(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-08
(45)【発行日】2024-10-17
(54)【発明の名称】イオン交換ガラスの製造方法、イオン交換用混合物、およびイオン交換ガラス製造装置
(51)【国際特許分類】
C03C 21/00 20060101AFI20241009BHJP
【FI】
C03C21/00 101
(21)【出願番号】P 2020184443
(22)【出願日】2020-11-04
【審査請求日】2023-10-06
(31)【優先権主張番号】P 2020090496
(32)【優先日】2020-05-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】市丸 智憲
(72)【発明者】
【氏名】木下 清貴
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第03441398(US,A)
【文献】特公昭47-050849(JP,B1)
【文献】国際公開第2015/008760(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第101328026(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第1305965(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00-23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属成分を含むイオン交換用ガラスの一部または全部を、イオン交換用混合物に浸漬させてイオン交換処理する工程を備えたイオン交換ガラスの製造方法であって、
前記イオン交換用混合物は、溶融塩と、アルカリ金属珪酸塩と、を含み、
前記アルカリ金属珪酸塩は、前記イオン交換処理において前記イオン交換用ガラスから前記溶融塩中に溶出するアルカリ金属成分とイオン交換可能なアルカリ金属成分を含
み、
前記イオン交換処理において前記イオン交換用ガラスから前記溶融塩中に溶出するアルカリ金属成分がNaイオンであり、
前記アルカリ金属珪酸塩は、Li
2
SiO
3
、Li
4
SiO
4
、Li
2
Si
2
O
5
、およびLi
2
Si
4
O
9
から選ばれた少なくとも1種類以上を含む、ことを特徴とする、イオン交換ガラスの製造方法。
【請求項2】
前記イオン交換用ガラスは、組成としてNa
2Oを1.0モル%以上含むアルカリアルミノシリケートガラスであり、
前記溶融塩が、KNO
3を含む、請求項
1に記載のイオン交換ガラスの製造方法。
【請求項3】
前記アルカリ金属珪酸塩が粉末状のアルカリ金属珪酸塩結晶物である、請求項1
または2に記載のイオン交換ガラスの製造方法。
【請求項4】
前記粉末状のアルカリ金属珪酸塩の平均粒径D50は、10~1000μmである、請求項
3に記載のイオン交換ガラスの製造方法。
【請求項5】
前記アルカリ金属珪酸塩を前記溶融塩に添加した後、前記溶融塩を撹拌する工程をさらに備える、請求項
3または4に記載のイオン交換ガラスの製造方法。
【請求項6】
前記溶融塩を100質量部とした場合に、前記アルカリ金属珪酸塩の添加量は0.1~30質量部である、請求項1から
5の何れか1項に記載のイオン交換ガラスの製造方法。
【請求項7】
異なる複数ロットの前記イオン交換用ガラスを前記イオン交換用混合物へ順次浸漬することにより前記イオン交換処理を複数回行い、
所定ロット数の前記イオン交換用ガラスの前記イオン交換処理後に、最後のイオン交換処理で得られたイオン交換ガラスの応力特性を測定する工程と、
前記応力特性の測定結果に応じて、前記溶融塩への前記アルカリ金属珪酸塩の添加を行うか否かを決定する工程と、をさらに備える、請求項1から
6の何れか1項に記載のイオン交換ガラスの製造方法。
【請求項8】
前記応力特性として、前記
イオン交換ガラスの表面圧縮応力を測定し、
前記表面圧縮応力が予め定められた閾値未満である場合、前記溶融塩への前記アルカリ金属珪酸塩の添加を行った後、次のロットの前記イオン交換用ガラスのイオン交換を行い、
前記表面圧縮応力が予め定められた閾値以上である場合、前記溶融塩への前記アルカリ金属珪酸塩の添加を行わず、次のロットの前記イオン交換用ガラスのイオン交換を行う、
請求項
7に記載のイオン交換ガラスの製造方法。
【請求項9】
溶融塩と添加物とを含む、イオン交換用混合物であって、
前記溶融塩としてNaNO
3およびKNO
3から選ばれた1種類以上を含み、
前記添加物としてアルカリ金属珪酸塩を含
み、
前記アルカリ金属珪酸塩は、粉末状のアルカリ金属珪酸塩結晶物であり、
前記アルカリ金属珪酸塩は、Li
2
SiO
3
、Li
4
SiO
4
、Li
2
Si
2
O
5
、およびLi
2
Si
4
O
9
から選ばれた少なくとも1種類以上を含む、イオン交換用混合物。
【請求項10】
前記溶融塩を100質量部とした場合に、前記添加物としてアルカリ金属珪酸塩を0.1~30質量部含む、請求項
9に記載のイオン交換用混合物。
【請求項11】
請求項
9または10に記載のイオン交換用混合物と、
前記イオン交換用混合物を収容する収容槽と、を備え、
前記収容槽における前記イオン交換用混合物との接触面の少なくとも一部が、金属により構成される、イオン交換ガラス製造装置。
【請求項12】
イオン交換用ガラスを保持し、前記イオン交換用混合物中に浸漬される治具をさらに備え、
前記治具における前記イオン交換用混合物との接触面が、金属により構成される、請求項
11に記載のイオン交換ガラス製造装置。
