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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-08
(45)【発行日】2024-10-17
(54)【発明の名称】車両制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/09 20120101AFI20241009BHJP
   G08G 1/16 20060101ALN20241009BHJP
【FI】
B60W30/09
G08G1/16 C
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020203385
(22)【出願日】2020-12-08
(65)【公開番号】P2022090833
(43)【公開日】2022-06-20
【審査請求日】2023-07-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】掛下 真舟
(72)【発明者】
【氏名】川崎 聡史
【審査官】戸田 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-111219(JP,A)
【文献】特開2019-143484(JP,A)
【文献】特開2017-030534(JP,A)
【文献】国際公開第2014/016911(WO,A1)
【文献】特開2009-001066(JP,A)
【文献】特開2008-162457(JP,A)
【文献】特開2015-221643(JP,A)
【文献】特開2014-117976(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/09
G08G 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の周辺領域に存在する物体に関する情報である物体情報を取得する周囲センサと、
加速操作子の操作量を検出する操作量センサと、
操舵ハンドルの操舵角を検出する操舵角センサと、
前記物体情報に基いて制御対象物体を選択し、
前記車両が前記制御対象物体と衝突する可能性が高いときに成立する所定の実行条件が成立した場合、前記制御対象物体との衝突を回避するための衝突回避制御を実行するように構成された制御ユニットと、
を備え、
前記制御ユニットは、
前記車両の運転者が前記加速操作子を強く操作したときに成立する所定の第1踏込条件が成立し、且つ、前記操舵角の大きさが所定の第1操舵角閾値より大きいとき、
前記運転者が第1誤操作を行ったと判定するように構成され、
前記制御ユニットは、
前記運転者が前記第1誤操作を行い、且つ、前記車両と前記制御対象物体との間の距離が所定の第1距離閾値より小さい第1状況において、
前記衝突回避制御の実行を許可するように構成された、
車両制御装置において、
前記制御ユニットは、
前記運転者が前記加速操作子を強く操作したときに成立する所定の第2踏込条件が成立し、且つ、前記操舵角の大きさが所定の第2操舵角閾値より小さいとき、
前記運転者が第2誤操作を行ったと判定するように構成され、
前記第1操舵角閾値は、前記第2操舵角閾値よりも大きく、
前記制御ユニットは、
前記運転者が前記第2誤操作を行い、且つ、前記距離が所定の第2距離閾値より小さい第2状況において、
前記衝突回避制御の実行を許可するように構成され、
前記制御ユニットは、前記第1状況及び前記第2状況において、前記操作量に基づく前記車両の加速を禁止するように構成され、
前記第1距離閾値は、前記第2距離閾値よりも大きく、
前記制御ユニットは、
前記操作量の単位時間当たりの変化量である操作速度が所定の第1操作速度閾値以上であり、且つ、前記操作量が所定の第1操作量閾値以上である場合、前記第1踏込条件が成立したと判定し、
前記操作速度が所定の第2操作速度閾値以上であり、且つ、前記操作量が所定の第2操作量閾値以上である場合、前記第2踏込条件が成立したと判定する
ように構成され、
前記第1操作速度閾値は、前記第2操作速度閾値以下であり、
前記第1操作量閾値は、前記第2操作量閾値よりも小さい、
車両制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両制御装置において、
前記周囲センサは、
前記車両の周囲の第1領域を撮影して画像データを取得し、前記画像データを用いて前記第1領域に存在する物体の前記物体情報を取得する第1センサと、
電磁波を用いて、前記車両の周囲の第2領域であって、前記第1領域を含み且つ前記第1領域よりも大きい領域である第2領域に存在する物体の前記物体情報を取得する第2センサと、
を含み、
前記制御ユニットは、前記運転者が前記第1誤操作を行ったと判定した場合、
前記第1センサ及び前記第2センサの両方によって検出された第1物体、及び、前記第2センサのみによって検出された第2物体の中から、前記制御対象物体を選択するように構成された、
車両制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、衝突回避制御を実行するように構成された車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両の周囲に存在する物体を検出し、その物体との衝突を回避するための衝突回避制御を実行するように構成された車両制御装置が知られている(例えば、特許文献1を参照。)。衝突回避制御は、プリクラッシュセーフティー制御(Pre Crash Safety Control)とも称呼される場合がある。以降において、衝突回避制御は、単に「PCS制御」と称呼される。
【0003】
車両の前方に物体が存在する状況において、運転者が運転操作(例えば、アクセルペダルの操作及び操舵ハンドルの操作等)を行う場合がある。この場合、運転操作は、物体との衝突を回避するための操作である可能性がある。これを考慮して、従来から知られる車両制御装置の一つは、PCS制御よりも運転者による運転操作を優先させる制御を実行する。このような制御は、「オーバーライド制御」とも称呼される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-121534号公報
【発明の概要】
【0005】
しかし、例えば、運転者が、ブレーキペダルの代わりに誤ってアクセルペダルを操作する場合もある。以降において、このような操作を「アクセルペダル(加速操作子)の誤操作」と称呼する。特許文献1に記載の装置(以下、「従来装置」と称呼する。)は、アクセルペダルの誤操作が行われたか否かを判定する。従来装置は、アクセルペダルの誤操作が行われたと判定した場合、オーバーライド制御を実行することなく、PCS制御を実行する。
【0006】
ところで、運転者が操舵ハンドルを操作した場合、この操作は、通常、物体との衝突を回避するための操作であると考えられる。しかし、運転者がパニック状態に陥っていることから、運転者がアクセルペダルの誤操作を行いながら操舵ハンドルを大きく操作してしまう場合もある。このような状況においてオーバーライド制御が実行され(即ち、運転操作が優先されて)、これにより、PCS制御が実行されないと仮定する。この場合、車両が、当該車両の周囲に存在する物体に接近してしまう可能性がある。
【0007】
本開示は、運転者がアクセルペダルの誤操作を行い且つ操舵ハンドルを大きく操作する場合において、PCS制御を実行することが可能な技術を提供する。
【0008】
一以上の実施形態における車両制御装置は、
車両(VA)の周辺領域に存在する物体に関する情報である物体情報を取得する周囲センサ(14)と、
加速操作子(51)の操作量(AP)を検出する操作量センサ(21)と、
操舵ハンドル(SW)の操舵角(θ)を検出する操舵角センサ(11)と、
前記物体情報に基いて制御対象物体を選択し、
前記車両が前記制御対象物体と衝突する可能性が高いときに成立する所定の実行条件が成立した場合、前記制御対象物体との衝突を回避するための衝突回避制御を実行するように構成された制御ユニット(10)と、
を備える。
前記制御ユニットは、
前記車両の運転者が前記加速操作子を強く操作したときに成立する所定の第1踏込条件が成立し、且つ、前記操舵角の大きさが所定の第1操舵角閾値(θth1)より大きいとき、前記運転者が第1誤操作を行ったと判定するように構成されている。
