したとおり内部が空洞の柱状本体110は底部側が沈むように傾斜していることから、海水の注水が進むと図1(b)に示すようにその傾斜角(水平面と柱状本体110の柱軸方向との交差角)が大きくなり、つまり柱状型浮体100は略鉛直(鉛直含む)平面上で回転(図では反時計回りに回転)していき、すなわち柱状型浮体100は徐々に立起こされていく。そして柱状本体110内に所定量の海水が注水されると、図1(c)に示すようにその柱軸方向が略鉛直(鉛直含む)である「直立状態」に立起こされる。なお便宜上ここでは、柱状本体110が回転を終えたときの状態(つまり、直立状態となった直後)のことを「当初直立状態」ということとする。また図1(c)や図1(d)に示すように、柱状型浮体100内のうち海水が溜まっていない(つまり、海水がない)空間(空洞部)のことを「気中部」ということとする。
【0037】
柱状本体110が当初直立状態とされた後もサイフォン作用による注水は継続されることから、直立状態のまま柱状型浮体100はさらに海中を沈んでいく。そして図1(d)に示すように、計画した吃水となる高さまで柱状型浮体を沈めると、連通管120内に送気することでサイフォン状態を解消し、すなわち柱状本体110内への海水注水を停止する。なお便宜上ここでは、計画吃水となった高さまで柱状型浮体100が沈んだ状態のことを「計画高さ状態」ということとする。
【0038】
2.柱状型浮体
次に本願発明の柱状型浮体100について図を参照しながら詳しく説明する。なお、本願発明の柱状型浮体立起こしシステムは本願発明の柱状型浮体100を立起こすシステムであり、また本願発明の柱状型浮体立起こし方法は本願発明の柱状型浮体100を立起こす方法である。したがってまずは本願発明の柱状型浮体100について説明し、その後に本願発明の柱状型浮体立起こしシステムと本願発明の柱状型浮体立起こし方法について詳しく説明することとする。
【0039】
図2は、本願発明の柱状型浮体100を模式的に示す側面図である。この図に示すように本願発明の柱状型浮体100は、柱状本体110と連通管120、重錘130を含んで構成され、さらに第1空気開閉栓140、逆止弁150、縮径体160、接続体170や第2空気開閉栓180を含んで構成することもできる。以下、柱状型浮体100を構成する主な要素ごとに説明する。
【0040】
(柱状本体)
柱本体110は、図2に示すように断面寸法に比して柱軸方向寸法の方が大きい長尺体であって内部は中空とされ、つまり外形は概ね管状を呈している。また柱本体110は、一端(図では下端)が閉鎖し、他端(図では上端)が開口した、いわゆる有底の開口管である。そして柱本体110の底部には重錘130が設置される。この重錘130は単位体積重量が大きい材料からなるものであり、例えばコンクリート製や鋼製のものとするとよい。重錘130が設置された区間は、柱本体110の他の区間(重錘130が設置されない区間)に比べて、柱軸方向における単位長さ当たりの重量が大きくなる。なお柱本体110は、断面が円形の円柱状とすることもできるし、断面が多角形上の角柱状とすることもできる。
【0041】
(連通管)
図3は、連通管120を模式的に示す側面図である。連通管120は、柱本体110外の海水を柱本体110内に流入させるパイプであり、その一端(図では右下端)には取水口121Eが設けられ、他端(図では左下端)には注水口122Eが設けられる。また連通管120は、取水口121Eが設けられた取水管121と、注水口122Eが設けられた注水管122、そして取水管121と注水管122を接続する上部中継管123によって構成することができる。この場合、図2に示すように取水管121と注水管122は概ね柱本体110の柱軸方向に沿って配置し、上部中継管123は概ね柱本体110の柱軸方向に対して垂直となるように配置するとよい。このように配置すると、例えば柱本体110が直立状態とされたとき、取水管121と注水管122は略鉛直(鉛直含む)方向とされ、上部中継管123は本体110の上方で略水平(水平含む)方向とされる。
【0042】
既述したとおり、取水口121Eが海水内に位置するとともに注水口122Eが海水面以下に位置し、その状態で連通管120内が満水になるとサイフォン作用により海水が柱状本体110内に流入していく。つまり、図1(a)に示すように横倒しとされた状態から柱状本体110内に海水を注水するためには、注水口122Eは柱状本体110の管内側であって底部近傍(つまり、重錘130の近傍)に配置するとよい。重錘130の効果によって柱状本体110のうち底部側の一部が海水面よりも下方に沈み、これに伴って重錘130の近傍に配置された注水口122Eも海水面以下に位置することができるわけである。
【0043】