【請求項13】
前記金属は、ステンレス鋼である、請求項
11または12に記載のイオン交換ガラス製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン交換ガラスの製造方法、イオン交換ガラス製造装置、およびイオン交換用混合物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ディスプレイデバイスのカバーガラスには、イオン交換処理された化学強化ガラスが用いられている。このようなイオン交換処理は、一般的に、ガラスを溶融塩に浸漬させ、互いにイオン半径の異なる、ガラス中のイオンと、溶融塩中のイオンとを交換することによって行われる。例えば、ガラス中のLiイオンを溶融塩中に溶出させ、溶融塩中のNaイオンまたはKイオンをガラス中に導入することにより、或いは、ガラス中のNaイオンを溶融塩中に溶出させ、溶融塩中のKイオンをガラス中に導入することにより、イオン交換処理が行われる。
【0003】
イオン交換ガラスの量産工程では、同一の溶融塩を用いて複数ロットのガラスに対しこのようなイオン交換処理が繰り返し行われる。その結果、ガラスから溶出するイオン(以下、溶出イオンと称する)が溶融塩中に次第に蓄積され、溶融塩中における溶出イオンの濃度が徐々に高くなる。溶出イオンの濃度が過剰に高くなると、上述したイオン交換処理が進行し難くなり、生産性が低下するという問題が生じる。
【0004】
このような問題を解決すべく、溶融塩にリン酸塩を添加して溶出イオンの濃度を調整する技術が開発されている(例えば、特許文献1)。特許文献1に開示される技術では、Na3PO4やK3PO4などのアルカリ金属リン酸塩を溶融塩に添加して、溶融塩中の溶出イオンを該リン酸塩が吸収することによって、溶融塩中における溶出イオンの濃度上昇を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許出願公開第2018/0362399号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のようにリン酸塩を添加した場合、溶融塩槽やガラス保持するための治具などの装置を構成する金属がリン酸塩によって腐食し、生産設備が劣化し易くなるという問題が生じる。また、金属腐食物がガラスに付着し、生産されるイオン交換ガラス製品に不良が生じるおそれがある。
【0007】
本発明は、製品品質の維持すなわち高い生産性と、生産設備の劣化防止とを両立可能とするイオン交換ガラスの製造方法、イオン交換用混合物、およびイオン交換ガラス製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るイオン交換ガラスの製造方法は、アルカリ金属成分を含むイオン交換用ガラスの一部または全体を、イオン交換用混合物に浸漬させてイオン交換処理する工程を備えたイオン交換ガラスの製造方法であって、イオン交換用混合物は、溶融塩と、添加物としてアルカリ金属珪酸塩と、を含み、アルカリ金属珪酸塩が、イオン交換においてイオン交換用ガラスから溶融塩中に溶出するアルカリ金属成分とイオン交換可能なアルカリ金属成分を含む、ことを特徴とする。
【0009】
本発明に係るイオン交換ガラスの製造方法は、アルカリ金属珪酸塩は、イオン交換処理においてイオン交換用ガラスから溶融塩中に溶出するアルカリ金属成分よりイオン半径の大きいアルカリ金属成分を含み、イオン交換処理においてイオン交換用ガラスから溶融塩中に溶出するアルカリ金属成分がLiイオンであり、アルカリ金属珪酸塩が、Na2SiO3、Na4SiO4、Na2Si2O5、およびNa2Si4O9から選ばれた少なくとも1種類以上を含むことが好ましい。
【0010】
本発明に係るイオン交換ガラスの製造方法において、イオン交換用ガラスは、組成としてLi2Oを1.0モル%以上含むアルカリアルミノシリケートガラスであり、溶融塩が、NaNO3およびKNO3から選ばれた1種類以上を含むことが好ましい。
【0011】
本発明に係るイオン交換ガラスの製造方法は、イオン交換処理においてイオン交換用ガラスから溶融塩中に溶出するアルカリ金属成分がNaイオンであり、アルカリ金属珪酸塩が、K2SiO3、K4SiO4、K2Si2O5、およびK2Si4O9から選ばれた少なくとも1種類以上を含むことが好ましい。
【0012】
本発明に係るイオン交換ガラスの製造方法は、イオン交換処理においてイオン交換用ガラスから溶融塩中に溶出するアルカリ金属成分がNaイオンであり、アルカリ金属珪酸塩は、Li2SiO3、Li4SiO4、Li2Si2O5、およびLi2Si4O9から選ばれた少なくとも1種類以上を含むことが好ましい。
【0013】
本発明に係るイオン交換ガラスの製造方法において、イオン交換用ガラスが、組成としてNa2Oを1.0モル%以上含むアルカリアルミノシリケートガラスであり、溶融塩が、KNO3を含むことが好ましい。
【0014】
本発明に係るイオン交換ガラスの製造方法において、アルカリ金属珪酸塩が粉末状のアルカリ金属珪酸塩結晶物であることが好ましい。
【0015】
本発明に係るイオン交換ガラスの製造方法において、粉末状のアルカリ金属珪酸塩の平均粒径D50が、10~1000μmであることが好ましい。
【0016】
本発明に係るイオン交換ガラスの製造方法は、アルカリ金属珪酸塩を溶融塩に添加した後、溶融塩を撹拌する工程をさらに備えることが好ましい。
【0017】
本発明に係るイオン交換ガラスの製造方法において、溶融塩を100質量部とした場合に、アルカリ金属珪酸塩の添加量が0.1~30質量部であることが好ましい。
【0018】