前記制御ユニットは、
前記運転者が前記第1誤操作を行い、且つ、前記車両と前記制御対象物体との間の距離(Dto_target)が所定の第1距離閾値(Dth1)より小さい第1状況において、
前記衝突回避制御の実行を許可するように構成されている。
更に、前記制御ユニットは、
前記運転者が前記加速操作子を強く操作したときに成立する所定の第2踏込条件が成立し、且つ、前記操舵角の大きさが所定の第2操舵角閾値(θth2)より小さいとき、前記運転者が第2誤操作を行ったと判定するように構成されている。
前記第1操舵角閾値は、前記第2操舵角閾値よりも大きい。
更に、前記制御ユニットは、
前記運転者が前記第2誤操作を行い、且つ、前記距離(Dto_target)が所定の第2距離閾値(Dth2)より小さい第2状況において、
前記衝突回避制御の実行を許可するように構成されている。
更に、前記制御ユニットは、前記第1状況及び前記第2状況において、前記操作量に基づく前記車両の加速を禁止するように構成されている。
前記第1距離閾値(Dth1)は、前記第2距離閾値(Dth2)よりも大きい。
更に、前記制御ユニットは、
前記操作量の単位時間当たりの変化量である操作速度(APV)が所定の第1操作速度閾値以上(APVth1)であり、且つ、前記操作量(AP)が所定の第1操作量閾値(APth1)以上である場合、前記第1踏込条件が成立したと判定し、
前記操作速度(APV)が所定の第2操作速度閾値(APVth2)以上であり、且つ、前記操作量(AP)が所定の第2操作量閾値(APth2)以上である場合、前記第2踏込条件が成立したと判定する
ように構成されている。
前記第1操作速度閾値は、前記第2操作速度閾値以下である。
前記第1操作量閾値(APth1)は、前記第2操作量閾値(APth2)よりも小さい。
【0009】
運転者がパニックに陥って、運転者が加速操作子を強く操作すると共に操舵ハンドルを大きく操作する(即ち、第1誤操作が行われた)と仮定する。上記構成によれば、車両制御装置は、このような状況において衝突回避制御を実行することができる。車両が車両の周辺領域に存在する物体に接近する可能性を低減できる。
又、第1誤操作が行われた場合、運転者がパニックに陥っている可能性が高い。上記構成によれば、第1距離閾値は第2距離閾値よりも大きい。従って、車両制御装置は、第1誤操作が行われた場合、第2誤操作が行われた場合よりも早いタイミングで、車両の加速を禁止し、且つ、衝突回避制御の実行を許可する。一方で、第2誤操作が行われた場合には、運転者が意図的に加速操作子を強く操作している可能性もある。従って、車両制御装置は、第1誤操作が行われた場合よりも遅いタイミングで、車両の加速を禁止し、且つ、衝突回避制御の実行を許可する。従って、不要な状況において衝突回避制御が実行される可能性を低減できる。
又、第1誤操作が行われた場合の操作量は、第2誤操作が行われた場合に比べて小さい傾向にある。上記の構成によれば、車両制御装置は、第1誤操作が行われたかどうかを精度良く判定することができる。
【0014】
一以上の実施形態において、前記周囲センサは、
前記車両の周囲の第1領域を撮影して画像データを取得し、前記画像データを用いて前記第1領域(Ac)に存在する物体の前記物体情報を取得する第1センサ(15)と、
電磁波を用いて、前記車両の周囲の第2領域(Ara、Arb、Arc)であって、前記第1領域を含み且つ前記第1領域よりも大きい領域である第2領域に存在する物体の前記物体情報を取得する第2センサ(16)と、
を含む。
前記制御ユニットは、前記運転者が前記第1誤操作を行ったと判定した場合、
前記第1センサ及び前記第2センサの両方によって検出された第1物体(OB1)、及び、前記第2センサのみによって検出された第2物体(OB2)の中から、前記制御対象物体を選択するように構成されている。
【0015】
第1誤操作が行われた場合、車両が大きく旋回している。これを考慮して、車両制御装置は、広い領域から制御対象物体を選択する。これにより、車両制御装置は、車両が車両の周辺領域に存在する物体に接近する可能性を更に低減できる。
【0022】
一以上の実施形態において、上記の制御ユニットは、本明細書に記述される一以上の機能を実行するためにプログラムされたマイクロプロセッサにより実施されてもよい。一以上の実施形態において、上記の制御ユニットは、一以上のアプリケーションに特化された集積回路、即ち、ASIC等により構成されたハードウェアによって、全体的に或いは部分的に実施されてもよい。
【0023】
上記説明においては、後述する一以上の実施形態に対応する構成要素に対し、実施形態で用いた名称及び/又は符号を括弧書きで添えている。しかしながら、各構成要素は、前記名称及び/又は符号によって規定される実施形態に限定されるものではない。本開示の他の目的、他の特徴及び付随する利点は、以下の図面を参照しつつ記述される一以上の実施形態についての説明から容易に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】一以上の実施形態に係る車両制御装置の概略構成図である。
図2図1に示した周囲センサにより取得される物体情報(物体の縦距離及び方位等)を説明するための図である。
図3図1に示したレーダセンサ及びカメラセンサのそれぞれの検出可能範囲を示した図である。
図4】衝突回避ECU(PCSECU)のCPUが実行する「第1フラグ設定ルーチン」を示したフローチャートである。
図5図4のステップ403にてCPUが実行する「第1誤操作判定ルーチン」を示したフローチャートである。
図6図4のステップ404にてCPUが実行する「第2誤操作判定ルーチン」を示したフローチャートである。
図7】CPUが実行する「PCS制御実行ルーチン」を示したフローチャートである。
図8】CPUが実行する「PCS制御解除ルーチン」を示したフローチャートである。
図9】変形例に係るCPUが実行する「第1フラグ設定ルーチン」を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(車両制御装置の構成)
一以上の実施形態に係る車両制御装置は、図1に示すように、車両VAに適用される。車両制御装置は、衝突回避ECU10、エンジンECU20、ブレーキECU30、及び、メータECU40を備えている。これらのECUは、幾つか又は全部が一つのECUに統合されてもよい。以降において、衝突回避ECU10は、「PCSECU10」と称呼される。
【0026】
上記のECUは、マイクロコンピュータを主要部として備える電気制御装置(Electric Control Unit)であり、図示しないCAN(Controller Area Network)を介して相互に情報を送信可能及び受信可能に接続されている。
【0027】
本明細書において、マイクロコンピュータは、CPU、ROM、RAM、不揮発性メモリ及びインターフェースI/F等を含む。例えば、PCSECU10は、CPU10a、ROM10b、RAM10c、不揮発性メモリ10d及びインターフェース(I/F)10e等を含むマイクロコンピュータを備える。CPU10aはROM10bに格納されたインストラクション(プログラム、ルーチン)を実行することにより、後述する各種機能を実現するようになっている。
【0028】
PCSECU10は、以下に列挙するセンサと接続されていて、それらの検出信号又は出力信号を受信するようになっている。
【0029】
操舵角センサ11は、操舵ハンドルSWの操舵角を検出し、操舵角θ[deg]を表す信号を出力するようになっている。操舵角θの値は、操舵ハンドルSWを所定の基準位置(中立位置)から第1方向(左方向)に回転させた場合に正の値となり、操舵ハンドルSWを基準位置から第1方向とは反対の第2方向(右方向)に回転させた場合に負の値になる。なお、中立位置とは、操舵角θがゼロとなる基準位置であり、車両が直進走行する際の操舵ハンドルSWの位置である。
【0030】
車速センサ12は、車両VAの走行速度(車速)を検出し、車速Vsを表す信号を出力するようになっている。
【0031】
ウインカースイッチ13は、左右のウィンカー(方向指示器)61r、61lのそれぞれをオン状態とオフ状態との間で変更させるためのスイッチである。運転者は、左右のウィンカー61r、61lを作動(点滅)させるためにウインカーレバー(図示略)を操作する。ウインカーレバーは、少なくとも第1位置及び第2位置に操作できるようになっている。第1位置は、初期位置から時計回りに所定角度回転された位置である。第2位置は、初期位置から反時計回りに所定角度回転された位置である。