海水が流入する取水口121Eは、海水に接するため当然ながら柱状本体110の管外側に配置される。また柱状型浮体100が計画高さ状態(図1(d))となるまでは継続して注水する必要があるため、換言すれば柱状型浮体100が計画高さ状態となっても取水口121Eは海水内に位置する必要があるため、取水口121Eはできるだけ柱状本体110のうち底部付近(直立状態における柱状本体110のうち比較的低い位置)に配置するとよい。例えば図2では、注水口122Eとほぼ同じ位置(高さ)であって、注水口122Eよりも底部から離れた位置(つまり、高い位置)に配置されている。もちろん取水口121Eは、柱状型浮体100が計画高さ状態となっても海水内に位置することができれば、注水口122Eの近傍に限らず、柱状本体110の中間付近(つまり、注水口122Eよりも大幅に高い位置)など、任意に配置することができる。
【0044】
図2図3に示すように、取水管121のうち取水口121Eの近傍には逆止弁150を設置するとよい。この逆止弁150は、取水管121内から取水口121Eへの海水の逆流を防止し得るものである。特に、サイフォン作用が始まった初期には海水の逆流が生じやすく、逆止弁150を設けることでこの初期の逆流を防止し、円滑な注水を継続することができて好適となる。
【0045】
サイフォン作用による注水を行うには、連通管120内を強制的に満水にする必要がある。そのため、水(海水)を送り出す手段(例えば、ポンプなど)や、圧送される水(海水)を連通管120内に流入する流入口などが設けられる。なお、連通管120内に設けられる流入口は、サイフォン作用による注水を行う際には閉鎖しておく必要があるため、開栓状態と閉鎖状態を制御し得る開閉栓(開閉バルブ)を備えるとよい。
【0046】
また、連通管120内に水(海水)を流入している間は、連通管120内の空気を外部に送り出す必要があり、一方、サイフォン作用による注水を行う際には外部から連通管120への空気の流入を遮断する必要がある。そのため、連通管120の一部に第1空気開閉栓140(開閉バルブ)を設けるとよい。この第1空気開閉栓140は、開栓状態と閉鎖状態を制御することができるもので、開栓状態としたときは連通管120内の空気を外部に送り出し、閉鎖状態としたときは外部から連通管120への空気の流入を遮断することができる。
【0047】
柱状型浮体100が計画高さ状態になると、サイフォン作用による注水は停止される。このとき、連通管120に第1空気開閉栓140が設けられていると、この第1空気開閉栓140を開栓状態とすることで連通管120内に外部から空気を送り、サイフォン状態を解消するとよい。第1空気開閉栓140は、オペレータの遠隔操作によって制御する仕様とすることもできるし、もちろん作業者が直接操作する仕様とすることもできる。なお、作業者が第1空気開閉栓140を直接操作するケースでは、柱状型浮体100が計画高さ状態になったときにおいても柱状本体110内における気中部に位置するように、第1空気開閉栓140を設けるとよい。これにより、ダイバー作業を要することなく、通常の気中作業によって第1空気開閉栓140を操作することができる。
【0048】
連通管120を構成する取水管121は、図2に示すように柱状本体110の管外側に配置することもできるし、図4に示すように柱状本体110の管内側に配置することもできる。取水管121を柱状本体110の管外側に配置する場合(図2)は、上部中継管123を柱状本体110に貫通するとよい。これに対して取水管121を柱状本体110の管内側に配置する場合(図4)は、取水管121のうち取水口121E側の一部を曲管として形成し、この曲管部分を柱状本体110に貫通することによって、取水口121Eを管外側に配置するとよい。さらに、連通管120とともに注水管122も柱状本体110の管外側に配置することもできる。この場合、注水管122のうち注水口122E側の一部を曲管として形成し、この曲管部分を柱状本体110に貫通することによって、注水口122Eを管内側に配置するとよい。
【0049】
サイフォンの原理によれば、液体をいわば上昇させることができるが、大気圧が管内の液体を押し上げることができる高さ(以下、「限界高さ」という。)を超えて上昇させることはできない。この限界高さは、液体の比重によって異なり、水銀の場合は760mmであり、水の場合は10mである。ここで、柱状型浮体100の軸長(柱軸方向の長さ)によっては、当初直立状態(図1(c))とされたときに海水面と上部中継管123の高低差が限界高さを超えることもある。例えば図5では、上部中継管123が海水面からの限界高さを超えた位置にあるため一部の管内は真空状態とされ、柱状本体110内への注水が行われていない。
【0050】