本発明に係るイオン交換ガラスの製造方法において、イオン交換処理を、異なる複数ロットのイオン交換用ガラスを溶融塩へ順次浸漬することにより複数回行い、所定ロットのイオン交換用ガラスのイオン交換処理後に、得られたイオン交換ガラスの応力特性を測定する工程と、応力特性の測定結果に応じて、溶融塩へのアルカリ金属珪酸塩の添加を行うか否かを決定する工程と、をさらに備えることが好ましい。
【0019】
本発明に係るイオン交換ガラスの製造方法において、応力特性として、ガラスの表面圧縮応力を測定し、表面圧縮応力が予め定められた閾値未満である場合、溶融塩へのアルカリ金属珪酸塩の添加を行った後、次のロットのイオン交換用ガラスのイオン交換を行い、表面圧縮応力が予め定められた閾値以上である場合、溶融塩へのアルカリ金属珪酸塩の添加を行わず、次のロットのイオン交換用ガラスのイオン交換を行うことが好ましい。
【0020】
本発明に係るイオン交換用混合物は、溶融塩と添加物とを含む、ガラスのイオン交換用混合物であって、溶融塩としてNaNO3およびKNO3から選ばれた1種類以上を含み、添加物としてアルカリ金属珪酸塩を含むことが好ましい。
【0021】
本発明に係るイオン交換用混合物は、溶融塩を100質量部とした場合に、添加物としてアルカリ金属珪酸塩を0.1~30質量部含むことが好ましい。
【0022】
本発明に係るイオン交換用混合物において、アルカリ金属珪酸塩は、粉末状の結晶物であり、アルカリ金属珪酸塩が、Na2SiO3、Na4SiO4、Na2Si2O5、およびNa2Si4O9から選ばれた少なくとも1種類以上を含むことが好ましい。
【0023】
本発明に係るイオン交換用混合物において、アルカリ金属珪酸塩は、粉末状の結晶物であり、アルカリ金属珪酸塩は、Li2SiO3、Li4SiO4、Li2Si2O5、およびLi2Si4O9から選ばれた少なくとも1種類以上を含むことが好ましい。
【0024】
本発明に係るイオン交換ガラス製造装置は、上記のイオン交換用混合物のいずれかと、イオン交換用混合物を収容する収容槽と、を備え、収容槽におけるイオン交換用混合物との接触面の少なくとも一部が金属により構成される。
【0025】
本発明に係るイオン交換ガラス製造装置は、イオン交換用ガラスを保持し、イオン交換用混合物中に浸漬される治具をさらに備え、治具におけるイオン交換用混合物との接触面が金属により構成されることが好ましい。
【0026】
本発明に係るイオン交換ガラス製造装置において、金属はステンレス鋼であることが好ましい。
【0027】
本発明に係るイオン交換ガラスの製造方法は、ガラス組成としてNa2Oを含むイオン交換用ガラスの一部または全体を、イオン交換用混合物に浸漬させてイオン交換処理する工程を備えたイオン交換ガラスの製造方法であって、イオン交換用混合物は、溶融塩と、添加物としてリチウム塩と、を含む、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、従来技術に比べ、生産設備の劣化および製品品質の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るイオン交換ガラス製造装置の概略図である。
【
図2】本発明の第1実施形態に係るイオン交換ガラスの製造方法の概要を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態に係るイオン交換ガラスの製造方法、イオン交換ガラス製造装置、およびイオン交換用混合物について説明する。
【0031】
図1は本発明の第1実施形態に係るイオン交換ガラス製造装置の概略図である。イオン交換ガラス製造装置1は、イオン交換用ガラスG1をイオン交換処理し、イオン交換ガラスGXを得るための処理装置である。イオン交換ガラス製造装置1は、イオン交換用混合物10、収容槽11、および治具12を備える。
【0032】
イオン交換用混合物10は、イオン交換用ガラスG1と接触することによりイオン交換用ガラスG1中の成分とイオン交換を行う処理剤である。イオン交換用混合物10は、溶融塩101と、添加物102とを含む。
【0033】
溶融塩101は、イオン交換用ガラスG1中の成分とイオン交換可能な成分を含む塩であり、典型的にはアルカリ硝酸塩である。アルカリ硝酸塩としては、NaNO3、KNO3、LiNO3等が挙げられ、これらを単独で或いは複数種を混合して用いることができる。本実施形態では、NaNO3とKNO3の混合塩を用いた場合を例示する。NaNO3とKNO3の混合比率は任意に定めて良いが、例えば、質量%でNaNO3 5~95%、KNO3 5~95%、好ましくはNaNO3 30~80%、KNO3 20~70%、より好ましくはNaNO3 50~70%、KNO3 30~50%、とすることができる。
【0034】
添加物102は、イオン交換処理においてイオン交換用ガラスG1から溶融塩101中に溶出するアルカリ金属成分とイオン交換可能なアルカリ金属成分を含む物質であり、溶出イオンとは異なる一価の金属成分を含む金属塩である。本実施形態において、添加物102は、アルカリ金属塩として、例えば、イオン交換用ガラスG1から溶融塩101中に溶出するアルカリ金属成分よりイオン半径の大きなアルカリ金属成分を含むアルカリ金属珪酸塩を使用することができる。
【0035】