【0032】
ウインカースイッチ13は、ウインカーレバーが第1位置にある場合、右のウィンカー61rをオン状態にする(即ち、ウィンカー61rを点滅させる)。この場合、ウインカースイッチ13は、ウィンカー61rがオン状態であることを表す信号をPCSECU10に出力する。ウインカースイッチ13は、ウインカーレバーが第2位置にある場合、左のウィンカー61lをオン状態にする(即ち、ウィンカー61lを点滅させる)。この場合、ウインカースイッチ13は、ウィンカー61lがオン状態であることを表す信号をPCSECU10に出力する。なお、ウインカースイッチ13は、左右のウィンカー61r、61lがオフ状態である場合、その旨を表す信号をPCSECU10に出力する。
【0033】
周囲センサ14は、カメラセンサ15、並びに、レーダセンサ16a、16b及び16cを備えている。周囲センサ14は、車両の周囲領域に存在する立体物に関する情報を取得する。本例において、周囲領域は、後述するように、前方領域、右側方領域及び左側方領域を含む。立体物は、例えば、歩行者、二輪車及び自動車等の移動物、並びに、電柱、樹木及びガードレール等の固定物を表す。以下、これらの立体物は単に「物体」と称呼される。周囲センサ14は、物体に関する情報(以下、「物体情報」と称呼する。)を演算して出力するようになっている。
【0034】
図2に示すように、周囲センサ14は、二次元マップ上において、物体情報を取得する。二次元マップは、x軸及びy軸により規定される。x軸の原点及びy軸の原点は、車両VAの前部の車幅方向における中心位置Oである。x軸は、車両VAの前後方向に沿って車両VAの中心位置Oを通るように伸び、前方を正の値として有する座標軸である。y軸は、x軸と直交し、車両VAの左方向を正の値として有する座標軸である。x-y座標のx座標位置は縦距離Dfx、y座標位置は横位置Dfyと称呼される。
【0035】
物体情報は、物体(n)の縦距離Dfx(n)、物体(n)の横位置Dfy(n)、物体(n)の進行方向、及び、物体(n)の相対速度Vfx(n)等を含む。
【0036】
縦距離Dfx(n)は、x軸方向における、物体(n)と原点Oとの間の符号付き距離である。横位置Dfy(n)は、y軸方向における、物体(n)と原点Oとの間の符号付き距離である。相対速度Vfx(n)は、物体(n)の速度Vnと車両VAの速度Vsとの差(=Vn-Vs)である。物体(n)の速度Vnは、x軸方向における物体(n)の速度である。
【0037】
なお、図2に示したように、横位置Dfy(n)は、車両VAに対する物体(n)の方位θpと縦距離Dfx(n)とに基いて求められるので、物体情報は、横位置Dfy(n)に代えて方位θpを含む場合がある。
【0038】
カメラセンサ15は、カメラ15a及び画像処理部(図示省略)を備える。カメラ15aは、単眼カメラ又はステレオカメラである。なお、カメラセンサ15は、「第1センサ」と称呼される場合がある。
【0039】
図3に示すように、カメラ15aは、車両VAの前端部の中央に取付けられ、車両VAの周囲の所定の領域(車両VAの前方領域)を撮影して画像データを取得する。カメラセンサ15が物体を検出できる領域Acは、「車両VAの前端部の車幅方向の中央から前方へ延びる検出軸CSL」を中心として右方向に右境界線RCBLまで、左方向に左境界線LCBLまでの扇形の領域である。領域Acは、「第1領域」と称呼される場合がある。検出軸CSLは、車両VAの車両前後軸FRと一致している。
【0040】
カメラ15aは、所定のフレームレートで領域Acを撮影して、撮影した画像データを画像処理部に出力する。画像処理部は、画像データに基いて、領域Ac内に存在する物体を検出する。以降において、カメラセンサ15により検出された物体は「物体(c)」と称呼される。更に、画像処理部は、画像データに基いて、物体(c)についての物体情報を取得(演算)する。PCSECU10は、カメラセンサ15から、物体(c)についての物体情報を「第1検出情報」として取得する。
【0041】
図3に示すように、レーダセンサ16aは車両VAの前端部の右端に取付けられ、レーダセンサ16bは車両VAの前端部の中央に取付けられ、レーダセンサ16cは車両VAの前端部の左端に取付けられている。なお、レーダセンサ16a、16b及び16cを区別する必要がない場合には、「レーダセンサ16」と称呼する。更に、レーダセンサ16は「第2センサ」と称呼される場合がある。
【0042】
レーダセンサ16は、レーダ波送受信部と情報処理部とを備えている。レーダ波送受信部は、電磁波(例えば、ミリ波帯の電波、「ミリ波」と称呼する。)を放射し、放射範囲内に存在する物体によって反射されたミリ波(即ち、反射波)を受信する。なお、レーダセンサ16はミリ波帯以外の周波数帯の電波を用いるレーダセンサであってもよい。
【0043】
情報処理部は、送信したミリ波と受信した反射波との位相差、反射波の減衰レベル及びミリ波を送信してから反射波を受信するまでの時間等を含む反射点情報に基いて、物体を検出する。図2に示すように、情報処理部は、互いに近接している「複数の反射点」(或いは、互いに近接し且つ同一方向に移動している複数の反射点)をグルーピングし、グルーピングできた反射点の群(以下、「反射点群」と称呼する。)202を一つの物体として検出する。以降において、レーダセンサ16により検出された物体は「物体(r)」と称呼される。
【0044】
更に、情報処理部は、反射点情報に基いて、物体(r)についての物体情報を取得(演算)する。図2に示すように、情報処理部は、反射点群202の中の任意の一点(代表反射点)203を利用して、物体情報を演算する。物体情報は、物体(r)の縦距離Dfx、車両VAに対する物体(r)の方位θp、及び、車両VAと物体(r)との相対速度Vfx等を含む。情報処理部は、物体(r)についての物体情報を「第2検出情報」としてPCSECU10に送信する。
【0045】
なお、代表反射点203は、反射点群202の中で反射強度が最も大きい反射点である。代表反射点203は、これに限定されず、反射点群202の中の左端点、反射点群202の中の右端点、又は、左端点と右端点との間の中間に位置する反射点でもよい。
【0046】
レーダセンサ16aが物体を検出できる領域Araは、図3に示すように、「車両VAの前端部の右端から右前方へ延びる検出軸CL1」を中心として右方向に右境界線RBL1まで、左方向に左境界線LBL1までの扇形の領域である。この扇形の半径は所定距離である。レーダセンサ16aは、領域Ara(車両VAの右側方領域)に存在する物体を物体(r)として検出し、当該検出した物体(r)についての物体情報を取得(演算)する。
【0047】
レーダセンサ16bが物体を検出できる領域Arbは、「車両VAの前端部の車幅方向の中央から前方へ延びる検出軸CL2」を中心として右方向に右境界線RBL2まで、左方向に左境界線LBL2までの扇形の領域である。この扇形の半径は前述した所定距離である。検出軸CL2は、車両VAの車両前後軸FRと一致している。レーダセンサ16bは、領域Arb(車両VAの前方領域)に存在する物体を物体(r)として検出し、当該検出した物体(r)についての物体情報を取得(演算)する。
【0048】
同様に、レーダセンサ16cが物体を検出できる領域Arcは、「車両VAの前端部の左端から左前方へ延びる検出軸CL3」を中心として右方向に右境界線RBL3まで、左方向に左境界線LBL3までの扇形の領域である。この扇形の半径は前述した所定距離である。レーダセンサ16cは、領域Arc(車両VAの左側方領域)に存在する物体を物体(r)として検出し、当該検出した物体(r)についての物体情報を取得(演算)する。
【0049】
上述した領域Ara、Arb及びArcを合わせた領域は、「第2領域」と称呼される場合がある。図3から理解されるように、第2領域は、第1領域を含み且つ第1領域よりも大きい領域である。PCSECU10は、レーダセンサ16a乃至16cから、第2領域に存在する物体(r)についての物体情報を「第2検出情報」として取得する。
【0050】