上部中継管123が海水面からの限界高さを超えることが予想されるケースでは、図5に示すように中段迂回管124を設けるとよい。この中段迂回管124は、いわば取水管121の途中と注水管122の途中を中継するパイプであり、柱状本体110が直立状態とされたときに上部中継管123よりも下方となるように配置され、しかも当初直立状態とされたときに海水面からの限界高さを下回るように配置される。これにより、上部中継管123の高さが海水面からの限界高さを超えたときに、取水管121内を上昇した海水は中段迂回管124内を経由して注水管122内を流下することができる。
【0051】
(縮径体と接続体)
縮径体160は、ローターやナセルを支持するタワー(図9)と連結されるもので、柱本体110の太径からタワーの細径に変更するためのいわば調整区間である。そのため縮径体160は、図2図4に示すように、直立状態における柱本体110の上端側に設けられ、また柱本体110から柱軸方向の外側(図では上側)に向かって断面積が縮小する錐台形状(つまりテーパー形状)とされる。また接続体170は、タワーと接続される部材であり、縮径体160によって調整された細径の柱状とされる。
【0052】
ところで、柱状本体110内への注水施工を行っている間は、柱状本体110のうち接続体170側の開口部は蓋によって閉鎖されることがある。この場合、柱状本体110内に注水を行うときに、空気を外部に送り出すことができない。そこで、柱状本体110内の空気を外部に排気するための第2空気開閉栓180(開閉バルブ)を設けるとよい。この第2空気開閉栓180は、開栓状態と閉鎖状態を制御することができるもので、開栓状態としたときは柱状本体110内の空気を外部に送り出し、閉鎖状態としたときは外部と柱状本体110の空気の流出入を遮断することができる。なお第2空気開閉栓180は、図1(a)に示すように取水管121(取水口121E)が下方側となるように柱状型浮体100を横倒しの状態としたときに、その上方側となるように設置するとよい。
【0053】
(変形例)
ここまで、サイフォン作用を利用して柱状本体110内に海水を注水することができる柱状型浮体100について説明してきた。ここでは、サイフォン作用を利用することなく柱状本体110内に海水を直接注水することができる柱状型浮体(以下、便宜上「直接型柱状型浮体200」という。)について、図6を参照しながら説明する。図6(a)では横倒しとされた直接型柱状型浮体200を示しており、図6(b)では直立状態となった直接型柱状型浮体200を示している。
【0054】
図6に示すように直接型柱状型浮体200は、柱状型浮体100と同様、柱状本体210と重錘230を含んで構成され、さらに縮径体250、接続体260や第2空気開閉栓270を含んで構成することもできる。ただし柱状型浮体100とは異なり、連通管120を具備することなく、代わりに直接注水口220と開栓制御手段240を備えている。
【0055】
直接注水口220は、開栓状態と閉鎖状態に変更することができる開口部であり、開栓状態としたときは柱状本体210内への海水流入が可能となり、閉鎖状態としたときは柱状本体210内への海水流入が遮断される。そして開栓制御手段240は、直接注水口220の開栓状態と閉鎖状態のいずれかに制御することができる手段である。例えば図6に示す開栓制御手段240は、操作稈241と伝達軸242によって構成され、オペレータが操作稈241を操作することによって伝達軸242が作動し、これにより直接注水口220が開栓状態とされ、あるいは閉鎖状態とされる。開栓制御手段240は、図6に示すようないわば機械的な制御形式に限らず、電気信号によって直接注水口220の状態を制御する形式とすることもできる。
【0056】
図6(a)では直接注水口220が開栓状態とされており、海水が直接注水口220を通じて柱状本体210内に注水されている。柱状型浮体100と同様、内部が空洞の直接型柱状型浮体200は重錘230の効果で底部側が沈むように傾斜していることから、海水の注水が進むとその傾斜角が大きくなり、直接型柱状型浮体200は徐々に立起こされていく。そして柱状本体210内に所定量の海水が注水されると、図6(b)に示すように直接型柱状型浮体200は直立状態に立起こされる。直接型柱状型浮体200が当初直立状態とされた後も直接注水口220が開栓状態とされており、したがって海水の直接注水が継続されることから直立状態のまま直接型柱状型浮体200はさらに海中を沈んでいく。そして、直接型柱状型浮体200が計画高さ状態になると、オペレータが開栓制御手段240を操作することによって直接注水口220を閉鎖状態とし、柱状本体110内への海水注水を停止する。
【0057】
3.柱状型浮体立起こしシステム