添加物102として添加するアルカリ金属珪酸塩の種類は、イオン交換用ガラスG1から溶融塩101中に溶出するアルカリ金属成分に応じて適宜選択することが好ましい。本第1実施形態では、イオン交換用ガラスG1がリチウムアルミノシリケートガラスであり、溶融塩101中に溶出するアルカリ金属成分がLiイオンである場合を例として説明する。この場合、アルカリ金属珪酸塩は、ナトリウム珪酸塩であることが好ましい。ナトリウム珪酸塩には、Na2SiO3(メタケイ酸ナトリウム)、Na4SiO4、Na2Si2O5、およびNa2Si4O9から選ばれた少なくとも1種類以上が含まれる。ナトリウム珪酸塩は無水物であることが好ましいが、水和物でも良い。このような構成によれば、溶融塩101中に溶出したLiイオンとアルカリ金属珪酸塩に含まれるNaイオンとをイオン交換し、溶融塩101中のLiイオンの濃度上昇を抑制できる。
【0036】
アルカリ金属珪酸塩は、結晶物であることが好ましい。さらに、アルカリ金属珪酸塩は、アルカリ金属珪酸塩結晶物を粉末状としたものであることが好ましい。アルカリ金属塩結晶物は溶融塩への添加時点で粉末状とすることが好ましいが、溶融塩への添加後に溶融塩中で粉砕することで粉末状としても良い。また、当該粉末の平均粒径D50は、10~1000μmであることが好ましい。当該粉末の平均粒径D50は、イオン交換用ガラスから溶出するアルカリ金属成分とのイオン交換性を向上させるため、より好ましくは900μm以下、800μm以下、700μm以下、500μm以下、450μm以下である。また、当該粉末の平均粒径D50は、添加前の粉塵防止のため、より好ましくは20μm以上、50μm以上、100μm以上、150μm以上、200μm以上、250μm以上である。
【0037】
溶融塩101に添加する添加物102の量、すなわちアルカリ金属塩の量は、溶融塩101を100質量部とした場合に、アルカリ金属塩が0.1~30質量部となるよう計量して添加することが好ましい。アルカリ金属塩の添加量は、より好ましくは、1~30質量部、2~25質量部、3~20質量部、4~15質量部である。添加物102の添加量が少なすぎると十分なイオン調整効果を得られず、添加量が過剰過ぎると添加剤のコストが増大する懸念がある。
【0038】
なお、本第1実施形態において、アルカリ金属珪酸塩としては、カリウム珪酸塩をナトリウム珪酸塩に代えて、或いはナトリウム珪酸塩と併用して使用することも可能である。カリウム珪酸塩には、K2SiO3、K4SiO4、K2Si2O5、およびK2Si4O9から選ばれた少なくとも1種類以上が含まれる。カリウム珪酸塩は無水物であることが好ましいが、水和物でも良い。
【0039】
収容槽11は、イオン交換用混合物10を収容する槽である。収容槽11におけるイオン交換用混合物10との接触面の少なくとも一部は、金属により構成される。本第1実施形態では、収容槽11の内面11Sがステンレス鋼により構成されている。なお、収容層11は、治具12およびイオン交換用ガラスG1を出し入れするための開口と、開口を施蓋する蓋部をさらに備えていることが好ましい(図示せず)。
【0040】
治具12は、イオン交換用ガラスG1を保持する部材である。治具12は、イオン交換処理時に、イオン交換用ガラスG1を保持した状態で、収容槽11内のイオン交換用混合物10中に浸漬される。治具12におけるイオン交換用混合物10との接触面の少なくとも一部は、金属により構成される。本第1実施形態では、治具12全体がステンレス鋼により構成されている。治具12は、図示しない搬送装置により収容層11の内外に搬入および搬出される。
【0041】
イオン交換用ガラスG1は、イオン交換処理の対象となるイオン交換処理前のガラス物品である。本第1実施形態ではイオン交換用ガラスG1が、矩形板状をなす場合を例示する。イオン交換用ガラスG1の板厚は、例えば2.0mm以下、より好ましくは1.0mm以下、更に好ましくは0.3mm~0.9mmである。イオン交換用ガラスG1の長さは、例えば、5mm~5000mm、15mm~1000mm、30mm~500mm、50mm~300mm、70mm~200mmであり、イオン交換用ガラスG1の幅は、1mm~4000mm、10mm~1000mm、30mm~500mm、40mm~300mm、50mm~150mmである。
【0042】
上述の通り本第1実施形態ではイオン交換用ガラスG1は、アルカリアルミノシリケートガラスであり、例えば、ガラス組成として、質量%で、SiO2 40%~70%、Al2O3 10%~30%、B2O3 0%~3%、Na2O 5%~25%、K2O 0%~5.5%、Li2O 0.1%~10%、MgO 0%~5.5%、P2O5 2%~10%を含有することが好ましい。
【0043】
Na2Oは、イオン交換成分であり、また高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める成分である。また、Na2Oは、耐失透性、成形体耐火物、特にアルミナ耐火物との反応失透性を改善する成分でもある。Na2Oの含有量が少な過ぎると、溶融性が低下したり、熱膨張係数が低下し過ぎたり、イオン交換速度が低下し易くなる。よって、Na2Oの好適な下限範囲は質量%で、5%以上、7%以上、8%以上、8.5%以上、9%以上、9.5%以上、10%以上、11%以上、12%以上、特に12.5%以上である。一方、Na2Oの含有量が多過ぎると、分相発生粘度が低下し易くなる。また耐酸性が低下したり、ガラス組成の成分バランスを欠き、かえって耐失透性が低下する場合がある。よって、Na2Oの好適な上限範囲は25%以下、22%以下、20%以下、19.5%以下、19%以下、18%以下、17%以下、16.5%以下、16%以下、15.5%以下、特に15%以下である。
【0044】