PCSECU10は、以下に述べるように、第1検出情報及び第2検出情報に基いて、同一の物体であるとみなすことができる「物体(c)と物体(r)の組み合わせ」が存在するか否かを判定する。以降において、このような「物体(c)と物体(r)の組み合わせ」により特定される物体は、「物体(f)(或いはフュージョン物体)」と称呼される。物体(f)は、第1領域と第2領域とが重なる領域(即ち、第1領域内)において検出される。
【0051】
具体的には、図2に示すように、PCSECU10は、第1検出情報に基いて、物体領域201を決定する。物体領域201は、上述したx-y座標上の領域であって、物体(c)の周囲を囲う領域である。PCSECU10は、物体(r)に対応する反射点群202の少なくとも一部が物体領域201に含まれるか否かを判定する。PCSECU10は、物体(r)に対応する反射点群202の少なくとも一部が物体領域201に含まれる場合、物体(c)と物体(r)とを同一の物体(即ち、物体(f))として認識する。
【0052】
PCSECU10は、物体(f)が認識された場合、第1検出情報及び第2検出情報を統合(フュージョン)することにより、物体(f)についての物体情報を決定する。具体的には、PCSECU10は、物体(f)の最終的な縦距離Dfxとして第2検出情報に含まれる縦距離Dfxを採用する。更に、PCSCU10は、第2検出情報に含まれる縦距離Dfxと、第1検出情報に含まれる方位θpと、に基いて、物体(f)の最終的な横位置Dfyを演算(即ち、Dfy=「物体(r)の縦距離Dfx」×「物体(c)のtanθp」)により決定する。更に、PCSECU10は、物体(f)の最終的な相対速度Vfxとして第2検出情報に含まれる相対速度Vfxを採用する。
【0053】
再び図1を参照すると、エンジンECU20は、アクセルペダル操作量センサ21及びエンジンセンサ22に接続されている。アクセルペダル操作量センサ21は、アクセルペダル51の操作量(即ち、アクセル開度[%])を検出し、アクセルペダル操作量APを表す信号をエンジンECU20に出力する。アクセルペダル51は、車両VAを加速させるために運転者によって操作される加速操作子である。運転者がアクセルペダル51を操作していない場合(即ち、運転者がアクセルペダル51を踏み込んでいない場合)、アクセルペダル操作量APは「0」になる。運転者がアクセルペダル51を踏み込む量が大きくなるほど、アクセルペダル操作量APは大きくなる。なお、エンジンECU20は、アクセルペダル操作量センサ21から受信した検出信号をPCSECU10に送信する。
【0054】
エンジンセンサ22は、内燃機関24の運転状態量を検出するセンサである。エンジンセンサ22は、スロットル弁開度センサ、機関回転速度センサ及び吸入空気量センサ等を含んでいる。
【0055】
更に、エンジンECU20は、エンジンアクチュエータ23に接続されている。エンジンアクチュエータ23は、火花点火・ガソリン燃料噴射式・内燃機関24のスロットル弁の開度を変更するスロットル弁アクチュエータを含む。エンジンECU20は、アクセルペダル操作量センサ21からの信号及びエンジンセンサ22からの信号に応じてエンジンアクチュエータ23を駆動することによって、内燃機関24が発生するトルクを変更することができる。内燃機関24が発生するトルクは、変速機(図示略)を介して駆動輪に伝達される。従って、エンジンECU20は、エンジンアクチュエータ23を制御することによって、駆動力を制御し加速状態(加速度)を変更することができる。
【0056】
なお、車両が、ハイブリッド車両である場合、エンジンECU20は、車両駆動源としての「内燃機関及び電動機」の何れか一方又は両方によって発生する駆動力を制御することができる。更に、車両が電気自動車である場合、エンジンECU20は、車両駆動源としての電動機によって発生する駆動力を制御することができる。
【0057】
ブレーキECU30は、ブレーキペダル操作量センサ31及びブレーキスイッチ32に接続されている。ブレーキペダル操作量センサ31は、ブレーキペダル52の操作量を検出し、ブレーキペダル操作量BPを表す信号を出力する。ブレーキペダル52は、車両VAを減速させるために運転者によって操作される減速操作子である。運転者がブレーキペダル52を操作していない場合(即ち、運転者がブレーキペダル52を踏み込んでいない場合)、ブレーキペダル操作量BPは「0」になる。運転者がブレーキペダル52を踏み込む量が大きくなるほど、ブレーキペダル操作量BPは大きくなる。なお、ブレーキECU30は、ブレーキペダル操作量センサ31から受信した検出信号をPCSECU10に送信する。
【0058】
ブレーキスイッチ32は、ブレーキペダル52が操作されているときにオン信号をブレーキECU30に出力し、ブレーキペダル52が操作されていないときにオフ信号をブレーキECU30に出力する。なお、ブレーキECU30は、ブレーキスイッチ32から受信した信号をPCSECU10に送信する。
【0059】
更に、ブレーキECU30は、ブレーキアクチュエータ33に接続されている。車輪に対する制動力(制動トルク)は、ブレーキアクチュエータ33によって制御される。ブレーキECU30は、ブレーキペダル操作量センサ31からの信号に応じてブレーキアクチュエータ33を制御する。ブレーキアクチュエータ33は、ブレーキキャリパ34bに内蔵されたホイールシリンダに供給する油圧を調整し、その油圧によりブレーキパッドをブレーキディスク34aに押し付けて摩擦制動力を発生させる。従って、ブレーキECU30は、ブレーキアクチュエータ33を制御することによって、制動力を制御し加速状態(減速度、即ち、負の加速度)を変更することができる。
【0060】
更に、メータECU40は、スピーカ41及びディスプレイ42に接続されている。ディスプレイ42は、運転席の正面に設けられたマルチインフォーメーションディスプレイである。ディスプレイ42は、車速Vs及びエンジン回転速度等の計測値の表示に加えて、各種の情報を表示する。なお、ディスプレイ42として、ヘッドアップディスプレイが採用されてもよい。
【0061】
メータECU40は、PCS制御を実行している間に、PCSECU10からの指示に応じて、スピーカ41に「運転者の注意を喚起する警報音」を出力させる。更に、メータECU40は、PCS制御を実行している間に、ディスプレイ42に、「注意喚起用のマーク(例えば、ウォーニングランプ)」を表示させる。
【0062】
(PCS制御の概要)
PCSECU10は、車両VAと衝突する可能性が高い物体(障害物)が存在する場合に、周知のPCS制御を実行する。PCS制御は、車両VAが車両VAの周辺に存在する物体に接近するのを回避する又は車両VAと物体との衝突の被害を軽減する制御である。
【0063】
具体的には、PCSECU10は、物体情報に基いて車両VAの周囲に存在する物体を認識する。次いで、PCSECU10は、認識した物体の中から、車両VAと衝突する可能性がある物体(以下、「制御対象物体」と称呼する。)を選択する。なお、PCSECU10は、車両VAの進行方向と物体の進行方向とに基いて制御対象物体を選択してもよい。
【0064】
PCSECU10は、制御対象物体までの距離Dfx及び相対速度Vfxに基いて、車両VAが制御対象物体と衝突するまでに要する衝突予測時間TTC(Time To Collision)を演算する。以下、衝突予測時間TTCを単に「TTC」と称呼する。TTCは、距離Dfxを相対速度Vfxで除算することによって算出される。PCSECU10は、所定のPCS実行条件が成立するか否かを判定する。PCS実行条件は、TTCが所定の時間閾値Tth以下であるときに成立する。TTCが時間閾値Tth以下である場合、車両VAが制御対象物体と衝突する可能性が高い。従って、PCSECU10は、PCS実行条件が成立した場合、PCS制御を実行する。
【0065】
PCS制御は、車両VAの駆動力を抑制する駆動力抑制制御、車輪に制動力を付与する制動力制御、及び、運転者に対して注意喚起を行う注意喚起制御を含む。具体的には、PCSECU10は、エンジンECU20に対して駆動指示信号を送信する。エンジンECU20は、PCSECU10から駆動指示信号を受信すると、エンジンアクチュエータ23を制御し、それにより、車両VAの実際の加速度が駆動指示信号に含まれる目標加速度AG(例えば、ゼロ)に一致するように車両の駆動力を抑制する。更に、PCSECU10は、ブレーキECU30に対して制動指示信号を送信する。ブレーキECU30は、PCSECU10から制動指示信号を受信すると、ブレーキアクチュエータ33を制御し、それにより、車両VAの実際の加速度が制動指示信号に含まれる目標減速度TGに一致するように車輪に対して制動力を付与する。加えて、PCSECU10は、メータECU40に対して注意喚起指示信号を送信する。メータECU40は、PCSECU10から注意喚起指示信号を受信すると、スピーカ41に警報音を出力させるとともに、ディスプレイ42に注意喚起用のマークを表示させる。