続いて本願発明の柱状型浮体立起こしシステムについて図7を参照しながら詳しく説明する。なお、本願発明の柱状型浮体立起こしシステムは、ここまで説明した柱状型浮体100を立起こすシステムであり、したがって柱状型浮体100で説明した内容と重複する説明は避け、本願発明の柱状型浮体立起こしシステムに特有の内容のみ説明することとする。すなわち、ここに記載されていない内容は、「2.柱状型浮体」で説明したものと同様である。
【0058】
図7は、本願発明の柱状型浮体立起こしシステム300の主な構成を示すブロック図である。この図に示すように柱状型浮体立起こしシステム300は、注水手段310と第1空気開閉栓制御手段320を含んで構成され、さら第2空気開閉栓制御手段330を含んで構成することもできる。以下、柱状型浮体立起こしシステム300を構成する主な要素ごとに説明する。
【0059】
(注水手段)
既述したとおりサイフォン作用による注水を行うには、連通管120内を強制的に満水にする必要がある。注水手段310は、連通管120内を強制的に満水にする手段であり、注水制御手段311と注水ポンプ312を含んで構成される。このうち注水ポンプ312は、連通管120内に水(海水)を圧送する手段であり、従来用いられている水中ポンプ等を利用することができる。一方の注水制御手段311は、注水ポンプ312による水の圧送を制御する手段であり、オペレータによる遠隔操作が可能とされる。すなわち注水制御手段311は注水ポンプ312から離れた場所に(例えば、海上など)に設置されており、オペレータがこの注水制御手段311を操作することによって、海中に配置された注水ポンプ312が連通管120内に水を圧送し、あるいは水の圧送を停止する。
【0060】
(空気開閉栓制御手段)
第1空気開閉栓制御手段320は、連通管120の一部に設けられる第1空気開閉栓140を制御する手段であり、オペレータによる遠隔操作が可能とされる。すなわち第1空気開閉栓制御手段320は第1空気開閉栓140から離れた場所に(例えば、海上など)に設置されており、オペレータがこの第1空気開閉栓制御手段320を操作することによって、第1空気開閉栓140は開栓状態とされ、あるいは閉鎖状態とされる。なお、第1空気開閉栓140が開栓状態とされたときは、例えば連通管120内への水(海水)の流入中に管内の空気を外部に送り出すことができ、閉鎖状態としたときは外部から連通管120への空気の流入を遮断することができる。
【0061】
第2空気開閉栓制御手段330は、第2空気開閉栓180を制御する手段であり、オペレータによる遠隔操作が可能とされる。すなわち第2空気開閉栓制御手段330は第2空気開閉栓180から離れた場所に(例えば、海上など)に設置されており、オペレータがこの第2空気開閉栓制御手段330を操作することによって、第2空気開閉栓180は開栓状態とされ、あるいは閉鎖状態とされる。なお、第2空気開閉栓180が開栓状態とされたときは、例えば柱状本体110内への注水を行う際に内部の空気を外部に送り出し、閉鎖状態としたときは外部と柱状本体110の空気の流出入を遮断することができる。
【0062】
4.柱状型浮体立起こし方法
続いて本願発明の柱状型浮体立起こし方法について図8を参照しながら詳しく説明する。なお、本願発明の柱状型浮体立起こし方法は、ここまで説明した柱状型浮体100を立起こす方法であり、したがって柱状型浮体100や柱状型浮体立起こしシステム300で説明した内容と重複する説明は避け、本願発明の柱状型浮体立起こし方法に特有の内容のみ説明することとする。すなわち、ここに記載されていない内容は、「2.柱状型浮体」や「3.柱状型浮体立起こしシステム」で説明したものと同様である。
【0063】
図8は、本願発明の柱状型浮体立起こし方法の主な工程を示すフロー図である。なおこの図では、本願発明の柱状型浮体立起こし方法に直接関連する工程を実線枠で囲み、その他の工程に関しては破線枠で囲んでいる。この図に示すように、まずドライドック等で柱状型浮体100を製作する(図8のStep401)。そして潮位や潮流など環境の良い時期を狙って、横倒しとされた状態の柱状型浮体100を曳船によってあらかじめ選定された静穏域まで曳航し(図8のStep402)、その場で柱状型浮体100を仮係留する(図8のStep403)。このとき、柱状型浮体100は横倒しの状態のまま仮係留され、そして重錘130の効果によって柱状本体110のうち底部側の一部が海水面よりも下方に沈むように傾斜した状態で海面に浮いている。
【0064】
柱状型浮体100が静穏域で仮係留されると、第1空気開閉栓140を開栓状態としたうえで、連通管120内を強制的に満水にする(図8のStep404)。このとき、本願発明の柱状型浮体立起こしシステム300の第1空気開閉栓制御手段320を利用して第1空気開閉栓140を開栓状態とし、注水手段310を利用して連通管120内に水(海水)を圧送するとよい。