K2Oは、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める成分である。更に耐失透性を改善したり、ビッカース硬度を高める成分でもある。しかし、K2Oの含有量が多過ぎると、分相発生粘度が低下し易くなる。また耐酸性が低下したり、ガラス組成の成分バランスを欠き、かえって耐失透性が低下する傾向がある。よって、K2Oの好適な下限範囲は質量%で、0%以上、0.01%以上、0.02%以上、0.1%以上、0.5%以上、1%以上、1.5%以上、2%以上、2.5%以上、3%以上、特に3.5%以上であり、好適な上限範囲は5.5%以下、5%以下、特に4.5%未満である。
【0045】
Li2Oは、イオン交換成分であり、また高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める成分である。更にヤング率を高める成分である。またLi2Oは、イオン交換処理時に溶出して、イオン交換溶液を劣化させる成分でもある。よって、Li2Oの好適な下限範囲は質量%で、0.1%以上、0.5%以上、1.0%以上、1.5%以上、2.0%以上、特に2.5%以上であり、好適な上限範囲は10%以下、8%以下、5%以下、4.5%以下、4.0%以下、特に3.5%未満である。
【0046】
上記のイオン交換用ガラスG1は、例えば以下のようにして作製することができる。
【0047】
まず上記のガラス組成になるように調合したガラス原料を連続溶融炉に投入して、1500℃~1600℃で加熱溶融し、清澄した後、成形装置に供給した上でオーバーフローダウンドロー法により板状等に成形し、徐冷することにより、イオン交換用ガラスG1を作製することができる。なお、オーバーフローダウンドロー法以外にも、種々の成形方法を採用することができる。例えば、フロート法、ダウンドロー法(スロットダウン法、リドロー法等)、ロールアウト法、プレス法等の成形方法を採用することができる。
【0048】
イオン交換用ガラスG1を成形した後、或いは成形と同時に、必要に応じて曲げ加工を行ってもよい。また必要に応じて、切断加工、孔開け加工、表面研磨加工、面取り加工、端面研磨加工、エッチング加工等の加工を行ってもよい。
【0049】
以下、上述のイオン交換ガラス製造装置1を用いてイオン交換ガラスを製造する方法について説明する。
図2は本発明の第1実施形態に係るイオン交換ガラスの製造方法の概要を示すフローチャートである。
【0050】
まず、
図2に示すように、溶融塩準備工程の処理を行う(ステップS1)。具体的には、まず、収容層11内部において、NaNO
3およびKNO
3を混合および加熱溶融して溶融塩101を用意する。
【0051】
次いで、イオン交換処理工程を行う(ステップS2)。具体的には、複数枚のイオン交換用ガラスG1を一つのロットとして治具12に保持させ、溶融塩101に浸漬させる。イオン交換処理における溶融塩の温度および浸漬時間等の条件は任意に定めて良いが、溶融塩の温度は、例えば、350℃~500℃、好ましくは360℃~470℃、360℃~450℃、360℃~430℃、360℃~410℃である。また、浸漬時間は、例えば、0.1~30時間、好ましくは、0.2~20時間、0.3~15時間、0.4~10時間、0.5~5時間である。イオン交換用ガラスG1をイオン交換処理することにより、イオン交換ガラスGXを得られる。
【0052】
一つのロットのイオン交換処理が完了した場合、次のロットのイオン交換用ガラスG1をイオン交換処理し、予め定めた数のロットのイオン交換が完了するまでイオン交換処理を繰り返し実行する(ステップS3でNO)。
【0053】
一方、予め定めた数のロットのイオン交換が完了した場合(ステップS3でYES)、最後のイオン交換処理で得られたイオン交換ガラスGXの応力特性を測定する。具体的には、応力測定装置を用いてイオン交換ガラスGXの表面圧縮応力CSを測定する。
【0054】
なお、本発明において応力特性は、公知の応力測定方法、および公知の応力測定装置を用いて測定可能である。例えば、折原製作所社製の表面応力計FSM-6000LEや、SLP-1000等を単独で或いは組み合わせて用いて測定可能である。
【0055】
応力特性を測定完了後、当該応力特性が予め定められた閾値未満であるか否か判定する(ステップS5)。なお、閾値の値は製品仕様や測定装置に応じて任意に設定して良く、例えば、300~1000MPaの範囲内の任意の値に設定可能である。具体的には、本第1実施形態では、例えば、表面圧縮応力CSの値が400MPa未満であるか否か判定する。より好ましくは、最初のロットのイオン交換ガラスGXの表面圧縮応力CSの値を100%とした場合に、その75~85%の圧縮応力値を閾値として設定することが好ましい。
【0056】
応力特性が予め定められた閾値以上である場合(ステップS5でNO)、次のロットのイオン交換処理を実行し、上述ステップS2からステップS5の処理を繰り返す。
【0057】
一方、応力特性が予め定められた閾値未満である場合(ステップS5でYES)、溶融塩101に添加物102としてアルカリ金属珪酸塩を添加する添加処理を行う(ステップS6)。当該添加処理により、収容槽11の内部において本発明に係るイオン交換用混合物10が構成される。
【0058】
なお、ステップS6では、添加物102を溶融塩101に添加した後、溶融塩101を撹拌することが好ましい。撹拌は、棒や櫂等を収容槽11に挿入し、手動または機械により自動的に動作させることにより行うことができる。また、撹拌後、添加物が溶融塩101中で分散した状態で次の処理を行っても良いし、添加物101が収容槽11の内底部に沈殿するまで待機しても良い。
【0059】
上記ステップS6の添加処理を完了した後は、次のロットのイオン交換用ガラスG1に対しステップS2の処理を実施し、上述の処理を繰り返す。なお、ステップS6の処理後、添加物102によるイオン濃度の調整がある程度進むまで、予め定められた時間の経過を待機する期間を設けた後にステップS2の処理を開始しても良い。ステップS6の処理後、ステップS2を開始するまでの待機時間は任意に定めて良いが、例えば、1分以上、5分以上、10分以上、30分以上、1時間~24時間、1時間~12時間である。