【0066】
(アクセルペダルの誤操作の判定)
次に、アクセルペダル51の誤操作の判定処理について説明する。以降において、アクセルペダル操作量AP(アクセル開度)の範囲は、以下のように分けられる。例えば、アクセル開度0[%]以上20[%]未満の範囲は「低開度範囲」と称呼され、アクセル開度20[%]以上80[%]未満の範囲は「中開度範囲」と称呼され、アクセル開度80[%]以上の範囲は「高開度範囲」と称呼される。更に、アクセルペダル操作量APの単位時間当たりの変化量を「アクセルペダル操作速度(又はアクセル開度速度)APV[%/s]」と称呼する。
【0067】
上述したように、運転者がパニック状態に陥って、運転者がアクセルペダル51を誤って操作すると共に操舵ハンドルSWを大きく操作する場合がある。以降において、このような操作を「第1誤操作」と称呼する。本願の発明者が、「アクセルペダルの誤操作」の過去のデータを検討した結果、第1誤操作に関して以下の知見を得た。運転者がアクセルペダル51を急踏込みした(即ち、アクセルペダル操作速度APVが大きくなった)後に、アクセルペダル操作量APが高い値に到達する傾向にある。更に、操舵角θの大きさが大きい。
【0068】
上記を考慮して、PCSECU10は、以下の条件A1乃至条件A3の全ての条件が成立したとき、第1誤操作が行われたと判定する。
【0069】
条件A1:アクセルペダル操作速度APVが第1操作速度閾値APVth1以上である。
条件A2:アクセルペダル操作量APが第1操作量閾値APth1以上である。条件A2は、条件A1が成立した後に判定される条件である。例えば、第1操作量閾値APth1は、中開度範囲の中の比較的高い値(例えば、アクセル開度70[%])以上の値に設定される。なお、第1操作量閾値APth1は、後述する第2操作量閾値APth2よりも小さい。
条件A3:操舵角θの大きさ(絶対値)が第1操舵角閾値θth1より大きい。第1操舵角閾値θth1は、運転者が操舵ハンドルSWを大きく操作しているかどうかを判定するための閾値であり、比較的大きい値に設定される。なお、第1操舵角閾値θth1は、後述する第2操舵角閾値θth2よりも大きい。
【0070】
条件A1及び条件A2は、運転者がアクセルペダル51を誤って強く踏み込んだか否かを判定するための条件であり、これらは、まとめて「第1踏込条件」と称呼される場合がある。
【0071】
一方で、運転者が操舵ハンドルSWをほとんど操作せずにアクセルペダル51を誤って操作する場合もある。以降において、このような操作を「第2誤操作」と称呼する。発明者が、「アクセルペダルの誤操作」の過去のデータを検討した結果、第2誤操作に関して以下の知見を得た。運転者がアクセルペダル51を急踏込みした(アクセルペダル操作速度APVが大きくなった)後に、アクセルペダル操作量APが高開度範囲に到達する傾向にある。
【0072】
上記を考慮して、PCSECU10は、以下の条件B1乃至条件B3の全ての条件が成立したとき、第2誤操作が行われたと判定する。
【0073】
条件B1:アクセルペダル操作速度APVが第2操作速度閾値APVth2以上である。本例において、第2操作速度閾値APVth2は、第1操作速度閾値APVth1と同じである。第2操作速度閾値APVth2は、第1操作速度閾値APVth1よりも大きくてもよい。
条件B2:アクセルペダル操作量APが第2操作量閾値APth2以上である。条件B2は、条件B1が成立した後に判定される条件である。第2操作量閾値APth2は、第1操作量閾値APth1よりも大きい(APth2>APth1)。例えば、第2操作量閾値APth2は、高開度範囲の下限値(アクセル開度80[%])以上の値である。
条件B3:操舵角θの大きさ(絶対値)が第2操舵角閾値θth2より小さい。第2操舵角閾値θth2は、運転者が操舵ハンドルSWを操作しているかどうか判定するための閾値である。条件B3が成立する場合、運転者が操舵ハンドルSWを実質的に操作していないとみなされる。第2操舵角閾値θth2は、第1操舵角閾値θth1よりも小さい(θth2<θth1)。
【0074】
条件B1及び条件B2は、運転者がアクセルペダル51を誤って強く踏み込んだか否かを判定するための条件であり、これらは、まとめて「第2踏込条件」と称呼される場合がある。
【0075】
(PCS制御の実行の許可)
運転者が第1誤操作又は第2誤操作と判定されるような運転操作を行ったと仮定する。しかし、車両VAの近くに物体が存在しない場合には、運転者が意図的にアクセルペダル51を強く操作している可能性がある。このような場合には、PCSECU10は、PCS制御の実行を禁止する。
【0076】
一方で、車両VAの近くに物体が存在する場合には、車両VAがその物体に接近するのを回避すべきである。従って、PCSECU10は、PCS制御の実行を許可する。以下では、第1誤操作及び第2誤操作のそれぞれについて、PCS制御の実行を許可する処理の流れを説明する。
【0077】
・第1誤操作
運転者が第1誤操作を行った場合、車両VAが大きく旋回している。図3の例において、車両VAが右方向に旋回していると仮定する。車両VAは第1物体OB1に接近する可能性がある。第1物体OB1は、第1領域内に存在する。第1物体OB1は、カメラセンサ15及びレーダセンサ16の両方によって検出される。従って、PCSECU10は、第1物体OB1を物体(f)として認識する。
【0078】
更に、車両VAは第2物体OB2に接近する可能性もある。第2物体OB2は、第1領域の外側に存在するが、第2領域内に存在する。第2物体OB2は、レーダセンサ16(具体的には、レーダセンサ16a)のみによって検出される。従って、PCSECU10は、第2物体OB2を物体(r)として認識する。
【0079】
車両VAが旋回している状況においては、PCSECU10は、広い領域(第2領域)で検出された物体の中から、PCS制御の対象となる物体(制御対象物体)を選択する。具体的には、PCSECU10は、物体(f)及び物体(r)の中から制御対象物体を選択する。例えば、PCSECU10は、物体(f)及び物体(r)の中から車両VAに最も近い物体を制御対象物体として選択する。
【0080】
更に、車両VAの挙動(特に、車両VAの進行方向)が大きく変化しているので、PCSECU10は、早いタイミングでPCS制御の実行を許可する。具体的には、PCSECU10は、車両VAと制御対象物体との間の距離Dtoを演算する。距離Dtoが第1距離閾値Dth1よりも小さい場合、PCSECU10は、PCS制御の実行を許可する。第1距離閾値Dth1は、後述する第2距離閾値Dth2よりも大きい(Dth1>Dth2)。PCSECU10は、PCS制御の実行を許可した以降において、PCS実行条件が成立するか否かを判定する。PCSECU10は、PCS実行条件が成立すると、PCS制御を実行する。
【0081】
一方で、距離Dtoが第1距離閾値Dth1以上である場合、PCSECU10は、PCS制御の実行を禁止する。
【0082】
以降において、運転者が第1誤操作を行い且つ距離Dtoが第1距離閾値Dth1よりも小さい状況は、「第1状況」と称呼される場合がある。
【0083】
・第2誤操作
運転者が第2誤操作を行った場合、車両VAが大きく旋回していないので、PCSECU10は、第1領域で検出された物体(f)(例えば、第1物体OB1)の中から、制御対象物体を選択する。具体的には、PCSECU10は、物体(f)の中から車両VAに最も近い物体を制御対象物体として選択する。
【0084】