【0065】
連通管120内が満水とされ、取水口121Eが海水内(海水中)に位置するとともに、注水口122Eが海水面以下に位置すると、サイフォンの原理による注水が開始される(図8のStep405)。より詳しくは、海水が取水口121Eから流入して連通管120内を流れ、注水口122Eから柱状本体110内に注水されていく。
【0066】
柱状本体110内に注水され、最終的に柱状型浮体100が計画高さ状態になると、サイフォン作用による注水を停止する(図8のStep406)。例えば、連通管120に設けられた第1空気開閉栓140を開栓状態とすることで連通管120内に外部から空気を送り、サイフォン状態を解消して注水を停止するとよい。このとき、作業者が第1空気開閉栓140を直接操作することもできるし、オペレータの遠隔操作によって第1空気開閉栓140を制御することもできる。オペレータの遠隔操作による場合は、本願発明の柱状型浮体立起こしシステム300の第1空気開閉栓制御手段320を利用して、第1空気開閉栓140を開栓状態にするとよい。
【0067】
また柱状型浮体100が計画高さ状態になると、取水管121を撤去するとよい(図8のStep407)。特に取水管121を柱状本体110の管外側に配置したケース(図2)では、取水管121が柱状型浮体100に不測の影響を与えることも予想されることから撤去することが望ましい。取水管121を撤去するにあたっては、ダイバー作業とすることもできるが、水深が相当程度深い場合は水中ロボットやROV船(Remotely Operated Vehicle)などを利用するとよい。また、取水管121を撤去した跡など柱状本体110に開口部が残る場合は、鋼製の閉止板などを用いて開口部を封鎖しておく(図8のStep408)。
【0068】
柱状型浮体100が計画高さ状態とした後、砕石といったバラスト材を柱状本体110内に投入するとともに余分な海水を柱状本体110から排出する(図8のStep409)。その後、タワーやローター、ナセル(図9)など(以下、これらを総じて「上部本体」という。)を、柱状型浮体100の上方に設置し、上部本体と柱状型浮体100からなる完成体を構築し(図8のStep410)、ひとまず静穏域で仮係留する(図8のStep411)。そして潮位や潮流など環境の良い時期を狙って、完成体を曳船によってWFまで曳航し(図8のStep412)、WFで柱状型浮体100完成体を本係留する(図8のStep413)とともに、完成体に海底ケーブル(図9)を設置する(図8のStep414)。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本願発明の柱状型浮体、柱状型浮体立起こしシステム、及び柱状型浮体立起こし方法は、50m以深の海域における浮体式洋上風力発電に特に好適に利用することができる。本願発明によれば低コストでしかも容易に浮体式洋上風力発電施設を設置することができることから、洋上風力発電に対するより積極的な動機を期待することができ、ひいては温室効果ガスの排出を抑えたうえで安定的にエネルギーを供給することを考えれば、本願発明は産業上利用できるばかりでなく社会的にも大きな貢献を期待し得る発明といえる。
【符号の説明】
【0070】
100 本願発明の柱状型浮体
110 (柱状型浮体の)柱状本体
120 (柱状型浮体の)連通管
121 (連通管の)取水管
121E (連通管の)取水口
122 (連通管の)注水管
122E (連通管の)注水口
123 (連通管の)上部中継管
124 (連通管の)中段迂回管
130 (柱状型浮体の)重錘
140 (柱状型浮体の)第1空気開閉栓
150 (柱状型浮体の)逆止弁
160 (柱状型浮体の)縮径体
170 (柱状型浮体の)接続体
180 (柱状型浮体の)第2空気開閉栓
200 本願発明の直接型柱状型浮体
210 (直接型柱状型浮体の)柱状本体
220 (直接型柱状型浮体の)直接注水口
230 (直接型柱状型浮体の)重錘
240 (直接型柱状型浮体の)開栓制御手段
241 (開栓制御手段の)操作稈
242 (開栓制御手段の)伝達軸
250 (直接型柱状型浮体の)縮径体
260 (直接型柱状型浮体の)接続体
270 (直接型柱状型浮体の)第2空気開閉栓
300 本願発明の柱状型浮体立起こしシステム
310 (柱状型浮体立起こしシステムの)注水手段
311 (注水手段の)注水制御手段
312 (注水手段の)注水ポンプ
320 (柱状型浮体立起こしシステムの)第1空気開閉栓制御手段
330 (柱状型浮体立起こしシステムの)第2空気開閉栓制御手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10