【0060】
以上に示した第1実施形態に係るイオン交換ガラスの製造方法によれば、溶融塩101に添加物102としてアルカリ金属珪酸塩を添加してイオン交換用混合物10を構成することにより、溶融塩101のイオンバランスを適正な状態に調整することができる。また、添加物102としてアルカリ金属珪酸塩を添加することで、収容槽11および治具12の腐食を抑制できる。したがって、得られるイオン交換ガラスGXの応力特性を安定させることができる。
【0061】
また、第1実施形態に係るイオン交換ガラスの製造方法によれば、添加物102を適切なタイミングで添加することにより、添加物102の過剰な添加等を防止し、溶融塩101のイオンバランスを、より適切に調整できる。
【0062】
なお、上記第1実施形態のイオン交換ガラス製造方法では、応力特性として表面圧縮応力CSを測定し、表面圧縮応力CSの値の大小に基づいて添加処理の実施要否を判断する場合を例示したが、他の応力特性に基づいて上述の処理を行っても良い。例えば、ステップS4において圧縮応力層の深さDOCを測定し、ステップS5において圧縮応力層の深さが予め定められた閾値未満か否か判定しても良い。この場合、圧縮応力層の深さDOCの閾値は、例えば、50~150μmの範囲内の任意の値に設定して良い。また、圧縮応力層の深さDOCの閾値は、イオン交換用ガラスG1の厚みに応じた比率に基づいて設定しても良い。この場合、圧縮応力層の深さDOCの閾値は、例えば、イオン交換用ガラスG1の厚みの10%~25%の範囲内の任意の値に設定して良い。
【0063】
なお、上記第1実施形態のイオン交換ガラス製造方法では、所定のロット数毎にいわゆる抜き取り検査を行う場合を例示したが、各ロットのイオン交換用ガラスG1がイオン交換処理される毎に測定工程を行っても良い。この場合、ステップS3の判定処理は省略して良い。このような処理とすれば、ステップS6の添加処理を適切なタイミングで行うことができ、不良製品の流出をより好適に抑制できる。
【0064】
また、上記第1実施形態のイオン交換ガラス製造方法において、ステップS4、S5の処理を省略しても良い。すなわち、所定ロット数のイオン交換処理が完了した時点で(ステップS3でYES)、ステップS6の添加処理を実施しても良い。例えば、ロット数で溶融塩101の劣化の程度やイオン交換ガラスGXの特性低下の程度が予測可能な場合などには、このような処理を採用することにより、ステップS4、S5の工数を低減して生産を効率化することができる。
【0065】
また、上記第1実施形態のイオン交換ガラス製造方法において、ステップS1の溶融塩準備工程の後、ステップS2のイオン交換処理の前に、ステップS6の添加処理を行い、予め溶融塩101に添加物102が添加された状態で生産を開始しても良い。
【0066】
(第2実施形態)
上記第1実施形態では、溶融塩中に溶出するLiイオン濃度の上昇を抑制する場合を例として説明したが、他のイオン濃度の調整にも適用可能である。例えば、溶融塩中に溶出するNaイオン濃度の上昇を抑制する場合は以下の第2実施形態のようにして適用可能である。なお、以下では第1実施形態との相違点について述べ、他の構成については第1実施形態と同様であるものとして説明を省略する。
【0067】
本発明の第2実施形態に係るイオン交換用ガラスG2は、ガラス組成としてNa2Oを含み、且つLi2Oを含有しないアルカリアルミノシリケートガラスである。より詳細には、イオン交換用ガラスG2は、例えば、ガラス組成として、質量%でSiO2 40%~70%、Al2O3 10%~30%、B2O3 0%~3%、Na2O 5%~25%、K2O 0%~5.5%、MgO 0%~5.5%、P2O5 2%~10%を含有し、Li2Oを含有しないガラスである。なお、本発明においてLi2Oを含有しないとは、Li2の含有量が0.1質量%未満であることを指す。
【0068】
Na2Oは、イオン交換成分であり、また高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める成分である。また、Na2Oは、耐失透性、成形体耐火物、特にアルミナ耐火物との反応失透性を改善する成分でもある。Na2Oの含有量が少な過ぎると、溶融性が低下したり、熱膨張係数が低下し過ぎたり、イオン交換速度が低下し易くなる。よって、Na2Oの好適な下限範囲は質量%で、5%以上、7%以上、8%以上、8.5%以上、9%以上、9.5%以上、10%以上、11%以上、12%以上、特に12.5%以上である。一方、Na2Oの含有量が多過ぎると、分相発生粘度が低下し易くなる。また耐酸性が低下したり、ガラス組成の成分バランスを欠き、かえって耐失透性が低下する場合がある。よって、Na2Oの好適な上限範囲は25%以下、22%以下、20%以下、19.5%以下、19%以下、18%以下、17%以下、16.5%以下、16%以下、15.5%以下、特に15%以下である。
【0069】
K2Oは、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める成分である。更に耐失透性を改善したり、ビッカース硬度を高める成分でもある。しかし、K2Oの含有量が多過ぎると、分相発生粘度が低下し易くなる。また耐酸性が低下したり、ガラス組成の成分バランスを欠き、かえって耐失透性が低下する傾向がある。よって、K2Oの好適な下限範囲は質量%で、0%以上、0.01%以上、0.02%以上、0.1%以上、0.5%以上、1%以上、1.5%以上、2%以上、2.5%以上、3%以上、特に3.5%以上であり、好適な上限範囲は5.5%以下、5%以下、特に4.5%未満である。