更に、PCSECU10は、距離Dtoを演算する。距離Dtoが第2距離閾値Dth2よりも小さい場合、PCS制御の実行を許可する。第2距離閾値Dth2は第1距離閾値Dth1よりも小さい。第2誤操作が行われた場合には、運転者が意図的にアクセルペダル51を強く操作している可能性もある。例えば、車両VAが信号で停止した後に運転者がアクセルペダル51を強く操作して車両VAを急発進させる場合もある。従って、PCSECU10は、第2誤操作が行われた場合、第1誤操作が行われた場合に比べて遅いタイミングでPCS制御の実行を許可する。不要な状況においてPCS制御が実行される可能性を低減できる。PCSECU10は、PCS制御の実行を許可した以降において、PCS実行条件が成立するか否かを判定する。PCSECU10は、PCS実行条件が成立すると、PCS制御を実行する。
【0085】
一方で、距離Dtoが第2距離閾値Dth2以上である場合、PCSECU10は、PCS制御の実行を禁止する。
【0086】
以降において、運転者が第2誤操作を行い且つ距離Dtoが第2距離閾値Dth2よりも小さい状況は、「第2状況」と称呼される場合がある。
【0087】
(オーバーライド制御)
PCSECU10は、周知のオーバーライド制御を実行する。オーバーライド制御は、運転者による運転操作(即ち、運転者の意思)を優先させる制御である。本例において、オーバーライド制御は、PCS制御よりも運転者による運転操作を優先させる制御である。具体的には、PCSECU10は、エンジンECU20がアクセルペダル操作量APに応じた要求値(内燃機関24の出力トルクの要求値)をエンジンアクチュエータ23に出力するのを許可する。
【0088】
しかし、上述の第1状況又は第2状況においては、車両VAが物体に接近する可能性が高いので、PCSECU10は、運転者による運転操作よりもPCS制御を優先させる。即ち、PCSECU10は、オーバーライド制御を禁止する。この場合、PCSECU10は、アクセルペダル操作量APに基づく車両VAの加速を禁止する。具体的には、PCSECU10は、エンジンECU20がアクセルペダル操作量APに応じた要求値をエンジンアクチュエータ23に出力するのを禁止する。更に、PCSECU10は、オーバーライド制御を禁止した場合、以下の処理をエンジンECU20に実行させる。エンジンECU20は、PCSECU10からの指示に応じて、エンジンアクチュエータ23に出力する要求値を所定の上限値に制限する。このように、PCSECU10は、駆動力を抑制する。
【0089】
(PCS制御の解除)
以降において、操舵角θの単位時間当たりの変化量を「ステアリング操作速度θV[deg/s]」と称呼する。
【0090】
PCS制御が開始された後に、運転者が、物体との衝突を回避するための運転操作(操舵ハンドルの操作)を行う場合がある。従って、本例において、PCSECU10は、PCS制御を開始した以降において、以下の解除条件が成立するか否かを判定する。解除条件は、PCS制御を解除(終了)させるかどうかを判定するための条件である。PCSECU10は、以下の条件C1が成立したとき、解除条件が成立したと判定する。
【0091】
条件C1:ステアリング操作速度θVが第1ステアリング操作速度閾値θVth1より大きい状態が所定時間Tsv以上継続する。
【0092】
運転者が第1誤操作を行った場合、運転者はすでに操舵ハンドルSWを大きく操作した状態である。従って、ステアリング操作速度θVが大きくなりにくい。即ち、条件C1が成立しないので、PCSECU10は、PCS制御を継続する。この構成によれば、運転者が第1誤操作を行った場合、PCS制御が解除されにくいので、車両VAが物体に接近する可能性を低減できる。
【0093】
一方で、運転者が第2誤操作を行った場合、運転者は操舵ハンドルSWを実質的に操作していない。この状態から運転者が操舵ハンドルSWを大きく操作した場合、運転者が物体との衝突を回避するためのステアリング操作を行っている可能性が高い。この場合には、条件C1が成立する。PCSECU10は、PCS制御を解除する。この構成によれば、運転者が第2誤操作を行った後に操舵ハンドルSWを大きく操作した場合には、運転者の運転操作を車両VAに反映させることができる。運転者自身の運転操作により車両VAが物体に接近するのを回避することができる。
【0094】
(作動)
PCSECU10のCPU10a(以下、単に「CPU」と称呼する。)は、所定時間(例えば、第1時間)が経過する毎に図4に示した「第1フラグ設定ルーチン」を実行するようになっている。
【0095】
なお、CPUは、第1時間が経過するごとに、各種センサ(11、12、14、21、22、31)及び各種スイッチ(13、32)から、それらの検出信号又は出力信号を受信してRAM10cに格納している。
【0096】
所定のタイミングになると、CPUは、図4のステップ400から処理を開始してステップ401に進み、第1フラグX1の値が「0」であるか否かを判定する。第1フラグX1は、その値が「0」であるときPCS制御の実行が禁止されていることを示し、その値が「1」であるときPCS制御の実行が許可されていることを示す。なお、第1フラグX1の値は、図示しないイグニッションスイッチがOFFからONへと変更されたときにCPUにより実行されるイニシャライズルーチンにおいて、「0」に設定される。
【0097】
第1フラグX1の値が「0」でない場合、CPUはステップ401にて「No」と判定してステップ495に直接進み、本ルーチンを終了する。
【0098】
第1フラグX1の値が「0」であると仮定すると、CPUはステップ401にて「Yes」と判定してステップ402に進み、操舵角θの大きさ(絶対値)が第2操舵角閾値θth2以上であるか否かを判定する。即ち、CPUは、運転者が実質的に操舵ハンドルSWを操作しているか否かを判定する。操舵角θの大きさが第2操舵角閾値θth2以上である場合、CPUはステップ402にて「Yes」と判定してステップ403に進み、図5に示した「第1誤操作判定ルーチン」を実行する。第1誤操作判定ルーチンの詳細については後述する。その後、CPUは、ステップ405に進む。
【0099】
一方、操舵角θの大きさが第2操舵角閾値θth2未満である場合、CPUはステップ402にて「No」と判定してステップ404に進み、図6に示した「第2誤操作判定ルーチン」を実行する。第2誤操作判定ルーチンの詳細については後述する。その後、CPUは、ステップ405に進む。
【0100】
CPUは、ステップ405に進むと、第1フラグX1の値が「1」であるか否かを判定する。第1フラグX1の値は、第1誤操作判定ルーチン又は第2誤操作判定ルーチンにおいて「1」に設定される場合がある。第1フラグX1の値が「1」である場合、CPUは、ステップ405にて「Yes」と判定してステップ406に進み、オーバーライド制御を禁止する。具体的には、CPUは、アクセルペダル操作量APに基づく車両VAの加速を禁止する。更に、エンジンECU20は、CPUからの指示に応じて、エンジンアクチュエータ23に出力する要求値を所定の上限値に制限し、これにより、駆動力を抑制する。その後、CPUは、ステップ495に進み、本ルーチンを終了する。
【0101】
これに対し、第1フラグX1の値が「0」である場合、CPUは、ステップ405にて「No」と判定してステップ407に進み、オーバーライド制御を許可する。即ち、CPUは、エンジンECU20がアクセルペダル操作量APに応じた要求値をエンジンアクチュエータ23に出力するのを許可する。その後、CPUは、ステップ495に進み、本ルーチンを終了する。
【0102】
次に、CPUが図4のルーチンのステップ403にて実行するルーチンについて説明する。CPUは、ステップ403に進んだ場合、図5のステップ500から処理を開始してステップ501に進む。CPUは、上述の条件A1が成立するか否かを判定する。具体的には、CPUは、アクセルペダル操作速度APVが第1操作速度閾値APVth1以上であるか否かを判定する。条件A1が成立しない場合、CPUは、ステップ501にて「No」と判定してステップ595に直接進む。
【0103】
条件A1が成立する場合、CPUは、ステップ501にて「Yes」と判定してステップ502に進み、上述の条件A2が成立するか否かを判定する。具体的には、CPUは、アクセルペダル操作量APが第1操作量閾値APth1以上であるか否かを判定する。条件A2が成立しない場合、CPUは、ステップ502にて「No」と判定してステップ595に直接進む。
【0104】
条件A2が成立する場合、CPUは、ステップ502にて「Yes」と判定してステップ503に進み、上述の条件A3が成立するか否かを判定する。具体的には、CPUは、操舵角θの大きさが第1操舵角閾値θth1より大きいか否かを判定する。条件A3が成立しない場合、CPUは、ステップ503にて「No」と判定してステップ595に直接進む。
【0105】
条件A3が成立する場合、CPUは、ステップ503にて「Yes」と判定してステップ504に進み、物体情報に基いて、車両VAの周囲領域に物体(f)及び/又は物体(r)が存在するか否かを判定する。物体(f)及び物体(r)の何れも存在しない場合、CPUは、ステップ504にて「No」と判定してステップ595に直接進む。
【0106】
少なくとも1つの物体(物体(f)及び/又は物体(r))が存在する場合、CPUは、ステップ504にて「Yes」と判定して以下に述べるステップ505及びステップ506の処理を順に実行する。その後、CPUは、ステップ507に進む。
【0107】
ステップ505:CPUは、ステップ504にて認識された物体に関して、前述のように、距離Dtoを演算する。
ステップ506:CPUは、制御対象物体を選択する。CPUは、周囲領域に1つの物体が存在する場合、その物体を制御対象物体として選択する。CPUは、2つ以上の物体が周囲領域に存在する場合、それらの物体の中から、最小の距離Dtoを有する物体を制御対象物体として選択する。以降において、制御対象物体の距離Dtoを「Dto_target」と表記する。
【0108】
次に、CPUは、ステップ507にて、距離Dto_targetが第1距離閾値Dth1よりも小さいか否かを判定する。距離Dto_targetが第1距離閾値Dth1よりも小さい場合、CPUは、ステップ507にて「Yes」と判定してステップ508に進む。現在の状況は上述した第1状況であるので、CPUは、PCS制御の実行を許可する。即ち、CPUは、第1フラグX1の値を「1」に設定する。その後、CPUは、ステップ595に進む。
【0109】
一方で、距離Dto_targetが第1距離閾値Dth1以上である場合、CPUは、ステップ507にて「No」と判定してステップ595に直接進む。
【0110】
なお、CPUは、ステップ595に進んだ場合、本ルーチンを終了して、図4のルーチンのステップ405に進む。
【0111】
次に、CPUが図4のルーチンのステップ404にて実行するルーチンについて説明する。CPUは、ステップ404に進んだ場合、図6のステップ600から処理を開始してステップ601に進む。CPUは、上述の条件B1が成立するか否かを判定する。具体的には、CPUは、アクセルペダル操作速度APVが第2操作速度閾値APVth2以上であるか否かを判定する。条件B1が成立しない場合、CPUは、ステップ601にて「No」と判定してステップ695に直接進む。
【0112】
条件B1が成立する場合、CPUは、ステップ601にて「Yes」と判定してステップ602に進み、上述の条件B2が成立するか否かを判定する。具体的には、CPUは、アクセルペダル操作量APが第2操作量閾値APth2以上であるか否かを判定する。条件B2が成立しない場合、CPUは、ステップ602にて「No」と判定してステップ695に直接進む。
【0113】
条件B2が成立する場合、CPUは、ステップ602にて「Yes」と判定してステップ603に進み、物体情報に基いて、第1領域に物体(f)が存在するか否かを判定する。物体(f)が存在しない場合、CPUは、ステップ603にて「No」と判定してステップ695に直接進む。
【0114】
少なくとも1つの物体(f)が存在する場合、CPUは、ステップ603にて「Yes」と判定して以下に述べるステップ604及びステップ605の処理を順に実行する。その後、CPUは、ステップ606に進む。
【0115】
ステップ604:CPUは、ステップ603にて検出された物体(f)に関して、前述のように、距離Dtoを演算する。
ステップ605:CPUは、制御対象物体を選択する。CPUは、1つの物体(f)が存在する場合、その物体を制御対象物体として選択する。CPUは、2つ以上の物体(f)が存在する場合、それらの物体(f)の中から、最小の距離Dtoを有する物体(f)を制御対象物体として選択する。
【0116】
次に、CPUは、ステップ606にて、距離Dto_targetが第2距離閾値Dth2よりも小さいか否かを判定する。距離Dto_targetが第2距離閾値Dth2よりも小さい場合、CPUは、ステップ606にて「Yes」と判定してステップ607に進む。現在の状況は上述した第2状況であるので、CPUは、PCS制御の実行を許可する。即ち、CPUは、第1フラグX1の値を「1」に設定する。その後、CPUは、ステップ695に進む。
【0117】
一方で、距離Dto_targetが第2距離閾値Dth2以上である場合、CPUは、ステップ606にて「No」と判定してステップ695に直接進む。
【0118】
なお、CPUは、ステップ695に進んだ場合、本ルーチンを終了して、図4のルーチンのステップ405に進む。
【0119】
更に、CPUは、第1時間が経過する毎に図7に示したPCS制御実行ルーチンを実行するようになっている。CPUは、図7のステップ700から処理を開始してステップ701に進み、第1フラグX1の値が「1」であるか否かを判定する。第1フラグX1の値が「0」である場合、CPUは、ステップ701にて「No」と判定してステップ795に直接進み、本ルーチンを終了する。
【0120】
CPUが図5のルーチン又は図6のルーチンにおいて第1フラグX1の値を「1」に設定したと仮定する。この状況においてCPUがステップ701に進むと、「Yes」と判定する。次に、CPUは、ステップ702にて、制御対象物体のTTCを演算する。
【0121】
次に、CPUは、ステップ703にて、上述のPCS実行条件が成立するか否かを判定する。具体的には、CPUは、TTCが時間閾値Tth以下であるか否かを判定する。PCS実行条件が成立しない場合、CPUは、ステップ703にて「No」と判定して、ステップ795に直接進み、本ルーチンを終了する。
【0122】
これに対し、PCS実行条件が成立する場合、CPUは、ステップ703にて「Yes」と判定して以下に述べるステップ704及びステップ705の処理を順に実行する。その後、CPUは、ステップ795に進み、本ルーチンを終了する。
【0123】
ステップ704:CPUは、第2フラグX2の値を「1」に設定する。第2フラグX2は、その値が「0」であるときPCS制御が実行されていないことを示し、その値が「1」であるときPCS制御が実行されていることを示す。なお、第2フラグX2の値は、上述のイニシャライズルーチンにおいて、「0」に設定される。
ステップ705:CPUは、上述のようにPCS制御を実行する。
【0124】
更に、CPUは、第1時間が経過する毎に図8に示したPCS制御解除ルーチンを実行するようになっている。CPUは、図8のステップ800から処理を開始してステップ801に進み、第2フラグX2の値が「1」であるか否かを判定する。第2フラグX2の値が「0」である場合、CPUは、ステップ801にて「No」と判定してステップ895に直接進み、本ルーチンを終了する。
【0125】
CPUが図7のルーチンにおいて第2フラグX2の値を「1」に設定した(即ち、CPUがPCS制御を開始した)と仮定する。この状況においてCPUがステップ801に進むと、「Yes」と判定する。次に、CPUは、ステップ802にて、上述の解除条件が成立するか否かを判定する。解除条件が成立しない場合、CPUは、ステップ802にて「No」と判定して、ステップ895に直接進み、本ルーチンを終了する。従って、CPUは、PCS制御を継続する。
【0126】
これに対し、解除条件が成立する場合、CPUは、ステップ802にて「Yes」と判定して以下に述べるステップ803乃至ステップ805の処理を順に実行する。その後、CPUは、ステップ895に進み、本ルーチンを終了する。
【0127】
ステップ803:CPUは、PCS制御を解除する。
ステップ804:CPUは、オーバーライド制御を許可する。即ち、CPUは、エンジンECU20がアクセルペダル操作量APに応じた要求値をエンジンアクチュエータ23に出力するのを許可する。
ステップ805:CPUは、第1フラグX1の値を「0」に設定し、第2フラグX2の値を「0」に設定する。
【0128】