【0070】
第2実施形態では、イオン交換用混合物に含まれる添加物としてのアルカリ金属珪酸塩は、カリウム珪酸塩であることが好ましい。カリウム珪酸塩には、K2SiO3、K4SiO4、K2Si2O5、およびK2Si4O9から選ばれた少なくとも1種類以上が含まれる。このような構成によれば、溶融塩中に溶出したNaイオンとアルカリ金属珪酸塩に含まれるKイオンとをイオン交換し、溶融塩中のNaイオンの濃度上昇を抑制できる。
【0071】
カリウム珪酸塩は、KNO3を主成分とする溶融塩へ添加することが特に効果的である。KNO3を主成分とする溶融塩101は、例えば、質量%でKNO3 80~100%、NaNO3+LiNO3 0~20%含み、好ましくは、KNO3 90~99.9%、NaNO3+LiNO3 0.1~10%含み、より好ましくは、KNO3 98.5~99.8%、NaNO3+LiNO3 0.2~1.5%含む。このようなKNO3を主成分とした溶融塩においては、ガラスからNaイオンが溶出して溶融塩中のNaイオン濃度が上昇し易いため、上述のカリウム珪酸塩の添加により当該濃度上昇を効果的に抑制できる。
【0072】
(第3実施形態)
第2実施形態では、イオン交換用混合物に含まれる添加物としてカリウム珪酸塩を用いる場合を説明したが、溶融塩のNaイオン濃度の上昇を抑制する目的では、添加物としてリチウム塩を用いても良い。すなわち、溶出イオンよりイオン半径の小さな金属成分を含む金属塩を添加物として用いても良い。
【0073】
リチウム塩は、例えば、リチウム珪酸塩であり、Li2SiO3(メタケイ酸リチウム)、Li4SiO4、Li2Si2O5、Li2Si4O9から選んだ少なくとも1種類以上が含まれる。
【0074】
また、リチウム塩としては、リチウムリン酸塩を用いても良い。リチウムリン酸塩には、Li3PO4(リン酸三リチウム)、Li2HPO4、およびLiH2PO4から選ばれた少なくとも1種類以上が含まれる。リチウム珪酸塩およびリチウムリン酸塩は、単独或いは組み合わせて用いることができる。
【0075】
なお、第3の実施形態では、上述第1、2実施形態に記載のものと同様のイオン交換用ガラスおよび溶融塩を同様の条件で用いることができる。
【0076】
(第4実施形態)
上記第1実施形態のようにして得られたイオン交換ガラスGXは、さらに追加のイオン交換処理を施されても良い。すなわち、上述
図2に示したイオン交換処理(ステップS2)を一段階目のイオン交換処理として、図示しない二段階目のイオン交換処理をさらに実施しても良い。二段階目のイオン交換処理では、一段階目のイオン交換処理で用いられた溶融塩101(第1溶融塩と称する)よりもKNO
3の混合比率が高い溶融塩(第2溶融塩と称する)を別途用意して用いることが好ましく、より好ましくはKNO
3の混合比率が90質量%以上であることが好ましく、より好ましくは第2実施形態に記載の溶融塩組成とすることができる。このような処理によれば、イオン交換ガラスGXに対し、一段回目のイオン交換処理では深い圧縮応力層を形成し、二段階目のイオン交換処理で高い表面圧縮応力CSを付与することができる。なお、二段階目のイオン交換処理は、イオン交換ガラスGXの表面圧縮応力CSが700MPa以上となるよう溶融塩の組成、処理温度、および処理時間等を調整することが好ましい。
【0077】
また、上述の二段階目のイオン交換処理に用いる第2溶融塩に対し、第2、3実施形態に示した方法と同様にカリウム珪酸塩やリチウム塩を添加しても良い。このような構成によれば、第2溶融塩において、Naイオン濃度の過剰な上昇を抑制できる。
【0078】
また、第2溶融塩に対し、第1実施形態に示した方法と同様にしてナトリウム珪酸塩を添加しても良い。一段階目のイオン交換処理によりガラス表面にリチウム塩が付着した状態となり、そのまま第2溶融塩内にガラスを浸漬して二段階目のイオン交換処理を行った場合、第2溶融塩内でLiイオン濃度が上昇し、イオン交換が阻害されるおそれがある。しかしながら、上記のように第2溶融塩にナトリウム珪酸塩を添加することにより、第2溶融塩におけるLiイオン濃度の上昇を抑制できる。
【0079】
なお、上記各実施形態では、イオン交換用ガラスG1およびイオン交換ガラスGXが矩形板状である場合を例示したが、矩形板状に限らず、例えば、曲げ板状、円盤状、管状、容器状、球状など、任意の形状に適用可能である。
【0080】
また、上記各実施形態では、イオン交換処理が主にガラスの強度向上を目的としたものであり、イオン交換ガラスGXが化学強化ガラスである場合を例示したが、本発明は、例えば、レンズ等の光学部品の屈折率調整や、医療用途ガラスの表面処理等を目的としたイオン交換処理等、他の用途目的に応じたイオン交換処理に適用しても良い。
【0081】
また、添加物102として用いるアルカリ金属珪酸塩は、カリウム珪酸塩、ナトリウム珪酸塩、およびリチウム珪酸塩を混合して用いても良い。例えば、複数種のアルカリ金属イオンがイオン交換用ガラスG1から溶出する場合、溶出するアルカリ金属イオンの種数に応じて、複数種のアルカリ金属珪酸塩を混合することにより、溶融塩101中における各アルカリ金属イオンの濃度を好適に調整し得る。
【0082】
また、上記各実施形態では、収容槽11および治具12においてステンレス鋼が用いられる場合を例示したが、ステンレス鋼としては、オーステナイト系ステンレスや、フェライト系ステンレスなど、公知の種類のステンレス鋼を用いることができる。また、収容槽11および治具12は、ステンレス鋼以外にも、溶融塩101に対して耐食性を有する任意の金属を用いて構成されても良い。