上記実施形態に係る車両制御装置は、以下の効果を奏する。運転者がパニックに陥って、運転者がアクセルペダル51を強く操作すると共に操舵ハンドルSWを大きく操作する(即ち、第1誤操作が行われた)と仮定する。上記構成によれば、車両制御装置は、このような状況においてPCS制御を実行することができる。
【0129】
車両制御装置は、第1状況(即ち、運転者が第1誤操作を行い且つ距離Dtoが第1距離閾値Dth1よりも小さい状況)において、オーバーライド制御を禁止する。即ち、車両制御装置は、アクセルペダル操作量APに基づく車両VAの加速を禁止する。第1誤操作が行われた場合において車両VAが加速されないので、車両VAが車両VAの周辺領域に存在する物体に接近する可能性を低減できる。
【0130】
更に、第1誤操作が行われた場合、車両VAが大きく旋回している。これを考慮して、車両制御装置は、広い領域(第2領域)で検出された物体の中から、制御対象物体を選択する。具体的には、車両制御装置は、物体(f)及び物体(r)の中から制御対象物体を選択する。これにより、車両制御装置は、車両VAが車両VAの周辺領域に存在する物体に接近する可能性を更に低減できる。
【0131】
更に、第1誤操作が行われた場合、運転者がパニックに陥っている可能性が高い。従って、車両制御装置は、第2誤操作が行われた場合に比べて早いタイミングで、オーバーライド制御を禁止し、且つ、PCS制御の実行を許可する。これにより、車両制御装置は、車両VAが車両VAの周辺領域に存在する物体に接近する可能性を更に低減できる。
【0132】
なお、本開示は上記実施形態に限定されることはなく、本開示の範囲内において種々の変形例を採用することができる。
【0133】
(変形例1)
本例における車両制御装置は、ブレーキペダル52の操作状況及びウィンカー(61r又は61l)の作動状況を考慮してPCS制御の実行を許可する。以下、上記の実施形態との相違点を中心に記述する。
【0134】
発明者は、以下に述べる状況においては、運転者がアクセルペダル51を意図的に操作しているという知見を得た。運転者がブレーキペダル52を踏み込んで車両VAを停止させる。その後、運転者がアクセルペダル51を強く踏み込んで車両VAを急発進させる。この状況においては、運転者はアクセルペダル51を踏み込む直前までブレーキペダル52を操作しているので、運転者はアクセルペダル51とブレーキペダル52を区別できている。即ち、運転者は、アクセルペダル51を意図的に強く操作しており、即ち、アクセルペダル51の誤操作を行っていない。
【0135】
一方、運転者がブレーキペダル52を長い期間において操作していない状況では、運転者がアクセルペダル51とブレーキペダル52とを正確に区別できていない可能性がある。即ち、「運転者がブレーキペダル52の操作を解除した時点からの経過時間」が長い状況においてはアクセルペダル51の誤操作が行われる可能性がある。
【0136】
上記を考慮して、PCSECU10は、以下の条件D1が成立するか否かを判定する。
条件D1:ブレーキスイッチ32からオフ信号を受信した時点からの経過時間Taが所定の第1時間閾値Tath以上である。ここで、経過時間Taは、ブレーキスイッチ32からの信号がオン信号からオフ信号へと変化した時点から当該オフ信号が継続している期間(即ち、運転者がブレーキペダル52の操作を解除した時点からブレーキペダル52の操作が行われていない状態が継続している期間)である。
【0137】
更に、左右のウィンカー61r、61lの何れかがオン状態である状況から左右のウィンカー61r、61lが共にオフ状態である状況へと変化した時点(以下、単に「ウィンカーオフ時点」とも称呼する。)の直後では、車両VAが先行車を追い越している途中である可能性がある。このような場合においても、運転者が意図的にアクセルペダル51を強く操作している。
【0138】
上記を考慮して、PCSECU10は、以下の条件D2が成立するか否かを判定する。 条件D2:「ウィンカーオフ時点」からの経過時間Tbが所定の第2時間閾値Tbth以上である。ここで、経過時間Tbは、「ウィンカーオフ時点」から左右のウィンカー61r、61lの両方がオフ状態に維持されている期間である。
【0139】
(作動)
本例のCPUは、図4に示したルーチンに代えて、図9に示したルーチンを実行するようになっている。図9に示したルーチンは、図4のルーチンに対してステップ901を追加したルーチンである。なお、図9に示したステップのうち、図4に示したステップと同じ処理が行われるステップには、図4のステップに付した符号と同じ符号が付されている。それらのステップについての詳細な説明は省略される。
【0140】
CPUは、図9のステップ900から処理を開始する。CPUは、ステップ401を介してステップ901に進むと、上述の条件D1及び条件D2の両方が成立するか否かを判定する。条件D1及び条件D2の両方が成立する場合、CPUは、ステップ901にて「Yes」と判定してステップ402に進む。ステップ402以降の処理は、上記の実施形態と同じである。
【0141】
条件D1及び条件D2の少なくとも一方が成立しない場合、CPUは、ステップ901にて「No」と判定してステップ407に進み、オーバーライド制御を許可する。即ち、CPUは、エンジンECU20がアクセルペダル操作量APに応じた要求値をエンジンアクチュエータ23に出力するのを許可する。その後、CPUは、ステップ995に進み、本ルーチンを終了する。
【0142】
上記の構成によれば、車両制御装置は、ブレーキペダル52の操作状況及びウィンカー61r又は61lの作動状況を考慮して、オーバーライド制御を禁止し、且つ、PCS制御の実行を許可することができる。
【0143】
(変形例2)
加速操作子は、アクセルペダル51に限定されず、例えば、アクセルレバーであってもよい。減速操作子は、ブレーキペダル52に限定されず、例えば、ブレーキレバーであってもよい。
【0144】
(変形例3)
アクセルペダル操作量APは、上記の例(アクセル開度)に限定されない。アクセルペダル操作量APは、アクセル信号に関する情報であってもよい。アクセル信号は、アクセルペダル51の操作量に応じて変化(上昇)する電圧として検出される。
【0145】
(変形例4)
PCS実行条件は、上記の例に限定されない。例えば、PCS実行条件は、距離Dto_targetが所定の第3距離閾値Dth3よりも小さいときに成立する条件であってもよい。この例において、第3距離閾値Dth3は、第2距離閾値Dth2以下の値であってもよい。従って、以下の関係式が成立する。Dth3≦Dth2<Dth1。
【0146】
(変形例5)
解除条件は、上記の例に限定されない。解除条件は、以下の条件C2を更に含んでもよい。この構成において、PCSECU10は、条件C1及び条件C2の少なくとも一方が成立したとき、解除条件が成立したと判定する。
条件C2:アクセルペダル操作速度APVが第3操作速度閾値APVth3以上である、又は、アクセルペダル操作量APが第3操作量閾値APth3以上である。
【0147】
周囲センサ14が物体を誤検出する場合もある。例えば、レーダセンサ16のみによって検出された物体(r)は、物体(f)に比べて信頼性が低い。PCS制御が開始された後に、運転者がアクセルペダル51を比較的強く操作する場合には、車両VAの周囲に実際には物体(r)が存在しない可能性もある。従って、条件C2が成立した場合、PCSECU10は、PCS制御を解除してもよい。
【0148】
更に、解除条件は、ブレーキペダル操作量BPに関する条件を更に含んでもよい。PCSECU10は、ブレーキペダル操作量BPがブレーキペダル操作量閾値BPth以上になったとき、解除条件が成立したと判定してもよい。この場合、PCSECU10は、PCS制御を解除して、ブレーキペダル操作量BPに応じた制動力を車輪に付与してもよい。
【0149】
(変形例6)
レーダセンサ16の代わりに、複数の超音波センサ又は複数のLIDAR(Light Detection and Ranging/Laser Imaging Detection and Ranging)が用いられてもよい。
【符号の説明】
【0150】
10…衝突回避ECU(PCSECU)、11…操舵角センサ、12…車速センサ、13…ウインカースイッチ、14…周囲センサ、20…エンジンECU、30…ブレーキECU、40…メータECU。

図1
図2
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図9