【実施例1】
【0083】
以下、本発明に係るイオン交換ガラスの製造方法およびイオン交換用混合物について実施例に基づいて説明する。なお、以下の実施例は単なる例示であって、本発明は、以下の実施例に何ら限定されない。
【0084】
次のようにして試料を作製した。まずガラス組成として質量%で、SiO2 51.6%、Al2O3 27.9%、B2O3 0.3%、K2O 0.6%、Na2O 7.5%、Li2O 3.3%、MgO 0.3%、P2O5 8.4%、SnO2 0.1%を含むイオン交換用ガラスG1を用意した。
【0085】
具体的には、上記組成となるようにガラス原料を調合し、白金ポットを用いて1600℃で21時間溶融した。その後、得られた溶融ガラスを、オーバーフローダウンドロー法を用いて耐火物成形体から流下成形して、厚さ0.7mmの板状に成形した。
【0086】
次いで、上記イオン交換用ガラスを表1に示すNo.1~6に示す構成のイオン交換用混合物に、表1に示す温度および時間の条件で浸漬し、イオン交換処理を行った。表1においてNo.1~3は本発明の実施例であり、No.4~6は比較例である。
【0087】
No.1、2、4に係るイオン交換用混合物は、イオン交換処理を繰り返した後のLiイオン濃度が上昇した溶融塩を模するため、溶融塩にLiNO3を混合して調整したものである。一方、No.3、5、6のイオン交換用混合物は、Liイオンを含まない新しい状態の溶融塩である。
【0088】
No.1~3に係るイオン交換用混合物には、添加物としてNa2SiO3を添加した。一方、No.4、6に係るイオン交換用混合物には、比較のため添加物を添加しなかった。また、No.5に係るイオン交換用混合物には、比較のため添加物としてNa3PO4を添加した。なお、表1おいて添加物の添加量は、溶融塩を100質量部とした場合の質量部により表されたものである。
【0089】
No.3、5に係るイオン交換用混合物には、金属腐食性を評価するため、各々SUS304、SUS316、およびSUS430から成る厚さ1.0mm、幅20mm、長さ50mmの板状金属試料片を、一枚ずつ浸漬した。
【0090】
このようにして得られたイオン交換用混合物およびイオン交換ガラスの特性を表1に示す。
【0091】
【0092】
表1における表面圧縮応力CSは、折原製作所社製の表面応力計FSM-6000LEを用いて測定した値である。
【0093】
表1における金属腐食量は、各金属試料片のイオン交換用混合物への浸漬前の重量に対する、浸漬後の重量の変動量を示す。
【0094】
溶融塩のLiイオン濃度が高く且つ添加物を含まない比較例No.4は、溶融塩にLiイオンを含まない比較例No.6に比べ、イオン交換ガラスの表面圧縮応力値CSが著しく低下することが示された。
【0095】
一方、添加物としてNa2SiO3を含む実施例No.1、2は何れも、添加物を含まない比較例No.4に比べ、イオン交換ガラスの表面圧縮応力値CSの低下が抑制されることが確認できた。
【0096】
また、添加物としてNa3PO4を添加された比較例No.5は、浸漬された各金属試料について重量の減少が認められ、金属腐食の発生が確認された。一方、添加物としてNa2SiO3を添加された実施例No.3の金属試料には何れも重量の減少は認められず、金属腐食が抑制されていることが確認された。
【実施例2】
【0097】
以下の実施例では、リチウム塩の添加による溶融塩中のNaイオン濃度の上昇抑制効果を検証した。表2においてNo.7は本発明の実施例であり、No.8は参考例、No.9は比較例である。
【0098】
まず、表2に示すNo.7~9に示す構成の溶融塩を表1に記載の温度に調整した。No.7~9に係る溶融塩は、イオン交換処理を繰り返した後のNaイオン濃度が上昇した溶融塩を模するため、溶融塩にNaNO3を混合して調整したものである。
【0099】
次いで、各溶融塩に表2記載の各添加物を添加しイオン交換用混合物とした。No.7に係るイオン交換用混合物には、添加物としてLi2SiO3を添加した。No.8に係るイオン交換用混合物には、添加物としてLi3PO4を添加した。一方、No.9に係るイオン交換用混合物には、比較のため添加物を添加しなかった。なお、表2おいて添加物の添加量は、溶融塩を100質量部とした場合の質量部により表されたものである。
【0100】
次いで、添加物を添加した時点から表2記載の時間経過した後のイオン交換用混合物のLiイオン濃度およびNaイオン濃度を測定した。より詳細には、各溶融塩から沈殿物のない上澄み液を10g程度採取し、原子吸光分析法を用いてLiイオンおよびNaイオンの濃度を定量分析した。
【0101】
【0102】
上記測定結果によれば、実施例であるNo.7に係るイオン交換用混合物では、添加物を含まない比較例No.9に比べNaイオン濃度が低下し、Naイオン濃度上昇抑制の効果が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明のイオン交換ガラスの製造方法、イオン交換ガラス製造装置、およびイオン交換用混合物は、例えば、スマートフォン、携帯電話、タブレットコンピュータ、パーソナルコンピュータ、デジタルカメラ、タッチパネルディスプレイ、その他ディスプレイデバイスのカバーガラス、車載パネル、および磁気ディスク、等に用いられるイオン交換ガラスの製造に利用可能である。
【符号の説明】
【0104】
1 イオン交換ガラス製造装置
10 イオン交換用混合物
11 収容槽
12 治具
101 溶融塩
102 添加物
G1、G2 イオン交換用ガラス
GX イオン交換ガラス